認知度の低い重症筋無力症の啓発にむけて/アルジェニクスジャパン

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2023/06/16

 

 6月は「重症筋無力症」の啓発月間とされている。この疾患の社会的認知度を高めるために、アルジェニクスジャパンは、6月7日にメディア向けセミナーを都内で開催した。

 セミナーでは、専門医による疾患解説のほか、医療者、患者、患者会、タレントの渡辺 満里奈氏によるトークセッションや同社が疾患啓発に制作したマンガ動画などが紹介された。同社は、全身型重症筋無力症治療薬の抗FcRn抗体フラグメント製剤エフガルチギモド アルファ(商品名:ウィフガート)を製造販売している。

瞼が重い、手足に力が入らないはMGを疑ってみる

 はじめに重症筋無力症(MG)の疾患について、村井 弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 教授/国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科 部長)が、MGの機序、疫学、症状、治療と課題について解説を行った。

 MGは脳神経系に起きる自己免疫性疾患で、神経筋接合部が障害される。神経からの刺激を伝えるアセチルコリンが受容できなくなり、筋肉への信号が弱まることで、さまざまな症状を引き起こす。症状の機序は解明されているが、原因となるトリガーは現在も不明という。

 わが国のMG患者数について、1973年の調査では1.35人/10万人だったものが、1987年には5.1人/10万人、2006年には11.8人/10万人、2018年には23.1人/10万人1)と年を経るごとに増加し、2023年では約4万人の患者が推定されている。

 MGの態様は眼瞼型(20%)と全身型(80%)と大きく2つあり、自己抗体の種類では、アセチルコリン受容体抗体(80~85%)、MuSK(マスク)抗体(5%以下)、抗体陰性(10~15%)がある。また、胸腺の異常として胸腺腫が20~25%存在する。

 MGの症状としては以下のようなものがあげられる。

・瞼が下がる(眼瞼下垂)
・ものが二重にみえる(複視)
・手足に力が入らない
・のみ込めない(嚥下力の低下)、むせる、噛む力がない
・話しにくい、呂律が回らない、鼻声になる
・身体が重い、だるい
・重症化すると呼吸困難(クリーゼ)

 そして、これらは単一症状ではなく、時には複合症状として多彩な病態を示し、患者を苦しめる。そのほか、MGの特徴として症状に「日内変動」があり、朝と晩で体調が異なるために、周囲に理解されにくいという。

 MGの治療について、以前は胸腺摘除とステロイド高用量療法、増悪の場合は免疫抑制薬が使用されることで本症の生命予後はかなり改善されるようになった。そして、現在では、ステロイドを初回から少量使用しつつ、免疫グロブリン/血漿交換などと並行して免疫抑制薬を使用し、難治性では分子標的薬を使用して症状を抑える治療が行われている2)

MG患者が被る社会的被害

 次に村井氏はMG患者が被る社会的不利益に触れ、「患者は身体的障害だけではく、社会的障害にも直面している」と問題を提起した。MG患者は、疾患を持っているだけで、「就労困難」「共感を得られないことによる孤独と不安」「社会参加の機会損失による疎外感」「社会保障の貧しさ」「周囲の理解を得ることの困難」に遭遇するといった項目を示し、これらが相互に関連して患者の生活に影響を与えていると説明した。

 実際、2017年に公開されたレポートでは、有職者のMG患者(n=680)の27.2%が失職を経験し、35.9%が収入減少を経験していた3)

診療で地域格差、医療格差が大きい

 続いて医療者として村井氏、患者として野下 真歩氏(声優)、患者会として恒川 礼子氏(筋無力症患者会 理事長)、一般として渡辺 満里奈氏(タレント)によるトークセッションが行われた。

 この中で患者からは寛解しない疾患である以上、増悪した場合の入院と自宅の往復が多々あり、スケジュールを立てるのが大変だという声があった。また、社会的にMGの認知度が低く、病態とも相まって、周りの人に理解されないのが残念との声が聞かれた。そのほか、病名が不安感を高めること、医療についても地域格差、医療格差が大きく、地域によってはいまだに初期からステロイド高用量の治療が行われていたりと均てん化が進んでいないと厳しい意見も聞かれた。これを受けて村井氏も「医療者が新しい治療薬などを知らないか、使いこなせていないことも問題。治療の選択肢が増えても困ることがないように、こうしたセミナーなどで啓発を行っていきたい。また、診断について、ダイレクトに脳神経内科にくる患者は少ない。症状から眼科、耳鼻咽喉科、脳神経外科などを経由して診断がつかずに脳神経内科にたどりつくケースも多く、医療側のMGへの覚知度を上げることも重要」と語った。

 そのほか、医療者と患者のコミュニケーションについて、双方の病識に溝があること、患者側から病状の伝え方が難しいことなどが話題に上ったが、メーカなどが配布しているコミュニケーションツールや「MG症状ノート」の活用などで、短時間の診療でも上手に医療者に伝わるように工夫して欲しいと提案があり、セッションを終えた。

 同社では、MGの啓発に今回マンガ動画を作成し、広くYouTubeで展開をしている。

(ケアネット 稲川 進)