第1回稲門医学会学術集会を開催

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2018/02/27

 

 2018年1月28日、早稲田大学校友の医療者で組織する稲門医師会が新たに立ち上げた稲門医学会は、早稲田大学で初めての学術集会を開催した。当日は、全国より医療関係者が多数参集。基礎医学、臨床医学、社会医学など幅広い分野にわたり、シンポジウムや口演が開催された。

*稲門医師会は2016年に設立された早稲田大学公認の校友会。早稲田大学校友(中退含む)で、医師・歯科医師・看護師・薬剤師のいずれかの資格者と学生で構成(2017年7月現在で会員数345名)。会員同士の親睦・交流に留まらず、医療に関する社会への情報発信、健康分野における研究・教育面で大学との連携、地域稲門会・学生・校友との連携など、さまざまな観点からの活動の展開を目標としている。

次代の医師に必要な力とは?
 学術集会では3題の基調講演が行われ、初めに「これからの医師に求められること(日本・アジアでの在宅医療・遠隔医療・ICTシステムの開発の経験から)」をテーマに武藤 真祐氏(鉄祐会 祐ホームクリニック理事長 )が、医師が今後おかれる環境について語った。

 武藤氏は、循環器内科の臨床家としての顔だけでなく、過去に医療系コンサルタントとして活躍した経歴を持つ臨床医である。2010年より在宅医療を提供するクリニックを運営し、東日本大震災の直後には、甚大な被害のあった石巻の医療の空白を埋めるべく、祐ホームクリニック 石巻を立ち上げ、医療・生活支援を現在も行っている。

 こうした在宅診療所の成功の裏には、医師が診療に集中できるための仕組み作りが欠かせないと語る。たとえば、ICTを活用したハードウェアの導入、メディカルクラークによる医師負担の軽減がある。そして、在宅医療を行って感じた課題として、「医療へのアクセス」「患者の理解度のばらつき」「患者のアドヒアランス」があると指摘。これらを解決する手段としてICTの活用は欠かせないと提案した。また、今後、本格的に導入されると思われる医師と患者の遠隔診療について「YaDoc」を開発し、現在、福岡で従来の対面診療の補完として試行をしていると紹介。今後こうしたシステムが、日本型の地域包括ケアの一形態となり、患者を見守る仕組みとして普及していくと展望を述べた。

 武藤氏は最後に、「医師が、今後増え続ける膨大な医療情報を覚え理解することは不可能に近い。そこで、これからの医師には『人間力が必要だ』」と語る。「たとえば、『患者に寄り添う力』は人工知能(AI)にはできないことであり、次代の医師にはこうした力をつけて欲しい」と述べ、講演を終えた。

2035年の日本の医療の姿
 次に「医療の将来と医師の働き方」をテーマに渋谷 健司氏(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教授)が、2015年に厚生労働省が発表した「保健医療2035」を題材に、医療のこれからの在り方と医師の働き方改革への提言を行った。

 高齢化が進む日本で、高齢者の平均寿命の延びに伴い、健康寿命の延伸も政府の目標となっているが、国内では地域により寿命格差がすでに生じていると指摘する。こうした環境の中で、保健や医療は患者個々の要求に合わせる時代へと入り、今までのトップダウン型からボトムアップ型への体制変革が求められていると、新しい保健医療制度の必要性を強調した。

 そして、新しい制度の概念として、医療経済では規制の強化と市場原理の導入という相反する考え方のバランスを考慮すること、健康が当たり前の社会となるように予防医学などにも力を入れることなど具体策を提案した。

 また、医師の働き方については、現在の行政の問題設定に苦言を呈し、「まず実態を把握し、それに基づいた問題設定をしないと解決は難しく、医師不足だから増員や強制配置では解決にならない」と渋谷氏は指摘した。たとえば医師の偏在であれば、「各地域で必要とされる機能を確認し、配置を考えないといけない」と提案を行い、講演を終えた。

かかりつけ医が患者を支える地域医療へ向けて
 最後に「地域医療体制の再構築に向けて」をテーマに横倉 義武氏(日本医師会会長、世界医師会会長)が、医師会の役割と今後の展望、そして地域医療の将来を語った。

 医師会は学術団体であり、会員は常に倫理・品性の確立と医療知識の習得、技術の向上を図っている。地域の医師会では、行政協力も盛んであり、まさに住民の健康を支えていると医師会の役割について述べた。また、世界医師会は、患者や医師にとって重要なステートメントである「リスボン宣言(患者の権利)」や「ヘルシンキ宣言(医の倫理)」などを発し、世界の医療の向上に貢献をしていると説明した。

 次いで、今後の地域医療について解説し、高齢化社会の現在、持続可能な社会保障のための提言と解決策として、外来では「かかりつけ医」を主体に適切な受診行動や地域包括ケアができること、コスト意識を持った処方をガイドラインへの掲載を通じて行うこと、長期処方の是正はかかりつけ医の服薬管理で行うことなどの提案を行った。また、高齢化社会における医療提供体制の構築については、地域医療構想調整会議を経て計画・調整されつつあり、2025年の医療需要に焦点をあて策定されると説明した。そのほか、切れ目のない医療・介護の提供のため、かかりつけ医を中心とした仕組み作りを推進。地域の医療・介護資源に応じた対応を、行政、専門医療機関、多職種間の連携により実施していきたいと展望を語った。

 横倉氏は最後に、「より良い医療を国民と医師とで考えながら、今後も医療全体の向上に寄与していきたい。また、昨年、医師会の設立記念日の11月1日を『いい医療の日』と制定した。今後もいい医療の提供にまい進していきたい」と語り、講演を終えた。

■参考
稲門医学会

(ケアネット 稲川 進)