日本でほとんど報道されなかった驚愕のインパクト、冠動脈疾患の二次予防に対するコルヒチンに迫る!

提供元:ケアネット

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公開日:2013/01/15

 

 2012年11月、AHA(米国心臓病学会)学術集会が開催され、多くの新しい知見が発表された。その中に、日本では、ほとんど報道されてはいないが、冠動脈疾患の二次予防において、臨床的にきわめてインパクトの高い試験結果が発表されていた。その試験名は、「The LoDoCo Trial」という。LoDoCo試験に用いられた新たな治療選択肢は、わが国でも古くから使用されている痛風発作予防薬コルヒチンだった。
ケアネットでは、この試験に注目し、情報を提供してくださった東海大学医学部 後藤信哉氏に直接お話を伺った。後藤氏は、AHA発表時のDiscussantでもある。

安定狭心症への低用量コルヒチン投与によって心血管イベントが減少

 LoDoCo (Low Dose Colchicine)試験は、低用量コルヒチンが、安定狭心症患者の心血管イベントを抑制するかを検討したオープン試験である。
血管造影にて確認された安定狭心症532例を、低用量コルヒチン(0.5mg/日)群(282例)またはコルヒチン非投与群(250例)に無作為に割り付け、最初の臨床イベント(急性冠症候群、院外心停止、非心原性脳梗塞)を主要評価項目として、平均3年間追跡した。その結果、イベント発症率は、非投与群が40/250(16%)、低用量コルヒチン群が15/282(5.3%)となり、HRは0.33 (95%CI: 0.18~0.60、p<0.001)、治療必要数(NNT)は11であった。
ベースラインにおいて、非投与群、低用量コルヒチン群間で、有意な差は認められず、いずれの群においても、抗血小板薬、高用量スタチンが90%以上投与されており、降圧薬も十分に投与されていた。
種々サブグループ解析の結果、いずれのサブグループにおいても同様のイベント抑制効果が認められた。

驚愕のインパクト

 近年、降圧薬、スタチン、抗血小板薬で十分に治療している二次予防例に対する追加治療の試験では、ネガティブな結果となることが多く、新しい治療手段が待ち望まれていた。そのような中、The LoDoCo Trailは、安定狭心症患者に対し、降圧薬、スタチン、抗血小板薬を十分投与した状態で、オープン試験という限界があるものの、67%ものイベント抑制率、NNT 11と素晴らしい成績を収め、臨床上大きなインパクトをもたらした。
また、この素晴らしい成績をもたらしたコルヒチンは、従来から痛風発作の予防薬として使用されていた薬剤であり、8.2円/錠(2013年1月現在)と安価な薬剤である。この安価さも大きなインパクトである。

コルヒチンがなぜ効くか?

 では、なぜコルヒチンでこのように高いイベント抑制が得られたか? この問いに対し、後藤氏は、
「心筋梗塞が炎症性疾患であることは、すでに世界的なコンセンサスが得られている。実際、心筋梗塞を起こした患者の血栓をみると、単球や好中球といった炎症性細胞が多く含まれている。そのため、この炎症を抑制することができれば、心筋梗塞の発症を抑制できるであろうという予想は多くの人が持っていた。
しかし、The LoDoCo Trail のすごいところは、単球やマクロファージではなく、好中球や多核球に着目した点である。好中球や多核球に対する強い抑制作用を持つ薬剤は、現在のところ、コルヒチンのみと言っても良い。そこで、研究グループはコルヒチンを用いた臨床試験を実施し、hs-CRPを有意に減少させることに成功した1)。その結果を受け、LoDoCo試験を実施し、見事に高いイベント抑制を認めたのではないか」と答えた。

今後の低用量コルヒチン療法について

 続いて、後藤氏は、今後の低用量コルヒチン療法に対する期待を示した。
「コルヒチンは、通常用量で投与すると、投与初期に消化器系の副作用が出現しやすく、使いにくい反面、低用量で用いれば、副作用が起こりにくく長期間使うことも可能となる薬剤である。今回のThe LoDoCo Trailは、二次予防の患者がコルヒチンを忍容できれば、投与しておいた方が、イベントを抑制できることを示している。
コルヒチンに、心血管イベント予防の効能が、今すぐに追加されることは考えにくいが、この情報が医師の間に浸透し、病態生理、薬効薬理の観点から、投与を決断する医師が出てくるものと予想されるし、期待したい。それが草の根的に広がり、多くの患者さんのために、使われていけば良いと思う」。


(おまけ)医療メディアのあり方

 「今回のThe LoDoCo Trailは、現在の医療メディアのあり方を考えさせるものでもある」と後藤氏は言う。EBMの時代になり、学会発表や文献掲載を契機として、臨床エビデンスがメディアにより大量に発信される。多くの場合、その背後には、製薬会社のプロモーションがあり、資金力の大きな製薬会社のエビデンスは大きく取り上げられ、資金力の小さな会社のエビデンスが取り上げられることは少ない。今回のThe LoDoCo Trailは、オーストラリアの研究で、どこの製薬会社のスポンサードも受けていない。そのため、残念なことに、このように素晴らしい研究成果が、発信されない状態になってしまった。
最後に、後藤氏は、下記の言葉で結んだ。
「ぜひ、御社で、正確な情報を広めてください」。

 LoDoCo Trailは、私たちケアネットが、臨床医の先生方に本当に役立つ情報をお届けするため、このような情報も積極的に発信していかなければならないと、決意を新たにした試験でもあった。

(ケアネット)