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高齢統合失調症患者における第2世代抗精神病薬と下剤使用との関係

 台湾・Kaohsiung Municipal Kai-Syuan Psychiatric HospitalのChing-Hua Lin氏らは、2つの大規模公立精神科病院を退院した時点で第2世代抗精神病薬(SGA)治療を受けていた高齢統合失調症患者を対象に、下剤の併用に関する要因を調査した。その結果、SGAで治療中の高齢統合失調症患者では、下剤使用率が高いことが報告された。著者らは、臨床的に重度の便秘の場合、可能であれば便秘リスクの低いSGAへの切り替えや気分安定薬の使用中止などを検討する必要があるとしている。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年7月10日号の報告。 対象は、2006~19年に退院の時点でSGA単剤療法を受けていた高齢統合失調症患者。退院時の定期的な下剤使用に関連する因子を特定するため、多変量ロジスティック回帰を用いた。退院時の下剤使用率に有意な時間的傾向があるかを評価するため、コクラン・アーミテージ傾向検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした対象患者2,591例のうち、1,727例を分析に含めた。・1,727例中732例(42.4%)で下剤が併用されていた。・下剤使用の増加と関連が認められた因子は、女性、気分安定薬の使用、糖尿病の合併であった。・SGA別では、クロザピンが最も下剤使用率が高く、次いでゾテピン、クエチアピン、オランザピン、リスペリドンであった。・amisulpride、アリピプラゾール、パリペリドン、スルピリドの下剤使用率は、リスペリドンと同程度であった。・時期別の下剤使用率は、2006年30.8%、2019年46.6%であり、経時的な増加が認められた(z=4.83、p<0.001)。

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「味覚が変です」今、こんな患者に遭遇したらどうする?【Dr.山中の攻める!問診3step】第16回

第16回 「味覚が変です」今、こんな患者に遭遇したらどうする?―Key Point―食事は人生最大の楽しみの一つである。味覚障害があると食欲が低下する複雑な風味を味わうには味覚と嗅覚が正常でなければならない味覚は年齢、食事、喫煙、薬剤によって影響を受ける症例:83歳 男性主訴)味覚障害現病歴)3ヵ月前から倦怠感と手足のしびれを自覚している。2ヵ月前から徐々に食べ物の味がわかりにくくなり、食欲が低下してきた。最近2週間は体動時の息切れを感じている。既往歴)10年前に胃がんのため胃全摘術、高血圧症内服薬)アムロジピン身体所見)意識清明、体温 36.8℃、血圧 132/68mmHg、脈拍 96回/分、呼吸回数 18回/分、SpO2 95%(室内気)眼瞼結膜:軽度の蒼白あり、舌:発赤あり、舌乳頭萎縮あり胸部:収縮期雑音(Levine 3/6)を心尖部で聴取する、腹部:正中に手術痕あり下肢:両側に軽度の浮腫と末梢優位の感覚障害あり経過)血液検査でWBC 3300/μL、Hb 8.3g/dL、MCV 110fL、血小板 15万/μL、Cr 0.7mg/dL、血糖 102mg/dL、CRP 0.25mg/dLであった10年前の胃全摘術の既往、下肢末梢優位の感覚障害、ハンター舌炎を示唆する舌所見、汎血球減少からビタミンB12欠乏を疑った1)血清ビタミンB12は75pg/mL(基準値:180~914)であったビタミンB12欠乏症による味覚障害と診断し、ビタミンB12の補充を行うと味覚障害は徐々に改善した◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!COVID-19感染症の流行初期には、味覚障害と嗅覚障害がよくみられた味覚障害の多くは嗅覚障害が原因である薬剤は味覚障害を起こすことが多い【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】味覚のメカニズムを理解する2)舌表面には約8,000個の味蕾(みらい)と呼ばれる味覚受容器官があり、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を感じる甘味は舌の先端、塩味は舌前方の側面、酸味は舌後方の側面、苦味は舌後方で感じる嚥下時に後鼻腔にある嗅覚レセプターが刺激され、味覚と一緒に複雑な風味を感じる症状を訴える多くの患者は味覚ではなく嗅覚が障害されている<参考文献・資料>1)Stabler SP, et al. N Engl J Med. 2013;368:149-160.2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21th edition. 2022. p232-238.3)UpToDate:Taste and olfactory disorders in adults: anatomy and etiology

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中強度スタチン+エゼチミブ、ASCVD患者で高強度スタチンに非劣性/Lancet

 新たな心血管疾患のリスクがきわめて高いアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)患者の治療において、中強度スタチン+エゼチミブ併用療法は高強度スタチン単剤療法に対し、3年間の心血管死、主要心血管イベント、非致死的脳卒中の複合アウトカムに関して非劣性で、LDLコレステロール値<70mg/dLを維持している患者の割合が高く、不耐による投与中止や減量を要する患者の割合は低いことが、韓国・延世大学校医科大学のByeong-Keuk Kim氏らが実施した「RACING試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年7月18日号で報告された。韓国26施設の医師主導無作為化試験 RACING試験は、ASCVDの治療において、中強度スタチン+エゼチミブ併用療法は高強度スタチン単剤療法の代替となりうるかの検証を目的とする医師主導の非盲検無作為化試験であり、2017年2月~2018年12月の期間に、韓国の26施設で参加者の登録が行われた(韓国Hanmi Pharmaceuticalの助成による)。 対象は、高強度スタチン単剤療法を要するASCVD確定例(心筋梗塞の既往、急性冠症候群、冠動脈または他の動脈の血行再建術の施行歴、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患のうち少なくとも1つを有する)で、LDLコレステロール値<70mg/dLの患者であった。 被験者は、中強度スタチン+エゼチミブ(ロスバスタチン10mg+エゼチミブ10mg、1日1回、経口)の併用投与を受ける群、または高強度スタチン単剤療法(ロスバスタチン20mg、1日1回、経口)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団における3年間の心血管死、主要心血管イベント(冠動脈または末梢動脈の血行再建術、心血管イベントによる入院)、非致死的脳卒中の複合で、非劣性マージンは2.0%とされた。3年時LDL-C値<70mg/dL:72% vs.58%、不耐による投与中止/減量:4.8% vs.8.2% 3,780例が登録され、併用療法群に1,894例、高強度スタチン単剤群に1,886例が割り付けられた。全体の平均年齢は64歳で、男性が75%を占め、40%に心筋梗塞の既往歴が、66%に経皮的冠動脈インターベンションの施行歴があり、37%は糖尿病であった。無作為割り付け前に、38%が高強度スタチン、36%が中強度スタチン、13%は中強度スタチン+エゼチミブの投与を受けていた。追跡期間中央値は3年で、3,622例(95.8%)が3年の追跡を完了した。 主要エンドポイントは、併用療法群が172例(9.1%)で、高強度スタチン単剤群は186例(9.9%)で発生し(絶対群間差:-0.78%、90%信頼区間[CI]:-2.39~0.83)、非劣性マージンが満たされた。 主要エンドポイントの個々の要素については、心血管死は併用療法群が0.4%、高強度スタチン単剤群は0.3%(ハザード比[HR]:1.34、95%CI:0.46~3.85、p=0.59)、主要心血管イベントはそれぞれ8.1%および8.9%(HR:0.91、95%CI:0.73~1.14、p=0.41)、非致死的脳卒中は0.8%および0.7%(HR:1.07、95%CI:0.52~2.22、p=0.85)で発生した。 1、2、3年時に、LDLコレステロール値<70mg/dLを維持していた患者の割合は、併用療法群がそれぞれ73%、75%、72%であったのに対し、高強度スタチン単剤群は55%、60%、58%で、群間の絶対差は1年時が17.5%(95%CI:14.2~20.7)、2年時が14.9%(11.6~18.2)、3年時は14.8%(11.1~18.4)であり、いずれも併用療法群で有意に優れた(すべてp<0.0001)。 また、試験薬への不耐が原因の投与中止または減量は、併用療法群が4.8%と、高強度スタチン単剤群の8.2%に比べ有意に少なかった(p<0.0001)。 著者は、「これらの知見は、高強度スタチン療法を要すると考えられるが、副作用のリスクが高い、またはスタチン不耐の患者では、スタチンの用量を倍増するのではなく、できるだけ早期に中強度スタチンへのエゼチミブの併用を考慮するアプローチを支持するものである」としている。

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1型糖尿病にSGLT2阻害薬を使用する際の注意点/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2014年に策定された「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」を改訂し、2022年7月26日に公開した。改訂は7度目となる。 今回の改訂は、2022年4月よりSGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病患者の在宅での血中ケトン体自己測定が可能となったことに鑑み、これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されることを目的としている。 具体的には、【ケトアシドーシス】の項で「SGLT2阻害薬使用中の1型糖尿病患者には、可能な限り血中ケトン体測定紙を処方し、全身倦怠感・悪心嘔吐・腹痛などの症状からケトアシドーシスが疑われる場合は、在宅で血中ケトン体を測定し、専門医の受診など適正な対応を行うよう指導する」という文言が追加された。1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用はケトアシドーシスが増加していることに留意1)1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。2)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。3)75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。4)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。5)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。また、手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。6)全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。7)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。8)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。

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有害量のアルコール摂取、若年男性で多い:GBD2020/Lancet

 アルコール摂取に関する勧告は年齢および地域によって異なることを支持する強いエビデンスがあり、とくに若年者に向けた強力な介入が、アルコールに起因する世界的な健康損失を減少させるために必要であることが、米国・ワシントン大学のDana Bryazka氏らGBD 2020 Alcohol Collaboratorsの解析で明らかとなった。適度なアルコール摂取に関連する健康リスクについては議論が続いており、少量のアルコール摂取はいくつかの健康アウトカムのリスクを低下させるが他のリスクを増加させ、全体のリスクは地域・年齢・性別・年によって異なる疾患自然発生率に、部分的に依存することが示唆されていた。Lancet誌2022年7月16日号掲載の報告。年齢・男女・年別にTMRELとNDEを推定 解析には、204の国・地域における1990~2020年の死亡率と疾病負担を年齢別、性別に推計した世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)のデータを用いた。22の健康アウトカム(虚血性心疾患、脳梗塞、がん、2型糖尿病、結核、下気道感染症など)に関する疾患重み付け用量反応相対リスク曲線を構築し、21地域の15~95歳の個人について1990~2020年の期間で、5歳ごとの年齢階級別、男女別および年別に、アルコールの理論的最小リスク曝露量(theoretical minimum risk exposure level:TMREL、アルコールによる健康損失を最小化する摂取量)と非飲酒者等価量(non-drinker equivalence:NDE、飲酒者の健康リスクが非飲酒者の健康リスクと同等時点でのアルコール摂取量)を推定するとともに、NDEに基づき有害な量のアルコールを摂取している人口を定量化した。有害量のアルコール摂取は若年男性で多い アルコールに関する疾患重み付け相対リスク曲線は、地域および年齢で異なっていた。2020年の15~39歳では、TMREL(ドリンク/日:1ドリンクは純粋エタノール10g相当)は0(95%不確実性区間[UI]:0~0)から0.603(0.400~1.00)、NDEは0.002(0~0)から1.75(0.698~4.30)とさまざまであった。 40歳以上の疾患重み付け相対リスク曲線はすべての地域でJ字型であり、2020年のTMRELは0.114(95%UI:0~0.403)から1.87(0.500~3.30)、NDEは0.193(0~0.900)から6.94(3.40~8.30)の範囲であった。 2020年における有害量のアルコール摂取は、59.1%(95%UI:54.3~65.4)が15~39歳、76.9%(73.0~81.3)が男性であり、主にオーストララシア、西ヨーロッパ、中央ヨーロッパに集中していた。

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事例004 B001_36 下肢創傷処置管理料の算定【斬らレセプト シーズン3】

解説「J000-2 下肢創傷処置」は、「糖尿病性足潰瘍、閉塞性動脈硬化症などから生じる下肢潰瘍に対して、創の状態、感染、虚血の状態、静脈の状態、足の変形について評価を行った上で、感染制御、血流改善や必要に応じて圧迫療法、荷重部や前足部に対しては免荷を行いながら、創傷処置を行う」(日本フットケア・足病医学会公開資料より抜粋)と定義されています。単なる下肢の創傷処置ではなく、新たな総合的処置として設定されました。算定に当たっては、基礎疾患を含む総合的な評価とその結果を診療録へ記載して、潰瘍の処置を実施します。評価の結果、軟膏の塗布または湿布貼付のみで済む場合は皮膚科軟膏処置または湿布処置を算定します。下肢創傷処置と創傷処置、爪甲除去(麻酔を要しないもの)および穿刺排膿後薬液注入を併せて算定することはできません。複数の下肢創傷が存在する場合には、主たるものとして1番高い点数のみを算定します。下肢創傷処置を算定した場合は、レセプトの摘要欄に「下肢創傷の部位および潰瘍の深さ」を記載します。なお、「日本フットケア足病医学会認定師 講習会Ver.2」を受講されている医師が下肢創傷に対する評価と管理を継続的に行った場合、医療職免許取得後実務経験3年などの簡単な施設基準の届出が必要ですが、「B001_36 下肢創傷処置管理料」の月1回500点も算定できます。

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医療略語が言葉の壁!?正しい病名はどれ?【知って得する!?医療略語】第15回

第15回 医療略語が言葉の壁!?正しい病名はどれ?ガイドラインや論文を調べていたら、似通った名前の疾患がこんなにありました!それぞれに異なる略語がついています。どれが正しいのでしょうか? 違いや定義が分かりません…。高浸透圧性高血糖症候群(HHS:hyperosmolar hyperglycemic syndrome)高浸透圧高血糖状態(HHS:hyperosmolar hyperglycemic state)高血糖高浸透圧昏睡(HHNK:hyperosmolar hyperglycemic non-ketotic coma)高浸透圧性非ケトン性糖尿病性昏睡(HONC:hyperosmolar non-ketotic diabetic coma/HNDC:hyperosmolar non-ketotic diabetic coma)非ケトン性高浸透圧性昏睡(NKHC:non-ketotic hyperosmolar coma)非ケトン性高浸透圧性症候群(NKHS:non-ketotic hyperosmolar state[syndrome])高浸透圧高血糖非ケトン性昏睡(HHNC:hyperosmolar hyperglycemic non-ketotic coma)意図している病態は同じ気がしますが、似通った表記が多いですね。今回は日本の医療言語について考えてみましょう。皆さんは「けいぶ」を漢字表現するとき、「頸」と「頚」のどちらで記載していますか? どちらで表記するのが正しいか教育を受けたことはありますか? 筆者は「くび」の表現をさほど気にしたことがなく、各電子カルテ端末の漢字変換任せだったので、どちらかを意識して使用してきたことはありませんでした。ちなみに日本工業規格のJISでは「頸」が採用されているようです。しかし、このように1つを表現するのにも複数の表記方法があることは、情報処理の観点では不都合が起こります。たとえば、ある論文データベースで検索すると、「頸部」と「頚部」で検索結果が異なるのです。筆者は論文を貴重な医療情報と捉えていますが、このような表記の揺れ、あいまいさはデジタル処理をする際にも支障を来します。上述のように漢字の字体レベルの問題であれば、臨床実務の上でさほど大きな支障はないでしょう。しかし、これが病名になると話は違います。1つの病態や疾患に複数の病名が付いていることは、皆さんもご存じだと思いますが、筆者は非常に混乱の元だと思っています。ガイドラインを頼りにしたくても、ガイドライン同士で表現や用語が異なることが少なくありません。医学的知見の蓄積で病名が変化すること自体は、やむを得ないでしょう。しかし、病名の新しい呼称と旧病名の使用管理をしないと、冒頭に挙げたように新旧入り乱れてさまざまな類似表記が多数存在し、どれが一体正しい表記なのか混乱を招きます。筆者はこのような用語の不統一を解消するため、各医学領域の垣根を越えた、医療言語を整備、管理、統一する組織が日本に必要だと考えています。海外を見れば、医療用語の整備組織として、SNOMED internationalが存在します。しかし、国ごとに参加費用が異なり、日本が参加するにはそれなりの額の費用負担が必要となります。この費用を誰が負担するのかも課題ですが、英語ベースの医療用語をそのまま日本に輸入できるかと言えば、そうではないと考えます。近年の各学会のガイドラインを見ていると、国際学会の直訳と思われる用言や表記が少なく、日本語に和訳する際にきちんと日本人が理解できるように和訳および表記される必要があります。一方で、適切な日本語訳がなく、アルファベットのまま独り歩きしている医療用語も存在します。現場の医療情報を利活用しようとする機運が高まる中で、大切なのは共通の医療言語を使用していくことではないでしょうか。欧米にはアルファベットしかありませんが、日本にはひらがな、カタカナ、漢字、そして英字と言語学的にも文字の種類が豊富です。このような言語背景を持つ日本だからこそ、医療言語の整備と統一は、日本の医療界が本気で取り組むべき大きな課題だと考えます。

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第120回 断食でCOVID-19重症化予防? / 音の鎮痛効果の仕組み

定期的な断食の習慣は健康に良いという報告がいくつかあり、たとえば心疾患や2型糖尿病を生じ難くなることやより長生きになることとの関連が示されています。断食の習慣が担いうる効能はどうやらまだ出尽くしてはおらず、米国ユタ州での試験で新型コロナウイルス感染(COVID-19)重症化を防ぐ効果が示唆されました1,2)。毎月最初の日曜日に2食続けて抜く断食(Intermittent fasting)をすることがユタ州の住民の大半(6割超)を占める末日聖徒イエス・キリスト教会教徒の典型的な習慣として知られています。試験ではそのユタ州の医療法人Intermountain HealthcareのCOVID-19患者201人が調べられ、断食の習慣がある人はない人に比べてCOVID-19による入院や死亡をより免れていました。COVID-19入院/死亡率は断食をしていた71人では11%、そうでない人では約28%でした(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.42~0.90)。断食の習慣とCOVID-19の経過が良好なことを関連付ける仕組みは今後調べる必要がありますが、考えられる仕組みが幾つかあります。断食をするとリノール酸を含む脂肪酸が体内で増えることが知られています。リノール酸は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質にきつく結合し、細胞受容体ACE2への親和性を低下させます。断食で増えたリノール酸はそのようにしてSARS-CoV-2感染細胞や細胞内SARS-CoV-2粒子を減らしてCOVID-19重症化を予防するのかもしれません。断食で増える多機能なタンパク質・ガレクチン3がSARS-CoV-2感染抑制に一役買っている可能性もあります。ガレクチン3は数多くの病原体に結合することができ、自然免疫を活性化し、抗ウイルスタンパク質遺伝子の発現を増やし、ウイルス複製を阻害することなどが知られています。また、COVID-19経過不良と関連する糖尿病や冠動脈疾患などの持病が断食で生じ難くなることでCOVID-19重症化が間接的に抑制されている可能性もあります。時々の断食はCOVID-19ワクチンの代役とはなりえませんが、ワクチン接種を補完してCOVID-19重症化を減らす予防や治療の役割を担えるかもしれません。全世界の誰もが数ヵ月に1回のCOVID-19ワクチン接種をいつまでも続けることはおよそ現実的ではなく1)、接種が行き届いていない国は多く存在します。COVID-19流行の目下やこれからの世界での断食のワクチン補完の役割はCOVID-19後遺症への効果も含めて更なる検討の価値があると著者は結論しています。音の鎮痛効果の仕組み約60年前の1960年、歯科処置中に音楽を流すことで患者の痛みが和らぐことを示した報告がScienceに掲載されました3)。難儀な処置を亜酸化窒素や局所麻酔なしでやりおおせた患者もいたほどの効果がありました。以降、モーツァルトの古典音楽やら現代のミュージシャン・マイケル ボルトンの歌やらさまざまな音の鎮痛効果が検討され、実際に効果も認められました。たとえば8年ほど前の2014年の報告ではそのモーツァルトやマイケル ボルトン等の好きな音楽を聴いているときの線維筋痛症患者の痛みが減ることが示されています4)。米国NIHの神経生物学者Yuanyuan Liu氏等が率いるチームがScienceに発表した最新のマウス研究成果によると、そういった音の鎮痛効果はどうやら脳の特定の神経回路を抑制することでもたらされるようです5)。研究でマウスには少なくとも人には心地よいバッハの交響曲Rejouissance(歓喜)を毎日20分聴かせました6)。曲の音の強さは50~60デシベルで、曲なしでの背景音(ambient noise)は45デシベルが保たれました。マウスの足には炎症痛誘発液(complete Freund’s adjuvant;CFA)が注射され、続いて微針(von Frey filament)でその足を突いてどれだけ痛がるかが調べられました。驚いたことに、痛みを緩和する音の強さは決まっているようで、曲が背景音を5デシベル上回る50デシベルのときにマウスの痛みが緩和しました。50デシベルだとマウスは足を刺激されても平気で、それより強い音だと音楽なしのときと同様により痛がりました。人にとって不快なように変化させたRejouissanceやホワイトノイズでどうかを試したところ、それらが背景音を若干上回るデシベルであればやはり痛みを和らげました。つまり音の種類や快不快ではなく強度が鎮痛の鍵を握るようです7)。そういう低強度の音の鎮痛効果を担う脳の神経回路を同定すべく色素を使って脳領域の連結を調べたところ聴覚皮質から視床への経路が見つかり、低強度の音はその経路の神経活動を低下させました。音なしでその経路を光や低分子化合物で止めると低強度の音と同様に痛みを和らげる効果があり、その経路が通るようにすれば痛みが復活しました。すなわち低強度の音は聴覚皮質から視床への神経信号を阻害することで鎮痛効果をもたらしているようです。今後の課題として、鎮痛には背景音を若干上回る低強度の音でないとどうしてだめなのかを解き明かしたいと研究者は考えています。また、音を使った痛み治療の実現に向けて人ではどうなのかも調べる必要があります。たとえばマウスに試したような低強度の音を聞いているときの視床の活動をMRIスキャンで測定する試験は実施する価値がありそうです6)。参考1)Horne BD, et al. BMJ Nutrition Prevention & Health. 2022 Jul 1.2)Study finds people who practice intermittent fasting experience less severe complications from COVID-19 / Eurekalert3)GARDNER WJ,et al. Science 1960 Jul 1;132:32-3.4)Garza-Villarreal EA,et al. Front Psychol. 2014 Feb 11;5:90. 5)Sound induces analgesia through corticothalamic circuits. Science. 2022 Jul 7.6)Soft sounds numb pain. Researchers may now know why / Science7)Researchers discover how sound reduces pain in mice / NIH

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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会

 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が5年ぶりに改訂、7月4日に発刊された。本ガイドライン委員長の岡村 智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授)が5日に開催されたプレスセミナーにおいて動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の変更点を紹介した(主催:日本動脈硬化学会)。 今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の改訂でキーワードとなるのが、「トリグリセライド」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」である。これを踏まえて2017年版からの変更点がまとめられている動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の序章(p.11)に目を通すと、改訂点が一目瞭然である。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版のPDFは動脈硬化学会のホームページより誰でもダウンロードできる。<動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の主な改訂点>1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。 (1)脂質異常症の検査 (2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付) (3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH) (4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加 (5)健康行動倫理に基づく保健指導 (6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理 (7)続発性脂質異常症動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に至った主な理由 1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントした(参照:BQ5)。 2)については、吹田スコアに代わり今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では久山町研究のスコアを採用している。その理由として、同氏は「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明(参照:BQ16)。 3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている(参照:FQ24)。 4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説した。 5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され(第6章)、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されている。<続発性脂質異常症の原因>1.甲状腺機能低下症 2.ネフローゼ症候群 3慢性腎臓病(CKD)4.原発性胆汁性胆嚢炎(PBC) 5.閉塞性黄疸 6.糖尿病 7.肥満8.クッシング症候群 9.褐色細胞腫 10.薬剤 11.アルコール多飲 12.喫煙――― このほか同氏は、「LDL-Cのコントロールにおいて飽和脂肪酸の割合を減らすことが重要(参照:FQ3)」「薬物開始後のフォローアップのエビデンスレベルはコンセンサスレベルだが、患者さんの状態を丁寧に見ていくことは重要(参照:BQ21)」などの点を補足した。 2007年版よりタイトルを“診療”から“予防”に変更したように、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版は動脈硬化性疾患の予防に焦点を当てて作成されている。同氏は「すぐに薬物治療を実行するのではなく、高リスク病態や他疾患の有無を見極めることが重要。治療開始基準と診断基準は異なるので、あくまでスクリーニング基準であることは忘れないでほしい」と締めくくった。

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事例003 B001-3 生活習慣病管理の算定【斬らレセプト シーズン3】

解説2022年度の改定では、「B001-3 生活習慣病管理料」(以下「同管理料」)の算定を普及させようと算定要件に大きく4つの変更が加えられました。同管理料の根幹に係わる対象病名「脂質異常症、高血圧症並びに糖尿病」にかかる治療計画の作成とその説明、ならびに患者の同意が必要なことに変更はありません。1)多職種の実施について、医師が作成した治療計画に基づいて提供される患者への指導などは「看護師、薬剤師、管理栄養士等」がそれぞれの専門分野において実施することが可能とされました。例えば、服薬や栄養管理に係る指導や実施状況の把握は、医師自らが行わずに薬剤師や管理栄養士が行っても良いとなりました。「等」には、理学療法士や保健所の職員または他の保険医療機関の職員も含まれますが、算定されていない事例を見受けます。ご留意ください。2)糖尿病または高血圧症の患者について、管理方針を変更した場合にその理由と内容などを診療録に記載しなければならないことに変更はありませんが、その患者数を数えて行っていた定期的な記録と報告は必要なくなりました。3)薬剤料について、患者ごとに大きく異なっている実態が明らかとなったことを理由に、投薬に係る費用が同管理料の包括評価の対象から除かれました。同管理料に見合わず持ち出していた薬剤料が解消されます。旧点数からその分を除く改定となっています。4)情報通信機器を使用した再診時に実施した同管理料は算定できなくなりました。検査料が包括されており、定められた検査値を治療計画に記載することが求められているために「検査等を実施しなければ医学管理として成立しない管理料」と認定されたからです。医療職が患者の居宅に訪問して対面で総合的な治療管理などを行った場合は算定できます。薬剤料の出来高算定と多職種との連携が可能となったことは、医師の負担軽減に寄与しながら、きめの細かい疾患管理が可能となるものと考えられます。

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DPP-4阻害薬で胆嚢炎リスク増、とくに注意が必要な患者は/BMJ

 2型糖尿病患者において、DPP-4阻害薬は胆嚢炎リスクを増大することが、中国・北京連合医科大学病院のLiyun He氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。無作為化試験の被験者で、とくに医師の注意がより必要となる治療期間が長期の患者でその傾向が認められたという。先行研究で、GLP-1は胆嚢の運動性の障害に関与していることが示唆されており、主要なGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、胆嚢または胆道疾患リスクとの増大と関連していることが報告されていた。また、GIPも胆嚢の運動性に影響を及ぼすことが報告されていた。BMJ誌2022年6月28日掲載の報告。エビデンスの質はGRADEフレームワークで評価 研究グループは、DPP-4阻害薬と胆嚢または胆道疾患の関連を調べるため、PubMed、EMBASE、Web of Science、CENTRALをデータソースとして、各媒体創刊から2021年7月31日までに発表されたDPP4阻害薬に関する無作為化対照試験について、システマティック・レビューとネットワーク・メタ解析を行った。適格とした試験は、2型糖尿病の成人患者を対象に、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬と、プラセボまたはその他の糖尿病治療薬について比較した無作為化対照試験だった。 主要アウトカムは、胆嚢疾患または胆道疾患、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合とした。2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。各アウトカムのエビデンスの質を、GRADEフレームワークを用いて評価した。メタ解析は、プールオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を用いた。胆嚢/胆道疾患、胆嚢炎リスク増加、長期服用で関連増大 82件の無作為化対照試験、被験者総数10万4,833例を対象にペアワイズ・メタ解析を行った。 プラセボまたは非インクレチン製剤に比べ、DPP-4阻害薬は、胆嚢/胆道疾患の発症リスク増大(OR:1.22[95%CI:1.04~1.43]、群間リスク差:11[95%CI:2~21]/1万人年)および胆嚢炎リスク増大(1.43[1.14~1.79]、15[5~27]/1万人年)と有意に関連していた。 一方、胆石症の発症リスク(OR:1.08[95%CI:0.83~1.39])、胆道疾患の発症リスク(1.00[0.68~1.47])との関連は認められなかった。 DPP-4阻害薬と胆嚢/胆道疾患および胆嚢炎発症リスクの関連は、服用期間が長い患者で観察される傾向が認められた。 また、184試験を対象にネットワーク・メタ解析を行ったところ、DPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬に比べ、胆嚢/胆道疾患リスクおよび胆嚢炎リスクをいずれも増大させたが、GLP-1受容体作動薬との比較では、同増大は認められなかった。

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活性型ビタミンD3は耐糖能異常患者の2型糖尿病発症を予防しない(解説:住谷哲氏)

 後ろ向きの観察研究で有効性が示唆されたが、前向きのランダム化比較試験で有効性が否定されることは少なくない。ビタミンD3物語もその1つだろう。がん、心血管病、認知症などの発症を予防できるのではないかと期待されたが、残念ながら現時点でビタミンD3がこれらの疾患の発症を予防するエビデンスは存在しない。今回、新たにその物語に追加されたのが2型糖尿病発症予防効果である。 わが国で多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施することはかなりの困難があると思われる。2型糖尿病発症予防における活性型ビタミンD3エルデカルシトールの有効性を検証した本試験は、結果は否定的であったが、その点で貴重な報告と思われる。 ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果を検証した試験としては、既にD2d試験の結果が報告されている1)。天然型ビタミンD3を用いたこの試験においても、ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果は認められなかった。この研究におけるサブグループ解析では、ビタミンD3欠乏症のグループ(血清ビタミンD3<12ng/mL)では、2型糖尿病発症のハザード比[HR]は0.38(95%信頼区間[CI]:0.18~0.80)であり有効である可能性が示唆されていた。したがって次のステップとしては、ビタミンD3欠乏症を有する耐糖能異常患者を対象としたRCTを実施したほうがよかったかもしれない。しかし本試験とD2d試験はほぼ同時進行で実施されており、本試験で患者の組み込み基準に血清ビタミンD3が入っていないのは無理からぬことと思われる。しかし本試験で、多変量分数多項式Cox回帰分析を用いた事後解析で有効性が示唆されたのは、組み込み時の血清ビタミンD3低値ではなく、基礎インスリン分泌量低値であった。したがってこの結果が正しいとすると、インスリン分泌能の低下した耐糖能異常患者においてはビタミンD3が2型糖尿病発症予防効果を有する可能性もある。しかし、これもそのような患者を対象としたRCTの結果が出るまでは仮説にとどままるだろう。 本試験においてもエルデカルシトールの投与により腰椎と大腿骨頸部の骨密度および血清オステオカルシン濃度が有意に上昇した。現時点ではビタミンD3には骨密度増加作用のみを期待するのが妥当と思われる。

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国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」【下平博士のDIノート】第101回

国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」今回は、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「フィネレノン(商品名:ケレンディア錠10mg/20mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)の進行を防ぐMR拮抗薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月2日に発売されています。なお、原則としてACE阻害薬またはARBが投与されている患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはフィネレノンとして20mgを1日1回経口投与します。ただし、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の場合は10mgから投与を開始し、血清カリウム値・eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量します。なお、血清カリウム値が4.8mEq/L以下の場合は、投与量が10mgでもeGFRが前回の測定から30%を超えて低下していない限り20mgに増量します。一方、血清カリウム値が5.5mEq/L超える場合は投与を中止し、中止後に5.0mEq/Lを下回った場合には、10mgから投与を再開することができます。<安全性>2つの国際共同第III相試験(FIGARO-DKDおよびFIDELIO-DKD)では、安全性解析対象6,510例中1,206例(18.5%)において、臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。主な副作用は、高カリウム血症496例(7.6%)、低血圧92例(1.4%)、血中カリウム増加85例(1.3%)、血中クレアチニン増加69例(1.1%)、糸球体ろ過率減少67例(1.0%)などでした。また、重大な副作用として、高カリウム血症(8.8%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者における心臓や腎臓の機能低下を防ぎます。2.血圧が下がることにより、めまいやふらつきが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数あります。服用している薬剤や健康食品、サプリメントがあれば報告してください。4.グレープフルーツやグレープフルーツジュースは、薬の効果を強めてしまう恐れがあるため、摂取を避けてください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合はすぐに相談してください。また、カリウムの摂り過ぎや脱水、便秘には注意してください。6.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>近年、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が心腎保護作用の点から注目されています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)、エプレレノン(同:セララ錠)、エサキセレノン(同:ミネブロ)が発売されています。スピロノラクトンは女性化乳房などの副作用の課題があり、比較的それらの副作用が少ないエプレレノンも、中等度以上の腎機能障害患者(Ccr:50mL/min未満)や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。一方で、エサキセレノンは本剤と同様にステロイド骨格を持たないという特徴がありますが、適応は高血圧症のみとなっています。2つの臨床試験では、CKDステージが軽度~比較的進行した糖尿病性腎症の患者さんに、ACE阻害薬・ARBによる既存の治療を行った上で本剤を投与した結果、主要評価項目である心血管複合エンドポイントの発現リスクは13%、腎複合エンドポイントの発現リスクは18%、プラセボ群に比べ有意に低下させました。こういった結果をもたらした国内で初めてのMR拮抗薬であり、2型糖尿病合併CKDの適応を持つ唯一のMR拮抗薬です。相互作用で注意すべき点として、本剤は主にCYP3A4により代謝されるため、強力なCYP3A4阻害作用を持つ薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)を投与中の患者さんには禁忌となっています。また、併用注意の薬剤も多数あるので、併用薬はサプリメント等を含め、細やかに聞き取りましょう。MR拮抗薬といえば血清カリウム値上昇に注意が必要ですが、本剤はACE阻害薬あるいはARBとの併用が原則となっていることから、血清カリウム値のモニタリングが必須となります。対象患者の腎機能について、eGFRが60mL/min/1.73m2未満では投与量に制限があります。また、eGFRが25mL/min/1.73m2未満の場合は、本剤投与によりeGFRが低下することがあるため、リスクとベネフィットを考慮し投与の適否を慎重に判断することとされています。なお、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジン(同:フォシーガ)が2021年8月にCKDの適応を取得し、カナグリフロジン(同:カナグル)も、2022年6月に本剤と同じ2型糖尿病を合併するCKDに対する適応を取得しています。参考1)PMDA 添付文書 ケレンディア錠10mg/ケレンディア錠20mg

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命懸けの断食 ラマダーン【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第15回

一昔前は、ドイツへの移民と言えばトルコからというのが一般的でした。しかし、不安定な中東情勢に対し「難民を断らない」という姿勢を貫いたメルケル政権の影響もあり、現在は中東地域からの移民が大多数になっています。病院で勤務をしていても、中東からきた医師たちが日に日に多くなっていった印象が残っています。言わずとも、中東からきている医師たちはムスリム(ムスリマ)であることがほとんどですので、わりと身近にイスラム教の生活を感じることができました。「酒を飲んだらダメ」とか、「豚肉は食べちゃダメ」などと合わせ、厳しい戒律として有名なのが「ラマダーン」と呼ばれる宗教行事でいわゆる「断食」です。(Mohamed Hassan、Pixabayより出典)ラマダーン中の医療行為は危険!?イスラム暦の9月が「ラマダーンの月」と言われ、約30日間、「日の出ている間は飲食を行わない」と言うルールです。2022年は3月から4月にかけて行われたそうですが、私がドイツにいた頃は最も日照時間の長い6月頃に行われていたと記憶しています。そもそも、このラマダーンは赤道に近い中東地域で行われることを前提としているので、私が勤務していた北ドイツで実行することはかなり厳しいと言わざるを得ませんでした。と言うのもサマータイムで22時に日没して朝4時には日が昇っていましたから、この短い時間の間に1日分のカロリーを摂らなくてはなりません。元来、ラマダーン期間中は心穏やかに過ごし、あまりエネルギーを使わないようにするらしいのですが…ドイツで勤務している場合はそうも言ってられません(断食の例外として妊婦や病人、高齢者や旅人は免除されます)。同僚のムスリム医師は、手術に入っていても夕方になれば明らかに集中力が落ちていましたし、当直にも当たろうものなら日没直前は低血糖で冷や汗をかいているような状態でした。夕方ごろになると、呼びかけても返事が鈍くなっていましたから、だいぶ危ない状態だったと思います。病棟のベテラン・ナースは無理やり押さえつけてブドウ糖をショットするか悩んでいて、それがラマダーンで許されるのかネットで検索していたこともありました。そして、日没とともにドカ食いしていましたが、他人事ながら糖尿病のこととか、ちょっと心配になってしまいます。世界人口の4人に1人はイスラム教徒と言われています。今はまだまだ少数ですが、おそらく近い将来、日本でもイスラム教徒のドクターが増えていくことでしょう。異文化圏からきた同僚達も快適に働ける環境作りができればいいですね。

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抗菌縫合糸の使用でSSI発生率低減~日本人大腸がん患者での大規模研究

 外科手術後の閉鎖創におけるトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸と非コーティング糸とを比較した手術部位感染症(SSI)予防効果について、ランダム化比較試験やメタ解析などでその有用性について検討されてはいるが、各種ガイドラインでも条件付き推奨でとどまるものが多い。大阪大学の三吉 範克氏ら大阪大学消化器外科共同研究会大腸疾患分科会は、開腹/腹腔鏡下大腸がん手術における予防効果を評価するため、多施設共同前向き研究を実施。Journal of the American College of Surgeons誌2022年6月号に報告した。抗菌縫合糸の使用はSSIの発生を2.53%減少し有意な効果・対象:大腸がん(CRC)に対する待機的手術を受けた20 歳以上の患者・治療:切開後の腹部筋膜閉鎖にトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸もしくは非コーティング縫合糸を使用・主要評価項目:SSI発生率・副次評価項目:入院期間、外科的合併症の発生率 トリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸の手術部位感染症予防効果を評価した主な結果は以下のとおり。・2016年7月22日~2019年7月16日に国内24施設から2,207例の患者が組み入れられ、適格基準を満たした患者に対し、傾向スコアマッチングの手法を用いて2:1の割合で抗菌縫合糸群に926例、非抗菌縫合糸群に653例が割り付けられた。・ベースライン時点での年齢中央値は両群で68歳、術式は抗菌糸縫合群で腹腔鏡93%/ロボット支援4%/開腹3%、非抗菌縫合糸群で腹腔鏡96%/ロボット支援2%/開腹2%だった。・主要評価項目のSSI発生率は、抗菌縫合糸群で4.21%、非抗菌縫合糸群6.74%だった(p=0.028)。・重篤な有害事象の発生は報告されなかった。・ロジスティック回帰分析により、いくつかの因子がSSI発生に影響することが示された:抗菌縫合糸(オッズ比[OR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.40~0.99、p=0.046)、糖尿病(OR:1.81、95%CI:1.07~3.07、p=0.026)、白血球数(OR:1.14、95%CI:1.01~1.28、p=0.046)、手術時間(OR:1.64、95%CI:1.01~2.67、p=0.046)、術中合併症(OR:6.06、95%CI:1.03~35.75、p=0.047)。・副次評価項目である入院期間と外科的合併症の発生率は、両群間で統計学的な差はみられなかった。・6つの第III相試験を含む4,797例に今回の研究を含めたメタ解析の結果、非抗菌縫合糸と比較したトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸はSSI予防において有意な優越性を示した(OR:0.71、95%CI:0.53~0.95、p=0.0195)。 著者らは、全体のSSI発生率は5.55%であり、SSIが依然として一般的で未解決な課題であることが示唆されたとしたうえで、トリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸の使用はSSIの発生を2.53%減少し、有意な効果を示したと結論付けている。

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ASCO2022 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介今年のASCO 2022の年次総会も、COVID-19の影響で、昨年のASCO 2021に引き続き、ハイブリッド開催となりました。その恩恵を受けて、昨年と同様に、米国・シカゴまで行かずに、通常の病院業務をしながら、業務の合間に、時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり、発表スライドを閲覧したりすることができました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連5演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病関連2演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連First-line brentuximab vedotin plus chemotherapy to improve overall survival in patients with stage III/IV classical Hodgkin lymphoma: An updated analysis of ECHELON-1.  (Abstract #7503)ECHELON-1試験は、初発の進行期ホジキンリンパ腫患者を対象に、これまでの標準治療のABVD療法と、ブレンツキシマブベドチンとブレオマイシンを入れ替えたA-AVD療法を比較した第III相比較試験で、これまでの発表にて、A-AVD療法がABVD療法と比較し、PFSの延長効果が示されていた。今回の発表では、追跡期間の中央値が73ヵ月(約6年)の時点で、A-AVD療法の、OSについての優位性も示された(6年時点のOS:[A-AVD療法:93.9%、ABVD療法:89.4%]) (HR:0.590、95%信頼区間[CI]:0.396~0.879、p=0.009)。サブグループ解析では、IPSが4~7の患者、Stage IVの患者、節外病変が2以上の患者など、予後不良と思われる患者において、有意にA-AVD療法がABVD療法よりもOSを延長した。2次がんの発症率も、23例と32例で、A-AVD療法で少なかった。ホジキンリンパ腫については、これまで、ABVD療法に対し、OSでの優位性を示した治療法はなかったが、A-AVD療法が初めてABVD療法にOSで優ったことが示された歴史的試験結果となった。Glofitamab in patients with relapsed/refractory (R/R) diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL) and >2 prior therapies: Pivotal phase II expansion results. (Abstract #7500)R/R DLBCL患者に対し、近年、CD19-CAR-T細胞治療やポラツズマブベドチン(ADC)などの新薬が登場し、治療成績は良くなったが、それらの治療にても再発・難治となる場合もあり、さらなる新薬の開発が望まれている。本発表では、CD20とCD3(2対1の比率)に対する二重抗体薬のglofitamabの第II相試験(21日サイクルにて、最大12サイクルまでの固定期間治療であり、サイクル1のDay1には、CRS軽減のため、オビヌツズマブを投与し、Day8に2.5mg、Day15に10mgを投与、サイクル2以降はDay1に30mgを投与する)の結果が報告された。154例の2ライン以上の前治療歴(リツキシマブの治療歴を含む)のあるR/R DLBCL患者が対象となった(59.7%が3ライン以上、33.1%がCAR-T治療を受けていた)。主要評価項目のCR率は39.4%であり、副次評価項目のORRは51.6%であった。また、CAR-T治療歴のある、なしでのCR率は、それぞれ35%と42%であった。CR維持率は12ヵ月時点で77.6%であった。CRSは63%に認めたが、うち59%はG1~2であり、ほとんどがサイクル2までに認められた。glofitamabは、CAR-T既治療例を含むR/R DLBCLに対する新たな治療薬として期待できる。Influence of racial and ethnic identity on overall survival in patients with chronic lymphocytic lymphoma. (Abstract #7508)CLLは、西欧諸国では頻度の多い疾患であるが、アフリカやアジアでは少なく、発症率や予後に、人種差が影響するかどうかは、明らかではなかった。本発表では、National Cancer Databaseに2004~18年に登録されたアメリカのCLL患者を解析している。9万7,804例のうち、8万8,680例(90.7%)が白人、7,391例(7.6%)が黒人、2,478例(2.6%)がヒスパニック、613例(0.6%)がアジア人であった。今回は、この中で、白人と黒人を比較している。黒人の方が、診断時の年齢が66歳(vs.70歳)と若く、合併症を有する割合も27.9%(vs.21.3%)と多かった。さらに、次の項目(女性患者、非保険加入者、低所得者)の割合が黒人で多かった。また、CLLの治療を、診断時すぐに開始された割合も35.9%(vs.23.6%)と多く、OSは短い(中央値:7.00年vs.9.14年)ことがわかった。CLLの病態に人種差がどのように影響しているかは不明だが、経済力の差などが、診断時期や治療法の選択にも影響している可能性もあり、それがOSの差に反映していると思われる。GEMSTONE-201: Preplanned primary analysis of a multicenter, single-arm, phase 2 study of sugemalimab (suge) in patients (pts) with relapsed or refractory extranodal natural killer/T cell lymphoma (R/R ENKTL). (Abstract #7501)R/R ENKTLの予後はきわめて不良である(OS中央値は7ヵ月未満、1年OSは20%未満)。本試験では、R/R ENKTLに対する抗PDL1抗体薬(sugemalimab)の第II相試験(GEMSTONE-201試験)の最初の解析結果が報告された(追跡期間の中央値が13.4ヵ月時点)。対象となった患者は、80例(年齢中央値:48歳、男性:64%、前治療が2ライン以上:49%、前治療に抵抗性:46%)であり、Suge 1,200mgを3週に1回投与し、最長24ヵ月投与した。主要評価項目のORRは、46.2%であった。また、副次評価項目のCR率は、37.2%であり、12ヵ月時点のDORは、86%であった。探索的評価項目の全生存率は、12ヵ月時点で68.6%であった。G3以上の有害事象は39%(治療薬関連は16%、そのうち重篤な有害事象は6.3%)でみられ、最も高頻度にみられたirAEは、甲状腺機能低下症が16%にみられた。R/R ENKTLに対する抗PDL1抗体薬は、その有効性と安全性のバランスから期待できる治療薬と考える。Primary results from the double-blind, placebo-controlled, phase III SHINE study of ibrutinib in combination with bendamustine-rituximab (BR) and R maintenance as a first-line treatment for older patients with mantle cell lymphoma (MCL). Abstract #LBA7502初発の自家移植非適応の高齢MCL患者(65歳以上)に対するBRX6サイクル+R維持療法(2ヵ月ごと2年間)と、その治療に最初からイブルチニブ560mg(or プラセボ)を上乗せし、イブルチニブ(or プラセボ)は、PDあるいは毒性中止となるまで継続する治療を比較した第III相比較試験のSHINE試験の結果がLate break abstractとして報告され、同日のNEJM誌にPublishされた。イブルチニブ群259例とプラセボ群260例が治療を受けた。主要評価項目のPFSの中央値は、80.6と52.9ヵ月であり、HR:0.75(0.59~0.96)と有意にイブルチニブを併用した治療で約2年のPFSの延長がみられた。ハイリスク症例(BlastoidタイプあるいはTP53変異あり)でも、イブルチニブ群でPFSが良い傾向にあったが、症例数が少なく、有意差は認めなかった。TTNTもHR:0.48(0.34~0.66)でイブルチニブ群で延長がみられた。イブルチニブ群では、G3/4の有害事象として、出血(3.5%)、心房細動(3.9%)、高血圧(8.5%)、関節痛(1.2%)を認めた。ただし、OSについては、HR:1.07(0.81~1.40)で差を認めていない。SHINE試験で、初めて、初発の高齢MCL患者に対するイブルチニブの有用性(併用効果)が示され、今後、標準治療の変更が見込まれる結果となった。多発性骨髄腫関連Major risk factors associated with severe COVID-19 outcomes in patients with multiple myeloma: Report from the National COVID-19 Cohort Collaborative (N3C). (Abstract #8008)NCATS’ National COVID Cohort Collaborative (N3C)のデータベースを用い、MM患者におけるCOVID-19の重症化のリスクを解析している。本データベースには、2万6,064例のMM患者が登録(うちCOVID-19 陽性は8,588例)されていた。多変量解析によって、肺疾患、腎疾患の既往は重症化のリスクであったが、糖尿病、高血圧は有意なリスクとはならなかった。喫煙は、むしろリスクが低い傾向があった。造血幹細胞移植、COVID-19ワクチン接種は有意に重症化リスクを下げた。一方、IMiDs、PI、デキサメサゾン治療は死亡リスクを上昇させたが、ダラツムマブ治療はリスクとはならなかった。1.93%のMM患者がCOVID-19感染10日以内に、4.47%のMM患者が30日以内に死亡した。本発表は、世界での最大級のデータベースを解析したものであり、COVID-19流行下のMM診療に役立つと思われる。Teclistamab, a B-cell maturation antigen (BCMA) x CD3 bispecific antibody, in patients with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated efficacy and safety results from MajesTEC-1. (Abstract #8007)BCMAとCD3に対する二重抗体薬 teclistamabの第I/II相MajesTEC-1試験の最新のデータが発表された。対象となった患者165例(第I相:40例、第II相:125例)は、前治療のライン数が5(2~14)で74%が4ライン以上であった。また、78%がトリプルクラス抵抗性、30%がペンタドラッグ抵抗性であり、90%が最後の治療に抵抗性の状態であった。Tecは、1.5mg/kgを週1回、皮下注で投与する方法が推奨用量であった。有効性の評価では、ORRは63%で、VGPR以上は58.8%、CR以上は39.4%であった。DORの中央値は18.4ヵ月、12ヵ月時点のDORは68.5%であり、CR以上が得られた患者では80.1%であった。PFSの中央値は11.3ヵ月、OSの中央値は18.3ヵ月であった。有害事象については、CRSは、72.1%でみられたが、G3は1例(0.6%)でG4/5はなかった。CRS発現は2日目(1~6)にみられ、2日間(1~9)続いた。治療関連死は5例(COVID-19 2例、肺炎1例、肝不全1例、PML1例)、AEによる減量は1例だけであった(21サイクル目)。BCMAを標的とするCAR-T療法よりは効果が落ちるものの、Off the shelfの薬剤であり、大いに期待される。Daratumumab carfilzomib lenalidomide and dexamethasone as induction therapy in high-risk, transplant-eligible patients with newly diagnosed myeloma: Results of the phase 2 study IFM 2018-04. (Abstract #8002)フランスのグループ(IFM)で実施されたHigh riskの染色体異常(CA)(t[4;14]、 del[17p]、 t[14;16]のいずれか)を有する移植適応のある初発MM患者を対象としたDara-KRD(6サイクル)+Auto(MEL200)+Dara-KRD(4サイクル)+2回目Auto(MEL200)+Dara-Len維持療法(2年)の第II相試験(IFN 2018-04試験)の寛解導入Dara-KRD治療の結果が報告された。50例の患者がエントリーされた。Del(17p)が20例、t(4;14)が26例、t(14;16)が10例、Gain(1q)は25例、前記の2以上のCAを有しているのは34例であった。46例が6サイクル完遂でき、2例はAE(COVID-19感染と腫瘍崩壊症候群)で中止、2例はPD中止となった。6例が2回Auto分のPBSCHに失敗したため、Dara-KRD(3サイクル)後にPBSCHを実施したところ、全例、PBSCHに成功した。ORRは96%、VGPR以上は91%、MRD測定(NGS)を行った37例中、MRD陰性であったのは、62%であった。今後、この治療法は続きがあるが、寛解導入部分の有効性、安全性は評価できると考える。白血病関連Overall survival by IDH2 mutant allele (R140 or R172) in patients with late-stage mutant-IDH2 relapsed or refractory acute myeloid leukemia treated with enasidenib or conventional care regimens in the phase 3 IDHENTIFY trial. (Abstract #7005)AMLにおいて、8~19%の症例で、IDH2遺伝子変異がみられ、IDH2遺伝子変異には、R140Q変異(75%)とR172K変異(25%)がある。変異IDH2阻害剤のenasidenibは、IDH2遺伝子変異を有する高齢R/R AML患者に対し、通常の治療(AZA、CA少量、BSC)と比較しOSの延長は認められなかった(IDHENTIFY試験)。今回の解析では、R140変異とR172変異に分けて解析している。R140と比較し、R172では併存する変異遺伝子の数が、少なかった。また、R140ではSRSF2、FLT3、NPM1、RUNX1遺伝子の変異を伴うのが多かったが、R172では、DNMT3A、TP53の変異が多かった。このことが影響したためか、R140では、OSに差を認めなかったが、R172においては、有意に、enasidenibが、通常治療よりもOSを延長した(14.6ヵ月 vs.7.8ヵ月)。遺伝子変異に基づいた治療法の選択は今後、ますます重要になると思われ、興味深い発表と考える。Efficacy and safety results from ASCEMBL, a phase 3 study of asciminib versus bosutinib (BOS) in patients (pts) with chronic myeloid leukemia in chronic phase (CML-CP) after >2 prior tyrosine kinase inhibitors (TKIs): Week 96 update.  (Abstract #7004)2ライン以上のTKIによる前治療歴があり、それらのTKI治療に抵抗性・不耐容のCML患者に対し、従来のTKIが結合するATP結合サイトとは異なるミリストイルポケットを標的とするasciminibとボスチニブを比較した第III相試験のASCEMBL試験のフォローアップデータが発表された。最初の解析時点から16.5ヵ月経過した2.3年時点での結果である。157例がasciminib、76例がボスチニブに割り付けられ、84例(53.5%)と15例(19.7%)が治療継続しており、治療効果不十分のため中止となった症例は、38例(24.2%)と27例(35.5%)であった。96週時点のMMR率(副次評価項目)は、37.6%と15.8%であり、有意にasciminibが優れていた(主要評価項目の24週時点のMMR率は25.5%と13.2%であった)。内服期間の中央値も23.7ヵ月と7.0ヵ月で、asciminibが長かった。asciminibでボスチニブよりも多くみられたAEは、血小板減少であり、ボスチニブでみられる下痢、嘔気・嘔吐、皮疹、肝障害は、明らかに少なかった。今回の結果から、asciminibは、既存のTKIに抵抗性・不耐容のCML患者の長く継続できる新たな治療薬として、再認識され、現在、日本でも保険適用で使用可能となった。おわりに以上、ASCO 2022で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。昨年のASCO 2021でも10演題を紹介いたしましたが、今年も昨年と同様に、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO 2023にオンライン参加をしたいと考えています。(でも、もう少し参加費を安くしてほしい、特に、円安の今日この頃(笑))

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テストステロン低下が肥満のない非アルコール性脂肪性肝疾患の要因か/日本抗加齢医学会

 テストステロン欠乏により生じる病態と言えば男性更年期(疲れやすい、肥満、うつ、性欲低下…)をまず思い浮かべるが、実は、加齢による骨格筋量の減少(サルコペニア)の原因の1つであり、脂肪肝の発症にも深いかかわりがあるというー。6月17~19日に大阪で開催された第22回日本抗加齢医学会総会のシンポジウム「男性医学」において、濱口 真英氏(京都府立医科大学 内分泌・代謝内科学助教)が『脂肪肝とテストステロン』と題し、骨格筋量の低下とテストステロン欠乏、そして脂肪肝への影響について講演した。肥満のない脂肪肝なら起こる可能性-サルコペニア 肝臓と筋肉には肝筋連関というつながりがあり、2型糖尿病を例にとると、高血糖はもちろんのこと、過栄養による脂肪肝や運動不足による筋肉量低下が引き金となり糖尿病を発症する。濱口氏は「肝筋連関のせいで肝臓と筋肉が互いに足を引っ張り合ってさらなる悪循環を来し、サルコペニアが脂肪肝を助長する」と説明。これを立証するものとして、『脂肪肝と肥満と糖尿病の関係性』に関する研究1)を紹介し、「肥満でなくても脂肪肝があればサルコペニアのリスクはある。過体重を伴わない脂肪肝は、サルコペニアがあることで見掛け上の体重が減少していると考えられる」と解説した。脂肪肝指数はテストステロン高値群より低値群で高い サルコペニアにも負の影響をもたらす脂肪肝。近年では単なる内臓脂肪ではなく、筋肉、心臓、肝臓、膵臓の4つの部位に主に発生し、さまざまな細胞に障害を及ぼす “異所性脂肪蓄積”の1種として重要視されている。さらに、脂肪肝は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へ進展することもあるため「NASHのリスク因子である男性更年期(LOH症候群)やサルコペニアを早期に改善させる必要がある」と同氏は指摘した。実際に国内の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の年代別割合グラフ2)を見ると、男女ともに20代から増加し50~60代でピークを迎え、とくに男性の場合は50代をピークに逆U字を描く傾向にあり、「肝筋連関に加えて、血清テストステロンの低下が脂肪肝に影響しているのではないか」とコメントした。また、海外データ3)で、脂肪肝指数はテストステロン高値群より低値群で高く、トリグリセリド/HDL-C比はテストステロン高値群より低値群で高いことが示唆されている。 同氏はそれを裏付けるものとして、去勢モデルマウスとテストステロン補充に関する研究4)を示し、これによると去勢モデルにテストステロンを補充することで骨格筋量の回復、耐糖能異常の改善がみられた。さらにエストラジオールを補充することで最も高い改善が見られ、脂肪肝も抑制することが示された。ただし、「実臨床においてLOH症候群でサルコペニアと糖尿病を伴う受診者にエストラジオールを補充することの是非については議論がある」ため、同氏らはエストラジオールの代替として大豆イソフラボンおよびエクオールの可能性について検討を深めている。 最後に同氏は以上をまとめ、「テストステロンの補充で骨格筋量が回復しさらにエストラジオールの補充が脂肪肝の改善に効果を有することから、エストラジオールの代替として大豆イソフラボンを補充することは脂肪肝・サルコペニア・糖代謝改善に期待できるのではないか。今後、研究結果が待たれる」と締めくくった。

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高齢者の多疾患罹患とうつ病に関する性差

 これまでの研究では、多疾患罹患はうつ病リスクが高いといわれている。しかし、うつ病と多疾患罹患との関連において、性差を調査した研究はほとんどなかった。韓国・乙支大学校のSeoYeon Hwang氏らは、男女間でうつ病と多疾患罹患の関連に違いがあるかを調査した。その結果、韓国の高齢者において、多疾患罹患とうつ病との関連に性差が認められたとし、多疾患罹患の高齢者におけるうつ病の軽減には、性別ごとの適切なケアを提供する必要があることを報告した。Epidemiology and Health誌オンライン版2022年5月24日号の報告。 対象は、韓国の高齢者調査(2011~17年)より得られた65歳以上の3万138例。うつ病の評価には、老年期うつ病評価尺度の韓国語版(GDS-K)を用いた。多疾患罹患患者の定義は、関節炎、糖尿病、心臓病、高血圧、肺疾患、がん、脳卒中、骨粗鬆症のうち2つ以上の慢性疾患を有する患者とした。うつ病と多疾患罹患との関連を分析するため、多重ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・多疾患罹患患者のうつ病有病率は、男性で22.17%、女性で30.67%であった。・多疾患罹患患者は、そうでない人と比較し、うつ病リスクが高く、男性のリスク差は女性よりも大きかった。・とくに女性において、年齢はモデレーターである可能性が高かった。・統合分析では肺疾患、脳卒中、がんの影響が大きかったが、性差は、心臓病を有する患者の慢性疾患数で認められた。

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