せん妄、意思決定能力が高齢がん患者の問題

提供元:ケアネット

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公開日:2014/09/04

 

 2014年8月28日~30日、横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会にて、名古屋市立大学 明智龍男氏は「高齢者がん治療の問題点~精神症状の観点から」と題し、高齢がん患者が抱える精神症状と、それらが及ぼす影響について紹介した。

せん妄が多い高齢がん患者の精神症状
 高齢がん患者の精神症状は、3つのDと呼ばれる、Delirium(せん妄)、Dementia(認知症)、Depression(抑うつ状態)の頻度が高い。米国の研究結果では、無作為抽出された全病期のがん患者のうち47%に精神科的診断がついた。
がん終末期における本邦の研究でも米国のデータと同様、がん患者の半数に精神科的診断がついている。その内訳は、せん妄が28%と最も多く、次いで、認知症、適応障害、うつ病である。

 がんの経過と精神症状の関連をみると、診断後はうつ状態が現れ、治療に伴い術後せん妄も認められる。再発進行のイベントとともにうつ病の頻度は高くなり、身体症状の悪化とともに多くの患者がせん妄を経過して亡くなる。一方、認知症は、がんの経過と関係なく加齢とともに増加する。

精神症状がもたらすさまざまな影響
 せん妄は、特殊な意識障害をもたらし多様な影響を及ぼす。転倒・転落、ドレーン自己抜去など医療事故の原因ともなり、家族とのコミュニケーション障害も現れる。入院の長期化、医療スタッフの疲弊といった医療側の問題にもつながる。
せん妄は以前、一過性の病態といわれていたが、最近では一部の患者において永続的な影響を残す可能性が示唆され始めた。

 認知症は後天的な知的機能の低下を来すことで自律的意思決定が障害され、薬の飲み忘れなど治療アドヒアランスの低下などを引き起こす。さらに、認知症を合併した患者は、非合併患者に対して生存期間が短いとの報告がある。

 うつ病・うつ状態は、がん患者においても自殺の最大の原因である。がん診断時からの期間とうつ病合併患者の自殺の相対危険度をみた海外の大規模観察研究では、がん患者の自殺は診断から1週間以内が最も多い。その相対危険度は非うつ病患者の12.6倍であった。また、自殺の問題だけでなく、術後補助療法の拒否が多いなど、うつ病患者では治療アドヒアランスへの低下も報告されている。

課題となる高齢がん患者の意思決定能力障害
 インフォームド・コンセントが成立するためには、選択の表明、情報の理解、選択と結果の理解、思考過程の合理性といった意思決定能力が患者に担保されていることが前提条件となる。一方、がん患者では、意思決定能力の問題を抱えていることが多い。

 腫瘍精神科に意思決定能力評価を依頼されたがん患者を調べた国立がん研究センターのデータでは、依頼された患者の51%に意思決定能力に障害がみられた。これら患者の精神科診断は多岐にわたるが、実際に意思決定能力の障害があった患者は、せん妄と認知症が多くを占めた。逆に、それ以外の患者では能力は保たれており、意思決定能力は精神科診断だけでは判断できないことがわかった。

 高齢がん患者では、せん妄、認知症、うつ病といった精神症状が高頻度に起こり治療に影響を及ぼす。また、意思決定能力を障害されている患者が多数存在しインフォームド・コンセントにも影響を及ぼす。これら患者の治療を適切に行うためには、CGA(Comprehensive Geriatric Assessment:高齢者総合的機能評価)などの総合的評価が重要になっていくであろう。

(ケアネット 細田 雅之)