デュルバルマブ承認後の実臨床における、局所進行非小細胞肺がんCCRTの肺臓炎(HOPE-005/CRIMSON)/ASCO2020

提供元:ケアネット

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公開日:2020/07/02

 

 デュルバルマブが局所進行非小細胞肺がん(NSCLC)の化学放射線同時療法(CCRT)後の地固め療法の標準治療として確立された。しかし、デュルバルマブ承認後の実臨床におけるCCRTの実態は明らかになっていない。この実臨床の状況を調べるため、Hanshin Oncology critical Problem Evaluate group(HOPE)では、プラチナ化学療法と放射線の同時療法(CCRT)を受けた局所進行NSCLC患者を対象にした後ろ向きコホート研究を実施。肺臓炎/放射線肺臓炎(以下、肺臓炎)の実態に関する結果を千葉大学の齋藤 合氏が米国臨床腫瘍学会(ASCO20 Virtual Scoentific Program)で発表した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象は、2018年5月〜2019年5月に、HOPEの15施設でCCRTを開始したわが国各地の切除不能局所進行NSCLC患者で、解析対象は275例であった。
・患者の年齢中央値は69.9歳、V20(20Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合)中央値は19.5%、線量中央値は60Gy、CCRT開始からの観察期間中央値8.4ヵ月であった。
・275例中、肺臓炎の発症は全Gradeで81.8%(225例)、内訳はGrade 1が134例, Grade 2以上が91例, Grade 3以上が18例, Grade 5が4例であった。
・CCRT開始から肺臓炎の発現までの期間(中央値)は14週、デュルバルマブ開始からの期間(四分位範囲)は7〜10週であった。
・ 多変量ロジスティック回帰解析による症候性(≧Grade 2)肺臓炎の独立した危険因子はV20 25%以上であった(OR:2.74、95%信頼区間[CI]:1.35〜5.53、p=0.0045)。
・デュルバルマブの維持療法を受けた患者の割合は204例(全体の74.2%)であった。そのうち84%(171例)で肺臓炎が発現し、24.7%(51例)はデュルバルマブの中止とステロイド治療が行われた。
・肺臓炎によりデュルバルマブを中止し、ステロイドが投与された51例中41%(21例)で同剤の再投与が行われた。再投与21例中72%(15例)は再燃なく同剤を継続できた。28%(6例)で肺臓炎が再燃したが、6例中3例はデュルバルマブを継続され、3例は中止となった。

 発表者の千葉大学 齋藤 合氏との1問1答

この研究実施の目的について教えていただけますか。
 2018年、デュルバルマブが承認され、切除不能局所進行NSCLCにおけるCCRTの維持療法の標準治療となりました。デュルバルマブの承認後、治療成績向上に対する期待だけでなく、日本人に多いとされる肺臓炎に対する懸念もあり、CCRTにおける放射線治療の部分に関しても内科系の医師の関心が高まっています。しかし、合併症である肺臓炎の詳細など、実臨床で知りたい情報は、同剤による地固め療法の効果を検討した第III相PACIFIC試験で不明な点が多く存在します。デュルバルマブ登場以降の実臨床におけるCCRTの全体像を明らかにするためにこの研究を行いました。

デュルバルマブの再投与についての分析も行われていますね。
 局所進行NSCLCのCCRTでは、薬剤だけでなく放射線による肺臓炎の懸念もあります。薬剤性の肺障害は残念なことに致死的なケースも多く経験されます。ところが、前述のPACIFIC試験では、条件を満たせば肺臓炎発症患者へのデュルバルマブ再投与がプロトコルで認められていました。従来の臨床医の感覚としては、再投与はややためらいをおぼえるものでした。実臨床においてもある程度の割合で再投与が行われ、かつ、継続できていたことは、実地臨床で悩まれる先生方の参考にもなるのではないかと思います。ただし、本検討は介入研究でないことは強調したいと思います。

この研究結果はどのように実臨床に活かせるのでしょうか。
 今回の検討結果のポイントは、3点あると思います。

 1つ目は、デュルバルマブ登場以降のわが国のCCRTにおいて、どのくらいの重症度の肺臓炎がどのくらいの頻度で起きているかを示したという点です。実際に本検討の観察期間中に約5分の4が肺臓炎を発症しましたが、過半数はGrade 1であったという結果でした。

 2つ目は、CCRTにおいて放射線治療医との連携が重要であると確認できたことです。従来から、V20が高いことはCCRTにおける肺臓炎発現のリスク因子として報告されていましたが、今回の検討でも同様の結果が示されました。これにより放射線科医と連携してリスクを把握し、患者さんのインフォームドコンセントに活かすことの重要さを再確認できました。

 3つ目は、前述のデュルバルマブの再投与の可能性についてです。従来わが国の肺がん診療において、肺障害出現後の再投与には抵抗を覚える先生も多かったかと思います。しかし、デュルバルマブ地固め療法による全生存期間の延長効果が示され、かつ治験の段階で再投与が許容されたことで、再投与が可能なのであれば検討したいと考えていた先生方もいたのではないかと思います。今回、再投与が行われた患者さんは比率として多いわけではありませんが、4割にデュルバルマブの再投与が行われたこと、さらに多くの患者さんで投与が継続できていたという結果は、あくまでも参考ですが、デュルバルマブの再投与という選択肢を検討するきっかけになるかもしれません。

(ケアネット)