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帯状疱疹ワクチンは心臓病、認知症、死亡リスクの低減にも有効

 帯状疱疹ワクチンは中年や高齢者を厄介な発疹から守るだけではないようだ。新たな研究で、このワクチンは心臓病、認知症、死亡のリスクも低下させる可能性が示された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の内科医であるAli Dehghani氏らによるこの研究結果は、米国感染症学会年次総会(IDWeek 2025、10月19〜22日、米アトランタ)で発表された。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国では3人に1人が帯状疱疹に罹患することから、現在、50歳以上の成人には帯状疱疹ワクチンの2回接種が推奨されている。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の既往歴がある人に発症するが、CDCは、ワクチン接種に当たり水痘罹患歴を確認する必要はないとしている。1980年以前に生まれた米国人の99%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているからだ。 水痘・帯状疱疹ウイルスは、数十年間にわたって人の免疫システム内に潜伏し、その後、再び活性化して帯状疱疹と呼ばれる痛みやチクチク感、痒みを伴う発疹を引き起こす。水痘への罹患経験がある人なら年齢を問わず帯状疱疹を発症する可能性があるが、通常は、ストレスにさらされ、免疫力が低下している50歳以上の人に多く発症する。 Dehghani氏らは、米国の107の医療システムから収集した17万4,000人以上の成人の健康記録を分析し、帯状疱疹ワクチン接種者の健康アウトカムをワクチン非接種者のアウトカムと比較した。ワクチン接種者は接種後3カ月〜7年間追跡された。 その結果、帯状疱疹ワクチンの接種により、以下の効果が得られる可能性が示された。・血流障害による認知症のリスクが50%低下・血栓のリスクが27%低下・心筋梗塞や脳卒中のリスクが25%低下・死亡リスクが21%低下 Dehghani氏は、「帯状疱疹は単なる発疹ではない。心臓や脳に深刻な問題を引き起こすリスクを高める可能性がある。われわれの研究結果は、帯状疱疹ワクチンが、特に心筋梗塞や脳卒中のリスクがすでに高い人において、それらのリスクを低下させる可能性があることを示している」とニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究でも、帯状疱疹への罹患が心臓や脳の合併症を引き起こす可能性のあることが指摘されているという。専門家は、この新たな知見は、帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹そのものだけでなく、それらの合併症の予防にも役立つ可能性があることを示唆しているとの見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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肝疾患患者の「フレイル」、独立した予後因子としての意義

 慢性肝疾患(CLD)は、肝炎ウイルス感染や脂肪肝、アルコール性肝障害などが原因で肝機能が徐々に低下する疾患で、進行すると肝硬変や肝不全に至るリスクがある。今回、こうした患者におけるフレイルの臨床的意義を検討した日本の多機関共同後ろ向き観察研究で、フレイルが独立した予後不良因子であることが示された。研究は、岐阜大学医学部附属病院消化器内科の宇野女慎二氏、三輪貴生氏らによるもので、詳細は9月20日付けで「Hepatology Reseach」に掲載された。 CLDは進行すると予後不良となることが多く、非代償性肝硬変患者では5年生存率が約45%と報告されている。このため、将来的な疾患進行や合併症のリスクを減らすには、高リスク患者の早期特定が重要である。一方、最近の研究では、フレイルもCLD患者の予後に影響する独立因子であることが示されており、肝機能だけでなく身体全体の脆弱性を考慮した評価の重要性が指摘されている。Clinical Frailty Scale(CFS)は2005年に開発され、米国肝臓学会もCLD患者のフレイル同定に推奨する評価ツールであるが、これまで日本人CLD患者においてCFSを用いた評価は行われておらず、その臨床的意義は明らかでなかった。こうした背景から、著者らはCFSを用いて日本人CLD患者のフレイルの有病率、臨床的特徴、ならびに予後への影響を明らかにすることを目的とした。 本研究では、2004年3月~2023年12月の間に岐阜大学医学部附属病院、中濃厚生病院、名古屋セントラル病院に入院した成人CLD患者とした。CFSスコアは、入院当日の情報に基づき、併存疾患、日常生活動作、転倒リスクに関する質問票を後ろ向きに評価し、スコアが5以上(CFS 5~9)の場合をフレイルと定義した。本研究の主要評価項目は全死亡とした。群間比較には、カテゴリ変数に対してはカイ二乗検定、連続変数に対してはマン・ホイットニーU検定を用いた。生存曲線はカプラン-マイヤー法で推定し、群間差はログランク検定で比較した。フレイルが死亡に与える予後影響はCox比例ハザードモデルで評価し、結果はハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)で示した。フレイルと関連する因子は多変量ロジスティック回帰モデルで解析した。 最終的に、本研究には715人のCLD患者(中央値年齢67歳、男性49.5%)が含まれた。最も多かった病因はウイルス性(38.7%)であり、続いてアルコール性(22.2%)、代謝機能障害関連(9.5%)であった。Child-Pugh分類およびModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアの中央値はそれぞれ7と9であり、CFSスコアの中央値は3であった。これらの患者のうち、フレイルは137人(19.2%)に認められた。フレイル患者のCFSスコア中央値は6であり、年齢が高く、BMIが低く、肝予備能も低い傾向にあった。 中央値2.9年の追跡期間中に221人(28.0%)が肝不全などで死亡した。フレイル患者は、非フレイル患者に比べて有意に生存期間が短かった(中央値生存期間:2.4年 vs. 10.6年、P<0.001)。多変量Cox比例ハザード解析の結果、フレイルはCLD患者における独立した予後不良因子であることが示された(HR:1.75、95%CI:1.25~2.45、P=0.001)。 また、フレイルの決定因子に関して、多変量ロジスティック回帰解析をおこなったところ、高齢、肝性脳症、低アルブミン血症、血小板減少、国際標準比(INR)の延長がフレイルと関連していることが示された。さらにフレイルの有病率はChild-Pugh分類の悪化とともに有意に増加し、Child-Pugh A群では4%、B群では22%、C群では55%の患者にフレイルが認められた。 著者らは、「本研究から、CLD患者ではフレイルが高頻度に認められ、独立した予後不良因子としての役割を持つことが示された。予後への影響を考慮すると、CLD患者ではフレイルを日常的に評価し、転帰改善を目的とした介入を検討することが望ましい」と述べている。

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第35回 コロナワクチンが「がん治療」の効果を劇的に向上させる可能性

がん治療の切り札として登場した「免疫チェックポイント阻害薬」は、多くの患者さんの命を救う一方で、すべての人に効果があるわけではありません。とくに、免疫細胞ががんを敵として認識していない「冷たいがん」と呼ばれるタイプの腫瘍には効果が薄いことが、大きな課題でした。しかし、この状況を一変させるかもしれない驚くべき研究結果が、Nature誌に発表されました1)。なんと、私たちが新型コロナウイルス対策で接種したmRNAワクチンが、がん細胞を標的とするものではないにもかかわらず、がんを免疫チェックポイント阻害薬に反応しやすい「熱いがん」に変え、治療効果を劇的に高める可能性が示されたのです。ワクチン接種と生存期間の延長が関連この研究では、米国のがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターの臨床データが分析されています。研究チームは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の患者さんで、免疫チェックポイント阻害薬を開始する前後100日以内にコロナのmRNAワクチンを接種したグループと、接種しなかったグループの予後を比較しました。すると、非小細胞肺がんの患者さんを比較したところ、ワクチンを接種したグループの3年生存率が55.7%であったのに対し、未接種のグループでは30.8%と、明らかな差がみられました。同様の生存率の改善は、メラノーマの患者でも確認されました。この効果は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを免疫チェックポイント阻害薬の前後で接種した患者さんではみられませんでした。このことは、観察された生存率の改善が、単に「ワクチンを接種する」という行為や、健康意識の高さだけによるものではなく、mRNAワクチンが持つ特有の強力な免疫反応によって引き起こされている可能性を示唆しています。なぜコロナワクチンががんに効くのか?では、なぜがんとは無関係のコロナウイルスを標的とするワクチンが、がんに対する免疫療法の効果を高めるのでしょうか? 研究チームは、動物モデルや健常人の血液サンプルを用いて、そのメカニズムを詳細に解明しました。鍵を握っていたのは、「I型インターフェロン」という物質でした。まず、mRNAワクチンが体内に投与されると、ウイルスに感染した時と似たような「偽の緊急事態」が引き起こされます。これにより、体内でI型インターフェロンが爆発的に放出されます。このI型インターフェロンの急増が、全身の免疫細胞、とくに「抗原提示細胞」と呼ばれる偵察役の細胞を「覚醒」させます。覚醒した偵察役の細胞は、リンパ節などの免疫器官に移動し、そこでT細胞(免疫の実行部隊)に対し、「敵(抗原)」の情報を伝達します。この時、偵察役の細胞はウイルスの情報(スパイクタンパク)だけでなく、体内に存在する「がん抗原」の情報も同時にT細胞に提示し始めることがわかりました。がんの情報をキャッチしたT細胞は、増殖して腫瘍組織へと侵入していきます。これにより、これまでT細胞が存在しなかった「冷たいがん」が、T細胞が豊富に存在する「熱いがん」へと変化します。しかし、T細胞の攻撃にさらされたがん細胞は、生き残るために「PD-L1」というバリアを表面に出して、T細胞の攻撃を無力化しようとします。しかし実際、ワクチンを接種した患者さんのがん組織では、このPD-L1の発現が著しく増加していることが確認されました。ここで免疫チェックポイント阻害薬が登場します。免疫チェックポイント阻害薬は、まさにこのPD-L1のバリアを無効化する薬剤です。つまり、mRNAワクチンがT細胞をがんへ誘導し、免疫チェックポイント阻害薬がそのT細胞が働けるように「最後のバリア」を取り除く。この見事な連携プレーによって、がんに対する強力な免疫応答が引き起こされ、治療効果が飛躍的に高まると考えられます。今後の展望と研究の限界この研究の最大の意義は、がん患者さんごとに製造する必要がある高価な「個別化mRNAがんワクチン」でなくても、すでに臨床で広く利用可能な「既製のmRNAワクチン」が、がん免疫療法を増強する強力なツールになりうることを示した点にあります。とくに、これまで免疫チェックポイント阻害薬が効きにくかったPD-L1陰性の「冷たいがん」の患者さんに対しても、生存期間を改善する可能性が示されたことは大きな希望です。一方で、この研究の限界も認識しておく必要があります。最も重要なのは、患者さんを対象とした解析が「後ろ向き観察研究」である点です。つまり、過去のデータを集めて解析したものであり、「mRNAワクチン接種」と「生存期間の延長」の間に強い関連があることは示せましたが、mRNAワクチンが原因となって生存期間が延びたという因果関係を完全に証明したわけではありません。たとえば、「治療中にあえてコロナワクチンも接種しよう」と考える患者さんは、全般的に健康意識が高く、それ以外の要因(たとえば、栄養状態や運動習慣など)が生存期間に影響した可能性(交絡因子)も否定できません。研究チームは、インフルエンザワクチンなど他のワクチンとの比較や、さまざまな統計的手法(傾向スコアマッチングなど)を用いて、これらの偏りを可能な限り排除しようと試みていますが、未知の交絡因子が残っている可能性があります。この発見をさらに確実なものとするためには、今後、患者さんをランダムに「mRNAワクチン接種+免疫チェックポイント阻害薬群」と「免疫チェックポイント阻害薬単独群」に分けて比較するような、前向きの臨床試験で有効性を確認することが不可欠です。とはいえ、mRNAワクチンががん治療の新たな扉を開く可能性を示した本研究のインパクトは大きいでしょう。感染症予防という枠を超え、がん免疫療法の「増強剤」として、既製のmRNAワクチンが活用されるという場面も、今後訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Grippin AJ, et al. SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumours to immune checkpoint blockade. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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60歳以上における全原因心肺系・心血管系疾患入院予防に対する2価RSVワクチンの効果(解説:寺田教彦氏)

 本論文は、デンマークにおける全国規模の無作為化比較試験(DAN-RSV試験)の事前規定サブ解析で、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ワクチン接種による「全原因心肺系入院のみならず、呼吸器疾患の下流に位置する全原因心血管系入院の予防効果」を評価したものである。同試験の主要エンドポイントはRSV関連呼吸器疾患による入院で、結果は別の論文で報告されている「60歳以上への2価RSVワクチン、RSV関連呼吸器疾患による入院を抑制/NEJM」。 本論文の評価項目として、副次エンドポイントは全原因心肺系入院、探索的エンドポイントとして心血管疾患の各項目である、心不全、心筋梗塞、脳卒中、心房細動による入院が設定された。 RSVは乳幼児期に細気管支炎や肺炎を引き起こし、小児死亡の主要な原因の1つとされてきた。RSVワクチンは、1960年代にワクチン関連疾患増悪(Vaccine-associated enhanced disease,VAED)が問題となり、開発が停滞したこともあったが、構造生物学的解析によってpre-fusion型F蛋白が同定され、現在は高い中和抗体誘導能を有するワクチンが実用化されている。 近年、RSVは小児以外に高齢者や慢性心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの慢性呼吸器疾患などがある人々でも重症化し、肺炎や死亡に関与することが注目され、CDCでは75歳以上やRSV重症化のリスクがある50~74歳にもRSVワクチン接種を推奨している(RSV Vaccine Guidance for Adults)。 日本の高齢者に対するRSVの公的な疫学情報はなく、高齢者に対するRSVワクチンは、一部自治体で補助制度はあるが、現行は任意接種の立ち位置である。2025年10月現在、日本ではRSVワクチンとして、アブリスボ(ファイザー、bivalent preFワクチン)とアレックスビー(グラクソ・スミスクライン、単価preFワクチン)が承認されており、本研究はアブリスボの効果が評価されている(感染症情報提供サイト. 病原微生物検出情報[IASR] Vol. 46 p123-124: 2025年6月号.)。 本研究結果で、アブリスボを60歳以上に接種した場合、全原因心肺系入院は有意に減少(ワクチン有効性:9.9%、95%信頼区間:0.3~18.7%)したが、全原因心血管疾患入院での有意な減少は示せなかった。今回の結果からも、RSVワクチンの有効性は示されており、適応のある高齢者に対して引き続き接種を推奨すべきだろう。 また、心血管系疾患による入院抑制効果は統計学的有意に達しなかったが、全原因心肺系入院における絶対率減少(2.90/1,000人年)は呼吸器疾患入院単独の絶対率減少(1.87/1,000人年)より大きく、これは減少した入院患者の一部に心血管系疾患による入院患者が含まれている可能性も考えられた。それにもかかわらず、本研究で有意差が示せなかった理由としては、本試験が心血管アウトカムを主要評価項目として設計されておらず、心血管イベントの発生数も限られるため、統計学的検出力が十分でなかった可能性もある。 本研究の特徴は、気道感染症ワクチンによる全原因心血管疾患による入院予防効果を探索的に検討した点にある。RSV感染は、呼吸器炎症や酸素化障害を介して心不全増悪や急性冠症候群を誘発しうることが知られており(Woodruff RC, et al. JAMA Intern Med. 2024;184:602-611.)、感染予防を通じた2次的な心血管イベント抑制の可能性が期待されている。医療経済的にも、心血管イベント抑制が実証されれば費用対効果はさらに高まり、公的補助の拡大に向けた重要な根拠となるだろう。 RSV以外のCOVID-19やインフルエンザウイルスといった気道感染症も、高齢者において有害な心血管イベントを誘発することが指摘されている。今後は、感染症ワクチンの評価項目として、単なる感染予防・重症化予防にとどまらず、「感染を契機とする心血管イベント」を包括的に評価する研究設計が増えるかもしれない。 日本における高齢者に対するRSVワクチンという視点では、2025年4月から急性呼吸器感染症(ARI)が5類感染症として報告対象になった。日本における高齢者のRSV感染症の疾病負荷が明らかになれば、RSVワクチンの公的補助や接種勧奨が拡大されることも期待される。

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歯みがきで命を守る?手術2週間前の口腔ケアが肺炎予防に効果

 高齢患者や基礎疾患を持つ患者においては、術後肺炎をはじめとする感染症対策が周術期管理上の大きな課題となる。今回、愛媛大学医学部附属病院の大規模後ろ向き解析で、術前2週間以上前からの体系的な口腔ケアが術後肺炎の発症抑制および入院期間短縮に有効であることが示された。研究は愛媛大学医学部附属病院総合診療サポートセンターの古田久美子氏、廣岡昌史氏らによるもので、詳細は9月3日付けで「PLOS One」に掲載された。 近年、周術期管理や麻酔技術の進歩により、高齢者や重篤な基礎疾患を持つ患者でも侵襲的手術が可能となった。その一方で、合併症管理や入院期間の短縮は依然として課題である。術後合併症の中でも肺炎は死亡率や医療費増大と関連し、特に重要視される。口腔ケアは臨床で広く行われ、病原菌抑制を通じて全身感染症の予防にも有効とされる。しかし、既存研究は対象集団が限られ、最適な開始時期は明確でない。このような背景を踏まえ、著者らは術前口腔ケアについて、感染源除去や細菌管理、歯の脱落防止のために少なくとも2週間の実施が必要であると仮説を立てた。そして、手術2週間以上前からの口腔ケアが術後肺炎予防に有効かを検証した。 本研究では、2019年4月~2023年3月の間に愛媛大学医学部附属病院で手術および術後管理を受けた成人患者1,806人を対象とした。患者は口腔ケア介入の時期に基づき、手術の少なくとも2週間前に体系的な口腔ケアを受けた群(早期介入群)と、手術の2週間以内に口腔ケアを受けた、もしくは口腔ケアを受けなかった群(後期介入群)の2群に分類した。主要評価項目は、院内感染症のDPCコードを用いて特定された術後感染症(術後肺炎、誤嚥性肺炎、手術部位感染症、敗血症など)の発生率とした。副次評価項目は術後入院期間および入院費用であった。選択バイアスを最小化するために、傾向スコアマッチング(PSM)および逆確率重み付け(IPTW)が用いられた。 解析対象1,806人のうち、257人が早期介入群、1,549人が後期介入群だった。年齢、性別、手術の種類など14の共変量を用いたPSMの結果、253組のマッチペアが特定された。PSMおよびIPTW解析の結果、早期介入群では、後期介入群に比べて術後肺炎の発生率が有意に低いことが示された(PSM解析:リスク差 −5.08%、95%CI −8.19~−1.97%、P=0.001;IPTW解析:リスク差 −3.61%、95%CI −4.53~−2.68%、P<0.001)。 さらに、IPTW解析では早期介入群の入院期間は後期介入群より短く、平均で2.55日短縮されていた(95%CI −4.66~−0.45日、P=0.018)。医療費に関しても早期介入群で平均5,385円の減少が認められた(95%CI -10,445~-325円、P=0.037)。PSM解析では同様の傾向が認められたものの、統計的に有意ではなかった。 著者らは、「本研究の結果は、手術の少なくとも2週間前から体系的な術前口腔ケアを実施することで、術後肺炎の発症を有意に減少させ、入院期間を短縮できることを示している。さまざまな統計解析手法でも一貫した結果が得られたことから、標準化された術前口腔ケアプロトコルの導入は、手術成績の改善に有用な戦略となり得る」と述べている。 本研究の限界については、測定されていない交絡因子が存在する可能性があること、単一の施設で実施されたため、研究結果の一般化には限界があることなどを挙げている。

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第286回 医師も誤解している?マダニによるSFTSの傾向と対策

INDEXマダニによるSFTSの発生率、過去最高に冬も要注意!?SFTSに対するアンコンシャスバイアス治療薬への期待度マダニによるSFTSの発生率、過去最高に今年はダニ媒介感染症の重症熱性血小板減少症候群(略称・SFTS)の患者報告が過去最高を記録している。国立健康危機管理研究機構が発表している感染症発生動向調査週報1)の最新データとなる2025年第42週(10月13~19日)時点では、従来の過去最多である2023年の134例を上回る174例の患者が発生。また、今年はこれまで患者報告がなかった北海道、秋田県、栃木県、茨城県でも孤発的な事例が報告されている。改めて基礎知識を整理すると、SFTSは日本では2013年に初確認されたダニが媒介するSFTSウイルスを原因とする新興の人畜共通感染症である。潜伏期間は6~14日で、主な症状は発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹。特徴的な点は、病名でもわかるように検査値での顕著な血小板減少(10万/mm3未満)である。そしてSFTSで何よりも恐ろしいのは致死率が10~30%で、国内に常在する感染症の中では劇症型溶血性レンサ球菌感染症の致死率約30%に次ぐことだ。徐々に患者報告数も報告地域も拡大する中、一般人、医療者ともに対岸の火事とは言えなくなっている。以前の本連載で新型コロナウイルス感染症が今も高齢者で猛威を振るっていることを記事化したが、この取材に応じてくれた岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏との取材時間は約2時間におよんだ。実はこのうちの約半分は新型コロナから脱線し、萩谷氏が日常診療で接するSFTSの話となった。これがきっかけで私が理事を務めるNPO法人・日本医学ジャーナリスト協会でも10月10日に萩谷氏にSFTSをテーマに講演をしてもらったが、その内容の中にはかなり示唆に富むものが多かったので、今回はその内容を紹介したい。冬も要注意!?講演では、萩谷氏が2013~22年までに国内報告されたSFTS803例の解析結果を紹介した。それによると、この10年間の都道府県別の報告増加率のトップ5は順に三重県、島根県、岡山県、大分県、熊本県。患者発生率と環境要因との関連を解析した結果では、西日本で有意差があった環境要因は農地面積と農業人口であり、2022年までの発生件数を2ヵ月単位で分析すると、発生ピークは5~6月で、流行期は5~10月だった。ここまでは医療者もおおむね違和感はなく受け入れられるだろう。しかし、今回の萩谷氏の講演ではSFTSの意外な一面も“明らか”にされた。まず、前出の解析結果のように一般的にSFTSはマダニの活動期である春から秋にかけて発生する感染症だと考えられているが、実は真冬でもSFTSは発生しているのだ。たとえば直近の2024年の感染症発生動向調査週報によると、第2週(1月8~14日)に島根県と山口県で各1例、年末の第51週(12月16~22日)に長崎県で1例が報告されている。春から秋の時期と比べれば数は少ないが、こと西日本では通年で警戒しなければならない感染症なのである。また、講演の中で紹介された和歌山県での野生(野生化)動物のSFTSウイルス抗体陽性率調査の結果によると、アライグマ、アナグマ、シカ、ノウサギでは30%以上、ハクビシンで20%以上にものぼる。一般的な理解は、こうした動物を吸血したマダニが動物の移動とともに人間の生活圏に近い藪や草むらなどで落下して定着し、そこに入り込んだ人間がこうしたマダニに咬まれることで患者が発生しているというもの。これはおおむね正しいだろうが、萩谷氏が講演内で提示した自験例2例はこの理解の範疇をやや超えるものだった。SFTSに対するアンコンシャスバイアス2例のうち1例は同じマダニが媒介する日本紅斑熱の患者、もう1例がSFTSである。前者の患者は岡山市中心部在住、後者の患者は岡山県西部在住で、ともに問診ではマダニに咬まれるような野山に入った形跡はなかったという。しかし、よくよく話してみると、日本紅斑熱の患者は「ちょうどそのころお墓参りに行きました…」と語り、聞き出してみると墓地のある場所はダニ媒介感染症の好発地域、そしてSFTSの患者は自宅住所を地図上で検索してみると、その自宅が山に隣接する形で存在していた。つまり実際の推定感染地点は、私たちが一見SFTSと無縁と思っている場所にも点在しているのである。ちなみに萩谷氏によれば、西日本地域でSFTSの診療経験が一定以上ある医師にとっては、風評被害などが考えられるため公には明らかにしないものの、周辺のダニ媒介感染症好発地域はほぼ頭に入っており、患者の居住地や移動先などの地名を聞くと、ある程度はSFTSの可能性が判別できるという。また、前出の野生動物のSFTS抗体陽性率のデータ提示の際、萩谷氏が併せて提示したのが複数のマダニに咬まれた鳥の写真。マダニは哺乳類だけでなく、鳥類や爬虫類まで吸血することは知られている。このことから北海道の孤発例については「渡り鳥などにくっついたマダニが本州から北海道に移動して上陸したのだろうと個人的には想像している」と話した。これらを総合すると、SFTSに対して私たちがおぼろげに抱く「マダニの活動が活発な春から秋にかけて野山に入ることで感染しやすく、西日本に多い感染症」というイメージは、半ばアンコンシャスバイアスになっていることを自覚しなければならない。治療薬への期待度一方、過去の本連載でも触れたが、SFTSについては2024年に抗ウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)が承認された。この点について萩谷氏は「ウェルカムな部分はあるものの、本当に良いのか?とも思っている」との見解を示した。その理由は▽薬価が1錠3万9,862円で10日間の標準治療(90錠)の薬剤費総額が約360万円▽これまでの臨床試験が単群で投与群の致死率が医師主導治験で17.4%、企業治験で13%にとどまる、からだ。萩谷氏は「今回の承認は既存の対症治療での致死率が最大30%で、それよりも低い致死率を達成したことでアビガンが承認されたと理解している。しかし、十分とは言えないエビデンスの中で360万円の治療を全例に行う気持ちにはなれないのが正直なところ」と話した。いずれにせよ患者報告が拡大する中で、今回の萩谷氏の話はSFTSが思った以上に厄介な疾患であり、決して油断が許されない現状があることを何よりも雄弁に物語っている。 参考 1) 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報一覧

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がん治療のICI、コロナワクチン接種でOS改善か/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、多くのがん患者の生存期間を延長するが、抗腫瘍免疫応答が抑制されている患者への効果は限定的である。現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、ICIへの感受性を高めることが知られているが、製造のコストや時間の課題がある。そのようななか、非腫瘍関連抗原をコードするmRNAワクチンも抗腫瘍免疫を誘導するという発見が報告されている。そこで、Adam J. Grippin氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンもICIへの感受性を高めるという仮説を立て、後ろ向き研究を実施した。その結果、ICI投与前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチン接種を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者および悪性黒色腫患者は、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)が改善した。本研究結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表され、Nature誌オンライン版2025年10月22日号に掲載された1)。 本発表では、切除不能StageIIIまたはStageIVのNSCLC患者884例および転移を有する悪性黒色腫患者210例を対象とし、ICI初回投与の前後100日以内のCOVID-19 mRNAワクチン接種の有無で分類して解析した結果が報告された。また、COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、前臨床モデル(マウス)を用いて検討した結果とその考察も紹介された。 主な結果は以下のとおり。【後ろ向きコホート研究】・NSCLC患者(接種群180例、未接種群704例)において、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、StageやPD-L1発現状況にかかわらずOSが延長した。各集団のハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり(全体およびStage別の解析は調整HRを示す)。 全体:0.51、0.37~0.71 StageIII:0.37、0.16~0.89 StageIV:0.52、0.37~0.74 TPS 1%未満:0.53、0.36~0.78 TPS 1~49%:0.48、0.31~0.76 TPS 50%以上:0.55、0.34~0.87・悪性黒色腫患者(接種群43例、未接種群167例)においても、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、OS(調整HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)およびPFS(同:0.63、0.40~0.98)が延長した。・NSCLC患者において、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、未接種群、100日後以降接種群と比較してPD-L1 TPS平均値が高かった(31%vs.25%vs.22%)。同様に、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群はPD-L1 TPS 50%以上の割合も高かった(36%vs.28%vs.25%)。【前臨床モデル】・免疫療法抵抗性NSCLCモデルマウス(Lewis lung carcinoma)と免疫療法抵抗性悪性黒色腫モデルマウス(B16F0)において、COVID-19 mRNAワクチンとICIの併用は、ICI単独と比較して腫瘍体積を縮小した。・COVID-19 mRNAワクチンは、IFN-αの産生を増加させた。・悪性黒色腫モデルマウスにおいて、IFN-αを阻害するとCOVID-19 mRNAワクチンとICIの併用の効果は消失した。・COVID-19 mRNAワクチンは、複数の腫瘍関連抗原について、腫瘍反応性T細胞を誘導した。・COVID-19 mRNAワクチン接種によりCD8陽性T細胞が増加し、腫瘍におけるPD-L1発現も増加した。 COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、Grippin氏は「免疫学的にcoldな腫瘍に対して、COVID-19 mRNAワクチンを接種するとIFN-αが急増し、腫瘍局所での自然免疫が活性化される。その活性化により腫瘍反応性T細胞が誘導され、これらが腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を攻撃すると、腫瘍はT細胞応答を抑制するためにPD-L1の発現を増加させる。そこで、COVID-19 mRNAワクチンとの併用でICIを投与し、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害することで、患者の生存期間の改善が得られるというメカニズムが示された」とまとめた。 なお、今回示された効果を検証するため、無作為化比較試験「Universal Immunization to Fortify Immunotherapy Efficacy and Response(UNIFIER)試験」が計画されている。

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MSSA菌血症、セファゾリンvs.クロキサシリン/Lancet

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンと比較して有効性は非劣性で、忍容性は良好であることが示された。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のCharles Burdet氏らが、大学病院を含むフランスの21施設で実施した無作為化非盲検非劣性試験「CloCeBa試験」の結果を報告した。セファゾリンは広く使用されているものの、MSSA菌血症の治療における有効性はこれまで臨床試験で検討されたことはなかった。結果を踏まえて著者は、「MSSA菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンの代替薬となりうる」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月17日号掲載の報告。セファゾリンの有効性と安全性をクロキサシリンと比較 CloCeBa試験の対象は、標準的な微生物学的検査またはGeneXpert PCRによりMSSAが血液培養から検出された18歳以上の入院中の患者であった。スクリーニング時点でMSSAに有効な抗菌薬が72時間超投与されていた患者、血管または人工弁などの血管内インプラントを有する患者、感染が疑われる材料を体内に有する患者、脳卒中(1ヵ月以内)・脳膿瘍・髄膜炎の臨床所見を呈している患者などは除外された。 研究グループは、適格患者をコンピュータ生成のブロック法を用いて、セファゾリン群とクロキサシリン群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。血管アクセス関連菌血症の有無(末梢静脈カテーテルおよび中心静脈カテーテルを含む)および施設で層別化した。 セファゾリン群では25~50mg/kgを8時間ごとに(最大1日6g)、クロキサシリン群では25~50mg/kgを4~6時間ごとに(1日8~12g)、いずれも60分かけて静脈内投与した。総治療期間は14日以上とし、無作為化された治療を7日間投与した後は治験責任医師の選択で治療を変更することが可能とされた。 主要エンドポイントは治療成功で、90日目まで再発のない細菌学的成功、90日時点での臨床的成功、および90日時点での生存の複合とした。細菌学的成功は、3日目(感染性心内膜炎患者では5日目)の血液培養陰性、臨床的成功は感染に関連する症状および所見の消失と定義された。 ITT解析を行い、治療成功の非劣性マージンは12%とした。治療成功率はセファゾリン群75%、クロキサシリン群74%で、非劣性を確認 2018年9月5日~2023年11月16日に315例が登録され、セファゾリン群(158例)またはクロキサシリン群(157例)に無作為化された。同意撤回などによりセファゾリン群で12例、クロキサシリン群で11例が除外され、ITT解析対象集団は各群146例となった。 患者背景は、平均年齢62.7歳(SD 16.4)、男性が215例(74%)で、Pitt bacteraemia score中央値は0(四分位範囲:0~0)であった。 主要複合エンドポイントの達成は、セファゾリン群75%(109/146例)、クロキサシリン群74%(108/146例)で確認され、群間差は-1%(95%信頼区間:-11~9、p=0.012)で、セファゾリン群の非劣性が確認された。 重篤な有害事象は、試験治療終了時においてセファゾリン群で15%(22/146例)、クロキサシリン群で27%(40/146例)に認められた(p=0.010)。ただし、この差は2~7日目までの割り付けられた治療のみを受けた場合に限定して解析すると有意ではなかった。急性腎障害は、クロキサシリン群(12%、15/128例)でセファゾリン群(1%、1/134例)より発現頻度が高かった(p=0.0002)。

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帯状疱疹後神経痛、発症しやすい人の特徴

 帯状疱疹を発症すると、帯状疱疹の皮疹や水疱消失後に帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)と呼ばれる合併症を伴う場合があり、3ヵ月後で7~25%、6ヵ月後で5~13%の人が発症しているという報告もある1)。今回、中国・Henan Provincial People's HospitalのJing Wang氏らは、PHNの独立した危険因子となる患者背景を明らかにした。Frontiers in Immunology誌2025年10月1日号掲載の報告。 本研究は、PHN高リスク患者の早期発見と予防戦略の最適化支援を目的として、PHNの独立した危険因子を特定するため、PubMed、Embase、Cochrane Libraryを検索。メタ解析にて人口統計学的特徴、臨床症状、治療計画、合併症、ウイルス学的因子などの評価を包括的に分析し、結果の堅牢性を検証するための感度分析も実施した。なお、研究間の異質性はI2統計量とコクランのQ検定を用いて評価し、閾値は低異質性(I2<30%)、中等度の異質性(I2=30~60%)、高異質性(I2>60%)と定義した。 主な結果は以下のとおり。・本システマティックレビューにて36件(前向き研究15件、症例対照研究5件、後ろ向き研究13件、システマティックレビュー3件)が特定され、そのうち24件をメタ解析した。・PHNの独立した危険因子として、以下のものが主に特定された。 ●60歳以上:オッズ比(OR) 1.16(95%信頼区間[CI]:1.15~1.17、高異質性) ●喫煙やアルコール摂取などの生活歴:OR 1.13(95%CI:1.07~1.20、高異質性) ●免疫抑制薬による治療:OR 1.94(95%CI:0.16~23.44、異質性なし) ●糖尿病:OR 1.29(95%CI:1.05~1.60、高異質性) ●慢性閉塞性肺疾患:OR 1.70(95%CI:1.23~2.35、異質性あり) ●高血圧症:OR 1.82(95%CI:1.28~2.58、異質性なし) ●悪性腫瘍:OR 1.99(95%CI:1.07~3.70、異質性なし) ●慢性腎臓病:OR 1.08(95%CI:0.99~1.17、異質性なし)・このほか、重度の発疹、前駆症状としての疼痛、アルコール乱用、検出ウイルス量の高さなども危険因子の可能性を示していた。・一方、性差および社会経済的地位はPHNの発症と有意な関連を示さず、十分なエビデンスが認められなかった(I2>50%、p>0.05)。 研究者らは「帯状疱疹の重症度が急性疼痛の強さとともにPHNの重要な危険因子であり、また、上記の危険因子以外にも新型コロナウイルスが潜在的な危険因子となる可能性があるため、さらなる調査が必要である」としている。

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世界最高齢者の長生きの秘密とは?

 マリア・ブラニャス・モレラ(Maria Branyas Morera)さんは、2024年8月19日に117歳で亡くなった当時、世界最高齢者であった。彼女は一つの情熱的な願いを抱いてこの世を去った。バルセロナ大学(スペイン)医学部遺伝学科長のManel Esteller氏は、「ブラニャスさんはわれわれに、『私を研究してください。そうすれば他の人を助けることができます』と言った。彼女のその希望は現実となった」と話す。Esteller氏らがブラニャスさんについて包括的な分析を行った結果、ブラニャスさんには、健康的なライフスタイル、微生物叢内の有益なバクテリア、長寿に関連する遺伝子など多くの利点があったことが判明した。この研究の詳細は、「Cell Reports Medicine」に9月24日掲載された。 Esteller氏は、「健康的な老化は、何か一つの大きな特徴が関与するのではなく、むしろ、多くの小さな要因が相乗的に作用する、非常に個人差のあるプロセスであることが分かった。不健康な老化ではなく、健康的な老化につながる特徴をこれほど明確に示すことができたことは、将来、老若男女を問わず全ての人にとって有益になると思われる」と述べている。 ブラニャスさんは、1907年3月4日に米サンフランシスコで生まれ、8歳のときにスペインに移住した。彼女は2つの世界大戦、スペイン内戦、そして、スペイン風邪と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2つのパンデミックを生き延びた。事実、ブラニャスさんは113歳のときにCOVID-19に罹患したが、完全回復した。 研究グループは、ブラニャスさんの健康と長寿は、彼女のライフスタイルによるところが大きいと話す。彼女は地中海式ダイエットを実践し、脂肪や加工糖を過剰に摂取しないよう気を付けていたし、タバコやアルコールも一切摂取しなかった。高齢で歩行が困難になるまでは、定期的にウォーキングも行っていた。 血液サンプルの解析からは、極端に短いテロメアや炎症傾向の強い免疫系、高齢化したBリンパ球の集団など、明確な老化の兆候が見られた。一方で、ゲノム解析の結果、ブラニャスさんには他のヨーロッパ人には見られないまれな遺伝子変異が存在することが明らかになった。これらの変異は、免疫機能、認知機能、心機能、神経保護、脂質代謝などの経路に関与しており、これがブラニャスさんの高コレステロール、心臓病、がん、認知症などのリスクを低下させた可能性がある。 また、ブラニャスさんの腸内細菌叢には、抗炎症作用を持つ有益なビフィズス菌が豊富に含まれていたことも判明した。炎症は老化を促進する要因の一つである。研究グループによると、ブラニャスさんは、食生活の一環としてヨーグルトを多く摂取していたという。さらに、エピジェネティック解析によって測定されたブラニャスさんの生物学的年齢は実年齢よりも大幅に若いことも明らかになった。 Esteller氏は、「われわれの研究結果は、多くの高齢者がより長く、より健康的な生活を送る上で有益となり得る要因を特定するのに役立つ。例えば、健康長寿に関連する特定の遺伝子が判明したことから、これらが医薬品開発の新たなターゲットとなる可能性がある」と述べている。 ただし、本研究には関与していない米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のImmaculata De Vivo氏は、「1人の人間の人生から確かな結論を導き出すのはほぼ不可能だ。大規模でよく管理された集団研究とは対照的に、個々の症例の結果を解釈する際には、常に注意することが重要だ」と述べ、慎重な解釈を求めている。同氏は、「遺伝子やライフスタイルは健康に役立つかもしれないが、病気の原因は一般的に絶対的なものではなく確率の問題だ」と指摘し、ブラニャスさんと同程度に長生きするには、ある程度の幸運も必要なことをほのめかしている。

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ダイエット飲料と加糖飲料はどちらもMASLDリスク

 人工甘味料を用いた低糖・無糖飲料と加糖飲料は、どちらも代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)のリスクを高めることを示唆するデータが、欧州消化器病週間(UEG Week 2025、10月4~7日、ドイツ・ベルリン)で発表された。蘇州大学附属第一医院(中国)のLihe Liu氏らの研究によるもので、人工甘味料を用いた飲料や加糖飲料を水に置き換えることでMASLDリスクが低下する可能性も報告されている。 Liu氏は、「加糖飲料は長い間、厳しい監視の目にさらされてきたが、その代替品として広まった人工甘味料を用いた飲料は、健康的な『ダイエット飲料』と見なされることが多かった。しかしわれわれの研究結果は、それらの飲料を無害であるとする一般的な認識に疑問を投げかけ、肝臓の健康への影響を再考する必要性を強調している」と述べている。 MASLDは肝臓に脂肪が蓄積することで発症し、時間の経過とともに肝障害を引き起こしてくる。研究者によるとMASLDは最も一般的な慢性肝疾患であり、世界中で30%以上の人々が罹患しているという。 Liu氏らの研究では、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクの参加者12万3,788人を解析対象とした。24時間思い出し法による食事調査が複数回行われ、各種飲料の摂取量が把握された。 中央値10.3年の追跡期間中に、1,178人がMASLDを発症し、108人が肝臓関連の疾患で死亡していた。解析の結果、人工甘味料入り飲料を毎日約250mL以上飲んでいると、MASLDのリスクが60%増加することが分かった(ハザード比〔HR〕1.599)。また加糖飲料を同量飲んでいる場合には、50%近くのリスク上昇が認められた(HR1.469)。Liu氏は、「1日1缶程度という少量の低糖または無糖の甘味飲料を摂取している場合でも、MASLDのリスクが高まることが示された」と話している。 一方、人工甘味料入り飲料の代わりに水を飲んだ場合、MASLDのリスクが15.2%低下すると推算された。同様に、加糖飲料の代わりに水を飲んだ場合は、リスクが12.8%低下すると予想された。 Liu氏によると、加糖飲料は血糖値の急上昇を引き起こし、体重を増加させ、尿酸値を上昇させる可能性があり、これらは全て肝臓への過剰な脂肪の蓄積に関連してくるという。一方の人工甘味料入り飲料は、腸内細菌叢を変化させ、甘いものへの欲求を刺激し、またインスリン分泌を刺激する可能性があり、それらを介して肝臓の健康に悪影響を及ぼし得るとのことだ。そして同氏は、「最善の方法は、加糖飲料と人工甘味料入り飲料の双方を制限して水に置き換えることだ」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ペニシリンが得意・苦手とする細菌【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第3回

ペニシリンが得意・苦手とする細菌前回 、ペニシリンGがカバーできる細菌を挙げてきました(図1)。今回は、逆にペニシリンGが苦手とする細菌はどのようなものがあるかを考えていきましょう。図1 ペニシリンGがカバーする細菌画像を拡大するペニシリンが苦手とする細菌苦手な細菌として、まず挙げられるのが黄色ブドウ球菌です。こちらは前回のとおりです。これまでグラム陽性球菌ばかりを取り上げてきましたが、グラム陰性桿菌の話をほとんどしていません。ペニシリンGはグラム陰性桿菌が苦手なのですが、グラム陰性桿菌の代表選手として、大腸菌が苦手と覚えておきましょう。そして、横隔膜から上の嫌気性菌が得意だとわざわざ言っていたわけですが、横隔膜から下は苦手です。細かい話をすると、ペニシリンGはバクテロイデス属が苦手というわけです。これまでの話をまとめると、図2のようになります。図2 ペニシリンGのスペクトラム画像を拡大するこれで、ペニシリンGが得意とする細菌と苦手とする細菌が一通り揃いました。ここまでの内容は、ぜひフレミング博士のストーリーと絡めて復習していただければと思います。ちなみに、ここさえ乗り越えられれば、この後に続くβラクタム系の話も一気に楽になります。ペニシリンGを使用する代表的な場面と注意点実際にペニシリンGを使う場面としては、肺炎球菌性肺炎、レンサ球菌による感染性心内膜炎、梅毒などが挙げられると思います(図3)。図3 ペニシリンGを使う代表的場面画像を拡大するせっかくなので、ここで肺炎球菌について寄り道したいと思います。まず、肺炎球菌性肺炎の診断ですが、絶対やってはいけないのが「肺炎+肺炎球菌尿中抗原陽性=肺炎球菌性肺炎」という考え方です。なぜかというと、肺炎球菌による単独感染とは限らないからです。たとえば、肺炎の患者さんでは「肺炎球菌+インフルエンザ桿菌」や「肺炎球菌+モラクセラ」などのように、複数の細菌が感染していることも多く見かけます。インフルエンザ桿菌やモラクセラに対してはペニシリンGが効きません。したがって、肺炎球菌尿中抗原が陽性だからというだけで、肺炎患者さんにペニシリンGだけで治療しないようにしましょう。喀痰グラム染色や培養検査の結果を確認していただければと思います。そこで、肺炎球菌を狙って培養検査を提出するわけですが、「思った以上に発育してこない」と悩まれる方もいるのではないでしょうか。「グラム染色では肺炎球菌が確かに見えていたのに、培養検査ではなぜか生えない」なんてことが、結構多くあります。皆さんには思い当たる節がありますか? じつは、肺炎球菌はオートリジンという自己融解酵素を出すのです。そのため、培養検体の容器の中で放っておくと自滅してしまいます。培養検体を検査室に渡さずに放っておくと、死んでしまうのです。そうして、培養で生えなくなってしまうわけです。グラム染色でも、自滅している最中の肺炎球菌の色がグラム陰性、つまり赤く見えてしまうなんて現象が見られます。役に立つ知識かと言われると微妙ですが、面白いと思った方がいれば、検査技師さんをつかまえて話を聞いてみてください。まとめでは、前回と今回の内容をまとめます。ペニシリンは黄色ブドウ球菌を狙って作られた抗菌薬でした。ところが、現在のペニシリンGは耐性化の影響で黄色ブドウ球菌をほとんどカバーできません。一方で、黄色ブドウ球菌を除くグラム陽性球菌であれば、ペニシリンGでカバーできることが多いため、抗菌薬として意外にスペクトラムが広いともいえます。ペニシリンでカバーできて、セフェムでカバーできない「腸球菌とリステリア」もぜひ覚えておいてください。逆にペニシリンが苦手な細菌としては、黄色ブドウ球菌、大腸菌、横隔膜から下の嫌気性菌を覚えていただければと思います。これらの細菌をいかにカバーするかが、ペニシリン系進化の歴史そのものになっていきます。次回は、これまでの知識を下敷きにして、ペニシリン系を一気に俯瞰したいと思います。お楽しみに!

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免疫性血小板減少症への新治療薬による診療戦略/Sobi Japan

 希少・難治性疾患治療に特化し、ストックホルムに本社を置くバイオ医薬品企業のSwedish Orphan Biovitrum Japan(Sobi Japan)は、アバトロンボパグ(商品名:ドプテレット)が新たな適応として「持続性および慢性免疫性血小板減少症」の追加承認を取得したことに合わせ、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、免疫性血小板減少症(ITP)の診療に関する講演や同社の今後の展望などが説明された。約2万例の患者が推定されるITP はじめに「免疫性血小板減少症について」をテーマに、加藤 亘氏(大阪大学医学部附属病院輸血・細胞療法部 部長)が、本症の概要を説明した。 出血時の止血に重要な役割を担う血小板は、巨核球が血管内に行くことで血小板となり、体内で約7~10日間活動する。正常15~35万/μLの血小板数があり、10万/μL以下で血小板減少症、1万/μL以下では重篤な出血症状を呈する。そして、ITPは血液中の血小板が免疫により減少する疾患である。症状としては、皮膚の紫斑、粘膜出血などの出血症状の繰り返しがあり、健康な人よりもわずかに高い死亡率となる。 また、近年の研究からITPは血小板に対する自己抗体によって起こる自己免疫疾患とされ、「特発性」という言葉から「免疫性」に変更された。 わが国には約2万例の患者が推定され、毎年約3,000例が新規発症しており、その半数は高齢者である。本症は、指定難病であり、小児慢性特定疾患であるが、医療費助成の対象はステージ2以上の比較的重症の患者となっており、特定医療費受給者証所持者数は2023年時点で約1万7,000人となっている。 難病申請データに基づくITPの出血症状としては、紫斑が88.2%、歯肉出血が26.8%、鼻出血が18.1%の順で多く、その症状は血小板減少の程度、年齢と相関する。とくに血小板数1~1.5万/μL、60歳以上では重篤な出血リスクが増大するといわれている1)。 ITPの治療戦略としては、(1)リンパ球による抗血小板自己抗体の産生抑制、(2)破壊される以上に血小板を多く産生する、の2つがあり、治療の流れとしては『成人特発性血小板減少性紫斑病 治療の参照ガイド 2019改訂版』により治療が行われる(わが国独自の治療にピロリ菌除去療法がある)。 治療目標は、血小板を正常に戻すことではなく、重篤な出血を予防することであり、治療薬の副作用による患者QOLの低下を考慮し、過剰な長期投与は避けることとされている。 本症の1次療法としては、副腎皮質ステロイド療法が行われる。次に1次療法で効果がみられない場合、2次療法としてトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)、リツキシマブ、脾臓摘出術などが考慮される。2次療法については大きな優劣はなく、ただ、近年では脾臓摘出術はほぼ行われていない。 わが国でのITP治療薬の使用状況について、2015~21年で比較すると、TPO-RAが35.71%から61.37%へと増加し、リツキシマブも0%から3.3%へと増加したという報告がある2)。 多く使用されているTPO-RAは奏効率は高いものの、長期使用の場合は肝機能障害などの副作用の課題もある。治療の選択では、各治療の特徴を踏まえ、患者の希望・背景に合わせた治療選択が望まれる。 また、現在、解決が必要とされる課題として5つが指摘されている。(1)治療薬の使い分け、併用法(2)完治を目指す治療の開発(3)妊娠中、出産時の血小板数コントロール(4)出血症状、血小板数の改善のみではなく、症例ごとのQOLに配慮した治療・薬剤選択(5)ITP診断の改善(特異的な診断法開発の必要性)約6割のITP患者に投与8日以内で反応あり 今回、アバトロンボパグは新たな適応である「持続性および慢性免疫性血小板減少症」の承認を2025年8月25日に取得した。適応追加に係るわが国での第III相試験は、慢性ITPの患者19例を対象に、26週間の投与期間中に救援療法なしに血小板反応(血小板≧50×109/L)が得られた累積週数を主要評価として行われた。試験対象者の平均年齢は56.0歳で、女性が78.9%だった。 試験の結果、血小板反応(≧50×109/L)について、26週間の投与期間中、臨床的に意義のある累積週数の基準(閾値:8.02週)を達成し、患者の63.2%が8日以内に反応を示した。安全性では、治療に関係する重篤な有害事象はなく、一般的な有害事象として、新型コロナウイルス感染症、上気道感染症、鼻咽頭炎などが報告された。 最後に加藤氏は、「アバトロンボパグは慢性ITPを有する日本人成人患者に対し有効であった。安全性・忍容性も良好で、海外の主要な第III相試験3)および中国の患者の第III相試験4)と同様の血小板反応を日本人でも示した。長期的な有効性と安全性は、現在進行中の延長期で評価をする予定」と展望を述べ、講演を終えた。 同社では、今後新たに5つの希少疾患に対する製品の上市を目指しており、「これらの薬剤を早く日本の患者さんに届けられることを使命とし、希少疾患薬におけるドラッグラグやドラッグロスという問題の解決の一助となるようにしていきたい」と抱負を語っている。

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乳児期の犬への曝露は小児喘息リスクの低下と関連

 犬を飼っている家庭の乳児は、5歳時の肺機能が高く、喘息を発症しにくい可能性のあることが、新たな研究で示唆された。猫を飼っている家庭の乳児では、このような保護効果は認められなかったという。The Hospital for Sick Children(カナダ)のJacob McCoy氏らによるこの研究結果は、欧州呼吸器学会議(ERS 2025、9月27日〜10月1日、オランダ・アムステルダム)で発表された。 McCoy氏は、「猫アレルゲンと小児喘息の間に関連は認められなかったものの、犬アレルゲンへの曝露は肺機能の改善と喘息リスクの低下と関連していることが示された」とERSのニュースリリースの中で述べている。 この研究でMcCoy氏らは、カナダのCHILDコホート研究のサブコホートに属する乳児1,050人(平均月齢3.94カ月)のデータを用いて、生後3カ月時点のほこり中のアレルゲン濃度と5歳時の喘息、および1秒量(FEV1、息を最大限吸い込んだ後に、できるだけ速く・強く吐き出したときの最初の1秒間の空気の量)との関連、さらに遺伝的リスクがそれらの関連に影響するのかを検討した。ほこりサンプルは対象児の家庭から採取されたもので、1)犬の皮膚や唾液から排出されるタンパク質であるCan f1、2)猫の皮膚や唾液から排出されるタンパク質であるFel d1、3)細菌の表面に存在するタンパク質であるエンドトキシン、の3種類の潜在的なアレルゲンについて評価した。 対象児の6.6%が5歳までに喘息を発症していた。多変量モデルを用いた解析の結果、犬由来のアレルゲンであるCan f1への曝露レベルが高い児では低い児に比べて喘息リスクが48%低いことが示された(オッズ比0.52、95%信頼区間0.25〜0.98)。また、これらの乳児では、FEV1のZスコアも有意に高かった(β=0.23、95%信頼区間0.06〜0.40)。さらに、肺機能に対する保護効果は、喘息やアレルギーの遺伝的リスクが高い乳児でより強く現れることも明らかになった。一方で、猫アレルゲンや細菌アレルゲンの曝露レベルが高い乳児では、このような保護効果は確認されなかった。 McCoy氏は、「なぜこのようなことが起こるのかは明らかになっていない。ただし、犬のアレルゲンに敏感になると、喘息の症状が悪化する可能性があることは分かっている。今回の結果は、犬アレルゲンへの早期の曝露が、鼻腔内のマイクロバイオームを変化させたり免疫系に影響を与えたりすることで、感作を防ぐことができる可能性があることを示唆している」との見方を示している。その上で同氏は、「幼少期の犬アレルゲンへの曝露と喘息に対する予防効果との関連を理解するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。 この研究には関与していない、ERS小児アレルギー・喘息専門家グループの議長であるErol Gaillard氏は、「喘息は、若年者の間で最も一般的な慢性疾患であり、緊急治療のために入院する主な理由の一つでもある。喘息の症状を軽減または抑制できる優れた治療法はあるが、喘息を予防するためにはリスク要因を減らすことも重要だ。この研究結果は、犬を飼っている家庭にとって朗報となる可能性がある。ただし、この関連について、そして犬との生活が長期的には小児の肺の発達にどのような影響を与えるかについて、さらに詳しく知る必要がある」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第266回 インフルエンザ前週比1.4倍増で全国急拡大、マイコプラズマ肺炎も増加/厚労省

<先週の動き> 1.インフルエンザ前週比1.4倍増で全国急拡大、マイコプラズマ肺炎も増加/厚労省 2.高市新政権、医療機関や介護施設に支援を、報酬改定待たず措置へ/政府 3.医師臨床研修マッチング、大学病院の人気は過去最低、都市集中続く/厚労省 4.出産費用の地域差24万円 妊婦支援と医療機関維持の両立課題に/厚労省 5.高額療養費制度、70歳以上の3割負担拡大や外来特例見直しが俎上に/厚労省 6.希少がんで死去した大学生のSNS投稿が原動力に、「追悼寄付」が医療研究を支援/がん研ほか 1.インフルエンザ前週比1.4倍増で全国急拡大、マイコプラズマ肺炎も増加/厚労省全国で例年に比べて1ヵ月以上早く、インフルエンザの感染が急速に拡大しており、これに加えてマイコプラズマ肺炎も患者数を増やしていることから、医療機関と地域社会は複合的な感染症の流行に直面し、警戒を強めている。厚生労働省が発表したデータによると、10月19日までの1週間におけるインフルエンザ患者数は全国で1万2,576人に達し、前週比でおよそ1.4倍に急増した。定点医療機関当たりの報告数は3.26人と増加し、37都道府県で増加が確認されている。とくに、沖縄県(15.04人)が突出しているほか、首都圏では千葉県(6.99人)、埼玉県(6.23人)、神奈川県(5.62人)、東京都(5.59人)といった大都市圏で高い水準で感染が拡大している。東京都では、10月19日までの1週間に、休校や学級閉鎖などの措置をとった施設が71施設にのぼり、これは去年の同じ時期の6倍以上に急増した。また、愛知県(定点当たり1.44人)や滋賀県(同1.38人)では、昨年より約1ヵ月早い流行期入りが発表され、全国的な早期かつ大規模な流行が懸念されている。さらに、子供に多いマイコプラズマ肺炎も患者数が増加している。10月12日までの1週間で定点医療機関当たり1.53人と5週連続で増加しており、秋田県(8.25人)、群馬県(4.22人)などで報告が目立っている。専門家は、過去の流行状況を踏まえ、これからさらに患者が増え、大きな流行になる可能性が高いと分析している。とくに、ぜんそく発作の経験がある患者は、症状の再発に注意が必要となる。新潟県では、インフルエンザに加えてマイコプラズマ肺炎の感染者が2週連続で増加しており、複数の感染症が同時流行する「トリプル流行」の懸念が現実のものとなっている。医療現場では、小児に対し注射の痛みがなく接種回数が少ない鼻腔スプレー型インフルエンザワクチンの接種希望者が増えるなど、予防策への関心が高まっている。厚労省や各自治体は、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底、およびインフルエンザワクチンの早めの接種を強く呼びかけている。 参考 1) インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚労省) 2) インフルエンザ患者数 前週比1.4倍増 37都道府県で増加(NHK) 3) マイコプラズマ肺炎 患者増加 “大きな流行の可能性 対策を”(同) 4) 都内のインフル定点報告5.59人、前週比17.2%増 臨時休業の学校など計244カ所(CB news) 2.高市新政権、医療機関や介護施設に支援を、報酬改定待たず措置へ/政府高市 早苗首相は10月24日の所信表明演説で、経営難に陥る医療機関や介護施設を対象に、診療報酬・介護報酬の改定を待たずに補助金を措置する方針を表明した。物価高や人件費上昇への対応を急ぎ、経営改善と職員処遇の改善効果を「前倒し」する狙い。年内に経済対策を策定し、補正予算案を今国会に提出する考えを示した。高市首相は、国民が安心して医療・介護サービスを受けられる体制を維持するためには「待ったなしの支援が必要」と強調。報酬改定にも物価高や賃上げ分を適切に反映させると述べた。また、給付と負担の見直しに向け、超党派の「国民会議」を新設し、税と社会保障の一体改革を進めるとした。現役世代の保険料負担を抑えるため、OTC類似薬の保険給付見直しや応能負担の徹底を検討する。一方、厚生労働大臣に就任した上野 賢一郎氏は、医療・介護現場の経営や処遇改善策を経済対策・補正予算に盛り込む方針を示した。物価高騰で医療機関の6割超が赤字に陥る中、日本医師会も早期の補正成立を要望している。上野氏は「創薬力の強化」「薬価の安定供給」を課題に挙げ、ドラッグロス解消や製薬産業の競争力強化を推進するとした。新政権は自民党と日本維新の会の連立により発足。現役世代の社会保険料率引き下げや、病院・介護施設の経営改善を柱とする社会保障改革を掲げる。高齢者の外来特例や高額療養費制度の見直しも議論が進む見通しで、持続可能な制度と公平な負担の両立が今後の焦点となる。 参考 1) 新政権の社会保障改革 現役世代の負担軽減はどうなる(NHK) 2) 高市首相、医療経営支援「補助金を措置」所信表明 介護施設も 報酬改定待たずに(CB news) 3) 新厚労相の上野氏「処遇改善や経営改善支援のための施策を経済対策や補正予算に盛り込む」(日経メディカル) 4) 高市首相、診療報酬・介護報酬に「物価高を反映」 所信表明 補助金支給で「効果を前倒し」(Joint) 5) 高市内閣発足 「病院、介護経営を好転へ」 社会保障改革で協議体(福祉新聞) 3.医師臨床研修マッチング、大学病院の人気は過去最低、都市集中続く/厚労省2025年度の医師臨床研修マッチング最終結果が10月23日に公表され、内定者数は8,910人(前年度比152人減)、内定率は92.3%だった。募集定員は1万527人、希望登録者は9,651人。大学病院本院の充足率100%は81大学中12大学にとどまり、前年度から7大学減少した。フルマッチとなったのは京都大、京都府立医科大、順天堂大、北里大、関西医科大など都市部中心で、地方大学では充足率が3割未満の大学もあり、弘前大はマッチ者ゼロだった。全体では市中病院志向が続き、大学病院に進む医学生の割合は35.2%と過去最低を更新。第1希望でマッチした割合も60.6%に減少し、2016年度から約20ポイント低下した。背景には、働き方改革を受けた労働環境や給与・QOLを重視する傾向の強まりがある。一方、厚労省は医師偏在対策として新設した「広域連携型プログラム」を導入し、医師多数県と少数県をまたぐ研修を促進。東京大、京都府立医科大などで定員を満たす成果もみられた。人気集中が続く都市部と地方の格差は依然大きく、研修医の分布と質の均衡が今後の課題となる。 参考 1) 令和7年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします(厚労省) 2) 2025年度 研修プログラム別マッチング結果[2025/10/23現在](JRMP) 3) 医師臨床研修マッチング内定者152人減 25年度は計8,910人(CB news) 4) 市中病院にマッチした医学生は64.8% マッチング最終結果、大学病院のフルマッチは12施設(日経メディカル) 5) あの病院はなぜ人気? 臨床研修マッチング2025(同) 4.出産費用の地域差24万円 妊婦支援と医療機関維持の両立課題に/厚労省厚生労働省は10月23日、社会保障審議会の医療保険部会を開き、出産費用の上昇や地域格差を踏まえ、出産費用の無償化と周産期医療の集約化を柱とする制度改革の検討を開始した。厚労省側は、2026年度を目途に正常分娩費用の自己負担をなくす方向で、今冬に給付体系の骨格をまとめる方針を示した。2024年度の平均出産費用は51万9,805円で、出産育児一時金(50万円)を上回る。東京と熊本では約24万円の地域差があり、物価高騰や人件費上昇を背景に、費用は年々増加傾向にある。無償化には妊婦の負担軽減への期待が高まる一方、分娩を担う一次施設や地方の産科医院の経営悪化を懸念する声も強い。日本産婦人科医会の石渡 勇会長は「地域の一次施設を守る観点で制度設計を」と訴え、日本医師会の城守 国斗常任理事も「診療所の崩壊は産科医療の瓦解につながる」と慎重な議論を求めた。厚労省は、施設の経営実態に十分配慮しつつ、標準的出産費用の「見える化」と「標準化」を進める。一方、出産を取り扱う医療機関は減少しており、周産期医療体制の維持が困難な地域が増えている。このため厚労省は「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を10月23日に開き、ハイリスク妊婦以外も含めた周産期医療の集約化を検討し、遠方で出産する妊婦の交通費や宿泊費への支援、宿泊施設や家族支援の整備、島しょ部での夜間搬送体制強化などを論点に掲げた。出産費用の上昇、地域格差、分娩施設の減少という3重の課題に対し、妊婦支援と医療機関支援を両立させる制度設計が求められている。 参考 1) 医療保険制度における出産に対する支援の強化について(厚労省) 2) 小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(同) 3) 周産期医療の集約化で妊婦への支援を検討 移動に伴う交通費・宿泊費など含め 厚労省(CB news) 4) 出産への給付体系、今冬に骨格取りまとめ 厚労省(同) 5) 平均出産費用、1.3万円増加 都道府県間で24万円の差-厚労省(時事通信) 6) 24年度出産費用、平均52万円 上昇続き家計の負担増(共同通信) 5.高額療養費制度、70歳以上の3割負担拡大や外来特例見直しが俎上に/厚労省厚生労働省は10月23日、医療保険部会を開き、70歳以上の窓口負担や高額療養費制度の見直しに関する議論を本格的に開始した。少子高齢化による医療費増大と現役世代の保険料負担の偏りを踏まえ、「年齢ではなく支払い能力に応じた公平な負担(応能負担)」を制度の柱に据える。部会では、「(1)医療費増大への対応、(2)年齢を問わない応能負担、(3)セーフティネットとしての高額療養費制度のあり方」の3点を中心に、年内に方向性をまとめる方針が示された。具体的には、70歳以上で3割負担となる現役並み所得の範囲拡大、75歳以上の外来特例の見直し、所得区分の細分化などが論点となる。高齢者ほど医療費が高い一方で、自己負担は低く抑えられており、世代間・世代内の公平性確保を求める意見が相次いだ。一方で、低所得者や長期療養患者への配慮を求める声も強く、超高額薬のコストを患者に転嫁すべきでないとの懸念も示された。高額療養費は年間約3兆円規模で、財政抑制や現役世代の負担軽減効果が焦点となる。制度改正は自民・維新連立政権の「応能負担強化」方針に合致しており、持続可能性と医療アクセス維持の両立が医療界の注目点となっている。 参考 1) 第5回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(厚労省) 2) 高齢者の医療費負担、「3割」対象者拡大へ議論本格化…年内に方向性まとめる方針(読売新聞) 3) 支払い能力に応じた医療費負担を 70歳以上見直しで厚労省部会(共同通信) 4) 高齢者の医療費窓口負担、3割の対象拡大も含め議論へ(朝日新聞) 5) 高齢者医療の負担の議論開始、医療保険部会 現役世代の負担減求める意見相次ぐ(CB news) 6) がん患者の家計を医療費が圧迫、厚労省が事例示す 高額療養費利用しても「その他支出」の半分超(同) 7) 高額療養費は「長期療養患者、高額医薬品使用患者」で大きな恩恵受けるが、低所得者は現行制度下でも「重い負担」-高額療養費専門委員会(Gem Med) 6.希少がんで死去した大学生のSNS投稿が原動力に、「追悼寄付」が医療研究を支援/がん研ほか「グエー死んだンゴ」というわずか8文字の投稿が、若くしてがんのため亡くなった北海道大学の元学生、中山 奏琉氏(22歳)の「最期のユーモア」としてX(旧ツイッター)上で大きな波紋を広げ、がん研究機関への「追悼寄付」のムーブメントを巻き起こしている。中山氏は、新規患者が年間20人ほどの希少がん「類上皮肉腫」に罹患し、闘病。亡くなる直前に予約投稿したとみられるこのメッセージは3億回以上閲覧され、これをみた面識のない多くのネットユーザーが「香典代わりに」と、がん研究会や国立がん研究センターへ寄付を始めた。がん研究会では、投稿から5日間で1,431件、数百万円の寄付が集中し、これは平常時の半年分以上に相当する。寄付には「Xのポストを見て」「香典代わりに」といったメッセージが多数添えられ、国立がん研究センターでも寄付件数が急増し、受付番号からは1万件近い寄付があったと推定されている。この現象について専門家は、故人を偲ぶ「追悼寄付」の1つの形であり、ネット文化の中で共感を覚えた人々が感動を「寄付」という具体的な行動で示したものと分析している。中山氏の父親は、息子が治療の手立てが一切ない病気と闘った経験から、「息子のような人が減るよう、治療が難しい病気の研究が進めば」と、支援の輪の広がりを心から歓迎し、感謝を述べている。SNS上の「最期のメッセージ」が、医療研究の新たな支援の形を生み出し、希少がんを含む難病研究への社会の関心を高める契機となっている。 参考 1) 両親も知らなかった「死んだンゴ」 がんで死去した津別の元北大生・中山さん最期の日々 がん研究機関への寄付急増(北海道新聞) 2) 「グエー死んだンゴ」8文字からの寄付の輪 遺族「がん研究進めば」(朝日新聞) 3) 「グエー死んだンゴ」「香典代わりに」 がん患者最期の投稿きっかけ、研究拠点に寄付殺到(産経新聞) 4) 「グエー」、臨終のユーモアがネット揺さぶる 死の間際に投稿予約?がん研究機関に「香典」続々(時事通信)

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第285回 コロナワクチンがICI治療のOSを有意に延長

INDEXええええ!ESMO2025のProffered Paper session新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待ええええ!ここ半月以上、自民党の総裁選とそれに伴う政局のドタバタに振り回されてしまい、何とも言えないもどかしさを感じている。本来ならばコロナ禍の影響を受けて、今やオンラインでも視聴可能になった欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)にプレス登録して聴講するはずだったが、その機会も逃してしまった。とはいえ、悔しいのでここ数日、時間を見つけては同学会の抄録を眺めていたが、その中で個人的に「ええええ!」と思う発表を見つけた。演題のタイトルは「SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumors to immune checkpoint blockade」。端的に結論を言えば、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種が免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果を高める可能性の研究1)だ。抄録ベースだが、この研究内容を取り上げてみたい。ESMO2025のProffered Paper session発表者は米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏である。mRNA関連創薬は、もともとはがんをターゲットとした治療ワクチンの開発を主軸としていて、米国・モデルナ社もこの路線でのパイプラインが形成され、たまたまコロナ禍が起きたことで、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンという形で日の目を見たことはよく知られている。Grippin氏らは、mRNAがんワクチンの研究から、同ワクチンが炎症性サイトカインへの刺激を通じて免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果の増強が得られることをヒントに、「もしかしたらがんに非特異的なmRNAワクチンでも同様の効果が得られるのではないか」と考えたらしい。そこで同センターで2017年1月~2022年9月までに生検で確定診断を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)、2019年1月~2022年12月までに治療を受けた悪性黒色腫の臨床データを抽出し、カプランマイヤー曲線、傾向スコアマッチング、およびCox比例ハザード回帰モデルを利用して全生存期間(OS)を評価したとのこと。ちなみに抄録レベルでは症例数は未記載だが、MDアンダーソンがんセンターのレベルでいい加減な臨床研究の可能性は低い。実際、抄録では研究にあたって同センターの倫理審査委員会の承認を受けていることが記載されている。その結果によると、免疫チェックポイント阻害薬による治療開始から100日以内の新型コロナmRNAワクチン接種有無で比較したOS中央値は、NSCLCで非接種群が20.6ヵ月、接種群が37.3ヵ月。3年OS率は非接種群が30.6%、接種群が55.8%だった。調整ハザード比[HR]は0.51(95%信頼区間[CI]:0.37~0.71、p<0.0001)であり、有意差が認められた。また、悪性黒色腫ではOS中央値は非接種群が26.67ヵ月、接種群が未到達。3年OS率は非接種群が44.1%、接種群が67.5%。調整HRは0.34(95%CI:0.17~0.69、p=0.0029)でこちらも有意なOS延長が認められたという。新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待研究は明らかに後ろ向きではあるが、NSCLCでOS中央値が10ヵ月も違うことに個人的には正直驚きを隠せない。しかも、抄録によると、NSCLCではPD-L1検査(TPS)で低発現(TPS<1%)の症例でも新型コロナmRNAワクチン接種によるOSの延長効果が認められたとある。また、動物モデルでは、新型コロナmRNAワクチン接種によりI型インターフェロンの急増が誘発され、複数のがん抗原を標的とするCD8陽性T細胞のプライミングとがん細胞のPD-L1発現を上方制御することがわかった。さらに複数の動物がんモデルでも新型コロナmRNAワクチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用で、免疫チェックポイント阻害薬の効果増強を確認したという。いずれにせよこの研究結果を見る限り、がんに特異的ではない新型コロナmRNAワクチンががん特異的抗原の発現を促すということになる。現在、モデルナは日本国内でもNSCLCと悪性黒色腫の個別化がん治療ワクチンの臨床試験中だが、今回の研究で示された可能性が前向き試験でも確認されれば、結構安上がり(あくまで個別化がん治療ワクチンや昨今発売された各種がんの治療薬との比較だが)ながん治療になるのではないか。個人的にはそこそこ以上に期待してしまうのだが。1)Grippin AJ, et al. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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リンパ節腫脹の鑑別診断【1分間で学べる感染症】第36回

画像を拡大するTake home messageリンパ節腫脹の原因は「MIAMI」という語呂合わせを活用して5つのカテゴリーに分けて整理しよう。リンパ節腫脹は、内科、外科、小児科、皮膚科など、さまざまな診療科で遭遇する重要なサインです。感染症など一過性で自然軽快するものも多い一方で、悪性疾患や自己免疫疾患、薬剤性、肉芽腫性疾患などが隠れている場合もあります。鑑別診断の挙げ方は多くありますが、網羅的に大まかにカテゴリー化する方法として、「MIAMI」(Malignancies・Infections・Autoimmune・Miscellaneous・Iatrogenic)という語呂合わせが提唱されています。今回は、この5つのカテゴリーに沿って、一緒に整理してみましょう。M:Malignancies(悪性腫瘍)悪性疾患によるリンパ節腫脹は、持続性・進行性・無痛性のことが多く、とくに高齢者や全身症状(発熱、体重減少、寝汗)を伴う場合には常に念頭に置く必要があります。代表的な疾患としては、悪性リンパ腫、白血病、転移性がん、カポジ肉腫、皮膚原発の腫瘍などが挙げられます。固定性で硬く、弾力のない腫脹がみられた場合は、早期の精査が推奨されます。I:Infections(感染症)感染症は最も頻度の高い原因です。細菌性では、皮膚粘膜感染(黄色ブドウ球菌、溶連菌)、猫ひっかき病(Bartonella)、結核、梅毒、ブルセラ症、野兎病などがあり、これらは病歴聴取と局所所見が診断の手掛かりとなります。ウイルス性では、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HIV、風疹、アデノウイルス、肝炎ウイルスなどが含まれ、とくに伝染性単核球症では頸部リンパ節腫脹が目立ちます。まれですが、真菌、寄生虫、スピロヘータなども原因となることがあり、ヒストプラズマ症、クリプトコッカス症、リケッチア症、トキソプラズマ症、ライム病などが鑑別に挙がります。A:Autoimmune(自己免疫疾患)関節リウマチ(RA)やSLE(全身性エリテマトーデス)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、成人スティル病などの自己免疫疾患もリンパ節腫脹を来すことがあります。これらは多くの場合、他の全身症状や検査所見(関節炎、発疹、異常免疫グロブリンなど)と合わせて判断する必要があります。とくに全身性疾患の初期症状としてリンパ節腫脹が出現することもあるため、見逃さないよう注意が必要です。M:Miscellaneous(その他)まれではあるものの、Castleman病(血管濾胞性リンパ節過形成)や組織球症、川崎病、菊池病(壊死性リンパ節炎)、木村病、サルコイドーシスなども鑑別に含まれます。これらは一見すると感染症や自己免疫疾患と似た臨床像を呈することがあるため、病理診断や経過観察を要することがあります。I:Iatrogenic(医原性)薬剤による反応性リンパ節腫脹や血清病様反応なども存在します。とくに抗てんかん薬、抗菌薬、ワクチン、免疫チェックポイント阻害薬などが関与することが知られており、最近の薬剤歴の確認が不可欠です。また、ワクチン接種後の一時的なリンパ節腫脹(とくに腋窩)は、画像上の偽陽性を招くこともあるため注意が必要です。リンパ節腫脹は多彩な疾患のサインであり、その背景を見極めるためには、構造的かつ網羅的なアプローチが求められます。「MIAMI」というフレームワークを活用することで、見逃してはならない悪性疾患や慢性疾患の早期発見につながります。必要な検査や専門科紹介のタイミングを逃さないようにしましょう。1)Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2016;94:896-903.

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第33回 帯状疱疹ウイルスが脳を蝕む可能性? 1億人超のデータが示す結果と「ワクチン」という希望

多くの人が子供の頃にかかる「水ぼうそう」。その原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、治った後も体内に静かに潜み続け、数十年後に「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」として再活性化することはよく知られています。しかし、この身近なウイルスが、将来の認知症リスクと深く関わっているかもしれない。そんな可能性を示唆する大規模な研究結果が、権威ある医学誌Nature Medicine誌に発表されました1)。アメリカの1億人を超える医療記録を分析したこの研究は、帯状疱疹の発症やその予防ワクチンが、認知症リスクにどう影響するのかを、かつてない規模で明らかにしています。この記事では、その研究結果の内容と私たちの健康維持にどう活かせるのかを解説していきます。神経に潜むウイルス「VZV」と帯状疱疹水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、ほとんどの成人が体内に持っている非常に一般的なウイルスです。初めての感染では「水ぼうそう」として発症しますが、症状が治まった後もウイルスは神経節(神経細胞が集まる場所)に潜伏し、生涯にわたって体内に存在し続けます。そして、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに、この潜んでいたウイルスが再び活性化することがあります。これが「帯状疱疹」で、体の片側に痛みを伴う水ぶくれが現れるのが特徴です。VZVは神経を好むウイルスであるため、帯状疱疹後神経痛のような長期的な痛みを引き起こすこともあります。近年、このVZVのような神経に入り込むウイルスが、認知症の発症に関与しているのではないかという証拠が集まりつつありました。VZVが脳内で炎症を引き起こしたり、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβのような異常タンパク質の蓄積を促したりする可能性が、実験室レベルの研究で示唆されていたのです。しかし、これが実際どれほどのリスクになるのかは、はっきりとはわかっていませんでした。1億人の記録が示す「帯状疱疹と認知症」の密接な関係今回の研究チームは、この疑問に答えるため、アメリカの巨大な電子カルテデータベースに着目しました。7,000以上の病院やクリニックから集められた、1億人以上の匿名化された個人の医療記録を、2007~23年にわたって追跡調査したのです。研究チームは、最新の機械学習技術を駆使し、年齢、性別、人種、持病、服用薬、生活習慣(喫煙など)、さらには医療機関へのアクセス頻度など、認知症リスクに影響しうる約400もの因子を厳密に調整しました。これにより、「帯状疱疹(VZVの再活性化)」という要因が、他の要因とは独立して認知症リスクにどれだけ影響するかを、高い精度で評価することを試みました。その結果、驚くべき関連性が次々と明らかになりました。まず、帯状疱疹を経験した人は、そうでない人と比べて、将来的に認知症と診断されるリスクが高いことが示されました。さらに興味深いことに、帯状疱疹を1回経験した人に比べ、2回以上繰り返した人では、認知症リスクが7〜9%も高かったのです。これは、ウイルスの再活性化による体への「負担」が大きいほど、認知症リスクも高まる可能性を示唆しています。しかし、この研究はリスクだけでなく、希望の光も示しています。帯状疱疹を予防するためのワクチンを接種した人は、接種していない人と比較して、認知症リスクが明らかに低かったのです。とくに、より効果の高い不活化ワクチン(商品名:シングリックス)を2回接種した場合では、認知症リスクが27%低減していました。とくに注目すべきは、過去に使用されていた生ワクチンの効果に関する分析です。このワクチンは帯状疱疹予防効果が時間とともに薄れることが知られていますが、研究チームがワクチン接種後15年間にわたって追跡したところ、帯状疱疹予防効果の低下と、認知症リスク低減効果の消失が、見事に相関していました。これは、「ワクチンでVZVの再活性化を抑えること」こそが、認知症リスク低減のメカニズムであることを裏付ける結果と言えます。加えて、帯状疱疹になりやすいとされる高齢者や女性においては、ワクチン接種による認知症リスクの低減効果が、全体集団よりもさらに大きい傾向が見られました。これらの結果は、さまざまな角度から帯状疱疹が認知症の進行に関わる「修正可能なリスク因子」である可能性を強く示唆しています。ただし、この研究は非常に大規模で説得力がありますが、いくつかの限界点も認識しておく必要があります。最大の点は、これが「観察研究」であるということです。つまり、「帯状疱疹の予防」と「認知症リスクの低減」の間に強い関連性を示しましたが、ワクチン接種が原因となって認知症を防いだ、という因果関係を完全に証明したわけではありません。研究チームは、考えうる他の要因の影響を統計的に最大限排除しようと試みていますが、未知の因子が影響している可能性はゼロではありません。また、電子カルテのデータに依存しているため、診断の精度や記録の網羅性にも限界があります。私たちの生活にどう活かす?この研究は、認知症予防の新たな可能性を提示するものです。認知症の原因は複雑で、遺伝や生活習慣など多くの要因が絡み合っていますが、帯状疱疹もその一つとして無視できない存在である可能性があるのです。今回の研究結果は、帯状疱疹ワクチンが認知症を「直接」予防すると断定するものではありませんが、ワクチンが帯状疱疹の発症を効果的に抑えることは明らかになっており、その結果として認知症リスクを低減する可能性が強く示唆されました。とくに日本でも現在主流となっている不活化ワクチン(シングリックス)は、高い予防効果が長期間持続すると明らかになっています。そのため、50歳以上の方は、帯状疱疹そのものの予防(さらに、厄介な神経痛の予防)という観点からも、認知症リスクを下げる観点からも、ワクチン接種について相談する価値があると言えるでしょう。また、過去に帯状疱疹を経験したことがある方は、この研究結果を踏まえ、他の認知症リスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙、運動不足など)の管理にも、より一層注意を払うことが勧められるということなのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Polisky V, et al. Varicella-zoster virus reactivation and the risk of dementia. Nat Med. 2025 Oct 6. [Epub ahead of print]

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どう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方

小児感染症の抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方に自信がつく! 臨床現場に必携の1冊「小児診療 Knowledge & Skill」第2巻小児科診療において、感染症治療は抗菌薬や抗ウイルス薬の基礎的知識が不可欠である。一方で、感染症には多様なバリエーションがある。エビデンスやガイドラインに忠実に従うだけでは対応が困難な場面に遭遇したときに、どう対応するか?本書は病院で診療する医師がよく遭遇する感染症、とりわけ抗微生物薬による治療が考慮されるものを中心にとりあげた総論にて感染症の診断と治療の基本的なアプローチ、細菌感染症に対する抗菌薬の使い方、新しい診断法や治療をふまえた抗ウイルス薬の使い方を解説各論にて個別の感染症の診断と治療を解説という特色で、各疾患に造詣の深い医師が執筆。トピックスや臨床的な疑問を含め通常の成書よりも一歩踏み込んだ内容とした。単なる知識の羅列ではなく、読者が明日の診療で「どう考え、どう動くか」の手がかりとなるような情報となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するどう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方定価8,800円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年10月総編集加藤 元博(東京大学)専門編集宮入 烈(浜松医科大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第284回 医療界にも逆風か、連立解消で揺れる自民党のお相手探し

INDEX聞いてないよ公明党の手腕新たなカップル成立は医療界のリスクか聞いてないよ予想もしなかった「下駄の雪」*が牙をむいた。自公連立からの公明党の離脱のことである。前回の本連載を読んでいただければわかるが、私自身はまったくこのことを予想していなかった。最終的には自民党も公明党も互いにしがみつくと思っていたし、公明党が連立離脱を公にした後に会ったある自民党議員も「寝耳に水だった」と話していた。*下駄の裏にくっついた雪のように、力ある者に付いていく者を指す政界用語この離脱は医療政策にも一定の影響を及ぼすと個人的には考えている。公明党は「福祉の党」「平和の党」を金看板に掲げているが、私自身はこれを真に受けるつもりはない。以前からも国政選挙の政策比較時に言及しているが、私の端的な公明党の評価は1999年の小渕 恵三政権下で行われた地域振興券に始まる「元祖バラマキ政党」である。バラマキは商品券や給付金だけでなく、行政サービスの場合もある。そして行政サービスのバラマキでは、医療界にとっては前向きなものもある。その代表格がワクチン接種である。公明党の手腕同党は自民党、共産党と並んで地方の都道府県議会や市区町村議会に議員を送り込んでおり、その総数は2024年末時点で2,855人。野党第1党である立憲民主党でさえ839人で、その3分の1弱に過ぎない。この豊富な地方議員を使って、公明党議員が地方議会での質問、予算要求、陳情などで自治体の独自助成を勝ち取る。これを広げながら地方→都道府県→国への「上げ潮」型アプローチで定期接種化を求めていく。実例を挙げれば、2006年の東京都千代田区と北海道名寄市で高齢者向け肺炎球菌ワクチン接種費用の助成、2023年度から東京都が帯状疱疹ワクチンの接種費を助成する区市町村への補助事業を開始した時なども公明党が活発に動いている。後に両ワクチンとも国の定期接種化が実現した。また、現時点で定期接種化は実現していないが、昨今登場したRSウイルスワクチンについても、一部の自治体では接種の助成が始まっている。このうち愛知県大府市で2025年8月から始まった妊婦・高齢者での接種費用助成も公明党が盛んに議会で要望したものだ。これらは公明党のバラマキ政策の中でも功罪の「功」に属するものである。さらに、多くの医療者にとって記憶に新しいであろう今年3月の高額療養費の負担上限引き上げ凍結にも、公明党は一役買っている。この時は全国がん患者団体連合会が各方面に要望活動を展開し、凍結への大きな流れを作ったことはよく知られている。この凍結決定直後、同連合会理事長の天野 慎介氏に、私が理事を務める日本医学ジャーナリスト協会で講演してもらったことがある。その際に天野氏らはこの活動で数多くの与野党議員に会った時のことを語っている。「さまざまな法律・政策が通る時は、与党が自らそれを提案し、それに野党から批判の声が上がることがありますが、最後は結局、与党が一番強い。どれだけ野党が厳しく追及して、どれだけ世論が盛り上がろうとも、与党がその気にならなければ絶対に動かない。これは私が今まで約15年、患者団体を通じた要望活動をしてきて学んだこと。最後は与党が動いてくれないと絶対ダメ。与党が動くパターンは2つあり、1つは自民党の中から声が上がること。今回の場合は“このままじゃダメだ、参議院議員選挙に負ける”という声が上がったことが大きかった。もう1つのパターンは連立を組んでいる公明党から自民党に声がいくこと。今回の場合は斉藤 鉄夫代表が複数回にわたって総理と会って、“高額療養費を変えるべきだ、あるいは凍結すべきだ”と言っていただいたことが決定打になっている」。天野氏のこの発言は、まさに患者の命を守るために最前線で闘った人の言葉で、かつ経験と覚悟に裏打ちされた内容である。少なくともそこに嘘やごまかしが入り込む余地はないと私は考えている。このような事実を見る限り、医療関連では一定の役割を果たしてきたと言えるだろう。世間では「下駄の雪」「政教一致政党」と揶揄され、私も前述のように「元祖バラマキ政党」と批判的に捉えている部分もあるが…。新たなカップル成立は医療界のリスクかそして最新のニュースを見る限り、自民党は公明党に代わって日本維新の会に触手を伸ばしていると報じられている。日本維新の会は高額療養費の負担上限引き上げに反対はしていたものの、そもそも政策として「国民医療費総額の年間4兆円削減」を公言している。その1つがOTC類似薬の保険外しである。私自身はこの政策自体を否定はしないが、さすがに一律で対応するのは問題ありと考えている。ちなみに、日本維新の会が先日の参院選で掲げたマニフェスト内で「社会保険料を下げる改革」として記述していたものを箇条書きすると、以下のようになる。OTC類似薬の保険適用除外費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外の促進人口減少等により不要となる約11万床の病床を、不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減(感染症等対応病床は確保)電子カルテ普及率100%達成電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供の実現診療報酬体系の再構築後発医薬品の使用原則化医薬分業制度の見直し職種間の役割分担の見直し・タスクシフト地域フォーミュラリの導入高齢者の医療費窓口負担を原則「7割引」に見直しこども医療費の無償化さて、これらがどう動くのか? 国政から目が離せない状況になっている。

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