間質性肺炎合併肺癌の薬物療法、改訂GLの推奨は?/日本呼吸器学会

提供元:ケアネット

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公開日:2023/05/18

 

 間質性肺炎(IP)には肺癌が合併することが多く、IP合併肺癌に対する治療は急性増悪を引き起こすことが問題になる。近年、肺癌の薬物療法は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が主流となり、IP合併肺癌に対する薬物療法について、さまざまな検討がなされている。2023年4月に改訂された特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)では、これらのエビデンスを基に、合併肺癌に関して新たに3つのCQ(クリニカルクエスチョン)が設定され、合計6つとなった。合併肺癌に関するCQと関連するエビデンスについて、岸 一馬氏(東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 教授)が第63回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。

改訂GLの合併肺癌に関するCQと推奨

 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)は、慢性期、急性増悪、合併肺癌、肺高血圧症、進行期の5つのセクションで構成され、今回から肺高血圧症と進行期が追加された。合併肺癌に関するCQは3つ追加された(CQ20-1、20-2、21)1)

 IP合併肺癌のCQとポイントは以下のとおり。

CQ17:IPF(特発性肺線維症)を含むIP合併肺癌患者に外科治療は推奨されるか?
 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある)
 推奨の強さ:2(弱)
 エビデンスの強さ:C(低)

 本邦において、IP合併例肺癌手術例の予後を調べた研究では、StageIAであっても5年生存率が59%にとどまっていたことが報告されている2)。その理由として、術後急性増悪による死亡の多さがある。IP合併肺癌1,763例を対象とした後ろ向き研究では、急性増悪が9.3%に発現し、死亡率は43.9%であった3)。術後急性増悪のリスク因子からリスク予測モデルが作成され、その有用性を検討した前向きコホート研究REVEAL-IP Studyが実施された。その結果、術後急性増悪は1,094例中71例(6.5%)に発現し、そのうち39.4%が死亡したが、後ろ向き研究時よりも改善傾向にあった。

CQ18:IPFを含むIP合併肺癌患者に術後急性増悪の予防投薬は推奨されるか?
 方向性:行わないことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある)
 推奨の強さ:2(弱)
 エビデンスの強さ:C(低)

 本邦において、ステロイドなどの術前予防投薬を行っても術後急性増悪の発現率は低下しないことが報告されている3)。その後、少数例の検討ではあるがピルフェニドンが術後急性増悪の発現リスクを低下させることが報告され、現在IPF合併肺癌患者を対象として周術期ピルフェニドン治療の有用性を検討する無作為化比較試験が実施されている4)

CQ19:IPFを含むIP合併肺癌患者に細胞傷害性抗がん薬は推奨されるか?
 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある)
 推奨の強さ:2(弱)
 エビデンスの強さ:C(低)

 本邦において、IP合併非小細胞肺癌(NSCLC)に対する初回化学療法の前向き試験が複数実施されており、急性増悪の頻度は12%以内で、近年は全生存期間中央値(MST)が15ヵ月を超えている。また、2022年12月には、化学療法とBest Supportive Care(BSC)を後ろ向きに比較した研究結果が報告された。傾向スコアマッチングを行っても、化学療法群はBSC群と比較して全生存期間(OS)が有意に延長した5)

CQ20-1:IPFを含むIP合併肺癌患者に血管新生阻害に関与する分子標的治療薬は推奨されるか?
 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある)
 推奨の強さ:2
 エビデンスの強さ:D(非常に低)

 エビデンスは少ないものの、化学療法にベバシズマブを上乗せしても急性増悪の発現は増加せず、無増悪生存期間(PFS)を延長する傾向が報告されている。また、推奨の決定に関するシステマティックレビューには含まれなかったが、世界で初めてIPF合併NSCLCを対象にニンテダニブの化学療法への上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験(J-SONIC試験)の結果が本邦から報告された。主要評価項目の無イベント生存率(EFS)について、化学療法+ニンテダニブ群は化学療法群と比較して有意差は認められなかったが、奏効率(ORR)は化学療法群が56.0%であったのに対し、化学療法+ニンテダニブ群は69.0%と有意に高かった(p<0.05)。また、PFSについて、中央値は化学療法群が5.5ヵ月であったのに対し、化学療法+ニンテダニブ群は6.2ヵ月であり、有意に延長した(ハザード比:0.68、95%信頼区間[CI]:0.50~0.92)。OSについては、全体では両群間に有意差はなかったが、非扁平上皮NSCLC、GAP StageIのサブグループにおいて、化学療法+ニンテダニブ群が有意に改善した。急性増悪の頻度は、化学療法群1.6%、化学療法+ニンテダニブ群4.1%、全体でも2.9%と低かった6)

CQ20-2:IPFを含むIP合併肺癌患者にドライバー遺伝子変異に対する分子標的治療薬は推奨されるか?
 方向性:行わないことを提案または推奨
 推奨の強さ:現段階では結論付けない
 エビデンスの強さ:D(非常に低)

 推奨の強さについて、現段階では結論付けないとされた。これについては、パネル委員の全員が投与しないことを提案または推奨したが、一定の基準に達しなかったため、推奨の強さは決定されなかった。このような推奨となった一因として、日本人の肺癌患者を対象としてゲフィチニブと化学療法を比較した試験において、ゲフィチニブ群で間質性肺疾患(ILD)の頻度が高く(ゲフィチニブ群4.0%、化学療法群2.1%、オッズ比[OR]:3.2)、ILDによる死亡率が30%を超えたことなどが挙げられる7)

CQ21:IPFを含むIP合併肺癌患者に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?
 方向性:行わないことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある)
 推奨の強さ:2
 エビデンスの強さ:D(非常に低)

 IP合併肺癌に対するICIの効果を検討したメタ解析の結果が報告されている。10試験(ILDのある患者179例)が対象となり、そのうち8試験が本邦の報告であった。ORRについて、ILDのある群(34%)はILDのない群(24%)と比較して有意に良好であった(OR:1.99、95%CI:1.31~3.00)。一方、ILDのある群は免疫関連有害事象(irAE)の発現率が有意に高率であった(OR:3.23、95%CI:2.06~5.06)。ICIによる肺臓炎についても、ILDのある群(全Grade:27%、Grade3以上:15%)はILDのない群(同10%、4%)と比較して有意に高率であった(OR:2.91、95%CI:1.47~5.74)8)。また、びまん性肺疾患に関する調査研究班は、IP合併肺癌におけるICIの薬剤性肺障害に関する後ろ向き研究を実施した。その結果、200例が対象となり、薬剤性肺障害は30.5%に認められた(Grade3以上:15.5%、Grade5:4.5%)。多変量解析の結果、重篤な薬剤性肺障害の危険因子として、IPFあり、IP診断時のSP-D(肺サーファクタントプロテインD)値高値、ICI投与前のCRP値高値が同定された。また、irAEが発現した患者はPFSとOSが有意に良好であり、IP非合併NSCLCにおける過去の報告と一致していた。

IP合併肺癌に関する現状のまとめ

 岸氏は、IP合併肺癌に関する現状について、以下のようにまとめた。

・日本からIP合併肺癌に関するステートメントと特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)が発刊された。
・IP合併肺癌の発生予防、治療による急性増悪に関して抗線維化薬の有用性が報告された。
・IP合併進行NSCLCに対してカルボプラチン+タキサン、小細胞肺癌(SCLC)に対してプラチナ製剤+エトポシドは標準治療と考えられる。
・IP合併肺癌に対するICIにより約30%に薬剤性肺障害が生じるが、比較的良好な治療成績が報告されている。
・IP合併肺癌の治療は、リスクとベネフィットを慎重に検討し、患者の希望も踏まえて決定することが重要である。

特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)
編集:「特発性肺線維症の治療ガイドライン」作成委員会
定価:3,300円(税込)
発行年月:2023年4月
判型:A4
頁数:140頁

■参考文献
1)「特発性肺線維症の治療ガイドライン」作成委員会編集. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版). 南江堂;2023
2)Sato T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2015;149:64-70.
3)Sato T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2014;147:1604-1611.
4)Sakairi Y, et al. J Thorac Dis. 2023;15:1489-1493.
5)Miyamoto A, et al. Respir Investig. 2023;61:284-295.
6)Otsubo K, et al. Eur Respir J. 2022;60:2200380.
7)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:1348-1357.
8)Zhang M, et al. Chest. 2022;161:1675-1686.

(ケアネット 佐藤 亮)