日本語でわかる最新の海外医学論文|page:258

推定GFR値を、より正確に知る―欧州腎機能コンソーシアムの報告―(解説:石上友章氏)

慢性腎臓病(CKD)は、21世紀になって医療化された概念である。その起源は、1996年アメリカ腎臓財団(NKF:National Kideny Foundation)による、DOQI(Dialysis Outcome Quality Initiative)の発足にまでさかのぼることができる。2003年には、ISN(International Society of Nephrology:国際腎臓学会)によりKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)が設立され、翌2004年に第1回KDIGO Consensus Conference(CKDの定義、分類、評価法)が開催され、血中クレアチニン濃度の測定を統一し、estimated GFRを診断に使用することが提唱された。その結果、現代の腎臓内科学は、Virchow以来の細胞病理・臓器病理に由来する、原因疾患や、病態生理に基づく医学的な定義に加えて、血清クレアチニン値による推定糸球体濾過量(eGFR)を診断に用いる『慢性腎臓病(CKD)』診療に、大きく姿を変えた。CKDは、心腎連関によって、致死的な心血管合併症を発症する強い危険因子になり、本邦の成人の健康寿命を著しく脅かしていることが明らかになっている。KDIGOの基本理念として、CKDは糖尿病・高血圧に匹敵する主要な心血管疾患(CVD)のリスクファクターであり、全世界的対策が必要で、誰でも(医師でなくても)理解できる用語の国際的統一を呼び掛けた。したがって、CKD対策とは腎保護と心血管保護の両立にある。腎臓を標的臓器とする糖尿病、高血圧については、特異的な治療手段があり、原疾患に対する治療を提供することで、腎障害の解消が期待される。eGFRの減少は、CKDの中核的な病態であるが、その病態を解消する確実な医学的な手段はなかった。これまで、栄養や、代謝、生活習慣の改善を促すこと以外に、特異的な薬物治療は確立されていない。しかし、近年になって、糖尿病治療薬として創薬されたSGLT2阻害薬が、血糖降下作用・尿糖排泄作用といった薬理作用を超えた臓器保護効果として、心不全ならびに、CKDに有効な薬剤として臨床応用されている。SGLT2阻害薬は、セオリーにすぎなかった心腎連関を、リアル・ワールドで証明することができた薬剤といえるのではないか。推定GFRの評価は、CKD診療の基本中の基本であり、原点にほかならない。人種、性別、年齢による推定式が用いられているが、万能にして唯一の推定式とはいえなかった。Pottel氏らの研究グループは、「調整血清クレアチニン値」に代わって、「調整シスタチンC値」に置き換えた「EKFC eGFRcys式」の性能を評価した研究を報告した(Pottel H, et al. N Engl J Med. 2023;388:333-343.)。

難治転移大腸がんへのfruquintinib、日本人患者にも有用/日本臨床腫瘍学会

 転移のある大腸がん患者に対する血管内皮増殖因子受容体 (VEGFR) -1、2、3を標的とするfruquintinibの有効性を示したFRESCO-2試験。本試験における日本人サブグループの解析結果を、2023年3月16~18日に開催された第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)のPresidential Session 4(消化器)で、国立がん研究センター東病院の小谷 大輔氏が発表した。  FRESCO-2試験は米国、欧州、オーストラリア、日本で実施された国際共同第III相試験であり、fruquintinib+最善の支持療法(BSC)またはプラセボ+BSCに2:1で無作為に割り付けられた。fruquintinib(F群)またはプラセボ(P群)を1日1回投与(5mgを28日周期で3週間投与し、1週間休薬)した。主要な患者選択基準には、標準化学療法が不応または不耐であること、抗VEGF 療法歴を有すること、RAS野生型の場合は抗EGFR療法歴を有すること、適応がある場合は免疫チェックポイント阻害薬またはBRAF阻害薬治療歴を有すること、またトリフルリジン/チピラシルとレゴラフェニブの両方もしくはいずれかの治療歴を有することが含まれた。

CDK4/6阻害薬+内分泌療法、HER2低発現乳がんでの有効性/日本臨床腫瘍学会

 HER2低発現とHER2ゼロの進行乳がん患者において、CDK4/6阻害薬および内分泌療法の効果を比較した結果、両群の無増悪生存期間(PFS)中央値や内分泌療法の治療成功期間(TTF)中央値に有意差はなかったことを、大阪市立総合医療センターの大森 怜於氏が、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。  内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用は、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・再発乳がんの標準治療となっている。HER2低発現(IHC1+またはIHC2+/ISH-)は新たに注目されている分類だが、HER2低発現乳がんに対する研究はまだ限られている。

不眠症に対する認知療法、行動療法、認知行動療法の長期有効性比較

 不眠症を軽減するためには、長期的な治療が重要である。米国・カリフォルニア大学バークレー校のLaurel D. Sarfan氏らは、不眠症治療に対する認知療法(CT)、行動療法(BT)、認知行動療法(CBT)の長期的な有効性について、相対的に評価した。その結果、セラピストによるCBT、BT、CTの提供は、長期にわたり不眠症による夜間および日中の症状を改善させる可能性が示唆された。Journal of Consulting and Clinical Psychology誌オンライン版2023年2月23日号の報告。

inaxaplin、APOL1バリアント保有患者で蛋白尿を抑制/NEJM

 アポリポ蛋白L1をコードする遺伝子(APOL1)の毒性機能獲得型バリアント(G1またはG2)を持つ人は、蛋白尿性慢性腎臓病(CKD)のリスクが高く、CKD患者はこれら2種のバリアントを持たない人に比べ末期腎臓病への進展が加速化することが知られている。米国・Vertex PharmaceuticalsのOgo Egbuna氏らは、VX19-147-101試験において、2種のAPOL1バリアントを有する巣状分節性糸球体硬化症の患者では、低分子量の経口APOL1チャネル機能阻害薬inaxaplinの投与により蛋白尿が減少することを示した。研究の成果は、NEJM誌2023年3月16日号に掲載された。

日本化薬のペメトレキセドGE、非小細胞肺がんの術前補助療法の適応取得

 日本化薬は、2023年3月27日、厚生労働省よりペメトレキセド点滴静注液100mg「NK」・同500mg「NK」・同800mg「NK」、ペメトレキセド点滴静注用100mg「NK」・同500mg「NK」・同800mg「NK」について、「扁平上皮癌を除く非小細胞肺癌における術前補助療法」に対する効能・効果、ならびに用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。

ICIの継続判断にも有用、日本初のOnco-cardiologyガイドライン発刊

 本邦初となる『Onco-cardiologyガイドライン』が第87回日本循環器学会学術集会の開催に合わせて3月10日に発刊された。これまで欧州ではESC(European Society of Cardiology、欧州心臓病学会)などがガイドラインを作成・改訂しており、国内でもガイドライン発刊が切望されていたことから、日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が協働しMindsに準拠したものを作成した。今回、学術集会の会長企画シンポジウム6「OncoCardiology:診断と治療Up-to-Date」において、ガイドライン(以下、GL)のポイントについて発表された。

T-DXd、HER2低発現乳がんに適応拡大/第一三共

 第一三共は2023年3月27日、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、「化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。  本適応は、2022年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2022)で発表された、化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づくもので、2022年6月に国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行い、優先審査品目に指定されていた。国内において初めてHER2低発現の乳がんを対象に承認された抗HER2療法となる。

HER2低発現乳がんへのT-DXd、アジア人集団でも有効性・安全性を確認(DESTINY-Breast04)/日本臨床腫瘍学会

 化学療法歴を有するHER2低発現の切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)に対して、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験のアジア人サブグループ解析において、T-DXd群では全体集団と同様にアジア人集団でも有意に無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が延長し、管理可能な安全性プロファイルであったことを、昭和大学の鶴谷 純司氏が第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。

コロナ疾患後症状患者、1年以内の死亡/重篤心血管リスク増

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、PCC患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。  米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後PCCと診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。

日本の食事パターンと認知症リスク~NILS-LSAプロジェクト

 日本食の順守が健康に有益である可能性が示唆されている。しかし、認知症発症との関連は、あまりよくわかっていない。国立長寿医療研究センターのShu Zhang氏らは、地域在住の日本人高齢者における食事パターンと認知症発症との関連を、アポリポ蛋白E遺伝子型を考慮して検討した。その結果、日本食の順守は、地域在住の日本人高齢者における認知症発症リスクの低下と関連しており、認知症予防に対する日本食の有益性が示唆された。European Journal of Nutrition誌オンライン版2023年2月17日号の報告。  本研究データはNILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)プロジェクトの一環として収集され、愛知県在住の認知症でない高齢者1,504人(65~82歳)を対象とした20年間のフォローアップコホート調査が実施された。

地中海食が悪性黒色腫の免疫療法への反応を改善か

 オランダ・フローニンゲン大学のLaura A. Bolte氏らは、食事習慣と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療反応の関連を調べるコホート研究「PRIMM研究」を行い、地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)とICI治療反応に正の関連があることを明らかにした。著者は、今回のコホート登録者がオランダと英国の進行悪性黒色腫患者91例であったことを踏まえて、「今回の結果の再現性を確認し、ICIによる治療における食事の役割を解明するためには、さまざまな国や地域での大規模な前向き研究が必要である」としつつ、「習慣的な食事がICIへの反応を改善する役割を果たす可能性があることが示唆された」と述べている。JAMA Oncology誌オンライン版2023年2月16日号掲載の報告。

経鼻投与の百日咳ワクチン、単回でも感染抑制の可能性/Lancet

 経鼻投与型の弱毒生百日咳ワクチンであるBPZE1は、鼻腔の粘膜免疫を誘導して機能的な血清反応を引き起こし、百日咳菌(Bordetella pertussis)感染を回避し、最終的に感染者数の減少や流行の周期性の減弱につながる可能性があることが、米国・ILiAD BiotechnologiesのCheryl Keech氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2023年3月11日号で報告された。  研究グループは、BPZE1の免疫原性と安全性を破傷風・ジフテリア・沈降精製百日咳ワクチン(Tdap)と比較する目的で、米国の3施設で二重盲検無作為化第IIb相試験を行った(ILiAD Biotechnologiesの助成を受けた)。

ニボルマブのNSCLCネオアジュバント、国内承認/小野薬品・BMS

 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、2023年3月27日、ニボルマブについて、化学療法との併用療法で非小細胞肺癌における術前補助療法に対する効能又は効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認の取得を発表した。  今回の承認は、切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者の術前補助療法として、ニボルマブと化学療法の併用療法を化学療法単独と比較評価した多施設国際共同無作為化非盲検第III相試験であるCheckMate 816試験の結果に基づいている。

切除可能非小細胞肺がんに対する 術前・後ペムブロリズマブ、無イベント生存期間を改善(KEYNOTE-671)/MSD

 Merck社は2023年3月1日、Stage II、IIIA、IIIB(T3-4N2)の切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する周術期療法としてのペムブロリズマブを評価する第III相KEYNOTE-671試験において、2つの主要評価項目のうち無イベント生存期間(EFS)を達成したことを発表した。周術期療法レジメンには術前補助療法(ネオアジュバント療法)とそれに続く術後補助療法(アジュバント療法)が含まれる。

水素吸入で院外心停止患者の救命・予後改善か/慶大ほか

 心停止の際に医療従事者が近くにいないなど、即座に適切な処置が行われなかった場合、1ヵ月の生存率は8%とされる。また、生存できた場合でも、救急蘇生により臓器に血液と酸素が急に供給されることで、非常に強いダメージが加わり(心停止後症候群と呼ぶ)、半数は高度な障害を抱えてしまう。このような心停止後症候群を和らげる治療として、体温管理療法があるが、その効果はいまだ定まっていない。そこで、東京歯科大学の鈴木 昌氏(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)らの研究グループは、病院外で心停止となった後に循環は回復したものの意識が回復しない患者を対象に、体温管理療法と水素吸入療法を併用し、効果を検討した。その結果、死亡率の低下と後遺症の発現率の低下が認められた。本研究結果は、eClinicalMedicine誌2023年3月17日号に掲載された。

うつ、不安、苦痛に対する身体活動介入の有効性~アンブレラレビュー

オーストラリア・南オーストラリア大学のBen Singh氏らは、成人のうつ病、不安、精神的苦痛に関する症状に対する身体活動の影響を明らかにするためアンブレラレビューを行った。その結果、身体活動は、幅広い成人に対しうつ病、不安、精神的苦痛の改善に有益であることが確認された。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年2月16日号の報告。  2022年1月1日までに公表された適格研究を、12件の電子データベースより検索した。成人を対象に、身体活動によるうつ病、不安、精神的苦痛を評価したランダム化比較試験のメタ解析によるシステムを適格基準とした。研究の選択は、2人の独立したレビュアーによる重複チェックにより実施した。

3回接種後の効果、ファイザー製/モデルナ製各160万人で比較/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ変異株~オミクロン変異株の流行期において、BNT162b2(ファイザー製)ワクチンまたはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンによるブースター接種はいずれも、接種後20週以内のSARS-CoV-2感染および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院に関して適度な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のWilliam J. Hulme氏らのマッチドコホート研究で明らかとなった。BMJ誌2023年3月15日号掲載の報告。  研究グループは、OpenSAFELY-TPPデータベースを用いてコホート研究を行った。本データベースは英国の一般診療所の40%をカバーし、国民保健サービス(NHS)番号を介して救急外来受診記録、入院記録、SARS-CoV-2検査記録および死亡登録と関連付けられている。

前立腺がん15年後の転帰、監視vs.手術vs.放射線/NEJM

 英国・オックスフォード大学のFreddie C. Hamdy氏らは、Prostate Testing for Cancer and Treatment(ProtecT)試験の追跡調査期間中央値15年時点における、PSA監視療法vs.根治的前立腺全摘除術vs.内分泌療法併用根治的放射線療法の有効性を比較し、いずれの治療法でも前立腺がん特異的死亡率は低いことを明らかにした。著者は、「新たに限局性前立腺がんと診断された患者に対しては、治療の有益性と有害性のバランスを慎重に検討して治療法を選択する必要がある」とまとめている。NEJM誌オンライン版2023年3月11日号掲載の報告。

転移性去勢抵抗性前立腺がんでPARP阻害薬rucaparibは有効(解説:宮嶋哲氏)

rucaparibはポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬であり、第II相試験ではBRCA遺伝子変異を伴う転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者で高い活性を示した。本研究は、BRCA1、BRCA2、またはATM変異を伴うmCRPC患者において、第2世代アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)治療後に病勢進行を認めた患者に対して、rucaparib、もしくはドセタキセルまたは第2世代ARPIを2:1で割り付けたランダム化第III相試験(TRITON3試験)である。主要評価項目は画像評価によるPFSである。スクリーニングを受けた4,855例のうち、270例がrucaparib投与群、135例が対照群に割り付けられた。各群でのBRCA変異症例は201例、101例に認められた。