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経口GLP-1受容体作動薬elecoglipronは新たな肥満症治療薬として有効である(解説:住谷哲氏)

 elecoglipronはAstraZeneca社が開発中の経口GLP-1受容体作動薬である。先行するEli Lilly社のorforglipronと同じく絶食時の服用などの制限がなく、新たな肥満症治療薬として期待されている。本試験VISTAはelecoglipronの第IIb相の用量設定試験である。用量は5mgから75mgに設定された。対象は2型糖尿病を合併していない肥満/過体重患者である。主要評価項目は2つ設定され(dual primary endpoints)、26週後の体重減少率と26週後に5%以上の体重減少を来した患者の割合とされた。 主要評価項目の1つである26週後の体重減少率は、プラセボ群、5mg投与群、75mg投与群でそれぞれ-0.6%、-2.6%および-10.5%であり、すべての投与群でプラセボ群と比較して有意に減少していた。26週後に5%以上の体重減少を来した患者の割合は、プラセボ群、5mg投与群、75mg投与群でそれぞれ15.6%、40.4%および88.8%であった。さらに、副次評価項目である36週後の体重減少率は75mg投与群で-11.8%であり、26週時点では体重減少がプラトーに達していないことが示された。安全性についても、これまでのGLP-1受容体作動薬と同様に消化器系有害事象が多く認められた。 肥満症治療薬としての経口GLP-1受容体作動薬については、経口セマグルチド(商品名:Wegovy錠25mg)がすでに欧米で承認されており、米国ではorforglipron(商品名:Foundayo)も承認されている。第IIb相である本試験の結果を受けて、AstraZeneca社は第III相臨床開発プログラムであるEMBOLD試験をすでに開始している。さらに、他のglipron薬と同じく血糖降下薬としての承認を目指したSOLSTICE試験の結果もLancetの同日号に報告された1)。わが国でも経口薬による肥満症治療が可能になる日が近づいている。

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フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)であり、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性を抑制する。従来、本剤は糖尿病性慢性腎臓病(CKD)を適応とし、心・腎保護を目的に使用されてきた。 今回のFIND-CKD試験では、新たに非糖尿病性CKD患者を対象として、フィネレノンの腎保護効果が評価された。FIND-CKD試験の結果は、非糖尿病性CKD患者全体を対象とした主要解析を報告したNEJM論文(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026 Jun 4. [Epub ahead of print])と、糸球体疾患を有するCKD患者を対象に事前規定された探索的サブグループ解析を報告したJAMA論文(本論文)の2報として公表されている。 NEJM論文では、主要アウトカムとしてフィネレノンによるeGFRスロープの有意な改善が示された。一方、本JAMA論文では、糸球体疾患を有するCKD患者においても、先行するNEJM論文の結果を支持する腎保護効果が示された。MRAによる腎保護療法の流れ 現在、糖尿病性CKDに対する腎保護を目的とした薬物療法として推奨されているのは、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nonsteroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬である。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている一方、nsMRAはこれら2剤に追加して使用する薬剤として位置付けられており、推奨度はやや低い(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。 nsMRAであるフィネレノンは、糖尿病性CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験、および両試験の統合解析であるFIDELITYにおいて、心血管アウトカムおよび腎複合アウトカムの改善効果が示されている。これらのエビデンスを踏まえ、2024年KDIGOガイドラインでは、RAS阻害薬およびSGLT2阻害薬に追加する治療薬として、糖尿病性CKDの早期から心・腎保護を目的に使用することが推奨されている。 今回報告されたFIND-CKD試験は2報から構成されており、NEJM論文では非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの腎保護効果が検証された。一方、JAMA論文(本論文)では、その対象集団のうち糸球体疾患を有するCKD患者に限定した事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。FIND-CKD試験(JAMA論文)の結果の概要 FIND-CKD試験は、24の国・地域で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、非糖尿病性CKD患者を対象とした。本試験の結果は2報として報告されており、NEJM論文では登録された全1,584例を対象とした主要解析が、一方、本JAMA論文では、そのうち糸球体疾患由来のCKDと診断された903例を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。 対象患者の平均年齢は51.1歳、女性は40.1%、アジア人は61.9%を占め、平均eGFRは48.8mL/min/1.73m2であった。また、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)も評価された。約80%の患者では腎生検により組織学的診断が確定しており、その内訳はIgA腎症46.1%、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)23.8%、膜性腎症10.0%、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)1.8~3.9%で、一部は高血圧性腎硬化症であった。 全例で試験開始前に最大忍容量のRAS阻害薬が4週間以上投与されており、その上乗せ治療としてフィネレノンの有効性が検討された。その結果、ベースラインから32ヵ月までのeGFRスロープは、フィネレノン群で−3.50mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で−4.23mL/min/1.73m2/年となり、群間差は0.73mL/min/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.22~1.24)であった。また、フィネレノン群ではベースラインから12ヵ月までのUPCRが42%(95%CI:35~48)低下した。さらに、腎不全への進行またはeGFRが40%以上低下する複合腎アウトカムの発生リスクは、プラセボ群と比較して26%低下した(100患者年当たり7.42件vs.9.60件、ハザード比:0.74、95%CI:0.57~0.97)。 以上より、フィネレノンは糸球体疾患を有する非糖尿病性CKD患者において、腎機能低下の抑制、蛋白尿の減少、および腎アウトカムの改善を示し、腎保護作用を有する可能性が示唆された。FIND-CKDから学ぶこと 本研究の最大のポイントは、非糖尿病性CKD患者を対象としたFIND-CKD試験において、糸球体疾患サブグループでもフィネレノンの腎保護効果を支持する結果が得られた点である。 まず留意すべき点は、既報のFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験と同様に、FIND-CKD試験もRAS阻害薬による標準治療にフィネレノンを上乗せした治療の有効性を検証した試験であり、フィネレノン単独の効果を評価したものではないことである。また、NEJM論文は、非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの有効性を検証するために計画された確証的試験である。一方、本JAMA論文は、試験計画時から糸球体疾患患者を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析として実施されたものである。したがって、その結果は仮説的・補足的な位置付けであり、統計学的な確証的結論を導くものではないことを明記しておく必要がある。 そのような制約があるにもかかわらず、本JAMA論文では、主要評価項目であるeGFRスロープの改善に加え、事前に設定された腎複合エンドポイントおよび心血管エンドポイントについても、一貫してフィネレノンに有利な傾向が認められた。したがって、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者においても、フィネレノンの腎保護作用を支持する結果が得られたと解釈することは妥当と思われる。ただし、その有効性が確立されたと結論付けるには、今後の独立した確証試験による検証が必要である。 MRA投与時の高カリウム血症について、糖尿病性CKDと非糖尿病性CKDで差異があるかどうかも興味深い点である。高カリウム血症の発現率は、糖尿病性CKDを対象としたFIGARO-DKD試験では10.8%(プラセボ群5.3%、群間差5.5%)、FIDELIO-DKD試験では18.3%(同9.0%、群間差9.3%)であった。一方、非糖尿病性CKDを対象としたFIND-CKD試験では17.0%(同13.3%、群間差3.7%)であり、プラセボ群との差は3試験中で最も小さかった。各試験の平均eGFRは、FIGARO-DKD試験で約68、FIDELIO-DKD試験で約44、FIND-CKD試験で約49mL/min/1.73m2であった。これらの試験間比較からは、(1)高カリウム血症の発現頻度は腎機能低下の程度と関連する可能性、(2)非糖尿病性CKDでは糖尿病性CKDと比べてフィネレノン投与に伴う高カリウム血症の増加幅が小さい可能性、の2点が示唆される。ただし、これらは異なる試験間の比較から得られた知見であり、患者背景や試験デザインの違いによる影響を受ける可能性があるため、これには慎重な解釈が必要である。一般に、糖尿病性CKDでは低レニン性低アルドステロン症(hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)、インスリン作用不足、代謝性アシドーシスなどが高カリウム血症の誘因となりやすいことが知られている。今回のFIND-CKD試験の結果は、糸球体疾患を主体とする非糖尿病性CKDでは、nsMRA投与に伴う高カリウム血症の頻度が少ない可能性を示唆しており、副作用の観点からも注目される。 今後は、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者に対し、フィネレノンが真に腎保護作用を有するかどうかを検証する独立した確証試験の実施が期待される。

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8月4日 栄養の日【今日は何の日?】

【8月4日 栄養の日】〔由来〕「えい(8)よう(4)」(栄養)と読む語呂合わせから、栄養を学び、体感することをコンセプトに、食生活を考える日とすることを目的に日本栄養士会が制定。同会では、この日を中心に「栄養週間」として、全国の管理栄養士・栄養士とともに「栄養をたのしむ」生活を応援している。関連コンテンツすぐに使える!糖尿病の食事指導スライドビタミンAってなあに?【患者説明用スライド】心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増骨折・転倒予防、CaとビタミンDに効果認めず~メタ解析/BMJ

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AHA/ACC脂質異常症GL改訂、スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大/JAMA

 米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)による2026年版の脂質異常症ガイドラインでは、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の推定リスクおよび1次予防においてスタチンが適応となる集団について新たな推奨事項が提示された。米国・ピッツバーグ大学のTimothy S. Anderson氏らは、2018年版から2026年版への変更により、ASCVDの1次予防を目的とするスタチン療法の対象となる米国の人口が推定2,150万人拡大し、結果として30~79歳の非妊娠成人の半数以上が現在、1次予防におけるスタチンの適応となっており、新たな適応集団の多くは、ASCVDの推定10年リスクが3%未満(平均値3.1%)であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年7月20日号に掲載された。2026年版の変更が公衆衛生に及ぼす影響を検討 研究グループは、2026年版AHA/ACC脂質異常症ガイドラインに基づくスタチン療法による1次予防が、公衆衛生に及ぼす影響の評価を目的に、米国の国民健康栄養調査(NHANES)の全国的な代表的データを用いて検討を行った(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。 対象は、2017~23年にNHANESに参加し、ASCVDを有さず、年齢30~79歳の非妊娠成人の横断的サンプルとした。データの解析は、2026年3~5月に行った。 主要評価項目として、1次予防におけるスタチン療法の適応基準の変更の影響を、2026年版と2018年版のガイドラインを比較することで評価した。8.6%がASCVDリスクとは独立にスタチンの適応、適応外は37.9% 加重サンプルには、米国の成人1億5,450万人(加重平均年齢51歳、女性52.0%、白人62.2%、ヒスパニック系16.4%、黒人10.5%、アジア系6.3%)を代表する4,366人のNHANES参加者が含まれた。 2026年版ガイドラインに基づくと、このうち860万人(5.5%、95%信頼区間[CI]:4.7~6.6)が、未治療でLDLコレステロール(LDL-C)値<70mg/dLであり、スタチンは推奨されない集団であった。2,760万人(17.8%、95%CI:16.3~19.5)は、すでにスタチンの投与を受けていた。 また、1,330万人(8.6%、95%CI:7.6~9.8)は、それぞれLDL-C値≧190mg/dL(360万人[2.3%、95%CI:1.6~3.3])、40~75歳で糖尿病(780万人[5.0%、95%CI:4.3~5.8])、40~75歳でステージ3以上の慢性腎臓病(200万人[1.3%、95%CI:0.9~1.8])であり、ASCVDリスクとは独立にスタチン投与の適格基準を満たし、いずれもストロングスタチンが推奨された。 残りの1億510万人(68.0%、95%CI:65.9~70.0)が、ガイドラインの推定ASCVDリスクに基づく判定基準によりスタチン適応の可否が決まる集団であった。 10年ASCVDリスクが高(≧10%)の集団は320万人(2.0%、95%CI:1.5~2.7)であり、中(5~<10%)が1,140万人(7.4%、95%CI:6.5~8.4)、境界型(3~<5%)が1,290万人(8.4%、95%CI:7.2~9.7)、低(<3%)は7,760万人(50.2%、95%CI:47.7~52.7)であった。 10年ASCVD低リスク集団のうち、LDL-C値<160mg/dLで、30年リスク<10%の集団(5,850万人、37.9%、95%CI:35.8~40.0)はスタチン適応外であるが、これ以外の参加者はストロングまたは中強度スタチンが推奨された。スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大 8,750万人(56.6%、95%CI:54.2~58.9)が2026年版ガイドラインに基づきスタチンの適応となり、このうち新たに適応となったのは2,150万人(13.9%、95%CI:12.5~15.5)であった。 また、70~79歳の93.5%および60~69歳の85.0%が、スタチンによる1次予防の対象となるのに対し、30~39歳では11.1%と少なかった。 従来からスタチン療法が推奨されていた集団に比べ、新たにスタチンの適応となった集団は、全般に若年層であり、リスクも低かった(推定10年ASCVDリスクの平均値:新規スタチン適応集団3.1%[95%CI:2.7~3.5]、従来スタチン適応集団6.1%[95%CI:5.8~6.4])。 著者は、「2026年版の脂質異常症ガイドラインは、主に低リスクの集団を対象に、スタチンによる1次予防が推奨される米国の成人集団を大幅に拡大している」とまとめている。また、「今回の解析では、現在、薬物療法を受けている患者の大多数が、2026年版ガイドラインでもスタチンの『強い』または『中等度』の適応を保持していることを確認した」としている。

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経口GLP-1受容体作動薬elecoglipronは新たな血糖降下薬として有効である(解説:住谷哲氏)

 elecoglipronはアストラゼネカ社が開発中の経口GLP-1受容体作動薬である。先行するイーライリリー社のorforglipronと同じく絶食時の服用などの制限がなく、新たな血糖降下薬として期待されている。本試験SOLSTICEはelecoglipronの第IIb相の用量設定試験である。用量は5mgから75mgに設定され、対照にはプラセボ群と実薬対照としてセマグルチド14mgが投与された。主要評価項目は26週後のHbA1cの変化量とされた。 主要評価項目のHbA1cは5mg投与群の-0.91%から75mg投与群の-1.88%とすべての投与量でプラセボ群と比較して有意な減少を示した。対照のセマグルチド14mg投与群では-1.28%であった。安全性についてもこれまでのGLP-1受容体作動薬と同様に消化器系有害事象が多く認められた。 血糖降下薬である経口GLP-1受容体作動薬としてはセマグルチド(商品名:リベルサス)がすでに登場しているが、早朝空腹時に少量の水で服用し、その後少なくとも30分は絶飲食を必要とするため服薬アドヒアランスに問題がある。さらに吸収に個人差が大きく、血中有効濃度にも大きなばらつきがあるのが問題であった1)。その問題をクリアしたorforglipronが近々わが国でも承認される予定であり、それに続くのが本試験のelecoglipronとなる。 第IIb相である本試験の結果を受けて、アストラゼネカ社は第III相臨床開発プログラムであるELUMINATE試験をすでに開始している。さらに他のglipron薬と同じく肥満症治療薬としての承認を目指したVISTA試験の結果もLancetの同日号に報告された2)。この領域における新薬開発競争はまだまだ続きそうである。

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学会抄録のかたちにまとめる その3【「実践的」臨床研究入門】第65回

前回は、臨床研究における誤差を偶然誤差と系統誤差に分類し、前者は精度(信頼性)、後者は正確度(妥当性)に関わることを説明しました。さらに、系統誤差には狭義のバイアス(選択バイアス、情報バイアス)と交絡が含まれること、狭義のバイアスは交絡とは異なり、解析段階では制御が困難であることを解説しました。そこで今回は、狭義のバイアスである選択バイアスと情報バイアスについて説明するとともに、以前作成した構造化抄録(連載第63回参照)にLimitation(研究の限界)を加える実例を示します。選択バイアス選択バイアスとは、「研究対象集団」が「標的母集団」から偏って抽出された場合に生じるバイアスを指します。さらに、「解析対象集団」と「研究対象集団」が同意拒否やデータ欠損によって乖離した場合にも、追加の選択バイアスが生じ得ます。図に、母集団から解析対象集団に至るまでに選択バイアスが入りこむ3つの段階を示しました。観察研究の報告ガイドラインであるSTROBE声明1)でも、参加者がどのように特定・選択されたかを明確に示し、研究対象集団と最終的な解析対象集団を区別して記載することが推奨されています(連載第34回参照)。画像を拡大する理想を言えば、標的母集団のすべてを対象とする悉皆調査(全数調査)か、無作為抽出サンプリングを採用したいところです。悉皆調査の代表例は国勢調査です。これは日本国内に住むすべての人と世帯を対象として5年ごとに実施される調査で、悉皆調査の最も典型的な例とされています。無作為抽出サンプリングの好例は、以前も紹介した筆者が長年関わってきたDialysis Outcomes and Practice Patterns Study(DOPPS)です。DOPPSでは調査対象施設を無作為抽出したうえで施設からさらに研究対象患者を無作為抽出する二段階無作為抽出を行うことにより、研究対象集団の外的妥当性を担保しています(連載第35回参照)。しかし、悉皆調査や無作為抽出を、実際の単施設研究や多施設共同研究で実施することは容易ではありません。そこで現実的な方法として、選択基準を満たす対象者を研究者の判断で選別せず、一定期間に来院・登録した対象者を連続して組み入れる「連続サンプリング」が推奨されます。たとえば、「自分が担当する外来患者のみ」や「アドヒアランスが良好と考えられる患者のみ」を対象とするような抽出は避けるべきです。また、除外基準は研究目的に照らして必要最小限にとどめます。さらに、参加者の負担を軽減し、適切なインセンティブを設計するなどして、同意拒否やデータ欠損を減らす工夫を重ねることが、選択バイアスの抑制につながります。情報バイアス情報バイアスとは、研究で得られた情報が真の値から系統的にずれることで生じるバイアスであり、発生段階に応じて「測定段階」と「追跡段階」に大別されます。測定段階の情報バイアスはデータ取得方法に起因します。一方、追跡段階の情報バイアスはランダムに発生しない「打ち切り」によって生じます(連載第37回参照)。転院や追跡不能などにより「打ち切り」が群間で偏って発生すると、とくに重症例が観察から脱落する場合にイベント発生率が過小評価されるおそれがあります。生存時間解析では打ち切りがランダムであることが前提であり、この仮定が崩れると結果の妥当性が損なわれます。対策として、測定段階では曝露やアウトカムの厳密な定義(操作化)、測定手法の標準化などが重要です。追跡段階では「可能な限り追跡率を高める」ことが最も本質的な対策です。先述のDOPPSでは、調査施設を転院した患者についても90日後まで転帰を追跡する周到な仕組みを採用しています。それでも「打ち切り」が避けられない場合には、結果の解釈にいっそうの慎重さが求められます。構造化抄録にLimitation(研究の限界)を加えてみるそれでは、以前作成した構造化抄録(連載第63回参照)に独立した見出しとして「Limitation(研究の限界)」を加えてみたいと思います。対象は保存期CKD患者638例の単施設後ろ向きコホート研究で、24時間蓄尿検体から推定した1日たんぱく質摂取量(estimated daily protein intake:eDPI)と末期腎不全発症およびeGFR低下速度との関連を検討したものでした。Limitationは、本研究のデザインから想定される、(1)選択バイアス、(2)情報バイアス(測定段階/追跡段階)、(3)残余交絡の3つの観点から具体的に記述してみました。【研究の限界】本研究は単施設の腎臓専門外来患者を対象としたため、選択バイアスが存在し、一般化可能性に限界がある。eDPIは24時間蓄尿に基づく推定値であり、蓄尿不完全例では摂取量を過小評価する可能性がある。また、非ランダムな打ち切りによる情報バイアスや、生活習慣・社会経済因子など未測定因子による残余交絡を否定できない。1)von Elm E, et al. J Clin Epidemiol. 2008;61:344-349.

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GLP-1受容体作動薬、脱毛症リスクは高いか/BMJ

 GLP-1受容体作動薬の潜在的な有害作用として、脱毛(脱毛症)が市販後調査により報告されている。米国・ペンシルベニア大学のHuilin Tang氏らは、2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬の使用はSGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬と比較して、臨床的に記録された脱毛症、とくに非瘢痕性脱毛症のリスク上昇と関連することを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年7月22日号に掲載された。脱毛症リスクを標的試験エミュレーションで評価 研究グループは、2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の脱毛症リスクを評価する目的で標的試験エミュレーション(target trial emulation)を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 データの収集には、ペンシルベニア大学健康システム(Penn Medicine)の電子健康記録を用いた。対象は、年齢18歳以上、2019年1月~2024年9月に新たにGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の投与を開始した2型糖尿病患者であった。 主要評価項目は、新規発症の脱毛症およびその亜型とした。sIPTW調整後の発生率が高い GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の比較では、それぞれ1万2,004例(平均年齢58.1歳、女性55.5%)および1万5,221例(平均年齢64.5歳、女性38.1%)の新規投与開始例を、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の比較では、それぞれ1万1,964例(平均年齢58.0歳、女性55.5%)および1万1,233例(平均年齢66.9歳、女性48.1%)を登録した。 安定化逆確率重み付け(sIPTW)で調整後の脱毛症の発生率は、SGLT2阻害薬群(平均追跡期間2.36年)が5.04/1,000人年であったのに対し、GLP-1受容体作動薬群(平均追跡期間2.39年)は6.91/1,000人年と高い値を示した(ハザード比[HR]:1.37、95%信頼区間[CI]:1.08~1.73)。 同様に、DPP-4阻害薬群(平均追跡期間2.95年)のsIPTW調整後の脱毛症発生率が3.89/1,000人年であったのに比べ、GLP-1受容体作動薬群(平均追跡期間2.91年)は6.53/1,000人年であり、より高率だった(HR:1.68、95%CI:1.28~2.20)。円形・アンドロゲン性などとの関連はない 脱毛症の亜型別の解析では、GLP-1受容体作動薬と脱毛症の関連性は非瘢痕性脱毛症に特有のものだった。SGLT2阻害薬群およびDPP-4阻害薬群と比較したGLP-1受容体作動薬群における非瘢痕性脱毛症のハザード比は、それぞれ1.53(95%CI:1.18~1.97)および1.72(95%CI:1.28~2.31)であった。一方、GLP-1受容体作動薬群は、SGLT2阻害薬群およびDPP-4阻害薬群に比べ、円形脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、瘢痕性脱毛症の発生率が高かったが、いずれも有意な関連は認められなかった。 著者は、「これらの知見は、GLP-1受容体作動薬による治療を検討する際の共有意思決定に役立つ可能性があり、今後の研究において皮膚科関連アウトカムの評価をさらに進める必要性を強調するものである」としている。 また、GLP-1受容体作動薬と脱毛症の関連性の基盤となる最も可能性の高いメカニズムとして、治療による体重減少およびカロリー摂取量の減少を挙げ、「これが生理的ストレスや微量栄養素(鉄、亜鉛、ビオチンなど)の欠乏を招き、毛髪の成長サイクルを乱す可能性がある」とし、「すなわち、脱毛は薬剤の直接的な作用というよりは、代謝性変化による下流の影響を反映している可能性が示唆される」と指摘する。 さらに、「最も頻度の高い亜型である非瘢痕性脱毛症は、急速な体重減少と関連することが多く、通常は可逆的である。この事実は、患者を安心させ、治療継続を支援する一助となりうる」と指摘している。

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基礎インスリンで治療中の2型糖尿病患者における、cagrilintide/セマグルチド配合薬の追加治療の有効性と安全性(解説:田村嘉章氏)

 cagrilintide(C)は長時間作用型アミリンアナログであり、満腹感の増加、食欲抑制効果により体重減少効果をもつ。また食後のグルカゴン分泌を抑制し血糖降下作用を示すと考えられている。CagriSemaは、CとGLP-1受容体作動薬セマグルチド(S)との配合薬であり、2型糖尿病患者への投与の効果をみたREDEFINE 2試験では、CagriSema投与群ではHbA1c、体重とも、S単独群より減少効果が大きいことが示されている1)。 本研究(REIMAGINE 3)は、1日1回の基礎インスリン投与を行っている2型糖尿病患者に対し、CagriSemaをアドオン投与することによる有効性と安全性を評価するプラセボ対照二重盲検試験である。日本を含む6カ国(アジア人46%)のBMI≧25、HbA1c 7.0~10.5%の2型糖尿病患者274例(平均年齢59歳、平均HbA1c 8.8%、平均BMI 31.6、85%でメトホルミンを併用)を、2:2:1:1の割合で、CagriSema(C、Sともに)2.4mg群、CagriSema(C、Sともに)1.0mg群、それぞれの実薬群用量に対応するプラセボ(P)群に割り付けた。CagriSema群では4週ごとに薬剤がそれぞれ4回、2回増量された。基礎インスリンは、HbA1c≦8%の患者では開始時に20%減量し、以降は空腹血糖80~130mg/dLとなるように調節された。主要エンドポイントは40週におけるHbA1cの変化、2次エンドポイントはHbA1cの目標達成率、体重減少率、インスリン投与量の変化などである。 全体として85%以上の患者に投与完了(80%以上で目標量に到達)した。40週のHbA1cは2.4mg群で-2.33%、1.0mg群で-2.10%、P群では-0.66%で、実薬群で有意に低下し、HbA1c<7%を2.4mg群で75%、1.0mg群では70%で達成した(P群では16%)。インスリンはP群で18U増加したのに対し、実薬群ではいずれも2U減少した。体重は2.4mg群で-12.0%、1.0mg群で-10.4%、P群で+1.1%で、実薬群で有意に減少した。有害事象は、消化器系の異常が2.4mg群で57%、1.0mg群で45%(P群23%)と多かったが、軽~中等度であった。重症低血糖はなく、非重症低血糖の頻度はP群と同等であった。なお、収縮期血圧や、HDL-C、non-HDL-Cなどの脂質プロファイルにも改善が認められた。 この結果は、基礎インスリン使用でコントロールが不十分であるが低血糖リスクや体重増加の懸念により治療強化が困難な2型糖尿病患者に対し、CagriSemaが追加治療の有効な選択肢となることを示した点で重要である。ただし、本試験ではC単独群やS単独群が設定されていないため、各単剤と比較したCagriSemaの効果については明らかではない。なお、CagriSemaもSと同様に心血管イベント抑制効果を有することが期待されるが、これを支持する直接的なエビデンスは現時点では得られていない。現在、心血管疾患を有する患者における心血管イベントへの影響を検証するための第III相試験(REDEFINE 3)が進行中であり、結果が待たれる。

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セマグルチド使用拡大で誤使用による相談が急増

 米国では、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが肥満症治療薬として承認されて以降、中毒情報センターへの電話相談が急増しているという実態が報告された。その多くは、投与量を間違えてしまったという相談だという。米テキサス大学サンアントニオ校のJordan Miller氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Medical Toxicology」4月号に掲載された。 GLP-1RAは当初、2型糖尿病(T2DM)の治療薬として上市されたが、米国では2021年に肥満症治療薬としても承認され、それを機に処方が拡大した。特に、週1回皮下注射するタイプのセマグルチドが承認された後に、より顕著な増加が生じた。 GLP-1RAの副作用として、消化器症状が高頻度に生じることは、T2DM治療に用いられていた時点で明らかにされていた。しかし、肥満症治療目的で使用されるようになって以降に、薬の使用に伴う問題の発生状況がどのように変化したかは十分研究されていない。これを背景にMiller氏らは、中毒情報センターで受け付けた症例情報が集約されている、全米中毒データシステム(NPDS)のデータを用いた検討を行った。 解析対象期間は2012~2023年とし、米食品医薬品局(FDA)が週1回投与タイプのセマグルチドを肥満症治療薬として承認した2021年6月4日以降の変化を評価するため、同年7月1日を境に承認前後の期間に分けた。GLP-1RA関連の相談件数や患者背景が、同薬の承認前後でどのように変化したかを解析した。 対象期間中に報告されたGLP-1RA関連の相談は1万33件だった。このうち承認前は3,113件であったのに対して、承認後は6,920件であり約2.2倍となっていた。患者の年齢は、承認前が57.0±13.3歳、承認後は51.6±14.7歳と有意に若年化し、女性の割合は68.9%から78.2%へと有意に上昇していた(いずれもP<0.001)。 報告件数をGLP-1RAの種類別に見た場合、承認前はリラグルチドが33.9%で最多であり、次いでデュラグルチドが29.5%、セマグルチドは24.6%で3位だった。しかし承認後はセマグルチドが64.2%を占め、次いでデュラグルチドが12.7%、リラグルチドが8.8%の順に変化していた。著者らは、セマグルチド関連の相談増加の背景として、同薬への注目度の高まりや利用者の急増が影響した可能性を挙げている。 報告事例の多くは患者の意図的な不適切使用ではなく、投与量などを誤ってしまったことによるものだった。頻繁に報告されていた誤りには二つのパターンがあり、一つはセマグルチドを週1回ではなく毎日注射してしまったというもの、もう一つは段階的に増量する手順を守らず、最初から最大量を注射してしまったというものだった。報告された症状の大半は軽度の消化器症状であったが、医療機関で管理された、または医療機関への紹介を要した患者の割合は、承認前の23.0%から承認後は33.5%へ増加していた。 著者らは、「報告に見られたミスの多くは予防できる内容であり、患者教育の改善によって減らすことができる」と述べている。

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J-CLEAR特別座談会(10)「慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点」

J-CLEAR特別座談会(10)「慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点」糖尿病や心不全の治療薬としても用いられるSGLT2阻害薬、非ステロイド型選択的MR拮抗薬フィネレノン、GLP-1受容体作動薬は、今や慢性腎臓病(CKD)治療を大きく変革する腎保護薬として主役を担っています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、非糖尿病患者を含むCKDへの効果、IgA腎症の最新動向、脱水や高カリウム血症など、臨床現場での注意点と使い分けを専門医が多角的に議論します。なお、この番組は2026年6月10日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点司会    桑島 巖 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長、東都クリニック 高血圧専門外来出演    栗山 哲 氏東京慈恵会医科大学 客員教授石上 友章 氏横浜市立大学 特任教授浦 信行 氏札幌西円山病院 名誉院長オブザーバー吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長

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適量のコーヒーで心不全や脳卒中リスクが低下~AHAステートメント

 カフェインは世界で最も広く消費されている嗜好薬物の1つであるものの、心血管系に対する詳細なリスクや有効性については、摂取形態や個人差による影響を含めて整理が必要とされてきた。米国心臓協会(AHA)専門委員会のGregory M. Marcus氏(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)らは、カフェインおよびコーヒー摂取が心血管系に及ぼす影響に関する最新の科学的ステートメントを発表した。習慣的な適量摂取(カフェイン最大400mg/日、8オンスカップ[約240mL]でコーヒー3~5杯/日)は多くの成人において安全であり、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、心房細動、2型糖尿病などのリスク低下と関連していることが示された。Circulation誌オンライン版2026年7月20日号に掲載。 本ステートメントでは、カフェインおよび主にコーヒーを中心としたこれまでの観察研究、遺伝学的研究(メンデルランダム化解析)、およびランダム化比較試験(RCT)のエビデンスを包括的に評価した。カフェインの代謝には個人の遺伝的背景や耐性が大きく関与することや、急性摂取と習慣的摂取での作用の違い、コーヒーに含まれる非カフェイン成分(ポリフェノールなど)の寄与についても考察がなされた。 主な結果は以下のとおり。・血圧・糖尿病:習慣的なコーヒー摂取は血圧に対して逆J字型の関連を示し、1日1~3杯の摂取でリスクが増加するものの、摂取量が増えるとリスクが減少する傾向があることが示された。また、習慣的なコーヒー摂取は2型糖尿病の発症リスク低下と一貫して関連していた。・脂質代謝:カフェイン自体は血清コレステロールに影響を与えないが、フレンチプレス、ギリシャ/トルココーヒーなどの「未濾過コーヒー」に含まれるカフェストールはLDLコレステロール値を上昇させるため注意が必要である。・不整脈:カフェイン入りコーヒーの習慣的摂取は心房細動(AF)のリスクを低下させることがRCTなどで実証された一方、心室期外収縮(PVC)の頻度を増加させることが示された。・心血管疾患・脳卒中:軽度(1.5杯/日)~中等度(3.5杯/日)のコーヒー摂取は冠動脈疾患リスクを約10%低下させた。心不全リスク(4杯程度/日で最も低値)や脳卒中リスク(3~4杯/日で最も低値)の低下と関連していた。・高用量カフェインのリスク:エナジードリンクや純粋なカフェインサプリメントなどの高用量摂取は、血圧の上昇や重篤な不整脈など心血管へ害を及ぼす可能性が高い。 著者らは、習慣的な適量のコーヒー摂取は健康的なライフスタイルの一部となり得ると結論付けている。ただし、観察された健康上の利益の多くはカフェイン単体ではなくコーヒーに含まれる抗酸化物質などに起因する可能性があり、多量の砂糖やシロップ、高カロリーな乳製品の添加はこれらのメリットを相殺する可能性があると注意を促している。今後は、ポリフェノールなどの他の成分と切り離して、カフェイン単体の影響や個人差に応じた反応を解明するさらなるRCTが必要であると述べている。

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人工甘味料は代謝に影響する? レビューとメタ解析が新たな知見

 人工甘味料を含むノンカロリーまたは低カロリーの非栄養性甘味料(non-nutritive sweeteners;NNS)は、過去数十年にわたり、砂糖に比べて健康的な代替品であると言われてきた。しかし、新たな研究によるとNNSは、腸内細菌叢などを介した機序が関与することで代謝に影響を与える可能性があるという。米タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院のMeng Wang氏らが、これまでの研究報告をレビューしたほか、新たなメタ解析を実施した結果であり、詳細は「Current Atherosclerosis Reports」に6月25日掲載された。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究の特徴は、水やプラセボなどカロリーを含まない対照と比較することで、NNSを用いることによる摂取カロリーの変化の影響ではなく、NNS自体の直接的な生理学的影響をより詳細に検討した点にある」と解説。そして、「それぞれの臨床試験の結果を統合すると、NNSが代謝に悪影響を及ぼす可能性が示唆される」と述べている。 Wang氏らの研究では、NNSの摂取が心血管代謝疾患のリスクに及ぼす影響を検討した、成人を対象とする21件のランダム化比較試験を統合解析するとともに、コホート研究の結果もレビューした。その結果、ランダム化比較試験の統合解析では、NNS群は対照群と比べて空腹時インスリン値と、長期的な血糖コントロールの指標であるHbA1cが高く、インスリン感受性の低下傾向も認められた。 研究者らは、このような関連の背景にある機序の一つとして、NNS摂取による腸内細菌叢への影響が考えられるとしている。これまでの研究から、いくつかのNNSが腸内細菌叢の組成や機能を変化させる可能性が指摘されているという。 また、コホート研究のレビューでは、NNSの摂取量が多い人は、2型糖尿病や心血管疾患のリスク上昇との関連も認められた。研究者らは、これらの結果からNNSが代謝に悪影響を及ぼす可能性が示唆されるものの、因果関係の確認にはさらなる研究が必要だと述べている。 その一方、論文の上席著者であるタフツ大学Food is Medicine研究所のDariush Mozaffarian氏は、「加糖飲料を何杯も飲むなど、食事で大量の添加糖を摂取している人の場合、それをNNSに置き換えるというのは良い選択肢であるかもしれない」としている。ただし同氏も、「それが安全で無害だと安易に考えることはできない。できるだけ控えるというのが、賢明な選択だろう」と付け加えている。 また研究者らは、米国の食品表示制度の欠陥が、この領域の研究の妨げとなっていると指摘している。現行の制度によると、メーカーはNNSの使用を明記することが義務付けられているが、その含有量を記載する必要はない。そのため、NNSの摂取量と疾患リスクの関連に関して、明確なエビデンスを構築することが困難だとしている。

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CKDの生命予後・腎予後に対するmGFR評価の意義とeGFRの有用性(解説:浦信行氏)

 腎機能評価にはmGFRが最も有用であるが、その煩雑性から生命予後・腎予後との関連を示した成績は少ない。スウェーデンの成人のイオヘキソールを用いたmGFR値とこれらの関連を後ろ向きに評価し、併せてeGFRの有用性を後ろ向きに評価した成績がJAMA誌オンライン版で発表され、追跡期間中央値5.9年の概要がジャーナル四天王(2026年7月3日配信)に掲載された。その結果、mGFR90の群に対してmGFR60ですでに死亡率は1.21倍、腎代替療法導入では実に2.85倍の高頻度であった。この成績はmGFRで60がCKDの閾値であることを明らかにした意義のある研究である。 評価の簡便性により実臨床で頻用されるeGFRでの評価も同時に行っており、mGFRを基準として予後評価を行っている。最も頻用されている血漿クレアチニン値で算出したeGFRcrとシスタチンCで評価したeGFRcysの両者を検討したが、クレアチニンは筋肉量の影響を受け、シスタチンCは炎症、喫煙、肥満、ステロイド治療などの影響を受ける。その結果算出されたeGFRcrは筋肉量減少で実際より高値になり、eGFRcysは肥満などで高値を示す。結果的に両eGFRの平均値がmGFRでの成績に一致した。したがって、サルコペニアや肥満などの背景を有する例に対しては、両者を測定することが重要との成績である。 この報告はmGFRの予後評価における有用性を示した優れた論文であるが、eGFRについてはすでに英国のバーミンガム大学を中心とした多施設共同研究で正確な腎機能変化の評価にはクレアチニンとシスタチンCの両者を用いた方法が優れることを3年間の前向き研究で明らかにし、ジャーナル四天王(2026年4月2日配信)にその概要が掲載されている。中等度CKDのクレアチニンとシスタチンCを半年ごとに測定し、Log変換した値を用いてeGFRの3年間のスロープを評価した結果、eGFRcrとeGFRcys各々で評価した値よりは両者を併用した値が基準値であるmGFRにより近似していたと報告されており、両者を同時評価することの重要性を示唆している。日本腎臓学会でも評価方法は異なるが両者を用いたeGFRの同時評価を先行して行ってイヌリンクリアランスと対比し、2012年のCKD診療ガイドラインに両者の平均eGFRの正確度が高いと報告している。しかし、両者の平均値で評価するのも症例によっては限界がある。 超高齢化社会を迎えたわが国ではサルコペニアなどによりeGFRcrが極端に高値の場合も珍しくない。両者の併用の意義は理解できるが、症例の病態やADLを考慮した評価も念頭に置く必要があると考える。

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BMI高値者の肥満症診断は十分か?

 肥満症診断の有無は、BMI高値の人の疾患リスクと関連しているのだろうか。このテーマについて、米国・テキサス大学マクガバン医科大学内科・外科学部肥満医学・代謝機能センターのDeborah B. Horn氏らの研究グループは、CALOR研究において民間のデータベースを使い、BMI基準で肥満に該当する人を診断記録の有無で層別化し、解析した。その結果、日米ともにBMI高値の人では、肥満症診断が十分ではなく、関連疾患の有病率が高いことがわかった。この結果はObesity誌オンライン版2026年7月18日号に掲載された。肥満症診断があると関連疾患の有病率も高い傾向 研究グループは、BMI高値の人を対象に肥満症診断の有無による特性および経時的な傾向を明らかにすることを目的に研究を行った。手法として2016~24年にBMI30以上(米国:Optum社の匿名化済みClinformatics Data Martデータベース)またはBMI25以上(日本:Medical Data Vision)に記録された成人のデータを対象とした。指標時点(最新のBMIまたは肥満症診断)における肥満症診断の有無で層別化し、特性を解析した。 主な結果は以下のとおり。・米国の解析対象は358万4,120例(肥満症診断あり70.1%)で、関連疾患の有病率は「肥満症診断あり」群が「なし」群よりも高かった。・米国の関連疾患の具体例としては、2型糖尿病は「肥満症診断あり」49.3%、「なし」29.9%、慢性腎臓病は「あり」32.9%、「なし」18.8%、心不全は「あり」23.3%、「なし」9.8%だった。・日本の解析対象は314万900例(肥満症診断あり2.3%)で、関連疾患の有病率は「肥満症診断あり」群が「なし」群よりも高かった。・日本の疾患の具体例としては、2型糖尿病は「肥満症診断あり」42.2%、「なし」25.9%、慢性腎臓病は「あり」14.3%、「なし」8.6%だった。・米国では、2024年に初めて肥満症と診断された群は2016~20年に診断された群と比較し、関連疾患の負担が高かった。 この結果から研究グループは「米国および日本において、BMI高値の人では、肥満症が十分診断されておらず、関連疾患の有病率が高いことが判明した」と結論付けている。

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多枝冠動脈疾患、ステント留置後のDAPT延長は有効か/NEJM

 多枝病変を伴う冠動脈疾患で、薬剤溶出性ステント留置後に抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を12ヵ月間受けた時点で安定状態にある患者において、アスピリン単独療法をさらに12ヵ月間受ける場合と比較して、クロピドグレルとアスピリンによるDAPTの12ヵ月間の延長は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合のリスクを低下させ、かつ出血リスクの増加を認めないことが、中国・ハルビン医科大学のJinwei Tian氏らが実施した「DAPT-MVD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2026年7月16日号で報告された。中国97施設で実施した無作為化試験 DAPT-MVD試験は、中国の97施設で実施した非盲検(評価者盲検)無作為化試験(中国国家自然科学基金委員会[NSFC]などの助成を受けた)。2020年10月~2024年3月に、年齢18~75歳、多枝冠動脈病変を有し、薬剤溶出性ステント留置後に12ヵ月間のDAPTを受け、この間に重度の虚血イベントや出血イベントの発生を認めなかった患者を登録した。 被験者8,250例(平均年齢61歳、女性2,497例[30.3%])を、DAPT(クロピドグレル+アスピリン)を受ける群(4,125例)またはアスピリン単独療法を受ける群(4,125例)に無作為に割り付け、12ヵ月間投与した。 有効性の主要評価項目は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合とした。安全性の主要評価項目は、臨床的に意義のある出血または大出血(BARC出血基準[タイプ:0~5、数値が大きいほど出血の重症度が高度]のタイプ2以上)であった。有効性の主要評価項目、DAPT群5.8%vs.アスピリン単独群6.8% 初回PCI前の診断名は、ほぼ全例(8,109例[98.3%])が急性冠症候群(心筋梗塞2,806例[34.0%]を含む)であった。初回PCIから無作為化までの平均(±SD)日数は378.6(±19.8)日だった。 無作為化前のDAPTの内訳は、5,534例(67.1%)がクロピドグレル+アスピリン、2,716例(32.9%)がチカグレロル+アスピリンであった。ベースラインで2,323例(28.2%)が糖尿病を有していた。追跡期間中央値は34.3ヵ月(四分位範囲[IQR]:24.3~42.2)。 有効性の主要評価項目の発生(無作為化から36ヵ月後の累積発生率のKaplan-Meier推定値)は、DAPT群5.8%(222例)、アスピリン単独群6.8%(266例)であり、DAPT群が有意に優れた(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.69~0.98、p=0.03)。 また、全死因死亡はDAPT群3.1%、アスピリン単独群3.0%(HR:1.02、95%CI:0.79~1.32)、心血管死はそれぞれ2.0%、1.9%(HR:0.96、95%CI:0.70~1.33)、非致死的心筋梗塞は1.8%、2.5%(HR:0.68、95%CI:0.50~0.93)、非致死的脳卒中は2.5%、3.1%(HR:0.80、95%CI:0.61~1.04)に認められた。 ステント血栓症は、DAPT群では発現せず、アスピリン単独群で2例(0.1%)にみられた。安全性の主要評価項目は1.4%vs.1.5%で同等 安全性の主要評価項目(BARCタイプ2以上)の発生(無作為化から36ヵ月後の累積発生率のKaplan-Meier推定値)は、DAPT群で1.4%(51例)、アスピリン単独群で1.5%(57例)に認められ、両群間に有意な差はなかった(HR:0.89、95%CI:0.61~1.30、p=0.54)。 大出血(BARCタイプ3以上)は、DAPT群で0.8%(29例)、アスピリン単独群で0.9%(33例)にみられ、両群間に有意な差はなかった(HR:0.87、95%CI:0.53~1.43、p=0.59)。 また、重篤な有害事象は、DAPT群で1,143例(27.7%)に1,750件、アスピリン単独群で1,156例(28.0%)に1,701件発現した(p=0.77)。 著者は、「これらの結果は、急性冠症候群を呈し多枝病変を有する患者において、その時点までに虚血イベントや出血イベントを認めていない患者であっても、標準的な12ヵ月間のDAPTでは不十分である可能性を示唆する」としている。 また、「DAPT延長による有効性の主要評価項目の改善は、主に心筋梗塞のリスクが大きく低下したことによるものであった。注目すべきは、この虚血イベントのリスク低減が、臨床的に意義のある出血や大出血のリスク、あるいは死亡リスクの増加を伴っていない点である」と指摘している。

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リラグルチドの胃排出遅延は食欲抑制に直接影響せず

 GLP-1受容体作動薬の作用として胃排出遅延と食欲抑制は知られているが、両者に関連性はあるのだろうか。このテーマに関して、米国・モネル化学感覚研究所のMark I. Friedman氏らの研究グループは、リラグルチド投与群の症例の胃排出と満腹感の測定値およびエネルギー摂取量との相関関係を検討した。その結果、胃排出遅延は、リラグルチドの食欲抑制作用において直接的な役割をほとんど果たしていないことが示唆された。この結果はObesity誌オンライン版2026年7月2日号で公開された。リラグルチドの胃排出遅延は食欲抑制作用に数%だけ影響 研究グループは、GLP-1受容体作動薬リラグルチド投与中の胃排出遅延と食欲抑制との関連性評価を目的に、肥満患者を対象とした16週間の無作為化プラセボ対照リラグルチド試験の2次データ解析を実施した。ベースライン時および治療終了時において、コホート全体、および試験を完了したプラセボ群とリラグルチド投与群について、固形食の胃排出と満腹感の測定値およびエネルギー摂取量との相関関係を検討した。また、治療中に正常な胃排出、持続的な胃排出遅延、または一過性の胃排出遅延を示したリラグルチド投与群の参加者間で食欲に関する指標を比較した。 主な結果は以下のとおり。・全コホートにおいて、ベースライン時および試験終了時、胃排出はエネルギー摂取量と有意な相関を示し、ベースライン時には満腹感の指標の1つとも有意な相関を示した。・胃排出は、これらの食欲関連指標の変動のわずか4~6%にしか影響していなかった。・プラセボ群またはリラグルチド投与群のいずれか単独では、このような相関は認められなかった。・リラグルチド治療中に異なる胃排出パターンを示したサブグループ間において、食欲関連指標に差は認められなかった。 研究グループは、これらの結果から「胃排出の遅延は、リラグルチドによる食欲抑制に直接的な役割をほとんど果たしていないことが示唆された。今後の研究で、胃排出遅延や、ほかのGLP-1受容体作動薬による胃腸管への影響が、食欲に直接的または間接的に影響を与えるかどうかを検証する必要がある」と考察している。

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心筋梗塞を経験した人は認知機能の低下が速い

 心筋梗塞の既往がある人は認知機能の低下が速く、認知機能障害へ進行するリスクも高いことを示すデータが報告された。心筋梗塞を経験していない人と比較して、認知機能障害に進行するリスクが、1年当たり約5%高いという。米オハイオ州立大学のMohamed Ridha氏らの研究によるもので、詳細は「Stroke」に5月14日掲載された。 この研究は、脳卒中リスクの地理的・人種的差異を検討する疫学研究(REGARDS)のデータを用いて行われた。追跡開始時点(ベースライン)で認知機能障害が記録されていた人や、解析に必要なデータのない人などを除外し、2万923人(年齢中央値63歳〔四分位範囲57~70〕、女性57.2%)を、中央値10.1年(四分位範囲7.0~12.1)追跡して、認知機能の低下速度と認知機能障害の発生リスクを心筋梗塞の既往の有無で比較した。対象者は毎年1回、電話による6項目の課題から成る認知機能のスクリーニング(スコア範囲0~6)を受け、スコアが5点未満の場合に認知機能障害と判定された。 ベースラインにおいて、全体の10.4%に心筋梗塞の既往が認められた。その内訳は、自己申告があるが心電図異常は認められないケース(自己申告による心筋梗塞)が5.2%、自己申告と心電図異常がともに認められるケース(臨床的心筋梗塞)が1.3%、自己申告はないが心電図異常が認められるケース(無症候性心筋梗塞)が3.8%だった。 認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧、糖尿病、腎機能、冠動脈疾患、心房細動、教育歴、収入、抑うつ傾向、居住地域など)を調整後、心筋梗塞の既往のある人はその既往のない人よりも、認知機能障害のリスクが1年当たり4.8%高いことが示された(オッズ比〔OR〕1.048〔95%信頼区間1.025~1.072〕)。心筋梗塞を経験した自覚のない無症候性心筋梗塞のみを対象とした解析でも、ほぼ同様のリスク上昇が観察された(OR1.047〔同1.010~1.085〕)。 男女別に解析した結果、男性では、全ての心筋梗塞の既往が認知機能障害リスクと有意に関連していた。一方、女性では、自己申告による心筋梗塞と無症候性心筋梗塞は認知機能障害リスクとの関連が有意だったが、臨床的心筋梗塞については非有意だった。研究者らは、「無症候性心筋梗塞は女性に多いため、この結果は重要だ」としている。 論文の筆頭著者であるRidha氏は、これらの結果の総括として、「米国民の間では認知症や認知機能低下による負担が増大していることから、心筋梗塞のような心血管疾患が脳の健康にどのような影響を与えるかを理解することが欠かせない」と述べている。また、「心筋梗塞の既往のある患者を診る臨床医は、認知機能の低下を抑制するためにできることを伝える必要がある」と付け加えている。

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夏の理想的な水分補給は「4つのS」で/アボット

 糖尿病管理のための持続グルコース測定器「リブレ」や循環器疾患領域などの医療機器を全世界で開発・販売しているアボットは、夏の熱中症対策と高血糖リスクの関連について、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、「ペットボトル症候群」への警鐘と夏期の糖尿病患者への対応などが解説された。負の連鎖を起こす夏の「ペットボトル症候群」 「『理想的な水分補給』と血糖管理~夏の熱中症対策が“高血糖のリスク”になる?~」をテーマに、川名部 新氏(おばな内科クリニック 院長)が、夏期の脱水予防と血糖管理の重要性について講演した。 20歳以上の男女で「糖尿病が強く疑われる人」が年々増加している中で、糖尿病診療では近年、新しい血糖管理の指標として「血糖トレンド」が注目されている。血糖トレンドとは、24時間の中で血糖値がどのように変動しているかを示すものであり、血糖自己測定(SMBG)や持続グルコース測定(CGM)により、1日の血糖変動の可視化を行うことができる。より良い糖尿病のセルフケアには、血糖トレンドの変動幅を小さくすることが重要と考えられている。 わが国は、近年、夏の平均気温が上昇し、日中・日没後の暑さが厳しくなっている。こうした環境の中では、飲料水を摂る機会も多い。糖分の多い清涼飲料水を大量に飲み続けることで高血糖となり、強いのどの渇きが生じ、さらに甘い飲料水を飲んでしまい、高血糖が悪化するという悪循環に陥る「ペットボトル症候群」(清涼飲料水ケトーシス)が懸念されている。本症候群になりやすい人としては、糖尿病患者または糖尿病予備群、糖分入り飲料水を1日1L以上飲む習慣のある人、運動不足であまり汗をかかない人などがいる。 本症候群は3つの段階を経て起こる。初期段階では「強いのどの渇き」「多飲」「多尿」などが起こる。中期段階では「倦怠感」「集中力低下」「眠気」などが起こる。そして、症状が進行すると「脱水症状」「意識障害」などが起こり、救急搬送が必要となるケースもある。 実際、ペットボトル飲料について、スポーツドリンクでは角砂糖約8個分、経口補水液では約3個分、オレンジジュースでは約10個分に相当する糖分が含まれており、適量摂取が重要となる。また、カロリーゼロを謳う飲料でも「厳密にはゼロではなく、水と同じように飲むべきではない」と川名部氏は警鐘を鳴らす。  高血糖を抑え、脱水を予防する水分摂取として夏期の理想的な水分補給の「4つのS」を川名部氏は提言する。 Soon:のどが渇く前にこまめに飲む Sugar less:糖分を含む飲料は控える  Simple drink:飲み物は水かお茶を基本とする Salt:汗をかいたら塩分補給 ただ、過度の飲水による「水中毒への注意が必要」とも川名部氏は指摘するとともに、SGLT2阻害薬などのように尿量が多くなる糖尿病治療薬では、夏期には脱水のリスクもあるために用量の変更や他剤への切り替えの検討も必要であると語った。血糖値の現在地を血糖トレンドで患者に説明する 続いて持続グルコース測定器を用いた血糖管理について触れ、糖尿病診療と夏の血糖トレンドの関係について説明した。通常、健康な人の血糖変動はほぼフラットであり、1日を通じて変動幅が少ない。その一方で、糖尿病患者の血糖は、血糖トレンドの変動幅が大きく(食事後に急上昇する)、とくに清涼飲料水を摂取した後は変動幅がさらに大きくなる。 持続グルコース測定器を活用して血糖管理に成功した症例(50代・男性、BMI26.0)を提示した。一定の食品(たとえば菓子パン、甘いアイスココアなど)の摂取後には、血糖値が急上昇する。患者にこうした血糖変動を可視化した図で示すことで、血糖変動の大きい食事を減らす指導が可能となり、血糖変動幅を減少させることができたと紹介した。 別の症例(30代・男性、BMI34.7)は、糖分の多い清涼飲料水を過剰に摂取していた糖尿病患者で、救急搬送後にインスリン教育入院となった。そのインスリン治療に加え、血糖トレンドと血糖自己管理を理解させることで、現在、血糖値は安定し、退院後は川名部氏のクリニックでフォロー中という症例を紹介した。患者には、血糖値の現在地を血糖トレンドをカーナビになぞらえて指導することで、理解されやすいという。また、高血糖リスク予防のため、食事と運動指導として次の項目を指導していると紹介した。【食事編】・朝食を食べる・野菜は最初に、炭水化物は最後に食べる・間食はできるだけ控え、食べるなら食後に・甘いドリンクは控える・アルコールの飲み過ぎに注意する・よく噛んでゆっくり食べる(30回程度)【運動編】・座りっ放しに気を付け、立位の時間を増やす・家事で積極的に体を動かす・家の中でもこまめに運動をする(椅子を使ったスクワットなど)・エスカレーターやエレベーターより階段を使う・ウォーキングなどの運動は朝夕の涼しい時間帯に行う 最後に川名部氏は「夏の猛暑には熱中症に加え高血糖にも注意が必要」と述べ、「ペットボトル症候群に注意して、『4つのS』と『血糖トレンド』を意識して乗り切りましょう!」とまとめ、講演を終えた。

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第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

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