患者人生に寄り添った治療法説明のために-協働意思決定の普及を

Shared Decision Making (SDM、協働意思決定)をご存じだろうか? SDMとは、医療者と患者が治療法のエビデンスや患者を取り巻く環境、患者とその家族の治療生活に対する希望についての情報を共有し、一緒に治療方針を決めていくプロセスのことである。治療が患者のその後の人生を大きく左右するがんや末期腎不全などでは、早い段階で患者と医療者が話し合いの場を持ち互いに理解することが重要なため、このようなプロセスが必要とされる。
たとえば、末期腎不全患者に腎代替療法を説明する際、患者には腹膜透析、血液透析、腎移植の3つの選択肢がある。ところが、現状では医師の判断により1つの治療法しか患者に説明されていない場合が多いと言われている。また、患者にとっての最善の治療とは、エビデンスが優れている方法であると同時に患者自身の生活設計に見合ったものである。これらを解決するには、治療の前段階で患者と医療者との話し合う場、より良い治療選択の場を増やすことが必要であり、そのためのSDM普及が医療者に求められている。
SDM普及により期待されることは以下のとおり。
・決定困難な臨床的決断を容易にする
―合併症が多い高齢患者さんの腎代替療法
―緩和/保存的治療・血液透析・腹膜透析
・診療の質改善
―患者さんの主体的参加
―治療遵守度向上
―治療選択の地域差・施設間格差が軽減 等
・患者満足度の向上
・緊急透析導入の回避につながることで、患者さんの計画的透析導入を強化
・上記による医療費軽減
この普及活動とともに日本でSDMを支援するさまざまなツールや教材を開発・提供することで患者支援を行っているのが腎臓病SDM推進協会である。本協会のホームページ上には腎代替療法が始まる前から患者と医療者が話し合えるよう、事前に患者の不安を共有する際に有用な冊子も公開されている。
このほか、腎臓病SDM推進協会では、SDMの理解を進め、実践を支援するための医療者向けセミナーを2018年より毎年開催しているが、本年はコロナ禍によって見合わせとなった。その代わりホームページ上に『WEBで学ぶSDM ~基礎編~』を公開している。
活用タイミングは大きな治療選択を迫る時だけではない
2019年より透析患者・保存期腎不全患者用の経口腎性貧血治療薬が続々と発売されている。既存の注射薬のエリスロポエチン製剤からの切り替えにより、身体への負担が軽減されるなどのメリットが期待されている一方で、副作用の懸念も大きい。治療法のように大きな決断を迫る時だけではなく、日々の処方切り替え時にも、SDMの活用が有用かもしれない。(ケアネット 土井 舞子)
参考文献・参考サイトはこちら
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