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1.

スタチンはくも膜下出血リスクを下げる?~日本のレセプトデータ

 スタチン使用によるくも膜下出血予防効果は、実験動物モデルやいくつかの臨床試験で検討されているが結論は得られていない。今回、東京理科大学の萩原 理斗氏らが日本のレセプトデータベースを用いて症例対照研究を実施したところ、スタチン使用がくも膜下出血リスクの減少と有意に関連していたことがわかった。Stroke誌オンライン版2025年7月8日号に掲載。 本研究では、2005年1月~2021年8月に新たにくも膜下出血(ICD分類第10改訂コードI60)と診断されて入院した患者を症例とし、症例1例につき4例の対照を無作為に選択し、incidence density samplingを用いて年齢、性別、追跡期間でマッチングした。スタチン曝露(使用頻度、期間)はくも膜下出血発症前に評価した。患者特性で調整された条件付きロジスティック回帰を使用して、スタチン使用とくも膜下出血リスクの関連を評価し、さらに、この関連が高血圧・糖尿病・脳血管疾患・未破裂頭蓋内動脈瘤の既往、降圧薬の使用によって差があるかどうか調査した。 主な結果は以下のとおり。・症例3,498例と対照1万3,992例が同定され、症例群の12.2%と対照群の12.7%でスタチンを使用していた。・患者特性による調整後、スタチン使用はくも膜下出血リスクの有意な低下と関連していた(調整オッズ比:0.81、95%信頼区間:0.69~0.95)。・この関連は高血圧と脳血管疾患の既往歴により有意な影響があった(相互作用のp値:どちらも0.042)。 著者らは「これらの結果は、スタチンがくも膜下出血予防に役割を果たす可能性を示唆しており、とくに高血圧または脳血管疾患既往歴のある患者においてその効果が顕著であった」と結論している。

2.

lorundrostatがコントロール不良の高血圧に有効/JAMA

 コントロール不良または治療抵抗性の高血圧で、2~5種類の降圧薬を使用している患者において、プラセボと比較し経口アルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatは、収縮期血圧の降圧効果が有意に優れ、参加者全体の約半数に認めた試験治療下で発現した有害事象(TEAE)のほとんどが軽度または中等度であったことが、イングランド・Barts Health NHS Trust and Queen Mary UniversityのManish Saxena氏らLaunch-HTN Investigatorsが実施した「Launch-HTN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年6月30日号で報告された。13ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 Launch-HTN試験は、13ヵ国159施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2023年11月~2024年9月に参加者のスクリーニングを行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上のコントロール不良または治療抵抗性の高血圧患者を対象とした。医療従事者非同席下の自動血圧計による診察室収縮期血圧が135~180mmHg、かつ拡張期血圧が65~110mmHgまたは特定の条件下での自動血圧計による診察室拡張期血圧が90~110mmHgで、2~5種の降圧薬を安定用量で使用していることとした。 これらの患者を、lorundrostat 50mg/日を6週間投与後に同100mg/日を6週間投与する群(50/100mg群)、同50mg/日を12週間投与する群、プラセボを12週間投与する群に、1対2対1の割合で無作為に割り付けた。lorundrostat 50/100mg群の6週目までの50mg投与と同50mg群を合わせた808例を統合50mg群とした。 主要アウトカムは、6週目における統合50mg群とプラセボ群の自動血圧計による診察室収縮期血圧とした。収縮期血圧130mmHg未満達成率も優れた 1,083例(平均年齢61.6[SD 10.3]歳、女性508例[46.9%]、肥満[BMI値≧30]685例[63.3%])を登録し、lorundrostat 50/100mg群に270例、同50mg群に541例、プラセボ群に272例を割り付けた。無作為化の時点で、432例(39.9%)が降圧薬を2剤、651例(60.1%)が3剤以上処方されていた。 ベースラインから6週目までの自動血圧計による診察室収縮期血圧の最小二乗平均変化量は、プラセボ群が-7.9mmHg(95%信頼区間[CI]:-11.5~-4.2)であったのに対し、統合50mg群は-16.9mmHg(-19.0~-14.9)と降圧効果が有意に優れた(最小二乗平均群間差:-9.1mmHg[95%CI:-13.3~-4.9]、p<0.001)。 6週目の時点で、診察室収縮期血圧130mmHg未満を達成した患者の割合は、プラセボ群の24.1%に比べ、統合50mg群は44.1%であり有意に高かった(オッズ比:3.4[95%CI:1.5~7.8]、p=0.003)。 また、降圧薬2剤併用例(最小二乗平均群間差:-8.8mmHg[97.5%CI:-14.8~-2.9]、p<0.001)および同3剤以上併用例(-9.0mmHg[-14.0~-4.1]、p<0.001)とも、ベースラインから6週目までの診察室収縮期血圧の最小二乗平均変化量が、プラセボ群と比較し統合50mg群で有意に良好だった。低ナトリウム血症による被験薬の減量、投与中断、中止が多い TEAEは患者の49.9%(538/1,078例)にみられ、重症度はほとんどが軽度または中等度であった。重篤な有害事象は、50/100mg群で2例(0.7%)、50mg群で12例(2.2%)、プラセボ群で8例(3.0%)に発現した。プラセボ群の1例が死亡した(治療関連ではない)。 被験薬の減量、投与中断、投与中止に至った低ナトリウム血症(50/100mg群10.4%、50mg群6.9%、プラセボ群3.3%)、高カリウム血症(2.6%、2.0%、0.4%)、腎機能低下(推算糸球体濾過量の低下)(3.3%、3.0%、0.7%)の報告は、プラセボ群よりもlorundrostat群で多かった。 50/100mg群では、高カリウム血症による投与中止が1例(0.37%)、低ナトリウム血症による治療中止が1例(0.37%)に発生した。50mg投与群では、高カリウム血症による投与中止が2例(0.37%)、低ナトリウム血症による投与中止が2例(0.37%)、腎機能低下による投与中止が3例(0.56%)にみられた。 著者は、「本試験では、lorundrostatの1日50mgの6週間の投与で収縮期血圧が有意に低下し、この降圧効果は12週にわたって維持された。50mgを100mgに増量しても、50mgで目標血圧を達成しなかった患者における付加的な有益性は得られなかった」「これらのデータは、コントロール不良または治療抵抗性の高血圧の治療選択肢としてのlorundrostatを支持するものである」としている。

3.

高血圧に関する米国人の誤解の多さが明らかに

 米ペンシルベニア大学アネンバーグ公共政策センターが6月6日に発表した新たな調査結果において、米国人の3分の1以上が、高血圧はめまいや息切れなどの明らかな症状を伴うものと誤解していることが示された。 血圧は、心臓の拍動によって動脈にかかる圧力を示す指標であり、心臓が収縮して血液を送り出すときの収縮期血圧(上の血圧)と、心拍と心拍の間の安静状態にあるときの拡張期血圧(下の血圧)の2つで表される。米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)は、2017年に高血圧の定義を従来の140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げた。米疾病対策センター(CDC)によると、2022年に米国では高血圧が68万5,000人以上の死亡の主因、または一因であったという。 この調査は、米国を代表する1,653人の成人を対象に、2025年4月15〜28日に実施された。標本誤差(サンプル調査での推定値と母集団の真の値との差)は95%信頼水準で±3.4パーセントポイントであった。 調査参加者の35%が高血圧の診断を受けており、また69%は自分以外の家族に高血圧があると報告していた。このように有病率は高かったにもかかわらず、4人に1人(24%)は、高血圧の基準値に関する5つの選択肢のうち、130/80mmHgと正しく答えた人は13%にとどまっていた。残りの25%は以前の基準値である140/90mmHgを、16%は140/80mmHgを、18%は130/90mmHgを選んでおり、24%は「どれが正解か分からない」と答えた。 米ペンシルバニア大学アネンバーグ公共政策センター所長のPatrick Jamieson氏は、「血圧をコントロールすることで心筋梗塞や脳卒中など深刻な健康問題のリスクが軽減されるため、高血圧を特定する方法に関する誤解を正すことは、公衆衛生上の優先事項であるべきだ」と述べている。 また、CDCは、「高血圧には通常、明確な兆候や症状は現れない」としているが、この点を正しく理解していたのは39%(高血圧の人50%、高血圧ではない人33%)に過ぎず、37%は、高血圧には必ずと言っていいほど、めまいや息切れなどの自覚できる症状を伴うと勘違いしていた。さらに39%は、落ち着いてリラックスしていることは、血圧が正常であることを示す兆候だと誤解していることも判明した。AHAは、高血圧は症状を伴わないゆえに「サイレントキラー」と呼ばれていると述べている。 一方で、80%の人は、高血圧の家族歴がある場合、血圧を効果的に下げる手立てはないと考えるのは間違っていることを正しく理解していた。また、どの対策が血圧の低下に役立つかについても、多くの人が正しく認識していた。具体的には、「健康的な体重の維持」は91%、「定期的な運動」と「健康的な食生活」はそれぞれ89%、「降圧薬の使用」は84%、「塩分摂取量の削減」は82%が効果的な方法として正しく認識していた。 APPCの調査アナリストであるLaura Gibson氏は、「血圧を下げる習慣についての国民の知識レベルの高さは心強い。これは、これらの健康指標を国民の意識の中心に据えてきた医療提供者と公衆衛生機関の努力の賜物である」と述べている。ただし、全ての人がこうした習慣を取り入れているわけではない。週に1回以上これらの習慣を実践していると答えた人の割合は、「健康的な食事」が72%、「定期的な運動」が61%、「塩分摂取量の削減」が57%にとどまっていた。

4.

診療科別2025年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Pulsed Field or Cryoballoon Ablation for Paroxysmal Atrial FibrillationReichlin T, et al. N Engl J Med. 2025;392;1497-1507.<SINGLE SHOT CHAMPION試験>:心房細動へのアブレーション、パルスフィールドか冷凍バルーンか心房細動へのアブレーションは本邦でも普及しています。従来の高周波や冷凍バルーンによる熱的アブレーションは、組織特異性が低く心筋周辺組織への影響が問題でした。非熱的アブレーション法であるパルスフィールドアブレーションを評価した研究です。冷凍バルーンに比べ、パルスフィールドアブレーションが再発予防効果において非劣性を示しました。この新技術の普及に弾みがつくのか注目されます。Lorundrostat Efficacy and Safety in Patients with Uncontrolled HypertensionLaffin LJ, et al. N Engl J Med. 2025;392;1813-1823.<Advance-HTN試験>:治療抵抗性高血圧へのアルドステロン合成酵素阻害薬に注目コントロール不良の治療抵抗性高血圧への新規降圧薬であるアルドステロン合成酵素阻害薬のlorundrostat(ロルンドロスタット)を評価した研究です。24時間平均収縮期血圧を有意に低下させ、安全性も許容範囲内にあると報告されました。難治性高血圧の患者は一定数存在します。循環器領域で血圧管理は本質的な命題であり、降圧薬開発は永続的なテーマです。Efficacy and safety of clopidogrel versus aspirin monotherapy in patients at high risk of subsequent cardiovascular event after percutaneous coronary intervention (SMART-CHOICE 3): a randomised, open-label, multicentre trialChoi KH, et al. Lancet. 2025;405;1252-1263.<SMART-CHOICE 3試験>:PCI患者のSAPTはクロピドグレルかアスピリンかPCI患者のDAPT完了後の抗血小板薬の単剤療法(SAPT)は、従来から慣れ親しんだアスピリンなのか、P2Y12阻害薬のクロピドグレルなのかは古くて新しい課題です。韓国で虚血イベント再発高リスク患者を対象にして施行されたこの無作為ランダム化試験では、クロピドグレル群で出血を増加させずに全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことを報告しました。Cardiac Arrest During Long-Distance Running RacesKim JH, et al. JAMA. 2025;333;1699-1707.<RACER 2研究>:マラソンでの心停止は減少も一定数発生、冠動脈疾患が最多マラソン中の心停止の発生率と転帰を調べた臨床研究。2012年にNEJM誌に発表されたRACER1研究の続報的な内容です。2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会での走行中の心停止事故は、2000~10年を対象としたRACER 1と比して発生率は同じでしたが心臓死は半減していました。原因は冠動脈疾患が最多でした。日本では市民参加型マラソン大会が全国各地で開催されており、参考になるデータと思われます。Phase 3 Open-Label Study Evaluating the Efficacy and Safety of Mavacamten in Japanese Adults With Obstructive Hypertrophic Cardiomyopathy - The HORIZON-HCM StudyKitaoka H, et al. Circ J. 2024;89:130-138.<HORIZON-HCM試験>:閉塞性肥大型心筋症の治療を変革する新規薬剤の日本人データ閉塞性肥大型心筋症(HCM)の選択的心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンの治療効果を日本人で検証した臨床研究です。30週の時点での有効性・安全性・忍容性について報告しています。2024年12月25日論文掲載であり、2024年下半期ではなく今回の2025年上半期での紹介となりました。2025年3月の日本循環器学会年次集会で54週のデータも報告されています。本邦の実臨床でも使用可能となったばかりの新規薬剤であり、今後も注目していきたいところです。

5.

降圧薬服用は、朝でも夜でもお好きなほうに―再び(解説:桑島巖氏)

 「降圧薬の服用は朝か夜か?」の問題については、2022年にLancet誌上で発表されたTIME studyのコメントで発表しているが、今回JAMA誌に発表されたGarrisonらのBedMed randomized clinical trial論文でもまったく同じコメントを出さざるを得ない。 TIME studyと同様、本研究でも降圧薬の時間薬理学を理解していれば、服薬は朝(6~10時)でも夜(20~0時)でもどちらも同じ結果(心血管イベント、心血管死)をもたらすというのは当然の結論である。降圧薬の心血管予防効果は24時間にわたる降圧効果の持続と相関することはすでに知られており、現在処方されている降圧薬のほとんどは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、24時間以上持続する降圧薬はアムロジピンとサイアザイド系、非サイアザイド系降圧利尿薬のみである。ACE阻害薬やARBはいずれも24時間持続性がない。 本試験はオープン試験(PROBE法:結果の評価はブラインド)であることから、診療現場では、患者の降圧が不十分であれば複数の降圧薬を併用することになる。本研究においてはACE阻害薬、ARBが各々30%前後使用されているが、カルシウム拮抗薬や利尿薬あるいは配合剤(combination pill)も高頻度で使用されていることから、これらの持続性の高い降圧薬の併用により、朝服用でも夜服用でも持続的降圧が得られたために、エンドポイントに差が認められなかった。TIME studyと同じ結果であるのは当然である。 現場では、患者さんの飲み忘れがないような選択をすることが重要である。

6.

降圧薬で腎臓がんリスク上昇、薬剤による違いは?

 降圧薬が腎臓がんのリスク上昇と関連するというエビデンスが出てきている。さらに降圧薬の降圧作用とは関係なく腎臓がんリスクを上昇させる可能性が示唆されているが、腎臓がんの危険因子である高血圧と降圧薬の腎臓がんへの影響を切り離して評価したエビデンスは限られている。今回、米国・スタンフォード大学医療センターのMinji Jung氏らのメタ解析で、降圧薬と腎臓がんリスクが高血圧とは関係なく関連を示し、そのリスクはCa拮抗薬において最も高いことが示唆された。BMC Cancer誌2025年6月6日号に掲載。 本研究では、2025年1月までの降圧薬使用と腎臓がんとの関連を調査した観察研究を検索した。高血圧とは独立した降圧薬の影響を明らかにするため、高血圧を考慮した群と考慮しない群で層別解析を実施した。ロバスト分散推定を用いたランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、統合相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・39研究が適格研究とされた。・高血圧を考慮した推定値に基づいた場合、降圧薬は腎臓がんリスク上昇と関連していた。・高血圧を考慮した場合の降圧薬のクラス別のRR(95%CI)は、ARBが1.15(1.00~1.31)、β遮断薬が1.09(1.03~1.16)、Ca拮抗薬が1.40(1.12~1.75)、利尿薬が1.36(1.20~1.55)と、腎臓がんリスク上昇と関連し、Ca拮抗薬が最もリスクが高かった。ACE阻害薬は1.19(0.93~1.52)と有意な関連は認められなかった。

7.

第270回 首や顔のマッサージで脳の老廃物除去?

首や顔のマッサージで脳の老廃物除去?脳脊髄液(CSF)排出を促す顔や首のマッサージが、やがてはアルツハイマー病などの神経疾患の治療の助けになるかもしれません。脳を浸すCSFは衝撃から脳を守ることに加えて神経伝達物質、代謝物、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患と関連するアミロイドタンパク質やその他の老廃物を中枢神経系(CNS)の外へ排出する役割を担います。CSFの流れが滞ることは老化や神経変性疾患に寄与しうるとの考えを受けて、CSF排出の仕組みの研究が盛んになっています。CSFがどういう経路を経て排出されるかは関心の的の1つで、脳の周りのくも膜下腔のCSFが頭蓋の底の髄膜リンパ管から鼻咽頭リンパ網(nasopharyngeal lymphatic plexus)を経由して首の奥まったところのリンパ節に流れていくことが韓国のGou Young Koh氏らのチームが昨年報告した研究で発見されています1)。髄膜リンパ管を増やしたり減らしたりすることでCSF排出を調節することが可能となり、CSF排出を標的とする疾患の治療の可能性が見出されつつあります。たとえば、CGRP伝達が髄膜リンパ管を害することがマウスに片頭痛様の痛みを引き起こすことが示唆されており2)、CSF排出の促進が片頭痛の治療の助けになるかもしれません。別の研究ではα/β遮断薬3剤(プラゾシン、atipamezole、プロプラノロール)の併用でCSFの排出を促して外傷性脳損傷マウスの脳浮腫を減らして身のこなしを改善しうることが示されています3)。これらの降圧薬は安全性が確立していて、どうやら神経に良い働きがあるらしいことも示唆されており、なかなか使い勝手がよさそうです。Koh氏らは上述の研究の後のマウスやサルの検討でより皮膚に近い新たなCSF排出路を発見し、さらには顔や首を軽くマッサージするという何とも簡単な方法でCSF排出を促しうることを示しました4-6)。皮膚から5mmばかり下を通るそのCSF排出経路は、眼鼻口のあたりのリンパ管とそれに続く首の表在性リンパ管(superficial cervical lymphatic、scLV)を介して顎下リンパ節(submandibular lymph node、smLN)へと通じています。scLVを介してsmLNへと通じる経路を、綿棒のような器具で顔や首の皮膚を軽く叩いていわばマッサージすることでCSFの排出を促しうることが示されました。老化マウスにも有効で、マッサージした老化マウスのCSFの流れはより若いマウスと同じぐらいになりました。未発表ですがサルでも同様の結果が得られています6)。さらには死者の皮下のリンパ管の配置の検討からヒトのCSFの流れもどうやらマッサージで促せそうです。とはいえマウスやサルとヒトの体の構造は違っており、さらなる検討が必要です。それに、CSF排出促進で脳の老化を遅らせたり、神経変性疾患を予防したりできるかどうかは不明です。Koh氏はアルツハイマー病の特徴を示すマウスでCSF排出促進の効果を調べるつもりです6)。 参考 1) Yoon JH, et al. Nature. 2024;625:768-777. 2) Nelson-Maney NP, et al. J Clin Invest. 2024;134:e175616. 3) Hussain R, et al. Nature. 2023;623:992-1000. 4) Jin H, et al. Nature. 2025 Jun 4. [Epub ahead of print] 5) New non-invasive method discovered to enhance brain waste clearance / Eurekalert 6) Massaging the neck and face may help flush waste out of the brain / NewScientist

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コントロール不良の高血圧、zilebesiran単回投与の上乗せが有効/JAMA

 インダパミド、アムロジピンまたはオルメサルタンによる治療下でコントロール不良の高血圧患者において、RNA干渉薬zilebesiran単回投与の追加により、プラセボと比較して3ヵ月時の収縮期血圧(SBP)の有意な低下が認められ、重篤な有害事象の発生は少なかったことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAkshay S. Desai氏らが北米、英国など8ヵ国の150施設で実施した第II相無作為化二重盲検比較試験「KARDIA-2試験」で示された。高血圧患者を対象とした先行の単剤投与試験では、zilebesiranの単回皮下投与により3ヵ月時および6ヵ月時の血清アンジオテンシノーゲン値およびSBPの低下が認められていた。JAMA誌オンライン版2025年5月28日号掲載の報告。インダパミド、アムロジピン、オルメサルタンへのzilebesiran追加の有効性と安全性をプラセボ追加と比較 研究グループは、2022年1月~2023年6月に、未治療の高血圧(診察室座位SBP:155~180mmHg)、または1~2種類の降圧薬を使用してもコントロール不良の高血圧(診察室座位SBP:145~180mmHg)で、18~75歳の患者を登録した。 二次性高血圧、症候性起立性低血圧、血清カリウム値>5.0mmol/L、eGFR<30mL/分/1.73m2(MDRD法)、症候性心不全、1型糖尿病、コントロール不良の2型糖尿病、または新たに診断された糖尿病の患者は除外された。 まず非盲検導入期として、適格患者をインダパミド2.5mg、アムロジピン5mgまたはオルメサルタン40mgの3つのコホートに4対7対10の割合で無作為に割り付け、それぞれ1日1回少なくとも4週間投与した。 導入期後に24時間自由行動下SBPが130~160mmHg、かつアドヒアランスが80%以上の患者を、二重盲検期として各コホートでzilebesiran 600mg群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ追加で単回皮下投与した。 主要エンドポイントは、3ヵ月時の24時間自由行動下SBPのベースラインからの変化におけるzilebesiran群とプラセボ群との差とした。 最終追跡調査日は2023年12月11日で、解析は2024年3月1日に実施した。24時間自由行動下SBPの変化、プラセボとの差は-4.5~-12.1mmHg 導入期に無作為化された1,491例のうち、663例(各コホート:インダパミド130例、アムロジピン240例、オルメサルタン293例)が二重盲検期にzilebesiran群(332例)またはプラセボ群(331例)に無作為に割り付けられた。 3ヵ月時の24時間自由行動下SBPのベースラインからの変化のzilebesiran群とプラセボ群の差(最小二乗平均値)は、インダパミドコホートで-12.1mmHg(95%信頼区間:-16.5~-7.6、p<0.001)、アムロジピンコホートで-9.7mmHg(-12.9~-6.6、p<0.001)、オルメサルタンコホートで-4.5mmHg(-8.2~-0.8、p=0.02)であった。 有害事象については、コホート全体においてzilebesiran群はプラセボ群と比較し、高カリウム血症(18例[5.5%]vs.6例[1.8%])、低血圧(14例[4.3%]vs.7例[2.1%])、急性腎不全(16例[4.9%]vs.5例[1.5%])の発現割合が高かったが、ほとんどの事象は軽度であり治療なしで回復した。

9.

新たなリスクスコアにより頸動脈狭窄に対する不要な手術を回避

 頸動脈リスク(carotid artery risk;CAR)スコアと呼ばれる新たなスコアリングシステムにより、頸動脈狭窄が確認された患者に対する頸動脈血行再建術の必要性を判断できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やアムステルダム大学医療センター(オランダ)などの研究者らが開発したCARスコアリングシステムは、頸動脈狭窄の程度(狭窄率)や医療歴などを考慮して5年間の脳卒中リスクを予測する。UCLクイーン・スクエア神経学研究所の名誉教授であるMartin Brown氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」5月号に掲載された。 頸動脈狭窄患者に対しては、通常、脳卒中リスクを軽減するために頸動脈血行再建術が行われる。しかし研究グループによると、この治療法は、30年以上前に実施されたランダム化比較試験の結果に基づいているという。 論文の責任著者であるBrown氏らは今回、症候性または無症候性の頸動脈狭窄患者を対象に、至適内科治療(optimised medical therapy;OMT)による管理の有効性と安全性を、OMTに加え血行再建術も受けた患者との間で比較した。OMTは、低コレステロール食、脂質低下薬、降圧薬、血液凝固阻止薬などで構成されていた。 対象者は、CARスコアに基づき脳卒中リスクが低~中等度(20%未満)と判定され、頸動脈に50%以上の狭窄が確認された18歳以上の者とし、OMTのみを受ける群(OMT群、215人)とOMTに加えて頸動脈血行再建術も受ける群(OMT+血行再建術群、214人)に1対1の割合でランダムに割り付けられた。主要評価項目は、1)手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生、2)非致死的な脳卒中の発生、3)非致死的な心筋梗塞の発生、4)画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞とし、2年後に評価された。OMT群のうち1人は研究への参加同意後に離脱したため、428人(平均年齢72歳、男性69%)を対象に解析が行われた。 その結果、主要評価項目のいずれについてもOMT群とOMT+血行再建術群の間で有意な差は認められず、血行再建術はリスクを考慮すると特段の利点を示さなかった。主要評価項目の発生件数は、OMT群、OMT+血行再建術群の順に、手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生で4件と3件、非致死的な脳卒中の発生で11件と16件、非致死的な心筋梗塞の発生で7件と5件、画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞で12件と7件であった。 Brown氏は、「これらの知見を確認するにはさらなる追跡調査と追加試験が必要だが、われわれは、CARスコアを用いて、OMTのみで管理可能な頸動脈狭窄患者を特定することを推奨したい」と述べている。同氏はさらに、「このアプローチは、血管リスク因子の個別評価と集中治療を重視しているため、多くの患者が頸動脈血行再建術やステント留置に伴う不快感やリスクを回避できる可能性がある。さらに、この方法は医療サービスの大幅なコスト削減にもつながり得る」と付言している。 この研究をレビューした米脳卒中協会のLouise Flanagan氏は、「CARスコアを用いることで、薬物療法だけで治療を行えるか、薬物療法と手術を組み合わせるべきかを判断できるため、手術やステント留置に伴うリスクや不利益を減らせる可能性がある」と話している。なお、この臨床試験は現在も進行中である。

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降圧薬の心血管リスク低減効果、朝服用vs.就寝前服用/JAMA

 降圧薬の就寝前服用は安全であるが、朝の服用と比較して心血管リスクを有意に低減しなかったことが、カナダ・University of AlbertaのScott R. Garrison氏らが、プライマリケアの外来成人高血圧症患者を対象として実施した無作為化試験で示された。降圧薬を朝ではなく就寝前に服用することが心血管リスクを低減させるかどうかについては、先行研究の大規模臨床試験における知見が一致しておらず不明のままである。また、降圧薬の就寝前服用については、緑内障による視力低下やその他の低血圧症/虚血性の副作用を引き起こす可能性が懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「降圧薬の服用時間は、降圧治療のリスクやベネフィットに影響を与えない。むしろ患者の希望に即して決めるべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月12日号掲載の報告。カナダのプライマリケアで試験、朝服用vs.就寝前服用を評価 研究グループは、降圧薬の朝服用と就寝前服用の、死亡および主要心血管イベント(MACE)に与える影響を、プラグマティックな多施設共同非盲検無作為化・エンドポイント評価者盲検化試験で調べた。被験者は、カナダの5つの州にある436人のプライマリケア臨床医を通じて集めた、少なくとも1種類の1日1回投与の降圧薬の投与を受けている地域在住の成人高血圧症患者であった。募集期間は2017年3月31日~2022年5月26日、最終追跡調査は2023年12月22日であった。 被験者は、すべての1日1回投与の降圧薬を朝に服用する群(朝服用群)もしくは就寝前に服用する群(就寝前服用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、全死因死亡またはMACE(脳卒中、急性冠症候群または心不全による入院/救急外来[ED]受診)の初回発生までの期間であった。あらゆる予定外入院/ED受診、視覚機能、認知機能、転倒および/または骨折に関連した安全性アウトカムも評価した。主要複合アウトカムイベントの発生、安全性に有意差なし 計3,357例が無作為化された(就寝前服用群1,677例、朝服用群1,680例)。被験者は全体で女性56%、年齢中央値67歳であり、併存疾患は糖尿病が18%、冠動脈疾患既往が11%、慢性腎臓病が7%であった。また、単剤治療を受けている被験者が53.7%であり、降圧薬の種類はACE阻害薬36%、ARB 30%、Ca阻害薬29%などであった。 全体として追跡調査期間中央値4.6年において、主要複合アウトカムイベントの発生率は、100患者年当たりで就寝前服用群2.30、朝服用群2.44であった(補正後ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.77~1.19、p=0.70)。 100患者年当たりの主要アウトカムの項目別発生率(死亡:就寝前服用群1.11 vs.朝服用群1.28[補正後HR:0.90、95%CI:0.67~1.22、p=0.50]など)、あらゆる予定外入院/ED受診の発生率(23.26 vs.25.15[0.93、0.85~1.02、p=0.10])および安全性について、両群間で差は認められなかった。とくに、転倒の自己申告率(4.9%vs.5.0%、p=0.47)や100患者年当たりの骨折(非脊椎骨折:2.18 vs.2.40[0.92、0.74~1.14、p=0.44]、大腿骨近位部骨折:0.27 vs.0.43[0.65、0.37~1.15、p=0.14])、緑内障の新規診断(0.60 vs.0.54[1.13、0.73~1.74、p=0.58])、18ヵ月間の認知機能低下(26.0%vs.26.5%、p=0.82)について差はみられなかった。

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心不全患者の亜鉛不足、死亡や腎不全が増加

 台湾・Chi Mei Medical CenterのYu-Min Lin氏らは、心不全(HF)患者の亜鉛欠乏が死亡率、心血管系や腎機能リスクおよび入院リスクの上昇と関連していることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年4月28日号掲載の報告。 HF患者では、利尿薬やRA系阻害薬といった降圧薬の使用などが原因で、亜鉛欠乏症(ZD)の有病率が高いことが報告されている1,2)。また、亜鉛補充により左室駆出率を改善させる可能性も示唆されている3)が、亜鉛がHFの臨床転帰に与える影響を調査した大規模研究はほとんど行われていなかった。 本研究は、ZDとHFの臨床転帰との関連性を調べる目的で実施された多施設共同後ろ向きコホート研究である。2010年1月1日~2025年1月31日にHFを発症した成人患者をTriNetX社のネットワークと提携する世界142施設の医療機関の1億6,056万2,143例から年齢などの基準を満たす適格患者を抽出。血清亜鉛値が70μg/dL未満のZD患者(ZD群)と70~120μg/dL患者(対照群)を傾向スコアマッチングにて栄養状態、アルブミン値、利尿薬やβ遮断薬の使用などの交絡因子で調整し、8,290例(各群4,145例)について、1年間の追跡調査を行った。主要評価項目は、全死亡、主要心血管イベント(MACE)*、主要腎イベント(MAKE)**で、副次評価項目は全入院であった。*急性心筋梗塞、脳卒中(脳梗塞および脳出血を含む)、心室性不整脈(心室頻拍や心室細動など)、心停止を含む。**末期腎不全、緊急透析の開始、維持透析を含む。 主な結果は以下のとおり。・ZD群では、全死亡において対照群と比較して有意に高い累積罹患率を示し(ハザード比[HR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.29~1.66、p<0.001)、100人年あたりの罹患率はZD群で13.47、対照群で9.78であった。・MACEの上昇についてもZD群に関連し(HR:1.46、95%CI:1.30~1.64)、MAKEの上昇も同様に関連していた(HR:1.51、95%CI:1.34~1.70)。・全入院リスクも対照群と比較してZD群は高かった(HR:1.24、95%CI:1.16~1.32)。 研究結果より、研究者らは「心不全治療における亜鉛の評価と管理の臨床的重要性が浮き彫りになった」としている。

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高血圧診断後の降圧薬開始、1ヵ月以内vs.1ヵ月以降

 未治療の成人高血圧患者において、診断後1ヵ月以内に降圧薬単剤療法を開始すると、それ以降に開始した場合と比較して、診断後6~30ヵ月までの血圧コントロールが良好であった。一方で、1ヵ月以内に単剤での降圧薬療法を開始したとしても、30%超の患者では血圧コントロールは不十分であることも示された。米国医師会のRobert B Barrett氏らによる後ろ向きコホート研究の結果が、Hypertension誌オンライン版2025年4月21日号に掲載された。 診断および治療歴のない高血圧患者1万5,422例(平均年齢:56.0±14.8歳、18歳未満および85歳以上は除外、2019年1月~2023年1月に初回診断)が、5つの医療機関の後ろ向きコホートより抽出された。診断後最大42ヵ月までの期間において、血圧コントロール状況(<140/<90mmHg)およびコントロール不良時における降圧薬単剤療法の開始状況を経時的に評価した。初診時の血圧に対する降圧薬単剤療法開始のオッズを、人種、性別、および糖尿病の有無で層別化し、ロジスティック回帰モデルにより推定した。経時的な血圧コントロール達成状況については、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は全体で24ヵ月であった。・降圧薬単剤療法は、診断後1ヵ月で患者の約44%、6ヵ月で75%、1年で82%、2年で90%に実施されていた。・診断後1ヵ月以内に降圧薬単剤療法を開始した患者とそれ以降に開始した患者の人口統計学的・臨床的特徴は、平均年齢53.3歳vs.58.2歳、男性が45.9% vs.43.5%、ベースラインの平均血圧は154.4(±12.5)/88.5(±11.5)mmHg vs.152.5(±12.5)/85.5(±11.8)mmHg、平均BMIはともに31.5kg/m2、糖尿病ありが19.5% vs.23.8%であった。・診断後1ヵ月以内に降圧薬単剤療法を開始した患者では、それ以降に開始した患者と比較し、診断後6ヵ月時点で有意に高いコントロール率を示し(57.4% vs.47.5%、p<0.001)、30ヵ月まで維持されていた(66.8% vs.62.0%、p<0.001)。・42ヵ月間の追跡期間中の血圧コントロール率は、診断後1ヵ月以内に降圧薬単剤療法を開始した患者では、それ以降に開始した患者と比較して19%高く(HR:1.19、95%信頼区間[CI]:1.13~1.25)、年齢、人種、性別、初回SBPで調整後も維持された(HR:1.21、95%CI:1.15~1.27)。・高血圧診断後1ヵ月以内の降圧薬単剤療法開始によるベネフィットは、多変量補正後もコントロール閾値<130/<80mmHgで認められた(HR:1.14、95%CI:1.07~1.21)。

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β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

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起立性高血圧に厳格降圧治療は有効か?/BMJ(解説:桑島巖氏)

 「起立性低血圧」は臨床上よく耳にする疾患だが、「起立性高血圧」という言葉は、ほとんどの医師にはなじみがない言葉であろう。起立性低血圧を疑い、外来で座位と立位の血圧を測定する場合や、tilting test(傾斜テスト)を実施する医師にとっては、起立性高血圧はしばしば遭遇する現象である。この現象が身体に有害であるか否かは不明であるため、あえて“現象”という言葉で表現する。 本論文は、その起立性高血圧現象が高血圧治療によって軽減するか否かをメタ解析し、厳格に高血圧治療を行っている群のほうが、非厳格治療群よりも起立性高血圧現象が少なかったという結論である。 tilting testを行うと、起立性低血圧例では、一過性上昇後収縮期血圧が10-20mmHg以上下降し、気分不快や意識消失を呈する。一方、ほとんどの正常人では、起立時一過性に血圧が上昇するが、その後数分以内に起立前と同じ血圧レベルで推移する。 外来診療でも、座位に続いて立位で血圧を測定すると、血圧はほとんど変わりないか、あるいは若干上昇するのが正常パターンである。立位時の一過性上昇は、“立つ”という身体の動きが交感神経を一過性に賦活させるという生理的現象である。 高齢者や動脈硬化疾患を有する例ではこの起立直後の血圧上昇反応は顕著であるが、その場合は血管の柔軟性(resilience)が低下しているためである。本論文では、16.7%に起立性高血圧が見られたとしているが、このメタ解析対象にはSPRINT研究のように高齢者で高リスク症例を対象とする試験が含まれているためと考えられる。 いずれにしても、積極的治療を行っている群のほうが非積極的治療群よりも起立時血圧上昇も抑えるというのは当然の結果であろう。

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歯痕舌と血圧が関連~日本人集団

 東洋医学では舌の周囲に歯形がついた歯痕舌は体液貯留を示し、高血圧と関連する可能性があるが、歯痕舌と血圧の関連を調べた疫学研究はほとんどない。今回、順天堂大学の謝敷 裕美氏らが日本の地域住民を対象にした東温スタディにおいて検討したところ、潜在的交絡因子の調整後も歯痕舌のある人は収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)が高いことが明らかになった。American Journal of Hypertension誌オンライン版2025年4月17日号に掲載。 本研究は東温スタディ(愛媛県東温市における保健事業の評価、ならびに循環器疾患発症にかかる新たな危険因子の検索を目的とするコホート研究)に参加した30~84歳の1,681人を対象とし、歯根舌を舌画像により評価し、歯痕舌あり群と歯痕舌なし群に分けた。SBP≧140mmHgまたはDBP≧90mmHgまたは降圧薬の使用を高血圧と定義した。多変量調整ポアソン回帰分析を用いて、年齢、性別、肥満度を含む潜在的交絡因子を調整後、歯痕舌と血圧の関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・参加者のうち、326人(19.6%)が歯痕舌で、624人(51.6%)が高血圧であった。・多変量調整後のSBPの平均値は、歯痕舌なし群、歯痕舌あり群の順に126.6mmHg、129.7mmHg(p<0.01)、DBPの平均値は順に76.5mmHg、78.0mmHg(p=0.02)であった。・歯痕舌なし群に対する歯痕舌あり群の多変量調整有病率比(95%信頼区間)は、高血圧、SBPおよびDBPの最高四分位順に、1.21(1.04~1.41)、1.50(1.23~1.84)、1.25(1.03~1.53)であった。

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コントロール不良高血圧、lorundrostatが有望/NEJM

 コントロール不良の高血圧の治療において、プラセボと比較してアルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatは、24時間平均収縮期血圧を有意に低下させ、安全性プロファイルは許容範囲内と考えられることが、米国・Cleveland Clinic FoundationのLuke J. Laffin氏らが実施した「Advance-HTN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。米国の第IIb相無作為化プラセボ対照比較試験 Advance-HTN試験は、コントロール不良または治療抵抗性の高血圧の治療におけるlorundrostatの有効性と安全性の評価を目的とする第IIb相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2023年3月~2024年10月に米国の103施設で参加者のスクリーニングを行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、2~5種類の安定用量の降圧薬による治療を受けており、診察室血圧が収縮期140~180mmHgで拡張期65~110mmHg、または収縮期血圧を問わず拡張期血圧90~110mmHgの患者に対し、それまでの降圧薬の投与を中止して標準化された降圧薬レジメンを3週間投与した。 その後、コントロール不良(24時間自由行動下平均収縮期血圧130~180mmHg、平均拡張期血圧>80mmHg)の患者を、lorundrostat 50mgを1日1回、12週間投与する群(安定用量群)、lorundrostat 50mgを4週間投与し、診察室収縮期血圧が130mmHg以上の場合は100mgに増量して8週間投与する群(用量調節群)、またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、24時間平均収縮期血圧のベースラインから12週目までの変化量とした。2群とも主要エンドポイントが有意に改善 285例(平均年齢60歳、男性60%、黒人53%)を登録し、安定用量群に94例、用量調節群に96例、プラセボ群に95例を割り付けた。262例が無作為化から4週時の血圧測定を、241例が12週時の血圧測定を完了した。 無作為化から12週の時点における24時間平均収縮期血圧の最小二乗平均変化量は、安定用量群で-15.4mmHg、用量調節群で-13.9mmHg、プラセボ群で-7.4mmHgであった。プラセボで補正後の血圧変化量は、安定用量群で-7.9mmHg(97.5%信頼区間[CI]:-13.3~-2.6、p=0.001)、用量調節群で-6.5mmHg(97.5%CI:-11.8~-1.2、p=0.006)といずれも有意な改善を認めた。 2つのlorundrostat群を合わせた188例における、ベースラインから4週目までの24時間平均収縮期血圧のプラセボで補正後の変化量は-5.3mmHg(95%CI:-8.4~-2.3、p<0.001)であり、有意に良好だった。試験薬関連の重篤な有害事象は3例 重篤な有害事象は、安定用量群で6例(6%)、用量調節群で8例(8%)、プラセボ群で2例(2%)に発現した。試験薬に関連した重篤な有害事象は、それぞれ2例(2%)、1例(1%)、0例であった。用量調節群の1例が動脈硬化で死亡したが、試験薬との関連はないと判定された。 カリウム値が6.0mmol/Lを超えた患者は、安定用量群で5例(5%)、用量調節群で7例(7%)であり、プラセボ群には認めなかった。用量の調節を要する推算糸球体濾過量(eGFR)の低下は、それぞれ3例(3%)、7例(7%)、3例(3%)にみられた。 著者は、「観察された有効性は、アルドステロンが高血圧の病因において重要な役割を果たしているという考え方をより強固なものにする」「スクリーニングを受けた患者の大部分が標準化された降圧薬レジメンにより血圧コントロールを達成したため、無作為化の対象とならなかった。おそらく、コントロール不良の治療抵抗性高血圧が確認された患者のみが無作為化を受けることができたという事実が、黒人の参加者の割合が高かったことに寄与したと考えられる」としている。

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エサキセレノンは、高齢のコントロール不良高血圧患者にも有効(EXCITE-HTサブ解析)/日本循環器学会

 高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。 「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。 本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg 群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg 群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-28.3%vs.−38.1% 65歳以上:-46.8%vs.-45.0%【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL 65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。 エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 有害事象:35.1%vs.37.6% 試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:4.4%vs.14.0% 65歳以上:1.9%vs.9.5%【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:2.2%vs.0.8% 65歳以上:1.9%vs.0.6% 苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。(ケアネット 古賀 公子)■参考文献はこちら1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.そのほかのJCS2025記事はこちら

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帯状疱疹生ワクチン、認知症を予防か/JAMA

 米国・スタンフォード大学のMichael Pomirchy氏らは、オーストラリアにおける準実験的研究の結果、帯状疱疹(HZ)ワクチンの接種が認知症のリスクを低下させる可能性があることを示した。オーストラリアでは、全国的なワクチン接種プログラムにおいて2016年11月1日から70~79歳を対象に弱毒HZ生ワクチンの無料接種を開始。同時点で1936年11月2日以降に生まれた人(2016年11月1日時点で80歳未満)が対象で、それ以前に生まれた人(80歳になっていた人)は対象外であったことから、著者らは、年齢がわずかに異なるだけで健康状態や行動は類似していると想定される集団を比較する準実験的研究の利点を活用し、HZワクチン接種の適格基準日である1936年11月2日の前後に生まれた人について解析した。結果を踏まえて著者は、「先行研究であるウェールズでの知見を裏付ける結果であり、認知症に対するHZワクチン接種の潜在的利益には因果関係がある可能性が高いエビデンスを提供するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年4月23日号掲載の報告。誕生日で分かれたワクチン接種適格者と不適格者の、認知症新規診断率を比較 研究グループは、オーストラリアにおけるプライマリケアの電子カルテ情報を提供している医療情報会社「PenCS」のデータを用い、2016年11月1日時点で50歳以上で、1993年2月15日~2024年3月27日にプライマリケア65施設を受診した患者10万1,219例を対象に、認知症の新規診断とHZワクチン接種との関連について解析した。この65施設は、PenCSソフトウェアを使用しており、電子カルテのデータを研究に使用することに同意した施設である。 主要アウトカムは、追跡期間中(2016年11月1日~2024年3月27日)に新たに診断された認知症であった。回帰不連続(RD)デザインを用い、HZワクチン接種の生年月日適格基準である1936年11月2日以降に生まれた接種適格者と、それ以前に生まれた接種不適格者を比較した。RDデザインでは、閾値周辺の帯域に分析を制限することに加えて、閾値(1936年11月2日)に最も近い日に生まれた人に最も高い重みが割り当てられる。追跡期間7.4年間において、接種適格者で認知症診断確率が1.8%ポイント低い 10万1,219例のうち52.7%が女性で、2016年11月1日時点の平均年齢は62.6歳(SD 9.3)であった。このうち、主要解析の解析対象集団(平均二乗誤差の最適帯域である1936年11月2日の前後482週間に生まれた人)は1万8,402例で、54.3%が女性で、平均年齢は77歳(SD 4.7)であった。これら集団の接種適格者と不適格者で、ベースラインにおける過去の予防的医療の利用状況や慢性疾患既往歴に差はなかった。 追跡期間においてHZワクチン接種を受ける確率は、適格基準日後1週間に生まれた接種適格者では、基準日前の1週間に生まれた接種不適格者と比べて16.4%ポイント(95%信頼区間[CI]:13.2~19.5、p<0.001)高いと推定された。両集団は、HZワクチン接種確率を除けば、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、降圧薬またはスタチンの使用や、HZワクチン以外のワクチン接種などの他の予防医療サービス利用の確率は類似していた。 追跡期間7.4年間に新たに認知症と診断される確率は、接種適格者では不適格者より1.8%ポイント(95%CI:0.4~3.3、p=0.01)低かった。接種適格性について、他の予防医療サービスを受ける確率や、認知症以外の慢性疾患の診断を受ける確率への影響はみられなかった。

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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健康行動変容支援システムは体重のリバウンド対策に有効か

 ダイエットでは体重のリバウンドが常に課題となる。では、減量した体重の維持には、認知行動療法(CBT)などを活用した健康行動変容支援システム(HBCSS)は有効だろうか。この課題に対し、フィンランドのオウル大学生体医学・内科学研究ユニットのEero Turkkila氏らの研究グループは、ウェブベースのHBCSSの長期的有効性評価を目的に、2年にわたり検証を行った。その結果、12ヵ月間のHBCSS介入では、5年後の体重減少について非HBCSSよりも良好に維持することはできなかった。この結果は、International Journal of Obesity誌2025年3月15日オンライン版で公開された。5年間の追跡では体重変化に群間差がなかった 研究グループは、合計532例の過体重または肥満(BMI27~35)の参加者を、CBTに基づくグループカウンセリング、自助ガイダンス(SHG)、通常ケアの介入強度の異なる3つのグループに分けた。これらの群はさらにHBCSS群と非HBCSS群に分けられ、HBCSSは52週間のプログラムとし、5年間追跡した。 主な結果は以下のとおり。・HBCSS群と非HBCSS群のベースラインからの平均体重変化率と95%信頼区間[CI]は、5年後にそれぞれ1.5%(-0.02~2.9、p=0.056)、1.9%(0.3~3.3、p=0.005)だった。・6群のうちHBCSSを用いなかったSHG群では、5年後の体重増加率が3.1%(95%CI:0.6~5.6、p=0.010)とベースラインから統計的に有意に増加したが、他の群では体重の有意な増加はみられなかった。・5年経過時点で体重変化では群間に有意差はなかった。・HBCSS群では、5年間で降圧薬の服用開始数が少なくなった(p=0.046)。 研究グループでは、これらの結果から「12ヵ月間のHBCSS介入群では、5年後の体重減少を非HBCSS群よりも良好に維持することはできなかった一方で、5年間を通じ有意な体重差はHBCSS群に有利であった。降圧薬の必要性が減少したことは、HBCSS群による早期からの有意な体重減少が、健康増進へレガシー効果を持ったことを示唆する」と結論付けている。

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