肝性脳症に抗菌薬?新たな治療戦略

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2017/01/23

 

 40~50万程度いると推定される肝硬変患者、その合併症の1つである肝性脳症の治療に進歩がみられている。あすか製薬主催のプレスセミナー「知られざる肝性脳症の病態と最新治療」にて2017年1月18日、大阪市立大学 肝胆膵病態内科学 河田則文氏が新たな肝性脳症治療についての講演を行った。

 肝性脳症の初期症状として、人格や行動の微妙な変化、判断力低下、睡眠パターンの乱れ、認知症、うつ病などの精神症状が現れる。初期では患者に自覚症状がないこともあり、家族もほとんど気付かない。その後、羽ばたき振戦、見当識障害、肝性口臭などの特徴的な症状が出て徐々に悪化し、最終的に昏睡に陥り寝たきり状態となる。

 肝性脳症は、血中のアンモニアが高くなることで引き起こされると考えられている。アンモニアは食物を腸内細菌が代謝する過程で産生される。肝硬変になると、肝臓機能が低下しアンモニア解毒能が下がる、門脈―大循環シャントのためアンモニアが直接体循環内に入る、などが誘因となり高アンモニア血症から脳症を惹起すると考えられている。

 肝性脳症の治療では、腸管内pHの低下や排便促進などによりアンモニア産生・吸収を抑制する合成二糖類、筋肉でのアミノ酸代謝を促進する分岐鎖アミノ酸製剤(以下、BCAA)、尿素回路を活性化させるカルニチン製剤などが用いられていた。そこに、腸内細菌に対し抗菌作用を示す難吸収性抗菌薬リファキシミン(商品名:リフキシマ)が登場した。リファキシミンは、BCAAや合成二糖類など既存の治療法で十分な効果が認められなかった場合に、治療効果を向上させるために用いられる。

 リファキシミンは、腸内細菌叢におけるアンモニア酸性菌として報告されている菌群に対し抗菌活性を示すと共に、そのほとんどが体で吸収されず、消化管細菌叢に移行するという特徴を有する。二重盲検試験の結果、リファキシミン群の血中アンモニアレベルはプラセボ群に比べ有意に低下し(p=0.008)、肝性脳症の点数であるPSEインデックスもプラセボに比べ、有意に低下することが明らかとなった(p=0.0103)。また、肝性脳症による入院までの期間も、プラセボに比べ有意に延長した(p=0.01)。さらに、肝硬変患者の生存率も、プラセボに比べ有意に延長した(p=0.012)。

 肝硬変が完治できない現在、肝性脳症も完治することはできない。しかし、難吸収性抗菌薬という新たな選択肢が加わった今、非代償性あっても代償性に近い時期であれば、高アンモニア血症の改善やアルブミン改善など治療を組み合わせることで代償性に戻る患者もいるという。症状が軽微な初期の段階から、肝臓専門医と他診療科医が連携し、肝性脳症の早期発見が進むことを期待したい。

(ケアネット 細田 雅之)