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1.

80歳以上の夜間高血圧、心血管リスクが2倍~日本の前向き研究

 夜間血圧は、診療室血圧や昼間の血圧よりも健康アウトカムの予測因子として優れているが、超高齢患者における夜間高血圧の臨床的意義はわかっていない。今回、自治医科大学の藤原 健史氏らが実施した80歳以上を対象とした前向き観察研究の結果、夜間高血圧群は夜間正常血圧群に比べて複合心血管アウトカムのリスクが2.15倍と高いことが示された。Hypertension誌2026年3月号に掲載。 本研究は80歳以上の日本人高齢外来患者を対象とした前向き観察研究で、全患者にベースライン時に24時間自由行動下血圧測定を実施した。夜間高血圧は夜間の収縮期血圧120mmHg以上または拡張期血圧70mmHg以上、昼間高血圧は昼間の収縮期血圧135mmHg以上かつ拡張期血圧85mmHg以上と定義した。これらの血圧フェノタイプと複合心血管アウトカム(冠動脈疾患、脳卒中、うっ血性心不全、大動脈解離および全死因死亡)との関連をCox回帰分析で検討した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値3.9年(1,734人年)の間に、485例中72例(14.8%)に複合心血管アウトカムが発生した。年齢中央値は82歳(四分位範囲:81~85)、男性は44.7%、降圧薬服用者が89.3%であった。・夜間高血圧と昼間高血圧はそれぞれ54.2%と33.6%に認められた。・夜間正常血圧(夜間の収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧70mmHg未満)と比較して、夜間高血圧は複合心血管アウトカムのリスク増加と関連し(調整後ハザード比[HR]:2.15、95%信頼区間[CI]:1.18~3.93)、この関連は昼間の血圧を調整後も持続した。・昼間高血圧ではこのような関連は認められなかった(調整後HR:1.13、95%CI:0.57~2.22)。 本結果から、著者らは「夜間高血圧のスクリーニングにより、超高齢患者における複合心血管アウトカムの高リスク群が特定される」と結論している。

2.

心不全患者に季節性血圧変動はどう影響するか

 心不全の患者には予後の改善のためにも血圧を低く保つことが求められる。では、季節により血圧が変動する場合、どのように心不全に影響を与えるのだろうか。この課題に対して、スペインのサン・セシリオ大学病院循環器部門のJesus Gabriel Sanchez-Ramos氏らの研究グループは、スペイン南部で心不全患者の夏季と冬季の血圧値を比較し、これらの変動の臨床的影響を評価した。その結果、心不全患者では夏季に血圧が著しく低下することが判明した。この結果はJournal of Hypertension誌2026年4月1日号に掲載された。夏季は在宅自己血圧測定値が低下する傾向 研究グループは、心不全患者に異なる測定法を用いて夏季と冬季の血圧値を検査・比較し、これらの変動の臨床的影響を評価することを目的に、スペイン南部の施設で検査を実施した。心不全が軽減または改善し、最適な治療を受けている50例の患者を対象に観察的前向き横断研究で実施した。各患者は夏季(6~8月)と冬季(12~2月)に、3日間の在宅自己血圧測定(HBPM)、24時間携帯型血圧測定(ABPM)、診療所での血圧測定により評価され、1年間の追跡調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は64±12歳、76%が男性、平均心拍出率は43%だった。・HBPMでは冬季と比較し、夏季に収縮期血圧(SBP)-7.6mmHg(p<0.001)、拡張期血圧(DBP)-3.2mmHg(p<0.001)、平均血圧(MBP)-4.6mmHg(p<0.001)の低下を示した。・ABPMでは、収縮期血圧(差分-1.5mmHg、p=0.004)、拡張期血圧(差分-2.2mmHg、p=0.001)、心拍数(差分-3bpm、p<0.001)に日中の軽度低下を認めたが、夜間変化はなかった。・診療所の血圧測定では、有意差のない一致した差異が観察された。・夏季には35%が降圧治療を必要としたのに対し、冬季は16%(p=0.006)であり、めまいの傾向がより強かった。・イベントは14%に発生した(夏季~秋季に腎機能悪化2例と失神1例、冬季~春季に心不全増悪3例と非心血管死1例)。 以上の結果から研究グループは、「心不全患者において、夏季は血圧の著しい低下と関連し、これはHBPMによって最もよく検出された。有害事象を予防するためには治療調整と臨床モニタリングが必要である」と結論付けている。

3.

脂肪性肝疾患の診断基準、心代謝系・女性の飲酒量について決定/日本消化器病学会・日本肝臓学会

 日本消化器病学会と日本肝臓学会は、今年4月発刊予定の「MASLD診療ガイドライン」に先行し、国内で利用する脂肪性肝疾患(SLD)の診断基準を各会員に向けて公表した(2026年2月2日付)。 2023年9月、欧米3学会*が合同で、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)へ、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)へと病名と分類法を変更。これを受け、両学会は2024年8月にNAFLD/NASHに代わる新たな分類法での日本語病名を公表していた。ただしこの時点では、心代謝系危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の基準と女性の飲酒量に関しては、わが国におけるメタボリック症候群ないしアルコール性肝障害の基準とは異なる部分があったため、CMRFの基準と女性の飲酒量に関する診断基準は明らかにされていなかった。*欧州肝臓学会(EASL)、米国肝臓病学会(AASLD)、ラテンアメリカ肝疾患研究協会(ALEH) MASLDなどのSLDに関する診断基準は以下のとおり。<心代謝系基準(cardiometabolic risk criteria)>1.肥満:BMI≧23kg/m2 or 腹囲>94cm(男)、>80cm(女)2.血糖:空腹時≧100mg/dL or 食後2時間≧140mg/dL or HbA1c≧5.7% or 2型糖尿病 or その治療3.血圧:収縮期≧130mmHg or 拡張期≧85mmHg or 降圧薬内服4.中性脂肪≧150mg/dL or 脂質異常症治療薬内服5.HDL≦40mg/dL(男)、≦50mg/dL(女)or 脂質異常症治療薬内服<MetALDの飲酒量(エタノール換算)>男:30~60g/日(210~420g/週)女:20~50g/日(140~350g/週) なお、MASLD診療ガイドラインの改訂点は、2026年4月16~18日に福井県と石川県で開催される第112回日本消化器病学会総会のパネルディスカッション16「MASLD診療ガイドライン」で11の演題が用意され、ガイドライン改訂の経緯、治療フローチャートの概念・定義、診断などが具体的に紹介される予定だ。

4.

脳卒中管理で非専門医が押さえておきたい重要ポイントは?「脳卒中治療ガイドライン」改訂

 一次・二次予防でさまざまな診療科との連携が必要になる脳卒中。2025年8月には『脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]』が発刊され1)、本書より「改訂のポイント」が各章の冒頭に新設、前版からの改訂点やその経緯が把握しやすい仕様に変更された。近年の知見もタイムリーに反映し、140項目中52項目のエビデンスレベルが見直されている。そこで今回、非専門医が本書を手に取る際に理解しておきたい改訂点や取りこぼしてはいけない点を中心に、ガイドライン作成委員長の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)に話を聞いた。急性期は降圧せず、病期で異なる血圧管理 本書は7項目から章立てられ、14個のClinical Questionが掲載されている。このなかでも非専門医が目を通しておきたいのは、第I章「脳卒中一般」(p.2~56)である。 同章の脳卒中発症予防には、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった危険因子ごとのアプローチ方法が示され、とくに高血圧管理については、第I章の全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター(p.31)に示されている。本書と同時期に発刊された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会編)では、全年齢で「原則的に収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする」と発表されており2)、亜急性期・慢性期の脳卒中の管理目標がこれに該当する。ただし、“超急性期や急性期では転帰不良が増加することから、急性脳梗塞では状況に応じた降圧治療が必要になり、原則的に降圧しない”や“脳出血では専門医への紹介前から降圧療法を考慮してもよい”と記され(高血圧治療・管理ガイドラインの第9章、p.109)、その根拠の詳細が本書の上述の項や脳出血の血圧管理(p.134)にて解説されている。 また、血圧管理における薬物療法については、2022年10月にLancet誌に報告された論文3)などを踏まえ、各個人が服用しやすい時間、アドヒアランス向上、副作用などを考慮した推奨となった。 一方で、超急性期では血栓溶解療法、機械的血栓回収療法のどちらを実施予定かで管理目標がやや異なり、今回の改訂では後者を行う場合の血圧の管理について新たな推奨文が追加、血栓回収時での過度な降圧回避を考慮した設定となった。この理由について黒田氏は「脳梗塞発症時脳血流が低下しているため、この状況で血栓を回収すると、健常状態よりも血流が多くなり、健常よりも回収時に血圧が大きく増加する。また、血栓回収終了後の厳格な降圧も予後不良に相関することが2つのRCTから示されている」と説明した。―――――――――――――――――――<I. 脳卒中一般 脳卒中急性期 2-1 全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター>「機械的血栓回収療法を施行する場合、血栓回収前の降圧は必ずしも必要ないが、血栓回収後には収縮期血圧180mmHg以下に速やかな降圧を行うことは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)。一方、血栓回収中および回収後には収縮期血圧140mmHg以下の過度な血圧低下は、避けるよう勧められる(推奨度E、エビデンスレベル中)」―――――――――――――――――――アルツハイマー病新薬の処方歴に注意! rt-PAの使用判断に注意 第II章「脳梗塞・TIA」では、機械的血栓回収療法が可能なタイミング、抗血小板薬シロスタゾールの脳領域での評価が反映されているが、診療科横断的な注意事項として、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬の投与を受けている患者への脳梗塞超急性期治療についてはぜひ押さえておきたい。同氏は「静注血栓溶解(rt-PA)療法は、急性脳内出血を発症し、死亡例が報告されている。これを踏まえ、rt-PA検討時に慎重に適応を判断するためにMRI検査が必要とされ4)、また、アルツハイマー病の既往や治療歴を確認するためには問診が重要となる。さらに抗アミロイド抗体治療中の18ヵ月間は脳梗塞の発症にも注意してほしい」と強調した。 そして、睡眠中に脳梗塞を発症する発症時刻不明(Wake-up Stroke)患者の場合、これまでは正確な発症時刻がわからず、就寝時刻=最終健常時刻と判断されてきた。たとえば、22時に就寝、6時に起床して症状に気付いた患者では、脳梗塞の発症から8時間経過したと考えざるを得なかった。しかし近年では、頭部MRI画像検査で拡散強調画像(DWI)と水抑制画像(FLAIR)を撮影し、「FLAIR画像から明け方の発症も把握できるため、そのような症例にも血栓回収療法の実施が推奨されるようになった。さらに、重症度の高い患者(大脳半球の6~7割を占める大きな脳梗塞を起こした例)などでも、いくつかの条件を満たせば血栓回収療法により予後良好となるエビデンスが出てきている」と述べ、血栓回収療法の対象患者拡大について言及した。 脳梗塞再発予防については、慢性動脈閉塞症に基づく症状改善に使われていたシロスタゾールにおいて、ラクナ梗塞のような微小出血を有する患者への脳梗塞再発予防効果が示され、推奨文が一部改訂されている。―――――――――――――――――――<II. 脳梗塞・TIA 脳梗塞急性期 1-2 頸動脈的血行再建療法> 最終健常確認時刻から6時間を超えた内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞による脳梗塞では、神経徴候と画像診断にもとづいて救済可能領域が十分にあると判断された患者に対して、最終健常確認時刻から24時間以内に機械的血栓回収療法を開始することが勧められる(推奨度A、エビデンスレベル高)<II. 脳梗塞・TIA 脳梗塞急性期 1-3 抗血小板療法>シロスタゾール200mg/日の単独投与や、低用量アスピリンとの2剤併用投与は、発症早期(48時間以内)の非心原性脳梗塞患者の治療法として考慮してもよい(推奨度C、エビデンスレベル中)―――――――――――――――――――専門医のなかで注目されているポイント、そして新たな脳卒中リハビリとは 第IV章のくも膜下出血の領域では、遅発性脳血管攣縮の予防・治療に関して変更点がある。まず、脳血管攣縮予防のための腰椎ドレナージは、近年のシステマティックレビュー結果を基に推奨度が上がった(推奨度B、エビデンスレベル中)。その一方で、治療ではエンドセリン受容体拮抗薬クラゾセンタンによる術後管理の普及に伴い、多量補液による肺水腫発症が広く認識されていること、triple H療法*によりうっ血性心不全や出血性合併症リスクが増加するといった報告を考慮して、「科学的根拠がないtriple H療法は行うべきではない」(推奨度E、エビデンスレベル低)としている。*循環血液量増加療法(Hypervolemia)、血液希釈療法(Hemodilution)、高血圧療法(Hypertension)の3つを組み合わせて脳血流を維持・改善する方法 このほかにも、リハビリテーション診療の領域では、上肢機能障害のリハビリ効果を高めるためにAI技術の導入が進んでおり、脳卒中後の機能回復にブレイン・マシン・インターフェイス(BCI)を応用した訓練の推奨度がCからBへ上がった。BCIとは、脳と機械を直接つなぎ、脳内情報を読み取ることで脳機能を補填・増進させる技術の総称で、「たとえば、手にロボットを装着した患者が“手を動かしたい”と考える。すると脳波の変化をAIが読み取り、ロボットが指を曲げたり伸ばしたりする」と解説。「片麻痺の患者は“手を動かしたい”というイメージができなくなっているため、それを思い出させるためのBCIの活用はリハビリ効果を高める」と推奨度が上がった理由を述べた。ガイドライン改訂の経緯 本書は6年に1回ごとに改訂、2年ごとに追補版が出版される。2019年からガイドライン作成委員長を務める同氏は本書改訂を振り返り、「これまで2021年、2023年とマイナーアップデートにも携わってきたが、新たな知見が報告されるたびに脳卒中の治療可否において実臨床とガイドラインで乖離が生じはじめ、先生方の誤解を招く可能性があった。また、これまでは追補には新たな知見だけを掲載していたが、矛盾点などが存在する項目はあわせて改訂することになり、今回は"改訂版”と表現を変えた」と説明した。 なお、日本脳ドック学会が脳卒中や認知症予防などに役立つ最新知見をまとめた『脳ドックのガイドライン2026』が2月26日に発刊されたので、あわせて一読されたい。

5.

治療抵抗性高血圧症の新たな治療法「腎デナベーション」、適正使用指針も公表

 治療抵抗性高血圧症の新たな治療法として、日本メドトロニックの「Symplicity Spyral腎デナベーションシステム」*1ならびに大塚メディカルデバイスの「ParadiseTM 超音波式腎デナベーションシステム」*2が、2026年3月1日に保険適用を取得し、順次発売された。*1:2025年9月1日に製造販売承認を取得、2026年3月1日発売*2:2025年8月25日に製造販売承認を取得、2026年3月2日発売 いずれのシステムも対象患者は、高血圧管理・治療ガイドラインに従った治療(生活習慣の修正、非薬物療法及び薬物療法)で適切に血圧がコントロールできない治療抵抗性高血圧症で、2025年8月に発刊された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』においても、腎デナベーションは治療抵抗性高血圧に対する補助療法として新たな治療選択肢となり得ることが明記されていた(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B、合意率:100%)。 本システムの発売に先駆け、2026年2月4日に日本循環器学会などがホームページにて『腎デナベーションシステムの適正使用指針』を公開しており、以下に本指針で示された適応、患者条件を抜粋して示す。―――――――――――――――――――1. 適応(承認適応) 本品は、高血圧管理・治療ガイドラインに従った治療(生活習慣の修正、非薬物療法及び薬物療法)で適切に血圧がコントロールできない治療抵抗性高血圧症患者の追加的治療として血圧を低下させるために使用する。※治療抵抗性高血圧の定義は最新の高血圧管理・治療ガイドラインに基づく2. 患者条件(以下の条件を全て満たす患者) 腎デナベーション治療は最新の高血圧管理・治療ガイドラインに準じて、生活習慣の改善と降圧薬の服薬指導など適切な治療を受けているにもかかわらず、血圧コントロールが不良である高血圧症患者の血圧管理を目的としているものであり、適応は高血圧症患者の病態を高血圧腎デナベーション治療(HRT:Hypertension Renal denervation Treatment)チームが多職種連携して検討の上、決定する。 本治療に適正な患者選択を行うため、別紙1に示す腎デナベーション治療適正使用チェックリストを用いてスクリーニングを行うこと。(1)血圧コントロール不良を判定する前に確認すべき事項生活習慣修正状況、服薬アドヒアランス関連状況、降圧薬の適切な処方、正しい血圧測定と降圧目標の理解、二次性高血圧の除外(2)コントロール不良の血圧基準(選択基準) (i)診察室血圧が140/90mmHg以上、かつABPMで24時間血圧が130/80mmHg以上、若しくは昼間血圧が135/85mmHg以上、又は夜間血圧が120/70mmHg以上 又は  (ii)診察室血圧が140/90mmHg以上、かつ早朝若しくは就寝前家庭血圧が135/85mmHg以上、又は夜間家庭血圧が120/70mmHg以上 (3) 治療抵抗性高血圧(選択基準) 利尿薬を含む異なったクラスの3剤以上の降圧薬治療でコントロール不良の高血圧 ただし利尿薬以外の降圧薬は原則、最大忍容量を用いる。(4)腎デナベーションが不適格な患者(除外基準)・腎動脈瘤、腎動脈狭窄や治療に不適格な腎動脈の解剖学的構造を有する患者(造影CT評価を基本とする)・eGFR<40mL/min/1.73m2・添付文書の禁忌、禁止事項に該当する患者――――――――――――――――――― このほか、施設条件、施行医師条件などは適正使用指針を参照されたい。

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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高血圧アプリの有効性決定因子が明らかに/Hypertension

 苅尾 七臣氏(自治医科大学内科学講座循環器内科学 教授/自治医科大学附属病院循環器センター センター長)らが高血圧治療補助アプリを用いた研究「B-INDEX研究」を実施し、ベースライン血圧値とは無関係に、高齢・減塩・初期の体重減少が治療アプリ(デジタルセラピューティクス:DTx)による効果的な血圧低下の予測因子であることを明らかにし、「DTxによる高血圧治療では、最初の4週間が重要」と示唆した。Hypertension誌2026年1月号掲載の報告。 本研究は、高血圧患者を対象とした12ヵ月間の多施設共同介入研究で、DTx介入による家庭血圧低下効果の決定要因を調査。6ヵ月間のDTx介入期間、その後6ヵ月間のDTx介入終了期間を設定し、家庭血圧、体重と体組成、身体活動、睡眠パターンについて、各種デジタル機器を用いて毎日測定した。今回、6ヵ月間のDTx介入期間のデータ解析結果に、DTx介入終了後6ヵ月の追跡データを加えた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は高血圧患者198例で、平均年齢54.9±10.6歳、男性57.1%、平均BMI 26.7±5.3 kg/m2、降圧薬服用者57.6%であった。・対象者が服用していた降圧薬の種類は、カルシウム拮抗薬43.4%、ARB 35.9%、利尿薬7.6%と続いた。・ベースライン時点の血圧は、診察室血圧141.7±12.5mmHg、家庭血圧(朝)137.1±12.5mmHg、家庭血圧(夕)129±15.8mmHgであった。・最初の4週間で血圧の顕著な低下が認められた(朝の家庭血圧SBP/DBP:-6.2/-2.6mmHg)。・混合モデルを解析した結果、ベースラインの家庭血圧、高齢、自己効力感スコア、自己申告による食塩摂取量の減少、および軽度の初期体重減少(4週目で-0.5kg)が、6ヵ月後の家庭血圧低下の有意な決定因子であることが示された。 なお、本研究は、自治医科大学がAMED(日本医療研究開発機構)の令和4年度「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)」に係る公募に応募して採択されたものである。

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降圧薬なしで降圧目標を達成する患者、γ-GTPが関連

 高血圧患者で、降圧薬に頼らず生活習慣改善のみで降圧目標を達成できるのはどのような患者なのだろうか。今回、大阪大学の小原 僚一氏らが神奈川県平塚市の特定健診(SHC)データを用いて解析した結果、降圧薬非使用群における降圧目標達成の主要な因子として、前年度の特定健診における高血圧既往歴がないことや血圧グレードが低いことに加え、γ-GTPの減少が重要であることが明らかになった。本研究の結果は、生活習慣指導が有効なレスポンダーを特定する一助となる可能性がある。Journal of Cardiology誌オンライン版2026年1月16日号に掲載。 本研究は、2016年5月~2023年3月に平塚市の特定健診を受診した40~74歳の未治療高血圧患者(140/90mmHg以上)5,428例を対象とした解析である。このうち、次回の健診までに降圧薬の服用を開始した症例は2,468例であった。降圧薬使用の有無で層別化し、次回の健診時に降圧目標(140/90mmHg未満)を達成した症例に関連する要因をディシジョンツリー分析を用いて抽出・評価した。 主な結果は以下のとおり。・降圧薬非使用群において、55.9%が降圧目標を達成した。・ディシジョンツリー分析の結果、非使用群における主要な達成予測因子は「前年度の特定健診での高血圧既往がないこと」および「血圧グレードが低い(グレード1高血圧)こと」であった。γ-GTP減少が次に影響力のある因子であった。・降圧薬開始群においては、若年ほど目標達成率が高かった。 著者らは、「新たにグレード1高血圧を発症した集団において、γ-GTPの大幅な減少は降圧薬を使用せずに血圧を140/90mmHg未満に抑えることと関連していた。これは、代謝マーカーの改善に反映される効果的な生活習慣の修正が、この集団の血圧コントロールにきわめて重要な役割を果たすことを示唆している」と結論している。

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エナジードリンクの過剰摂取は脳卒中リスクを高める?

 エナジードリンクは活力や元気をもたらすかもしれないが、飲み過ぎは深刻な脳卒中リスクを招く可能性があるとして、医師らが警鐘を鳴らしている。「BMJ Case Reports」に12月9日掲載された英ノッティンガム大学病院のMartha Coyle氏とSunil Munshi氏による症例報告によると、毎日8缶のエナジードリンクを飲む習慣があった健康で体力もある50代の男性が、その危険性を、身をもって知ることになった。報告によると、この男性は極めて高い血圧が原因で軽度の脳卒中を起こし、永久的なダメージを受けた。男性の血圧はエナジードリンクを飲む習慣をやめた後、正常に戻ったという。 英国のノッティンガム大学病院NHSトラストで治療を受けたこの男性は、「エナジードリンクを飲むことで、自分にどんな危険が及んでいるのか全く認識できていなかった」と当時を振り返っている。また、「8年たった今でも、左側の手と指、足とつま先にしびれが残っている」と言う。 症例報告によると、この男性は突然の左半身の脱力、しびれ、バランス感覚の低下、歩行障害、嚥下障害、言語障害で病院に搬送された。入院時の血圧は、収縮期血圧(SBP)が254mmHg、拡張期血圧(DBP)が150mmHgで、健康な人の血圧(SBP 120mmHg、DBP 80mmHg以下)を大きく上回っていた。脳画像検査からは、感覚や運動機能に関わる脳の部位である視床で脳卒中が起きていたことが明らかになったという。 搬送後、男性には降圧薬の投与が開始され、収縮期血圧は170mmHgまで低下した。しかし、自宅に戻ると再び血圧が上昇し、医師が薬を増量しても下がらなかった。そこで、いくつかの質問をしたところ、彼は平均で1日8缶のエナジードリンクを飲んでいることを打ち明けた。 医師らによると、男性が飲んでいたエナジードリンクには1缶当たり160mgのカフェインが含まれており、1日のカフェイン摂取量は合計1,200~1,300mgになる。なお、推奨されているカフェインの1日当たりの最大摂取量は400mg以下とされている。男性は、医師からエナジードリンクの摂取をやめるよう強く勧められ、それに従ったところ、血圧は正常に戻り、処方薬も不要になった。 医師らは症例報告の中で、エナジードリンクに潜む危険性を理解している人は少ないことを指摘している。Coyle氏らは、「2018年には英国の大手スーパーマーケットが、肥満や糖尿病、虫歯の対策として16歳未満へのエナジードリンク販売を自主的に禁止した。しかし、虚血性脳卒中や出血性脳卒中を含む心血管疾患のリスクが上昇する可能性については、あまり検討されていない」と述べている。 今回の報告によると、エナジードリンクには高濃度のカフェインが含まれているが、他の成分にも“隠れカフェイン”が含まれている。例えば、ガラナにはコーヒー豆の2倍の濃度のカフェインが含まれているという。また、カフェインと、タウリンやガラナ、高麗人参、グルクロノラクトン、砂糖など他の成分との相互作用が血圧に強い影響を及ぼし、脳卒中リスクを高める可能性があると医師らは指摘している。こうしたことを踏まえて医師らは、「原因不明の高血圧がある患者には、エナジードリンクの摂取について確認すべきだ。生活指導にはエナジードリンクという心血管リスク因子についての話も含める必要がある」と注意を促している。 研究グループは、今回の報告が単一症例のみに基づいたものであることを認めつつも、彼らが抱く懸念には医学的に妥当性があると説明し、「現時点のエビデンスは決定的なものではない。しかし、蓄積されつつある研究文献、脳卒中や心血管疾患に関連する高い疾病負担と死亡率、すでに十分に立証されている糖分の多い飲料による健康被害を考慮すると、エナジードリンクの販売規制強化や広告キャンペーン(その多くが若年層をターゲットとしている)の見直しは、将来の脳血管および心血管の健康に有益である可能性がある」と結論付けている。

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“血小板の大きさ”が知らせる腎臓の危険信号、糖尿病患者の追跡調査で判明

 病院で行う通常の血液検査では、白血球数や赤血球数、血小板数などとともに「平均血小板容積(MPV)」という指標も測定されることが多い。今回、日本の2型糖尿病患者を対象とした追跡研究で、このMPVが腎機能悪化のリスク把握に役立つ可能性が示された。MPVが高い人ほど腎臓の状態が悪化しやすい傾向が確認されたもので、身近な指標から早期のリスク評価につながる可能性が注目される。研究は、福島県立医科大学腎臓高血圧内科の渡辺秀平氏、田中健一氏、風間順一郎氏らによるもので、詳細は11月27日付で「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。 糖尿病は世界的に多くみられる疾患で、糖尿病性腎症をはじめとする合併症により予後が悪化する。2023年には、新規慢性透析導入患者の38.3%が糖尿病性腎症によるもので、糖尿病患者の腎機能悪化が透析につながる深刻な問題であることが示された。MPVは血小板の大きさを示す指標で、心血管疾患や糖尿病性微小血管合併症との関連が報告されているが、腎機能悪化との関係は十分に検討されていない。こうした背景を踏まえ、本研究では、福島コホート研究のデータを用い、MPVと腎イベント(腎機能低下や透析導入)の関連を後ろ向きに解析し、リスク予測への活用可能性を評価した。 本研究では、福島県立医科大学病院で実施された福島コホート研究より、2012年6月~2014年7月に登録された2型糖尿病患者1,076人を対象とした。患者はベースライン時のMPV値に基づき、Q1~Q4の四分位群に分類した。主要評価項目は腎イベントとし、推定糸球体濾過量(eGFR)がベースラインから50%以上低下するか、腎代替療法が必要となる末期腎不全への進行と定義した。副次評価項目は新規心血管イベントの発症とした。 連続変数の群間比較にはKruskal-Wallis検定を、割合の差はカイ二乗検定で評価した。MPV四分位ごとのイベント無再発生存率はKaplan-Meier法とlog-rank検定で比較した。MPVと腎イベントまたは心血管イベントとの関連は、潜在的交絡因子を調整したCox比例ハザード回帰モデルを用いて検討した。 コホートの平均年齢は66.0歳で男性は56.7%含まれた。中央値5.3年の追跡期間中、参加者1,076人のうち97人が腎イベントを発症した。Kaplan-Meier曲線では、MPVの四分位群間で無イベント生存率に有意な差が認められた(P=0.018)。 腎イベントの発生率は四分位群間でQ2が最も低かったため、Q2群を基準群とした。Q2群を基準とした場合、Q4群の参加者は単変量Coxモデルで有意に腎イベントリスクが高く、年齢・性別、既往歴、検査値、降圧薬使用などの交絡因子を調整した多変量解析でも有意性は維持された(調整HR 2.05、95%CI 1.13~3.72)。また、MPVを連続変数として解析すると、1 fL増加ごとに腎イベントリスクは32%上昇した(95%CI 1.04~1.68)。 心血管イベントは追跡期間中に124人で発症した。腎イベントと同様、心血管イベントの発生率もQ2群で最も低かった。Q2群を基準とした多変量解析では、MPVの上昇が心血管イベントリスクの上昇と有意に関連していた(調整HR 1.66、95%CI 1.01~2.72)。MPVが1 fL増加するごとに心血管イベントリスクは27%上昇した(95%CI 1.04~1.55)。 著者らは、「日本人の2型糖尿病患者において、MPVの上昇は腎イベントおよび心血管イベントの両方と独立して関連していた。MPVは、このリスクの高い集団における腎疾患進行を予測するための、簡便で有用なバイオマーカーとして役立つ可能性がある」と述べている。 なお、MPVと腎イベント発症リスクについて「J字型」の相関が示されたことについては、低MPVが造血能低下や骨髄機能障害を示している可能性を指摘し、「MPVが高い場合と低い場合では、それぞれ異なるメカニズムを介して腎疾患の進行に寄与する可能性があるのでは」と述べている。

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規則正しい就寝習慣が血圧に驚くべき効果

 毎晩、同じ時刻に就寝することで血圧を改善できる可能性のあることが、新たな研究で示された。就寝時間が不規則な人が、毎晩同じ時間に就寝することを2週間続けただけで、運動量の増加や塩分摂取量の削減と同等の降圧効果を得ることができたという。米オレゴン健康科学大学(OHSU)産業保健学准教授のSaurabh Thosar氏らによるこの研究結果は、「Sleep Advances」に11月17日掲載された。研究グループは、「これは、多くの高血圧患者の血圧をコントロールするための、単純だがリスクの低い補助的な戦略になるかもしれない」と述べている。 この研究では、高血圧を有する11人の成人(男性4人、平均年齢53歳)を対象に、まずベースラインとして、1週間にわたり活動量計で就寝時間や睡眠パターンを記録するとともに、24時間の自由行動下血圧を測定した。次に、試験参加者には2週間にわたり同じ時刻に就寝してもらい、その後、再度、24時間自由行動下血圧を測定した。その上で、就寝時間や入眠時間のばらつき(標準偏差)を計算し、血圧の「最小可検変化量(MDC95)」を使って個人レベルで血圧がどのくらい変化したかを確認した。 その結果、就寝時間のばらつきは介入前の32.4(±17)分から介入後には7(±10)分へ(P=0.001)、入眠時間のばらつきも30(±17)分から7(±8)分へ(P=0.011)有意に減少した。また、24時間自由行動下血圧も、収縮期血圧で−4(±4)mmHg、拡張期血圧で−3(±3)mmHgの低下が見られた。特に夜間の血圧は低下の幅が大きく、収縮期血圧は−5(±7)mmHg、拡張期血圧は−4(±5)mmHg低下した(全てP<0.05)。さらに、参加者の半数以上が24時間自由行動下血圧でMDC95以上の低下を示した。 研究グループは、収縮期血圧が5mmHg低下するだけで心血管疾患のリスクが10%低下することは、すでに専門家の間で周知の事実だと指摘している。一方、毎日の就寝時間が不規則であることは心臓の健康状態の悪化につながり得ることも、以前から知られているという。実際、ある先行研究では、不規則な就寝時間は高血圧のリスクを30%高める可能性があることが示されている。研究グループによると、不規則な就寝時間が血圧に影響を及ぼすのは、体内リズム(概日リズム)の乱れによるものと考えられる。通常、睡眠中は血圧が自然に少し低下するが、体内時計の乱れがその反応を弱める可能性があるという。 ただし、今回の研究はわずか11人を対象としたものであったことから、研究グループは、「この研究結果がより大規模な前向き試験で再現されれば、人々に規則正しい就寝時間を守ってもらう取り組みは、心臓血管疾患のリスクを減らすための低コストで拡張性の高い介入になる可能性がある」と述べている。

13.

血圧変動が大きいと認知症リスクが高い?

 日本の国民健康保険データベースを用いた大規模な後ろ向きコホート研究において、血圧変動が大きいことは、降圧薬治療の有無にかかわらず認知症発症リスクの上昇と関連していたことが示された。この関連は、降圧薬の種類や処方数、服薬アドヒアランスを考慮しても認められた。佐藤 倫広氏(東北医科薬科大学)らが、本研究結果をHypertension Research誌オンライン版2025年11月10日号で報告した。 研究グループは、DeSCヘルスケアが提供する日本の国民健康保険データベースを用いて、5回の特定健診データ(血圧値含む)が得られ、死亡情報(資格喪失情報より特定)が取得可能であった50歳超の30万1,448例を解析対象とした。5回の特定健診における収縮期血圧の変動係数(SBP-CV)を用いて健診ごとの血圧変動を評価し、認知症発症リスク(抗認知症薬の新規処方を代替指標として定義)との関連を検討した。解析には死亡を競合リスクとしたFine-Grayモデルを用いて、ベースライン前365日以内の降圧薬処方の有無により未治療群と治療群に分けて評価した。治療群においては、降圧薬の種類や処方数、Medication Possession Rate(MPR)で評価した服薬アドヒアランスも調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象のうち男性の割合は38.6%、平均年齢は66.6歳であった。・追跡期間(平均:未治療群2.20年、治療群2.11年)中に、664例(未治療群366例、治療群298例)が認知症を発症した。競合リスクとしての死亡は未治療群1,254例、治療群1,115例に認められた。・SBP-CVの最高分位(第6分位)群は、治療の有無にかかわらず認知症リスクが最も高かった。一方で、第1~5分位では一定の傾向はみられなかった。・未治療群では、SBP-CV第6分位群(SBP-CV≧9.83%)は第1~5分位群と比較して、有意に認知症発症リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.50、95%信頼区間[CI]:1.17~1.92)。・治療群では、降圧薬の種類や服薬アドヒアランスの調整後においても、SBP-CV第6分位群(SBP-CV≧10.67%)は第1~5分位群と比較して、有意に認知症発症リスクが高かった(HR:1.43、95%CI:1.09~1.89)。・層別解析の結果、治療群においてHbA1c値との有意な交互作用が認められ(交互作用のp=0.024)、HbA1cが6.5%以上の集団ではSBP-CV増大による認知症発症リスクの上昇が顕著であった(SBP-CV第6分位群の第1~5分位群に対するHR:2.84、95%CI:1.57~5.14)。・降圧薬の種類や処方数、服薬アドヒアランス不良(MPR 80%未満)による有意な交互作用は認められなかった。 著者らは「特定健診ごとの血圧変動が大きいこと(SBP-CV≧10%程度)は、降圧薬治療の有無にかかわらず認知症発症リスクの上昇と関連していた。降圧薬治療中の患者において、降圧薬の種類や処方数、アドヒアランスを考慮してもこの関連は維持され、とくに血糖コントロール不良例で顕著であった。認知症発症リスクを評価する上で、血圧変動のモニタリングが有用である可能性がある」とまとめている。

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降圧薬数漸減で、フレイル高齢者の死亡率は改善するか/NEJM

 介護施設に入居し、複数の降圧薬による治療を受けているフレイルの高齢者では、通常治療と比較して降圧薬数を漸減する治療法は、全死因死亡率を改善せず、転倒や骨折の頻度は同程度であることが、フランス・Universite de LorraineのAthanase Benetos氏らが実施した「RETREAT-FRAIL試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で発表された。降圧治療中の80歳以上の無作為化対照比較試験 研究グループは、フレイル高齢者における降圧薬中止の便益とリスクの評価を目的に、フランスの108の介護施設で非盲検無作為化対照比較試験を行った(フランス保健省などの助成を受けた)。2019年4月~2022年7月に参加者を登録し、2024年7月に追跡を終了した。 年齢80歳以上、介護施設に入居し、降圧治療として2種類以上の降圧薬の投与を受け、収縮期血圧が130mmHg未満の患者を対象とした。被験者を、プロトコールに基づき降圧薬の投与を段階的に中止する治療法を受ける群(漸減群)または通常治療を受ける群(通常治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付け、最長で4年間追跡した。 漸減群では、無作為化の直後にプロトコールに基づき降圧薬の投与中止を開始し、その後は3ヵ月後および6ヵ月後、引き続き6ヵ月ごとの受診時に、急性期の内科的疾患がなく収縮期血圧が130mmHg未満であれば順次降圧薬の投与を中止することとした。 主要エンドポイントは全死因死亡とし、副次エンドポイントはベースラインから最終受診時までの降圧薬数の変化量、追跡期間中の収縮期血圧の変化量などであった。全死因死亡率、漸減群61.7%vs.通常治療群60.2%で有意差なし 1,048例(平均[±SD]年齢90.1[±5.0]歳、女性80.7%)を登録し、528例を漸減群に、520例を通常治療群に割り付けた。追跡期間中央値は38.4ヵ月(四分位範囲:30.0~48.0)と推定された。ベースラインの平均(±SD)収縮期血圧は、漸減群113±11mmHg、通常治療群で114±11mmHgであり、平均拡張期血圧は両群とも65±10mmHgであった。 平均(±SD)降圧薬数は、漸減群ではベースラインの2.6±0.7種類から最終受診時には1.5±1.1種類へ、通常治療群では2.5±0.7種類から2.0±1.1種類へと減少した。 また、追跡期間中における収縮期血圧の変化量の補正後平均値の群間差(漸減群-通常治療群)は4.1mmHg(95%信頼区間[CI]:1.9~5.7)であり、同様に拡張期血圧では1.8mmHg(0.5~3.0)であった。漸減群の7例で、収縮期血圧が160mmHg以上に上昇したため降圧薬を再導入した。 全死因死亡は、漸減群で326例(61.7%)、通常治療群で313例(60.2%)に発生し(補正後ハザード比:1.02、95%CI:0.86~1.21)、両群間に有意差を認めなかった(p=0.78)。MMSE、SPPB、QOLも同程度 副次エンドポイントである心血管系以外の原因による死亡(漸減群53.8%vs.通常治療群53.5%)、急性心不全(12.7%vs.11.0%)、転倒(50.0%vs.50.0%)、骨折(7.8%vs.9.2%)、新型コロナによる死亡(1.1%vs.3.1%)、主要心血管イベント(MACE、19.3%vs.17.3%)の発生率にも、両群間に有意な差はなかった。 ミニメンタルステート検査(MMSE)、Short Physical Performance Battery(SPPB)、日常生活動作(ADL)、生活の質(EQ-5D-3L質問票)、握力のベースラインからの変化量の最小二乗平均曲線下面積は、いずれも両群で同程度であった。また、主要および副次エンドポイントの定義に含まれない重篤な有害事象は、漸減群で132例、通常治療群で128例に発現し、両群間に大きな差はなかった。 著者は、「本試験では、この患者集団において降圧薬漸減戦略は通常治療より全死因死亡率を25%低下させるとの仮説は確認されなかった」「通常ケア群でも降圧薬数の減少が観察されたが、漸減群ほど顕著ではなかった。この知見は、患者が高齢化しフレイルが進むにつれて、医師が日常的に治療の強度を軽減する可能性があることを示唆する」「すべての併用薬の数はベースラインと最終受診時でほぼ同じであることから、通常治療群における降圧薬数の減少は、予期せぬクロスオーバー効果による可能性が高い。2つの群を診察する総合診療医(GP)が、通常治療群の患者ケアにおいて意図せずに漸減戦略を採用した可能性がある」としている。

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朝食後の歯みがきが高血圧リスク低下と関連/鹿児島大

 高血圧は生活習慣に大きく左右される疾患であり、予防には日常行動の改善が重要とされる。今回、地域住民を対象とした横断研究で、朝食後に歯を磨く習慣が高血圧の有病率低下と独立して関連することが示された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心臓血管・高血圧内科学の手塚綾乃氏、窪薗琢郎氏らによるもので、詳細は10月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。 高血圧は心血管疾患(CVD)の最大の危険因子であり、その予防には血圧管理が不可欠である。しかし、日本では依然として十分な管理が行われておらず、生活習慣の改善余地が大きい。近年、歯周病をはじめとする口腔内の健康がCVDと関連することが報告されており、歯周治療により血管機能や動脈硬化マーカーが改善することも示されている。さらに、歯みがき頻度の低さがCVDリスクに関連するとの報告もあるが、歯みがきのタイミングと高血圧との関係は明らかでない。そこで本研究では、地域住民を対象に、歯みがき習慣と高血圧との関連を検討した。 本研究では、鹿児島大学と垂水市による共同研究「垂水研究」の横断データを用い、垂水市在住の40歳以上の住民1,024人を対象とした。歯みがき習慣を調べるため、参加者には起床時、朝食前後、昼食後、夕食前後、就寝前の各タイミングにおける歯みがきの有無と頻度を質問票で回答してもらった。高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または降圧薬使用者と定義した。群間比較にはt検定とカイ二乗検定を用い、歯数の比較にはウィルコクソンの順位和検定を用いた。高血圧を従属変数、歯みがき習慣を独立変数として、単変量および多変量ロジスティック回帰解析(モデル1:年齢・性別で調整、モデル2:BMIや喫煙歴・薬物使用・総エネルギー摂取量などの生活習慣で追加調整)を実施した。 最終的な解析対象には940人(男性361人、平均年齢67歳)が含まれた。このうち、529人(56.3%)が高血圧群、411人(43.7%)が非高血圧群に分類された。 全体の歯みがき実施率は、起床時33%、朝食前8%、朝食後69%、昼食後48%、夕食前4%、夕食後42%、就寝前51%であった。歯を1日3回以上磨く参加者は合計476人(51%)であった。高血圧群は非高血圧群に比べ、朝食後(P<0.001)・昼食後(P<0.001)・就寝前(P=0.022)の歯みがき頻度が低く、また1日3回以上磨く頻度の高い参加者も少なかった(P<0.001)。単変量ロジスティック回帰解析では、朝食後(オッズ比[OR]0.577、95%信頼区間[CI]0.433~0.768、P<0.001)、昼食後(OR 0.571、95%CI 0.441~0.741、P<0.001)、就寝前(OR 0.737、95%CI 0.569~0.955、P=0.021)の歯みがき、さらに1日3回以上の歯みがき頻度(OR 0.554、95%CI 0.427~0.719、P<0.001)が、いずれも高血圧リスクの低下と有意に関連していた。 次に多変量ロジスティック回帰解析を実施した。年齢・性別のみ調整したモデル1では、朝食後の歯みがき(OR 0.604、95%CI 0.444~0.823、P=0.001)および1日3回以上の歯みがき(OR 0.735、95%CI 0.554~0.973、P=0.032)が、高血圧リスクの低下と有意に関連していた。さらに、追加調整したモデル2では、朝食後の歯みがきのみが独立して高血圧リスクの低下と関連していた(OR 0.688、95%CI 0.496~0.954、P=0.025)。 著者らは、本研究が横断研究であることや、任意参加であったため選択バイアスの可能性などの限界に言及しつつ、「歯みがき習慣、特に朝食後の歯みがきは、高血圧リスクの低下と独立して関連しており、日常的な口腔ケアが循環器疾患予防の一助になる可能性がある」と述べている。

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宅配DASH食+カウンセリングで血圧は改善するか/JAMA

 米国・ハーバード大学医学大学院のStephen P. Juraschek氏らは、「高血圧予防のための食事療法(DASH)」の効果を再現する食料品購入戦略を評価した臨床試験「GoFresh試験」において、宅配によるDASH食に準じた食料品の提供と栄養士カウンセリングを組み合わせたプログラムは、同等の給付金の供与と比較して、黒人住民の血圧およびLDLコレステロール(LDL-C)値を改善したが、介入終了後これらの効果は維持されないことを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年11月9日号で発表された。ボストン市の黒人を対象とした無作為化比較試験 GoFresh試験は、米国マサチューセッツ州ボストンで実施された研究者主導型の無作為化並行群間比較試験であり、2022年8月~2025年3月に参加者を募集した(米国心臓協会[AHA]の高血圧予防に関する健康公平性研究ネットワークの助成を受けた)。 年齢18歳以上、アフリカ系米国人または黒人と自認し、収縮期血圧(SBP)が120~<150mmHg、拡張期血圧(DBP)が<100mmHgで、ボストン市の都市部の食料品店が少ない地域に居住し、高血圧治療を受けていない集団を対象とした。 これらの参加者を、費用を重視せずに、オンラインで注文したDASH食に準じた低塩食料品を週1回、12週間宅配で受け取り、栄養士によるカウンセリングを受ける群(DASH群)、または4週ごとに500ドルの給付金を3回受け取り、自分の判断で食料品を購入する群(自己管理群)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、3ヵ月後の時点における平均診察室SBP(少なくとも2回の受診時における3回の測定に基づく)の変化量の両群間の差とした。主要アウトカムのSBPほかDBP、LDL-C、尿中ナトリウムも改善 180例(平均年齢46.1[SD 13.3]歳、女性102例[56.7%]、自己申告による黒人100%)を登録し、DASH群に90例、自己管理群に90例を割り付けた。ベースラインの平均SBPは130.0(SD 6.7)mmHg、平均DBPは79.8(同:8.1)mmHgだった。3ヵ月後の主解析では、175例(97.2%、DASH群86例、自己管理群89例)が対象となった。 3ヵ月時の平均SBPの変化量は、自己管理群が-2.3mmHg(95%信頼区間[CI]:-4.1~-0.4)であったのに対し、DASH群は-5.7mmHg(-7.4~-3.9)であり、群間差は-3.4mmHg(-5.9~-0.8)とDASH群で降圧効果が有意に優れた(p=0.009)。 副次アウトカムのうち、平均DBP(3ヵ月時の変化量の群間差:-2.4mmHg、95%CI:-4.2~-0.5)およびLDL-C値(-8.0mg/dL、-13.7~-2.3)は、DASH群で改善効果が良好であったが、BMI値(-0.04、-0.37~0.28)およびHbA1c(-0.01%、-0.07~0.05)に対するDASH食の効果は認めなかった。また、尿中ナトリウム値は、DASH群で低下の幅が大きかった(3ヵ月時の変化量の群間差:-545mg/24時間[95%CI:-1,041~-50])。介入終了6ヵ月後には効果が消失 一方、3ヵ月時(介入期間終了)から6ヵ月時までの3ヵ月間で、平均SBP(6ヵ月時の変化量の群間差:3.5mmHg、95%CI:0.9~6.0)および平均DBP(2.4mmHg、0.7~4.1)は、いずれもDASH群で大きく上昇し、DASH食の効果はほぼ消失していた。この間のLDL-C値(3.3mg/dL、-1.9~8.5)も、DASH群で増加の幅が大きかった。 有害事象はまれだった。胃腸障害が1件発現したが介入とは関連がなく、慢性腎臓病患者における高カリウム血症の発生は認められなかった。3ヵ月時にDASH群で腹部膨満感と頻尿が増加したが、水分摂取量の変化は少なく、全体的な体調の改善を報告した参加者が多かった。 著者は、「これらの知見は、心血管代謝の健康を改善するための食料品の注文戦略の立案に有益と考えられる」「DASH食の降圧効果およびLDL-C低下効果を長期的に維持するには、健康的な食料品への継続的なアクセスと栄養カウンセリングが必要であろう」としている。

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ほとんどのPPIが高血圧の発症と関連

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)と高血圧症の関連はまだ明確ではない。今回、名古屋大学のBasile Chretien氏らはこれらの関連やPPIのクラス効果、用量依存性があるかどうかを調査したところ、ランソプラゾール以外のPPIで高血圧症との関連が示唆され、用量反応傾向が認められた。BMJ Open誌2025年11月27日号に掲載。 著者らは、WHOの薬物監視データベースであるVigiBaseのリアルワールドデータを使用した。Medical Dictionary for Regulatory Activities(MedDRA)V.26.1を用いて、1種類以上のPPI投与に関連する高血圧症の新規発症例を特定し、2024年10月28日まで系統的に収集した。多変量case/non-case研究デザインにおいて調整済み報告オッズ比(aROR)を算出し、PPI使用と高血圧症との医薬品安全性監視シグナル、およびPPI投与量と高血圧症の発症・悪化の用量依存性を分析した。 主な結果は以下のとおり。・データベースにはPPI関連高血圧症2万6,587件(2.3%)が報告され、女性(63.3%)に多く、45~64歳で最も頻度が高かった(41.4%)。薬剤別の件数はオメプラゾール9,935件、pantoprazole 8,276件、エソメプラゾール5,737件、ランソプラゾール3,430件、ラベプラゾール1,272件、dexlansoprazole 522件であった。・年齢、性別、併用降圧薬、高血圧誘発が知られている薬剤を調整後、ランソプラゾール(aROR:0.99、95%信頼区間:0.96~1.03)を除くPPIで有意なaRORが認められた。・用量反応関係を示唆する傾向が認められ、統計学的に有意ではないが、すべてのPPIにおいて中央値未満の用量では中央値超と比較して高血圧症のaRORが低い傾向があった。 本研究では、PPI使用と高血圧症との関連を示す顕著な医薬品安全性のシグナルを示した。潜在的な用量反応傾向が観察されたものの統計学的有意性が認められなかったことについて、「統計学的検出力の限界が要因と考えられる」と著者らは考察している。

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血圧コントロールに地域差、降圧目標達成が高い/低い都道府県は?/東北医科薬科大ほか

 日本における降圧治療開始後の血圧コントロール状況には、地域間で格差が存在し、降圧目標達成割合は医師の偏在や脳血管疾患死亡と関連していることが、岩部 悠太郎氏(東北医科薬科大学)らによる大規模なリアルワールドデータ解析で示された。『高血圧管理・治療ガイドライン2025』1)では、年齢にかかわらず降圧目標を「130/80mmHg未満(診察室血圧)」としているが、本研究では治療開始後にこの目標を達成できた患者は26.7%にとどまった。本研究結果は、Hypertension Research誌オンライン版2025年11月18日号で報告された。 研究グループは、協会けんぽの健診データ(2015~22年度)を使用して、降圧治療を開始したと判断された40~74歳の男女131万8,437例を抽出し、後ろ向きコホート研究を実施した。降圧治療開始前後の健診データから、治療後の降圧目標(130/80mmHg未満[診察室血圧])達成割合を評価した。また、都道府県別の降圧目標達成割合の格差を算出するとともに、脳血管疾患死亡や医療資源指標(医師偏在指標など)との関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・降圧治療開始前の平均血圧は148.3/92.4mmHgで、治療開始後は134.1/83.1mmHgへ低下した。・治療開始後に降圧目標(130/80mmHg未満)を達成した患者の割合は、全体で26.7%であった。・都道府県別の降圧目標達成割合は、未調整解析では最大10.2%の差があった。調整後でも7.4%の差が認められた。・調整後の降圧目標達成割合が上位/下位の府県は以下のとおり。【上位】 1位:香川県(26.2%) 2位:沖縄県(25.9%) 3位:高知県(24.4%) 4位:滋賀県(24.4%) 5位:大阪府(24.4%) 6位:熊本県(24.4%)【下位】 43位:群馬県(20.4%) 44位:山口県(20.2%) 45位:山形県(19.8%) 46位:鳥取県(19.5%) 47位:和歌山県(18.8%)・調整後の都道府県別の140/90mmHg未満の達成割合は、49.4%(和歌山県)~58.9%(宮崎県)の範囲であった。・生態学的分析の結果、降圧目標達成割合が1%上昇するごとに、10万例当たりの脳血管疾患死亡は3.5例減少した。・医師偏在指標は、降圧目標達成割合と有意な正の相関を示した(r=0.47、p<0.001)。これは、地域の医師供給量が多いほど血圧管理が良好であることを示唆するものである。 本研究結果について、著者らは「本研究で観察された血圧コントロールの地域差は、医療従事者数と関連する可能性が示された。また、医療従事者の偏在改善によって、血圧コントロールの地域差が縮小し、脳血管疾患死亡の地域差の縮小にもつながる可能性が示唆された」と述べている。

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睡眠薬の血圧コントロールに対する有効性、そのリスクとベネフィットは

 高血圧と睡眠障害を併発している患者における睡眠薬の有効性とリスクについては、依然として不明な点が多い。中国・First Affiliated Hospital of Jinan UniversityのZerui You氏らは、高血圧合併不眠症患者における睡眠薬の潜在的な有効性とリスクを調査した。BMC Cardiovascular Disorders誌2025年10月24日号の報告。 本研究は、米国成人を対象としたプロスペクティブコホート研究として、国民健康栄養調査(NHANES)の高血圧および薬剤使用データを用いて、分析を行った。睡眠薬の血圧コントロールにおける有効性を評価するため、線形回帰分析を用いた。Cox回帰分析により、睡眠薬と死亡率との関連性を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、降圧薬を服用している不眠症患者4,836例。・睡眠薬非使用患者と比較し、ベンゾジアゼピン系薬剤使用患者は、調整後の収縮期血圧(SBP)が2.22mmHg低かった(95%信頼区間[CI]:-3.70~-0.74、p=0.003)。・一方、ベンゾジアゼピン類似薬であるZ薬使用患者では、より顕著な低下(-3.33mmHg、95%CI:-5.85~-0.81、p=0.010)を示し、ジアゼパム、クロナゼパム、ゾルピデムでは、有意な降圧効果が認められた。・フォローアップ期間中央値は82.3ヵ月、すべての原因による死亡は809件みられた。・睡眠薬全体の使用(ハザード比[HR]:1.14、95%CI:0.97~1.33、p=0.120)およびベンゾジアゼピン系薬剤使用(HR:1.05、95%CI:0.87~1.26、p=0.639)は、すべての原因による死亡リスクの増加と有意な関連が認められなかった。・一方、Z薬使用患者は、非使用者と比較し、すべての原因による死亡リスクが高いことが示唆された(HR:1.39、95%CI:1.04~1.85、p=0.025)。・心血管疾患による死亡との有意な関連性は認められなかった。 著者らは「高血圧と睡眠障害を併発している患者に対する睡眠薬の使用は、血圧低下と関連しており、死亡リスクの有意な増加との関連は認められなかった」としている。

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がん治療の中断・中止を防ぐ血圧管理方法とは/日本腫瘍循環器学会

 第8回日本腫瘍循環器学会学術集会が2025年10月25、26日に開催された。本大会長を務めた向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター 副所長)が日本高血圧学会合同シンポジウム「Onco-Hypertensionと腫瘍循環器の新たな関係」において、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』の第10章「他疾患やライフステージを考慮した対応」を抜粋し、がん治療の中断・中止を防ぐための高血圧治療実践法について解説した。高血圧はがん患者でもっとも多い合併症の一つ、がんと高血圧の関係は双方向性を示す がんと高血圧はリスク因子も発症因子も共通している。たとえば、リスク因子には加齢、喫煙、運動不足、肥満、糖尿病が挙げられ、発症因子には血管内皮障害、酸化ストレス、炎症などが挙げられる。そして、高血圧はがん治療に関連した心血管毒性として、心不全や血栓症などに並んで高率に出現するため、血圧管理はがん治療の継続を判断するうえでも非常に重要な評価ポイントとなる。また、高血圧が起因するがんもあり、腎細胞がんや大腸がんが有名であるが、近年では利尿薬による皮膚がんリスクが報告されている1)。 このように高血圧とがんは密接に関連しており、今年8月に改訂された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、高血圧GL)には新たに「第10章7.担がん患者」の項2)が追加。治療介入が必要な血圧値を明記するとともに、がん特有の廃用性機能障害・栄養障害、疼痛、不安などの全身状態に伴う血圧変動にも留意する旨が記載されている。 向井氏は「このような高血圧はがん治療関連高血圧と呼ばれ、さまざまながん治療で発症する。血圧上昇のメカニズムは血管新生障害をはじめ、血管拡張障害によるNO低下、ミトコンドリアの機能低下など多岐にわたる。血圧上昇に伴いがん治療を中断させないためにも、発症早期からの適切な降圧が必要」と強調した。<注意が必要な薬効クラス/治療法と高血圧の発生率>3,4)・VEGF阻害薬(血管新生阻害薬):20~90%・BTK阻害薬:71~73%・プロテアソーム阻害薬:10~32%・プラチナ製剤:53%・アルキル化薬:36%・カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン):30~60%・BRAF/MEK阻害薬:20%・RET阻害薬:43%・PARP阻害薬:19%・mTOR阻害薬:13%・ホルモン療法(アンドロゲン受容体遮断薬・合成阻害薬):11~26%*注:上記についてすべての症例が同様の結果を示すわけではない140/90mmHg以上で降圧薬開始、がん治療後も130/80mmHg未満を この高血圧GLにおいて、がん治療患者の降圧治療開始血圧は140/90mmHg以上、動脈硬化性疾患、慢性腎臓病、糖尿病合併例では130/80mmHg以上で考慮することが示され、まずは140/90mmHg未満を目指す。もし、降圧治療に忍容性があれば130/80mmHg未満を、転移性がんがある場合には予後を考慮して140~160/90~100mmHgを目標とする。 がん治療終了後については、血圧管理は130/80mmHg未満を目標とする。治療介入するには低過ぎるのでは? と指摘する医師も多いようだが、患者の血管はがんやがん治療によりすでに傷害されていることがあり、「その状況で血圧上昇を伴うと早期に臓器障害が出現してしまう」と同氏は経験談も交えて説明した。ただし、廃用性機能障害・栄養障害 を示す症例において血圧の下げ過ぎはかえって危険なため、がん治療関連高血圧マネジメントにおいては、基本的には高リスクI度高血圧およびII・III度高血圧に対する降圧薬の使い方(第8章1.「2)降圧薬治療STEP」)の遵守が重要である。同氏は「STEP1として、治療開始はまず単剤(RA系阻害薬あるいは長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)から、160/100mmHg以上の場合には両者を併用する。降圧不十分な場合にはSTEP2、3と高血圧GLに沿って降圧薬を選択していく」とし、「がん患者の病態をチェックしながら体液貯留や脱水状態そして頻拍、心機能障害などの有無などに合わせ降圧薬を選択する必要がある。さらに治療抵抗性を示す症例では選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)などの投与を考慮して欲しい」と説明した。 がん治療の中止基準となる血圧値については「180/110mmHg以上または高血圧緊急症が認められた場合、がん治療の休止/中止または治療薬変更が求められる」と説明した。 最後に同氏は「がん治療終了後も治療終了(中止)に伴う血圧変化として血圧低下に注意し、がんサバイバーにおいては晩期高血圧のフォローアップが重要となる。そのためには、がん治療が終了した後もがん治療医、循環器医、そして腎臓内科医やプライマリケア医、外来薬剤師などが連携して、患者の血圧管理を継続してほしい」と締めくくった。「大阪宣言2025」 今回の学術集会では、日本の腫瘍循環器外来発症の地、大阪での開催を1つの節目として、南 博信氏(神戸大学大学院医学研究科 腫瘍・血液内科/日本腫瘍循環器学会 理事長)による「大阪宣言2025」がなされた。これは、がん診療医と循環器医が診療科横断的に協力し合い、多職種が連携・協同し、がん患者の心血管リスクや心血管合併症の管理・対応、がんサバイバーにおける予防的介入により、がん患者・がんサバイバーの生命予後延伸とQOL改善を目指すため、そして市民啓発から腫瘍循環器の機運を高めていくために宣言された。 日本での腫瘍循環器学は、2011年に大阪府立成人病センター(現:大阪国際がんセンター)で腫瘍循環器外来が開設されたことに端を発する。その後、2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され、2023年日本臨床腫瘍学会/日本腫瘍循環器学会よりOnco-Cardiologyガイドラインが発刊されるなど、国内での腫瘍循環器診療の標準化が着実に進められている。

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