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ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1

今回のキーワード器用さ(協調運動)発達性協調運動症イメージ力(概念化)アート・サヴァン(サヴァン症候群)自分語り(社会性)自閉症のこだわり(反復性)創造性自己治癒皆さんは、子供の描く絵を見て、おもしろいと思ったことはありませんか? 大人の常識にとらわれない視点や発想にびっくりさせられることがありますよね。子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? そもそも私たちヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか? そして、私たちは絵を見てなぜ心を動かされることがあるのでしょうか?今回は、ピカソの傑作の1つである「泣く女」を取り上げます。シネマセラピーのスピンオフバージョン、「アートセラピー」としてお送りします。この絵を通して、描く能力、描く起源、そしてアートの本質に、発達心理学、進化心理学、比較認知科学、神経美学の視点から迫ります。それらを踏まえて、医療の現場で行われるアートセラピーの効果を一緒に考えてみましょう。子供はどうやって絵を描くようになるの?ピカソの「泣く女」は、まさに子供が描くようなおもしろい絵です。彼は、もともと絵がとてもうまかったわけですが、途中からこのような絵をあえて描くようになりました。それでは、ピカソが注目したように、子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? ピカソと子供の絵の共通点から、描くために必要な能力(機能)を主に3つ挙げてみましょう。(1)器用さ―協調運動ピカソの「泣く女」の絵は、輪郭がくっきりと描かれています。その太さはまばらで途切れているところもあり、滑らかではないです。よく言えば大胆不敵、悪く言えば不器用です。発達心理学的には、子供は1歳以降にペンで殴りがきができるようになり、2歳半以降に横線、縦線、円の模倣ができるようになります1)。1つ目の能力は、ペンなどで描く線の位置をコントロールする器用さ、つまり協調運動です。子供は自由に線を描くという運動遊びを通して、器用になっていきます。やがて、それが字を書く器用さにつながっていきます。逆に、いつまでも線がうまく描けず、手先が不器用なままの場合は、発達性協調運動症と呼ばれます。比較認知科学の視点では、チンパンジーをはじめ大型類人猿も絵筆で殴りがきができます1)。とくにチンパンジーは、模倣はできませんが、お手本の線に印づけをしたり、塗りつぶすことはできます。このことから、チンパンジーは1、2歳の子供と同じくらいの器用さがあることがわかります。ちなみに、ピカソは、あるチンパンジーの殴りがきの絵をオークションで買い取ってアトリエに飾っていたという逸話があり、インスピレーションのもとにしていたようです。(2)イメージ力-概念化ピカソの「泣く女」の絵は、泣いてくしゃくしゃになった表情と涙にぬれてくしゃくしゃになったハンカチがあえて連続的に描かれています。女性の顔の上半分は正面顔で下半分は横顔で、複数の視点からみたイメージを重ね合わせています(キュビズム)。よく言えば立体的で斬新、悪く言えば視点やイメージが定まっていないです。発達心理学的には、幼児の絵は、顔は真正面を向いているのに横から見た椅子に座っていたり、物が展開図のよう描かれていることがよくあります。人を描こうとすると、胴体がなく、頭からいきなり手足が生えているような絵(頭足人)になります。4歳まで、顔など上下の向きがあるものを逆さまや横向き(回転画)にして描いてしまうこともあります1)。2つ目の能力は、あるものをざっくりとした形で思い描くイメージ力、つまり概念化です。子供は、見たものではなく、知っているものを描くわけですが、絵本などからの模倣学習によって、より特徴や構図を細かく捉えることができるようになっていきます。こうして、子供の絵が、より多くの人が理解できる「普通」の絵になっていくのです。比較認知科学の視点では、ヒトの子供は2歳半以降に目がないチンパンジーの顔の絵に目を描き入れることができるようになります。しかし、チンパンジーはまったくできず、顔の絵の輪郭線をなぞるだけでした1)。このことから、チンパンジーは「ない」ものを認識できない、つまり目や口などの形のざっくりとしたイメージ(概念)がもともと頭の中になく、見たものを丸ごと捉えていることが示唆されます。だからこそ、目の前に他のチンパンジーが何頭いるかの瞬間記憶(映像記憶)において、チンパンジーはヒトよりも長けていることもわかります。逆に言えば、ヒトはチンパンジーよりも瞬間記憶が劣っているわけですが、これは、イメージ力(概念化)を進化させた代償と言えるでしょう。実際に、秀でた瞬間記憶によって写実的な絵を描く「アート・サヴァン」(サヴァン症候群)と呼ばれる人がまれにいます。しかし、彼らのほとんどは、もともと自閉症で、抽象的な話(概念化)ができません。彼らは、概念化の能力と引き換えに、瞬間記憶の能力を手に入れたと捉えることができます。ちなみに、ゾウは鼻で絵筆を持って、花の絵を描くことができます。ただし、これは、ゾウ使いが巧みに耳を引っ張るなどして、そう描くようにトレーニング(連合学習)をしただけであることがわかっています2)。ゾウは、自発的に描いているわけではなく、その絵の形を認識できているわけでもありません。つまり、形のある絵を描くことができるのは、やはりヒトだけであると言えます。(3)自分語り―社会性ピカソの「泣く女」のモデルは、ピカソの愛人の1人です。ピカソは、結婚をして子供がいながら、次々と愛人をつくっていました。この愛人ともう1人の愛人が、ピカソのアトリエで鉢合わせた時の逸話は有名です。ピカソは「どちらがこの場を出ていくかはっきりさせて」とこの2人に迫られるのですが、なんと「君たちが争って決めたらいい」と答えたのです。そして間もなく、彼の目の前で女性同士の取っ組み合いのけんかが始まったのでした。当時ピカソは、戦争を象徴する「ゲルニカ」の制作の真っ最中でした。「ゲルニカ」は、祖国スペインでの戦争だけでなく、自分のアトリエで自分をめぐっての女性同士の戦いも同時に象徴していたとも言えるかもしれません。彼は数年後、また別の愛人にこの時のエピソードを「最高の思い出の1つだったな」と面白がって語っていたのでした。この絵の背景を知れば知るほど、「泣く女」の真実が浮き彫りになってきます。そして、ピカソがいかに自分語りに長けていたのかがわかります。発達心理学的には、4歳以降でエピソード記憶が発達し、たとえば遊園地で家族が手をつないで笑っているワンシーンなど、エピソードの絵を描くようになります。そして、親などに「見て見て」と言うようになります。もちろん、親は「いいねえ」「よく描いたねえ」と褒めます。それは、写真のような正確な事実ではなく、その子が感じたその子にとっての真実です。その絵は親にとって、ピカソの絵と比べることができない宝物になります。3つ目の能力は、自分が見たものを周りに伝えようとする自分語り、つまり社会性です。子供は、ただ描くだけでなく、自分が見たものを絵にして周りと共有しようとするようになります。こうして、ピカソと同じように、絵にストーリー性やメッセージ性という価値が生まれるのです。比較認知科学の視点では、先ほどの目がない顔の絵に目を描き入れる実験において、そもそもチンパンジーは、たとえイメージ力があり目がないことを認識できていたとしても、そもそも「目がないこと(いつもと違うこと)を伝えたい」「足りない目を補って褒められたい」という発想自体がない可能性も考えられます。つまり、絵は、言葉と同じように社会性があることがわかります。逆に言えば、絵は誰かに見てもらうために描くのです。誰かに見てもらうことを想定せずに描く場合は、独り言と同じであり、自閉症のこだわり(反復性)など特殊な精神状態に限られます。次のページへ >>

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サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第244回

サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?photoACより使用サヴァン症候群については医師であればご存じの人が多いと思いますが、ある能力が異常に亢進する症候群です。一瞬見ただけで景色を写真記憶してそれを絵画にして描き出す能力、年月日から曜日を即座に言える能力、耳にした音楽をすべて再現できる能力…。見方によっては、才能を授けられた「ギフテッド」のように思われるかもしれません。Kawamura M, et al.Savant Syndrome and an "Oshikuramanju Hypothesis".Brain Nerve. 2020 Mar;72(3):193-201.この論文はサヴァン症候群の「おしくらまんじゅう仮説」を記したもので、なるほどと考えさせられた総説です。サヴァン症候群の根底にあるのは、特定の脳の機能低下ですが、別の機能が亢進するという状態になります。これが天才的な能力として目の当たりにされるわけです。脳の中では、それらの機能があたかも「おしくらまんじゅう」のようにひしめき合っていて、ある機能が失なわれたときにほかの機能がせり出してくるのではないか、ということです。この機序は獲得性サヴァン症候群においての見解です。反面、生まれながらにしてサヴァン症候群の場合、自閉スペクトラム症のように、器質的な原因があるケースが多いです。私もサヴァン症候群と思われる人とその家族にインタビューをした経験がありますが、コミュニケーションに少し苦労されている人が多かった印象です。国内の特別支援学校での調査によれば、ほとんどのサヴァン症候群児童は男性であり、これは自閉症児が男性に多いことに関係していると推察されています1)。サヴァン症候群の名が知られるようになったのは、映画「レインマン」(1988年)によるところが大きいです。自閉スペクトラム症の兄をダスティン・ホフマンが、その弟をトム・クルーズが演じています。また、「グッド・ドクター」という韓国ドラマの主人公の医師もサヴァン症候群として描かれていますね。日本でも山崎 賢人さんが主演でリメイクされました。1)有路 憲一, 他. サヴァン症候群の実態調査とその実践的価値. 信州大学総合人間科学研究. 2017;11:195-217.

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ADHDと自閉スペクトラム症のWAIS-IVまたはWISC-Vによる認知プロファイル~メタ解析

 これまでの研究によると、神経発達の状態は、ウェクスラー式知能検査(最新版はWAIS-IV、WISC-V)における特有の認知プロファイルと関連している可能性がある。しかし、自閉スペクトラム症または注意欠如多動症(ADHD)患者の認知プロファイルをどの程度反映できているかは、はっきりしていなかった。英国・ニューカッスル大学のAlexander C. Wilson氏は、同検査による自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイルの評価を調査する目的でメタ解析を実施した。その結果、WAIS-IVまたはWISC-Vの成績パターンは、診断目的で使用するには感度および特異度が不十分であるものの、自閉スペクトラム症では、言語的および非言語的推論の相対的な強さと処理速度の低さの認知プロファイルと関連していることが示唆された。一方、ADHDでは、WAIS-IVまたはWISC-Vにおける特定の認知プロファイルとの関連性は低かった。Archives of Clinical Neuropsychology誌オンライン版2023年9月29日号の報告。ADHD患者のWAIS-IVまたはWISC-Vの結果は年齢で予想されるレベル 2022年10月までに公表された研究をPsycInfo、Embase、Medlineより検索した。自閉スペクトラム症またはADHDと診断された小児または成人を対象に、WAIS-IVまたはWISC-Vを用いて認知パフォーマンスを評価した研究を検索対象に含めた。検査のスコアはメタ解析を用いて集計した。自閉スペクトラム症とADHDのWAIS-IVまたはWISC-Vを用いた認知プロファイルの評価を調査した主な結果は以下のとおり。・18件のデータソースより報告された、ニューロダイバーシティ(神経多様性)1,800例超のスコアを分析した。・自閉スペクトラム症の小児および成人は、言語的および非言語的推論において典型的な範囲内のパフォーマンスを発揮していたが、処理速度スコアは平均より約1 SD低く、作業記憶スコアはわずかに低かった。これは、自閉スペクトラム症における「spiky」の認知プロファイルの根拠と考えられる。・ADHDの小児および成人のWAIS-IVまたはWISC-Vにおけるパフォーマンス結果は、ほとんどが年齢で予想されるレベルであったが、作業記憶スコアはわずかに低かった。 結果を踏まえて著者は、「自閉スペクトラム症では、自身の長所や困難を特定しサポートするための認知評価が、とくに有益である可能性がある」としている。

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自閉スペクトラム症と統合失調症の精神症状の比較

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、明らかな精神症状を発現する傾向があり、これらの症状は、統合失調症患者でみられる症状と類似している。獨協医科大学のMomoka Yamada氏らは、ASD、統合失調症、非精神疾患の初診患者における精神症状の違いについて、調査を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年8月21日号の報告。 初診患者のデータは、2019年6月~2021年5月の獨協医科大学病院精神科の診療記録よりレトロスペクティブに収集した。分析には、精神症状の簡易評価ツールであるPRIME Screen-Revised(PS-R)の評価データを有する254例を含めた。すべての精神科診断には、DSM-V診断基準が用いられていた。 主な結果は以下のとおり。・混乱や妄想的気分は、ASDで15.6%(7/45例)、統合失調症で41.5%(44/106例)、非精神疾患で1.1%(1/88例)に認められ、知覚異常は、ASDで11.1%(5/45例)、統合失調症で40.6%(43/106例)、非精神疾患で2.3%(2/88例)に認められた。・傾向分析では、これらの精神症状は、非精神疾患<ASD<統合失調症と増加していた。・多変量調整多項ロジスティック回帰分析では、ASDおよび非精神疾患と統合失調症との比較を行った。・より高い年齢、知覚異常の発現は、ASD診断を受けていないことと関連し、男性、混乱や妄想的気分がないこと、知覚症状がないことは、非精神疾患と関連していた。 著者らは、本結果は暫定的なものであるとしながらも、陽性症状を詳細に評価することで、ASDと統合失調症の鑑別が容易になる可能性があるとまとめている。

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若年性認知症と紛らわしい、初老期のADHD【外来で役立つ!認知症Topics】第8回

認知症専門クリニックの当院を訪れる患者さんの平均年齢は75歳、偏差は10歳くらいかと思う。だから40~65歳の患者さんが来られると、「若年性認知症か?」とまずは疑う。実際にはそれもあるが、複雑部分発作のようなてんかん性疾患や、睡眠時無呼吸症候群だと診断される人も少なくない。ところがここ数年、認知機能についても脳画像などの生物学的な診断指標についても問題なく、最終的に正常と診断する例が増えてきた印象がある。そこでこうした患者さんには、何か共通する背景があるのではないかと思うようになった。理系の学校卒、技術職で働いてきた人で、いわゆる理屈屋さんの傾向があるか?とまず思い当たった。そこで「そもそもどうして来院されたのですか?」と改めて尋ねると、「実は自分でも悪いとは思っていない。上司(あるいは女房)が認知症かどうか専門医に調べてもらうように言ったから」という回答が多いことがわかった。たまたまこの頃、「60歳以上の注意欠如・多動症ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)にご注意を」という主旨の英文記事1)を読んだ。「60歳以上のADHD」という言葉に、「ほーっ」と感心した。実は20年ほど前に「大人になったADHD」という言葉を知ったとき、まず驚いたものだ。というのは、子供の頃の同級生や知友を思い浮かべても、ADHDは児童期には目立っても成長とともに改善し、多くの場合、成人になると治るものとずっと私は思っていたからである。ADHDは大人になってから表面化することもその専門家である岩波 明氏によると、「ADHDは、成人の3〜4%が持っているといわれており、診断を受ける大人が増えている。とくに症状が軽い場合、また周囲の環境によっては見過ごされることもある。しかし大人になると、就職や結婚などによって行動の範囲や人間関係が複雑になるため、それに対処しきれなくなったときに問題が表面化し、症状に気付くことがある」と述べられている。そして注意に関わる特徴として、「注意を持続するのが難しい」、「ケアレスミスが多い」、「片付けが苦手・忘れ物が多い」などを指摘されている2)。それを思い出した上で、60歳以上のADHDの特徴を丁寧に読み返してみた。(1)スイスチーズ記憶:覚えているものもあるが、スコンと抜けるものもある、いわゆる斑ぼけ。(2)気を逸らされるとやりかけの仕事を忘れてしまう。(3)物を定位置に戻さない。(4)くり返し、真っ白になる。(5)家計などの金銭収支を合わせられない。(6)周りに配慮せずしゃべり過ぎる。(7)他者を遮る。(8)他者と安定した関係が保てない。とあった。こうした目で認知症疑いの受診者を見直してみると、先ほどは最終的に知的正常とした中にも、ADHDと考え直すケースが少なくないと考えた。だから最近では、テストが正常であっても、ADHDでは?と思い直して、そのチェックのためにAQ(自閉症スペクトラム指数)3)を施行している。上記の症状のうち、とくに(1)~(5)は認知機能がらみである。一方で(6)~(8)は、従来からのいわゆる「キャラ」関連であろう。そもそもどうして初老期以降になってADHDが顕在化するのか? 答えはわからないのだが、やはり加齢化による機能低下は重要だろう。認知症は、以前は「痴呆症」と呼ばれたように、知性や知識の病である。ところで精神現象を包括する語に「知情意」がある。「情」とは心、「意」とは意欲である。ADHD の素因がある人は、年齢を重ねた時に、ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSR)などで定量化しやすい知のみならず、情意についても、ほころびを生じやすいのではなかろうか。(6)~(8)は、本来の傾向が、この情意のほころびによって強められた現れなのかもしれない。こうしたことで、当事者の周囲が見て取る「知情意」の変化が認知症の初期症状と捉えられ、認知症専門外来という話になるのかもしれない。初老期のADHD治療さて治療においては、まず自分にはどんな問題があるかを、初老期になった当事者に自覚してもらう必要がある。上記報告1)はこれを簡潔に述べている。(1)先送りにしがちだ。(2)苛つきやすい自分をコントロールする必要がある。(3)制限時間を意識した段取りと進行が求められる。(4)落ち着かなさ、雑念が頭の中を駆け巡る、しゃべり過ぎ。などは過活動の残骸と考えよう。またADHDに適応がある薬物には、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)の4剤がある。いずれも副作用など危険性も高く、その処方にはADHDに精通した医師の関わりが求められているだけに、医師なら誰でもとはいかないだろう。終わりに、初老期以降のADHDと思しき人の病識、あるいは自覚について。それがある人と、まったくといっていいほどない人にきれいに二分されるという印象がある。筆者がADHD疑いと思っても本人が否定する場合は、本人と近しい人にもAQをやってもらう。それと本人の回答が明らかに乖離することが、こうしたケースの特徴のようだ。参考1)Nadeau K. A Critical Need Ignored: Inadequate Diagnosis and Treatment of ADHD After Age 60. ADDITUDE. 2022 July 14.2)NHK健康チャンネル 大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!(2023年7月21日)3)若林明雄ほか. 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化. 心理学研究. 2004;75:78-84.

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論文発表と映画製作の共通点から猫談義を楽しむ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第62回

第62回 論文発表と映画製作の共通点から猫談義を楽しむ自分は映画が大好きです。映画監督ほどすばらしい仕事はないと思います。映画は、文学、音楽、演技、美術、デザイン、映像技術などの要素が組み合わさって作り上げられます。複数の芸術形式の融合を指揮する映画監督には総合力が求められます。いつかは映画監督としてメガホンを握ってみたいと夢見ております。論文発表と映画製作にはいくつか共通点があるように思います。論文発表も映画製作にも明確な構成が必要です。論文は導入、方法、結果、考察などのセクションで構成され、映画はプロローグ、展開、クライマックス、エピローグなどのセクションで構成されます。論文発表と映画製作には、訴えたいテーマがあることも共通です。論文は特定の研究問題を解決すること、映画はストーリーを通してメッセージを伝えることがテーマです。論文発表と映画製作は共に、創造性が求められる活動です。論文では新しい知見やアイデアを提案し、映画ではストーリーや映像表現を通じて観客を魅了する創造的なアプローチが必要です。完成までのプロセスにも共通点があります。論文では研究計画、データ収集、解析、執筆などのステップがあります。映画では脚本の執筆、撮影、編集、音楽の追加などの工程を経て完成します。医療の現場は人間の生と死をあつかう場所なのでドラマに満ちています。ですから映画の題材に病気や医療が使われることが多いのも当然です。医学領域の研究活動と映画製作には共通項が多いことも影響しているかもしれません。そこで医療関係者に観てもらいたい傑作映画を紹介しましょう。『だれもが愛しいチャンピオン』(原題:Campeones)、監督:ハビエル・フェセル、2018年製作、スペイン映画主人公は短気な性格のプロバスケットボールのコーチです。問題を起こしチームを解雇され、社会奉仕活動として障がい者バスケットボールのチーム「アミーゴス」のコーチを命じられます。選手たちの自由過ぎる言動に困惑しながら、純粋さや情熱、優しさに触れて一念発起します。コーチと選手が互いに支え合い成長していきます。チームは全国大会で快進撃します。実際の障がい者600人の中からオーディションで選ばれた10名の「俳優」が出演します。主演のひとり、ダウン症のヘスス・ビダルがスペインの映画賞であるゴヤ賞の新人賞を受賞したそうですが、その演技力を引き出した監督の手腕は賞賛に値します。この映画の日本公開には、日本障がい者バスケットボール連盟、日本自閉症協会、日本ダウン症協会などが後援しています。知的障がい者というタブー視される内容を描きながらネガティブな面がなく、爽やかな作品に仕上がっています。さすがラテンの国スペインです。説教くさいメッセージはないので気軽にご覧ください。自然に笑いながら、自然に胸が熱くなる、そんな作品です。医療と映画の相性は良いのですが、それよりも映画に欠かせない存在が猫です。美しい外観を持ち、しなやかで優雅な動きをする猫は、画面上で目を引く存在となります。猫の予測不能な行動や愛らしいしぐさは観客の関心を引きます。身近で親しみやすい猫は、映画に頻繁に登場するキャラクターです。では、画面を横切る猫が絶妙な映画を紹介しましょう。『ゴッドファーザー』(原題:The Godfather)、監督:フランシス・フォード・コッポラ、出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、1972年製作イタリア系組織犯罪集団マフィアの内情を世に知らしめた名作です。マーロン・ブランドが演じるマフィアのボス、ドン・コルレオーネは、相手が貧しく微力な者でも、助けを求めてくれば親身になってどんな困難な問題でも解決します。映画の冒頭に、相談を聞くためのオフィスで、ドン・コルレオーネが手の中で猫をもてあそんでいます。コルレオーネ役のマーロン・ブランドに、猫は手を伸ばしたり、体の向きをくねくね変えたり、甘えきっています。マーロン・ブランドも猫が喜ぶポイントをまさぐり、猫好きの本性は明らかです。しかし、ドンとしての仏頂面を崩しません。リラックスした猫が、厳しいマフィアの行動原理を際立たせるシーンです。ここで猫を登場させるコッポラ監督は流石です。『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(原題:A Street Cat Named Bob)、監督:ロジャー・スポティスウッド、出演:ルーク・トレッダウェイ、ルタ・ゲドミンタス、2016年製作ホームレス同然の貧しいストリートミュージシャンが1匹の野良猫との出会いによって再生していく姿を描く作品です。これは本当にオススメの映画なので、ネタバレしないように詳しく述べません。ボブが実話に基づく猫であることが驚きです。日本やハリウッドの映画は、動物が登場するとメロメロの甘い展開になることが常ですが、辛口な展開はイギリス映画を感じさせます。監督のロジャー・スポティスウッドは、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』のメガホンも取っている実力派です。『猫が教えてくれたこと』(原題:Nine Lives: Cats in Istanbul/Kedi)、2016年製作これはドキュメンタリー映画で、上映時間も79分と手頃です。猫と人間たちの幸せな関係をとらえたドキュメンタリーです。ヨーロッパとアジアの文化をつなぐイスタンブールの街で暮らす野良猫が主人公です。生まれも育ちも異なる7匹の猫たちと人間たちが紡ぎ出す触れ合いは感動を与えてくれます。あなたの心が乾燥し、癒しが必要ならばご覧ください。必ずや効能を発揮します。論文発表と映画製作という情報発信の共通性を論じるつもりが、結局は猫好き談義になってしまいました。お許しください。

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 1

今回のキーワード連合学習指差し意図共有自閉症サイン言語音声言語メラビアンの法則左脳皆さんは、どうやって赤ちゃんが言葉を覚えていくのか不思議に思ったことはありませんか? そもそも私たち人間がどうやって言葉を話すようになったのか疑問に思ったことはありませんか? さらに、言葉そのものよりも、なぜ見た目や口調の方が相手に影響を与えるのでしょうか? なぜ言葉と利き手を司る優位半球が同じ左脳なのでしょうか?これらの謎を解くために、今回は、伝記「ヘレン・ケラー」を取り上げ、言葉の意味を理解する象徴機能のメカニズムを解き明かし、その起源に迫ります。なお、厳密にいえば言葉には、発語、象徴、統語の主に3つの機能があります。今回は、象徴にフォーカスしています。発語の機能の詳細については、関連記事1をご覧ください。象徴機能とは?ヘレン・ケラーは、今から100年以上前の偉人です。彼女は、1歳半の時に感染症(髄膜炎)にかかってしまい、その後遺症で「見えない、聞こえない、話せない」という三重苦を背負うことになります。そして、言葉を覚えることが困難なまま、家の中で暴れ回っていました。やがて彼女が6歳になった時、ついに家庭教師のサリバン先生に巡り会います。サリバン先生は、一生懸命ヘレンに指文字を教え込み、やがてヘレンは指文字がものや動作と関連付けられていることを理解し、いくつかの名詞と動詞を覚えました。しかし、ケーキに触れたり嗅いだり味わったりすれば「c-a-k-e」という指文字を綴ることができるのに、ケーキが食べたい時はその指文字を使わずに、身振りで表現していたのです。なぜなのでしょうか?その訳は、「ケーキに触れる→c-a-k-eの指文字を綴る」というパターン学習(連合学習)をしただけだったからです。しかし、c-a-k-eという指文字がケーキというものを表す記号(象徴)であり、それを使って逆に「ケーキが欲しい」という自分の欲求を伝える、つまり「c-a-k-eの指文字を綴る→ケーキに触れる」ということがわからなかったのでした。このように、ものごとやできごとを記号(象徴)に置き換えて、目の前にそれがなくても記号(象徴)によって認識することを象徴機能と呼んでいます。つまり、「もの→記号」なら「記号→もの」と理解することです(刺激等価性)。何が奇跡なの?サリバン先生は、根気強くヘレンに指文字を教えていきます。そして、運命の時が来ます。2人が出会って1ヵ月後、サリバン先生はヘレンを井戸に連れていき、水を流します。そして、ほとばしった水がヘレンの手に当たった時、彼女ははっとします。そして、おもむろに「わーたー(water)」と唸るように言葉を絞り出したのでした。さらに、自分から「w-a-t-e-r」と指文字を綴り、水を求めるのでした。この時、ヘレンは初めてすべてのものには名前があり、それを指文字で表していることに気付くのです。つまり、「もの→記号」なら「記号→もの」を理解したのでした。それを可能にさせたのも、ヘレンが病気になる前にすでに覚えた「water」の発音をその瞬間に思い出したからでした。「waterという発音(記号)→水(もの)」が理解できたからこそ、「w-a-t-e-rの指文字(象徴)→水(もの)」も理解できるようになったのでした。この時を境に、ヘレンは身の回りのあらゆるものの名前を次々と質問するようになります。いわゆる幼児の「なになに期」が遅れて爆発的にやってきたのでした。さらに、サリバン先生が自分の口の中にヘレンの指を入れさせて発音の仕方を教えることで、話せるようにもなっていきます。やがて大学に進学するまでになり、生涯、講演活動を通して世界の福祉のあり方に働きかけました。彼女は、三重苦を背負いながら、世界を変える人になったのでした。まさに奇跡です。と同時に、そんなヘレンを子供の頃から支え続けたサリバン先生こそ、タイトルの「奇跡の人」(The Miracle Worker)であるといえるでしょう。次のページへ >>

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 2

象徴機能はどうやって発達するの?ヘレンは、三重苦になる前に、すでに象徴機能が発達していたため、その後に奇跡を起こすことができました。それでは、この機能はどうやって発達するのでしょうか? ここから、象徴機能の発達を3つの段階に分けて説明しましょう。(1)まねによる共感赤ちゃんは、生後6ヵ月を過ぎると、「バンザイ」「バイバイ」「オツムテンテン」などの動きをまねするようになります。これは、赤ちゃんが親の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを「ものまね神経」(ミラーニューロン)という同じ脳内の神経ネットワークで処理するようになるからです。この時、親の動作と同時に気持ちも脳内に「鏡」(ミラー)のように映し出されることで、共感性も発達します。1つ目の発達は、まねによる共感です。この共感性は、親が赤ちゃんの気持ちを汲み取った表情や声かけをすることで高まります(ミラーリング)。このメカニズムの詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)指差しによる意図共有赤ちゃんは、生後9ヵ月を過ぎると親が指を差した方向や視線を向けた方向と同じ方向を見るようになり、1歳を過ぎると自分で指を差して親に注意を向けさせ、注意を向ける対象を親(相手)と赤ちゃん(自分)で共有することができるようになります(共同注視)。そして、親の意図に気付いたり、自分の意図を伝えることが可能になります。2つ目の発達は、指差しによる意図共有です。これは、当たり前のことのように思いますが、実は人間にしかできません。その訳は、指差しで示された方向とは、指差しした相手からの方向だからです。指差しがわかるということは、相手の位置に自分の身を置く想像ができる、つまり相手の視点に立つという人間ならではの能力が発達したことを意味します。(3)ごっこ遊びによる想像1歳後半から、食べるふりをしたり、葉っぱを皿に見立てたり、おままごとをするようになります(ごっこ遊び)。そして、相手と同じ想像の世界を共有することが可能になります。3つ目の発達は、ごっこ遊び(象徴遊び)による想像です。ちなみに、最初のまねによる共感の発達がうまく行かない場合、その後に続く指差しによる意図共有やごっこ遊びによる想像の発達もできなくなります。これが自閉症です。自閉症に言葉の遅れがあるのは、もともと言語能力(知能)が低いからではなく、ベースとなる共感性が低いため、その後に言語に必要な象徴機能が発達しにくくなるからであることがわかります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 3

象徴機能はどうやって進化したの?象徴機能は、まねによる共感、指差しによる意図共有、ごっこ遊びによる想像によって発達することがわかりました。それでは、この機能はどうやって進化したのでしょうか? ここから、象徴機能の進化を3つの段階に分けて説明しましょう。(1)まねによる共感約700万年前に人類は、アフリカの森で誕生しましたが、約300万年前には森が減って草原に取り残されてしまいました。この時、猛獣から子供を守り食料を獲るために、男性も女性と一緒に子育てをして家族をつくるようになりました。まだ言葉がなかった当時、その助け合いの確認として、お互いのしぐさや発声のまねをし合ったのでしょう。そして、それを心地良く感じるように進化したのでしょう。1つ目の進化は、まねによる共感(ミラーリング)です。この共感の核は同調です。ミラーリングの起源の詳細は、関連記事3をご覧ください。なお、サルなどの類人猿も「ものまね神経」(ミラーニューロン)があり、共感します。ただし、サルは痛み、恐れ、怒りなどの不快感情に限定されています。その理由は、サルは、ほかのサルの不快さを素早く感じ取って自分の身に降りかかるかもしれない危険を事前に避けることができればよいだけで、人間のように喜びや安らぎなどの同調の快感情まで共感する必要がないからです。(2)サイン言語による意図共有人類は、その後に家族をもとに血縁で集まった部族をつくるようになりました。この時、助け合いをよりスムーズにするため、相手の表情だけでなく、しぐさや発声の意図を察知するようになったのでしょう(心の理論)。そして、特定のしぐさや発声を部族内で文化として共有(学習)するようになったのでしょう。2つ目の進化は、サイン言語による意図共有です。サイン言語とは、ジェスチャーをはじめ、表情や声の調子などを含む非言語的コミュニケーションです。たとえば、しぐさの代表は指差しです。また、発声の代表は、「は?」のように質問する時に語尾を上げることです。これらは世界共通のサイン言語です。なお、ベルベットモンキー(サルの一種)は、天敵のヒョウ、タカ、ヘビが来た時にそれぞれ違う警戒音を発するサイン言語を持っています。そうすることで、周りか、空か、足元かのどこに注意を向けるか(意図)を仲間と瞬時に共有することができます。昨今は、ほかのいくつかのサルも同じように警戒音を発し分けていることが発見されています1)。ただし、これは生まれながらのもので、人間のように学習するわけではありません。また、人間に最も近いチンパンジーも、さまざまなしぐさや唸り声によるサイン言語が確認されています2)。有名なのは、手のひらを相手の前に差し出す物乞いのジェスチャーです。野生のチンパンジーは指さしをしないですが、飼育下のチンパンジーは指差しをすることも確認されています。ただし、頭にバケツをかぶっている人に対しても指差しをすることから、「water」と発する前のヘレンと同じように、「指差し→指した餌がもらえる」という連合学習をしただけであることがわかります2)。つまり、彼らは一方的に要求するだけで、相手と意図を共有して働きかけることはできないことがわかります。教わること(連合学習)はできても、教えること(意図共有)はできないわけです。ちなみに、人間だけに白目があるのは、白目によって黒目(視線)の位置がわかることから、視線に指差しと同じ意図共有の機能を持たせるように進化したためであるといわれています。だからこそ、意図共有をしようとしない自閉症は指差しをしないと同時に視線が合わないのです。また、女性が男性よりも人差し指が長いのは(指比)、共感性の高い女性の方が進化の歴史の中で指差し(意図共有)をより多くしていたことで、人差し指が長くなるように進化した可能性が考えられます。逆に、自閉症の人差し指が短いのは3)、直接要因として胎児期にテストステロン(男性ホルモン)の分泌が多いからですが、究極要因としては自閉症(超男性脳)と関連する遺伝子によって、進化の歴史の中で指差しとして使わない人差し指が短くなるように「退化」しつつあるととらえることができます。(3)音声言語による想像約20万年前に現生人類は、歌声の発声をもとに発語が可能になりました。この詳細については、関連記事1をご覧ください。この時、すでにある程度確立していたサイン言語に、発声した音素を当てはめていったのでしょう(言語併合)。たとえば、最も使う体の部分は指差しをする「手(te)」ですが、この世界祖語は「tik」であり、さまざまな言語で似たような発音をします。そして、音声によって、夜や洞窟などの暗闇の中でも、コミュニケーションができるようになりました。この時、目の前にないものや状況も相手と共有するようになりました。3つ目の進化は、音声言語による想像です。なお、これまでにチンパンジーに絵文字や手話を教える研究が何度もされてきました。しかし、「water」と発する前のヘレンと同じように、チンパンジーは「バナナを見る(もの)→バナナの絵文字(記号)」という学習はできるのですが、逆にバナナの絵文字(記号)を使って「バナナちょうだい」と訴えようとはしなかったのです4)。チンパンジーをはじめ、人間以外の動物は目の前にある実物が世界のすべてであり、やはり絵文字や手話などの記号(象徴)を使って目の前にないものを想定(想像)するができないのでした。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 4

象徴機能の進化の歴史から解ける謎は?象徴機能は、まねによる共感、サイン言語のよる意図共有、音声言語による想像によって進化したことがわかりました。つまり、個体発生的にも系統発生的にも、サイン言語→音声言語の順番であり、サイン言語が音声言語のベースになっていることがわかります。この象徴機能の進化の視点から、解ける謎を2つ挙げてみましょう。(1)メラビアンの法則の割合の違いの謎メラビアンの法則とは、心理学者メラビアンの実験から、相手への影響度は、見た目(非言語的コミュニケーション)が5割強、口調(準言語的コミュニケーション)が3割強、話の内容(言語的コミュニケーション)が1割弱という割合であるという法則です。そもそも、なぜこのような割合の実験結果になったのでしょうか?この割合の違いは、グラフ1の非言語的コミュニケーションが約300万年前、準言語的コミュニケーションが約200万年前、言語的コミュニケーションが約20万年前という起源の古さにだいたい一致しています。なお、準言語的コミュニケーションの起源が約200万年前である根拠は、リズムの起源として、関連記事3をご覧ください。つまり、このだいたいの一致から、メラビアンの法則の割合の違いの原因は、それぞれのコミュニケーションの起源の古さに違いがあるからであると考えることができます。これは、能力の古さと身に付けやすさ(嗜癖性)の関係から説明することができます。この詳細については、関連記事4をご覧ください。(2)利き手と言葉の優位半球が同じ左脳である謎私たちの利き手(多くは右手)の優位半球は左脳です。そして、言語の優位半球も左脳です。よくよく考えると、なぜ同じなのでしょうか?この答えも、象徴機能の進化の歴史から説明できます。それは、人類は、もともと右利き(左脳が支配)が多く、指さしなどのジェスチャー(サイン言語)を主に右手で行っていたからです。すると、象徴機能が必然的に左脳で進化し、そのまま音声言語も引き継いで左脳で進化したというわけです。なお、左脳は象徴機能を司ってより逐次的で微細的(ミクロ)であるのに対して、右脳は空間認識を司ってより直情的で粗大的(マクロ)です。この脳の側性化は、2億5千万年前の魚類まで遡ることができます。当時の三葉虫の化石の傷痕は、右側に多い傾向にありました5)。このことから、三葉虫を補食する多くの魚類は、後ろから追いかけるとき、三葉虫を自らの視界の左側(三葉虫にとっては右側)に保って仕留めていたことになります。つまり、当時から、右脳が優位に働いて左側にあるエサに飛びついていたことが推測されています。そして、当時は、もう一方の左脳に側性化された機能がなかったため、その後に象徴機能などの新しい機能が入り込む余地があったと推測されています。ちなみに、チンパンジーも右利きが多いです2)。太古の昔の魚類が左側に注意が向きやすいのと同じように、私たちも文字を書くときには左側から始めます。プロフィール写真も顔の左側がカメラに向くように撮ることが多いです。赤ちゃんを抱くときも左側に抱くことが多いです。さらに気になるのは、空間認識としての脳の側性化がなぜ左脳ではなく右脳であるのかの謎です。これについては、地球の自転などの何らかの自然環境によることが推定されますが、はっきりしたことはわかっていません。1)こころと言葉 進化と認知科学のアプローチP43:長谷川寿一、東京大学出版会、20082)言葉は身振りから進化した―進化心理学が探る言語の起源P44、P87、P92、P93:マイケル・コーバリス、勁草書房、20083)自閉症児における第2指, 第4指長比に関する検討:大澤 純子ほか、J-STAGE、20054)ことばの発達の謎を解くP43:今井むつみ、ちくまプリマー新書、20135)ことばの起源P192、P194:ロビン・ダンバー、青土社、2016<< 前のページへ■関連記事NHK「おかあさんといっしょ」(前編)【歌うと話しやすくなるの?(発声学習)】アンパンマン【その顔はおっぱい?】映画「RRR」【なぜ歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】

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妊娠中の抗うつ薬使用、リスクとベネフィットは?~メタ解析

 妊娠中の抗うつ薬使用は数十年にわたり増加傾向であり、安全性を評価するため、結果の統計学的検出力および精度を向上させるメタ解析が求められている。フランス・Centre Hospitalier Universitaire de Caen NormandieのPierre Desaunay氏らは、妊娠中の抗うつ薬使用のベネフィットとリスクを評価するメタ解析のメタレビューを行った。その結果、妊娠中の抗うつ薬使用は、ガイドラインに従い第1選択である心理療法後の治療として検討すべきであることが示唆された。Paediatric Drugs誌オンライン版2023年2月28日号の報告。 2021年10月25日までに公表された文献を、PubMed、Web of ScienceデータベースよりPRISMAガイドラインに従い検索した。対象研究は、妊娠中の抗うつ薬使用と、妊婦、胎芽、胎児、新生児、発育中の子供などの健康アウトカムの関連を評価したメタ解析とした。研究の選択およびデータの抽出は、2人の独立した研究者により重複して実施した。研究の方法論的質の評価にはAMSTAR-2ツールを用いた。各メタ解析の重複部分は、修正された対象エリアを算出することにより評価した。4段階のエビデンスレベルを用いて、データの統合を行った。主な結果は以下のとおり。・51件のメタ解析をレビューに含め、1件を除くすべてのリスク評価を行った。・各リスクの有意な増加は以下のとおりであった。 ●主な先天性奇形(メタ解析8件:SSRI、パロキセチン、fluoxetine) ●先天性心疾患(11件:パロキセチン、fluoxetine、セルトラリン) ●早産(8件) ●新生児の適応症状(8件) ●新生児遷延性肺高血圧症(3件)・分娩後出血の有意なリスク増加および、死産、運動発達障害、知的障害の有意なリスク増加については高いバイアスリスクで、限られたエビデンスが認められた(各々1件のみ)。・自然流産、胎児週数や出生時低体重による児の小ささ、呼吸困難、痙攣、摂食障害のリスク増加および、早期抗うつ薬曝露による自閉症のその後のリスク増加に関して、矛盾した不確実なエビデンスが確認された。・妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症のリスク増加および、ADHDのその後のリスク増加に関するエビデンスはみられなかった。・重度または再発性のうつ病の予防について、1件の限られたエビデンスのみで、抗うつ薬使用のベネフィットが評価されていた。・新生児の症状(小~大)を除きエフェクトサイズは小さかった。・結果の方法論的な質は低く(AMSTAR-2スコア:54.8±12.9%[19~81%])、バイアスリスク(とくに適応バイアス)が高いメタ解析に基づいていた。・修正された対象エリアは3.27%であり、重複はわずかであった。・妊娠中の抗うつ薬治療は、第2選択として用いられるべきであることが示唆された(ガイドラインに従い心理療法後に検討)。・ガイドラインを順守し、パロキセチンやfluoxetineの使用をとどまらせることで、主要な先天性奇形リスクを防ぐことが可能である。・今後の研究では、不均一性やバイアス減少のため、母体の精神疾患と抗うつ薬の投与量を調整し、曝露のタイミングで分析を実行することが求められる。

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小児および思春期の精神疾患に対する薬物治療反応の予測因子

 これまで、小児および思春期の精神疾患患者に対する薬物療法の治療反応の予測に関する研究は、十分に行われていなかった。慶應義塾大学の辻井 崇氏らは、米国国立精神衛生研究所(NIMH)によるサポートで実施された、小児および思春期の精神疾患患者を対象とした4つの二重盲検プラセボ対照試験のデータを分析し、薬物治療反応の予測因子の特定を試みた。その結果、小児および思春期の精神疾患患者に対する薬物療法の治療反応予測因子として、実薬による薬物療法の実施、女性、早期での改善が特定された。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2022年11月3日号の報告。 分析対象データは、不安症に対するセルトラリンおよびフルボキサミン治療、自閉スペクトラム症に対するリスペリドン治療、うつ病に対するfluoxetine治療を評価した4つの二重盲検プラセボ対照試験より抽出した。治療反応の定義は、エンドポイントでの臨床全般印象度の改善度(CGI-I)スコア1または2とした。治療反応と性別、診断、治療の割り付け、ベースライン時の臨床全般印象度の重症度(CGI-S)スコアとの関連を評価するため、ロジスティック回帰分析を用いた。さらに、1週目の早期改善(CGI-Iスコア3以下)は、2つの研究データを用いて、追加のバイナリロジスティック回帰分析により評価した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象の患者数は、599例であった。・バイナリロジスティック回帰分析では、治療反応と有意に関連していた因子は、実薬の使用(オッズ比[OR]:8.64、p<0.001)、女性(OR:1.89、p=0.002)であった。・追加のバイナリロジスティック回帰分析では、CGI-Iでの早期改善(OR:3.47、p=0.009)、実薬の使用(OR:15.05、p<0.001)、女性(OR:2.87、p=0.016)が、その後の治療反応と関連していた。

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Dr.平岩 動画で直伝 子どもの発達障害 外来診療の工夫

即実践できる、50テーマの疑問や困りごとへの回答発達障害が認知されるようになり、外来で子どもを診ている医師なら誰でも気になる子に遭遇するようになった。発達障害の第一人者 平岩幹男先生が、かかりつけ医に向けて、こだわり、忘れもの、ケンカ、偏食、学習障害、不登校など、困りごとを少しでも軽くする対応策を伝える。本書のポイントとして外来で子どもを診ている小児科医の疑問や困りごとを集めた50テーマ外来診療30のシチュエーションで言ってほしくないこと(Don’t say)代わりに言ってほしいこと(Say instead)を設け、具体的な言葉掛けを紹介平岩先生が作成・発信しているYouTube動画35本のQRコード付き(保護者への説明に最適)巻末に合理的配慮・学校への情報提供・意見書・診断書・申請書類の書き方例を収載専門家として親子と一緒に悩んだ経験から得た、外来での言葉掛け、保護者のサポート、福祉の利用は即実践できる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    Dr.平岩 動画で直伝 子どもの発達障害 外来診療の工夫定価4,400円(税込)判型A5判頁数256頁、写真・図・表:31点発行2022年11月著者平岩 幹男

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アジア人の小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの長期的な有用性

 韓国・Severance HospitalのByoung-Uk Kim氏らは、6~17歳のアジア人小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの長期的な改善効果と安全性を評価するため、本研究を実施した。その結果、アリピプラゾールは、小児期自閉スペクトラム症患者の問題行動や適応機能を改善し、その効果は治療開始から1年近くまで持続しており、忍容性も良好であることを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌2022年9月号の報告。 自閉スペクトラム症患者に対する12週間のアリピプラゾール治療の有効性および安全性を評価した先行研究の後に、52週間の非盲検フレキシブルドーズ(2~15mg/日)による延長試験を実施した。有効性の評価には、異常行動チェックリスト(ABC)、臨床全般印象度(CGI)、子供のYale-Brown強迫尺度(CY-BOCS)、Vineland適応行動尺度(VABS)、PSI育児ストレスインデックスショートフォーム(PSI-SF)を用いた。安全性および忍容性の評価には、有害事象、バイタルサイン、心電図検査、臨床検査、体重、錐体外路症状(EPS)を含めた。 主な結果は以下のとおり。・52週間の治療期間中に、ABC、CGI、CY-BOCS、VABS、PSI-SFのスコアを含むすべての有効性の改善が認められた。・安全性では、治療による有害事象(TEAE)を経験した患者の割合は、58.62%(58例中34例、75件)であった。・最も一般的なTEAEは、鼻咽頭炎20.69%(58例中15例)であり、発生率10%以上のTEAEは体重増加(18.97%、58例中11例)であった。・薬剤性副作用は27.59%(58例中16例、28件)で認められ、体重増加(15.52%、58例中9例)が最も多かった。・重篤な有害事象の発生率は5.17%(58例中3例、3件)で認められた。発現した骨端線離開、発作、自殺企図は、薬剤性の副作用ではなかった。・EPSの評価においては、臨床的に有意な変化は観察されなかった。

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自閉スペクトラム症から総合失調症への進展

 これまでの研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の小児は、その後の人生において統合失調症の発症リスクが高いことが示唆されている。台湾・高雄栄民総医院のTien-Wei Hsu氏らは、ASDにおける診断の安定性および統合失調症への進展に対する潜在的な予測因子について調査を行った。その結果、統合失調症と診断されたASD患者の3分の2以上が、ASD診断から最初の3年間で進展しており、人口統計学的特徴、身体的および精神的な併存疾患、精神疾患の家族歴が、進展の重要な予測因子であることが示唆された。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2022年9月3日号の報告。 対象は、2001~10年にASDと診断された青年(10~19歳)および若年成人(20~29歳)の患者1万1,170例。統合失調症の新規診断患者を特定するため、2011年末までフォローアップ調査を実施した。統合失調症への進展およびその予測因子を推定するため、時間のスケールとして年齢を用いたカプランマイヤー法およびCox回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・10年間のフォローアップ調査におけるASDから統合失調症への進展率は10.26%であった。・統合失調症と診断された860例中580例(67.44%)は、ASDと診断されてから3年以内に統合失調症と診断されていた。・特定された予測因子は以下のとおりであった。 ●年齢(ハザード比[HR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.11~1.15) ●抑うつ症状(HR:1.36、95%CI:1.09~1.69) ●アルコール使用障害(HR:3.05、95%CI:2.14~4.35) ●物質使用障害(HR:1.91、95%CI:1.18~3.09) ●パーソナリティ障害クラスターA群(HR:2.95、95%CI:1.79~4.84) ●パーソナリティ障害クラスターB群(HR:1.86、95%CI:1.05~3.28) ●統合失調症の家族歴(HR:2.12、95%CI:1.65~2.74)

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自閉スペクトラム症の感情調整や過敏性に対する薬理学的介入の有効性~メタ解析

 感情調節不全や過敏性は、自閉スペクトラム症(ASD)でよくみられる症状である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのGonzalo Salazar de Pablo氏らは、ASDの感情調節不全や過敏性に対する薬理学的介入の有効性および治療反応の予測因子を評価する、初めてのメタ解析を実施した。その結果、いくつかの薬理学的介入(とくにアリピプラゾールとリスペリドン)は、ASD患者の感情調節不全や過敏性の短期的治療に有効であることが証明されており、忍容性プロファイルと家族の考えなども考慮し、複数の形式による治療を計画するうえで検討すべきであると報告した。Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry誌オンライン版2022年4月22日号の報告。 プロトコルに従い、複数のデータベースより2021年1月1日までの研究をシステマティックに検索した。プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を抽出し、感情調節不全や過敏性に対する薬理学的介入の有効性および治療反応の予測因子を評価した。Q検定を用いた不均一性および出版バイアスを評価した。主要エフェクトサイズは、標準化平均差(SMD)とした。研究の質の評価には、コクランのバイアスリスクツール(RoB2)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・ASD患者2,856例を含む45件の研究が分析に含まれた。26.7%のRCTは、バイアスリスクが高かった。・抗精神病薬(SMD:1.028、95%CI:0.824~1.232)およびADHDに適応を有する薬物療法(SMD:0.471、95%CI:0.061~0.881)は、プラセボと比較し、感情調節不全や過敏性に対し有意な改善が認められたが、他の薬剤クラスでは認められなかった(p>0.05)。・各薬剤についての評価では、アリピプラゾール(SMD:1.179、95%CI:0.838~1.520)とリスペリドン(SMD:1.074、95%CI:0.818~1.331)の有効性が示唆された。・てんかん発症率の増加(β=-0.049、p=0.026)は、有効性の低下と関連していた。

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小児自閉スペクトラム症に対するリスペリドンとアリピプラゾール~システマティックレビュー

 アルゼンチン・Instituto Universitario Hospital Italiano de Buenos AiresのCecilia Fieiras氏らは、小児自閉スペクトラム症(ASD)に対するリスペリドンおよびアリピプラゾールの有効性と安全性を評価するため、システマティックレビューのオーバーレビューを実施した。その結果、アリピプラゾールおよびリスペリドンは、短期的なフォローアップにおいて、ASD症状の重症度を改善する可能性があるものの、有害事象に対して注意が必要であることが示された。BMJ Evidence-Based Medicine誌オンライン版2022年1月31日号の報告。 2021年10月までに公表された研究を、言語や発行日を制限することなくCochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Embase、PsycInfo、Epistemonikosより検索した。対象研究は、12歳以下のASD患児を対象にリスペリドンおよびアリピプラゾールによる治療(投与量の制限なし)を検討した研究。含まれたシステマティックレビューはAMSTAR 2を用いて方法論的質を評価し、研究実施者が行った分析に従いGRADEシステムによるエビデンスの確実性を分析に含めた。専門家グループが合意した中核および非中核のASD症状に影響を及ぼす9つの重要なアウトカムについて評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・22件のシステマティックレビューが特定されたが、その内16件はAMSTAR 2による信頼性が非常に低く、分析対象から除外した。・アリピプラゾールおよびリスペリドンは、プラセボと比較し、症状重症度、反復行動、不適切な言葉遣い、社会的引きこもり、行動上の問題に対する有効性が認められた。・ほとんどのアウトカムに関するエビデンスの確実性は、中程度であった。・リスペリドンおよびアリピプラゾールは、代謝性および神経学的有害事象との関連が認められた。・フォローアップ期間は、短期的であった。

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そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 3

そもそもなんで家庭環境の影響が少ないの?子育ての正解は、厳し過ぎず、自由過ぎず、ほどほどに子育てをする自律的な子育てであることが分かりました。そして、その行動遺伝学的な根拠として、家庭環境の影響が、非認知能力にはほぼなく、認知能力には限定的であることをご説明しました。それでは、そもそもなぜ家庭環境の影響が少ないのでしょうか? ここで、能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説を立てます。そして、この仮説のもと、家庭環境の影響が少ない原因を、進化心理学的に3段階に分けて掘り下げてみましょう。(1)非認知能力はとても古くからあるから約5億年前に魚類が誕生し、有性生殖をするように進化しました。この生殖本能は、セックスをする「能力」と言い換えることができます。そして、その能力は、性欲として、食欲と並び、最も嗜癖性が強いと言えます。約3億年前に哺乳類が誕生し、親が哺乳行動(育児行動)を、そして子どもが愛着行動をするように進化しました。この育児と愛着の習性も、育児をする「能力」と親に愛着を持つ「能力」と言い換えることができます。そして、これらの能力も、かなり嗜癖性が強いと言えます。この詳細については、関連記事4をご覧ください。約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に家族をつくり、さらにその血縁から部族を作るようになりました。この時、狩りや子育てのために部族の中でお互いに協力し合うように進化しました(社会脳)。たとえば、それは、周りの人と心を通わせる力こと(共感性)、周りの人に対して自分を落ち着かせること(セルフコントロール)、そして周りの人とうまくやっていくために自分で考えて行動すること(自発性)です。これが、非認知能力の起源です。逆に言えば、それ以前の人類やそのほかの動物は、車に例えると、この向社会性というナビゲーションがなく、単純なアクセルである快感と単純なブレーキである恐怖だけで行動しており、非認知能力があるとは言えないでしょう。なお、社会脳のメカニズムの詳細については、関連記事5をご覧ください。1つ目の段階として、家庭環境の影響が非認知能力にほぼない原因は、セックス、育児、愛着ほどではないにしても、この能力がとても古くからあるからであることが考えられます。人類の最も古い能力の1つであり、その分、とても癖になりやすい(嗜癖性が強い)と言えるでしょう。そして、敏感に反応してしまうからこそ(遺伝形質が発現しやすいからこそ)、家庭環境の刺激の程度に違いがあっても、つまりどの親の関わりによっても、変わらない能力であると言えます。結果的に、家庭環境の影響に違いが出ず、影響度はほぼ0になってしまうのです。つまり、嗜癖性が強いものは、家庭環境の影響が入り込む余地がないと言えるでしょう。(2)言語的コミュニケーション能力は比較的最近に出てきたから約20万年前に現生人類が誕生して、喉の構造が変化して、複雑な発声ができるようになりました。この時、言葉を使う脳が進化しました。これが、言語的コミュニケーション能力の起源です。言語的コミュニケーション能力とは、発音、語彙の数、文法的な正確さなどの基本的な会話力であり、認知能力の基礎と言えます。この能力に限定した検査は、ウェクスラー式知能検査の下位項目の単語・類似・理解、京大NX知能検査の下位項目の単語完成・類似反対語・文章完成、日本語能力試験の下位項目の聴解などが挙げられます。しかし、現時点で、これらの検査の下位項目に限定した行動遺伝学的な研究は見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。そこで、語学力(外国語の才能)で代用します。そうするのは、語学力は、日本語における方言と標準語、タメ語と敬語の使い分けの延長とも捉えられ、言語的コミュニケーション能力の1つと考えられるからです。語学力においての遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、50%:23%:27%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響が20%強と出てきます。2つ目の段階として、家庭環境の影響が言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)にややあると考えられる原因は、この能力が比較的最近に出てきたからです。その分、やや癖になりにくい(嗜癖性が弱い)と言えるでしょう。非認知能力ほど敏感に反応する訳ではないので(遺伝形質がやや発現しにくいので)、言語環境(家庭環境)の刺激の程度に違いがあると、つまり親によって曝される言葉の数や質の違いによって、変わってしまう能力であると言えます。逆に言えば、言語環境が同じ家庭内では、言語的コミュニケーション能力が似ていく、つまり同じレベルになっていくと言えます。結果的に、家庭環境の影響に違いが出て、影響度が20%程度となってしまうのです。実際に、この嗜癖性の弱さは、語学力に7歳という臨界期がある点でも説明することができます。つまり、年齢とともに嗜癖性が弱くなっていくものは、家庭環境の影響が入り込む余地が出てくると言えるでしょう。たとえば、それが、親から伝えられる方言、敬語、外国語などの語彙の数や表現の仕方なのです。ちなみに、コミュニケーション能力には、この言語的コミュニケーション能力のほかに、準言語的コミュニケーション能力と非言語的コミュニケーション能力があります。これら3つは、それぞれ順に、言葉そのものの言語情報、声のトーンなどの聴覚情報、表情などの視覚情報に言い換えられます。これらの能力についての行動遺伝学的な研究は現時点で見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。その代わりに、これらの心理的な影響度は、7%、38%、55%であるという実験結果があります(メラビアンの法則)。この影響度を、情報媒体としてより選ばれる、より好まれる、つまり嗜癖性が強いと解釈すると、この3つの能力の出現の順番は、非言語的→準言語的→言語的であることが推定できます。なお、メラビアンの法則の詳細については、関連記事6をご覧ください。(3)言語理解能力は最も最近に出てきたから約10万年前に現生人類は貝の首飾りを信頼の証にするなどシンボルを使うようになりました。この時、言葉によって抽象的に考えるようになりました。これが、概念化、つまり言語理解能力の起源です。さらに、約5千年前に、文字が発明されました。これが、読み書き、つまり学習能力の起源です。言語理解能力(京大NX知能検査の言語性知能)においての遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、14%:58%:28%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響が60%弱とかなり高まっています。3つ目の段階として、家庭環境の影響が言語理解能力にかなりある原因は、この能力が最も最近に出てきたからです。その分、とても癖になりにくい(嗜癖性がほとんどない)と言えるでしょう。あまり敏感に反応しないので(遺伝形質がとても発現しにくいので)、学習環境(家庭環境)の刺激の程度に違いがあると、つまり親の関わり(家庭学習)の程度の違いによって、かなり変わってしまう能力であると言えます。結果的に、家庭環境の影響に大きな違いが出て、影響度が60%程度となってしまうのです。ただし、先ほどの知能指数(IQ)においての家庭環境の影響度の変化でもご説明しましたが、この数値が高いのは一時的なもので、年齢とともに下がっていきます。つまり、嗜癖性がもともとほとんどないものは、家庭環境の影響が入り込む余地がかなりあると言えるでしょう。たとえば、それが、先ほどにもご説明した、本がたくさんある家庭環境なのです。なお、言語理解は、認知能力の1つです。認知能力を代表する知能指数(IQ)には、言語理解のほかに、ワーキングメモリー、知覚推理、処理速度があります。ほかの3つについての家庭環境の影響度は、どれも0%であることが分かっています。結果的に、知能指数(IQ)においての家庭環境の影響度は、トータルで評価されて、先ほど示した数値である約30%になってしまうのです。また、このことから、ワーキングメモリー、知覚推理、処理速度の3つの能力は、言葉が生まれる前に出現していたことが推定できます。そもそも、これらの能力は、視覚情報を介しており、言葉(聴覚情報)を介する必要がないです。たとえば、言葉が生まれる前の原始の時代を想像すると、人類は襲ってくる猛獣から身を交わしつつ、仲間と息を合わせて威嚇しつつ、自分の子どもを守りつつ、逃げ道を探したでしょう。これは、同時並行で作業を記憶するワーキングメモリーです。人類は、獲物を追いかけるために、野山を延々と駆け抜けたあと、道に迷わずに部族の集落に帰ってきたでしょう。これは、二次元の図形や三次元の立体を頭の中で思い描いて自在に回転するメンタルローテーション(知覚推理)です。ところで、知能指数(IQ)においての成人初期の家庭環境の影響度は、日本では約20%にとどまってしまうのに対して、欧米ではほぼ0%でなくなってしまうことが分かっています。これは、欧米人と比べて、日本人は成人しても実家暮らしが多いことが原因になっている可能性が指摘されています。しかし、嗜癖性の観点で考えると、欧米の言語よりも日本語のほうが難解であることが原因になっている可能性も指摘できます。なぜなら、それだけ学習に労力がかかり、嗜癖性がさらに弱くなるので、家庭環境の影響が残ってしまうからです。ちなみに、絶対音感(音楽の才能)や絵心(美術の才能)についても、家庭環境の影響度は0%であることが分かっています。このことから、これらの能力(才能)も、言葉が生まれる前に出現していたことが推定できます。とくに、音楽については、リズムやトーンが共通する点で、準言語的コミュニケーション能力と同時期に出現していた可能性が考えられるでしょう。そう考えると、準言語的、そして非言語的コミュニケーション能力は、音楽と同じく、言葉が生まれる前に出現しているため、家庭環境の影響は0%であることが推定できます。じゃあなんであの2つは家庭環境の影響があるのに癖になりやすいの?能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説は、非認知能力(正確には性格と自尊心)、言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)、言語理解能力の順番に、家庭環境の影響度が出てきて増えている点が傍証になりそうです。今後、厳密な意味での非認知能力や言語的コミュニケーション能力についての家庭環境の影響度の研究が望まれます。この仮説のもと、嗜癖性が弱い能力は、それだけ新しく出てきたものであり、家庭環境の影響が出てくることが分かりました。しかし、嗜癖性が強いのに家庭環境の影響が出ている心理的・行動的形質が、実は2つあります。それが、先ほど放任的な家庭環境のリスクでご説明した、素行の悪さ(反社会的行動)と嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)です。ここから、この2つの形質に家庭環境の影響がある原因を、「能力」という視点で、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。(1)素行の悪さという「能力」を文化的に発現させないようになったから約300万年前に人類は部族社会をつくり、助け合うようになりましたが、やはり飢餓の時は生き残るために奪い合いになります。そう切り替えられる種が、生存の適応度を上げるでしょう。つまり、助け合う能力と同時に出し抜く「能力」が進化したのでした。これが、反社会的行動の起源です。これは、同じ時期に出現した非認知能力と同じくらい嗜癖性が強いと言えるでしょう。数万年前に、部族同士の交流が盛んになり、反社会的行動が増えていきました。その抑止のために、獲物を仕留める飛び道具を武器として人に向けて威嚇する治安隊が生まれました。これが、警察の起源です。こうして、反社会的行動が、文化的に禁じられ、罰せられるようになりました。素行の悪さ(反社会的行動)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、もともとあったその「能力」を文化的に発現させないようになったからです。言語的コミュニケーション能力や言語理解能力のようにその能力を家庭環境によって促進するのではなく、逆に、反社会的行動という「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。たとえば、それが、野々宮家のようなしつけ(禁止行為の学習)です。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に素行の悪さという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が20%程度出てしまうのです。なお、反社会的行動の起源の詳細については、関連記事7をご覧ください。(2)嗜好品へのハマりやすさという「能力」を文化的に発現させないようになったからアルコールの製造は約1万年前、大麻は約5千年前、タバコは7世紀頃であると考えられており、比較的に最近です。当たり前の話ですが、これらの嗜好品は、ハマるように人工的に造られたため、ハマる(嗜癖性が強い)のです。嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、そのハマる「能力」を文化的に発現させないようになったからです。反社会的行動と同じように、嗜好品にハマる「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。たとえば、それが、野々宮家のようにコーラ(カフェイン)禁止、ゲームの時間制限などの家庭のルールです。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に嗜好品へのハマりやすさという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が15~30%程度出てしまうのです。たくさん本が目の前にある家庭環境が言語理解能力を促進するのと同じように、たくさんの嗜好品が目の前にある家庭環境はそれらにハマる「能力」を促進してしまうという訳です。なお、アルコール依存症の起源の詳細については、関連記事8をご覧ください。ちなみに、嗜好品ではないですが、嗜癖行動として、ギャンブルが挙げられます。この家庭環境の影響度は、嗜好品と同じように考えれば、ある程度の%があっても良さそうですが、0%であることが分かっています。この訳は、確かに、ギャンブルは、狩りをする能力(ギャンブル脳)として、太古の昔からすべての動物がやってきたことであり、嗜癖性が強いです。しかし、アルコールやタバコと違って家庭内に入り込むことが難しいため、結果的に家庭環境の影響が出なくなっています。もちろん、成人してから実際にパチンコ店に行くという家庭外環境によって刺激が繰り返されると、ハマる「能力」が発現するでしょう。なお、ギャンブルの起源の詳細については、関連記事9をご覧ください。ただし、昨今広がっているギャンブル性の高いゲームは別です。現時点で、これについての行動遺伝学的な研究は見たありません。家庭内に入り込むことができるギャンブルとして、ゲームは家庭環境の影響が出ることが推測できます。なお、ゲーム依存症の詳細については、関連記事10をご覧ください。癖になりにくいのに家庭環境の影響がある困った「能力」とは? その原因は?家庭環境とは、現代社会に望ましいながらも癖になりにくい(嗜癖性が弱い)能力を促進する文化的な「アゴニスト」(刺激薬)であると同時に、現代社会に望ましくないながらも癖になりやすい(嗜癖性が強い)「能力」を抑制する文化的な「アンタゴニスト」(遮断薬)であることが分かりました。ところが、現代社会に望ましくなく、癖にもなりにくいのに、家庭環境の影響が出てしまう、ある「能力」が例外的にあります。それは、統合失調症という心の病です。この遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、81%:11%:8%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響度が10%強と少ないながらあります。これは、なぜしょうか? その原因を、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。統合失調症の主症状は、幻聴と被害妄想です。このことから、その起源、つまり統合失調症という「能力」が完成したのは、言葉でコミュニケーションをして抽象的に考えるようになった約10万年前であることが推定されます。つまり、統合失調症は、言語理解能力と同じく、新しく出てきた「能力」であるため、嗜癖性は弱いことが分かります。当時から、幻聴は「神のお告げ」として、被害妄想は「神通力」として受け止められ、彼らは社会に溶け込んでいたでしょう。ところが、18世紀の産業革命によって合理主義や個人主義が世の中に広がっていきました。この価値観によって、その後、この「能力」は病としてネガティブに受け止められるようになりました。つまり、統合失調症は、現代社会で望ましくない「能力」になってしまいました。ここで、統合失調症の発症に影響を与える家庭環境が浮き彫りになってきます。それは、合理主義的ではない、個人主義的ではない親の関わりです。これが、10%強の家庭環境の影響度の正体であることが考えられます。たとえば、それは、信心深さ、スピリチュアリズム、勘ぐりの激しさなどの合理主義的ではない関わりでしょう。また、過保護、過干渉、巻き込み、バウンダリー(心理的距離)のなさなどの個人主義的ではない関わりでしょう。実際に、再発の研究においては、家族による高い感情表出が危険因子として挙げられています。つまり、統合失調症において家庭環境の影響が出てしまう原因は、このような親の関わりほうが文化的に制限されるまでに至っていないからでしょう。なお、統合失調症の起源の詳細については、関連記事11をご覧ください。ちなみに、統合失調症以外の精神障害については、家庭環境の影響が基本的に0%になっています。このことから、統合失調症以外のほとんどの精神障害は、統合失調症が出現する10万年前よりも以前にすでに出現していたことが推定できます。たとえば、自閉症は、男性に多く見られるシステム化という能力の遺伝形質を多く遺伝したため、その効果が強く出た結果と言えるでしょう。自閉症の起源の詳細については、関連記事12をご覧ください。ADHDは、瞬発力(衝動性)という「能力」の遺伝形質が強く出た結果と言えるでしょう。ADHDの起源の詳細については、関連記事13をご覧ください。うつ病は、周りからの援助行動を引き出す「能力」の遺伝形質が強く出た結果と言えるでしょう。うつ病の起源の詳細については、関連記事14をご覧ください。結局、家庭環境って何なの?結局のところ、家庭環境の影響とは、必ずしも親の関わりの単純な程度でなく、親の関わりへの子どものそれぞれの能力の反応の鈍さであったり、逆に鋭さであったりする訳です。そして、反社会的行動と物質依存を除くと、家庭環境の影響度の大きさの違いから、その能力がいつ出現したかがだいたい分かってしまうという訳です。そう考えると、家庭環境は、もはや純粋に家庭環境とは呼べないかもしれません。行動遺伝学においての家庭環境(共有環境)か家庭外環境(非共有環境)かの線引きは、家庭の内か外かという単純な家庭の問題を超えて、どちらにしてもその環境の影響に反応しやすいかどうかという子どもの能力の嗜癖性の問題でもあることが分かります。進化の歴史の中で、そんな能力の嗜癖性を高めてきた私たちの心は、まさに「癖になる脳」、“addictive brain”と言えるのではないでしょうか?1)日本人の9割が知らない遺伝の真実:安藤寿康、SB新書、20162)遺伝マインド:安藤寿康、有斐閣、20113)認知能力と学習 ふたご研究シリーズ1:安藤寿康、創元社、20214)家庭環境と行動発達 ふたご研究シリーズ3:安藤寿康ほか、創元社、20215)そして父になる 映画ノベライズ:是枝裕和、宝島社文庫、2013<< 前のページへ■関連記事酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1そして父になる(その1)【もしも自分の子じゃなかったら!?(親子観)】Part 2インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 3万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 3酔いがさめたら、うちに帰ろう。(後編)【アルコール依存症】「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】レディ・プレーヤー1【なぜゲームをやめられないの?どうなるの?(ゲーム依存症)】絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】ガリレオ【システム化、共感性】ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】ツレがうつになりまして。【うつ病】

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カレには言えない私のケイカク【結婚をすっ飛ばして子どもが欲しい!?そのメリットとリスクは?(生殖戦略)】Part 2

結婚しないで子どもを持つリスクは?結婚しないで子どもを持つメリットは、結婚というハードルがなくなる、結婚生活を維持する負担がなくなる、自分の思い通りの子育てができるということであることが分かりました。それでは、そのリスクは何でしょう? 大きく3つ挙げてみましょう。(1)子育てへのサポートが脆弱になるゾーイとスタンは、すったもんだの末、一緒に暮らすようになります。そして、スタンは、精子バンクによって生まれてきた双子の育児を献身的にするのです。もしも、スタンがいなかったら、ゾーイはいきなり自分だけで双子の育児をすることができるでしょうか?1つ目のリスクは、子育てへのサポートが脆弱になることです。これは、身体的にだけでなく、経済的に、そして心理的にもです。もしも、タイミング悪く、自分が病気を患ったらどうしましょうか? 仕事の収入が不安定になったら、どうしましょうか? そして、子どもに障害が見つかったら、どうしましょうか? これらの起こりうる事態をあらかじめシミュレーションする必要があります。(2)子どもを私物化してしまう産婦人科病院で、ゾーイは、産婦人科医から「あなたとCRM-1014(精子が入った容器に記載された登録番号)の間には素敵な赤ちゃんができますよ」と励まされます。この産婦人科医は、まったく悪気はないのでしょうが、私たちには命がモノ扱いにされているように感じてしまいます。この映画では描かれていませんでしたが、その後に妊娠したゾーイは、スタンとの恋愛を最優先して、黙って中絶する選択肢だってありえるわけです。2つ目のリスクは、子どもを私物化してしまうことです。実際に、精子バンクのホームページでは、精子ドナーの身長、体重、血液型、人種、肌や目の色、髪の色や髪質、IQ、学歴、職業などがすべてカタログ化され、値段が付いています。あたかも商品のようです。これは、生まれる前だけでなく、生まれた後もです。たとえば、子どもに障害が見つかったら、どうなるでしょうか? 実際に、海外では、ある同じドナー精子によって生まれた子どもたち(ドナー兄弟)が、高い確率で自閉症を発症していたため、精子バンクが訴訟を起こされたというケースもあります。これは、「注文したのと違う」「不良品だ」「返品したい」という発想になってしまう危うさがあります。そして、これは、虐待のリスクでもあります。また、自分だけが子育てを独り占めできるということは、その子育てが独りよがりになる危うさがあります。子育てについて夫婦で話し合いをしなくて済むメリットの裏返しのリスクです。これは、毒親になるリスクでもあります。なお、毒親の心理の詳細については、関連記事1をご覧ください。(3)子どものアイデンティティが揺らぐスタンは、生まれてきた双子の育ての父親になりました。この双子は、スタンを実の父親と思うでしょう。しかし、テリング(真実告知)をすれば、どうなるでしょうか? 彼らは、思春期になったら、生みの父親を知りたくなります。そして、分からない場合は、どうなるでしょうか?3つ目は、子どものアイデンティティが揺らぐことです。思春期になると、より抽象的な思考ができるようになります。そして、自分のルーツや自分らしさなど、自分探しをするようになります。アイデンティティの確立です。この時、精子バンクによって生まれた子どもは、「お金で買ったモノから生まれた」というレッテルを払いぬぐうために、精子ドナー探しをするようになります。実際に、精子ドナーの身元を明らかにすることは、子どもの人権(出自を知る権利)として、すでにいくつかの先進国では制度化しており、日本でも制度化しようとする動きがあります。さらに、その子どもが生みの父親を知り、その認知を求めることは現実的にありえます。これは、精子ドナーの死後に、遺産相続のトラブルを引き起こす可能性があるということです。これを回避するためには、精子ドナーを独身主義(非婚)の人に限定する必要があるでしょう。選択的シングルマザーがうまく行くにはどうすればいいの?結婚しないで子ども持つリスクは、子育てへのサポートが脆弱になる、子どもを私物化してしまう、子どものアイデンティティが揺らぐことであることが分かりました。それでは、これらのリスクを踏まえて、選択的シングルマザーがうまく行くにはどうすれば良いでしょうか? 主に3つのサポートが挙げられます。(1)実父母からのサポート1つ目は、実父母からのサポートです。たとえば、近くに住むか同居して、定期的にも臨時的にも子育ての身体的な負担を肩代わりしてもらうことを確約することです。いざというときは、経済的なサポートをしてもらうことです。もともと、日本では里帰り出産や離婚後に出戻りをする文化があるので、実父母からの抵抗は少ないでしょう。これは、子育てのサポートが脆弱になるリスクを減らします。また、結果的に、実父母が子育てに介入することになるので、子どもを私物化してしまうリスクを減らすこともできるでしょう。(2)ピアサポートゾーイが参加したシングルママの会では、自助グループとして、シングルマザーたちだけが、励まし合ったり、時には出産に立ち会うなど、お互いに助け合っています。2つ目は、仲間からのサポート、つまりピアサポートのことです。これは、自分に仲間ができることで、心理的な安心感が得られることです。心理的な面での子育てのサポートが脆弱になるリスクを減らします。海外ではすでに大きな団体がありますが、日本では小規模な交流会などがあるようです。(3)ソーシャルサポート3つ目は、社会制度としてのサポート、つまりソーシャルサポートです。残念ながら、現時点では、海外の先進国に比べて、日本の子育て支援は極めて限られています。とくに、シングルマザーの貧困は社会問題になっています。これが、少子化対策として、海外から遅れを取っている原因であると指摘されています。少子化対策のためにも、子育て支援を拡充することが望まれます。たとえば、妊娠・出産、保育、義務教育、医療など、成人までかかる子育ての費用をほぼ無償にすることです。そして、児童手当は、家計が潤うくらいのインセンティブをつけることです。子育ても1つの労働と考えれば、当然のことと言えます。これは、結果的に、選択的シングルマザーの子育てへのサポートが脆弱になるリスクも減らすでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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日本の小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対するアリピプラゾールの52週間市販後調査結果

 大塚製薬のYuna Sugimoto氏らは、日本の実臨床現場における小児自閉スペクトラム症(ASD)患者の易刺激性に対するアリピプラゾールの安全性および有効性について、市販後調査のデータを用いて評価した。BMC Psychiatry誌2021年4月22日号の報告。 本市販後調査は、52週間の多施設プロスペクティブ非介入観察研究として実施された。6~17歳のASD患者に対し、実臨床下でアリピプラゾール1~15mg/日を投与した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者510例におけるアリピプラゾールの治療継続率は、168日(24週)目で84.6%、364日(52週)目で78.1%であった。・副作用が認められた患者は、116例(22.7%)であり、主な副作用は、傾眠(9.4%)、体重増加(3.3%)であった。・4週目における異常行動チェックリスト日本語版(ABC-J)の過敏症サブスケールスコアのベースラインからの変化量は-5.7±6.8(288例)であった。・重回帰分析では、注意欠如多動症の症状を併発した患者においても、エンドポイントのABC-J過敏症サブスケールスコアに影響は認められなかった。・24週目における子供の強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ)の総合的困難さスコアのベースラインからの変化量は-3.3±4.9(215例)、SDQの向社会的な行動スコアのベースラインからの変化量は0.6±1.7(217例)であった。 著者らは「実臨床下において、日本人小児ASD患者の易刺激性に対するアリピプラゾール治療は、長期的に忍容性が高く、有効な治療法であることが示唆された」としている。

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