認知症を除外できない?高齢者の新運転免許制度~日本抗加齢医学会総会

提供元:ケアネット

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公開日:2018/05/31

 

 多発する高齢ドライバーによる事故を防ぐため、2017年3月の道路交通法改正で75歳以上の運転免許更新の手続きが変更になったが、新制度でも認知症の高齢者を必ずしもスクリーニングできていない―。八千代病院認知症疾患医療センターの川畑信也氏は、5月25日~27日大阪で開催された日本抗加齢医学会の「自動車運転の現在と未来」と題したシンポジウムで、こうした問題提起を行った。

 現行制度では、75歳以上の高齢者が自動車運転免許を更新する場合、認知機能検査の実施が義務付けられ、第1分類(認知症のおそれがある)、第2分類(認知機能が低下しているおそれがある)、第3分類(認知機能が低下しているおそれがない)に区分される。この検査で第1分類と判定された高齢者には、医師の診断書提出が求められる。また、75歳以上の高齢者が事故を起こした場合にも、この検査を受けなくてはならない。

 2017年3月の法施行から12月末までに、この認知機能検査を受検した高齢者は、172万5,292人。うち4万6,911人(2.7%)が第1分類と判定された。ところが、実際に医師の診断を受けた高齢者は1万2,447人で、そのうち医師に認知症と診断され免許取り消しになったのは、1,351人(10.9%)に過ぎなかった。

認知症のおそれは2.7%、認知症はその中のたった1割?
 この数字が制度の多くの問題を浮き彫りにしていると川畑氏は指摘する。

 まず挙げられるのは、認知機能検査の妥当性。認知機能検査で第1分類とされた人の実に14.3%が再受験で第2分類、第3分類に判定変更になっている。川畑氏は、「受け直しただけで7人に1人判定が変わる検査では、科学的な再現性、信頼性を疑わざるを得ない」と断じる。道路交通法に基づく認知症の定義が、医学的な認知症の診断基準と異なっていることも混乱の原因となっている。

 2つ目が、診断書を提出した医師の認知症に対する診断能力の問題。「第1分類と判定された人で認知症が10%というのは明らかに低すぎる」と川畑氏。実際、八千代病院認知症疾患医療センターで同じ期間に診断した51人は、72.5%がアルツハイマー型認知症、2%が血管性認知症だった。「認知症を診断できるスキルがない医師が多いと予想される」と川畑氏は言う。

 さらに氏は、高齢者の免許の自主返納を促す警察庁の姿勢も問題だとする。事実、第1分類と判定された23.6%は免許を自主的に返納している(免許失効は5.5%)。これによって事故を起こす危険性の高いドライバーを抑制できたとはいえるものの、彼らは医師の診断を受ける必要がないため、多くの認知症患者を治療につなげられていない。認知症専門医の立場からすると、これは「けしからんこと」だという。

 改正道路交通法が施行されて1年余りだが、高齢運転者対策には、まだまだ解決すべき課題がたくさんありそうだ。

(ケアネット 風間 浩)