筋症状によるスタチン中止、関連性を見いだせず/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2021/03/10

 

 スタチン投与時の重症筋症状の既往があり投与を中止した集団に、アトルバスタチン20mgを投与しても、プラセボと比較して筋症状への影響は認められず、試験終了者の約3分の2がスタチンの再開を希望したとの調査結果が、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のEmily Herrett氏らが実施した「StatinWISE試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月24日号で報告された。スタチンと、まれだが重度な筋肉の有害事象との因果関係はよく知られている一方で、筋肉のこわばり、筋痛、筋力低下などの重度ではない筋症状に及ぼすスタチンの影響は不明だという。また、非盲検下の観察研究の結果が広く知られるようになったため、多くの患者が筋症状の原因はスタチンと考えて治療を中止し、結果として心血管疾患による合併症や死亡が増加しているとされる。

英国のプライマリケア施設の無作為化プラセボ対照n-of-1試験

 研究グループは、スタチン投与時の筋症状の既往歴を持つ集団において、スタチンが筋症状に及ぼす影響を評価する目的で、2016年12月~2018年4月の期間にイングランドとウェールズの50のプライマリケア施設において無作為化プラセボ対照n-of-1試験を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術計画などの助成による)。

 筋症状のためスタチン投与を中止または中止を考慮中の200例が対象となった。試験期間は1年で、参加者は6回の二重盲検下の投与期間(各2ヵ月)に無作為に割り付けられた。6回の投与期間のうち3回はアトルバスタチン20mgが、残りの3回はプラセボが投与された。最初の2回の投与期間は、1回がスタチン、もう1回はプラセボが投与され、3回連続して同じ薬剤の投与期間に割り付けられないようにした。

 参加者は、各投与期間の終了時に、視覚アナログ尺度(0~10点。0点:筋症状なし、5点:中等度筋症状、10点:最も重度と考えられる筋症状)で筋症状の評価を行った。主解析では、スタチン投与期とプラセボ投与期の症状スコアを比較した。

中止理由のうち筋症状は少ない

 200例の参加者の平均年齢は69.1(SD 9.5)歳、115例(58%)が男性で、140例(70%)は心血管疾患の既往歴を有していた。総コレステロール値中央値は5.3mmol/L(IQR:4.4~6.2)だった。151例(76%)が、スタチン投与期とプラセボ投与期のそれぞれ少なくとも1回の症状スコアを提供し、主解析の対象となった。

 主解析には、392回のスタチン投与期の2,638件のデータと、383回のプラセボ投与期の2,576件のデータが含まれた。視覚アナログ尺度による平均筋症状スコアは、スタチン投与期がプラセボ投与期よりも低く(1.68[SD 2.57]点vs.1.85[2.74]点)、両群間に有意な差は認められなかった(平均群間差:-0.11、95%信頼区間[CI]:-0.36~0.14、p=0.40)。

 スタチンが筋症状の発現に影響を及ぼすとのエビデンスは得られず(オッズ比[OR]:1.11、99%CI:0.62~1.99)、筋症状は他の原因に起因しないとのエビデンスもなかった(1.22、0.77~1.94)。一般活動性、気分、歩行能力、日常的な作業、他者との関係、睡眠、生活の楽しみについても、両投与期で筋症状の影響に差はなかった。

 試験終了から3ヵ月後の調査では、試験終了者の88%(99/113例)が「試験は有益だった」と回答し、66%(74/113例)は「スタチン投与をすでに再開または再開の予定」と報告した。また、プラセボ投与期よりもスタチン投与期で平均筋症状スコアが1単位以上高く、スタチンが筋症状の原因の可能性があると知らされた17例(15%)のうち、9例(53%)はスタチンを再開する予定とし、スタチンが原因の可能性はないと知らされた96例のうち65例(68%)が再開予定と回答した。

 80例が投与を中止し、このうちスタチン投与期が34例(43%)、プラセボ投与期は39例(49%)であった。中止の理由のうち筋症状は少なく、忍容できない筋症状で投与を中止した参加者は、スタチン投与期が18例(9%)、プラセボ投与期は13例(7%)であった。試験期間中に13件の重篤な有害事象が報告されたが、試験薬に起因するものはなかった。

 著者は、「n-of-1試験は、集団レベルで薬剤効果の評価が可能で、個々の治療の指針を示すことができる」とし、「今後は、他の種類のスタチンや高用量スタチン、一過性の有害作用を伴う他の薬剤のn-of-1試験に重点的に取り組むことが考えられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)