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腎機能はアルツハイマー病血液バイオマーカーに影響するが認知症リスクとは関連しない

 アルツハイマー病(AD)関連の血液バイオマーカー(BBM)は脳病理を反映するだけでなく、腎機能低下によって変動することが知られている。ただし、その変動がクリアランスの低下によるものなのか、脳病理の変化を意味するものなのかは明らかにされていない。また、認知症リスクと腎機能との関連については矛盾するエビデンスが存在する。これらを背景に、カロリンスカ研究所(スウェーデン)およびストックホルム大学(同)のFrancesca Gasparini氏らは、同国で進行中の60歳以上の一般住民を対象とする加齢と介護に関する縦断研究(SNAC-K)のデータを用いた検討を実施。結果の詳細が「Neurology」に12月3日掲載された。 SNAC-K参加者のうちベースラインで認知症がなくデータ欠落のない2,279人(年齢中央値72歳〔四分位範囲61~81〕、女性62%)を解析対象とした。このうち24%が腎機能障害(血清クレアチニンに基づくeGFRが60mL/分/1.73m2未満)を有していた。 腎機能障害の有無で二分し各群のBBMの中央値を多変量分位点回帰分析で比較すると、全てに有意差が認められ、いずれも腎機能障害を有する群が高値(Aβ42/40は低値)だった。3次スプライン解析からは、eGFRとBBMのzスコアとの間に非線形の関連が示され、特に神経フィラメント軽鎖(NfL)はeGFRと強く関連していた。例えばeGFRが30mL/分/1.73m2のとき、NfLのzスコアに1標準偏差近くの差が認められた(β=0.88〔95%信頼区間0.80~0.95〕)。またNfLほど顕著ではないものの、eGFRが30mL/分/1.73m2に低下している場合、p-tau181(β=0.22〔同0.09~0.35〕)、p-tau217(β=0.20〔0.10~0.31〕)、t-tau(β=0.24〔0.05~0.42〕)、GFAP(β=0.10〔0.03~0.16〕)にも有意差が観察された。 この集団を最長16年(平均8.3±4.3年)追跡したところ、362人が新たに認知症を発症していた。100人年当りの認知症発症率は、腎機能障害のない群が1.46(1.28~1.67)、腎機能障害を有する群が3.72(3.16~4.39)と後者が高かったが、交絡因子(年齢、性別、BMI、教育歴、心臓脳血管疾患、APOEε4など)を調整後、有意なリスク差は認められなかった(ハザード比〔HR〕0.93〔0.72~1.21〕)。各BBMと認知症発症リスクの関連を腎機能障害の有無で層別化した検討では、NfLについては腎機能障害群において、より強い関連が認められた(腎機能障害のない群ではNfL低値に対して高値でHR1.84〔1.34~2.53〕、腎機能障害を有する群ではHR3.85〔1.87~7.95〕、交互作用P=0.064)。 Gasparini氏は、「腎機能の低下が認知症発症リスクを高めるという関連は見られなかったが、AD関連のBBMが高い人では腎機能障害が認知症の発症を促進する可能性が示された」と述べている。

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アセトアミノフェンの乳児への処方は安全

 乳児期にアセトアミノフェン(パラセタモール)を使うと、湿疹や喘鳴のリスクが上昇することが、これまでの観察研究で報告されている。こうした中、新たな臨床試験により、アセトアミノフェンとイブプロフェンはいずれも、生後1年以内の乳児にも安全に使えることが示された。これらの市販の鎮痛薬と湿疹や細気管支炎との間に関連は認められなかったという。オークランド大学(ニュージーランド)のStuart Dalziel氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Child & Adolescent Health」に1月27日掲載された。 アセトアミノフェンと非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は主要な鎮痛薬の一部であり、世界中で小児の発熱や痛みに対して最も頻繁に処方され、市販薬としても広く購入されている。NSAIDsは強い抗炎症作用を持つが胃腸障害を起こしやすい。イブプロフェンはNSAIDsの一種である。一方、アセトアミノフェンには抗炎症作用はほとんどないが、胃腸への負担が少ないという特徴がある。なお、アセトアミノフェンとパラセタモールは、いずれも同じ成分の薬剤だが、国によって呼び名が異なる。 Dalziel氏らは今回、アセトアミノフェンの使用と湿疹や喘鳴のリスク上昇との関連を示した研究結果を踏まえ、ニュージーランドで出生した生後8週間未満の乳児3,908人(女児49.0%)を対象に、アセトアミノフェンとイブプロフェンのどちらを使用した場合に、湿疹や細気管支炎リスクがより高くなるのかを評価した。児は、1歳になるまで必要に応じてアセトアミノフェンのみを使用する群(1,985人)と、イブプロフェンのみを使用する群(1,923人)にランダムに割り付けられた。 その結果、湿疹の発生率は、アセトアミノフェン群で16.2%(322人)、イブプロフェン群で15.4%(296人)であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった(差0.8%、95%信頼区間−1.5〜3.1)。一方、細気管支炎による入院の発生率は、アセトアミノフェン群で4.9%(98人)、イブプロフェン群で4.3%(82人)であり、同様に有意な差は認められなかった。17人に19件の有害事象が確認されたが(アセトアミノフェン群8人、イブプロフェン群9人)、処方薬剤に関連した事象は認められなかった。 Dalziel氏は、「この結果によって、親も医療従事者も、これらの重要な薬を引き続き安心して使えるようになるだろう」と述べている。 研究グループは、対象とした児童が6歳になるまで追跡し、アセトアミノフェンやイブプロフェンが原因とされてきた他の健康問題が現れないかを確認する予定だとしている。Dalziel氏は、「3歳で喘鳴を呈する小児の3分の2は、6歳時点で喘息を発症していないことが分かっている。そのため、生後1年間におけるアセトアミノフェン使用が喘息を引き起こすかどうかを最終的に判断するには、学齢期まで待つ必要がある」と説明している。さらに、この追跡調査では、自閉症や注意欠如・多動症(ADHD)の発症率についても調べる予定だという。これらの疾患は、ある程度成長してからの方が正確に診断されるためだ。 論文の筆頭著者であるオークランド大学のEunicia Tan氏は、「最終的には、アセトアミノフェンの使用と喘息、湿疹、花粉症、さらには自閉症やADHDといった発達障害との関連について、重要な証拠を提供できるはずだ」とニュースリリースで述べている。

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論文投稿から採択まで 英文校正・カバーレター・査読対応のAI活用術(後編)【誰でも使えるChatGPT】第8回

さて、前回から引き続き、論文投稿から採択までのプロセスにおいて、上手なChatGPTの使い方を解説します。STEP 2:カバーレター作成カバーレターは論文の「顔」です。Editor(編集者)が最初に目にする文書であり、査読に回すかどうかの判断材料になります。しかし、「何を書けばいいのかわからない」という声をよく聞きます。カバーレターに含めるべき要素1.投稿する論文のタイトルと種類2.なぜこの雑誌を選んだか3.論文の新規性・重要性(2〜3文で簡潔に)4.類似論文との違い(該当する場合)5.倫理的配慮の確認6.利益相反の開示7.著者全員の同意確認カバーレター作成あなたは医学論文投稿の専門家です。以下の論文について、Editor宛のカバーレターを作成してください。【論文情報】-タイトル:Vitiligo-like depigmentation following Stevens-Johnson syndrome induced by allopurinol: A case report-投稿先:Journal of Dermatology(日本皮膚科学会誌・英文)-論文種類:Case Report-著者:Atsushi Otsuka, et al.-所属:Department of Dermatology, Kindai University【論文のポイント】-アロプリノールによるSJS後に白斑化したまれな症例-SJS後の色素変化の多様性を示す貴重な報告-長期経過観察(6ヵ月)で白斑化を確認【含めるべき内容】-この症例の学術的価値-Journal of Dermatologyの読者にとっての relevance-倫理審査承認済み、患者同意取得済みの記載-利益相反なしの記載-全著者が投稿に同意している旨【形式】-英語で作成-フォーマルだが簡潔に-300〜400語程度ChatGPTからの回答例 Dear Editor,We are pleased to submit our manuscript entitled "Vitiligo-like depigmentation following Stevens-Johnson syndrome induced by allopurinol: A case report" for consideration for publication in the Journal of Dermatology.This case report describes an unusual clinical course of a 67-year-old woman who developed vitiligo-like depigmentation following Stevens-Johnson syndrome (SJS) induced by allopurinol.While post-inflammatory hyperpigmentation is a well-recognized sequela of SJS, the transition from hyperpigmentation to depigmentation over a 6-month period, as observed in our case, is exceptionally rare and has significant implications for understanding the pathophysiology of pigmentary changes following severe cutaneous adverse reactions.We believe this case report is well-suited for the Journal of Dermatology for the following reasons: (1) it documents a rare clinical phenomenon that has not been extensively reported in the literature, (2) it provides insights into the complex mechanisms underlying post-SJS pigmentary changes, and (3) it offers valuable information for clinicians managing patients with drug-induced SJS regarding long-term pigmentary outcomes.This study was approved by the Institutional Review Board of Kindai University (approval number: XXX). Written informed consent was obtained from the patient for publication of this case report and accompanying images.All authors have no conflicts of interest to declare.All authors have read and approved the final manuscript and agree to its submission to the Journal of Dermatology.This manuscript has not been published previously and is not under consideration for publication elsewhere.We thank you for considering our manuscript and look forward to your response.Sincerely,Atsushi Otsuka, MD, PhDDepartment of DermatologyKindai University Faculty of Medicineカバーレター作成のコツChatGPTが生成したカバーレターは、そのまま使わず、必ず以下を確認・修正してください。【必ず確認すべき点】-倫理審査の承認番号(実際の番号に置き換え)-著者名・所属の正確性-論文タイトルの一致-投稿規定で求められている記載事項の網羅【カスタマイズすべき点】-なぜその雑誌を選んだかの理由をより具体的に-その雑誌の最近の掲載論文に言及すると効果的-自分の言葉で「この論文の一番の売り」を強調STEP 4:査読結果への対応(Revision)ここが最も重要で、最も難しいステップです。査読者からのコメントにどう対応するかで、採択されるかRejectされるかが決まります。査読結果のパターン-Accept:そのまま採択(まれ)-Minor Revision:軽微な修正で採択見込み-Major Revision:大幅な修正が必要、再査読あり-Reject with Resubmission:却下だが再投稿は歓迎-Reject:却下Minor RevisionやMajor Revisionの場合、査読者のコメントに1つずつ丁寧に回答する「Response to Reviewers(Point-by-Point Response)」を作成する必要があります。査読コメントへの回答作成あなたは医学論文の査読対応の専門家です。以下の査読者コメントに対する回答を作成してください。【査読者コメント】Reviewer #1, Comment 3:"The authors claim that vitiligo-like depigmentation following SJS is rare, but they do not provide a comprehensive literature review.How many similar cases have been reported? Please provide a more thorough review of the literature."【対応方針】-文献検索を追加で実施した-PubMed検索で3例の類似報告を発見-Discussionに文献レビューを追加した【回答の形式】-丁寧で建設的なトーン-査読者への感謝を示す-具体的に何を修正したか明記-修正箇所を原稿のどこで確認できるか示すChatGPTからの回答例 Response to Reviewer #1, Comment 3:We thank the reviewer for this valuable suggestion. We agree that a more comprehensive literature review strengthens our manuscript significantly.In response to this comment, we conducted an extensive literature search using PubMed with the following search terms: "Stevens-Johnson syndrome" AND ("vitiligo" OR "depigmentation" OR "hypopigmentation").Our search identified three previously reported cases of vitiligo-like depigmentation following SJS (References XX, XX, and XX).We have now added a detailed discussion of these cases in the revised manuscript (Discussion, page X, lines XX-XX).Specifically, we compare our case with these reported casesin terms of:-Causative drugs-Time course of pigmentary changes-Distribution of depigmentation-Proposed mechanismsThis comparison highlights the unique features of our case, particularly the well-documented transition from post-inflammatory hyperpigmentation to depigmentation, which was not clearly described in previous reports.We believe this addition significantly improves the manuscript and provides readers with a more comprehensive understanding of this rare phenomenon.査読対応の重要原則【原則1:すべてのコメントに回答する】たとえ「それは違う」と思うコメントでも、無視してはいけません。反論する場合も、丁寧に理由を説明します。【原則2:感謝と謙虚さを示す】批判的なコメントであっても、「ご指摘ありがとうございます」から始めるのが基本です。【原則3:修正箇所を明確に示す】「Discussionを修正しました」ではなく、「Discussion, page 8, lines 15-23」のように具体的に示します。【原則4:できないことは理由を説明する】追加実験や追加データの要求に応じられない場合は、なぜできないのかを説明し、代替案を提示します。批判的コメントへの丁寧な反論以下の査読者コメントに対して、丁寧に反論する回答を作成してください。【査読者コメント】Reviewer #2, Comment 1:"This is just a single case report with no mechanistic data.The clinical significance is limited. I recommend rejection."【私の見解】-症例報告の価値は機序解明だけではない-まれな臨床経過の記録自体に価値がある-ただし、可能な範囲で病理所見を追加した【回答の方針】-査読者の懸念を正面から受け止める-症例報告の学術的価値を丁寧に説明-追加した内容を具体的に示す-論文の限界は認めつつ、価値を主張するRejection(却下)された場合残念ながらRejectされた場合でも、ChatGPTは次のステップで役立ちます。別雑誌への再投稿準備以下の論文がJournal Aから却下されました。別の雑誌に再投稿するための準備を手伝ってください。【却下理由(Editor's comment)】"While the case is interesting, it does not meet the threshold of novelty for our journal.We receive many case reports and can only accept those with exceptional educational value."【質問】1.この却下理由から学べること2.論文をどう改善すべきか3.より適切な投稿先の候補4.カバーレターで強調すべき新たなポイント■ChatGPT活用の注意点まとめ絶対にやってはいけないこと1.査読者への攻撃的な回答を生成させる感情的になりそうなときこそ、冷静に。ChatGPTに「この査読者は間違っている」と言わせても、採択にはつながりません。2.存在しない文献を引用させるChatGPTは架空の論文を生成することがあります。すべての引用は自分で確認を。3.未発表データや患者情報を入力する守秘義務に反する可能性があります。4.ChatGPTの出力をそのまま投稿する必ず自分の目で確認し、修正を加えてください。推奨される使い方1.下書き・たたき台として使うゼロから書くより、ChatGPTの出力を修正するほうが効率的です。2.表現の選択肢を得る「この文をもっとフォーマルに」「別の言い方は?」と聞くと、選択肢が広がります。3.チェックリストとして使う「カバーレターに含めるべき要素は?」と確認に使うのも有効です。4.英語の勉強として使う修正理由を日本語で説明させると、英語力向上にもつながります。AI使用の開示について第5回でもお伝えしましたが、論文執筆過程でAIを使用した場合は、適切に開示することが求められています。カバーレターへの記載例:We used ChatGPT (OpenAI, GPT-4) for English language editing and proofreading of this manuscript.All AI-generated content was reviewed and verified by the authors, who take full responsibility for the final content.Take-Home Message論文投稿から採択までのプロセスは、論文執筆と同じくらい重要です。ChatGPTを「投稿支援アシスタント」として活用することで、このプロセスを効率化できます。【本日のポイント】英文校正はChatGPT+DeepL逆翻訳で確認ChatGPTで校正した英文をDeepLで日本語に戻し、意図した内容になっているか確認します。この二段階チェックで、英文校正サービスなしでも十分な品質を確保できます。カバーレターは「たたき台」を生成必要な要素を含んだ下書きを作成し、自分の言葉でカスタマイズすることで、説得力のあるカバーレターが完成します。査読対応は「丁寧さ」が命批判的なコメントにも感謝と謙虚さを示しながら、論理的に回答することが採択への近道です。ChatGPTに丁寧な表現を提案させましょう。すべてのAI出力は必ず確認引用文献の存在確認、医学的正確性のチェック、投稿規定との整合性など、最終確認は必ず自分で行ってください。論文投稿は時間と根気のいる作業ですが、ChatGPTという強力なアシスタントを得ることで、そのハードルは確実に下がります。ぜひ活用して、研究成果を世界に発信してください。

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高齢者の減薬、EHRによる医師への通知が有効/JAMA

 高齢者に対する「潜在的に不適切な薬剤」、とくにベンゾジアゼピン系薬剤や抗コリン薬の処方は、転倒や入院のリスクを約30%増加させることが知られている。臨床ガイドラインは、これらの薬剤の使用制限を推奨しているが、多忙な診療現場における時間の制約や、患者の希望、現状維持バイアスなどが障壁となり、減薬(deprescribing)による処方の適正化は容易ではないという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院・ハーバード大学のJulie C. Lauffenburger氏らは「NUDGE-EHR-2試験」において、行動科学の知見に基づく電子健康記録(EHR)への介入ツール(ナッジ[nudge]と呼ばれる医師への通知システム)が、高齢患者における不適切な処方の削減にきわめて有効であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年1月29日号で報告された。201人のプライマリケア医(PCP)が参加した3群無作為化優越性試験 NUDGE-EHR-2試験は、米国ボストン市のマサチューセッツ総合病院で実施した実践的な3群並行無作為化優越性試験(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。201人のプライマリケア医(PCP)を、2022年11月、3つの群にクラスター無作為化した。 対象は、無作為化されたPCPの患者で、年齢65歳以上、2022年11月10日~2024年3月15日にPCPを受診し、過去180日間に1種類以上のベンゾジアゼピン系薬剤または非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬、あるいは2種類以上の抗コリン薬の処方を受けた患者であった。 PCPは、介入を受けず通常ケアを行う群または次の2つのEHR介入を受ける群に割り付けられた。(1)事前コミットメント介入群:初回診察時にEHRメッセージを受信し、患者と投薬のリスクや減薬(薬剤の漸減・中止)について話し合いを開始するよう要請された。2回目およびそれ以降の診察時には、患者に不適切な可能性のある薬剤の減薬を促すよう要請するEHRメッセージをリマインダーとして受信した。(2)ブースター介入群:初回診察時にEHRメッセージを受信し、患者に減薬を促すよう要請された。PCPは、4週間後にリマインダーを送信するよう設定することができ、これを設定したPCPは受信箱でリマインダーを受け取った。 主要アウトカムは、初回診察時から追跡期間終了時までに行われた1種類以上の減薬とした。減薬は、EHRデータを用いて患者レベルで評価した医師の主導による薬剤の中止または漸減と定義した。減薬率の改善、事前コミットメント介入群40%、ブースター介入群26% 1,146例(平均年齢73.6[SD 6.4]歳、女性799例[69.7%]、平均追跡期間289.9[SD 141.0]日)が解析に含まれた。PCPは平均5.7(SD 4.7)例の患者を診察した。平均受診回数は、事前コミットメント介入群が2.6(SD 2.2)回、ブースター介入群が2.3(SD 1.6)回、通常ケア群が2.2(SD 1.6)回だった。 373例(32.5%)で、少なくとも1種類の薬剤の減薬が達成された。内訳は、事前コミットメント介入群が145例(36.8%)、ブースター介入群が122例(34.3%)、通常ケア群が106例(26.8%)であった。 通常ケア群と比較して、減薬の割合は事前コミットメント介入群で40%高く(相対リスク[RR]:1.40、95%信頼区間[CI]:1.14~1.73、絶対群間差:10.4%)、ブースター介入群で26%高かった(RR:1.26、95%CI:1.01~1.57、絶対群間差:6.5%)。 有害事象報告システムを通じた重篤な有害事象の報告はなかった。手動によるEHRレビューに基づく死亡の報告は、事前コミットメント介入群で1.4%、ブースター介入群で3.9%、通常ケア群で1.8%であった。累積投与量が減少しなかった原因は 主要アウトカムの結果とは異なり、通常ケアと比較して2つの介入法は、ベンゾジアゼピン系薬剤、非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬、強力な抗コリン作用を有する薬剤の、処方された累積投与量を有意に減少させなかった。 この原因として、著者は、症例数がもっと多ければ差を検出できた可能性とともに、一部の医師が、介入の通知を受けて、ベンゾジアゼピン系薬剤および非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬を、抗コリン薬に代替した可能性があること、1つの薬剤クラスの使用を減らす一方で別の薬剤クラスを増やした可能性があると指摘している。

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日本の帯状疱疹罹患率、約10年で増加

 日本における帯状疱疹罹患率は2014年以降の約10年間で増加傾向にあり、罹患率は加齢に伴い増加することが明らかになった。自治医科大学の片山 真穂氏らが、日本のレセプトデータベースを用いた大規模解析の結果を、BMC Infectious Diseases誌2026年1月10日号に報告した。 本研究では、2014年4月~2023年3月の帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の標準化罹患率を検討するため、日本のレセプトデータベース(DeSCデータベース、約1,250万人のデータを含む)を用いた大規模解析を実施した。帯状疱疹発症後の入院および帯状疱疹後神経痛のリスクを評価するとともに、国のサーベイランスデータを用いて水痘罹患率の解析も行った。 主な結果は以下のとおり。・2014年4月~2023年3月、69万2,502人における72万7,117件の帯状疱疹エピソードを特定した。このうち、9万6,450人(13.9%)で9万9,153件の帯状疱疹後神経痛エピソードが確認された。・標準化罹患率は、帯状疱疹が1,000人年当たり9.58、帯状疱疹後神経痛が1.00であった。・2014~23年にかけて帯状疱疹の標準化罹患率は増加しており、推定年間変化率は帯状疱疹で1.16%(95%信頼区間:0.52~2.00)、帯状疱疹後神経痛で0.99%(同:0.09~3.04)であった。・帯状疱疹の標準化罹患率は加齢に伴い増加し、40~49歳では7.17、50~59歳では9.73、60~69歳では13.96、70~79歳では17.99、80歳以上では18.81であった。・加齢の影響は帯状疱疹後神経痛においてより顕著であり、同年齢群における標準化罹患率はそれぞれ0.37、0.78、1.78、2.97、および2.98であった。・帯状疱疹発症後の入院および帯状疱疹後神経痛の発生割合はそれぞれ4.8%および10.4%であり、70歳以上の群では50~59歳の群と比較して、リスク比が約2~3倍高かった。・帯状疱疹の罹患率は夏季に高かったが、水痘罹患率との関連はほぼ認められなかった。

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心不全の新たな治療戦略:次の10年を見据えて【心不全診療Up to Date 2】第6回

心不全の新たな治療戦略:次の10年を見据えてKey PointsHFpEF治療は「SGLT2阻害薬+MRAを基盤」とする新パラダイムが確立され、治療戦略は“症候改善のみ”から“イベント抑制”の時代へ心臓指向性AAVベクター(AB-1002)を用いた遺伝子治療が安全性と有効性のシグナルを示し、心不全治療に新しい地平を拓きつつあるIL-6を標的とした抗炎症療法や、CCMなどのデバイス治療が、GDMT抵抗性の心不全患者に対する新たな選択肢として開発が進むはじめに本連載では1年間にわたり、心不全診療の最新トピックスを取り上げてきた。最終回となる本稿では、現在臨床試験段階にある新規治療や将来有望な治療戦略について考えていきたい。HFrEF治療ではβ遮断薬、RAS阻害薬/ARNI、MRA、SGLT2阻害薬の「4本柱」が確立し、HFrEF患者の予後は著しく改善した。一方、高齢化の進展とともに増加する左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)、そしてGDMT(guideline-directed medical therapy)に抵抗性を示す患者に対しては、さらなる治療選択肢が求められている。本稿では、(1)HFpEF治療の新展開、(2)遺伝子治療、(3)抗炎症療法、(4)デバイス治療の4領域について、最新のエビデンスと今後の展望を述べる。HFpEF治療の新展開:フィネレノンの登場第4回で述べたように、HFpEF治療においてSGLT2阻害薬が不動の地位を確立した。これに加え、2025年7月、米国・FDAは非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)を、左室駆出率(LVEF)≧40%の心不全患者に対する適応で承認した。本邦でも、2025年12月22日、慢性心不全への適応追加が承認された。この承認の根拠となったFINEARTS-HF試験では、HFpEF/HFmrEF患者6,001例(左室駆出率(LVEF)≧40%、NYHA II~IV度)を対象に、標準治療へのフィネレノン上乗せ効果が検証された1)。中央値2.7年の追跡期間において、主要評価項目である心血管死および心不全イベント総数(初発および再発の心不全入院、緊急心不全受診)の複合は、フィネレノン群でプラセボ群と比較して16%有意に減少した。また、フィネレノンは従来のステロイド性MRA(商品名:スピロノラクトン、エプレレノン)と比較してMRへの選択性が高く、性ホルモン関連の副作用(女性化乳房など)が少ないことが特徴である2)。なお、本試験ではプラセボと比較して高カリウム血症の頻度は増加したが、従来のステロイド性MRAと比較して高カリウム血症リスクが低い可能性が示唆されてきた点や、忍容性の観点から実臨床での使いやすさが期待される薬剤と位置付けられる。フィネレノンの登場により、HFpEF/HFmrEFにおいても「SGLT2阻害薬+MRAを基盤とした治療」が現実的な標準治療戦略となりつつある。とくにCKDや糖尿病を併存する症例では、心不全イベント抑制とともに心腎双方のアウトカム改善を期待できる点で臨床的意義は大きい。第4回で述べた「SGLT2阻害薬を基盤とし、表現型に応じた治療を追加する」というHFpEF治療の新パラダイムにおいて、フィネレノンが加わることで、「SGLT2阻害薬+MRAを基盤とした治療」へと進化したといえる。なお、ステロイド性MRAのHFpEF患者に対する有効性は、TOPCAT試験の結果を受け※、SPIRRIT試験(NCT02901184)、SPIRIT-HF試験(NCT04727073)にて改めて検証中である。今後、nsMRAとステロイド性MRAの位置付けや使い分けが、HFpEF/HFmrEF領域における重要な論点となるだろう。※TOPCAT試験にて、HFpEFに対するMRAの有効性が検証されたが、結果は、心血管死、蘇生できた心停止、心不全入院の主要複合エンドポイントの有意な低下は認めなかったが…続きはこちら副次エンドポイントの1つである心不全入院については有意な低下を認めた(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.69~0.99、p=0.043)。心不全入院は、本試験の主要複合エンドポイントの中で最も高頻度に発生したイベントでもあり、心不全入院率低下、それによるQOL改善効果については有用性が期待できる結果であったといえる。また、本試験は事後解析でHFpEFに対するMRAの有効性に関する興味深いデータが多く報告されていることでも有名な試験である。その1つとして、本試験は、12ヵ月以内の心不全(各施設の診断)の入院歴(第1層)、またはこれを満たさない場合、60日以内のナトリウム利尿ペプチド上昇(BNP≧100pg/mLあるいはNT-proBNP≧360pg/mL)(第2層)をエントリー条件とした試験であるが、その第2層でエントリーされたサブグループにおいては、主要エンドポイントの低下が認められた4)。また、本試験は米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジルというグループと、ロシア、グルジアというグループの間に心不全の重症度や試験開始後の収縮期血圧4)、イベント発生に大きな差があっただけでなく、前者のグループでは1次エンドポイントに有意差が認められた5)。さらには、スピロノラクトンを内服していれば血中に認めるはずの代謝産物が、ロシアの症例では認めない症例の割合が30%とかなり多かったという報告があり(米国やカナダの症例では3%のみ)、ロシアの症例ではアドヒアランスがかなり悪かった(スピロノラクトン群であるにもかかわらずスピロノラクトンがしっかり内服されていなかった)可能性も指摘されている6)。心不全に対する遺伝子治療の進歩心不全に対する遺伝子治療は、これまでSERCA2a(筋小胞体Ca2+-ATPase)を標的としたCUPID試験シリーズが先駆的に行われてきた。CUPID第I/II相試験では、AAV1ベクターを用いたSERCA2a遺伝子の冠動脈内投与が安全に実施され、予備的な有効性シグナルが観察された7-9)。しかし、続く第IIb相試験(CUPID2)では主要評価項目を達成できなかった。その原因として、AAV1ベクターの心臓向性(cardiotropism)の限界、投与量の不足、既存の中和抗体の影響などが指摘されている。2025年、Nature Medicine誌に新たな遺伝子治療AB-1002のfirst-in-human第I相試験結果が報告され、心不全遺伝子治療に再び期待が高まっている10)。AB-1002は、心臓向性を強化したキメラAAVベクター(AAV2i8)を用いて、恒常活性型プロテインホスファターゼ1阻害因子(I-1c)を心筋細胞に導入する治療法である。心不全患者では、プロテインホスファターゼ1(PP1)の活性が亢進し、ホスホランバン(phospholamban:PLN)の脱リン酸化が進行してSERCA2a活性が低下する。I-1cはPLNの脱リン酸化を抑制することでSERCA2a活性を回復させ、カルシウムサイクリングを正常化する。すなわち、CUPID試験がSERCA2aの「発現量増加」を目指したのに対し、AB-1002は「活性回復」という異なるアプローチを採用している。本試験では、非虚血性心筋症によるNYHA III度心不全患者11例(LVEF 15~35%)を対象に、冠動脈内投与によるAB-1002の単回投与が実施された10)。低用量群と高用量群の2コホートで検討され、12ヵ月の追跡が行われた。主要評価項目である安全性について、治療に起因する重篤な有害事象は認められず、1例の死亡(治療との関連なしと判定)を除き、有害事象は軽度から中等度であった。高用量群で一過性の肝酵素上昇が観察されたが、自然軽快している。有効性評価では、両群でNYHAクラスの改善、LVEFの改善、peak VO2や6分間歩行距離の改善傾向が観察された。もちろん、長期有効性、安全性、費用対効果といった課題は残されている。しかしAB-1002は、「心不全を遺伝子レベルで修飾する時代」が現実味を帯びてきたことを示す重要な一歩であり、現在進行中の第II相GenePHIT試験(NCT05598333)を含め、今後の大規模試験の結果が強く待たれる。(表1)AAVベクターを用いた心不全遺伝子治療の臨床開発の歩み画像を拡大する炎症を標的とした新規治療心不全の病態生理において炎症が重要な役割を果たすことは古くから知られていたが、初期の抗炎症療法は期待された結果を示せなかった。TNF-α阻害薬を用いたATTACH試験およびRENEWAL試験は、いずれも有効性を示すことができず、むしろ高用量群では有害事象の増加が観察された11-13)。これらの失敗は、心不全における炎症制御の複雑さを示すとともに、より選択的な標的の必要性を浮き彫りにした。近年、インターロイキン(IL)シグナルを標的とした治療戦略に注目が集まっている。IL-1βに対するモノクローナル抗体カナキヌマブ(商品名:イラリス)を用いたCANTOS試験では、心筋梗塞の既往歴がある高感度C反応性蛋白(hsCRP)値2mg/L以上の患者において主要心血管イベントの有意な減少が示され、さらに心不全入院リスクの低下も観察された14)。この結果を受けて、心不全患者を対象としたIL-1阻害薬anakinra(国内未承認)の複数の第II相試験が実施され、運動耐容能や炎症マーカーの改善が報告されている15)。TNF-α阻害薬が失敗に終わった一方で、IL-1βやIL-6が注目されている背景には、これらのサイトカインが動脈硬化・心不全リモデリングにおける慢性炎症ネットワークの”ハブ”として機能しているという病態理解の進展がある。すなわち、全体の炎症反応を無差別に抑え込むのではなく、病態の中核となるシグナルを選択的に制御する方向に戦略がシフトしているといえる。さらに、IL-6を直接標的とした大規模臨床試験が複数進行中である。IL-6リガンド阻害薬ziltivekimabは、動脈硬化性心血管疾患の既往を有するCKD患者(hsCRP≧2mg/L)を対象としたZEUS試験(NCT05021835)、HFpEF/HFmrEF患者(hsCRP≧2mg/L)を対象としたHERMES試験(NCT05636176)、急性心筋梗塞入院患者を対象としたARTEMIS試験(NCT06118281)などで検証中である。2025年に発表されたACC Scientific Statementは、心血管疾患における炎症の役割を包括的にまとめ、今後の抗炎症療法の方向性を示している16)。IL-6阻害薬の心不全に対する大規模試験結果は2026年後半から2027年にかけて報告される見込みであり、心不全治療における炎症制御の意義が明らかになることが期待される。デバイス治療の新たな展開:心臓収縮力調節療法心臓収縮力調節(Cardiac Contractility Modulation:CCM)療法は、心臓の絶対不応期に非興奮性電気刺激を与えることで心筋収縮力を増強する植込み型デバイス治療である。心臓再同期療法(CRT)の適応とならないQRS幅正常(<130ms)の症候性心不全患者に対する新たな治療選択肢として注目されている17)。CCM療法の作用機序は、非興奮性電気刺激により細胞内カルシウムハンドリングが改善され、心筋収縮力が増強されることに加え、心不全で異常発現している複数の遺伝子発現を正常化することにあるとされる18)。興味深いことに、このカルシウムハンドリングの改善という点で、前述の遺伝子治療AB-1002と共通する機序を有している。FIX-HF-5C試験およびFIX-HF-5C2試験の結果から、CCM療法はLVEF 25~45%の症候性心不全患者において、運動耐容能(peak VO2)とQOL(Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire)を有意に改善することが示されている19)。また現在、HFpEF/HFmrEF患者(LVEF 40~70%)を対象としたAIM HIGHer試験(NCT05064709)が進行中であり、GDMT抵抗性のHFpEF/HFmrEF患者に対するCCM療法の有効性が検証されている。第4回で述べたように、HFpEF/HFmrEFにおいても収縮障害が潜在している可能性があり、CCM療法による収縮力増強が有効であるかどうか結果が楽しみである20,21)。また、HFrEF患者を対象としたCCM療法とICDを組み合わせたCCM-Dシステムの第III相INTEGRA-D試験(NCT05855135)も2025年に組み入れを完了しており、心不全症状の軽減と突然死予防の両立を目指した新たなデバイス戦略として期待されている。おわりに:次の10年に向けて1年間の連載を通じて、心不全診療が近年急速に進歩していることをお伝えしてきた。HFrEFに対する「4本柱」の確立、HFpEFに対するSGLT2阻害薬とフィネレノンの登場、インクレチン製剤による肥満合併HFpEFへの新たなアプローチ、そして特定の心筋症に対する分子標的治療(例:マバカムテン、ブトリシラン、アコラミディス)など、治療選択肢は着実に広がっている。今後の10年を展望すると、本稿で紹介した遺伝子治療や抗炎症療法といった病態修飾治療の実用化、精密医療(Precision Medicine)の進展、そしてデバイス治療のさらなる進化が期待される。とくに、心不全の表現型(phenotype)に基づいた個別化治療戦略の確立は、治療反応性を最大化し、非反応者を最小化するために不可欠である。画像を拡大する心不全治療は今も進化の途上にあり、その最前線はこれからも更新され続けるだろう。本連載が、その変化を少しでも臨床現場につなぐ一助となっていたなら望外の喜びである。最後に、本連載を1年間ご愛読いただいた先生方に心より感謝申し上げる。心不全診療は依然として多くの課題を抱えているが、エビデンスに基づいた最適な治療を患者一人ひとりに提供することで、予後改善とQOL向上を実現できると確信している。読者の先生方とともに、今後も心不全診療のさらなる発展に貢献していきたい。 1) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 2) Agarwal R, et al. Eur Heart J. 2021;42:152-161. 3) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 4) Shah AM, et al. Circulation. 2015;132:402-414. 5) Rossignol P, et al. Circulation. 2015;131:7-10. 6) de Denus S, et al. N Engl J Med. 2017;376:1690-1692. 7) Hajjar RJ, et al. J Card Fail. 2008.;14:355-367. 8) Jessup M, et al. Circulation. 2011;124:304-313. 9) Zsebo K, et al. Circ Res. 2014;114:101-108. 10) Henry TD, et al. Nat Med. 2025;31:3845-3852. 11) Chung ES, et al. Circulation. 2003;107:3133-3140. 12) Mann DL, et al. Circulation. 2004;109:1594-1602. 13) Lincoff AM, et al. JAMA. 2003;289:853-863. 14) Ridker PM, et al. N Engl J Med. 2017;377:1119-1131. 15) Hartrampf N, et al. Science. 2020;368:980-987. 16) Mensah GA, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;S0735-1097:07555-2. 17) Pipilas DC, et al. J Soc Cardiovasc Angiogr Interv. 2023;2(6Part B):101176. 18) Butter C, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;51:1784-1789. 19) Abraham WT, et al. JACC Heart Fail. 2018;6:874-883. 20) Talha KM, et al. J Card Fail. 2022 Dec;28:1717-1726. 21) Tschope C, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:3531-3535.

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第304回 両肺摘出男性の命を人工肺装置が丸2日間つなぎ留め、両肺移植を可能にした

米国のNorthwestern Medicineの外科医が開発した人工肺装置が、両肺摘出男性の両肺移植までの丸2日間の命をつなぎ留めました1,2)。インフルエンザ、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などのさまざまな疾患が肺を脅かします。肺炎や敗血症を発端として生じる重度のARDSはとくに命に関わり、死亡率は80%を超えます。ARDSはたいてい人工呼吸や酸素投与で治療され、幸いにして危機を乗り越えられるかもしれません。しかしARDS患者の肺がもはや後戻りできないほどに損傷しているのか、それとも回復しうるのかを判断するのは非常に困難です。それに、肺損傷が不可逆的で肺移植がどうやら必要となったとしても、敗血症の持続やおぼつかない臓器の心配により肺移植に踏み切ることはめったにありません。Northwestern Medicineの胸部手術部の長であるAnkit Bharat氏らも33歳のある患者を前にしてまさにその課題に直面しました3)。その男性患者はインフルエンザをこじらせて肺が機能しなくなり、最大限の治療の甲斐なく急速に進行する壊死性細菌性肺炎と怒涛の敗血症に陥りました。悲しいかな病状は悪化し続け、体外式膜型人工肺(ECMO)を施すも心臓が停止を繰り返すようになります。最も重症のARDS患者はやがて肺が回復することを願ってしばしば長期の生命維持装置にかけられます。しかし、肺自体が間断なく続く感染や炎症の出所となって臓器不全を誘い、肺を取り除いて置き換えるしか手の打ちようがなくなることもあります。Bharat氏らが開発した人工肺は血液を酸素で満たす以上の働きを担い、生来の肺がなくても安定した血液循環を保てるようにします。取り除いた両肺に代わるその人工肺のもとで男性は感染症を克服し、1日もすると快方に向かいました。丸2日間で男性の体調は移植できるほどに回復し、28歳の男性からの両肺の移植に晴れて漕ぎ着けることができました。患者から取り除いた肺を解析したところ、免疫の仕業でほうぼうが傷んでいました。肺の修復に必要な細胞はほぼ見当たらず、瘢痕を形成する細胞がそこら中におり、肺の本来の構造がすっかり失われていました。甚大な損傷が肺全域に及ぶ様はまさに肺移植を標準の手立てとする末期の肺線維症に似ていました3)。それらの観察結果は、肺の重度感染での損傷が回復可能かもしれない段階から後戻りできない不可逆的段階に移行したかどうかを見極めるのに役立ちそうです。重度ARDSへのこれまでの手立てといえばだいたいが人工呼吸などで生命を維持して肺の回復を期待するしかありませんでした。しかし今回の患者の肺には実質的に不可逆的な重度損傷を示唆する線維化が見て取れ、回復を待つのは無駄で両肺移植する以外に回復し得ない場合があることを裏付けています。Bharat氏らの人工肺で両肺移植までの命をつなぎ留めた男性患者は、移植後2年時点ですこぶる良好な心肺機能を保っています。より標準化された装置や手順の開発が今回の経験を足がかりにして加速し、患者が移植まで安全に漕ぎ着けるようになることをBharat氏らは望んでいます2)。参考1)Yan Y, et al. Med. 2026 Jan 29. [Epub ahead of print] 2)Northwestern Medicine surgeons develop a total artificial lung system to keep a patient alive for 48 hours after removing both lungs, enabling a double-lung transplant / Northwestern Medicine3)Artificial Lungs Keep Patient Alive While Waiting for a Transplant / TheScientist

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第303回 がん細胞が作るアルツハイマー病予防タンパク質を発見

中国の研究者らによる10年を優に超える研究が実を結び、がん細胞が放つタンパク質のシスタチンC(Cyst-C)がどうやらアルツハイマー病を阻止する効果を担うことが突き止められました1,2)。がんとアルツハイマー病の併発がまれなことは長く知られており、そのどちらかがもう片方を防ぐ仕組みがあるのかもしれないと考えられてきました。イタリア北部の100万人超を調べた2013年の報告では、アルツハイマー病患者のがんのリスクは50%低く、がん患者のアルツハイマー病のリスクは35%低いことが示されています3)。米国でのFramingham Heart試験も同様で、がん生存者のアルツハイマー病のリスクががんでない人に比べて33%低いという結果となっています4)。最近のメタ解析でもやはりがん患者はアルツハイマー病をより免れていました。2020年9月2日までの22の観察試験の960万例超が解析され、がんと診断された人のアルツハイマー病発生率はがんではない人より11%低いことが示されます5)。アルツハイマー病の病変を抑制するがんの効果を示唆する報告もあります。785例を死ぬまで追跡した試験では、アルツハイマー病のアミロイドやタウ病変の程度ががんと診断された人では低くて済んでいました6,7)。それらの裏付けの数々に背中を押され、中国の武漢市の華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)の神経学者Youming Lu氏らはがんがアルツハイマー病を生じにくくする仕組みを調べることを思い立ちます2)。まずLu氏らは研究に最適なマウス作りに取り掛かります。実に6年の歳月を費やした後に、アルツハイマー病を模すマウスに3種類(肺、前立腺、大腸)の腫瘍を移植する手段に行き着きます。それらのマウスはアルツハイマー病に特有の脳のアミロイド病変を生じずに済みます。続いてがん細胞が放つタンパク質の数々を解析し、血液脳関門を通過して脳に浸透しうるタンパク質が探索されました。6年を超える取り組みの甲斐あって、Lu氏らはとうとうCyst-Cにたどり着きます。Cyst-Cは脳のアミロイド重合体に結合し、続いて脳の免疫細胞のマイクログリアの受容体TREM2を活性化します。そうしてマイクログリアがアミロイド病変を分解できるようにします。水に濡れずに済む抜け道をマウスに覚えさせる迷路実験でCyst-Cの記憶改善効果も確認されました。アルツハイマー病マウスはその抜け道を探すのに苦労しますが、Cyst-Cやがん細胞の分泌タンパク質一揃いを与えたところ手際が良くなり、抜け道をより早く見つけられるようになりました8)。アルツハイマー病の薬といえば大抵が脳の新たな障害の予防が焦点ですが、Cyst-Cはすでに生じてしまったアミロイド病変の除去を促す効果があります。ヒトでもマウスと同様の効果があるなら、認知症の新たな治療法へと通じる道が開けそうです。参考1)Li X, et al. Cell. 2026 Jan 22. [Epub ahead of print] 2)Cancer might protect against Alzheimer’s - this protein helps explain why / Nature3)Musicco M, et al. Neurology. 2013;81:322-328.4)Driver JA, et al. BMJ. 2012;344:e1442.5)Ospina-Romero M, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e2025515.6)Karanth SD, et al. Brain. 2022;145:2518-2527.7)Cancer Tied to Reduced Risk of Alzheimer’s Disease / TheScientist8)Cancer tumors may protect against Alzheimer's by cleaning out protein clumps / Medical Xpress

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妊娠中のアセトアミノフェン、神経発達症と関連なし

 アセトアミノフェンは、妊娠中の解熱・鎮痛の第1選択薬であり、非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドより安全性が高いとされる一方で、近年自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症への影響が議論され、注目を集めた。そこで、イタリア・University of ChietiのFrancesco D'Antonio氏らは、妊娠中のアセトアミノフェン使用と児のASD、注意欠如・多動症(ADHD)、知的障害(ID)リスクの関連を検討するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦のアセトアミノフェン使用とこれらの神経発達症のリスクとの間に関連はみられなかった。本研究結果は、The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health誌オンライン版2026年1月16日号に掲載された。 研究グループは、MEDLINE、Embase、ClinicalTrials.gov、Cochrane Libraryを用いて、2025年9月30日までに発表されたコホート研究を検索した。対象の研究は、妊娠中のアセトアミノフェン使用と小児アウトカム(ASD/ADHD/ID)を評価し、調整済み推定値が示されているものとした。本研究の主要解析では、きょうだい比較を用いた研究に限定して、妊娠中のアセトアミノフェン使用とASD、ADHD、IDの関連を評価した。また、バイアスリスクが低い研究や追跡期間が5年以上の研究についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューには43件の文献が抽出され、そのうち17件がメタ解析の対象となった。・きょうだい間比較を用いた研究において、妊娠中のアセトアミノフェン使用は、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連がみられなかった。オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:0.98、0.93~1.03、p=0.45、I2=0% ADHD:0.95、0.86~1.05、p=0.31、I2=18% ID:0.93、0.69~1.24、p=0.63、I2=48%・バイアスリスクが低い研究のみに限定した解析でも、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連はみられなかった。OR、95%CI、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:1.03、0.86~1.23、p=0.78、I2=75% ADHD:0.97、0.89~1.05、p=0.49、I2=10% ID:1.11、0.92~1.34、p=0.28、I2=57%・調整済み推定値を報告したすべての研究を含めた解析や、5年以上の追跡期間を有する研究に限定した解析においても、一貫して関連はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「現在のエビデンスでは、用法・用量どおりにアセトアミノフェンを使用した妊婦の児において、ASD、ADHD、IDが臨床的に重要な程度で増加することは示されなかった。これらの知見は、妊娠中のアセトアミノフェンの安全な使用に関する現在の推奨を支持するものである」とまとめている。

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ECMO装着心原性ショックにlevosimendanの早期投与に関する有効性は明らかではなかった(解説:加藤貴雄氏)

 levosimendanは、心筋収縮タンパク質をカルシウムに感受させることで心収縮力を高めるカルシウム増感剤として強心薬作用を持ち、血管平滑筋におけるATP依存性カリウムチャネルの開口を通して末梢と冠動脈の両方の血管を拡張する薬剤であり、1週間作用が持続するため、1回24時間の静脈注射で使用される。ESCのガイドラインに記載されているが(McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021;42:3599-3726.)、本邦・米国では未承認で記載もされていない。心原性ショックにおける有効性を支持するエビデンスは限られており、これまでの研究結果は一貫していない。 このLEVOECMO研究(Combes A, et al. JAMA. 2026;335:60-69.)は、重度で回復可能性のある心原性ショック患者において、早期のlevosimendan投与が静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)の離脱時間を短縮し、生存率を改善するかどうかを評価することを目的とした。本研究は、フランスの11の集中治療室で実施された多施設共同、二重盲検、プラセボ対照ランダム化臨床試験であり、levosimendanの早期投与がVA-ECMOの離脱成功率や患者の生存率に与える影響を明らかにすることを目指した。 結果として、VA-ECMOによる補助を受けている重度心原性ショック患者を対象とした試験の結果、早期のlevosimendan投与では、プラセボと比較して30日以内のECMO離脱成功までの期間は有意に短縮しなかった。levosimendan投与では、ECMO装着期間、ICU滞在期間、および60日死亡率といった副次評価項目も有意に改善しなかった。levosimendan群では心室性不整脈の発生頻度が高かった(17.8%対8.7%)。 本研究では、サンプルサイズ計算に50%の離脱失敗率を仮定していたが、実際には32%であった。40%弱が心筋切除術後、68%という高い離脱率、28%という低い60日死亡率、高いカテコラミン併用率(ドブタミンは80%、ノルエピネフリンは70%)が結果に影響した可能性はあるが、現時点での使用を推奨する結果ではなかった。心機能、血行動態の安定性、組織灌流の改善効果を期待する場合、重症例に早期から使用するか、他に手がなくなって使用するか、選択の分かれ目になる。心原性ショックの病因の違いなど、さらなるエビデンスの集積を待ちたいところである。また、HFpEFの肺高血圧に対する経口薬の試験(LEVEL試験)も進行中である(Yaku H, et al. J Card Fail. 2025 Jul 7. [Epub ahead of print])。

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市中敗血症への抗菌薬、4日目からde-escalationは可能?

 市中発症敗血症で入院し、多剤耐性菌感染が確認されていない患者において、入院4日目から広域抗菌薬のde-escalationを実施しても、広域抗菌薬継続と比較して90日死亡率に差は認められず、抗菌薬使用日数および入院期間の短縮と関連していたことが報告された。米国・ミシガン大学のAshwin B. Gupta氏らが、本研究結果をJAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年12月22日号で報告した。 研究グループは、Michigan Hospital Medicine Safety Consortium(HMS)のデータを用いて、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬および抗緑膿菌(PSA)薬のde-escalationの影響をtarget trial emulationの手法で検討した。対象は、2020年6月~2024年9月に入院し、広域抗菌薬によるエンピリック治療を開始した18歳以上の市中発症敗血症患者とした。入院1日目または2日目に多剤耐性菌感染が確認された患者は除外した。抗MRSA薬、抗PSA薬について、入院4日目にde-escalationを実施した群と、広域抗菌薬の投与を継続した群の2群に分類して評価した。主要評価項目は90日死亡率とし、副次評価項目は抗菌薬使用日数(14日目まで)、入院期間などとした。逆確率重み付け法を用いて、背景因子を調整し、2群の比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・抗MRSA薬の解析対象は6,926例であり、そのうち2,993例(43.2%)でde-escalationが実施された。・抗PSA薬の解析対象は1万1,149例であり、そのうち2,493例(22.4%)でde-escalationが実施された。・重み付け後の解析において、抗MRSA薬のde-escalationは、継続と比較して90日死亡率に有意な差は認められなかった(オッズ比[OR]:1.00、95%信頼区間[CI]:0.88~1.14)。・抗PSA薬のde-escalationについても、継続と比較して90日死亡率に有意な差は認められなかった(OR:0.98、95%CI:0.86~1.13)。・抗MRSA薬および抗PSA薬のいずれも、de-escalationは、抗菌薬使用日数の減少、入院期間の短縮と関連した。詳細は以下のとおり。 <抗菌薬使用日数(中央値)> 抗MRSA薬:8日vs.10日(リスク比[RR]:0.91、95%CI:0.89~0.93) 抗PSA薬:8日vs.9日(RR:0.91、95%CI:0.88~0.93) <入院期間(中央値)> 抗MRSA薬:7日vs.8日(RR:0.88、95%CI:0.85~0.92) 抗PSA薬:5日vs.7日(RR:0.88、95%CI:0.80~0.96)・入院3日目時点で臨床的に安定していた患者のサブグループ解析では、抗MRSA薬のde-escalationは90日死亡率の低下と関連した(OR:0.72、95%CI:0.54~0.96)。抗PSA薬のde-escalationも同様の傾向がみられた(同:0.76、0.58~1.01)。・抗PSA薬のde-escalationは、探索的アウトカムである90日再入院の減少と関連していた(RR:0.87、95%CI:0.76~0.99)。抗MRSA薬のde-escalationでは、この傾向はみられなかった(同:1.04、0.92~1.17)。・de-escalationの実施割合は病院間で2倍以上のばらつきがあった(抗MRSA薬:27.3~61.7%、抗PSA薬:6.9~37.7%)。 著者らは、本研究結果について「多剤耐性菌が検出されなかった市中発症敗血症患者において、入院4日目の広域抗菌薬のde-escalationは安全であり、抗菌薬使用日数の減少および入院期間の短縮につながる可能性がある」と結論付けている。

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尿路感染症状を伴わない細菌尿【日常診療アップグレード】第47回

尿路感染症状を伴わない細菌尿問題57歳女性。3日前に脊椎硬膜外膿瘍のため手術を受けた。手術室で留置された尿道カテーテルを装着している。昨日、38.3℃の発熱が認められ、尿検体を尿検査および培養検査に提出した。服用中の薬剤はアムロジピン、アトルバスタチンである。身体診察では37.3℃の発熱以外はバイタルサインに異常はない。背部の切開部位に軽度の発赤を認めるが、滲出液は認めない。恥骨上部の圧痛や肋骨脊柱角叩打痛は認めない。白血球8,500/μL、尿検査:エステラーゼ陽性、白血球22/HPF、尿培養:103CFU/mL、感受性良好なEscherichia coliが検出された。尿バルーンを抜去し、セファレキシンを開始した。

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「クリップ一辺倒」の終焉か?最新デバイスが僧帽弁治療を切り拓く【臨床留学通信 from Boston】第19回

「クリップ一辺倒」の終焉か?最新デバイスが僧帽弁治療を切り拓く執筆時点では年末ですが、米国ではクリスマスまでが盛り上がりのピークであり、年末年始は意外なほど静かです。大晦日まで仕事、元日のみ休日ですが、2日からまた仕事という具合です。ちょうど私のフェローシップも半分弱が経過しました。ここで、これまでの手技経験数を振り返ってみたいと思います。現在、フェローは2人体制ですが、以下の症例のうち約7割で私が第1フェロー(primary fellow)として手技を担当しています。また、デバイスが多岐にわたるため、第2フェロー(secondary fellow)としてscrub inすることで理解が深まると考えています。TAVR:169件(うちValve in Valve 22件)TMVR(経カテーテル僧帽弁置換術):3件(Edwards Lifesciences社のSapien valveをMitral valveに植え込む処置で、Valve in Valve、Valve in Ring、Valve in MACなど)MitraClip:52件TriClip:7件(双方僧帽弁・三尖弁逆流に対するクリップ術)Evoque(経皮的三尖弁置換術):4件PFO/ASD閉鎖術:15件Watchman/Amulet device(左心耳閉鎖術):17件私の所属するBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)は、米国でも数少ないElectrosurgery(電気手術)を積極的に行う施設です。たとえばTAVR時のValve in Valveで、既存の弁が冠動脈を閉塞するリスクがある場合、冠動脈ワイヤーで弁葉(leaflet)を貫通・切開してリスクを回避する処置も行います。それを僧帽弁のTMVRや、肥大型心筋症(HOCM)に対する心室中隔の切開などにも応用されます。ただしこれらの処置は、現時点での症例数は10件にも満たないため、半年を経過した今も、まだ「自分で完遂できる」とまでは言えません。こうした手技をより簡便にするデバイスの進化も目覚ましいものがあります。TAVRに関してはleaflet modification deviceの「ShortCut」というデバイスが米国では認可されています。この「大きなハサミ」のようなデバイスで切断することも可能です。また、現在治験段階にある僧帽弁置換専用デバイスの「Intrepid」や、2025年12月23日に米国食品医薬品局(FDA)に認可された「SAPIEN M3」などの登場により、これまでクリップ一辺倒だった僧帽弁治療がガラリと変わる可能性があります。近年、リウマチ熱による僧帽弁狭窄症(MS)は激減していますが、一方で僧帽弁輪石灰化(MAC)に伴うMSや逆流症(MR)は増加傾向にあります。MSを合併しているとクリップ術が適応外となるため、このような患者層にはM3のようなデバイスがかなり活躍するでしょう。渡米して8年目になりますが、新しい処置を学び、短期間でこれほど多くの症例を経験できる環境に感謝しています。現時点でシンプルなTAVRであれば確実にできるとして、6月のフェロー修了までに自立できるかが鍵だと考えています。2026年も気を引き締めて頑張っていこうと思います。

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第300回 新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる

新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる射精してから間もない新調したての精子を使った体外受精(IVF)がどうやら妊娠の成功を増やすようです1,2)。体外受精では、精子を採取する2~7日前に前もって射精しておくことがたいてい男性に指示されます。できるだけ健康な精子が体外受精で受精するようにするためです。精巣で精子がより長く留まるとさまざまな内なる毒素、とくには活性酸素種(ROS)や、汚染物質などの外襲に見舞われる期間も長くなります。それが原因で精子はDNAを傷めて役目を果たせないようになるかもしれません。実際、精巣での滞在期間がより短い精子ほど質が良いのは本当のようです。2年ほど前のメタ解析では、前の射精から4日間以内の不妊男性の精液の質の改善がみられています3)。3年ほど前の別のメタ解析では前の射精後すぐの4時間以内の精子はDNA損傷が少なく、よく動くという結果が得られています4)。さらには、射精控えの期間が短いほどどうやら妊娠しやすくなることが、卵子に精子を直に注入する体外受精(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)の1,691回の取り組みを調べた試験で示されています5)。しかし、精子が卵子に泳いで行く昔ながらの体外受精(conventional in vitro fertilization:c-IVF)で射精控えを短くすることに同様の取り柄があるかどうかはよくわかっておらず、c-IVFに最適な射精控えの期間も定まっていません。そこで中国の吉林大学第一病院(First Hospital of Jilin University)のYueying Zhu氏らは、同病院でc-IVFに臨むパートナー500組を募って、射精控え期間を短くすることに取り柄があるかどうかを無作為化試験で調べました。それらの男性はc-IVFの精子回収が先立つ2日以内の射精後の群(射精控え短期群)と標準の2~7日後の群(標準群)に1対1の割合で割り振られました。最終的に射精控え短期群の226組と標準群の227組が試験を完了しました。幸いにして射精控え短期群の妊娠継続(12週間以上の胎児の心臓の活動)達成率は標準群より有意に高く、それぞれ46%と36%でした(p=0.030)。射精から精子回収までの期間が短いことは精子不足でのICSI移行を増やすかもしれないとの懸念は当たらず、精子不足でのICSI移行率は両群で似たり寄ったりでした(それぞれ3%と2%)。今回報告された結果は試験の全容の一部にすぎません。被験者の経過の記録は進行中で、肝要の転帰である生児出生率を含むほかの評価項目が後に報告されます1)。盛りだくさんとはいえ今回の試験は1つの病院で実施されたものであり、多施設でより多くの被験者を募る試験でより短期の射精控えの効果を調べることが今後必要と著者は言っています。まだまだ調べることは多そうですが、より直前に射精しておくことが好調な精子を得る良い手段であることを今回の結果はひとまず示したようです2)。体外受精をしないパートナーの妊娠もそういう新調したての精子で改善するかどうかも今後の試験で判明しそうです。乗り物酔いの薬を米国承認身近な困りごとの薬を米国がここ40年で初めて承認しました6)。承認されたのは乗り物酔いの嘔吐を防ぐ飲み薬です。米国の製薬会社Vanda Pharmaceuticalsが開発しました。商品名はNereusです。Nereusは吐きそうな動き(motion)がある出来事(event)の1時間ほど前に1回きり経口服用します7)。その成分tradipitantは化学療法の悪心嘔吐の予防に使われる薬と同様にニューロキニン遮断作用を担います。米国の沿岸で被験者に船に乗ってもらった2つの第III相試験(Motion SyrosとMotion Serifos)でNereusの効果が裏付けられています。それらの試験で同剤投与群の嘔吐の発生率はプラセボ群の半分足らずで済みました8,9)。向こう数ヵ月のうちにNereusを米国で発売するとVanda社は同剤承認を知らせる先月末30日のニュースに記しています6)。参考1)Trigger-Day Ejaculation Improves Conventional in vitro fertilization Outcomes: A Prospective Randomized Controlled Trial. The Lancet on SSRN. 2025 Dec 2.2)IVF success may depend on how long men abstain from ejaculation / NewScientist3)Du C, et al. Andrology. 2024;12:1224-1235.4)Barbagallo F, et al. J Clin Med. 2022;11:7303.5)Gupta S, et al. J Hum Reprod Sci. 2021;14:273-280.6)Vanda Pharmaceuticals Announces FDA Approval of NEREUSTM(tradipitant)for the Prevention of Vomiting Induced by Motion7)NEREUS PRESCRIBING INFORMATION8)Polymeropoulos VM. et al. Front Neurol. 2025;16:1550670. 9)Vanda Pharmaceuticals Reports Positive Results from a Second Phase III Study of Tradipitant in Motion Sickness / PRNewswire

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健康診断の新視点、筋肉量指標で高血圧リスクを見える化

 従来のBMIでは筋肉量と脂肪量の違いを反映できないという問題がある。今回、男性の除脂肪体重指数(LBMI)を用い、低LBMIが高血圧リスクの増加と関連するという研究結果が報告された。BMIだけでは捉えられないリスク評価の重要性を提示している。研究は、慶應義塾大学医学部内科学教室の畔上達彦氏、東京大学医学部附属病院循環器内科先進循環器病学講座の金子英弘氏らによるもので、詳細は11月10日付で「Hypertension Research」に掲載された。 高血圧は心血管疾患や慢性腎臓病の主要リスク因子であり、世界的に重要な公衆衛生課題となっている。肥満は高血圧リスクの主要因子とされるが、BMIでは脂肪量と除脂肪体重(筋肉量)を区別できず、正確なリスク評価には限界がある。除脂肪体重を正確に測定するには高コストの画像検査が必要だが、近年、身長・体重・ウエストなどから推定できる簡易LBMIが開発され、日常の健康診断データでも評価が可能になった。しかし、この簡易LBMIを用いた高血圧リスク評価はこれまで行われていない。本研究では、健康診断や医療請求データを用いて、男性のLBMIと高血圧発症リスクの関連を後ろ向きに解析した。 本研究では、国民の行政保険請求データおよび年次健康診断記録を含むDeSCヘルスケア株式会社のデータベース(2014年4月~2022年11月)を用い、健康診断データが利用可能な男性98万5,521人を対象とした。主要評価項目である高血圧の発症は、診療報酬請求データに基づきICD-10コード(I10-I15)で同定した。リスク評価にはCox回帰モデルおよびスプラインモデルを用い、年齢や既往歴などの交絡因子で調整した。さらに、結果の頑健性を確認するため、層別解析および感度解析も実施した。 最終的な解析対象は、38万4,551人(年齢中央値51歳)であり、中央値1,393日の追跡期間中に4万312人(10.5%)が高血圧イベントを経験した。 まず、参加者のLBMIを四分位(Q1~Q4)に分類し、各群間で比較を行った。年齢、収縮期血圧および拡張期血圧、BMI、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒、身体活動を交絡因子として調整した多変量Cox回帰を用いて、LBMIと高血圧発症リスクの関連を評価した。その結果、LBMIが低い四分位に属するほど高血圧発症リスクが高く(ハザード比〔95%信頼区間〕:Q1, 1.20〔1.15~1.26〕;Q2, 1.06〔1.02~1.10〕;Q3, 1.03〔0.99~1.06〕;Q4, 1〔基準値〕)、制限付き三次スプライン回帰モデルでも、LBMIの低下に伴い高血圧リスクが上昇する傾向が確認された。 次に、年齢別(65歳未満または65歳以上)および非肥満者で層別化したサブグループ解析を行った。いずれの層別群においても、多変量Cox回帰の結果、LBMIが低いほど高血圧発症リスクが上昇する傾向が確認された。 さらに、主要解析結果の頑健性を確認する感度解析として、連鎖方程式による多重代入法で欠測値を補完し、50万5,696人を対象に解析を行った。この解析においても、LBMIが低い四分位(Q1)は高血圧発症の有意なリスク因子であった(同1.19〔1.14~1.24〕)。加えて、死亡を競合事象とした競合リスク解析においても、LBMIが低い四分位(Q1)で高血圧発症リスクの上昇が認められた(同1.23〔1.15~1.32〕)。 これらの層別解析および感度解析により、LBMIと高血圧発症リスクとの関連は解析手法や欠測値の扱いにかかわらず一貫して確認された。 本研究について著者らは、「男性においてLBMIが低いことは高血圧リスクの上昇と関連しており、除脂肪体重を指標とした管理の重要性が示唆された。今後は、その増加や維持がリスク低減につながるかどうかの検討が必要である」と述べている。

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第299回 Novo社の経口抗肥満薬ウゴービ錠を米国承認

Novo社の経口抗肥満薬ウゴービ錠を米国承認GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)ウゴービ(セマグルチド)を世に出して肥満治療の新たな時代を切り拓いたNovo Nordiskが、肥満に使う経口GLP-1薬の初の米国承認1)を手にして再び肥満治療を進歩させます。ウゴービ錠は先週の月曜日22日に米国で承認されました。注射のウゴービと同様に、心血管疾患を経ている過体重か肥満の成人患者の心血管疾患イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)リスクを減らす用途と、肥満か体重に関連する疾患を有する過体重の成人患者の過剰な体重を減らして体重減少を維持する用途が許可されました2)。胃腸の有害事象を被り難くするために、ウゴービ錠の服用量は徐々に増やしていきます。まずは1.5 mgを30日間1日1回服用し、大丈夫そうなら次の30日間(31~60日)は1日4mg、その次の30日間(61~90日)は1日9mgを服用し、91日目以降は維持用量の1日25mgを服用し続けることを目指します。患者が1日25mg服用に耐えられないなら、ウゴービ1.7mg注射に切り替えることを考慮します。ウゴービ錠の体重減少効果はOASIS 4と銘打つ第III相試験で裏付けられています。同試験には肥満か体重に関連する疾患を有する過体重の非糖尿病成人307例が参加し、ウゴービ群に割り振られた205例の64週時点での体重はベースラインに比べて14%減っていました2,3)。プラセボ群102例の64週時点の体重はほとんど変わらず2%ほど減ったのみでした。Novo Nordiskの経口GLP-1薬による肥満症治療が米国承認一番乗りしたわけですが、肥満治療分野でしのぎを削るEli Lillyの足音も近づいています。Eli Lillyの経口GLP-1薬orforglipronは今月中旬に発表された第III相ATTAIN-MAINTAIN試験の目標達成をもって準備が整い、米国にすでに承認申請しています4)。ウゴービ錠と同じくorforglipronも承認申請受理から1~2ヵ月以内に審査を済ませる優遇の対象となっており、順調にことが運べば早くも来年3月には米国承認に漕ぎ着ける段取りとなっています5)。第III相ATTAIN-1試験で、orforglipron高用量は過体重か肥満の患者の72週時点の体重をベースラインに比べて平均11.2%減らしています6)。よく効く注射のGLP-1薬の類いがここ数年で使えるようになったとはいえ、薬による治療を求める肥満患者は依然としてごく一握りのようです。Novo Nordiskの幹部の1人のMartin Holst Lange氏の説明によると、米国の肥満患者のうち薬を使っているのは2%足らずです7)。ウゴービ錠は注射を嫌う患者にも選ばれる可能性があり、冷やして保管する手間が要りません。これまで治療を求めなかったり受け入れなかったりした患者がウゴービ錠で助かると信じている、とNovo Nordiskの米国事業を率いるDave Moore氏は言っています1)。ウゴービ錠は米国で来年1月早々に発売されます。米国政府との取り決め8,9)に基づき、開始用量1.5mgの1ヵ月分が149ドルで提供されます。Eli Lillyのorforglipronも承認されたら最も低用量の開始分が同じく149ドルで提供されます10)。参考1)FDA approves Novo Nordisk's Wegovy pill, the first and only oral GLP-1 for weight loss in adults2)Wegovy PRESCRIBING INFORMATION3)Wharton S, et al. N Engl J Med. 2025;393:1077-1087.4)Lilly's orforglipron helped people maintain weight loss after switching from injectable incretins to oral GLP-1 therapy in first-of-its-kind Phase 3 trial5)Novo's Wegovy pill to test demand from consumers with cash6)Wharton S, et al. N Engl J Med. 2025;393:1796-1806.7)Novo Nordisk wins FDA approval for Wegovy in a pill, introducing first oral GLP-1 option for obesity8)Fact Sheet: President Donald J. Trump Announces Major Developments in Bringing Most-Favored-Nation Pricing to American Patients9)Novo Nordisk, Lilly strike deal with Trump to slash weight-loss drug prices10)What to know about orforglipron: An investigational oral GLP-1

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血圧変動が大きいと認知症リスクが高い?

 日本の国民健康保険データベースを用いた大規模な後ろ向きコホート研究において、血圧変動が大きいことは、降圧薬治療の有無にかかわらず認知症発症リスクの上昇と関連していたことが示された。この関連は、降圧薬の種類や処方数、服薬アドヒアランスを考慮しても認められた。佐藤 倫広氏(東北医科薬科大学)らが、本研究結果をHypertension Research誌オンライン版2025年11月10日号で報告した。 研究グループは、DeSCヘルスケアが提供する日本の国民健康保険データベースを用いて、5回の特定健診データ(血圧値含む)が得られ、死亡情報(資格喪失情報より特定)が取得可能であった50歳超の30万1,448例を解析対象とした。5回の特定健診における収縮期血圧の変動係数(SBP-CV)を用いて健診ごとの血圧変動を評価し、認知症発症リスク(抗認知症薬の新規処方を代替指標として定義)との関連を検討した。解析には死亡を競合リスクとしたFine-Grayモデルを用いて、ベースライン前365日以内の降圧薬処方の有無により未治療群と治療群に分けて評価した。治療群においては、降圧薬の種類や処方数、Medication Possession Rate(MPR)で評価した服薬アドヒアランスも調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象のうち男性の割合は38.6%、平均年齢は66.6歳であった。・追跡期間(平均:未治療群2.20年、治療群2.11年)中に、664例(未治療群366例、治療群298例)が認知症を発症した。競合リスクとしての死亡は未治療群1,254例、治療群1,115例に認められた。・SBP-CVの最高分位(第6分位)群は、治療の有無にかかわらず認知症リスクが最も高かった。一方で、第1~5分位では一定の傾向はみられなかった。・未治療群では、SBP-CV第6分位群(SBP-CV≧9.83%)は第1~5分位群と比較して、有意に認知症発症リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.50、95%信頼区間[CI]:1.17~1.92)。・治療群では、降圧薬の種類や服薬アドヒアランスの調整後においても、SBP-CV第6分位群(SBP-CV≧10.67%)は第1~5分位群と比較して、有意に認知症発症リスクが高かった(HR:1.43、95%CI:1.09~1.89)。・層別解析の結果、治療群においてHbA1c値との有意な交互作用が認められ(交互作用のp=0.024)、HbA1cが6.5%以上の集団ではSBP-CV増大による認知症発症リスクの上昇が顕著であった(SBP-CV第6分位群の第1~5分位群に対するHR:2.84、95%CI:1.57~5.14)。・降圧薬の種類や処方数、服薬アドヒアランス不良(MPR 80%未満)による有意な交互作用は認められなかった。 著者らは「特定健診ごとの血圧変動が大きいこと(SBP-CV≧10%程度)は、降圧薬治療の有無にかかわらず認知症発症リスクの上昇と関連していた。降圧薬治療中の患者において、降圧薬の種類や処方数、アドヒアランスを考慮してもこの関連は維持され、とくに血糖コントロール不良例で顕著であった。認知症発症リスクを評価する上で、血圧変動のモニタリングが有用である可能性がある」とまとめている。

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ESMO2025レポート 肺がん(後編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催された。善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が肺がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説。後編では、Presidential symposiumの2演題とドライバー陰性切除不能StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)の1演題、進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の1演題を取り上げ、解説する。前編はこちら[目次]Presidential symposium1.HARMONi-62.OptiTROP-Lung04ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.SKYSCRAPER-03ED-SCLC4.DeLLphi-303Presidential symposium1.進行扁平上皮NSCLCの初回治療として、化学療法+チスレリズマブと化学療法+ivonescimabを比較する第III相試験:HARMONi-6本試験は、StageIII~IVでEGFR、ALK遺伝子異常のない、未治療進行扁平上皮NSCLCを対象に、標準治療群としてカルボプラチン(AUC 5、Q3W)+パクリタキセル(175mg/m2、Q3W)+チスレリズマブ(PD-1阻害薬)と、試験治療群のカルボプラチン+パクリタキセル+ivonescimab(20mg/kg、Q3W)を比較する第III相試験で、中国のみで実施された。ivonescimabは、PD-1とVEGFを標的とする二重特異性抗体である。ivonescimab群と標準治療群にそれぞれ266例ずつ割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。扁平上皮NSCLCでは一般的に抗VEGF抗体が使用されない、中枢病変や大血管浸潤、空洞のある患者や喀血の既往歴がある患者も含まれた。今回の発表は、事前に規定された中間解析の結果であり、観察期間中央値は10.28ヵ月であった。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ivonescimab群/標準治療群で11.14ヵ月/6.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.46~0.78]、p<0.0001)であり、ivonescimab群が良好であった。奏効割合(ORR)は75.9%/66.5%(p=0.008)とivonescimab群で高く、PD-L1の発現状況によらずivonescimab群が良好であった。Grade3以上の有害事象は、ivonescimab群/標準治療群で63.9%/54.3%に認められ、治療関連死亡や免疫関連有害事象(irAE)の頻度は両群で大差なく、ivonescimab群でVEGFに関連する毒性を認めたが、多くはGrade1~2であった。<結論>化学療法+ivonescimabは進行扁平上皮NSCLCにおいて、有意にPFSを延長し、今後の新規治療になりうる。<コメント>事前に規定された中間解析で観察期間が短いが、PFSは有意に化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と比較し延長したことは評価したい。しかしながら、標準治療となるにはOSの延長が必要であり、さらなるフォローアップデータが求められる。2.EGFR-TKI治療後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する、プラチナ製剤併用化学療法とsacituzumab tirumotecan (sac-TMT)を比較する第III相試験:OptiTROP-Lung04本試験は、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)治療後の増悪例、もしくは第1、2世代EGFR-TKI治療増悪後にT790M陰性かつEGFR感受性変異陽性例に対して、化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド)とsacituzumab tirumotecan(sac-TMT:TROP2標的抗体薬物複合体[ADC])(5mg/kg IV、Q2W)を比較する第III相試験である。本試験も中国のみで実施された。sac-TMT群、化学療法群にそれぞれ188例ずつ割り付けられた。患者背景は両群でバランスがとれており、初回治療で第3世代EGFR-TKIによる治療を受けた患者は、sac-TMT群/化学療法群で118例(62.8%)/117例(62.2%)、EGFR遺伝子サブタイプはEx19delが106例(56.4%)/118例(62.8%)、L858Rが84例(44.7%)/71例(37.8%)、脳転移ありは33例(17.6%)/36例(19.1%)であった。主要評価項目であるPFSの中央値は、sac-TMT群/化学療法群で8.3ヵ月(95%CI:6.7~9.9)/4.3ヵ月(同:4.2~5.5)であり、sac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.49[95%CI:0.39~0.62])。さらにOSは、sac-TMT群/化学療法群で未到達(95%CI:21.5~推定不能)/17.4ヵ月(同:15.7~20.4)であり、こちらもsac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.60[95%CI:0.44-0.82])。ORRはsac-TMT群/化学療法群で60.6%/43.1%(群間差17.0%[95%CI:7.0~27.1])であった。後治療は72.3%/85.5%で実施された。毒性について、有害事象の頻度は両群で差がなく、sac-TMT群の主な有害事象は貧血(85%)、白血球減少(84%)、脱毛(84%)、好中球数減少(75%)、胃炎(62%)であった。眼関連の有害事象を9.6%に認めたが多くはGrade1~2であり、ILDは認めなかった。<結論>sac-TMTはEGFR-TKI治療後に増悪した進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいて、化学療法と比較してPFS、OSを延長し有望な治療選択となる。<コメント>中国のみで実施された第III相試験で、薬剤の承認にglobal試験の必要性が問われる。今後は同対象への初回治療での試験が進行中であり、進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療は目まぐるしく変わっていくと予想される。ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.切除不能StageIII NSCLCに対する、プラチナ同時併用放射線治療後のデュルバルマブとアテゾリズマブ+tiragolumabを比較する第III相試験:SKYSCRAPER-03本試験は、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子異常を除く、切除不能StageIII NSCLCに対して、化学放射線治療(CRT)後に、標準治療であるデュルバルマブ群と試験治療群であるアテゾリズマブ+tiragolumab群を比較する第III相試験である。アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群にそれぞれ413/416例が割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。白人は55.7%/59.6%、PD-L1<1%は49.4%/49.5%、1~49%は25.7%/28.1%、≧50%は24.9%/22.4%、扁平上皮がんは59.1%/59.9%であった。主要評価項目であるPD-L1≧1%集団のPFSの中央値は、アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で19.4ヵ月/16.6ヵ月(HR:0.96[95%CI:0.75~1.23]、p=0.7586)、副次評価項目であるOSの中央値はアテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で未到達/54.8ヵ月(HR:0.99(95%CI:0.73~1.34)であり、いずれもアテゾリズマブ+tiragolumab群は延長を示せなかった。毒性については、両群で有害事象の頻度に差がなく、アテゾリズマブ+tiragolumab群で掻痒感、皮疹などが多く認められた。<結語>本試験は主要評価項目であるPFSの延長を示せず、新規治療とはならなかった。毒性は新規プロファイルのものはなかった。<コメント>2018年にCRT後のデュルバルマブが標準治療として確立されて7年経過するが、新規治療法の承認がされていない。近年、術前導入化学免疫療法が良好な成績を示しており、StageIII NSCLCの治療戦略は大きく変化している。SCLC4.ED-SCLCに対するプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬+タルラタマブの治療成績:DeLLphi-303(パート2、4、7)初回治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)の併用療法を1サイクル実施したED-SCLC患者を対象に、導入療法と維持療法へのタルラタマブ上乗せの安全性、有効性を確認する第Ib相試験(パート2、4、7)が実施された。96例が登録され、PD-L1阻害薬の内訳はアテゾリズマブ56例(58.3%)、デュルバルマブ40例(41.7%)であった。全体で男性が67%、アジア人が16%、白人が74%、非喫煙者が7%であった。全体で、タルラタマブ開始時からのORR、奏効期間中央値はそれぞれ71%、11.0ヵ月であった。OS中央値は未到達で、1年OS割合は80.6%であった。毒性について、サイトカイン放出症候群(CRS)と免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、いずれもサイクル1での発現が多く、ほとんどがGrade1/2であった。タルラタマブに関連した死亡は認められていない。<結論>標準治療であるプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬および維持療法としてのPD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、有望な治療成績を示した。現在、初回治療におけるプラチナ製剤+エトポシド+デュルバルマブおよび維持療法としてのデュルバルマブと比較するDeLLphi-312試験(NCT07005128)が進行中である。<コメント>タルラタマブは2次治療、初回治療へ順次適応範囲を広げていく予定である。初回治療での化学療法+PD-L1阻害薬との併用は、有効性、安全性ともに問題なく、第III相試験の結果が待たれる。ADC製剤の開発も盛んに行われており、SCLCも治療が数年で目まぐるしく変わっていくと予想される。

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肺炎の抗菌薬治療を拒否する患者、どう対応する?【こんなときどうする?高齢者診療】第16回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は救急や日常診療で頻繁に遭遇する意思決定能力評価について、実践的なツール「CURVES」を使って学んでいきます。ではケースを見てみましょう。70歳女性。軽度認知症の既往あり。発熱・呼吸困難で救急搬送された。「うーうー」とうなっており、若干傾眠傾向。肺炎と診断し、抗菌薬を点滴投与すると本人に説明したところ、抗菌薬を拒否。「点滴はいやだ、抗菌薬はいやだ」と繰り返すのみ。その理由を聞いてもうなるだけで答えが返ってこないこの患者の言葉を鵜呑みにするべきでないことは、直感的におわかりかと思います。高齢者は認知症や抑うつ、せん妄といった認知機能の障害による意思決定能力の低下や喪失リスクが高く、救急だけでなくさまざまな場面で意思決定能力の評価が必要です。まず、意思決定能力をあらためて定義するところから始めましょう。意思決定能力(キャパシティ)とは?意思決定能力(キャパシティ)とは、「自分の医療について理解し、選択できる能力」です。そして「何」についての理解、選択なのかを明確にする必要があります。現場では、これらを覚えやすく実践的にした「CURVES」というツールを使います。CURVESは本人の意思決定能力を評価する4項目と、本人の意思決定能力がないと判断した場合に評価すべき2項目に分かれています。具体的な質問とともに見てみましょう。意思決定能力を評価するCURVESC-U-R-V:患者本人の意思決定能力を評価する4項目画像を拡大するE-S:能力がない場合の対応を決める2項目画像を拡大する必ず確認すべき「V(Value)」CURVESの中で最も見落とされやすいのが、この「価値観との一致」です。病状の進行や、生活環境の変化、重大な出来事があって本人の価値観が変わったなど、価値観の非連続性を裏付ける理由があれば問題はありません。合理的理由なく価値観が変わっている場合 は 認知症進行や隠れた抑うつを疑うことが重要です。ここまで意思決定能力の定義と評価すべき項目を整理してきました。もうひとつ重要な視点が、「何について」の意思決定なのかを明確にすることです。すべての医療行為に厳格なキャパシティ評価が必要?「日々生じるすべての意思決定について、厳格な意思決定能力の評価が必要なのか?」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。この質問の答えはNOです。理由は、それが「何について」の意思決定なのかによって、必要なキャパシティは異なるからです。たとえば、肺炎の治療選択肢を決めるというタスクと、代理意思決定人を決めるというタスクでは、必要な認知機能や意思決定能力は異なります。意思決定能力評価の要否を判断するスライディング・スケール・アプローチ意思決定能力評価の要否を判断するポイントは、「利益とリスクのバランス」×「患者の反応」です。2つの例を挙げてみてみましょう。例1:脱水への点滴(利益 > リスク)脱水症に点滴補液をするというタスクは利益がリスクを上回りますから、対応はこのようになります。同意する患者「わかりました、お願いします」→ 通常の会話で確認のみ拒否する患者「点滴はいやだ」→ CURVESで評価例2:終末期がんへの化学療法(リスク > 利益)寝たきりの末期がん患者への化学療法はリスクが利益を上回るタスクですから、以下の対応になります。拒否する患者「もう治療は結構です」→ 意思を尊重(簡易評価)希望する患者「何でもやってほしい」→ CURVESで評価(理解しているか?)余談ですが、こうした治療を家族が希望する場合は、患者と家族の価値観のすり合わせなどの意思決定能力の評価とは別のACPが必要かもしれません。今回のケースに戻りましょう。肺炎と診断し、抗菌薬点滴による治療で回復見込みが高いという判断のもと、治療を提案していました。利益がリスクを上回るタスクを患者が拒否しているので、厳格なキャパシティが必要と考えます。患者の様子から考えると、理解・認識・論理の3つについて、すくなくともこの時点で判断能力がないと判断して妥当です。過去のカルテがあれば、CURVESのうち過去の価値観と一致しているか確認するとこの患者の選択に整合性があるかもしれません。過去の価値観との整合性について確認できない場合でも、代理意思決定者が確認できれば、その人とのコミュニケーションで治療方針を決めるといったステップが見えてきます。Step 1:スライディング・スケールで判断治療内容抗菌薬点滴(利益 > リスク)患者の反応拒否判断厳格な評価が必要 → CURVESを使うStep 2:CURVESで評価| CURVESの項目 | 評価 | 根拠 || C (選択表明) | × | 「いやだ」と繰り返すのみ || U (理解) | × | 説明を自分の言葉で言えない || R (論理) | × | 理由を説明できない || V (価値観) | ? | 過去の情報が必要 || E (緊急性) | ○ | 肺炎は治療遅延で悪化 || S (代理人) | ? | 家族の確認が必要 |評価結果:現時点で意思決定能力なしこのように、スライディング・スケールを用いると、キャパシティ評価を行うべきケースを絞り、すばやく次のステップに進めるとおわかりいただけたのではないかと思います。認知症なら意思決定能力はない?最後に、高齢者の意思決定能力について、必ず心にとめていただきたい項目があります。それは、認知症がある=意思決定能力がないではないということです。「認知症があると意思決定能力がない」あるいは「認知症がないなら意思決定能力がある」と捉えている人が少なからずおられますが、それはどちらも間違いです。認知症があっても、あるタスクについて意思決定能力を保有しているというケースはありますし、逆に認知症がなくても、特定の医療行為やタスクについて選択・決定する能力がない場合もあります。認知症は意思決定能力に関連はしますが、必ずしも意思決定能力の有無を決定するわけではないということを頭の片隅において、日常の診療・ケアにキャパシティ評価を取り入れてください。 ※今回のトピックは、2022年9月度、2024年度11月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。

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セファゾリン【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第5回

セファゾリンここまで、ペニシリン系のスペクトラムを学びました。今回からはセフェム系です。セフェム系もペニシリン系同様に開発順で学んでいくのが良いため、第1世代から順を追って解説していきます。セファゾリンのスペクトラム第1世代セフェム系抗菌薬といえば、セファゾリンです。「ア」がつくので1番目と覚えるとわかりやすいかと思います。セファゾリンのスペクトラムは「S&S±PEK」。いきなり英語が出てきてびっくりされた方もいらっしゃるかと思いますが、S&SはStaphylococcus属とStreptococcus属の頭文字で、それぞれブドウ球菌と連鎖球菌を指します。PEKは、Proteus mirabilis、大腸菌(Escherichia coli)、Klebsiella pneumoniaeの頭文字です。このPEKというのは、以前説明した腸内細菌目に含まれます。ここで最初のS&Sに注目してみましょう。いきなりペニシリン系の復習となりますが、ペニシリン系でブドウ球菌をカバーできるのはどのあたりだったでしょうか? βラクタマーゼ阻害薬を配合しているアンピシリン・スルバクタムからですね。逆に言えば、そこまでしないとペニシリン系でブドウ球菌をカバーすることはできません。セフェム系では初期段階のセファゾリンから、ブドウ球菌をカバーすることができて楽ですね。このお得感を皆さんには噛みしめていただきたいです。では、ブドウ球菌と連鎖球菌を簡単にカバーできることには、どのようなメリットがあるでしょうか。これは、皮膚関連で悪さをする代表的な細菌をまとめて叩くことができるということです。具体的には、蜂窩織炎の第1選択として大活躍します。ほかには、周術期抗菌薬として術前投与することも多いかと思うのですが、これは皮膚についているブドウ球菌が術野を開いた時に、パラパラと落っこちて手術部位感染症を起こすのを防ぐという意味合いがあります。次に、PEKの部分について見ていきます。先ほどお伝えしたとおり腸内細菌目です。これらの細菌は、尿路感染症で問題になることが多いです。ここで、S&S±PEKの部分をよく見ていただくと、PEKの前は「±」となっていることに気付かれた方もいらっしゃると思います。実は、セファゾリンがPEKをカバーできるかどうかは、地域によって、大きく異なってくるため注意が必要です。病院によっては、検出される細菌の感受性検査の結果をまとめたアンチバイオグラムを作成されているところもありますが、アンチバイオグラムがなく、地域での薬剤耐性の程度がわからない病院ではどうしたらよいのでしょうか。次回はこの課題について、考えてみます。また、PEKの「P」についても深堀りしてみます。

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