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糞便移植で糖尿病に伴う消化器症状が改善する可能性

 1型糖尿病に伴う合併症で、吐き気、腹部膨満感、下痢などの消化器症状を来している人が、健康な人の糞便カプセルを服用すると、それらの症状が緩和するという研究結果が「eClinicalMedicine」1月号に掲載された。論文の筆頭著者である、オーフス大学(デンマーク)のKatrine Lundby Hoyer氏は、「本研究は1型糖尿病患者を対象に、糞便移植の有用性を対プラセボで検討した初の試みである。結果は非常に有望であり、糞便カプセル群に割り付けられた患者では、プラセボ群の患者で観察された変化を大きく超える、症状と生活の質(QOL)の改善が認められた」と語っている。 1型糖尿病患者の約4分の1が、合併症の糖尿病性胃腸障害を患っているとするデータがある。糖尿病性胃腸障害は、消化管の働きをコントロールしている神経が、慢性高血糖によってダメージを受けることで発症する病気であり、治療法はごく限られている。Hoyer氏らは、糖尿病性胃腸障害を来している患者の腸の状態を、糞便移植によって改善できないかを検討した。なお、糞便移植は健康な人の腸内細菌を患者に対して移植するという治療法で、重度の下痢を引き起こすことのある有害な細菌(クロストリディオイデス・ディフィシル)による感染症の治療などに応用されている。 この研究では1型糖尿病患者20人を募集し、ランダムに10人ずつの2群に分け、糞便またはプラセボのカプセルを、無糖飲料とともに摂取してもらった。なお、糞便カプセルの作成には8人の健康なドナーの糞便が用いられ、それらは混合せず、10人の患者はそれぞれ1人のドナーの糞便から作られたカプセルを摂取した。 解析の結果、糞便移植を受けた患者は、消化器症状を表すスコアが、58から35へと有意に低下していた。プラセボを摂取した患者のスコアは、64から56への変化だった。また、過敏性腸症候群のQOLへの影響の評価尺度を用いた検討では、糞便移植群のスコアは108から140に上昇していた一方、プラセボ群は77から92への変化にとどまっていた。 本研究の結果についてHoyer氏は、「この治療法は一部の患者にとって、疾患発症前の日常生活を取り戻せるほどの意味を持つ。糞便移植には大きな可能性があり、より多くの患者が恩恵を受けられるように、さらに研究を推し進めていきたい」と話している。ただ、糞便移植が糖尿病臨床における一般的な治療選択肢の一つとなるまでには、長期的な安全性・有効性の検証や、特に有用な患者群を治療前に特定するための研究などが必要とされる。論文の上席著者である同大学のKlaus Krogh氏も、「糞便移植に期待している患者に対して、この治療法を広く適用できるようにしていくために、やるべきことは少なくない」と述べている。

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ダラツムマブ配合皮下注、高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫に申請/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年2月14 日、ダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ダラキューロ配合皮下注)について、「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫」を効能又は効果として、製造販売承認事項一部変更承認申請を行った。 今回の申請は、高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)を対象にダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ配合皮下注単剤療法の有効性と安全性を検証した国際共同第III相AQUILA試験に基づくもの。 AQUILA試験では上記患者390例を対象に、本剤群と経過観察群が比較された。結果、観察期間中央値 65.2ヵ月で、経過観察群に比べ本剤群は主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善した(ハザード比:0.49、95%信頼区間:0.36〜0.67、p<0.0001)。この解析結果は第66回米国血液学会年次総会(ASH2024)で発表され、NEJM誌オンライン版にも掲載されている。 SMMは多発性骨髄腫の前駆状態であり、異常な形質細胞が骨髄内で検出されるものの無症状である。SMMに対する標準的アプローチでは、病勢進行または臓器障害発現まで経過観察するが、最近は多発性骨髄腫への進行リスクが高い患者には早期治療介入の可能性が示唆されている。

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第230回 高額療養費制度見直し、長期患者の負担据え置き/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度見直し、長期患者の負担据え置き/政府2.がん患者の10年生存率54.0% 進行がんでも長期生存の可能性/国立がん研究センター3.コンビニでの市販薬販売が可能に、薬機法改正案を閣議決定/政府4.診療所の後継者不足深刻化、診療所の承継・開業を支援/厚労省5.医療機関のセキュリティ対策に警鐘、サイバー攻撃で4万人の情報流出/岡山県6.八戸市の病院で発覚した殺人隠蔽事件、死亡診断書偽造で理事長・主治医逮捕/青森県1.高額療養費制度見直し、長期患者の負担据え置き/政府政府は、高額な医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の見直しを進めていたが、長期療養者の負担増を懸念する声を受け、一部の修正を決定した。具体的には、直近12ヵ月で3回以上制度を利用した場合、4回目以降の自己負担を軽減する「多数回該当」の負担上限額を据え置くこととした。これは、がん患者団体などからの反対意見や、少数与党となった政府が野党の批判を考慮した結果とみられる。政府は2024年末に、制度の持続性確保のため、患者負担の上限額を段階的に引き上げる案を発表。しかし、当事者の声を十分に聞かずに決定したことで批判を招き、修正を迫られた。修正案は、患者団体から一定の評価を得たものの、団体側は負担増を全面的に凍結するよう引き続き求めている。一方、政府は高齢化や医療技術の進展による医療費増大への対応として、負担増は不可避との立場を示している。社会保障費の抑制が少子化対策の財源確保にもかかわるため、今回の修正により他の分野での財源確保が求められる。今後、制度全体の見直しを巡り、さらなる議論が必要となる。参考1)高額療養費引き上げ案 長期患者の負担額を据え置き 厚労相提示(毎日新聞)2)高額療養費、患者・野党に配慮 歳出抑制は一部先送り(日経新聞)3)高額療養費 政府 長期療養の負担据え置き“修正で理解得たい”(NHK)2.がん患者の10年生存率54.0% 進行がんでも長期生存の可能性/国立がん研究センター国立がん研究センターは、2012年にがんと診断された約39~54万人の患者データを分析し、5年および10年の生存率を初めて集計した。全体の10年生存率は54.0%で、前回調査(2011年診断)とほぼ同じ水準だった。とくに進行がん(ステージ3、4)では、診断から1年を乗り切った患者の5年生存率が上昇する傾向が確認された。たとえば、ステージ4の胃がん患者の5年生存率は、診断時点では12.5%だったが、5年生存した場合には61.2%に向上した。一方、早期がん(ステージ1、2)は5年生存率がほぼ横ばいだった。乳がんについては、進行度や経過年数にかかわらず生存率に大きな変化はみられなかった。研究を主導した同センターの石井 太祐研究員は、「進行がんの患者にとって治療が奏功するケースが多いことや、合併症が少ない場合に生存率が高まる可能性を指摘。がん患者やその家族にとって希望となるデータだ」と述べている。この調査結果は、がん診療の向上や患者への前向きなメッセージとなることが期待される。参考1)院内がん登録2012年10年生存率集計 公表 サバイバー5年生存率を初集計(国立がん研究センター)2)進行期のがん、診断早期乗り切ると生存率上昇 39万人データを集計(朝日新聞)3)進行がんの5年生存率、診断から年数経つほど上昇「院内がん登録」のデータ基に初めて調査 国がん(CB news)3.コンビニでの市販薬販売が可能に、薬機法改正案を閣議決定/政府政府は2月12日、医薬品医療機器法(薬機法)の改正案を閣議決定した。この改正により、薬剤師や登録販売者がいないコンビニなどの店舗でも、市販薬(一般用医薬品)が購入できるようになる。ただし、薬剤師からオンラインで説明を受けることが条件。患者はスマートフォンなどで確認証を取得し、店舗で提示することで購入可能となる。薬局やドラッグストアと連携し、自動販売機での販売も検討されている。また、改正案では、新薬開発を支援するための基金創設や、医薬品の安定供給対策も盛り込まれた。わが国の創薬力低下が課題とされる中、スタートアップ企業の支援や研究施設の整備に国と製薬企業の資金を充てる。さらに、医薬品供給不足への対応として、製薬会社に供給管理責任者の設置を義務付け、電子処方箋を活用した需給モニタリングを進める。一方、日本医師会は、市販薬の販売拡大に伴う医療機関の受診控えや健康被害の懸念を表明。とくに「OTC類似薬の保険適用除外」には反対の立場を示し、医療費削減のみを目的としたセルフメディケーションの推進は、患者の負担増や重篤な疾患の見逃しにつながると指摘するとともに、経済的弱者や小児医療への影響が懸念されている。政府は、薬剤アクセスの利便性向上と医療費削減を狙うが、医療界からの慎重な対応を求める声も強く、今後の国会審議の行方が注目されている。参考1)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案(厚労省)2)コンビニで薬剤師不在でも薬購入可能に…厚労省方針、オンライン説明が条件(読売新聞)3)コンビニで市販薬購入、薬機法改正案を閣議決定(日経新聞)4)市販薬購入、コンビニでも可能に 医薬品医療機器法などの改正案を閣議決定(産経新聞)5)日医 「社会保険料削減」目的のOTC類似薬の保険外し、OTC化に反対姿勢露わ 「重大な危険性伴う」(ミクスオンライン)4.診療所の後継者不足深刻化、診療所の承継・開業を支援/厚労省厚生労働省は、医師が不足する地域の医療提供体制を維持するため、診療所の承継や開業を支援する事業を開始する。2024年度の補正予算で102億円が計上され、施設・設備の整備や一定期間の定着支援が行われる予定。とくに、高齢医師の引退による診療所の閉鎖が進行しており、2040年には全国の自治体の約2割で診療所が消滅する可能性があるとの試算が示されている。この事業では、都道府県が「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」を指定し、全国の医師に対して地域診療所の承継や新規開業を呼びかける。応じた医師には、建物改修や医療機器更新費用の一部補助、診療が軌道に乗るまでの一定期間、医師・看護師の人件費や消耗品の購入費の支援が提供される。また、中堅・シニア世代の医師を対象に、医師不足地域への広域マッチング支援も行われる。これは、キャリアコンサルティングや教育を提供し、医療機関とのマッチングや定着を支援する取り組みであり、1.6億円の予算が割り当てられている。厚労省の試算によると、2022年時点で診療所がない市区町村は77にのぼり、2040年には342へと増加する見込み。また、診療所が1ヵ所しかない自治体も175から249へと増えるとされる。高齢化に伴い、2024年の診療所の休廃業・解散件数は587件と過去最多を記録し、日本医師会の調査では全国の診療所の半数が「後継者不在」と回答している。現場の医師からは、「地域住民を診る医師が不足する恐れがある」との声が上がっており、経済的支援による後継者確保への期待が寄せられている。厚労省は、補助事業とともに、重点区域で働く医師の手当増額や都市部の医師が地方に赴任しやすい環境の整備も進める方針だ。参考1)令和6年度補正予算について[報告](厚労省)2)診療所の半数「後継者いない」…医師不足地域の承継や開業に補助金、偏在対策で厚労省が補正予算(読売新聞)3)令和6年度補正予算/押さえておきたい施策 医療編(医療福祉業界ピックアップニュース)5.医療機関のセキュリティ対策に警鐘、サイバー攻撃で4万人の情報流出/岡山県岡山県精神科医療センター(岡山市)が、昨年5月に受けたサイバー攻撃による患者情報流出問題で、専門家委員会は「適切な対策を講じていれば防げた人災だった」との報告書を公表した。最大約4万人分の個人情報が流出し、原因は脆弱なパスワード管理やセキュリティ対策の不備にあったと報告書では指摘している。報告書によると、病院ではID・パスワードの使い回しが常態化し、管理者権限が一般ユーザーにも付与されていた。さらに、VPN装置の脆弱性が放置され、接続元IPの制限がなかったため、外部から容易に攻撃が可能だった。これらの不備が重なり、ランサムウェア感染によるシステム障害とデータの暗号化が発生した。また、厚生労働省の医療情報セキュリティガイドラインに従っていれば、適切なパスワード設定やアクセス管理の強化により被害は防げたと指摘している。病院側は、現時点で個人情報の悪用は確認されていないとし、今後、専門家の指導の下セキュリティ強化を進める方針を示している。報告書では「このようなサイバー攻撃は他の医療機関でも発生し得る」と警鐘を鳴らし、VPNの強化、多要素認証の導入、パスワードの適正化を推奨している。参考1)患者情報等の流出について(岡山県精神科医療センター)2)岡山県精神科医療センター患者情報流出は「人災」専門家委員会(NHK)3)ID・PW使い回しなどで個人情報最大4万人分流出 岡山県精神科医療センターがサイバー攻撃報告書(CB news)6.八戸市の病院で発覚した殺人隠蔽事件、死亡診断書偽造で理事長・主治医逮捕/青森県青森県八戸市の「みちのく記念病院」において、2023年3月に発生した患者間殺人事件を巡る隠蔽工作が明らかとなり、元院長の石山 隆(61)と被害者の主治医で弟の石山 哲(60)が犯人隠避の容疑で逮捕された。病院側は、遺族に虚偽の死亡診断書を渡し、死因を「肺炎」と偽装して事件を隠蔽しようとしたとされる。事件は、同病院の入院患者であった59歳の男が、相部屋の73歳男性の目を歯ブラシの柄で複数回突き刺し、翌日に死亡が確認されたもの。逮捕された2人は、この殺人を把握しながら、県警に通報せず、死因を偽った診断書を作成した疑いが持たれている。とくに問題視されているのは、死亡診断書の署名欄に、高齢で認知症の疑いがある医師の名前が記入されていたことだ。この医師は当時入院患者であり、病院側が死亡診断を任せる形で関与させたとみられる。病院内では死因を「肺炎」とする不自然な死亡診断書が多く発行されており、県警では虚偽の診断書作成が常態化していた可能性があるとみて捜査を進めている。さらに、看護師の証言によれば、元院長の石山 隆容疑者が死亡診断書の作成を指示していたことも判明。複数の看護師を介して、認知症の疑いがある入院患者の医師に診断を担わせるよう指示が出されていた。事件当時、夜間に医師が不在であったことも問題視されており、看護師が独断で医療行為を行う状況が常態化していたとの証言もある。この事件を受けて、専門家からは行政の監視体制の強化を求める声が上がっている。現在、医療機関に対する立ち入り検査は原則として事前通告の上で行われており、強制力がないため、不正の発覚が難しいという課題がある。抜き打ち検査の実施や医療機関の監査体制の見直しが求められている。青森県は医師不足が深刻な地域であり、とくに長期入院が必要な患者を受け入れる病院が限られている。その中で、みちのく記念病院は地域医療の重要な役割を担っていたが、今回の事件を受けて病院運営の在り方が厳しく問われている。県警は今後、虚偽の死亡診断書の作成が他にも行われていた可能性を含め、詳細な捜査を進める方針である。参考1)院内殺人事件 診断書の名義人の医師は入院中で認知症の疑い(NHK)2)院内殺人事件 隠蔽疑い 元院長ら うその診断書作成指示か(同)3)「転倒した」殺人被害者遺族に看護師うその説明 偽造死亡診断書事件(朝日新聞)4)患者間の殺人、犯人隠避容疑で逮捕状…みちのく記念病院の当時の院長と主治医(読売新聞)

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「詰んだ」と言われた株主優待がなぜ復活? 医師のための最新投資戦略【医師のためのお金の話】第89回

一時は「詰んだ」と思われていた株主優待。2022年4月に東証再編と上場維持基準の変更が行われ、企業にとって株主優待制度の必要性が低下しました。その影響で廃止や縮小に踏み切る企業が増加したため、株主優待を楽しんでいた私も意気消沈していました。ところが最近、株主優待に復活の兆しがみられます。廃止する企業は3年連続で増加しているものの、2021年から新設する企業が増加したため、2024年には純増に転じました。株主優待制度を導入している企業は減っていると思いきや、意外にも増加傾向にあるのです。株主優待制度が拡充されるのは、個人投資家にとって朗報です。とくに、私のように株主優待を楽しみにしている投資家にはありがたいかぎりです。一方で、この制度は日本特有の文化であり、海外投資家には理解されにくい側面があります。それでも株主優待制度が堅調に推移している理由は何なのでしょうか。その背景を探ることで、私たち個人投資家が株主優待に取り組むべき投資戦略がみえてきます。最近の株主優待制度をめぐる状況を考えてみましょう。株主優待制度が再び注目を集める理由とは株主優待制度が再び注目を集める背景には、さまざまな要因があります。主な理由として挙げられるのは、以下の3つです。新NISAの開始株式の持ち合い解消アクティビストの台頭上場企業を取り巻く環境は、激変しつつあります。最もインパクトが大きいのは、企業による株式の持ち合いを解消する動きでしょう。また、経営に積極的に関与しようとするアクティビストの影響を緩和して、企業経営を安定させたいと考える企業も増えています。これらの変化により、企業は個人投資家を新たな安定株主として迎え入れることを重視するようになっています。ちょうど、新NISAを通じて市場に参入する個人投資家が増えており、株主優待への関心が高まっています。株主優待は、株式投資の実感を得やすい仕組みとして、新規の個人投資家を引きつける役割を果たしています。実際、多くの企業が個人投資家に魅力を感じてもらうための施策として、株主優待制度を復活・拡充しているのです。また、個人投資家の増加は株価の安定にも寄与しています。たとえば、暴落時に機関投資家はリスク管理の観点から買い出動をためらいますが、個人投資家は株主優待を目的に株を購入するケースが珍しくありません。実際、私もそのような逆張り投資家の1人です。株主優待のトレンドは安定株主による長期保有株主優待制度にはコストが伴うため、費用対効果が求められます。その中で注目されるのが「長期保有優遇制度」です。この制度は、一定期間株を保有した株主に優待を提供することで短期取引を抑えて、長期的な投資を促す役割も果たしています。さらに、長期保有期間が長くなるほど、優待内容をより魅力的にする企業も増えています。たとえば、保有3年目以降には増額するといった形で、長期保有を推奨する仕組みがみられます。このようなステップアップ型の優待は、株主の継続的な投資を促します。長期保有優遇制度の導入により、企業は安定した株主基盤を確保でき、経営の安定性を高めることが可能です。一方、個人投資家にとっても、企業の成長を見守りながら株主優待を受ける楽しみがあり、長期的な視点での資産形成にメリットがあります。個人株主がとるべき投資戦略とはここまで株主優待制度の現状をみてきました。それでは私たち個人投資家は、どのような戦略をとるべきなのでしょうか。ここでは、私が実践している株主優待の投資手法をご紹介します。最初におすすめしたいのは、長期保有優遇制度を導入している企業を投資対象にすることです。この戦略は、株主優待を「掠め取る」目的で、現物株の買いと信用売りを組み合わせるクロス取引とは正反対のアプローチです。通常、株主優待を「すぐ手に入れたい」と思うものですが、なぜあえて1~3年以上も待つのでしょうか? その理由は、長期保有優遇制度を導入している企業は株主優待制度を長期間維持する可能性が高いと考えられるからです。長期保有優遇制度では、クロス取引が通用しにくいため、企業側がクロス取引投資家のコストを負担する必要がありません。招かれざる投資家を排除することで、株主優待制度の継続性が期待できるのです。次におすすめしたいのは、郵送費の負担が少ない株主優待を選ぶことです。最近の郵送料値上げは記憶に新しいですが、今後もさらに上昇する可能性があります。そのため、かさばる株主優待はコストがかさみ、長期間維持されにくくなるでしょう。狙い目は、自社製品のポイントや金券、割引カードといった、郵送コストが小さいものです。一方、QUOカードのような自社と関係のない金券を株主優待にしている企業は、業績悪化で廃止する可能性があります。このため避けた方が無難でしょう。企業は、長期間保有してくれる安定株主を欲しています。私たち個人投資家も企業のニーズに乗っかって、長期目線で株主優待制度を楽しむ姿勢が大切です。株主優待を通じて、じっくり資産形成していく喜びを噛みしめたいものです。

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第82回 臨床試験における「外れ値」の取り扱いは?【統計のそこが知りたい!】

第82回 臨床試験における「外れ値」の取り扱いは?日々の業務でデータ収集を行っていると、他のデータと比較して極端に大きい(もしくは小さい)データを目にすることがあるのではないでしょうか。他のデータと比べて極端な値のデータのことを「外れ値」と呼びます。外れ値を含んだままデータ分析を行うと、外れ値に引っ張られて、分析結果や傾向が変わってしまう場合があるため、取り扱いには注意を要します。しかし、場合によっては外れ値を分析することで、重要な知見が得られることもあるため、一概にすべて除けばよいとも言い切れません。本シリーズの第41回「外れ値とは」において外れ値の意味や判定方法について解説していますので、本稿では、「臨床試験や医療統計の分野」に限定して、「外れ値」の取り扱いについて解説します。■外れ値(outlier)臨床試験や医療統計の分野では、データの外れ値を扱うことは非常に重要な課題です。外れ値を単純に除外してしまうと、試験の結果が実際の状況を正確に反映していない可能性があるため、多くの論文で外れ値の扱いについては、慎重なアプローチが推奨されています。それでは、なぜ外れ値を除外してはいけないのか、主として以下の3つがあります。1)代表性の喪失臨床試験のデータは、対象とする集団を代表するものであるべきです。外れ値を除外することで、特定の症例や反応を無視することになり、集団の実際の特性を反映しない結果になる恐れがあります。2)バイアスの導入外れ値を除外することで、結果にバイアスが導入され、誤った結論に至る可能性があります。これは、とくに小さいサンプルサイズの研究で顕著になります。3)重要な情報の損失外れ値は、時に予期しない重要な発見や異常値の原因を示す可能性があります。これらを除外することで、重要な医学的洞察を見逃す可能性があります。■除外しない場合の臨床試験の結果の論文のまとめ方それでは、外れ値を除外しない場合、臨床試験の結果をどのように論文でまとめていくのでしょうか。1)データの詳細な記述外れ値を含めたすべてのデータを詳細に記述し、データの分布や特性を読者が理解できるようにします。2)感度分析の実施外れ値の影響を評価するために、外れ値を含むデータと除外したデータの両方で分析を行い、結果の差異を報告します。3)外れ値の探索的分析外れ値が発生した理由や背景を探求し、それが結果に与える影響を評価します。ICH-E9(臨床試験のための統計的原則)にも「外れ値の取り扱い」については、次のように記載があります。実際の値を用いた解析のほかに、外れ値の影響を除くか小さくする別の解析を少なくとも1つ行うべきであり、それらの結果の間の差異を議論すべきである。外れ値と思われるデータを含めた場合と除外した場合の解析の2つの間で差異がない場合には、その解析結果は「頑健」であると言えます。たとえ違いがあったとしても、それが薬剤の影響ではないということを、いろんな視点から論述することができれば、問題ありません。大切なことは「なぜそのような値が出てきたのか」を考察することにあります。■外れ値を除外してもよいケース外れ値を除外できる具体的なケースは限られていますが、以下のような状況では除外が許容されることがあります。1)データの記録や入力の明らかな誤りデータが明らかに誤って記録または入力された場合、それは除外してもよいと考えられます。2)プロトコル違反臨床試験のプロトコルに従わなかった参加者からのデータは、場合によっては分析から除外されます。3)機器の故障や操作ミスによるデータ測定機器の故障や操作ミスにより、誤ったデータが得られた場合、これを除外することがあります。それぞれのケースで外れ値をどのように扱うかは、研究のコンテキスト(context)や目的に応じて慎重に決定しなければなりません。また、外れ値を単純に除外してしまうことはできません。データの除外を行う場合には、その理由と方法を論文に明記し、データ除外が結果に与える可能性のある影響についての詳細な説明を述べることが重要です。データを除外する場合などの注意事項や配慮する事項を下記に4つ示します。1)除外の正当性の説明なぜ特定のデータポイントが外れ値とみなされ、除外されたのかについて、明確な根拠をもって記述します。これは、他の研究者が同様の状況でどのように対処すべきかを理解するのにも役立ちます。2)分析への影響の評価外れ値を除外することが結果にどのような影響を与えるかを評価し、記述します。これには、外れ値を含めた場合と除外した場合の分析結果を比較することが含まれることがあります。3)透明性の確保研究の再現性と透明性を確保するために、外れ値を特定し、除外するために使用した基準や手法を詳細に記述します。4)補足分析の提供可能であれば、外れ値を含む分析と除外する分析の両方を実施し、結果の違いを報告することで、外れ値が研究結果に与える影響を読者が理解できるようにします。これらのプロセスを通じて、研究者はデータの外れ値を適切に扱い、その結果、信頼性が高く、再現可能であり、透明性のあるものにするために努めなければなりません。データの除外は、研究の信頼性を損なわないように慎重に行われるべきということになります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第41回 外れ値とは?第56回 正規分布とは?第78回 4種類あるエラーバーについて

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在宅で痙攣に対応する【非専門医のための緩和ケアTips】第94回

在宅で痙攣に対応する脳腫瘍や脳転移をはじめとして、痙攣は進行がん患者の緩和ケアでよく遭遇する症状です。前回の髄膜播種の回でも触れました。緊急対応が必要となる症状なので、しっかり理解して、準備をしておくことが重要です。今回の質問脳転移のある肺がん患者さん。自宅で痙攣していると訪問看護師から連絡がありました。薬剤を持っていくにも時間がかかる状況で、救急搬送せざるを得ませんでした。もう少しできることがあったかと思うのですが、どう対応すれば良かったのでしょうか?脳転移のように中枢神経に病変がある場合、痙攣発作が生じることがあります。すでに脳転移がある場合は、抗けいれん薬を使用していることが多いかと思います。ただ、訪問診療で診ている状況では、病状がさらに進行することや内服が安定しなくなることがあり、入院中はコントロールできていた痙攣が在宅で再発することも珍しくありません。緩和ケアで遭遇する痙攣で難しいのは、「重積状態になりやすい」ことです。考えてみれば当然で、脳腫瘍や脳転移のように器質的な病変が中枢神経にあるのですから、痙攣の原因を除去することができません。痙攣がなかなか止まらないのも納得です。もう1つ難しい点は、「静脈路が確保しにくい」ことです。とくに在宅医療の状況下では、事前準備がないと静脈路確保に時間がかかってしまいます。また抗がん剤治療を長く頑張ってきた患者は血管がもろくなっており、ルート確保をしたくてもできないことがあります。そういった観点からは、筋肉注射などの投与経路の代替手段を多く知っておく必要があります。在宅緩和ケアで痙攣を生じやすい患者に対応するためには、事前の準備が重要です。具体的には、痙攣時に備えた薬剤の準備と、家族や訪問看護師との情報共有を大切にしましょう。痙攣時に備え、私は前もって小児用の坐薬のジアゼパムを処方しておくことがあります。一般的には成人に対して使用することは少ないのですが、痙攣が発生して訪問看護師に連絡をし、到着を待つ時間は家族にとって不安なものです。在宅医療の特性上ある程度は仕方ないものの、医療者が到着するまでに何らかの対応ができることは、本人や家族の安心につながります。家族でも投与しやすい坐薬を自宅に置き、痙攣が起こった時はまずはそれを家族に使ってもらい、その間に自宅に向かうのです。痙攣重積となり、単発の抗けいれん薬の投与では痙攣が止まらない時には、注射での持続投与が必要です。この時点で入院を勧めるかどうかは、予想される予後や患者本人・家族の状況や希望によるでしょう。ただ、痙攣は多くのご家族が在宅療養を継続することは難しいと感じる症状であり、在宅の医療者にとっても対応困難である場合も多いものです。ですので、私は「入院を検討してもよいと感じている」と率直にお伝えしながら、何が本人と家族にとっての最善かを話し合うようにしています。在宅緩和ケアで難しい対応を迫られる痙攣ですが、皆さまの経験はいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsがん患者の痙攣には、事前の「薬剤」と「話し合い」が大切。

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岐阜大学医学部 消化器外科・小児外科(附属病院消化器外科・乳腺外科・小児外科)【大学医局紹介~がん診療編】

松橋 延壽 氏(教授)田中 善宏 氏(准教授)佐藤 悠太 氏(講師)大川 舞 氏(特任助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴主治医制ではなくチーム制を敷くことで、夜間の呼び出し対応や休日の当番制などを行い、できるだけ拘束のない夜間・休日を過ごせるように心掛けています。ロボット手術も若い医師が執刀できるようにcertificate取得を順次行っています。また学会発表および誌上報告などは上級医の指導体制のもとで行い、出張費および投稿費は全額教室運営費で支援しています。また基本的に大学院への入学を推奨し、多種多様な研究を行いながら視野の広い外科医に成長できるような指導体制を構築しています。地域のがん診療における医局の役割若者の都会志向により、ハイボリュームセンター病院での研修が好まれるようになり、地方での研修を好む医師の減少は、地域外科医療を担うわれわれにとっては大きな問題となっています。地域では外科医に求められるがん診療に、救急医療、抗がん剤治療、がん緩和医療などがあり、スペシャリストでなくジェネラリストとしての人材も求められるため、幅広い外科診療を教育することが重要な役割と考えています。今後医局をどのように発展させていきたいか若い医師がそれぞれの領域でやりがいを持ち働き、人が集まる教室に発展させていきたいと考えます。医師の育成方針医は仁術という言葉のように、驕ることなく常に自分自身に謙虚であること。患者さんには常に優しく接し、患者さん個々にとって最高かつ最適な医療を提供できるよう日々自己研鑽を行える医師を育成したいと思っています。力を入れている治療/研究テーマ消化器外科では、解剖の座学・手術シュミレーション機器・キャダバー実習や臨床経験を通じてスキルを身に付け、内視鏡・ロボット手術に取り組んでいます。がんの系統的な手術手技・管理を学ぶことは、ひいては外傷・救急医療において自信につながります。小児外科でも、積極的に内視鏡手術を取り入れ、手術を行うだけでなく子供たちとその家族への心のケアも大切にしています。乳腺外科では、診断から治療、ラジオ波焼灼療法や乳房再建術などを体系的に学ぶことができます。すべてのチームが日本の臨床研究グループに参加し、多くのエビデンス創出に関わっています。本医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力トランスレーショナルリサーチとは、臨床現場での疑問を基礎研究し、その知見を実際の治療に活かすプロセスです。腫瘍の生物学的特性(糖鎖研究やゲノム解析など)に切り込み、新規医療体制の実現に向けた新しい治療法の開発に取り組んでいます。Baseとなる知識獲得のためには、限られた時間を有意義に! をモットーにオンラインでの抄読会を行っています。エビデンスを創出し海外に発信することは、みなさんの一生のレガシーです!医局の雰囲気、魅力外科医にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 私たちはがんと戦う患者さんの命を預かり、その後の一生に関わっていきます。自らの手で患者さんの身体に傷を作る代わりに、体内に巣食う諸悪の根源の周りに、綺麗な切り取り線を描いて根治に挑みます。手術に限らず周術期管理や集学的治療にはチームワークも極めて重要です。ですから外科医は、石橋をたたいて渡る慎重派のアテンダントであり、相手の気持ちの機微を読み解くメンタリストであり、芸術家であり、職人であり、そして向上心を持ったチームの一員なのです。私たちの医局は岐阜大学以外の出身者が大半を占めながらも、医局に代々流れる「和を以て貴しとなす」、互助の精神に溢れています。女性外科医も多く所属しており、ライフワークバランスを尊重しながら、みな一線で活躍しています。医学生/初期研修医へのメッセージ外科はとても「楽しい」科です。手術はもちろん、外科学には数多の分野が存在し、そのすべてに無限の可能性があります。人生をかけて本気でやりたいと思える事が見つかるはずです。それを見つけた私たちが、次は皆さんの夢の続きをサポートします。本医局を選んだ理由出身大学かつ初期研修も県内で行っていたこともあり、医局選択には迷いませんでした。大学時代の実習では、手術参加から外来見学まで濃厚に指導いただきました。糸結び・縫合の手技や、第2助手での手術参加など、研修医と遜色ないくらい充実した実習でした。初期研修は当医局の関連施設でもある岐阜市民病院で行いました。外科での研修は多忙ではありましたが、優しく熱心な先生方ばかりでストレスなく充実感に満ちたものでした。乳腺外科はもちろんですが、消化器外科も含め、この先生方のもとで学びたいと思い、当医局に入局を決めました。現在学んでいること外科専攻医期間を終え、現在は乳腺外科診療を行っています。手術件数も多く、昨年度は83件の手術執刀機会をいただきました。乳房再建手術や、遺伝性乳がん卵巣がん症候群のリスク低減乳房切除術など、多彩な術式を経験できています。外来診療では、KEYNOTEレジメンや臨床試験参加など最新のトピックスを、臨床を通じて勉強しています。最近は臨床研究課題に取り組んでいます。まだ力不足ですが、ご指導いただきながら楽しく勉強させていただいています。岐阜大学大学院医学研究科医科学専攻外科学講座 消化器外科・小児外科(附属病院消化器外科・小児外科・乳腺外科)住所〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1-1問い合わせ先tajima.jesse.yu.s4@f.gifu-u.ac.jp(田島 ジェシー雄)医局ホームページ岐阜大学大学院医学研究科医科学専攻外科学講座 消化器外科・小児外科専門医取得実績のある学会日本外科学会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会、日本消化管学会、日本大腸肛門病学会、日本食道学会、日本胸部外科学会、日本肝胆膵外科学会、日本救急医学会、日本腹部救急医学会、日本小児外科学会、日本周産期・新生児医学会、日本小児泌尿器科学会、日本乳学会、日本人類遺伝学会、日本遺伝性腫瘍学会、日本栄養治療学会、日本麻酔科学会、他多数研修プログラムの特徴(1)専門性の高い医療経験により、プロフェッショナルへの最短距離を提案します!臓器別に特化した専門医療を経験することは、一人前への近道です。将来目指すべき道、自分が本気でやりたいと思える事を、少しでも早く見つけるチャンスがたくさんあります。(2)一般病院に負けない場数を踏み、一般病院では得られない症例が経験できます!豊富な症例数があり、研修医でも執刀機会があります。珍しい術式や高難度手術、希少疾患を経験できる機会に溢れています。(3)研修が将来の資格獲得に直結します!外科医が最初に目指す資格は日本外科学会の外科専門医です。1ヵ月あれば、最低でも消化器15~20例、乳腺8~10例、小児外科5~10例、資格のための症例数を集められます。詳細はこちら岐阜大学医学部附属病院・医師育成推進センター

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英語で「腋窩」、医療者or患者向けの2つの表現を解説【患者と医療者で!使い分け★英単語】第5回

医学用語紹介:腋窩 axilla「腋窩(えきか)」は医療の専門用語ではaxillaといいますが、腋窩について説明する際、患者さんにaxillaと言って通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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OTC類似薬の保険適用除外、日医が示した3つの懸念点

 日本医師会常任理事の宮川 政昭氏が、2月13日の定例記者会見で、OTC医薬品に係る最近の状況について日本医師会の見解を示した。社会保険料の削減を目的に、OTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化を進めることには重大な危険性が伴うと強調し、その理由として下記を挙げた。1.医療機関の受診控えによる健康被害の懸念 はた目から見ると軽微な症状であっても、医師の診察を受けることで重篤な疾患の早期発見につながることがある。むしろ、重篤な疾患ではないことの確認こそが診察の大きな役割である。しかし、OTC類似薬の保険適用が除外されると、患者が自己判断で市販薬を使用して、適切な治療が受けられずに重篤化する可能性が高まる。結果として治療が遅れて合併症を引き起こし、かえって高額な医療費が発生するリスクがある。このリスクは「個々人の危険性が少し高まるだけ」という評価もあるが、国全体では多くの人が不幸を背負ってしまうため、政策として容認できるものではない。2.経済的負担の増加の懸念 市販薬は処方薬に比べて価格が高く設定されているため、経済的に困窮している人の負担が増える。医療アクセスが制限されることで健康格差が広がり、結果として社会全体の健康水準が低下する恐れもある。現在、国民の手取り収入の増加に向けてさまざまな議論が行われているが、病気で働くことができない場合は高額なOTC医薬品を購入することで自己負担が増えることにしかならない。また、乳幼児医療費助成制度がある地域では、医療費や処方薬費の自己負担は無料または少額であるが、高額なOTC薬を購入しなければならなくなると子育て世代の自己負担が増える。病気になった人に過度な自己負担を強いることは弱者にさらなる追い打ちを与える行為であり、社会保障というセーフティネットを棄損しかねないという観点からも賛同しがたい。3.薬の適正使用の懸念 日本は健康や医療に関するリテラシーが低いという調査結果がある。このような状況下で医師の診断なしに市販薬を選ぶことは、誤った薬の使用や相互作用による健康被害が広がるという危険性がある。とくに高齢者や基礎疾患を有する人は複数の薬剤を服用していることが多く、副作用のリスクも増大する。薬剤師の負担も増して医療現場への影響も懸念される。 最後に、宮川氏は「保険料を支払っているにもかかわらず保険が使えなくなり自己負担が増えることや、薬の適正使用が難しくなる仕組みは国民にとって望ましいことではない。財政が厳しいことは承知しているが、安全性や公平性が損なわれないように慎重な議論とバランスのとれた政策が求められる」とまとめた。

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日本における精神科入院に対する向精神薬頓服処方モニタリングプログラムの有用性

 向精神薬の頓服処方は、精神疾患に対する通常の薬物療法に加えて、興奮や不眠などの症状に対し、必要に応じて使用される。しかし、向精神薬頓服処方の有効性は、関連するエビデンスの質が低く、多剤併用につながる懸念がある。北里大学の斉藤 善貴氏らは、精神科入院患者を対象に向精神薬頓服処方モニタリングプログラムを導入し、プログラム実施前後の処方の変化をレトロスペクティブに調査した。BMC Psychiatry誌2025年1月17日号の報告。 対象は、2021年7月〜2023年6月の精神科入院患者389例。向精神薬頓服処方モニタリングプログラムは、2022年7月に実施した。対象患者を、モニタリング群および非モニタリング群(対照群)に分類した。人工統計学的データ(年齢、性別、診断)、入院前および退院時の定期処方、入院前および退院時の向精神薬頓服処方、入院中の向精神病薬頓服処方数を両群間で比較した。向精神薬処方に関するデータは、向精神薬のカテゴリ別に集計した。ボンフェローニ補正多重比較法を用いて、有意水準5%を0.00167に設定した。 主な結果は以下のとおり。・退院時の向精神薬頓服処方率は、モニタリング群で9.3%であり、対照群(28.1%)と比較し有意に低かった。・入院中に向精神薬頓服処方を行った患者の割合は、モニタリング群で29.8%であり、対照群(64.5%)よりも有意に低かった。・対照群では、入院前後の定期処方された向精神薬の薬剤数に有意な変化が認められなかった。・しかし、モニタリング群では、入院前の定期処方された向精神薬も薬剤数2.47±1.90から退院時には1.87±1.24へと有意な減少が認められた。 著者らは「向精神薬頓服処方モニタリングプログラムは、定期処方を含む向精神薬の多剤併用リスクを軽減させる可能性が示唆された。向精神薬の頓服処方を最適化し、多剤併用からの脱却を目指すためにも、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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GLP-1薬エキセナチド、パーキンソン病進行を抑制せず/Lancet

 パーキンソン病患者に対して、GLP-1受容体作動薬エキセナチドの安全性および忍容性は確認されたが、疾患修飾薬として支持するエビデンスは示されなかった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのNirosen Vijiaratnam氏らが、第III相の多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験の結果を報告した。GLP-1受容体作動薬は、in vitroおよびin vivoのパーキンソン病モデルにおいて神経栄養特性を有することが示され、疫学研究や小規模無作為化試験でパーキンソン病のリスクおよび進行を抑制する可能性が示唆されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「パーキンソン病ヘのGLP-1受容体作動薬使用を支持するエビデンスの確立には、より優れた標的結合を示す薬剤を用いた試験や、特定のサブグループを対象とした研究が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年2月4日号掲載の報告。対プラセボ試験、96週時点のMDS-UPDRS III-ドーパミン作動薬中止スコアを評価 研究グループは、英国の6つの研究病院で、GLP-1受容体作動薬エキセナチドのパーキンソン病に対する進行抑制効果を明らかにする目的で試験を行った。 パーキンソン病と診断され、ドーパミン治療を受けている時点でホーン・ヤール重症度分類が2.5以下であり、登録前に少なくとも4週間ドーパミン治療を受けていた25~80歳の患者を対象とした。被験者は、ホーン・ヤール重症度分類と研究施設で最小化されたウェブベースシステムにより、徐放性エキセナチド2mgを皮下ペン注射にて週1回96週間投与、視覚的に同一のプラセボ投与のいずれかを受けるよう、1対1の割合で無作為に割り付けられた。全患者、全研究施設の研究チームメンバーが、無作為割り付けを盲検化された。 主要アウトカムは運動障害疾患学会・パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)Part IIIスコアとし、96週時点でドーパミン作動薬を中止した患者にて、線形混合モデリング法を用いてITT集団を対象に解析した。エキセナチド群5.7ポイント、プラセボ群4.5ポイント、スコアが悪化 2020年1月23日~2022年4月23日に215例が適格性のスクリーニングを受け、194例がエキセナチド群(97例)またはプラセボ群(97例)に無作為化された。56例(29%)が女性で、138例(71%)が男性であった。 エキセナチド群92例およびプラセボ群96例が、少なくとも1回のフォローアップを受け解析に含まれた。 96週時点で、MDS-UPDRS III-ドーパミン作動薬中止スコアは、エキセナチド群で平均5.7ポイント(SD 11.2)、プラセボ群では同4.5ポイント(11.4)上昇(悪化)し、エキセナチドの効果に関する補正後係数は0.92(95%信頼区間:-1.56~3.39、p=0.47)であった。 少なくとも1件以上の重篤な有害事象を発現したのは、エキセナチド群9例(9%)に対しプラセボ群は11例(11%)であった。

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NRG1融合遺伝子陽性がんへのzenocutuzumab、とくに期待できるがん種は?/NEJM

 進行ニューレグリン1(NRG1)融合遺伝子陽性がんに対するzenocutuzumab(MCLA-128)の有効性および安全性を評価した第II相臨床試験の結果が、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのAlison M. Schram氏らeNRGy Investigatorsにより報告された。とくに非小細胞肺がん(NSCLC)および膵臓がんの患者において有効性が示され、有害事象の大部分は低Gradeであった。NRG1融合遺伝子は、複数の固形がんで確認されているリカレントながんドライバー遺伝子で、NRG1がヒト上皮成長因子受容体3(HER3)に結合し、HER2とのヘテロ二量体化と下流での腫瘍成長および増殖経路の活性化を引き起こす。zenocutuzumabは、HER2およびHER3を標的とする初の二重特異性抗体薬で、前臨床試験では複数の種類の腫瘍でzenocutuzumabの抗腫瘍活性が示されていた。NEJM誌2025年2月6日号掲載の報告。腫瘍の種類を問わない進行NRG1融合遺伝子陽性がん患者を対象に試験 研究グループは、腫瘍の種類を問わない進行NRG1融合遺伝子陽性がん患者を対象に、zenocutuzumabの有効性と安全性を評価する登録制の第II相臨床試験を行った。18歳以上、進行または転移固形腫瘍の診断を受け、試験担当医師の見解でそれら腫瘍種に対する標準治療を受けたもしくは標準治療の対象外であり、次世代シークエンス法によりNRG1融合遺伝子陽性と確認された患者を適格とした。 登録被験者は、2週間ごとにzenocutuzumab 750mgを静脈内投与された。主要評価項目は、試験担当医師の評価による全奏効(完全奏効[CR]または部分奏効[PR])とした。副次評価項目は、奏効期間、無増悪生存期間(PFS)、安全性などであった。30%で奏効、NSCLCでは29%、膵臓がんで42% 2019年9月25日~2024年1月31日(データカットオフ日)に、12種の腫瘍を有する204例が登録され治療を受けた。このうち、4例(乳がん2例、NSCLC 2例)は評価可能であったが測定可能病変を有していなかった。そのほか、データカットオフ日前の24週間未満に初回zenocutuzumabの投与を受けたなどの理由で、計43例が除外され、主要有効性集団には10種の腫瘍を有する161例(主にNSCLC[94例]と膵臓がん[36例])が含まれた。 測定可能病変を有し、データカットオフ日の24週間以前に登録された158例において、奏効が得られたのは30%(95%信頼区間[CI]:23~37)であった。奏効期間中央値は11.1ヵ月(95%CI:7.4~12.9)であり、データカットオフ日の時点で奏効例の19%が持続していた。 奏効は、NSCLC(27/93例、29%[95%CI:20~39])、膵臓がん(15/36例、42%[25~59])など複数種の腫瘍と、複数のNRG1融合パートナーで認められた。 PFS中央値は6.8ヵ月(95%CI:5.5~9.1)であった。 有害事象は、主にGrade1または2であった。試験担当医師判断によるzenocutuzumab関連有害事象で多くみられたのは、下痢(患者の18%)、倦怠感(12%)、悪心(11%)であった。注入に伴う反応(複合事象)は患者の14%に認められた。1例が治療関連有害事象によりzenocutuzumabを中止した。

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脂肪の多い筋肉は心疾患リスクを高める

 霜降り肉のステーキはグリル料理で高く評価されるが、人間の筋肉に霜降り肉のように脂肪が蓄積していると命取りになるかもしれない。新たな研究で、筋肉中に脂肪が多い人は、心臓に関連した健康問題で死亡するリスクが高いことが明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院心臓ストレス研究室のViviany Taqueti氏らによる研究で、詳細は「European Heart Journal」に1月20日掲載された。 この研究は、冠動脈疾患(CAD)の評価のために、2007年から2014年の間に同病院で全身PET/CT検査を用いた心臓ストレステストを受けた669人の患者(平均年齢63歳、女性70%)を対象にしたもの。PET/CT検査で左室駆出率(LVEF)、心筋血流量(MBF)、冠血流予備能(CFR)などを評価するとともに、CTで胸部の体組成として、皮下脂肪、骨格筋、筋肉間脂肪組織(IMAT)などを調べ、骨格筋内の脂肪の比率(fatty muscle fraction;FMF)を算出した。対象患者を中央値で5.8年にわたって追跡し、追跡期間中の主要心血管イベント(MACE、死亡または心筋梗塞か心不全による入院と定義)発生の有無を調べた。 その結果、筋肉中の脂肪が多い人は、心臓に血液を供給している微小血管に障害が生じる冠微小循環障害(coronary microvascular dysfunction;CMD)のリスクが有意に上昇することが明らかになった。具体的には、FMFが1%増加するごとに、CMD発症の指標であるCFRが2未満となるオッズが上昇していた(オッズ比1.02、95%信頼区間〔CI〕1.01〜1.04、P=0.04)。また、MACEリスクについても7%増加していた(ハザード比1.07、95%CI 1.04〜1.09、P<0.001)。さらに、CFRとIMATとの間には有意な交互作用が認められ、筋肉中の脂肪レベルが高くCMDを有する人は、特にMACEリスクが高いことも示された。一方、骨格筋量や皮下脂肪の多さは、MACEリスクの低下と関連することも明らかになった。 Taqueti氏は、「皮下脂肪と比べると、筋肉に蓄積した脂肪は炎症や糖代謝の変化を促し、それがインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームを引き起こす可能性がある」と説明。「その結果として、こうした慢性的な障害は、心臓に血液を供給するものを含めた血管や心筋そのものに損傷を引き起こす可能性がある」と付け加えた。 またTaqueti氏らは、「BMIが適正範囲の人でも、筋肉中に脂肪が蓄積している可能性はある」と指摘する。実際、IMATがMACEリスクを高めることは、BMIや他の既知の心臓リスク因子とは独立して認められたという。Taqueti氏は、「筋肉中の脂肪が心疾患のリスクを高めることが分かったことで、BMIに関係なくリスクが高い人を特定する新たな方法が得られる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 今回の研究の結果についてTaqueti氏らは、「BMIやウエスト周囲径のような指標は、あらゆる人の心臓病リスクを正確に評価するには適切ではないとする主張の高まりを支持する、さらなるエビデンスとなるものだ」と述べている。ただ、残念ながら、筋肉中の脂肪が多い人の心臓リスクを低下させる方法については、現時点では不明であるとTaqueti氏は言う。同氏は、「例えば、減量療法などの治療法が、体内の筋肉以外の部分の脂肪や除脂肪組織、最終的には心臓に与える影響と比較して、筋肉中の脂肪にどのような影響を与えるのかは分かっていない」と述べている。

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血圧測定は騒がしい場所でも問題なし

 もし血圧を測定した場所が騒がしい公共空間であったとしても、心配は無用のようだ。騒がしい場所で測定された血圧値の正確性は、静かな環境で測定された血圧値と同程度であることが新たな研究で示された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学分野のTammy Brady氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月28日掲載された。Brady氏は、「公共空間で測定された血圧値と静かな個室で測定された血圧値の差は極めて小さかった。このことから、公共空間は高血圧のスクリーニングの場として妥当であることが示唆された」と結論付けている。 Brady氏らは今回の研究で、騒音レベルの異なる環境で測定した血圧値を比較した。試験参加者は、米ボルチモアの歴史ある公設市場であるノースイースト・マーケットで血圧を測定する群、ノースイースト・マーケットで耳栓を装着して血圧を測定する群、および静かな個室で血圧を測定する群にランダムに割り付けられた。ノースイースト・マーケットは、常に人々が行き来し、話し声が絶えないにぎやかな場所であり、その騒音レベルは74dBに達していた。全米エイジング協議会(National Council on Aging;NCOA)によると、騒音レベルが70dB程度になると、難聴のリスクが高まるという。これに対し、個室の騒音レベルは37dBと、静かな図書館よりも低かった。 Brady氏らは、騒がしい公共空間で測定された血圧値は静かなプライベート空間で測定された血圧値と比べて高くなるが、騒がしい場所でも耳栓を使用することでその差は縮小するという仮説を立てていたという。 しかし、驚くべきことに、騒音は血圧の測定値にほとんど影響しないことが明らかになった。心臓が収縮して血液を送り出すときの血管内圧である収縮期血圧(SBP)の平均値は、個室で測定した人で128.9mmHg、ノースイースト・マーケットで測定した人で128.3mmHg、同じマーケットで耳栓を装着して測定した人で129.0mmHgであることが示された。同様に、心臓が拡張して血液を取り込んでいるときの血圧値である拡張期血圧(DBP)の平均値は、それぞれ74.2mmHg、75.9mmHg、75.7mmHgであった。 こうした結果を受けてBrady氏らは、「一般的な考え方とは大きく異なり、われわれの研究からは、騒がしい公共空間が血圧測定値に与える影響は小さく、臨床的に意味のある影響はないことが示された」と結論付けた。 Brady氏らによると、現行のガイドラインは、正確な血圧測定に関して、静かで気が散らないプライベートな環境で測定することの重要性を強調している。しかし、本研究結果から、ショッピングモールや公設市場、教会、スポーツ会場、スーパーマーケット、事業所といった場所で、従来よりも実用的で便利、かつ大規模な高血圧スクリーニングを実施できる可能性が見えてきた。 なお、先行研究で示されていた騒がしい環境での血圧値の高さには、騒音以外の要因が関与していた可能性がある。「例えば、職場での血圧測定は仕事中のストレスが影響した可能性や、薬局での血圧測定は、待ち時間での測定であったため急かされて行われた可能性などが考えられる」とBrady氏らは指摘している。

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10代の若者が自殺に向かう理由―未遂者対象解析

 10代の若者が自殺行動に至る理由やその手段などの特徴が明らかになった。日本医科大学付属病院精神神経科の成重竜一郎氏らの研究の結果であり、詳細は「BMC Psychiatry」に11月6日掲載された。学校や家庭の問題、および自閉スペクトラム症が、この世代の自殺リスクを押し上げている可能性があるという。 国内の自殺者数は近年減少傾向にあるが、10代の若者の自殺者数は変化が乏しく、依然としてこの世代の死因のトップを占めている。10代の自殺は他の世代とは異なる特徴を持つことが海外から報告されている。しかし日本人のデータは少なく詳細が不明。これを背景として成重氏らは、2010~2021年に同院救命救急センターに収容され、救命し得た症例を対象とする詳細な解析を行った。自殺企図の原因・動機や精神疾患の有無などは、2人以上の経験豊富な精神科医の討議により推定・診断した。 上記期間の自殺未遂による患者数は860人だった。このうち、10代の自殺未遂の特徴を探るという意図から、最も近い世代である20代の自殺未遂者を比較対照群とした。各群の患者数は、10代が59人(全体の6.9%)、20代が216人(同25.1%)だった。 まず、10代と20代の合計275人の全体としての特徴を見ると、女性が68.7%と多く、精神科の受診歴ありが74.2%、自傷行為の既往ありが61.8%だった。自殺行動の手段としては過量服薬が67.3%、高所からの飛び降りが17.8%などであり、認められた精神疾患・発達特性は、気分障害23.6%、パーソナリティー障害21.5%、適応障害17.1%、統合失調症と他の精神病性障害12.0%、自閉スペクトラム症9.8%などだった。 これらを10代と20代で比較した場合、性別の分布や自傷行為の既往には有意差がなかったが、精神科の受診歴は20代に多く(10代62.7%対20代77.3%)、高所からの飛び降りによる自殺企図(同順に28.8%対14.8%)や自閉スペクトラム症(28.8%対4.6%)は10代に多いといった有意差が認められた。 自殺企図の原因・動機については、学校の問題(40.7%対4.6%)、家庭の問題(39.0%対16.7%)、家庭の問題のうちの親子関係(30.5%対8.8%)などは10代が有意に多く、一方、恋愛上の問題(5.1%対32.4%)、仕事上の問題(3.4%対20.8%)、経済的な問題(0.0%対12.0%)は20代が有意に多かった。 次に、先行研究において10代の自殺に関連が深いと報告されている事柄を説明変数とするロジスティック回帰分析にて、10代の自殺企図に関連のある因子を検討。その結果、学校の問題(オッズ比〔OR〕14.338〔95%信頼区間5.557~36.998〕)、自閉スペクトラム症(OR7.297〔同2.541~20.956〕)、家庭の問題(OR2.860〔1.355~6.038〕)という三つの因子がそれぞれ独立して自殺企図に関連していることが示された。 著者らは、本研究が都心部の単一施設のデータに基づく解析であるため、日本の他の地域とは傾向が異なる可能性があることなどを留意点として挙げた上で、「10代の若者は、ある程度自分で環境を変えることのできる成人と比べ、学校や家庭などの容易に変え難い環境で発生する困難から逃れることができず、その葛藤が自殺企図につながる可能性を示唆している。10代の自殺防止対策には、これらの要因を考慮することが重要である」と述べている。 なお、学校や家庭の問題以外に、自閉スペクトラム症が10代の自殺企図に関連しているという結果については、「自分を取り巻く状況を変えることが難しい場合に、代替策として自身の特性を抑え込み、周囲に適応しようとする『社会的カモフラージュ』を強いられることで、精神的な負担がさらに増大しやすくなるためではないか」との考察が加えられている。

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2型糖尿病に対する新たな週1回インスリン製剤(解説:安孫子亜津子氏)

 本論文では、新たな週1回注射の基礎インスリンであるefsitoraの2型糖尿病に対する第III相試験(QWINT-2)の結果が報告された。 2型糖尿病に対する治療としては、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬の登場後、インスリン導入が遅くなったり、インスリン使用量が減量できる症例も増えてきている。ただし、わが国ではインスリン分泌能の低下した痩せ型の2型糖尿病で、インスリンを確実に補充することが必要な患者も多く認められる。とくに長期間SU薬を使用してきたような高齢者2型糖尿病に対するインスリン治療では、頻回注射や毎日の注射ができなくなる症例もあり、注射回数の減少は、わが国の糖尿病治療において必須の課題である。 今回の第III相試験においては、新たな週1回efsitoraが、基礎インスリンとしては効果持続時間の長いタイプであるデグルデクに比較して、52週までのHbA1cの変化量が非劣性であり、既存の基礎インスリンと同等の効果が証明された。また低血糖の頻度も多くはなってはおらず、むしろefsitora群で重症低血糖が認められなかった。さらに本試験ではCGMによる評価も行われており、興味深いことにefsitora群では70~180mg/dLのTime in Target Rangeが68.9%であり、非常に理想的な血糖変動にも近づけていることが認められている。 週1回と注射回数が少ないことは、インスリン治療のハードルを下げ、インスリンユーザーやその周囲の人たちの負担を軽くすることが期待できる。なおかつ、低血糖を増やさずに安全に目標血糖値を目指すことができる新たなインスリン製剤の使用が待ち遠しい限りである。

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第249回 国内の製薬企業、低分子創薬に強いはウソか真か?

現存する製薬企業の中で、世界で最も歴史の古い企業はどこか? この問いに即答できる人は相当なマニアである。答えは1668年創業の独・メルク(Merck KGaA)である。昨今の製品で言えば、がん治療薬の抗PD-L1抗体薬のアベルマブ(商品名:バベンチオ)、抗EGFR抗体のセツキシマブ(同:アービタックス)などを有する。では世界で2番目に歴史の古い製薬企業はどこか? 答えは日本の田辺三菱製薬である。国内の製薬企業は業界内での合併にはやや奥手と言われるが、その中でも田辺三菱製薬はずば抜けて数多くの会社が合併してできた製薬企業である。2007年に旧田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して直近の姿になったが、三菱ウェルファーマ自体が、1999年に三菱化学の医薬カンパニーと東京田辺製薬が合併し成立した三菱東京製薬と1998年に吉富製薬とミドリ十字が合併して成立したウェルファイドがさらに2001年に合併してできた企業である。近年、製薬企業が5社も合同したケースはこれ以外にはない1)。そしてこの中で中核とも言える旧田辺製薬の源流は、1678年(延宝6年)に大阪で創業した薬種問屋「田邊屋振出薬」である。メルクから10年遅れとは言え、当時は江戸幕府第4代将軍・徳川家綱の時代である。田辺三菱製薬の成立後は三菱ケミカルグループが親会社となり、2019年には三菱側が同社株式の公開買い付けを実施して完全子会社化していたが、2月7日、米国に本拠を置くプライベート・エクイティ・ファンドのベインキャピタル傘下の投資ファンドに約5,100億円で売却すると発表された。製薬企業を投資ファンドへ売却という点に驚いた人も多いかもしれないが、ベインキャピタル自体は、ヘルスケア分野ではかなり投資実績があるため、個人的にそれほど強烈な驚きはない。もっとも売却を発表した記者会見で荒木 謙氏(三菱ケミカルグループ執行役員 ポートフォリオ改革推進所管)は、国内外の製薬企業にもオファーを出したことを明らかにした。おそらくは売却金額でまとまらなかったと想像される。とは言え、今回決定したベインキャピタルへの売却金額も上場廃止直前の同社の時価総額の半分以下である。そもそも三菱ケミカルグループは中核の石油化学事業が苦境の状態であるため、その建て直しを急いだという側面もあるだろう。会見の席上では社長の筑本 学氏は何度も「5年前と比較して製薬事業の環境は変わった。モダリティ(低分子からバイオ医薬)の急速な変化で、化学事業とのシナジーは薄れた」旨の発言を繰り返した。後者のシナジーは三菱ケミカルグループ特有の問題だが、前者の低分子からバイオ医薬品への流れはすでに10年以上前からはっきりしていたもので、バイオ医薬品の研究開発で欧米の製薬企業に遅れを取った日本の製薬企業にほぼ共通する悩みでもある。2024年3月期決算ベースで見ると、おおむね国内順位の10位前後が自社開発のバイオ医薬品を製品群に有するか否かの境界になる。今回の田辺三菱製薬の場合はまさに自社開発のバイオ医薬品を有しない製薬企業群に属する。さてこうした「低分子医薬品からバイオ医薬品へ」という変化が語られる際に日本のバイオ医薬品開発の遅れに対するエクスキューズなのだろうが、よく「それでも日本の低分子医薬品の創薬レベルはいまだ高い」という主張がセットで語られることが少なくない。この主張は一定の納得感を感じる人も多いだろう。だが、本当にそうだろうか? 私個人は本音で言うと、この手の発言に異様なまでの不快感を覚える。たとえば、2023年の全世界での医療用医薬品の製品別売上高の上位20位のうち低分子医薬品は約3分の1。この数字はまさにモダリティの変化を如実に表しているが、ではその中に国内製薬企業がオリジネーターの製品はいくつあるのか? 答えはゼロである。また、2021年度のデータになるが、日本製薬工業協会の医薬産業政策研究所による「医薬品世界売上高上位300製品の上市状況の日米欧比較」2)を参照すればわかるが、この上位300品目のうち、日本企業がオリジネーターの製品は31製品、割合にして10.3%である。もちろんこの中には低分子医薬品だけでなく、バイオ医薬品も含まれている。このような現実を見れば、低分子医薬品ですらも日本の製薬企業が世界にプレゼンスを示せているとは言えない。この点については研究開発に携わる人からすれば反論はいくらでもあるだろう。だが、医薬品も市場に出て初めて患者の役に立ち、社会に貢献できるのであり、ビジネスとは結果がすべてでもある。結局、「それでも日本の低分子医薬品の創薬レベルはいまだ高い」は、もはやノスタルジーに過ぎないとしか思えないのである。このように書くと、「お前は日本の製薬企業を貶めるのか」とのお叱りも受けるだろう。だが、現状認識にバイアスを含んだままで、どうやってこれからの日本の製薬企業の進むべき未来像を描けるというのだろうか? 少なくとも私自身は「それでも…」の理屈はそろそろ終わりにしたほうが、日本の製薬業界にとってより建設的な一歩を踏み出せるのではないかと思っている。参考1)田辺三菱製薬史料館:田辺三菱製薬の歴史2)医薬産業政策研究所:医薬品世界売上高上位300製品の上市状況の日米欧比較

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2月14日 予防接種記念日【今日は何の日?】

【2月14日 予防接種記念日】〔由来〕1790(寛政2)年の今日、秋月藩(福岡県朝倉市)の藩医・緒方春朔が、初めて天然痘の人痘種痘を行い成功させたことから、「予防接種は秋月藩から始まった」キャンペーン推進協議会が制定した。関連コンテンツわが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」【最新!DI情報】インフルワクチン、小児の救急外来・入院を50%減少/CDC高齢者への2価RSVワクチン、入院/救急外来受診リスクを低減インフルワクチン接種と急性腎障害の関連~高齢者での検討ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

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METエクソン14スキッピングNSCLC治療、最近の知見【肺がんインタビュー】第109回

第109回 METエクソン14スキッピングNSCLC治療、最近の知見2024年、グマロンチニブが承認され、TKIが3剤となったMETエクソン14スキッピングNSCLC。大阪国際がんセンターの西野和美氏に、同病態の臨床経験と最近の知見を紹介いただいた。

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sepsis(敗血症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第20回

言葉の由来「敗血症」は英語で“sepsis”といいます。日本の臨床現場でもよく用いられるため、なじみのある人も多いかもしれません。この言葉は「腐敗、物質の分解」を意味する古代ギリシャ語の“sepsis(「e」はeにサーカムフレックス)”に由来するという説が一般的です。紀元前4世紀という大昔に、すでにヒポクラテスが“sepsis”を医学的な概念として用いていたことが記録に残っているといいます。ほかの医学用語と比べても、殊に歴史の深い言葉であることがわかります。それほどまでに歴史のある病名ですが、長年統一された定義があったわけではなく、地域や医師それぞれが思い思いの定義で使っている、という状況でした。ようやく1991年にロジャー・ボーンらがSCCM-ACCP(米国集中治療医学会-米国臨床薬学会)会議にて敗血症の統一的な定義をつくることを提唱し、「Sepsis」という国際的なガイドラインが策定されました。以降も改訂が繰り返されていますが、厳密な疾患の定義や診断基準が規定されています。併せて覚えよう! 周辺単語全身性炎症反応症候群systemic inflammatory response syndrome(SIRS)多臓器不全multiple organ failure抗菌薬antibiotics感染源管理source control敗血症性ショックseptic shockこの病気、英語で説明できますか?Sepsis is a life-threatening condition caused by the body's extreme immune response to an infection. It leads to systemic inflammation, organ dysfunction, and can progress to septic shock if not treated promptly.講師紹介

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