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患者数は多いが社会的認知度の低い肥大型心筋症/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブ(以下、BMS)は、閉塞性肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)治療薬の選択的心筋ミオシン阻害薬マバカムテン(商品名:カムザイオス)を5月21日に発売した。本剤が国内初承認されたことで、臨床現場でもHCMの見方が変わってくるだろう。5月15日にはBMS主催のメディアセミナーが開催され、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が「肥大型心筋症とはどの様な疾患か? なぜ新しい治療が必要か?〜肥大型心筋症で苦しむ患者さんのために〜」と題し、HCMの過小評価の実態などについて解説。さらに、患者代表として林 千晶氏が登壇し、自身の経験から医師に知ってもらいたいこと、患者として注意すべきことについて語った。“500人に1人”は肥大型心筋症 HCMは原因不明※の心筋疾患のなかで左室壁の肥厚を伴うもので、左心室流出路の狭窄による圧較差が息切れや動悸、めまいなどの症状をもたらすが、良好な転帰を迎える人は多い。一方で、心不全、左室収縮能低下、心房細動から脳梗塞を発症することがあり、とくに若年者、小児における突然死リスクの1つとも言われている。北岡氏は「HCMの発症年齢は10代後半が多く、入学時の学校健診などの心電図検査で異常を来して受診してきた時がHCMを発見するチャンス。ところが、初診時に心室壁が厚くなく、診断が難しいケースもある」とし、「成人後でもHCMの発見契機は健診による心電図異常が半数を占め、発見された時にはNYHA心機能分類II~III度に至っているケースは珍しくない」とも説明した。※現在は原因が解明されている疾患もあり これまでのHCM治療と言えば、β遮断薬やNaチャネル遮断薬による対症療法、あるいは中隔縮小術(septal reduction therapy:SRT)で、内科的に病気の本質を治療することができなかった。また、病歴が長いため患者が訴える自覚症状が病状に比して比較的軽く、潜在患者数に比して難病指定されている患者数が圧倒的に少ないことも問題になっている疾患である。これについて同氏は「難病指定を受けている患者の内、圧較差があるのは600人程度と推定されるが、HCMの推定患者は20万人に上ると言われている。もちろん、すべての患者が指定難病に相当するわけではないが、この乖離理由は、HCMの正確な病状の把握と負荷心エコーの施行など病状に対する正確な評価が十分でないことが原因と考えられる」と実情について指摘した。さらに「HCMは、外来で1回だけ診察してわかる病気ではなく、患者と長く付き合うことで明らかになる疾患。そのため、都心部よりも地方のように、一人の患者と長く付き合うことが多い医師のほうが、病気の全体像を理解しているかもしれない」と地域格差についても言及した。マバカムテンの治療効果と適切な処方とは HCMは心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白の遺伝子変異が原因とされ、ミオシンとアクチンによるクロスブリッジの過剰な形成が心肥大につながっている1)。マバカムテンはその過剰形成を抑制することで、運動負荷後のLVOT最大圧較差の減少に効果が期待される薬剤である。国内第III相のHORIZON-HCM試験2)においても、主要評価項目である投与30週までの運動負荷後のLVOT最大圧較差のベースラインからの変化量(平均値±SD)は、-60.6963±31.55674mmHg(95%信頼区間:-71.5364~-49.8562)と、マバカムテンによる有効性が示されている。また、安全性については、投与54週時点で有害事象は28例、重篤な有害事象は6例に認められたが、投与中止に至った有害事象や死亡は認められなかった。 なお、3月に発刊された『心不全診療ガイドライン 2025年改訂版』の「第9章 特別な病態・疾患」(p.127~131)において、マバカムテンの使用は推奨クラスI、エビデンスレベルB-Rとされたが、2025年4月24日に日本循環器学会より「マバカムテン適正使用に関するステートメントについて」が公表されているため、本ステートメントに準じた医療機関においてのみ処方が可能となっている。 最後に「中高生で心電図に異常があった場合、その時点の精密検査に異常がなくても将来的にHCMを発症する可能性が否定できない。その際に学校医や診察した医師らから定期的な通院を患者へ提案してほしい」。また、マバカムテンの効果について、「現状は症状改善に有効と考えられるが、服用により壁肥厚の改善など疾患そのものに良い影響を与える可能性がある。生命予後の改善効果は今後の課題」と締めくくった。患者視点から伝えたい医学の現状 病気と向き合いながら、結婚・出産・子育てを経験している林氏は、自身の診断までの経緯、家事・育児、そして仕事の両立や人間関係について説明。「父の主治医から遺伝子要因があるため検査を提案され、26歳でHCMと診断された。もともとは自覚症状もなく海外旅行や友人との会食などアクティブに活動していたが、出産後に入浴後や階段の昇降で息切れ、全疾走後のような症状や不整脈を自覚するようになった」と、これまでを振り返り、「普段から不整脈があるが、とくに生理時期には不整脈が酷くなってしまい、QOLも低下する。見た目では健康な方と変わらないため、周囲から理解されにくい点に苦慮している」とコメントした。新たな治療薬としてマバカムテンが発売される見込み(取材時点)については、「対処療法が中心の疾患だったが、新薬により希望が持てる」と述べ、「患者側も心臓の小さなサインを見逃さずに、主治医に相談するよう努める必要がある」と一人ひとりの体調管理の重要性についても話した。最後に同氏は「HCMをweb検索した際、検索上位はネコのものが多く、人間の情報が乏しく情報収集にとても苦労した。web上でも正確な病気の情報を伝えてほしい」と情報のあり方についても言及した。 BMSはこのような患者の声から「肥大型心筋症テラス」という患者・家族のための情報提供サイトをオープンし、病態、治療や遺伝子検査、医療費助成などに関する情報や患者インタビューを公開している。ーーーーーーー<製品概要>製品名:カムザイオスカプセル1mg、同2.5mg、同5mg一般名:マバカムテン効能又は効果: 閉塞性肥大型心筋症用法及び用量:通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減する。ただし、最大投与量は1回15mgとする。薬価:1mg1カプセル 7,204.00円、2.5mg1カプセル 7,264.80円、5mg1カプセル 7,410.50円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:ブリストル マイヤーズ スクイブ株式会社

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うつ病に対するブレクスピプラゾール増強療法とミトコンドリア遺伝子発現変化

 うつ病患者の20%は治療抵抗性を示し、いくつかの抗うつ薬単剤療法では治療反応が得られない。このような治療抵抗性うつ病患者には、抗精神病薬による増強療法が治療選択肢の1つとなりうる。しかし、抗精神病薬増強療法のメカニズムは、依然として解明されていない。愛媛大学の近藤 恒平氏らは、遺伝子発現レベルにおけるブレクスピプラゾール増強療法の作用メカニズムを解明するため、本研究を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年5月6日号の報告。 マウス神経紋由来の細胞株Neuro2a細胞に媒体、エスシタロプラム、ブレクスピプラゾール、ブレクスピプラゾール+エスシタロプラムを投与し、RNAシークエンシングを行った。20日間投与後のマウスの前頭前皮質、海馬およびうつ病患者の全血における遺伝子発現を測定した。 主な結果は以下のとおり。・定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、RNAシークエンシングおよび遺伝子オントロジー解析において、ミトコンドリア(MT)関連遺伝子の発現上昇が確認された。・これらの発現上昇遺伝子は、Neuro2a細胞およびCaco2細胞の両方で検証された。・うつ病患者の全血において、MT-ATP8の発現低下が認められた。・増強療法を行ったマウスでは、前頭前皮質および海馬において、MT-mRNAの発現変化が確認された。 著者らは「in vitroおよびin vivoの両実験において、ブレクスピプラゾール増強療法によるMT-mRNAの発現変化が確認された。これは、うつ病の病態解明および臨床実践を理解するうえで重要な知見となりうる」と結論付けている。

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HAEの気道発作の救命は時間との勝負/CSLベーリング

 CSLベーリングは、5月16日の「HAE DAY(遺伝性血管性浮腫の日)」を記念し、「HAE DAYメディアセミナー 遺伝性血管性浮腫(HAE)~救急現場と患者さんの声から考える診断と治療の課題~」を開催した。遺伝性血管性浮腫(HAE)は、国の指定難病の1つで、皮膚や腹部などに突然むくみ(浮腫)が生じる疾患で、咽頭に発作が起きた場合、気道が閉塞し呼吸困難に陥り、患者の生命に関わる危険性もある。わが国には、未診断の患者も含め約2,500人の患者が推定されている。 セミナーでは、救急医療の観点からHAEと疑い診断をつけるポイントや患者会の活動と患者・患者家族の声などが語られた。なお、同社はHAEの治療薬としてヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体製剤ガラダシマブ(商品名:アナエブリ)を4月18日に発売している。HAEの気道発作では発症から20分で生命が危険に 「HAE診断率向上は救命への道標」をテーマに自身も救急現場でHAE患者に遭遇し、診療経験もある薬師寺 泰匡氏(薬師寺慈恵病院 院長)が、HAEの救急現場での診療の流れやノウハウ、今後の展望などを説明した。 HAEは、薬剤や自己免疫などを原因とする血管浮腫と異なり、多くは血管中のC1蛋白分解酵素阻害因子(C1-INH)が低下し、ブラジキニンが上昇することで生じる限局性の浮腫。患者は1~5万人に1人(推定患者数は約2,500人)とまれな疾患であり、主に10代で発症する。 浮腫の症状としては「皮下」「消化管」「咽頭周囲」が多く、その特徴を個別に示した。 「皮下」では、四肢、顔面、生殖器の皮膚が膨張し、痒みはないが、腫脹による痛みがあるケースもある。 「消化管」では、本症の70~80%が腹部症状であり、悪心、嘔吐、疼痛などを引き起こす。過去には、症状が急性腹症に類似していることから不必要な手術などが行われたこともあったという。現在では、エコー検査、内視鏡検査で器質的な所見を見つけることもできるようになった。 「咽頭周囲」は、本症で最も致死的な症状であり、患者の2人に1人は咽頭発作を起こし、11~45歳の患者で最も頻度が高い。咽頭浮腫では、初期症状として嚥下困難、声のトーンの変化(嗄声など)から始まり、発症から約20分程度で気道が閉塞し、窒息に至る。過去、30%の患者が窒息で死亡しており、咽頭浮腫の発生は平均26歳頃に始まるという報告がある1)。また、窒息で亡くなった患者70例の平均年齢は40.6±14.3歳という報告もある2)。そして、救急科に不幸にも気道閉塞で搬送された場合、気道確保が行われるが、口からの確保ができない場合、鼻から器官チューブを入れて気道を確保する処置が行われている。 2000年以降、HAEでは発作予防としてC1-INH濃縮製剤や急性期のイカチバントなど治療薬が発売されたことで、救急現場では対症療法から「気道確保、呼吸管理、循環管理」と「アナフィラキシーか血管性浮腫などの鑑別診断」の後に、「診断」とオンデマンド治療への流れができるようになった。さらに長期予防投与のベロトラルスタットやラナデルマブの登場によりHAEと確定診断のついた患者では、救急搬送がなくなる可能性も出てきた。 ただ、救急対応後の課題として、「フォローアップ外来が見つけにくいこと」があるほか、「医療者の疾患への認知度不足により、診断や治療につながらない」、「未診断の患者のリスクが高いこと」などが残る。 そこで、薬師寺氏は「診療のstrategy」として4つのステップを提案する。1)HAEを疑う(皮膚・粘膜の浮腫に気が付く) 皮膚科、消化器科、耳鼻科、泌尿器科、循環器科、救急科などに啓発がさらに必要2)HAEを診断する(C1-INHを測定する) 早期発見のためにも血液検査を実施する3)HAEをフォローする 長期発作抑制の種々の薬剤を選ぶ、オンデマンド治療、かかりつけ医に相談できる環境4)HAE safety netを張る 気道閉塞などの緊急時の対応、腹痛などでの入院先 おわりに薬師寺氏は、HAEの診療について、(1)繰り返す腫れ、腹痛はまず医師に相談(2)血液検査はどの医療機関でも実施可能(3)発作時の治療では長期発作抑制薬もある(4)救急搬送先の確保が必要とまとめ、「今後、患者が過ごしやすい社会の構築作りが課題」と指摘し、レクチャーを終えた。病気が個性と言える日が来ることを願う 「患者家族が抱える診断・治療・生活の課題~患者家族、患者会代表の視点から~」をテーマに患者会HAEJ 代表理事の松山 真樹子氏が、患者家族の経験談や患者会の活動内容、現在の課題などを語った。 HAEJは、2014年に設立され、松山氏は2023年より理事長を務めている。松山氏は、夫をHAEの発作で亡くされ、自身の子供も遺伝子検査でHAEと診断されている。 HAEJの活動としては、疾患の認知拡大や診断率の向上などのため、海外の患者会と連携してさまざまな活動を実施している。具体的には、ウェブサイトによる情報配信、医学会への参加、メディアへの露出などを行い、医師・医療従事者へ本症の啓発を行っている。 患者・家族の日常生活について、予防治療もでき生活が安全になったものの、患者は発作再燃があるのを忘れてしまうこともあり、「発作時の対応が今も大変だ」と語る。また、医師とのコミュニケーションでは、「医師に説明してもわかってもらえない」「医師との病状対話が緊張してできないなど」の課題があるが、最近では診療時にアプリの記録やスコアチェックシートを介して説明することで解決されつつある。診療でのハードルは、「遺伝病のイメージが独り歩きしている」ために「患者は知られないように不安を感じるなどの悩みがある」という。そのほかにも、疾患の知識と理解のアップデートが医師も患者も追い付いていないという課題もあるという。 まとめとして松山氏は、「患者の希望は、普通の生活ではなく、望む生活を送ることができることであり、積極的に発作の予防・対応に治療薬を使用し、QOLを上げてほしい」と患者家族からみた思いを語り、「病気は個性といえる日が来るように願う」と患者である子供の言葉を述べ、説明を終えた。

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肥満者の体重減少、チルゼパチドvs.セマグルチド/NEJM

 非糖尿病の肥満成人において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時の体重および胴囲の減少に関して優れていることが、米国・Weill Cornell MedicineのLouis J. Aronne氏らSURMOUNT-5 Trial Investigatorsによる第IIIb相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURMOUNT-5試験」の結果で示された。チルゼパチドおよびセマグルチドは、肥満の管理に非常に有効な薬剤である。肥満であるが2型糖尿病は有していない成人において、チルゼパチドとセマグルチドの有効性および安全性を直接比較した臨床試験はこれまでなかった。NEJM誌オンライン版2025年5月11日号掲載の報告。ベースラインから72週時までの体重の変化率を比較 SURMOUNT-5試験は、米国およびプエルトリコの32施設で実施された。対象は、BMI値30以上、またはBMI値27以上かつ肥満関連合併症(高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を1つ以上有する18歳以上の成人で、糖尿病と診断されている患者、肥満に対する外科手術の既往または予定のある患者などは除外した。 適格患者をチルゼパチド(10mgまたは15mg)群またはセマグルチド(1.7mgまたは2.4mg)群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回72週間皮下投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重の変化率とした。重要な副次エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重減少が少なくとも10%、15%、20%および25%以上の患者の割合、および胴囲の変化量などとした。体重減少率20.2%vs.13.7%、体重減少25%以上の患者割合31.6%vs.16.1% 2023年4月21日~2024年11月13日に、適格性を評価した948例のうち751例が無作為化され、そのうち750例が少なくとも1回の治験薬投与を受けた。 72週時の体重変化率の最小二乗平均値は、チルゼパチド群-20.2%(95%信頼区間[CI]:-21.4~-19.1)、セマグルチド群-13.7%(-14.9~-12.6)であり、体重に関してチルゼパチドのセマグルチドに対する優越性が示された(推定治療差:-6.5%ポイント、95%CI:-8.1~-4.9、p<0.001)。 72週時の体重がベースラインから少なくとも10%、15%、20%および25%以上減少した患者の割合は、チルゼパチド群がそれぞれ81.6%、64.6%、48.4%、31.6%、セマグルチド群が60.5%、40.1%、27.3%、16.1%であった。 72週時の胴囲の変化量の最小二乗平均値は、チルゼパチド群で-18.4cm(95%CI:-19.6~-17.2)、セマグルチド群で-13.0cm(-14.3~-11.7)であった(p<0.001)。 有害事象は、チルゼパチド群で76.7%、セマグルチド群で79.0%の患者で報告され、両群における主な有害事象は胃腸障害(悪心、便秘、下痢など)であった。重篤な有害事象はそれぞれ4.8%、3.5%に認められた。

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バーチャル合唱プログラムで孤立した高齢者の気分やウェルビーイングが向上

 歌を歌うことが魂にとって救いとなることがあるが、バーチャルな集団の中で歌うことにも同様の効果はあるのだろうか? その答えは「イエス」であることが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のロックダウン中にバーチャル合唱団へ参加したことが高齢者の感情面あるいは精神面に良い影響をもたらしたのかどうかを検証した研究で示された。研究によると、孤立した高齢者からは、ZoomやFacebook Liveを介して合唱の練習に参加したことで不安が軽減され、社会とのつながりが深まり、感情的および知的な刺激を受けることができたとの評価が得られたという。米ノースウェスタン大学音楽療法プログラムのBorna Bonakdarpour氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に4月22日掲載された。 Bonakdarpour氏は、「この研究は、バーチャル合唱団への参加が、農村部に住んでいる人や移動に制限のある人、社会的不安を感じている人に、パンデミックに関わりなく恩恵をもたらす可能性のあることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。 この研究は米イリノイ州を拠点とする合唱プログラムの「サウンズ・グッド・クワイア(Sounds Good Choir)」との協働で実施された。パンデミックによるロックダウンが続く2021年、同プログラムでは55歳超の参加者が、バーチャルで以下のいずれかの活動に参加した。1)なじみのある歌を用いた、週に1回、計52回の歌唱セッションを受けるシングアロングセッション、2)組織化された合唱団で週1回の練習を重ね、最後にバーチャルコンサートを行う合唱プログラム。参加者には、認知機能が正常な人と神経認知障害を持つ人の両方が含まれていた。なお、Bonakdarpour氏らによると、先行研究では歌うことは肺活量や姿勢、全体的な身体の健康を向上させるだけでなく、呼吸のコントロールや感情の調整、運動機能に関わる脳の働きも活性化させ、脳と身体に良い影響をもたらすことが示されているという。 プログラムの終了後、Bonakdarpour氏らは176人の参加者を対象に調査を行い、バーチャル合唱体験が与えた影響について調べた。その結果、参加者の86.9%がプログラムへの参加がウェルビーイングに良い影響をもたらしたことを報告していた。プログラム別に見ると、シングアロングセッションへの参加はポジティブな記憶を呼び起こし、感情的な共鳴を促す一方で、合唱プログラムへの参加は、知的な刺激や関与をもたらすことが示唆された。さらに自由記述回答では、全体の5%以上の回答で、以下の面にポジティブな影響がもたらされたことが報告されていた。感情的ウェルビーイング(36%)、社会的ウェルビーイング(31%)、知的ウェルビーイング(18%)、パンデミックによる混乱の中での正常性の感覚や秩序の感覚(12%)、精神的ウェルビーイング(11%)、身体的ウェルビーイング(7%)、過去とのつながり(5%)。 Bonakdarpour氏は、「認知症とともに生きる人では、周囲の環境がどのようなものであろうと正常性の感覚の喪失が自己認識に強く影響し、不安の原因となる。このことは、こうした介入が正常な感覚を取り戻す助けとなり、心理的ウェルビーイングをサポートし、安定した自己認識に再びつなげる方法となる可能性があることを示唆している」と述べている。 さらにBonakdarpour氏は、「パンデミック時のグループ合唱への参加者は、混乱が広がる中、この活動が正常性の感覚をもたらしてくれたと一貫して話していた。これは顕著なテーマとして浮かび上がった点であり、今後さらなる研究で検討する必要がある」と言う。研究グループは今後、米国立衛生研究所(NIH)の音楽認知症研究ネットワークが助成する全国規模の臨床試験で、このバーチャル合唱体験をさらに詳しく検証する予定だとしている。

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超加工食品の摂取は早期死亡リスクを高める

 超加工食品の摂取量が多いほど早期死亡リスクも高まるようだ。新たな研究で、超加工食品の摂取に起因する早期死亡は、総エネルギー摂取量に占める超加工食品の割合が高いほど増加することが明らかになった。オスワルド・クルス財団(ブラジル)のEduardo Nilson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Preventive Medicine」に4月28日掲載された。 超加工食品は、飽和脂肪酸、でんぷん、添加糖など、主に自然食品から抽出された物質で作られており、風味や見た目を良くし、保存性を高めるために、着色料、乳化剤、香料、安定剤などさまざまな添加物が加えられている。具体例は、パッケージ済みの焼き菓子、砂糖が添加されたシリアル、すぐに食べられる、または温めるだけで食べられる製品などが挙げられる。研究の背景情報によると、超加工食品の摂取は心臓病、肥満、糖尿病、一部のがん、うつ病など32種類の健康問題と関連付けられているという。 今回の研究では、まず、過去の研究で用いた超加工食品の摂取とあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連に関する10件の研究のうち、基準を満たした7件を選出し、量反応関係メタアナリシスを実施した。対象国は、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、英国、米国の8カ国で、対象者の総計は23万9,982人であった。国ごとの超加工食品の摂取量は、コロンビア(15.0%)とブラジル(17.4%)では少なめ、チリ(22.8%)とメキシコ(24.9%)では中程度であり、オーストラリア(37.5%)、カナダ(43.7%)、英国(53.4%)、米国(54.5%)では多かった。 解析の結果、総エネルギー摂取量に占める超加工食品の摂取量が10%増加するごとに全死亡リスクが2.7%上昇することが明らかになった(相対リスク1.027、95%信頼区間1.017〜1.037、P<0.0001)。次に、この相対リスクを用いて、早期死亡のうちどの程度が超加工食品の摂取に起因すると推定されるかを評価するために人口寄与割合(PAF)を計算した。その結果、超加工食品が原因と推定される早期死亡の割合は約4%から約14%に及ぶことが明らかになった。具体的には、最も低かったのがコロンビアの3.9%(7万2,940件)、最も高かったのは英国の13.8%(12万8,743件)、米国の13.7%(90万6,795件)であった。 Nilson氏は、「高所得国では超加工食品の摂取量はすでに高レベルだが、10年以上にわたって高止まりしたままだ。一方、低・中所得国では摂取量が増加し続けていることは懸念される。これは、現時点では高所得国での超加工食品摂取がもたらす健康への負担は他の国より高い一方で、その負担が他の国々でも増加しつつあるということだ」と述べている。 Nilson氏はさらに、「これは、世界的に超加工食品の摂取量を抑制し、地元の新鮮で最小限の加工食品に基づいた伝統的な食生活を促進する政策が喫緊で必要なことを示している」と「American Journal of Preventive Medicine」の発行元であるElsevier社のニュースリリースで強調している。

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096)お久しぶり受診の患者さんとの静かな戦い【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

お久しぶり受診の患者さんとの静かな戦いゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆内服処方の多い内科外来などと異なり、外用のみ処方の患者さんが主な皮膚科の外来。内服薬であれば、決まった日数でなくなってしまいますが、外用薬だと塗り方で調整ができてしまうため、受診がのびのびになってしまう患者さんも少なくありません。「受診日までに足りなくなりそうなので、チビチビ塗っていました」という申告も、皮膚科ではよく聞かれます。塗る量が少なくなれば効果も低下するため、もちろんよいことではありません(早めに取りに来て…!)。診療のコツとして、次回の受診日を指定すること使った軟膏量をチェックすること定期通院をうながすことなどを個人的には意識していますが、うまくいくケースばかりではありません。やはり、患者さんとしては、次の受診はなるべく先延ばししたいという思いがあるようです。症状のコントロールが良好で、落ち着いている患者さんであれば、多少、受診の間隔がのびてしまっても、問題はないのですが…。問題は、コントロール不良の患者さん。毎回、同じ主訴で「お久しぶり受診」を繰り返し、ふりだしに戻った状態で「治らない」と文句ばかり言ってくる患者さんも…。こちらもなんとか定期通院を促そうと努力しますが、「お久しぶり」タイプの患者さんではなかなか応じてもらえないことも多く、静かな攻防戦を繰り返しております。あきらめず働きかけ続ければ、いつかは響くはず…?こういうとき、「『治す気あるのか!』と愛のムチ? を繰り出すべきなのか」という考えが、ふと頭をよぎりますが、性格的にできそうもありません。患者さんには、「それでは治りませんよ」と伝えますが、厳しく接することも時には必要?まだまだ精進が足りないようです。それでは、また次の連載で。

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ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】

ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】 日頃よりケアネットをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。ケアネットDVDは、2025年6月20日を以て販売を終了いたしました。これまでにケアネットDVDで販売していたタイトルにつきましては、臨床医学チャンネルCareNeTVにて引き続き配信しておりますので、今後はCareNeTVをご利用いただけますと幸いです。※一部、CareNeTVでの配信が終了しているタイトルもございます。今後ともケアネットをご愛顧のほどお願い申し上げます。本件に関するご質問、ご不明な点はこちらよりご連絡ください。

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第263回 10代の濫用薬物の傾向は?改正薬機法が何を変えるの?

改正薬機法が5月14日の参院本会議で可決成立した。今回の改正ポイントは複数あるが、一般向けの報道の多くは、薬剤師や登録販売者が常駐していないコンビニエンスストアでもこれら有資格者からオンラインで情報提供を受けることを条件に、消費者がいつでも一般用医薬品(OTC)を購入できる点を紹介している。実際、このことで私は突如、関西のとある民放から電話取材を受け、写真付きのフリップコメントで番組に出演することになった。若者の薬物依存、この10数年の動向今回の改正項目には、一般消費者にも身近で、かつ医療者も看過できない問題に関するものも含まれている。OTC濫用防止対策である。ご存じのように昨今、OTCの感冒薬・鎮咳薬に含まれるエフェドリンやコデインの過剰摂取(オーバードーズ)など、OTCによる薬物依存に陥る者が増加している。隔年で行われている「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」1)によると、薬物関連精神障害患者のうち調査時点から1年以内に使用が認められた主たる薬物の中に占めるOTCの割合は、2012年は2.7%に過ぎなかったが、これが2024年には25.6%と約9.5倍にまで膨れ上がっている。入手の手軽さなどから、ほかの違法薬物などと比べて急増しているのが実態だ。しかも、OTC濫用は若年層が顕著だ。実態調査の経年変化を見ると、10代の主たる依存薬物に占めるOTCの割合は、2014年実態調査では0.0%(おそらく完全にゼロではない)。しかし、2024年実態調査では71.5%まで拡大している。ちなみに2014年時点で10代の主たる依存薬物の“王座”に君臨していたのは「危険ドラッグ」の48.0%だった。また、成人一般で主たる依存薬物として最も多い覚せい剤は、10代の場合、2014年実態調査で占めた割合は12.0%だったが、2024年実態調査では3.8%にまで減っている。改正薬機法、もう1つのポイント今回の改正薬機法では、こうした濫用の恐れのあるOTCを「指定濫用防止医薬品」という新設する区分に組み入れ、20歳未満への大容量製品や複数個の販売を禁止。また、薬剤師・登録販売者が購入希望者に対し、購入理由や他薬局での購入状況などを確認することを義務付けた。具体的な規制の詳細は省令で定められる予定だ。ちなみに、この指定濫用防止医薬品などに関する改正薬機法での取り扱い議論の出発点となったのは、2024年1月に公表された「医薬品の販売制度に関する検討会」2)のとりまとめだが、そこでは濫用が懸念されるOTCについて「身分証などによる氏名などの確認と記録を行い、購入履歴を参照して頻回購入でないかを確認した上で販売の可否を判断」「直接購入者の手の届く場所に陳列しない(いわば空箱陳列など)」などの方針が示されていた。しかし、現状で身分証確認と購入履歴の記録・保管では完全な買い周りを防げないこと、空箱陳列は適正使用者のアクセスを過度に阻害するうえに店頭管理の厳格化によるコスト増を招くとして日本チェーンドラッグストア協会が強く反発。最終的には記録はなしになり、空箱陳列とともに代替選択肢として、情報提供コーナーに有資格者が常駐し購入希望者への直接対応にあたることも可能にした。若者のOTC濫用、その背景が重要この改正薬機法の取り扱いについての賛否はまちまちだと思われる。「実効性に乏しい」という主張は、ある意味正しいかもしれない。しかし、そもそも正しく使えば消費者の利益になるはずのOTCである以上、完全な規制は難しい。水をためるバケツに開いた穴で例えるならば、穴を小さくできても完全に穴を塞ぐことは土台無理な話である。このケースで「完全に穴を塞ぐ」とは濫用の恐れのある成分を含むOTCそのものを流通させないことと同義と言って差し支えないからだ。もちろん今後、さらなる薬機法改正により新たな規制手段が生まれてくる可能性は高い。たとえば、今回見送られた「消費者の手に届かない位置への陳列の義務化」や「ICT(情報通信技術)を利用した購入履歴の記録」「購入履歴管理の簡素化」である。これらの手法はすでに導入している国もある。日本ではまだマイナカードの普及が始まったばかりと言える段階であり、同カードの浸透とともに購入履歴の記録・管理の簡素化は現実のモノとなるだろう。しかし、これらの対策でも大きく欠けている視点・対策はある。そもそも前述のようになぜ若年層でOTC濫用事例が増加しているのか? 「安価で入手しやすいから」「インターネット・スマートフォンの普及により、情報も裏販売ルートなどからも入手しやすくなったから」などの指摘はあるだろう。もちろんこれらの指摘は一定程度当たっていると思われるが、本当の意味での「なぜ?」には答えていない。ここで「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」(有効回答者4万4,613人)1)を参照したい。同調査によると、過去1年間にいずれかのOTCの濫用経験率は1.6%。濫用経験者と非経験者で生活属性を比較すると、「学校生活が楽しくない」「親しく遊べる友人がいない」「相談事のできる友人がいない」などの回答率がいずれも濫用経験者群で有意に高い結果となっている。実は同様の調査は中学生を対象にしたものが隔年で行われているが、こちらでもこの点はほぼ同様の結果である。今風の言葉でありきたりな表現をすれば、「『生きづらさ』が市販薬依存の一因になっている」ということになるだろうか?もちろん国が無策だとは言えない。厚生労働省は関連するさまざまなツールや資材、窓口などを紹介はしている。ただ、こうした地味な活動はそれを広げようとする思いを持つ人の熱量が高くとも即効性には乏しい。そして現在は今回の改正薬機法のように“規制強化”という車輪だけが回転数を上げている状態である。次なるフェーズとしては、この「生きづらさ」の受け皿をどのように強化していくかにならねばなるまい。それなしに規制の強化だけが進めば、「薬物依存対策」という名の車両はバランスを崩し、横転することになるだろう。参考 1) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所:薬物依存研究部 2) 厚生労働省:医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ概要資料

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高齢者の転倒対策、現場は何をすべきか?【外来で役立つ!認知症Topics】第29回

「縛るな!」――身体拘束ゼロへの取り組み病院・施設の高齢者における訴訟は増加しているが、訴訟の2大原因は、転倒と誤嚥だそうだ。いずれであれ、その判決内容、賠償金額によっては病院・施設の死活問題になりかねない。そこで誰もが転倒の予防対策として考えるのは身体抑制だろうが、これは人の尊厳を損なう最たるものである。さて「身体拘束ゼロ」、わが国のいわゆる老人病院で始まった高齢者医療・ケアの改革運動である。2001年には厚生労働省が『身体拘束ゼロへの手引き』を作成し、また、2024年には診療報酬改定で身体拘束最小化の基準が設けられた。とくに慢性期病院や介護施設は、身体拘束の最小化に向けて懸命に取り組んできた歴史がある。この流れの源流は、今年4月に亡くなられた吉岡 充医師にある。彼は、東大病院と都立松沢病院の勤務を経て、ご尊父が営む八王子の精神科病院に移られた。そこには数十年の入院生活で高齢化した統合失調症の患者さんたちがいた。これが彼の高齢者医療への取り組みの始まりだったと思う。1980年代に、この病院でアルバイトをさせてもらっていた私はこの当時、彼と初めて会った。「患者さんを縛っちゃいけないよ!」「どうして病院ではすぐに患者を縛るんだ? 朝田、おかしいと思わないか」という会話をした。正直、「理想はそう、病院では安静を守れない患者も、すぐに転んで骨折する患者もいます、必要悪ですよ」が私の本音だった。しかしその後、吉岡医師は類まれな意志力・行動力で「抑制廃止」(彼はいつも「縛るな!」と言っていた)を全国展開していった。転倒による死亡は交通事故の3倍こうした抑制廃止の裏面が、転倒である。今日、高齢者の転倒・転落は、広く高齢者医療の大きな課題として一般の人にもよく知られている。転倒による大腿骨骨頭骨折などの骨折はもとより、死亡例も驚くほど多い。2023年の資料では、こうした事故による死亡者数は全国で1万2,000例弱にも上り、交通事故死の3倍以上だというから恐ろしい1)。ところで老年医学は、1950年代からイギリス、北欧で芽生え成長してきた。この分野では、イギリスのバーナード・アイザックス(Bernard Isaacs)が1965年に提唱した「老年医学の4巨人」、すなわち転倒、寝たきり、失禁、認知症が今日に至るまで主要テーマである。筆者は1980年代にイギリスの大学老年科に留学して、老年医学の病棟のみならず患家にも立った。その影響で、帰国後は精神科領域における転倒を臨床研究のテーマにし、この領域の進歩に努めて触れてきた。そのポイントをまとめると、まずは転倒の危険因子、転倒予防、予後、そして手術と手術適応である。個人の転倒危険因子では、より高齢であること、転倒既往、認知症、パーキンソン病などの神経疾患、身体機能・ADLの低下、向精神薬など薬剤、飲酒などがある。また施設の住宅設備面から段差の解消、手すりや常夜灯の設置がある。一方で床にこぼれた水分や尿などを可及的速やかに拭き取ったり、落ちた紙などの障害物を除いたりすることも極めて重要である。というのは転倒の直接原因では、滑る・躓くが最多とされるからである。次に予後では、認知症者では、身体機能はもちろん、生命予後もよくない。アメリカのナーシングホームのデータ2)では、大腿骨頸部骨折の手術がなされた者では、6ヵ月以内に35~55%が、2年以内に64%が亡くなったとされる。また手術をしてもこうした患者の機能レベルは容易に転倒前まで戻らないこともわかっている。それだけに手術適応の決定も簡単ではない。これまで転倒予防として繰り返し強調されたのは、脚力を中心とした体力増強の運動である。もっともこの運動や薬剤の調整で発生リスクを2割ほど低減したとの数少ない論文はあるが、リスク低減のエビデンスは乏しい。今のところ、予防の決め手はないというのが現実だ。病院・施設はどのような対策をすべきか?さて訴訟に関し、転倒を含めた事故で病院・施設に過失があるとされるのは、「結果予見義務」と「結果回避義務」が尽くされなかった場合である。転倒・転落が起こるかもしれないという「結果予見義務」だが、裁判の論点にならなくなってきている。なぜなら今日では、認知症の有無、転倒歴、睡眠薬の使用などの転倒・転落リスクは、ほぼしっかり確認されているからである。そこで論点になるのが転倒・転落を防ぐための備え・工夫をしたかという「結果回避義務」になる。もっとも既述のように、転倒・転落は完全には防ぎ難いことはわかっている。それだけに事情通の弁護士によれば、転倒は予見の可能性が難しいだけに、判決として「病院・施設に責任ありとするが、賠償額を低く抑えることでバランスをとる」のが主流ではないかとの由。以上をまとめると、病院・施設側として転倒リスクの評価はまず入院時に不可欠である。そして計画した予防策は明文化し、たとえば定時の見守り・チェックなどは必ず記入する。また濡れた床拭き、靴の履き方直しなど臨機応変に対応したことの記録を残し、結果回避義務を強く意識した努力を記録として蓄積すべきだろう。参考1)厚生労働省「不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」(e-Stat). 2)Berry SD, et al. Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med. 2018;178:774-780.

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高齢者への抗菌薬投与の有害性と安全性、3~7日vs.8~14日

 地域在住の66歳以上の高齢者において、アモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシンの投与期間が長期(8〜14日)となった場合、短期(3〜7日)の場合と比較して、副作用やClostridioides difficile感染症(CDI)などの有害性アウトカム発現に差は認められなかった。カナダ・トロント大学のBradley J Langford氏らは、10万例以上の高齢患者を対象としたコホート研究の結果を、Clinical Infectious Diseases誌2025年4月号で報告した。 本研究では、カナダ・オンタリオ州の行政医療データが用いられた。対象はアモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシンのいずれかまたは複数の処方を受けた66~110歳の外来患者で、処方期間は短期(3〜7日)または長期(8〜14日)に分類された。主要アウトカムは副作用、CDI、抗菌薬耐性を含む抗菌薬関連の害の複合、副次アウトカムは、抗菌薬の再処方、通院、死亡を含む安全性指標の複合であった。バイアスリスクを低減するため、抗菌薬投与が長期の患者の割合を元に操作変数法による解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者11万7,682例において、抗菌薬投与期間が長期の患者と短期の患者の間で、主要有害性アウトカムに差はみられなかった(以下、調整オッズ比[95%信頼区間])。 アモキシシリン:0.99[0.84~1.15] セファレキシン:1.11[0.90~1.38] シプロフロキサシン:0.94[0.74~1.20]・抗菌薬投与期間が長期の患者と短期の患者の間で、副次安全性アウトカムに差はみられなかった(以下、オッズ比[95%信頼区間])。 アモキシシリン:1.01[0.94~1.08] セファレキシン:1.06[0.97~1.17] シプロフロキサシン:0.99[0.85~1.15]

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若年性認知症リスクとMetSとの関連

 若年性認知症は、社会および医療において大きな負担となっている。メタボリックシンドローム(MetS)は、晩年の認知症の一因であると考えられているが、若年性認知症への影響はよくわかっていない。韓国・Soonchunhyang University Seoul HospitalのJeong-Yoon Lee氏らは、MetSおよびその構成要素が、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症を含む若年性認知症リスクを上昇させるかを明らかにするため、本研究を実施した。Neurology誌2025年5月27日号の報告。 The Korean National Insurance Serviceのデータを用いて、全国規模の人口ベースコホート研究を実施した。2009年に国民健康診断を受けた40〜60歳を対象に、2020年12月31日または65歳までのいずれか早いほうまでフォローアップ調査を行った。MetSは、ウエスト周囲径、血圧、空腹時血糖値、トリグリセライド値、HDLコレステロールの測定値を含む、確立されたガイドラインに従って定義した。共変量には、年齢、性別、所得水準、喫煙状況、飲酒量および高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病などの併存疾患を含めた。主要アウトカムは、65歳未満での認知症診断で定義したすべての原因による若年性認知症の発症率とし、副次的アウトカムに若年性アルツハイマー病、若年性脳血管性認知症を含めた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者数は197万9,509人(平均年齢:49.0歳、男性の割合:51.3%、MetS罹患率:50.7%)。・平均フォローアップ期間7.75年の間に、若年性認知症を発症したのは8.921例(0.45%)であった。・MetSは、すべての原因による若年性認知症リスク24%上昇(調整HR:1.24、95%CI:1.19〜1.30)、若年性アルツハイマー病リスク12.4%上昇(HR:1.12、95%CI:1.03〜1.22)、若年性脳血管性認知症リスク20.9%上昇(HR:1.21、95%CI:1.08〜1.35)との関連が認められた。・有意な交互作用が認められた因子は、より若年(40〜49歳vs.50〜59歳)、女性、飲酒状況、肥満、うつ病であった。 著者らは「MetSおよびその構成要素は、若年性認知症リスク上昇と有意な関連を示した。これらの知見は、MetSに対する介入が、若年性認知症リスクの軽減につながることを示唆している。しかし、本研究は観察研究のため、明確な因果関係の推定は困難であり、請求データへの依存は、誤分類バイアスに影響する可能性がある。今後の縦断的研究や包括的なデータ収集により、これらの関連性を検証し、さらに発展させることが望まれる」と結論付けている。

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「がんと栄養」に正しい情報を!がん患者さんのための栄養治療ガイドライン発刊

 日本栄養治療学会(JSPEN)は2025年2月、『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』(金原出版)を刊行した。JSPENが患者向けガイドラインを作成するのは初めての試みだ。5月14日には刊行記念のプレスセミナーが開催され、比企 直樹氏(北里大学医学部 上部消化管外科学)と犬飼 道雄氏(岡山済生会総合病院 内科・がん化学療法センター)が登壇し、ガイドライン作成の経緯や狙いを解説した。【比企氏】 世の中には「〇〇を食べると健康に良い」といった根拠の乏しい情報があふれている。とくにがんに関しては、科学的根拠のない栄養療法や補助食品の情報があふれており、患者や家族が正しい情報を得ることに苦労している。一方で、最近ではがん治療と栄養療法に関連した研究が増え、「どの栄養素を、どれだけ摂取すれば、どんな効果があるか」に関するエビデンスが蓄積されてきた。実際、がんの薬物療法や手術治療において、栄養治療が副作用の軽減や合併症の予防に寄与することが明らかになっている。こうした背景から、患者さんが正しい情報を得られるよう、情報を整理するために作成されたのがこのガイドラインだ。 JSPENは約2万4,000名の会員を抱える世界最大級の臨床栄養学の学会であり、会員の職種は医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多岐にわたる。実際、医療現場において栄養治療はNST(栄養サポートチーム)として多職種で担うことが多く、こうした医療者向けに昨年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 総論編』(金原出版)を刊行した。入院期間中はNSTが支援できるだろうが、外来治療中や退院後に不安になったときに、今回の患者向けガイドラインを使ってもらえればと考えている。患者さんの目に留まりやすいようポップな雰囲気の表紙にし、イラストを使うなどの工夫をした。全国のがん診療連携拠点病院を中心に1,000冊以上を寄付する取り組みも行っており、ぜひ手にとっていただきたい。【犬飼氏】 本ガイドライン作成に先立ち、がん患者へのアンケートを行った。334人から回答があり、Webアンケートだったこともあり、乳がんや血液がんの比較的若年層が多かった。「がん治療中の悩み」として多く挙がった項目としては、「リハビリテーションや運動療法、生活の仕方」が最多で29%、「食事のメニュー」が23%、「薬物療法の際の食事や栄養」が20%だった。口腔状態(9%)や手術後の栄養(5%)の項目は挙げる人が比較的少なかった。術後の栄養指導は診療報酬加算があり、医療機関が一般的に行っていることが不安解消につながったのではと分析している。 栄養に関するアンケートのつもりが、「リハビリに関する悩み」が最多という結果を受け、ガイドラインでは46のQ&Aのうち、リハビリに関するものを9つ設定した。また、口腔に関する悩みは少なかったものの、口腔環境が食欲不振や味覚障害に影響することを知らない人も多いと考え、口腔関連で7つのQ&Aを設定した。その他が栄養に関するQ&Aという構成だ。 がん薬物療法では、副作用の重症度を評価する指標であるCTCAEを使って、副作用の程度にかかわらず、それに応じた栄養治療の必要性が示されている。「がんになると体重が減って当たり前」と考える患者や家族も多いが、体重を維持することでQOL向上や副作用の軽減、治療の成績や予後の改善につながることがわかっている。こうした背景から、「がん治療中、体重は維持したほうがよいですか?」というQ&Aを設け、体重維持の重要性を強調している。がんによる体重減少には「食べられないで痩せる」と「食べていても痩せる」という2つの要因があり、前者はうつや吐き気、味覚障害、口内炎などが原因であることも多く、介入による改善が期待できる。ただし、「体重を減らすな、しっかり食べろ」と言うだけでは、食欲不振などで食べられず、ストレスを感じる患者・家族もいるだろう。そうした場合にお勧めの食品や調理法を提示し、栄養剤や点滴などの方法もあることを紹介した。 がん治療前に口腔ケアをすることで、手術の合併症や口内炎の悪化を防ぐことも知ってほしい。体力低下には有酸素運動が有効で、患者には「栄養・運動・社会参加」のバランスが大切であることを伝えている。「がん治療のさまざまな場面で、多職種が適切に栄養治療をサポートする」というメッセージを込めた。このガイドラインが、患者や家族が医療者に悩みを相談するきっかけになればと考えている。『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:144頁(カラー図数:34枚)発行:2025年2月編集:日本栄養治療学会目次・1章 がんにならないために・2章 がんになったら・3章 薬物療法が始まったら・4章 手術が決まったら・手術をしたら・5章 がん治療後について・6章 緩和医療において書籍情報はこちら

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40%の患者が過小診断される心不全疾患とは/アレクシオン

 新たなトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬アコラミジス(商品名:ビヨントラ)が2025年5月21日に発売された。これに先駆け、アレクシオンファーマが4月16日にメディアセミナーを開催し、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が『心アミロイドーシスを取り巻く環境と治療の現状と課題』、田原 宣広氏(久留米大学病院 循環器病センター 教授)が『新薬アコラミジスがもたらすATTR-CMに対する新たな治療』と題して講演を行った。最大の課題は“疑われない”こと トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は、TTR(トランスサイレチン)四量体が単量体に解離し、アミロイド線維を形成し、心臓に沈着することで心機能が障害される疾患で、野生型(加齢)と変異型(遺伝性)に分類される。遺伝性ATTR-CMは長野県や熊本県で患者が多く存在することが知られている一方で、加齢によって発症する野生型ATTR-CMの診断・治療が喫緊の課題であることはあまり知られていない。さまざまな研究報告から野生型ATTR-CMは「60歳以上の男性」に多いことが示されているが、その性差や加齢に伴う発生機序は明らかになっていない。北岡氏は「心アミロイドーシスは非常にありふれた心不全症状を呈するが、心不全の基礎疾患となる虚血性心疾患、拘束性心筋症、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などと比べ、疾患認知度の低さが一番の問題」と述べ、「患者の39~44%は初診時に過小診断を受け、17%は診断までに5人以上の医師の診察を受けたとの報告がある。その結果、3~4年の診断遅れに伴う機能的・生命的予後への影響が問題となっている」と指摘した。 診断のポイントとして、「まずは血液検査、心電図検査、心臓超音波検査の3つの実施を検討してほしい。心臓超音波検査は専門的であり、実施施設が限られる。心電図検査は早期診断するには向いていないが、血液検査によるNT-proBNP、トロポニンの測定は簡便であり、実施施設を選ばず早期診断にも有用である。これらの検査でATTR-CMが疑われた場合には、次のステップとして、シンチグラフィを実施してほしい。生検の実施は確定診断の上では有用であるが、高齢者へ行う検査としてはハードルが高いので、まずはシンチグラフィの実施が望まれる」と説明した。ただし、「トロポニン測定は保険適応外である点に注意してほしい」ともコメントした。アコラミジスの有効性・安全性 続いて田原氏は、海外第III相ATTRibute-CM試験(AG10-301)結果を踏まえたアコラミジスの有効性・安全性ついて解説。ATTRibute-CM試験は症候性ATTR-CM患者632例を対象にアコラミジスの有効性及び安全性を評価するために行われた第III相無作為化二重盲検比較試験1)。本研究より、有用性をプラセボ群と比較し、1)アコラミジス群では1.8倍良好な結果が得られた、2)心血管症状に関連する入院頻度が50.4%低下した、3)死亡と入院についてのカプランマイヤー曲線では3ヵ月以降から両群に開きが観察され、30ヵ月まで持続した、4)アコラミジス群では血清TTRレベルが投与28日時点で有意に上昇し、試験期間完了まで長期に継続、5)有害事象(いずれかの群で発現割合が20%以上)はアコラミジス群、プラセボ群それぞれについて、心不全(24.0%.vs 39.3%)、心房細動(16.6%.vs 21.8%)などの結果が認められたことを説明した。 なお、アコラミジスの作用機序は既存製品のタファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)と同様で、TTR四量体のサイロキシン結合部位を安定化させ、四量体の分解を抑制する。同氏は試験開始12ヵ月後からプラセボまたはアコラミジスにタファミジスを併用する補足的解析を示しながら、「アコラミジスには強いトラスサイレチン安定化作用を有する可能性がある」とコメントした。 また、両氏によると、心アミロイドーシスの診断には「手根管症候群の発症から5~6年後に心アミロイドーシスが発症する可能性がある」「神経系に蓄積する」などの特徴を踏まえ、整形外科、神経内科、循環器内科の3診療科による医療連携が全国的に進んできているという。ーーーーーーー<製品概要>製品名:ビヨントラ錠400mg一般名:アコラミジス塩酸塩効能又は効果:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型及び変異型)用法及び用量:通常、成人にはアコラミジス塩酸塩として1回800mgを1日2回経口投与する。薬価:400mg1錠 8,995.90円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:アレクシオンファーマ合同会社

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自家SCT後に再発した多発性骨髄腫、同種SCT vs.自家SCT

 自家造血幹細胞移植(auto-SCT)後に再発した多発性骨髄腫患者に対して、これまでauto-SCTより同種造血幹細胞移植(allo-SCT)のほうが優れていると考えられていた。今回、オーストリア・Wilhelminen Cancer Research InstituteのHeinz Ludwig氏らの系統的レビューとメタ解析の結果、allo-SCTがauto-SCTよりも全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)が劣っていることが示された。Cancer誌2025年5月15日号に掲載。 研究グループは、1995年~2024年10月に発表された英語論文の包括的な文献レビューを行い、初回auto-SCT後に再発した多発性骨髄腫に対して、allo-SCTとauto-SCTを比較した5研究を解析した。また、再発後に適合する同種造血幹細胞ドナーが存在する患者と存在しない患者を比較した2研究を個別に解析した。日本造血・免疫細胞療法学会と国際血液骨髄移植研究センター(CIBMTR)の2つの大規模データベースから 815例の個別データを入手した。Kaplan-Meier曲線で示された5つの小規模研究(allo-SCTとauto-SCTを比較した3研究、および適合ドナーの有無で比較した2つの研究)のデータは、Shinyアプリを用いてデジタル化した。メタ解析はR 4.3.3を用い、OSおよびPFSについてKaplan-Meier検定およびlog-rank検定を行った。 主な結果は以下のとおり。・個々の患者データ解析では、auto-SCT群でOSが有意に延長し、このベネフィットは3つの小規模試験で一貫していた。PFSも、CIBMTRのデータセットおよびプールされた小規模研究において、auto-SCTのほうが優れていた。・適合ドナーの有無で比較した2試験では、ドナーあり群のほうがPFSが長く、データを統合するとOSも改善していた。 これらの結果から、著者らは「初回auto-SCT後に再発した多発性骨髄腫患者には、allo-SCTを推奨すべきではないことが示された」としている。

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筋萎縮性側索硬化症、リルゾール+低用量IL-2で死亡リスク低減か/Lancet

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者において、リルゾールへの低用量インターロイキン2(IL-2LD)の上乗せは補正前解析では有意ではないものの死亡リスクの減少をもたらし、補正後解析では脳脊髄液中リン酸化ニューロフィラメント重鎖(CSF-pNFH)低値集団で有意な死亡リスクの減少が認められた。フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのGilbert Bensimon氏らMIROCALS Study Groupが、フランスの10施設および英国の7施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MIROCALS試験」の結果を報告した。ALSは、運動ニューロンの進行性喪失を特徴とする生命を脅かす疾患であり、治療法は限られている。著者は、「主要エンドポイントにおける補正前解析と補正後解析の結果の差は、ALSの無作為化比較試験において疾患の異質性を考慮する重要性を強調しており、CSF-pNFH低値集団で死亡リスクが減少したことは、ALSに対するこの治療法が有望であることを示すものであり、さらなる研究が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版5月9日号掲載の報告。リルゾール未投与の発症後2年以内のALS患者が対象 研究グループは、年齢18~75歳、改訂El Escorial基準のpossible、laboratory-supported probable、probable、definiteを満たし、症状(筋力低下、球麻痺による発症の場合は構音障害と定義)発症後24ヵ月以内で、静的肺活量70%以上、リルゾール未投与のALS患者を、12~18週間のリルゾール単独投与の導入期を経て、IL-2LD群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 IL-2LD群ではaldesleukin 2 million international units(MIU)、プラセボ群では5%ブドウ糖溶液の、1日1回5日間皮下投与を28日ごと19サイクル投与した。 主要エンドポイントは640日(21ヵ月)の追跡期間における生存、副次エンドポイントは安全性、ALS機能評価尺度改訂版(ALSFRS-R)スコア、および制御性T細胞(Treg)、CSF-pNFH、血漿および脳脊髄液ケモカインリガンド2(CCL2)などのバイオマーカー測定値とした。 主要エンドポイントに関する治療効果は、補正前解析と事前に定義した補正後解析により評価した。補正前解析には層別log-rank検定と、Coxモデル(層別因子:発症[四肢vs.球発症]、および施設[英国vs.フランス])を用いた。補正後解析では、ステップワイズ多変量Coxモデル回帰により、あらかじめ定義された共変量を用いて解析した。予後因子で補正後、IL-2LD投与群で死亡リスクが有意に減少 2017年6月19日~2019年10月16日に304例がスクリーニングを受け、そのうち220例(72%)が導入期後に無作為化された。患者背景は男性136例(62%)、女性84例(38%)で、25例(11%)はEl Escorial基準がpossibleであった。カットオフ日時点で追跡不能者はおらず、無作為化された全220例(死亡90例[41%]、生存130例[59%])がITT集団および安全性集団に組み入れられた。 主要エンドポイントの補正前解析では、有意ではないもののIL-2LD群でプラセボ群と比較し死亡リスクが19%減少した(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.54~1.22、p=0.33)。 一方、多変量Coxモデルで同定された予後因子(年齢、ALSFRS-Rスコア、CSF-pNFH値、血漿-CCL2値、Treg絶対数)による補正後解析では、IL-2LD群で死亡リスクが68%有意に減少し(HR:0.32、95%CI:0.14~0.73、p=0.007)、CSF-pNFHとの有意な交互作用が認められた(HR:1.0003、95%CI:1.0001~1.0005、p=0.001)。 IL-2LDは安全であり、すべての時点で有意なTreg細胞数増加と血漿中CCL2値減少が認められた。 無作為化時に測定したCSF-pNFH値による層別化では、CSF-pNFH低値(750~3,700pg/mL)集団(全体の70%)において、IL-2LDにより死亡リスクが48%有意に減少したが(HR:0.52、95%CI:0.30~0.89、p=0.016)、CSF-pNFH高値(>3,700pg/mL)集団(全体の21%)では有意差は認められなかった(HR:1.37、95%CI:0.68~2.75、p=0.38)。

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