サイト内検索|page:5

検索結果 合計:245件 表示位置:81 - 100

81.

Dr.長門の5分間ワクチン学

第1回 ワクチンの基礎第2回 接種の実際第3回 被接種者の背景に応じた対応第4回 接種時期・接種間隔第5回 予防接種の法律・制度第6回 Hibと肺炎球菌第7回 麻疹・風疹・おたふく第8回 水痘・BCG・4種混合第9回 肝炎・日本脳炎第10回 インフルエンザ・ロタウイルス第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン第12回 トラブルシューティング CareNeTV総合内科専門医試験番組でお馴染みの長門直先生が、自身の専門の1つである感染症について初講義。医療者が感じているワクチンにまつわる疑問を各テーマ5分で解決していきます。テーマは「ワクチンの基礎」をはじめとした総論5回と「麻疹・風疹・おたふく」など各論7回。全12回で完結のワクチン学を、CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよくご覧いただけます。第1回 ワクチンの基礎医療者でも意外と知らなかったり、間違って覚えていることが多いのがワクチン接種。第1回は「ワクチンの基礎」として、まず最初に押さえておきたい、「ワクチンの種類」と「ワクチンを取り扱う上で覚えておきたいこと」をまとめました。ワクチンの種類の違いは?アジュバントの意味は?ワクチンの保存方法で気を付けたいことは?「ワクチン学」の講義時間はたったの5分。CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよく解説していきます。第2回 接種の実際今回の「ワクチン学」のテーマは「ワクチン接種の実際」。医療者からよく質問に出る「ワクチンの接種方法」と「ワクチン接種後の対応」について確認していきます。ワクチン接種方法では、皮下注射と筋肉注射の具体的な方法を確認していきます。接種部位は?使用する針の太さは?長さは?角度は?そして、ワクチン接種後の対応については、意外と知られていないことや、間違って覚えてしまっていることを解決していきます。第3回 被接種者の背景に応じた対応被接種者が抱える背景によって、ワクチン接種の可否や気を付けておきたいことを確認していきます。今回「ワクチン学」で取り上げる被接種者の背景は8つ。(1)早産児・低出生体重児(2)妊婦・成人女性(3)鶏卵アレルギーがある人(4)発熱者(5)痙攣の既往歴のある人(6)慢性疾患のある小児(7)HIV感染症の人(8)輸血・γ-グロブリン投与中の人。それぞれに応じた対応をポイントに絞り、解説していきます!第4回 接種時期・接種間隔接種時期・接種間隔は予防接種ごとに決められています。今回は、原則と被接種者からよく聞かれる質問、そしてその対応を確認します。小児の場合、不活化ワクチンの第1期接種では、なぜ複数回接種する必要があるのか?成人や高齢者の場合は?生ワクチンで押さえておきたいポイント。被接種者からよく聞かれる質問は「感染症潜伏期間の予防接種は可能かどうか」など、3つをピックアップしました。第5回 予防接種の法律・制度法律・制度の観点から定期接種、任意接種を確認します。近年の法改正の流れ、それぞれの費用負担の違い、現在の対象疾病の種類。副反応に関する制度では、報告先と救済申請先を確認。また、医療者の中でも賛否が分かれるワクチンの同時接種についても言及します。第6回 Hibと肺炎球菌今回から各論に入ります。まずはHibワクチンと肺炎球菌ワクチン。よくある質問とそれぞれの特徴を見ていきます。よくある質問は「Hibワクチンや肺炎球菌ワクチンは中耳炎の予防になるの?」「肺炎球菌ワクチンは2つあるけどどう違うの?」。それぞれの特徴では、Hibワクチンは接種スケジュールのパターン、肺炎球菌ワクチンは2種類の成分、接種対象者と接種方法を確認していきます。第7回 麻疹・風疹・おたふく今回は生ワクチンシリーズ。麻疹、風疹、MR、ムンプスを確認します。内容は、それぞれの接種時期をはじめ、2回接種する理由、非接種者が感染者と接触した場合の対応について。そして2018年に大流行した風疹についてはより具体的に「ワクチン接種者からの感染はあるのか?」「ワクチン接種した母親の母乳を飲んだ乳児への影響」「妊娠中の女性への風疹ワクチン対応」など、よくある疑問を解決していきます!第8回 水痘・BCG・4種混合今回は水痘・BCG・4種混合ワクチン。それぞれの接種回数、接種時期をはじめ、注意すべき点について触れていきます。水痘ワクチンでは2回接種する理由を確認します。そして、医療現場で課題となりやすいBCGワクチンの懸濁の仕方については、均一に溶かすポイントを紹介。さらに、4種混合ワクチンの追加接種を忘れた場合の対応、ポリオワクチンの現状について学んでいきます。第9回 肝炎・日本脳炎今回は、肝炎、日本脳炎。肝炎は渡航ワクチンとして使われる任意接種のA型肝炎ワクチンと定期接種のB型肝炎ワクチン、そして医療保険適用となる母子感染予防のB型肝炎ワクチンについて見ていきます。それぞれの接種スケジュールとB型肝炎ワクチンの現場で迷うことを解決します。日本脳炎は、接種スケジュールの確認に加え、日本小児科学会が言及している標準的接種時期以前の発症リスクについて紹介します。 第10回 インフルエンザ・ロタウイルス今回は冬から春にかけて流行するインフルエンザ、ロタウイルス。それぞれのワクチンを接種するタイミングとおさえておきたいポイントを確認します。インフルエンザワクチンは定期接種対象者、卵アレルギーの被接種者の方への対応、予防効果について。ロタウイルスワクチンは1価と5価、それぞれの有効性、接種スケジュールの違い、接種する時期、期間を学んでいきます。第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン今回は、女性のHPV関連疾患を予防する2種類の子宮頸がんワクチンと海外渡航者に気を付けてほしい渡航ワクチンについて触れていきます。子宮頸がんワクチンは2種類の違いとそれぞれの接種スケジュール、日本における接種率激減に対するWHOの見解を確認します。渡航ワクチンは数ある中から黄熱ワクチン、狂犬病ワクチン、髄膜炎菌ワクチンの有効性と接種推奨地域を見ていきます。第12回 トラブルシューティングワクチンは通常、定期接種ですが、不慮の事態で至急打たなければならない場合があります。最終回はそのようなワクチンの“トラブルシューティング”を取り上げます。具体的には、感染者と接触した際の緊急ワクチン接種、外傷時の破傷風トキソイド接種、針刺し時の対応です。さらに、ワクチンの接種間隔に関する規定の改正など、2019年から2020年の大きなトピックを3つ取り上げてワクチン学をまとめていきます。

82.

新しく出てくるTAVI弁は使えるか?(解説:上妻謙氏)-1264

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、その低侵襲かつ有効な治療のため世界中で急速に普及し、一般的な医療となってきた。今まで世界で市販され使用されてきた人工弁はバルーン拡張型と自己拡張型に分かれるが、新規で市販されてくる人工弁は自己拡張型ばかりである。先行するメドトロニック社のコアバルブシリーズの人工弁はsupra-annularタイプといって元々の自己弁輪部よりも大動脈の上部に新規の人工弁が存在するようになり、石灰化の強いAS患者において自己弁部の石灰化で人工弁が変形した影響を受けにくくなるメリットがある。今までのところコアバルブシリーズは標準人工弁として使用されているバルーン拡張型SAPIEN 3に対し非劣性を示しており、主力人工弁の1つとなっている。一方で自己拡張型のACURATE neo弁はSAPIEN 3に対し非劣性を示すことができなかった試験があり、すべての人工弁を同様の適応として使用することは適切でない可能性がある。 本PORTICO IDE試験で使用されたPortico弁は、他の新規で登場した人工弁と同様に自己拡張型であるが、自己弁輪部に留置するもので、完全にリリースするまで回収できる点は自己拡張型弁としての特徴を有している。米国とオーストラリアの52施設でNYHA class II以上の重症大動脈弁狭窄症を登録して行われた。重症ASの基準は一般的なもので、外科手術がハイリスクな患者を対象としている。一時、弁尖の無症候性血栓症の問題が上がったため11ヵ月間エントリーが中断した時期があり、予定症例数が1,610から1,206、さらに908と段階的に少なく設定されるようになり、最終的に750例のトライアルとなった。順調に進行しなかったことでも有名な試験である。 Portico弁をスタディデバイスとし、現在市販されて使用できるSAPIEN、SAPIEN XT、3と自己拡張型デバイスであるCoreValve、Evolut-RまたはEvolut-Proを対照群として1対1にランダマイズして比較したもので、安全性プライマリーエンドポイントは30日の全死亡、脳卒中、輸血を要する出血、透析を要する急性腎障害、重大な血管合併症の複合エンドポイントで、有効性のプライマリーエンドポイントは1年の全死亡と脳卒中である。いずれも非劣性検定のデザインで、非劣性マージンが安全性8.5%、有効性が8.0%で、サンプルサイズを減らすに当たって、検出力は80%に落とされた。また人工弁の弁口面積や圧較差を2年までフォローしている。 結果、Portico群は安全性および有効性のプライマリーエンドポイントの非劣性は達成したが、イベントの頻度をみると30日の安全性のイベント発生率はPortico群で高い傾向となり、13.8%と9.6%と非劣性ではあるが、優越性検定では対照群がp=0.071とぎりぎりで有意差がつくところであった。それはとくに最初の半分の症例の死亡率と血管合併症で差が出ており、デバイスに対する習熟度が改善した後半ではみられなかったと分析された。症状やQOLの改善については同等で、弁口面積や圧較差については対照群よりも良いデータとなったが、これはSAPIEN弁に対する優位性であり、Evolut弁とは同等で、自己拡張型のメリットであった。しかし中等度以上の大動脈弁逆流の残存はPortico弁が多かった。途中でサンプルサイズを変更し、対照群のイベント率が実際には9.6%であったところで、8.5%の非劣性マージンで80%の検出力を妥当とするかにも議論があるといえるため、Portico群の死亡率の高さは無視できないところがある。 このスタディ結果は、この人工弁が18-19フレンチの大径のシースを必要とし、最近の一般に使用されている人工弁と比較して不利な点が大きいことが影響していると考えられる。現在市販されている製品は、14フレンチまで小径化して、逆流防止のためのスカートが付いており、今までの問題点が解決されてきた経緯があり、安全性が大幅に改善して、普及してきた。これらの対策はPortico弁がマーケットに出てきて対等に使用されるために必須の条件と考えられる。新規に市場に登場するデバイスはまだ発展途上のデバイスが多いと考えられ、TAVRに関しては必須となる条件がはっきりしてきたといえる。

83.

重症大動脈弁狭窄症の弁置換術、Portico弁vs.既存弁/Lancet

 外科的人工弁置換術ではリスクが高く、臨床的に経カテーテル大動脈弁置換術が適応の重症大動脈弁狭窄症患者の治療において、弁輪内自己拡張型Portico弁(Abbott製)は市販の弁輪内バルーン拡張型弁または弁輪上自己拡張型弁と比較して、安全性および有効性の複合エンドポイントはそれぞれ非劣性であるが、30日時の死亡や重度血管合併症の頻度が高い傾向がみられることが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らが行ったPORTICO IDE試験で示された。この結果には、試験期間の前半における新規デバイスへの習熟度が関連している可能性があるという。Portico経カテーテル大動脈弁システムは、ウシ心膜組織の弁尖を有する自己拡張型経カテーテル心臓弁で、植込み部位での完全なリシース(弁を送達カテーテルに戻す)とリポジション(弁の再留置)が可能であるため、留置の正確性が改善されるという。Lancet誌オンライン版2020年6月25日号掲載の報告。市販の弁に対する非劣性を検証する無作為試験 本研究は、外科的人工弁置換術ではリスクが高く、臨床的に経カテーテル大動脈弁置換術が適応の重症大動脈弁狭窄症患者において、Portico弁と市販(FDA承認済み)の経カテーテル心臓弁システムの安全性と有効性を前向きに比較する無作為化対照比較非劣性試験である(Abbottの助成による)。 対象は、年齢21歳以上、NYHA心機能分類クラスII以上で、各施設の集学的ハートチームによって、外科的人工弁置換術では術後の死亡や重篤な合併症のリスクが高い、またはきわめて高いと判定された重症大動脈弁狭窄症患者であった。 被験者は、第1世代のPortico弁とその送達システム、または既存の市販弁(弁輪内バルーン拡張型のEdwards-SAPIEN、SAPIEN XT、SAPIEN 3弁[Edwards LifeSciences製]、または弁輪上自己拡張型のCoreValve、Evolut R、Evolut PRO弁[Medtronic製])を用いた経カテーテル大動脈弁置換術を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 安全性の主要エンドポイントは、30日以内の全死因死亡、後遺障害を伴う脳卒中、輸血を要する重篤な出血、透析を要する急性腎障害、重度血管合併症の複合とした。また、有効性の主要エンドポイントは、1年以内の全死因死亡または後遺障害を伴う脳卒中であった。最長2年までの臨床アウトカムなどの評価も行った。非劣性マージンは、安全性の主要エンドポイントが8.5%、有効性の主要エンドポイントは8.0%だった。次世代Portico弁の臨床試験が進行中 登録の中断を挟み、2014年5月30日~9月12日と、2015年8月21日~2017年10月10日の期間に、米国とオーストラリアの52施設で750例が登録され、Portico弁群に381例、市販弁群には369例が割り付けられた。全体の平均年齢は83(SD 7)歳、女性が395例(52.7%)であった。 30日時の安全性の主要エンドポイント(intention to treat[ITT]解析)の発生率は、Portico弁群が52例(13.8%)と、市販弁群の35例(9.6%)より高く、非劣性の基準を満たしたが、優越性は認められなかった(群間差:4.2%、95%信頼区間[CI]:-0.4~8.8[信頼区間上限値:8.1]、非劣性のp=0.034、優越性のp=0.071)。30日時の全死因死亡(3.5% vs.1.9%)、後遺障害を伴う脳卒中(1.6% vs.1.1%)、重篤な出血(5.9% vs.3.8%)、急性腎障害(1.1% vs.0.8%)、重度血管合併症(9.6% vs.6.3%)は、Portico弁群で高い傾向がみられたが、有意な差はなかった。 1年時の有効性の主要エンドポイント(ITT解析)の発生は、Portico弁群が55例(14.8%)、市販弁群は48例(13.4%)であり、Portico弁群は非劣性の基準を満たしたが、優越性は示されなかった(群間差:1.5%、95%CI:-3.6~6.5[信頼区間上限値:5.7]、非劣性のp=0.0058、優越性のp=0.503)。 2年時の全死因死亡(Portico弁群80例[22.3%]vs.市販弁群70例[20.2%]、p=0.40)および後遺障害を伴う脳卒中(10例[3.1%]vs.16例[5.0%]、p=0.23)の発生率は、両群で類似していた。また、事後解析では、Portico弁群の2年死亡率は、SAPIEN 3弁より高く(18例[22.7%]vs.30例[15.6%]、p=0.03)、Evolut RやEvolut PRO弁と類似していた(28例[26.1%]、p=0.54)。 1年時の中等度以上の弁周囲逆流(21例[7.8%]vs.4例[1.5%]、群間差:6.3%、95%CI:3.0~10.3[信頼区間上限値:9.2%]、非劣性のp=0.571、優越性のp=0.0005)や、30日時の恒久的ペースメーカー植込み術(88例[27.7%]vs.35例[11.6%]、16.1%、10.0~22.2、p<0.001)の発生率は、Portico弁群で高かった。 著者は、「今回の試験では、第1世代Portico弁と送達システムの、他の市販の人工弁を超える利点は示されなかった。一方、第1世代Portico弁と新たなFlexNav送達システムの単群試験では、安全性アウトカムの向上が確認されており、現在、次世代Portico弁と送達システムの臨床試験が進められている」としている。

84.

トラネキサム酸、消化管出血による死亡を抑制せず/Lancet

 急性期消化管出血の治療において、トラネキサム酸はプラセボに比べ死亡を抑制せず、静脈血栓塞栓症イベント(深部静脈血栓症または肺塞栓症)の発生率が有意に高いことが、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のIan Roberts氏らが実施した「HALT-IT試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2020年6月20日号に掲載された。トラネキサム酸は、外科手術による出血を低減し、外傷患者の出血による死亡を抑制することが知られている。また、本試験開始前のCochraneの系統的レビューとメタ解析(7試験、1,654例)では、消化管出血による死亡を低下させる可能性が示唆されていた(統合リスク比[RR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.42~0.89、p=0.01)。一方、メタ解析に含まれた試験はいずれも小規模でバイアスのリスクがあるため、大規模臨床試験による確証が求められていた。トラネキサム酸の死亡抑制効果を15ヵ国164施設で評価 本研究は、消化管出血の治療におけるトラネキサム酸の死亡抑制効果を評価する国際的な無作為化プラセボ対照比較試験であり、15ヵ国164施設の参加の下、2013年7月~2019年6月の期間に患者登録が行われた(英国国立衛生研究所医療技術評価[NIHR HTA]プログラムの助成による)。 対象は、参加各国の成人の最小年齢(16歳または18歳)以上の上部または下部消化管出血で、臨床的に重篤な出血がみられる患者であった。重篤な出血は、死亡に至るリスクがある出血と定義され、低血圧、頻脈、ショック徴候のある患者、または輸血や緊急内視鏡検査、手術が必要となる可能性が高い患者が含まれた。 被験者は、トラネキサム酸またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。トラネキサム酸は、負荷投与量1gを10分間かけて緩徐に静脈内投与した後、維持用量3gを125mg/時で24時間かけて投与された。 主要アウトカムは、無作為割り付けから5日以内の出血による死亡とした。割り付けられた治療薬の投与を受けなかった患者、および死亡に関するアウトカムデータが得られなかった患者は、トラネキサム酸の死亡抑制効果の解析から除外された。トラネキサム酸群の静脈血栓塞栓症0.8% vs. プラセボ群0.4% 1万2,009例が登録され、トラネキサム酸群に5,994例(平均年齢58.1[SD 17.0]歳、女性36%)、プラセボ群には6,015例(58.1[SD 17.0]歳、35%)が割り付けられた。1万1,952例(99.5%)が、割り付けられた治療薬の1回以上のトラネキサム酸またはプラセボの投与を受けた。 試験期間中に1,112例が死亡し、無作為割り付けから死亡までの期間中央値は55時間(IQR:18.2~161.8)だった。 5日以内に出血によって死亡した患者は、トラネキサム酸群が5,956例中222例(3.7%)、プラセボ群は5,981例中226例(3.8%)であり(RR:0.99、95%CI:0.82~1.18)、両群間に有意な差は認められなかった。ベースラインの共変量を補正した場合(0.98、0.82~1.17)およびper-protocol解析(0.94、0.71~1.23)でも、結果はほぼ同様であった。 24時間以内の出血による死亡(トラネキサム酸群2.1% vs.プラセボ群2.0%、RR:1.04、95%CI:0.81~1.33)および28日以内の出血による死亡(4.2% vs.4.4%、0.97、0.82~1.15)にも、両群間に有意な差はみられなかった。 28日以内の全死因死亡率(9.5% vs.9.2%、RR:1.03、95%CI:0.92~1.16)に有意な差はなく、再出血率(24時間、5日、28日)も両群間でほぼ同等であった。また、手術、放射線治療、血液製剤の輸注を受けた患者の割合にも有意な差はなかった。 合併症については、動脈血栓塞栓イベント(心筋梗塞、脳卒中)の発生率は両群でほぼ同等であった(0.7% vs.0.8%、RR:0.92、95%CI:0.60~1.39)。一方、静脈血栓塞栓症イベントの発生率は、トラネキサム酸群で有意に高かった(0.8% vs.0.4%、1.85、1.15~2.98)。 著者は、「最新のCochraneレビュー(8試験、1,701例)では、トラネキサム酸の消化管出血による死亡の抑制効果が示されている(RR:0.60、95%CI:0.42~0.87)。今回の知見により、小規模試験のメタ解析は、信頼性が低いことが浮き彫りとなった」と指摘し、「静脈血栓塞栓症のリスク増大が明確となったことから、トラネキサム酸は無作為化試験以外では消化管出血の治療に使用すべきではない」としている。

85.

MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

86.

非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

88.

骨髄異形成症候群〔MDS : myelodysplastic syndromes〕

1 疾患概要■ 概念・定義骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes: MDS)は、造血幹細胞のクローン性の後天的な疾患で、造血細胞(リンパ球を除く)の異形成と呼ばれる形態異常を特徴とする。末梢血ではさまざまな程度の血球減少を来すが、(1)1血球系統以上に10%以上の異形成像が見られる、(2)特徴的な染色体異常を有する、(3)骨髄での芽球比率は20%未満の、いずれかあるいは1つ以上を認めるものと定義される。■ 疫学1)MDSの発症頻度わが国では発病者数は年間に10万人あたり3~10人とされ、患者数は平成10年の厚生労働省の特発性造血障害調査研究班の報告では7,100人で、年齢の中央値は欧米と比較して若干若年層に多く、64歳である。男女比は1.9:1。2)MDSの病型MDSは一般的に骨髄の芽球比率および異形成により分類される(表1、変更点は後述)。わが国での特徴的なところは「単独del(5q)の骨髄異形成症候群」および「環状鉄芽球を伴う不応性貧血」とWHO分類で定義されている病型が欧米に比べ少ない点である。画像を拡大する■ 病因最近までMDSの原因は不明とされてきたが、ゲノム解析により病型に偏った遺伝子変化が報告されつつあり、たとえば「環状鉄芽球を伴う不応性貧血」におけるSF3B1やMDSの白血病化に伴うSETBP1の変化が知られつつある。一般的には表2に示すように、エピジェネテイックな変化に関係する遺伝子変化が、MDS発症と深くかかわっていることが知られつつある。また、染色体変化は予後を推定する重要な因子である。画像を拡大する■ 症状血球減少による症状が中心であり、貧血はほぼ必発で、48%は汎血球減少、18%が貧血+血小板減少、17%が貧血+白血球減少、13%は貧血のみである。血球減少により、出血傾向(血小板減少)、易感染(好中球減少)、貧血症状(赤血球減少)がさまざまな程度でみられる。■ 分類MDSの分類は骨髄での芽球比率、環状鉄芽球の頻度および異形成が多血球系統に及ぶか否かにより分類されるが、異形成の頻度は血液専門家によっても判読が異なることがある。単独del(5q)の骨髄異形成症候群は5q-染色体異常による。従来の分類からの名称変更は以下の通りである。従来のWHO-2008からの名称変更点は、RCUDはMDS-SLD(MDS with single lineage dysplasia)、RCMDはMDS-MLD(MDS with multi-lineage dysplasia)、RAEBはMDS-EB(MDS with excess blasts)に変更され、暫定病型として小児不応性血球減少症が設定された。これにより、2008年WHO分類のRCUDの一部はMDS-RSとして判定される例がある(表1、3)。これらのMDS分類とは別に、放射線治療や他の悪性腫瘍などに対する抗がん剤投与後にみられるものは治療関連骨髄系腫瘍として急性骨髄性白血病の分類として扱われる。画像を拡大する■ 予後予後は減少血球数、骨髄での芽球比率、染色体異常の様式による(表4)。なお、簡便にMDS FoundationのHP(http://www.mds-foundation.org/ipss-r-calculator/)にて計算できる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血球減少、とくに貧血がみられた場合にはMDSも念頭に置く。通常、軽度の高色素性大球性貧血を呈し、さまざまな頻度で好中球減少や血小板減少を伴う。MDSが疑われたならば、骨髄穿刺にて血球の異形成像および芽球比率を検討し病型診断を行うとともに(表1)、染色体異常を調べ、予後を検討する。さらに、MDSの診断基準を満たさない血球減少については最近提唱されている分類も参考にする(表5)。従来用いられていたIPSSでは、治療選択に重要な役割を持つことを期待して考案されたが、2012年に提唱されたIPSS-R(表4)では、個々の患者における予後がより詳細に検討できる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は従来のIPSSによる大まかな治療方針が推奨される。IPSSのLowおよびIntermediate-1は低リスクMDSとして、Intermediate-2およびHighは高リスクMDSの治療が行われる(図1、2)。低リスクMDSにおける造血幹細胞移植術は、反復する感染症や輸血依存の患者が対象となる。治療は従来のIPSSによる大まかな治療方針が推奨される。IPSSのLowおよびIntermediate-1、IPSS-RではVery Low、LowおよびIntermediateは低リスクMDSとして、高リスクMDSはIPSSでIntermediate-2およびHigh、IPSS-RではIntermediate、High、Very Highの分類に基づき治療が行われる(図1、2)。IPSS-R Intermediate に分類された患者については、年齢、performance status、血清フェリチン値、血清LDH値などの追加の予後因子を評価することにより、2つのリスク群のどちらで管理してもよい。低リスクMDSにおける造血幹細胞移植術は、反復する感染症や輸血依存の患者が対象となる。■ 低リスクMDSに対する治療(図1)この群では5q-染色体異常がみられたならば免疫調整薬であるレナリドミド(商品名:レブラミド)が第1選択となる。単独の5q-MDSに対しては貧血の改善は90%以上が期待され、さらに一部の患者では染色体異常の消失を含む寛解が望める。血清エリスロポエチン濃度が500mU/mL 未満の患者ではエリスロポエチン投与も効果が期待される。また、免疫抑制剤のシクロスポリンの有効性も確認されている(保険適用外)。これらの治療に無効で輸血依存の場合は脱メチル化薬であるアザシチジン(同:ビダーザ)も考慮される。低リスク患者の治療目標は輸血依存からの回避である。画像を拡大する■ 高リスクMDSに対する治療(図2)この群の治療では、造血幹細胞移植術の適応となるか(一般的に65歳未満)、強力化学療法が可能であるかにより、治療法が設計される。これら以外および移植後の再発に対してアザシチジンを用いることもある。MDSの輸血依存例では、鉄過剰症の治療として血清フェリチンおよび輸血量を勘案し、腎機能が許す範囲で経口除鉄剤が用いられる。貧血および血小板減少例では、その程度(年齢による違いあり)により適宜輸血療法が行われ、低リスクMDS患者で好中球減少に伴う感染症に対し顆粒球コロニー刺激因子を用いることもある。治験段階として免疫療法であるWT1ワクチン療法が行われているが、HLA抗原が一致しないと用いることができない。高リスク患者の治療目標は白血病移行からの回避(あるいは無白血病期間の延長)である。画像を拡大する4 今後の展望一般的にMDS患者は高齢者が多い。徐々に骨髄非破壊的造血幹細胞移植術を用いた移植が比較的高齢者にも試みられているが、感染症を含む移植合併症や再発を克服する試みもある。また、アザシチジン無効例に対する新たな治療薬や経口アザシチジンの開発も進められ、さらなる治療法の開拓が期待される疾患である。2012年に発表されたIPSS-Rによる個別化治療が推進されるとともに、病型の進展に伴う遺伝子変化が次々と報告され、これらの遺伝子変化を標的とする治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科あるいは血液腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サービス 骨髄異形成症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報Japan MDS Patient Support Group(患者とその家族および支援者の会)1)NCCN guideline. Myelodysplastic Syndromes V.2. 2018.骨髄異形成症候群(日本語版PDF)公開履歴初回2013年02月28日更新2020年01月28日mds_00

89.

開発中のluspatercept、低~中等度リスクMDSの貧血を軽減/NEJM

 環状鉄芽球を伴う比較的リスクが低い骨髄異形成症候群(MDS)で、定期的に赤血球輸血を受けており、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)に抵抗性または反応する可能性が低い、あるいは有害事象でこれらの製剤を中止した患者の治療において、luspaterceptは貧血の重症度を低下させることが、フランス・パリ第7大学のPierre Fenaux氏らが行った「MEDALIST試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年1月9日号に掲載された。ESA治療が無効の貧血を伴う比較的リスクが低いMDSの患者は、一般に赤血球輸血に依存性となる。luspaterceptは、SMAD2とSMAD3のシグナル伝達を抑制して赤血球の成熟を促すために、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのリガンドと結合する組み換え融合蛋白で、第II相試験で有望な結果が報告されている。輸血非依存期間を評価するプラセボ対照無作為化試験 本研究は、11ヵ国65施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2016年3月~2017年6月に患者登録が行われた(CelgeneおよびAcceleron Pharmaの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、WHO基準で環状鉄芽球を伴うMDSで、国際予後判定システム改訂版(IPSS-R)の定義で超低リスク、低リスク、中等度リスクの病変を有し、定期的に赤血球輸血(割り付け前の16週に、≧2単位/8週)を受けており、ESAに抵抗性または反応する可能性が低い、あるいは有害事象でこれらの製剤を中止した患者であった。 被験者は、luspatercept(1.0~1.75mg/kg体重)またはプラセボを3週ごとに皮下投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、1~24週における8週間以上の輸血非依存の状態とし、主な副次評価項目は1~24週および1~48週の双方における12週間以上の輸血非依存とした。主要評価項目:38% vs.13% 229例が登録され、153例がluspatercept群、76例はプラセボ群に割り付けられた。全体の年齢中央値は71歳(範囲26~95)で、63%が男性であった。IPSS-R基準による病変の重症度別の患者割合は、超低リスクが10%、低リスクが72%、中等度リスクが17%だった。 24週時に、8週間以上の輸血非依存が観察された患者の割合は、luspatercept群が38%と、プラセボ群の13%に比べ有意に良好であった(p<0.001)。 24週時と48週時に12週間以上の輸血非依存を達成した患者の割合は、いずれもluspatercept群がプラセボ群よりも高かった(1~24週:28% vs.8%、1~48週:33% vs.12%、いずれもp<0.001)。 また、24週時と48週時に16週間以上の輸血非依存を達成した患者の割合は、いずれもluspatercept群がプラセボ群よりも良好だった(1~24週:19% vs.4%、1~48週:28% vs.7%)。 luspatercept関連の全Gradeの有害事象のうち、とくに頻度が高かったのは、疲労(27%)、下痢(22%)、無力症(20%)、悪心(20%)、めまい(20%)であった。Grade3/4の有害事象は、luspatercept群42%、プラセボ群45%に認められた。1つ以上の重篤な有害事象は、それぞれ31%および30%にみられた。有害事象の発現率は経時的に低下した。 著者は、「luspaterceptがSMAD2とSMAD3のシグナル伝達系に及ぼす作用の正確なメカニズムは完全には解明されていないが、輸血非依存や赤血球反応、ヘモグロビン値上昇の期間を延長することから、本試験の対象患者に有用な臨床効果をもたらすことが示唆される」としている。

90.

心臓手術後の輸血、フィブリノゲン製剤はクリオ製剤に非劣性/JAMA

 心肺バイパス手術後に臨床的に重大な出血と後天性低フィブリノゲン血症を呈する患者において、フィブリノゲン製剤投与はクリオプレシピテート投与に対し、バイパス手術後24時間に輸血された血液成分単位に関して非劣性であることが示された。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのJeannie Callum氏らによる無作為化試験「FIBRES試験」の結果で、著者は「フィブリノゲン製剤は、心臓手術後に後天性の低フィブリノゲン血症を呈する患者の輸血療法において使用可能と思われる」と述べている。大量出血は心臓手術では一般的な合併症であり、出血の重大な原因として後天性の低フィブリノゲン血症(フィブリノゲン値<1.5~2.0g/L)がある。後天性低フィブリノゲン血症に対してガイドラインでは、フィブリノゲン製剤もしくはクリオプレシピテートによるフィブリノゲン補充療法が推奨されているが、両製剤には重大な違いがあることが知られており、臨床的な比較データは不足していた。JAMA誌オンライン版2019年10月21日号掲載の報告。827例を無作為化、術後24時間以内の輸血単位を比較 研究グループは、心臓手術後の低フィブリノゲン血症に関連した出血の治療について、フィブリノゲン製剤がクリオプレシピテートに対して非劣性か否かを確認する無作為化試験を行った。カナダにある11病院で、心臓手術後に臨床的に重大な出血と低フィブリノゲン血症を呈する成人患者827例を登録。2群に無作為化し、心臓手術後24時間以内に、フィブリノゲン製剤4g(415例)またはクリオプレシピテート10単位(412例)をそれぞれ手順に沿って投与した。 主要アウトカムは、バイパス手術終了後24時間に投与された血液成分(赤血球、血小板、血漿)。平均単位比率の非劣性について2標本・片側検定により評価した(非劣性の比率の閾値<1.2)。 本試験は、計画された被験者数1,200例のうち827例が無作為化を受けた後の中間解析で、非劣性について演繹的な試験中止基準に達した。フィブリノゲン製剤群16.3単位、クリオプレシピテート群17.0単位 無作為化を受けた827例のうち735例(フィブリノゲン製剤群372例、クリオプレシピテート群363例)が輸血療法を受け、主要解析に包含された。735例の年齢中央値は64歳(四分位範囲:53~72)、女性が30%、72%が複合手術を受け、95%が中等度~重度の出血、処置前のフィブリノゲン値は1.6g/L(四分位範囲:1.3~1.9)であった。 バイパス手術後平均24時間の同種血輸血は、フィブリノゲン製剤群16.3単位(95%信頼区間[CI]:14.9~17.8)、クリオプレシピテート群17.0単位(95%CI:15.6~18.6)であった(比率:0.96[片側97.5%CI:-∞~1.09、非劣性のp<0.001][両側95%CI:0.84~1.09、優位性のp=0.50])。 血栓塞栓イベントは、フィブリノゲン製剤群26例(7.0%)、クリオプレシピテート群35例(9.6%)で発生した。

91.

2次予防のアスピリン、投与すべき患者は?~MAGIC試験

 心血管イベントの再発予防のための低用量アスピリンの使用は、リスク-ベネフィットのバランスに基づくべきである。今回、国際医療福祉大学臨床医学研究センター/山王病院・山王メディカルセンター脳血管センターの内山 真一郎氏らが、わが国の全国規模の多施設共同前向き研究であるMAGIC(Management of Aspirin-induced Gastrointestinal Complications)試験において、心血管疾患の既往のある患者のアスピリン長期使用による心血管イベントと出血イベントの発生率を調査した。その結果、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作、冠動脈疾患、複数の心血管疾患の既往のある患者ではベネフィットがリスクを上回っていたが、心房細動または静脈血栓塞栓症の既往のある患者ではリスクとベネフィットが同等であった。Heart and Vessels誌オンライン版2019年8月24日号に掲載。 本研究は、血栓塞栓リスクのある心血管疾患(虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作、冠動脈疾患、心房細動、静脈血栓塞栓症)の既往があり、アスピリン(75~325mg)を服用している日本人患者1,506例を対象とし、重大な心血管イベント(虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作、冠動脈疾患、心血管死、血管形成術またはステント留置、心血管疾患による入院)および出血イベント(入院と輸血のいずれか、もしくは両方とも必要な大出血)の発生について1年間調査した。対象患者を、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作(540例)、冠動脈疾患(632例)、心房細動/静脈血栓塞栓症(232例)、これらの2つ以上に該当(101例)の4つのカテゴリーに分け、心血管イベントおよび出血イベントの年間発生率を評価した。 主な結果は以下のとおり。・心血管イベントは61例(3.82%/年)、出血イベントは15例(0.93%/年)に発生した。・各カテゴリーにおける心血管イベントおよび出血イベントの年間発生率は、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作では2.81%および0.93%、冠動脈疾患では5.32%および0.75%、心房細動/静脈血栓塞栓症では1.15%および1.15%、2つ以上に該当した患者では6.44%および0.91%であった。

92.

終末期がん患者、併発疾患への薬物療法の実態

 終末期緩和ケアを受けているがん患者において、併発している疾患への薬物療法はどうなっているのか。フランス・Lucien Neuwirth Cancer InstituteのAlexis Vallard氏らは、前向き観察コホート研究を行い、緩和ケア施設に入院した終末期がん患者に対する非抗がん剤治療が、一般的に行われていることを明らかにした。著者は「それらの治療の有益性については疑問である」とまとめている。Oncology誌オンライン版2019年6月20日号掲載の報告。 研究グループは、緩和ケア施設のがん患者に対する抗がん剤治療および非抗がん剤治療の実態と、非抗がん剤治療を中止するか否かの医療上の決定に至る要因を明らかにする目的で調査を行った。 2010~11年に緩和ケア施設に入院したがん患者1,091例のデータを前向きに収集し、解析した。 主な結果は以下のとおり。・緩和ケア施設入院後の全生存期間中央値は、15日であった。・緩和ケア施設入院後、4.5%の患者を除き、最初の24時間以内に特定の抗がん剤治療は中止されていた。・非抗がん剤治療については、患者が死亡するまで、強オピオイド(74%)、副腎皮質ステロイド(51%)、および抗うつ薬(21.8%)について十分に投与が続けられていた。・抗潰瘍薬(63.4%)、抗菌薬(25.7%)、血栓症予防療法(21.8%)、糖尿病治療薬(7.6%)、輸血(4%)もしばしば、継続して処方されていた。・多変量解析の結果、ECOG PS 4は、モルヒネについては継続の独立した予測因子であり、副腎皮質ステロイド、プロトンポンプ阻害薬、糖尿病治療薬、予防的抗凝固療法については中止の独立した予測因子であった。・感染症症状はパラセタモール継続の、麻痺および触知可能ながん腫瘤は副腎皮質ステロイド中止の、脳転移は抗潰瘍薬中止の、出血は予防的抗凝固療法中止の、それぞれ独立した予測因子であった。

93.

「豪華盛り合わせ」のパワーとオトク感(解説:今中和人氏)-1056

 ひと昔前は「80代に心臓手術の適応があるか? ないか?」と真剣に議論されていた(ちなみに結論は「ケース・バイ・ケース」がお約束)が、手術患者は明らかに高齢化しており、そんなのいまや日常的。ただ、高齢者に多い併存症の1つに貧血がある。一方、心臓外科の2割前後はいわゆる「急ぎ」の症例で、その方々は自己血貯血どころではなく、昨今の情勢では待期手術でも、まったりした術前入院など許されない。だから心臓手術の患者に貧血があって、何か即効性のある良いことができないか、というのはきわめて現実的なシナリオである。 本論文は、貧血を男性Hb 13、女性Hb 12(g/dL)未満、鉄欠乏を血清フェリチン100(ng/mL)未満と定義し、スイスのチューリッヒ大学病院での約3年半の開心術(バイパス、弁、バイパス+弁)約2,000例のうち、上記の定義に該当した505例に対する前向き二重盲検試験である。平均年齢は68歳とやや若く、35%が女性。平均BMIは27前後と肥満傾向で、貧血に該当する患者と、鉄欠乏に該当する患者がほぼ同数だったため、術前Hbは12.8~12.9と実はさほど低くなかった。実薬群は、手術前日に20mg/kgの鉄剤の静注、40,000単位のエリスロポエチンαの皮下注、1mgのビタミンB12の皮下注、5mgの葉酸薬の経口投与を行い、対照群にはplaceboを投与した。この投薬の赤血球輸血節減効果(輸血関係の研究だが、例によってFFPと血小板はほぼ無視)と採血データ等が、90日後まで検討された。 輸血基準は術中とICUではHb 7~8未満、ICUを出てからはHb 8未満であった。 この投与量だが、鉄剤は許容最高用量(本邦の用量は40~120mgだが化合物が異なり、比較が難しい)で、エリスロポエチンαは本邦では通常3,000~12,000単位、自己血貯血時のみ24,000単位が許容されていることから、これは相当な大量。ビタミンB12と葉酸も最高用量なので、要するに「豪華盛り合わせ」。上天丼に海老天を2本追加した、ぐらいのイメージである。 結果は、有害事象はなかった。赤血球輸血量は7日時点で実薬群1.5±2.7単位、対照群1.9±2.9単位、90日時点だとそれぞれ1.7±3.2単位(中央値0)、2.3±3.3単位(中央値1)で、ともに有意差がつき、赤血球1単位を節減できたと結論している。ところが赤血球1単位は212.5スイス・フランなのに、「豪華盛り合わせ」のお値段は682スイス・フラン。本稿執筆時点で1スイス・フランは108.57円なので、約51,000円の赤字である。 さらに貧血と鉄欠乏と区別してサブグループ解析すると、貧血患者では同様の輸血節減効果がある(ただしn数減少のため有意差は消滅)が、鉄欠乏患者では7日時点での輸血量が実薬群1.0±2.2単位、対照群1.3±2.8単位、90日時点でそれぞれ1.1±2.5単位(中央値0)、1.7±3.1単位(中央値0)と差がなく、薬価分74,000円はほぼ完全な「持ち出し」になった。著者らは、実薬群では後日のHbが上がっているから、この増加分を金銭換算すると赤字は相殺される、と、なかなか苦しい主張を展開しているが、少なくともオトク感は皆無に近い。おまけに本邦では保険も通らない。 エリスロポエチンの効果が出始めるのに2~3日はかかるといわれているのを、本論文は前日の投与でもなにがしかの違いがあることを示したわけで、立派な成果だとは思う。しかしHb 9以下など高度貧血では輸血はどだい不可避で、今回のように大柄な患者さんでちょっと貧血、なんていう場合に無輸血でいける可能性が上がる、という程度のパワーである。少々コスパが悪くても輸血合併症が多ければ輸血量削減の意義は大きいし、心臓外科医は私も含め輸血に関してPTSD状態で、つい無輸血にこだわってしまうが、日赤はじめ関係各位にあらためて感謝すべきことに、近年の深刻な輸血合併症は素晴らしく低率である(「PTSD心臓外科医のこだわりと肩すかし」)。 今回の造血薬「豪華盛り合わせ」のお金は、膨らむ一方の医療費の節減か、食の「豪華盛り合わせ」でないまでも、別の使途に振り向けたほうがよろしいのではないだろうか。

94.

敗血症関連凝固障害への遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤、第III相試験結果/JAMA

 敗血症関連凝固障害がみられる重症患者の治療において、遺伝子組換えヒト可溶性トロンボモデュリン(rhsTM)製剤ART-123はプラセボと比較して、28日以内の全死因死亡率を改善しないことが、ベルギー・Universite Libre de BruxellesのJean-Louis Vincent氏らが実施した「SCARLET試験」で示された。研究の詳細はJAMA誌オンライン版2019年5月19日号に掲載された。rhsTMは、播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とする無作為化第IIb相試験の事後解析において、死亡率を抑制する可能性が示唆されていた。26ヵ国159施設のプラセボ対照無作為化試験 本研究は、日本を含む26ヵ国159施設が参加する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2012年10月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(Asahi-Kasei Pharma America Corporationの助成による)。 対象は、心血管あるいは呼吸器の障害を伴う敗血症関連凝固障害で、集中治療室に入室した患者であった。被験者は、rhsTM(0.06mg/kg/日、最大6mg/日、静脈内ボーラス投与または15分注入)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、1日1回、6日間の治療が行われた。 主要エンドポイントは、28日時の全死因死亡であった。28日全死因死亡率:26.8% vs.29.4% 816例が登録され、このうち800例(平均年齢60.7歳、男性54.6%)が試験を完遂し、最大の解析対象集団(FAS)に含まれた。rhsTM群が395例、プラセボ群は405例であった。 28日全死因死亡率は、両群間に有意な差は認めなかった(rhsTM群26.8%[106/395例]vs.プラセボ群29.4%[119/405例]、p=0.32)。絶対リスク差は2.55%(95%信頼区間[CI]:-3.68~8.77)だった。 サブグループ解析では、ヘパリンの投与を受けた患者(416例)は、28日全死因死亡率がrhsTM群で低かった(差:-0.87%、95%CI:-9.52~7.77)のに対し、ヘパリンの投与を受けていない患者(384例)は、rhsTM群のほうが高かった(6.25%、-2.72~15.22)。 重篤な出血有害事象(頭蓋内出血、生命に関わる出血、担当医が重篤と判定した出血イベントで、赤血球濃厚液1,440mL[典型的には6単位]以上を2日で輸血した場合)の発生率は、rhsTM群が5.8%(23/396例)、プラセボ群は4.0%(16/404例)であった。 なお著者は、これらの知見に影響を及ぼした可能性のある原因として、次のような諸点を挙げている。(1)患者の約20%が、ベースライン時に凝固障害の基準を満たさなかった、(2)プラセボ群の死亡率が、試験開始前にサンプルサイズの算出に使用した予測値よりも高かった、(3)深部静脈血栓症の予防に用いたヘパリンが、rhsTMの効果を減弱させた可能性がある、(4)無作為化の際に施設で層別化したが、159施設中55施設は登録患者が1例のみであり、効果の結果に影響を及ぼした可能性がある。

95.

貧血/鉄欠乏の心臓手術患者、術前日の薬物治療で輸血量減少/Lancet

 鉄欠乏または貧血がみられる待機的心臓手術患者では、手術前日の鉄/エリスロポエチンアルファ/ビタミンB12/葉酸の併用投与により、周術期の赤血球および同種血製剤の輸血量が減少することが、スイス・チューリッヒ大学のDonat R. Spahn氏らの検討で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年4月25日号に掲載された。貧血は、心臓手術が予定されている患者で高頻度に認められ、赤血球輸血量の増加や、死亡を含む有害な臨床アウトカムと関連する。また、鉄欠乏は貧血の最も重要な要因であり、鉄はエネルギーの産生や、心筋機能などの効率的な臓器機能に関与する多くの過程で中心的な役割を担っている。そのため、貧血と関連がない場合であっても、術前の鉄欠乏の治療を推奨する専門家もいるという。術前の超短期間の薬物併用治療による、輸血量削減効果を評価 本研究は、術前の超短期間の薬物併用投与による、周術期の赤血球輸血量の削減と、アウトカムの改善の評価を目的に、単施設(チューリッヒ大学病院臨床試験センター)で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験であり、2014年1月9日~2017年7月19日に患者登録が行われた(Vifor Pharmaなどの助成による)。 対象は、貧血(ヘモグロビン濃度が、女性は<120g/L、男性は<130g/L)または鉄欠乏(フェリチン<100mcg/L、貧血はない)がみられ、待機的心臓手術(冠動脈バイパス術[CABG]、心臓弁手術、CABG+心臓弁手術)が予定されている患者であった。 被験者は、手術の前日(手術が次週の月曜日の場合は金曜日)に、カルボキシマルトース第二鉄(20mg/kg、30分で静脈内注入)+エリスロポエチンアルファ(40,000U、皮下投与)+ビタミンB12(1mg、皮下投与)+葉酸(5mg、経口投与)を投与する群(併用治療群)またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、手術施行日から7日間の赤血球輸血とした。赤血球輸血コストは低いが、総コストは高い 修正intention-to-treat集団は484例であった。243例(平均年齢69歳[SD 11]、女性35%)が併用治療群に、241例(67歳[12]、34%)はプラセボ群に割り付けられた。 手術日から7日間の赤血球輸血中央値は、併用治療群では0単位(IQR:0~2)であり、プラセボ群の1単位(0~3)に比べ、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.036)。また、術後90日までの赤血球輸血も、併用治療群で有意に少なかった(p=0.018)。 輸血された赤血球の単位が少なかったにもかかわらず、併用治療群はプラセボ群に比べ、術後1、3、5日のヘモグロビン濃度が高く(p=0.001)、網赤血球数が多く(p<0.001)、網赤血球ヘモグロビン含量が高かった(p<0.001)。 新鮮凍結血漿および血小板輸血量は、術後7日および90日のいずれにおいても両群で同等であったが、同種血製剤の輸血量は術後7日(0単位[IQR:0~2]vs.1単位[0~3]、p=0.038)および90日(0[0~2]vs.1[0~3]、p=0.019)のいずれにおいても併用治療群で有意に少なかった。 術後90日までの赤血球輸血の費用は、併用治療群で有意に安価であったが(中央値0スイスフラン[CHF、IQR:0~425]/平均値370 CHF[SD 674]vs.231 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p=0.018)、薬剤費を含む総費用は、併用治療群で有意に高額であった(682 CHF[682~1,107]/1,052 CHF[674]vs.213 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p<0.001)。 副次アウトカムは、重篤な有害事象(併用治療群73例[30%]vs.プラセボ群79例[33%]、p=0.56)および術後90日までの死亡(18例[7%]vs.14例[6%]、p=0.58)を含め、そのほとんどで両群に有意差はみられなかった。 著者は、「待機的心臓手術を受ける患者では、ヘモグロビンと鉄のパラメータをルーチンに測定し、手術前日であっても貧血/鉄欠乏への併用薬物治療を考慮する必要がある。この点は、急性心イベントから数日以内に行われる待機的心臓手術の割合が増加している現状との関連で、とくに重要と考えられる」としている。

96.

CIDP患者のQOLを変える治療薬

 2019年4月10日、CSLベーリング株式会社は、都内で慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)に関するメディアセミナーを開催した。セミナーでは、最新のCIDPの知見のほか、患者実態調査の報告などが行われた。急に箸が持てない、手がピリピリする症状は はじめに「CIDPの多様性と治療戦略 患者さんのQOLを維持するために」をテーマに、祖父江 元氏(名古屋大学大学院医学系研究科 特任教授)を講師に迎え、診療の概要が説明された。 CIDPとは、進行性または再発性の経過で、2ヵ月以上にわたりびまん性の四肢の筋力の低下やしびれ感を来す末梢神経疾患である。典型的な症状としては、左右対称性に腕があがらなくなる、箸が使えないほどの握力低下、階段に登れないなどがある。また、手足のしびれ感やピリピリ感などの違和感を認めることもあるという。免疫の関与が指摘されているが、くわしい原因はいまだ不明でわが国には、約5,000人の患者がいると推定されている。 診断は、主に臨床所見と電気生理所見に基づいて行われ、とくに“European Federation of Neurological Societies/Peripheral Nerve Society(EFNS/PNS)”の診断基準が世界的に使用されている。典型的CIDPでは「2ヵ月以上進行する四肢における対称性・びまん性の筋力低下と感覚障害」「深部腱反射の全般性減弱もしくは消失」が、非典型CIDPでは「典型的CIDPとは異なる臨床像」「深部腱反射の異常は障害肢のみに限定される」が臨床基準として受け入れられている。疫学的には典型的CIDPが6割を占めるという。国内初の皮下注射で患者QOLが変わる 治療では、第1選択療法として、免疫グロブリン静脈内投与(IVIg)療法、副腎皮質ステロイド療法、血漿浄化療法があるが、血漿浄化療法は専門性が高く、専用機器を必要とすることから前二者が主に行われている。 IVIg療法は、急性期と維持療法の両方で行われ、同療法による再発抑制と長期予後の有効性は“ICE study”で報告されている。27週のプラセボ群との再発率の比較で、プラセボ群45%に対し、同療法群は13%と有意な結果を示した1)。また、製剤の進歩もあり、近年では急性期でも維持療法でも使用できるIVIg製剤ピリヴィジェン(商品名)や維持療法で高濃度のIVIg製剤が皮下注射で投与できるハイゼントラ(商品名)が登場している。 これら製剤の国際共同第III相試験である“PATH試験”について、ハイゼントラについて言及すると、26週時点で再発抑制に有用なだけでなく、より少ない投与量(0.2/kg/week)での有効性も示された。安全性については、注射部位の膨張・紅斑・疼痛、頭痛、疲労は報告されたものの死亡などの重篤なものはなかった2)。 同氏は、CIDPの病態は再発と寛解の繰り返しと説明し、「なかでも再発の前に治療介入することが重要だ」と指摘した。ハイゼントラについては、「国内初の皮下注製剤であること、在宅でも注射できること、投与後の血中IgG濃度が安定していること、自己注射のため患者の自律性と自由度が高いこと」を理由に、これからの維持療法への活用に期待をにじませた。また、今後の展望として「患者ニーズに合わせた、適切な治療の普及のほか、難治症例への治療法の研究・開発が今後の課題」と語り、レクチャーを終えた。時間に拘束されない治療を望む患者の思い 次に「CIDP患者としての思い」をテーマに、患者会の代表である鵜飼 真実氏(全国CIDPサポートグループ 理事長)が登壇し、患者実態調査(n=200)の報告を行った。 報告によると、「患者歴」では5~10年未満(32%)が1番多く、ついで10~15年未満(23%)、5年未満(22%)などの順だった。「確定診断までに要した病院数」では2ヵ所(32%)が1番多く、ついで1ヵ所(23%)、3ヵ所(22%)などの順だった。「確定診断までに要した期間」では6ヵ月以上1年未満(16%)が1番多く、約6割が1年以内に確定診断がされていた。また、診断では、整形外科、内科、脳神経内科の順で受診が多いという。 CIDPの治療では、急性時、再発時ともに約8割でIVIg療法が実施され、維持療法では経口ステロイド療法(42%)が1番多かった。同氏は、患者の声として、「多くの患者は治療だけでなく介護も必要としており、体力の問題、治療費用など経済問題も抱えて生きている。治療では、病院で過ごす時間が長く、患者は疲弊している。自宅で治療できる治療薬が普及すれば、さまざまな問題も解決できると考える」と思いを語った。■参考文献1)Hughes RA, et al. Lancet Neurol. 2008;7:136-144.2)van Schaik IN, et al. Lancet Neurol. 2018;17:35-46.■参考ピリヴィジェン(R)10%点滴静注(液状静注用人免疫グロブリン[IVIG]製剤)、慢性炎 症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の治療薬として製造販売承認を取得ハイゼントラ(R)20%皮下注(皮下注用人免疫グロブリン[SCIG]製剤)、慢性炎症性脱 髄性多発根神経炎(CIDP)の治療薬として効能追加の承認を取得

97.

チカグレロルの中和薬、第I相試験で有効性確認/NEJM

 チカグレロルの特異的中和薬であるPB2452について、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らは、健常ボランティアにおいて、チカグレロルの抗血小板作用を迅速かつ持続的に中和し、毒性は軽度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月17日号に掲載された。チカグレロルは経口P2Y12阻害薬で、急性冠症候群の患者や心筋梗塞の既往のある患者において、虚血性イベントのリスクを抑制するために、アスピリンとの併用で使用される。しかし他の抗血小板薬と同様、チカグレロルも大出血や緊急の侵襲的手技に伴う出血が懸念され、その抗血小板作用には、血小板輸血による可逆性はなく、出血の抑制には速効型の中和薬が有用とされる。複数の検査法で血小板機能を評価するプラセボ対照第I相試験 本研究は、健常ボランティアを対象に、単施設で行われた二重盲検プラセボ対照無作為化第I相試験であり、2018年4月3日~8月23日に参加者の登録が行われた(PhaseBio Pharmaceuticalsの助成による)。 PB2452は、チカグレロル中和薬として、チカグレロルに高い結合親和性を有するモノクローナル抗体フラグメントである。健常ボランティア(年齢18~50歳、体重50~120kg、BMI 18~35)において、48時間のチカグレロルによる治療の前後およびPB2452またはプラセボを投与後に血小板機能の評価を行った。 血小板機能の評価には、透過光血小板凝集検査法、P2Y12血小板反応性のポイント・オブ・ケア検査、血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質検査が用いられた。中和作用は投与開始5分以内に発現、20時間以上持続 64例が登録され、PB2452群に48例(平均年齢30.5歳、男性48%)、プラセボ群には16例(34.0歳、69%)が割り付けられた。 PB2452群では、17例に27件の有害事象が認められた。主なものは注射部位内出血(4件)、医療機器部位反応(3件)、血管穿刺部位出血(2件)、注入部位血管外漏出(2件)であった。用量制限毒性や輸注反応はみられず、死亡や試験薬中止を要する有害事象、および入院を要する有害事象もみられなかった。 48時間のチカグレロル治療後には、血小板凝集能が約80%抑制された。迅速な中和を得るためにPB2452を静脈内ボーラス投与後、中和を持続させるために注入時間を8、12、16時間と延長すると、3つの測定法のすべてで、血小板機能がプラセボ群に比べ有意に上昇した。 チカグレロルの中和作用は、PB2452の投与開始から5分以内に発現し、20時間以上持続した(3つの測定法のすべての測定時点の値をBonferroni法で調整後のp<0.001)。薬剤投与終了後の血小板活性には、リバウンドの証拠はなかった。 著者は、「PB2452によるチカグレロルの抗血小板作用の中和は、出血患者に対し、より迅速な止血をもたらすか、また緊急の侵襲的手技を施行された患者において、出血を予防するかについては、まだ不明である」としている。

98.

バベシア症に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、前回は誰も興味がないと思われる超マニアックなバベシア症について語りました。しかしッ! 日本の医療従事者もバベシア症について知っておかなければならない時代が来ているのですッ!突然ですが、症例提示をしてよろしいでしょうか?原因不明の溶血の正体は何?症例:40歳日本人男性主訴:発熱、溶血現病歴:X年1月31日39℃台の発熱が出現2月2日ヘモグロビン尿が出現2月6日溶血性貧血の診断でA病院にてヒドロコルチゾン900mg/日の点滴と赤血球輸血を施行3月20日退院3月29日再びヘモグロビン尿が出現4月3日再入院しヒドロコルチゾン900mg/日を再開。溶血は改善したが原因精査のためB病院転院既往歴:出血性胃潰瘍でX-1年12月28日(A病院入院約1ヵ月前)に入院。赤血球10単位、FFP3単位の輸血を施行節足動物曝露:なし身体所見:体温 36.8℃、脈拍90/分、血圧152/84mmHg眼球結膜に黄疸あり、眼瞼結膜に貧血あり、表在リンパ節を触知せず、心肺異常なし、腹部圧痛なし、肝脾を触知せず、下肢に軽度の浮腫を認める血液検査:WBC 14,100/µL、RBC 1.87×106/µL、Hb 6.5g/dL、Ht 19.8%、Plt 25×104/µL、BUN 20mg/dL、Cre 0.68mg/dL、TP 5.7g/dL、Alb 2.9g/dL、T-BiL 1.6mg/dL、GOT 89IU/L、GPT 51IU/L、LDH 4,266IU/L、CRP 1.37mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.1mEq/L、CL 106mEq/L尿検査:尿蛋白(+)、尿潜血(4+)、尿糖(-)症例患者の感染ルートはどこださて、この原因不明の溶血(再生不良性貧血として治療したが再燃)と、2ヵ月の経過で続く発熱、体重減少の症例…診断は何だと思いますでしょうか? まあ、ここまで来といてバベシア症じゃなかったら怒られると思うんですが、そうです、バベシア症なんです!日本人ですよ? 海外渡航歴なしですよ? 本症例は日本国内発の初のバベシア症症例です1)。末梢血ギムザ染色を行い、図のような赤血球内に寄生するバベシア原虫の所見が得られ確定診断に至っています。画像を拡大するこの患者さんはマダニからの感染ではなく、出血性胃潰瘍のため輸血をした際にバベシア症に感染したと考えられています。この供血者についても判明しており、海外渡航歴のない方による供血だったそうです。つまり、日本国内でもバベシア症に感染する可能性があるのですッ!国内に潜むバベシア症このわが国初のバベシア症が報告された兵庫県2)だけでなく、北海道、千葉県、島根県、徳島県などでもこのB.microti様原虫(Babesia microti-like parasites)を持つ野生動物が見つかっており、ヤマトマダニからも分離されています3)。あー、ちゃばい。つまり、すでに日本のマダニだの野生動物だのは、バベシア原虫を持っているということです。いつ感染してもおかしくないって話です。でも、すでにマダニや動物が持っているなら、1例だけじゃなくもっとたくさんの症例が報告されていても、おかしくないはずですよね。そうなんです。もっと患者がいてもいいのに(よかないけど)、報告されていないんです。しかし、興味深い論文がありますのでご紹介します。千葉県の房総半島で1,335人のボランティアの方から採血をしたところ、その1.3%でバベシア原虫に対する抗体が陽性だったというのですッ4)! そう、われわれは気付かないうちにバベシアに感染しているのかもしれないのですッ!というわけで、必ずしも日本では診ることがないとも言い切れないバベシア症についてお話いたしました。国内第2例目を診断するのは、あなたかもしれないッ!次回は「先進国イタリアでまさかのマラリア流行かッ!?」というお話をいたします。1)松井利充ほか. 臨床血液. 2000;41:628-634.2)Saito-Ito A, et al. J Clin Microbiol. 2004;42:2268-2270.3)Tsuji M, et al. J Clin Microbiol. 2001;39:4316-4322.4)Arai S, et al. J Vet Med Sci. 2003;65:335-340.

99.

血友病〔Hemophilia〕

血友病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. Ther Adv Hematol. 2018;9:273-293.18)Monahan PE. J Thromb Haemost. 2015;1:S151-160.公開履歴初回2017年9月12日更新2019年2月12日

100.

同種移植、鎌状赤血球貧血児の脳卒中リスクを軽減/JAMA

 経頭蓋超音波ドプラ(TCD)で血流速度の持続的な上昇がみられるため、継続的な輸血を要する鎌状赤血球貧血(SCA)の患児では、適合同胞ドナー造血幹細胞移植(MSD-HSCT)により、標準治療に比べて1年後のTCD血流速度が有意に低下し、脳卒中リスクが軽減するとの研究結果が、フランス・Centre Hospitalier Intercommunal de CreteilのFrancoise Bernaudin氏らが実施したDREPAGREFFE試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年1月22日号に掲載された。SCA児では、TCD血流速度の上昇が脳卒中リスクと関連し、継続的な輸血によってリスクは軽減することが知られている。MSD-HSCTは多くのSCA児に治癒をもたらすとともに脳血流量を低下させるが、輸血と比較する前向き対照比較試験は行われていなかった。脳血流速度を比較する非無作為化試験 本研究は、SCA児において、MSD-HSCTと、虚血性脳卒中発症の代替指標としてのTCD血流速度との関連の評価を目的とする非盲検非無作為化対照比較介入試験(フランスAssistance Publique-Hopitaux de Parisの助成による)。 対象は、年齢15歳未満、TCDで血流速度の持続的な上昇がみられるため継続的な輸血を要し、同じ両親を持つ1人以上の非SCAのきょうだいがいるSCAの子供であった。家族は、ヒト白血球抗原(HLA)の抗体検査の実施に同意し、適合同胞ドナーが見つかった場合は移植を、適合同胞ドナーがいない場合は標準治療を施行することに同意することとした。 標準治療は、1年以上の輸血を行い、その後はhydroxyureaへの切り換えも可とした。傾向スコアマッチング法を用いて、MSD-HSCT群と標準治療群を比較した。 主要アウトカムは、1年後の、TCDで測定した8つの脳動脈における時間平均最大血流速度(time-averaged mean of maximum velocities:TAMV)とした。4項目の副次アウトカムでも有意差 患者登録は、2010年12月~2013年6月の期間にフランスの9施設で行われ、2017年1月まで3年間のフォローアップが実施された。67例(年齢中央値7.6歳、女児35例[52%])が登録され、MSD-HSCT群に32例、標準治療群には35例が割り付けられた。傾向スコアでマッチさせた、それぞれ25例ずつの患者の解析を行った。 1年時のTAMVは、MSD-HSCT群が129.6cm/sと、標準治療群の170.4cm/sに比べ有意に低下した(差:-40.8cm/s、95%信頼区間[CI]:-62.9~-18.6、p<0.001)。 29項目の副次アウトカムのうち25項目の解析が行われた。以下の4項目で有意差が認められ、いずれもMSD-HSCT群で良好だった。 3年時のTAMV(MSD-HSCT群112.4cm/s vs.標準治療群156.7cm/s、差:-44.3cm/s、95%CI:-71.9~-21.1、p=0.001)、1年時の血流速度の正常化(TAMV<170cm/s)(80.0% vs.48.0%、32.0%、0.2~58.6%、p=0.045)、1年時のフェリチン値(905ng/mL vs.2,529ng/mL、-1,624ng/mL、-2,370~-879、p<0.001)、3年時のフェリチン値(382 ng/mL vs.2,170ng/mL、-1,788ng/mL、-2,570~-1,006、p<0.001)。 MSD-HSCT群の5例で、皮膚症状のみを伴う急性の移植片対宿主病(GVHD)が観察された(Grade I:2例、Grade II:2例、Grade III:1例)。Grade II以上の急性GVHDの累積発症率は9.4%であった。静脈閉塞性疾患は認めなかった。 その他の有害事象として、痙攣を伴う可逆性後頭葉白質脳症(2例)、無症候性のサイトメガロウイルス再活性化(11例)、EBウイルス感染症(6例)、出血性膀胱炎(4例)などがみられた。 著者は、「MSD-HSCTが臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するために、さらなる検討を要すると考えられる」としている。

検索結果 合計:245件 表示位置:81 - 100