日本語でわかる最新の海外医学論文|page:260

人工知能なんてこんなもんさ?(解説:後藤信哉氏)

各所で「人工知能」が話題になる。『鉄腕アトム』のように人間と会話できる「人工知能」ができれば素晴らしい。しかし、現在のニューラルネットワークによる「人工知能」は人間の脳とは異なる。ヒトの脳には「直感」という優れた能力があり、コンピューターは真似できない。また、コンピューターは単純な四則演算しかできないが、疲労せず、同じことを長期間繰り返せる。今の、しょぼい「人工知能」でも、結構診療の助けにはなる。心電図を画像と理解しているヒトが多いと思う。実態は2 m/秒ごとに計測した電位の集積である。1枚の心電図には1誘導について1万くらいの電位の情報がある。1万次元の時系列計測情報として「ビッグデータ」ともいえる。この入力の「ビッグデータ」と診断Yes/No、未来イベントY/Nなど、定量的相関関係を見出すプロセスを「人工知能」と呼んでいる。知能といっても、革新的コンセプトを生み出すわけではない。単純に多次元情報と1次元アウトカムの定量的相関関係を見出す数学的プロセスに過ぎない。

HER2低発現とHER2ゼロ乳がん、予後に違いはあるか?

 HER2低発現(ERBB2-low)乳がんについて、HER2ゼロ(ERBB2-0)乳がんと比較してその予後や従来の治療法への反応にどのような違いがあるかはほとんどわかっていない。フランス・Institut de Cancerologie de l'OuestのOmbline de Calbiac氏らは、両者の転帰を比較することを目的にコホート研究を行い、JAMA Network Open誌2022年9月15日号に報告した。  本研究では、2008~16年にフランスの18の総合がんセンターで治療を受けた転移乳がん(MBC)患者を対象とし、データ解析は2020年7月16日~2022年4月1日に実施された。主要評価項目はHER2低発現(IHCスコアが1+もしくは2+でISH陰性)およびHER2ゼロ(IHCスコア0)の患者における全生存期間(OS)、副次評価項目は1次治療下での無増悪生存期間(PFS1)とされた。

基礎疾患がある若年者、コロナワクチン後の抗体陽性率高い/成育医療研究センター

 国立成育医療研究センター 感染症科の庄司 健介氏らによって、免疫抑制状態を含む基礎疾患を有する12~25歳の患者における新型コロナワクチン接種後の安全性と抗体価が調査された。その結果、基礎疾患のある患者であっても、ワクチン2回接種後の抗体陽性率は高く、その抗体価は12~15歳の患者のほうが16~25歳の患者よりも高いことが明らかになった。これまでの新型コロナワクチンに関する調査は主に健康な人を対象としており、基礎疾患を有する小児や青年での安全性や抗体価の情報は限られていた。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2022年9月21日掲載の報告。

初発双極性障害に対する薬物治療の傾向~20年間での変化

 東フィンランド大学のJuulia Poranen氏らは、過去20年間にフィンランドで新たに双極性障害(BD)と診断された患者における薬物療法のパターンについて調査を行った。その結果、(1)抗うつ薬の使用率が最も多い、(2)リチウムの使用率が減少しており増加させる必要がある、(3)抗精神病薬の長時間作用型注射剤(LAI)が十分に活用されていないことを報告した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2022年9月30日号の報告。  1996~2018年にフィンランドで新たにBDと診断された16~65歳のすべての患者2万6,395例をフィンランド全国レジストリより特定した。薬物治療のポイント実施率は、初回診断から5年後まで観察した。初回診断の暦年に基づき5つのサブコホートを作成し、診断3ヵ月後のサブコホート間での薬物治療の実施率を比較した。投薬に関するデータは、調剤データを用いてPRE2DUP法でモデル化した。

育児期の母親の超加工食品摂取で子の肥満リスク増/BMJ

 育児期の母親の超加工食品摂取は、母親および子のライフスタイルリスク因子とは関係なく、子の過体重や肥満のリスク増加と関連するという。米国・マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学医学部のYiqing Wang氏らが、3つの前向きコホート試験データを解析して示した。著者は、「さらなる研究を行い、今回示された所見を確認し、根底にある生物学的メカニズムおよび環境決定要因を解明する必要がある」と述べるとともに、「いずれにせよ今回のデータは、子の健康を守るために、妊娠可能年齢の女性の食事に関する推奨事項の重要性と、栄養を改善するためのプログラム開発を支持するものである」とまとめている。BMJ誌2022年10月5日号掲載の報告。

グラム陰性菌尿路感染症、CFPM/enmetazobactamがPIPC/TAZに優越性/JAMA

 グラム陰性菌が原因の複雑性尿路感染症(UTI)または急性腎盂腎炎の患者において、セフェピム/enmetazobactam(CFPM/enmetazobactam)はピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)と比較して、臨床的治癒と微生物学的根絶の主要アウトカムに関して非劣性および優越性の基準を満たした。米国・Robert Wood Johnson Medical SchoolのKeith S. Kaye氏らが世界90施設で行った第III相無作為化二重盲検実薬対照非劣性試験の結果を報告した。

日本には静脈血栓予防・治療の低分子ヘパリンがないのが痛いね(解説:後藤信哉氏)

医師は目の前の患者の予後の改善に努力する。10年以上の長いスパンで考えることはない。未来を見通して、将来増える疾患への対応を考えるのは製薬企業なのであろうか?ヘパリンは分子量の異なる各種分子の混合物である。吸収、代謝にばらつきがある。静脈投与と容量調節が必須である。低分子成分を抽出すると吸収、代謝が均一な「低分子ヘパリン」を作ることができる。均質な低分子なので「皮下注可能」、「容量調節不要」との利点がある。個別の患者による家庭での自己皮下注の可能性も開ける。静脈血栓の予防、治療のために日本でもフラグミンなどの適応を拡大しておく選択はあったが、選択してこなかった。

BA.4/5対応2価ワクチンの第II/III相試験、7日後データ/ファイザー

 米国・Pfizerは10月13日付のプレスリリースで、同社のオミクロン株BA.4/5対応の新型コロナウイルス2価ワクチンについて、18歳以上における臨床試験の初期データを発表した。2価ワクチン追加接種から7日後に被験者から採取した血清で、オミクロン株BA.4/5に対する中和抗体反応が、追加接種前よりも大幅に上昇したことが確認され、若年層と高齢者ともに、同社の起源株に対する1価ワクチンよりも、BA.4/5への予防効果が期待できることが示唆された。  同社が実施したBA.4/5対応2価ワクチンの第II/III相試験では、55歳以上で1価ワクチン3回+2価ワクチン(30μg)で4回目接種して7日後の血清(40例)と、同年齢層で1価ワクチン3回+1価ワクチン(30μg)で4回目接種して7日後の血清(40例)とが比較された。また、18~55歳の1価ワクチン3回+2価ワクチンで4回目接種して7日後の血清(40例)も採取され、若年層と高齢者の2価ワクチンの反応も比較された。2価ワクチン接種群の3回目と4回目の接種間隔は約11ヵ月であったが、1価ワクチン接種群の3回目と4回目の接種間隔は約6ヵ月であった。この差にもかかわらず、中和抗体価のベースラインは各群でおおむね同程度だった。被験者のうち新型コロナの既往・現病歴がある人とない人は、各群で均等に層別化された。免疫原性は、SARS-CoV-2ライブウイルス蛍光焦点還元中和アッセイ(FFRNT)を用いて評価された。

一人暮らしとうつ病リスク~メタ解析

 一人暮らしは、ライフスタイルの管理や健康状態に影響を及ぼす可能性のある最も一般的な心理社会的因子の1つである。これまで、多くの横断研究において一人暮らしがうつ病リスクを上昇させることが示唆されていたが、この関連を縦断研究にて検討した報告はほとんどなかった。中国・Ganzhou People's HospitalのDaolin Wu氏らは、一人暮らしとうつ病リスクとの関連についての縦断研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、一人暮らしの人ではそうでない人と比較し、うつ病リスクが高くなることが明らかとなった。今後これらの因果関係を確認するためにも、さらなる質の高い研究が求められる。Frontiers in Psychiatry誌2022年8月30日号の報告。

コロナ・インフル同時流行時の対応策を発表/厚労省

 厚生労働省は2022年10月13日、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが同時流行した場合の外来受診の流れを発表した。重症化リスクに応じて受診方法が2つに分かれており、発熱外来の受診は原則として重症化リスクの高い患者(小学生以下の子供、妊婦、基礎疾患を有する人、高齢者など)に限られる。  重症化リスクの高い患者は、発熱外来、かかりつけ医、地域外来・検査センターを速やかに受診する。新型コロナ、インフルエンザの検査を実施し、陽性だった場合は自宅療養や入院となる。

ペムブロリズマブのNSCLC術後補助療法、3年後もDFSの改善を持続(PEARLS/KEYNOTE-091)/Lancet Oncol

 ペムブロリズマブによる非小細胞肺がん(NSCLC)の術後補助療法を評価する第III相PEARLS/KEYNOTE-091試験の2回目の中間解析で、ペムブロリズマブの術後補助療法は3年後も良好な無病生存期間(DFS)の改善を維持していることが明らかとなった。英国・ロイヤル・マーズデン病院のMary O’Brien氏がLancet Oncology誌で発表している。

4回目接種後、高齢者の入院予防効果はどれだけ上がるか/BMJ

 中等症~重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンの有効性は、3回目接種後に経時的に低下したが、4回目接種が推奨されたほとんどのサブグループで追加ブースター接種により改善することが、米国疾病予防管理センター(CDC)のJill M. Ferdinands氏らが実施した検査陰性デザインによる症例対照研究で示された。COVID-19のBNT162b2(ファイザー製)/mRNA-1273(モデルナ製)ワクチンは、有効性が経時的に低下し追加接種で上昇することが臨床研究で示唆されているが、この傾向が年齢、免疫不全状態、ワクチンの種類や接種回数でどのように変化するかは不明であった。

1型DMの血糖管理、間歇スキャン式持続血糖測定vs.SMBG/NEJM

 糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が高い1型糖尿病患者において、高血糖/低血糖のアラームを設定できる間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM)の使用は、フィンガースティック(指先穿刺)血糖測定による血糖モニタリングと比較して、HbA1c値の有意な低下に結び付くことを、英国・Manchester Academic Health Science CentreのLalantha Leelarathna氏らが同国で実施した多施設共同無作為化非盲検比較試験「FLASH-UK試験」の結果、報告した。持続血糖モニタリングシステム(間歇スキャン式またはリアルタイム)の開発により、フィンガースティック検査なしでの血糖モニタリングが可能となったが、HbA1c値が高い1型糖尿病患者において、高血糖/低血糖のアラームを設定できるisCGMの有益性は不明であった。NEJM誌オンライン版2022年10月5日号掲載の報告。  研究グループは、16歳以上、罹患期間1年以上で、持続皮下インスリン注入療法またはインスリン頻回注射を行ってもHbA1c値が7.5~11.0%の1型糖尿病患者156例を、isCGM群(78例)とフィンガースティック検査による自己血糖モニタリング(対照)群(78例)に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。isCGMは、FreeStyle Libre 2(Abbott Diabetes Care製)を用いた。

塩野義のコロナ治療薬、発症予防検証の第III相試験を12月に開始

 塩野義製薬は、10月11日に行われたR&D Day 2022にて、同社が開発中の新型コロナウイルス(COVID-19)経口治療薬ensitrelvir(S-217622)について、症状の発生抑制効果を検証するため、SARS-CoV-2感染症患者(初発患者)の同居家族を対象とした第III相臨床試験(SCORPIO-PEP試験)を、日本と米国などで2022年12月より開始する予定であることを発表した。また、6~12歳未満の軽症・中等症を対象とした日本での第III相試験や、入院患者を対象とした米国、欧州などでの第III相試験を、ともに2022年11月から実施することなども明らかにした。

がん治療による放射線関連心疾患、弁膜症を来しやすい患者の特徴/日本腫瘍循環器学会

 9月17、18日に開催された第5回日本腫瘍循環器学会にて、塩山 渉氏(滋賀医科大学循環器内科)が「放射線治療による冠動脈疾患、弁膜症」と題し、放射線治療後に生じる特異的な弁膜症とその治療での推奨事項について講演した(本シンポジウムは日本放射線腫瘍学会との共催企画)。  がんの放射線治療による放射線関連心疾患(RIHD:radiation-induced heart disease)の頻度は医学の進歩により減少傾向にあるが、それでもなお、食道がんや肺がん、縦隔腫瘍でのRIHD発症には注意を要する。2013年にNEJM誌に掲載された論文1)によると、照射から20年以上経過してもなお、主要心血管イベントリスクが8.2%(95%信頼区間:0.4~26.6)も残っていたという衝撃的な報告がなされた。それ以来、RIHDは注目されるようになり、その1つに弁膜症が存在する。

片頭痛患者のスマホ使用が痛みの強さや治療に及ぼす影響~多施設横断比較研究

 スマートフォンユーザーは、世界中で飛躍的に増加している。スマートフォン使用中または使用後にみられる症状として、頭痛、睡眠障害、物忘れ、めまい、その他の疾患などが挙げられる。また、片頭痛は身体的衰弱を伴う疾患であり、身体障害の原因として世界で2番目に多い疾患といわれている。パキスタン・Jinnah Medical and Dental CollegeのMehwish Butt氏らは、スマートフォンの使い過ぎが片頭痛患者の障害レベル、痛みの強さ、睡眠の質、全体的なQOLにどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、本研究を実施した。その結果、スマートフォンの使い過ぎは、片頭痛患者の痛みを増強させ、薬物治療効果を減弱させる可能性が確認された。このことから著者らは、片頭痛患者は症状悪化を避けるために、スマートフォンの使用を制御することが推奨されるとしている。Brain and Behavior誌オンライン版2022年9月20日号の報告。

下肢PADへのテルミサルタン、6分間歩行距離の改善なし/JAMA

 下肢末梢動脈疾患(PAD)の患者において、テルミサルタンはプラセボと比較してフォローアップ6ヵ月時点の6分間歩行距離を改善しなかった。トレッドミル上の最大歩行距離やSF-36身体機能スコアなども改善はみられなかった。米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが、114例の患者を対象に行った2×2要因デザインによるプラセボ対象無作為化二重盲検試験の結果で、著者は、「今回示された結果は、PAD患者の6分間歩行距離改善についてテルミサルタンを支持しないものであった」と述べている。PAD患者は下肢の血流が減少し下肢骨格機能が障害されて、歩行能力が低下する。ARBのテルミサルタンは、これら一連の症状を改善する特性を有していた。JAMA誌2022年10月4日号掲載の報告。

日本の消化器外科の手術アウトカム、男女医師で差は?/BMJ

 日本の消化器外科医による手術アウトカムの補正後リスク差について、執刀医の男女差は認められない。日本バプテスト病院外科副部長・京都大学大学院医学研究科の大越香江氏らが、日本の手術症例データベースNational Clinical Database(NCD)等を基に後ろ向きコホート試験を行い、幽門側胃切除術、胃全摘術、直腸低位前方切除術の短期アウトカムを調べた結果を報告した。女性消化器外科医は男性消化器外科医と比べて、医籍登録後の年数が短く、リスクがより高い患者を引き受け、腹腔鏡手術の回数は少ないという不利な条件ながらも、手術死亡率やClavien-Dindo分類≧3合併症率について有意差はなかったという。結果を踏まえて著者は「日本では、女性医師が手術トレーニングを受けるために、より多くの機会が保証されている」と述べ、「女性外科医のためのより適切で効果的な手術トレーニングを整備すれば、手術アウトカムはさらに改善する可能性がある」とまとめている。BMJ誌2022年9月28日号掲載の報告。

MET増幅のあるオシメルチニブ耐性肺がんに対するテポチニブ+オシメルチニブ(INSIGHT 2)/ESMO2022

 オシメルチニブの1次治療耐性でMET増幅を呈する非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、オシメルチニブとMET-TKIであるテポチニブとの併用による有効性が示された。   MET増幅はオシメルチニブ耐性NSCLCの15〜30%を占める。化学療法しか選択肢がない。大きな臨床的ニーズがある。テポチニブはMET増幅によるオシメルチニブ耐性NSCLCにおいてTKIとの併用で効果を示すという報告がある。

統合失調症患者におけるMetS発症の3年リスクと予測因子~FACE-SZコホート研究

 メタボリックシンドローム(MetS)は欧米諸国において主要な健康問題であり、なかでも統合失調症患者は、ライフスタイル、精神疾患、治療因子の観点から、とくに脆弱な集団であると考えられる。しかし、予防の指針となるプロスペクティブデータは不十分である。フランス・Universite Paris-Est CreteilのO. Godin氏らは、統合失調症におけるMetSの発症率およびその予測因子を特定するため検討を行い、統合失調症患者におけるMetSの予防および研究をより優先する必要があると報告している。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌2022年9月17日号の報告。  フランス全国レベルの専門センター10施設より対象を募集し、3年間のフォローアップ調査を行った。MetSの定義は、国際糖尿病連合の基準に従った。消耗バイアスの補正には、逆確率重み付け法を用いた。