医療者も実は…?糖尿病のスティグマを見直す/日糖協の活動

提供元:ケアネット

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公開日:2022/11/14

 

 近い将来、「糖尿病」という病名は使用されなくなるかもしれない。

 日本糖尿病協会(以下、日糖協)は、都内開催のセミナーにて、「『糖尿病』という言葉を変える必要がある」と問題意識を明らかにした。現在、日糖協では「糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト」を推進しており、病名変更もその一環だ。

 日糖協理事の山田 祐一郎氏(関西電力病院 副院長)は、「言葉を変える目的は、糖尿病に関するスティグマ(偏見)を減らすことにある。単なる言葉の入れ替えでは意味がない。医療従事者と糖尿病のある方とのコミュニケーションを変えることが重要だ」と述べた。

 以下、セミナーの内容を記載する。

医療従事者も実は…? スティグマの発生源

 世間的に「食べ過ぎ」「長生きできない」などのイメージが先行しやすい糖尿病だが、糖尿病のある人とない人で、総エネルギー消費量や摂取量は、実は変わらない1)。また、治療を受けていれば、平均余命にも有意差はない2,3)

 しかし、高度経済成長期に糖尿病患者数100万人を突破した本邦では、先述のようなスティグマが世間に定着し、今なお存在し続けている。実際、2022年に発表されたデータでも、糖尿病のある人はスティグマを受けている4)ことが明らかになっている。

 注目すべきは、スティグマの主な発生源として、家族、友人以外に、本来患者の支援者である医療従事者も含まれる5)ことだ。

 日糖協理事長の清野裕氏(関西電力病院 総長)は、「医療従事者は“そんなつもりはないのに”、無意識にスティグマを付与している可能性がある」と述べる。

 「今回のHbA1cが上昇している。何か食べ過ぎましたか?」
 「あの人は糖尿病だから、全然言うことを聞かない」

 といった発言が代表的だ。しかし、糖尿病のある人の生活状況はそれぞれ異なる。実行不可能な治療法を示していないか、悩みを正しく理解しているか、医療従事者も省みる必要があるという。さらに「糖尿病」という病名自体がスティグマとなる可能性もある。

病名「糖尿病」への抵抗感や不快感

 日糖協が糖尿病のある人に実施した「糖尿病の病名に関するアンケート」の調査結果によると、回答者1,087人のうち、9割が「糖尿病」という病名に何らかの抵抗感や不快感を抱いており、7割が治療を受ける際に病名に対する抵抗を感じている、という。さらに回答者の8割が「糖尿病」の病名変更を希望した。病名変更を希望した人の38.6%が「だらしない」など負のイメージや誤解を受けることを懸念しており、31.8%は「尿」という表記に違和感や羞恥心を抱いていた。さらに、6割が何らかの形で糖尿病を隠して生きていることも明らかになった。日糖協理事の津村 和大氏(川崎市立川崎病院 病態栄養治療部長)は、「糖尿病の治療や予後が大きく改善した現代では、病名の持つ負のイメージを払拭することも必要だ」と述べた。

糖尿病にまつわる“ことば”の見直し

 すでに現在、日糖協では「糖尿病」の病名変更に関する議論が進んでいる。加えて「糖尿病患者→糖尿病のある人」「血糖コントロール→血糖マネジメント(管理)」など、使用すべき医療用語の再考も検討されている。背景として、「糖尿病のある人」には、海外ではpatientを使用せず、person with diabetesという表現を用いること、「血糖マネジメント(管理)」は、コントロールが「こちら(=医療従事者)の意思通りに動かす」意味合いが強いのに対し、英語圏ではcontrolからmanagementへと表現が変わっており、世界的にも主体的表現へ変化しつつあることが挙げられる。ただし、“ことば”を入れ替えるだけでは不十分で、より主体的に糖尿病に関わる意識が重要とされる。

関連企業やメディアの参画で医療現場にもインパクトを

 日糖協の活動は企業にも広がっており、賛同企業が間接的支援を行う「企業委員会」も立ち上げられた。製薬・医療機器製造・食品関連企業33社が参画中だ。企業の提供する情報量は膨大で、医療現場へのインパクトも大きいと推察される。代表幹事の小山 由起氏(住友ファーマ)、郷田 秀樹氏(ノボ ノルディスク ファーマ)からも、スティグマを理解するための企業研修や日本糖尿病協会年次学術集会での啓発活動などの取り組みが紹介された。今後は、企業作成物の改訂、とくに糖尿病のある人に向けた資料の表現に配慮していくという。言葉の見直しは、今後「日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動」の中で協議され、数年以内の提言実現を目指すという。

 われわれメディアも“ことば”を多く扱う。病名に対する関心の喚起は「社会を動かす力」になる。最後に、スティグマの存在を正しく理解し、適切な情報発信に努めることを自戒として記載したい。

 糖尿病のある人にスティグマを負わせないために、病名も、私たち自身の意識も変えなければいけない。

(ケアネット 佐藤 寿美)