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アリピプラゾール持続性注射剤を使いこなすために

 アリピプラゾール持続性注射剤(ALAI)が臨床使用可能となった。オーストラリア・モナッシュ大学のNicholas A Keks氏らは、ALAIの使用を決定する際の臨床医を支援するため本研究を行った。Australasian psychiatry誌オンライン版2016年2月23日号の報告。 主なまとめは以下のとおり。・アリピプラゾールは、過鎮静を起こしにくく、代謝プロファイルも比較的良好であり、プロラクチンを低下または上昇させない特長を有するドパミンパーシャルアゴニストである。・アリピプラゾールは10年以上使用されており、統合失調症治療に有用な選択肢として、多くの臨床医に認識されている。・ALAIは、水溶性結晶アリピプラゾール懸濁液で、初回筋肉内注射後、定常状態に達するまで5~7日間を要する薬剤である。・毎月注射を行うことで、4ヵ月で定常状態に達する。・研究では、ALAIは、アリピプラゾール応答患者に有効であることが実証されている。・ALAIは、一般的に忍容性が良好だが、経口投与よりも錐体外路系の副作用を起こしやすい傾向がある。・ALAIは、他の持続性注射剤との比較は行われていない。・推奨される開始用量は400mgだが、大幅な個人差による用量設定が必要な可能性がある。・各患者における至適用量の最適化は、最高の有効性と忍容性のために必要である。・ALAIは、現時点では、持続性注射剤が必要なアリピプラゾール応答患者に適切である。・しかし、臨床医は、とくに他の持続性注射剤で体重増加や高プロラクチン血症が問題となる患者に投与する可能性がある。関連医療ニュース アリピプラゾール持続性注射剤の評価は:東京女子医大 アリピプラゾール注射剤、維持療法の効果は 2つの月1回抗精神病薬持効性注射剤、有用性の違いは

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過敏性腸症候群に新たな光が(解説:内藤 正規 氏)-493

 過敏性腸症候群は、日本人の約10~15%に認められる頻度の高い疾患であり、消化器症状により受診する人の約3割を占めるといわれている。内視鏡検査や血液検査で明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部不快感を伴う便秘や下痢が長く続き、多くの人々を悩ませている。そのような人々に光を差す可能性がある、下痢型の過敏性腸症候群に対しての新たな治療薬である混合型オピオイド作用を有する製剤eluxadolineの有効性を示す第III相試験の結果が、Anthony J Lembo氏らのグループにより報告された。 オピオイド受容体には、μ・κ・δの3種類のサブタイプがあり、主な発現部位や薬理作用が異なる。μ受容体の刺激は、鎮痛作用と消化管運動の抑制作用を発揮し、κ受容体の活性化は鎮痛・鎮静作用を発揮する。一方、δ受容体は、情動・神経伝達物質の制御や依存に関与する。eluxadolineは、μ・κ受容体のアゴニスト、δ受容体のアンタゴニストであり、鎮痛・鎮静作用と消化管運動の抑制作用を有し、依存性を回避できる薬といえる。 eluxadolineの投与により、腹痛の軽減、便性状の改善が得られた症例の割合は投与期間を問わず、プラセボ群、150mg/日を投与した群、200mg/日を投与した群の順に有意に高くなり、下痢型の過敏性腸症候群に対して量依存性に有効であった。一方、悪心・便秘・腹痛といった有害事象は、有意ではないものの量依存性にプラセボ群と比較して高い傾向にあり、少ないものの膵炎の発症も認めた。 本試験の結果から、過敏性腸症候群に対してeluxadolineが有効で安全であることが示された。下痢型の過敏性腸症候群の治療に新たな光を差す薬剤であると考えられるが、有害事象に対する医療者の注意も必要である。

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らい性結節性紅斑〔ENL : erythema nodosum leprosum〕

1 疾患概要■ 概念・定義ハンセン病はらい菌(Mycobacterium leprae)による慢性抗酸菌感染症である。しかし、病気の経過中にらい菌の成分に対する免疫反応が亢進し、急性の炎症症状を呈することがあり、これをらい反応(lepra reaction)という1、2)。この反応によって組織障害、とくに末梢神経障害が起こり、後遺症となることがある。らい反応には2つの型、すなわち1型らい反応(type 1 reaction、同義語として境界反応〈borderline reaction〉、あるいはリバーサル反応〈reversal reaction:RR〉)と、2型らい反応(type 2 reaction、同義語としてらい性結節性紅斑〈erythema nodosum leprosum:ENL〉)がある。本項ではENLについて記載するが、理解を深めるためハンセン病についても適宜記載する2、3、4)。なお、ハンセン病、ENLは一般病院で保険診療として取り扱っている。■ 疫学ENLはハンセン病患者のうち、菌の多いタイプ(多菌型〈multibacillary:MB〉)に発症する(表1)。らい菌に対する生体の免疫応答を基にした分類であるRidley-Jopling分類では、LL型とBL型に発症する。ENLはMB患者の10~50%にみられる。発症はハンセン病治療前に1/3、1/3は治療6ヵ月以内(とくに治療数ヵ月後)に、残り1/3は6ヵ月後に起こるとされている。画像を拡大する■ 病因多菌型(MB)のLL型、BL型の患者では、らい菌に対する細胞性免疫能は低下しているが、十分なB細胞と形質細胞が存在するので、それらの細胞が活性化を受け、大量の菌抗原が大量の抗体を作る。この場合、過剰に作られた抗体と菌抗原と補体との間で免疫複合体(immune complex)が作られ、皮膚、神経、血管壁やほかの臓器に沈着し、多数の好中球浸潤を伴った炎症性反応を生む。TNF-αは、ENL発症で重要な役割を演じると考えられている。■ 症状ENLは、らい菌抗原があれば、すなわちLL型やBL型の病巣のある所では、皮膚、リンパ節、神経、関節、眼、睾丸など、どこでも急性炎症を起こしうる(表2)。画像を拡大する典型的なENLは、いわゆる発熱を伴って発症する。39~41℃ほどの高熱を発し、全身倦怠・関節痛が起きる。皮膚では一見正常の皮膚に、小豆大から拇指頭大までの圧痛を伴う硬結や隆起性紅斑を生ずる(図1)。画像を拡大する四肢によくみられるが半数の症例で顔面にも生じる。個疹は数日で消退するが、次々と皮疹が新生する。重症例では圧痛を伴う膿疱ができたり、膿瘍形成や、平坦な紅斑に囲まれた紫斑様皮疹、中心臍窩を有する結節性紅斑、水疱をもつもの、自壊して潰瘍を形成し瘢痕化するものもある。白斑や瘢痕を残すことがある。鼻腔粘膜のENLは、結節形成よりも浸潤性変化として、鼻閉、鼻汁、痂皮、鼻中隔の萎縮が起こる。病理組織学的には真皮から皮下脂肪織に多数の好中球の集積を認める。血管壁に多核球が浸潤し壊死性血管炎を認めたり、免疫組織化学染色で免疫複合体が沈着したりすることもある。末梢神経炎を起こし、耐え難い疼痛に苦しめられる。とくに尺骨神経の上方の部分に腫脹疼痛がよく起こり、ENLの経過中に手指などに変形を起こしてくる例も少なくない。神経炎だけで不眠・食欲減退・うつ状態が起こる。ENLの末梢神経炎が引き起こす機能障害は、急激に高度に現れるものではないが、目立たない形で徐々に障害が起こる。眼に急性の虹彩毛様体炎や上強膜炎を起こし、充血・眼痛・羞明・視力低下を来す。ENLを繰り返すと慢性の虹彩毛様体炎を起こし、虹彩癒着・小瞳孔の原因ともなり、続発性緑内障につながって失明の遠因になる。感覚神経障害性の難聴が起こる。精巣炎や陰嚢水腫を起こすが、その後の睾丸の萎縮の程度は、罹病期間とENLの既往歴に深く関係する。■ 予後通常良好である。しかし、軽度の炎症が数ヵ月から数年にわたって持続し、神経障害が少しずつ進行することもある。ENLは再発しやすいので、ENLを発症したときには長く経過観察を続けるようにする。ENLが起こっても、この反応自体が菌を殺したり、排除するためには役に立たないので、菌陰性化が進むわけではない。したがってハンセン病そのものの予後とは関係がない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)現在、反応状態であるという診断は、主に臨床像で決められている。らい反応を診断するには、らい反応を疑うことから始まる。ハンセン病の診断がなされていなくてENLを主訴として初めて外来受診することもある。診断は臨床症状(表2)と検査所見(白血球数増加、好中球数増多、血沈亢進、CRP高値、血清TNF-α上昇など)、皮膚病理組織所見などを総合して行う。ENLとその他の主な皮膚疾患との鑑別を表3に示した。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)基本的な注意として安静を守らせる。仕事、学校などは無理のない程度に行う。飲酒を控え睡眠を十分にとる。多臓器症状を呈する場合には、入院安静も考慮する。ENLを軽症と重症に分類し、それに従って治療方針を立てる(表4)。なお、ハンセン病の治療については、ENLを起こしていても継続する。画像を拡大する軽症では、疼痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)や鎮静薬などを適宜投与する。重症と診断すれば、積極的に反応を抑制する治療を行う。ENLにはサリドマイド(thalidomide)が著効する。投与したその日から、ENLの自覚症状や発熱などの全身症状が劇的に消退する。サリドマイドは、ENLの90%の患者で効果的であり、第1選択薬である。サリドマイドが効果的であることが、ENLの診断を確定する方法としても有用である。サリドマイドの使用法を図2に示した。「らい性結節性紅斑(ENL)に対するサリドマイド診療ガイドライン」が作成されているので、使用にあたっては熟読する5)。画像を拡大するサリドマイドは、ヒトにおいて催奇形性が確認されているので、安全管理手順を順守する。現在日本で保険適用になっているサリドマイドは、サレド(商品名)カプセルであり、「サリドマイド製剤安全管理手順(Thalidomide Education and Risk Management System:TERMS®)」を厳守する。何らかの事情でサリドマイド治療が困難な場合、ステロイド内服薬の全身投与も有効である。投与量は0.5~1mg/kg/日で開始する。減量方法は通常の漸減方法と同様であるが、とくに少量になってからは漸減の間隔を延ばすほうがよい。ステロイド内服薬の長期投与が必要なときは、クロファジミン(clofazimine:CLF、B663〈商品名:ランプレン〉)を併用するとよい。CLFはENLを抑制する効果がある。虹彩毛様体炎を抑制するともいわれている。したがって、ENLが生じた場合に、あるいは神経痛などの症状があり、らい反応も疑われるような時期にCLFの投与を行うことがある。しかし、サリドマイドやステロイド内服薬に認められるような明らかな抗ENL作用はないと考えられる。通常50mg/日を100mg/日(外国では最大200mg/日処方する例もある)にすることで、サリドマイドやステロイド内服薬の投与量の減少を試みる。ただし100mg/日の投与で色素沈着が顕著になり、まれに下痢・腹痛も起こる。ENLについては、何か自覚症状に気付いたら、すぐに受診させる。皮疹の発赤と腫脹、新しい皮疹、神経の急な腫脹、神経痛、羞明、発熱などのほかに、かすかな筋力の低下や感覚異常、時にはかゆみ、神経過敏にも注意深い観察をするように指導する。ハンセン病治療終了後に初めてのENLが起きることがあること、3年以内は皮膚症状も生じうること、それ以降も数年にわたって神経症状だけが出ることがあることも事前に説明しておく。ENLは、年余にわたり服薬指導の厳しいサリドマイド、副反応の起こりやすいステロイド内服薬を長期間内服し、さらに全身の痛みや発熱、失明の不安などもあるため、精神的なケア(カウンセリング、抗うつ薬投与など)も重要である。4 今後の展望ENLの治療薬であるサリドマイドは、ブラジル、日本、米国などでは使用されているが、患者の多い途上国では催奇形性の関係から使用されていない。安全で有効性の高い抗ENL薬の早期の開発が望まれる。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報国立感染症研究所 ハンセン病研究センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)WHOのハンセン病ページ(医療従事者向けのまとまった英文情報サイト)国立感染症研究所 感染症疫学センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)熊野公子. 日ハンセン病会誌.2002;71:3-29.2)石井則久著 中嶋 弘監修. 皮膚抗酸菌症テキスト.金原出版;2008.p.1-130.3)石井則久ほか責任編集. ハンセン病アトラス.金原出版;2006.p.1-70.4)後藤正道ほか. 日ハンセン病会誌.2013;82:143-184.5)石井則久ほか. 日ハンセン病会誌.2011;80:275-285.公開履歴初回2013年11月28日更新2016年03月01日

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悪名は無名に勝るとはいうけれど…ベンゾジアゼピンの憂鬱(解説:岡村 毅 氏)-479

 これまでに、ベンゾジアゼピン(以下Bzと略す)は認知症発症の危険因子であるとする報告がいくつかなされている。しかし、本研究は大規模な前向き調査ではおおむね否定されたという報告である。おおむねというのは、厳密には少量の摂取ではわずかに関連があるが多量の摂取だと関連は消えるという、奇妙な結果だからである。考え方はいろいろあるだろうが、公平に見れば「危険因子とはいえない」となるだろう。 まず、2点コメントする。1つはデザインに関してであるが、認知症前駆期には当然不安が生じ、Bzの投薬を受けてしまう可能性があるので、発症前の1年あるいは2年のラグ(この間の内服を計上しない)を設けたモデルで解析してある。そして、結果は仮説通りで、ラグが長いほどリスクは低下した。これは、認知症前駆期のBzの処方(つまり不安など)が増えているということである。考えてみれば認知症の前駆期は…いや老いとは、不安なものである。迫り来る超越的出来事(死や、主体の変容)を思えば当然だ。しかし、後述のようにBzが高齢者に投与しにくいことを考えると、高齢者の不安は可能な限り非薬物的にとるべきである…言うまでもなく、それは家族や友人や地域の人々と一緒にいるという安心によってとるべきなのである。 次に結果に関してであるが、(大量ではなく)少量だと認知症リスクという、にわかに納得しがたい結果は次のように考察されている。すなわち、認知症前駆期にはせん妄などの有害事象に対していっそう脆弱になるのでBzは減量されるのではないかと。疫学論文でありながら、この臨床的なセンスには驚くばかりである。  以下は気楽にお読みください。 筆者はBzに恨みがあるわけではなく、同時に擁護する立場にもないが、Bzほど評判の悪い薬剤はないだろう。 そもそもBzとは、GABA受容体を活性化させ、鎮静、抗不安、抗けいれんという3つの作用に加えて、筋弛緩作用をもたらす。したがって、Bzは「抗不安薬」「抗てんかん薬」「睡眠薬」に分類され、しかも複数にまたがるものも多く、同時に副作用に「ふらつき」があるというわかりにくさがある。とくに高齢者では、加齢に伴う代謝能の低下により効果が必要以上に持続しやすく(ハングオーバー)、日中の傾眠をもたらし(同時に認知機能の低下)、いっそうの夜間の不眠やせん妄を惹起する。ふらつきにより高齢者の骨折のリスクを増加させるという報告は多い。エビデンスだけをみると、気楽には処方はしかねるという状況である。 同時に、これほど(少なくとも精神科の)臨床現場で頻繁に遭遇する薬剤はない。そして、大学病院ではおおむね不適切に大量に出されているものを減薬することがほとんどだ(最近ぼんやりしているので認知症になったのではないかと家族に連れられて受診した高齢者が、大量のBzを日中に内服していて、減薬とBz以外の少量眠前処方に置換しただけで解決した、というようなケースである)。処方する者を擁護するわけではないが、これにはいくつか背景がある。 まず、今では使われないが、かつてBzは「マイナー・トランキライザー」などといわれた。メジャー/マイナーという呼称は、専門家にとっては一般の方が使うスラングみたいなものであるが、「マイナー」というからには何となく安全な薬というイメージがあったことだろう。 また、身体疾患と共に生きることは不安であり、不眠にもなるだろう。そのため、さまざまな科でわりと気楽に処方されてきた。とくに精神科等への敷居が高かった時代は、親切なお医者さんは「精神科に行きなさい」などと言わずに処方してくれていたものだ。 最後に、即効性があり、主観的に効果を感じられる「いい薬」である。患者さんに「○○○を○錠○日分ください」などと指示的に言われるのは大体がBzだ(あくまで個人的な意見です)。依存性もあるし、今飲んでいるほかの薬との飲み合わせもよくないので処方できないと伝えると「医者なんて薬を出しときゃいいんだ!」と怒られたりしたこともある(若造のころの話である)。一方で「先生、この薬でないとダメなんです。これまでいろいろ試してこうなったんです。頼れるのは先生だけです」と泣き落としもある。 Bzは、学問的にはあまり推奨されていないにもかかわらず、臨床現場では脈々と過度に処方されてしまい問題とされている。Bzにとっては、感謝はされないのに多用されるという、あんまりな立場である。 加えて、認知症にもなってしまうという悪名を着せられつつあったBzであったが、さすがにそれは否定されたのが本研究である。しかし、本論文でも最後に「因果関係は否定されたけど、やはり有害事象は多いのだから処方は避けるべきだ」と書かれてしまっている。

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レノックス・ガストー症候群〔LGS : Lennox-Gastaut syndrome〕

1 疾患概要■ 定義・疫学Lennox-Gastaut syndrome(LGS)は、小児期発症のてんかん症候群のうち、1~10%を占める。典型例は、(1)脳波異常:遅棘徐波(<3 Hz)、(2)精神遅滞・認知障害、(3)多彩な難治性てんかん発作を呈する。1~8歳の小児期(多くは3~5歳)に発症し、やや男児に多い。■ 病因60%は症候性であり、原因として周産期障害、局所性皮質形成異常、結節性硬化症、ダウン症候群、頭部外傷などが挙げられる。残りの40%は潜因性である。30~65%は症候群から移行する。近年、全エクソン解析によって遺伝学的背景が明らかとなってきており、CHD2、HNRNPU、DNM1、GABRB3、SCN1Aなど複数の原因遺伝子が報告されている。■ 症状LGSの75%以上は、2種類以上の発作型を有する。1)強直発作最も多い発作型であり診断には必須とされる。レム睡眠期に頻度が高く、数秒間の短い発作であり、軸性(頭部・頸部)、体軸-肢体性(上肢)、全身性に分類される。頻脈、顔面紅潮、瞳孔散大、失禁などの自律神経症状を伴う。2)非定型欠神発作強直発作と同程度の頻度で認められる。小児の定型欠神発作と比較すると、発作の起始と終了は不明瞭であり、持続時間が長いことが特徴である。眼瞼や口部のミオクローヌス、四肢屈曲、頸部強直などの運動発作や自動症を伴うこともある。3)脱力発作頻度は10~56%とされ、強直発作より少ない。程度はさまざまで、頭部前屈のみの発作から転倒を伴うものまでみられる。発作に先行してミオクローヌスを認めることもある。4)その他全身強直間代性けいれん、ミオクロニー発作や複雑部分発作もみられる。5)非けいれん性てんかん重積LGSでは、50~75%と比較的高頻度にみられる。活動性低下や意識混濁が長く続き、運動要素を伴う発作頻度が増加する。強直発作が、覚醒・睡眠中にほぼ持続的に出現する強直発作重積もみられることがある。■ 脳波所見遅棘徐波(1.5~2.5 Hz)を認め、覚醒から入眠期にかけて増加し、最大振幅は前頭葉であることが多い(図)。ノンレム睡眠時には広汎性多棘徐波複合となり、覚醒時と比較して周波数は遅くなる。深睡眠では、特徴的な10~15Hzのrapid rhythmを認める。背景活動の周波数は、年齢に比して遅い。脱力発作では、頭部や顔面の外傷を予防するため、ヘルメットなどで保護する必要がある。■ 予後てんかんは小児期に始まり、成人期まで難治性のまま経過する。認知発達は障害され、LGS発症5年後で75~90%に精神遅滞を認める。行動異常や自閉性も伴い、大部分は教育において特別支援を要する。早期発症やWest症候群から移行した例、重積発作を反復する例では、より予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)Severe myoclonic epilepsy of infancy(SMEI または Dravet症候群)乳児期に発熱と関連する、全身性けいれんで発症する。その後、1~4歳頃に無熱性の間代性けいれん、ミオクロニー発作、非定型欠神発作を認める。LGSとは異なり、熱性けいれんやてんかんの家族歴を高率に認め、SCN1A遺伝子変異を認めることが多い。2)ミオクロニー失立てんかん(MAE または Doose症候群)発症年齢や発作型がLGSと類似しており、鑑別困難な疾患の1つであるが、LGSと比較して、MAEは発症時に正常発達であることが多く、経過に伴って発作の主体がLGSは強直性けいれん、MAEではミオクロニー失立発作となる特徴がある。また、発症から数年後にけいれん発作が軽快する予後良好な症例群がみられることも、LGSと異なる。覚醒時脳波では、開眼によっても消失しない4~7Hz頭頂後頭部θ波が特徴的である。3)非定型良性小児部分てんかん/偽性LGS睡眠時の部分発作や非定型欠神発作、ミオクロニー発作、脱力発作を認める。脳波では、深睡眠での頻回もしくは持続性の棘徐波が特徴である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 抗てんかん薬2013年3月にルフィナミド(商品名:イノベロン)が、LGSに対する他のてんかん薬との併用療法として承認された。有効率は32.7%で、特に強直発作と脱力発作に対する効果が示唆されている。バルプロ酸(同:デパケンほか)とラモトリギン(同: ラミクタール)はすべての発作型にある程度効果を認めるが、脱力発作により有効である。フェニトイン(同:アルビアチンほか)は強直発作、エトスクシミド(同:エピレオプチマルほか)は脱力発作への効果が報告されている。クロバザム(同:マイスタン)高容量(1.0mg/kg/day)で脱力発作が40%以上減少したと報告があるが、鎮静や分泌増加の副作用に注意する必要がある。その他、トピラマート(同:トピナ)とfelbamate(わが国では未承認)は脱力発作をそれぞれ34%、 14.8%減少させる有効性が報告されている。■ その他外傷を伴う転倒発作に対して、脳梁離断術が行われるが、効果は一定しない。迷走神経刺激療法は、種々の発作、とくに脱力発作への有効性が示唆されている。4 今後の展望原因遺伝子が複数同定されてきており、今後分子病態を基にした新規抗てんかん薬の開発が期待される。5 主たる診療科小児神経科(日本小児神経学会ウェブサイトより)てんかん科(日本てんかん学会ウェブサイトより)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)小児慢性特定疾患(日本小児神経学会)(一般利用者向けと会員医療従事者向けのまとまった情報)てんかん診療ネットワーク(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Living with LGS(一般利用者向けの英文サイト)1)Crumrine PK. Paediatr Drugs.2011;13:107-118.2)VanStraten AF, et al. Pediatr Neurol.2012;47:153-161.3)久保田雅也.小児てんかんの最新医療.In:五十嵐隆、岡明 編.小児科臨床ピクシス3.中山書店;2008.p.146-149.4)Beaumanoir Aほか. Lennox-Gastaut症候群.In: J Rogerほか編.てんかん症候群 乳幼児・小児・青年期のてんかん学.中山書店;2007.p.123-145.5)Epi4K Consortium & Epilepsy Phenome/Genome Project, et al. Nature.2013;501:217-221.6)Montouris GD, et al. Epilepsia.2014;55:10-20.公開履歴初回2013年07月11日更新2016年01月12日

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産後女性の精神症状軽減へ、ハーブティーの可能性

 出産後の女性において、睡眠の質を確保することは重要な問題である。カモミールは、催眠鎮静作用を有するといわれていることから、広く民間療法として使用されている。台湾・輔英科技大学のShao-Min Chang氏らは、カモミールが出産後女性の睡眠の質や疲労、うつ病に及ぼす影響を評価した。Journal of advanced nursing誌オンライン版2015年10月20日号の報告。 プレテスト・ポストテストデザインの無作為化対照試験を実施した。対象は、睡眠の質が悪い出産後の台湾女性80人(2012年11月~2013年8月、PSQS[Postpartum Sleep Quality Scale]スコア16以上)。対象者を、介入群40人、対照群40人にランダムスタートで系統的に割り付けた。介入群は、2週間カモミールティーを飲むように指示された。対照群は、定期的な産後ケアのみを受けた。PSQS(産後睡眠の質スケール)、エジンバラ産後うつ病スケール、Postpartum Fatigue Scale(産後疲労スケール)を用い評価した。2標本t検定は、2群間のアウトカム変数の平均差を使用した。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較し、介入群は身体症状関連の睡眠の非効率(t=-2.482、p=0.015)とうつ症状(t=-2.372、p=0.020)において有意に低い得点を示した。・しかし、3つの評価尺度すべてにおいて、試験後4週時点で両群とも同様であり、カモミールティーの効果は短期的なものに限定されていることが示唆された。 結果を踏まえ、著者らは「カモミールティーは、産後女性のうつ病や睡眠の質の問題を軽減する補助的なアプローチとして勧めることができる」とまとめている。関連医療ニュース 妊娠に伴ううつ病、効果的なメンタルヘルス活用法 産後うつ病への抗うつ薬治療、その課題は 栄養補助食品は産後のうつ病予防に有用か  担当者へのご意見箱はこちら

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せん妄治療への抗精神病薬投与のメタ解析:藤田保健衛生大

 藤田保健衛生大学の岸 太郎氏らは、2007年に報告した、せん妄治療に対する抗精神病薬のメタ解析のアップデートを行った。Journal of neurology, neurosurgery, and psychiatry誌オンライン版2015年9月4日号の報告。 本メタ解析には、せん妄の成人患者を対象とし、対照(プラセボまたは通常ケア)と比較した抗精神病薬の無作為化比較試験を用いた。主要評価項目は、試験終了時の反応率とした。副次評価項目は、せん妄の重症度改善、臨床全般印象・重症度尺度(CGI-S)、無作為化から奏効までの期間(time to response : TTR)、中断率、個々の有害事象とした。リスク比(RR)、治療必要数(NNT)および有害必要数(NNH)、95%CI、標準化平均差(SMD)が計算された。 主な結果は以下のとおり。・15件の系統的レビュー(平均期間9.8日、総症例数949例、amisulpride 20例、アリピプラゾール8例、クロルプロマジン13例、ハロペリドール316例、オランザピン筋注またはハロペリドール注62例、オランザピン144例、プラセボ75例、クエチアピン125例、リスペリドン124例、通常ケア30例、ziprasidone32例)、4件の学会抄録と未発表研究を同定した。・抗精神病薬治療群全体でまとめると、プラセボや通常ケアと比較し、反応率(RR:0.22、NNT:2)、せん妄の重症度スコア(SMD:-1.27)、CGI-S(SMD:-1.57)、TTR(SMD:-1.22)の点で優れていた。・また、抗精神病薬治療群はプラセボや通常ケアと比較し、口渇(RR:13.0、NNH:5)、鎮静(RR:4.59、NNH:5)の発生率が高かった。・第2世代抗精神病薬群でまとめると、ハロペリドールと比較し、TTRが短く(SMD:-0.27)、錐体外路症状の発生率が低かった(RR:0.31、NNH:7)。・第2世代抗精神病薬は、ハロペリドールと比較し、有効性・安全性の面でせん妄治療に有用であることが示唆された。ただし、より大規模なサンプルを用いた、さらなる研究が必要である。関連医療ニュース せん妄患者への抗精神病薬、その安全性は せん妄管理における各抗精神病薬の違いは 定型vs.非定型、せん妄治療における抗精神病薬

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外傷性脳損傷後の頭蓋内圧亢進に対する低体温療法には有益性なし(解説:中川原 譲二 氏)-444

 これまで、外傷性脳損傷後の頭蓋内圧亢進に対する低体温療法は有効と考えられてきたが、英国・ウェスタン総合病院のPeter J.D. Andrews氏らが、400例弱を対象に行った無作為化比較対照試験の結果によると、低体温療法は機能的アウトカムをむしろ悪化させる可能性があることが報告された(NEJM誌オンライン版2015年10月7日号掲載の報告)。6ヵ月後の転帰を拡張Glasgow Outcome Scale (GOS-E)スコアで評価 研究グループは2009年11月~14年10月にかけて、18ヵ国47ヵ所のセンターにおいて、外傷性脳損傷の成人患者で、人工呼吸と鎮静管理などの第1段階治療を行っても20mmHg超の頭蓋内圧亢進が認められた患者を対象とし、無作為に標準的治療(対照群)と低体温療法(32~35℃)+標準的治療に割り付けた。対照群では、頭蓋内圧コントロールを目的に、必要に応じて高張液による浸透圧療法などの第2段階治療を行った。低体温療法群では、低体温療法で頭蓋内圧コントロールが不能な場合にのみ、第2段階治療を行った。また、両群ともに第2段階治療によっても頭蓋内圧コントロールが不能な場合には、第3段階治療(バルビツレート療法、減圧開頭術)を実施した。 主要アウトカムは、6ヵ月後の拡張グラスゴー転帰尺度(Glasgow Outcome Scale:GOS-E、スコア範囲:1~8点で点数が低いほど機能的アウトカムが悪化)とした。GOS-Eスコア良好の割合は対照群37%、低体温療法群26% この研究は、研究期間中に安全性の観点から一次中断されたが、研究グループは387例を組み入れた。その結果、第3段階治療を要した人の割合は、対照群が54%に対し、低体温療法群が44%だった。GOS-Eスコアの調整オッズ比は1.53(95%信頼区間:1.02~2.03、p=0.04)と、対照群に比べ低体温療法群のアウトカムの悪化が示された。GOS-Eスコアが、5~8とアウトカム良好の割合も、対照群37%に対し、低体温療法群は26%と有意に低率だった(p=0.03)。すなわち、外傷性脳損傷後の頭蓋内圧亢進(20mmHg以上)の患者では、頭蓋内圧を下げるための低体温療法+標準治療は、標準治療単独よりも良好な転帰をもたらさないと結論された。低体温治療プロトコルの見直しが必要 本邦でも、低体温療法(32~35℃)は頭蓋内圧をコントロールする治療法として有効と考えられ、外傷性脳損傷に対して実施されているが、機能的アウトカムを改善させるほど有益であるかどうかは必ずしも明確ではなかった(日本脳神経外科学会.重症頭部外傷治療・管理ガイドライン.第3版.医学書院;2013、を参照のこと)。本研究によって、低体温療法(32~35℃)の導入は機能的アウトカムをむしろ悪化させることが明らかとなり、外傷性脳損傷後の頭蓋内圧亢進に対する低体温治療プロトコルについては、積極的平温療法(35~37℃)への移行を含めて再検討が必要である。

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アルツハイマー病の焦燥性興奮に新規配合薬が有望/JAMA

 アルツハイマー病が疑われ焦燥性興奮を呈する患者に対し、開発中の配合薬デキストロメトルファン臭化水素酸塩+キニジン硫酸塩の10週間投与により、興奮症状の軽減が認められたことが報告された。米国・Cleveland Clinic Lou Ruvo Center for Brain HealthのJeffrey L. Cummings氏らが行った第II相臨床試験の結果、示された。全体的に忍容性も良好だったという。JAMA誌2015年9月22/29日号掲載の報告より。患者220例を対象に、ベースラインからの症状変化を比較 研究グループは2012年8月~14年8月にかけて、米国42ヵ所の医療機関で、アルツハイマー病の可能性が高く、臨床的焦燥性興奮が認められ(臨床全般印象尺度[CGI]で焦燥性興奮スコアが4以上)、Mini-Mental State Examination(MMSE)スコアが8~28の患者220例を対象に、無作為化プラセボ対照二重盲検試験を行った。 同試験では、順次並行比較(sequential parallel comparison)デザインを採用し、第1段階(1~5週)では被験者を無作為に3対4に分け、デキストロメトルファン-キニジン(93例)またはプラセボ(127例)をそれぞれ投与した。第2段階(6~10週)では、第1段階のデキストロメトルファン-キニジンについては、そのまま投与を継続。一方プラセボ群については、反応状況(プラセボ効果あり・なし)によって層別化したうえで、無作為に1対1の割合で2群に分けてデキストロメトルファン-キニジン(59例)またはプラセボ(60例)を投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインからの神経精神症状評価尺度(NPI)焦燥性興奮/攻撃性ドメインのスコア[0(症状なし)~12(日々顕著な症状あり)]の変化だった。デキストロメトルファン-キニジン群で焦燥性興奮症状が有意に低減 試験を終了した被験者は194例(88.2%)で、デキストロメトルファン-キニジン群は152例、プラセボ群は127例だった。 試験の第1・2段階を総合した結果、ベースラインからのNPI焦燥性興奮/攻撃性ドメインのスコアは、デキストロメトルファン-キニジン群がプラセボ群に比べて有意に低下した(最小二乗法でのZ統計値:-3.95、p<0.001)。 第1段階では、同スコアはプラセボ群でベースライン7.0から5.3に低減したのに対し、デキストロメトルファン-キニジン群では7.1から3.8に低減した(最小二乗法平均値:-1.5、95%信頼区間[CI]:-2.3~-0.7、p<0.001)。 第2段階の同スコアは、プラセボ群でベースライン6.7から5.8に低減し、デキストロメトルファン-キニジン群では5.8から3.8に低減した(同:-1.6、-2.9~-0.3、p=0.02)。 有害事象としては、転倒発生率がプラセボ群3.9%に対しデキストロメトルファン-キニジン群で8.6%、尿路感染症がそれぞれ3.9%と5.3%の発症が報告された。重篤有害事象の発生率は、プラセボ群4.7%に対し、デキストロメトルファン-キニジン群が7.9%だった。なお、デキストロメトルファン-キニジンと認知機能低下、鎮静、臨床的に有意なQTc延長との関連はみられなかった。

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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不適切なベンゾジアゼピン処方、どうやって検出する

 慢性的な不眠症への治療は重要であり、一般に睡眠薬の処方が行われている。しかし、常用や長期使用は、耐性や依存性のリスクや有害事象のリスクを増大するため避けるべきとされ、2012年にアップデートされたBeers criteria(高齢者で不適切な薬物治療)では、高齢者の不眠症治療ではすべてのベンゾジアゼピン系薬を回避するよう示されている。イタリア・CRS4のSilvana Anna Maria Urru氏らは、地域薬局のサーベイデータを用いることで、不眠症に対するベンゾジアゼピン系薬の不適切な処方に関する情報を入手できることを報告した。International Journal of Clinical Pharmacy誌オンライン版2015年7月22日号の掲載報告。 研究グループは、イタリアの8つの地域薬局における観察研究を行い、不眠症に対するベンゾジアゼピン系薬処方の適切さを調べ、地域薬局が不適切な処方のサインを識別できるのか調べた。各薬剤師に、ベンゾジアゼピン系薬が1回以上処方された患者サンプルについてインタビューを行った。最小限のデータセットとして、社会人口統計学的情報、処方薬の適応症、処方期間、睡眠薬の数量、これまでに試みられた投薬中断、ベンゾジアゼピン系薬離脱に関する患者の希望、漸減方法に関する情報を集めた。主要評価項目は、適応症、治療期間、投薬量、投薬中断の試みと方法とした。 主な結果は以下のとおり。・計181例にインタビューが行われた。・約半数の回答者(81例)が、不眠症の治療を受けていることを報告し、62%が高齢者であった(平均年齢68歳、範囲27~93歳)。・52例(64%)が長期投与(>3年)を受けていた。13例(16%)の治療期間は1~3年にわたっていた。・33例がベンゾジアゼピンの服薬中止を支持していたが、全例が中止不成功であった。 今回の結果を踏まえ、著者らは「エビデンスベースのガイドラインをより厳しく遵守することが睡眠薬、鎮静薬の理に適った使用の基本である」と指摘している。関連医療ニュース ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか 長期ベンゾジアゼピン使用は認知症発症に影響するか  担当者へのご意見箱はこちら

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ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

 ベンゾジアゼピン系薬およびZ薬(ゾピクロン、ゾルピデム、ゼレプロン)の長期使用例における投与中止戦略について、カナダ・ダルハウジー大学のAndre S. Pollmann氏らはscoping reviewを行って検討した。その結果、多様な戦略が試みられており、その1つに漸減があったがその方法も多様であり、「現時点では複数の方法を組み合わせて処方中止に持ち込むことが妥当である」と述べている。鎮静薬の長期使用が広く行われているが、これは転倒、認知障害、鎮静状態などの有害事象と有意に関連する。投与中止に伴いしばしば離脱症状が出現するなど、依存症の発現は重大な問題となりうることが指摘されていた。BMC Pharmacology Toxicology誌2015年7月4日号の掲載報告。 研究グループは、地域在住成人のベンゾジアゼピン系薬およびZ薬長期使用に対する投与中止戦略について、scoping reviewにより文献の位置付けと特徴を明らかにして今後の研究の可能性を探った。PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、TRIP、JBI Ovid のデータベースを用いて文献検索を行い、grey literatureについても調査を行った。選択文献は、地域在住成人におけるベンゾジアゼピン系薬あるいはZ薬の投与中止方法について言及しているものとした。 主な結果は以下のとおり。・重複を除外した後の文献2,797件について適格性を検証した。これらのうち367件が全文評価の対象となり、最終的に139件がレビューの対象となった。・74件(53%)がオリジナル研究で、その大半は無作為化対照試験であり( 52件[37%])、58件(42%)がnarrative review、7件(5%)がガイドラインであった。・オリジナル研究の中では、薬理学的戦略が最も多い介入研究であった( 42件[57%])、その他の投与中止戦略として、心理療法、(10件[14%])、混合介入(12件[16%])、その他(10件[14%])が採用されていた。・多くは行動変容介入が併用されており、その中には能力付与による可能化(enablement)(56件[76%])、教育(36件[47%])、訓練(29件[39%])などが含まれていた。・多くの研究、レビュー、ガイドラインに漸減という戦略が含まれていたが、その方法は多様であった。関連医療ニュース 長期ベンゾジアゼピンの使用は認知症発症と関係するか 抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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睡眠薬使用は自動車事故を増加させているのか

 催眠鎮静薬の使用と自動車衝突事故リスクとの関連性について、米国・シアトル大学のRyan N Hansen氏らは検証を行った。American journal of public health誌オンライン版2015年6月11日号の報告。 研究グループは、統合ヘルスケアシステムより抽出した、成人40万9,171人の新規使用者のコホート研究を行った。ヘルスプランデータは、運転免許証と衝突記録にリンクさせた。対象者は、ワシントン州の運転免許を取得(2003~2008年の間に少なくとも1年以上保持)した21歳以上の成人。死亡、保険の解約、または試験終了まで調査した。鎮静薬3剤に関連する事故リスクを推定するため、比例ハザード回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・5.8%の患者が、新規に鎮静薬を処方されていた(1万1,197人/年)。・鎮静薬の新規使用者では、不使用者と比べて、衝突事故リスクの増加と関連していた。 temazepam(国内未承認):HR 1.27(95%CI:0.85~1.91) トラゾドン:HR 1.91(95%CI:1.62~2.25) ゾルピデム:HR 2.20(95%CI:1.64~2.95)・これらのリスクは、血中アルコール濃度レベルが0.06~0.11%の場合と同等と推算された。 著者らは「催眠鎮静薬の新規使用は、自動車衝突事故リスクの増加との関連が認められたことから、催眠鎮静薬の処方を開始する臨床医は、治療期間や運転リスクに関するカウンセリングを考慮する必要がある」とまとめている。  担当者へのご意見箱はこちら関連医療ニュース てんかんドライバーの事故率は本当に高いのか 精神疾患ドライバー、疾患による特徴の違い 認知症ドライバーの運転能力、どう判断すべきか

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第21回

第21回:全般性不安障害とパニック障害のアプローチ監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 プライマリケアの場において、原因がはっきりしないさまざまな不安により日常生活に支障を生じている患者を診療する経験があるのではないかと思います。またとくに若い患者たちの中でみることの多いパニック障害もcommonな疾患の1つと思われ、その数は年々増加しているともいわれています。厚労省の調査1)では、何らかの不安障害を有するのは生涯有病率が9.2%であるとされ、全般性不安障害1.8%、パニック障害0.8%という内訳となっています。医療機関を受診する患者ではさらにこの割合が高くなっていると考えられ、臨床では避けて通れない問題となっています。全般性不安障害とパニック障害の正しい評価・アプローチを知ることで患者の不要な受診を減らすことができ、QOLを上げることにつながっていくと考えられます。 タイトル:成人における全般性不安障害とパニック発作の診断、マネジメントDiagnosis and management of generalized anxiety disorder and panic disorder in adults.以下、American Family Physician 2015年5月1日号2)より1. 典型的な病歴と診断基準全般性不安障害(generalized anxiety disorder:GAD)典型的には日常や日々の状況について過度な不安を示し、しばしば睡眠障害や落ち着かなさ、筋緊張、消化器症状、慢性頭痛のような身体症状と関係している。女性であること、未婚、低学歴、不健康であること、生活の中のストレスの存在がリスクと考えられる。発症の年齢の中央値は30歳である。「GAD-7 スコア」は診断ツールと重症度評価としては有用であり、スコアが10点以上の場合では診断における感度・特異度は高い。GAD-7スコアが高いほど、より機能障害と関連してくる。パニック障害(panic disorder:PD)明らかな誘因なく出現する、一時的な予期せぬパニック発作が特徴的である。急激で(典型的には約10分以内でピークに達する)猛烈な恐怖が起こり、少なくともDSM-5の診断基準における4つの身体的・精神的症状を伴うものと定義され、発作を避けるために不適合な方法で行動を変えていくことも診断基準となっている。パニック発作に随伴する最もよくみられる身体症状としては動悸がある。予期せぬ発作が診断の要項であるが、多くのPD患者は既知の誘因への反応が表れることで、パニック発作を予期する。鑑別診断と合併症内科的鑑別:甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、不整脈や閉塞性肺疾患などの心肺疾患、側頭葉てんかんやTIA発作などの神経疾患その他の精神疾患:その他の不安障害、大うつ病性障害、双極性障害物質・薬剤:カフェイン、β2刺激薬、甲状腺ホルモン、鼻粘膜充血除去薬、薬物の離脱作用GADとPDは総じて気分障害、不安障害、または薬物使用などの少なくとも1つの他の精神的疾患を合併している。2. 治療患者教育・指導配慮のある深い傾聴が重要であり、患者教育自体がとくにPDにおいて不安症状を軽減する。また生活の中で症状増悪の誘因となりうるもの(カフェイン、アルコール、ニコチン、食事での誘因、ストレス)を除去し、睡眠の量・質を改善させ、身体的活動を促す。身体的活動は最大心拍数の60%~90%の運動を20分間、週に3回行うことやヨガが推奨される。薬物療法第1選択薬:GADとPDに対してSSRIは一般的に初期治療として考慮される。三環系抗うつ薬(TCA)もGADとPDの両者に対して有効である。PDの治療において、TCAはSSRIと同等の効果を発揮するが、TCAについては副作用(とくに心筋梗塞後や不整脈の既往の患者には致死性不整脈のリスクとなる)に注意を要する。デュロキセチン(商品名:サインバルタ)はGADに対してのみ効果が認められている。buspironeのようなazapirone系の薬剤はGADに対してはプラセボよりも効果があるが、PDには効果がない。bupropionはある患者には不安を惹起するかもしれないとするエビデンスがあり、うつ病の合併や季節性情動障害、禁煙の治療に用いるならば、注意深くモニターしなければならない。使用する薬剤の容量は漸増していかなければならない。通常、薬剤が作用するには時間がかかるため、最大用量に達するまでは少なくとも4週間は投与を続ける。症状改善がみられれば、12ヵ月間は使用すべきである。ベンゾジアゼピン系薬剤は不安の軽減には効果的だが、用量依存性に耐性や鎮静、混乱や死亡率と相関する。抗うつ薬と抗不安薬の併用は迅速に症状から回復してくれる可能性はあるが、長期的な予後は改善しない。高い依存性のリスクと副作用によってベンゾジアゼピンの使用が困難となっている。NICEガイドライン3)では危機的な症状がある間のみ短期間に限り使用を推奨している。中間型から長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤はより乱用の可能性やリバウンドのリスクは少ない。第2選択薬:GADに対しての第2選択薬として、プレガバリン(商品名:リリカ)とクエチアピン(同:セロクエル)が挙げられるが、PDに対してはその効果が評価されていない。GADに対してプレガバリンはプラセボよりは効果が認められるが、ロラゼパム(同:ワイパックス)と同等の効果は示さない。クエチアピンはGADに対しては効果があるが、体重増加や糖尿病、脂質異常症を含む副作用に注意を要する。ヒドロキシジン(同:アタラックス)はGADの第2選択薬として考慮されるが、PDに対しては効果が低い。作用発現が早いため、速やかな症状改善が得られ、ベンゾジアゼピンが禁忌(薬物乱用の既往のある患者)のときに使用される。精神療法とリラクゼーション療法精神療法は認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)や応用リラクゼーションのような多くの異なったアプローチがある。精神療法はGADとPDへの薬物療法と同等の効果があり、確立されたCBTの介入はプライマリケアの場では一貫した効果が立証されている。精神療法は効果を判定するには毎週少なくとも8週間は続けるべきである。一連の治療後に、リバウンド症状を認めるのは、精神療法のほうが薬物療法よりも頻度は低い。各人に合わせた治療が必要であり、薬物療法と精神療法を組み合わせることで2年間の再発率が減少する。3. 精神科医への紹介と予防GADとPD患者に対して治療に反応が乏しいとき、非典型的な病歴のもの、重大な精神科的疾患の併発が考慮される場合に、精神科医への紹介が適用となる。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 川上憲人ほか. こころの健康についての疫学調査に関する研究(平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業). こころの健康についての疫学調査に関する研究,総合研究報告書). 2007. 2) Locke AB, et al. Am Fam Physician. 2015;91:617-624. 3) NICEガイドライン. イギリス国立医療技術評価機構(The National Institute for Health and Care Excellence:NICE).

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事例58 内視鏡でのプロポフォールの査定【斬らレセプト】

解説事例では、大腸内視鏡時に使用した全身麻酔導入薬のプロポフォールが、静脈麻酔手技料とともにA事由(医学的に適応と認められないもの)で査定となった。医師からは、「腸管内視鏡時のプロポフォール使用は、学会などでは鎮静と鎮痛が適度に得られて、内視鏡実施時の安全に寄与するとの報告が複数あるのに、なぜ査定となったのか」と問い合せがあった。プロポフォールの添付文書によると「全身麻酔の導入及び維持」と「集中治療における人工呼吸中の鎮静」の適応を持つ静脈投与麻酔薬とあった。医師から見せていただいた文献には、プロポフォールは体内からの消失が速やかなため、投与終了後の覚醒が早いなどの特長があり、世界では消化器内視鏡実施時の鎮静薬としても広く使われていることが記載されていた。しかし、添付文書にはこの適応が記載されていない。よって、内視鏡時の鎮静・鎮痛には適用がないとしてA査定となったものであろう。学会などでは一般的であって、良い成績を収めていても、添付文書に適応がない場合は査定対象となるのである。

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クローン病に対する経口SMAD7(モンジャーセン)の有用性(第II相試験)(解説:上村 直実 氏)-353

 クローン病は原因不明で根治的治療が確立していない炎症性腸疾患であり、わが国では医療費補助の対象である特定疾患に指定されている。抗菌薬、サリチル酸製剤、ステロイドや、従来型免疫抑制剤および腸管を安静に保つ栄養療法がわが国における治療の主体であったが、最近、顆粒球除去療法や生物学的製剤である抗TNF-α抗体が新たな治療法として注目されている。一方、クローン病の患者では、免疫抑制サイトカインであるトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)のシグナル伝達を阻害する SMAD7 の発現量が増加することでTGF-β1の活性が低下して炎症が惹起されることが知られている。 今回、経口SMAD7アンチセンスオリゴヌクレオチドであるモンジャーセン(Mongersen)のクローン病に対する有効性を検証した第II相試験(RCT)が報告された。対象患者は、炎症の活動指数であるCDAIが220から400までのクローン病患者166例を対象として、モンジャーセンの10mg、40mg、160mgおよびプラセボの4群における2週間後のCDAIに従った寛解(CDAI<150)率、ならびに服薬中止28日後の臨床経過について検討した結果、2週後の寛解導入率は40mgと160mg群で有意に高率であり、投与終了28日後時点での炎症鎮静化率(CDAIが100以上の減少)は、すべての実薬群がプラセボ群に比べて有意に高率であった。特記すべき有害事象は認められていなかった。 以上の結果より、モンジャーセンはクローン病に対する有用性の高い治療薬として期待されるが、本研究においては、研究期間の短さ、内視鏡的ないしは組織学的評価はなくCDAIによる評価法のみであることから、有効性の評価を確定することは時期尚早と思われる。さらに、TGF-β1は抗炎症のみでなく強力な創傷修復作用を有するが、この修復作用が過剰となると線維化を促進する可能性があり、腸管の狭窄につながる危険性も考慮しなければならない。したがって、クローン病治療薬としての期待は大きいものの、モンジャーセンの臨床的有用性を確認するためには長期間のリスク・ベネフィットを明らかにする臨床試験が必須である。

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「寛解」から「治療の最適化」へ リウマチ治療最前線

 2015年3月9日、都内にて、東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 所長の山中 寿氏が、関節リウマチ(RA)治療の最新動向に関して講演を行った(主催:ファイザー株式会社)。リウマチ治療の変遷 山中氏はまず、東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センターで2000年から行っているRA患者に対する前向き観察研究(IORRA)の結果を基に、RA治療の進歩について解説した。 本調査は年2回実施しており、毎回約6,000例のRA患者の情報を集積している。 その調査からわかったことは、「NSAIDs・ステロイドの服用率は年々低下し、逆にMTX・生物学的製剤の服用率が上昇していること」である。結果的に、疾患活動性を表すDAS28が改善し、寛解率の向上につながっている傾向がみられた。 寛解率向上の理由としては、2000年代前半は「MTXの普及」、2000年代後半は「生物学的製剤の普及」と考えられている。 手術に関しては、全体的に減少傾向にある。ただし、関節形成術は上昇傾向にあり、QOLの向上に重きが置かれている傾向がみられる。リウマチ診療ガイドライン2014のポイント 生物学的製剤の登場や、ガイドライン改訂などのインフラ整備により治療方針が明確になり、RA治療は大きな進歩を遂げた。 昨年改訂された『関節リウマチ診療ガイドライン2014』では、「有識者の意見」や「エビデンス」に加え、「リスクとベネフィットのバランス」や「患者の価値観や好み」「経済評価」に関しても考慮されていることが特徴として挙げられる。 本ガイドラインでは、「臨床症状の改善だけでなく、長期予後の改善を目指す」ことを治療目標として挙げており、また、治療方針に関しても「炎症をできるだけ速やかに鎮静化させて寛解導入し、寛解を長期間維持する」ことが明示されている。寛解の先にあるもの これまでのRA治療は寛解を目指して行われてきたが、治療環境が整備された今、これからのRA治療は寛解から「治療の最適化」を模索すべき時期にきている。 「治療の最適化」の1つとして挙げられる生物学的製剤の減量・休薬に関して、エタネルセプトをはじめとして実際の臨床試験でもその可能性が示唆されている。・ステロイド、MTX、生物学的製剤の減量・休薬・合併病態のマネジメント・薬剤経済学的観点・生命予後の改善・患者の視点といったさまざまな視点から、最適な治療を患者ごとに検討していく必要がある。リウマチ治療の今後 最後に、山中氏は「Hit and away strategy」をスローガンとして、・生物学的製剤の早期投与、早期寛解導入・6ヵ月以上寛解維持できれば休薬を考慮・再燃例では、同じ生物学的製剤を再投与のような指針に従い、治療を行っていくことが望ましいと強調した。

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アナフィラキシーの治療の実際

アナフィラキシーの診断 詳細は別項に譲る。皮膚症状がない、あるいは軽い場合が最大20%ある。 治療(表1)発症初期には、進行の速さや最終的な重症度の予測が困難である。数分で死に至ることもあるので、過小評価は禁物。 ※筆者の私見適応からは、呼吸症状に吸入を先に行う場合があると読めるが、筆者は呼吸症状が軽症でもアナフィラキシーであればアドレナリン筋注が第1選択と考える。また、適応に「心停止」が含まれているが、心停止にはアドレナリン筋注は効果がないとの報告9)から、心停止の場合は静注と考える。表1を拡大する【姿勢】ベッド上安静とし、嘔吐を催さない範囲で頭位を下げ、下肢を挙上して血液還流を促進し、患者の保温に努める。アナフィラキシーショックは、distributive shockなので、下肢の挙上は効果あるはず1)。しかし、下肢拳上を有効とするエビデンスは今のところない。有害ではないので、薬剤投与の前に行ってもよい。【アドレナリン筋肉注射】気管支拡張、粘膜浮腫改善、昇圧作用などの効果があるが、cAMPを増やして肥満細胞から化学物質が出てくるのを抑える作用(脱顆粒抑制作用)が最も大事である。α1、β1、β2作用をもつアドレナリンが速効性かつ理論的第1選択薬である2)。緊急度・重症度に応じて筋注、静注を行う。血流の大きい臀部か大腿外側が薦められる3)。最高血中濃度は、皮下注で34±14分、筋注で8±2分と報告されており、皮下注では遅い4)。16~35%で2回目の投与が必要となる。1mLツベルクリンシリンジを使うと針が短く皮下注になる。1)アドレナリン1回0.3~0.5mg筋注、5~30分間隔 [厚生労働省平成20年(2008)5)]2)アドレナリン1回0.3~0.5mg筋注、5~15分間隔 [UpToDate6)]3)アドレナリン1回0.01mg/kg筋注 [日本アレルギー学会20141)]4)アドレナリン1回0.2~0.5mgを皮下注あるいは筋注 [日本化学療法学会20047)]5)アドレナリン(1mg)を生理食塩水で10倍希釈(0.1mg/mL)、1回0.25mg、5~15分間隔で静注 [日本化学療法学会20047)]6)アドレナリン持続静脈投与5~15µg/分 [AHA心肺蘇生ガイドライン20109)]わが国では、まだガイドラインによってはアドレナリン投与が第1選択薬になっていないものもあり(図1、図2)、今後の改訂が望まれる。 ※必ずしもアドレナリンが第1選択になっていない。 図1を拡大する ※皮膚症状+腹部症状のみでは、アドレナリンが第1選択になっていない。図2を拡大する【酸素】気道開通を評価する。酸素投与を行い、必要な場合は気管挿管を施行し人工呼吸を行う。酸素はリザーバー付マスクで10L/分で開始する。アナフィラキシーショックでは原因物質の使用中止を忘れない。【輸液】hypovolemic shockに対して、生理食塩水か、リンゲル液を開始する。1~2Lの急速輸液が必要である。維持輸液(ソリタ-T3®)は血管に残らないので適さない。【抗ヒスタミン薬、H1ブロッカー】経静脈、筋注で投与するが即効性は望めない。H1受容体に対しヒスタミンと競合的に拮抗する。皮膚の蕁麻疹には効果が大きいが、気管支喘息や消化器症状には効果は少ない。第1世代H1ブロッカーのジフェンヒドラミン(ベナスミン®、レスタミン®)クロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン®)5mgを静注し、必要に応じて6時間おきに繰り返す。1)マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン®)2.5~5mg静注 [日本化学療法学会20047)]2)ジフェンヒドラミン(ベナスミン®、レスタミン®)25~50mg緩徐静注 [AHA心肺蘇生ガイドライン20109)] 保険適用外3)ジフェンヒドラミン(ベナスミン®、レスタミン®)25~50mg静注 [UpToDate6)]4)経口では第2世代のセチリジン(ジルテック®)10mgが第1世代より鎮静作用が小さく推奨されている [UpToDate6)] 経口の場合、効果発現まで40~60分【H2ブロッカー】心収縮力増強や抗不整脈作用がある。蕁麻疹に対するH1ブロッカーに相乗効果が期待できるがエビデンスはなし。本邦のガイドラインには記載がない。保険適用外に注意。1)シメチジン(タガメット®)300mg経口、静注、筋注 [AHA心肺蘇生ガイドライン9)] シメチジンの急速静注は低血圧を引き起こす [UpToDate6)]2)ラニチジン(ザンタック®)50mgを5%と糖液20mLに溶解して5分以上かけて静注 [UpToDate6)]【βアドレナリン作動薬吸入】気管支攣縮が主症状なら、喘息に用いる吸入薬を使ってもよい。改善が乏しい時は繰り返しての吸入ではなくアドレナリン筋注を優先する。気管支拡張薬は声門浮腫や血圧低下には効果なし。1)サルブタモール吸入0.3mL [日本アレルギー学会20141)、UpToDate6)]【ステロイド】速効性はないとされてきたが、ステロイドのnon-genomic effectには即時作用がある可能性がある。重症例ではアドレナリン投与後に、速やかに投与することが勧められる。ステロイドにはケミカルメディエーター合成・遊離抑制などの作用により症状遷延化と遅発性反応を抑制することができると考えられてきた。残念ながら最近の研究では、遅発性反応抑制効果は認められていない10)。しかしながら、遅発性反応抑制効果が完全に否定されているわけではない。投与量の漸減は不要で1~2日で止めていい。ただし、ステロイド自体が、アナフィラキシーの誘因になることもある(表2)。とくに急速静注はアスピリン喘息の激烈な発作を生じやすい。アスピリン喘息のリスクファクターは、成人発症の気管支喘息、女性(男性:女性=2:3~4)、副鼻腔炎や鼻茸の合併、入院や受診を繰り返す重症喘息、臭覚低下。1)メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソル・メドロール®)1~2mg/kg/日 [UpToDate6)]2)ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(ソル・コーテフ®)100~200mg、1日4回、点滴静注 [日本化学療法学会20047)]3)ベタメタゾン(リンデロン®)2~4mg、1日1~4回、点滴静注11) 表2を拡大する【グルカゴン】βブロッカーの過量投与や、低血糖緊急時に使われてきた。グルカゴンは交感神経を介さずにcAMPを増やしてアナフィラキシーに対抗する力を持つ。βブロッカーを内服している患者では、アドレナリンの効果が期待できないことがある。まずアドレナリンを使用して、無効の時にグルカゴン1~2mgを併用で静注する12)。β受容体を介さない作用を期待する。グルカゴン単独投与では、低血圧が進行することがあるので注意。アドレナリンと輸液投与を併用する。急速静注で嘔吐するので体位を側臥位にして気道を保つ。保険適用なし。1)グルカゴン1~5mg、5分以上かけて静注 [UpToDate6)]【強力ミノファーゲンC】蕁麻疹単独には保険適用があるがアナフィラキシーには効果なし。観察 いったん症状が改善した後で、1~8時間後に、再燃する遅発性反応患者が4.5~23%存在する。24時間経過するまで観察することが望ましい。治療は急いでも退室は急ぐべきではない13)。 気管挿管 上記の治療の間に、嗄声、舌浮腫、後咽頭腫脹が出現してくる患者では、よく準備して待機的に挿管する。呼吸機能が悪化した場合は、覚醒下あるいは軽い鎮静下で挿管する。気道異物窒息とは違い準備する時間は取れる。 筋弛緩剤の使用は危険である。気管挿管が失敗したときに患者は無呼吸となり、喉頭浮腫と顔面浮腫のためバッグバルブマスク換気さえ不能になる。 気管挿管のタイミングが遅れると、患者は低酸素血症の結果、興奮状態となり酸素マスク投与に非協力的となる。 無声、強度の喉頭浮腫、著明な口唇浮腫、顔面と頸部の腫脹が生じると気管挿管の難易度は高い。喉頭展開し、喉頭を突っつくと出血と浮腫が増強する。輪状甲状靭帯穿刺と輪状甲状靭帯切開を含む、高度な気道確保戦略が必要となる9)。さらに、頸部腫脹で輪状軟骨の解剖学的位置がわからなくなり、喉頭も皮膚から深くなり、充血で出血しやすくなるので輪状甲状靭帯切開も簡単ではない。 絶望的な状況では、筆者は次の気道テクニックのいずれかで切り抜ける。米国麻酔学会の困難気道管理ガイドライン2013でも、ほぼ同様に書かれている(図3)14)。 1)ラリンゲアルマスク2)まず14G針による輪状甲状靭帯穿刺、それから輪状甲状靭帯切開3)ビデオ喉頭鏡による気管挿管 図3を拡大する心肺蘇生アナフィラキシーの心停止に対する合理的な処置についてのデータはない。推奨策は非致死的な症例の経験に基づいたものである。気管挿管、輪状甲状靭帯切開あるいは上記気道テクニックで気道閉塞を改善する。アナフィラキシーによる心停止の一番の原因は窒息だからだ。急速輸液を開始する。一般的には2~4Lのリンゲル液を投与すべきである。大量アドレナリン静注をためらうことなく、すべての心停止に用いる。たとえば1~3mg投与の3分後に3~5mg、その後4~10mg/分。ただしエビデンスはない。バソプレシン投与で蘇生成功例がある。心肺バイパス術で救命成功例が報告されている9)。妊婦対応妊婦へのデキサメタゾン(デカドロン®)投与は胎盤移行性が高いので控える。口蓋裂の報告がある15)。結語アナフィラキシーを早期に認識する。治療はアドレナリンを筋注することが第一歩。急速輸液と酸素投与を開始する。嗄声があれば、呼吸不全になる前に準備して気管挿管を考える。 1) 日本アレルギー学会監修.Anaphylaxis対策特別委員会編.アナフィラキシーガイドライン. 日本アレルギー学会;2014. 2) Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000; 30: 1144-1150. 3) Hughes G ,et al. BMJ.1999; 319: 1-2. 4) Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006; 117: 391-397. 5) 厚生労働省.重篤副作用疾患別対応マニュアルアナフィラキシー.平成20年3月.厚生労働省(参照2015.2.9) 6) F Estelle R Simons, MD, FRCPC, et al. Anaphylaxis: Rapid recognition and treatment. In:Uptodate. Bruce S Bochner, MD(Ed). UpToDate, Waltham, MA.(Accessed on February 9, 2015) 7) 日本化学療法学会臨床試験委員会皮内反応検討特別部会.抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版).日本化学療法学会(参照2015.2.9) 8) 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会.第9章治療.In:食物アレルギー診療ガイドライン2012.日本小児アレルギー学会(参照2015.2.9) 9) アメリカ心臓協会.第12章 第2節 アナフィラキシーに関連した心停止.In:心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン2010(American Heart Association Guidelines for CPR & ECC). AHA; 2010. S849-S851. 10) Choo KJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 4: CD007596. 11) 陶山恭博ほか. レジデントノート. 2011; 13: 1536-1542. 12) Thomas M, et al. Emerg Med J. 2005; 22: 272-273. 13) Rohacek M, et al. Allergy 2014; 69: 791-797. 14) 駒沢伸康ほか.日臨麻会誌.2013; 33: 846-871. 15) Park-Wyllie L, et al. Teratology. 2000; 62: 385-392.

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Sedation for All ―安全で確実な鎮静・鎮痛プログラム―

第1回 モニタリングと医療機器第2回 鎮静の薬理学(総論) 第3回 鎮静の薬理学(各論) 第4回 合併症予防 第5回 特殊な領域(高齢者編) 第6回 特殊な領域(小児編) 第7回 成人症例ディスカッション 第8回 小児症例ディスカッション 第9回 Procedural Sedation 実践編 外来や救急で処置を行う際、必要最低限の鎮静や鎮痛を行うのに有用なのが「Procedural Sedation」。一般的には、現場の医師の経験則や勘を頼りに行われることが多く、体系化されたマニュアルがなかったのがこの分野。そこで、米国ニューメキシコ大学で開発されたProcedural Sedationを体系的に学べる研修プログラムを取り入れ、国内での普及に務めている健和会大手町病院のセデーションチームが、患者のモニタリングや症例に応じた薬剤の選択、適切な薬剤の投与法などをコンパクトにまとめた。この番組では、本来ならば大手町病院で丸1日かけて実施されるセデーションの研修プログラムから、最も重要なエッセンスを抽出して短時間で学べるよう再編。安全で確実なセデーション・マスターになろう!第1回 モニタリングと医療機器」 まず「Procedural Sedation」とは何か、具体的にどういう場合に有用なのかを解説します。ここでは75歳女性の右前腕変形と腫脹という症例を提示。徒手整復を行うにあたって、どんな鎮静・鎮痛が必要でしょうか。セデーションのマニュアルに沿って、患者をモニタリングする上でのポイント、鎮静・鎮痛の程度の見極め、処置後に注意すべきことなどを、順を追って詳しく解説。軽度の鎮静・鎮痛であっても、薬剤の投与量が不十分だったり、逆に過剰だったりすると、それだけ患者の身体的負担は大きなものに。救急外来や病棟で、最適かつ安全なセデーションができるようになれば、処置の精度と効率は格段にアップします。第2回 鎮静の薬理学(総論) セデーションを実施するには、まず薬剤の特性をきちんと把握することが大事。今回は、薬理学の総論として、一般的な原則を解説します。薬剤の投与量や投与法を決定する上で最も重要なこと―それは、各薬剤で異なるピーク時間(最大効果発現時間)を知ることです。薬剤は投与後、血流に乗って中枢神経系に到達することで、徐々に効果を現し始めますが、ピーク時間を待たずに慌てて追加投与すると、過鎮静になり、患者の体に無用な負担を与えることになります。安全で確実なセデーションとは、患者にとって無理がなく、かつ無駄のない薬剤投与を実施できること。今回のレクチャーでは、この原則を徹底的にマスターしましょう。第3回 鎮静の薬理学(各論) 安全で確実なセデーションを実施するために、薬剤によって異なるピーク時間(最大効果発現時間)を知っておく、という大原則を押さえた上で、今回は個別の薬剤の特性について具体的に解説します。セデーションで主に使用する薬剤は、鎮静効果のみ得られるもののほか、鎮痛効果のみ、そして鎮静と鎮痛の効果を同時に得る場合に使用するものに大別できます。また、薬剤の投与量が結果的に過多になってしまった場合に使用する拮抗薬についても解説。これも、鎮静薬と鎮痛薬によってそれぞれ使用すべき拮抗薬が異なります。ただし、やみくもに拮抗薬を使用することは危険。このレクチャーでは、その役割と効果だけでなく、副作用やリスクにも言及し、どんな場合に投与を検討すべきかを明解に示しています。第4回 合併症予防 急セデーションを実施する際に、注意しなければいけない気道や呼吸、循環などに関連した合併症があります。患者の特性やリスク因子をしっかり把握して起き得る合併症を防ぐことが大切ですが、医療者側の知識が不十分だったり、技術に問題があったりする場合もあります。このレクチャーでは、セデーションによる合併症を予防するために最低限やっておくべき10カ条について解説。いずれの項目もセデーションを実施する上での基本の「キ」ですが、合併症のリスクを回避するためにはとても重要です。第5回 特殊な領域(高齢者編)救急に搬送されてくる高齢者は、増加の一途です。もし、セデーションが必要な高齢患者に遭遇した時には、何を注意をすべきなのでしょうか。既往症が多く、多数の薬を服用している患者も少なくありません。また、加齢によって腎・肝機能の低下や、循環・呼吸器系の予備能についても、若い世代に比べて低下している人が多いはずです。そうした高齢者の特徴を踏まえて、安全かつ確実なセデーションを実施するための薬剤投与量や投与方法についてわかりやすく解説します。第6回 特殊な領域(小児編)このセッションでは、PSAを小児に実施する時に注意すべきポイントについて解説します。PSAの手順や鎮静・鎮痛に必要な薬理学は、大人も小児も体格差があるだけでベースは変わらないのでは?と思いがちですが、そこが大きな落とし穴!小児は“小さな大人”ではありません。解剖や生理の違いをきちんと理解し、適切な薬剤・器具の選択、大人と異なるモニタリングのポイントと注意点について詳しく説明します。第7回 成人症例ディスカッション ここまで学んできたセデーションの手順と薬理学を、実際の場面でどう生かすのか。この回では、成人の急患が運ばれてきた想定で、何をポイントに、どのレベルの鎮静や鎮痛が必要かを考え、どんな手順で実施するのかを学びましょう。ここで示されるケースの男性はかなりの肥満体。この体格的特徴によって、セデーションを行うに際にどのような注意が必要となるのでしょうか。適切な器具や薬剤の選び方も詳しく解説します。第8回 小児症例ディスカッション この回では、小児の急患が運ばれてきた想定で、セデーションのケースシミュレーションを行います。処置前の鎮静・鎮痛を実施する際、小児は“小さな大人”ではないため、成人とは異なる解剖や生理の違いをきちんと理解した上で対応する必要があることは、これまでの回ですでに学んだ通りです。ここで示されるケースは、唇にけがをした2歳児に対する、縫合前の鎮静と鎮痛。小児に対して、また家族への説明についてどんな注意と配慮が必要でしょうか。セデーションの手順の共に、忘れがちな処置前後の注意点を改めておさらいしましょう。第9回 Procedural Sadation 実践編 これまで8回にわたって、セデーションの基本的な考え方から、実際の手順、モニタリングのポイント、使用する薬剤などを網羅的に解説してきました。それらを実践でどのように生かせばよいのでしょうか。この回では、健和会大手町病院のセデーション研修で参加者たちが体験したシミュレーションの模様を観ながら、セデーションの流れを改めて確認しましょう。シミュレーションでは、交通事故で搬送されてきた患者の足関節脱臼を徒手整復するにあたって、セデーションを実行しますが、救急外来は時間勝負。速やかな方針決定だけでなく、スタッフへの伝達、関係科の医師への説明なども必要になってきます。そして、案外見落としがちなのが、一連の処置が終わった後の患者モニタリング。4人の講師たちが重要なポイントとして挙げたことや注意点を思い出しながらご覧ください。

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抗精神病薬の有害事象との関連因子は

 抗精神病薬は統合失調症およびその他の精神障害に広く処方されているが、一方で有害事象およびアドヒアランスへのネガティブな影響が共通して認められる。しかしこれまで、有害事象の発現率やマネジメントに注目した検討はほとんど行われていなかった。英国・エディンバラ大学のSu Ling Young氏らは、抗精神病薬の有害事象の発現率およびマネジメントについて系統的レビューを行った。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2014年12月16日号の掲載報告。 研究グループは本検討で、抗精神病薬の9種の臨床的に重要な有害事象の発現率とマネジメントについてレビューした。9種は、錐体外路症状、鎮静作用、体重増加、2型糖尿病、高プロラクチン血症、メタボリックシンドローム、脂質異常症、性機能障害、心血管への影響であった。事前に検索基準を特定し、3つのデータベースの検索と引用・参考文献の手動検索でシステマティックレビューを行った。2人の研究者が要約または全文をレビュー後、包含基準について合意を得た。包含した論文の質的評価は、事前に同意確認した基準を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・合計53試験が、包含基準を満たした。・有害事象の発現頻度の増大は、抗精神病薬の多剤投与と関連していた。・投与期間の長さは、有害事象の重症化(例:BMI値が高値)と関連していた。・クロザピンは、3試験におけるその他抗精神病薬との比較において、代謝障害との関連がより強かった。・オランザピンは、3試験で体重増加と最も関連していた。・高プロラクチン血症は、男性よりも女性で一般的であった。・性機能障害は男性が50%に対し女性は25~50%であった。・臨床ガイドラインの推奨にもかかわらず、脂質および血糖値のベースラインでの検査率は低率であった。・7試験で有害事象のマネジメント戦略が述べられていたが、その有効性について調べていたのは2試験のみであった。そのうち1試験は、非投薬の集団療法により体重の有意な減少を、もう1試験はスタチン療法により脂質異常の有意な減少を認めた。・総括すると、抗精神病薬の有害事象は多様でしばしばみられる。しかし、系統的評価は多くない。・有害事象マネジメントに関する科学的研究を、さらに行う必要性がある。関連医療ニュース 最新、抗精神病薬の体重増加リスクランキング 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 抗精神病薬は統合失調症患者の死亡率を上げているのか  担当者へのご意見箱はこちら

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