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肥満2型DMへのセマグルチド、68週後の体重減少は約10%/Lancet

 過体重/肥満の2型糖尿病成人患者において、GLP-1アナログ製剤のセマグルチド2.4mg週1回投与は臨床的に意義のある体重減少を達成し、プラセボに対する優越性が示された。英国・レスター大学のMelanie Davies氏らが、体重管理を目的としたセマグルチド2.4mg週1回皮下投与の有効性と安全性を同1.0mg(糖尿病治療として承認された投与量)およびプラセボと比較する、無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「Semaglutide Treatment Effect in People With Obesity 2:STEP 2試験」の結果を報告した。2型糖尿病患者において、セマグルチド1.0mg投与は体重減少効果があることが示されており、体重管理のための高用量2.4mg投与の有効性が検討されていた。Lancet誌オンライン版2021年3月2日号掲載の報告。セマグルチド2.4mg週1回皮下投与による体重減少をプラセボと比較 研究グループは、12ヵ国(欧州、北米、南米、中東、南アフリカおよびアジア)のクリニック149施設において、スクリーニングの半年以上前に2型糖尿病と診断され、BMI≧27かつ糖化ヘモグロビン値7~10%の成人患者を登録し、セマグルチド(週1回皮下投与)2.4mg群、同1.0mg群またはプラセボ群に、血糖降下薬および糖化ヘモグロビン値で層別し1対1対1の割合で無作為に割り付けた。いずれも生活習慣の改善介入とともに68週間投与した。 主要評価項目は、セマグルチド2.4mg群とプラセボ群との比較における68週時の体重変化率および5%以上減量の達成率で、intention-to-treat解析で評価した。安全性の解析対象集団は、治験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者とした。セマグルチド2.4mg群の約70%が体重5%以上減少を達成 2018年6月4日~11月14日の期間に、1,595例がスクリーニングされ、そのうち1,210例がセマグルチド2.4mg群(404例)、同1.0mg群(403例)、およびプラセボ群(403例)に無作為に割り付けられ、intention-to-treat解析に組み込まれた。 ベースラインから68週時までの平均体重変化率推定値は、セマグルチド2.4mg群-9.6%(標準誤差0.4)vs.プラセボ群-3.4%(同0.4)であった。プラセボ群と比較したセマグルチド2.4mg群の治療群間差推定値は、-6.2ポイント(95%信頼区間[CI]:-7.3~-5.2、p<0.0001)であった。 68週時点で、セマグルチド2.4mg群はプラセボ群と比較し、5%以上の減量を達成した患者の割合が高かった(68.8%[267/388例]vs.28.5%[107/376例]、オッズ比:4.88、95%CI:3.58~6.64、p<0.0001)。 有害事象は、セマグルチド2.4mg群(87.6%)および同1.0mg群(81.8%)で、プラセボ群(76.9%)より高頻度にみられた。消化管系の有害事象は、ほとんどが軽度~中等度であり、発現頻度はセマグルチド2.4mg群256/403例(63.5%)、同1.0mg群231/402例(57.5%)、プラセボ群138/402例(34.3%)であった。

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第48回 病院は格好のターゲット、コロナ過で急増するサイバー攻撃の狙いは?

コロナ禍で世界的に増えているサイバー攻撃。医療関連機関を狙った攻撃も増えている。時に患者の命に関わる危険もある攻撃に対し、どう立ち向かうべきか。NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストの松原 実穂子氏が2月1日、都内で行ったセミナー(主催:株式会社新社会システム総合研究所)において、サイバー攻撃の傾向と対策を語った。なぜ医療機関が狙われるのかイスラエルのサイバーセキュリティ企業チェックポイント・ソフトウェア・テクノロジーズによると、医療機関に対する攻撃は、昨年11月から今年1月までの間だけで45%も増えたという。攻撃の1つは、コロナワクチンや治療薬等の研究成果を盗むスパイ目的だ。2つ目は、身代金要求型ウイルスを使った金銭目的の業務妨害だ。身代金要求型ウイルスに感染すると、ファイルが暗号化され、ITシステムが使えなくなり、業務が中断されかねない。たとえば、患者の治療法や健康状態の入ったデータベースにアクセスできなくなれば、治療や投薬、入退院の手続きに支障が出る。最悪の場合、患者の命が危険に晒されることも考えられる。そのため、身代金を支払ってでも暗号を解く鍵を入手しようという窮地に追い込もうと、病院を狙った攻撃が続いているのだ。UCSFもターゲットに、1億2,000万円の被害米国では、2020年だけで約560もの医療機関が身代金要求型ウイルスによる攻撃を受けた。昨年10月、バーモント大学の医療部門のITシステムがウイルス攻撃によりダウンした際には、患者の治療を続けることが困難になった。このトラブルにより、同大学は医療スタッフ300人を一時解雇するまでに追い込まれた。被害額は、1日当たりで1億5,500万円近くにも上ったという。昨年6月に被害を受けた、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部では、研究に不可欠な情報がサイバーウイルスにより暗号化され、最終的に約1億2,000万円の身代金を支払った。なぜ医療機関に対するサイバー攻撃が増えているのか。松原氏は以下の3つを挙げる。1つは、IT予算に占めるサイバーセキュリティ予算の割合が低いこと。例えば、サイバーセキュリティ対策に注力してきた金融業界の場合、IT予算に占めるサイバーセキュリティ予算の割合は6〜14%だが、医療機関の場合は3〜4%程度だという。2つ目は、サイバーセキュリティ対策が不足していること。サイバー攻撃で最も多く使われる手口の1つが「なりすましメール」だが、米保険会社Corvusによると、最も基本的なサイバーセキュリティ対策であるメールのスキャニング・フィルタリングツールでさえ、医療機関の86%以上が未導入なのが現状だ。なりすましメールが医療スタッフに対して届きやすい状況を生んでいるのは明白である。3つ目は、コロナ禍における医療資源の逼迫だ。コロナ禍以前ですら、サイバーセキュリティ対策が遅れていたのに、新型コロナウイルスの収束が見えない中、さらに対策が取りにくくなっている。NTT Ltd.がまとめた医療機関の地域別サイバーセキュリティ成熟度によると、アジア太平洋地域はほかの地域に比べて圧倒的に低い。南米大陸と比べても評点は3分の1程度で、欧州や同じアジア太平洋地域の豪州と比べても半分ほどだという。セキュリティ対策甘い日本の医療機関は格好のターゲット米サイバーセキュリティ企業CrowdStrikeによると、昨年4月以降、日本の複数のワクチン開発機関に対して断続的にサイバー攻撃が行われた。なりすましメールに新型コロナ関係のファイルが添付されていたという。同社は、中国のハッカー集団が行ったのではないかと推測している。身代金要求型ウイルスによる被害は、日本企業でも発生している。読売新聞によると、身代金要求型ウイルスに感染した塩野義製薬の台湾現地法人では、医療機器の輸入許可証や社員在留許可証がダークウェブで公開された。通常のブラウザではアクセスできない匿名性が高いサイトで、ドラッグや個人情報等違法取引が横行しているという。米国ではギリアド・サイエンシズが2020年4月、イランと見られるハッカー集団からのサイバー攻撃を受けた。モデルナも昨年7月、中国人とみられるハッカー集団に狙われている。コロナワクチンには低温物流が必要だが、ここに狙いをつけたのか、昨年後半から低温物流企業に対しても、知的財産を狙ったサイバー攻撃が行われ、国家の関与が指摘されている。低温物流世界2位のAmericold Realty Trust(米ジョージア州アトランタ)には2020年11月、身代金要求型ウイルスによる攻撃が行われ、業務が一時停止する事態に陥った。ワクチンの承認機関も攻撃を受けている。昨年12月、米ファイザーと独ビオンテック、モデルナが、欧州医薬品庁に承認を受けるために提出したワクチン情報が、サイバー攻撃で不正アクセスされてしまった。情報が文脈を無視した状態でオンライン上に流出し、同庁は「ワクチンの信頼性を損ねかねない」と懸念を表明した。動き出した各国政府・国際機関・企業の対応こうした状況に各国政府や国際機関は警告や非難声明を出している。事態を重く見た各国のサイバーセキュリティの専門家が立ち上がり、政府機関や司法機関と協力しつつ、医療機関を狙ったサイバー攻撃の手口やサイバーセキュリティ対策の取り方についての情報を無料で提供する枠組みを複数立ち上げた。一部の企業からも、被害を受けた医療機関へのサイバーセキュリティツールやコンサルティングサービスの無料提供が行われている。松原氏は、医療サプライチェーン関連組織の経営層に対し、サイバーセキュリティ強化を訴えた。医療業界では、医療ISAC(Information Security and Analysis Center)という情報共有の枠組みなどを通じ、攻撃の手口や対策についての情報共有が進められ、被害の最小化に努めている。世界を巻き込んだコロナ禍は、ウイルスとの闘いであると共に、サイバー攻撃との闘いまで強いられているのである。

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第48回 新型コロナと東日本大震災(前編) あの時の経験は今、医療現場でどう役に立っているか?

東日本大震災から10年こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月11日で東日本大震災から10年になります。テレビではいろいろな特集を組んでいるようですが、NHKは例年よりドラマが多い印象です。実際の災害に基づくドラマは、「リアリティに欠ける」場合、視聴者が敬遠する恐れがあります。また、被災地以外の人たちが、このコロナ禍の中、どれだけ東日本大震災に関心を寄せるかという問題もあります。3月7日の夜にNHKで放送されたドラマ「星影のワルツ」は、遠藤 憲一の抑えた演技もよく、シンプルで見応えがあるドラマでした。南相馬市の自宅で津波にのまれ、3日間海を屋根に乗って漂流した男性の実話を基につくられたものです。過度に感傷的にも感動的にもならず、かといって説明的でもなく、海の上を漂流し、ただひたすら生き延びようとする様を淡々と描いていたのが印象的でした。それにしても、10年という時間が経過したことで、東日本大震災については、記事を含めた報道も、ドラマや映画も、つくるのが難しい局面になってきているのかもしれません。私自身、10年前は医療媒体の記者として、被災地に何度か足を運び、医療現場の奮闘や復興の足取りなどを報道しました。震災の1ヵ月後にレンタカーを借りて周った時に見た、三陸沿岸の街の惨状は今でも忘れられません。今回はあの時の現場を思い出しながら、東日本大震災における災害保健医療や医療支援が、今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大にどんな形で役立っているか、について考えてみたいと思います。津波による溺死9割、やることがなかったDMAT新型コロナウイルス感染症の感染拡大は「感染災害」だ、という考え方が定着してきています。実際、各都道府県の対策本部の中枢には各地域のDMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)のメンバーたちが充てられ、活動しています。DMATがこのコロナ禍の中、各地で重宝されるのは東日本大震災での経験があったからだ、という見方がもっぱらです。DMATは1995年の阪神・淡路大震災での初期医療体制の遅れの反省を踏まえ、2005年に発足しました。ただ、そのDMAT、東日本大震災では活躍の場が限られました。その理由は、亡くなった方の死因の9割が大津波による溺死だったためです。元々「発災から概ね48時間以内、急性期での活動を想定」し、重症患者の救援が主たる目的だったDMATは、被災地に到着してもやることがほとんどなかった、と言われています。大規模な自然災害においては、超急性期や急性期だけではなく、亜急性期や慢性期の医療や、避難所の衛生環境などを保つための保健活動も重要であること、多種多様な支援チームの調整が必須であることが、東日本大震災によってクローズアップされたのです。こうした教訓から、2012年3月の厚生労働省医政局長通知では「救護班(医療チーム)の派遣調整等を行うために、災害対策本部の下に派遣調整本部を迅速に設置できるよう事前に計画を策定」することが求められました。さらに2016年の熊本地震の教訓を踏まえ、2017年7月には厚労省は各都道府県知事宛に「大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備について」という通知を発出、「各都道府県における大規模災害時の保健医療活動を行う体制に関して、保健医療活動チームの派遣調整、保健医療活動に関する情報の連携、整理及び分析等全体的な調整を行うための保健医療調整本部の整備」を求めるに至っています。こうした調整本部の中核を担うことが期待されたのが「統括DMAT」(厚労省が実施する統括DMAT研修を修了し、登録された者)と呼ばれる災害保健医療の専門家たちです。阪神・淡路、東日本、そして熊本と大きな地震を経験し、超急性期対応だけでなく、さまざまな局面でのコーディネートの経験積を積んできたDMATが、新たな災害である「感染災害」として今直面しているのが新型コロナ、というわけです。「感染災害」にDMAT出動コロナでのDMATの関与は中国・武漢からの邦人退避チャーター便での活動を政府から要請されたことにはじまり、その流れでクルーズ船ダイヤモンド・ プリンセス号における活動につながったとされています。厚労省の第21回「救急・災害医療提供体制の在り方に関する検討会(検討会)」(2020年8月21日)では、コロナでのDMATの活動が報告されています。それによれば、中国の武漢市からの邦人退避チャーター便について、厚労省からDMATの派遣要請がなされ、邦人の宿泊場所で健康チェックや感染管理に当たっています。この時の活動期間は1月31日~3月3日、全国から医師、看護師ら151人が集まっています。その後、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号にも派遣要請がされ、DMATと他医療チームの調整、熱発外来、患者の搬送トリアージなどを行っています。この時の活動期間は2月8日~3月1日、全国から医師、看護師ら472人が集まりました。ダイヤモンド・プリンセス号という、コロナ医療の最前線において感染管理やクラスター対策を学んだDMATのメンバーたちは、活動終了後にはそれぞれが所属する病院に戻り、今度は地元でコロナと対峙することになりました。患者搬送コーディネーターに統括DMATをダイヤモンド・プリンセス号での活動実績などを評価した厚労省は2020年3月26日、「新型コロナウイルス感染症の患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備について(改訂)」と題する事務連絡で、コロナ対応におけるDMATの最大限の活用を各都道府県に要請しました。事務連絡は、「都道府県調整本部には、集中治療、呼吸器内科治療、救急医療、感染症医療の専門家、災害医療コーディネーター等に必要に応じて参加を要請するとともに、搬送調整の中心となる『患者搬送コーディネーター』を配置すること。(中略)その際、円滑な搬送調整実施のために、患者搬送コーディネーターのうち少なくとも1人は、自然災害発生時における『統括DMAT』の資格を有する者であることが望ましい」とし、「都道府県調整本部については、統括DMATなどの関係者との協議の上、都道府県の実情を踏まえてDMATメンバーの参画も考えられる」としています。45都道府県でDMAT登録者が調整本部に参画そういった経緯から、ダイヤモンド・プリンセス号以降も、DMATは「厚労省本部地域支援班」として各地のクラスターの現場対応にあたったり、各都道府県の調整本部において現場の指揮や患者搬送のコーディネートにあたったりしています。第22回検討会(2020年12月4日)の資料によれば、45都道府県でDMAT登録者が調整本部に参画し、27都道府県に常駐(最大時)しているとのことです。東日本大震災とその後のさまざまな災害対応で得られた教訓を糧に調整力や対応力を高めてきたDMATが、このコロナ禍の中、全国でその役割を存分に発揮しているわけです。ただ、震災などの自然災害との大きな違いは、コロナは災害が局所的ではなく、全国で起きていることです。あるDMATの医師はこんなことを話していました。「大災害が起こると、各地のDMATの仲間の間で色んな情報が飛び交うのだが、今回はそれがほとんどない。それだけ、それぞれの地域でDMATがいっぱいいっぱいで頑張っているからだろう」。東日本大震災以来の大災害とも言える新型コロナ。この「感染災害」を乗り越えたとき、日本の災害保健医療は、またもう一皮剥けているに違いありません。

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診療に役立つLGBTQsの基礎知識

 LGBTという言葉を聞いたことはありますか? これは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉で、セクシュアルマイノリティの総称として使われています。多様性を強調するためにQuestioningを加えて、LGBTQsと表現することもあります。 性の多様性に関する知識は診療にも必要不可欠です。当事者が声を上げ始め、各自治体による同性パートナーシップ制度の成立などの社会変化もある今、知らないでは済まされない時代になりつつあります。今回はCareNeTVで配信中の「診療に役立つLGBTQsの基礎知識」講師で、川崎協同病院総合診療科・にじいろドクターズの吉田 絵理子氏に医師が知っておくべきことを聞きました。なぜ性的マイノリティの人々についての理解が必要なのでしょうか? 性的マイノリティの人々は、差別や偏見、いじめといった社会的困難に遭遇しやすいことを背景として、国内外においてさまざまな疾患リスクが高いことが報告されています。例えば、性的マイノリティ全般においてうつ病や自殺企図、物質依存のリスクが高い1)ことが報告されています。また、男性と性交渉する男性のHIV感染リスクが高い2)ことは広く知られていますが、学校での性教育は異性愛を前提としているため、同性間でのセーファーセックスに関する知識を得る機会が限られているといった課題があります。さらに安心して定期的に性感染症のチェックを受けられるような医療機関は非常に限られているのではないでしょうか。日常診療でLGBTQsの方々に出会っているのでしょうか? 電通ダイバーシティ・ラボが2018年に行った調査結果では、回答者の約9%がLGBTQsに相当したと報告しています3)。この数値をそのまま当てはめられるわけではありませんが、外来では1コマあたり1人以上のLGBTQsの患者さんを診ているかもしれないということです。何科の医師であっても、診療している患者さんの中にはLGBTQs当事者の方がいると考えられます。LGBTQsの人を診たことがないのではなく、診ていることに気付いていないのです。すべての人にかかわるSOGIという概念とは? SOGIとは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認) の頭文字をとった言葉です。性的指向は性愛・恋愛の対象、性自認は自分の性をどう認識しているか、です。SOGIはLGBTQsの人だけではなく、すべての人にかかわる概念です。あらゆるSOGIの人が受診しやすい環境を整えること大切です。また職員の中にも性的マイノリティの人はいますので、あらゆるSOGIの人が働きやすい環境作りも同様に重要です。問診で必要な情報を聴取するには? 当事者の中には、医療者から差別的対応を受けたことをきっかけに、セクシュアリティに関係する事柄を医師に話さない・話せない・話したくない、と思う方もいらっしゃいます4)。さらに深刻な場合は、受診自体を控えるケースもあります5)。 例えばうつ病で通院していても性的指向・性自認についての悩みを話せていないという声もありますし、同性・異性それぞれのパートナーがいる患者が性感染症を心配して受診した際に、性行為についての正確な情報を医師に開示できないために、適切な診断や予防医療の提供、セーファーセックスの指導が行われていない、といったことも起きています。セクシュアリティにかかわらず使える問いかけは? こういったことを防ぐには、多様なセクシュアリティの人が受診しているということを前提とした問診の基本を知っておく必要があります。 例えば、「結婚していますか」「(女性に対して)彼氏はいますか」という質問は異性愛を前提としていますが、「パートナーの方はいますか」というジェンダーに中立的な聞き方であれば異性・同性どちらも含まれます。セクシュアルヒストリーについて聴取する際にも異性間の性交渉を前提とはせずに、「正確な診断をする上で必要なので皆さんに伺っているのですが、性行為の相手は男性ですか女性ですかそれとも両方ですか」といった問いかけ方をするとよいでしょう。 性的指向、性自認、性行動について決めつけてしまうことが診療の妨げになりうるということもぜひ押さえてほしい事柄です。例えばトランス男性(出生時に割当てられた性別が女性で、性自認が男性)の人が、女性を好きになるとは限りません。トランス男性でゲイという人もいますし、男性との性交渉で妊娠することもありえます。 問診には技術も必要ですが、最も大切なことは、個人的な感情がどうあれ、医師として患者さんのあり方を尊重しサポーティブな態度で接することだと思います。施設単位で受診ハードルを下げる工夫は? 施設単位で行えることもあります。トランスジェンダーの方が受診しやすくなるように、問診票の性別欄を男女の二択ではなく自由記載ができるようにする、呼び入れを番号で行う、または通称名の使用ができることをわかりやすく伝えるといったことができます。トイレや入院着などもジェンダーで分けずに使えるものを準備することも大切です。 ハード面の工夫もさることながら、とくに重要なのは、スタッフの守秘義務の徹底です。セクシュアリティについて、患者の家族であっても本人の同意なく開示しないこと。どこまで自身のセクシュアリティを開示するかはあくまで本人が決めることです。関係するスタッフの間で対応が統一されるよう、とくに注意を要する事柄です。今後の展望をお聞かせください LGBTQsといってもセクシュアリティごとに健康リスクは異なります。あらゆるセクシュアリティの人が、日本全国どこででも、予防も含めた適切な医療サービスを安心して受けられるよう、そうした知識も広げていきたいと思っています。今までLGBTQsに馴染みがなかった先生方が、多様なセクシュアリティに配慮した環境を整備するのはハードルが高いと思われるかもしれません。すべてではなく、できること1つでも取り組むことから始めていただければ、それは多くの方の安心につながっていきます。ぜひ、一緒に取り組んでいきましょう。吉田 絵理子氏(川崎協同病院総合診療科・にじいろドクターズ)2003年京大理学部卒後、阪大医学部に学士編入。07年卒業。川崎協同病院での初期研修、聖隷三方原病院で後期研修ののち、11年より現職。総合診療医を中心とした「にじいろドクターズ」では、主に医療従事者を対象に性の多様性と医療に関する学びの場などを提供している。■関連コンテンツCareNeTV「診療に役立つLGBTQsの基礎知識」■参考文献・参考サイトはこちら1) King.M, et al. BMC Psychiatry. 2008;8:e1-17.  Haas AP, et al. J Homosex. 2011;58:10-51. .2) 厚生労働省エイズ動向委員会.2018年エイズ発生動向年報.2018.3) 株式会社電通コーポレートコミュニケ―ション局広報部. dentsu NEWS RELEASE 2019. 4) 性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会. 性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト(第3版). 2019.5) 浅沼智也ら.GID/トランスジェンダーの医療機関に関するアンケート調査結果. GID学会 第21回研究大会・総会プログラム・抄録集; 43. 2019.

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筋症状によるスタチン中止、関連性を見いだせず/BMJ

 スタチン投与時の重症筋症状の既往があり投与を中止した集団に、アトルバスタチン20mgを投与しても、プラセボと比較して筋症状への影響は認められず、試験終了者の約3分の2がスタチンの再開を希望したとの調査結果が、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のEmily Herrett氏らが実施した「StatinWISE試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月24日号で報告された。スタチンと、まれだが重度な筋肉の有害事象との因果関係はよく知られている一方で、筋肉のこわばり、筋痛、筋力低下などの重度ではない筋症状に及ぼすスタチンの影響は不明だという。また、非盲検下の観察研究の結果が広く知られるようになったため、多くの患者が筋症状の原因はスタチンと考えて治療を中止し、結果として心血管疾患による合併症や死亡が増加しているとされる。英国のプライマリケア施設の無作為化プラセボ対照n-of-1試験 研究グループは、スタチン投与時の筋症状の既往歴を持つ集団において、スタチンが筋症状に及ぼす影響を評価する目的で、2016年12月~2018年4月の期間にイングランドとウェールズの50のプライマリケア施設において無作為化プラセボ対照n-of-1試験を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術計画などの助成による)。 筋症状のためスタチン投与を中止または中止を考慮中の200例が対象となった。試験期間は1年で、参加者は6回の二重盲検下の投与期間(各2ヵ月)に無作為に割り付けられた。6回の投与期間のうち3回はアトルバスタチン20mgが、残りの3回はプラセボが投与された。最初の2回の投与期間は、1回がスタチン、もう1回はプラセボが投与され、3回連続して同じ薬剤の投与期間に割り付けられないようにした。 参加者は、各投与期間の終了時に、視覚アナログ尺度(0~10点。0点:筋症状なし、5点:中等度筋症状、10点:最も重度と考えられる筋症状)で筋症状の評価を行った。主解析では、スタチン投与期とプラセボ投与期の症状スコアを比較した。中止理由のうち筋症状は少ない 200例の参加者の平均年齢は69.1(SD 9.5)歳、115例(58%)が男性で、140例(70%)は心血管疾患の既往歴を有していた。総コレステロール値中央値は5.3mmol/L(IQR:4.4~6.2)だった。151例(76%)が、スタチン投与期とプラセボ投与期のそれぞれ少なくとも1回の症状スコアを提供し、主解析の対象となった。 主解析には、392回のスタチン投与期の2,638件のデータと、383回のプラセボ投与期の2,576件のデータが含まれた。視覚アナログ尺度による平均筋症状スコアは、スタチン投与期がプラセボ投与期よりも低く(1.68[SD 2.57]点vs.1.85[2.74]点)、両群間に有意な差は認められなかった(平均群間差:-0.11、95%信頼区間[CI]:-0.36~0.14、p=0.40)。 スタチンが筋症状の発現に影響を及ぼすとのエビデンスは得られず(オッズ比[OR]:1.11、99%CI:0.62~1.99)、筋症状は他の原因に起因しないとのエビデンスもなかった(1.22、0.77~1.94)。一般活動性、気分、歩行能力、日常的な作業、他者との関係、睡眠、生活の楽しみについても、両投与期で筋症状の影響に差はなかった。 試験終了から3ヵ月後の調査では、試験終了者の88%(99/113例)が「試験は有益だった」と回答し、66%(74/113例)は「スタチン投与をすでに再開または再開の予定」と報告した。また、プラセボ投与期よりもスタチン投与期で平均筋症状スコアが1単位以上高く、スタチンが筋症状の原因の可能性があると知らされた17例(15%)のうち、9例(53%)はスタチンを再開する予定とし、スタチンが原因の可能性はないと知らされた96例のうち65例(68%)が再開予定と回答した。 80例が投与を中止し、このうちスタチン投与期が34例(43%)、プラセボ投与期は39例(49%)であった。中止の理由のうち筋症状は少なく、忍容できない筋症状で投与を中止した参加者は、スタチン投与期が18例(9%)、プラセボ投与期は13例(7%)であった。試験期間中に13件の重篤な有害事象が報告されたが、試験薬に起因するものはなかった。 著者は、「n-of-1試験は、集団レベルで薬剤効果の評価が可能で、個々の治療の指針を示すことができる」とし、「今後は、他の種類のスタチンや高用量スタチン、一過性の有害作用を伴う他の薬剤のn-of-1試験に重点的に取り組むことが考えられる」としている。

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第50回 COVID-19ワクチン接種後数日してからの皮膚反応

接種後の遅れ馳せ(Delayed)の皮膚反応への心づもりが必要新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質を作るmRNAが成分のModerna(モデルナ)社のワクチンmRNA-1273を接種した12人に接種後すぐではなく何日か(4~11日;中央値8日)してから生じた遅れ馳せの皮膚反応を米国ボストン市の著名病院・Massachusetts General HospitalのチームがNEJM誌に報告し1)、皮膚感染症と混同して抗生物質で無闇に治療してはいけないと注意を促しています2)。提供:Massachusetts General Hospital腫れ、痒み、痛みなどを伴う上の写真のようなそれら皮膚反応は接種後すぐの局所や全身の症状が解消した後に注射部位近くに広く生じ、5人の病変の直径は10cm以上ありました。主に冷やすか抗ヒスタミン薬で治療され、何人かにはステロイド(グルココルチコイド)が使われました。また1人は蜂巣炎と推定されて抗生物質が投与されました。症状は発生から2~11日(中央値6日)で解消しました。そのような皮膚反応が遅延型かT細胞を介した過敏反応らしいとの著者等の見立ては報告された12人と同様に遅れ馳せの広域皮膚反応を呈した別の1人の皮膚検体の解析で支持されています。検体の表層血管周囲や毛胞周囲には好酸球や肥満細胞(マスト細胞)を含むリンパ球浸潤が認められました。遅延型過敏反応や注射部位反応を呈した人への2回目接種は禁忌ではないことから12人には2回目の接種を案内し、全員が2回目の接種を済ませました。2回目の接種後に半数の6人は1回目と同様か1回目より軽度の反応を再び被りました。2回目の接種後の皮膚症状はより早く、接種から1~3日(中央値2日)後に発生しています。mRNA-1273ワクチンへの遅れ馳せの局所反応に心づもりができていない医師がいるかもしれませんが、今回の報告はそれらの反応がおよそ恐れるに足るものではないことを改めて示しています2)。著者によると遅れ馳せの皮膚反応は免疫が良好に働いていることをどうやら意味しており、ワクチン接種の妨げにはなりません。今回の報告が不必要な抗生物質使用を減らしてワクチン接種の全うを助けることを著者は望んでいます。皮膚病変はSARS-CoV-2感染でも生じうるワクチンのみならずCOVID-19と種々の皮膚異変の関連も示唆されており、たとえば足のつま先によく生じる3)ことから”COVID toes”として知られる凍瘡(しもやけ)様病変がCOVID-19流行に伴って小児や若い成人患者にとくに多く認められています4)。COVID toes患者の鼻や喉の拭い液のPCR検査でSARS-CoV-2が検出されることは少なく4)、まったく検出できなかった報告5,6)ではSARS-CoV-2感染との関連はなさそうと結論されています。しかし組織を生検した幾つかの試験ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質が検出されており、それらの断片が皮膚の内皮細胞のACE2に結合して取り込まれて血管内皮炎を誘発するのかもしれません7)。スパイクタンパク質はPfizerやModerna 社のワクチンが体内で作り出す成分でもあり、スパイクタンパクと内皮細胞のACE2の相互作用がどういう顛末をもたらすのかをさらに調査する必要があります。参考1)Blumenthal KG,et al. N Engl J Med. 2021 Mar 3. [Epub ahead of print]2)MGH researchers call for greater awareness of delayed skin reactions after Moderna COVID-19 vaccine / MGH3)Magro CM, et al.Br J Dermatol . 2021 Jan;184:141-150. 4)Colmenero I, et al.Br J Dermatol. 2020 Oct;183:729-737. 5)Herman A, et al. JAMA Dermatol. 2020 Sep 1;156:998-1003.6)Roca-Gines J, et al. JAMA Dermatol.2020 Sep 1;156:992-997.7)Ko CJ, et al. J Cutan Pathol. 2021 Jan;48:47-52.

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mRNAワクチン、新型コロナ感染歴のある人は単回でも有効か/JAMA

 COVID-19ワクチンの不足から、一部の専門家から単回接種レジメンが提案されている。一方、COVID-19に感染すると少なくとも6ヵ月は免疫があると考えられているが、リコール応答も最適なワクチン投与レジメンも検討されていない。今回、米国・メリーランド大学のSaman Saadat氏らが医療従事者を対象に、COVID-19のmRNAワクチンを単回接種して結合価および中和力価を調べたところ、血清学的検査でCOVID-19感染歴が確認された人は、感染歴のない人よりも抗体価反応が高いことが示された。JAMA誌オンライン版2021年3月1日号リサーチレターでの報告。 2020年7~8月にメリーランド大学医療センターで実施された病院全体の血清調査研究に登録していた医療従事者を、SARS-CoV-2 IgG抗体陰性(抗体陰性)、IgG陽性の無症候性COVID-19(無症候性)、IgG陽性の症候性COVID-19(症候性)の3群に層別化し、無作為に連絡した。登録した参加者は、2020年12月~2021年1月に個人の好みや入手の可能性によりPfizer-BioNTechもしくはModernaのいずれかのワクチンの接種を受け、接種0日目(ベースライン)、7日目、14日目に採血し、50%結合価とID99ウイルス中和力価(0、14日目のみ)を調べた。50%結合価は最大結合の50%となる希釈濃度の逆数、ID99ウイルス中和力価は99%の細胞を保護できる最大の希釈濃度の逆数で表される。 主な結果は以下のとおり。・3,816人のうち無作為に151人に連絡し、59人が登録された(抗体陰性群17人、無症候性群16人、症候性群26人)。年齢中央値は、抗体陰性群38歳、無症候性群40歳、症候性群38歳で、女性の割合は、抗体陰性群71%、無症候性群75%、症候性群88%だった。・50%結合価の中央値は、抗体陰性群(0、7、14日目の順に、<50、<50、924)と比較し、無症候性群(208、29,364、34,033)および症候性群(302、32,301、35,460)で高かった(それぞれp<0.001)。・ID99ウイルス中和力価の中央値は、抗体陰性群(0、14日目の順に、<20、80)と比較し、無症候性群(80、40,960)および症候性群(320、40,960)で高かった(それぞれp<0.001)。 なお、本研究の限界としては、サンプルサイズが小さいこと、ワクチンの効果が示されていないこと、登録者が母集団を代表していないことによる潜在的なバイアスが挙げられる。この結果から、著者らは「現在の世界的なワクチン不足を考えると、COVID-19感染歴がある人を単回接種にしたり、優先接種リストの後方にしたりすることが提案される」としている。

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副腎白質ジストロフィー〔ALD:adrenoleukodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy:ALD)は、1923年に副腎萎縮を伴う進行性脱髄疾患として報告された。X連鎖性遺伝形式をとり、臨床的には男性患者で大脳半球の進行性の炎症性脱髄を特徴として、5〜10歳に発症して数年で寝たきりになる小児大脳型や、思春期以降に痙性歩行で発症するadrenomyeloneuropathy(AMN)など、遺伝子型と相関しない複数の臨床型を有している。大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植であり、予後改善には早期診断が極めて重要である。また、女性保因者でも加齢とともにAMN類似の脊髄症を発症することがある。■ 疫学2016年度に厚生労働省難治性疾患政策研究班において実施した全国調査で260人程度の国内患者の存在が推測されている。一方、米国・ニューヨーク州の3年間の新生児スクリーニングからは男女15,000出生に1人の患者が報告されている。■ 病因ペルオキシソーム膜に存在するトランスポータータンパク質をコードするABCD1の遺伝子異常によるX連鎖性の遺伝性疾患である。ABCD1タンパクは飽和極長鎖脂肪酸のペルオキシソーム内への輸送に関与し、患者では極長鎖脂肪酸のβ酸化が障害され、全身の臓器に蓄積を認める。しかし、病態はほとんど解明されておらず、脱髄の発症機序や飽和極長鎖脂肪酸蓄積による病態への関与も不明である。■ 病型分類と症状男性患者では遺伝子型や極長鎖脂肪酸値と相関しない複数の臨床病型を有している。また女性保因者発症も相関せず、いずれも同一家系内であっても発症前の予後の予測は難しい。1)小児大脳型(CCALD)発症年齢は3~10歳で、6、7歳にピークがある。性格・行動変化、視力・聴力低下、知能の障害、歩行障害などで発症し、数年で寝たきりに至ることが多い。最も多い臨床病型である。2)思春期大脳型(AdolCALD)発症年齢は11~21歳。小児大脳型に類似も、やや緩徐に進行する傾向にある。3)adrenomyeloneuropathy(AMN)10代後半~成人。痙性対麻痺で発症し、緩徐に進行する。軽度の感覚障害を伴うことがある。軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎を伴うこともある。4)成人大脳型(ACALD)性格変化、認知機能低下、精神症状で発症し、小児型と同様に急速に進行して植物状態に至る。精神病、脳腫瘍、他の白質ジストロフィー、多発性硬化症などの脱髄疾患との鑑別が必要。AMNや小脳・脳幹型からACALDに進展する場合もある。5)小脳・脳幹型小脳失調、下肢の痙性などを示し、脊髄小脳変性症様の臨床症状を呈する。6)アジソン型無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など副腎不全症状のみを呈する。神経症状は示さない。大脳型やAMNに進展する場合もある。7)女性発症者女性保因者の一部は加齢とともにAMNに似た臨床症状を呈する場合があり、下肢の痙縮、痛みから歩行障害を来すこともある。また、末梢神経障害や尿・便失禁の症状を呈することもある。8)発症前男性生下時より極長鎖脂肪酸は増加しており、診断は可能であるが、予後予測は不可能である。■ 予後男性大脳型患者では無治療の場合、急速に進行して数年で寝たきりになることもあるため、早く疑い、診断して、速やかに移植を実施することがその後のQOLの向上につながる。一方、AMNは緩徐に進行するが一部で大脳型に進展して急速に進行する。すべての男性ALD患者では、副腎機能を定期的に評価し、早期にステロイド補充計画を進めることは生命予後に重要である。女性保因者では、加齢とともに脊髄症状を来すことがあり、オランダの報告では軽微な症状を含めると60歳以上では80%の女性保因者で神経症状を来しているとの報告もある。一方で、副腎不全や大脳型を来すことはほとんどまれである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)男性患者では病型ごとに発症時期や症状も多彩であるため、以下の臨床所見に留意した上で、早期に診断検査を行うことが重要である。■ 臨床所見1)高次脳機能障害小児・思春期大脳型では幼稚園や学校等での落ち着きのなさや行動異常、成績低下、書字やしゃべり方の異常から注意欠陥/多動性障害(ADHD)や学習困難として対応されている症例がみられる。成人大脳型では社会性の欠如や性格変化、行動異常、認知機能低下などの症状で発症する。2)眼科的症状(視知覚異常)小児大脳型では途中から気付く斜視や、見づらそうな様子から眼科を受診する症例もみられる。斜視や視線が合わない、見えにくそうにしている以外に、物や人にぶつかりやすい、転びやすいなどの視覚性注意障害としての症状がみられることもある。3)耳鼻科的症状(聴覚異常)聞き返しが多い、電話などでは会話が理解できないなどの症状から耳鼻科を受診する症例もみられる。4)歩行障害歩行障害は大脳型やAMN、女性発症者など比較的広くみられる。錐体路症状としての痙性麻痺以外に、視覚性注意障害として転びやすいなどの症状や小脳・脳幹型では両下肢の痙性歩行や小脳失調によるふらつき歩行がみられる。5)自律神経障害AMNや女性発症者では排尿・排便障害、AMNでは陰萎がみられることがある。6)副腎不全症状非特異的な症状である易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などさまざまな症状を訴える。■ 検査1)脳MRI検査大脳型では脳MRIで異常が検出される。典型例ではT2強調、またはFLAIR法にて後頭葉の側脳室周囲の白質から脳梁膨大部に左右対称の病変が確認される。また、ガドリニウム造影にて病変境界部が線状に造影される。一方、前頭葉から後方に進展する例も10%程度みられる。2)副腎機能検査副腎不全症状がなくても男性ALD患者の80%に副腎皮質機能不全を認めるとの報告もあり、非ストレス刺激下での早朝ACTH、コルチゾール値と迅速ACTH負荷試験を行う。3)血中極長鎖脂肪酸検査(保険収載)副腎白質ジストロフィー男性患者では血中極長鎖脂肪酸の増加を認める。一方、女性保因者では10%程度は正常範囲に入るため、極長鎖脂肪酸検査が正常だけでは保因者を否定することはできず、発端者で同定されたABCD1遺伝子変異の有無を確認する必要がある。2020年度の保険診療の改定により衛生検査所でも保険診療による検査が可能である。4)ABCD1遺伝子検査(保険収載)2020年度より副腎白質ジストロフィー遺伝学的検査が保険収載されている。かずさ遺伝子検査室などの衛生検査所以外に、岐阜大学でも「ALDペルオキシソーム病ホームページ」にて極長鎖脂肪酸検査とABCD1遺伝学的検査を病的意義などのコメントを添えて保険診療で受託しており、大脳型発症早期疑い例では数日で解析結果を提供して迅速な治療に繋げている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、移植の可否や時期は知的・生命予後を左右する。また、アジソン型でも早期のステロイド補充療法が予後に繋がるため早期介入が重要である。1)ステロイド補充療法副腎不全は病状や生命予後にも深くかかわるため、負荷試験も実施して定期的に副腎機能を評価しながら治療を管理していく必要がある。これは移植施行後も含めたすべてのALD男性患者に対して必要である。2)造血幹細胞移植現在、大脳型ALDに対して、唯一有効な治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、小児・思春期以外に成人大脳型にも有効との報告がある。また、骨髄非破壊的前処置による低リスクの移植や、臍帯血による移植例も比較的良好な治療成績を挙げている。その機序はドナー由来の単球から分化したマクロファージ系細胞が脳内で機能する可能性が示唆されている。3)遺伝子改変造血幹細胞移植2009年にフランスのグループが、適合する移植ドナーが得られなかった2例の大脳型ALD患者に対して、患者本人から血液幹細胞を採取して、レンチウィルスベクターにより正常ABCD1遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植を施行し、その後の観察にて進行停止を確認し、従来の造血幹細胞移植と同等の効果を得たことを報告した。その後、米国Bluebird bio社の支援により治験が実施されている。4 今後の展望■ 新生児スクリーニングの導入大脳型や副腎不全の進行を阻止して予後改善に繋げるにはできる限り早期の診断が望まれる。海外では新生児スクリーニングがすでに実施されており、米国・ニューヨーク州では2013年末から新生児スクリーニングが開始され全米に広がりつつあり、オランダも2019年10月より男児のみのパイロット研究が開始されている。国内でも令和3年度より一部の自治体で有償での選択的スクリーニングがパイロット研究として開始が検討されている。■ 予後予測法の開発大脳型発症の病態はほとんど解明されておらず、発症前患者の予後予測が不可能なため、定期的なMRI検査で異常を確認してから治療を施行している現状にあり、確実な発症阻止に繋げるためには、大脳型発症因子の探索から発症予測法の開発、さらには大脳型発症動物モデルの開発が重要になる。5 主たる診療科小児科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ALD info(医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学ALD&ペルオキシソーム病ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 副腎白質ジストロフィー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ALDの未来を考える会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会編. 副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2019. 診断と治療社.東京.2019.2)Kato K, al. Mol Genet Metab Rep. 2018;18:1-6.3)Cartier N, et al. Science. 2009;326:818-823.公開履歴初回2021年03月08日

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2年ごとの乳房視触診、50歳以上の乳がん死3割減/BMJ

 2年ごとの医療従事者による乳房の視触診(clinical breast examination:CBE)は、CBEを行わない場合と比べ、乳がん診断時の病期を軽減し(downstaging)、50歳以上の女性の乳がんによる死亡率を約3割抑制することが、インド・Homi Bhabha National InstituteのIndraneel Mittra氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月24日号で報告された。マンモグラフィによる乳がんスクリーニングは、50歳以上の女性では死亡率を抑制するが、50歳未満の女性における有効性には疑問があるとされる。また、乳がん自己検診(breast self-examination)の、乳がんの早期検出法としての有効性は証明されておらず、CBEが乳がんによる死亡を低減するかについても明らかではないという。ムンバイ市の15万人のクラスター無作為化対照比較試験 研究グループは、CBEによるスクリーニングが、CBEを行わない場合と比較して、乳がん診断時の病期を軽減させるかを検証する目的で、プロスペクティブなクラスター無作為化対照比較試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 インド・ムンバイ市の地理的な境界で定義された20のクラスターを、CBEによるスクリーニングを行う群またはCBEを行わない対照群に、10クラスターずつ無作為に割り付けた。登録は1998年5月に開始され、2019年3月、解析のためにデータベースがロックされた。乳がん歴のない35~64歳の女性15万1,538人が試験に参加した。 スクリーニング群(7万5,360人)は、2年ごとに、訓練を受けた女性のプライマリケア医療従事者によるCBEを4回と、がん啓発情報の提供を受け、その後は2年ごとの自宅訪問による積極的サーベイランス(active surveillance)を5回受けた。対照群(7万6,178人)は、がん啓発情報の提供を1回受け、その後は2年ごとに積極的サーベイランスを8回受けた。 主要アウトカムは、診断時における乳がんの病期の軽減および乳がん死の低減とした。50歳未満の乳がん死、全死因死亡には差がない 登録時の平均年齢は、スクリーニング群が44.84(SD 7.90)歳、対照群は44.92(8.00)歳であった。試験開始から20年(フォローアップ期間中央値18年)の時点で、スクリーニング群の640人、対照群の655人が乳がんと診断され、それぞれ213人および251人が乳がんによって死亡した。 乳がん検出時の年齢は、スクリーニング群が対照群よりも若かった(55.18[SD 9.10]歳vs.56.50[9.10]歳、p=0.01)。また、乳がん診断時の病期は、スクリーニング群でStageIII/IVの割合が有意に低かった(37%[220人]vs.47%[271人]、p=0.001)。この病期の軽減は、50歳未満(診断時StageIII/IVの割合:37%[161人]vs.47%[183人]、p=0.005)および50歳以上(35%[59人]vs.46%[88人]、p=0.05)のいずれにおいても認められた。 全体(35~64歳)では、スクリーニング群は対照群に比べ、乳がん死の割合が15%低下したが、有意な差は認められなかった(10万人年当たり20.82人[95%信頼区間[CI]:18.25~23.97]vs.24.62人[21.71~28.04]、率比[RR]:0.85[95%CI:0.71~1.01]、p=0.07)。 一方、事後的サブセット解析では、50歳以上の女性における乳がん死は、スクリーニング群で有意に約30%低下した(10万人年当たり24.62人[95%CI:20.62~29.76]vs.34.68人[27.54~44.37]、RR:0.71[95%CI:0.54~0.94]、p=0.02)。これに対し、50歳未満の女性では有意な差はみられなかった(19.53人[17.24~22.29]vs.21.03人[18.97~23.44]、0.93[0.79~1.09]、p=0.37)。 また、全死因死亡は、スクリーニング群で5%低下したが、有意差はなかった(RR:0.95[95%CI:0.81~1.10]、p=0.49)。 著者は、「低・中所得国では、乳がんのスクリーニング法としてCBEを考慮すべきと考えられる」としている。

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自宅で超重症COVID-19を診きった1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第182回

自宅で超重症COVID-19を診きった1例pixabayより使用日本でCOVID-19を診療する場合、基本的に肺炎があったりSpO2が低かったりすると、入院適応になります。当然、両肺に肺炎があって呼吸不全があろうものなら、即入院なわけですが……。エクアドルで報告された、自宅療養で重症例を診きった超絶症例報告を紹介しましょう。Cherrez-Ojeda I, et al.The unusual experience of managing a severe COVID-19 case at home: what can we do and where do we go?BMC Infect Dis . 2020 Nov 19;20(1):862.主人公は、60歳のエクアドル人女性です。7日前から咳と息切れが見られており、救急外来のトリアージでSpO2 86%(室内気)と両側肺炎が見られ、SARS-CoV-2 PCRが陽性になりました。呼吸数が32回/分とかなり厳しい状態だったのですが、入院する部屋がなく、外来治療を余儀なくされました。イヤ、無理でしょ…PaO2が47.70Torrと書いてあるんですが……。――とはいえ、部屋がないものはない。適切な治療プランを立て、自宅に帰さなければいけません。メチルプレドニゾロン、低分子ヘパリン、ニタゾキサニド(抗ウイルス薬)を看護師の往診で投与するよう指示しました。酸素濃縮器も自宅に設置し、鼻カニューレで酸素投与を開始しました。PubMedなどからこの論文の元文献を見てほしいのですが、両肺真っ白です。本当に真っ白のARDSです。日本だといろいろと問題視されそうですが、自宅で急死することもなく、この女性患者さんは次第に回復していきました。治療開始4日目に、危うくSpO2が80%を切るところまでいきましたが、その後復活しています。治療開始14日後の胸部CTでは、陰影の大部分が軽快しました。日本でここまでの医療逼迫に陥ることはないと信じたいですが、自宅やホテルでマネジメントする方法も考えるべき時期が来るもしれません。SpO2が低い症例に、ステロイド錠を手渡すことを検討してもよいかもしれませんが、国内の診療常識ではちょっと難しいでしょうね。

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うつ病治療アプリに対する医師や患者の期待

 スマートフォンアプリが増加し続けている現代社会において、アプリによる治療ツールの有効性は十分に実証されておらず、導入率も依然として不十分である。フランス・クレルモン・オーベルニュ大学のMarie-Camille Patoz氏らは、アドヒアランス向上に関連する効率的なアプリ開発を行うため、ユーザー中心のアプローチを通じて設計した架空のうつ病治療アプリに対する患者および医師の期待を特定することを目的とし、本研究を行った。BMC Psychiatry誌2021年1月29日号の報告。 精神科医および一般開業医、過去12ヵ月間でうつ病を経験した患者を対象に、フォーカスグループ法を用いて、半構造化面接を実施した。録音したインタビューの音声を文字起こしし、定性的な内容分析を用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、医師26人および患者24人。・フォーカスグループは、性別と年齢のバランスの取れた分布を示した。・対象者のほとんどはスマートフォンを所有しており(医師:96.1%、患者:83.3%)、アプリも使用していた(医師:96.1%、患者:79.2%)。・定性的な内容分析では、内容、操作特性、アプリ使用に対する障壁といった3つの主なテーマが明らかとなった。それぞれの内容は、以下のとおりであった。【期待される内容】 ●アプリにより収集された患者情報に関するデータ ●心理教育に関する情報提供 ●治療ツールに関する情報提供 ●日常生活のマネジメントを支援する機能 ●このツールに期待される機能【操作特性】 ●アプリの目的 ●潜在的なターゲットユーザー ●使用方法 ●アクセシビリティ ●セキュリティ【アプリ使用に対する障壁】 ●潜在的なアプリユーザーに関する懸念 ●潜在的なユーザーのアクセシビリティ ●安全性、副反応、有用性 ●機能性・テーマやカテゴリに関しては、医師と患者で共通であった。 著者らは「架空のうつ病治療アプリは、医師、患者ともに期待値が高く、うつ病治療において重要な役割を担う可能性がある。このようなツールにユーザーが期待する重要なポイントとして、簡単かつ直感的な使い方とパーソナライズされたコンテンツが挙げられる。うつ病治療においては、うつ病に関する情報提供、自己モニタリング機能、緊急時の支援を可能とするアプリが求められている」としている。

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AZ社の新型コロナワクチン、接種間隔は3ヵ月が有益/Lancet

 ChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)ワクチンの2回接種は、主要解析の結果、中間解析と一致して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し有効であることが確認された。探索的事後解析では、パンデミックにおける供給不足時にできるだけ早く大多数の住民にワクチンを行き渡らせるための短い接種間隔プログラムより、3ヵ月の接種間隔のほうが2回目接種後の予防効果が改善しており利点があることも示された。英国・オックスフォード大学のMerryn Voysey氏らオックスフォード・ワクチン・グループが、AZD1222ワクチンに関する4つの臨床試験の統合解析結果を報告した。AZD1222ワクチンは、英国の医薬品・医療製品規制庁により標準用量を4~12週間の間隔で2回接種する緊急使用が承認され、英国でのワクチン導入計画では、ハイリスクの人々を対象にただちに初回接種を行い、12週間後に2回目接種を行うことになっていた。Lancet誌オンライン版2021年2月19日号掲載の報告。4試験の統合主要解析と接種間隔別等の探索的事後解析を実施 研究グループは、単盲検無作為化比較試験である英国の第I/II相試験「COV001試験」および第II/III相試験「COV002試験」、ならびにブラジルの第III相試験「COV003試験」と、二重盲検無作為化比較試験である南アフリカの第I/II相試験「COV005試験」について、事前に設定されていた統合解析に主要解析と、探索的事後解析を行った。 試験では、18歳以上の健康成人がChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種群(標準用量として5×1010のウイルス粒子を2回接種)、または対照群(対照ワクチンまたは生理食塩水)に1対1の割合で無作為に割り付けられ、英国の試験では、一部の被験者に、1回目は低用量(ウイルス粒子2.2×1010)、2回目は標準用量を接種した。 主要評価項目は、ウイルス学的に確定された症候性COVID-19で、2回目接種後14日以降に1つ以上の特定症状(37.8度以上の発熱、咳嗽、息切れ、嗅覚消失/味覚消失)を認め、核酸増幅検査(NAAT)陽性と定義した。副次有効性解析には、初回接種後22日以降の発症例を組み込んだ。また、免疫測定法および疑似ウイルス中和抗体価で評価した抗体反応を探索的評価項目とした。 主要解析対象集団は、盲検化された独立評価委員会により判定されたNAAT陽性のCOVID-19患者で、ベースライン時にSARS-CoV-2のN蛋白血清反応陰性かつ2回目接種後に最低14日間追跡調査が行われ、NAATで過去のSARS-CoV-2感染の証拠がないすべての被験者であった。安全性解析対象集団には、最低1回の接種を受けた全被験者が含まれた。ワクチン有効率、全体66.7%、標準用量2回接種(接種間隔12週間以上)81.3% 2020年4月23日~12月6日の期間に4つの試験で2万4,422例が登録され、そのうち1万7,178例が主要解析に組み込まれた(ワクチン接種群8,597例、対照群8,581例)。データカットオフ日は、2020年12月7日であった。 主要評価項目を満たした症候性COVID-19患者は計332例発生した。ワクチン群84例(1.0%)、対照群248例(2.9%)で、ワクチンの有効率は66.7%(95%信頼区間[CI]:57.4~74.0)であった。初回接種後21日以降に、COVID-19による入院はワクチン群では確認されず、対照群で15例認められた。 重篤な有害事象は、ワクチン群0.9%(108/1万2,282例)、対照群1.1%(127/1万1,962例)に確認された。接種と関連がないと思われる死亡が7例(ワクチン群2例、対照群5例)発生し、うち対照群の1例はCOVID-19関連死であった。 探索的解析の結果、標準用量単回接種後、22~90日間におけるワクチンの有効性は76.0%(95%CI:59.3~85.9)であった。モデル解析では、初回接種から最初の3ヵ月間で感染予防効果は減弱しないことが示唆された。また、この期間中の抗体価は維持されており、90日目までの低下は最小限であった(幾何平均比[GMR]:0.66、95%CI:0.59~0.74)。 さらに、標準用量2回接種者において、プライム/ブースト(1回目と2回目)の間隔は、長いほうが短期間の場合より2回目接種後の有効性が高かった(有効率:12週間以上81.3%[95%CI:60.3~91.2]、6週間未満55.1%[95%CI:33.0~69.9])。18~55歳の被験者では、接種間隔が12週間以上の場合、6週間未満と比較して抗体価が2倍以上高いことが示唆された(GMR:2.32、95%CI:2.01~2.68)。

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トランスジェンダー、ホルモン療法でにきび有病率が大きく上昇

 思春期男子の悩みの1つににきびがあり、原因には男性ホルモンが関連しているためとされる。同様の悩みは男性化ホルモン療法(MHT)を受ける性同一性障害患者においてもあるというが、そうしたケースにおける発症リスクや有病率の詳細が明らかにされた。米国・ボストン大学のNick Thoreson氏らが988例を対象とした後ろ向きコホート研究の結果、MHT開始前後で、にきびの有病率は6.3%から31.1%へと大きく上昇し、年齢的には18~21歳の患者に多い傾向が認められたという。これまで、MHTを受ける性同一性障害患者のにきびのリスクについて大規模な研究は行われていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年1月20日号掲載の報告。 研究グループは、大規模なMHT中の性同一性障害患者におけるにきびのリスクと診断のための臨床的リスク因子を評価する検討を行った。 被験者は、2014年1月1日~2017年12月31日にMHTを開始した患者988例で、1年以上のフォローアップを実施した。データの解析は2019年9月1日~15日に行った。データは、性的少数派コミュニティ(sexual and gender minority community)にサービスを提供する地域の保健センターからの電子健康記録(HER)を用いて入手。試験対象期間中にMHTを開始した、18歳以上(MHT開始時)かつ出生時の性別が女性であったすべての患者を対象とし、にきびの発症等について評価した。にきびの定義は、ICD-10の臨床修正コードによるものとし、MHT開始後2年間の全体有病率および評価対象期間における罹患率を算出して評価した。ベースラインの人口統計学的および臨床的特性は、MHT開始時点で収集した。 にきびの診断との関連を検証するために、すべての要因の一連の単変量解析を行い、独立予測因子をテストするため多変量解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・患者988例(年齢中央値25.8歳、四分位範囲:20.8~28.2歳)において、にきびの全体有病率は31.1%(307例)であり、ベースラインの有病率6.3%から大きく上昇した。・MHT開始後1年間の罹患率は19.0%、同2年目の罹患率は25.1%であった。・MHT開始時の年齢が低いほど、にきび発生の尤度は高くなる関連が認められ、年齢中央値22.4歳(四分位範囲:19.7~25.6歳)の患者では関連が認められたが、同24.7歳(21.3~29.4歳)の患者では認められなかった(p=0.002)。

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特例承認から3日で接種開始した新型コロナワクチン「コミナティ筋注」【下平博士のDIノート】第69回

特例承認から3日で接種開始した新型コロナワクチン「コミナティ筋注」今回は、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)ワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて承認されたCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)に対するワクチンであり、2回の筋肉内注射で発症を予防することが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年2月14日に特例承認されました。なお、本剤の予防効果の持続期間は確立していません。本剤(コミナティ筋注[1価:起源株])に加えて、2022年1月にコミナティ筋注5~11歳用、2022年9月にコミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)、2022年10月にコミナティ筋注6ヵ月~4歳用およびコミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)が承認されています。<用法・用量>日局生理食塩液1.8mLにて希釈し、1回0.3mLを合計2回、通常3週間の間隔で筋肉内に接種します。3回目・4回目接種による追加免疫の場合、前回の接種から少なくとも3ヵ月経過した後1回0.3mLを筋肉内に接種します。副反応が現れることがあるので、接種後は一定時間観察を行い、異常が認められた場合には適切な処置を行います。本剤の初回接種時にショック、アナフィラキシーが認められた被接種者に対しては、本剤2回目の接種を行わないこととされています。<薬剤調製時の注意>※抜粋本剤は-90~-60℃から-25~-15℃に移し、-25~-15℃で最長14日間保存できます。なお1回に限り、再度-90~-60℃に戻し保存することができます。冷蔵庫(2~8℃)で解凍する場合は、2~8℃で1ヵ月間保存することができます。希釈後の液は2~30℃で保存し、希釈後6時間以内に使用します。<安全性>海外第I/II/III相試験(C4591001試験)の第II/III相パート(プラセボ対照無作為化多施設共同試験)において、本剤接種群(2回接種後)の安全性評価対象3,758例で報告された主な副反応は、注射部位疼痛2,730例(72.6%)、疲労2,086例(55.5%)、頭痛1,732例(46.1%)、筋肉痛1,260例(33.5%)などでした。また、Grade3以上の有害事象が2%を超えたものは、疲労143例(3.8%)と頭痛76例(2.0%)でした。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。3.医師による問診、検温および診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは、本剤の接種を受けることができません。4.合計2回を3週間の間隔で筋肉内に接種します。1回目の接種から3週間を超えた場合は、できる限り速やかに本剤の2回目の接種を受けてください。5.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡をとれるようにしておいてください。6.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で初めて承認された新型コロナウイルス感染症の発症予防を目的とするワクチンであり、有効成分はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするmRNA(トジナメラン)です。海外C4591001試験における新型コロナウイルス感染症発症予防効果および本剤2回目接種後2ヵ月時点の安全性のデータに基づいて、米国では2020年12月11日に緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)が出され、欧州では同月21日に条件付き販売承認がされています。2021年2月時点ですでに世界70ヵ国以上で接種が行われており、わが国でもようやく医療従事者など向けの優先接種が始まりました。なお、優先接種対象となる医療従事者には薬局薬剤師も含まれることが通知されています。プラセボ群と比較した本剤の発症予防効果は、前述の試験によると95%と報告されており、1回目の接種12日目以降から発症者が少なくなっています。また、試験後に発症し、重症化した10例のうち1例が本剤群、9例がプラセボ群であり、本剤を投与することで重症化を防ぐことができる可能性もあります。効果の持続期間や毎年の接種が必要かどうかについてはまだ十分な見解が得られていません。副反応で最も懸念されるのはアナフィラキシーなどのアレルギー反応です。アナフィラキシーは全身の複数臓器に症状が現れるものであり、アナフィラキシーショックはそのうち血圧低下や意識障害を伴い、場合によっては生命を脅かす危険な状態に至るものです。アナフィラキシーは、迅速かつ適切に対応すれば命に関わることはほとんどないと考えられるので、患者さんが用語を混同して過度に恐れている場合はきちんと説明しましょう。なお、接種後にアナフィラキシーが生じた人の多くは、過去に食品や薬、その他の種類のワクチン、蜂の刺傷などによるアレルギー反応やアナフィラキシーの既往歴がありました。本剤は添加物としてポリエチレングリコール(PEG)を含有しているため、PEGやポリソルベートに重度な過敏症の既往がある人は禁忌となっています。しばしばアレルギー源となる鶏卵やゼラチン(安定剤)、チメロサール(防腐剤)、ラテックス(容器)は使用されていません。わが国の治験は、日本人160例を対象に行われ、海外と同様に免疫を獲得しています。副反応の報告も海外データとの差はなく、重篤なものはありませんでした。しかし、本剤は特例承認されたものであり、製造販売後も引き続き情報を収集する必要があります。有害事象が認められた際は、必要に応じて予防接種法に基づく副反応疑い報告制度を利用しましょう。※2021年5月・11月、2022年4月・10月に添付文書改訂により修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 コミナティ筋注2)ファイザー新型コロナウイルスワクチン医療従事者専用サイト3)コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(コミナティ筋注)の使用に当たっての留意事項について(厚労省)

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第49回 米国FDAの大忙しの週末~ネアンデルタール人から授かったCOVID-19防御

米国FDAはこの週末大忙しだったに違いなく、25日木曜日にはPfizer/BioNTechの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)予防ワクチン接種施設を増やしうる保管方法を許可し、25日と翌日26日には稀な病気2つの新薬と運動選手の脳を守る首輪を承認し、27日土曜日には大方の予想通りJohnson & Johnson(J&J)のCOVID-19ワクチンを取り急ぎ許可しました。25日に報告された興味深い研究成果、ネアンデルタール人から授かったと思しきCOVID-19防御因子の発見も併せて紹介します。COVID-19ワクチンをいっそう推進溶解前の冷凍状態のPfizerワクチンの保管温度はこれまで超低温の零下80~60℃とされてきましたが、より一般的な冷凍庫の温度である零下25~15℃で最大2週間保管することが許可されました1,2)。また、零下25~15℃での保管後に一回のみ零下80~60℃に戻すことが可能です。超低温冷凍庫をわざわざ購入する負担が減ってワクチンを扱える場所が増えるだろうとFDAの審査部門(Center for Biologics Evaluation and Research)長Peter Marks氏は言っています1)。Pfizerワクチンと違って受け取り後に冷凍不要のJ&JのCOVID-19ワクチンは26日金曜日の諮問委員会での満場一致の賛成の翌日27日土曜日に18歳以上の成人への使用が早々と取り急ぎ認可されました3)。J&Jのワクチンバイアルの針刺し前の保管温度は2~8℃であり、冷凍してはならず、最大12時間は9~25℃で保管可能です4)。J&Jは接種1回のそのワクチン2,000万人超への投与分を今月末までに出荷できる見込みです5)。また、今年前半には米国人口の約3分の1相当の1億人への投与分が出荷される予定です。稀な病気の新薬FDAは25日に稀な病気・デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬Amondys 45(casimersen)、翌日26日には世界での診断数150人未満の超稀な病気・モリブデン補因子欠損症(MoCD)A型の治療薬Nulibry(fosdenopterin)を承認しました。Amondys 45は筋肉細胞に必要なタンパク質ジストロフィンをエクソン45スキッピングという作用機序を介して増やします。その作用が通用する変異を有するDMD患者への同剤使用が承認されました6)。DMD患者のおよそ8%がその変異を有します。MoCD A型は男児3,600人あたりおよそ1人に生じるDMDよりさらに稀で、世界で確認されている患者数は150人未満です。Nulibry(fosdenopterin)はFDAが承認した初のMoCD A型治療薬となりました7)。10万人あたり0.24~0.29人の発生率と推定されるMoCD A型患者は遺伝子変異のせいでcPMP(環状ピラノプテリン一リン酸)という分子が作れません7,8)。Nulibry はcPMPを供給することで尿中の神経毒Sスルホシステインを減らします。Nulibryの生存改善効果が13人への投与で示されています。それらの患者の84%は3年間生存し、非投与群18人のその割合は55%でした。MoCD A型の患者数は診断数より多いらしく、米国と欧州(EU)で毎年22~26人が診断されないままと推定されています9)。運動選手の脳を守る”首輪”運動選手の頭部の衝撃から脳を守る首輪Q-Collarは26日に米国FDAに承認されました10)。頭部が衝撃を受けると頭蓋内で脳が揺れて神経が捻れたり切れたりして脳が傷みます。首にはめたQ-Collarは頸静脈を圧迫することで頭蓋内の血液量を増やして脳をより固定させ、衝撃を受けてもグラグラと揺れないようにします。米国の13歳以上のフットボールチーム員284人が参加した試験などでQ-Collarの効果や安全性が示されています。その試験でQ-Collarを使用した139人の脳のMRI写真を調べたところおよそ8割(77%)107人の神経信号伝達領域(白質)は無事でした。一方、非使用群145人では逆にほとんどの73%(106/145人)に有意な変化が認められ、Q-Collarの脳保護効果が示唆されました。Q-Collar使用に伴う有意な有害事象は認められませんでした。ネアンデルタール人から授かったらしいCOVID-19防御COVID-19患者最大1万4,134人と対照群最大128万人を調べたところ、RNAウイルスに対する自然免疫の一部を担うオリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)の一つ・OAS1の血中量が多いこととCOVID-19になり難いことやたとえCOVID-19になっても入院、人工呼吸器使用、死に至り難いことが示されました11,12)。さらに504人の経過を調べたところ血漿OAS1量が多いことは後にCOVID-19になり難いことやCOVID-19による入院や重病に至り難いことと関連しました。OAS1はいくつかの種類(アイソフォーム)があります。興味深いことに、数万年前にネアンデルタール人と交わったときに受け継いだp46というアイソフォームがどうやらCOVID-19防御作用を担うと示唆されました。幸いなことにOAS1を増やす前臨床段階の化合物13)が存在するのでそれらを最適化してCOVID-19への効果を臨床試験で調べうると著者は言っています。参考1)Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Allows More Flexible Storage, Transportation Conditions for Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine / PRNewswire2)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE PFIZER-BIONTECH COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) / FDA3)FDA Issues Emergency Use Authorization for Third COVID-19 Vaccine / PRNewswire4)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE JANSSEN COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) / FDA5)Johnson & Johnson COVID-19 Vaccine Authorized by U.S. FDA For Emergency Use / PRNewswire6)FDA Approves Targeted Treatment for Rare Duchenne Muscular Dystrophy Mutation / PRNewswire7)FDA Approves First Treatment for Molybdenum Cofactor Deficiency Type A / PRNewswire8)Nulibry PRESCRIBING INFORMATION9)BridgeBio Pharma and Affiliate Origin Biosciences Announce FDA Approval of NULIBRYTM (fosdenopterin), the First and Only Approved Therapy to Reduce the Risk of Mortality in Patients with MoCD Type A / GLOBE NEWSWIRE10)FDA Authorizes Marketing of Novel Device to Help Protect Athletes' Brains During Head Impacts / PRNewswire11)Zhou S,et al.Nat Med. 2021 Feb 25. [Epub ahead of print]12)Discovery: Neanderthal-derived protein may reduce the severity of COVID-19 / EurekAlert13)Wood ER, et al. J Biol Chem. 2015 Aug 7;290:19681-96.

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薬物依存リハビリセンターにおける日本人男性の薬物依存と性交との関連

 性行為と薬物使用を組み合わせて行うことは、薬物使用と性交の認知された相互依存(perceived interdependence of drug use and sexual intercourse:PIDS)を形成する可能性がある。また、薬物使用の重症度は、PIDSに有意な影響を及ぼす可能性があるが、この関連はよくわかっていない。国立精神・神経医療研究センターの山田 理沙氏らは、日本の薬物依存リハビリテーションセンター(DARC)の成人男性における薬物使用の重症度とPIDSとの関連について、調査を行った。Substance Abuse Treatment, Prevention, and Policy誌2021年1月7日号の報告。 国立精神・神経医療研究センターが2016年に実施した「日本におけるDARCフォローアップ調査」の2次分析として実施した。データの収集には、46施設より自己申告質問票を用いた。薬物依存症男性患者440例を対象に、人口統計学的特徴、性感染症診断歴、薬物使用関連情報(主な薬物使用やPIDSなど)を収集し、分析した。薬物乱用スクリーニングテスト20日本語版(DAST-20)を用いて、薬物使用の重症度を測定した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、42歳であった。・DAST-20スコアの中央値は14.0であり、主な薬物使用はメタンフェタミン(61.4%)、新規精神活性物質(NPS、13.6%)であった。・多変量解析では、PIDSとの関連が認められた因子は以下のとおりであった。 ●無防護性交(主にコンドームの未使用、調整オッズ比[AOR]:4.410) ●メタンフェタミンの使用(AOR:3.220) ●NPSの使用(AOR:2.744) ●DAST-20スコア(AOR:1.093) 著者らは「薬物、メタンフェタミン、NPSの使用下における無防護性交の頻度は、PIDSとの強い関連が示唆された。また、薬物使用の重症度とPIDSとの有意な関連も認められた。重度のPIDSを経験した患者に対する、ニーズに適合した適切な治療プログラムの開発が望まれる」としている。

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COVID-19重症化防止に抗がん剤ベバシズマブが有効である可能性

 重症のCOVID-19患者に抗がん剤ベバシズマブを投与することで、死亡率が低下し、回復が早まる可能性があることが、イタリアと中国で行われた小規模な試験によって明らかになった。Nature Communication誌2月5日オンライン版掲載の報告。 シングルアームの本試験は、2020年2月15日~4月5日に中国とイタリアの2施設において26例の成人患者が登録され、28日間のフォローアップが行われた。COVD-19感染はPCR検査で判定され、重症度は呼吸数が30回/分以上、安静時の酸素飽和度が93%以上、動脈酸素分圧/吸入酸素濃度(PaO2/FiO2)が100mm~300mmHg、胸部画像のびまん性肺炎によって判断した。適格となった参加者には標準治療に加え、100mLの生理食塩水に溶解したベバシズマブ(500mg)を90分以内に単回投与し、投与後1日目と7日目のデータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢中央値は62歳、20人(77%)が男性だった。症状発現から入院までの期間中央値は10日、入院からベバシズマブ投与までの期間中央値は7日だった。・ベバシズマブ投与群はPaO2/FiO2が著しく改善し、28日目までに24例(92%)が酸素吸入が不要となり、17例(65%)が退院した。悪化例や死亡例はなかった。・発熱のあった14例のうち、13例(93%)が投与から72時間以内に正常化した。・ベースライン時に人工呼吸器を装着していた6例すべてがフォローアップ期間内に装着を停止し、うち4例は退院した。 ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であり、VEGFタンパク質を選択的に阻害することで血管形成を阻害し、がん細胞の成長に必要な栄養が供給されるのを妨げる。著者らは、「重症COVID-19患者の多くはVEGFレベルの上昇、肺水腫、肺組織の血管病変など、マーカーに関連する症状があるため、ベバシズマブが重症化防止に有効である可能性があるとの仮説を立てた」としつつ、有効性を実証するためには大規模なランダム化比較試験が必要としている。

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妊婦におけるうつ病の重症度と周産期有害リスクとの関連

 妊娠中は、不安神経症やうつ病の発症に対する脆弱性が高まる。中国・中南大学のKwabena Acheampong氏らは、中等度~重度のうつ病と軽度のうつ病の妊婦における周産期の有害アウトカム発生リスクの比較を行った。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2021年1月21日号の報告。 ガーナ・ベクワイ市のアドベンティスト病院で募集されたうつ病を有する妊婦360例を対象に、プロスペクティブコホート研究を実施した。2020年2月に調査を開始し、2020年8月までフォローアップを行った。うつ病の重症度評価には、Patient Health Questionnaires-9(PHQ-9)を用いた。重症度の定義は、中等度~重度をPHQ-9スコア15以上、軽度をPHQ-9スコア15未満とした。軽度うつ病と比較した中等度~重度のうつ病を有する妊婦の調整済み相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・中等度~重度のうつ病と分類された妊婦は、43例(11.9%)であった。・潜在的な交絡因子で調整した後、中等度~重度のうつ病を有する妊婦は、軽度うつ病と比較し、以下のリスクが高かった。 ●妊娠高血圧腎症(調整RR:2.01、95%CI:1.21~3.33) ●帝王切開(調整RR:1.78、95%CI:1.18~2.70) ●会陰切開(調整RR:1.66、95%CI:1.06~2.60)・一方、うつ病の重症度と周産期のアウトカムとの間に、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「中等度~重度のうつ病を有する妊婦は、妊娠高血圧腎症、帝王切開、会陰切開などのリスクが高かった」としている。

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StageIV大腸がん、無症状の原発巣切除は標準治療と見なすべき?(JCOG1007)/JCO

 切除不能の遠隔転移を有するが原発巣に起因する症状がないStageIV大腸がんの初回治療について、原発巣切除(PTR)+化学療法は化学療法単独と比較して生存率改善に寄与しないことが、日本で行われた第III相無作為化試験「JCOG1007; iPACS試験」の結果、示された。国立がん研究センター中央病院の金光 幸秀氏らが報告した。同Stage IV大腸がんに対しては、PTRが標準治療として行われているが、その意義については議論の的になっていた。結果を踏まえて著者は、「原発巣に起因する症状がない切除不能の転移を有する大腸がん患者において、PTRは標準治療と見なすべきではない」とまとめている。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2021年2月9日号掲載の報告。 JCOGによって行われたiPACS試験は、切除不能のStageIVで原発巣に起因する症状はないが3つ以下の切除不能の転移(肝臓、肺、遠隔リンパ節、腹膜)がある大腸がん患者(適格対象20~74歳)の全生存(OS)に関して、化学療法単独に対するPTR+化学療法の優越性を検証した第III相の非盲検無作為化試験。化学療法レジメンは、mFOLFOX6+ベバシズマブまたはCapeOX+ベバシズマブで、試験登録前に決定した。主要評価項目はOSで、解析はintention-to-treatにて行われた。 主な結果は以下のとおり。・2012年6月~2019年9月に、国内38のがんセンターで計165例の患者が登録され、化学療法単独群(84例)、PTR+化学療法群(81例)に無作為に割り付けられた。・両群間の患者バランスは、原発巣(両群とも結腸およびS状結腸が93%)などを含め良好であった。最も頻度の高い切除不能の転移は肝臓(120/165例[73%])で、遠隔転移部位の分布も両群間で類似していた。・2019年9月に最初の中間解析が行われ、データカットオフ日(2019年6月5日)時点で患者160例において予想されたイベントの50%(114/227例)が観察され、データ安全モニタリング委員会は、無益性を理由として試験の早期終了を勧告した。・追跡期間中央値22.0ヵ月において、OS中央値はPTR+化学療法群25.9ヵ月、化学療法単独群26.7ヵ月であった(ハザード比:1.10、95%CI:0.76~1.59、片側p=0.69)。・PTR+化学療法群では術後死亡が3例報告された。

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乳がん手術療法のDe-escalation、検討中の4つの方向性/日本臨床腫瘍学会

 乳がん治療における手術療法はHalsted手術以降、一貫して縮小してきており、早期乳がんに対する胸筋温存、乳房温存などが一般的に実施されている。腋窩リンパ節郭清に関してもセンチネルリンパ節生検が広く行われるようになり、その後、センチネルリンパ節に転移を認めても条件を満たせば郭清を省略するようになっている。現在、さらなる手術縮小の可能性が前向きに検討されているが、具体的な4つの方向性について現在進行中の試験を含めて、第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO Virtual2021)におけるシンポジウム「乳がん治療におけるDe-escalationを考える」の中で、岡山大学の枝園 忠彦氏が紹介した。1)術前薬物療法実施症例でのセンチネルリンパ節生検 術前薬物療法の実施後にセンチネルリンパ節生検を実施したACOSOG Z1071(Alliance)、SENTINA(Arm C)、SN FNACの各試験を、術前薬物療法なしでセンチネルリンパ節生検を実施したNSABP B-32試験と比較すると、NSABP B-32試験ではセンチネルリンパ節生検の同定率は97.2%、偽陰性率9.8%であるのに対し、他の3試験では同定率は減少し偽陰性率は増加した。しかしながら、センチネルリンパ節を多め(3個以上)に摘出もしくは腫瘍の大きさをT2までに限ることで、センチネルリンパ節生検を可能にすることが示されている。 また、偽陰性率を下げるための工夫として、転移のあったリンパ節に術前にクリップなどのマーキングをして手術で確実に切除することにより偽陰性率が低く抑えられた結果が報告されており、現在、多くの施設でさらなる検討が実施されている。 さらに、もともとリンパ節転移があり術前薬物療法でリンパ節転移が消失した症例にセンチネルリンパ節生検が有用かどうかについて前向き試験で検討されており、結果が待たれている。2)術前に臨床的にリンパ節転移が認められない症例でのリンパ節郭清の省略 現在、センチネルリンパ節生検は、術後薬物療法の実施を決定するための「診断」として利用されることが多いことから、術後薬物療法はホルモン療法のみの予定のER陽性の高齢の乳がん症例において、センチネルリンパ節生検省略の安全性と有効性を検討する試験が組まれている(NCT02564848)。 また、超音波画像で転移がないことが明らかであればセンチネルリンパ節生検は不要ではないかとのことから、超音波検査で転移陰性を診断したうえで省略するという前向きのSOUND試験(NCT02167490)も実施されている。 同様に、術前薬物療法が実施され、画像上完全奏効が得られている症例で、術後薬物療法を実施することが決定しているトリプルネガティブまたはHER2陽性症例において、センチネルリンパ節生検の省略を検討する前向き試験(NCT04101851)が実施されている。3)低悪性度のDCIS症例における手術の省略 マンモグラフィの進歩によって、石灰化を伴うごく小さな非浸潤性乳管がん(DCIS)が発見されるようになった。他方、低悪性度のDCISでは手術の有無にかかわらず予後は変わらないことが報告されている。また、すべてのDCISが浸潤がんに進行するわけではないが、進行リスクの高い患者を予測する方法がないため、すべてのDCIS症例に手術や放射線治療がなされてきた。 このような背景から、現在、世界では4つの前向き試験が実施されており、日本でもLORETTA試験(JCOG1505)が症例登録中で、いずれも低~中悪性度でER陽性のDCISを対象に、経過観察のみもしくは経過観察+ホルモン療法の安全性を検討している。枝園氏は、これらの試験の結果によっては、低悪性度の場合は手術しないというのもオプションの1つになると思われると期待を述べた。4)術前薬物療法で臨床的完全奏効が得られた症例における手術の省略 術前薬物療法は早期乳がんの標準治療の1つになっており、完全奏効が得られる症例が多くなっている。とくにHER2陽性乳がんでは半数以上がHER2阻害薬と化学療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られると報告されている。しかし、現状では手術なしでpCRを確認する方法がないため、全例に手術を行うのが標準になっている。 それに対して、海外では診断精度を高めるために、針生検を実施してがんの残存を確認する前向き試験が実施されているが、実際には完璧にpCRを予測するのが難しいとされている。 そこで、わが国では、HER2陽性乳がんで術前薬物療法(化学療法+HER2阻害薬)により画像上で腫瘍が消失した患者に対して、手術なしでも予後は変わらないことを前向きに確認するAMATERAS試験(JCOG1806)を現在実施している。 最後に枝園氏は、「手術の縮小は症状が出ることを避け、整容性を向上させることを目的としているが、逆に局所再発の増加を引き起こす。データ上、局所再発は生存に影響ないが長期的には影響が出てくるため、手術縮小と引き換えに全身療法や放射線療法が必要となる」と述べ、「これら3つの組み合わせによって手術縮小と治療を両立させることが重要である」と講演を締めくくった。

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