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第217回 医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省

<先週の動き>1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省11月13日に財政制度等審議会は、2025年度予算編成に向けた議論を行い、財務省は医師の偏在対策が不十分であるとして、規制強化などを求める提言を行った。審議会で増田 寛也分科会長代理は、「これまでの取り組みは実効性が乏しかった」と指摘し、「診療報酬の減算などの経済的ディスインセンティブ措置を含め、より強力な対策が必要だ」と強調した。財務省は、医師多数区域での開業規制や診療報酬の地域別単価設定、自由開業・自由標榜の見直しなどを提言、また、地域で過剰な医療サービスを提供する医療機関に対し、診療報酬を減算する仕組みの導入の提案を行った。さらに、診療科別の医師偏在指標が不足している点を批判し、厚生労働省に対し、診療科ごとの医師偏在指標を早急に作成するよう求めた。これらの提言に対し、日本医師会は反発する可能性がある。政府は、年末までに医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定する予定だが、規制強化と医師確保の両立が課題となる。参考1)社会保障(財務省)2)過剰な医療への診療報酬減算を提言、財務省 偏在是正策、外来機能は「転換・集約」(CB news)3)医師偏在対策「手ぬるかった」財政審分科会で 増田氏は「もう一段強く」と主張(同)2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」が基本となることを受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は11月13日、患者の資格確認方法の変更に伴うルール見直しを了承した。このため厚生労働省は、医療機関や薬局がマイナ保険証や資格確認書で患者の資格を確認できるよう、療養担当規則を改正する。マイナンバーカードを持っていない人や、健康保険証としての利用を登録していない人でも、保険者から発行される「資格確認書」を医療機関に提示することで、これまで通り保険診療が受けられる。資格確認書は、カード型、はがき型、A4型の3種類があり、氏名や被保険者番号などが記載される。申請は不要で、対象者には現行の健康保険証の有効期限に応じて、加入している医療保険者から無償で交付される。デジタル庁では、資格確認書の交付や健康保険証の有効期限に関する情報を公開し、マイナンバーカードの未取得者や、マイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録していない人が従来通り保険診療を受けられるよう国民へ周知を図っている。中医協の小塩 隆士会長は、「マイナ保険証への移行に伴う混乱を懸念し、保険診療を受けられない人が出ないよう、必要があれば制度を改めるべきだ」と危惧している。厚労省は、マイナ保険証の利用促進に取り組む一方、国民が安心して保険診療を受けられるよう、制度の周知徹底に努めるとしている。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)12月2日以降の資格確認、療担規則見直しへ 厚労相が諮問 即日答申(CB news)3)2024年12月2日以降のマイナ保険証「以外」(資格確認書等)で保険診療受けるための法令整備を決定-中医協総会(2)(Gem Med)4)12月2日で発行停止の健康保険証、代わりとなる「資格確認書」の交付対象や方法は?-デジ庁が公開(CNET Japan)3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府医療費が高額になった場合に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、政府は自己負担の上限額を引き上げる方向で検討に入った。11月15日、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」で、高額療養費制度の見直しを求める意見が相次いだ。厚生労働省は、医療費の増加や患者の負担能力向上を踏まえ、上限額を引き上げることで医療費の抑制と現役世代の保険料負担軽減を図りたい考え。具体的な引き上げ幅は、年収区分に応じて7~16%を軸に調整されており、所得が低い人への配慮も検討されている。引き上げは2段階で行われ、2025年度に上限額を引き上げた後、2026年度には年収区分を細分化し、高所得者はより高い上限額とする見込みである。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限を設け、超過分を健康保険組合などの保険者が給付する仕組み。近年、高額な新薬の登場や高齢化により、医療費が高額化するケースが増加しており、制度の適用件数と支給総額は増加している。政府は、今回の見直しを通じて、支払い能力に応じた負担を求める「応能負担」を強化したい考え。その一方で、患者の自己負担が増えることから、与野党を問わず反発が出る可能性もあり、今後の議論の行方が注目されている。参考1)全世代型社会保障構築会議[第19回](内閣府)2)高額療養費、見直し求める 政府の有識者会議(日経新聞)3)「高額療養費制度」上限額引き上げる方向で検討 厚労省(NHK)4)高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大5万400円、来年夏めど(朝日新聞)4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省値上げが続く出産費用と支援策の課題について、厚生労働省は11月13日に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開き、出産費用の上昇や支援策の有効性を巡り多角的な議論が展開された。全国の正常分娩による出産費用は2024年度上半期で平均51万8,000円に達し、昨年度からさらに1万1,000円増加した。出産育児一時金は、2023年4月に42万円から50万円に引き上げられたが、実際の負担額を賄いきれないケースが多く、都道府県別では東京や神奈川で高額化が顕著となっている。一時金が不足する割合は、全国平均で45%に上り、個室利用料などを含めるとその割合は80%に達している。また、出産費用の「見える化」を目的としたウェブサイト「出産なび」についても検討会で報告が行われた。2024年5月に開設されたこのサイトは、認知率は36%、利用率は18%と低調で、妊婦の情報収集への活用が進んでいない現状が明らかとなった。その一方で、利用者の満足度は高く、妊婦が望む情報の充実が求められている。出産費用の保険適用(現物給付化)については賛否が分かれている。推進派は、経済的負担軽減や標準化の重要性を訴える一方、地方の産科医療体制への悪影響や財源問題を懸念する声もある。とくに一時金引き上げと同時に医療機関が費用を引き上げた印象が拭えず、さらなる分析が必要との意見が多く挙げられた。少子化対策として「安心して出産できる環境整備」の必要性が叫ばれる中、今後は出産費用の地域差解消や制度の簡素化、支援内容の拡充が急務となる。2025年春を目途に検討会での意見が集約される予定。参考1)第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省)2)「出産なび」を知らない妊産婦が6割超 開設後3ヵ月時点で 厚労省検討会に報告(CB news)3)出産育児一時金の引き上げで軽減されたはずが…妊婦の負担額が再び増加、原因は産院の値上げ(読売新聞)4)出産費用 半数近くで一時金の50万円上回る 厚生労働省(NHK)5)出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず-出産関連検討会(Gem Med)5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省美容医療をめぐるトラブル増加を受け、厚生労働省は規制強化に乗り出す。11月13日に開かれた厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、クリニックなどに安全管理措置の状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける案を含む報告書案が議論された。この背景には、美容医療に関する健康被害や料金トラブルなどの相談が急増している現状がある。国民生活センターへの相談件数は、2023年度には5,507件と、5年間で3倍に増加した。報告書案では、自由診療が多い美容医療は、保険診療に比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であることや、患者の要望や医師の技量によって合併症や後遺症のリスクも高まる可能性があることなどが課題と指摘している。対応策として、医療機関による定期報告の仕組み導入が提案された。報告内容には、安全管理措置の実施状況、医師の専門医資格の有無、トラブル発生時の相談窓口などが含まれ、患者にとって必要な情報は自治体が公表する。厚労省は、年内にも正式な対策をまとめる方針。また、この検討会で臨床研修修了直後に若手の医師が美容医療分野に流入していることが指摘されたが、この問題は医師の偏在是正の観点から、厚労省において別途必要な検討がなされる見込み。参考1)美容医療の適切な実施に関する報告書(案)(厚労省)2)美容医療の安全管理状況を自治体に年1回定期報告へ 健康被害や料金相談増加で厚労省方針(産経新聞)3)美容医療、安全管理状況を年1回報告へ 自治体に 厚労省方針(毎日新聞)4)美容医療「安全管理の報告」取りまとめ案 若手医師の“直美”「別途検討必要」(CB news)6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)は11月14日、生後6ヵ月の女児に抗菌薬を過剰投与する医療ミスがあり、女児が死亡したと発表した。女児は先天性疾患で入院しており、9月に肺炎症状がみられたため、医師が抗菌薬の点滴を指示した。しかし、医師は通常濃度の5倍の抗菌薬を投与するよう誤って指示し、看護師もそれに気付かず投与。さらに、投与時間も本来の2時間ではなく1時間と指示し、2倍の速度で投与していた。女児は点滴開始から約1時間後に心拍数が低下し、その後死亡が確認された。医師は「なぜ初歩的なことを間違ったのかわからない」と話しているという。病院では、医療事故調査委員会を設置し、投与と死亡の因果関係を調査する。また、病理解剖では、新型コロナウイルス感染や敗血症などの疑いもみられたが、抗菌薬の副作用に多い不整脈などは確認されなかったという。病院側は、医療ミスと死亡の因果関係は現時点では明らかではないとしているが、再発防止に向け、正しい希釈方法を看護師らが確認できるようシステムを改修するなどの対策を講じるとしている。参考1)規定量5倍の抗菌薬投与、女児が1時間半後に死亡…医師「なぜ初歩的なこと間違ったかわからない(読売新聞)2)兵庫県立こども病院 生後6か月の乳児 薬の過剰投与後に死亡(NHK)3)乳児に抗菌薬を過剰に投与、直後に死亡 兵庫・こども病院で医療事故(朝日新聞)4)兵庫県立こども病院で医療ミス 生後6カ月の女児に高濃度の抗菌薬を投与、2時間半後に死亡(神戸新聞)

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パンデミック中は国内在留外国人の自殺率も高まった

 国内に暮らす外国人の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自殺率に関するデータが報告された。外国人もパンデミックとともに自殺率が上昇したこと、男性においてはそのような変化が日本人よりも長く続いていたことなどが明らかにされている。筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野と国立国際医療研究センターグローバルヘルス政策研究センターの共同研究で、谷口雄大氏、田宮菜奈子氏、磯博康氏らによる論文が「International Journal for Equity in Health」に7月31日掲載された。 日本は世界的に見て自殺率が高いことが知られている。またCOVID-19パンデミック中に自殺率の上昇が認められた、数少ない国の一つでもある。一方、外国人の自殺率がパンデミックの影響を受けたのか否かは明らかにされていない。外国人は社会経済的な不平等にさらされやすく、医療アクセスの問題も抱えていることが多いため、パンデミック発生によって日本人よりも強い負荷が生じていた可能性がある。これらを背景として谷口氏らは、パンデミック中の国内在留外国人の自殺率がどのように変化したのかを、日本人と対比しながら詳細に検討した。 2016~2021年の厚生労働省「人口動態調査」の個票データから、自殺による死亡に関するデータを取得。年齢、性別、国籍の情報が欠落している人を除外したところ、この間の自殺者数は、日本人が12万1,610人(うち女性31.2%)、外国人は1,431人(同37.5%)だった。年齢については日本人男性が中央値52歳(四分位範囲38~68)、日本人女性は同55歳(39~72)、外国人男性は48歳(31~63)、外国人女性は50歳(35~63)だった。本研究では四半期ごとの自殺率を、人口に占める自殺者数の割合で表し、パンデミック前の対照期間(2016~2018年)の自殺率の変動との差分(difference-in-differences;DD)を算出することで、パンデミックの影響を推定した。 四半期ごとの自殺率を日本人と外国人で比較すると、男性と女性の双方において、常に日本人の自殺率の方が高値で推移していた。この差は、自殺率が高かった高年齢層の割合が、日本人で高かったことが一因と考えられる。年齢で層別化(40歳未満、40~59歳、60歳以上)して解析した結果、59歳以下の層において日本人と外国人との自殺率の差が顕著だった。 国籍別に見ると、パンデミック前より自殺率が高いことが報告されていた韓国・朝鮮籍の人では、ほかの国籍の外国人や日本人よりも高い自殺率で推移し、特に60歳以上の男性で顕著に高値だった。なお、韓国・朝鮮籍の自殺者数は、外国人自殺者の過半数(男性50.4%、女性51.1%)を占めていた。 ところで、パンデミック発生とともに国内の自殺率はいったん低下し、その後、反転して高値となったことが知られている。日本人におけるパンデミック初期の自殺率低下は、危機的状況における社会的な連帯感の高まり、労働時間の減少、政府による給付金などが背景にあるのではないかと推測されているが、外国人は、それらの恩恵を受けにくかった可能性がある。実際に本研究でも、2020年第2四半期のDDは、日本人の方が外国人よりも有意に低かった。 例えば、対照期間と比較した場合の同四半期の男性の自殺率は、日本人ではDD-0.90(95%信頼区間-1.12~-0.68)と統計学的に有意に低下したのに対して、外国人は0.97(同0.096~1.85)と有意に上昇しており、日本人と在留外国人の自殺率の推移の差を示すDDの差(difference-in-difference-in-differences;DDD)が1.87(1.20~2.54)と有意だった。女性においても、同四半期の日本人では自殺率が有意に低下した一方、外国人では有意な変化が認められず、DDDは1.23(0.51~1.94)と有意だった。 また、日本人男性における自殺率は2021年第3四半期以降、対照期間と有意でないレベルに低下した一方、外国人男性の自殺率は有意な上昇が続き、同年第4四半期のDDDは1.48(0.81~2.15)と有意であり、パンデミックの影響が日本人よりも長期間続いていた可能性が考えられた。なお、女性のDDDについては2021年以降、日本人と在留外国人の間で有意な差を認めなかった。 著者らは、「COVID-19パンデミック中、全体として在留外国人と日本人の双方で自殺率の上昇が見られた。初期には日本人では自殺率の低下が観察されたが外国人では見られず、また外国人男性の自殺率は2021年末まで高止まりしていた。われわれの研究結果は、パンデミックのような状況においては、社会経済的に脆弱な集団に対して適切なメンタルヘルスサポートが必要なことを示唆している」と総括。また、パンデミック中に外国人男性、特に、失業率が高かったと報告されている韓国・朝鮮籍の男性において自殺率が特に上昇していたことを指摘し、「適切な雇用機会の確保も重要」と述べている。

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新型コロナ感染中の運転は交通事故のリスク【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第269回

新型コロナ感染中の運転は交通事故のリスク疾患によっては、罹病中に運転することが交通事故のリスクとされるものがあります。たとえば、糖尿病でインスリン治療を受けている人は、無自覚低血糖によって運転の支障を来すことがあります。そのため、運転免許証の取得や更新時に虚偽申告をした場合の罰則規定が設けられています。運転前に血糖測定を行うように指導することが重要です。発熱していて、医療機関を受診する場合、公共交通機関を使うと他人に感染を広げてしまうので、自家用車を自分で運転して受診する人が多いでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、どうも交通事故のリスクが高くなるようで…。Erdik B, et al. Driving Under the Cognitive Influence of COVID-19: Exploring the Impact of Acute SARS-CoV-2 Infection on Road Safety. Neurology, 2024;103 (7_Supplement_1):S46-S47.この論文は、COVID-19の急性発症と交通事故数の関連性を調査したものです。2020~22年のデータを用いて、米国7州での交通事故記録とCOVID-19の統計を比較分析しました。結果、急性のCOVID-19と交通事故増加の関連性が観察されました(オッズ比:1.5)。つまり、急性期のCOVID-19で運転すると、交通事故のリスクが高くなるということです。ちなみに、この交通事故リスクは、飲酒運転やてんかんを持っている場合のリスクと同程度であったと考察されています。これを受けて筆者らは、COVID-19は、その後の後遺症(Long COVID)だけでなく、急性期の交通事故リスクを高める可能性があると指摘しています。熱があればそりゃしんどいだろうと思いますが、機序としてはウイルスの神経系への影響とも述べられています。医療従事者は、COVID-19の患者を診療する際、認知・運転の低下の可能性を考慮する必要があります。できるなら、家族が運転する車で来院いただきたいところですね。

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将来は1時間程度で結果が出る血液検査が可能に?

 いつの日か、手のひらサイズの血液検査デバイスで、わずか1時間程度で結果を得られるようになる可能性を示唆する研究結果が報告された。この携帯型デバイスは手のひらに収まる大きさで、音波を使って少量の全血サンプルからバイオマーカーを分離・測定するもので、検査の全プロセスに必要な時間は70分足らずだという。米コロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のWyatt Shields氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」10月16日号に掲載された。Shields氏は、「われわれは使いやすく、さまざまな環境で導入でき、短時間で診断に関する有用な情報を提供する技術を開発した」と話している。 このような少量の血液を用いた血液検査に関する報告は、今回が初めてではない。血液検査会社のTheranos社は「1滴の血液で数百種類のバイオマーカーを測定できる」との触れ込みで事業を展開していたが、2015年に虚偽であることが発覚。同社は2018年に解散し、創業者のElizabeth Holmes氏は禁固11年超の有罪判決を受け、現在も服役中である。 Shields氏らによると、今回報告された新たなデバイスは、システマティックな実験と査読を受けた研究をベースとしたものであり、Theranos社が主張した検査とは仕組みが異なるという。研究論文の筆頭著者でコロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のCooper Thome氏は、「彼らが主張したことを今すぐに実現するのは不可能だが、多くの研究者が似たようなことが可能になるのを望んでいる。今回の研究は、その目標に向けた1歩となるかもしれない。ただし、誰でもアクセスできる科学的根拠に裏付けられている」と話している。 現在使われている血液検査は、針や注射器で1本またはそれ以上のバイアルに血液を採取する必要があり、検査機関から結果が出るまで数時間から数日かかる。新型コロナウイルスへの感染や妊娠の有無を調べる迅速検査では、血中あるいは尿中のバイオマーカーの有無に基づき、迅速に「イエス」か「ノー」の情報が提供される。しかし、これらの検査ではバイオマーカーの量を測定することはできない。 今回報告された新たな検査技術は、血液サンプルの中のさまざまなバイオマーカーを捉えるように設計することができる「機能的負の音響コントラスト粒子(functional negative acoustic contrast particles;fNACPs)」を用いたもの。fNACPsは、特定のバイオマーカーを全血から直接捕まえるための「目印」を持っている。採取された血液サンプルをデバイス内でfNACPsと混ぜ合わせると、音波の作用によってターゲットとなるバイオマーカーを捕縛したfNACPsが採取チャンバーにとどまり、他の血液成分は洗い流される。fNACPsが捕縛した各バイオマーカーは蛍光タグで標識され、ポータブル蛍光計とフローサイトメーターでその量が測定されるという仕組みだ。Thome氏は、「われわれの検査は、基本的には極めて少量の液体から音波を使って迅速にバイオマーカーを分離している。これは血中のバイオマーカーを測定する全く新しい方法だ」と大学のニュースリリースで述べている。 このデバイスが実用化されるまでにはさらなる研究が必要であるが、ベッドサイドや移動診療所で指先穿刺によって採取された血液から重要な医療情報がただちに提供される日が来ることをShields氏らは思い描いている。Shields氏は、「急速に広がるウイルス感染症が出現した場合や、急性呼吸器疾患や炎症性疾患の場合、実際に何が起こっているのかを素早く正確に測定できるようにしておくことは重要だ」と言う。研究グループはまた、「この検査は、ブースター接種の必要性や、特定のアレルギーやがんに関連するタンパク質保有の有無を判定するのにも役立つ可能性がある」と述べている。

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第238回 広がる救急車利用の選定療養費化、茨城県では筑波大病院1万3,200円、土浦協同病院1万1,000円、その他病院7,700円と料金に違い

救急車利用の選定療養費化のスキーム、じわりじわりと広がる気配こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンはストーブリーグに突入、今年も日本からMLBに誰が行くのかで盛り上がっています。そんな中、千葉ロッテマリーンズは11月9日、佐々木 朗希投手(23)の今オフのポスティングによるメジャー挑戦を容認することを発表しました。あと2年待てばMLBの「25歳ルール」による契約金制限が解けるので、佐々木投手自身も、譲渡金の入る球団も金銭的にWin-Winとなったでしょうが、ロッテとしては、佐々木投手の“わがまま”に折れた形での容認となりました。2022年の完全試合の印象は強烈ですが、大事に育てられ過ぎたのか、故障も多く5年間で登板はわずか64試合で、29勝15敗、防御率2.10という「中の下」の成績です。中4日、中5日で162試合を戦うMLBで果たして通用するのでしょうか。日本で怪我がちだった選手の多くは、MLBでも早々と故障してしまう傾向にあります。同じくMLB挑戦予定の、“旬”を過ぎた読売ジャイアンツの菅野 智之投手(ストレートで150キロ出ない)とともに、今後の“活躍”を見守りたいと思います。さて今回は、全国で広がりを見せ始めた軽症患者の救急車利用の“有料化”について書いてみたいと思います。“有料化”とは言っても、厳密には保険外併用療養費制度の一つ、選定療養費の仕組みを活用したものですが、三重県松阪市に続いて、茨城県が全県での導入を決め、12月からスタートさせます。救急車利用の選定療養費化のスキームは今後じわりじわりと広がっていきそうな気配です。軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」としてガイドラインで例示茨城県は10月18日、「緊急性のない救急搬送患者から選定療養費を徴収する際のガイドライン」(救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン)1)を策定、公表しました。県内22病院で12月2日から救急車による救急搬送の際、緊急性が認められなかった場合に、患者から選定療養費を徴収する予定です。対象となる患者については、軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」として例示しました。なお、県単位で救急搬送に選定療養費の仕組みを導入するのは全国で初めてです。茨城県によれば2023年度の救急搬送は14万3,046件で増加傾向が続いているとのことです。うち6万8,549件、47.9%を軽症等が占めており、この状況が続けば救急医療の体制が維持できなくなるとして、4月以降検討を重ね、厚生労働省や県医師会、各病院などと協議を経て、選定療養費化に至ったとのことです。「軽症」と診断された場合も救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースは徴収の対象外同ガイドラインは、患者が救急車で搬送された場合、選定療養費の対象となる「緊急性が認められない」ケースかどうかを医療機関が判断する目安として作られました。具体的には、救急車要請時の緊急性が認められない可能性がある主な事例として、以下が提示されています。ア. 明らかに緊急性が認められない症状:1)軽度の切り傷のみ、2)軽度の擦過傷のみイ. 緊急性が低い症状(※ただし、別の疾患の兆候である可能性あり):1)微熱(37.4℃以下)のみ、2)虫刺創部の発赤、痛みのみで、全身のショック症状は無い、3)風邪の症状のみ、4)打撲のみ、5)慢性的又は数日前からの歯痛、6)慢性的又は数日前からの腰痛、7)便秘のみ、8)何日も前から症状が続いていて特に悪化したわけではない、9)不定愁訴のみ、10)眠れないのみイについては「緊急性が低いことから、基本的に緊急性が認められないものとするが、診断の結果、別の疾患の兆候である可能性を否定できず、評価が難しいケースや判断に迷うケースである場合は、緊急性が認められるものとして差し支えない」として、現場で選定療養費の徴収対象外と判断して構わないとしています。なお、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時には改善して結果として「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当するため、徴収の対象とはならないとしています。徴収額は初診患者の選定療養費に準じる茨城県は7月に全県での導入を公表、12月から多くの救急患者を受け入れている県内22病院で一斉に運用を開始することにしました。紹介状なしの初診患者から選定療養費の徴収を義務付けられている県内22病院のうち、友愛記念病院と古河赤十字病院(いずれも古河市)は12月時点の参加を見送り、既に選定療養費を徴収していた病院が20病院、徴収していない病院が2病院となりました。徴収額は紹介状なしの初診患者の選定療養費と同額となるため、病院ごとに異なります。筑波大学附属病院が1万3,200円、総合病院土浦協同病院と筑波メディカルセンター病院が1万1,000円、白十字総合病院が1,100円で、ほかの病院は7,700円(いずれも税込)。なお、白十字総合病院と筑波学園病院は地域医療支援病院等ではなく、紹介状なしの初診の選定療養費徴収が義務付けられていませんが、今回、軽症救急患者に限って選定療養費を設定したとのことです。「救急車の有料化ではありません」と県は強調茨城県は今回の救急車利用の選定療養費化について、一般向けにQ&A集も用意しています。それによれば、「Q.救急車を有料化するということですか?」という質問に対しては、「救急車の有料化ではありません。既存の選定療養費制度の運用を見直し、救急車で搬送された方のうち、救急車要請時の緊急性が認められない場合には、対象病院において選定療養費をお支払いいただくものです」と、「有料化ではない」旨を強調しています。有料化と選定療養費化は制度が違うと言われても、県民にとっては“負担増”になるのは同じです。これまで無料だった筑波大学附属病院への搬送が1万3,200円というのは、かなりの出費と言えるでしょう。軽症者のタクシー代わりの救急車利用の抑止力としては、それなりに機能しそうです。三重県松阪市は3ヵ月間のモニタリング結果を公表ところで、救急車利用の選定療養費化の先駆けだった三重県松阪市は10月25日、三重県松阪地区で2次救急医療を担う3病院(松阪市民病院、松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院)における、救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費を徴収する取り組みのモニタリング結果を報告しました2)。三重県松阪地区では3病院において、6月から救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費7,700円を徴収する取り組みを始めていました。報告されたモニタリング期間は、運用開始の2024年6月1日~8月31日の3ヵ月間で、救急車で3病院に搬送(病院収容)された人を対象に、搬送された時間帯や年齢、特別の料金の徴収有無に加え、主たる搬送要因・傷病名などを調査しました。選定療養費の徴収対象となったのは278人、7.4%3病院の救急搬送における費用徴収の状況について、救急車で3病院に搬送された3,749人のうち、帰宅となり、さらに費用徴収の対象となったのは278人、7.4%でした。徴収対象者の傷病内訳としては、最多は疼痛24人(8.6%)、次いで打撲傷21人(7.6%)、熱中症・脱水症21人(7.6%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)16人(5.8%)、めまい15人(5.4%)、胃腸炎・食道炎等15人(5.4%)でした。徴収対象外となった1,778人の内訳は、「緊急の患者等、医師の判断による」が最多で1,014人(57.0%)。そのほか、再診が408人(22.9%)、交通事故等が178人(10.0%)、生活保護受給者が88人(4.9%)、紹介状ありが57人(3.2%)でした。費用を徴収した278人のうち高齢者が114人(41.0%)でした。「持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認」と松阪市傷病程度別の救急搬送人員数は、軽症者率が52.9%と前年同期の59.4%から6.5%減少した一方で、中等症者率が42.8%と前年同期の37.0%から5.8%増加しました。一方、「松阪地区救急相談ダイヤル24の相談件数」は7,969件で、前年同期と比較して2,390件(42.8%)増加しました。以上の結果を踏まえ、松阪市は「医療機関の適正受診に繋がる状況が確認でき、今回の取り組みは、『一次二次救急医療の機能分担』、ひいては、『救急車の出動件数の減少』等、持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認できたのではないか」と評価しています。松阪市、茨城県に続く自治体が今後続出することは必至モニタリング期間のため、ゴリゴリと選定療養費を徴収してはいない状況にあって、徴収対象が7.4%というのは結構高い数字と言えるのではないでしょうか。紹介状なしの200床以上の病院(特定機能病院、地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関)の初診・再診時などに、病院が独自に設定した選定療養費を徴収する仕組みを軽症救急患者に適用するというスキーム、誰が考えたのか、なかなか名案だと思います。ただ、松阪市のように管轄の3病院だけでやるのではなく、茨城県のように全県で対応したほうが、国民に“正しい”救急車利用の仕方を周知できるでしょう。さらに言えば、茨城県のケースでも、病院によって選定療養費にバラツキがあるのは今後の制度定着に向けては具合が悪そうです。今後、軽症救急の選定療養費は紹介状なしの額とは別に「県内均一」にする、2次救急、3次救急で額を変える、といった工夫が必要でしょう。いずれにせよ、松阪市、茨城県に続く自治体が続出することは必至と考えられます。参考1)救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン/茨城県2)三基幹病院における選定療養費について/松阪市

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乾癬への生物学的製剤、真菌感染症のリスクは?

 生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症リスクはどれくらいあるのか。南 圭人氏(東京医科大学皮膚科)らの研究グループは、臨床現場において十分に理解されていないその現状を調べることを目的として、単施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、インターロイキン(IL)-17阻害薬で治療を受けた乾癬患者は、他の生物学的製剤による治療を受けた患者よりも真菌感染症、とくにカンジダ症を引き起こす可能性が高いことが示された。さらに、生物学的製剤による治療を開始した年齢、糖尿病も真菌感染症の独立したリスク因子であることが示された。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2024年9月30日号掲載の報告。 研究グループは、生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症の罹患率とリスクを評価することを目的として、乾癬患者592例を後ろ向きに調査した。 主な結果は以下のとおり。・73/592例(12.3%)において真菌感染症が確認された。・IL-17阻害薬を使用した患者は、他の生物学的製剤を使用した患者よりも真菌感染症の発生率が高率であった。・真菌感染症のリスク因子は、生物学的製剤の種類(p=0.004)、生物学的製剤による治療開始時の年齢(オッズ比:1.04、95%信頼区間:1.02~1.06)、および糖尿病(同:2.40、1.20~4.79)であった。 著者らは、本研究には生物学的製剤による治療を受けなかった患者が対象に含まれていなかったこと、使用されていた生物学的製剤の種類が多くの患者で変更されていたことなどの限界を指摘している。

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第240回 ウイルス学者が自身の乳がんを手ずから精製したウイルスで治療

50歳の女性科学者が研究室で手ずから作ったウイルスで自身の乳がんを治療し、成功しました。クロアチアのザグレブ大学のBeata Halassy氏は2016年に乳がんと診断され、その2年後の2018年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)を再発します。さらに2020年にはかつて乳房切除したところの最初は小さかった漿液腫が直径2cmの固形腫瘍へと進展して、2回目の再発に直面しました1)。MRI/PET-CT検査で転移やリンパ節への移行は認められなかったものの、腫瘍は胸筋や皮膚に達していました。Halassy氏はその再発も手に余るTNBCであろうと覚悟し、がん細胞を死なせ、抗腫瘍免疫を促す腫瘍溶解性ウイルスに似たウイルスを腫瘍へ投与する治療をする、と彼女を診る腫瘍科医に告げました。腫瘍溶解性ウイルス治療(OVT)の経過を観察することを腫瘍科医は了承し、有害事象や腫瘍進展の際にOVTを止めて定番療法が始められるようにしました。OVTの臨床試験は進行した転移を有するがんをもっぱら対象としてきましが、転移前のがんを対象とする開発も始まっています。たとえば、転移前の乳がんのOVT込み術前治療を検討した第I/II相試験で奏効率向上効果が示唆されています2)。Halassy氏はOVTの専門家ではありませんが、ウイルスの培養や精製の経験はOVT治療の実行の自信となりました。Halassy氏はかつて研究で扱ったことがある2つのウイルスを順番に自身のがんに投与しました。その1つは小児ワクチン接種で安全なことが知られる麻疹ウイルス(MV)のエドモンストンザグレブ株です。もう1つは副作用といえばせいぜい軽いインフルエンザ様症状を引き起こすぐらいで、ヒトにほとんど無害な水疱性口内炎ウイルス(VSV)のインディアナ株です。MVは乳がんで豊富に発現する分子2つを足がかりにして細胞に侵入し、VSVはマウスでの検討で乳がん阻止効果が認められています。Halassy氏の共同研究者はHalassy氏が準備したそれらウイルスをHalassy氏の腫瘍に2ヵ月にわたって直接注射しました。幸いOVTはうまくいき、もとは2.47cm3だった腫瘍は0.91cm3へと大幅に縮小しました。硬すぎて注射針を刺すのが極めて困難だった腫瘍は、治療後にやわ(softer)になって容易に注射できるようになりました1)。また、侵襲していた胸筋や皮膚から離脱し、手術で取り除きやすくなりました。全身の副作用といえば発熱と寒気ぐらいで、深刻な副作用は認められませんでした。取り出した腫瘍を調べたところ、免疫細胞のリンパ球が腫瘍塊の45%を占めるほどにがっつり侵入しており、リンパ球と線維組織が豊富で腫瘍細胞が見当たらない部分もありました。そのような豊富な線維化は昔ながらの術前化学療法での完全寛解後にしばしば認められます。どうやらOVTは目当ての効果を発揮して免疫系の攻撃を導いたようです。取り出した腫瘍にHER2が認められたことからHalassy氏は手術後に抗HER2抗体トラスツズマブを1年間使用しました。そして手術後に再発なしで45ヵ月を過ごすことができています。数多のジャーナルが掲載拒否Halassy氏の手ずからのウイルス治療の報告は十数ものジャーナルに却下された後、今夏8月にようやくVaccines誌に掲載されました。Halassy氏の自己治療(self-experimentation)の掲載を拒否したジャーナルの倫理上の懸念は意外なことではないとの法と医学の専門家Jacob Sherkow氏の見解がNattureのニュースで紹介されています3)。掲載したら患者が定番の治療を拒んでHalassy氏のような治療を試すことを促してしまうかもしれないということが問題なのだとSherkow氏は言っています。一方、自己治療の経験が埋没しないようにする手立ても必要だとSherkow氏は考えています。Halassy氏もSherkow氏が指摘するような心配は心得ており、がんの最初の治療手段として腫瘍溶解性ウイルスを自己投与してはいけないと言っています1)。そもそも、実行には多大な科学的素養と技術を要する自身の治療を真似ようとする人はいないだろうとHalassy氏は踏んでいます。Halassy氏が望むのは、自身の経験ががんの術前治療でのOVTの使用を検討する正式な臨床試験が進展することです。いまやHalassy氏の経験から新たな道が生まれようとしています。この9月にHalassy氏は家畜のがんを腫瘍溶解性ウイルスで治療する取り組みへの資金を手に入れました3)。目指すものが自身の自己治療の経験によってまったく違うものになったとHalassy氏は言っています。参考1)Forcic D, et al. Vaccines (Basel). 2024;12:958. 2)Soliman H, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:1012-1018.3)This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab / Nature

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第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

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次世代のCAR-T細胞療法―治療効果を上げるための新たなアプローチ/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が開催され、13日のJSH-ASH Joint Symposiumでは、『次世代のCAR-T細胞療法』と題して、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)療法の効果の毒性を最小限にとどめ、治療効果をより高めるための新たな標的の探索や、細胞工学を用いてキメラ抗原受容体(CAR)構造を強化した治療、およびoff the shelf therapyを目標としたiPS細胞由来次世代T細胞療法の試みなど、CAR-T細胞療法に関する国内外の最新の話題が紹介された。CAR-T細胞療法を最適化するための新しい標的の開発 CAR-T細胞療法はB細胞性悪性腫瘍や多発性骨髄腫(MM)などに対する効果が認められているが、毒性については解決すべき課題が残っている。ガイドラインでは主な合併症として、サイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が取り上げられているが、CAR-T細胞療法による新たな、または、まれな合併症とその管理についての情報は少なく、新たな標的の検討とともに明らかにしていく必要がある。米国血液学会(ASH)のCAR-T細胞療法のワークショップでは、CAR-T細胞の病態生理の理解、まれな毒性についてのデータの蓄積、on-target off-toxicityを回避するための的確な標的となる抗原などが検討されている。 Fabiana Perna氏(Moffitt Cancer Center)らは腫瘍関連抗原(TAA)および腫瘍特異的抗原(TSA)、さらに腫瘍特異的細胞表面プロテオームの解析を行っている。同氏らはこれまで、急性骨髄性白血病(AML)におけるCAR-T細胞療法の標的を同定するために、プロテオームと遺伝子発現の同時解析を行い、26個の標的を同定した。このうち15個は臨床試験で用いられ、その多くがAMLの正常細胞上に高発現する蛋白であった。 MMに対してはB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T(BCMA-CAR-T)細胞療法の成績は良好とはいえず、新たな標的抗原が必要である。Perna氏らはMM患者約900例のサンプル約4,700検体を用い細胞表面のプロテオームを解析し、RNAシーケンスを行い、腫瘍組織に高発現するBCAAを含む6個の標的を同定した。そのうちSEMA4Aは再発/難治性MM患者での高発現が認められた。BCMA-CAR-T細胞療法後の再発はBCMAの発現低下に関連し、CARの機能低下を惹起すると考えられ、的確な標的の探索が必要である。Perna氏らはSEMA4AがCAR-T細胞療法の標的となりうると考え、SEMA4A-CAR-T細胞療法を試みている。なお、MM患者の免疫療法に関しては第I相試験が予定されている。 また、Perna氏らはmRNAスプライシングに由来する白血病特異的抗原の解析パイプラインを開発中であり、AML患者サンプルからスプライスバリアントの異常発現を認めたことから、同氏は、疾患特異的スプライスバリアントを標的とした治療法につながることを期待していると述べた。CAR-T細胞療法抵抗性克服と新たな応用の探求 CAR-T細胞療法は、CD19およびBCMA抗原を標的として、B細胞性悪性腫瘍(リンパ腫、白血病)およびMMに対して行われている。BCMA-CAR-T細胞療法は初期治療の奏効率は高いが、長期寛解率は低くとどまっている。CAR-T細胞の機能不全は抗原逃避、T細胞欠損、腫瘍微小環境(TME)などにより惹起される。そこで、酒村 玲央奈氏(メイヨー・クリニック 血液内科)は、CAR-T細胞療法の治療抵抗性克服と新たなストラテジーを探求するうえで、重要な鍵となる免疫抑制細胞について検討した。 がん関連線維芽細胞(CAF)は、CAR-T細胞の機能不全を誘導するが、同時にMM患者の治療効果を高める可能性があると考えられている。これまでの酒村氏の検討でMM患者由来のCAFがTGF-βなど抑制性サイトカイン産生を増加させ、PD-1/PD-L1結合を介してCAR-T細胞を阻害し、FAS/FASリガンド経路を介してCAR-T細胞にアポトーシスを誘導、制御性T細胞(Treg)を動員することが示された。また、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的としたCAR-T細胞はマウスの体重を有意に減少させ、off target効果による重篤な毒性を惹起すると考えられ、CAF表面上に発現するCS1およびBCMAの2つを標的としたCAR-T細胞は腫瘍細胞およびCAFを溶解することが示された。さらに、BCMA-CAR-T細胞療法施行患者由来の骨髄サンプルを用いたシングルセルRNAシーケンスを行い、non-responder由来のCAFが高頻度にデスリガンド(抗腫瘍性リガンド)を発現すること、non-responder由来のT細胞は慢性的に刺激され疲弊したphenotypeであることが明らかとなった。また、non-responder由来の骨髄サンプルではTMEを支配する腫瘍関連マクロファージ(TAM)とCAFの有意なクロストークの存在が示された。 間葉系幹細胞(MSC)は多能性細胞であり、免疫抑制および組織再生治療における効果が研究されている。そこで酒村氏は、MSCの免疫抑制効果を向上させるために、細胞工学技術を用い健康な人から得た脂肪由来のMSCにCARを搭載し、移植片対宿主病(GVHD)に対する治療戦略をマウスモデルで検討した。研究には、とくにGVHDをターゲットとしたE-cadherin(Ecad)特異的なCAR-MSC(EcCAR-MSC)を用いた。EcCAR-MSCの開発では、Ecad特異的な単鎖可変フラグメント(scFV)クローンが生成され、CAR-CD28ζ構造を設計し安定発現させてMSCの免疫抑制機能を強化したことが示された。 GVHDモデルにおいてEcCAR-MSCはマウスの体重減少を軽減し、GVHD症状を緩和し生存率を向上させた。また、Ecad陽性大腸組織へ特異的に移行し、T細胞活性を抑制し免疫調節機能効果を向上させた。また、シングルセルRNAシーケンスにより、抗原特異的刺激を受けたEcCAR-MSCにおいてIL-6、IL-10、NF-κBなどの免疫抑制シグナル経路の活性化が認められた。EcCAR-MSCのCD28ζシグナルドメインを含むCAR構造体はより強い免疫抑制効果を示した。 酒村氏は、CARを用いたMSCの免疫抑制機能を強化する新たな細胞治療とGVHDおよび腫瘍抑制における可能性を提示した。また、MSCの開発は免疫環境の調節を可能とし、炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など自己免疫疾患の治療にも新たなアプローチを提供するものと考えると述べ、CAR-T細胞療法を進展させ、より多くの患者予後の改善を目指したいと結んだ。難治性腫瘍に対するiPS細胞由来次世代T細胞療法の開発 難治性NK細胞リンパ腫に対しては、L-アスパラギナーゼを含む抗がん剤治療や末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)による細胞治療が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。とくに末梢血由来T細胞は細胞治療後に疲弊し、長期的には腫瘍が増大することが知られている。そこで、安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科血液内科学)はNK細胞リンパ腫患者の末梢血よりエプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原特異的CTLを使用し、iPS細胞を作製後、再びT細胞に分化誘導し、iPS細胞由来若返りCTL(rejT)を作製し、NK細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、rejTはNK細胞リンパ腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示した。次いでNK細胞リンパ腫細胞株を腹腔内注射したマウスを用い、rejTおよび末梢血由来T細胞で治療し生体内での抗腫瘍効果を比較検討した結果、両群とも有意な腫瘍増大抑制効果が認められた。さらにrejTは末梢血由来T細胞に比べ有意な生存期間延長効果を示し、マウス体内でメモリーT細胞として長期間生存し、リンパ腫再増殖抑制効果が持続したことが示された。 次いで安藤氏は、末梢血EBV抗原LMP2特異的CTLからiPS細胞を作製し分化誘導後、iPS細胞由来若返りLMP2抗原特異的CTL(LMP2-rejT)がEBV関連リンパ腫に対し強い抗腫瘍効果を発揮することをマウスモデルで証明した。また、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期生存し、難治性リンパ腫の再発抑制を維持することを確認した。 安藤氏はこの手法を応用し、LMP2-rejTにCARを搭載することで、2つの受容体を有し、同時に2つの抗原(CD19、LMP2抗原)を標的にできるiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスを用いた検討ではDRrejTは受容体を1つのみ有する従来のT細胞に比べ、難治性の悪性リンパ腫に対し強力な抗腫瘍効果と、生存期間延長効果を示し、メモリーT細胞として長期生存が示された。 また、安藤氏はiPS細胞に小細胞肺がん(SCLC)に高発現するGD2抗原標的キメラ抗原受容体(GD2-CAR)を遺伝子導入後、分化誘導したiPS細胞由来GD2-CART細胞(GD2-CARrejT)を作製し、SCLCに対する強い抗腫瘍効果を示した。さらに、GD2-CARrejTは末梢血由来のGD2-CART細胞に比べ、疲弊マーカーであるTIGITの発現がきわめて低いことを明らかにした。また、マウスの検討でGD2-CARrejTは末梢血由来LMP2-CTLに比べNK/T細胞リンパ腫を抑制することが示された。 さらに、安藤氏はiPS細胞由来ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的CTL(HPV-rejT)を作製し、HPV-rejTは末梢血由来CTLと比較して子宮頸がんの増殖を強力に抑制することを確認した。子宮頸がん患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化には課題がある。一方、健康な人のCTLから作成した他家iPS細胞を用いた場合、これらの問題は解決するが、患者免疫細胞からの同種免疫反応により抗腫瘍効果が減弱する。そこでCRISPR/Cas9技術を用い、HLAクラスIをゲノム編集した健常人由来他家HPV-CTL(HLA-class I-edited HPV-rejT)を作製した。マウスを用いた検討で、HLA-class I-edited HPV-rejTは患者免疫細胞から拒絶されずに子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。また、末梢血由来HPV-CTLに比べ、細胞傷害活性に関するIFNG遺伝子や、組織レジデントメモリー細胞に関係するITGAE遺伝子などの発現レベルが有意に高く、組織レジデントメモリー細胞を豊富に含むことが示された。これらの機能解析により、HLA-class I-edited HPV-rejTはTGF-βシグナリングによりCD103発現レベルを上昇させ、その結果、抗原特異的細胞傷害活性が増強することが明らかとなった。現在、HLA-class I-edited HPV-rejTを用いた治療の安全性を評価する医師主導第I相試験が進行中である。 安藤氏はiPS細胞由来の抗原特異的、そしてHLA編集細胞が、off the shelfのT細胞療法に、持続可能で有望なアプローチを提供するものと期待されると締めくくった。

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第121回 高額過ぎて新型コロナワクチン接種が進まない

各学会から見解2024年10月に、日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会の3学会から合同で、「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が発出され1)、「高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨」と記載されました。そして、日本小児科学会から「2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」も発出され2)、「生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)が望ましい。特に、重症化リスクが高い基礎疾患のある児への接種を推奨」という文面になりました。こうした学会の見解は、これまでのエビデンスに裏付けられたものであり、一定の合理性を感じます。「変異ウイルスに効かない説」いまだによく聞く言説として、今年のワクチンはもう新しいKP.3系統に効果がないというものがあります。これは誤解です。確かに、従来のワクチン(起源株の1価ワクチン、BA.4・BA.5を含む2価ワクチン、XBB.1.5の1価ワクチン)やXBB以前の獲得免疫については、現在の主流株であるKP.3にはやや劣る側面があるかもしれません。しかし、現在定期接種で用いられているJN.1の1価ワクチンは、ここよりも下位系統に対して中和抗体の誘導が可能で、現在主流のKP.3系統も含めて発症予防効果があると考えられています3)。この冬に流行するのは、おそらくXEC株というものですが、これはKS.1.1(JN.13.1.1.1)とKP.3.3(JN.1.11.1.3.3)の組み換え体であるため4)、これもJN.1対応の現行ワクチンで効果があると思われます。ちなみに、JN.1対応ワクチンを接種した場合、KP.3株およびXEC株に対する中和抗体価は、JN.1株ほどではないものの有意に向上したという査読前論文があります5)。この冬に流行しそうな株は、現行ワクチンで十分と考えられます。現状、過去のワクチン接種の後、効果がなくなってしまった人がほとんどなので、とくに定期接種対象者についてはどこかで接種を検討する形でよいかと理解しています。高額過ぎて打てない自治体によって対応に差はありますが、ほとんどの子供は定期接種対象者ではありません。そのため、新型コロナワクチンの接種費用はガチでかかります。約1万5,000円です。家族4人で打つと6万円ということになるので、それなら感染予防を心掛けて今年の冬を乗り切ろうというご家庭が多いかもしれません。この費用負担が、新型コロナワクチンの接種を妨げる一因ともいえます。インフルエンザワクチンは接種するものの、コロナワクチンは見送る──そんなご家庭が増えているのが現状です。さらに、レプリコンワクチンに関する誤情報も影響している可能性があります。実際、Meiji Seika ファルマは、こうしたデマに対して訴訟を起こすなど、厳しい対応を行っています。諸外国では無料で接種できる国も多く、日本の現状は「予防医学の理想」からは遠い位置にあります。将来的にインフルエンザとの混合ワクチンが実現する際には、この費用の問題も解決されることが期待されます。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会, 日本呼吸器学会, 日本ワクチン学会. 2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(2024年10月17日)2)日本小児科学会. 2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2024年10月27日)3)厚生労働省. 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会資料. 資料1「2024/25シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について」(2024年5月29日)4)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 XEC variant. bioRxiv. 2024 Oct 17. [Preprint]5)Arona P, et al. Impact of JN.1 booster vaccination on neutralisation of SARS-CoV-2 variants KP.3.1.1 and XEC. bioRxiv. 2024 Oct 04. [Preprint]

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第237回 「新たな地域医療構想」の議論本格化、どんどん増える“協議”する項目、元々機能していなかった地域医療構想調整会議のさらなる形骸化が心配

四病協が新たな地域医療構想における「医療機関機能」のイメージ案に再考求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも終わってしまいました。米国のMLBは、大谷 翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースが4年ぶりのワールドシリーズ優勝を決めました。前の優勝は4年前、2020年です。このときはコロナ禍の真っ只中、レギュラーシーズンの試合数はわずか60試合で、ワールドシリーズも両チーム(相手はタンパベイ・レイズ)の本拠地でもないテキサス州のグローブライフ・フィールドで行われました。しかも、試合のとき以外は選手全員がホテルに缶詰めとなって全試合を戦うバブル方式(まとまった泡の中で開催する、という意味)でした。さらに、ジャスティン・ターナー選手が新型コロナウイルス陽性なのに出場して物議を醸すなど、優勝にちょっとしたケチも付きました。たった4年前ですが、コロナ禍というのはいろんなことが異常だったなと改めて思います。そのドジャース、今年は年間162試合をフルに戦い、ポストシーズンでさらに16試合、最後は宿敵ニューヨーク・ヤンキースを破っての優勝(しかもパレード付き)ということで、文句のつけようがない正真正銘の世界一です。選手にとってもファンにとっても喜びはひとしおでしょう。それにしても、ワールドシリーズ第5戦の5回表、ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手、アンソニー・ボルピー選手、ゲリット・コール投手が連続して守備のミスを連発、5点差を逆転され自滅していったのには驚きました。それも高校生でもしないような単純ミスばかりです。王者ヤンキースの選手も普通の人間で、大舞台では緊張したり、うっかりしたりするということですね。いやはや、野球は面白いです。さて、今回は厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」で議論されている「医療機関機能」のイメージ案に対して、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成)が再考を求めたことについて書いてみたいと思います。四病協はいったい何が不満だったのでしょうか。入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図る「新たな地域医療構想」厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」は、2025年を目標年とする現在の地域医療構想の「次」について検討を進める会です。2040年を目処に、それまでにどのような医療提供の姿を作っていくのかが、多面的に議論されています。2024年3月29日に第1回が開かれて以降、10月17日までに10回を数えました。8月26日に開かれた第7回では、厚労省が“中間取りまとめ”として「新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について」と題する資料を提示、次のような基本的な考え方が示され、委員の了承も得て本格的な議論に入りました。85歳以上の高齢者の増加や人口減少がさらに進む2040年以降においても、全ての地域・全ての世代の患者が、適切な医療・介護を受け、必要に応じて入院し、日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を実現する必要がある。このため、入院医療だけでなく、外来医療・在宅医療、介護との連携等を含め、地域における長期的に共有すべき医療提供体制のあるべき姿・目標として、地域医療構想を位置づける。人口や医療需要の変化に柔軟に対応できるよう、二次医療圏を基本とする構想区域や調整会議のあり方等を見直した上で、医療・介護関係者、都道府県、市区町村等が連携し、限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「治す医療」を担う医療機関と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、「地域完結型」の医療・介護提供体制を構築する。端的に言えば、今の地域医療構想が、病床の機能分化・連携のみに重点を置いていたのに対し、次の地域医療構想は、入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む、医療提供体制全体の課題解決を図るため大幅にバージョンアップを図る、ということです。四病協での指摘はちょっと神経質過ぎる気もさて、四病院団体協議会は、厚労省が示した構想区域で求められる「医療機関機能のイメージ案」が誤解を生みかねないなどとして、11月にも書き換えを求める意見を出す方針を決めました。これは、四病協が10月23日に開いた記者会見で、日本病院会の相澤 孝夫会長が明らかにしたものです。「医療機関機能のイメージ案」とは、9月30日と10月17日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」で厚労省が示したものです。下図のように、医療機関に報告を求める機能の類型について、(1)高齢者救急の受け皿となり地域への復帰を目指す機能、(2)在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能、(3)救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能、の3項目と「その他地域を支える機能」を提示しています。新たな地域医療構想等に関する検討会(令和6年10月17日)提出資料より10月23日付のキャリアブレインマネジメントなどの報道によれば、四病協では、(1)の病院は高齢者の救急医療のみに対応すればよいのか、という指摘があったほか、(3)の病院は3次救急医療だけを提供すればよいのか、といった意見が出て、「誤解を生む」との声が上がったとのことです。相澤氏は記者会見で、「イメージ案を書き直してもらうようにしたらどうかということで、四病協としての意見をまとめて厚労省に提出していく」と述べたとのことです。確かに、この図をぼーっと眺めると、「高齢者救急の受け皿」と「救急医療等の急性期の医療」は別の医療機関が担うように見えるかもしれません。ただ、「医療機関」と書かれているのではなく「医療機関機能」と、「機能」という言葉が付いています。四病協の指摘はちょっと神経質過ぎる気もします。とは言え、適当に書かれたポンチ絵が一人歩きしてしまうこともよくあります。まだ何も決まっていないので、誤解を生まない表現に変えておくことは大切かもしれません。地域医療構想調整会議も見直さないと次の地域医療構想も“絵に描いた餅”で終わりかねない私自身がこの「新たな地域医療構想」で気になるのは、検討すべき(あるいは協議すべき)項目が多岐に渡り、多過ぎる点です。病床の機能分化・連携推進だけが目的だった今の地域医療構想ですら、地域医療構想調整会議(いわゆる協議の場)の多くはほとんど機能しなかったと言われています。結果、多くの構想区域で病床の機能分化は進まず、急性期病床は思うようには減らず、回復期病床が足りない状況を招いたわけです。地域医療構想調整会議という組織には、現状、大きな強制力はありません。ダラダラ協議をして、何も決めなくても罰則もありません。唯一、地域医療構想調整会議での協議が整わないときに、都道府県知事は公的医療機関には「不足する医療機能を提供することを指示」でき、民間医療機関には「不足する医療機能を提供することを要請」できるくらいです。都道府県知事の医療機関に対する「要請」はほとんど意味がなく、実質機能しないことはコロナ禍で実証済みです。「新たな地域医療構想」に向けて、地域医療構想調整会議の位置付けや強制力、権限、さらには都道府県知事の権限も見直さないと、「地域医療構想」はまた“絵に描いた餅”で終わりかねません。これからの「検討会」の議論の行方に注目したいと思います。

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新型コロナによる死者数とその年齢構成

新型コロナウイルス感染症による年間死亡者数と年齢構成(5類感染症移行後)2023年5月~2024年4月の死亡者数(インフルエンザとの比較)死亡者の年齢構成30~40代 0.5%3万2,576人29歳以下 0.2%50代 1.2%60代 3.8%70代約15倍90歳以上15.9%38.6%80代2,244人新型コロナウイルス感染症インフルエンザ39.8%n=3万2,573人(年齢不明の3人除く)厚生労働省「人口動態統計」より2023年5~12月(確定数)、2024年1~4月(概数、2024年10月30日閲覧)のデータを集計Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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レトロウイルス感染症-基礎研究・治療ストラテジーの最前線-/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が京都市で開催され、12日のPresidential Symposiumでは、Retrovirus infection and hematological diseasesに関し5つの講演が行われた。本プログラムでは、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の発がんメカニズムや、ATLの大規模全ゲノム解析の結果など、ATLの新たな治療ストラテジーにつながる研究や、ATLの病態解明に関して世界に先行し治療開発にも大きく貢献してきた日本における、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連疾患の撲滅といった今後の課題、AIDS関連リンパ腫に対する細胞治療や抗体療法の検討、HIVリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法など、最新の話題が安永 純一朗氏(熊本大学大学院生命科学研究部 血液・膠原病・感染症内科学)、片岡 圭亮氏(慶應義塾大学医学部 血液内科)、石塚 賢治氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 人間環境学講座 血液・膠原病内科学分野)、岡田 誠治氏(熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 造血・腫瘍制御学分野)、白川 康太郎氏(京都大学医学部附属病院 血液内科)より報告された。ATLの発がんメカニズムに関与するHTLV-1 bZIP factor(HBZ)およびTax HTLV-1はATLの原因レトロウイルスであり、細胞間感染で感染を起こす。主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞クローンを増殖させる。HTLV-1がコードするがん遺伝子にはTaxおよびHBZ遺伝子が含まれ、Taxはプラス鎖にコードされ一過性に発現する。一方、HBZはマイナス鎖にコードされ恒常的に発現する。これらの遺伝子の作用により、感染細胞ががん化すると考えられる。HBZはATL細胞を増殖させ、HBZトランスジェニックマウスではT細胞リンパ腫や炎症が惹起される。また、HBZタンパクをコードするだけでなく、RNAとしての機能など多彩な機能を有している。HBZトランスジェニックマウスではHBZが制御性Tリンパ球(Treg)に関連するFoxp3、CCR4、TIGITなどの分子の発現を誘導、TGF-β/Smad経路を活性化してFoxp3発現を誘導し、この経路の活性化を介し、HTLV-1感染細胞をTreg様に変換し、HTLV-1感染細胞、ATL細胞の免疫形質を決定していると考えられる。 ATL症例の検討では、TGF-β活性化により、HBZタンパク質は転写因子Smad3などを介しATL細胞核内に局在し、がん細胞の増殖が促進される。HBZ核内局在はATL発症において重要であり、TGF-β/Smad経路はATL治療ストラテジーの標的になりうると考えられる。Taxはウイルスの複製やさまざまな経路の活性化因子であり、宿主免疫の主な標的であり、ATL細胞ではほぼ検出されない。ATL細胞株のMT-1はHTLV-1抗原を発現するが、MT-1細胞ではTaxの発現は一過性である。また細胞発現解析では、Tax発現が抗アポトーシス遺伝子の発現増加と関連し、細胞増殖の維持に重要であることが示された。ATL症例では約半数にTaxの転写産物が検出され、Taxの発がんへの関与が考えられる。発がんメカニズムに関与するHBZおよびTax遺伝子の多彩な機能の解析がATLの治療ストラテジーの開発につながると考えられる。ATLの全ゲノム解析―遺伝子異常に基づく病態がより明らかに ATLは、HTLV-1感染症に関連する急速進行性末梢性T細胞リンパ腫(PTCL:peripheral T-cell lymphoma)であり、ATL発症時に重要な役割を果たす遺伝子異常について、全エクソン解析や低深度全ゲノム解析など網羅的解析が行われてきた。しかし、構造異常やタンパク非コード領域における異常など、ATLのゲノム全体における遺伝子異常の解明は十分ではなかった。 今回実施された、ATL150例を対象とした大規模全ゲノム解析は、腫瘍検体における異常の検出力がこれまでの解析より高い高深度全ゲノム解析(WGS)である。タンパクコード領域および非コード領域における変異、構造異常(SV)、コピー数異常(CNA)を解析した結果、56個のドライバー遺伝子が同定され、56個中CICなど11個の新規ドライバー遺伝子があり、このうちCIC遺伝子はATL患者の33%が機能喪失型の異常を認め、CIC遺伝子の長いアイソフォームに特異的な異常(CIC-L異常)であり、ATLにおいて腫瘍抑制遺伝子として機能していた。さらに、CIC遺伝子とATN1遺伝子異常の間には相互排他性が見られ、CIC-ATXN1複合体はATL発症に重要な役割を果たすと考えられた。また、CIC-LノックアウトマウスではFoxp3陽性T細胞数が増加しており、CIC-LがT細胞の分化・増殖を制御するうえで選択的に作用すると考えられた。 また、ATL新規ドライバー遺伝子RELは、遺伝子後半が欠損する異常をATL患者の13%に認め、遺伝子の構造異常はATL同様、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)でも高頻度に認められた。REL遺伝子の構造異常はREL発現上昇やNF-κB経路の活性化と関連し、腫瘍化を促進すると考えられた。 ATLにおけるタンパク非コード領域、とくにスプライス部位の変異の集積が免疫関連遺伝子を中心に繰り返し認められ、ATLのドライバーと考えられた。今回の解析で得られたドライバー遺伝子異常の情報をクラスタリングし、2つのグループに分子分類した結果、両群の臨床病型や予後が異なることが示された。全ゲノム解析研究はATLの新たな診断および治療薬の開発につながると考えられる。ATL治療の今後 ATLは、aggressive ATL(急性型、リンパ腫型、予後不良因子を有する慢性型)とindolent ATL(くすぶり型、予後不良因子を有さない慢性型)に分類され、それぞれ異なる治療戦略が取られる。aggressive ATLの標準治療(SOC)は多剤併用化学療法であり、VCAP-AMP-VECP(ビンクリスチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン―ドキソルビシン+ラニムスチン+プレドニゾロン―ビンデシン+エトポシド+カルボプラチン+プレドニゾロン)の導入により、最終的に生存期間中央値(MST)を1年以上に延長することが可能となった。同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)はHTLV-1キャリアの高齢化に伴い、全身状態が良好な70歳未満の患者におけるSOCとして施行される。2012年以降、日本ではモガムリズマブ、レナリドミド、ブレンツキシマブ ベドチン、ツシジノスタット、バレメトスタットの5剤が新規導入され、初発例に対するモガムリズマブおよびブレンツキシマブ ベドチン+抗悪性腫瘍薬の併用や、再発・難治例に対する単剤療法として使用されている。indolent ATLに対しては日本では無治療経過観察であるが、海外では有症候の場合IFN-αとジドブジン(IFN/AZT)の併用が選択される。しかし、いずれもエビデンス不足であり、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は両群の治療効果を確認する第III相試験を進行中であり、結果は2026年に公表予定である。 日本の若年HTLV-1感染者は明らかに減少し、新規に診断されたATL患者は高齢化し、70歳以上と予測される。この動向は2011年から開始された母乳回避を推奨し、母子感染を抑止する全国的なプログラムによりさらに推進されると考えられる。今後は高齢ATL患者に対するより低毒性の治療法の確立と、全国プログラムの推進によるHTLV-1感染、およびATLなどHTLV-1関連疾患の撲滅が課題である。AIDS関連悪性リンパ腫の現状 リンパ腫はAIDSの初期症状であり、AIDS関連悪性リンパ腫はHIV感染により進展し、AIDS指標疾患として中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)および非ホジキンリンパ腫が含まれる。悪性腫瘍は多剤併用療法(cART)導入後もHIV感染者の生命を脅かす合併症であり、リンパ腫はHIV感染者の死因の最たるものである。HIV自体には腫瘍形成性はなく、悪性腫瘍の多くは腫瘍ウイルスの共感染によるものである。 エプスタイン・バーウイルス(EBV)およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)はAIDS関連リンパ腫の最も重要なリスクファクターであり、HIV感染による免疫不全、慢性炎症、加速老化、遺伝的安定性はリンパ腫形成を亢進すると考えられている。AIDS関連リンパ腫ではEBV潜伏感染が一般的に見られ、EBV感染はDLBCL発症と深く関連するが、予後不良な形質芽球性リンパ腫(PBL)、原発性滲出性リンパ腫(PEL)との関連は不明である。バーキットリンパ腫(BL)、およびPBLは最近増加している。BLおよびホジキンリンパ腫(HD)の治療成績と予後はおおむね良好である。 AIDS関連悪性リンパ腫の治療はこれまで抗腫瘍薬と、プロテアーゼインヒビター(PI)のCYP3A4代謝活性阻害による薬物相互作用の問題があった。近年、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)の導入によりCYP3A4阻害が抑えられ、AIDS関連悪性リンパ腫患者の予後は非AIDS患者と同等になっている。 高度免疫不全マウスにヒトPEL細胞を移植したPELマウスモデルでは、PELにアポトーシスが誘導された。AIDS関連リンパ腫に対する細胞療法や抗体療法の効果が期待される。リザーバー細胞を標的としたHIV根治療法 抗レトロウイルス療法(ART)により、HIVは検出不可能なレベルにまで減少できるが、ART中止数週間後に、HIVは潜伏感染細胞(リザーバー)から複製を開始する。HIV根治達成には、HIVリザーバーの体内からの排除が必要である。 HIV根治例は2009年以来、現在まで世界で7例のみである。全例が白血病など悪性腫瘍を発症し、同種造血幹細胞移植(SCT)を受け、数年はARTなしにウイルス血症のない状態を維持した。最初のHIV根治例はCCR5Δ32アレルに関してホモ接合型(homozygous)であるドナーからSCTを受けた症例であり、5例がこのSCTを受けた。 キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法はHIV感染症領域への応用が期待されている。そこで、アルパカを免疫して作製したVHH抗体をもとに、より高効率にHIVに対する中和活性を示す抗HIV-1 Env VHH抗体を開発した。新たなHIV感染症の治療として、CAR-T療法への応用などを試みている。 HIVリザーバー細胞を標的として排除するアプローチとして、latency reversal agents(LRA)によるshock and killが提唱され、HIV根治のためのLRA活性を有するさまざまな薬剤の研究、開発が進められている。HIV潜伏感染細胞モデル(JGL)を用いたCRISPRスクリーニングにより、4つの新規潜伏感染関連遺伝子、PHB2、HSPA9、PAICS、TIMM23が同定され、これら遺伝子のノックアウトによりHIV転写の活性化が誘導され、潜伏感染細胞中にウイルスタンパクの発現が認められた。また、PHB2、HSPA9、TIMM23のノックアウトにより、ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)が誘導された。Mitophagy activatorのウロリチンA(UA)およびその他のマイトファジー関連化学物質は、潜伏細胞実験モデルにおいてHIV転写を再活性することが示され、in vivoにおけるHIV再活性化の誘導についての臨床試験が検討されている。 ウイルス酵素をターゲットとする最近のART療法ではHIV根治は望めず、ウイルス産生が可能なリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法が求められている。 本プログラムでは、ATLやAIDS関連リンパ腫などの病態解明や治療法について最新の話題が報告され、今後の治療ストラテジーの開発につながることが期待される。

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第235回 コロナワクチン否定のための引用論文、実は意外な結論だった

つくづく新型コロナウイルス感染症のワクチン問題は説明が難しいと感じている。つい先日、知人と久しぶりに会った時に「新型コロナウイルスのスパイクタンパク質って毒性あるの?」と尋ねられ、「なんかそう言っている話もあるけどね」と確たる答えを返せなかった。確かにSNS上では、mRNAワクチンで産生されるスパイクタンパク自体に毒性があり、ワクチン接種そのものに問題があるという指摘は、ワクチン批判派の人たちからはよく流されている。私がこうした指摘にこれまで気にも留めなかったのは、脂質ナノ粒子にくるまれて細胞内に入り込んだmRNAワクチン成分がそこでスパイクタンパク質を作り出しても、スパイクタンパク質自体やmRNAが入り込んでスパイクタンパク質を産生している細胞は、ワクチン接種で誘導された免疫反応で排除されるのが、このワクチンの理論的な作用機序だと考えているからだ。とはいえ、知人の指摘する話の原典には当たったことはなく、後日実際に検索しているうちに、ワクチン批判派があちこちで引用する2021年3月のCirculation Research誌に掲載されたLetter1)に行き着いた。ワクチン否定派の引用論文×自身が気になった論文これはスパイクタンパク質をつけた疑似ウイルスをハムスターに接種した実験で、スパイクタンパク単体でも細胞表面のACE2受容体のダウンレギュレーションを通じて血管内皮細胞に障害を与える可能性があるとの研究。これ自体は当然ながら一定の信憑性はあるのだろう。もっともこの論文の最後を読んで、申し訳ないが笑ってしまった。というのも、結論は「ワクチン接種により産生される抗体や外因性の抗Sタンパク質抗体は、新型コロナウイルスの感染だけでなく、内皮障害も保護する可能性が示唆される」というものだったからだ。ワクチン批判派の人たちは、論文を読まずに拡散していたということにほかならない。もっとも私自身の中でことはこれで終わりにはならなかった。前出の論文検索中にCirculation誌の2023年1月に掲載されていた論文2)を見つけたからだ。この論文が記述していたのはmRNAワクチン接種約100万回当たり1回程度生じるといわれる心筋炎の副反応に関する研究である。その中身は「新型コロナワクチン接種後に心筋炎の副反応を経験した若年者と年齢をマッチングさせたワクチン接種経験のある健常ボランティアの血液を分析した結果、心筋炎発症集団の血中でのみワクチン接種により産生された抗体が結合しきれていないスパイクタンパク質が高濃度で検出された」という内容である。ちなみにこの研究では「抗体産生や新型コロナウイルス特異的T細胞などの免疫応答についても解析し、両集団に差がなかった」ことも記述している。この論文では、「こうしたワクチンによる抗体が掴まえきれない、血中を遊離するワクチン由来のスパイクタンパク質が心筋炎発症に関与する可能性が示唆される」と結論付けている。もっとも前述のように両者の免疫応答に差がなく、心筋炎発症集団で高濃度に検出された遊離スパイクタンパク質も33.9±22.4pg/mLと量そのものの絶対値で見れば微量にすぎない。となると、新型コロナワクチン接種者で発症する心筋炎に関しては、遊離スパイクタンパク質はリスクファクターではあるものの、何らかの内因性のファクターが関与していると見るのが妥当だと個人的には考えている。友人の意外な反応さて、そんなこんなを前述の知人に伝えたところ、「だとするならやっぱり危ないんじゃないのかな?」との反応。「いやいや、そうではなくて…」と私は語り掛け、合計1時間半にもおよぶ長電話になってしまった。私が話した内容の大半は、リスクとベネフィットのバランスである。もっともここで“約100万回に1回”という心筋炎の発症頻度が非常にわかりにくいことも改めて思い知らされた。確率に直せば0.000001ということになるので、そう説明すると知人もようやく「まあ、そんなに低いのね。何度もコロナで苦しむリスクを減らすなら、ワクチンもコスパが良いのか?」と言い出した。ちなみに本人は今年61歳。過去に2度の感染で苦しんでもいる。しかし、本当にリスクの伝え方は難しいと改めて感じている。とくに今回、私が経験したケースは入口となるファクトそのものは間違いではない。ただ、ワクチンに批判的な人たちがそこをフックに針小棒大に語っていると、こちらも医療に詳しくない一般人に説明する際はのっけから苦労する。つまり、ワクチン批判派は入口のファクトは一定の信頼性があるものを使っているため、彼らが伝える“ある種の妄想”と言っても差し支えないその先の解釈までもが、何も知らない人は“信憑性を帯びている”と無意識に受け止めているということだ。ここへさらにヒトの中に無意志に備わっているゼロリスク願望が加わると、より確かな情報を理解してもらうハードルが一気に高まってしまう。そしてSNS上で次世代mRNAワクチン、通称・レプリコンワクチンに関する異常とも言えるデマのまん延を見るにつけ、医療従事者の皆さんは私以上に苦労しているのだろうと思わずにはいられない。参考1)Lei Y, et al. Circ Res. 2021;128:1323-1326.2)Yonker LM, et al. Circulation. 2023;147:867-876.

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60歳以上へのRSVワクチン、承認後初のシーズンの有効性/Lancet

 RSウイルス(RSV)ワクチン承認後最初のシーズンである2023~24年の米国において、同ワクチンの接種は、60歳以上のRSV関連入院および救急外来受診の予防に有効であったことが示された。米国疾病予防管理センターのAmanda B. Payne氏らが報告した。2023年に初めて使用が推奨されたRSVワクチンは、臨床試験で下気道疾患に有効であることが確認されているが、実臨床での有効性に関するデータは限られていた。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。RSV関連入院および救急外来受診に対するRSVワクチンの有効性を解析 研究グループは、米国8州の電子カルテに基づくネットワーク(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network:VISION)において、2023年10月1日~2024年3月31日にRSV検査を受けた60歳以上の成人におけるRSV様疾患による入院および救急外来受診に関して、検査陰性デザインを用いた解析を実施した。 受診時のRSVワクチン接種状況は、電子カルテ、州および市の予防接種登録、一部の施設では医療請求記録から取得した。 ワクチンの有効性は、RSV陽性症例群と陰性対照群でワクチン接種のオッズを比較し、年齢、人種/民族、性別、暦日、社会的脆弱性指数、呼吸器系以外の基礎疾患数、呼吸器系の基礎疾患の有無および地理的地域で調整し、免疫不全状態別に推定した。免疫正常者における有効性、RSV関連入院に対し80%、救急外来受診に対し77% 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による入院は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は80%(95%信頼区間[CI]:71~85)、RSV関連重篤疾患(ICU入院/死亡、または両方)に対するワクチンの有効性は81%(95%CI:52~92)であった。 60歳以上、免疫不全状態の患者のRSV様疾患による入院は8,435例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は73%(95%CI:48~85)であった。 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による救急外来受診3万6,521例において、RSV関連救急外来受診に対するワクチンの有効性は77%(95%CI:70~83)であった。 ワクチンの有効性の推定値は、年齢層や製剤の種類によらず同様であった。 著者は研究の限界として、RSV陽性患者の受診がRSV感染症以外の理由で受診していた可能性を否定できないこと、予防接種登録、電子カルテ、医療請求記録では、投与されたRSVワクチンの投与量をすべて特定できない可能性があること、残余交絡の可能性などを挙げている。

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重症の新型コロナ感染者の心臓リスクは心疾患既往者のリスクと同程度

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心筋梗塞や脳卒中、全死亡などの主要心血管イベント(MACE)リスクを高め、その程度はCOVID-19に罹患していないが心疾患の既往歴がある人のリスクとほぼ同程度であることが、米クリーブランドクリニック・ラーナー研究所心血管代謝学部長のStanley Hazen氏らによる新たな研究から明らかになった。この研究ではまた、重症度にかかわらず、COVID-19罹患は、その後3年間のMACEリスクを2倍に高めることも示されたという。この研究結果は、「Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology」に10月9日掲載された。 Hazen氏は、「この研究結果から、COVID-19は上気道感染症である一方で、さまざまな健康リスクを伴う疾患であり、心血管疾患の予防に関する計画や目標を策定する際には、COVID-19の既往歴を考慮すべきことを強く示したものだ」と述べている。 COVID-19パンデミックの初期には、新型コロナウイルスへの感染が血栓や心臓の問題のリスクを高めることが示されていた。しかし、このような高リスク状態がいつまで続くのか、どのような要因が影響するのかについては十分に解明されていないとHazen氏らは言う。 そこでHazen氏らは、2020年の2月1日から12月31日までの間に英国でCOVID-19の診断を受けた患者1万5人のデータを分析し、心血管の健康状態をCOVID-19に罹患していない21万7,730人と比較した。 その結果、COVID-19への罹患者では、重症度とは無関係に、1,003日の追跡期間にわたってMACEリスクが2倍以上に上昇することが明らかになった(ハザード比2.09、95%信頼区間1.94〜2.25、P<0.0005)。このようなリスク上昇は、COVID-19罹患により入院を要した人で顕著だった(同3.85、3.51〜4.24、P<0.0005)。また、心血管疾患の既往歴がないCOVID-19罹患者でのMACEリスクは、心血管疾患の既往はあるがCOVID-19罹患歴がない人よりも20%以上高かったことから(同1.21、1.08〜1.37、P<0.005)、COVID-19による入院が冠動脈疾患(CAD)と同等のリスク(CAD risk equivalent)をもたらすことが確認された。 さらにHazen氏らは、そのリスクの程度が血液型によって異なることも突き止めた。血液型がA型、B型、AB型の人では、O型の人と比べてCOVID-19による入院を経験した後の血栓イベント(心筋梗塞と脳卒中)のリスクが有意に高いことが示されたのだ。このことは、新型コロナウイルスへの感染後の心疾患リスクには、その人の遺伝的特徴が影響している可能性を示唆していると、Hazen氏らは指摘している。 論文の上席著者で、米南カリフォルニア大学ケック医学校ポピュレーションヘルス・公衆衛生科学および生化学・分子医学教授のHooman Allayee氏は、「われわれは、この結果を説明できる要因が他にあるかどうかを確認しようとしているところだが、実際に、特定の血液型では、生物学的な何らかのメカニズムが作用しているようだ」と話している。また同氏は、「われわれの観察の結果と、世界の人口の60%はO型以外の血液型である事実を踏まえると、われわれの研究は、個々の患者の遺伝的特徴を考慮した、より積極的な心血管リスク低減策を検討すべきかどうかという重要な問題を提起するものだ」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。 Allayee氏は、医師は新型コロナウイルスへの感染を全般的な心臓のリスクの一部としてとらえる必要があると主張する。同氏は、「現時点で疑問として残るのは、本研究結果と今後の研究結果により、心疾患の既往がない人に対する心臓の予防医療に関するガイドラインが、COVID-19の心臓への影響を考慮したものに変更されるのかということだ」と話している。

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第二の、はたまた初めての血友病B遺伝子治療fidanacogene elaparvovec(解説:長尾梓氏)

 このたび、NEJM誌にファイザーの血友病B遺伝子治療であるfidanacogene elaparvovecの第III相試験のデータが公表された。投与から最長15ヵ月まで安定した第IX因子活性の発現がみられた。同量を投与した第I/II相試験では、6年程度まで安定した第IX因子発現のデータが報告されている(学会発表のみ)。 fidanacogene elaparvovecは2023年12月にカナダ、2024年4月にFDA、同年7月にはEMAですでに承認を得ている。商品名はBeqvezだそう。元はSpark Therapeuticsによって開発が始まり、2014年にファイザーが権利を取得し開発を引き継いでいる。 血友病B遺伝子治療には、2022年11月にFDAで承認を得たのを皮切りにカナダ、EUでも承認されているetranacogene dezaparvovec(商品名:Hemgenix、製造販売:CSL Behring)があり、fidanacogene elaparvovecは世界的には第二の血友病B遺伝子治療といえる。日本では治験開始時期が異なるため、最初の遺伝子治療になる可能性が高い(「はたまた初めての」)。ちなみに、2つの遺伝子治療の値段は米国では同じだそうだ。 2つの遺伝子治療のFDAの適応症(indication)を調べてみた。fidanacogene elaparvovec:中等度~重度の血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し、深刻な自然出血エピソードを経験している、かつアデノ随伴ウイルスAAVRh74varカプシドに対する中和抗体をFDA承認の検査で持っていない場合etranacogene dezaparvovec:血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し深刻な自然出血エピソードを経験している場合 あくまでもFDAのindicationではあるが、AAV抗体の有無で適応が異なってくることに注意が必要である。日本人のAAV抗体陽性率は20~30%程度とされており、年齢が上がるにつれて陽性率も上がる(Kashiwakura Y, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2022;27:404-414.)。これらを踏まえて、適応を検討することになるだろう。 血友病の遺伝子治療といえば、気になることとして「どれくらい持続するのか」「グルココルチコイドの使用(安全性も含む)」が挙がる。[どれくらい持続するのか] 投与後の第IX因子活性は期間などが違うので比較はできないが、参考までに提示しておくと以下のとおりとなる。「結構いい感じ」と言っても差し支えないだろう。fidanacogene elaparvovec:承認用量5×1011vg/kg投与15ヵ月時の平均FIX活性:26.9%(中央値:22.9%、範囲:1.9~119.0)etranacogene dezaparvovec:承認用量2×1013gc/kg投与3年後のFIX活性(平均±SD[中央値:範囲、症例数]):38.6 IU/dL±17.8(36.0:4.8~80.3、48)[グルココルチコイドの使用]fidanacogene elaparvovec:使用人数:45例中28例投与開始までの期間:中央値37.5日(範囲:11~123)投与期間:中央値95.0日(範囲:41~276)etranacogene dezaparvovec:使用人数:54例中9例投与開始までの期間:中央値6.1週(範囲:3.14~8.71週)投与期間:中央値74.0日(範囲:51〜130日) グルココルチコイドの使用については、実臨床において投与を受けた方の肝機能に最も注意すべき期間を示しているため、関係者は絶対に押さえておく必要がある。これを知らずに肝機能の悪化を見逃してしまうと、せっかく投与した遺伝子治療が水の泡となるかもしれず、患者負担、医療費など、さまざまな面でもったいないことになってしまう。 血友病の遺伝子治療は近々日本でも発売される見込みであるが、投与の体制がしっかり整っているとは言い難い状況である。学会を含め、全医療者で取り組む課題である。

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“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大

 日本における非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬の処方実態を調査した結果、高齢院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では抗菌薬を処方する割合が高く、とくに広域スペクトラム抗菌薬を処方する可能性が高かったことを、東京大学大学院医学系研究科の青山 龍平氏らがJAMA Network Open誌2024年10月21日号のリサーチレターで報告した。 日本では2016年より薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど、適切な抗菌薬処方を推し進める取り組みが行われているが、十分な成果は出ていない。そこで研究グループは、急性呼吸器感染症が不適切な抗菌薬処方を受けることが多い疾患の1つであることに注目し、非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬処方とそれに関連する診療所の特性を調査した。 研究グループは、電子カルテデータベースを用いて、2022年10月1日~2023年9月30日に非細菌性の急性呼吸器感染症(ICD-10のJ00~J06またはJ20~J22)と診断された外来の成人患者を抽出し、診療所の特性(院長の年齢や性別、患者数、グループ診療か単独診療か)と抗菌薬処方との関連を分析した。なお、成人のプライマリケアに従事する診療所に焦点を当てるため、耳鼻咽喉科および小児科の診療所と、研究期間中の非細菌性の急性呼吸器感染症の診療が100例未満の診療所は除外した。 主な結果は以下のとおり。・1,183軒の診療所を受診した97万7,590例(平均年齢:49.7[SD 20.1]歳、女性:56.9%)の非細菌性の急性呼吸器感染症患者を解析した。・抗菌薬は17万1,483例(17.5%)に処方され、広域スペクトラム抗菌薬は抗菌薬処方全体の88.3%を占めた。・最も多く処方されたのはクラリスロマイシン(30.7%)で、レボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)と続いた。・高齢の院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では、抗菌薬の処方が有意に多かった。 【院長の年齢が60歳以上vs.45歳未満】調整オッズ比(aOR):2.14、95%信頼区間(CI):1.56~2.92、p<0.001 【患者数が年間中央値58例/日以上vs.35例/日以下】aOR:1.47、95%CI:1.11~1.96、p=0.02 【グループ診療vs.単独診療】aOR:0.71、95%CI:0.56~0.89、p=0.01・院長の性別では統計学的に有意な差は認められなかった。・広域スペクトラム抗菌薬の処方に限定した解析でも、上記すべての特性で同様の傾向が認められた。 研究グループは「患者数の多い診療所は、時間的なプレッシャーや決断疲れのために抗菌薬を過剰に処方している可能性がある」と示唆したうえで、「今回の結果は抗菌薬の適正使用に向けて、より的を絞った介入の実施に役立つだろう」とまとめた。

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亜鉛欠乏でコロナ重症化リスクが上昇か/順天堂大

 亜鉛は免疫機能に重要な役割を果たす微量元素であり、亜鉛欠乏が免疫系を弱体化させる可能性があることが知られている。順天堂大学の松元 直美氏らの研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における血清亜鉛濃度とCOVID-19の重症度との関連を調査したところ、患者の40%近くが血清亜鉛欠乏状態であり、血清亜鉛濃度が低いほど、COVID-19の重症度が高いことが判明した。本研究は、International Journal of General Medicine誌2024年10月16日号に掲載された。 本研究では、2020年4月~2021年8月にCOVID-19で入院した467例(18歳以上)を対象に、入院時の血清亜鉛濃度を測定した。血清亜鉛濃度が60μg/dL未満を欠乏、≧60~<80μg/dLを境界欠乏、80μg/dL以上を正常とした。COVID-19の重症度は、WHOの基準に基づき、軽症、中等症、重症の3段階に分類した。多変量ロジスティック回帰分析を使用し、血清亜鉛欠乏とCOVID-19の重症度の関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の平均年齢(SD)は、重症例(n=40)が68.1(13.0)歳、軽症/中等症例(n=427)が58.8(18.3)歳であった。性別は、重症例では男性72.5%、軽症/中等症例では男性64.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値(SD)は、重症例では51.9(13.9)μg/dL、軽症/中等症例では63.2(12.3)μg/dLであった。・血清亜鉛欠乏(<60μg/dL)の割合は、女性で39.5%、男性で36.4%であった。さらに、境界欠乏(≧60~<80μg/dL)は、女性で54.3%、男性で57.0%だった。・血清亜鉛欠乏は、境界欠乏および正常(≧60μg/dL)と比較して、COVID-19の重症化と有意に関連していた(調整オッズ比:3.60、95%信頼区間:1.60~8.13、p<0.01)。・COVID-19の重症度の上昇は血清亜鉛濃度の上昇と逆相関しており、血清亜鉛濃度が低いほどCOVID-19の重症度が高かった(傾向のp<0.01)。 本研究により、血清亜鉛濃度がCOVID-19の重症度と有意に関連することが示された。血清亜鉛濃度が低い患者はとくに重症化リスクが高いため、COVID-19の治療において血清亜鉛濃度を考慮することの重要性が示唆されている。

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第238回 妊娠はウイルス様配列を目覚めさせて胎児発育に必要な造血を促す

妊娠はウイルス様配列を目覚めさせて胎児発育に必要な造血を促す体内の赤ちゃんを育てるにはいつもに比べてかなり過分な血液が必要で、赤血球は妊娠9ヵ月の終わりまでにおよそ2割増しとなって胎児や胎児を養う胎盤の発達を支えます1)。その赤血球の増加にホルモンが寄与していますが、ヒトやその他の哺乳類が妊娠中に赤血球をどういう仕組みで増やすかはよくわかっていませんでした。先週24日にScienceに掲載された研究で、哺乳類ゲノムにいにしえより宿るウイルス様要素が妊娠で目覚め、免疫反応を誘発して血液生成を急増させるという思いがけない仕組みが判明しました2,3)。それらのウイルス様配列はトランスポゾンや動く遺伝子(jumping gene)としても知られます。トランスポゾンは自身をコピーしたり挿入したりしてゲノム内のあちこちに移入できる遺伝配列で、ヒトゲノムの実に半数近くを占めます。哺乳類の歴史のさまざまな時点でトランスポゾンのほとんどは不活性化しています。しかしいくつかは動き続けており、遺伝子に入り込んで形成される長い反復配列や変異はときに体を害します。トランスポゾンは悪さをするだけの存在ではなく、生理活性を担うことも示唆されています。たとえば、トランスポゾンの一種のレトロトランスポゾンは造血幹細胞(HSC)を助ける作用があるらしく、炎症反応を生み出すタンパク質MDA5の活性化を介して化学療法後のHSC再生を促す働きが先立つ研究で示唆されています4)。妊娠でのレトロトランスポゾンの働きを今回発見したチームははなからトランスポゾンにあたりをつけていたわけではありません1)。University of Texas Southwestern Medical Centerの幹細胞生物学者Sean Morrison氏とその研究チームは、妊娠中に増えるホルモン・エストロゲンが脾臓の幹細胞を増やして赤血球へと発達するのを促すことを示した先立つ取り組みをさらに突き詰めることで今回の発見を手にしました。研究チームはまず妊娠マウスとそうでないマウスの血液幹細胞の遺伝子発現を比較しました。その結果、幹細胞はレトロトランスポゾンの急増に応じて抗ウイルス免疫反応に携わるタンパク質を生み出すようになり、やがてそれら幹細胞は増え、一部は赤血球になりました。一方、主だった免疫遺伝子を欠くマウスは妊娠中の赤血球の大幅な増加を示しませんでした。また、レトロトランスポゾンが自身をコピーして挿入するのに使う酵素を阻止する逆転写酵素阻害薬を投与した場合でも妊娠中に赤血球は増えませんでした。研究はヒトに移り、妊婦11人の血液検体の幹細胞が解析されました。すると妊娠していない女性(3人)に比べてレトロトランスポゾン活性が高い傾向を示しました。HIV感染治療のために逆転写酵素阻害薬を使用している妊婦6人からの血液を調べたところヘモグロビン濃度が低下しており、全員が貧血になっていました。逆転写酵素阻害薬を使用しているHIV患者は妊娠中に貧血になりやすいことを示した先立つ試験報告5)と一致する結果であり、逆転写酵素阻害薬使用はレトロトランスポゾンがもたらす自然免疫経路の活性化を阻害することで妊婦の貧血を生じ易くするかもしれません。より多数の患者を募った試験で今後検討する必要があります。他の今後の課題として、妊娠がどういう仕組みでレトロトランスポゾンを目覚めさせるのかも調べる必要があります。レトロトランスポゾンを目覚めさせる妊娠以外の要因の研究も価値がありそうです。たとえば、細菌が皮膚細胞(ケラチノサイト)の内在性レトロウイルスを誘って創傷治癒を促す仕組みが示されており6)、組織損傷に伴って幹細胞のレトロトランスポゾンが活性化する仕組みがあるかもしれません。また、組織再生にレトロトランスポゾンが寄与している可能性もあるかもしれません。参考1)Pregnancy wakes up viruslike ‘jumping genes’ to help make extra blood / Science 2)Phan J, et al. Science. 2024 Oct 24. [Epub ahead of print]3)Children’s Research Institute at UT Southwestern scientists discover ancient viral DNA activates blood cell production during pregnancy, after bleeding / UT Southwestern 4)Clapes T, et al. Nat Cell Biol. 2021;23:704-717.5)Jacobson DL, et al. Am J Clin Nutr. 2021;113:1402-1410.6)Lima-Junior DS, et al. Cell. 2021;184:3794-3811.

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