日本人乳がん経験者、皮膚関連副作用で困っていること

がん治療後の皮膚関連症状の多くは生命予後にあまり影響しないことから軽視されがちであり、患者自身も治療から長期間経った場合に医療関係者に相談してよいものか悩んでいるケースがある。しかしその実態は十分に調査されていない。身原皮ふ科・形成外科クリニックの身原 京美氏らは国内の乳がん経験者約370人に対してアンケート調査を実施。その結果をProgress in Medicine誌2022年3月号に報告した。
乳がん生存者を対象に皮膚関連症状のアンケート調査を実施
本研究では、日本国内の9つの乳がん患者会を通じて20歳以上の女性の乳がん生存者を対象にアンケート調査を実施した。調査票は、1)回答時点における主要な皮膚関連症状の有無と、Numerical Rating Scale(NRS)を用いた0~10の11段階で困っている程度を評価、2)症状の低減が期待できる治療(一般薬、医薬部外品などを含む)に対する1ヵ月当たりの自己負担での支出意欲の確認、3)皮膚関連の国際的なQOL評価尺度であるSkindex-29を用い、回答時点の直近1週間における皮膚関連症状に起因する現状のQOLの評価から構成された。乳がん生存者の50%以上が乾燥、色素沈着、しびれ・感覚異常を訴えた
乳がん生存者を対象に皮膚関連症状のアンケート調査を実施した主な結果は以下のとおり。・369人の回答者の平均年齢は60.3歳で50代が最も多かった(33.9%)。
・乳がんと診断されてからの経過年数は最短が5ヵ月、最長が35年0ヵ月(平均8年10カ月)と広く分布しており、全体の7割は10年以内であった。
・乳がんの治療内容は、手術に関しては乳房温存手術が55.3%、乳房切除術が48.0%であった。放射線治療は62.1%が受けたと回答した.薬物療法に関しては、59.6%が化学療法、19.0%が分子標的薬による治療、78.0%がホルモン療法を受けていた。再発・転移について「ある」と回答したのは15.2%であった。
・乳房およびその周辺での乳がん治療薬あるいは放射線治療による皮膚関連症状の有無については、63.1%が「副作用がある」と回答した。
・皮膚症状として50%を超えたのは、カサカサ・乾燥(70.8%)、色素沈着(50.6%)、しびれ・感覚異常(50.6%)であった。
・困っている程度は、NRSスコアが高い順に、むくみ(4.78)、しびれ・感覚異常(4.65)、つっぱる・かたい(4.78)であった。
・脱毛や髪質の変化については58.3%が「ある」と回答し、困っている程度はNRSスコアが5.41と、今回確認した項目の中で最も高かった。
・手や足の爪については、3割前後が変色や変形、爪が折れやすいなどの症状の持続を自覚しており、困っている程度はNRSスコアが高い順に、爪が折れやすい(4.53)、爪の変形(4.26)、爪の変色(3.98)であった。
・症状軽減を目的とした治療費の支払い意思額は、「月額3,000円まで」が最も多かった(38.5%)。
・皮膚関連症状の有無を治療内容別に比較したところ、乳房温存手術と乳房切除術の比較において、カサカサ・乾燥、かゆみ、汗が出ないの3症状は乳房温存手術で有意に多く認められ、しびれ・感覚異常は乳房切除術で有意に多く認められた。
・放射線治療ありとなしの比較において、放射線治療ありで、カサカサ・乾燥、色素沈着、汗が出ないが有意に多く認められた.
・化学療法ありとなしの比較において、化学療法ありで、むくみ、爪の変色、爪の変形、爪が折れやすい、脱毛や髪質の変化が有意に多く認められた.
・ホルモン療法は、その有無で症状の頻度に有意な差を認めなかった.
・乳がん診断からの経過年数と、それぞれの皮膚関連症状のために困っている程度(NRSスコア)や支出意欲との相関をみると、脱毛や髪質の変化のみで時間経過に伴う有意な低減がみられたが、これ以外の項目で有意差はなかった。
著者らは、個人差はあるものの、60%以上が何らかの皮膚関連症状を有しており、各皮膚関連症状の困りごとの程度や治療に対する支出意欲は、乳がんと診断されてからの期間による大きな変化はなく、乳がん経験者の多くは長期にわたり皮膚に関連する症状に悩み、負担を感じていることが示唆されたとしている。
(ケアネット 遊佐 なつみ)
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