β遮断薬は、有効性に関するエビデンスが限定的であるにもかかわらず、症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の初期治療に用いられてきた。心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenは、標準治療への追加投与で左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが示されている。スペイン・Centro de Investigacion Biomedica en Red Enfermedades Cardiovaculares(CIBERCV)のPablo Garcia-Pavia氏らMAPLE-HCM Investigatorsは、HCMの治療におけるこれら2つの薬剤の単剤投与の臨床的有益性を直接比較する目的で、国際的な第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験「MAPLE-HCM試験」を実施。メトプロロール単剤に比べaficamten単剤は、最高酸素摂取量の改善に関して優越性を示し、症状の軽減や左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数の改善と関連したことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年9月11日号で報告された。
世界71施設で参加者を登録
 MAPLE-HCM試験は2023年6月~2024年8月に、北米、欧州、ブラジル、イスラエル、中国の71施設で参加者のスクリーニングを募り行われた(Cytokineticsの助成を受けた)。
 対象は、年齢18~85歳、左室壁厚が15mm以上(疾患の原因となる遺伝子変異またはHCMの家族歴がある場合は13mm以上)のHCMと診断され、スクリーニングにおいて左室駆出率(LVEF)が60%以上、かつ安静時の左室流出路圧較差が30mmHg以上、またはバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差が50mmHg以上の患者であった。
 被験者を、aficamten(5mg/日で開始し、2週ごとに5mgずつ増量して6週目に20mg/日とする)+プラセボを投与する群、またはメトプロロール(50mg/日で開始し、2週ごとに50mgずつ増量して6週目に200mgとする)+プラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。
 主要エンドポイントは、ベースラインから24週目までの最高酸素摂取量の変化とした。
主要エンドポイントが有意に良好
 175例を登録し、aficamten群に88例、メトプロロール群に87例を割り付けた。全体の平均年齢は58歳で、58.3%が男性であった。ベースラインの安静時の平均左室流出路圧較差は47mmHg、バルサルバ法で誘発時の平均左室流出路圧較差は74mmHgであり、平均LVEFは68%で、NYHA心機能分類IIの心不全が70.3%を占めた。NT-proBNP値中央値は468pg/mL(四分位範囲:198~968)だった。
 主要エンドポイントは、メトプロロール群が-1.2mL/kg/分(95%信頼区間[CI]:-1.7~-0.8)であったのに対し、aficamten群は1.1mL/kg/分(0.5~1.7)と有意に良好であった(最小二乗平均群間差:2.3mL/kg/分、95%CI:1.5~3.1、p<0.001)。
6つの副次エンドポイント、5つが有意に優れる
 次の5つの副次エンドポイントは、aficamten群で有意に優れた。
(1)24週時のNYHA心機能分類が1分類以上改善の達成率(51%vs.26%、最小二乗平均群間差:25%[95%CI:11~39]、p<0.001)、
(2)ベースラインから24週目までのカンザスシティ心筋症質問票-臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量(15.8点vs.8.7点、6.9点[2.6~11.3]、p=0.002)、
(3)24週目までのバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差の変化量(-40.7mmHg vs.-3.8mmHg、-34.9mmHg[-43.4~-26.4]、p<0.001)、
(4)NT-proBNPのベースライン値に対する24週時の値の相対的な変化(0.3 vs.1.4、0.19[0.15~0.24]、p<0.001)、
(5)24週目までの左房容積係数の変化量(-3.8mL/m
2 vs.2.8mL/m
2、-7.0mL/m
2[-9.1~-4.9]、p<0.001)。
 一方、24週目までの左室心筋重量係数の変化量(-6.9g/m
2 vs.-3.8g/m
2、-4.9g/m
2[-11.7~2.0]、p=0.16)は両群間に有意な差を認めなかった。
有害事象の発現状況は同程度
 投与開始後に、aficamten群の65例(74%)、メトプロロール群の66例(76%)で1件以上の有害事象が発現した。重篤な有害事象はそれぞれ7例(8%)および6例(7%)に、早期の投与中止に至った有害事象は1例(1%、短期間のウイルス性疾患を発症後に突然死)および3例(3%)に、減量に至った有害事象は1例(1%、めまい)および4例(5%、立ちくらみ2例、徐脈1例、疲労感1例)に認めた。
 著者は、「本試験で認めたメトプロロールに対するaficamtenの臨床的有益性は、心筋ミオシンの阻害による左室流出路閉塞の軽減に起因する可能性が高い」「本試験はaficamten単剤療法だけでなく、閉塞性HCM患者におけるメトプロロール単剤の投与量、治療効果、副作用に関する独自の知見をも提供する」としている。
      
      
            
(医学ライター 菅野 守)