いまだに残る小児がんのドラッグラグ、求められる政策の抜本的な改革

提供元:ケアネット

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公開日:2022/08/19

 

 「開発された薬があるなら、日本にも届けてもらいたい」小児がん患者家族の代表である鈴木 隆行氏は訴える。小児がんは日本の小児の死亡原因トップで、年間500名が亡くなる。それにもかかわらず、日本の小児がんの治療薬開発は諸外国に比べ、きわめて少ない。患者団体や医療者で作る団体「小児がん対策国民会議」は2022年8月、都内でシンポジウムを開き、小児がんの新薬承認の現状を訴えた。

海外で治験が行われていても参加できない日本の小児がん患者

 前出の鈴木氏の長男は生後6ヵ月でラブドイド腫瘍を発症する。その時期、米国ではラブドイド腫瘍の分子標的薬であるtazometostatの小児国際共同治験が行われていた。日本は参加していなかったため、従来の手術・化学療法・放射線を組み合わせた集学的治療を受ける。治療の合併症で日常生活に障害が残ったものの、がんは寛解に至り、一時は退院する。鈴木氏はその後もtazometostatの治験参加を模索するが実現せず、個人輸入で薬剤を手配した。ところが、5年後再発しtazometostatを使うことなく鈴木氏の長男は他界してしまう。

求められる有効な打ち手となる政策、進まない日本の開発促進

 小児がん対象の日本の臨床試験数は38、それに対し米国では300以上、EUは160以上行われている。日本の件数は、中国と比べても4分の1、オーストラリアの約半分で、諸外国に比べ圧倒的に少ない。

 小児がんの年間発症は2,000〜2,500人だが、がん種が多いため、それぞれのがんは希少がんになる。なかには50人程度の患者しかいない疾患もある。

 希少疾患であるため、臨床試験の患者確保が難しい、比較試験が組めない、など小児がんの臨床試験デザインは難しい。対象患者の少なさからコスト回収が厳しく、散剤や液剤化など小児用製剤の製造コストが高い、がんが多種にわたり企業の経験が蓄積できない、など開発も簡単ではない。さらに、少量でも安定供給が求められる、薬価が下がっても販売中止できない、治療が長期に及ぶ中での全例調査など承認後も開発企業の負担は重い。

 政府は開発促進のため、再審査期間延長、小児薬価加算といった政策を講じてはいるが、依然として日本でのドラッグラグは拡大している。

 「政策はあるが、開発促進につながる有効な打ち手となっていない。従来の制度ベースではなく、抜本的な改革が必要」と小児がん対策国民会議運営委員であり国立がん研究センター中央病院の小川 千登世氏は訴える。

新たな政策で実績をあげる諸外国

 小児がんは希少疾患であり、開発の難易度が高いという条件は諸外国でも同じである。なぜ日本以上に開発促進が進んでいるのか。

 米国を例にとると、成人の分子標的薬を開発する際に小児の開発も義務づける「ICH-E11」が2000年代に採択された。さらに2017年、ICH-E11でカバーできない小児特有のがんについての研究法が「RACE(Research to Accelerate Cure and Equity) for Children Act」として開発企業に義務づけられた。RACE成立後の小児がんの承認薬は4製品から27品に飛躍的に増えている。中国は民族的要因の差異がないと判断すれば、自国での臨床試験なしに承認申請を可能にする制度を設けた。この制度により、神経芽腫の治療薬dinutuximab βは、開発権取得から2年未満で承認されている。

 このように新たな政策で開発・承認の促進の実績をあげている。

日本は小児がん新薬開発に取り残される?

 小児がんの治療薬の開発企業は、日本法人のない新興ベンチャー企業が多い。新興ベンチャーにとって、ビジネスが予見できるかどうかは重要だ。結果として、予見性が立てやすい米国での開発が優先される。中国の前述の制度もこの点では有利に働くと考えられる。

 「ビジネスの予見性が立てづらい日本には振り向かない可能性もある」と小児がん対策国民会議運営委員であり大原薬品工業の早川 穣氏は述べる。このままの状態では今後もドラッグラグは解消されず、世界に取り残される事態にもなりかねない。

求められる現状の把握と制度の抜本的見直し

 小児がんは現在7〜8割は治ると言われるが、ドラッグラグのために命を落としてしまう患者がいるのも事実である。諸外国は有効な政策で課題に対応し、少ない毒性で効果を発揮する分子標的薬を次々に承認している。

 しっかりと現状を把握しながら、制度を抜本的に見直し、小児がんのドラッグラグを解消していく必要が、いまの日本にはあるだろう。

(ケアネット 細田 雅之)