潰瘍性大腸炎、治療の最適解を導くために必要なこと

提供元:ケアネット

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公開日:2020/10/20

 

 国の指定難病・潰瘍性大腸炎は、安倍元首相の辞任理由として注目を集めたことが記憶に新しい。さまざまな憶測が飛び交い、疾患に対する誤った認識も見られるが、これは正しい理解を広めるチャンスでもある。

 先日、ヤンセンファーマが開催した潰瘍性大腸炎セミナーでは、鈴木 康夫氏(東邦大学医療センター佐倉病院 IBDセンター センター長)が、潰瘍性大腸炎の患者が直面する実態と最新治療について講演を行った。

症状の個人差が大きく理解が得られにくい現状

 わが国における潰瘍性大腸炎の患者数は、2016年度の全国疫学調査研究で22万人と推計され、数ある指定難病の中で最も多い。現在も増え続けており、将来的に30万人を超えるのではと危惧されている。

 潰瘍性大腸炎の重症度について、2007年に厚労省が調査したデータ(n=4万6,223)によると、日常生活に影響が少ない軽症患者が63%を占める一方で、中等症が28%、重症が3%、劇症が0.3%(不明6%)という内訳だ。重症例では入院治療が必要で、中にはやむを得ず大腸全摘に至る例も存在する。個人差の幅が大きいことが、疾患に対する理解の得にくさにつながっているのかもしれない。

ステロイド依存・抵抗性などの難治例、発がんリスクなどが問題に

 治療は、5-ASA(メサラジン)製剤とステロイド製剤を基本として、症状を抑え正常状態に近付ける寛解導入療法と、再発を予防する寛解維持療法を組み合わせて継続する。鈴木氏は、「大事なのは、再発時早期に十分な治療をして、病状の悪化・進展を防ぐこと。多くの症例を診ている専門医は、早い段階で再発の徴候をキャッチできる。たとえずっと同じ薬が出ているとしても、主治医には定期的に顔を見せて、病状を伝えてほしい」と、通院の重要性を強調した。

 とくにステロイドは中等症以上に著効し、初回治療では84%の寛解導入率が得られたという報告もある。しかし、全身的な副作用などの懸念があり、さらには2年以上経過してもステロイド治療から離脱できない依存例や、効きにくくなる抵抗例が半数近くも存在するなどの問題がある。このような例や頻回に再燃を繰り返す例などは“難治性”と定義付けられ、専門医により適切な治療法が日々検討されている。

 また、もう1つの問題として炎症性発がんについて触れた。「一番危険なのは、炎症が治まり切らないまま再燃を繰り返す症例。落ち着いている時期は正常に近付いたように見えるが、トイレが近かったり、食べたいものが食べれなかったり、患者のQOLは著しく低下している。このような症例は、健康な人に比べて大腸がんリスクが8倍以上になる」と注意を呼び掛けた。

患者の症状を踏まえ、生活スタイルやニーズに合わせた治療法を

 潰瘍性大腸炎に対しては、平成~令和にかけて、新しい治療薬が次々と登場している。今年3月には、クローン病治療薬のヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤「ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)」が、潰瘍性大腸炎の追加適応を取得した。

 鈴木氏は、「同じ潰瘍性大腸炎でも、患者ごとに病態は異なる。個々の患者が持つ背景因子と病歴から将来を予測し、各治療法の特性を理解した上で、治療を選択することが大事。また、もう1つ大事なのは、患者さんの生活スタイルやニーズを考えること。治療薬によって、通院頻度や投与法などさまざまなので、患者さんの気持ちを汲み取りながら、治療を進めることも重要」とアドバイスを送った。

 潰瘍性大腸炎の患者が少なかった時代は、専門医中心の診療でも成り立ったが、個々の患者はいろんな問題を抱えており、患者数が増え続けている現状に対応しきるのは難しい。同氏は、「これからは、各領域の専門職がチームとして協力し、トータルケアを目指して行くことがまさに大事だろう。また、患者をできるだけ良い状態にして、地元の医療機関に通えるよう支援(逆紹介)できる体制整備も必要だ」と講演をまとめた。

(ケアネット 堀間 莉穂)