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兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)【大学医局紹介~がん診療編】

吉原 哲 氏(教授)吉原 享子 氏(臨床講師)寺本 昌弘 氏(助教)熊本 友子 氏(レジデント)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴私たちの医局のモットーは、すべての血液疾患の患者さんに最良の治療を提供することです。血液疾患には、白血病、リンパ腫、骨髄腫といった造血器腫瘍のほか、血友病、凝固異常症といった出血性疾患があります。兵庫医大には、ハプロ移植やCAR-T療法のイメージが強いかもしれませんが、血友病やHIVの診療施設としても関西での重要な拠点となっています。地域のがん診療における医局の役割兵庫県の特徴は、大学の系列などに関係なく、各病院間の血液内科医の横のネットワークが非常に強いことです。その結果として、兵庫県内の多数の病院から移植やCAR-T症例のご紹介をいただいています。また、ハプロ移植やCAR-T療法については、県外からも多数の患者さんをご紹介いただいています。医師の育成方針まずは血液内科医として、どんな疾患でもひととおり診られるようになってもらいたいと考えています。実際、白血病から血友病まで非常に症例数が多いですので、化学療法だけでなく移植やCAR-T療法、そして血友病等の治療についても効率的に研修可能です。その後は専門性を高めていってもらうことになりますが、その際には医師それぞれのライフプランに合わせて無理のない働き方をして欲しいと考えています。子育てをしながら働く女性医師も多いため、女性医師にとって相談しやすい環境だと思います。同医局でのがん診療のやりがい、魅力私たちの医局でのがん診療チームは、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫といった疾患に対し、化学療法のみならず、同種造血幹細胞移植やCAR‐T療法など、最先端の治療法を幅広く実施しています。日々進歩していく血液内科診療の劇的な変化を肌で感じることができ、また大学病院ならではの高度な医療現場で、他院では診断が困難な症例や治療が難しいケースも積極的に受け入れており、その度に多くの発見とやりがいを感じる毎日です。医局の雰囲気少人数制のチーム体制で、アットホームな雰囲気です。タスクシフトを積極的に取り入れ、一人ひとりが豊富な症例経験を積み自らの専門性を高めていけるよう支援しています。さらに、当医局には出産後も現場で活躍している女性医師たちが多数在籍しています。私自身は2人の子育て中でもありますが、自身の経験より家庭と仕事の両立の困難さを誰よりも理解しているつもりです。そのような若手医師たちを支援するため、各医師のライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えるよう尽力しています。医学部生/初期研修医へのメッセージ医学部生/初期研修医の皆さまが、当医局で最先端の医療技術と充実した臨床経験を学びながら、自身の成長と挑戦を続けていただけることを心より願っております。ぜひ一緒に働きましょう!力を入れている治療/研究テーマ兵庫医科大学病院 血液内科(当科)では血液疾患に対するさまざまな研究に取り組んでいますが、これまでとくに力を入れてきた研究テーマの1つに、血液がんに対する同種造血幹細胞移植(同種移植)があります。私自身はこれまで、同種移植後の副作用を抑えるための、免疫抑制剤の投与方法に関する研究や、同種移植を受けた患者さんの生存率に影響を与えるリスク因子の解析を行ってきました。また、白血病の治療ターゲットとなるような分子標的を見つけるための基礎研究にも取り組み、新しい治療薬の開発を目指しています。さらに、当科ではキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)に関する基礎研究も開始しており、より効果的な細胞療法を実現するために頑張っています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種移植やCAR-T療法を含めた細胞治療の分野はもちろん、血液学に関する臨床研究、基礎研究の両方に挑戦できる環境が整っています。研究に興味がある方は、ぜひ気軽にご相談ください。一緒に新しい治療法を探していきましょう。これまでの経歴もともと2008年に筑波大学を卒業しましたが、その後海外でスポーツ活動に取り組んでいました。海外にいる頃に医師になりたいと奮起、2013年に兵庫医科大学に入学し、2019年に卒業、同大学で初期研修を行い血液内科に入局しました。1年半、外病院で一般内科・一般血液を学び今は大学で血液内科医として日々勉強しています。同医局を選んだ理由学生の頃から血液内科に入局しようと思っていましたが、兵庫医科大学病院は西日本でも有数の移植施設で、今ではCAR-T療法なども含め、大学でしかできない治療がたくさんあることと、腫瘍とは別にHIVや血友病など専門の先生がいることも大きな理由です。また、どんなに忙しくても質問すると上級医の先生は優しく丁寧に教えて下さったことも理由の1つです。最初の頃は勿論、今でも分からないことは沢山ありますし、自分の行為が患者様の命にも関わる仕事ゆえ、どんな些細なことでも気がねなく何でも聞ける医局の雰囲気、指導体制は大事だと思います。現在学んでいることCAR-T療法、臍帯血移植、ハプロ移植など、市中病院ではなかなか経験できない症例をたくさん受け持っております。一方で、市中病院でも診ることの多いITPやリンパ腫の症例も多数あります。血液疾患は新規薬剤やガイドラインについても年々アップデートが必要ですが、症例が多数あるため知識だけではなく実症例として経験することができます。今後のキャリアプラン出産・育児を挟んだこともあり、目の前の目標は内科専門医の取得です。兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)住所〒663-850 兵庫県西宮市武庫川町1-1問い合わせ先ketsueki@hyo-med.ac.jp医局ホームページ兵庫医科大学 血液内科教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会(認定医)日本輸血・細胞治療学会(認定医)日本再生医療学会(認定医)研修プログラムの特徴(1)造血器腫瘍だけでなく血栓・止血やHIV診療も研修可能(2)子育てなどライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えている(3)造血細胞移植やCAR-T療法など最新の治療を経験できる

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造血幹細胞移植後のLTFUを支える試み/日本造血・免疫細胞療法学会

 2025年2月27日~3月1日に第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会が開催され、2月28日のシンポジウム「未来型LTFU:多彩なサバイバーシップを支える次世代のケア」では、がん領域におけるデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics:DTx)の有用性および造血幹細胞移植治療におけるDTx開発の試みや、移植後長期フォローアップ(Long Term Follow Up:LTFU)の課題解決のためのICT(Information and Communication Technology)活用と遠隔LTFUの取り組み、さらに主に小児・思春期・若年成人(Children, Adolescent and Young Adult:CAYA)世代の造血幹細胞移植における妊孕性温存と温存後生殖補助医療についての話題が紹介された。造血器腫瘍は多彩なサバイバーシップケアの重要性が増しており、次世代ケアの試みが着々と進められている。同種造血幹細胞移植後のDTx DTxは、治療用アプリによるデジタル技術を用いて、個々の患者の病状に見合った情報をリアルタイムで提供し、患者の行動変容を促して医療効果や医療プロセスの改善を得ることである。新たな介入手段であり情報薬ともいわれ、次回の外来受診までの治療空白をアプリの使用によりフォローし、治療効果を狙う考え方である。 DTxアプリの使用は、QOL、全生存期間(OS)の改善効果が多数報告されており、ドイツではヘルスリテラシーや家族の負担軽減などの改善効果も認められれば薬事承認される。日本では2020年ごろからニコチン依存症や高血圧症、アルコール依存症などを対象疾患としたDTxアプリの使用効果が認められ、薬事承認されている。 固形がん領域では患者の健康状態をアンケート方式で電子的に収集するelectronic Patient Reported Outcome(ePRO)アプリの使用が疾患再発の早期発見・治療につながり、QOL・生命予後の改善が複数のランダム化試験で報告されている。欧州臨床腫瘍学会では2022年のガイドラインでePROアプリのがん診療への導入をGrade 1Aで推奨し、重症や悪化症状に対する臨床医への自動アラート機能を有するePROシステムの使用も推奨している。 岡村 浩史氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 血液腫瘍制御学/臨床検査・医療情報医学)らは、2021年に移植患者用アプリを開発し、同種造血幹細胞移植(allogeneic Hematopoietic stem Cell Transplantation:allo-HCT)後の外来通院中患者99例にHCTアプリを導入し、和歌山県立医科大学と共にPilot Studyを実施した。その結果、体温、脈拍数、SpO2、体重、修正Leeスコア(ePRO)、およびこれらの最近の悪化傾向などが移植後重症合併症を早期に予測しうる因子であった。移植後合併症での緊急入院例では入院約10日前から脈拍、SpO2、修正Leeスコアが悪化する体調の変化がみられ、早期探知が可能と考えられた。岡村氏らはHCTアプリのsecond stepとして重症化モデルの精度改善を行い、データ入力1週以内の合併症緊急入院予測モデルの開発を構築する多施設移植後見守りアプリ研究(第II相)を行っている(2025年9月まで約200例を登録する見込み)。患者が装着しているスマートウォッチで収集された身体情報およびePRO(22項目・週1回)への入力データと、医療機関からの診療情報(今後マイナポータルから提供の予定)を集約し、患者の同意の下にデータを解析している。 岡村氏は患者入力によるePROに基づき、将来的には個別症状に合わせた生成AIの利用や、電子カルテとの情報連携、地域医療連携ネットワーク(Electronic Health Record:EHR)、パーソナルヘルスレコード(Personal Health Record:PHR)としての情報連携の強化(病診連携や成人移行時の病院間の連携など)も可能であると考えており、「病院診療情報やePRO、ウエアラブルデバイスによる情報を研究利用し、HCT診療の質を向上させる連携を深めたい」と述べた。医療情報連携、PHRを用いた遠隔LTFUの未来 allo-HCT後の長期生存者の増加に伴い、LTFUの重要性が高まっている。しかし移植実施施設への通院や、非移植実施施設の医療スタッフ教育、移植後合併症に対する総合的な診療体制の構築、小児からのトランジションと継続的フォローアップなど課題は多い。ICTアプローチはLTFUの課題解決において不可欠であり、遠隔医療、およびEHR、PHRをいかに活用するかが重要である。 遠隔医療はICTを用いたリアルタイムのオンライン診療を活用した医療であり、Doctor to Doctor(D to D:専門医→主治医)、Doctor to Patient(D to P:主治医→患者)、Doctor to Patient with Nurse(D to P with N:主治医→患者・看護師)、Doctor to Patient with Doctor(D to P with D:専門医→患者・主治医)の4つのカテゴリーがある。 EHRは、患者同意の下に、患者の基本情報、処方・検査・画像データ等を電子的に共有・閲覧できる。病院間での診療情報の共有が可能になれば、近医での検査結果をあらかじめ医療情報連携で参照してもらい、自宅でD to PのオンラインLTFU受診が可能になる。また紹介先の医療機関から移植実施施設の診療情報にアクセスできることで転医や就職で他県に引っ越す場合、成人科へのトランジションでも切れ目のない医療が提供できる。 全県単位の医療情報ネットワークとして、和歌山県では2013年から、きのくに医療連携システム「青洲リンク」を運用している。平時は、参加病院の電子カルテ、参加診療所の検査結果、参加薬局の調剤情報、画像をインターネットで情報共有し診療を支援する。災害時は、県外にバックアップしている共有情報を活用し災害医療を支援する。参加医療機関は2024年12月25日現在、病院11施設、診療所49施設、同意患者数は約2,700例であり、青洲リンクを利用して相互にデータを参照しながら医療連携を取っている。 和歌山県立医科大学では2020年から紀南病院(和歌山県)とテレビ会議システムで接続する遠隔LTFU外来を開始した。患者は、紀南病院(地域基幹病院)で診察を受け、問診票の記入やバイタルサイン測定、各種検査を行い、その結果を診療情報提供書と共に和歌山県立医科大学(移植実施施設)にFAXで送付する。大学病院の医師はFAXの情報、および青洲リンク活用による紀南病院の診療情報(検査結果、処方、画像)を参照したうえで診療を行う。EHRで診療情報を共有するこの形式は、D to P with Dに該当する。連携先にも医師がいることで対面と遜色ない診察ができ、患者満足度も高く、質の高い遠隔LTFU達成が可能となる。 PHRはスマートウォッチなどデバイスから収集できる日常的な医療情報(脈拍、体重、運動量など)と医療機関での診療情報(検査結果、処方、画像など)、および患者自身が入力する健康情報(血圧、食事量など)を一元化し、デジタルデータとして患者が管理するものである。 青洲リンクではEHRに加えPHRの取り組みも進めており、参加医療機関の診療情報を提供し、患者がスマートフォンで病院の検査結果や処方情報をいつでも見ることが可能なアプリを導入した。PHRを利用した情報提供は、スマートフォンにダウンロードした近隣クリニックでの診療データを、移植実施施設への通院時に見てもらうことができ、またオンライン診療でデータを共有することで遠隔LTFUも可能になる。 西川 彰則氏(和歌山県立医科大学附属病院 医療情報部)は今後、自治体の医療情報連携を基盤としたPHR、移植後ePRO、医療情報、バイタル情報を統合的に集約提供するプラットフォームの構築が望ましいと考えており、allo-HCT後の患者にとっては、利便性が高く連続的なLTFUの体制構築が必須であり、ICTの活用は未来のLTFUにつながる可能性があるとした。妊孕性温存から次のステップへ―がん・生殖医療との協働で目指す造血幹細胞移植後の妊娠・出産 造血器腫瘍は小児がんの約40%を占め、AYA世代では約7%と、成人がんの増加に伴い全体の割合が低下する。CAYA世代の造血器腫瘍の生命予後は改善傾向にあり、長期生存例が増えることで、相対的に妊孕性を含むサバイバーシップケアの重要性が増している。 LTFUのテーマでもある晩期合併症(Late effects)としての性腺障害や不妊はAYA世代にとってがん治療中・治療後の大きな課題であり、2023年の「第4期がん対策推進基本計画」では取り組むべき施策として、CAYA世代の妊孕性温存療法を取り上げている。 がん治療前の妊孕性温存については、2022年8月から対象となる患者への情報提供や意思決定支援ががん診療連携拠点病院の必須要件となった。2024年12月に改訂された『小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』でも造血器腫瘍治療前のすべての患者に情報提供・意思決定支援を行うことが推奨され、GnRHアゴニストによる卵巣保護や未授精卵子の体外成熟、移植前処置の全身放射線治療時の卵巣・精巣遮蔽についても記載されている。 妊孕性温存における患者の負担は大きく、2021年・2022年には妊孕性温存・温存後生殖補助医療を対象とする助成金制度が全国で均てん化され、研究助成事業も運用されている。全国レジストリである日本がん・生殖医療登録システム(Japan OncoFertility Registry:JOFR)では、本邦におけるがん生殖医療の有効性や実態を調査する目的で、スマートフォン向け患者用アプリFSリンク(Fertility & Survivorship Linkage)をPatient Reported Outcome(PRO)として用い、パートナーシップの状況や挙児の状況を患者自身に提供・更新してもらっている。ただ、AYA世代は身体的・心理的・社会経済的に未自立であり、温存した生殖子の管理やFSリンクの管理は、子供の成長過程のさまざまなトランジションの一環として、成人を迎える頃合いを見計らい親から子へ移行する必要があり、生殖医療担当医と小児がん治療に携わる医師が協働して移行を支援している。妊孕性温存やFSリンクの周知はYouTubeで解説動画を配信し、AYA世代にはLINEを用いて情報提供を行っている。 がん治療後の妊娠可能時期については、厚生労働省から抗がん剤など遺伝毒性のある医薬品の最終投与後の避妊期間に関してのガイダンスが発出されている。造血幹細胞移植後のさまざまな薬剤も妊娠・出産に関わるため、妊娠可能時期についてがん専門薬剤師と共に症例ごとに情報提供している。 移植後の安全な妊娠・出産を検討する際には、胎児や母体のリスクへの対処として適切なワクチン接種と共に移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)の管理が必要である。治療薬や放射線治療による合併症にも注意し、妊娠希望例ではLTFUからプレコンセプションケア(妊娠前相談)外来につなげることが重要である。妊孕性喪失後のケアでは、看護師、心理士など多職種による心理・社会的支援を行う。近年、雄のマウスiPS細胞からの卵子生成、またヒトiPS細胞由来の受精卵作製など、生命倫理学的な課題も含め生殖子生成研究の進展が注目されている。 セクシュアリティとパートナーシップ、性機能障害など、患者のさまざまなニーズや悩みに対応するには、地域や院内で患者・家族と生殖医療をつなぐ窓口の一元化が必要である。大阪国際がんセンターではAYA世代サポートチームが妊孕性温存や温存後生殖補助医療の相談窓口になり、効率的な意思決定の支援を行っている。意思決定支援にたけた医療従事者の配置や育成も必要であり、日本がん・生殖医療学会認定ナビゲーター制度も開始された。多田 雄真氏(大阪国際がんセンター 血液内科・AYA世代サポートチーム)は、「日進月歩の生殖医療や移植を受けたサバイバーのアンメットニーズにつなげるために、生殖医療の医師との連携は血液内科移植医やLTFUの看護師にとって重要であり、全国のがん・生殖医療ネットワークを通して顔の見える関係を構築していきたい」と述べた。 allo-HCTではLTFUが不可欠であり、ICTのアプローチをいかに活用するかが重要である。また、移植を受けたサバイバーのニーズはより高度になり、QOLを保ち生きることを目標とした治療が求められている。

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腸管GVHDの発症・重症化および予防・治療における腸内細菌叢の役割/日本造血・免疫細胞療法学会

 腸管移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における特徴的な合併症で、予後を左右するだけでなく、移植後の生活の質も低下させる。近年、腸管GVHDと腸内細菌叢との関連に注目した研究は増えているが、まだ不明な点も多い。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「腸内細菌叢とGVHD:治療への新たな道を切り開く」と題したシンポジウムが行われ、腸内細菌叢とGVHDとの関連についての研究が4名から報告された。急性GVHDのpathobiontの同定とファージ由来酵素を用いた新規治療法 植松 智氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野)らのグループは同種移植患者46例の腸内細菌叢の16SrRNA解析を行い、30例でEnterococcus属細菌が増加していることを確認した。また、患者糞便由来のE. faecalisを単離し、これが外分泌毒素サイトライシンを産生する強毒株で、バイオフィルム関連遺伝子群を豊富に有する系統と明らかにした。さらに、マウスを用いた実験で患者糞便由来E. faecalisが急性GVHD関連死亡を増加させることを確認した。 植松氏らのグループは以上の結果から、E. faecalisがGVHDの発症と関わるpathobiontであり、前処理で他の細菌が死滅するなか、サイトライシンを産生する強毒株のE. faecalisがバイオフィルムを形成することによって腸管に濃縮し、増殖した後、産生されたサイトライシンによる上皮細胞障害が腸管GVHDの増悪に寄与していると考え、E. faecalisの排除によりGVHD関連死亡を抑えられるのではないかと推測した。 そこで、患者糞便由来E. faecalisのゲノムを網羅的に解析し、E. faecalisに特異的に感染するバクテリオファージ由来のエンドライシン配列を抽出した後、多種類の株で共通に検出されたエンドライシンを合成。このE. faecalis特異的エンドライシンの溶菌効果とバイオフィルム溶解作用をin vitroで確認した後、マウスを用いた実験でGVHD関連死亡率が大幅に改善すること、さらに患者糞便を移植したマウスでもGVHD関連死亡率が大幅に改善することを確認した。 植松氏はこうした結果について、「実臨床でも使えるようなデータが得られたと感じた」と述べ、「今後、E. faecalis特異的エンドライシンは、GVHDの新規治療薬として期待される」とまとめた。造血幹細胞移植患者の移植早期から長期における腸内細菌叢に関する解析結果 福島 健太郎氏(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は、造血幹細胞移植領域で近年行われた腸内細菌叢と予後の関連についての複数の研究に関し、「既報の多くは移植後のある一時点において多様性を評価していて、菌叢を構成する菌成分の違いや経時的な菌叢の変化についてはあまり着目した研究がなかった」と指摘した。 福島氏らのグループは、大阪大学医学部附属病院で造血幹細胞移植を行った患者から糞便を連日採取して16SrRNAメタゲノム解析を行った。その結果、移植前後で腸内細菌叢に変化がなく、多様性が保持された群は予後良好、菌叢に変化があり多様性が失われた群は予後不良であることが明らかになった。「菌叢の安定化が非常に重要である」ことがわかってきたと福島氏は述べ、とくに移植後1ヵ月のEnterococcus増加が予後の悪化に関連すると報告した。 また、移植後長期にわたって生存し、日常生活に戻った患者群の腸内細菌叢は健常人に近づいているという仮説を立てたが、移植後長期生存者の腸内細菌叢を実際に調べたところ、移植後3年未満、3~10年、10年以上のいずれでも、菌叢の多様性が回復しないということがわかったと報告した。 さらに、同種移植後にクローン病様の病変が認められた患者に糞便移植(FMT)を実施し、3ヵ月後に粘膜が正常化した症例を紹介したほか、移植前に腸内においてEnterococcusが優勢であった患者はFMT後1日目にドナーと同様の菌叢になるが、その後にEscherichiaなどが優勢になるという非常に興味深い結果となったと報告した。また、プロバイオティクスにも注目していると述べ、進めている研究について紹介した。 最後に、腸内細菌叢への介入として、先に講演した植松氏のファージについて「非常に魅力的な選択」と述べたほか、「FMT、プロバイオティクスなどさまざまなアプローチの可能性があって、産学連携が重要と考えている」とまとめた。移植前の口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながる可能性 藤原 英晃氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科)らのグループは、自院において2010~15年に造血細胞移植を行った273例を解析し、重症口内炎は慢性GVHDの発症率を上昇させるという関連を認めたほか、PTCyハプロ移植の71例のみの解析でも同様の関連を認めた。さらに、こうした患者の移植前後の口腔粘膜検体31例の解析で、慢性GVHD発症群では移植前から菌叢の多様性が低下し、生着後もそれが継続していたことがわかったと報告した。 そこでマウスによる検討のために、マウスの歯間に糸を留置して口腔内に歯周炎を引き起こすOLPという手法で口腔内dysbiosisを誘発し、骨髄移植を行った。その結果、慢性GVHDに関してはOLPマウスで慢性GVHDスコアが明らかに悪くなり、PTCyを用いたマウスモデルでも同様の結果が認められた。こうしたOLPマウスでは移植後における口腔内細菌叢の多様性が低下し、口腔内および糞便中細菌量の増加が認められ、とくにEnterococcusは移植前から口腔内・糞便中ともに増加していたと述べ、口腔内のEnterococcusが腸管に流れていき、定着するのではないかと指摘した。 また、OLPマウスでは移植前から所属リンパ節(頸部リンパ節)における抗原提示細胞の活性化が認められ、頸部リンパ節の免疫染色および培養検査によりEnterococcusの影響が強いことが明らかになったと述べた。さらに、OLP後にEnterococcusを塗布したマウスで移植後に慢性GVHDが悪化したこと、OLPを除去し歯周炎が改善した状態で移植を行うとOLPを維持した群より重症度が低下したことを示し、OLPの除去による口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながると述べた。なお、抗生剤による口腔炎症の改善で一定の効果が期待できることも実験で明らかになったと報告した。 最後に、「口腔内でdysbiosisが起きる状況にあると局所(頸部リンパ節)での反応が増幅し、それが全身の慢性GVHDに影響する。同様に腸管にも影響することにより長期的な予後に影響するのではないか」とまとめ、「移植前後の徹底した口腔ケアや歯科介入の重要性を確認することができた」と述べた。炎症記憶と腸内細菌によるGVHD重症化のメカニズム 橋本 大吾氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)は、免疫寛容の破綻後に組織の恒常性を維持するメカニズムとして概念的に提唱されている「組織寛容」について冒頭で紹介し、豊嶋 崇徳氏(北海道大学)らのグループの研究から、腸幹細胞が腸の組織寛容を維持しているシステムではないかと指摘した。一方、GVHD回復後のFlareで腸管GVHDの発症が増加することが示されており、炎症後の組織幹細胞にエピジェネティックな変化が生じて炎症記憶として残るからではないかと考えられている。 そこで橋本氏らのグループは、同系造血細胞移植(syn-HCT)または同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後のマウスの陰窩から作成したオルガノイド(「Syn」または「Allo」)のクロマチン構造をATACシーケンスで解析し、アクセシビリティに関してAlloがSynより有意に高い遺伝子457個を特定した。橋本氏は、この中で重要な領域として抗原処理と提示(とくにMHCクラスII[MHC-II])に関与する遺伝子とインターフェロン(IFN)-γに対する反応に関与する遺伝子を挙げ、転写の準備ができているこれらのプロモーター領域が判明したことについて「まさに炎症記憶が本当にできていると知った瞬間だった」と述べた。なお、フローサイトメトリーによるタンパク質レベルでの確認でも、IFN-γ刺激による腸管上皮MHC-II発現が炎症記憶により亢進したうえ、オルガノイドを継代しても記憶が継承されることが明らかになったと述べた。 さらに、小山 幹子氏(米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センター)のマウスを用いた研究で、レシピエントの腸管上皮MHC-IIの欠損でGVHDが軽減すること、腸内細菌がIFN-γ産生を誘導し、腸管上皮MHC-IIを発現させること、MHC-II誘導性細菌と抑制性細菌が存在し、抑制性細菌のマウスへの経口投与で上皮MHC-II発現が低下することなどが示されたと紹介した。 最後に、腸管のMHC-II発現は、腸内細菌叢の差により定常状態である程度の差があるうえ、GVHD後には炎症記憶の存在によりIFN-γ刺激によるMHC-II発現がさらに高まり、GVHD Flareにつながると考えられるとまとめた。今後は「組織寛容を上げて急性GVHDや慢性GVHDを起こさないようにし、移植片対白血病/リンパ腫(GVL)効果を誘導するのが究極的な目標」だと述べた。

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各連携機関から見た造血幹細胞移植の現状と展望/日本造血・免疫細胞療法学会

 近年、移植医療を取り巻く環境は大きく変化している。高齢化が進む社会において、若年ドナーの確保や移植後の長期フォローアップを担う後方支援体制の構築が求められている。また、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法などの新たな治療の登場により、患者ごとに最適な治療法の組み合わせを明らかにするため、次世代レジストリの構築が必要とされている。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会の造血幹細胞移植推進事業フォーラムでは、これらの課題を中心に、移植医療の現状やその発展に向けた取り組みが共有された。移植医療の現状と造血細胞移植・細胞治療レジストリのアップグレードの必要性 田渕 健氏(日本造血細胞移植データセンター)は、2024年度の活動報告として、造血細胞移植レジストリおよび移植片対宿主病(GVHD)レジストリの登録施設数は安定して推移しており、これらのデータの学術研究への活用が進んでいると述べた。 同センターが公表している日本の造血細胞移植・細胞治療に関する全国調査報告書によると、日本の年間造血細胞移植件数は5,500件を超え、同種移植は3,500件超、自家移植は約2,000件である。ドナー別では非血縁者間移植が多く、とくに臍帯血移植の増加が顕著である。2019年にCAR-T細胞療法が承認されて以降、CAR-T細胞療法前に造血細胞移植歴のない患者が増えている。 造血細胞移植後は、再発や合併症、二次がんなどにより再移植が必要となるケースが多い。近年は前述のとおり再移植に代わり細胞治療が実施されることも増え、治療が複雑化している。そのため、同一患者の治療経過を統合的に分析する必要がある。 現在、造血細胞移植レジストリと細胞治療レジストリが運用されているが、上記のような状況を鑑みて、国内の事情により適した、一元的な患者情報をリアルタイムかつ経時的に収集するため、アップグレードが求められている。田渕氏は、「次世代データ収集システムでは、マルチステートモデルを導入し、収集するデータをフォーム構造化することにより、疾患情報などを経時的に把握できるようにする」と述べた。造血幹細胞提供支援機関から見た骨髄バンクおよび臍帯血バンクの現状と取り組み 石丸 文彦氏(日本赤十字社 血液事業本部 技術部)は、日本赤十字社の役割は厚生労働省や骨髄バンク・臍帯血バンク、国民と広く連携し、移植医療に貢献することであるとし、その活動を報告した。 同機関が運営する造血幹細胞移植支援システムでは、2023年に臍帯血移植希望者の78%、骨髄・末梢血幹細胞移植希望者の51%が移植を受けた。 骨髄バンクは、登録者数がコロナ禍で一時的に減少したが、2023年には約3.7万人と回復した。住所不明で登録保留となるドナーの増加が課題であったが、ショートメッセージサービス(SMS)送信や献血時の住所更新といった対策を講じ、一定の効果を得ている。また、大学での献血や献血ルームでの呼び掛けにより、若年層のドナー登録も増加している。 臍帯血バンクは全国6ヵ所にあり、19の都道府県に所在する115の臍帯血採取施設から臍帯血の提供を受けている。日本では、品質を保持するため、臍帯血は採取施設での採取後36時間以内に臍帯血バンクで保存しなければならない。また、採取から半年後に乳児の健康調査を実施してから公開に至る。さらに、成人移植に適したCD34+細胞数がある臍帯血は採取された臍帯血のうち約10%に限られる。このような条件下で、2024年に目標としてきた1万本の臍帯血を公開することができたのは、各参加施設の尽力によるものである、と石丸氏は感謝を述べた。さらに、臍帯血移植で重視されるCD34+細胞数について外部精度管理に参加したところ、全6バンクで良好な結果が示された。石丸氏は、「これまでの積み重ねが功を奏している。今後もこのような精度管理を続けていきたい」と語った。若年ドナーの確保およびドナーの応諾率向上に向けた骨髄バンクの取り組み 岡本 真一郎氏(日本骨髄バンク)は、現在の課題としてドナーの高齢化を指摘した。また、ドナーの条件が54歳以下であることから、今後10年で約22万人減少すると予測され、若年ドナーの確保と維持が喫緊の課題であると述べた。 日本骨髄バンクでは、若年ドナーを確保するため、献血会場やイベントでの登録活動に加え、SNSやYouTubeでの情報発信を強化している。とくに、実際のドナーや移植患者の体験談を紹介し、共感を得る取り組みを進めている。また今後、2026年度までに、ドナー登録に口腔スワブを導入することを検討している。スワブは採血よりも簡便であり、自宅で採取可能であるため、検体の送付とオンライン申請でドナー登録が可能となる。また、この方法では、登録前にワンステップ置いてドナーになることをしっかり検討できるため、よりモチベーションの高いドナーの確保につながると思われる。 骨髄バンク登録後の提供率の向上は継続的な課題である。現在、実際に提供に至るのは約6割にとどまる。提供辞退理由の97%がドナー側に由来し、「都合がつかない(会社を休めない、育児中など)」「連絡が取れない」といった要因が多い。 連絡が取れない層への対応として、SMS発信やLINE登録といった連絡手段を導入している。 また、都合がつかない層への対応として、今後は、提供前の面談や最終同意手続きのオンライン化を進め、拘束時間の短縮を図るとともに、末梢血幹細胞移植ではペグ化G-CSFの使用により入院期間を短縮するなど、ドナーの負担軽減を目指す。骨髄および末梢血幹細胞移植のコーディネート期間は2017年から2023年にかけ、それぞれ120日から106日に、109.5日から97日に短縮されているが、まだ十分ではない。岡本氏は、「ドナー休暇制度の導入を促進し、社会の理解も得ていきたい」と述べた。造血幹細胞移植医療に対する厚生労働省の取り組み 千葉 晶輝氏(厚生労働省 健康・生活衛生局難病対策課 移植医療対策推進室)は、造血幹細胞移植医療に関する最新の取り組みについて説明した。 厚生労働省は、造血幹細胞移植医療推進事業として、移植を要する患者がどの地域でも適切な時期に適切な移植を受けられる体制、長期フォローアップにより移植後患者のQOLの向上を図る体制を確保することを目的に、全国9ブロックで12の医療機関を選定し、人材育成、コーディネート支援、地域連携事業を実施してきた。 近年は臍帯血移植の割合が増加していることを踏まえ、2026年度以降は臍帯血移植支援事業を追加する予定である。また、ITの活用などによる、長期フォローアップにおける造血幹細胞移植推進拠点病院、地域拠点病院、クリニック間の連携の強化や、災害時対応の強靭化を目指す、と千葉氏は述べた。 現在、がん対策として、診療実績などの情報に基づき、地域の実情に応じた医療の集約化・均てん化が検討されている。造血幹細胞移植医療提供体制も例外ではない。千葉氏は、「各施設でも15年後、2040年の医療体制を見据え、移植医療の将来像を考えてほしい」と呼び掛けた。また、医系技官の募集についても触れ、現場の声を活かした政策形成の重要性を強調した。

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ベネトクラクス、再発・難治マントル細胞リンパ腫に追加承認/アッヴィ

 アッヴィは、2025年3月27日、BCL-2阻害薬ベネトクラクス(商品名:ベネクレクスタ)について、再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)に対する治療薬として国内における適応追加承認を取得した。 今回の承認は、再発難治MCLを対象としたベネトクラクスおよびイブルチニブの併用療法に関する海外第III相SYMPATICO試験1)および国内第II相M20-075試験2)の結果に基づいている。 MCLはリンパ節のマントル帯に由来するBリンパ球ががん化するB細胞リンパ腫の1つ。日本国内の患者数は約2,000例と報告されている。60歳代半で多く発症し、多くの場合、高齢者では2~3年、若齢者では約5年で、初回治療後の再発・再燃に至る。再発した場合、化学療法の効果は1次治療より劣り、急速な進行が認められることがある。

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化学療法誘発性末梢神経障害の克服に向けた包括的マネジメントの最前線/日本臨床腫瘍学会

 2025年3月6~8日に第22回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催され、8日の緩和ケアに関するシンポジウムでは、「化学療法誘発性末梢神経障害のマネジメント」をテーマに5つの講演が行われた。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)は、抗がん剤投与中から投与終了後、長期にわたって患者のQOLに影響を及ぼすものの、いまだ有効な治療の確立に至っていない。そこで、司会の柳原 一広氏(関西電力病院 腫瘍内科)と乾 友浩氏(徳島大学病院 がん診療連携センター)の進行の下、患者のサバイバーシップ支援につなげることを目的としたトピックスが紹介された。CIPN予防戦略の現状と今後の研究開発への期待 まず、CIPNの予防に関する最新エビデンスが、華井 明子氏(千葉大学大学院 情報学研究院)より紹介された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版』には、CIPNを誘起する化学療法薬の使用に際し、予防として推奨できるものはないと記載されている。また、抗がん剤の種類によっては投与しないことを推奨する薬剤もあり、状況に応じて運動や冷却の実施が推奨されるものの、強く推奨できる治療法はない。そのため、多くの患者が苦しんでいる現状が指摘された。 こうした中、手足を冷却または圧迫して局所の循環血流量を低下させることで、抗がん剤をがん細胞に到達させつつ、手足には到達させない戦略がCIPN予防に有効とのエビデンスが散見されており、冷却がやや優位との成績が最近示された。「ただし、冷却の効果は抗がん剤投与中に最大限発揮されるので、投与後数時間経過して出現する症状には効果がない」と、同氏は説明した。 なお、がん治療中の運動は、心肺機能や筋力、患者報告アウトカムなどを改善するとのエビデンスが確立しているため、有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されている。一方、CIPN予防における運動の実施は、本ガイドラインでは推奨の強さ・エビデンスの確実性ともに弱い。同氏は、「それでも治療前のプレハビリテーションにより体力・予備力を高めておくことは有効」とした。また、予防ではなく、CIPN発現例に対する治療であるが、バランス運動、筋力トレーニングおよびストレッチは、いずれも長期的には実施のメリットが大きいとの研究成果が紹介された。 「CIPNの頻度は抗がん剤の種類はもちろん、評価の時期・指標によっても異なり、患者の生活状況や主観が大きく影響する。そのため、評価方法の標準化がCIPN予防/治療戦略の開発につながるだろう。また、運動プログラムのエビデンスは増え続けていることから、ガイドラインの次期改訂では推奨が変わる可能性もある」と、同氏は期待を示した。CIPN治療戦略と実臨床への橋渡しに向けた取り組み 次に、CIPNの治療に関する動向が吉田 陽一郎氏(福岡大学病院 医療情報・データサイエンスセンター 消化器外科)より解説された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版』で薬物療法として推奨されている薬剤は1剤のみであり、予防ではなく治療のみでの使用が可能となっている。同氏はその根拠となった論文と共に、最新のシステマティックレビュー論文に触れ、「エビデンスが不十分で、本ガイドラインにおける推奨の強さは弱い。CIPNの予防や治療の領域では、プラセボが心理的な影響だけでなく、生理的な変化をもたらすことが知られているため、プラセボ効果を含めたデザインの下で臨床試験を実施することが望まれる」と述べた。 こうした中、わが国ではCIPN症状が出現した際に投与する薬剤のアンケート調査が、『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版』の公表前後(2015年および2019年)に実施され、使用薬剤の変化が報告されている。近く再調査が行われる予定で、より現実的なマネジメントの理解につながるとのことである。さらに同氏は、わが国の臨床試験の状況や課題点などを説明するとともに、日本がんサポーティブケア学会 神経障害部会が取り組んでいるCIPNに関する教育動画について、「詳細は日本がんサポーティブケア学会のホームページに近日掲載予定で、2025年5月に開催される同学会の学術集会でも告知予定」と紹介した。がんサバイバーのCIPNに対する鍼灸治療の可能性 わが国では年間100万例ががんに罹患し、治療後も慢性疼痛、とくにCIPNを訴える患者が増えている。石木 寛人氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)は、「乳がんの場合、年間9万例の発症者のうち、5年生存率が90%で、その半数が痛みを抱えているとすれば、毎年約4万例の慢性疼痛患者が発生する。現状では各種鎮痛薬による薬物療法が推奨されているが、痛みの原因を根本的に解決する治療ではないため、非薬物療法のニーズは高まっている」と指摘。 このような背景もあり、同氏が所属する診療科では1980年代から鍼灸治療を緩和ケアの一環として提供してきた。治療は刺入鍼、非刺入鍼、台座灸、ホットパックを組み合わせ、標治法(症状部位の循環改善を促す局所治療)と本治法(体力賦活を図る全身調整)により、CIPNでは週1回30分、3ヵ月間の施術を基本とし、施術後に患者が自宅で行うセルフケア指導も治療に含まれる。 同院では、こうした鍼灸治療の乳がん患者における有用性を検証する前向き介入試験を2022年より実施しており、「結果は2025年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表予定」と、同氏は紹介した。さらに現在、多施設ランダム化比較試験を準備中で、乳がん診療科と鍼灸治療提供施設とのネットワーク作りとして、各施設や学会、企業などと月1回のオンラインミーティングを実施。「円滑な共同研究のためには、まずは互いの人となりや専門性を理解し、強固な連携体制を築いていくことが重要」と強調した。また、鍼灸師が医療機関に出向いて技術交流を行うなど、現場レベルでの連携も進んでいるという。 これに加え、学会やWebセミナーでの交流会、学術団体同士の相互理解を深める取り組みなど、さまざまな普及活動を進めており、「CIPNに苦しむ患者への新たな治療選択肢を提供できる日は近づいている」と、同氏は意欲を示した。CIPNマネジメントにおける医療機器の現状と課題 久保 絵美氏(国立がんセンター東病院 緩和医療科)によると、CIPNのマネジメントには医療機器の活用が重要になるという。ただし、「日・米・欧のガイドラインでCIPN予防/治療における冷却療法や圧迫療法、その他治療法の推奨の強さやエビデンスの質は異なる」と指摘。米国食品医薬品局(FDA)に承認されている機器が紹介されるも一定の評価は得られず、今後も引き続き検証が必要とされた。 一方、内因性疼痛抑制系の賦活や神経成長因子の調整、抗炎症作用などにより複合的に鎮痛をもたらす交番磁界治療器の有効性が、前臨床試験と共に、同氏が研究責任医師として担当した臨床試験で検討されている。それによると、CIPNの原因となる抗がん剤投与終了後1年以上経過した症状固定患者のtingling(ピリピリ・チクチク)やnumbness(感覚の低下)に関して、一定の効果が示唆され保険収載に至っている。 同氏は、「医療機器によるCIPNマネジメントは発展途上で、エビデンス不足が課題である。そのため、前臨床データの拡充と共に、治療効果のさらなる検証は必須」と強調した。脳の神経回路の変化に起因する“痛覚変調性疼痛”の理解と治療戦略 痛みには侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に加え、これまで心因性疼痛や非器質的疼痛と呼ばれていた痛覚変調性疼痛がある。川居 利有氏(がん研究会 有明病院 腫瘍精神科)は、「痛覚変調性疼痛はCIPNに付随するものである。たとえば、3ヵ月を超えるような抗がん剤投与後からの手足のしびれ、強い倦怠感、浅眠、めまい・耳鳴り、食欲低下や、抗がん剤投与終了後も症状が改善せずに遷延・悪化すること、また、不安が強くなり、症状に執着し訴えが執拗になることがある。このような患者に遭遇したことはないだろうか」と問い掛けた。 これは脳神経の可塑的変化により発症、維持される慢性痛で、痛み過敏、睡眠障害、疲労、集中困難、破局思考などを伴う。神経可塑性とは、脳の神経が外部刺激により伝達効率を変化させる能力で、学習や記憶に深く関わる一方、慢性痛では脳の感覚-識別系が抑制され、情動-報酬系、認知-制御系が活性化する。この状態が進むと痛みに対する不安や苦痛が増すばかりか、痛みを軽減する下行性制御系、いわゆるプラセボ回路の機能が低下し、痛みへの自己調節が困難となる。これが不安症や強迫症、治療への期待感の喪失、医療への不信感などにつながるという。 同氏は、「CIPNは長期間に持続し、そこに神経の可塑的変化による痛覚変調性疼痛が追加されることで、痛みはもとより、うつ病や不安症、自律神経症状も加わり、感情調節機能不全に陥る」と説明。また、「CIPNの慢性化では過敏症状の併発に注意し、急激な症状変化の有無についての詳細な問診が大切である。この状態は単なる“気のせい”ではなく、長期間の心理社会的問題などの蓄積による機能障害が原因」とし、「治療には患者との信頼関係の構築が不可欠で、とくに慢性化したケースでは患者の背景や過去の経験に配慮する必要がある。睡眠や心理的ケアは治療上重要なため、心療内科や精神科への適切な紹介が推奨される。CIPNそのものは治らないが、QOL改善には過敏症状のマネジメントが大切」と結んだ。

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細胞免疫療法~CAR T-cell・T-cell engager~の進歩と今後の展望/日本臨床腫瘍学会

 手術療法、抗がん剤療法、放射線療法に続くがん治療の第4の柱として、細胞免疫療法が国内外で徐々に広がりつつある。とくに、最近は通常の免疫機能などでは治癒が困難な難治性のがんに対する治療法として、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法やT細胞誘導抗体(T-cell engager:TCE)が、一部の血液がんに対する効果的な治療法として期待されている。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、日本血液学会と日本臨床腫瘍学会の合同シンポジウムが開催され、細胞免疫療法の現状や課題、今後の展望などについて議論が交わされた。CAR-T細胞療法に残された課題に挑む CAR-T細胞療法は細胞免疫療法の1つとして、とくに一部の血液がんに対して高い治療効果を発揮している。一方で、CAR-T細胞療法にはサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性のような有害事象、再発率の高さ、固形がんに対する限定的な効果、さらには高額な製造コストなどが解決すべき課題として残されている。 このような背景の中で、玉田 耕治氏(山口大学大学院医学系研究科 免疫学講座)らの研究グループは、固形がんに対する高い効果が期待できる次世代(第4世代)のCAR-T細胞の開発に取り組んでいる。固形がんに対してCAR-T細胞療法が効果を発揮するためには、腫瘍部分でのCAR-T細胞の集積と増殖が必要となる。玉田氏らは、免疫機能を調整する能力をCAR-T細胞に追加することでこの問題が解決できると考え、T細胞の生存や増殖を刺激するサイトカインであるIL-7とT細胞や樹状細胞の遊走や集積を促進するケモカインであるCCL19を同時に産生する7×19 CAR-T細胞を開発し、これをPRIME(Proliferation-inducing and migration-enhancing)CAR-T細胞と名付けた。マウスモデルを用いた研究により、7×19 CAR-T細胞は、内因性腫瘍抗原に対するエピトープ拡散を誘導することで、強力な抗がん効果を発揮することが証明された。また、がん患者の末梢血単核球細胞(PBMC)由来の7×19 CAR-T細胞の抗腫瘍効果なども確認されている。これらのことから、「PRIME CAR-T細胞は固形がんに対する画期的ながん治療法となることが期待され、近い将来、固形がんに対するCAR-T細胞の臨床研究が日本で実施される可能性がある」と玉田氏は述べた。 一方で、CAR-T細胞療法には高い製造コストがかかり、1回の投与で数千万円という高額な治療費を要することが大きな課題となり、とくに開発途上国においては治療の実現を拒む主な要因となっている。そこで、高橋 義行氏(名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学)らの研究グループは、製造コストを下げるために独自で安価なCAR-T細胞の製造法を開発した。従来、CAR-T細胞はウイルスベクターを用いた遺伝子を導入する方法で製造されてきたが、高橋氏らは非ウイルスベクターによるpiggyBacトランスポゾン法を用いてCAR-T細胞の培養を行うことに成功した。本法は酵素べクター法の1つで、ウイルスベクターを用いた方法に比べて製造方法が簡便かつ安価であり、ウイルスベクターを用いた従来の方法と同様の治療効果が期待できるという。 そして、高橋氏らは再発または難治性のCD19陽性急性リンパ性白血病患者を対象に、piggyBacトランスポゾン法にて製造したCD19標的CAR-T細胞療法の第I相試験を実施している。CD19標的CAR-T細胞1×105/kgを1回投与するコホート1(16~60歳、3例)とコホート2(1~15歳、3例)、3×105/kgの1回投与に増量するコホート3(1~60歳、3例)において、投与後28日時点で全例に完全奏効(CR)が認められ、2例が再発した。なお、本剤を投与した全例の末梢血で、piggyBac CAR-T細胞の増殖が観察されていた。 さらに、高橋氏らはタイのチュラロンコン大学からの要請を受けてCAR-T細胞療法の臨床研究を支援している。同氏らと同じ方法で製造されたCD19標的CAR-T細胞療法を受けたタイの悪性リンパ腫患者5例の全例で効果が確認され、その中の1人は投与後1ヵ月で多発していた腫瘍が消失し、1年後には寛解となっていた。 これまでの成果を踏まえ、高橋氏は、「安価な製造コストを実現することで、世界中でCAR-T細胞療法が普及することが期待される。また、日本の知的財産を活用した純日本製のCAR-T製剤が承認されれば、日本の医療費削減にもつながるのではないか」と結論した。iPS細胞技術を用いた若返りT細胞療法の開発 これまで、難治性のエプスタイン・バー(EB)ウイルス関連リンパ腫に対して、末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)を体外で増殖して再び体内に戻すCTL療法が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。これは、CTLが標的抗原に持続的に曝露されると疲弊してしまうためで、この問題を解決するために安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学)らの研究グループは、iPS細胞技術を用いることで疲弊したT細胞を若返らせる技術を開発した。EBウイルス抗原特異的CTLからT細胞由来のiPS細胞を作製し、再びCTLに分化誘導することで若返ったCTL(rejT)となり、rejTはEBウイルス感染腫瘍を縮小することなどが確認された。さらに、EBウイルス抗原のLMP2に対するrejTをマウスに投与すると、EBウイルス関連リンパ腫に対する強い抗腫瘍効果を示しながら末梢血でセントラルメモリーT細胞として存在することが確認され、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期間生存することで難治性リンパ腫の再発抑制効果を維持することが示唆された。 また、安藤氏らはCARによる抗原認識とT細胞受容体(TCR)による抗原認識の両者を兼ね備え、2つの異なる受容体により効率よく腫瘍を攻撃するiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスモデルによる検討では、DRrejTはEBウイルス関連リンパ腫に対して、単一標的のrejTやCARに比べて抗腫瘍効果は高く、効果が長期間持続することが示された。 加えて、小細胞肺がん(SCLC)にGD2が高発現していることに着目して、iPS細胞から分化誘導したCTL(rejT)にGD2標的CARを導入する方法でGD2-CARrejTを作製すると、SCLC対する強い抗腫瘍効果を示すとともに、末梢血由来のGD2-CAR-Tよりも有意に生存期間を延長した。 さらに、同様の方法でiPS細胞からヒトパピローマウイルス特異的rejT(HPV rejT)を誘導したところ、末梢血由来HPV CTLと比較して子宮頸がんをより強く抑制していた。しかし、患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化は難しく、他家iPS細胞を用いた場合は免疫拒絶反応などが問題となる。そこで、安藤氏らはCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いてHLAクラスIを編集した健常人由来のHPV rejTを作製したところ、免疫拒絶反応を抑えながら子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。このような結果を踏まえ、現在、HLAクラスIを編集したHPV rejTの安全性を評価する医師主導第I相試験が進行しているという。 安藤氏は、「iPS細胞技術を活用することで、迅速かつ何度でも十分量のDRrejTを作ることが可能で、“Off-the-shelf”療法として大いに期待できる」と締めくくった。固形がんに対する細胞免疫療法の臨床開発状況と展望 固形がんに対する細胞免疫療法としては、CAR-T細胞療法、CAR-NK細胞療法、CARマクロファージ(CAR-M)療法、TCR-T細胞療法など、数多くの臨床試験が実施されているが、日本で承認されている治療法はまだ存在しない。 CAR-T細胞療法は、CD3ζ単独のCARが第1世代、CD3ζに副刺激分子のCD28や4-1BBを1つ足したものが第2世代、2つ足したものが第3世代と呼ばれ、とくに2010年に登場した第2世代以降のCAR-T細胞療法は、B細胞性白血病/リンパ腫に高い有効性を示してきた。さらに、サイトカイン分子によりT細胞の活性化シグナルを増強させるように設計された第4世代のCAR-T細胞療法の開発が進んでいる。 固形がんに対するCAR-T細胞療法の開発の問題点として、北野 滋久氏(がん研究会 有明病院)は、免疫抑制性の環境が形成される腫瘍微小循環(TME)による有効性と持続性の低下、高いCRSのリスク、on-target/off-tumor 毒性(OTOT)、抗体薬物複合体(ADC)やTCEとの競合などを挙げる。現在、これらの問題を解決するためにさまざまな技術開発が進められており、その一例として、第4世代のCAR-T細胞療法によるTMEの調整、CRSを回避するための抗IL-6受容体抗体や免疫抑制薬の予防的投与の研究、主要組織適合性複合体(MHC)/ペプチド複合体の標的化や三重特異性抗体などによるOTOTへの対応のような研究が進行しているという。 また、CAR-T細胞療法に続く有望な細胞免疫療法として、北野氏はTCR-T細胞療法にも注目している。TCR-T細胞療法は、患者からリンパ球を採取し、がん抗原特異的なTCRをT細胞に導入して再び患者に輸注する治療法で、がん関連抗原であるNY-ESO-1を標的とした高親和性TCRを用いた滑膜肉腫患者を対象とした第I/II相試験では、有効な成績が示されていた。CAR-T細胞療法は細胞表面の抗原を標的とするのに対して、TCR-T細胞療法の標的は細胞内タンパク質と糖鎖であり、最近ではネオアンチゲンを対象としたTCR-T細胞療法の開発も進められている。リンパ系腫瘍に対する細胞免疫療法(CAR-T、BiTE)の現状と今後の展望 CAR-Tと二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)を用いた細胞免疫療法は、B細胞リンパ腫、B細胞急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫など、さまざまな種類のリンパ系悪性腫瘍の治療に用いられている。大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)を例にとると、CD19を標的としたCAR-T細胞療法やCD20とCD3を標的としたBiTE抗体療法が臨床使用されている。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、tisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの臨床試験の結果を基に3rdライン以降の治療薬として最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解後1年以内の再発例を対象にした臨床試験において、標準治療(化学療法+自家移植)を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことを受け、axi-celとliso-celは2ndラインでの使用も認められることとなった。このような現状を踏まえ、伊豆津 宏二氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)はCAR-T細胞療法について、「再発または難治性のLBCL患者の治療にパラダイムシフトをもたらした」と述べた。さらに、今後は高リスクなLBCL患者に対する1stラインでの使用や、ほかのサブタイプによるCAR-T細胞療法の開発などが期待されるという。 加えて、伊豆津氏はCD20とCD3を標的としたBiTE抗体療法について、LBCLに対する2ndラインの有用性について検討した臨床成績、さらには現在進行中の1stラインにおける有用性を評価する臨床試験の概要についても言及した。 最後に、CAR-T細胞療法やBiTE抗体療法のようなT細胞リダイレクト療法には、有効性の長期持続が困難、抗原回避や耐性、CRSなどの有害事象、長い製造時間、高額な製造コスト、最適な治療順序の決定など、解決すべき課題が多く残されていることを伊豆津氏は指摘し、講演を締めくくった。

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リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

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再発・難治性多発性骨髄腫に対するテクリスタマブを発売/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年3月19日、再発・難治性の多発性骨髄腫の治療薬として、B細胞成熟抗原(BCMA)およびCD3を標的とする二重特異性抗体テクリスタマブ(遺伝子組換え)(商品名:テクベイリ皮下注)を発売したことを発表した。本剤は、2024年12月27日に「再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」を効能又は効果として承認され、2025年3月19日に薬価収載された。 本剤は、投与前の希釈が不要な皮下注製剤で、再発/難治性多発性骨髄腫において日本で初めてかつ唯一の体重に応じた投与が可能なBCMAおよびCD3を標的とするT細胞リダイレクト二重特異性抗体である。<製品概要>製品名:テクベイリ皮下注30mg、153mg一般名:テクリスタマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)用法及び用量:通常、成人にはテクリスタマブ(遺伝子組換え)として、漸増期は、1日目に0.06mg/kg、その後は2~4日の間隔で0.3mg/kg、1.5mg/kgの順に皮下投与する。その後の継続投与期は、1.5mg/kgを1週間間隔で皮下投与する。なお、継続投与期において、部分奏効以上の奏効が24週間以上持続している場合には、投与間隔を2週間間隔とすることができる。薬価:テクベイリ皮下注30mg 3mL 216,930円/瓶、153mg 1.7mL 1,081,023円/瓶製造販売承認日:2024年12月27日薬価基準収載日:2025年3月19日発売日:2025年3月19日製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社

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獨協医科大学 血液・腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

今井 陽一 氏(主任教授)遠矢 嵩 氏(准教授)中村 文美 氏(講師)吉原 さつき 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴獨協医科大学病院は圧倒的症例数と最新鋭の設備で北関東の医療をリードする特定機能病院です。血液・腫瘍内科は広範囲の医療圏から多くの血液疾患の患者さんにご来院いただき、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫を中心とした造血器腫瘍から再生不良性貧血などの造血障害まで幅広く血液疾患の診断と治療にあたっています。患者さんお一人おひとりに寄り添いながら、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)などの最先端治療を積極的に導入するなど最適な血液診療の提供を心掛けています。とくに多発性骨髄腫はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体療法を取り入れ最先端の治療を推進しています。臨床研究では、16施設の多施設共同前向き臨床研究を主導して、多発性骨髄腫の維持療法における遺伝子変異・免疫状態の変化を世界に先駆けて解明すべく取り組んでいます。基礎研究は、ゲノム・フローサイトメトリー解析、分子生物学、疾患モデルマウスを駆使して造血器腫瘍の病態解明を目指し、新規治療法の開発を目指しています。このように、私たちの教室は目の前の患者さんの癒しを第一に考えることを礎に、さまざまな形で血液診療の推進に貢献できる医療人の育成を目指しています。日光・那須の素晴らしい景観に囲まれた充実した環境で共に切磋琢磨する仲間をお待ちしております。力を入れている治療/研究テーマ当科では、急性白血病などの造血器腫瘍のほか、再生不良性貧血などの特発性造血障害も含めた幅広い血液疾患に対する診療を行っています。通常の化学療法に加えHLA半合致移植(ハプロ移植)を含む造血幹細胞移植も行い、2025年にはCAR-T細胞療法も開始し、豊富かつ多彩な臨床経験を積むことができます。また、近年は血液疾患診療を行うにも遺伝子変異の理解が必要です。当科では次世代シーケンスを用いた遺伝子変異解析も行っており、経験知と理論的理解の双方に基づいた診療を行っています。研究についても、基礎研究から臨床研究まで幅広く行っています。私個人としては造血器腫瘍の遺伝子変異と病態の関連性や、日和見ウイルス感染症にとくに注目して研究を行っています。学会参加に対する補助もあり、学会発表や論文執筆の機会も多いです。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科に多忙、激務といったイメージをお持ちの方もいるかもしれません。当院ではチーム診療を行っており休日は交代制で十分確保できますし、残業も少なく、無理なく持続可能な形で経験や実績を積むことができると思います。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力北関東で高度な血液診療を提供できる施設は限られているため、遠方からも患者さんが来院されています。当院に対する期待と信頼を感じ、患者さんに希望を提供できるように、日々取り組んでいます。当科では症例報告や後方視的研究について学会発表をするだけではなく、多施設共同前向き研究の提案や参加をすることで、新たなエビデンスの確立にも貢献しています。基礎研究では、技術的なサポートが充実しているおかげで、診療と研究の両立が可能になっています。医局の雰囲気、魅力若手、ベテランを問わず、よりよい診療を提供するために、助け合っています。治療方針に悩む場合には、定時のカンファレンスだけでなく、随時、相談することが可能となっており、安心して診療ができます。週末・休日は当番制のため、プライベートとの両立が可能です。また、それぞれのキャリアプランに応じて、医局がサポートしてくれます。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科は新規薬剤や細胞療法の導入で、治療成績の向上を実感できるとてもやりがいのある科です。血液内科に興味のある先生方、一緒に頑張ってみませんか?これまでの経歴獨協医科大学病院で初期研修、国立病院機構栃木医療センターで内科専門医プログラムを修了し、2024年4月に獨協医科大学病院血液・腫瘍内科に入局しました。同医局を選んだ理由患者さんの診断から看取りまで伴走したいと思い、総合内科で学んでいましたが、より専門的な知識や技術があれば、治療や終末期といった患者さんの重要な意思決定により深く関われるのではないかと思いました。血液疾患は症状が多彩で診断の面白さがあり、急性期は集中治療の側面もあることから内科の醍醐味だと思いました。また、当医局では臨床医としてもきめ細やかな先生が研究にも従事しており、多面的に疾患や臨床を捉えている姿を見て、こういう医師になりたいと思いました。当院は県内外から多くの患者さんが集まるため血液疾患も多彩であり、他診療科との連携もしやすく、良い環境と考えました。現在学んでいること悪性リンパ腫や急性白血病の入院患者さんを担当し、化学療法について学んでいます。大学院進学予定であり、今は臨床研究の準備をしています。獨協医科大学 血液・腫瘍内科住所〒321-029 栃木県下都賀郡壬生町北小林880問い合わせ先ketsueki@dokkyomed.ac.jp医局ホームページ獨協医科大学 血液・腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(認定内科医・総合内科専門医)日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本感染症学会日本臨床腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)幅広い症例と専門的な指導急性白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など多様な疾患を経験でき、造血幹細胞移植やCAR-T細胞・二重特異性抗体療法など最先端の治療にも携わることができます。専門医の手厚い指導のもと、診断から治療まで実践的に学べる環境です。 (2)充実した設備と豊富な実践機会無菌室を備えた移植ユニットや最新の検査・治療設備を活用し、骨髄穿刺や腰椎穿刺などの基本手技から移植管理まで幅広く経験できます。学会発表や研究のサポートも整い、学術的な成長も後押しします。 (3)働きやすい環境とキャリア支援都市部の利便性を持ちながら、地方ならではの温かい雰囲気の中で研修でき、研修医一人ひとりに合った指導を受けられます。計画的なローテーションで血液内科の基礎をしっかり固め、専門医取得や大学院進学、海外研修など多様なキャリアを支援します。詳細はこちら

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CAR-T naive再発・難治性B細胞リンパ腫におけるエプコリタマブの有効性(EPCORE NHL-1)/日本臨床腫瘍学会

 抗CD3xCD20二重特異性抗体エプコリタマブは第II相EPCORE NHL-1試験で、再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫(R/R LBCL)患者に対する深く持続的な効果と管理可能な安全性を示している。同試験では、すでにCAR-T治療歴がある患者における有効性が示されている(全奏効割合[ORR]54%、完全奏効[CR]割合34%)。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)では、CAR-T未使用(CAR-T naive)集団のサブ分析をミシガン大学のYasmin H. Karini氏が報告した。対象:2ライン以上の前治療歴を有するCD20陽性R/R LBCL 介入:エプコリタマブ48mg(28日サイクル)1~3サイクル毎週、4〜9サイクル 2週ごと、 10サイクル以降4週ごと進行(PD)まで投与評価項目:[主要評価項目]Lugano分類によるORR[副次評価項目]CR割合、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、最小残存疾患(MRD)陰性割合、安全性/忍容性 主な結果は以下のとおり。・CAR-T naive患者(n=96)の年齢中央値は69歳、3ライン以上の治療歴が52%を占めた。・追跡中央値37.3ヵ月での治療継続は96例中13例(14%)、治療中止は83例(86%)であった。治療中止理由は進行が54%、有害事象が23%を占めた。・ORRは61%、CR割合は45%であった。・全体のPFS中央値は4.3ヵ月、CR症例では33.3ヵ月であった。・全体のOS中央値は15.4ヵ月、CR症例は未到達であった。・MRD評価可能な患者74例中33例(45%)がMRD陰性であった。・治療中に発現した有害事象(TEAE)で頻度の高いものは、サイトカイン放出症候群(CRS)(60%)、下痢(24%)、発熱(23%)、疲労感(22%)、好中球減少(22%)、注射部位反応(21%)で、治療中止に至ったTEAEは23%であった。・CRSは56%がGrade1〜2であった。CRS発現日の中央値は20日、第1サイクルのDay15までに多くが発現していた。 エプコリタマブは、CAR-T naiveのR/R LBCL患者に対し深く、耐久性のある抗腫瘍効果と管理可能な安全性を示した。今回のサブ解析の結果を踏まえ、エプコリタマブはCAR-Tの前および後に安全かつ効果的に投与できると Karini氏は述べた。

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慢性リンパ性白血病、原発性マクログロブリン血症およびリンパ形質細胞リンパ腫に対してザヌブルチニブ発売/BeiGene Japan

 BeiGene Japanは、2025年3月19日、未治療および再発・難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)、未治療および再発・難治性の原発性マクログロブリン血症およびリンパ形質細胞リンパ腫に対して、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬ザヌブルチニブ(商品名:ブルキンザ)を発売したと発表した。 本剤は、未治療の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)患者を対象としたSEQUOIA試験、再発・難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)患者を対象としたALPINE試験、未治療および再発・難治性の原発性マクログロブリン血症およびリンパ形質細胞リンパ腫患者を対象としたASPEN試験の3つの主要な第III相試験に基づき、2024年12月27日に承認されている。 本剤の世界的な臨床開発プログラムには、30の国と地域で35以上の試験に登録された約6千例の患者が含まれており、70の国と地域で承認され、10万例以上が治療を受けているという。<製品概要>販売名:ブルキンザカプセル80mg一般名:ザヌブルチニブ効能・効果:慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)、原発性マクログロブリン血症及びリンパ形質細胞リンパ腫用法・用量:通常、成人にはザヌブルチニブとして1回160mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。承認日:2024年12月27日発売年月日:2025年3月19 日薬価:6,636.10円製造販売元:BeiGene Japan合同会社

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再発・難治性濾胞性リンパ腫に対する二重特異性抗体モスネツズマブを発売/中外

 中外製薬は、2024年12月27日に「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫」に対して製造販売承認を取得した抗CD20/CD3ヒト化二重特異性モノクローナル抗体であるモスネツズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ルンスミオ)について、2025年3月19日に薬価収載され、販売を開始したことを発表した。 本剤は、過去に少なくとも2つの標準治療が無効または治療後に再発した濾胞性リンパ腫に対する新たな治療選択肢である。効果に応じ投与期間があらかじめ定められているfixed durationの治療であり、治療に伴う患者さんの負担軽減が期待されるという。 今回の承認は、過去に2つ以上の標準治療を受けたことのある再発・難治性濾胞性リンパ腫患者を対象に実施した国内第I相試験の拡大コホート(FLMOON-1試験)および同じ患者集団を対象としたロシュ社による海外第I/II相試験の成績に基づいており、両試験で本剤の単剤投与による有効性および安全性が評価された。<製品概要>販売名:ルンスミオ点滴静注1mg、ルンスミオ点滴静注30mg一般名:モスネツズマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:再発又は難治性の濾胞性リンパ腫効能又は効果に関連する注意:・本剤による治療は、抗CD20モノクローナル抗体製剤を含む少なくとも2つの標準的な治療が無効又は治療後に再発した患者を対象とすること。・十分な経験を有する病理医により、Grade1~3Aと診断された患者に投与すること。用法及び用量:通常、成人にはモスネツズマブ(遺伝子組換え)として、21日間を1サイクルとし、1サイクル目は1日目に1mg、8日目に2mg、15日目に60mg、2サイクル目は1日目に60mg、3サイクル目以降は1日目に30mgを8サイクルまで点滴静注する。8サイクル終了時に、完全奏効が得られた患者は投与を終了し、また、病勢安定又は部分奏効が得られた患者は、計17サイクルまで投与を継続する。製造販売承認日:2024年12月27日薬価基準収載日:2025年3月19日発売開始日:2025年3月19日薬価:1mg1瓶 83,717円、30mg1瓶 2,393,055円製造販売元:中外製薬株式会社

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頻回の献血によるクローン性造血への影響は?/Blood

 頻回の献血が健康や造血幹細胞に及ぼす影響についてはほとんど解明されていない。今回、ドイツ赤十字献血センターのDarja Karpova氏らが100回超の献血者と10回未満の献血者を調べた結果、前がん病変であるクローン性造血の発生率には差はなかったが、DNMT3Aに明らかに異なる変異パターンがみられることがわかった。Blood誌オンライン版2025年3月11日号に掲載。 本研究では、100回超の献血歴を有する高齢男性の頻回献血者217人と10回未満の散発的献血者212人のデータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・頻回献血者は散発的献血者と比較して、クローン性造血の全発生率に有意差は認められなかった。・クローン性造血で最も影響を受ける遺伝子であるDNMT3Aの変異を詳細に分析したところ、頻回献血者のコホートと年齢・性別をマッチさせた対照ドナーのコホートとの間に明らかに異なる変異パターンがみられた。・CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)で編集したヒト造血幹細胞を用いて調べた頻回献血者に濃縮されたDNMT3A変異体の機能解析では、エリスロポエチン(失血に反応して増加する)で刺激すると競合的に伸長する可能性が示された。対照的に、白血病を誘発するDNMT3A R882変異を持つクローンはインターフェロンγ曝露により増加した。・プライマリーサンプルの変異と免疫表現型の同時プロファイリングを単一細胞レベルで行った結果、がんになる可能性の高いR882変異を持つ造血幹細胞では骨髄バイアスが見られたが、エリスロポエチンに反応するDNMT3A変異を持つ造血幹細胞では有意な系統バイアスは観察されなかった。後者は、CRISPRで編集したヒト造血幹細胞異種移植片に持続的な赤血球産生ストレスを加えると、選択的赤血球分化を示した。 われわれのデータは、体性幹細胞レベルで微妙に進行するダーウィンの進化を示しており、エリスロポエチンが特定のDNMT3A変異を持つ造血幹細胞に有利な新たな環境因子であることが特定された。

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第258回 献血は誰かを救うのみならず自身の健康も増進しうる

献血は誰かを救うのみならず自身の健康も増進しうる足しげく献血することはたくさんの誰かのためになるだけでなく、自身の血液も健康にするようです。私が足を運ぶ姫路の献血センターには、輸血を受けた患者さんやその近しい人からの手紙が掲示されています。よっぽど困難な状況にあるかあったであろう人たちからのそのような言葉の数々に触れると、血液検査目当てのおよそ健康診断のつもりの輸血もいくらかは役に立っていると感じることができて、なんだか前向きな気持ちになれます。献血する人は多かれ少なかれ似たような思いを経験されているかもしれません。血液学で最高峰のBlood誌に先週掲載された新たな観察試験結果1)によると、献血を頻繁にすることは自身にいくばくかの心の滋養になりうることのみならず、健康な血液細胞をより生み出せるようにする効果もあるようで、もしかすると血液がんを生じにくくする効果さえ担うかもしれません。英国のフランシスクリック研究所のチームは、ドイツの赤十字献血センターおよびドイツのがん研究所と協力し、生涯の献血回数が100回を超える頻回献血(frequent donor、以下「FD」)男性217人と献血回数がわずかな(10回未満)男性212人の血液検体を調べました。年齢はそろえられ、どちらもおよそ60歳代です。老化に伴って骨髄の造血幹細胞(HSC)に変異が蓄積することに伴い、遺伝配列が他とわずかに異なる血液細胞の一団が幅を利かせるようになるクローン性造血が生じるようになります。FD男性と非FD男性のクローン性造血の発生率に有意差はありませんでした。一方、クローン性造血との関連が知られるDNMT3A遺伝子の変化にはっきりとした差がありました。その差の意味を調べるべく、FD男性に多いDNMT3A遺伝子変化(FD変異)を導入したHSCがそうでないHSCとの共存の中でどう振る舞うかが検討されました。失血に応じて作られる造血ホルモンのエリスロポエチン(EPO)を与えることで献血に似せた環境にして培養したところ、FD変異細胞はそうでない細胞に比べてより早く増えました。その現象はEPOがあるときに限られ、EPOがないときの増える速さは似たりよったりでした。献血するたびに体内でEPOが突発することで、頻繁な献血者に多いDNMT3A変異細胞が増えるのに好都合になるようだ、と著者の1人Hector Huerga Encabo氏は言っています。研究はさらに続き、FD変異の取り柄が示唆されました。FD変異細胞と白血病を生じ易くする変異を有する細胞を一緒にしたところ、やはりEPOがある環境でFD変異細胞はより増え、赤血球をより生み出しました。すなわちFD変異はがん細胞の増殖を抑制する作用を担うかもしれません。今回の結果によると、献血はHSCの調子やその補充能力を向上するように仕向け、誰かの命を救うのみならず自身の血液系もより好調にするようです2)。とはいえ、検証がまだまだ必要です。たとえば、白血病を生じ易くする変異の発生を減らすと今回の結果をもって結論することは当然できず、異なる人種、女性、他の年齢層を含むより大人数でさらに検討しなければなりません2,3)。参考1)Karpova D, et al. Blood. 2025 Mar 11. [Epub ahead of print] 2)Giving blood frequently may make your blood cells healthier / NewScientist 3)Beneficial genetic changes observed in regular blood donors / Eurekalert

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新たな時代に向けた白血病診療の在り方と展開/日本臨床腫瘍学会

 自己複製能と多分化能を備える造血幹細胞は、複数の過程を経てさまざまな血液細胞に分化し、体内の造血系を恒常的に維持している。一方、この分化過程の各段階で生じるがん化は、白血病やリンパ腫、骨髄腫を引き起こす。 2025年3月6〜8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、教育講演の1つとして「本邦における白血病診療」と題した講演が行われた。演者の藥師神 公和氏(神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科)は、「白血病に特異的な症状はない。多くの場合、血液検査で異常が指摘されると、造血の場である骨髄の検査が実施され、診断に至る」と説明し、白血病が急性または慢性、ならびに骨髄性またはリンパ性の違いで一般的に急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)および慢性リンパ性白血病(CLL)の4つに分類されることから、「本講演では、日本血液学会より2024年に公開された『造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版』に沿って、各白血病の総論やアルゴリズム、クリニカルクエスチョン(CQ)の改訂点を紹介するとともに、今後の展望にも触れたい」とした。AMLの治療指針や戦略、主なCQの改訂点について 従来のAMLの診断は、骨髄における白血病細胞がFAB分類では30%以上、WHO分類では20%以上とされてきたが、今回のガイドライン改訂版ではEuropean Leukemia Net(ELN)が2022年の改訂で採用した分類を引用している。すなわち、AMLを定義付けるような遺伝子異常(PML::RARA、CBFB::MYH11、RUNX1::RUNX1T1など)があれば、芽球比率が10%以上でAMLと診断することになった。ただし、BCR::ABL1については、CML移行期との混乱を避けるため20%以上とされた。 分類に関するほかの重要な変更点の1つとして、病歴よりも遺伝学的特徴のほうが生物学的AMLの分類に関連していることから、従来のAML-MRC(骨髄異形成関連変化を伴うAML)と治療関連骨髄性腫瘍の病型が削除された。 なお、遺伝子変異と染色体核型に基づく予後因子を組み合わせた予後層別化システムについては、2022年のELN改訂版でFLT3-ITD変異がアレル比やNPM1変異の有無にかかわらず、すべてIntermediate群に分類された点が今回のガイドライン改訂版に記載された(ただし、FLT3阻害薬が初回治療から使用できることが前提)。このほかにも、細かい遺伝子異常が予後層別化に追加された。 急性前骨髄球性白血病(APL)以外の若年者AMLにおける治療アルゴリズムとして、今回のガイドライン改訂版ではFLT3遺伝子変異の情報を診断時に取得することが明記された。また、高齢者AMLにおいてもFLT3遺伝子変異情報の取得が記載され、藥師神氏は「基本的に初発時からFLT3遺伝子変異検査を行うことになる。なお、強力化学療法非適応症例への寛解導入療法は、CQ8『強力化学療法が適応とならない高齢者(65歳以上)AMLに対してどのような治療が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー1)を参照すること」と述べた。 これ以外の注目すべきCQとして、同氏はCQ3『若年者(65歳未満)初発AMLに対する寛解導入療法としてどのような治療が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー1)、CQ13『治療関連・二次性AMLに対してどのような治療が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー2Aおよび2B)を挙げた。一方、APLにおいては、CQ2『初発APLの寛解導入療法におけるDIC(播種性血管内凝固)対策として何が勧められるか』で、遺伝子組換えトロンボモジュリンによる治療が推奨グレード・カテゴリー3からカテゴリー2Bにアップグレードされた点を挙げた。CMLの治療指針や戦略、主なCQの改訂点について CMLの診断時に評価すべき予後スコアは、SokalスコアやELTS(EUTOS long-term survival)スコアを使用し、治療効果はELN 2020の判定規準に従い、血液学的奏効(血液・骨髄検査所見および臨床所見で判定)、細胞遺伝学的奏効(骨髄細胞中のPhiladelphia[Ph]染色体割合で判定)、分子遺伝学的奏効(PCRによる血液細胞中のBCR::ABL1遺伝子発現量で判定)の3つのレベルで判定する。加えて、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療効果のモニタリングと戦略が、同氏より解説された。 また、注目すべきCQとして、CQ1『初発CML-CP(慢性期)に対する治療として何が勧められるか』で、TKI阻害薬が新たに1剤追加されたこと(推奨グレード・カテゴリー1)、CQ3『ELNの効果判定規準によりWarningやFailureとされた症例に対する二次治療、三次治療以降は何が勧められるか』で、三次治療以降にSTAMP(specifically targeting the ABL myristoyl pocket)阻害薬が追記されたこと(推奨グレード・カテゴリー2A)、CQ5『同種造血幹細胞移植はCMLの治療中どのようなときに考慮すべきか』で、さまざまな状況に応じた移植の検討が推奨されること(推奨グレード・カテゴリー2A)を挙げた。 さらに、CQ6『DMR(分子遺伝学的に深い奏効)を達成しMRD(微小残存病変)が検出されなければTKI中止は勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー2A)、CQ7『CMLに対するTKI治療中にTKIの減量は勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー1、2Aおよび2B)、CQ8『CML患者もしくはそのパートナーの妊娠にはどのような対応が勧められるか』(推奨グレード・カテゴリー2B)の改訂点が紹介された。ALLおよびCLLの主なCQの改訂点について ALLの注目すべきCQとして、CQ4『寛解期成人ALLにおけるMRDは、どのような評価方法、評価時期、閾値の判定が勧められるか』で、定量PCRによる白血病特異的融合遺伝子測定および免疫グロブリン重鎖(Ig)/T細胞受容体(TCR)遺伝子再構成測定が推奨されたこと(推奨グレード・カテゴリー1)、ならびに1回目のMRD測定は寛解導入療法後が推奨されたこと(推奨グレード・カテゴリー2A)が紹介された。同氏は、そのほかにCQ6『第一寛解期ALLの同種造血幹細胞移植には骨髄破壊的前処置と減弱前処置のどちらが勧められるか』で、適切な前処置に関する推奨(推奨グレード・カテゴリー2B)が明記された点や、CQ7『Ph陽性ALLに対する移植後TKIの維持療法は勧められるか』で、MRD陰性の時点で開始する予防的なTKI維持療法は推奨されない(推奨グレード・カテゴリー2A)ことが記載された点を紹介。CQ9『再発ALLに対する再寛解導入療法の選択肢としてどのような治療が勧められるか、CAR-T細胞療法はどのようなときに考慮すべきか』で、新たな治療選択肢(推奨グレード・カテゴリー1)やCAR-T細胞療法(推奨グレード・カテゴリー2A)が追記された点についても言及した。 CLLの注目すべきCQとして、初回治療としてBTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)阻害薬が推奨され(CQ2『CLL初回治療としてBTK阻害薬療法は勧められるか』[推奨グレード・カテゴリー1])、免疫化学療法は初回治療として推奨されない(CQ3『CLL初回治療として免疫化学療法は勧められるか』[推奨グレード・カテゴリー1])ことが紹介された。二次治療における治療方針の推奨(CQ4『イブルチニブ初回治療に治療抵抗性もしくは再発CLLに対する二次治療としてどのような治療が勧められるか』およびCQ5『イブルチニブ初回治療に治療不耐容のCLLに対する二次治療としてどのような治療が勧められるか』)が、ともにカテゴリー1として明記された点も紹介し、CQ7『自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症を合併したCLLに対してステロイド治療は勧められるか』では、無症候性・非活動性CLLであればステロイド治療が推奨される(推奨グレード・カテゴリー2A)ことが説明された。これからの白血病診療の展望 造血器腫瘍の診断および治療について、ゲノム情報に基づく診療がWHOなどから提唱される中、つい最近、わが国においても造血器腫瘍を対象とした遺伝子パネル検査が登場した。「本邦での造血器腫瘍におけるがんゲノム医療の導入は喫緊の課題」と語る藥師神氏は、「日本血液学会が発行する『造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン2023年度版』で遺伝子パネル検査の基盤となる情報が提供されている。そのため、新規治療薬の導入とともに、白血病診療が今後さらに前進していくことが期待される」と締めくくった。

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Nature著者に聞く!ミトコンドリアを介したがんの免疫逃避機構【Oncologyインタビュー】第48回

出演:岡山大学学術研究院医歯薬学域 腫瘍微小環境学分野 教授  冨樫 庸介氏「がん細胞の異常なミトコンドリアがT細胞に伝播し、抗腫瘍免疫応答を低下させる」という驚きの研究結果が、2025年1月にNature誌で報告された。本研究を主導した岡山大学の冨樫 庸介氏が、本研究の背景や結果を解説。研究の裏話や、研究を志す若手医師へのメッセージなどもお話しいただいた。参考Ikeda H, et al. Nature. 2025;638:225-236.岡山大学ほか. がん細胞が自らの異常なミトコンドリアで免疫系を乗っ取り、生き残りをはかっている

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第254回 またまた厚労省の見通しの甘さ露呈?高額療養費制度、8月予定の患者負担上限額の引き上げも見送り、政省令改正で済むため患者団体の声も聞かず拙速に進めてジ・エンド

高額療養費制度、今年8月の見直しも“見送り”に、異例の衆院通過後の予算修正へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は南岸低気圧が通過して関東平野部にも雪が降るという予報だったため、日曜は雪山詣でがてら奥多摩に行く計画を立てていたのですが、結局大した降雪はなく、山登りは諦めました。最近の天気予報、降雨については何時頃からどれくらい降るのか、相当正確に当たります。しかし、南岸低気圧がからむ関東地方の降雪については、どうもハズレが多い(予報よりも降らない)印象です。それだけ雨よりも雪のほうが予報が難しいのでしょう。というわけで、関東地方平野部・山間部の降雪量が今年は極端に少ないため、恒例の雪の六ツ石山には登らずじまいで終わりそうです。さて、今回も前回に引き続き、この1週間で異例の展開を辿った高額療養費制度の見直しについて書きます。前回は高額療養費制度の見直しが“見直し”されることが決まった、と書きましたが、なんと新年度予算案が衆院を通過した直後、決まっていた今年8月の見直しについても”見送り”となってしまいました。衆院通過後の予算修正となるのでしょうか。各紙報道によれば、予算案が参院審議の段階で修正されそれが成立すれば、現行の憲法下では初めてのことになるそうです。夏の参院選への影響を恐れる与党内の声に抗しきれず3月7日、石破茂首相は高額療養費制度の見直しについて、今年8月に予定していた患者負担上限額の引き上げを見送ると表明しました。新たな方針を今秋までに決める考えも示しました。1週間前の2月28日、石破首相は3段階での負担限度額の引き上げのうち、2026年8月以降の負担増を再検討するものの、25年8月については予定通り上げると表明、全面凍結を求める立憲民主党の主張をはねのけ、新年度予算案を衆院通過させていました。しかし、予算案が参院に送られてからも、がんや難病患者らの強い反発は続き、国会では立憲民主党が全面凍結を改めて要求、夏に参院選を控える参院自民党や公明党からも異論が出始めていました。そうした“内輪”からの要求などに屈した形で軌道修正です。3月8日付の朝日新聞は「首相の判断は二転三転した。最終的に判断を覆したのは、夏の参院選への影響を恐れる与党内の声に抗しきれなかったからだ」と書いています。背景に政府や厚労省の見通しと判断の甘さ昨年から方針が決まっていた高額療養費制度の見直しが、今年に入って反対運動が激化した背景には何があったのでしょうか。前回、この連載では高額療養費制度の「限度額引き上げは、1年以上前、2024年1月26日の社会保障審議会で示された『全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)』の中に、経済情勢に対応した患者負担などの見直しの一つとして明記されていました。昨年12月の社会保障審議会医療保険部会ではさまざまな意見を踏まえた見直し案が提示され、年末には高額療養費制度の負担限度額引き上げを含めた2025年度当初予算案を閣議決定しています。つまり、この1年余りのあいだ、負担限度額引き上げに対する大きな反対運動は起こっていなかったのです」と書きましたが、各紙報道や社会保障審議会・医療保険部会の資料などを読んでみると、背景には政府や厚労省の見通しと判断の甘さがあったことがわかってきます。負担限度額引き上げは法律の改正必要なく政令改正で行えるそもそも「改革工程」に高額療養費制度の負担限度額引き上げが検討項目として挙がったのは、当時の岸田 文雄首相が打ち出した「こども未来戦略」の財源のためでした。3.6兆円規模の対策を盛り込みましたが、「増税」によらず1.1兆円は社会保障費の歳出削減で捻出することになり、その削減候補の一つが高額療養費制度の負担限度額引き上げだったのです。しかも、負担限度額引き上げは法律の改正は必要なく、政令改正で行える(国会での審議マターになりにくい)という“手軽さ”も削減候補となった理由のようです。ならば、次年度予算編成に向けて昨年6月にまとめられた「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に明記されてしかるべきだったと思われますが、当時の政府(岸田政権)の意向でそれは見送られています。3月8日付の朝日新聞はその理由について、「自民党総裁選を控え、衆院戦も取りざたされる中、『負担増』も議論を回避したい政権側の内諾を得られなかった」ためと書いています。「検討プロセスに丁寧さを欠いたとの指摘を重く受け止めねばならない」と石破首相つまり、高額療養費制度の負担限度額引き上げはやるつもりだが、なるべく目立たずこそこそと事を進めようと考えていたわけです。ただ通り一遍の議論はしておかなければならないため、社会保障審議会・医療保険部会の議題には上がっていました。ただ、そこで議論が行われたのは2024年11月から4回のみで、患者団体のヒアリングも実施されませんでした。12月12日に開かれた4回目の議論の資料には委員たちの概ね「賛成」の意見とともに、見直しの方向性(案)が提示されていました。そして、議論は尽くされたということで、高額療養費制度の負担限度額引き上げを盛り込んだ2025年度予算案が年末に閣議決定されたわけです。石破首相は3月7日、記者団に対して「検討プロセスに丁寧さを欠いたとの指摘を重く受け止めねばならない。患者の皆様に不安を与えたまま見直しを実施することは望ましいことではない」と語ったそうですが、“後の祭り”とはまさにこのことでしょう。政令改正だけで行える“手軽さ”もあって、政府も厚労省も見通しを大きく見誤ってしまったわけです。3月8日付の日本経済新聞も「政府内の見立てが甘かったとの指摘もある。『患者団体は引き上げの凍結を求めていない』。制度を所管する厚生労働省の幹部はこんな見方を首相官邸に報告していた。将来的な制度見直しに言及した2月末の首相答弁で、患者団体も納得するとみていた節がある」と書いています。本連載「第251回 “タカる”厚生労働省(前編)」 「第252回 同(後編)」で、厚労省のグダグダ振りについて書いたばかりですが、またまた大失態をやらかしたことになります(今度は保険局)。混迷の度合い増す医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット高額療養費制度見直しの当初案では、最終的に年1,600億円規模の公費を削減できると見込んでいたそうです。高額療養費制度の負担限度額引き上げそのものが“新たな見直し”によって見送られることになれば、代わりの財源確保が必要になってきます。3月8日付の日本経済新聞は「政府の医療制度改革の一角が厳しい批判を浴びたことで、この先の制度改革のハードルは高くなる可能性がある」と書いています。とは言え、現役世代の社会保険料の負担軽減は喫緊の課題であり、そのための医療費大削減は避けて通れない道です。さらには、現在の医療保険制度を持続可能なものとするためにも、医療費のどこかは削らざるを得ません。今回の負担限度額引き上げの見送りで、医療費大削減に向けたロシアン・ルーレットはますます混迷の度合いを増したと言えるでしょう。

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第257回 アスピリンのがん転移抑制の仕組みが判明

アスピリンのがん転移抑制の仕組みが判明アスピリンが免疫を促進してがんの転移を抑制する仕組みが判明しました。原発がんの治療は進歩しました。しかし、早期がんの段階で幸いにも治療できたところで多くの患者はやがて転移を来します。COX阻害薬であるアスピリンの連日服用と固形がんの肺、肝臓、脳などへの転移が36%低くて済むことの関連が大規模無作為化試験のメタ解析で示されています1)。また、診断時点で転移がなかったがん患者の低用量アスピリン使用とがんによる死亡率の低下の関連もいくつかの試験で認められています。大腸がん患者のアスピリン使用と生存改善の関連はHLAクラスI抗原が腫瘍で発現している場合に限られ2)、アスピリンのがんへの効果はどうやら免疫絡みのようです。アスピリンが阻害する2つのCOX酵素の1つのCOX-1はほとんどの組織で発現しており、血小板では凝固因子であるトロンボキサンA2(TXA2)の生成に携わります。もう1つのCOX-2はもっぱら炎症の際に生じます。アスピリンは体内で短命(半減期約20分)であり、有核細胞のCOX-1やCOX-2を阻害し続けるには高用量を頻回投与する必要があります。一方、毎日の低用量アスピリン服用の主な矛先は血小板のCOX-1と同酵素が携わるTXA2生成です。無核の血小板のCOX-1は新調(resynthesize)が不可能であり、低用量アスピリンで永続的に阻害されます。英国のケンブリッジ大学の研究者が率いた先立つ研究でARHGEF1という名称のタンパク質がどうやら転移に絡むことが示されています。同チームの新たな研究でARHGEF1は転移へのT細胞免疫を妨げており、ARHGEF1を省くとT細胞機能が向上すると判明しました。さらに調べたところ、血小板でCOX-1に依存して作られるTXA2からの伝達もT細胞を抑制し、ARHGEF1がその伝達経路の一員であることが示されました。そうとなればCOX阻害によってTXA2生合成を阻止するアスピリンは、TXA2がARHGEF1依存的に強いるT細胞抑制を解消して転移を防ぐ効果を担いそうです。マウスで試したところその予想どおりの結果が得られました。アスピリンはT細胞のARHGEF1を欠くマウスの転移を減らせませんでした。また、長持ちなTXA2の類い(U46619)をアスピリンとともに投与した場合もアスピリンは転移を減らせなくなりました。一方、T細胞のARHGEF1を欠くマウスにTXA2を与えたところで転移頻度は変わりませんでした。それらの結果は、アスピリンの転移阻止活性はTXA2を減らし、TXA2のARHGEF1依存的なT細胞抑制を解く作用のおかげであることを示しています3)。COX-1選択的阻害薬や血小板のCOX-1除去でTXA2を減らすこともアスピリンと同様に転移を抑制しました。研究チームは、国際共同無作為化試験Add-Aspirin4)のリーダーRuth Langley氏と提携し、今回の発見を治療の現場で役立つようにすることを目指します5)。Add-Aspirin試験は早期がんの治療を終えた患者がアスピリンを常用することで再発や死亡を防げるかどうかを調べています。今回の成果はさらなる提携や新たな研究の契機を生み出してより効果的な転移抑制手段の開発の道を開くでしょう3)。参考1)Rothwell PM, et al. Lancet. 2012;379:1591-601.2)Reimers MS, et al. JAMA Intern Med. 2014;174:732-739.3)Yang J, et al. Nature. 2025 Mar 5. [Epub ahead of print]4)Add-Aspirin Trial5)Scientists discover how aspirin could prevent some cancers from spreading / Eurekalert

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初発Ph+ALLへのポナチニブvs.イマチニブ、年齢別・バリアント別のMRD陰性とPFS(PhALLCON)/日本臨床腫瘍学会

 新たにフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)と診断された成人患者に対してポナチニブとイマチニブを比較した第III相PhALLCON試験では、すでに主要評価項目である導入療法終了時の微小残存病変(MRD)陰性完全寛解(CR)率において、ポナチニブ群(34.4%)がイマチニブ群(16.7%)に比べて有意に高かったことが2024年のJAMA誌に報告されている。日本も参加している本試験の結果を受け、米国では2024年3月にPh+ALLの1次治療にFDAより迅速承認されている(現在、日本で1次治療に承認されている薬剤はイマチニブのみ)。今回、本試験における年齢およびBCR::ABL1バリアント別の微小残存病変(MRD)陰性割合と無増悪生存期間(PFS)、さらに造血幹細胞移植(HSCT)を受けなかった患者における治療中に発現した有害事象(TEAE)の結果について、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で国立がん研究センター東病院の南 陽介氏が発表した。 本試験では、新たにPh+ALLと診断された成人245例(うち日本人13例)を、ポナチニブ群(開始用量30mg1日1回、導入療法終了後はMRD陰性CRが得られた時点で15mgに減量)またはイマチニブ群(600mg1日1回)に2:1に無作為に割り付け、低用量の化学療法(導入療法3サイクル、強化療法6サイクル、維持療法11サイクル)と併用した。化学療法後はポナチニブまたはイマチニブの単剤投与が行われた。HSCTは治験責任医師の判断に従った。主要評価項目はMRD陰性CR率、主な副次評価項目は無イベント生存期間(EFS)であった。今回の事後解析では、年齢(65歳以上/65歳未満)、BCR::ABL1バリアント(p190/p210)で分け、任意の時点でのMRD陰性(MR4:BCR::ABL1IS≦0.01%)の割合とPFS(治療終了時MRD陰性未達、MRD陰性の消失、全死亡、導入療法終了時CR未達、CRからの再発)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2022年8月12日)に中央検査機関でp190/p210が確認された232例(ポナチニブ群:154例、イマチニブ群:78例、追跡期間中央値19.4ヵ月)において、MRD陰性の割合はポナチニブ群68%、イマチニブ群50%であった(相対リスク[RR]:1.35、95%信頼区間[CI]:1.05~1.73)。各サブグループにおいても、統計学的有意差は認められなかったものの、ポナチニブ群/イマチニブ群のMRD陰性率(RR:95%CI)は、65歳未満が69%/49%(1.41:1.06~1.86)、65歳以上が62%/53%(1.16:0.67~1.99)、p190が70%/57%(1.24:0.95~1.62)、p210が60%/36%(1.67:0.93~2.98)と、すべてのサブグループでベネフィットが認められた。・PFS中央値は、全体ではポナチニブ群(20.2ヵ月)がイマチニブ群(7.5ヵ月)の2倍以上長かった(ハザード比[HR]:0.52、95%CI:0.36~0.73)。各サブグループにおいても、ポナチニブ群/イマチニブ群のPFS中央値(HR:95%CI)は、65歳未満では18.7/7.3ヵ月(0.50:0.34~0.74)、65歳以上では22.5/7.5ヵ月(0.65:0.28~1.49)、p190では22.5/9.3ヵ月(0.52:0.34~0.81)、p210では9.0/4.1ヵ月(0.48:0.26~0.90)と一貫していた。・HSCTを受けた患者の割合は、全体でポナチニブ群が36%とイマチニブ群の47%より低く、MRD陰性が得られた患者においてもポナチニブ群32%、イマチニブ群56%で同様であった。・HSCTを受けなかった患者では、曝露期間中央値がポナチニブ群(107例)で12.8ヵ月とイマチニブ群(42例)の5.1ヵ月より2倍以上長かった。・TEAEの発現割合は、動脈閉塞イベントおよび静脈血栓塞栓イベントを含め同程度であった。TEAEによる投与中断の割合はポナチニブで高く、TEAEによる減量・投与中止の割合は同程度であった。 今回の結果から、南氏は「Ph+ALLの1次治療でポナチニブ+化学療法を受けた症例は、イマチニブ+化学療法を受けた症例に比べて、年齢およびBCR::ABL1バリアントのどのサブグループにおいてもMRD陰性の割合が大幅に高く、PFSも延長し、さらにMRD陰性が得られた患者ではHSCTを受けた割合も低かったことが示された」とまとめた。また、ポナチニブで懸念されていた血管毒性がイマチニブと同程度であったことについて、「効果が得られた場合に減量するという設定によるものと思われる」と述べた。

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