デルイソマルトース第二鉄、心不全入院/心血管死を抑制か/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2022/11/21

 

 左室駆出率(LVEF)低下と鉄欠乏を伴う幅広い心不全患者において、デルイソマルトース第二鉄の静脈内投与は通常治療と比較して、心不全による入院および心血管死のリスクを低下させる可能性があり、重篤な心臓有害事象が少ないことが、英国・Portsmouth Hospitals University NHS TrustのPaul R. Kalra氏らが実施した「IRONMAN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月5日号で報告された。

英国のイベント主導型無作為化試験

 IRONMAN試験は、英国の70施設が参加した医師主導による非盲検エンドポイント評価盲検化のイベント主導型前向き無作為化試験であり、2016年8月~2021年10月の期間に患者のスクリーニングが行われた(英国心臓財団とデンマーク・Pharmacosmosの助成を受けた)。

 対象は、年齢18歳以上、症候性の心不全で、LVEF≦45%、鉄欠乏(トランスフェリン飽和度<20%または血清フェリチン値<100μg/L)がみられ、心不全により現在入院中または過去6ヵ月以内の入院歴のある患者も含まれた。

 被験者は、デルイソマルトース第二鉄の静脈内投与または通常治療を受ける群に無作為に割り付けられた。デルイソマルトース第二鉄の用量は、体重とヘモグロビン値によって患者ごとに決められた。通常治療は鉄剤静注療法を受けないこととされ、通常治療群では担当医の裁量で経口鉄剤の服用は許容されたものの、積極的な推奨は行われなかった。

 主要エンドポイントは、心不全による再入院および心血管死とされた。

感染症入院、感染症死には差がない

 1,137例(年齢中央値73歳[四分位範囲[IQR]:63~79]、女性26%)が登録され、デルイソマルトース第二鉄群に569例、通常治療群に568例が割り付けられた。14%が心不全で入院中の患者、18%が過去6ヵ月以内に入院歴のある患者、67%は外来クリニックからの登録でNT-proBNP値またはBNP値の上昇がみられる患者であった。追跡期間中央値は2.7年(IQR:1.8~3.6)だった。

 心不全による入院および心血管死は、デルイソマルトース第二鉄群が336例(100人年当たり22.4例)、通常治療群は411例(100人年当たり27.5例)で発現した(率比[RR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.66~1.02、p=0.070)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を考慮した感度分析では、心不全による入院および心血管死はそれぞれ210例(100人年当たり22.3例)および280例(100人年当たり29.3例)で認められた(RR:0.76、95%CI:0.58~1.00、p=0.047)。

 事前に規定された安全性のエンドポイントである感染症による入院(11.7例/100人年 vs.14.2/100人年、RR:0.82、95%CI:0.62~1.08、p=0.16)および感染症による死亡(6% vs.5%、ハザード比:1.22、95%CI:0.74~2.02、p=0.43)には、両群間に有意な差は認められなかった。また、重篤な心臓有害事象(36% vs.43%、群間差:-7.00%、95%CI:-12.69~-1.32、p=0.016)は、デルイソマルトース第二鉄群で有意に少なかった。

 著者は、「本試験とAFFIRM-AHF試験の結果には一貫性が認められた。両試験とも主要エンドポイントを満たさなかったが、エビデンスの総体として鉄剤静注療法は心不全による入院を低下させることが示唆された」とし、「鉄欠乏を伴う幅広い心不全患者において、鉄剤静注療法は全般的に有益で、使用する鉄複合体の種類とは無関係の可能性がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)