スタチン投与中の糖尿病例において最低限到達しなければならないLDLコレステロール値は?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/06/14

 



糖尿病合併例におけるLDLコレステロール値の管理目標値は120mg/dL未満が推奨されているが、アドヒアランス不良のため、コントロールが不十分な例も少なくはない。フルバスタチンが投与された高コレステロール血症合併糖尿病患者の大規模市販後調査の結果より、心イベント発症抑制のためにはLDLコレステロール値を最低限180mg/dL未満に管理することが重要であることが、東京医科大学 小田原雅人氏より第53回日本糖尿病学会学術集会にて発表された。これはフルバスタチンが投与された高コレステロール血症の長期投与時における心イベント発症率とその危険因子を検討した市販後調査Lochol Event Monitoring(LEM) Studyの糖尿病患者におけるサブ解析より得られた知見。

3,000例を超える糖尿病と高コレステロール血症の併発例を3年以上追跡




LEM StudyはHMG-CoA還元酵素阻害薬フルバスタチン(販売名:ローコール)20~60mg/日が投与された高コレステロール血症患者を一次予防群で5年、二次予防群で3年追跡した調査。2000年4月1日から2002年3月31日まで中央登録方式で21,139症例が登録され、その内19,084例が安全性評価対象例とされた。LEM Studyの結果は2009年に開催された第41回日本動脈硬化学会学術集会において発表されているが、今回、糖尿病合併の有無で層別解析した結果が発表された。

評価対象例のうち、糖尿病患者は3,325例(17.4%)、非糖尿病患者は15,759例(82.6%)であり、高血圧合併例、心疾患合併例は糖尿病患者群で多かった。糖尿病合併の有無にかかわらず、LDLコレステロール値、総コレステロール値、トリグリセリド値はフルバスタチン投与前より有意に低下した。255例に心イベントが発現し、糖尿病患者群で2.1倍多く発現していた(p<0.0001)。これを一次予防、二次予防に分けてみた場合、糖尿病患者におけるリスク比はそれぞれ2.2倍、1.6倍であった。一次予防においてはBMIが22kg/m2以上の糖尿病患者では、非糖尿病患者に比べ、心イベントの相対リスクがBMIの上昇に伴って連続的な上昇が認められた。

糖尿病患者における心イベント発現率を追跡期間中の平均LDLコレステロール値別に解析した結果、一次予防においてLDLコレステロール値が180mg/dL以上の群では、100-120mg/dLの群に比べ、心イベント発現率が有意に高く(相対リスク=4.498)、二次予防においても180mg/dL以上の群では、100mg/dL未満群に比べ、有意に高かった(相対リスク=10.714)。一方、非糖尿病患者では相対リスクに有意な差がみられなかった。

今回のLEM Study糖尿病サブ解析におけるtake home messageは、糖尿病患者の心イベント発症予防のためには、フルバスタチン投与例でも少なくともLDLコレステロール値を180mg/dL未満にコントロールすることが重要である。


以下、今回の発表を受けた私の感想。

糖尿病患者における心イベント発現率は著明に高く、糖尿病患者の死因としても心疾患が多くの割合を占める。糖尿病患者の心イベント発現抑制のためには血糖のコントロールがもちろん重要であるが、しばしば困難なことが多く、血圧、LDLコレステロールのコントロールがとりわけ有用といえる。これまでの大規模介入試験の結果から糖尿病患者のスタチン投与によるLDLコレステロール値低下療法の有用性は確立している。

糖尿病患者の脂質管理目標は、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは120mg/dL未満を推奨しているが、アドヒアランスが良好な症例ばかりではない。そのような症例でも最低限、到達しなければならないLDLコレステロール値はどの程度か。フルバスタチン投与例を対象としたLEM Studyでは180mg/dL以上の患者群で有意な心イベント発現率を認めた。糖尿病症例では120mg/dL未満を管理目標とし、うまくコントロールできない患者においても少なくとも180mg/dLを超えないように、フルバスタチンを増量する、あるいは他剤を併用することも考慮に入れるべきではないかと考える。

現在、我々は糖尿病患者の症例登録データベースを開発している。このデータベースでは脂質に関するデータ入力も可能であり、これまでに登録された糖尿病患者1,206例のうち、高コレステロール血症を合併している症例が36%含まれていた。今後、このデータベースを用いて、どのような方法によって、どの程度LDLコレステロール値が低下し、血糖、血圧などのコントロール状況も加味し、どの程度心イベントの発症リスクが低下したのかを供覧できればと考えている。

(ケアネット 藤原 健次)