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鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、depemokimabの年2回追加投与が有効/Lancet

 depemokimabは、インターロイキン(IL)-5を標的とするモノクローナル抗体であり、IL-5への高度な結合親和性と高い効力を有し、半減期の長い初の超長時間作用型の生物学的製剤で、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)患者において2型炎症の持続的な抑制と年2回の投与が可能であることが確かめられている。ベルギー・Ghent UniversityのPhilippe Gevaert氏らANCHOR-1 and ANCHOR-2 trial investigatorsは「ANCHOR-1試験」および「ANCHOR-2試験」において、depemokimabの年2回投与はCRSwNP患者における標準治療への追加薬として、プラセボと比較し内視鏡的鼻茸総スコアと鼻閉スコアの変化量を有意に改善し忍容性も良好であることを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年3月15日号に掲載された。16ヵ国の無作為化プラセボ対照反復第III相試験 ANCHOR-1試験とANCHOR-2試験は、CRSwNPの治療におけるdepemokimab追加の有益性の評価を目的とする同一デザインの二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較反復第III相試験であり、2022年4月~2023年8月に日本を含む16ヵ国190施設で患者を登録した(GSKの助成を受けた)。 年齢18歳以上、コントロール不良のCRSwNP(両側鼻腔の内視鏡的鼻茸スコア[片側鼻腔当たり0点:鼻茸なし~4点:鼻茸により完全閉塞、両側で合計8点]が5点以上[片側2点以上])で、重篤な症状がみられ、CRSwNPに対する手術歴または全身性コルチコステロイド治療・不耐の少なくとも1つを有する患者を対象とした。 これらの患者を、26週ごとにdepemokimab(100mg)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 複合主要エンドポイントは、最大の解析対象集団(FAS)における内視鏡的鼻茸総スコアのベースラインから52週時までの変化量と、鼻閉スコア(言語式評価スケール[0~3点、リッカート尺度])のベースラインから49~52週の平均値までの変化量とした。個々の試験、統合解析とも良好な結果 ANCHOR-1試験とANCHOR-2試験に合計540例を登録し、528例がFASとなった。depemokimab群272例(平均年齢[SD]52.4[13.27]歳、男性69%)、プラセボ群256例(51.6[13.27]歳、70%)。depemokimab群はANCHOR-1試験143例、ANCHOR-2試験129例、プラセボ群はそれぞれ128例および128例であった。 複合主要エンドポイントのベースラインからの変化量は、以下のとおり、プラセボ群に比べdepemokimab群で統計学的に有意な改善を示した。 内視鏡的鼻茸総スコアの群間差は、ANCHOR-1試験で-0.7(95%信頼区間[CI]:-1.1~-0.3、p<0.001)、ANCHOR-2試験で-0.6(-1.0~-0.2、p=0.004)、2つの試験の統合解析で-0.7(-0.9~-0.4、名目上のp<0.001)であった。また、言語式評価スケールによる鼻閉スコアの群間差は、ANCHOR-1試験で-0.23(-0.46~0.00、p=0.047)、ANCHOR-2試験で-0.25(-0.46~-0.03、p=0.025)、2つの試験の統合解析で-0.24(-0.39~-0.08、名目上のp=0.003)であった。有害事象、重篤な有害事象の頻度は同程度 投与期間中および投与後の有害事象の頻度は、depemokimab群(ANCHOR-1試験74%[106例]、ANCHOR-2試験76%[98例])とプラセボ群(79%[101例]、80%[102例])で同程度であった。また、重篤な有害事象の頻度も、depemokimab群(3%[5例]、5%[6例])とプラセボ群(5%[6例]、8%[10例])で類似していた。死亡例は、2つの試験とも両群で報告はなかった。 52週の投与期間中に、ANCHOR-1試験とANCHOR-2試験のdepemokimab群で、それぞれ7%(10例)および9%(11例)に抗薬物抗体の発現を認めた。プラセボ群の1例が、中和抗体陽性であった。 著者は、「これらの知見は、depemokimabがCRSwNP患者にとって有益な治療選択肢であることを支持するものである」「年2回の投与により、投与スケジュールが簡素化されるため、アドヒアランスが改善し治療負担が軽減する可能性がある」としている。

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頻回の献血によるクローン性造血への影響は?/Blood

 頻回の献血が健康や造血幹細胞に及ぼす影響についてはほとんど解明されていない。今回、ドイツ赤十字献血センターのDarja Karpova氏らが100回超の献血者と10回未満の献血者を調べた結果、前がん病変であるクローン性造血の発生率には差はなかったが、DNMT3Aに明らかに異なる変異パターンがみられることがわかった。Blood誌オンライン版2025年3月11日号に掲載。 本研究では、100回超の献血歴を有する高齢男性の頻回献血者217人と10回未満の散発的献血者212人のデータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・頻回献血者は散発的献血者と比較して、クローン性造血の全発生率に有意差は認められなかった。・クローン性造血で最も影響を受ける遺伝子であるDNMT3Aの変異を詳細に分析したところ、頻回献血者のコホートと年齢・性別をマッチさせた対照ドナーのコホートとの間に明らかに異なる変異パターンがみられた。・CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)で編集したヒト造血幹細胞を用いて調べた頻回献血者に濃縮されたDNMT3A変異体の機能解析では、エリスロポエチン(失血に反応して増加する)で刺激すると競合的に伸長する可能性が示された。対照的に、白血病を誘発するDNMT3A R882変異を持つクローンはインターフェロンγ曝露により増加した。・プライマリーサンプルの変異と免疫表現型の同時プロファイリングを単一細胞レベルで行った結果、がんになる可能性の高いR882変異を持つ造血幹細胞では骨髄バイアスが見られたが、エリスロポエチンに反応するDNMT3A変異を持つ造血幹細胞では有意な系統バイアスは観察されなかった。後者は、CRISPRで編集したヒト造血幹細胞異種移植片に持続的な赤血球産生ストレスを加えると、選択的赤血球分化を示した。 われわれのデータは、体性幹細胞レベルで微妙に進行するダーウィンの進化を示しており、エリスロポエチンが特定のDNMT3A変異を持つ造血幹細胞に有利な新たな環境因子であることが特定された。

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進行乳がんでのT-DXdの効果と関連するゲノム異常/日本臨床腫瘍学会

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の効果に関連するゲノム異常の影響については十分に解明されていない。今回、進行乳がん患者の組織検体における包括的ゲノムプロファイリング(CGP)検査データの後ろ向き解析により、CDK4およびCDK12異常がT-DXdへの1次耐性に寄与する可能性が示唆された。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)にて、国立がん研究センター中央病院の山中 太郎氏が発表した。 本研究では、2019年6月~2024年8月に組織検体のCGP検査を受け、国立がん研究センター・がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録された進行乳がん患者のデータを後ろ向きに解析した。CGP検査には、NCCオンコパネルシステム、FoundationOne CDx、GenMineTOPが含まれる。T-DXd投与前の検体を用いてCGP検査を受けた患者を対象とし、actionableな遺伝子異常はpathogenic/oncogenicバリアントまたはlikely pathogenic/likely oncogenicバリアントに分類された場合にカウントした。 主な結果は以下のとおり。・進行乳がん5,229例のうち、最終的に437例が抽出された。年齢中央値は54歳、HER2は陽性が35.7%、陰性が56.3%、不明が8.7%、エストロゲン受容体は、陽性が62.7%、陰性が32.5%、不明が4.8%であった。最も多かったCGP検査はFoundationOne CDxで89.7%であった。・actionableな遺伝子異常の頻度が高かったのは、HER2陽性ではTP53異常(71.4%)、ERBB2増幅(70.1%)、PIK3CA異常(50.0%)、MYC異常(28.6%)、HER2陰性ではTP53異常(53.9%)、PIK3CA異常(36.3%)、MYC異常(20.4%)、FGFR1異常(18.8%)、GATA3異常(18.8%)であった。・無増悪生存期間(PFS)は、ERBB2増幅例で非増幅例より有意に長く(p<0.001)、HER2陽性例では陰性例より有意に長かった(p<0.001)。・多変量解析の結果、HER2の状態はPFSの延長と有意に関連(ハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.22~0.50、p<0.001)し、CDK4異常(HR:2.18、95%CI:1.06~4.51、p=0.035)およびCDK12異常(HR:2.28、95%CI:1.08~4.79、p=0.030)はPFSの短縮と関連していた。 山中氏は、「本研究の結果を裏付け、新たな戦略的アプローチを開発するためにさらなる研究が必要」としている。

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“オゼンピック・フェイス”が美容外科のトレンドに

 米国顔面形成外科学会(AAFPRS)が行った調査により、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)による肥満治療後の顔のたるみを引き締める手術が、急速に増加していることが明らかになった。この調査の結果は、AAFPRSのサイトに2月4日公開された。 GLP-1RAは、当初は2型糖尿病患者対象の血糖降下薬としてのみ使用されていたが、近年は減量目的での処方が広がっている。GLP-1RAによる減量に伴い、顔の皮膚がたるんでくることがある。このような特徴が現れた顔は、肥満目的で処方されることの多いGLP-1RAであるセマグルチドの商品名がオゼンピックであることから、“オゼンピック・フェイス”と呼ばれる(なお、肥満治療の適応を有するセマグルチドの商品名はウゴービであり、オゼンピックは血糖降下薬としてのみ認可されているが、実際には医師の裁量でオゼンピックが肥満治療に使われるケースも多い)。 AAFPRSは、同学会会員を対象に毎年、顔面形成術に関する調査を実施している。今回公表された2024年の調査結果では、鼻形成術(鼻整形)、フェイスリフト、アイリフトが依然として人気の高い手術リストのトップを占めていた。しかし、オゼンピック・フェイスに対する外科的処置の急増という変化も認められた。 この傾向について同学会会長のPatrick Byrne氏は、「GLP-1RAは速やかな減量効果を発揮するが、脂肪の減少によって皮膚のたるみなどの問題を引き起こすことが多い。その結果、顔面形成術を希望する患者が増えている」と解説している。具体的には、GLP-1RAによる減量に伴うものと推測される顔面脂肪移植術の件数が、2024年の1年間で50%増加していた可能性があるという。 同学会会員の10人に1人の医師が、患者に対して減量薬を処方しているという実態も明らかになった。また、会員医師の多くが、今後もオゼンピックやその同効薬が減量目的で使われるケースが増加し、それに伴い、顔面注入充填剤などを用いた非外科的な処置の人気も高まると予想している。 一方、伝統的な手術も人気が衰えていない。鼻整形を受ける患者数は依然として最多であり、フェイスリフトを受ける患者は若年化している。ただし、複雑で侵襲の大きい外科手術を受ける患者はそれほど多くはなく、ボツリヌス毒素などの注射や充填剤による治療法の方がはるかに人気であり、会員の9割以上がこうした治療を定期的に行っていると回答していた。 このほかに今回の調査では、会員の大半(92%)が、鼻整形、フェイスリフト、アイリフト、ボトックス注射、その他の治療を求める患者の中に、男性が少なくないことを指摘した。特に植毛手術に関しては、男性患者が女性患者を凌駕していることが分かった。 同学会のCEO兼副会長であるSteven Jurich氏は、「調査結果として示されたトレンドの多くは、ソーシャルメディア(SNS)を通じて生じた変化ではないか」と話している。同氏は、「SNSなどには詐欺や誤った情報も少なくないため、治療を受けることに同意する前に、術者の資格やどのようなトレーニングを受けた医師かを確認すべき」とアドバイスしている。

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AIで論文執筆、そこに愛はあるんか!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第82回

AI活用で英語論文投稿に挑戦英語は、世界中で最も普及している言語です。日本語で論文を執筆しても、それを読むのは日本語を理解できる限られた人だけです。世界言語ともいえる英語で論文を書くことにより、爆発的に多くの人に向けて情報を発信することができます。英語で学術論文を執筆することは、若手の医師にとって大きな挑戦です。母国語ではない言語で正確かつ明瞭な文章を書くことは、多くの時間と労力を要します。これに比べ、英語を母国語とする者は、自らの思考をそのままの言語で表現すればよいので、圧倒的に有利な立場にあります。英語圏の人に「君たち、日本語で学術論文を書いてみなさい」と言ったら、その難しさのあまり投げ出して挫折することは間違いないでしょう。このような言語の壁を乗り越えるために、AI(人工知能)の活用が注目されています。とくにAI翻訳ツールの進化は著しいものがあります。近年DeepLやChatGPTのような高度な翻訳技術が登場していることはご存じと思います。これにより、英語に不慣れな者でも、より容易に国際学術誌への投稿に挑戦できる環境が整ってきました。上手く活用すれば、若手医師とその指導医の負担を大幅に軽減してくれます。しかしながら、AIを用いた翻訳には慎重な対応も求められます。多くの学術雑誌では、AIの使用に関するガイドラインを設け始めています。論文投稿についての規定を記した「Instructions for Authors」にも、AIを用いた執筆や翻訳の許容範囲の記載が増えています。AI翻訳のみに頼った執筆は、正確性に問題が生じる可能性があり、倫理的な問題を引き起こすリスクもあります。意図せず他論文と酷似した表現になっている可能性もあります。AIを適切に活用しながらも、指導医を含めた人間によるチェックを怠らないことが重要です。AI翻訳の後に、さらにネイティブスピーカーや専門の校閲者による確認を受けることも、質の高い英語論文に仕上げるために有効です。単純にAIを敵対視するのではなく、このようなプロセスを確立することで、日本人が国際的な学術界でより活躍しやすい環境を整えることが大切と考えます。「そこに愛(AI)はあるんか!」「そこに愛はあるんか!」とは、TVのコマーシャルでよく耳にするフレーズです。この愛とAIが同じ韻を踏む掛詞(かけことば)であることに妙があります。これが活用されている場面を紹介しましょう。それは結婚披露宴です。司会者が、新郎新婦の馴れ初めを紹介する場面で、『2人はアイの導きにより出会い』と紹介するのは、愛もあるでしょうがAIを活用したマッチングアプリを通じて結ばれた2人です。マッチングアプリは、出会いの機会を提供するサービスとしてすっかり一般的になっています。ある生命保険会社が2023年に行った調査では、同年に結婚した夫婦のうち、4組に1組がマッチングアプリで出会ったという結果もあります。以前は、アプリを通じて結婚した場合には、「共通の友人を通じて」などと紹介される事例が多かったそうです。私が司会者ならば、「広遠なデジタル空間で運命的な邂逅を果たした」と紹介したいところですが、時代とともにマッチングアプリに対する認識が変化し、アプリ婚を隠す必要など感じないそうです。マッチングアプリを使う中で思わぬトラブルに遭う場合もあります。マッチングアプリで出会った女性に誘われたバーで高額な請求をされたなどの、犯罪まがいの出来事に巻き込まれた話もあるようです。しかし、現状すでにマッチングアプリは若者に普及し、多くの出会いをサポートしているのです。今後も利用者が増えていくことが予想されるマッチングアプリと、その導きによるアイの成就です。AI翻訳ツールにしてもマッチングアプリにしても、新規導入のシステムの普及の過程では、是正されるべき問題点があぶりだされるのが常です。これを克服して進化していくのでしょう。指導医にとって、若手医師へのアイの成就は、英語論文が無事に採択され掲載されることです。若手医師にとって、英語での学術論文執筆は依然として高いハードルでしょうが、人工知能としてのAIという強力なツールを適切に活用することで、その壁を乗り越えてもらいたいです。日本人の若手医師や研究者がより自由に、そして正確に自身の研究成果を世界に発信できる時代が来ることを期待しています。

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高齢の市中肺炎、セフトリアキソンvs.スルバクタム・アンピシリン

 高齢者の市中肺炎の初期対応として、嫌気性菌をカバーするスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、カナダの市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究では、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させたことが報告されている1)。そこで、山本 舜悟氏(大阪大学)らの研究グループは、市中肺炎により入院した65歳以上の患者を対象としたデータベース研究を実施し、セフトリアキソン(CTRX)とSBT/ABPCを比較した。その結果、SBT/ABPCのほうがCTRXよりも院内死亡率が高かった。本研究結果は、Open Forum Infectious Diseases誌2025年3月5日号に掲載された。 研究グループは、健康・医療・教育情報評価推進機構が管理するデータベースを用いて、2010~23年に市中肺炎により入院した65歳以上の患者のうち、初期治療としてCTRXまたはSBT/ABPCを用いた患者2万6,633例を抽出した。CTRX群とSBT/ABPC群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。主要評価項目は院内死亡率とし、副次評価項目はC. difficile感染症(CDI)の発生率とした。逆確率重み付け法を用いて、両群の調整リスク差(aRD)、調整オッズ比(aOR)、それらの95%信頼区間(CI)を推定することで評価した。 主な結果は以下のとおり。・CTRX群は1万1,727例、SBT/ABPC群は1万4,906例であった。・院内死亡率はCTRX群9.0%、SBT/ABPC群10.5%であり、SBT/ABPC群が高かった(aRD[95%CI]:1.5%[0.7~2.4]、aOR[95%CI]:1.19[1.08~1.31])。・CDIの発生率はCTRX群0.4%、SBT/ABPC群0.6%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aRD[95%CI]:0.2%[0.0~0.4]、aOR[95%CI]:1.45[0.99~2.11])。・誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団を対象としたサブグループ解析において、院内死亡率はCTRX群11.5%、SBT/ABPC群14.2%であり、SBT/ABPC群が高かった(aOR[95%CI]:1.27[1.14~1.40])。・同様に、誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団のCDIの発生率はCTRX群0.5%、SBT/ABPC群0.8%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aOR[95%CI]:1.52[1.00~2.31])。 本研究結果について、著者らは「膿胸や肺膿瘍などの嫌気性菌の関与が明らかな場合を除き、高齢の市中肺炎患者に対する初期治療として、嫌気性菌カバーする抗菌薬の使用は避けるべきである可能性が示された」とまとめた。

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認知症の臨床診療ガイドライン―韓国認知症協会の推奨事項

 韓国・江原大学校のYeshin Kim氏らが、エビデンスに基づく推奨事項をまとめた韓国認知症協会の臨床診療ガイドラインについて、アルツハイマー病およびその他のタイプの認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)およびN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬に関する推奨事項に焦点を当て、Dementia and Neurocognitive Disorders誌2025年1月号に発表した。また同誌にて、同国・カトリック大学校のGihwan Byeon氏らは本ガイドラインについて、患者のQOLや介護者の負担に影響を及ぼす認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する、抗精神病薬、抗うつ薬、抗認知症薬など薬理学的治療に関する臨床実践ガイドラインとして提示した。 PICOフレームワークを用いて主要な臨床上の疑問を作成し、システマティックに文献レビューを実施した。韓国認知症協会が組織した多分野の専門医パネルにより、ランダム化比較試験および観察研究の評価を行った。推奨事項には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment Development and Evaluation)ツールを用いて、エビデンスの質および強度に基づき等級付けを行った。 ChEIおよびNMDA受容体拮抗薬に関する主な推奨事項は以下のとおり。・アルツハイマー病では、認知機能および日常機能の改善にChEI(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)が強く推奨される(エビデンスの質:中)。・ChEIは、血管性認知症およびパーキンソン病性認知症に条件付きで推奨され、レビー小体型認知症には強く推奨される。・中等度~重度のアルツハイマー病には、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が強く推奨され、認知機能および日常機能の有意な改善が実証されている。・いずれの薬剤クラスにおいても副作用のマネジメントは可能であり、良好な安全性プロファイルが認められた。 BPSDに対する薬理学的治療に関する主な推奨事項は以下のとおり。・薬剤の種類および症状の重症度により推奨事項は異なる。・リスペリドンやブレクスピプラゾールなどの抗精神病薬は、認知症の攻撃性や精神症状のコントロールに条件付きで推奨され、抗うつ薬、とくにcitalopramはアルツハイマー病の興奮に推奨される。・ChEIおよびNMDA受容体拮抗薬などの抗認知症薬は、レビー小体型認知症の一般的なBPSDの改善および急速眼球運動睡眠行動障害に中程度の有効性を示した。・pimavanserinなどの特定の薬剤は、アルツハイマー病患者の精神症状に対する有効性が認められた。 著者らは本ガイドラインについて、「ChEIおよびNMDA受容体拮抗薬に関する具体的なガイダンスと共に、認知症マネジメントに関する標準化されたエビデンスに基づく推奨事項を提案している」「認知症のBPSDに対する薬理学的マネジメントにおける構造化されたアプローチを提供している」「リスクを最小限にしながら治療アウトカムを最適化するための個別化された治療計画を強調している」とし、「本ガイドラインは認知症ケアにおける患者アウトカムの改善を目的としている。認知症マネジメントの進歩を反映し、アミロイド標準療法などの新たな治療法について、さらに更新されるだろう」とまとめている。

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新たな時代に向けた白血病診療の在り方と展開/日本臨床腫瘍学会

 自己複製能と多分化能を備える造血幹細胞は、複数の過程を経てさまざまな血液細胞に分化し、体内の造血系を恒常的に維持している。一方、この分化過程の各段階で生じるがん化は、白血病やリンパ腫、骨髄腫を引き起こす。 2025年3月6〜8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、教育講演の1つとして「本邦における白血病診療」と題した講演が行われた。演者の藥師神 公和氏(神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科)は、「白血病に特異的な症状はない。多くの場合、血液検査で異常が指摘されると、造血の場である骨髄の検査が実施され、診断に至る」と説明し、白血病が急性または慢性、ならびに骨髄性またはリンパ性の違いで一般的に急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)および慢性リンパ性白血病(CLL)の4つに分類されることから、「本講演では、日本血液学会より2024年に公開された『造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版』に沿って、各白血病の総論やアルゴリズム、クリニカルクエスチョン(CQ)の改訂点を紹介するとともに、今後の展望にも触れたい」とした。AMLの治療指針や戦略、主なCQの改訂点について 従来のAMLの診断は、骨髄における白血病細胞がFAB分類では30%以上、WHO分類では20%以上とされてきたが、今回のガイドライン改訂版ではEuropean Leukemia Net(ELN)が2022年の改訂で採用した分類を引用している。すなわち、AMLを定義付けるような遺伝子異常(PML::RARA、CBFB::MYH11、RUNX1::RUNX1T1など)があれば、芽球比率が10%以上でAMLと診断することになった。ただし、BCR::ABL1については、CML移行期との混乱を避けるため20%以上とされた。 分類に関するほかの重要な変更点の1つとして、病歴よりも遺伝学的特徴のほうが生物学的AMLの分類に関連していることから、従来のAML-MRC(骨髄異形成関連変化を伴うAML)と治療関連骨髄性腫瘍の病型が削除された。 なお、遺伝子変異と染色体核型に基づく予後因子を組み合わせた予後層別化システムについては、2022年のELN改訂版でFLT3-ITD変異がアレル比やNPM1変異の有無にかかわらず、すべてIntermediate群に分類された点が今回のガイドライン改訂版に記載された(ただし、FLT3阻害薬が初回治療から使用できることが前提)。このほかにも、細かい遺伝子異常が予後層別化に追加された。 急性前骨髄球性白血病(APL)以外の若年者AMLにおける治療アルゴリズムとして、今回のガイドライン改訂版ではFLT3遺伝子変異の情報を診断時に取得することが明記された。また、高齢者AMLにおいてもFLT3遺伝子変異情報の取得が記載され、藥師神氏は「基本的に初発時からFLT3遺伝子変異検査を行うことになる。なお、強力化学療法非適応症例への寛解導入療法は、CQ8『強力化学療法が適応とならない高齢者(65歳以上)AMLに対してどのような治療が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー1)を参照すること」と述べた。 これ以外の注目すべきCQとして、同氏はCQ3『若年者(65歳未満)初発AMLに対する寛解導入療法としてどのような治療が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー1)、CQ13『治療関連・二次性AMLに対してどのような治療が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー2Aおよび2B)を挙げた。一方、APLにおいては、CQ2『初発APLの寛解導入療法におけるDIC(播種性血管内凝固)対策として何が勧められるか』で、遺伝子組換えトロンボモジュリンによる治療が推奨グレード・カテゴリー3からカテゴリー2Bにアップグレードされた点を挙げた。CMLの治療指針や戦略、主なCQの改訂点について CMLの診断時に評価すべき予後スコアは、SokalスコアやELTS(EUTOS long-term survival)スコアを使用し、治療効果はELN 2020の判定規準に従い、血液学的奏効(血液・骨髄検査所見および臨床所見で判定)、細胞遺伝学的奏効(骨髄細胞中のPhiladelphia[Ph]染色体割合で判定)、分子遺伝学的奏効(PCRによる血液細胞中のBCR::ABL1遺伝子発現量で判定)の3つのレベルで判定する。加えて、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療効果のモニタリングと戦略が、同氏より解説された。 また、注目すべきCQとして、CQ1『初発CML-CP(慢性期)に対する治療として何が勧められるか』で、TKI阻害薬が新たに1剤追加されたこと(推奨グレード・カテゴリー1)、CQ3『ELNの効果判定規準によりWarningやFailureとされた症例に対する二次治療、三次治療以降は何が勧められるか』で、三次治療以降にSTAMP(specifically targeting the ABL myristoyl pocket)阻害薬が追記されたこと(推奨グレード・カテゴリー2A)、CQ5『同種造血幹細胞移植はCMLの治療中どのようなときに考慮すべきか』で、さまざまな状況に応じた移植の検討が推奨されること(推奨グレード・カテゴリー2A)を挙げた。 さらに、CQ6『DMR(分子遺伝学的に深い奏効)を達成しMRD(微小残存病変)が検出されなければTKI中止は勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー2A)、CQ7『CMLに対するTKI治療中にTKIの減量は勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー1、2Aおよび2B)、CQ8『CML患者もしくはそのパートナーの妊娠にはどのような対応が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー2B)の改訂点が紹介された。ALLおよびCLLの主なCQの改訂点について ALLの注目すべきCQとして、CQ4『寛解期成人ALLにおけるMRDは、どのような評価方法、評価時期、閾値の判定が勧められるか』で、定量PCRによる白血病特異的融合遺伝子測定および免疫グロブリン重鎖(Ig)/T細胞受容体(TCR)遺伝子再構成測定が推奨されたこと(推奨グレード・カテゴリー1)、ならびに1回目のMRD測定は寛解導入療法後が推奨されたこと(推奨グレード・カテゴリー2A)が紹介された。同氏は、そのほかにCQ6『第一寛解期ALLの同種造血幹細胞移植には骨髄破壊的前処置と減弱前処置のどちらが勧められるか』で、適切な前処置に関する推奨(推奨グレード・カテゴリー2B)が明記された点や、CQ7『Ph陽性ALLに対する移植後TKIの維持療法は勧められるか』で、MRD陰性の時点で開始する予防的なTKI維持療法は推奨されない(推奨グレード・カテゴリー2A)ことが記載された点を紹介。CQ9『再発ALLに対する再寛解導入療法の選択肢としてどのような治療が勧められるか、CAR-T細胞療法はどのようなときに考慮すべきか』で、新たな治療選択肢(推奨グレード・カテゴリー1)やCAR-T細胞療法(推奨グレード・カテゴリー2A)が追記された点についても言及した。 CLLの注目すべきCQとして、初回治療としてBTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)阻害薬が推奨され(CQ2『CLL初回治療としてBTK阻害薬療法は勧められるか』[推奨グレード・カテゴリー1])、免疫化学療法は初回治療として推奨されない(CQ3『CLL初回治療として免疫化学療法は勧められるか』[推奨グレード・カテゴリー1])ことが紹介された。二次治療における治療方針の推奨(CQ4『イブルチニブ初回治療に治療抵抗性もしくは再発CLLに対する二次治療としてどのような治療が勧められるか』およびCQ5『イブルチニブ初回治療に治療不耐容のCLLに対する二次治療としてどのような治療が勧められるか』)が、ともにカテゴリー1として明記された点も紹介し、CQ7『自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症を合併したCLLに対してステロイド治療は勧められるか』では、無症候性・非活動性CLLであればステロイド治療が推奨される(推奨グレード・カテゴリー2A)ことが説明された。これからの白血病診療の展望 造血器腫瘍の診断および治療について、ゲノム情報に基づく診療がWHOなどから提唱される中、つい最近、わが国においても造血器腫瘍を対象とした遺伝子パネル検査が登場した。「本邦での造血器腫瘍におけるがんゲノム医療の導入は喫緊の課題」と語る藥師神氏は、「日本血液学会が発行する『造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン2023年度版』で遺伝子パネル検査の基盤となる情報が提供されている。そのため、新規治療薬の導入とともに、白血病診療が今後さらに前進していくことが期待される」と締めくくった。

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HER2+乳がんへのtucatinib、日本人集団でも良好な有効性(HER2CLIMB-03)/日本臨床腫瘍学会

 前治療歴のある切除不能な局所進行または転移を有するHER2+乳がん患者に対し、トラスツズマブとカペシタビンに加えて経口チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibを追加投与した第II相HER2CLIMB-03試験の結果、日本人集団においても良好な有効性と安全性を示したことを、大阪国際がんセンターの中山 貴寛氏が22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。 グローバルなHER2CLIMB試験において、複数の前治療歴があり、局所進行/転移を有するHER2+乳がん患者に対するトラスツズマブ+カペシタビン+tucatinib併用療法は、臨床的に有意な有効性を示し、忍容性も良好であったことが報告されている。今回は、主に日本から患者を登録したHER2CLIMB-03試験の有効性と安全性が報告された。・試験デザイン:第II相単群試験・対象:タキサン、トラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1による治療後に病勢進行が認められた局所進行/転移を有するHER2+乳がん患者(ECOG PS 0/1)・スケジュール:tucatinib(1日2回300mg、経口投与)+トラスツズマブ(21日ごとに6mg/kg[1サイクル目の1日目は8mg/kg]、静脈内投与)+カペシタビン(21日ごとの1~14日まで1日2回1,000mg/m2、経口投与)・評価項目:[主要評価項目]日本人集団における独立中央判定(ICR)による確定奏効率(cORR)[副次評価項目]全体集団におけるICRによるcORR、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性・データカットオフ:2023年7月17日 主な結果は以下のとおり。・合計66例(日本53例、韓国10例、台湾3例)が1サイクル以上の治療を受けた。全例が女性で、年齢中央値は53歳(範囲:31~84)、ECOG PS 0は77%、HR+は42.4%、HR-は48.5%、Stage IVは47.0%、内臓疾患を有したのは63.6%、転移に対する前治療ライン数中央値は3であった。・データカットオフ時に評価可能であった日本人集団(48例)のcORR率は35.4%(90%信頼区間[CI]:24.0~48.3)、全体集団(60例)では40.0%(29.3~51.4)であった。・DOR中央値は、日本人集団8.3カ月(90%CI:6.2~8.5)、全体集団8.5ヵ月(6.2~12.4)であった。・PFS中央値は、日本人集団7.4カ月(90%CI:5.3~7.6)、全体集団6.4ヵ月(5.3~7.5)であった。・12ヵ月OS率は、日本人集団80.2%、全体集団82.5%であった。・試験治療下における有害事象(TEAE)は全例で認められた(投与期間中央値7.6ヵ月)。Grade≧3のTEAEは日本人集団49.1%および全体集団43.9%に発現し、重篤なTEAEは11.3%および9.1%に発現した。Grade≧3のTEAEで多かったのは、ALT増加(15.2%)、好中球数減少(10.6%)、AST増加(9.1%)、貧血(7.6%)であった。 これらの結果より、中山氏は「トラスツズマブとカペシタビンへのtucatinib追加は、前治療歴があり、局所進行/転移を有するHER2+乳がんの日本人、韓国人、台湾人の集団において良好な有効性と安全性を示した。HER2CLIMB-03試験の結果はグローバルなHER2CLIMB試験と一貫したものであり、tucatinib+トラスツズマブ+カペシタビンはアジア人においても今後の治療選択肢として支持されるものである」とまとめた。

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認知症の急速悪化、服用中の薬剤が引き金に?【外来で役立つ!認知症Topics】第27回

認知症の急速進行性患者(Rapid Decliner)少なからぬ認知症の患者さん、とくにアルツハイマー病(AD)患者の外来治療は長期にわたりがちで、2年や3年はざら、時には10年ということもある。そうした中で、この病気が進行していくスピード感というものがだんだんとわかってくる。ところが、「なぜこんなにも急速に悪化するのか」という驚きと、主治医としての後ろめたさを感じてしまうような症例を少なからず経験する。こうした患者さんは、医学的には急速進行性患者(Rapid Decliner:RD)と呼ばれる。急速進行性認知症とは、本来プリオン病をプロトタイプとするが、プリオン病との鑑別で最も多いのは急速進行性のADだとされる。このようなケースでは、本人というよりも主たる介護者が、そのことを嘆かれ、治療の変更や転医などを相談されることもある。しかし担当医として容易にはお答えができず、忸怩たる思いを経験する。また新薬の治験のようにADの経過を評価する際にもRDはしばしば問題になる。というのは、こうした新薬の効果は、多くの場合、わずかなものである。そこに一般的な患者の経過から飛び抜けて悪化を示すケースがあると、「結果解析ではこうしたRDを例外として対象から除外するのか?」などの統計解析上の取り扱いが問題になると聞く。急速進行性アルツハイマー病(RD AD)の定義さて急速進行性AD(RD AD)の定義では、MMSEのような認知機能評価尺度の点数悪化や発症から死亡に至るまでの時間により示されることが多い。RD ADの定義として、MMSEの年間点の得点低下が6点以上とするものが多い1)。一般的には年間低下率は、2~3点とされるから、その倍以上である。また普通は7~8年とされるADの生存期間だが、RD ADでは、それが2年以内とされることも多い2)。つまり約3~4分の1程度も短命である。このようなRD ADを予測する要因としては、合併症として、血管性要因、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。また慢性的な心不全や閉塞性肺疾患の関与も注目されてきた。しかしいずれも確立していない。さらに一般的には若年性が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではない。バイオマーカーでは、脳脊髄液中の総タウ、リン酸化タウの高値は予測要因の可能性があるとされる。多くの遺伝子多型も研究報告されてきた。最もよく知られた遺伝子多型のAPOEだが、この役割については賛否両論ある。以上をまとめると、RD ADの予測要因として確立したものはなさそうである。RD ADの症状:体力低下、BPSD、IADLの障害もっとも実臨床の場面でRD ADが持つ意味は上記のような医学的な定義とは少し異なる。つまり体力低下、認知症にみられる行動および神経心理学的な症状(BPSD)や道具的ADL(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)の障害などが急速に進んで日常生活の維持が困難になって、急速進行が事例化するケースが多いと思う。たとえば、大腿骨頸部骨折や各種の肺炎後に衰弱が急に進むという訴えがある。IADLでは、排泄の後始末ができない・汚れたおむつで便器を詰まらせる、着衣失行など衣類が着られなくなった、などが多い。またBPSDでは、多くの介護者にとって、幻視や幻聴、そして妄想の出現はショックが大きい。つまり家族介護者は、認知機能の低下というよりは、衰弱やIADLの低下、衰弱や幻覚妄想による言動のように、目に見える変化が急速な悪化と感じやすい。服用中の薬剤が急速悪化の引き金にさて問題は、こうしたケースへの対応である。これには2つのポイントがある。まず診断の見直しという基本の確認である。ここでは必要に応じてセカンドピニオンも考慮すべきである。次にRDの危険因子とされた要因を点検することである。とくに注目すべきは、服用薬剤の副作用だろう。診断の見直しでは、まずビタミンB群、梅毒やHIVを含む血液検査はしておきたい。新たな脳血管障害などが加わった可能性もあるからCTやMRI等の脳画像の再検査も考慮する。また脳脊髄液検査や脳波検査も、感染症やプリオン病などの可能性を踏まえてやっておきたい。高度検査では、遺伝学的な検査、また悪性腫瘍の合併を考慮してWhole body PET-CTが必要になるケースもあるだろう。さらに炎症系の関りも視野に入れて、専門医との相談に基づいて、抗炎症治療による治療的診断として、イムノグロブリン、高用量ステロイドなどの投与もありうる。いずれにせよこれらでは、躊躇なくセカンドオピニオンが求められる。危険視の中でも、服用薬剤が重要である。まず向精神薬がある程以上に長期間にわたって投与されていれば、これらが心身の機能にも生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。なお向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬のほかに、抗てんかん薬、抗パーキンソン薬などが含まれる。とりわけ、他科から処方されている薬剤は案外盲点かもしれない。他科の担当医はご自分の領域の治療薬に精通されていても、それが認知症に及ぼす影響まではあまり注意されていないかもしれない。それだけに「おくすり手帳」などを見せてもらう必要がある。さまざまな薬剤の中でも、とくに抗コリン薬は要注意である。これは過活動性膀胱の治療薬など泌尿器科用薬剤、循環器用薬剤に多い。またヒスタミンH2受容体拮抗薬、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、循環器系治療薬、抗菌薬などにも目配りが求められる。参考1)Soto ME, et al. Rapid cognitive decline in Alzheimer's disease. Consensus paper. J Nutr Health Aging. 2008;12:703-713. 2)Harmann P, Zerr I. Rapidly progressive dementias – aetiologies, diagnosis. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.

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カルシウム摂取が多いほど大腸がんリスク低下

 カルシウム摂取が大腸がんのリスク低下と関連するとの報告があるが、この関連がカルシウム源や腫瘍部位によって異なるかは明らかではない。さらに、人種や民族によるカルシウム摂取量の差が大腸がんリスクに与える影響も不明である。米国・Division of Cancer Epidemiology and Genetics, National Cancer InstituteのSemi Zouiouich氏らはカルシウムの摂取源と腫瘍部位を考慮し、人種や民族を超えたカルシウム摂取と大腸がんリスクとの関連を調査した。本研究の結果はJAMA Network Open誌2025年2月17日号に掲載された。 米国国立衛生研究所の「NIH-AARP食事と健康研究」のデータを分析した。参加者はベースライン(1995年10月~1996年5月)時点での年齢が50~71歳、自己申告による健康状態が良好で、カロリーやカルシウム摂取量が極端に多過ぎず少な過ぎない人であり、最初の原発がん診断、死亡、追跡不能、または終了日(2018年12月31日)まで追跡調査された。データは2022年4月~2024年4月に分析された。カルシウム摂取量は、アンケート回答による摂取源(乳製品および非乳製品)、サプリメントの総摂取量から推定し、主要アウトカムは大腸がんの発生率だった。 主な結果は以下のとおり。・参加者はベースライン時点でがんのない47万1,396例で、平均年齢62.0(SD 5.4)歳、59.5%が男性だった。733万9,055人年の追跡調査(中央値18.4年[IQR:9.2~22.5年])中に1万618例の初発大腸がんが確認された。・総カルシウム摂取量について、最低五分位(Q1)の平均は女性401mg/日(SD 104mg/日)、男性407mg/日(95mg/日)であり、最高五分位(Q5)では女性2,056mg/日(412mg/日)、男性1,773mg/日(444mg/日)だった。・総カルシウム摂取源の平均の内訳は、乳製品42.1%、非乳製品34.2%、サプリメント23.7%だった。・総カルシウム摂取量の増加(Q5 vs.Q1)は大腸がんリスクの低下と関連しており(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.65~0.78、p<0.001)、摂取源および腫瘍部位(近位大腸、遠位大腸、直腸)にかかわらず、一貫した結果が得られた。・カルシウム摂取量が1日当たり300mg増えるごとに、大腸がんリスクは総摂取量で8%、食事由来で10%、サプリメント由来で5%減少した。とくに黒人ではそれぞれ32%、36%、19%減少した。 研究者らは「本コホート研究では、カルシウム摂取量の増加は、腫瘍部位および摂取源にかかわらず、大腸がんリスクの低下と一貫して関連していた。とくに摂取量が少ないグループにおいてカルシウム摂取量を増やすことで、回避可能な大腸がんリスクを低減できる可能性がある」としている。

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鼻茸を伴う難治性慢性副鼻腔炎、テゼペルマブ追加が有効/NEJM

 鼻茸を伴う重症の難治性慢性副鼻腔炎の成人患者において、ヒト抗TSLPモノクローナル抗体テゼペルマブ(本邦適応は気管支喘息のみ)による治療はプラセボと比較して、鼻茸サイズ、鼻閉および副鼻腔症状の重症度、鼻茸切除および全身性グルココルチコイド治療を有意に減少したことが示された。英国・ダンディー大学のBrian J. Lipworth氏らWAYPOINT Study Investigatorsらが第III相の「WAYPOINT試験」の結果を報告した。テゼペルマブ治療は、重症の難治性気管支喘息で鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎既往の患者の副鼻腔症状に対する有効性は示されていたが、鼻茸を伴う重症の難治性慢性副鼻腔炎の成人患者に対する有効性および安全性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年3月1日号掲載の報告。日本を含む10ヵ国112施設で、成人患者を対象に第III相試験を実施 第III相WAYPOINT試験は、多施設共同並行群間二重盲検無作為化比較試験で、2021年4月22日~2023年8月23日に日本を含む10ヵ国112施設で行われた。 研究グループは、医師の診断を受けた症候性の鼻茸を伴う重症の慢性副鼻腔炎の成人(18歳以上)患者を、標準治療(鼻腔内グルココルチコイド療法)に加えてテゼペルマブ(用量210mg)またはプラセボを受ける群に無作為に割り付け、4週ごと52週間にわたり皮下投与した。 主要エンドポイントは2つで、52週時点の総鼻茸スコア(範囲:0~4[各鼻孔について]、高スコアほど重症度が高いことを示す)と平均鼻閉スコア(範囲:0~3、高スコアほど重症度が高いことを示す)のベースラインからの変化とした。 全集団で評価した重要な副次エンドポイントは、嗅覚喪失スコア、Sinonasal Outcome Testの総スコア(SNOT-22、範囲:0~110、高スコアほど重症度が高いことを示す)、Lund-Mackayスコア(範囲:0~24、高スコアほど重症度が高いことを示す)、総症状スコア(範囲:0~24、高スコアほど重症度が高いことを示す)、および鼻茸切除または全身性グルココルチコイド治療(あるいはその複合治療)の最初の決定(time-to-event解析で個別的および複合的に評価)であった。テゼペルマブ治療の有効性、安全性を確認 410例が無作為化を受け、408例(テゼペルマブ群203例、プラセボ群205例)が有効性および安全性のエンドポイント解析に包含された。両群の試験薬中止の理由で最も多かったのは鼻茸切除であった。被験者の人口統計学的およびベースラインの臨床的特徴は両群間でおおむねバランスが取れており、408例の平均年齢は49.7±13.6歳、男性が65.2%、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎と診断されてからの期間は12.75±10.37年などであった。 52週時点で、テゼペルマブ群は総鼻茸スコア(対プラセボとの平均群間差:-2.07、95%信頼区間[CI]:-2.39~-1.74)、平均鼻閉スコア(-1.03、-1.20~-0.86)が有意に改善した(両スコアp<0.001)。 また、テゼペルマブ群は、嗅覚喪失スコア(対プラセボとの平均群間差:-1.00、95%CI:-1.18~-0.83)、SNOT-22総スコア(-27.26、-32.32~-22.21)、Lund-Mackayスコア(-5.72、-6.39~-5.06)、総症状スコア(-6.89、-8.02~-5.76)も有意に改善した(全スコアp<0.001)。 鼻茸切除が適応された患者は、テゼペルマブ群(0.5%)がプラセボ群(22.1%)と比べて有意に少なかった(ハザード比:0.02、95%CI:0.00~0.09)。全身性グルココルチコイド治療もテゼペルマブ群(5.2%)がプラセボ群(18.3%)と比べて有意に少なかった(0.12、0.04~0.27)(両方のtime-to-event解析p<0.001)。

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家族歴を有するCAD中等度リスク者、CACスコア併用の1次予防戦略が有用/JAMA

 家族歴を有する冠動脈疾患(CAD)中等度リスク者に対する1次予防戦略に、冠動脈カルシウム(CAC)スコアを組み合わせる利点を裏付けるデータが、オーストラリア・Baker Heart and Diabetes Research InstituteのNitesh Nerlekar氏らCAUGHT-CAD Investigatorsが行った無作為化試験の結果で示された。標準ケアのみと比較して、アテローム性脂質の減少とプラーク進展の制御が認められたという。CACスコアリングは、とくにCAD中等度リスクの患者において、予後情報を提供することが知られている。しかしながら、CACスコアと1次予防戦略の組み合わせの利点を検証する無作為化試験はこれまで行われていなかった。JAMA誌オンライン版2025年3月5日号掲載の報告。家族歴のある無症状の40~70歳を対象に無作為化試験 研究グループは、CACスコアと予防戦略を組み合わせることで、早発性CADの家族歴を有する中等度リスク患者のプラーク進展を制御可能かどうかについて評価する、前向きエンドポイント非盲検無作為化試験を、2013~20年にオーストラリアの7病院で実施した(最終追跡評価日は2021年6月5日)。 参加者を地域から募り、CADを60歳未満で発症した第1度近親者または50歳未満で発症した第2度近親者がいる、無症状の40~70歳を対象とした。 対象参加者にCACスコアリングを受けてもらい、スコアが0~400未満の場合は冠動脈CT血管造影(CCTA)を行い、CACスコアに基づく予防的介入(スタチンによる脂質低下療法を含む)を受けるCACスコア組み合わせ群または標準ケア群に無作為に割り付けた。 3年時点で行ったフォローアップCCTAと、独立中央検査施設で測定したプラーク量を入手。主要アウトカムは総プラーク量で、さらに石灰化および非石灰化プラーク量について解析した。3年時点でアテローム性脂質が有意に減少、プラーク進展が有意に低下 試験対象は365例(平均年齢58[SD 6]歳、男性57.5%)であった(CACスコア組み合わせ群179例、標準ケア群186例)。 標準ケア群と比較してCACスコア組み合わせ群は、3年時点で総コレステロール(平均[SD]-3[31]mg/dL vs.-56[38]mg/dL、p<0.001)およびLDLコレステロール(-2[31]mg/dL vs.-51[36]mg/dL、p<0.001)の持続的な低減が認められ、プールコホート計算式(心血管疾患の10年予測リスクツール)における変化量と関連していた(平均[SD]2.1[2.9]%vs.0.5[2.9]%、p<0.001)。 標準ケア群はCACスコア組み合わせ群と比べて、総プラーク量(平均[SD]24.9[37.7]mm3 vs.15.4[30.9]mm3、p=0.009)、非石灰化プラーク量(15.7[32.2]mm3 vs.5.6[28.5]mm3、p=0.002)、線維脂肪性および壊死性コアプラーク量(4.5[25.8]mm3 vs.-0.8[12.6]mm3、p=0.02)において、プラーク進展が大きかった。これらのプラーク量の変化は、その他のリスク因子(ベースラインのプラーク量、血圧および脂質のプロファイルなど)とは独立していた。

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asthma(喘息)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第22回

言葉の由来「喘息」は英語で“asthma”ですが、この言葉の起源をたどると、古代ギリシャ語の“aazein”という動詞に由来するそうです。この動詞は、「激しく息をする」という意味合いを持つ言葉です。14世紀後半に英語に導入され、「息苦しい発作や胸の圧迫感を伴う呼吸障害」を表す医学用語として使用され始めました。この当時は、まだ現在のように病名として定義されておらず、呼吸困難がある患者全般に対する呼称として“asthma”あるいは、“asthmatic”という形容詞が使われてきたようです。なお、後者の“asthmatic”は、喘息患者をラベリングする(=患者を病気そのもので定義付けてしまう)使い方をされることが多いので、現在は使用を避けるのが好ましいといわれています。現代の医学では、喘息は慢性炎症性気道疾患の病名として用いられていますが、このような病気としての言葉の定義付けがされたのは、19世紀に入ってからのようです。併せて覚えよう! 周辺単語呼吸困難dyspnea喘鳴wheeze急性増悪acute exacerbation吸入ステロイドinhaled corticosteroids気管支拡張薬bronchodilatorsこの病気、英語で説明できますか?Asthma is a chronic inflammatory disease of the airways characterized by episodes of wheezing, shortness of breath, chest tightness, and coughing. These episodes can be triggered by allergens, physical activity, or respiratory infections.講師紹介

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5~24歳の肥満者数、この30年で3倍に/Lancet

 1990~2021年にかけて世界のあらゆる地域で過体重と肥満が大幅に増加しており、増加を抑制するための現行の対策が小児期・青年期の世代で失敗していることが、オーストラリア・Murdoch Children 's Research InstituteのJessica A. Kerr氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 Adolescent BMI Collaboratorsの解析で明らかとなった。結果を踏まえて著者は、「2021年以降も、小児期・青年期の過体重の有病率は高いままで、将来的に肥満集団はさらに増加すると予測される。世界のすべての地域、すべての人口集団で増加が続き、2022~30年に大きな変化が起こると予測されるため、この公衆衛生上の危機に対処するため早急な行動が必要である」と述べている。Lancet誌2025年3月8日号掲載の報告。1990~2021年の180の国と地域5~24歳のデータを解析 研究グループは、GBD 2021の確立された方法論を用い、1990~2021年の小児期・青年期における過体重と肥満の推移をモデル化し、2050年までの予測を行った。モデルの主要データには、180の国と地域から収集された1,321件の測定データが含まれた。 これらのデータを用い、1990~2021年における204の国と地域での過体重と肥満の年齢標準化有病率を、性別、年齢層別、国・地域別に推定した。年齢層は、学童期(5~14歳、通常学校に通い児童保健サービスを受ける)と学生期(15~24歳、徐々に学校を離れ、成人向けサービスを受ける)に分けた。 1990~2021年の推定有病率は時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、2022~50年の予測有病率は現在の傾向が継続すると仮定した一般化アンサンブルモデリング法を用いてそれぞれ算出し、1990~2050年の各年齢、性別、地域の人口集団について、肥満の割合と過体重の割合の対数比から肥満の過体重に対する優位性を推定した。2050年までに世界的に過体重と肥満の有病率が増加 1990~2021年にかけて、小児期・青年期における過体重と肥満の合計有病率は2倍、肥満のみの有病率は3倍となった。2021年までに、肥満者数は5~14歳で9,310万人(95%不確実性区間[UI]:8,960万~9,660万)、15~24歳で8,060万人(7,820万~8,330万)と推定された。 2021年の過体重および肥満の有病率は、GBD super-regionの中で北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦、クウェートなど)で最も高く、1990~2021年にかけて増加率が最も高かったのは東南アジア・東アジア・オセアニア(台湾、モルディブ、中国など)であった。 2021年までに、両年齢層の女性は、オーストララシア(オーストラリアなど)および北米の高所得地域(カナダなど)の多くの国で肥満優位状態であり、北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦やカタールなど)およびオセアニア(クック諸島やサモアなど)の多くの国でも、男女ともに肥満優位状態に移行していた。 2022~50年にかけて、過体重(肥満ではない)の有病率は世界的に安定すると予測されたが、世界人口に対する肥満人口の絶対割合の増加は1990~2021年の間より大きくなり、2022~30年にかけて大幅に増加し、この増加は2031~50年の間も続くと予測された。 2050年までに、肥満有病率は北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦、クウェートなど)で最も高くなると予測され、肥満の増加は依然として東南アジア・東アジア・オセアニア(東ティモール、北朝鮮など)に加え、南アジア(ネパール、バングラデシュなど)でも増加すると予想された。 15~24歳と比較して5~14歳のほうが、ほとんどの地域(中南米・カリブ海地域および高所得地域を除く)で2050年までに過体重より肥満の有病率が高くなると予測された。 世界的には、2050年までに5~14歳のうち15.6%(95%UI:12.7~17.2、1億8,600万人[1億4,100万~2億2,100万])、15~24歳のうち14.2%(11.4~15.7、1億7,500万人[1億3,600万~2億300万])が肥満になると予測された。 また、2050年までに、5~14歳の男性では、肥満(16.5%[95%UI:13.3~18.3])が過体重(12.9%[12.2~13.6])を上回り、5~24歳の女性および15~24歳の男性では過体重が肥満を上回ると予測された。 地域別では、北アフリカ・中東および熱帯中南米の5~24歳の男女、東アジア、サハラ以南のアフリカ中央部と南部、中南米の中央部の5~14歳の男性、オーストララシアの5~14歳の女性、オーストララシア、北米の高所得地域、サハラ以南のアフリカ南部の15~24歳の女性、北米の高所得地域の15~24歳の男性で、2041~50年までに肥満優位状態に移行すると予測された。

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標準治療+アニフロルマブが全身性エリテマトーデス患者の臓器障害の進行を抑制

 全身性エリテマトーデス(SLE)は、炎症を通じて肺、腎臓、心臓、肝臓、その他の重要な臓器にさまざまな障害を起こす疾患であり、臓器障害が不可逆的となることもある。しかし、新たな研究で、標準治療へのSLE治療薬アニフロルマブ(商品名サフネロー)の追加が、中等症から重症の活動性SLE患者での臓器障害の発症予防や進行抑制に寄与する可能性のあることが示された。サフネローを製造販売するアストラゼネカ社の資金提供を受けてトロント大学(カナダ)医学部のZahi Touma氏らが実施したこの研究は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に2月1日掲載された。 SLEの標準治療は、ステロイド薬、抗マラリア薬、免疫抑制薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを組み合わせて炎症を抑制するのが一般的である。しかし、このような標準治療でSLEによる臓器障害を防ぐことは難しく、場合によっては障害を悪化させる可能性もあると研究グループは指摘する。 アニフロルマブは、炎症亢進に重要な役割を果たす1型インターフェロン(IFN-1)受容体を標的とするモノクローナル抗体であり、2021年に米食品医薬品局(FDA)によりSLE治療薬として承認された。今回の研究では、標準治療にアニフロルマブを追加することで、標準治療単独の場合と比べて中等症から重症の活動性SLE患者での臓器障害発生を抑制できるのかが検討された。対象者は、標準治療(糖質コルチコイド、抗マラリア薬、免疫抑制薬)に加え、アニフロルマブ300mgの4週間ごとの静脈内投与を受けたTULIP試験参加者354人(アニフロルマブ群)と、トロント大学ループスクリニックで標準治療のみを受けた外部コホート561人(対照群)とした。 主要評価項目は、ベースラインから208週目までのSLE蓄積障害指数(Systemic Lupus International Collaborating Clinics/American College of Rheumatology Damage Index;SDI)の変化量、副次評価項目は、最初にSDIが上昇するまでの期間であった。SDIは0〜46点で算出され、スコアが高いほど臓器障害が進行していることを意味する。なお、過去の研究では、SDIの1点の上昇は死亡リスクの34%の上昇と関連付けられているという。 その結果、ベースラインから208週目までのSDIの平均変化量はアニフロルマブ群で対照群に比べて0.416点有意に低いことが明らかになった(P<0.001)。また、208週目までにSDIが上昇するリスクは、アニフロルマブ群で対照群よりも59.9%低いことも示された(ハザード比0.401、P=0.005)。 こうした結果を受けてTouma氏は、「アニフロルマブと標準治療の併用は、4年間にわたって標準治療のみを行う場合と比較して、臓器障害の蓄積を抑制し、臓器障害の進行までの時間を延ばすのに効果的である」と結論付けている。

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第2回 鳥インフルエンザ:米国で高まる懸念、政府の対応は?

米政府が鳥インフルエンザ(H5型)に対応するワクチン開発のため、製薬企業大手のモデルナに5億9,000万ドルを支援する計画を見直し、停止する方向で調整を進めていることがBloombergなどの報道により明らかになりました1)。この影響でモデルナの株価は一時的に6.6%下落したと報道されています。米国で警戒が強まる鳥インフルエンザの現状米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、2025年2月末時点で米国内の家禽(飼育された鳥)感染は51の地域に及び、過去1年間で約1億6千万羽以上の鳥が影響を受け、過去最大規模となっています2)。野鳥や家禽に加えて、乳牛にも感染が広がっており、2025年3月3日時点で米国17州の乳牛978頭に影響が確認されました。また、CDCによれば、家禽や乳牛といった動物と密接に接触する農業従事者や畜産業従事者の間でヒト感染例が報告されています。過去約1年間で動物への曝露後に検査を受けた約840人中64例の感染が確認され、一般的なインフルエンザ監視体制でも6件のヒト感染が報告されています。ヒトからヒトへの感染は現在のところ確認されておらず、ヒトへの感染リスクは低いと評価されていますが、すでに哺乳類には感染が拡大しており、感染の広がり次第では状況が急速に変化する可能性があります。求められる国際協力と将来への懸念こうした状況を背景に、鳥インフルエンザの新たなパンデミックのリスクが高まっているとして、以前のバイデン政権下ではワクチン供給体制の強化が進められてきました。その一環として行われたのがモデルナへの支援でした。政権交代によりワクチン供給支援が縮小される懸念があるとして、政権交代間近にモデルナの臨床試験に対する支援が発表されていたのです3)。しかし今回、その支援を停止するという報道が出されました。専門家からは、鳥インフルエンザのヒト感染が増加するリスクが高まっているとして、依然としてワクチン製造体制や監視体制の強化を求める声があがっている中、それとは逆行するようなニュースです。もちろんバイデン政権下の政策見直しということ自体は、総じて妥当なプロセスであるとも考えられます。ただし、COVID-19のパンデミックで米国のワクチン開発が世界をリードする形で大きく貢献してきたように、鳥インフルエンザ対策でも米国の果たすべき役割は少なくないと思われます。そんな中、米政府の今回の支援停止の判断は、それとは逆行するような動きです。実際、モデルナは別の資金源を見つけられなければ、臨床試験は暗礁に乗り上げる可能性も生まれています。このような動きが続けば、パンデミックへの準備には困難が生じる可能性があります。日本も含め、世界的な対策強化の重要性が一層明確となる一方、以前からCOVID-19のmRNAワクチンを強く批判してきた米国保健福祉省の新リーダーのもと、米国がどのような方向を進むのかに今後も注視していくべきでしょう。COVID-19で学んできたことが生かされず、再度の混乱が生まれるような事態は避けなければなりません。参考文献・参考サイト1)Muller M, et al. Trump Team Weighs Pulling Funds for Moderna Bird Flu Vaccine. Bloomberg. 2025 Feb 27.日本語版:モデルナの鳥インフルワクチン開発への支援、米保健当局が停止を検討2)CDC. H5 Bird Flu: Current Situation. 2025 Mar 6.3)Smith G. Moderna Gets $590 Million from US to Study Bird Flu Vaccine. Bloomberg. 2025 Jan 18.日本語版:モデルナに米政府が追加支援-ヒトへの鳥インフル感染防ぐ研究開発

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Nature著者に聞く!ミトコンドリアを介したがんの免疫逃避機構【Oncologyインタビュー】第48回

出演:岡山大学学術研究院医歯薬学域 腫瘍微小環境学分野 教授  冨樫 庸介氏「がん細胞の異常なミトコンドリアがT細胞に伝播し、抗腫瘍免疫応答を低下させる」という驚きの研究結果が、2025年1月にNature誌で報告された。本研究を主導した岡山大学の冨樫 庸介氏が、本研究の背景や結果を解説。研究の裏話や、研究を志す若手医師へのメッセージなどもお話しいただいた。参考Ikeda H, et al. Nature. 2025;638:225-236.岡山大学ほか. がん細胞が自らの異常なミトコンドリアで免疫系を乗っ取り、生き残りをはかっている

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 1

今回のキーワード規律協調性忍耐力同調圧力ダブルバインドモラルハラスメント相互監視スケープゴート海外の人から見ると、日本の電車がいつも時間どおりに来ること、日本人が礼儀正しく穏やかであること、責任感が強く残業してまで仕事を終えようとすることなど、私たちが当たり前と思うことがどうやらすごいことと思われているようです。そして、そのメンタリティを育んだのは日本の小学校ではないかと指摘され始めています。今回は、ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」を取り上げます。2021年のコロナ禍、東京のとある公立小学校を1年間密着取材しています。ジャケットに書かれている“The making of a Japanese”(日本人のつくり方)というサブタイトルからわかるように、「外国から見た日本の小学校とは」という視点で、私たちが当たり前に思っていた学校の日常から、学校の内情、生徒と先生の喜怒哀楽にまで迫ってます。日本人ならではの規律、協調性、忍耐力を育む学校の取り組みを明らかにして、生徒たちの成長をドラマチックに捉えており、日本の教育の良さが伝わり、海外の教育関係者から注目されています。と同時に、日本の教育関係者から見ると、そのあり方は何やら時代遅れになってきているのではないかという危うさも、監督が意図してなのか、さりげなくもひしひしと伝わってきます。それではまず、この映画のいくつかのシーンを通して、日本の学校教育の良さと危うさをそれぞれ整理しましょう。なお、この映画はドキュメンタリーであり、実在する人物が登場しますが、この記事で教師個人を批判する意図はまったくありません。あくまでその教師たちすら巻き込む文化としての日本の学校教育の危うさを指摘しています。また、この映画の短編バージョンは、以下のThe New York Timesの公式チャンネルから視聴できます。Instruments of a Beating Heart【Youtube】日本の学校教育の良さとは?日本の学校教育は、単に勉強だけでなく、生活指導を通して社会性を高めることにも重きを置いていると説明されます。それでは、具体的にどんな良さがあるのでしょうか? 実際に撮影されたシーンを通して、大きく3つ挙げてみましょう。(1)ルールを守る―規律生徒は、校則という細かいルールに従って、学校生活を送っています。たとえば、当然ながら「廊下は歩く」という張り紙があります。授業が始まる時と終わる時は、私たちにとっては当たり前の「起立、気をつけ、礼」の儀式が毎回行われます。1年生の教室で、発言したい時は、腕をピンと真っすぐにして手を挙げ、大きな声で元気に「はい」と言うようにと発言のルールを細かく指導されます。とくにコロナ禍のさなかであったこともあり、生徒たちは、全員マスクをしています。ソーシャルディスタンスを守るため、廊下に並ぶときは、床に張られた足跡のシールの上に足を合わせて並びます。1つ目の良さは、ルールを守る、規律です。このおかげで、私たちは、大人になってもルールに忠実であろうとする規範意識がとても強いです。たとえば、外国の観光客から、町にごみが落ちていなくて清潔だとびっくりされます。並ぶ時は、当たり前のようにきれいな列を作ります。犯罪率は、世界トップレベルで低いです。実際に、財布を落とした場合、外国ではまず見つかりませんが、日本では警察に届けられていることが多いという話はよく聞きます。(2)周りに合わせる―協調性学校では、給食当番が決まっており、自分が当番の時は白衣を着て、当番のメンバーで連携して食事を取り分けます。その際にぶつかってお盆を落とした生徒は、先生から「周りをよく見てね」と指導されていました。掃除もみんなで手分けして行います。ほうきを掃く時は、「ほうきは膝下まで」と指導されていました。このように、クラスメートと協力する場面が多いことから、必然的に仲間意識が強くなります。クラスメート同士で、持ち物がなくなった生徒や、悲しんでいる生徒がいたら、すぐに気遣っていました。2つ目の良さは、周りに合わせる、協調性です。このおかげで、私たちは、集団で周りとうまくやっていこうとする謙虚な気持ちがとても強いです。たとえば、接客は、礼儀正しく丁寧です。「おもてなし」の精神から、お店やホテルなどでは、サービスが行き届いています。電車が時刻どおりに動いているだけで世界的にはすごいことなのに、3分遅れただけでお詫びのアナウンスが流れます。(3)努力する―忍耐力ある生徒は、縄跳びの二重飛びができませんでしたが、根気強く練習を続けて、最後にはできるようになり、運動会の晴れ舞台で披露します。ある1年生の女子は、音楽会でシンバル演奏に選ばれたのですが、練習に来なかったためにうまく演奏できず、先生に怒られます。しかし、周りの支えもあって、やがて自分から練習して演奏会を見事やりきります。3つ目の良さは、努力する、忍耐力です。このおかげで、私たちは個人や集団で何かを達成することへの思い入れがとても強いです。たとえば、PISA(国際学習到達度調査)の成績は毎回トップレベルの成績です。世界的にも、日本人は責任感が強く、自分の仕事は頑張って成し遂げようとします。そして、災害が起きても、忍耐強く冷静でパニックになりません。次のページへ >>

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