サイト内検索|page:16

検索結果 合計:576件 表示位置:301 - 320

301.

ASCO2020レポート 消化器がん(上部消化管)

レポーター紹介今年のASCOは史上初めてオンラインのみでの開催となった。もちろん大規模な移動や集会は、新型コロナウイルスの感染伝播のリスクとなるためであるが、この傾向は今後も続くと思われる。すでに9月にマドリードで開催予定であったESMO2020も、virtualで行われることが決定している。移動時間や、時差を気にせず自室のPCでプレゼンテーションを見ることができる一方、ポスター会場での海外の研究者との直接のやりとりや、世界中のオンコロジストが集まる、あの会場の雰囲気を味わえなくなるのは寂しいものである。さて、上部消化管がん領域から、5演題ほど紹介したいと思う。HER2陽性胃がんに対するDESTINY-Gastric01試験は、HER2陽性胃がんに新たな標準治療を提供し、ほぼ同日に臨床系で最も権威があるといわれているNew England Journal of Medicineに掲載される1)など、最も注目すべき発表となった。Trastuzumab deruxtecan (T-DXd; DS-8201) in patients with HER2-positive advanced gastric or gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma: A randomized, phase II, multicenter, open-label study (DESTINY-Gastric01).HER2陽性胃がん、接合部腺がんに対するT-DXdのランダム化第II相試験Shitara K et al.T-DXdは、トポイソメラーゼI阻害薬(deruxtecan)を抗HER2抗体に結合(conjugate)させたADC(antibody-drug conjugate)製剤であり、HER2を発現した細胞に結合し、内部に取り込まれたderuxtecanが細胞障害を来し、効果を発揮する。Phase I試験では、トラスツズマブに不応となった患者に対して、43.2%の奏効割合を示し、有効性が期待されていた薬剤である。日本の第一三共株式会社が開発した薬剤という意味でも注目される。DESTINY-Gastric01試験では、フッ化ピリミジンと、プラチナ製剤と、トラスツズマブを含む2レジメン以上の治療歴のあるHER2陽性(IHC3+、IHC2+/ISH+)胃がんを対象に、187名が日本と韓国より登録された。125名がT-DXd群、62名が医師選択治療群(PC群)に割り付けられた。全例トラスツズマブの投与歴があり、タキサン系薬剤の投与歴は、T-DXd群とPC群で、84%と89%、ラムシルマブ投与歴は75%と66%、免疫チェックポイント阻害薬の投与歴は、それぞれ35%と27%であった。主要評価項目は奏効割合で、T-DXd群で42.9%、PC群で12.5%と有意にT-DXd群で良好であった。無増悪生存期間中央値も、5.6ヵ月と3.5ヵ月(HR=0.47)、生存期間中央値も12.5ヵ月と8.4ヵ月(HR=0.59、p=0.0097)と有意にT-DXd群が良好であった。一方T-DXd群では、主に血液毒性が多く認められ、Grade3以上の好中球減少を51%認めたが、発熱性好中球減少は6名(4.8%)であり、治療関連死は両群に1名ずつ認められ、肺炎であった。注目すべき有害事象として、肺臓炎をT-DXd群にて9.6%に認めたが、多くはGrade2以下であった。T-DXdはすでに2020年4月に乳がんに対して適応承認を取得しているが、治療歴のあるHER2陽性胃がん患者に対しても、適応承認申請中であり、近いうちに実臨床にて使用可能になると思われる。HER2陽性の肺がんや、大腸がんに対しても有効性が示されており、アストラゼネカと第一三共が提携を結び、日本以外の地域においても、他がんや、HER2陽性胃がんへの1次治療への開発などが期待されている。FOLFIRI plus ramucirumab versus paclitaxel plus ramucirumab as second-line therapy for patients with advanced or metastatic gastroesophageal adenocarcinoma with or without prior docetaxel: Results from the phase II RAMIRIS Study of the AIO.胃がん2次治療における、FOLFIRI+ラムシルマブと、パクリタキセル+ラムシルマブのランダム化比較第II相試験Lorenzen S et al.RAINBOW試験の結果、胃がんの2次治療は、パクリタキセルとラムシルマブの併用療法が標準治療である。1次治療不応後だけでなく、術後補助化学療法中や終了後6ヵ月以内の再発の場合もフッ化ピリミジン不応と考えて、2次治療であるパクリタキセルとラムシルマブが投与される。しかし近年、術後のドセタキセル+S-1療法や、欧米では、術前後のFLOT療法など、周術期の化学療法でタキサン系薬剤が用いられる傾向にあり、術後早期再発にてタキサン系薬剤以外の薬剤とラムシルマブの併用療法の評価を行う必要が生じてきた。もともと欧州で胃がんの2次治療のひとつであるFOLFIRIにラムシルマブを併用した治療と、標準治療であるパクリタキセル+ラムシルマブを比較するRAMIRIS試験が計画された。フッ化ピリミジンとプラチナを含む化学療法から6ヵ月以内に進行が認められた胃がん患者を対象とし、ドセタキセルの使用については許容され、調整因子とされた。PTX+RAM群に38名、FOLFIRI+RAM群に72名が割り付けられ、約65%の患者がタキサン使用歴ありだった。奏効割合は、FOLFIRI+RAM群は22%、PTX+RAM群は11%、タキサン使用歴あり患者に絞ると、25%と8%と、FOLFIRI+RAM群で良好な傾向であった。生存期間中央値は、それぞれの群で、6.8ヵ月と7.6ヵ月、無増悪生存期間中央値は3.9ヵ月と3.6ヵ月、タキサン使用歴ありだと、7.5ヵ月と6.6ヵ月、4.6ヵ月と2.1ヵ月であった。現在第III相試験が進行中であり、とくにタキサン使用歴のある患者についてはFOLFIRI+RAMが標準治療になる可能性がある。日本ではCPT-11+RAMの結果も報告されており、FOLFIRIである必要があるのかなどいくつかの疑問もあり、今後の結果が注目される。Perioperative trastuzumab and pertuzumab in combination with FLOT versus FLOT alone for HER2-positive resectable esophagogastric adenocarcinoma: Final results of the PETRARCA multicenter randomized phase II trial of the AIO.切除可能HER2陽性胃がんに対して、周術期FLOT単独とFLOTとトラスツズマブとペルツズマブの併用療法を比較するランダム化第II相比較試験~PETRARCA試験最終解析Hofheinz RD et al.欧米では、切除可能胃がんの標準治療は術前術後のFLOT療法であるが、HER2陽性胃がんに対する周術期の分子標的治療薬の上乗せ効果については明らかではない。また、トラスツズマブとペルツズマブの併用については、乳がんでは上乗せ効果が示され、標準治療となっているが、胃がんの初回治療での化学療法とトラスツズマブに、ペルツズマブの上乗せ効果をみたJACOB試験では、ペルツズマブの上乗せは良好な傾向を示したものの、有意差を示さず、ネガティブな結果であった。PETRARCA試験ではFLOT単独群とFLOT+トラスツズマブ+ペルツズマブ(FLOT+TP)群にランダムに割り付けられ、主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)割合とされた。FLOT群に41名、FLOT+TP群に40名が割り付けられ、pCR割合は12%、35%とFLOT+TP群で有意に良好であった(p=0.02)。無病生存期間中央値はFLOT群で26ヵ月、FLOT+TP群で未達であった(HR=0.576、p=0.14)。生存期間中央値は両群で未達、HRは0.558、p=0.24と、観察期間は不十分ながら、FLOT+TP群で良好な傾向であった。術前術後化学療法での有害事象はFLOT+TP群でGrade3以上の下痢(5% vs.41%)、疲労(15% vs.23%)が多かったが、術後合併症は両群で差はなく、R0切除割合はFLOT群で90%、FLOT+TP群で93%、術後60日以内死亡も両群で1名ずつであった。本試験は、少ない症例数ながら、周術期でのHER2陽性胃がんに対する分子標的治療薬が有用な可能性を示した。ペルツズマブを併用することで、トラスツズマブの耐性機序のひとつであるHER3からのシグナルを抑え、短期的な有効性が上昇することを示した。JACOB試験で有意な差が出なかったのは、後治療などで効果が薄まったためと考えられるが、短期的な腫瘍縮小効果が差を生み出せる周術期でどうなのか、今後の検討が期待されるSintilimab in patients with advanced esophageal squamous cell carcinoma refractory to previous chemotherapy: A randomized, open-label phase II trial (ORIENT-2).治療歴のある食道扁平上皮がんに対するsintilimabのランダム化第II相試験ORIENT-2試験Xu J et al.近年食道扁平上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されており、ATTRACTION-3試験では、2次治療において、バイオマーカーにかかわらずタキサン系薬剤と比較してニボルマブが有意に生存期間を延長し、日本・韓国・台湾において、ニボルマブが食道扁平上皮がん既治療例に対して適応承認を得ている。KEYNOTE-181試験では、ペムブロリズマブが、CPS(combined positive score)10以上の食道がんにおいて、化学療法群と比較して生存期間延長を示し、米国では、CPS10以上の食道扁平上皮がんに対して適応承認が得られている。また、中国で行われた第III相試験であるESCORT試験では、抗PD-1抗体であるcamrelizumabが既治療例の食道扁平上皮がんに対して、化学療法群と比較して生存期間の延長を示している。ORIENT-2試験は、既治療例食道扁平上皮がんに対する、抗PD-1抗体であるsintilimab群と、医師選択化学療法群を比較した、ランダム化第II相試験であり、180名が登録され、それぞれの群に95名割り付けられた。医師選択化学療法では72名がイリノテカンで、15名がパクリタキセルを投与された。中国では、初回化学療法において、タキサン系とプラチナ系薬剤が併用されることが多く、そのため2次治療としてイリノテカンが用いられることが多い。主要評価項目である生存期間は、中央値がsintilimab群で7.2ヵ月、化学療法群で6.2ヵ月(HR=0.70、p=0.03)と有意にsintilimab群にて延長を認めた。奏効割合も12.6%と6.3%と、sintilimab群で良好な結果であったが、無増悪生存期間中央値では、sintilimab群で1.6ヵ月、化学療法群で2.9ヵ月という結果であった。曲線はクロスしており、後半でsintilimab群が持ち直し、HRでは1.0と両群で差を認めなかった。PD-L1の発現や、そのほかのサブグループの有効性の発表はなかったが、NLR(neutrophil-to-lymphocyte ratio)3未満の集団は、3以上の集団に比べて、sintilimabの有効性が上昇することが示された。安全性に新たな知見はなかった。sintilimabも過去の報告と同様の効果を食道扁平上皮がんに対して示したが、このラインではすでに複数のチェックポイント阻害薬が承認されており、差別化をどのように行うかが今後の課題と思われる。すでに初回化学療法での併用効果や、化学放射線療法との併用、周術期での効果など、食道扁平上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬は、新たな局面を迎えている。Final analysis of single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy including salvage treatment in patients with clinical stage II/III esophageal carcinoma: JCOG0909.病期II/III食道がんに対する、根治的化学放射線療法と救済治療を含む単アームの検証的試験~JCOG0909最終解析Ito Y et al.切除可能食道がんに対する治療は、術前治療に引き続く食道切除術であり、日本では術前化学療法、欧米では術前化学放射線療法が主に行われている。食道扁平上皮がんは放射線感受性が高く、化学放射線療法のみでがんが消失、完全反応(CR)となるケースも少なくない。CRとなる患者は、比較的大きな侵襲となる食道切除術を行わずに根治が得られる可能性を考え、欧米でも、化学放射線療法を行い、CRが得られた患者に対して、切除を行う群と、慎重観察を行い、がんの再発が認められたら切除に行く群のランダム化比較試験が行われたりしている。ただ、化学放射線療法後にどのような基準で手術に行くのか、タイミングはいつがよいのか、その時のリスクがどの程度なのか、まだよくわかっていない。JCOG0909は、まず放射線線量50.4Gyにて、根治的化学放射線療法を行い、CRあるいは、腫瘍の縮小が良好な場合は治療継続と経過観察、明らかな遺残あるいは再発を来した場合は救済手術あるいは救済内視鏡を行うことをプロトコール治療に組み込んだ単アームの試験である。線量を60Gyとしていた時代に行われたJCOG9906では、救済手術での治療関連死が10%以上認められ、放射線後に行う救済手術のむつかしさが浮き彫りになった。JCOG0909ではその経験を踏まえ、線量を抑える代わりに、5-FUの投与量を増やし、また頻回に評価することで、腫瘍が増大する前に救済手術を試みるような設定がなされた。94名の食道扁平上皮がん患者が登録され、病期IIA/IIB/IIIの内訳は、22/38/34と比較的II期が多かった。完全奏効割合は58.5%と既報と比較して同等かやや低い傾向であったが、これは早めに救済手術に持ち込む戦略であることや、5-FUの増量により食道炎が増加し、CRの判定が遅れたことなどが影響していると思われる。5年の経過フォロー後の結果として、5年生存割合は64.5%、5年無増悪生存割合は48.3%と、既報の化学放射線療法のJCOG9906試験の36.8%と25.6%と比して大幅に改善された。術前化学療法と手術療法の組み合わせと比較しても、JCOG9907試験のB群の55%、44%と、引けを取らない結果であった。27名の患者で救済手術が行われ、R0切除となった21名では、3年生存48.3%と長期生存が得られている。食道気管肺の瘻孔形成による周術期死亡が認められたが、救済手術はおおむね安全に実施されていた。5年食道温存生存割合は54.9%と高い値を示し、根治的化学放射線療法により、食道温存をしたまま長期生存が期待できることを示した。また、仮に遺残や再発した場合でも切除可能な段階であれば、救済手術を行うことで、約半数の患者が長期生存を達成できることが示された。現在免疫チェックポイント阻害薬と根治的化学放射線療法の併用療法の検討が開始されており、より高いCR割合が得られるようになれば、まず化学放射線療法を行い、CRになれば、食道温存したまま経過観察、遺残すれば、救済手術を行う、という治療戦略が一般的になる可能性も秘めている。前向き試験の中で、救済手術の安全性と有効性をしっかりと示した例は世界的にもなく、食道がんの臨床に影響を与える結果と思われた。一方で、比較対象となる術前治療と手術のエビデンスであるJCOG9907などと比較して、II期が占める割合が多いため、治療成績については考慮する必要がある、食道がんの専門病院で、経験のある腫瘍内科医と、外科医が治療した結果のため、どこまで一般化できるのか、などの指摘もあるが、今後につながる内容であった。文献1.Shitara K, et al. N Engl J Med. 2020 May 29. [Epub ahead of print]

302.

双極性障害患者における抗精神病薬誘発性体重増加とアドヒアランス

 双極スペクトラム障害の若年患者における第2世代抗精神病薬(SGA)の服薬アドヒアランスへの障壁に関して、医師、患者、患者家族の視点、およびSGA関連の体重増加の治療に対する考え方について、米国・シンシナティ大学のChristina C. Klein氏らが調査を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2020年5月19日号の報告。 18歳までに双極性障害と診断された225例およびその両親(128人)、これらの患者にSGAを処方した経験のある医師(54人)を対象に、SGA関連副作用、アドヒアランスへの障壁、体重マネジメント戦略の受け入れに関する調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・SGA関連副作用として体重増加を報告した割合は、患者45.6%、その両親38.9%、医師70.4%であった。・体重増加は、患者にとってアドヒアランスへの障壁の第1位(35.9%)であり、その両親にとって第4位(41.8%)であった。・患者(61.5%)は、その両親(20.1%)や医師(1.9%)よりも、SGA開始時に体重管理のための他剤併用を希望していた。・逆に、両親(54.9%)や医師(84.9%)は、10ポンド以上の体重増加を戻すことを目的とした次の薬剤を希望していたが、患者(61.1%)はあらゆる体重増加を元に戻すための他剤併用を希望していた。 著者らは「双極性障害の若年患者において、SGA関連の体重増加は、服薬アドヒアランスを低下させる可能性がある。多くの若年患者は、SGA治療開始時に体重増加に対する薬理学的介入を希望しているが、両親や医師はためらっていると考えられる」としている。

304.

第9回 今や54人に1人、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではない

スウェーデンの多数の双子を調べた新たな試験1,2)の結果、自閉症のほとんどは生来の遺伝情報に起因しているようであり、自閉症への生来の遺伝情報と環境の関与のほどは数十年変わっておらず、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではないと示唆されました。今回の試験では、1982~2008年に生まれた双子22,678組と、1992~2008年に生まれた双子15,280組が調べられました。その結果、それらの2群のうち前者では約24%、後者では約30%を占める一卵性双生児のどちらもが自閉症である割合は一卵性双生児ではない双子に比べて一貫して高く、およそ93%の自閉症と61~73%の自閉症特徴は生来の遺伝情報に起因すると示唆されました。今回の結果は5ヵ国の小児200万人超を解析した最近の試験報告3,4)とほぼ一致しています。昨年9月にJAMA Psychiatry誌に掲載されたその試験では、自閉症の80%ほどが遺伝情報に起因すると推定されました。自閉症の生じやすさへの親譲りの遺伝情報の寄与は、出産時の親の年齢と子の自閉症の関連の研究などで示唆されています。東京大学のWalid Yassin氏らが昨年報告した自閉症成人39人とそうでない男性37人の死後脳解析では、生まれた時の父親の年齢がより高齢な男性には、自閉症と関連する脳白質異常がより認められました5,6)。また、今年初めにCell Stem Cell誌に掲載された研究では自閉症の特徴の一つである脳肥大に寄与するらしい神経前駆細胞(NPC)過剰増殖とDNA損傷の関連が示されています7,8)。その翌月2月のNature Neuroscience誌掲載の報告では、神経の軸索を覆って絶縁し、脳内の高速の信号伝達を可能にしている脂質の鞘・ミエリンの形成に携わる細胞・オリゴデンドロサイト(OL)成熟不良と自閉症の関連が示唆されました9,10)。自閉症はここ数年で増加しています。この3月に発表された米国疾病管理予防センター(CDC)の推定では、米国の2016年の8歳児の54人に1人が自閉症であり、2014年のその割合(59人に1人)に比べて10%ほど上昇しています11)。同時に発表された4歳児の統計結果によるとより幼くして自閉症が見つかることが多くなっていることが伺われ、その傾向が続けば8歳児の自閉症有病率はおそらく今後更に上昇します。小児の自閉症が増えていることは自閉症の成人により目を向ける必要があることも示唆しています。米国でおそらく毎年75,000人ほど増えている自閉症の成人の社会参画に取り組まなければならないと、ジョージア州アトランタ市のEmory Autism Centerの長Catherine Rice氏は言っています。Rice氏は屈指の自閉症ニュースサイトSpectrumに続けてこう言っています。「ほとんどの地域には自閉症の人の数々の苦労にあまねく対処する取り組みがない。社会の一翼を担う自閉症成人が健やかに過ごせるようにする手立てが必要だ」また、上述したような研究が進めば、自閉症の負担そのものを解消する手立てもやがて見つかるでしょう。たとえばOL成熟不良と自閉症の関連が示されたことを受け、次はミエリン形成異常を示す人工脳を使ってミエリン形成を増やす化合物探しが期待できます9)。小児の自閉症が早期診断され、治療で症状が治まるようになることを同研究の著者らは望んでいます。参考1)Environmental Factors Don’t Explain Rise in Autism Prevalence / TheScientist2)Taylor MJ, et al. JAMA Psychiatry. 2020 May 6. [Epub ahead of print]3)Bai D, et al. JAMA Psychiatry. JAMA Psychiatry. 2019 Jul 17;76:1035-1043.4)Majority of autism risk resides in genes, multinational study suggests / Spectrum5)Paternal Age Linked to Brain Abnormalities Associated with Autism / TheScientist6)Yassin W, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2019 Oct;73(10):649-659.7)DNA Damage Linked to Brain Overgrowth in Autism / TheScientist8)Wang M, et al. Cell Stem Cell. 2020 Feb 6;26:221-233.e6.9)Phan BN, et al. Nat Neurosci. 2020 Mar;23:375-385.10)Inadequate Myelination of Neurons Tied to Autism: Study / TheScientist11)New U.S. data show similar autism prevalence among racial groups / Spectrum

305.

小児・青年に対する抗精神病薬使用と急性ジストニア

 小児および青年における抗精神病薬治療による急性ジストニアの発生率とそのリスク因子について、トルコ・Ankara Yildirim Beyazit UniversityのSelma Tural Hesapcioglu氏らが検討を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2020年4月7日号の報告。 2015~17年に大学病院の小児および青年期精神科外来を受診し、抗精神病薬による治療を受け、2回以上のフォローアップを受けた患者を対象に、レトロスペクティブチャートレビューに基づくコホート研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬治療を受けた4~19歳の患者は、441例であった。・抗精神病薬治療の理由は、以下のとおりであった。 ●行動障害(21.5%) ●注意欠如多動症(13.2%) ●知的障害を伴う過敏性と攻撃性(12.9%)・急性ジストニアは、30例(6.8%)で発生し、フォローアップ99.5±223.3日(中央値:34日)後に認められた。・急性ジストニアは、1つの抗精神病薬で治療された患者391例中11例(2.8%)、2つの抗精神病薬で治療された患者50例中19例(38.0%)で発生した(p<0.001)。・1つの抗精神病薬で治療された患者における急性ジストニア発症までの期間は、抗精神病薬治療開始後4.0±4.0日、抗精神病薬増量後2.7±2.4日であった。・2つの抗精神病薬で治療された患者における急性ジストニア発症までの期間は、2つ目の抗精神病薬を追加後3.0±2.3日、2つ目の抗精神病薬増量後1.6±0.8日であった。・1つの抗精神病薬で治療された患者における急性ジストニア発生率は、第1世代抗精神病薬(FGA)で10.5%、第2世代抗精神病薬(SGA)で2.2%であった(p=0.037)。・急性ジストニアの発生により、抗精神病薬を変更した患者は急性ジストニアの症例30例中12例(40.0%)であった。・急性ジストニアに関連する独立したリスク因子は、以下のとおりであった。 ●抗精神病薬の多剤併用(p<0.0001) ●入院治療(p=0.013) ●FGA使用(p=0.015) ●統合失調症の診断(p=0.039) ●双極性障害の診断(p<0.0001) 著者らは「小児および青年における急性ジストニアのリスクは、SGAや低力価FGAでは低く、中~高力価FGAでは高かった。急性ジストニアの発生には、積極的な抗精神病薬による治療が関連している可能性がある」としている。

306.

降圧薬の処方内容はCOVID-19予後に影響するか?(解説:冨山博史氏)-1231

はじめに COVID-19発生から半年近くが過ぎようとしている。しかし、まだまだ収束そして終息にも時間を要する。COVID-19では肺炎に加え、脳心血管疾患、血栓症など生命に影響する重大な合併症を発生する。そうした合併症は、高齢者や脳心血管疾患・悪性疾患など基礎疾患を有する症例で多い。ゆえに、そうした症例における合併症発生予防に細心の注意を払う必要がある。中国では高血圧症例でCOVID-19症例の予後が不良であることが報告された1)。SARS-CoV-2ウイルスの細胞内侵入にはangiotensin converting enzyme 2(ACE2)が重要な役割を果たす。このため、renin-angiotensin系に影響する降圧薬ACE inhibitor(ACEi)やangiotensin II receptor blocker(ARB)がACE2発現に影響し、ウイルス侵入を増悪させることが懸念されていた。しかし、懸念はあくまで仮説であり、3月13日発表の欧州高血圧学会Position Statement of the ESC Council on Hypertension on ACE-Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockersでは、同危険性の十分な根拠がないため両降圧薬のむやみな中止・変更は控えるように推奨された。今回の知見 2019年12月から2020年3月の期間で、欧州、北米、アジアで計169の病院にCOVID-19で入院した8,910例を対象とした多施設共同登録研究が実施された2)。#COVID-19の診断:咽頭ぬぐい液のPCR検査で感染を診断#解析方法:入院後転帰の院内死亡例と生存例で降圧薬処方内容を含む臨床背景を比較#結果とコメント:生存例(8,395例、平均年齢49歳)、院内死亡例(515例、平均年齢56歳)であり、院内死亡例は高齢で男性が有意に多かった。また、これまでの報告と同様、院内死亡例で冠動脈疾患、心不全、不整脈(心疾患の院内死亡のODDS比は約2倍)、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患(院内死亡のODDS比は約3倍)、現在喫煙の合併比率が有意に高かった(脳卒中に関しては評価されていない)。本検討では、高血圧合併頻度は生存例(2,216/8,395例:26.4%)と院内死亡例(130/515例:25.2%)で有意な差を示さなかった。これは上述の中国の報告1)と異なる結果である。そしてACEiおよびARBの処方率は、生存例{ACEi(754/8,395例:9%)、ARB(518/8,395例:6.2%)}、院内死亡例{ACEi(16/515例:3.1%)、ARB(38/515例:7.4%)}であり、ARB処方頻度は両群に差はなく、ACEiはむしろ生存例での処方頻度が高かった。 本試験は、短期間の登録研究であり、すでにCOVID-19の症例である。ゆえに、COVID-19がすでに診断されている症例では、感染に関連する病態増悪を懸念してACEi・ARBの他の降圧薬への変更は必要ないことが支持される。同様の結果はイタリアからも報告されている3)。今回の研究では、ACEiおよびARBのCOVID-19の易感染性については検証されていない。しかし、同イタリアの研究では両降圧薬が易感染性にも影響しない可能性を報告している3)。 中国と欧米では蔓延するSARS-CoV-2ウイルスの亜型が異なる。この差異が高血圧合併の感染性への影響に関連した可能性は否定できない。ゆえに、今後、武漢株での感染例においても高血圧合併の有無および降圧薬の予後への影響について検証する必要がある。追記:ACE2について SARS-CoV-2ウイルスは細胞表面の受容体ACE2を介して細胞内に取り込まれる。ACE2は、膜内存在性蛋白で気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等の多くの組織に発現している。ACE2はACE(angiotensin Iからangiotensin IIへ変換する酵素)と構造が類似しているが、別の作用を有し、angiotensin IIからangiotensin-(1-7)への変換を行う。このangiotensin 1-7は降圧や心血管保護作用を有すると考えられている。

307.

第8回 話して生じる飛沫は空中を8分間漂い、新たなCOVID-19感染の火種となりうる

はしか(麻疹)、インフルエンザウィルス、結核菌等の呼吸器ウイルスは咳やくしゃみで放たれた飛沫を介して感染を広げます。飛沫のもとである口腔液に大量に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が存在することが発症患者1)のみならず無症状の患者2)でも確認されており、おそらくSARS-CoV-2も飛沫に収まって浮遊できるでしょう。普通に話しても飛沫が生じることは、咳やくしゃみによる飛沫ほどは広く知られておらず、話したときに生じてしばらく浮遊しうる直径30μm未満の飛沫の意義はこれまで蚊帳の外に置かれていました。しかし米国NIH支部の国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDK)の研究者らの試験結果によると、その認識は改める必要があるようです。先週水曜日にPNAS誌に掲載されたその報告によると、話したときに生じる飛沫は空中に8分間は浮遊し、新たなSARS-CoV-2感染の火種になるおそれがあるといいます3,4)。研究者は被験者に“stay healthy(健康でいよう)”というフレーズを25秒間繰り返し言ってもらい、そのときに発生する飛沫の浮遊(30cm落下)時間半減期を測定しました。その時間が8分間であり、話して生じた飛沫の直径はおよそ4 μm、口を出る前の乾燥前の粒子の直径は12μm以上と推定されました。この結果によると、1分間大声で話せば、ウイルスを含有する少なくとも1,000粒の飛沫が8分を超えて空中に留まり、その量はそれらを吸い込んだ誰かにCOVID-19を誘発しうるレベルだといいます。今回の研究を実施した研究チームは、話しているときの飛沫を撮影した結果を先月4月中旬にNEJM誌に報告しており5)、その試験では、布マスクをして話せば前方への飛沫の発散を抑えられることが示されています。アメリカ疾病管理センター(CDC)も推奨するマスク着用が、SARS-CoV-2の広がりを遅らせうる大事な役割を担うことを、前回のその報告と今回のPNAS報告は示していると、NIDDK広報担当者は米国の新聞USA TODAY紙に話しています6)。マスクの効果に関するこれまでの試験を集めて検討したPNAS誌投稿査読前報告7,8)の著者の見解はさらに揺るぎなく、公共の場でのマスク着用は、皆が守ればSARS-CoV-2の広まりを確実に防ぐ(Public mask wearing is most effective at stopping spread of the virus when compliance is high)と結論しています。参考1)Chan JF,et al. J Clin Microbiol. 2020 Apr 23;58.2)Wolfel R,et al. Nature. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]3)Droplets from Speech Can Float in Air for Eight Minutes: Study / TheScientist4)Stadnytskyi V,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 13. [Epub ahead of print]5)Anfinrud P,et al. N Engl J Med. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]6)Simply talking in confined spaces may be enough to spread the coronavirus, researchers say / USAToday7)If 80% of Americans Wore Masks, COVID-19 Infections Would Plummet, New Study Says / VanityFair8)Face Masks Against COVID-19: An Evidence Review. Preprints. Version 2 : Received: 12 May 2020

308.

第7回 COVID-19に立ち向かう医療従事者をBCGワクチンで守れるか? 国際試験が進行中

新生児の結核予防にほぼ100年も前から使われてきたワクチンがほかの感染症も防ぐという裏付けに触発され、フランスの微生物学者の名にちなんで名付けられたそのワクチン・カルメットゲラン桿菌(BCG)で、目下の新型コロナウイルス感染(COVID-19)流行を防ぐことができるのか、研究者が調べ始めています。BCGワクチンの成分は結核を引き起こす細菌の類縁菌・Mycobacterium bovisを弱毒化したものです。これまでに40億人以上に接種されており、世界で最も広く投与されているワクチンの一つとなっています1)。BCGは結核に対する特異的な効果のみならず、幅広く、多くの感染症に対し非特異的に防御する効果を免疫系に備わせる働きがあります2)。たとえば、新生児の死亡率が高いギニアビサウでの3試験のメタ解析の結果、低体重出生児へのBCG-Denmark(BCGワクチンの1つ)接種は生後28日間の死亡率の38%低下と関連し、その効果は主に肺炎や敗血症による死亡の減少によってもたらされました3)。12~17歳の若者が参加した南アフリカでの無作為化試験ではBCG-Denmark接種で上気道感染症発現率がプラセボ群に比べて73%(2.1% vs 7.9%)低下しました2,4)。オランダのMihai Netea氏等による試験では、ウイルスへの効果も示唆されています。健康な成人にBCG-Denmarkを接種してしばらくしてからあえて弱毒化黄熱病ウイルスを投与したところ、血中ウイルス量がプラセボ投与に比べて有意に減少しました5)。そのような試験や研究成果を背景にして、COVID-19への効果の緒を掴むべく、BCG接種義務国とそうでない国を比較した結果が報告されるようになっています。たとえば査読前報告掲載サイトmedRxivに今月初めに掲載された報告によると、BCG接種が義務であることは流行最初の30日間のCOVID-19症例数や死亡数の増加がより緩やかであることと関連しました6)。3月末にmedRxivに掲載された別の報告ではイタリア、米国、オランダ等のBCGワクチンが広まっていない国はワクチンが広く接種されている国に比べて流行の被害がより大きいことが示されています7)。ただしそれらの報告は因果関係を示すものではありません。また、個々のヒト単位の比較ではなく国と国の比較には結果を偏らせる多くの要因が存在し、それらをすべて差し引いて解析することは不可能です。BCGワクチンをかれこれ20年調べているデンマークの疫学者Christine Stabell Benn氏は、COVID-19に関するそれらの最近のBCGワクチンの検討データは裏付けの重みとしては最底辺の類のものだが、長年に渡って蓄積された裏付けによると、BCGワクチンのCOVID-19予防効果にかけてみるのは悪くないと科学ニュースThe Scientistに話しています。Benn氏はすでに動きだしており、COVID-19のリスクが最も高い人々、すなわちその対処にあたる医療従事者1,500人を募る試験を始めています。BCGで欠勤が減るかどうかやCOVID-19発現が減るかどうか等が調べられます。デンマークでは1980年代までBCGワクチンが使われており、学校でかつてBCGワクチン接種経験がある医療従事者も試験には混じるでしょう。Benn氏は過去にBCG接種経験がある人への更なる接種は接種経験がない人より有効だろうと想定しています。Benn氏と協力関係にある上述のNetea氏はオランダで同様の試験を開始しています。また、オーストラリア出身のメディア王マードック氏の母親Dame Elisabeth Murdoch(エリザベス マードック)氏の支援を受けて30年前の1986年に設立された同国の小児健康研究所Murdock Children’s Research Institute(MCRI)は、Netea氏も協力する国際試験BRACEを3月27日に始めています。医療従事者を対象としたそれらの試験結果は待ち遠しいですが、無作為化試験以外で先走ってCOVID-19予防にBCGを接種してはいけないと世界保健機関(WHO)は釘を刺しています。あまり当てにならない最近の査読前報告を高品質な裏付けと勘違いしてBCGに群がると、すでに不足気味となっているBCGワクチンがそれを必要としている乳幼児に行き渡らなくなる恐れがあります。実際、アフリカの一部では小児向けのワクチンが医療従事者に横流しされていると上述のBRACE試験を率いるNigel Curtis氏は聞いており、「軽はずみにワクチンを使い始めると幼い子にツケが回る。いまあるワクチンは赤ちゃんの結核を予防するものだ」とThe Scientistに話しています。試験外での不適切な使用を注意しつつCurtis氏が進めているBRACE試験を支援する動きは広がっており、最近になってその被験者数はゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)からの1,000万ドル支援を受けて4,000人から1万人へと大幅に増えています。5月5日の発表によると、試験にはすでに医療従事者2,500人が組み入れられています8)。感染症に広く効きうるBCGワクチン等が病因狙い撃ちワクチン完成までの橋渡しの役割を担うことは、目下のCOVID-19流行や将来の感染流行への対処に大いに貢献するだろうとCurtis氏等はLancet誌に記しています2)。参考1)An Old TB Vaccine Finds New Life in Coronavirus Trials / TheScientist2)Curtis N,et al. Lancet. 2020 Apr 30.3)Biering-Sørensen S,et al. Clin Infect Dis. 2017 Oct 1;65:1183-1190. 4)Nemes E,et al. N Engl J Med. 2018 Jul 12;379:138-149.5)Arts RJW,et al. Cell Host Microbe. 2018 Jan 10;23:89-100.6)Mandated Bacillus Calmette-Guerin (BCG) vaccination predicts flattened curves for the spread of COVID-19. medRxiv. May 04, 20207)Correlation between universal BCG vaccination policy and reduced morbidity and mortality for COVID-19: an epidemiological study. medRxiv. March 28, 20208)10M grant enables MCRI’s BCG vaccine trial to expand internationally, enrol 10,000 healthcare workers / Murdoch Children’s Research Institute’s (MCRI)

309.

第6回 ARDS合併COVID-19患者、間葉系幹細胞治療で8割が生存

JCRファーマ社の急性移植片対宿主病(急性GvHD)治療薬・テムセルHS注の技術を提供したオーストラリア拠点のMesoblast社が開発している間葉系幹細胞(MSC)治療薬remestemcel-Lが、米国・ニューヨーク市の緊急事態を斟酌して新型コロナウイルス感染(COVID-19)患者に使用され、有望なことに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)合併患者12例中10例(83%)が生存し続けました1)。肺に水が溜まって重度の酸素欠乏をもたらすARDSに陥ると人工呼吸器が必要ですが、12例中9例(75%)はおよそ10日(中央値)ほどで人工呼吸器を無事外すことができました。4月初め、米国FDAはCOVID-19によるARDS患者へのremestemcel-Lの試験実施や試験に参加できない患者に同剤を広く使うことを許可しています2)。その認可を受け、Mesoblast社はニューヨーク市での治療成績を参考にして準備を進め、中等~重度ARDSを患う人工呼吸器使用COVID-19患者を対象にしたプラセボ対照第II/III相試験を早速始めています3)。免疫調節作用があると考えられている多能性細胞・間葉系幹細胞(MSC)のCOVID-19患者への投与は中国でも試みられており、3月中旬にAging and Disease誌に掲載されたプラセボ対照試験では、重度COVID-19患者7例全員がMSC投与で回復したと報告されています4,5)。一方、プラセボ群の3例のうち1例は安定状態を維持したものの1例は死亡し、1例は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に陥りました。ただし、悪化したそれら2例はMSC投与群の最高齢の患者よりおよそ10歳歳上でした。年齢とCOVID-19患者の死亡率はおそらく密接に関連することが知られており、年齢差が結果に影響したとするアイルランド大学Daniel O’Toole氏の指摘を、科学ニュースThe Scientistは紹介しています6)。65歳の重症COVID-19女性患者1例に臍帯MSCを投与した症例報告もあります7)。査読前論文登録サイトChinaXivに2月末に掲載されたその報告によると、女性の状態は改善しましたが、女性の臨床検査値の多くはMSC開始前に改善していて説得力に欠ける、とアラバマ大学のサイトカインストーム(cytokine storm)研究家のRandy Cron氏は言っています。ニューヨーク市でMesoblast社開発品が使われた患者数は以前のそれらの報告に比べて多く、有望そうですが、治療効果の確立には何はともあれ無作為化試験が必要です。Mesoblast社もそれは十分承知のようで、先月末に早速始まったプラセボ対照無作為化試験でremestemcel-LがARDS合併COVID-19患者の生存を延長するかどうかの白黒をきっちりつける(rigorously confirm)つもりです1)。試験は米国立衛生研究所(NIH)が助成するCardiothoracic Surgical Trials Network(CTSN)と協力して進められ、ARDS合併のCOVID-19患者最大300例が参加します。ARDSの引き金となるサイトカインストームを鎮めることを目指すMSCのCOVID-19試験は20以上もClinicalTrials.govに登録されており、remestemcel-LをはじめとするMSC治療がCOVID-19に有効かどうかはそう時を待たず判明しそうです。また、本連載第1回で紹介した、ARDS合併のCOVID-19患者へのt-PA投与試験は米国で予定通り患者組み入れがスタートしています8)。参考1)83% Survival in COVID-19 Patients with Moderate/Severe Acute Respiratory Distress Syndrome Treated in New York with Mesoblast’s Cell Therapy Remestemcel-L / GlobeNewswire2)FDA CLEARS INVESTIGATIONAL NEW DRUG APPLICATION FOR MESOBLAST TO USE REMESTEMCEL-L IN PATIENTS WITH ACUTE RESPIRATORY DISTRESS SYNDROME CAUSED BY COVID-193)Phase 2/3 Randomized Controlled Trial of Remestemcel-L in 300 Patients With COVID-19 Acute Respiratory Distress Syndrome Begins Enrollment4)Leng Z ,et al. Aging Dis. 2020 Mar 9;11:216-228.5)Can cell therapies halt cytokine storm in severe COVID-19 patients? / Science6)Are Mesenchymal Stem Cells a Promising Treatment for COVID-19? / TheScientist7)Clinical remission of a critically ill COVID-19 patient treated by human umbilical cord. ChinaXiv. 2020-02-278)Old Drug, New Treatment? /Harvard Medical School

310.

第6回 COVID-19パンデミックと“テレリハ”?【今さら聞けない心リハ】

第6回 COVID-19パンデミックと“テレリハ”?今回のポイント新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐため、全国の病院では外来の心リハを休止せざるを得ない状況となっている心リハは運動療法だけではなく疾患管理プログラムとしての役割を担っているため、外来の心リハ休止により心疾患の再発悪化の増加が懸念される外来の心リハ休止の悪影響を最小限に抑えるためには、どのような対応が求められるか、外来再開時には何に注意すべきか現在、新型コロナウイルス感染拡大は全世界に及んでおり、その収束の見通しは立っていません。日本では都市部を中心として感染者が急増しており、政府は4月7日に東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発出しました。4月17日には全国都道府県に緊急事態宣言の対象が拡大。それとともに、これまでの宣言の対象であった7都府県に京都を含む6つの道府県を加えた13都道府県については、とくに重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていくべき「特定警戒都道府県」と位置付けられました。筆者の勤務する京都大学医学部附属病院(京大病院)でも、新型コロナウイルス感染症対策として外来の心リハを4月9日より中止しています。心リハは心筋梗塞や心不全などの心疾患患者にとってとても大切な治療であることをこれまでの連載で語ってきました。今回は、『緊急事態とは言っても、心疾患患者にとって重要な心リハを中止しても大丈夫?』という疑問を持つ読者の皆様とともに、国内外の心リハの状況と対策について考えてみたいと思います。心リハ学会の指針は?4月20日に日本心臓リハビリテーション学会より、“COVID19 に対する心臓リハビリテーション指針”が公開されました。要点は以下の3つです。1)入院中の心リハは自粛せず、適切に導入・継続する2)外来の心リハは中止し、自宅での在宅リハを推奨する3)運動処方目的の心肺運動負荷試験(CPX)は実施しない補足事項として、入院患者に心リハを行う場合も、手指消毒・マスク装着・密集を避ける(患者間は2mの距離を設ける)などの感染対策を徹底する、感染患者の新規発生がみられない地域では外来の心リハ実施も許容される、と書かれています。ただし、こちらの指針が作成されたのは緊急事態宣言の対象が全国に拡大されるより前の4月13日のことであり、現時点では全国の施設での外来心リハ実施は中止することが妥当と考えられます。ヨーロッパ・アメリカでは?世界保健機構(WHO)の発表によると、4月22日時点の新型コロナウイルスの感染者数は日本では1万1,118例です。一方、ヨーロッパでは118万7,184例、アメリカでは89万3,119例と桁違いに多く、まさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにあることがわかります。心リハの先進国でもあるヨーロッパ・アメリカですが、COVID-19パンデミックで心リハはどうなっているのでしょうか。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の推奨ヨーロッパ心臓病学会(ESC)は4月8日に‘Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic’を公開しています。ここでは、COVID-19パンデミックにより各国での心リハの実施に障害が生じていることを述べたうえで、以下、10の推奨が示されています。1)COVID-19パンデミックの状況を定期的に確認する2)COVID-19患者を扱える準備をする3)COVID-19パンデミックが心疾患患者に与える結果について系統的に検討する4)現状で提供できる最大限の心リハを実施する5)患者の要望に対して個別の病状に配慮したうえで応じられるよう準備する6)なんらかの症状がでた際には、必要な医療を後回しにせず適切な支援を受けられるように患者に指導する7)偽情報に惑わされない8)包括的心リハのすべての要素を含む電話での遠隔リハ(telerehabilitation programmes:テレリハプログラム)を実施する9)医療および地域連携による患者の心理サポートを行う10)施設における心リハ再開の準備をする施設の状況によっては、通常通りの心リハ運営が難しくなっている場合もあります。COVID-19患者対応でスタッフが配置転換となり、心リハを完全に閉じている施設もあります。ESCは施設の状況に応じた推奨を示しています。心リハを閉じている施設に対しては、残っているスタッフまたは配置転換となったスタッフ間で連携し、COVID-19が心疾患に与える影響についての情報共有や遠隔リハの開始について検討することが推奨されています。心リハの運営ができている施設には、入院患者と回復期の外来患者は、手指消毒・マスク装着・密集を避けるなどの感染対策を実施したうえで行うこと、ただし回復期または維持期の外来患者については可能であれば対面ではなく、電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ(患者評価と指導)を行うことが推奨されています。米国のほうはCOVID-19パンデミック下の心リハについてESCほどまとまったものはありませんが、AACVPR(American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)が3月13日に公表した‘AACVPR Statement on COVID-19’には、各施設の方針に従って心リハを実施すること、外来の心リハが実施できない患者には有効な在宅運動指導を検討することが書かれています。米国ではCOVID-19パンデミック以前の昨年7月に“在宅心リハについてのステートメント”が公表されています。テレリハ、具体的にどうする?では、テレリハ、“電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ”は、どのように実践すればいいでしょうか。言うは易し、行うは難し、ですね。患者さんに心リハスタッフが電話して、『運動しましょうね』と言えばそれだけでいいのでしょうか。心疾患患者さんには、運動をするにあたってメディカルチェックが必要です。テレリハであっても、そのプロセスは省けません。さらに、テレリハを行うにあたって、スタッフ間での対応も統一する必要があります。電話での患者情報聴取は何を聞けばよいか、もし患者が症状の悪化を訴えたら、どの程度で受診を促すべきなのか…。当院では、複数のメディカルスタッフが心リハに携わっています。そこで今回、心リハのメディカルスタッフで協働して「テレリハプログラム」を作成し、4月9日より運用を開始しました。(表)京大病院で活用している、テレリハ問診チェックリストPDFで拡大するこれはESCの‘Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic’の公開を知る前に作成したものでしたが、ESCの推奨8)の“包括的心リハの全ての要素を含む電話でのテレリハプログラム(telerehabilitation programmes)”にほぼ相当する内容になっているようです。心リハを専門にする医療者の考えることは、日本もヨーロッパも同じようなレベルにあるということでしょうか。運動の内容についても、具体的な指導が必要です。「一人で運動してください」と言われても、どうしたらいいのか、患者の立場だったら困りますよね。単に歩けばそれでいいのでしょうか。外出を控えることが一人一人の国民に求められている現状で、どこを歩けばいいのか、街中に住んでいる患者さんには難しい問題です。具体的な運動内容を患者さんに提供するために、当科のホームページに当院の心リハで実施している体操プログラムを公開しました。外来の心リハ患者さんでインターネットアクセスが可能な方には活用していただくようお伝えしています。COVID-19パンデミックは心リハイノベーションをもたらすか?緊急事態宣言により、さまざまな企業・病院で、テレワークなどの新しい働き方が整備されました。大学での会議や授業もWebが導入されるなど、教育にも新しい仕組みが導入されています。これまで、1~2時間の会議のために京都から東京まで出張することが多かった私も、往復の交通に要する時間や費用など、無駄を省けたことにはメリットを感じています。通常の外来でも電話診療が本格的に始まりました。遠方から検査がない日に薬の処方目的に来院されていた患者さんにとっては、かなりメリットが大きいようです。心リハでも、今回を機に遠隔リハ体制が整えば、外来の心リハの一部はテレリハに移行できる可能性があります。しかし、現在のテレリハは医療者の無償奉仕に依存しており、テレリハの普及には診療報酬制度の見直しなども必要そうです。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>今回はDr.小笹とともに当科で活躍する、鷲田 幸一氏(京大病院 慢性心不全看護認定看護師)のこぼれ話を紹介します。「テレリハを開始して」私が実際に患者さんにお電話をして感じたのは、「多くの患者さん・ご家族は先の見えない現状に不安を抱いていること」、また外出自粛などにより、身体活動度が減少するだけでなく「social distance(社会的距離)を超えて、social isolation(社会的孤立)に陥っていること」でした。これらは、とくに独居の高齢者には大きな問題のように思います。ESCの推奨9)にあるように、心理面での支援も医療者として非常に重要だと感じています。疾患管理をするための形式的な問診だけではなく、患者さん・ご家族を気遣いながらコミュニケーションを取り、不安を増大させることなく日常の生活(食事・睡眠)を続けているかを確認する。そして、その中で、疾患管理としてのモニタリングや、適切な食事・活動についてのアドバイスを行う必要があるのだと思っています。今後、多くの病院で同様の取り組みが拡がり、自宅で孤立している患者さんの疾患・生活・心理面で支援拡大を願います。

311.

急性期脳梗塞に対する神経保護薬nerinetideの有効性と安全性/Lancet(解説:中川原譲二氏)-1212

 nerinetideは、シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95)を阻害するエイコサペプチドで、虚血再灌流の前臨床脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。この試験では、急性期脳梗塞患者での迅速血管内血栓回収療法(EVT)に随伴する虚血再灌流におけるnerinetideの有効性と安全性を評価する目的で、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(ESCAPE-NA1)が行われた。 対象は、年齢18歳以上、脳主幹動脈閉塞後12時間以内の急性期脳梗塞で、無作為割り付け時に機能障害を伴う脳梗塞がみられ、発症前は地域で自立して活動しており、脳卒中早期CTスコア(ASPECTS)が>4点、多相CT血管造影で中等度~良好な側副路充満が示されている患者であった。被験者はすべてEVTを施行され、適応がある場合は通常治療としてアルテプラーゼの静脈内投与よる血栓溶解療法が行われた。次いで、nerinetide 2.6mg/kg(最大270mg)を静脈内に単回投与する群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、90日時の良好な機能的アウトカム(mRSスコア:0~2点)とした。副次評価項目は、神経学的障害(NIHSS:0~2点)、日常生活動作の機能的自立(mBI:95~100点)、きわめて良好な機能的アウトカム(mRSスコア:0~1点)、死亡などであった。nerinetideは、急性期脳梗塞のEVT後の転帰を改善せず 2017年3月~2019年8月の期間に、8ヵ国の48の急性期治療病院で1,105例が登録され、nerinetide群に549例(年齢中央値71.5歳、女性48.8%)、プラセボ群には556例(70.3歳、50.5%)が割り付けられた。アルテプラーゼは、nerinetide群が549例中330例(60.1%)、プラセボ群は556例中329例(59.2%)に投与された。 90日時のmRSスコア0~2点は、nerinetide群が549例中337例(61.4%)で、プラセボ群は556例中329例(59.2%)で達成され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後RR:1.04、95%CI:0.96~1.14、p=0.350)。NIHSS 0~2点の達成(nerinetide群58.3% vs.プラセボ群57.6%、補正後RR:1.01、95%CI:0.92~1.11)、mBI 95~100点の達成(62.1% vs.60.3%、1.03、0.94~1.12)、mRSスコア0~1点の達成(40.4% vs.40.6%、0.98、0.85~1.12)および死亡(12.2% vs.14.4%、0.84、0.63~1.13)にも、有意な差はなかった。nerinetideは、アルテプラーゼ非投与のEVT施行例で転帰を改善 アルテプラーゼ非投与例での90日mRSスコア0~2点の達成は、nerinetide群が219例中130例(59.3%)と、プラセボ群の227例中113例(49.8%)に比べ有意に良好であった(補正後RR:1.18、95%CI:1.01~1.38)。また、死亡もnerinetide群で有意に少なかった(0.66、0.44~0.99)。一方、アルテプラーゼ投与例では、このような差はみられなかった(90日mRSスコア0~2点達成の補正後RR:0.97[95%CI:0.87~1.08]、死亡の補正後RR:1.08[0.70~1.66])。 重篤な有害事象の発生は両群でほぼ同等であった(nerinetide群33.1% vs.プラセボ群35.7%、RR:0.92、95%CI:0.79~1.09)。また、進行性脳梗塞(stroke-in-evolution)、新規または再発脳梗塞、症候性頭蓋内出血、肺炎、うっ血性心不全、低血圧、尿路感染症、深部静脈血栓症/肺塞栓症、血管性浮腫の発生にも差はなかった。 以上より、nerinetideは、プラセボ群と比較して、急性期脳梗塞患者でのEVT施行後の良好な機能的転帰の達成割合を改善しなかったが、アルテプラーゼによる血栓溶解療法を併用しなかった集団では、これを改善するとともに、死亡を抑制する可能性があることが示された。EVTでは、アルテプラーゼ併用の有無で、nerinetide導入を選別すべきか? 一般に、急性期脳梗塞に対する早期の血流再開と神経保護の併用療法には、相加的・相乗的効果が期待される。しかし、今回のESCAPE-NA1試験では、アルテプラーゼ非併用群においてのみ、この効果が確認されたとされている。EVTでのアルテプラーゼ併用には、機械的な血栓回収時に末梢に飛散する血栓の溶解などにより、組織灌流を改善させる効果が期待されるが、その神経毒性が、nerinetideの神経保護効果を相殺する可能性も考えられる。今後、EVTが選択されたがアルテプラーゼは併用しない脳梗塞患者の治療へのnerinetide導入に関するさらなる知見が待たれる。

312.

長時間作用型注射剤と経口の抗精神病薬との比較

 治療継続やアドヒアランスは、精神疾患の有効なアウトカムと関連する。精神疾患患者の治療継続やアドヒアランスを改善するための最良の選択肢の1つとして、経口抗精神病薬よりも長時間作用型注射剤(LAI)が挙げられる。イタリア・ASL Pescara General HospitalのAlessia Romagnoli氏らは、抗精神病薬のアドヒアランス、治療継続、切り替えを評価し、実臨床におけるLAIと経口剤との比較を行った。Current Clinical Pharmacology誌オンライン版2020年3月9日号の報告。 2011年1月~2019年2月に、イタリア・ASL Pescara General Hospitalで抗精神病薬治療を受けたすべての患者を対象に、薬理学的非介入レトロスペクティブ観察研究を実施した。アドヒアランスは、受け取った1日量と使用した1日量の比で測定した。抗精神病薬治療の継続性は、治療開始と終了の日々の差として算出した。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾール治療患者840例、パリペリドン治療患者130例、リスペリドン治療患者925例を調査した。・アドヒアランスは、以下のとおりであり、LAIは経口剤と比較し、有意に優れていた。 ●アリピプラゾールLAI:0.89 ●パリペリドンLAIとリスペリドンLAI:0.82 ●アリピプラゾール経口剤:0.78 ●パリペリドン経口剤:0.70 ●リスペリドン経口剤:0.58・治療3年間にわたる継続曲線では、統計学的に有意な差は認められなかった(p=0.3314)。・製剤に基づく継続曲線でも、統計学的に有意な差は認められなかった。・切り替えが行われた患者の割合は、アリピプラゾール治療患者7%、リスペリドン治療患者12%、パリペリドン治療患者28%であった。 著者らは「本研究のいずれの薬剤においても、経口剤よりもLAIのほうがアドヒアランスが良好であったが、治療継続については、統計学的に有意な差が認められなかった」としている。

313.

弁膜症治療のガイドライン、8年ぶり改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会は2020年3月13日、「2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン」を学会ホームページで公開した。診断や薬物治療も含めて弁膜症における診療全体に言及するとの意味から、これまでの「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」(2012年に一部改訂版が発行)から名称が変更され、全面改訂が行われている。弁膜症治療のガイドラインは欧米人との体格差を考慮した基準を提示 改訂された弁膜症治療のガイドラインでは、僧帽弁閉鎖不全症(MR)については、新たに心房性機能性MRの概念が導入されたほか、重症一次性MRの手術適応の判断において、日本独自の参考値が示された。無症候の場合の左室機能低下のマーカーとしてのLVEFやLVESDは、これまで欧米患者のデータに基づくものが使用されてきた経緯がある。今回、小柄な日本人に当てはめる場合の参考値として、BSA≦1.7m2の症例では LVESD index≧24mm/m2が提示された。 大動脈弁閉鎖不全症(AR)についても、慢性重症ARの手術適応の判断において、日本人観察研究のデータなどから体格差を考慮した左室サイズの基準を提案している。LVESDの基準は、ESC/ACC/AHAでともに>50mmとされているが、今回の弁膜症治療のガイドラインでは>45mmとしている。LVEDDについては、ESCでは>70mm、ACC/AHAでは>65mmとされており、本ガイドラインでは>65mmが採用された。弁膜症治療のガイドラインはTAVI vs.SAVRで患者背景や解剖学的安全性を重視 大動脈弁狭窄症(AS)について、改訂された弁膜症治療のガイドラインでは重症度評価のためのフローチャートを掲載。真の重症ASを見逃すことのないよう、また中等度ASへの不必要な介入を防ぐことを目的に、SViやLVEFから診断を進められるよう構成されている。  重症ASの手術適応では、欧米のガイドラインが有症候性のみをTAVIの適応としているのに対し、今回の弁膜症治療のガイドラインでは無症候性でも適応となりうる(例:LVEF<50%、very severe ASなど)とした点が大きな特徴となっている。 TAVI vs.SAVRの推奨については、欧米では年齢やSTSスコアの基準が設けられているのに対し、本ガイドラインではそれらは示されなかった。年齢に加え、手術リスクや弁の耐久性、フレイルなどのさまざまな要素を加味し、患者の希望も尊重したうえで、最終的には弁膜症チームで決定することが重要であることを強調している。 ただし、弁膜症治療のガイドラインとして優先的に考慮する大まかな目安としては、80歳以上TAVI、75歳未満SAVRとされている。また、選択の目安としてTAVI、SAVRそれぞれを考慮する具体的な因子が一覧表化されている。弁膜症治療のガイドラインは5つのCQを設定し、システマティックレビューを実施 改訂された弁膜症治療のガイドラインでは、従来のガイドラインに採用されているが実際にどの程度のエビデンスがあるのか疑問が残る項目や、いまだ議論が残る項目を、クリニカルクエスチョン(CQ)として5つ取り上げ、システマティックレビューの結果に基づき、推奨の強さとエビデンス総体の強さが示されている。5つのCQは、以下の通り:CQ 1 無症候性重症一次性MRで左室収縮末期径(LVESD)<40mmかつ左室駆出率(LVEF)>60%、心房細動も肺高血圧もない症例の早期手術は推奨すべきか?CQ 2  LVEFの保たれた(≧50%)無症候性重症ARに、LVESD index>25mm/m2で大動脈弁手術を推奨すべきか?CQ 3  LVEFの保たれた無症候性超重症ASに早期手術は必要か?CQ 4 左心系弁手術の際、軽症のTRであっても弁輪拡大が高度(>40mmもしくは>21mm/m2)な場合は三尖弁形成を加えるべきか?CQ 5 生体弁置換術後の心房細動例に直接経口抗凝固薬(DOAC)は使用可能か?

314.

薬剤耐性結核、ベダキリン+pretomanid+リネゾリドが有効/NEJM

 高度薬剤耐性結核症患者の治療において、ベダキリン+pretomanid+リネゾリド併用療法による26週間の治療は、治療終了から6ヵ月時のアウトカムが良好な患者の割合が90%と高く、有害事象は全般に管理可能であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォータースランド大学のFrancesca Conradie氏らの検討(Nix-TB試験)で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年3月5日号に掲載された。高度薬剤耐性結核患者の治療選択肢は限られており、アウトカムは不良である。pretomanidは、最近、超多剤耐性(XDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシン、フルオロキノロン系抗菌薬、および1剤以上の注射薬[アミカシン、カプレオマイシン、カナマイシン]に抵抗性)または複雑型多剤耐性(MDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシンに抵抗性で、治療に反応しない、または副作用で治療が継続できない)の成人患者の治療において、ベダキリンおよびリネゾリドとの併用レジメンが、「限定的集団における抗菌薬および抗真菌薬の開発経路(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)」の下で、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。経口3剤の有用性を評価する非盲検単群試験 本研究は、結核菌に対する殺菌活性を有し、既知の耐性がほとんどない3つの経口薬の併用の有用性を評価する非盲検単群試験であり、現在も南アフリカの3施設で追跡調査が継続されている(TB Allianceなどの助成による)。 対象は、XDR結核症、および治療が奏効しなかったか、副作用のために2次治療レジメンが中止されたMDR結核症の患者であった。 ベダキリンは、400mgを1日1回、2週間投与された後、200mgを週に3回、24週間投与された。pretomanidは200mgを1日1回、26週間投与され、リネゾリドは1,200mgを1日1回、最長26週間投与された(有害事象によって用量を調節した)。 主要エンドポイントは、不良なアウトカムの発生とし、細菌学的または臨床的な治療失敗、あるいは治療終了から6ヵ月までの追跡期間中の再発と定義した。6ヵ月時に、臨床症状が消失し、培養陰性で、不良なアウトカムに分類されなかった患者を良好なアウトカムとした。XDR例とMDR例で、有効性に差はない 2015年4月16日~2017年11月15日の期間に109例(XDR例71例、MDR例38例)が登録された。ベースラインの年齢中央値は35歳(範囲:17~60)、男性が52%、黒人が76%であった。HIV陽性例が51%で、胸部X線画像で空洞形成が84%にみられ、BMI中央値は19.7(12.4~41.1)であった。 intention-to-treat(ITT)解析では、治療終了から6ヵ月時に11例(10%)が不良なアウトカムを呈し、98例(90%、95%信頼区間[CI]:83~95)が良好なアウトカムであった。修正ITT解析およびper-protocol解析でも結果はほぼ同様であった。XDR例の良好なアウトカムの患者は63例(89%、79~95)、MDR例では35例(92%、79~98)だった。 不良なアウトカムの11例のうち、死亡が7例(6例は治療期間中に死亡、1例は追跡期間中に不明な原因により死亡)で、治療期間中の同意撤回が1例、追跡期間中の再発が2例、追跡不能が1例であった。 治療期間中に、全例で1つ以上の有害事象の発現または増悪が認められた。重篤な有害事象は19例(17%)にみられ、HIV陽性例と陰性例で頻度は類似していた。リネゾリドの毒性作用として予測された末梢神経障害が81%に、骨髄抑制は48%に発現し、頻度は高かったものの管理可能であったが、リネゾリドの減量または中断が多かった。 著者は、「XDRおよびMDRという治療困難な結核症で90%という高い治療成功率が達成された。これは薬剤感受性結核症における標準治療(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)の成績とほぼ同等である」としている。

315.

乳がん術前治療、BRCA1/2変異患者でpCR率高い/JAMA Oncol

 さまざまなサブタイプの乳がんに対する2つの術前治療レジメンの効果を比較した多施設前向き無作為化試験GeparOctoにおいて、ドイツ・ケルン大学病院のEsther Pohl-Rescigno氏らが遺伝子変異の有無別に2次解析したところ、BRCA1/2遺伝子変異のある患者で病理学的完全奏効(pCR)率が高いことが示された。JAMA oncology誌オンライン版2020年3月12日号に掲載。 GeparOctoは、intense dose-denseエピルビシン+パクリタキセル+シクロホスファミド(iddEPC)とweeklyパクリタキセル+非ペグ化リポソームドキソルビシン(PM)の2つの術前治療レジメンの効果を比較した無作為化試験で、2014年12月~2016年6月に実施された。PM群に割り付けられたトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者にはカルボプラチンが追加された(PMCb)。本試験では2群間に差は認められなかった。今回、著者らはBRCA1/2および他の乳がん素因遺伝子の生殖細胞系列変異の有無による治療効果を検討した。 本研究は2017年8月~2018年12月に、GeparOctoの対象患者945例のうち914例におけるBRCA1/2遺伝子および16種の乳がん素因遺伝子の変異について、ケルンのCenter for Familial Breast and Ovarian Cancerで遺伝子解析を実施した。主要評価項目は、生殖細胞系列変異の有無別にみた術前治療後のpCR(ypT0 /is ypN0)を達成した患者の割合。 主な結果は以下のとおり。・914例の乳がん診断時の平均年齢は48歳(範囲:21~76歳)であった。・pCR率は、BRCA1/2遺伝子変異陽性患者(60.4%)が陰性患者(46.7%)より高かった(オッズ比[OR]:1.74、95%CI:1.13~2.68、p=0.01)。一方、BRCA1/2遺伝子以外の乳がん素因遺伝子の変異はpCR率と関連がみられなかった。・BRCA1/2遺伝子変異陽性のTNBC患者でpCR率が最も高かった。・TNBC患者において、BRCA1/2遺伝子変異陽性は、PMCb群(74.3% vs. 陰性47.0%、OR:3.26、95%CI:1.44~7.39、p=0.005)およびiddEPC群(64.7% vs. 陰性45.0%、OR:2.24、95%CI:1.04~4.84、p=0.04)の両群ともpCR率に関連していた。・BRCA1/2遺伝子変異陽性は、HR陽性ERBB2陰性乳がんにおける高いpCR率とも関連していた。

316.

抗体検査【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第4回

はじめに2019年4月から、風疹対策として、特定年齢の男性を対象とした抗体検査とワクチンの提供サービスが始まった。しかし、実際にワクチン接種の効果を判定するために測定された抗体価の解釈は難しい。ここでは抗体価検査全般とその解釈について述べる。抗体検査について理解を深める前に以下の3点に注意しておきたい。(1)現在入手可能なワクチンは、抗体を産生することで疾患を予防するという機序が主ではあるが、実際に病原体に曝露した際には細胞性免疫をはじめとした他のさまざまな免疫学的機序も同時に作用することがわかっている。したがって、抗体価と発症/感染予防には必ずしも相関性がないことがある。(2)免疫の有無は、年齢、性別、主要組織適合抗原(major histocompatibility complex::MHC)などによっても左右される。(3)“免疫能”の定義をどこにおくか(侵襲性感染症/粘膜面における感染の予防、感染/発症の予防)によっても判定基準が変わってくる。以上を踏まえた上で読み進めていただきたい。抗体検査法一般的に用いられる方法としては次の5つがある。EIA法(Enzyme-Immuno-Assay:酵素免疫法)/ ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent  Assay:酵素免疫定量法)HI法(Hemagglutination Inhibition test:血球凝集抑制反応)NT法(Neutralization Test:中和反応)CF法(Complement Fixation test:補体結合反応)PA法(Particle Agglutination test:ゼラチン粒子凝集法)このうちCF法は感度が低いため、疾患に対する免疫の有無を判断する検査法としては適さない。ワクチンの効果判定や病原体に対する防御能の測定にあたって最も有効とされているのはPRN法(plaque reduction neutralization)による中和抗体の測定である。しかし、中和抗体の測定は手技が煩雑で判定にも時間がかかるため、実際には様々な抗体の中から発症予防との相関があるとされるもので、検査室での測定に適したものが使用されることが多い。各疾患のカットオフ値について麻疹および風疹については、発症予防および感染予防に必要とされる抗体価が検査別にある程度示されている(表1)1)が、ムンプス、水痘については未確定である。表1 麻疹・風疹における抗体価基準1)画像を拡大する1)麻疹(Measles)麻疹に対する免疫の有無を判断するうえで最も信頼性が高い検査法はPRN法による中和抗体の測定であるが、前述のように多数の検体のスクリーニングには向いていない。WHOは中和抗体(PRN法)で120mIU/mL以上をカットオフとしている2)。これは中和抗体(PRN法)≧120mIU/mLであればアウトブレイク時にも発症例が見られなかったことによる。一方、わが国で用いられている環境感染学会の医療従事者に対するワクチンガイドライン3)ではIgG抗体(EIA法)で16以上を陽性基準としており、国際単位へ変換すると720mIU/mL(EIA価×45=国際単位(mIU/mL))となる。麻疹抗体120mIU/mLは発症予防レベルであるが、報告によっては120~500mIU/mLでも発症がみられたとするものもある4)。したがって曝露の機会やウイルス量が多い危険性のある医療従事者ではより高い抗体価を求めるものとなっている。2)風疹(Rubella)古くから用いられているのはHI法であり、8倍以上が陽性基準とされている。HI法と他の検査を用いた場合の読み替えに関しては、国立感染症研究所の公開している情報が有用である5)。1985年にNCCLS(National Committee on Clinical Laboratory Standards)は風疹IgG抗体>15IU/mLを、発症予防レベルに相当する値として免疫を有している指標とした。1992年に数値は10IU/mLに引き下げられたが、それ以降のカットオフの変更はなされていない。その後の疫学データなどから独自にカットオフを引き下げて対応している国もある6)。環境感染学会のガイドラインではIgG(EIA法:デンカ生研)≧8.0を十分な抗体価としているが、国際単位へ変換すると18.4IU/mL(EIA価×2.3=国際単位(IU/mL))となり、高めの設定となっていることがわかる。これは麻疹と同様に曝露の機会や多量のウイルス曝露が起こる危険性があるためである。ただし、HI法で8倍以上、EIA法で15IU/mL以上の抗体価を有している場合でも風疹に罹患したり、先天性風疹症候群を発症したりといった報告もある7)。風疹における感染予防に必要な抗体価として、国際的なコンセンサスを得た値は示されていない。3)ムンプス(Mumps)ムンプスに対する免疫の有無を正確に測定する方法は、現在のところはっきりとはわかっていない8)。中和法で2倍もしくは4倍の抗体価が発症予防に有効であったとする報告がみられる一方、2006年に米国の大学で起こったアウトブレイクの際にワクチン株および流行株に対する中和抗体(PRN法)、およびIgG抗体(EIA法)を測定したところ、発症者は非発症者に比べて抗体価が低い傾向にはあったが、その値はオーバーラップしており、明確なカットオフを見出すことはできなかった9)。環境感染学会ではEIA価で4.0以上を陽性としているが3)、その臨床的な意義は不明である。4)水痘(Varicella)WHOが規定する発症予防に十分な抗体価はFAMA(fluorescent antibody to membrane antigen)法で4倍以上もしくはgrycoprotein(gp)ELISA法で5U/mL以上である10)。FAMA法で4倍以上の抗体価を保有していた者のうち家庭内曝露で水痘を発症したのは 3%以下であった。gp ELISA法は一般的な検査方法ではなく、偽陽性が多いのが欠点である。わが国において両検査は一般的ではなく、代替案として、中和法で4倍以上を発症予防レベルと設定し、IAHA(immune adherence hemagglutination:免疫付着赤血球凝集)法で4倍以上、EIA法で4.0以上をそれぞれ十分な抗体価としているが3)、その臨床的な意義は不明である。その他の代表的なワクチン予防可能疾患を含めた発症予防レベルの抗体価示す(表2)11,12)。一般的に抗体価測定が可能な疾患としてA型肝炎、B型肝炎について述べる。表2 代表的なワクチン予防可能疾患の発症予防レベル抗体価11,12)画像を拡大するND:未確定* :侵襲性肺炎球菌感染症の発症予防5)A型肝炎(Hepatitis A)13,14)A型肝炎ウイルスに対して、有効な免疫力を有するとされる抗体価の基準値は明確には示されていない。測定法にもよるが、有効な抗体価は10~33mIU/mLとされており、VAQTA(商標名)やHAVARIX(商標名)といったワクチンの臨床試験における効果判定は抗体価10mIU/mL以上を陽性としている。実臨床の場ではワクチン接種前に要否を確認するための測定は行うが、ワクチン接種後の効果判定として通常は測定しない。6)B型肝炎(Hepatitis B)3回のワクチン接種完了後1~3ヵ月の時点でHBs抗体価測定を行う。HBs抗体≧10mIU/mLが1回でも確認できれば、その後抗体価が低下しても曝露時に十分な免疫応答が期待できることから、WHOは免疫正常者に対してワクチンの追加接種は不要としている15)。おわりにここまで述べてきたように、各ウイルスに対する抗体価の基準についてはわかっていないことが多い。これは感染防御に働くのが単一の機構のみではないことに起因する。国際基準とわが国の基準の違いも前述の通りである。麻疹、風疹、ムンプス、水痘に関しても、代替案としての抗体検査が独り歩きしてしまっているが、個人の感染防御という点において重要なのは、抗体価ではなく1歳以上における2回のワクチン接種歴である。接種記録がなければ抗体陽性であってもワクチン接種を検討するべきである。まれな事象として2回の接種歴があっても各疾患が発症したとする報告はあるが、追加のワクチン接種で抗体価を上昇させることで、そのような事象を減らすことができるかは現時点では明確な答えは出ていない。現在、環境感染学会ではガイドラインの改訂がすすめられており、2020年1月まで第3版のパブリックコメントが募集された。近日中に改訂版が公表される予定であり、基本的には1歳以上で2回の確実な接種歴を重視した形になると考えられる16)。抗体価の測定に頼るのではなく、小児期から確実に2回の接種率を上昇させることでコミュニティーからウイルスを根絶すること、そして個人および医療機関でその記録の保管を徹底することの方が重要である。1)庵原 俊. 小児感染免疫. 2011;24:89-95.2)The immunological basis for immunization series. Module 7: Measles Update 2009. World Health Organization, 2009. (Accessed 03/25, 2019)3)日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版. 日本環境感染学会誌. 2014;29:S1-S14.4)Lee MS, et al. J Med Virol. 2000;62:511-517.5)風疹抗体価の換算(読み替え)に関する検討. 改訂版(2019年2月改定). (Accessed 03/20, 2019)6)Charlton CL, et al. Hum Vaccin Immunother. 2016;12:903-906.7)The immunological basis for immunization series. Module 11: Rubella. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)8)The immunological basis for immunization series. Module 16: Mumps. World Health Organization, 2010.(Accessed 03/25, 2019)9)Barskey AE, et al. J Infect Dis. 2011;204:1413-1422.10)The immunological basis for immunization series. Module 10: Varicella-zoster virus. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)11)Plotkin SA,et al(eds). Plotkin's Vaccines(7th Edition). Elsevier. 2018:35-40.e4.12)Plotkin SA. Clin Vaccine Immunol. 2010;17:1055-1065.13)The immunological basis for immunization series. Module 18: Hepatitis A. World Health Organization, 2011. (Accessed 03/25, 2019)14)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018:319-341.e15.15)The immunological basis for immunization series. Module 22: Hepatitis B. World Health Organization, 2012.(Accessed 03/25,2019)16)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.講師紹介

317.

冠動脈疾患における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインを公開/日本循環器学会

 日本循環器学会は2020年3月13日、「2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法」を学会ホームページに公開した。本ガイドラインは、2019年に発表された「急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つのガイドラインの抗血栓療法に関して、発表後に多くの重要なエビデンスや新たな概念が発表されたことから、この内容にのみ焦点を当て作成された。ガイドラインには周術期の抗血栓療法に関する項目が新設 今回の冠動脈疾患患者における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインでは、諸外国と異なっていると言われるわが国の虚血と出血のリスクバランスを考慮し、国内の臨床試験や大規模臨床研究を数多く引用し作成された。今回のアップデートにおける特徴は以下のとおり。1)2019年4月に欧米誌に同時掲載された学術研究コンソーシアムによる高出血リスク患者についてのコンセンサスドキュメント(Academic Research Consortium for High Bleeding Risk:ARC-HBR)を治療戦略のガイドとして採用2)ARC-HBRの評価基準を基に、低体重、フレイル、心不全、透析などのリスク因子を加味した「日本版HBR評価基準」を作成3)急性冠症候群(ACS)と安定冠動脈疾患を併せて冠動脈疾患全般における抗血栓療法とし、また実臨床に即して時系列に沿って項立て4)ガイドラインの必須項目に限定した簡易なフローチャートを作成5)「周術期の抗血栓療法」に関する項目が新設 出血リスクの評価方法については、2018年改訂版のガイドラインでは、ACS、安定冠動脈疾患ともにPRECISE-DAPTスコアが採用されたが、最近、提唱された高出血リスク(HBR)の概念が、出血リスクが高いと言われる東アジアでより実践的と考えられることから、本ガイドラインではHBRの概念が基本戦略として採用された。 今回の冠動脈疾患患者における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインでは他にも、Loadingのタイミングや薬剤選択が明記され、また、HBRをガイドにした抗血栓薬の投薬期間を定められた(短期DAPT後はP2Y12阻害薬単剤を推奨)。さらに、心房細動後のde-escalationについてはエビデンスに基づくものになっている。

318.

nerinetide、急性期脳梗塞のEVT後の転帰改善せず/Lancet

 開発中の神経保護薬nerinetideは、急性期脳梗塞患者において、血管内血栓回収療法(EVT)施行後の良好な機能的転帰の達成割合を改善しないが、アルテプラーゼによる血栓溶解療法を併用しなかった集団では、これを改善するとともに、死亡を抑制する可能性があることが、カナダ・カルガリー大学のMichael D. Hill氏らによる「ESCAPE-NA1試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2020年2月20日号に掲載された。nerinetideは、シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95、disks large homolog 4とも呼ばれる)を阻害するエイコサペプチドで、虚血再灌流の前臨床脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。良好な機能的転帰をプラセボと比較する無作為化試験 研究グループは、急性期脳梗塞患者において、迅速EVT施行後の虚血再灌流傷害におけるnerinetideの有効性と安全性を評価する目的で、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(カナダ保健研究所[CIHR]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、大血管閉塞発症後12時間以内の急性期脳梗塞で、無作為割り付け時に後遺障害を伴う脳梗塞がみられ、発症前は地域で自立して活動しており、アルバータ脳卒中プログラム早期CTスコア(ASPECTS)が>4点、多相CT血管造影で中等度~良好な側副路充満が示されている患者であった。 被験者はすべてEVT(ステント型血栓回収機器、吸引機器)を施行され、適応がある場合は通常治療としてアルテプラーゼの静脈内投与よる血栓溶解療法が行われた。次いで、nerinetide 2.6mg/kg(最大270mg)を静脈内に単回投与する群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、90日時の良好な機能的アウトカム(修正Rankinスケール[mRS]のスコア0~2点)とした。副次評価項目は、神経学的障害(NIHSS:0~2点)、日常生活動作の機能的自立(修正Barthelインデックス[mBI]95~100点)、きわめて良好な機能的アウトカム(mRSスコア0~1点)、死亡などであった。アルテプラーゼ非投与のEVT施行例で、さらなる研究の可能性 2017年3月~2019年8月の期間に、8ヵ国の48の急性期治療病院(カナダ14施設、米国19施設、ドイツ5施設など)で1,105例が登録され、nerinetide群に549例(年齢中央値71.5歳[IQR:61.1~79.7]、女性48.8%)、プラセボ群には556例(70.3歳[60.4~80.1]、50.5%)が割り付けられた。アルテプラーゼは、nerinetide群が549例中330例(60.1%)、プラセボ群は556例中329例(59.2%)に投与された。 90日時のmRSスコア0~2点は、nerinetide群が549例中337例(61.4%)で、プラセボ群は556例中329例(59.2%)で達成され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後リスク比[RR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.96~1.14、p=0.350)。 NIHSS 0~2点の達成(nerinetide群58.3% vs.プラセボ群57.6%、補正後RR:1.01、95%CI:0.92~1.11)、mBI 95~100点の達成(62.1% vs.60.3%、1.03、0.94~1.12)、mRSスコア0~1点の達成(40.4% vs.40.6%、0.98、0.85~1.12)および死亡(12.2% vs.14.4%、0.84、0.63~1.13)にも、有意な差はなかった。 アルテプラーゼ非投与例での90日mRSスコア0~2点の達成は、nerinetide群が219例中130例(59.3%)と、プラセボ群の227例中113例(49.8%)に比べ有意に良好であった(補正後RR:1.18、95%CI:1.01~1.38)。また、死亡もnerinetide群で有意に少なかった(0.66、0.44~0.99)。一方、アルテプラーゼ投与例では、このような差はみられなかった(90日mRSスコア0~2点達成の補正後RR:0.97[95%CI:0.87~1.08]、死亡の補正後RR:1.08[0.70~1.66])。 重篤な有害事象の発生は両群でほぼ同等であった(nerinetide群33.1% vs.プラセボ群35.7%、RR:0.92、95%CI:0.79~1.09)。また、進行性脳梗塞(stroke-in-evolution)、新規または再発脳梗塞、症候性頭蓋内出血、肺炎、うっ血性心不全、低血圧、尿路感染症、深部静脈血栓症/肺塞栓症、血管性浮腫の発生にも差はなかった。 著者は、「この新たな知見が確証されれば、さらなる研究を行うことで、EVTが選択されたがアルテプラーゼは併用しない脳梗塞患者の治療へのnerinetide導入に関する詳細なデータがもたらされる可能性がある」としている。

319.

初回エピソード統合失調症患者に対する抗うつ薬や気分安定薬の使用の現状

 統合失調症の第1選択薬は、抗精神病薬であるが、しばしば抗うつ薬や気分安定薬などによる補助療法が行われている。しかし、初回エピソード統合失調症患者に対する情報は限られている。フィンランド・東フィンランド大学のArto Puranen氏らは、初回エピソード統合失調症患者に対する抗うつ薬および気分安定薬の使用や関連する要因について調査を行った。European Journal of Clinical Pharmacology誌オンライン版2020年1月15日号の報告。 1996~2014年にフィンランドで統合失調症の入院治療を行い、初回入院治療時に抗うつ薬または気分安定薬を使用しなかった患者を特定するため、レセプトデータベースを用いた。対象患者は7,667例、平均年齢は40.2±18.2歳であった。1995~2017年の処方データは、National Prescription registerより取得し、PRE2DUP法でモデル化した。抗うつ薬および気分安定薬の使用開始は、初回統合失調症診断より3年間のフォローアップを行った。抗うつ薬または気分安定薬の使用に関連する要因は、Cox比例ハザードモデルを用いて調査した。 主な結果は以下のとおり。・初回エピソード統合失調症患者において、診断後3年以内に抗うつ薬を開始した患者は35.4%、気分安定薬の使用を開始した患者は14.1%であった。・抗うつ薬および気分安定薬の使用開始の高リスクと関連していた要因は、女性、若年、ベンゾジアゼピン使用であった。・過去の精神疾患数は、抗うつ薬の使用リスクの減少および気分安定薬の使用リスクの増加との関連が認められた。 著者らは「臨床ガイドラインでは、統合失調症の補助療法として、抗うつ薬や気分安定薬の使用を推奨することはほとんどないが、実際にはしばしば使用されている。これら薬剤の補助療法としてのリスクを評価するためには、さらなる研究が必要とされる」としている。

320.

肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

検索結果 合計:576件 表示位置:301 - 320