米国では、2018年に退役軍人の医療サービスへのアクセスを改善する「Maintaining Internal Systems and Strengthening Integrated Outside Networks (MISSION) Act」が制定され2019年より導入された。退役軍人は退役軍人省(VA)の費用負担で非VA施設の医療(いわゆるコミュニティケア)を利用できるというもので、退役軍人が自宅近くで専門性の高い医療を受けられるようになったが、MISSION Act導入による医療アウトカムへの影響は不明であった。米国・ペンシルベニア大学のJingyi Wu氏らは、心血管手術に関する移動時間やアウトカムの変化を調べ、移動時間が大幅に短縮されていたこと、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者で30日以内の主要心血管イベント(MACE)発生率が悪化していたことを明らかにした。JAMA誌オンライン版2025年7月31日号掲載の報告。
PCI、CABG、AVRを受ける施設までの移動時間とアウトカムへの影響を測定
研究グループは後ろ向きdifference-in-differencesコホート研究にて、PCI、CABG、大動脈弁置換術(AVR)を施行した施設への移動時間とアウトカムへのMISSION Actの影響を測定した。
2016年10月~2022年9月に、MISSION Actの対象である非VA病院または米国の48州およびワシントンにあるVA病院で、非緊急のPCI、CABG、AVRを受けた退役軍人を対象とした。解析は2023~24年に行われた。
自宅から最寄りのVA医療センターまで離れている(>60分)ため非VA医療を受ける資格のある退役軍人(遠方患者群)と、自宅近くにVA医療センターがある(≦60分)退役軍人(近隣患者群)を比較した。
主要アウトカムは、MACE発生(術後30日以内の心血管疾患による再入院または死亡で定義)および医療を受けるために要した施設までの移動時間とした。
PCI平均移動時間、近隣患者群1.3分延長、遠方患者群29.2分短縮などが明らかに
対象コホートは、PCIを受けた退役軍人4万3,000例(男性4万2,066例[98%]、平均年齢69[SD 8.8]歳)、CABGを受けた退役軍人2万3,301例(2万2,197例[98%]、69[7.7]歳)、AVRを受けた退役軍人1万4,682例(1万4,336例[98%]、74[9.6]歳)で構成された。
MISSION Act導入後、医療を受けるために要した施設までの平均移動時間は、PCIでは近隣患者群で1.3分長くなり、遠方患者群で29.2分短縮した(difference-in-differences:-30.5分、p<0.001)。CABGでは近隣患者群で9.4分長くなり、遠方患者群で18.1分短縮した(-27.4分、p<0.001)。AVRでは近隣患者群で10.0分長くなり、遠方患者群で23.0分短縮した(-33.1分、p<0.001)。
MISSION Act導入後、術後のMACE発生率は、PCIでは近隣患者群で0.5%ポイント減少し、遠方患者群で2.3%ポイント増加した(difference-in-differences:2.8%ポイント、p<0.001)。CABGでは近隣患者群で6.5%ポイント減少し、遠方患者群で1.6%ポイント増加した(8.1%ポイント、p<0.001)。AVRでは両群間で統計学的な差は認められなかった(近隣患者群2.2%ポイント増加vs.遠方患者群3.4%ポイント増加、p=0.45)。
(ケアネット)