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日本における認知症の総合的なコスト~公式統計に基づく経時分析

 日本における認知症の適切なリソース配分と品質向上の政策を行うため、東邦大学の花岡 晋平氏らは、認知症の社会的負担について経時分析を実施した。International Journal for Quality in Health care誌オンライン版2018年9月29日号の報告。 日本の公式統計より7つの全国のデータセットを用いて、2002~14年の全国人口ベース観察研究を行った。疾患の包括コスト法を用いて分析を行った。アウトカム変数には、医療サービス、介護サービス、家族等による費用負担のないケア、死亡コスト、罹患コストを含んだ。 主な結果は以下のとおり。・認知症患者数は、2002年の42万人から2014年の105万人に2.50倍増加していた。・家庭やコミュニティにおける患者数は3.22倍、介護施設の患者数は1.42倍に増加していた。・社会的負担は、2002年の1.84~2.42兆円から2014年の3.79~5.51兆円に2.06~2.27倍増加していた。・総負担に関しては、費用負担のないケアの割合が、36.6~51.9%から37.7~57.2%へ増加していた。・さらに、主な介護者が70歳以上の割合が、27.6%から37.6%へ増加していた。 著者らは「介護施設から家庭やコミュニティへの移行、高齢者による高齢者介護、早期認知症診断の推進により、患者1人当たりの平均費用は、437~577万円から360~524万円に減少した(0.82~0.91倍)。患者の安全とケアの質を維持するためには、介護者の許容範囲を超えないような費用負担のないケアの充実が不可欠である」としている。■関連記事認知症患者のQOLは介護従事者による緩和ケアの理解で向上する可能性:都医学研地方病院の認知症やせん妄患者に対するボランティア介入が再入院率に及ぼす影響米国の長期介護における向精神薬を使用した認知症ケア改善に関する研究

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日本の頭部外傷の現状は?/脳神経外科学会

 日本頭部外傷データバンクは、日本脳神経外傷学会のプロジェクトである。日本の頭部外傷診療の現状の把握を目的に、1996年に日本頭部外傷データバンク検討会が設立され、1998年より重症頭部外傷患者を対象とした間欠的に2年間の疫学研究を開始。現在まで、Project1998、2004、2009が行われ、このたび、Project2015の解析が開始された。その概要について、日本脳神経外科学会 第77回学術総会において、山口大学 脳神経外科 末廣 栄一氏が発表した。 登録対象症例は2015年4月1日~2017年3月31日に、搬入時あるいは受傷後48時間以内にGlasgow Coma Scale(GCS)8以下、あるいは脳神経外科手術を施行した頭部外傷症例(0歳を含む全年齢)。Project2015の参加施設は33施設、症例数は1,345例であった。 主な結果は以下のとおり。  ・患者の平均年齢は58.8歳で、70歳以上が以前に比べ著しく増加していた。  ・主な受傷機転は、交通事故が41.9%、転倒・転落が40.8%であった。  ・搬入時GCSスコアは7.3で、重症度は低下傾向であった。  ・外科的処置は67.4%の患者に施行されており、過去の2回に比べ、増加傾向に   あった。  ・頭蓋内圧センサーは36.7%に留置され、こちらも増加傾向であった。  ・鎮静・鎮痛、高浸透利尿薬、抗てんかん薬などの薬物療法施行率は66.5%で   あった。  ・退院時の転帰は、転帰良好30.3%、死亡35.8%であった。 プロジェクトごとに患者の高齢化は進行している。しかし、外科的治療も含めた積極性は向上し、前Projectに比べ、転帰は維持されていた。

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第10回 膝痛にコンドロイチンやグルコサミンはどのくらい効くのか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 コンドロイチンとグルコサミンは関節痛などで服用される、とてもポピュラーな成分です。コンドロイチンは、軟骨、結合組織、粘液に分布するムコ多糖の一種で、骨の形成を助けるといわれており、グルコサミンは動物の皮膚や軟骨、甲骨類の殻に含まれるアミノ糖で、関節の動きを滑らかにしたり、関節の痛みを改善したりするといわれています1)。両成分を含有する市販薬やサプリメントは多く、説明を求められる機会も多いのではないでしょうか。今回は、これらの効果を検討した文献をいくつか紹介しましょう。まずは、痛みを伴う変形性膝関節症患者へのグルコサミンとコンドロイチンの効果を検証した有名な論文のGlucosamine/chondroitin Arthritis Intervention Trial (GAIT)です2)。平均年齢59歳の症候性変形性膝関節症患者1,583例(うち女性64%)を、(1)グルコサミン1,500mg/日(500mg/回を1日3回)、(2)コンドロイチン1,200mg/日(400mg/回を1日3回)、(3)グルコサミン+コンドロイチン併用、(4)セレコキシブ200mg/日、(5)プラセボの5群にランダムに割り付け、24週間観察しました。各群、有害事象や効果の実感がなかったなどの理由により20%前後の患者が脱落していますが、intention-to-treat解析はされています。プライマリアウトカムは24週時点で膝痛が20%減少したかどうかで、結果は下表のとおりです。画像を拡大するプラセボ群と比較すると、いずれの群も痛みがやや減少する傾向にありますが、有意差が出ているのはセレコキシブ群のみでした。プラセボ群においてもかなり痛みが減少していることが特徴的で、成分を問わず何らかの製品を服用している方はある程度の効果を実感しているのではと推察されます。続いて、2007年にBMJ Clinical Evidence誌で発表された論文を紹介します3)。BMJ Clinical Evidence誌は臨床研究の結果を統合して種々の治療法を評価し掲載している媒体で、該当トピックの出版から2年経つとMEDLINEに無料で公開されるので有用な情報源となりえます。この論文における変形性膝関節症の各種治療法(非手術)の効果を整理したのが下表です。画像を拡大するコンドロイチンとグルコサミンは、変形性膝関節症に対する効果は不明ないしわずかで、とくにグルコサミンは疼痛軽減にプラセボ以上の効果が期待できない可能性が示唆されています。なお、Beneficialに分類される運動療法としては「脚上げ体操」や「横上げ体操」などの太ももの筋肉を鍛える体操が知られているので、覚えておくと患者指導で役立つと思います。可もなく不可もないので継続もアリだが、相互作用には注意が必要ここまであまり芳しい結果ではありませんでしたが、最近はコンドロイチンが有用であったという報告もあり、2015年にコクランよりコンドロイチンとプラセボまたは他の治療法を比較検討したランダム化比較試験43件を評価したシステマティックレビューが発表されています4)。含まれた研究の大部分は変形性膝関節症患者を対象としたもので、先に紹介したGAIT試験も含まれています。コンドロイチン800mg/日以上を6ヵ月服用した時点における痛みの程度で有意差が出ていて、0~100ポイントの痛みスケールで、コンドロイチン群が18ポイント、プラセボ群は28ポイントでしたので10ポイント低下しています。膝の痛みが20%以上改善した人はコンドロイチン群では100人当たり53人、プラセボ群では100人当たり47人で、その差は6名(6%)です。また、画像診断により、2年後の最小関節裂隙幅の減少は、コンドロイチン群(0.12mm)がプラセボ群(0.30mm)に比べて0.18mm少なく良好でした。Forest plotを見てもコンドロイチンまたはコンドロイチン+グルコサミンのほうがやや良しとする研究が多く、目立った有害事象はありませんでした。2017年に出た試験では、コンドロイチン800mg/日の継続がセレコキシブと同等の有用性であったという結果も出ています5)。経済面との兼ね合いもありますが、痛みが改善している方はそのまま続けてもよい場合もあるのではないでしょうか。ただし、薬物相互作用に注意が必要で、コンドロイチンは抗凝固薬のヘパリンと化学構造が似ているため、抗凝固作用を増強するのではないかといわれています。ワルファリンとグルコサミンの併用によりINRが上昇した(つまり出血傾向が強く出た)という20例の報告もあります6)。メリットがそれほど大きくないことを考えれば、ワルファリン服用中はコンドロイチンやグルコサミンの服用を避けるほうが無難だと思われます。1)国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所ホームページ 「健康食品」の安全性・有効性情報 「グルコサミン」「コンドロイチン硫酸」2)Clegg, et al. N Engl J Med. 2006;354:795-808.3)Scott D, et al. BMJ Clin Evid. 2007 Sep 1. pii:1121.4)Singh JA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;1:CD005614.5)Reginster JY, et al. Ann Rheum Dis. 2017;76:1537-1543. 6)Knudsen JF, et al. Pharmacotherapy. 2008;28:540-548.

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統合失調症患者の強制入院と再入院リスクとの関連~7年間のレトロスペクティブコホート研究

 台湾・慈済大学のChing-En Lin氏らは、統合失調症患者における再入院リスクを評価するため、強制入院と任意入院の再入院リスクを比較し、そのリスク要因の特定について、検討を行った。Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology誌オンライン版2018年9月24日号の報告。 2007~13年の集団ベースコホート研究より抽出した統合失調症患者(初回強制入院患者群[CA群]:2,038例、初回任意入院患者[VA群]8,152例)を対象とし、レトロスペクティブに比較検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・調査期間中の再入院患者数は、CA群で1,204例、VA群で3,806例であった。・CA群の再入院リスクは、VA群と比較し、より高かった(調整ハザード比[HR]:1.765、95%信頼区間[CI]:1.389~2.243、p<0.001)。・層別解析では、CA群はVA群と比較し、後の強制入院リスク(調整HR:1.307、95%CI:1.029~1.661、p<0.001)および任意入院リスク(調整HR:1.801、95%CI:1.417~2.289、p<0.001)が高いことが示唆された。・感度分析では、観察初年度のデータを除外した後、強制入院と任意入院に関する有意な所見が得られた。・累積再入院率についてのカプランマイヤー曲線では、統合失調症患者における強制入院および任意入院の割合は、VA群と比較しCA群が有意に低かった(log-rank検定:p<0.001)。 著者らは「CAは、後の強制入院および任意入院のリスクと関連が認められた。臨床医は、再入院を減らすため、CA患者に焦点を当てるべきである」としている。■関連記事統合失調症の再入院に対する抗精神病薬の比較統合失調症入院患者における措置入院と自殺に関するコホート研究統合失調症患者の再入院、ベンゾジアゼピンの影響を検証:東医大

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SAF方式の遠隔皮膚診断、対面診療よりコスト削減

 store and forward(SAF)方式の遠隔皮膚診断(TD)は、行政・医療サービスが十分ではない集団に対して、タイムリーで高品質なケアへのアクセスが増加できると見込まれている。しかし、そうした集団におけるTDの費用対効果については明らかにされていない。今回、米国・ペンシルベニア大学のXiaoshi Yang氏らは、TDが皮膚科治療のアクセスを高めつつも、コスト削減が可能であると報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年10月1日号掲載の報告。 研究グループは、行政・医療サービスが十分ではない集団を対象とし、大都市フィラデルフィアの市中にある12診療所において、SAF TDプログラムによるコスト削減の可能性を調べるため、外来患者700例に対するSAF TDの後ろ向き研究を行った。 かかりつけ医は、その治療計画と治療方法を特定する依頼を受けていた。また、解析では、TD診療モデルと従来ケアの各患者ケースでのコストについて比較した。 主な結果は以下のとおり。・TDを活用することで、皮膚科の訪問受診27%(189/700例)、救急救命室(ER)への受診3.29%(23/700例)を減らすことができた。・従来ケアと比較し、TDを活用すると、1診療当たり平均10.00~52.65ドルのコスト削減が期待できる。・感度解析によるシュミレーションでも、コスト削減効果が示された。 なお、今回のコスト分析は、治療コストに関するいくつかの仮説に依存しており、間接的なコストは含まれていなかった。

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乳児血管腫(いちご状血管腫)〔infantile hemangioma〕

1 疾患概要■ 概念・定義乳児血管腫(infantile hemangioma)は、ISSVA分類の脈管奇形(vascular anomaly)のうち血管性腫瘍(vascular tumors)に属し、胎盤絨毛膜の微小血管を構成する細胞と類似したglucose transporter-1(GLUT-1)陽性の毛細血管内皮細胞が増殖する良性の腫瘍である1,2)。出生時には存在しないあるいは小さな前駆病変のみ存在するが、生後2週間程度で病変が顕在化し、かつ自然退縮する特徴的な一連の自然歴を持つ。おおむね増殖期 (proliferating phase:~1.5歳まで)、退縮期(消退期)(involuting phase:~5歳ごろ)、消失期(involuted phase:5歳以降)と呼ばれるが、経過は個人差が大きい1,2)。わが国では従来ある名称の「いちご状血管腫」と基本的に同義であるが、ISSVA分類にのっとって乳児血管腫が一般化しつつある。なお、乳幼児肝巨大血管腫では、肝臓に大きな血管腫やたくさんの細かい血管腫ができると、血管腫の中で出血を止めるための血小板や蛋白が固まって消費されてしまうために、全身で出血しやすくなったり、肝臓が腫れて呼吸や血圧の維持が難しくなることがある。本症では、治療に反応せずに死亡する例もある。また、まったく症状を呈さない肝臓での小さな血管腫の頻度は高く、治療の必要はないものの、乳幼児期の症状が治療で軽快した後、成長に伴って、今度は肝障害などの症状が著明になり、肝移植を必要とすることがある。■ 疫学乳児期で最も頻度の高い腫瘍の1つで、女児、または早期産児、低出生体重児に多い。発生頻度には人種差が存在し、コーカソイドでの発症は2~12%、ネグロイド(米国)では1.4%、モンゴロイド(台湾)では0.2%、またわが国での発症は0.8~1.7%とされている。多くは孤発例で家族性の発生はきわめてまれであるが、発生部位は頭頸部60%、体幹25%、四肢15%と、頭頸部に多い。■ 病因乳児血管腫の病因はいまだ不明である。腫瘍細胞にはX染色体の不活性化パターンにおいてmonoclonalityが認められる。血管系の中胚葉系前駆細胞の分化異常あるいは分化遅延による発生学的異常、胎盤由来の細胞の塞栓、血管内皮細胞の増殖関連因子の遺伝子における生殖細胞変異(germline mutation)と体細胞突然変異(somatic mutation)の混合説など、多種多様な仮説があり、一定ではない。■ 臨床症状、経過、予後乳児血管腫は、前述のように他の腫瘍とは異なる特徴的な自然経過を示す。また、臨床像も多彩であり、欧米では表在型(superficial type)、深在型(deep type)および混合型(mixed type)といった臨床分類が一般的であるが、わが国では局面型、腫瘤型、皮下型とそれらの混合型という分類も頻用されている。superficial typeでは、赤く小さな凹凸を伴い“いちご”のような性状で、deep typeでは皮下に生じ皮表の変化は少ない。出生時には存在しないあるいは目立たないが、生後2週間程度で病変が明らかとなり、「増殖期」には病変が増大し、「退縮期(消退期)」では病変が徐々に縮小していき、「消失期」には消失する。これらは時間軸に沿って変容する一連の病態である。最終的には消失する症例が多いものの、乳児血管腫の中には急峻なカーブをもって増大するものがあり、発生部位により気道閉塞、視野障害、哺乳障害、難聴、排尿排便困難、そして、高拍出性心不全による哺乳困難や体重増加不良などを来す、危険を有するものには緊急対応を要する。また、大きな病変は潰瘍を形成し、出血したり、2次感染を来し敗血症の原因となることもある。その他には、シラノ(ド・ベルジュラック)の鼻型、約20%にみられる多発型、そして他臓器にも血管腫を認めるneonatal hemangiomatosisなど、多彩な病型も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床像などから診断がつくことが多いが、画像診断が必要な場合がある。造影剤を用いないMRIのT1強調画像と脂肪抑制画像(STIR法)の併用は有効で、増殖期の乳児血管腫は微細な顆粒が集簇したような形状の境界明瞭なT1-low、T2-high、STIR-highの病変として、脂肪織の信号に邪魔されずに描出される。superficial typeの乳児血管腫のダーモスコピー所見では、増殖期にはtiny lagoonが集簇した“いちご”様外観を呈するが、退縮期(消退期)になると本症の自然史を反映し、栄養血管と線維脂肪組織の増加を反映した黄白色調の拡がりとして観察されるようになる。病理診断では、増殖期・退縮期(消退期)・消失期のそれぞれに病理組織像は異なるが、いずれの時期でも免疫染色でグルコーストランスポーターの一種であるGLUT-1に陽性を示す。増殖期においてはCD31と前述のGLUT-1陽性の腫瘍細胞が明らかな血管構造に乏しい腫瘍細胞の集塊を形成し、その後内皮細胞と周皮細胞による大小さまざまな血管構造が出現する。退縮期(消退期)には次第に血管構造の数が減少し、消失期には結合組織と脂肪組織が混在するいわゆるfibrofatty residueが残存することがある。鑑別診断としては、血管性腫瘍のほか、deep typeについては粉瘤や毛母腫、脳瘤など嚢腫(cyst)、過誤腫(hamartoma)、腫瘍(tumor)、奇形(anomaly)の範疇に属する疾患でも、視診のみでは鑑別できない疾患があり、MRIや超音波検査など画像診断が有用になることがある。乳児血管腫との鑑別上、問題となる血管性腫瘍としては、まれな先天性の血管腫であるrapidly involuting congenital hemangiomas(RICH)は、出生時にすでに腫瘍が完成しており、その後、乳児血管腫と同様自然退縮傾向をみせる。一方、non-involuting congenital hemangiomas(NICH)は、同じく先天性に生じるが自然退縮傾向を有さない。partially involuting congenital hemangiomas(PICH)は退縮が部分的である。これら先天性血管腫ではGLUT-1は陰性である。また、房状血管腫(tufted angioma)とカポジ肉腫様血管内皮細胞腫(kaposiform hemangioendothelioma)は、両者ともカサバッハ・メリット現象を惹起しうる血管腫であるが、乳児血管腫がカサバッハ・メリット現象を来すことはない。房状血管腫は出生時から存在することも多く、また、痛みや多汗を伴うことがある。病理組織学的に、内腔に突出した大型で楕円形の血管内皮細胞が、真皮や皮下に大小の管腔を形成し、いわゆる“cannonball様”増殖が認められる。腫瘍細胞はGLUT-1陰性である(図1)。カポジ肉腫様血管内皮細胞腫は、異型性の乏しい紡錘形細胞の小葉構造が周囲に不規則に浸潤し、その中に裂隙様の血管腔や鬱血した毛細血管が認められ、GLUT-1陰性である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多くの病変は経過中に増大した後は退縮に向かうものの、機能障害や潰瘍、出血、2次感染、敗血症の危険性、また将来的にも整容的な問題を惹起する可能性がある。これらの可能性を有する病変に対しては、手術療法(全摘・減量手術)、ステロイド療法(外用・局所注射・全身投与)、レーザー、塞栓/硬化療法、イミキモド、液体窒素療法、さらにはインターフェロンα、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ビンクリスチン、becaplermin、シロリムス、放射線療法、持続圧迫療法などの有効例が報告されている。しかし、自然消退傾向があるために治療効果の判定が難しいなど、臨床試験などで効果が十分に実証された治療は少ない。病変の大きさ、部位、病型、病期、合併症の有無、整容面、年齢などにより治療方針を決定する。以下に代表的な治療法を述べる。■ プロプラノロール(商品名:ヘマンジオル シロップ)欧米ですでに使われてきたプロプラノロールが、わが国でも2016年に承認されたため、本邦でも機能障害の危険性や整容面で問題となる乳児血管腫に対しては第1選択薬として用いられている3,4)。局面型、腫瘤型、皮下型とそれらの混合型などすべてに効果が発揮でき、表面の凹凸が強い部位でも効果は高い(図2)。用法・容量は、プロプラノロールとして1日1~3mg/kgを2回に分け、空腹時を避けて経口投与する。投与は1日1mg/kgから開始し、2日以上の間隔を空けて1mg/kgずつ増量し、1日3mg/kgで維持するが、患者の状態に応じて適宜減量する。画像を拡大する副作用として血圧低下、徐脈、睡眠障害、低血糖、高カリウム血症、呼吸器症状などの発現に対し、十分な注意、対応が必要である5)。また、投与中止後や投与終了後に血管腫が再腫脹・再増大することもあるため、投与前から投与終了後も患児を慎重にフォローしていくことが必須となる。その作用機序はいまだ不明であるが、初期においてはNO産生抑制による血管収縮作用が、増殖期においてはVEGF、bFGF、MMP2/MMP9などのpro-angiogenic growth factorシグナルの発現調節による増殖の停止機序が推定されている。また、長期的な奏効機序としては血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することが想定されており、さらなる研究が待たれる。同じβ遮断薬であるチモロールマレイン酸塩の外用剤についても有効性の報告が増加している。■ 副腎皮質ステロイド内服、静注、外用などの形で使用される。内服療法として通常初期量は2~3mg/kg/日のプレドニゾロンが用いられる。ランダム化比較試験やメタアナリシスで効果が示されているが、副作用として満月様顔貌、不眠などの精神症状、骨成長の遅延、感染症などに注意する必要がある。その他の薬物治療としてイミキモド、ビンクリスチン、インターフェロンαなどがあるが、わが国では本症で保険適用承認を受けていない。■ 外科的治療退縮期(消退期)以降に瘢痕や皮膚のたるみを残した場合、整容的に問題となる消退が遅い血管腫、小さく限局した眼周囲の血管腫、薬物療法の危険性が高い場合、そして、出血のコントロールができないなど緊急の場合は、手術が考慮される。術中出血の危険性を考慮し、増殖期の手術を可及的に避け退縮期(消退期)後半から消失期に手術を行った場合は、組織拡大効果により腫瘍切除後の組織欠損創の閉鎖が容易になる。■ パルス色素レーザー論文ごとのレーザーの性能や照射の強さの違いなどにより、その有効性、増大の予防効果や有益性について一定の結論は得られていない。ただ、レーザーの深達度には限界がありdeep typeに対しては効果が乏しいという点、退縮期(消退期)以降も毛細血管拡張が残った症例ではレーザー治療のメリットがあるものの、一時的な局所の炎症、腫脹、疼痛、出血・色素脱失および色素沈着、瘢痕、そして潰瘍化などには注意する必要がある。■ その他のレーザー炭酸ガスレーザーは炭酸ガスを媒質にしたガスレーザーで、水分の豊富な組織を加熱し、蒸散・炭化させるため出血が少ないなどの利点がある。小さな病変や、気道内病変に古くから用いられている。そのほか、Nd:YAGレーザーによる組織凝固なども行われることがある。■ 冷凍凝固療法液体窒素やドライアイスなどを用いる。手技は比較的容易であるが、疼痛、水疱形成、さらには瘢痕形成に注意が必要で熟練を要する。深在性の乳児血管腫に対してはレーザー治療よりも効果が優れているとの報告もある。■ 持続圧迫療法エビデンスは弱く、ガイドラインでも推奨の強さは弱い。■ 塞栓術ほかの治療に抵抗する症例で、巨大病変のため心負荷が大きい場合などに考慮される。■ 精神的サポート本症では、他人から好奇の目にさらされたり、虐待を疑われるなど本人や家族が不快な思いをする機会も多い。前もって自然経過、起こりうる合併症、治療の危険性と有益性などについて説明しつつ、精神的なサポートを行うことが血管腫の管理には不可欠である。4 今後の展望プロプラノロールの登場で、乳児血管腫治療は大きな転換点を迎えたといえる。有効性と副作用に関して、観察研究に基づくシステマティックレビューとメタアナリシスの結果、「腫瘍の縮小」に関してプロプラノロールはプラセボと比較し、有意に腫瘍の縮小効果を有し、ステロイドに比しても腫瘍の縮小傾向が示された。また、「合併症」に関しては、2つのRCTでステロイドと比し有意に有害事象が少ないことが判明し、『血管腫・血管奇形診療ガイドライン2017』ではエビデンスレベルをAと判定した。有害事象を回避するための対応は必要であるが、今後詳細な作用機序の解明と、既存の治療法との併用、混合についての詳細な検討により、さらに安全、有効な治療方法の主軸となりうると期待される。5 主たる診療科小児科、小児外科、形成外科、皮膚科、放射線科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)『血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017』(医療従事者向けのまとまった情報)日本血管腫血管奇形学会(医療従事者向けのまとまった情報)国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)(医療従事者向けのまとまった情報:英文ページのみ)ヘマンジオル シロップ 医療者用ページ(マルホ株式会社提供)(医療従事者向けのまとまった情報)乳児血管腫の治療 患者用ページ(マルホ株式会社提供)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報混合型脈管奇形の会(患者とその家族および支援者の会)血管腫・血管奇形の患者会(患者とその家族および支援者の会)血管奇形ネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班作成『血管腫・血管奇形診療ガイドライン2017』2)国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)3)Leaute-Labreze C, et al. N Engl J Med. 2008;358:2649-2651.4)Leaute-Labreze C, et al. N Engl J Med. 2015;372:735-746.5)Drolet BA, et al. Pediatrics. 2013;131:128-140.公開履歴初回2018年10月23日

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うつ病治療と食事パターン

 栄養精神医学の分野は、急速に成長している。当初は、メンタルヘルスにおけるビタミンや微量栄養素の効果について焦点が当てられてきたが、ここ10年間では食事パターンにも焦点が当てられている。うつ病のような最も一般的な精神疾患において、費用対効果の高い食事療法による介入の可能性は、潜在的に大きな影響を及ぼすため見過ごされるべきではない。ポルトガル・コインブラ大学のMariana Jesus氏らは、うつ病における食事パターンの影響について検討を行った。Current Pharmaceutical Biotechnology誌オンライン版2018年9月25日号の報告。うつ病予防に食事パターンが重要な役割を果たす 古典的な文献レビューを実施し、2010~18年のうつ病およびうつ症状における食事パターンの影響に焦点を当てた研究を抽出した。 うつ病と食事パターンの影響について検討した主な結果は以下のとおり。・基準に合致した研究は、10件抽出された。・ほとんどの研究において、健康的な食事パターン(果実、野菜、赤身肉、ナッツ、全粒穀物が豊富、加工食品や糖質食品が少ない)と各年齢層におけるうつ病やうつ症状との間に逆相関関係が認められた(一部の著者は、女性のみ統計学的に有意であると報告している)。・ほとんどの研究は、横断的調査デザインであり、因果関係の推定が困難であったが、ランダム化比較試験においても、同様な結果が得られていた。 著者らは「正確な病因経路は不明であるが、食事パターンとうつ病との関連は、十分に確立されている。伝統的な食事のような健康的な食事パターンによる食事療法は、うつ病および抑うつ症状の予防および補助療法において重要な役割を果たすと考えられる」とし、「高品質の食事パターンとうつ病および抑うつ症状のリスクとの関連性を確認するためには、より大規模なランダム化比較試験を実施する必要性がある」としている。

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nab-パクリタキセル+アテゾリズマブ、トリプルネガティブ乳がんでPFS延長(IMpassion130)/ESMO 2018

 進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への1次治療として、nab-パクリタキセルと抗PD-L1抗体アテゾリズマブの併用療法が、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。日本も参加している第III相ランダム化比較試験IMpassion130の結果に基づき、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のPeter Schmid氏がドイツ・ミュンヘンにおける欧州臨床腫瘍学会(ESMO2018)で報告した。同患者対象の1次治療の第III相試験で、免疫療法についてポジティブな結果が出たのは初となる。nab-パクリタキセルとアテゾリズマブ併用を評価 IMpassion130では、ECOG PS 0~1、転移性または切除不能な局所進行TNBC患者を対象に、アテゾリズマブ併用群(28日を1サイクルとして、アテゾリズマブ840mgを1日目と15日目に、nab-パクリタキセル100mg/m2を1日目、8日目、15日目に投与)とプラセボ群(プラセボ+nab-パクリタキセル100mg/m2を1日目、8日目、15日目に投与)に1:1の割合で無作為に割り付けた。層別化因子は、タキサン系薬剤による治療、肝転移の有無、PD-L1ステータス。主要評価項目は、ITT解析集団およびPD-L1陽性患者におけるPFSと全生存期間(OS)、副次評価項目は、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性などであった。 主な結果は以下のとおり。・2018年4月17日のデータカットオフ時点で、追跡期間中央値は12.9ヵ月。・全体で902例が組み入れられ、ITT解析対象はnab-パクリタキセル+アテゾリズマブ併用群/nab-パクリタキセル+プラセボ群ともに451例、うち41%(185例/184例)がPD-L1陽性であった。・年齢中央値はアテゾリズマブ併用群が55歳、プラセボ群が56歳。(ネオ)アジュバント療法歴有は63%(284例/286例)、タキサン系薬剤は51%(231例/230例)、アントラサイクリン系薬剤は54%(243例/242例)であった。・PFS中央値はITT解析対象でnab-パクリタキセル+アテゾリズマブ併用群7.2ヵ月に対しnab-パクリタキセル+プラセボ群5.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.69~0.92、p=0.0025)。PD-L1陽性患者でアテゾリズマブ併用群7.5ヵ月に対し5.0ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.49~0.78、p<0.0001)といずれも併用群で有意に改善した。・中間解析時点でのOS中央値はITT解析対象で21.3ヵ月 vs.17.6ヵ月(HR:0.84、95%CI:0.69~1.02、p=0.0840)。PD-L1陽性患者で25.0ヵ月 vs. 15.5ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.45~0.86)であった。・ORRはITT解析対象で56% vs.46%、PD-L1陽性患者で59% vs.43%。完全奏効率はアテゾリズマブ併用群で高く、ITT解析対象で7% vs.2%、PD-L1陽性患者で10% vs.1%であった。・DOR中央値はITT解析対象で7.4ヵ月 vs. 5.6ヵ月、PD-L1陽性患者で8.5ヵ月 vs. 5.5ヵ月であった。・安全性プロファイル(452例/438例が解析対象)について、Grade 3 以上の有害事象で多くみられたのは好中球減少症(両群とも8%)、好中球数減少(5%/3%)、末梢神経障害(6%/3%)、倦怠感(4%/3%)、貧血(両群とも3%)であった。 オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏は本結果について、「PFSのベネフィットは比較的小さく約2~3ヵ月であったが、PD-L1陽性患者におけるOSを約10ヵ月延長している点が印象的である。抗PD-(L)1抗体とどの化学療法の組み合わせが最適かについて多くの臨床試験が進行中であり、本結果はその疑問に答えを出すのに役立つだろう」と話している。

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第4回 DICへのアンスロビンP500の査定/セロクエル錠処方に伴うHbA1c検査の査定/腫瘍マーカー検査の査定/C型慢性肝炎検査の査定【レセプト査定の回避術 】

事例13 DICへのアンスロビンP500処方の査定アンチトロンビンIII低下を伴うDICで乾燥濃縮人アンチトロンビンIII(商品名:アンスロビンP)500注射用3瓶を点滴静注した。●査定点アンスロビンP500注射用3瓶が査定された。解説を見る●解説アンスロビンP500注射用の添付文書に「アンチトロンビンIII低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)→アンチトロンビンIIIが正常の70%以下に低下した場合は、通常成人に対し、ヘパリンの持続点滴静注のもとに、本剤1日1,500単位(又は30単位/kg)を投与する」と記載があります。アンチトロンビンIII検査が先月末に行われ、アンスロビンP500注射用投与時の月にはアンチトロンビンIII検査が施行されていませんでした。このケースでは、アンスロビンP500注射用投与時の月に症状詳記に「〇月〇日+検査数値」を記載することが必要でした。事例14 セロクエル錠処方に伴うHbA1c検査の査定統合失調症で、クエチアピン(商品名:セロクエル錠)を25mg 2T投与し、HbA1cの検査を請求した。●査定点HbA1c検査が査定された。解説を見る●解説セロクエル錠の添付文書の副作用に「著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと」と警告されているため、HbA1c検査を施行しました。しかし、その場合でも、「糖尿病の疑い」の病名がないと査定されます。ここでは処方のつど、病名を追記するよりも、症状詳記での記載が求められます。事例15 腫瘍マーカー検査の査定初診月の病名で胃潰瘍、胃がんの疑いでCEA、CA19-9の検査を請求した。●査定点CEA、CA19-9が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の腫瘍マーカーに、「診療及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者に対して、腫瘍マーカーの検査を行った場合に、1回に限り算定する」となっています。他の検査が施行されていない場合でCEA、CA19-9だけを請求すると査定の対象になります。また、他院からの紹介の場合では、「〇〇医療機関から〇月〇日に紹介された」と記載することが求められています。事例16 C型慢性肝炎検査の査定C型慢性肝炎でHCV核酸検出とHCV核酸定量の検査を請求した。●査定点HCV核酸定量が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の微生物核酸同定・定量検査に、「HCV核酸検出とHCV核酸定量を併せて実施した場合には、いずれか一方に限り算定する」と通知があるため、両検査の請求は認められません。

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高CVリスク肥満者の糖尿病発症をlorcaserinが抑制/Lancet

 選択的セロトニン2C受容体作動薬lorcaserinは、過体重・肥満の前糖尿病患者において糖尿病の予防効果を発揮するとともに、糖尿病患者では細小血管合併症を抑制することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のErin A. Bohula氏らが行った「CAMELLIA-TIMI 61試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年10月4日号に掲載された。lorcaserinは、プロオピオメラノコルチンの産生を、視床下部で活性化することで食欲を制御する。米国では、長期的な体重管理において、食事療法や運動療法の補助療法として承認されている。糖尿病、前糖尿病、正常血糖値に分け、プラセボと比較 本研究は、lorcaserinによる糖尿病の予防と寛解導入を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、8ヵ国473施設が参加した(Eisaiの助成による)。 対象は、アテローム動脈硬化性心血管疾患、または複数の心血管リスクを有する過体重・肥満(BMI≧27)の患者であった。アテローム動脈硬化性心血管疾患患者は40歳以上とし、複数のリスク因子(糖尿病と他の1つ以上の心血管リスク因子)を有する患者は、男性は50歳以上、女性は55歳以上とした。 被験者は、lorcaserin(10mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。全例が、強化行動療法から成る標準化された体重管理プログラムへの参加を推奨された。 代謝に関する有効性のエンドポイントは、ベースライン時に前糖尿病(HbA1c:≧39mmol/mol[5.7%]~<48mmol/mol[6.5%]または空腹時血漿グルコース:5.6~6.9mmol/L[100~125mg/dL])の患者における2型糖尿病の発症までの期間とした。有効性の副次アウトカムは、非糖尿病の集団における2型糖尿病の発症、前糖尿病患者における正常血糖値の達成、糖尿病患者におけるHbA1cの変化であった。 2014年2月~2015年11月の期間に1万2,000例が登録された。両群に6,000例ずつが割り付けられ、中央値で3.3年(IQR:3.0~3.5)のフォローアップが行われた。ベースラインの内訳は、糖尿病が6,816例(56.8%)、前糖尿病が3,991例(33.3%)、正常血糖値が1,193例(9.9%)などであった。6つの群の年齢中央値は62~64歳、女性が26.8~40.7%含まれた。体重が有意に減少、前糖尿病の糖尿病リスクが19%低減 ベースラインの平均体重は、糖尿病患者が107.6kg(SD 21.3)、前糖尿病患者は101.8kg(19.2)、正常血糖値の集団は97.8kg(17.0)であった。1年時の体重は、糖尿病患者ではlorcaserin群がプラセボ群よりも2.6kg(95%信頼区間[CI]:2.3~2.9)減少し、前糖尿病患者では2.8kg(2.5~3.2)、正常血糖値の集団では3.3kg(2.6~4.0)減少した(いずれもp<0.0001)。 lorcaserin群はプラセボ群に比べ、前糖尿病患者における糖尿病リスクが19%有意に低減し(8.5 vs.10.3%、ハザード比[HR]:0.81、95%CI:0.66~0.99、p=0.038)、3年間で1件の糖尿病イベントの予防に要する治療必要数(NNT)は56件であった。同様に、非糖尿病患者の糖尿病リスクはlorcaserin群で23%低下した(6.7 vs.8.4%、0.77、0.63~0.94、p=0.012)。 lorcaserin群はプラセボ群に比し、前糖尿病患者における正常血糖値の達成率が高い傾向がみられたが、有意差は認めなかった(9.2 vs.7.6%、HR:1.20、0.97~1.49、p=0.093)。 HbA1cは、糖尿病患者ではベースラインの平均値の53mmol/mol(7.0%)から、lorcaserin群のほうがプラセボ群よりも有意に低下した(最小二乗平均の差:-0.33%、95%CI:-0.38~-0.29、p<0.0001)。前糖尿病患者(-0.09%、p<0.0001)、正常血糖値の集団(-0.08%、p<0.0001)においても、lorcaserin群で有意に改善した。 糖尿病患者における細小血管合併症(持続性微量アルブミン尿、糖尿病網膜症、糖尿病性神経障害の複合)の発症率は、lorcaserin群で21%有意に少なかった(10.1 vs.12.4%、HR:0.79、95%CI:0.69~0.92、p=0.0015)。 糖尿病患者では、重篤な合併症を伴う重症低血糖はまれであり、lorcaserin群で頻度が高い傾向がみられた(12件[0.4%]vs.4件[0.1%]、p=0.054)。 著者は、「これらの知見は、適度で継続的な体重減少は代謝に関する健康を改善する可能性があるとの見解を強化し、体重および代謝に関する健康の長期的管理の補助療法としてのlorcaserinの役割を支持するものである」としている。

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サメに襲われた人の死亡率は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第125回

サメに襲われた人の死亡率は? いらすとやより使用 サメ外傷を扱った論文の中でも検討症例数が最も多いものがおそらくコレ。私はサメに襲われるのがコワイので、海で泳ぎたくありません(それ以前に実はカナヅチでもあるのですが…)。 Ricci JA, et al.Shark attack-related injuries: Epidemiology and implications for plastic surgeons.J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2016;69:108-114.これは、『世界サメ事故ファイル』というアメリカが保管しているデータを用いた報告です。1900年代から継続的にサメによる事故を記録・保存してあるそうです。その外傷パターンや生死など、詳細に記録されています。ほほう、なかなかマニアックな文書ですな。このデータには合計5,034人のサメ外傷の報告があり、そのうち、1,205人(23.9%※)が死亡しています。意外と生存者が多いですね。それから、現代になるにつれて、事故の頻度が高くなっていくことがわかりました。そりゃそうですよね、ヒトが沖に簡単に出られるようになったんですから。サメ事故率は昔より格段に高くなっているはずです。サメに襲われて死亡した人の特徴を挙げてみると、泳いでいた人、3回以上かまれた人、四肢を失った人、タイガーシャーク(日本名はイタチザメ)に襲われた人、などでした。タイガーシャークは、好奇心旺盛で攻撃的で、最も危険なサメと言われています。絶対に遭いたくないヤツです。最もよくかまれた場所は、脚(41.8%)でした。腕をかまれたのは18.4%でした。かまれて四肢を失ってしまった人は、全体の7%に及びました。ひぃぃぃ。ところで、サメに襲われたらどうしたらよいのでしょう。諦めるしかないのでしょうか。いいえ、サメの鼻先を攻撃してください。鼻先にはロレンチーニ器官という感覚器官があるためです。また、ここをナデナデすることでサメの攻撃性を抑えられるというエキスパートオピニオンもあります。うーん、ロレンチーニ器官をドツくのかナデナデするのか、どちらがいいのでしょうね。サメに襲われたときに、また考えましょうか。※元文献ではなぜか22.7%と記載。

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リポ蛋白(a)値とCVDリスクの関連/Lancet

 スタチンによる治療を受けた患者の個々のデータを用いたメタ解析の結果、ベースライン時およびスタチン治療中のリポ蛋白(a)高値は、独立して心血管疾患(CVD)リスクとほぼ線形相関を示すことが明らかにされた。英国・ケンブリッジ大学のPeter Willeit氏らが報告した。リポ蛋白(a)値の上昇は、一般集団を対象とした研究においてCVDの遺伝的リスク因子であることが示されているが、CVD患者またはスタチン治療中の患者における心血管イベントリスクへの寄与度は不明であった。著者は、「リポ蛋白(a)値低下仮説を検証するCVDアウトカム研究を実施する理論的根拠が得られた」とまとめている。Lancet誌2018年10月4日号掲載の報告。約2万9,000例でリポ蛋白(a)値と心血管イベントの関連を検証 研究グループは、スタチン治療中またはCVD既往歴を有する患者のリポ蛋白(a)値と心血管イベントリスクの関連性を検証する目的で、スタチンに関する無作為化プラセボ対照比較試験7件(AFCAPS、CARDS、4D、JUPITER、LIPID、MIRACL、4S)から個々の患者のデータを得て統合し、心血管イベント(致死的/非致死的冠動脈疾患、脳卒中、血行再建術)のハザード比(HR)を評価した。HRは、あらかじめ定義されたリポ蛋白(a)群(15~<30mg/dL、30~<50mg/dL、≧50mg/dL vs.

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新診断基準による妊娠糖尿病(GDM)の診断は出産後の母親の糖代謝異常と関連する(解説:住谷哲氏)-932

 HAPO(Hyperglycemia and adverse pregnancy outcomes)研究の結果を受けてIADPSG (International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups)は妊娠糖尿病(GDM)診断基準を2010年に発表した1)。わが国においてもその発表を受けて、ただちに日本糖尿病学会、日本産科婦人科学会および日本糖尿病・妊娠学会がそれに基づいた診断基準を発表した。診断基準そのものは3学会で同一であったが微妙な文言の差異があったために現場に少なからぬ混乱を生じたが、2015年に統一見解が発表された2)。GDMの診断基準は「75gOGTTにおいて、(1)空腹時血糖値92mg/dL以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上のいずれか1点を満たした場合」とされている(ただし妊娠中の明らかな糖尿病[overt diabetes in pregnancy]は除く)。 HAPO研究におけるprimary outcomesは児の出生時体重が90パーセンタイル以上、初回帝王切開率、新生児低血糖、臍帯血C-ペプチドが90パーセンタイル以上であったが、IADPSGでの協議を経てHAPOでのコントロール群(全例を7群に分けた際に最も血糖値の低いカテゴリー)と比較してprimary outcomesのオッズ比が1.75倍になる血糖値(92-180-153)がカットオフ値として採用された3)。このことからわかるように新診断基準は出生児の合併症の減少を目的として採択され、この基準によるGDMの診断が母親のその後の糖代謝異常とどのように関連するかは不明であった。 以前からGDMの母親が健常人と比較してその後に糖代謝異常を発症しやすいことは知られていた。本研究ではHAPO研究に参加した母児を対象として、GDMと診断された患者のその後の糖代謝異常(2型糖尿病および前糖尿病[prediabetes])および児の肥満(childhood adiposity)の発症を平均11.4年間にわたり追跡した。その結果、糖代謝異常の発症は非GDMに対してオッズ比[OR]:3.44(95%信頼区間[CI]:2.85~4.14)、リスク差:25.7%(95%CI:21.7~29.7)で有意に増加していた。児の肥満は母親の妊娠中のBMIに影響されるので、それで調整するとOR:1.21(95%CI:1.00~1.46)、リスク差は3.7%(95%CI:-0.16~7.5)で有意な増加は認められなかった。 日本産科婦人科学会の検討では、新診断基準採用により、わが国のGDM頻度は全妊婦に75gOGTTを実施した場合には、以前の診断基準による2.92%から12.08%へと4.1倍に急増するとされている4)。母児の周産期合併症を予防するために妊娠中の血糖管理を適切に実施することはもとより重要であるが、GDM妊婦はその後の糖代謝異常発症のハイリスクグループであることを再認識して診療する必要があるだろう。■参考1)HAPO Study Cooperative Research Group. N Engl J Med. 2008;358:1991-2002.2)平松祐司ほか. 糖尿病. 2015;58:801-803.3)International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups Consensus Panel. Diabetes Care. 2010;33:676-682.4)増本由美. 糖尿病と妊娠. 2010;10:88-91.

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歯周炎とアルツハイマー病リスクが関連

 歯周病が、軽度認知障害(MCI)・主観的認知低下(SCD)・アルツハイマー病(AD)のリスク増加の一因となるかどうかを検証するために、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJacob Holmer氏らが症例対照研究を実施した。その結果、辺縁性歯周炎と早期認知障害およびADとの関連が示唆された。Journal of Clinical Periodontology誌オンライン版2018年10月5日号に掲載。 本研究は、スウェーデンのHuddingeで3年間にわたって実施された。カロリンスカ大学病院のカロリンスカ・メモリークリニックで、連続した154例を登録し、3つの診断群(AD、MCI、SCD)をまとめて「症例」とした。年齢および性別がマッチした76人の認知的に健康な対照を、Swedish Population Registerを介して無作為にサンプリングした。すべての症例および対照は、臨床検査およびX線検査を受けた。潜在的な交絡因子を調整したロジスティック回帰モデルに基づいて統計解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・対照群より症例群で、口腔健康状態不良および辺縁歯槽骨喪失が多くみられた。・症例群は、広範な辺縁歯槽骨喪失(オッズ比[OR]:5.81、95%信頼区間[CI]:1.14~29.68)、深い歯周ポケットの増加(OR:8.43、95%CI:4.00~17.76)、う蝕(OR:3.36、95%CI:1.20~9.43)に関連していた。

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ICUにおけるCandida aurisの集団発生と制圧(解説:吉田敦氏)-930

 英国・オックスフォード大学病院の神経ICUで、C. aurisの集団感染が発生し、アクティブサーベイランス、全ゲノム解析に基づく分子疫学、伝播要因の追究、制圧の過程が今回NEJM誌に報告された。多剤耐性を示す本菌の増加は世界中で報告されており、米国および英国は2016年6月にアラートを発したが1)、今回の事例はその前から始まっていたもので、最終的に皮膚体温計のリユースが最も疑われる結果となった。 オックスフォード大学病院では、上記のアラートを受け、過去にさかのぼって調査を行ったところ、2015年2月~2016年10月までに4人の保菌と5人の感染があったことが判明した。このうち8人は神経ICUに入室歴があったため、2016年10月24日から患者・環境のスクリーニング(神経ICU入室時、入室中および退室時の鼻・腋窩・鼠径・気管切開部・創部・尿の培養を含む)を開始した。同定は質量分析を用いて行い、培養陽性例をCase、培養陰性例をControlとする症例対照研究としてリスクファクターを解析した。さらに同一患者において、最初に分離された株と最後に分離された株、そして環境分離株について全ゲノムシークエンスを行い、分子系統的な関係を解析した。 最終的に2015年2月~2017年8月31日までの間に患者は70例となり、うち66例(94%)は神経ICUに入室歴のある患者であった。7例は侵襲性感染症(真菌血症、デバイス関連髄膜炎)を生じていた。保菌/感染のリスクファクターとしては、再使用可能な皮膚体温計(OR=6.80)、フルコナゾールの全身投与(OR=10.34)が最も高かった。ベッド周囲、接触面、器具、空気を中心とした環境培養ではほとんどは陰性であったが、皮膚体温計、パルスオキシメーターは陽性であった。感染対策としては複数を組み合わせるバンドル介入(隔離、コホート、表面・床の連日の清掃、空室の最終清掃など)を行ったものの、新規の検出は皮膚体温計の使用を中止した後でもしばらく認められ、やがて終息した。全ゲノム解析では、患者・環境分離株はすべて南アフリカクレードに属し、単一クラスターをなしていた。ゲノム変異から算出した進化速度から推定すると、このクラスターが出現した時期は2013年4月ごろであった。 Candida aurisが最初に分離されたのは、実は本邦であり、耳感染症の患者からであった(2009年新種提唱)2)。しかし後に侵襲性感染症・保菌例の増加が相次ぎ、さらにフルコナゾール、アムホテリシンBを含む多剤に耐性であること、バイオフィルムを産生し、医療関連感染症を生じやすいことが明らかになった。ただし本菌の同定は、検査室で行われてきた従来法ではほぼ困難で、質量分析や遺伝子同定といった方法に頼らねばならない。つまり「同定不明なCandidaが気付かれないうちに増加し、治療抵抗性の侵襲性感染症を生じたり、大規模発生に進展してしまう」危険性が非常に高い。このような中で本報告がなされたわけであるが、患者体表に付着させ、うまく消毒できない器具が媒介になっていたことは、思いがけない伝播経路の存在と、究明の重要性を強調するものであろう。本邦では最近2例目の報告がなされたが3)、認識と同定に至っていない例があることはほぼ確実であるにもかかわらず、実態についてほとんど確実な情報がない状況といえよう。確実な同定に基づいたサーベイランス、発生を想定した対策の立案が喫緊の課題である。

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マダニが媒介するライム病、最適な抗菌薬は?

 早期ライム病(LB)における遊走性紅斑の管理について、抗菌薬の種類や治療法の選択をめぐる論争がある。ドイツ・アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクのGabriel Torbahn氏らは、早期LBへの各種抗菌薬と治療法に対するすべての無作為化試験について、ネットワークメタアナリシス(NMA)を行った。その結果、抗菌薬の種類や治療法は、有効性および薬剤関連有害事象に寄与しないことが明らかになった。著者は、「今回の結果は、LB患者を治療する医師ならびに患者の意思決定にとって重要なものである」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2018年10月3日号掲載の報告。 研究グループは、MEDLINE、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、2017年7月までに行われた試験を電子検索するとともに、それらに記載された参考論文も手動検索し、著者に連絡を取った。また、進行中の臨床試験はClinicalTrials.govにて検索した。特定された9,975報について、1人のレビュワーが論文タイトルとアブストラクトをスクリーニングした後、関連のある161報の全文を入手。2人のレビュワーが独立してそれらを評価し、データ抽出した。抽出データには、さまざまな用量や投与期間で抗菌薬による治療がなされ、内科医に早期と診断された成人が含まれていた。 主要評価項目は、治療反応性(症状消失)および治療関連有害事象とし、これらのNMAは、netmetaパッケージのRを用いて頻度論的統計で計算した。また、NMAのエビデンスの確実性を評価するためにGRADEを使用した。 主な結果は以下のとおり。・19件の研究(計2,532例)が解析に組み込まれた。・患者の平均年齢は37~56歳、女性患者の割合は36~60%であった。・調査に含まれていた抗菌薬は、ドキシサイクリン、セフロキシム アキセチル、セフトリアキソン、アモキシシリン、アジスロマイシン、penicillin Vおよびミノサイクリンであった。・NMAによる効果量は、抗菌薬の種類(例:アモキシシリンvs.ドキシサイクリンのオッズ比[OR]:1.26、95%信頼区間[CI]:0.41~3.87)、投与量もしくは投与期間(例:ドキシサイクリン200mg/日・3週間vs.同種同用量・2週間のOR:1.28、95%CI:0.49~3.34)による有意差はなかった。・治療開始後2ヵ月時(4%[95%CI:2~5%])および12ヵ月時(2%[95%CI:1~3%])のいずれにおいても、治療失敗はまれであった。・治療関連有害事象は概して軽度~中等度であり、効果量は抗菌薬の種類および治療法による差がなかった。・なお、研究の多くが、不正確、間接的、そして研究制限(バイアスリスクの高さ)により、エビデンスの確実性は低い、もしくは非常に低いに分類された。

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新種のカンジダ症、意外な感染経路/NEJM

 Candida aurisは、新興の多剤耐性病原体であり、2009年、日本で入院患者の外耳道から分離されたカンジダ属の新種である。2011年、韓国で院内の血流感染の原因として報告されて以降、多くの国や地域で相次いで集団発生が確認されており、集中治療室(ICU)でも頻繁に発生している。英国・オックスフォード大学病院のDavid W. Eyre氏らは、同大学関連病院のICUで発生したC. auris感染の集団発生の調査結果を、NEJM誌2018年10月4日号で報告した。約2.5年で70例が保菌または感染 研究チームは、オックスフォード大学関連病院の神経科学ICUでC. auris感染集団が同定された後、集中的な患者および環境のスクリーニングプログラムと、一連の感染制御のための介入を開始した(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 多変量ロジスティック回帰を用いて、C. aurisの保菌と感染の予測因子を特定。また、患者と環境からの分離株を、全ゲノムシークエンシングで解析した。 2015年2月2日~2017年8月31日の期間に、合計70例がC. aurisの保菌または感染患者として同定された。このうち66例(94%)は診断前に神経科学ICUに入室しており、診断までの在室期間中央値は8.4日(IQR:4.6~13.4)であった。他の3例は、診断前に隣接する神経科学病棟に入院しており、残りの1例は神経科学ICUにも病棟にも曝露していなかった。 侵襲性C. auris感染症は、7例で発症した。4例がカンジダ血症、3例は中枢神経系デバイス関連の髄膜炎(1例はカンジダ血症を伴っていた)であった。神経科学ICUにも病棟にも曝露していなかった1例では、整形外科デバイスによる感染が認められた。再使用が可能な腋窩温プローブが感染の予測因子に 多変量モデルでは、C. aurisの保菌または感染のリスクは、診断前の神経科学ICU在室期間が長くなるに従って増大し(p=0.001)、20日に達すると有意差はなくなった。同様に、好中球数が正常高値の場合に比べ、中等度の異常値に上昇すると、リスクは有意に増大した(p=0.01)。 さらに、C. aurisの保菌または感染の予測因子には、再使用が可能な皮膚表面腋窩の体温プローブの使用(多変量オッズ比:6.80、95%信頼区間[CI]:2.96~15.63、p<0.001)や、フルコナゾールの全身曝露(10.34、1.64~65.18、p=0.01)が含まれた。 C. aurisは、通常の環境ではほとんど検出されなかったが、複数の皮膚表面腋窩温プローブを含む再使用が可能な機器からの分離株では検出された。複数の感染制御のための介入を一括して行ったにもかかわらず、新規症例の発生が低下したのは、体温プローブの使用を中止した時だけだった。 すべての集団発生のシークエンスは、C. auris南アフリカクレード内の単一の遺伝子クラスターを形成した。シークエンスが決定された再使用機器からの分離株は、患者からの分離株と遺伝的に関連していた。 著者は、「この院内集団発生でのC. aurisの伝播には、再使用可能な腋窩温プローブとの関連を認めたことから、この新興病原体は環境内で生存し続け、医療環境下で感染する可能性があることが示された」としている。

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日本の常識、世界の常識(解説:野間重孝氏)-931

 2015年にLancet誌(オンライン版)に発表されたSCOT-HEART試験は、安定胸痛患者の管理に冠動脈造影CT(CTA)を利用することにより、診断精度、診断頻度を上げることができることを示したが、フォローアップ期間が短かったこともあり、非致死性・致死性心筋梗塞の発症頻度の低下を証明することはできなかった(低下傾向はみられたが統計学的有意差が得られなかった)。このことから、CTAの利用が非致死性・致死性心筋梗塞の発症を低下させることを示すことを主な目的として、同研究グループが前研究の参加者を対象に5年間(中間値で4.8年)の長期フォローを行ったのが本研究である。結果: 1. 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低いことが示された(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 2. 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。 3. 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。 4. 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。彼らの結論を要約すれば: 1. 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の非致死性・致死性心筋梗塞の発生リスクを約4割低下させることができる。 2. 一方、侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、両群で有意差が認められなかった。 結論の1と2の関係に戸惑う人もいるかもしれない。実際率直な疑問として、冠動脈造影・血行再建の実施率に差がないのに、どうして非致死性・致死性心筋梗塞の発症に差がなかったんだろう、と素朴な疑問をお持ちになる方も多いのではないかと思う。 致死性心筋梗塞の発症、非致死性心筋梗塞の発症ともに、時間を追うごとに差が開いていっている。この差が約4割に達したのである。 侵襲的CAGの施行、血行再建の割合は両者で差がついていない。 なぜ差がつかなかったかについては、CTA非活用群では診断がきちんとなされないまま、フォローされているうちに非致死性・致死性心筋梗塞がどんどん発症してしまい、その結果としてこういう集団がフォローアップから脱落し、結果CAGや血行再建の頻度に差がでなかったと解釈されるのである。さらに、早期の血行再建だけではなく、診断確定の有無により両群で至適内科療法の実施状況に差があったことも当然挙げられなくてはならないだろう。 そんなに差がでるものか? フォローアップの姿勢に問題があったんじゃないのか? と思われる方もいらっしゃると思う。ここであらためてご注意したいのは、彼らがフォローしたのは“stable chest pain”であって“stable angina”ではないことで、実際、論文中で著者らが「おそらく半数は実際には有意な動脈硬化を持っていない可能性がある」という記述をしていることである。英国全体における虚血性心疾患の取り扱いがどうなっているかまでは言及できないが、少なくとも彼らが扱った集団のフォローアップ体制はその程度だったのであり、それは世界的にみても決して珍しいことではないのである。 一方、以上の結果をみて「なんだ、当たり前じゃないか」と思われる方も多いのではないかと思う。わが国においては心電図・胸部レントゲン写真・経胸壁心エコー図等のスクリーニング項目を一通りこなして、少し怪しいと思った患者に対してCTAを撮るのは当たり前になっている。以前は運動負荷が行われたが、現在では運動耐容量の不明な狭心症患者に対していきなり運動負荷検査を行うことは危険であり、運動負荷検査は(決まりきった健康診断のスクリーニングを除けば)すでに診断の確定した狭心症患者の運動耐容量の決定に用いられるほうが普通になっている。 しかし、わが国において以上は常識とされているが、日本以外の国においては必ずしもそうではないことには注意が必要である。日本はCTの普及率がOECD加盟国の中でも群を抜いた1位であり(世界CTの10台に1台はわが国にある)、簡単に造影CTができる環境にある。また健康保険制度が整備されているため、収入の低い人であってもCTやシンチグラムなどの高価な検査を受けることができる。さらに、わが国では患者はどの医療機関にも原則自由にアクセス可能である。これらは世界ではまれなことであることを認識しておかなければ、現在の日本の医療に対する評価を誤ることになる。 本研究はCTAの、というよりも虚血性心疾患の治療において、速やかかつ正確な診断がいかに重要であるかを示した論文として、重要な研究であると考える。さらにいえば、医療と医療費の問題についてあらためて考えさせられた論文であったともいえる。

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もっと気軽に使う漢方薬のススメ

 2018年9月20日、Kampo academiaは第5回となるプレスセミナーを都内で開催した。今回は、「『風邪には葛根湯!?』漢方医学の視点から診る風邪治療 漢方って何だろうー和漢と中医学、そして風邪」をテーマに、身近な漢方薬の使い方について講演が行われた。年齢別の風邪への漢方薬処方 セミナーでは新見 正則氏(愛誠病院 顧問/帝京大学医学部外科 准教授/帝京大学大学院医学研究科移植免疫学/同 東洋医学 指導教授)を講師に迎え、前述のテーマでレクチャーが行われた。 わが国での漢方の概念は、大きく分けて「フローチャート」「和漢」「中医学」と3つがあると同氏は私見としつつ示した。「フローチャート」では西洋医学的に症状から漢方薬を決める。「和漢」では症状、腹診、舌診などから漢方薬を決める。「中医学」では症状、望診、聞診などの四診の次に証候名を決め、さらに治法を決め、方剤の決定にいたるというおのおの異なるプロセスだと説明した。 そして、漢方薬を使うのであれば、簡単なやり方、つまり「フローチャート」から使用する漢方薬処方を同氏は薦めている。同氏は、この考え方を「モダン・カンポウ」と名付けて、現在広く啓発を行っているという。 モダン・カンポウの特徴として、漢方特有の診療ではなく、西洋医学的な診断をすること、漢方薬を気軽に使い、効果がない、有害な場合はすぐ止めることができること、患者の満足度が高いことなどを挙げる。たとえば、風邪症状を訴える患者に対して「葛根湯(カッコントウ)」は広く使われているが、本当に風邪かどうかの試薬にもなる。効果があれば風邪症状の改善に、なければ風邪以外の診断へと進むことができるとし、診断の助けになる漢方薬の使い方を説明した。また、患者年齢ごとの使用例として、若年女性には「麻黄湯(マオウトウ)」、中年男性には「葛根湯」から「柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)」そして「小柴胡湯(ショウサイコトウ)+麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)」へ、中年女性には「麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)」から「桂枝湯(ケイシトウ)+麻黄附子細辛湯」そして「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)+麻黄附子細辛湯」、高齢女性には「香蘇散(コウソサン)」から「参蘇飲(ジンソイン)」などを紹介した。 そのほか、漢方薬の臨床研究についても言及し、「補中益気湯」のインフルエンザへの予防効果について、内服群(n=179)と非内服群(n=179)に分けて8週間観察したところ、内服群では1例が、非内服群では7例がインフルエンザに罹患し、「補中益気湯」で予防できる可能性があるという1)。漢方薬使用の5つの効用 伝統漢方とモダン・カンポウの違いについて、同氏は次のように説明する。 伝統漢方では、漢方医が処方し、おもに煎じ薬を用いている。すべての疾患を対象に、膨大な古典の知識に基づき漢方診療を行い、長年の経験が必要とされるが、有効性は比較的高いのが特徴である。 一方、モダン・カンポウでは、西洋医が処方し、エキス剤を使用する。西洋医学で治療効果のないものをターゲットに、古典を参考にしつつ、漢方診療を行う(しかし漢方診療は必須ではない)。明日からでも処方ができ、効果がみられなければ順次処方変更ができるのが特徴という。 実際、「伝統漢方を行うとなると、膨大な知識・学習量が必要であり、漢方薬を使うことに二の足を踏んでしまう」と同氏は私見としながらも指摘する一方で、「漢方薬を使うことで『患者が喜ぶ』『外来が楽しい』『患者が離れない』『医療費の削減になる』『リスク管理になる』などの理由で漢方薬を使われた先生で止めた人はいない。漢方薬に身構えず使ってほしい」と自身の経験も含めて、漢方薬処方への思いを語った。 おわりに同氏は、「漢方薬は、西洋医学以外で唯一保険適用されている薬。問題があればすぐ止めることができる。生薬の足し算の英知である漢方薬を気軽に処方してもらいたい」と期待をのべ、講演を終えた。■参考1) Niimi M. BMJ. 2009;339:b5213.

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統合失調症または双極性障害患者におけるアリピプラゾール経口剤と持効性注射剤の服薬アドヒアランスの比較

 リアルワールドにおける統合失調症または双極I型障害患者(BD-I)に対する長時間作用型持効性注射剤抗精神病薬(とくに、アリピプラゾール持効性注射剤月1回製剤400mg[AOM400]のような新規薬剤)と経口抗精神病薬のアドヒアランスを比較した研究は、あまり行われていない。米国・Partnership for Health Analytic ResearchのTingjian Yan氏らは、アリピプラゾールの経口剤と持効性注射剤の服薬アドヒアランスについて、比較を行った。Advances in Therapy誌オンライン版2018年9月11日号の報告。 2012年1月~2016年6月までのTruven MarketScanデータを用いた2つのレトロスペクティブコホート分析より、AOM400による治療を受けたか経口抗精神病薬単独療法から他の治療に移行した、統合失調症またはBD-I患者を抽出し服薬アドヒアランスと服薬中止について比較を行った。アドヒアランスは、調査開始から1年間における服薬日数の割合(PDC)0.8以上と定義した。AOM400および経口抗精神病薬と服薬アドヒアランスとの関連は、線形回帰モデルを用いて調べた。服薬中止までの時間およびリスクは、ベースライン時の共変量で調整した後、Kaplan-Meier曲線およびCox回帰を用いて推定した。マッチしたコホートを作成するため、傾向スコアマッチングと完全一致マッチングを組み合わせて感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・最終コホートサイズは、統合失調症患者ではAOM400群408例、経口抗精神病薬群3,361例、BD-I患者ではAOM400群413例、経口抗精神病薬群1万5,534例であった。・統合失調症患者の調整平均PDCは、AOM400群が経口抗精神病薬群より高く(0.57 vs.0.48、p<0.001)、服薬中止リスクは、AOM400群より経口抗精神病薬群が高かった(ハザード比[HR]:1.45、95%信頼区間[CI]:1.29~1.64)。・BD-I患者の調整平均PDCについても、AOM400群が経口抗精神病薬群より高かった(0.59 vs.0.44、p<0.001)が、服薬中止リスクに関しては、経口抗精神病薬群がAOM400群より高かった(HR:1.71、95%CI:1.53~1.92)。 著者らは「リアルワールドにおいて、統合失調症またはBD-I患者に対するAOM400治療は、経口抗精神病薬治療と比較し、PDC0.8以上の服薬アドヒアランス良好な割合が有意に高く、治療中止までの期間も有意に延長された」としている。■関連記事抗精神病薬の種類や剤形はアドヒアランスに影響するのか実臨床における抗精神病薬持効性注射剤のメリット持効性注射剤と経口薬の比較分析、どんなメリットがあるか

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