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うつ病の認知機能に対するセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニストの影響

 統合失調症に対するセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト(5-HT1A-PA)補助療法は、注意力/処理速度の改善と関連していることが報告されている。また、5-HT1A受容体は、気分障害の病態生理においても重要な役割を果たしていることが示唆されている。さらに、5-HT1A受容体への刺激が抗うつ効果を増強することを示す説得力のあるエビデンスも報告されている。国立精神・神経医療研究センターの山田 理沙氏らは、気分障害患者の認知機能改善に対する5-HT1A-PA補助療法の有効性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年6月号の報告。 1987〜2024年1月に公表された研究をPubMed、Cochrane Library、Web of Scienceデータベースより検索した。選択基準は、RCT、ヒトを対象、精神疾患(統合失調症/統合失調感情障害を除く)患者を対象、認知機能への影響を評価、英語論文とした。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした80件の研究のうち、3件が選択基準を満たした。・血管性うつ病対象が2件、うつ病対象が1件。・うつ病において、buspironeとメラトニンの併用療法は、buspirone単独またはプラセボと比較し、主観的な認知機能の改善に有効であった。・血管性うつ病における実行機能および言語流暢性の改善に対し、エスシタロプラムとタンドスピロン併用療法は、エスシタロプラム単独よりも有効であった。 著者らは「気分障害患者の認知機能に対して潜在的により強力な効果の可能性を検討するためにも、新規5-HT1A-PAを用いたさらなる研究が求められる」としている。

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「日本版敗血症診療ガイドライン2024」改訂のポイント、適切な抗菌薬選択の重要性

 2024年12月、日本集中治療医学会と日本救急医学会は合同で『日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG 2024)』1)を公開した。今回の改訂では、前版の2020年版から重要臨床課題(CQ)の数が118個から78個に絞り込まれ、より臨床現場での活用を意識した構成となっている。5月8~10日に開催された第99回日本感染症学会総会・学術講演会/第73回日本化学療法学会総会 合同学会にて、本ガイドライン特別委員会委員長を務めた志馬 伸朗氏(広島大学大学院 救急集中治療医学 教授)が、とくに感染症診療領域で臨床上重要と考えられる変更点および主要なポイントを解説した。 本ガイドラインは、日本語版は約150ページで構成され、前版と比較してページ数が約3分の2に削減され、内容がより集約された。迅速に必要な情報へアクセスできるよう配慮されている。英語版はJournal of Intensive Care誌2025年3月14日号に掲載された2)。作成手法にはGRADEシステムが採用され、エビデンスの確実性に基づいた推奨が提示されている。また、内容の普及と理解促進のため、スマートフォン用アプリケーションも提供されている3)。CQ1-1:敗血症の定義 敗血症の定義は、国際的なコンセンサスであるSepsis-3に基づき、「感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり、重篤な臓器障害が引き起こされる状態」とされている。CQ1-2:敗血症の診断と重症度 敗血症は、(1)感染症もしくは感染症の疑いがあり、かつ(2)SOFAスコアの合計2点以上の急上昇をもって診断する。敗血症性ショックは、上記の敗血症の基準に加え、適切な初期輸液療法にもかかわらず平均動脈圧65mmHg以上を維持するために血管収縮薬を必要とし、かつ血清乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)を超える状態とされている。敗血症性ショックの致死率が30%を超える重篤な病態であり、志馬氏は「敗血症とは診断名ではなく、感染症患者の救命のための迅速な重症度評価指標であり、何よりも大事なのは、評価して認識するだけでなく、早期の介入に直ちにつながらなければならない」と述べた。CQ1-3:一般病棟、ERで敗血症を早期発見する方法は? ICU以外の一般病棟や救急外来(ER)においては、quick SOFA(qSOFA:意識変容、呼吸数≧22/min、収縮期血圧≦100mmHg)を用いたスクリーニングツールが提唱されている。qSOFAは、敗血症そのものを診断する基準ではなく、2項目以上が該当する場合に敗血症の可能性を考慮し、SOFAスコアを用いた評価につなげる。初期治療バンドル:迅速かつ系統的な介入の指針 敗血症が疑われる場合、直ちに実施すべき一連の検査・治療が「初期治療ケアバンドル」(p.S1171)にまとめられている。主要な構成要素は以下のとおり。これらの介入を、敗血症の認識から数時間以内に完了させることが目標とされている。―――――・微生物検査:血液培養を2セット。感染巣(疑い)からの検体採取。・抗菌薬:適切な経験的抗菌薬投与。・初期蘇生:初期輸液(調整晶質液を推奨)。低血圧を伴う場合は、初期輸液と並行して早期にノルアドレナリン投与。乳酸値と心エコーを繰り返し測定。・感染巣対策:感染巣の探索と、同定後のコントロール。・ショックに対する追加投与薬剤:バソプレシン、ヒドロコルチゾン。―――――抗菌薬治療戦略に関する重要な変更点と推奨事項 敗血症における抗菌薬治療のポイントは、「迅速性と適切性が強く要求される」という点が他の感染症と異なる。本ガイドラインにおける抗菌薬治療の項では、いくつかの重要な変更点と推奨が提示されている。CQ2-2:敗血症に対する経験的抗菌薬は、敗血症認知後1時間以内を目標に投与開始するか? 本ガイドラインでは、「敗血症または敗血症性ショックと認知した後、抗菌薬は可及的早期に開始するが、必ずしも1時間以内という目標は用いないことを弱く推奨する (GRADE 2C)」とされている。志馬氏は、投与の迅速性のみを追求することで不適切な広域抗菌薬の使用が増加するリスクや、1時間以内投与の有効性に関するエビデンスの限界を指摘した。メタ解析からは、1~3時間程度のタイミングでの投与が良好な予後と関連する可能性も示唆された4)。CQ2-3:経験的抗菌薬はどのようにして選択するか? 本ガイドラインでは「疑わしい感染巣ごとに、患者背景、疫学や迅速微生物診断法に基づいて原因微生物を推定し、臓器移行性と耐性菌の可能性も考慮して選択する方法がある(background question:BQに対する情報提示)」とされている。志馬氏は「経験的治療では、かつては広域抗菌薬から始めるという傾向があったが、薬剤耐性(AMR)対策の観点からも、広域抗菌薬を漫然と使用するのではなく、標的への適切な抗菌薬選択を行うことで死亡率が低下する」と適切な抗菌薬投与の重要性を強調した5)。 経験的治療の選択には、「臓器を絞る、微生物疫学を考慮する、耐性菌リスクを考慮する、迅速検査を活用する」ことによって、より適切な治療につなげられるという。敗血症の原因感染臓器は、多い順に、呼吸器31%、腹腔内26%、尿路18%、骨軟部組織13%、心血管3%、その他8%となっている6)。耐性菌リスクとして、直近の抗菌薬暴露、耐性菌保菌、免疫抑制を考慮し、迅速診断ではグラム染色を活用する。ガイドラインのCQ2-1では「経験的抗菌薬を選択するうえで、グラム染色検査を利用することを弱く推奨する(GRADE 2C)」とされている。グラム染色により不要な抗MRSA薬や抗緑膿菌薬の使用を削減できる可能性が示された7)。これらのデータを基に、本ガイドラインでは「原因微生物別の標的治療薬」が一覧表で示されている(p.S1201-S1206)。腎機能低下時、初期の安易な抗菌薬減量を避ける 講演では、敗血症の急性期、とくに初回投与や投与開始初日においては、腎機能(eGFRなど)の数値のみに基づいて安易に抗菌薬を減量すべきではない、という考え方も示された。志馬氏は、抗菌薬(βラクタム系)の用量調整は少なくとも24時間以後でよいと述べ、初期の不適切な減量による治療効果減弱のリスクを指摘した8)。これは、敗血症初期における体液量の変動や腎機能評価の困難性を考慮したものだ(CQ2-6 BQ関連)。βラクタム系薬の持続投与または投与時間の延長 CQ2-7(SR1)では、βラクタム系抗菌薬に関して「持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)」とされている。これにより、死亡率低下や臨床的治癒率の向上が期待されると解説された9)。一方でCQ2-7(SR2)では、「グリコペプチド系抗菌薬治療において、持続投与または投与時間の延長を行わないことを弱く推奨する」とされている(GRADE 2C)。また、デエスカレーションは弱く推奨されている(GRADE 2C)(CQ2-9)。ただし、志馬氏は臨床でのデエスカレーションの達成率が約4割と低い現状に触れ、そもそも途中でデエスカレーションをしなくていいように、初期に適切な狭域の抗菌薬選択をすることも重要であることを再度強調した。治療期間の短縮化:7日間以内を原則とし、プロカルシトニンも活用 CQ2-12では、「比較的短期間(7日間以内)の抗菌薬治療を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C)」としている。RCTによると、敗血症においても多くの場合1週間以内の治療で生命予後は同等であり、耐性菌出現リスクを低減できることが示されている10~12)。 抗菌薬中止の判断材料として「プロカルシトニン(PCT)を指標とした抗菌薬治療の中止を行うことを弱く推奨する(GRADE 2A)」とし(CQ2-11)、PCT値の経時的変化(day5~7に0.5μg/L未満またはピーク値から80%減少した場合など)を指標にすることが提案されている13)。 本講演では、近年の国内および世界の敗血症の定義の変化を反映し、敗血症を診断名としてだけでなく、感染症の重症度を評価するための指標として捉えることの重要性が強調され、主に抗菌薬にフォーカスして解説された。志馬氏は「本ガイドラインのアプリも各施設で活用いただきたい」と述べ講演を終えた。■参考文献・参考サイト1)志馬 伸朗, ほか. 日本版敗血症診療ガイドライン2024. 日本集中治療医学会雑誌. 2024;31:S1165-S1313.2)Shime N, et al. J Intensive Care. 2025;13:15.3)日本集中治療学会. 「日本版敗血症診療ガイドライン2024 アプリ版」公開のお知らせ4)Rothrock SG, et al. Ann Emerg Med. 2020;76:427-441.5)Rhee C, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e202899.6)Umemura Y, et al. Int J Infect Dis. 2021;103:343-351.7)Yoshimura J, et al. JAMA Netw Open. 2022;5:e226136.8)Aldardeer NF, et al. Open Forum Infect Dis. 2024;11:ofae059.9)Dulhunty JM, et al. JAMA. 2024;332:629-637.10)Kubo K, et al. Infect Dis (Lond). 2022;54:213-223.11)Takahashi N, et al. J Intensive Care. 2022;10:49.12)The BALANCE Investigators, et al. N Engl J Med. 2025;392:1065-1078.13)Ito A, et al. Clin Chem Lab Med. 2022;61:407-411.

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基礎インスリン治療中の2型糖尿病、efsitoraはデグルデクに非劣性/Lancet

 基礎インスリンを投与中の2型糖尿病成人患者において、insulin efsitora alfa(efsitora)週1回投与はインスリン デグルデク(デグルデク)1日1回投与と比較し、HbA1c値の改善に関して非劣性であることが示された。米国・Scripps Whittier Diabetes InstituteのAthena Philis-Tsimikas氏らが、日本を含む9ヵ国127施設で実施された78週間の第III相無作為化非盲検treat-to-target非劣性試験「QWINT-3試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「2型糖尿病成人患者の治療において、efsitoraは週1回投与と注射回数が少なく、忍容性と有効性は良好であり、1日1回投与の基礎インスリンの代わりとなるインスリン製剤である」とまとめている。Lancet誌2025年6月28日号掲載の報告。26週時のHbA1c変化量に関し、efsitoraのデグルデクに対する非劣性を評価 QWINT-3試験の対象は、基礎インスリン製剤による安定した治療を受けているが食事インスリンによる治療は受けていない2型糖尿病の成人(18歳以上)患者で、スクリーニング時のHbA1c値が6.5~10.0%、インスリン以外の糖尿病治療薬を最大3種類まで投与されている患者とした。 研究グループは、適格患者をefsitora群またはデグルデク群に、2対1の割合に無作為に割り付けた。 efsitora群では、空腹時血糖値が120mg/dL以下の患者には通常の1日基礎インスリン量の7倍(10単位未満は四捨五入)のefsitora週1回投与に切り替え、空腹時血糖値が120mg/dL超の患者には、初回のみ、1日基礎インスリン量×7の3倍量のefsitoraを投与した後、efsitora週1回投与に切り替えた。 両群とも、最初の12週間は、前週の直近3回の空腹時血糖値の中央値と低血糖エピソードを考慮して目標空腹時血糖値80~120mg/dLを達成するよう毎週用量調整を行った。その後は78週目まで少なくとも毎月、用量評価を行った。 主要エンドポイントは、26週時のHbA1c値のベースラインからの変化量の非劣性で、非劣性マージンは、最小二乗平均変化量の群間差の95%信頼区間(CI)の上限が0.4%とした。 重要な副次エンドポイントは、efsitoraのデグルデクに対する優越性で、26週時のHbA1c値のベースラインからの変化量、78週目までの患者報告による臨床的に重要(レベル2[<54mg/dL])または重症(レベル3[治療のために介助を必要とする])の夜間低血糖の複合、22~26週の持続血糖モニタリング(CGM)測定血糖値70~180mg/dL内の時間とした。最小二乗平均変化量は-0.81%ポイントvs.-0.72%ポイント、群間差-0.09%ポイント 2022年3月8日~2024年5月15日に1,229例が登録され、適格基準を満たした986例が無作為化された(efsitora群655例、デグルデク群331例)。全例が少なくとも1回の試験薬を投与された。患者背景は、女性431例(44%)、男性555例(56%)、年齢中央値は62.0歳(四分位範囲:54.0~68.0)、ベースラインのBMI中央値は29.65(26.32~34.12)、HbA1c中央値7.7%(7.1~8.4)で、871例(88%)が78週間の治療を完了した。 26週時のHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、efsitora群-0.81%ポイント(標準誤差0.03)、デグルデク群-0.72%ポイント(標準誤差0.04)であり、efsitoraのデグルデクに対する非劣性が検証された(推定群間差:-0.09%ポイント、95%CI:-0.19~0.01)。 臨床的に重要または重症の低血糖イベントは、efsitora群で268例に754件(41%、発現頻度0.84件/人年)、デグルデク群で123例に346件(37%、発現頻度0.74件/人年)認められ、推定発生率比は1.14(95%CI:0.83~1.56、p=0.43)と同程度であった。 重篤な有害事象は、efsitora群103例(16%、治療関連7例[1%])、デグルデク群37例(11%、治療関連1例[<1%])に発現し、両群とも最も多かったのは主に心血管関連事象であった(約1%)。 試験中に9例(efsitora群7例、デグルデク群2例)が死亡したが、いずれも試験治療とは関連していなかった。

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骨盤臓器脱へのペッサリー、膣エストロゲンクリームで継続率に差は?/BMJ

 症候性骨盤臓器脱患者において、リングペッサリーのエストロゲンクリーム使用は満足度の高いペッサリー使用継続を改善しなかったが、一般的な有害事象のリスク低下と関連している可能性があることが示された。中国・Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのYing Zhou氏らが、同国5地域8省の12施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果を報告した。骨盤臓器脱は閉経後女性によく見られ、生活の質に影響を与える。ペッサリーの使用は、症候性骨盤臓器脱に対する第1選択であるが、使用に伴う不満や合併症により、多くの女性が使用を中止している。膣エストロゲンがペッサリーの使用に及ぼす影響を調査した研究は限られており、症例数が少なく方法論的な問題があるため、エビデンスの質は低かった。結果を踏まえて著者は、「膣エストロゲンの使用に関する臨床的判断は、その有益性とリスク、そして患者の個人的な希望を考慮する必要がある」とまとめている。BMJ誌2025年6月27日号掲載の報告。ペッサリー使用の継続と患者報告による改善をプラセボと比較 研究グループは、ステージ2以上の症候性骨盤臓器脱を有し、リングペッサリーの装着に成功した閉経後女性を、エストロゲン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1gの結合型エストロゲンクリーム(0.625mg/g)またはプラセボクリームを、最初の2週間は毎晩、その後12ヵ月間は週2回、膣内に塗布してもらった。 患者または介護者には、ペッサリーのケア方法(就寝時に取り外し、翌朝に再挿入すること)について週1回以上指導を行うとともに、1年間3ヵ月ごとの追跡調査(対面、対面が困難な場合は電話)を行った。 主要アウトカムは、ペッサリー使用の継続と12ヵ月時の患者報告による改善の複合で、ペッサリー使用の継続は週5日間以上使用していること、患者報告による改善はPatient Global Impression of Improvement(PGI-I)質問票における「非常によくなった」または「かなりよくなった」と定義した。副次アウトカムは、患者報告による骨盤底症状および有害事象とした。 すべての解析は、無作為化され少なくとも1回追跡調査を受けたすべての患者(修正ITT集団)を対象とした。エストロゲンクリーム使用も有意な改善なし 2020年5月~2023年6月に420例が無作為化され、うち411例が修正ITT解析に組み入れられた(エストロゲン群208例、プラセボ群203例)。平均年齢は66歳であった。 主要複合アウトカムは、エストロゲン群181/208例(87.0%)、プラセボ群176/203例(86.7%)に認められ、両群で有意差はなかった(リスク群間差:0.3%、95%信頼区間[CI]:-6.2~6.9、p=0.92)。 最も多く報告された有害事象である過剰な膣分泌物(エストロゲン群34/208例[16.3%]vs.プラセボ群52/203例[25.6%]、リスク群間差:-9.3%[95%CI:-17.1~-1.4])のほか、膣びらんまたは潰瘍(4/208例[1.9%]vs.14/203例[6.9%]、-5.0%[-8.9~-1.0])、膣出血(3/208例[1.4%]vs.13/203例[6.4%]、-5.0%[-8.7~-1.2])はエストロゲン群で少なかった。

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週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

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PFASが子どもの血圧上昇と関連

 ほとんど分解されず環境中に長期間存在し続けるため、「永遠の化学物質」と呼ばれているPFAS(ペルフルオロアルキル化合物やポリフルオロアルキル化合物)への胎児期の曝露と、出生後の小児期から思春期の血圧上昇との関連を示すデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学大学院のZeyu Li氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に6月12日掲載された。同氏は、「PFASが及ぼす潜在的な有害性は、生後何年も経過してから初めて明らかになる可能性がある」と述べている。 米国環境保護庁(EPA)は、PFASは飲料水のほか、ファストフードの包装、テフロン加工の調理器具、家具や衣類、化粧品など、幅広い製品に含まれているとしている。また環境研究グループの調査によると、PFASはそれを含む物を摂取したり呼吸で吸い込んだりすることで体内に取り込まれ、99%の米国人の体内に存在しているという。 Li氏らの研究では、子どもを出産後24~72時間に母親から採取した血液中のPFAS濃度を測定。その値と、子どもの医療記録から把握された血圧との関連を検討した。3歳以上13歳未満では血圧が同年齢の子どもの90パーセンタイル以上、13歳以上18歳未満では120/80mmHg以上の場合に「血圧高値」と定義した。 1,094人の子どもを中央値12年(四分位範囲9~15年)追跡し、1万3,404件のデータを解析した結果、母親のPFAS濃度が高いほど子どもの収縮期血圧が高いという関連が浮かび上がった。また、これらの関連性は、子どもの性別や発達段階などにより異なっていた。例えば男子では、母親の血液中のペルフルオロヘプタンスルホン酸という物質の濃度が2倍になるごとに、6~12歳で血圧高値のリスクが9%、13~18歳では17%高かった。 Li氏は、「本研究の報告が、より多くの研究者が思春期以降の子どもを追跡調査するきっかけになることを期待している。過去の研究は追跡期間が幼児期または思春期前で終わっているものが少なくなかった。それに対してわれわれの研究は、胎児期のPFAS曝露による健康への影響が、思春期以降に初めて現れる可能性があることを示している」と話している。なお、研究者らは、本研究は観察研究であるため、PFASと子どもの血圧上昇との直接的な因果関係について述べることはできず、あくまで関連性を示すのみであることを指摘している。 PFASは既に環境中に豊富に存在している。そのため残念ながら、母親が努力しても曝露を避けることが難しい。なるべくPFASフリーと表示されている製品を使ったり、水道水をろ過した上で利用したりするといったことで曝露量を抑えることはできるものの、研究者らは、根本的な解決のために規制が必要だと考えている。 論文の上席著者である米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのMingyu Zhang氏は、「特に妊娠中や小児期のPFAS曝露を減らすために、一般消費財に使われるPFASを段階的に制限していき、水道水のモニタリングと規制を強化するという政策レベルの行動が必要だ。これらは個人の努力で解決できる問題ではない」としている。

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マルチターゲット便DNA検査は免疫学的便潜血検査よりも大腸がん発見のコストが高い

 マルチターゲット便DNA検査(MSDT)および次世代MSDT(N-G MSDT)を用いたスクリーニングは、免疫学的便潜血検査(FIT)と比較して、発見できるAdvanced neoplasiaや早期大腸がん(CRC)1例当たりのコストが高いというリサーチレターが、「Annals of Internal Medicine」に5月13日掲載された。 ドイツがん研究センターのHermann Brenner氏らは、MSDTがFITと比較して高感度であり、米国でCRCスクリーニングに使用される機会が増えていることに着目し、2件の研究の結果に基づいて、FIT、MSDT、N-G MSDTを用いたCRCスクリーニングにおいて発見できる標的所見1件当たりのコストを比較検討した。 その結果、便検査で陽性となった場合の大腸内視鏡検査実施率を60%と仮定した場合、発見されるAdvanced neoplasiaまたは早期CRC1例当たりのスクリーニングコストは、MSDTおよびN-G MSDTを用いたスクリーニングで、FITを用いたスクリーニングよりも約7~9倍高くなることが分かった。FITを用いたスクリーニングと比較して、MSDTあるいはN-G MSDTにより追加で早期発見されるCRC1例当たりのコストはいずれも70万ドルを超え、これはFITで発見されるCRC1例当たりの約40倍および30倍に相当した。MSDTおよびN-G MSDTの1回当たりのコストが100ドル(現在のコストの20%未満)に引き下げられたとしても、MSDTまたはN-G MSDTにより追加で発見されるCRCまたはAdvanced neoplasia1例当たりのコストは、依然としてFITより何倍も高くなると考えられる。 著者らは、「今回の結果は、米国におけるFIT使用率の低下とMSDT使用率の上昇という現在の傾向を逆転させることができれば、得られるものが非常に大きい可能性を示している」と述べている。

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その痛み、お風呂で温まるとどうなりますか?【漢方カンファレンス2】第1回

その痛み、お風呂で温まるとどうなりますか?以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】80代男性主訴左顔面の痛み既往高血圧、腰部脊柱管狭窄症、79歳:大腸がん手術病歴X年7月、左三叉神経領域の帯状疱疹で2週間の入院加療を行った。退院後、NSAIDs・鎮痛補助薬などを服用したがピリピリとした痛みが持続。9月上旬、胃もたれがひどくなり食事量が減少、また両下肢痛が悪化して歩行困難になったと家族から往診依頼があった。現症身長162cm、体重54kg。体温35.2℃、血圧142/62mmHg、脈拍60回/分整。顔面に皮疹・発赤なし。両下肢浮腫あり・下肢の筋力低下あり。経過初診時「???(1)」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2週後痛みは半分程度まで軽減した。まだ体が冷える。「???(2)」エキス3包 分3を併用開始。(解答は本ページ下部をチェック!)4週後痛みは30%程度で、NSAIDsは中止できた。下肢浮腫が軽減してリハビリもできている。胃の調子がよくなって食欲も出てきた。6週後痛みはほぼなくなった。杖歩行ができるようになった。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイント(漢方カンファレンス第1回参照)に基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 寒がりです。 手足や腰、下肢が冷えます。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 冷房は苦手ですか? 入浴は長く湯船に浸かります。 冷房は顔が痛くなるので使っていません。 入浴で温まると顔の痛みはどうなりますか? お風呂に入った後は少し楽になります。 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きませんか? のどは渇きません。 温かい飲み物をよく飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃腸は弱いですか? だいたい1日1L程度です。 胃もたれがして食欲がありません。 もともと胃は弱いです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗は少しかきます。 尿は1日7〜8回です。 夜は2〜3回トイレに行きます。 便は毎日出ます。 下痢はありません。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 昼食後に眠くなりませんか? 足がむくみませんか? 足がつることはありませんか? 皮膚が乾燥してかゆくありませんか? 顔と足の痛みで眠れないことがあります。 昼食後の眠気はありません。 足がむくんで、重だるいです。 足はつりません。 皮膚のかゆみ、乾燥はありません。 ほかに困っている症状はありますか? 訪問リハビリも受けているのですが 足がふらついてなかなか思うように動けずに困っています。 【診察】顔色はやや不良。脈診では沈・弱の脈。また、舌は湿潤した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり、腹診では腹力は軟弱、腹直筋の緊張、小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。下肢には浮腫があり、触診で冷感があった。カンファレンス 漢方診療で最初に考えることは何でしたか? 最初に寒が主体の病態の陰証か? 熱が主体の病態の陽証か? を考えるのでした。「寒がりですか? 暑がりですか?」、「体が冷えますか?」と最初に問診します。 よいね! 漢方診療は「陰陽の判断で始まる」といってよいのだ。とくに陰証である寒(=冷え)を見逃さないように心がけることが大事だよ。実際の臨床では、寒がり、厚着の傾向、温かい湯茶を好む、長湯ができる、冷房が嫌い、症状が温まると改善する・冷えると悪化するなどの問診や、脈診が沈であったなどの診察により総合的に判断するんだ(陰証については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 今回の症例は、寒がり、冷えの自覚、入浴時間が長い、冷房は嫌いなど寒(冷え)が主体の陰証を示唆する特徴が揃っていますね。 そうですね。さらに痛みが主訴の症例ではとくに、「痛みは入浴で温まると楽になりますか?」という質問が有用です。今回の症例でも入浴で温まると軽減するということから、冷えの関与を考えます。 逆に冷えると悪化するという情報も問診できるとよいね。具体的には、気温が低い日に増悪するとか、スーパーの冷凍食品売り場に行くと痛みが悪化するとか、具体的な問診ができるといいね。本症例でも冷房で悪化するという発言があるね。 また実際に触診して他覚的な冷感を確認します。本症例でも下肢に冷感があることも陰証と考える所見です。 帯状疱疹では、急性期は局所に熱や水疱があって、慢性化すると局所の反応は乏しくなるけど、痛みが持続するという経過は、熱から寒の病態へ、つまり陽証から陰証への流れがわかりやすい疾患といえるね。 下肢の足首から前脛骨部を触診して、こちらの体温が患者に吸われていくようにひんやりと感じる場合は、熱薬である附子(ぶし)を含む漢方薬の適応です。附子はトリカブトの根を減毒処理したもので、温める作用と鎮痛作用を併せもつので、今回の症例でも大事な生薬です。 それでは漢方診療のポイント(2)の虚実の判断はどうでしょう。虚実は、いわば「闘病反応の程度」でした。 虚実は、脈やお腹の反発力などから判断するのでしたね。脈は弱、腹力も軟弱とあるので闘病反応が弱い虚証です。 そうだね。顔面の患部の局所反応も乏しいね。さらにNSAIDsによる胃腸障害や歩行困難から下肢の筋力低下が疑われ、これらも虚証と考えられる所見だね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 食欲不振は気虚、下肢浮腫は水毒と考えます。ほかには舌下静脈の怒張は瘀血です。 気血水の異常をよく理解できているね。 夜に尿2〜3回と夜間頻尿があり、下肢の冷えや腹部所見で下腹部の抵抗が減弱した小腹不仁があります。これらは加齢症状と考える腎虚でしたね。今回の症例をまとめましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、手足、腰、下肢が冷える、下肢の冷感→陰証(2)虚実はどうか脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える食欲不振→気虚、下肢浮腫→水毒、舌下静脈の怒張→瘀血、夜間頻尿、小腹不仁→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む神経痛、胃腸障害解答・解説【解答】本症例は、冷えを伴う体表面の痛みやしびれに用いる桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)で治療をしました。さらに再診で、真武湯(しんぶとう)を併用しました。【解説】桂枝加朮附湯は、冷えを伴う体表面の痛みやしびれ、具体的には関節痛や神経痛、筋肉のこわばりなどに用いられる漢方薬です。桂枝加朮附湯は太陽病・虚証に用いる桂枝湯(けいしとう)に朮(じゅつ)と附子が加わった漢方薬です。附子が含まれることから適応は陰証で、六病位では太陰病〜少陰病に分類されます。朮には利水作用があり、朮と附子の組み合わせで温める作用、利水作用、鎮痛作用があります。慢性化した痛みは、寒い日や雨の日に悪化する、こわばりを伴うなど漢方医学的には冷えと水毒の関与することが多くなり、朮と附子を加えて治療します。桂枝加朮附湯には胃腸に負担がかかる生薬が含まれず、NSAIDsで胃腸障害が出る場合にもよい適応で、鎮痛薬を減量・中止できることもあります。ヘバーデン結節などの手指変形性関節症において桂枝加朮附湯の症例集積研究があり、とくに四肢末梢の冷えが強い冷え症の症例ではすべての症例(11例)で手指足趾の先端が暖まり、疼痛の改善がみられたと報告されています1)。なお、再診時に冷えや痛みが残存していたことから、桂枝加朮附湯の治療効果を高めることを目的として真武湯を併用しています。真武湯にも朮と附子が含まれ、さらに利水作用のある茯苓(ぶくりょう)が含まれています。真武湯を併用すると、この茯苓、朮、附子の組み合わせで温める作用、利水作用、鎮痛作用を高めることができます。桂枝加朮附湯のほかに桂枝湯に茯苓、朮、附子の加わった桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)という漢方薬もあります。今回のポイント「陰証」の解説漢方治療は陰陽の判断が出発点です。陰陽は生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式で、熱が主体の病態を「陽証」、寒が主体の病態を「陰証」の2型で捉えます。寒≒陰証と考えてよいですが、非活動性、沈降性などの特徴もあります。基本的には多くの病気は陽証で始まり、陰証に向かって進みます。陰証では病因に対して体力が劣り、闘病反応が弱い時期になります。そのため、虚弱者、高齢者、慢性疾患など、長期にわたる疾患では陰証になることが多くなります。実際の臨床では、寒がり、厚着の傾向、温かい湯茶を好む、長湯ができる、冷房が嫌い、症状が温まると改善する・冷えると悪化するなどの問診や、脈診が沈であったなどの診察により総合的に判断します。わずかな冷えを見逃さないように注意深く問診・診察をする必要があります。陽証と陰証はさらに3つずつの病期に分類され、陰証では、太陰病、少陰病、厥陰病に分かれます。さらに一見陽証にみえても、倦怠感が強い、治りが悪いといった場合は陰証が隠れていることもあります。今回の鑑別処方現代医学の臨床推論で鑑別診断を挙げるように、漢方治療でもその鑑別処方を挙げることができるようになると漢方治療が上達します。本連載では症例ごとに鑑別処方の解説をします。葛根加朮附湯は主に上半身の冷えを伴う痛みに用います。桂芍知母湯(けいしゃくちもとう)は冷えと関節の変形が強い場合に用います。附子とともに麻黄が含まれ、実証寄りの漢方薬になります。さらに知母(ちも)には関節のこもった熱を冷ましながら潤すという作用があります。関節リウマチで体全体は冷える傾向にあるものの、関節には局所の熱感がある場合や、関節変形の強い変形性膝関節症やヘバーデン結節などに適応になります。八味地黄丸(はちみじおうがん)は加齢に伴うさまざまな症状を腎虚として、腰以下の冷えと痛み、しびれや夜間頻尿がある場合に用います。本症例も高齢者で下肢の冷えや痛みなどの腎虚の所見があるため鑑別に挙がりますが、胃弱の人には適さないため、胃もたれがある初診時に処方することはないでしょう。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を用いたいような気血両虚があって、さらに多関節痛がある場合に用います。気血両虚に用いる十全大補湯に附子+鎮痛作用のある生薬が加わった処方で、全身倦怠感や皮膚枯燥のある痛みの症例に用います。本症例でさらに痛みが遷延した場合は大防風湯を使用する可能性があるでしょう。参考文献1)大塚稔. 日東医誌. 2021;72:239-243.

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老害になっちまった!【Dr. 中島の 新・徒然草】(588)

五百八十八の段 老害になっちまった!暑いですね。先日、日向に停めていた車に乗り込んだら、ダッシュボードに表示される気温が40度になっていました。もう車内は蒸し風呂状態で汗が噴出!エンジンをかけるとともにクーラーを入れたのはもちろん、窓のほうも全開にして、できるだけ熱気を入れ換えました。7月上旬でこの暑さなら、この先は一体どうなってしまうのでしょうか。さて、今回は自分が「老害」になってしまった、というお話です。2024年10月1日より郵便はがきが85円に値上げされ、1枚書くたびに旧63円はがきに22円分の切手を貼らなくてはなりません。もう面倒で仕方ないので、思い切って手持ちの旧はがき45枚をすべて新85円はがきに交換してもらうことにしました。旧はがき45枚の内訳は、62円はがきが3枚と63円はがきが42枚の、合計45枚です。グーグル検索をすると、はがきの交換手数料は1枚につき6円で、郵便切手で支払うこともできるのだとか。郵便局のホームページにも、確かに100枚未満の場合は1枚につき手数料が6円とあります。ということは、これまでにたまった種々雑多な切手も、同時に整理するチャンス!で、私は62円はがき3枚と63円はがき42枚分を85円はがき45枚分に交換すべく、手数料+差額の合計1,263円分の切手を握りしめて近くの郵便局に出掛けました。詳しい人なら、この時点で私の勘違いに気付いていることと思います。が、私を含めて詳しくない人のほうが多いと思うので、もう少しお付き合い願います。以下は郵便局の窓口での局員とのやり取りです。中島「旧はがきを新はがきに交換してもらいに来ました」局員「交換手数料は1枚6円ですけれども……」中島「わかりました。それは切手で支払うこともできるわけですよね」局員「ええ」中島「じゃあ、それでお願いします」局員のオバチャンは紙に書きながら、にわかには理解できない計算を始めました。62円×3枚=186円63円×42枚=2,646円6円×45枚=270円局員「270円切手はお持ちですか?」「何で270円なの、1,263円じゃないわけ?」と思いつつ、とりあえず270円切手を局員に渡しました。局員「どれに交換しますか?」そう言いつつ、局員はレターパックなどの見本が印刷されている紙を私に見せます。「さっき、新しいはがきって言ったじゃん」と思いつつも「85円のはがきでお願いします」と私は答えました。すると局員は、何やら計算した後に「33枚」という数字を見せながら、こう私に言ったのです。局員「それでは差額の27円分を切手でお渡しすることになりますが」中島「??」何を言ってるんだ!その33とか27とかいう数字はどこから出てきたのか?もう私の頭の中は混乱の極みです。中島「えっと、45枚の旧はがきを45枚の新はがきに交換してもらうための差額って、この場合は1,000円弱ですよね。そいつを切手で支払おうと思って準備してきたのですけど」最初に270円の切手を渡したので、もう正確な差額がわからなくなりました。仕方なく「1,000円弱」という言い方をしたのですが、郵便局のルールは私の想像を超えていたのです。局員「あの、手数料のほうは切手で支払っていただくことができるのですが、差額の支払いは現金のみになります」中島「ええーっ!」切手というのは、郵便局内における現金じゃなかったのか?ちょうど百貨店における商品券、アメリカにおける米ドルみたいなものだと思っていた私は仰天しました。さらに私が新はがき45枚に交換するつもりだったのが、局員の提案は33枚の新はがき+27円分の切手だったのです。提案というより、唯一の選択肢みたいな位置付けでした。とはいえ、27円切手なんぞ渡されても使いようがありません。そういった切手があるのかどうか知りませんが。中島「ちょっと待ってください。だったら85円はがき34枚だったらどうなるのですか?」局員「その場合は……58円を現金でお支払いいただくことになります」中島「じゃあ、そっちのほうでお願いします」というわけで、最終的には以下のとおりになりました。持ち込んだ旧はがき:62円はがき3枚+63円はがき42枚=2,832円分受け取った新はがき:85円はがき34枚=2,890円分差額:2,890円-2,832円=58円(現金で支払い)手数料:6円×旧はがき45枚分=270円(郵便切手で支払い)これで合っていますかね?それにしても以下のことは、郵便局のホームページをちょっと見ただけでは理解困難です。手数料は切手で支払えるが、差額の支払いは現金のみ持ち込むはがきの枚数と受け取るはがきの枚数は同じでなくてもよい後でホームページを読み直しても、よくわかりませんでした。幸いなことに、私自身は郵便局では終始紳士的な態度で話をしたつもりです。もし感情的になっていたりしたら、これ以上にカッコ悪いことはありません。とはいえ、噛み合わない説明を何度もする羽目になった郵便局員にとって、私は十分に老害だったのかも……今回のように想定外の展開になった時に、つい大きな声を出してしまう高齢者がいたとしても不思議ではない気がします。こうして暴走老人は出来てしまう、みたいなものですね。ということで、自分が老害にならないよう注意しなくては、と思った次第です。読者の皆さまもぜひお気を付けください。最後に1句暑すぎて 頭も心も 過熱した

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Capnocytophaga spp.【1分間で学べる感染症】第29回

画像を拡大するTake home messageCapnocytophaga spp.は、脾機能低下患者において敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことのある重要な起因菌である。今回は、とくに脾機能低下患者において重篤な病態を引き起こす可能性のあるCapnocytophaga spp.(カプノサイトファーガ属細菌)に関して一緒に学んでいきましょう。種類Capnocytophaga属にはC. canimorsus、C. sputigena、C. cynodegmiなどが含まれ、全部で9種類存在します。これらは動物由来(zoonotic)とヒト口腔内常在菌(human-oral associated)の2つに分類されます。C. canimorsusはイヌやネコの咬傷によってヒトに感染することが多い一方で、C. gingivalis、C. sputigenaはヒトの口腔内に存在します。微生物学的特徴Capnocytophaga spp.は通性嫌気性のグラム陰性桿菌であり、発育が遅いのが特徴です。また、グラム染色では特徴的な紡錘型を示すとされています。さらに、莢膜を持つことは微生物学的にも臨床上も重要なキーワードです。莢膜を持つことが、後から述べる解剖学的または機能的無脾症患者において重篤な病態を引き起こす理由となっています。リスク因子Capnocytophaga spp.による感染症のリスク因子として、解剖学的または機能的無脾症、血液悪性腫瘍、過度のアルコール摂取、肝硬変が挙げられます。無脾症患者や肝疾患のある患者は、脾臓が担う莢膜菌に対するオプソニン化と貪食促進の欠如により感染症が重症化しやすいため、早期の診断と治療が求められます。臨床像Capnocytophaga spp.は、動物由来であればイヌやネコなどの動物咬傷による皮膚軟部組織感染、また重篤な場合は敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことがあります。一方、ヒト口腔内常在菌によるものでは、血液悪性腫瘍患者における好中球減少性発熱やカテーテル関連感染症などを来します。それぞれのリスクに応じて、これらを鑑別疾患に挙げる必要があります。薬剤感受性Capnocytophaga spp.は一般的にβ-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害薬に感受性を示します。具体的には、アンピシリン/スルバクタムやタゾバクタム/ピペラシリン、また、セフトリアキソン、カルバペネム系抗菌薬も有効です。一方で、フルオロキノロン系抗菌薬に対しては50%の耐性を示すことが報告されているため、治療選択の際には注意が必要です。上記のリスクを有する患者で動物咬傷の病歴があったり、血液悪性腫瘍患者で血液培養からグラム陰性桿菌を見たりした際には鑑別疾患の1つとしてCapnocytophaga spp.による菌血症を挙げ、治療を遅らせないことが重要です。1)Jolivet-Gougeon A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2000;44:3186-3188.2)Butler T. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015;34:1271-1280.3)Chesdachai S, et al. Open Forum Infect Dis. 2021;8:ofab175.

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ASCO2025 レポート 乳がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日にかけて開催されたASCO2025は、”Driving Knowledge to Action:Building a Better Future”というテーマで実施された。昨年つらい思いをした円安も若干改善され(1ドル145円前後)、航空運賃の高騰は変わらないものの、若干参加しやすくなったと言えるだろうか(とはいえ、ハンバーガーとコーラで2,500円はつらい…)。乳がん領域では明日からの臨床が変わる演題が多数公表された。トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の試験は昨年に引き続き、Plenary session押し出しの早朝専用セッションが設けられていた。本稿では、日常臨床を変える4演題と、日本からの発表の1演題を概説する。SERENA-6試験ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんでは、内分泌耐性をどう乗り越えるかが重要な話題となっており、ASCO2025でも複数の演題が発表された。SERENA-6試験は、HR陽性HER2陰性進行乳がんにおいて、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(CDK4/6i)治療中に循環腫瘍DNA(ctDNA)で検出されたESR1変異を有する患者を対象とした盲検化ランダム化第III相試験である。この試験では、画像上の病勢進行(PD)前にAIを経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantに切り替えることで無増悪生存期間(PFS)の改善が得られるかを検証した。主要評価項目である主治医評価によるPFSは、16.0ヵ月vs.9.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.44(95%信頼区間[CI]:0.31~0.60、p<0.00001)とcamizestrant群で有意に良好であった。副次評価項目のPFS2(次治療でPDとなるまでの期間)についてもHR:0.52(95%CI:0.33~0.81、p=0.0038)とcamizestrant群で有意に良好であった。また、EORTC QLQ-C30を用いたQOL評価では、QOL悪化をイベントとしたtime to deterioration(TTD)がエンドポイントとされ、TTD中央値が23.0ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.33~0.82、p<0.001)とcamizestrant群で有意に良好であった。Grade3以上の有害事象は33.2%にみられたが、忍容性はおおむね良好であり、ctDNAを用いた個別化介入の有用性を示した重要な結果といえる。なお、この結果はNew England Journal of Medicine(NEJM)に同日掲載された(Bidard FC, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 1. [Epub ahead of print])。ctDNAでESR1変異の出現をモニタリングし画像PDとなる前に治療を変更する戦略は、すでにPADA-1試験でその有効性が示され期待されている(Bidard FC, et al. Lancet Oncol.2022;23:1367-1377. )。PADA-1試験ではSERDとして注射剤のフルベストラントが使用された。SERENA-6試験では経口SERDが用いられており、効果ならびに投与の簡便性の向上が期待される画期的な試験であると言える。その一方で、本試験の結果を日常臨床で用いるには多くの懸念点が残る。ESR1変異の出現をモニタリングして治療を変更する群と変更しない群を比較する試験というのは、治療戦略(画像PDを待つか待たないか)を比較する試験である。PADA-1試験ではAI継続群でフルベストラント+CDK4/6iへのクロスオーバーが許容されていたが、SERENA-6試験ではcamizestrant±CDK4/6iにクロスオーバーされているのはわずかに3%である。本来は「早く治療変更するか」「画像PDを待って治療変更するか」を比較するべき試験であるにもかかわらず、クロスオーバーされないということは戦略を比較する試験とはなっていない、と言わざるを得ない。ESR1変異はAI耐性の予測因子であり、AI群でPFSが短いことは当然の帰結である。PFS2の結果についてもcamizestrantへのクロスオーバーがなく他の経口SERDがどの程度使用されたか不明である以上、評価が困難である(camizestrant群では常に薬剤の使用ラインが多いため、比較できない)。本試験のデザインでは、真にこの戦略が有効であるかどうかは、全生存期間(OS)の結果を見なければ判断できないが、それも後治療に不均衡があれば評価できない。QOLについてもTTDがcamizestrant群で良好なのは当然で、AI群のほうが早く病勢進行するため、症状出現によるQOL低下で説明できる。さらなる問題はESR1変異を検出するctDNA検査を2~3ヵ月ごとに行うコストの問題である。本試験ではリキッドバイオプシーとしてGuardant360が使用されていたが、非常に高価である。ESR1に特化した独自アッセイの開発とバリデーションが必要である。またESR1のサーベイランスに参加した3,256例のうち、ESR1変異が検出されたのは548例(画像PDを伴うものを含む)、ランダム化されたのは315例と10%弱である。果たしてこの10%のために高価な検査を定期的に実施することが有効であろうか? またサーベイランス期間中にESR1変異が検出されず、PDともならなかった患者は1,949例である。CDK4/6i併用1次内分泌療法のPFSが30ヵ月程度と考えられる中で、全例にctDNAの評価をし続けるのか? 本試験結果を日常臨床に用いるには、OSを含めた「戦略の有効性」の証明と、ctDNAサーベイランスの対象となる症例群の絞り込みが必要であろう。VERITAC-2試験内分泌耐性をこれまでと異なる作用機序で克服しようとしたのがVERITAC-2試験である。vepdegestrantはPROTACと呼ばれる薬剤であり、エストロゲン受容体(ER)のユビキチン化を促進してERを分解する新たな機序を有する。VERITAC-2試験は、vepdegestrantの2次治療における有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。ESR1にフォーカスしたSERENA-6試験と異なり、作用機序そのものが違う薬剤の効果を確認している。前治療として1レジメンまでの内分泌療法歴がある患者を対象に、vepdegestrantとフルベストラントが比較された。主要評価項目であるESR1変異陽性集団における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSは、5.0ヵ月vs.2.1ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.42~0.77、p<0.001)とvepdegestrant群で有意に良好であった。一方、もう1つの主要評価項目である全患者集団におけるPFSは3.7ヵ月vs. 3.6ヵ月(HR:0.83、95%CI:0.68~1.02、p=0.07)と両群間の有意差を認めなかった。主治医評価によるPFSも同様の結果であった。有害事象はGrade 3以上が23%vs.18%とvepdegestrant群でやや多い傾向であり、倦怠感の頻度が最も高かった。本試験もNEJMに同日掲載された(Campone M, et al. N Engl J Med. 2025 May 31. [Epub ahead of print])。PROTACはこれまでの内分泌療法とはまったく異なる機序で効果を発揮する薬剤で、今後が期待される。一方で、なぜERを分解する作用を有する薬剤にもかかわらず(ESR1変異の有無にかかわらず効果が期待できると考えられる)、ESR1変異を有する場合にのみフルベストラントに対する優越性を示せたのかは、現時点では不明である。また、今後臨床に応用するには試験デザインに課題が残る。CDK4/6i併用内分泌療法後の治療としては、PIK3CAやAKT1、PTENなどの変異の有無によって、SERDとAKT阻害薬(Turner NC, et al. N Engl J Med. 2023;388:2058-2070.)やPI3K阻害薬(Andre F, et al. N Engl J Med 2019;380:1929-1940.)、あるいはCDK4/6iの併用(Kalinsky K, et al. J Clin Oncol. 2025;43:1101-1112.)が行われる。CDK4/6i後の治療として内分泌療法単独が選択されることは多くなく、vepdegestrantも他の分子標的薬との併用療法の開発が期待される。DESTINY-Breast09(DB-09)試験HER2陽性進行乳がんの治療は、2010年代はじめのペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の承認で大きく変化したが(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.、Verma S, et al. N Engl J Med. 2012;367:1783-1791.)、2019年のT-DXdの登場はまた新たに大きく地図を塗り替えた(Modi S, et al. N Engl J Med. 2020;382:610-621.、Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1143-1154.)。T-DXdはHER2陽性乳がんに対する試験で既存治療と比較して圧倒的な有効性を示し、2次治療以降の標準治療となっている。一方で、血球減少や悪心、またT-DXdを特徴付ける有害事象である薬剤性肺障害(ILD)など、長期間有効であるからこそ悩ましい有害事象の管理が必要である。DB-09試験は、HER2陽性進行/転移乳がんの初回治療として、T-DXd+ペルツズマブ(T-DXd+P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。対照群は標準治療であるタキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)で、主要評価項目はBICRによるPFSであった。結果は、PFS中央値40.7ヵ月vs.26.9ヵ月(HR:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.00001)とT-DXd+P群がTHP群に対して圧倒的に良好な結果となった。主治医判定のPFSではTHP群のPFSが若干悪く(20.7ヵ月、95%CI:17.3~23.5)、非盲検化試験であることによるバイアスの存在が疑われるものの、傾向としてはBICRと同様であった。また、奏効率(ORR)は85.1%vs.78.6%で、PRの割合は70%と両群間で差がないものの、CRは15.1%vs.8.5%とT-DXd+P群で良好であった。OSはimmatureなものの、HR:0.84(95%CI:0.59~1.19)とT-DXd+P群でやや良好な傾向がみられた。後治療としてTHP群ではT-DXdやT-DM1などの抗体薬物複合体(ADC)が用いられている割合が多かったが、T-DXd+P群では抗HER2抗体を含むレジメンが多かった。2次治療までのPFSであるPFS2もHR:0.60(95%CI:0.45~0.79、p=0.00038)と、T-DXd+Pで良好であった。Grade 3以上の毒性の頻度は両群間で差はなかったが、 ILDの発現頻度は12.1%vs.1.0%とT-DXd+P群で多いものの大多数はGrade 2までであり、大きな安全性の懸念はないと考えられた。実臨床で使う中で、THPは非常に有効な治療であることは臨床医全員が実感していることだと思う。DB-09試験の結果から、T-DXd+P療法はHER2陽性初回治療の新たな選択肢となる可能性が示された。一方で、いくつかの懸念点が残る。DB-09試験ではペルツズマブを併用しないT-DXd群が設定されていたが、その結果はまだ発表されていない。ペルツズマブを併用しないことで、有害事象が軽減する可能性がある。また、T-DXd±P群では毒性によるT-DXd中止後に、抗HER2抗体による維持療法が許容されていたが、実際に維持療法が行われた症例はわずか8.7%であった。一方で、THP群の約70%は毒性もしくは別の理由(タキサンは通常6~10コースの投与後に中止する)でタキサンが中止されている。THP群でタキサン中止後はHP(ほとんど有害事象が気にならない)による維持療法を実施するが、現在は皮下注製剤があり投与時間も大幅に短縮されている。したがって、T-DXd+Pの有効性は圧倒的であるものの、有害事象が継続し、さらに時間毒性という点ではTHPに軍配が上がると言わざるを得ない。有効な治療でありPFSが非常に長いからこそ、いかに患者負担を減らすことができるかが今後の課題となる。ASCENT-04試験PD-L1陽性進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用化学療法により予後が改善したが(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;387:217-226.、Schmid P, N Engl J Med.2018;379:2108-2121.)、それでも十分ではない。また、TNBCに対してはサシツズマブ・ゴビテカン(SG)(Bardia A, et al. N Engl J Med.2021;384:1529-1541.)や、HER2低発現に対するT-DXd(Modi S, et al. N Engl J Med.2022;387:9-20.)など、ADCの導入により予後の改善が期待される。では、PD-L1陽性進行TNBCに対してADCとICIの併用は有用なのであろうか。ASCENT-04試験は、未治療のPD-L1陽性進行TNBCに対して、SG+ペムブロリズマブ(P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。比較対照は化学療法+Pで、主要評価項目であるBICR評価によるPFSは、SG+P群で11.2ヵ月 vs.7.8ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.51~0.84、p<0.001)と、SG+P群で有意に良好であった。主治医評価PFSも同様であった。OSはHR:0.89(95%CI:0.62~1.29)とSG+P群で良さそうな傾向はみられたものの、immatureで統計学的な差は認めなかった。ORRは60%vs.53%とSG+P群でやや良好な傾向がみられ、とくにCRが13%vs.8%とSG+P群で多かった。安全性については、Grade 3以上の下痢(10%vs.2%)がSG+P群で多かった以外に両群間に差はなく、好中球減少症(約65%)や過敏反応(約20%)など予測された毒性がみられたが、許容範囲内であった。本試験の結果をもって、SG+P療法はPD-L1陽性進行TNBCの初回治療における新たな標準療法となった。CECILIA試験最後に日本から発表された試験を紹介する。タキサンによる末梢神経障害(CIPN)は対処の難しい有害事象であり、冷却や圧迫による予防が試みられている(Hanai A, et al. J Natl Cancer Inst. 2018;110:141-148.、Tsuyuki S, et al.Breast. 2019;47:22-27.)。一方、冷却による苦痛で予防を継続できない患者も少なくない。CECILIA試験は、パクリタキセルによるCIPN予防のために四肢冷却装置を用いる際に、13℃と25℃の冷却温度における有効性を検証したランダム化比較試験である。パクリタキセルによる治療を受ける乳がん患者を対象に、13℃による冷却の25℃(最低限の予防効果が期待される冷却温度)に対する優越性を検証するデザインとなっている。主要評価項目はパクリタキセル終了時点でのPNQ(patient neurotoxicity questionnaire)スコアD以上の割合とされた。結果は、25℃群で29.3%(95%CI:19.4~21.0)、13℃群で33.3%(95%CI:22.8~45.2)、p=0.76と両群間の差は検出されなかった。他の評価項目であるパクリタキセル終了3ヵ月時点でのPNQスコアD以上は25℃で16.2%、13℃で32.0%(p=0.035)と25℃で少ない傾向を認めた。CTCAE、患者報告CTCAEによるGrade 2以上のCIPNは両群間に差がなかった。手足の表面温度は13℃群で低かった。これらから、CIPN予防として手足を冷却する際には25℃で十分な可能性があるが、あくまでも13℃の優越性を検証する試験で、優越性を示せなかったという結果であり、真の至適温度については今後も検討が必要である。

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第18回 もしかして、あの人も?高齢者の「セルフネグレクト」という見過ごされがちな問題

「最近、身なりに構わなくなった」「家がゴミで溢れている」「必要な治療を受けていないようだ」――。あなたのまわりの高齢者に、そんな心配な様子はないでしょうか。もしかしたらそれは、単なる老化や性格の問題だと思われているかもしれません。あるいは、認知症のある頑固な高齢者だという形でのみ認識され、問題が放っておかれてしまっているかもしれません。しかし本当は、「セルフネグレクト」という、支援が必要な状態のサインではないでしょうか。医学雑誌The New England Journal of Medicine誌に掲載された論文1)は、このセルフネグレクトを「臨床的、社会的、倫理的ジレンマ」と位置づけ、その複雑さと向き合うための新たな視点を提案しています。この記事では、その内容を紐解きながら、私たちにとって身近なこの問題について考えていきます。そもそもセルフネグレクトとは?セルフネグレクトとは、自分自身の健康や安全を守るために必要な行動をとれなくなってしまう状態を指します。これは、他者から危害を加えられたり、他者の意図で十分なケアが与えられなかったりする「虐待」とは異なります。しかし、本人の意思が密接に関わるため、問題はより複雑になります。言うまでもなく「自分のことは自分で決める」という自己決定権は、自己の尊厳を保つ上で不可欠なものです。たとえ周りから見て「危ない」「不健康だ」と思われる選択であっても、本人の自由な意思であれば尊重されるべきかもしれません。しかし、認知症などの理由で判断力が低下している場合はどうでしょうか。本人は(一人暮らしが)「大丈夫」と言っていても、実際には薬の飲み忘れが原因で何度も救急搬送されたり、お金の管理ができずに家賃を滞納してしまったりするケースは少なくありません。このような状況で、私たちはどのように本人の意思を尊重し、どう介入すべきでしょうか。実は、高齢者医療や介護の専門家でさえ、この判断に頭を悩ませることがあります。支援の必要性を判断する「3つの物差し」この問題に対し、先にご紹介した論文では、支援の必要性のレベルを判断するための一つの「物差し」として、状況を3つの段階に分けて考えることを提案しています。これは、いつ、どのような対応を始めるべきかを考えるうえで、とても参考になります。レベル1:心配(潜在的リスク)これは、自分自身のケアが十分にできておらず、手助けしてくれる人もいないものの、今すぐ大きな危険があるわけではない状態です。たとえば、「最近、お風呂に入っていない日が増えたかな」「食事の用意が億劫そうだ」といった初期のサインがこれにあたります。この段階では、まず本人の様子を注意深く見守り、どこにつまずいているのか、どうすればリスクを減らせるかを家族内で話し合うことが大切です。レベル2:危険(差し迫ったリスク)この段階では、自分自身のケアができていないことに加え、重大な危険につながる可能性のある行動が見られます。たとえば、火の不始末がある、危険性がありながら車の運転をやめていない、といった状況です。このような場合には、医療機関で認知機能や判断能力の専門的な評価を行い、本人や他者に危害が及ぶ可能性が高いと判断されれば、行政の専門機関(米国では成人保護サービス[APS])に報告することを検討すべきです。レベル3:問題発生(確定したセルフネグレクト)この段階は、セルフネグレクトが原因で、実際に医学的・社会的な「害」が発生してしまっている状態です。薬を飲まなかったことで心不全が悪化して入院したり、請求書の支払いができずに家を追い出されそうになったりしているケースです。このような場合は、本人の安全を守ることが最優先であり、速やかに専門機関に報告し、介入を求める必要があります。この分類は、周囲から見て「心配だけど、どこまで口を出すべきなのか…」と悩む際の、大雑把な判断基準を与えてくれるものです。私たちにできることこのセルフネグレクトという問題は、高齢化が急速に進む日本にとっても、決して他人事ではありません。ご紹介した論文では、米国の高齢者の10%が認知症、さらに20%以上がその前段階である軽度認知障害(MCI)を抱えていると指摘していて、今後セルフネグレクトのリスクを抱える人が確実に増加すると予測しています。これは日本の未来の姿とも重なります。日本では、米国のAPSに相当する相談窓口として、各市町村に設置されている「地域包括支援センター」があります。ここは、高齢者の健康、福祉、医療など、さまざまな相談に対応してくれる専門機関です。もし、あなたの周りに心配な高齢者がいたら、まずは孤立させないことが第一歩です。そして、段階に応じて、地域包括支援センターなどにも相談する必要があるでしょう。「行政に相談すると、本人の意思を無視して無理やり施設に入れられてしまうのでは」などと心配する方もいるかもしれません。しかし、専門機関の役割は人を罰することではなく、「できる限り本人の自律性を尊重しながら、安全性を高める手助けをすること」です。具体的には、ヘルパーの訪問時間を少しずつ増やしたり、食事の宅配サービスを手配したりと、本人が受け入れやすい最小限の介入から始めてくれる場合が多いでしょう。セルフネグレクトは、本人の尊厳と安全性がぶつかり合う、非常に繊細な問題です。しかし、それを「個人の問題」として放置してしまえば、最悪の場合、孤独死のような悲しい結末につながりかねません。異変に気づいた際に、適切な「物差し」を持ち、専門機関へつなぐこと。それが、超高齢社会に生きる私たちに求められる役割なのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)Lees Haggerty K, et al. Self-Neglect in Older People - A Clinical, Social, and Ethical Dilemma. N Engl J Med. 2025;393:4-6.

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日本人アルツハイマー病の早期発見に有効な血漿バイオマーカー

 血漿バイオマーカーは、アルツハイマー病(AD)の診断において、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)バイオマーカーに代わる有望な選択肢となる可能性がある。慶應義塾大学の窪田 真人氏らは、ADの診断および病期分類における複数の血漿バイオマーカーの有用性について、日本人コホートを用いた横断研究により評価した。Alzheimer's Research & Therapy誌2025年6月7日号の報告。 評価対象とした血漿バイオマーカーは、Aβ42/40、リン酸化タウ(p-tau181/p-tau217)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)であり、それぞれ単独または併用により評価した。Aβ42/40の測定にはHISCLプラットフォーム、その他のバイオマーカーの測定にはSimoaプラットフォームを用いた。参加対象者は、アミロイドPET画像および神経心理学的検査に基づき、健康対照群、AD群(AD発症前段階、軽度認知障害[MCI]、軽度認知症)、非AD群に分類した。ROC解析により、AβPETの状態、センチロイド値(CL)と認知スコア、ADの各ステージにおけるバイオマーカーの比較を予測した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、健康対照群69例、AD発症前段階群13例、MCI群38例、軽度認知症群44例、非AD群79例。・AβPETの状態を予測するAUCは、Aβ42/40で0.937、p-tau217で0.926、p-tau217/Aβ42で0.946であり、DeLong検定の結果、これら3つの指標の間に有意な差は認められなかった(各々、p>0.05)。・認知機能正常群のAUCは、Aβ42/40で0.968、p-tau217で0.958、p-tau217/Aβ42で0.979であり、認知機能障害群のAUCは、Aβ42/40で0.919、p-tau217で0.893、p-tau217/Aβ42で0.923であった。・健康対照群およびAD群におけるCLとの相関は、Aβ42/40で−0.74、p-tau217で0.81、p-tau217/Aβ42で0.83であった。・健康対照群およびAD群において、Aβ42/40レベルは2峰性の分布を示し(カットオフ値:0.096)、PET陽性閾値32.9CLに対して19.3CLで高値から低値への変化が認められた。・p-tau217は、疾患進行とともに直線的な増加が認められた。・すべてのバイオマーカーは、論理記憶スコアとの強い相関が示された。 著者らは「血漿バイオマーカーであるAβ42/40とp-tau217、とくにこれらの比であるp-tau217/Aβ42は、AD診断におけるアミロイドPETの代替手法として大きな可能性を秘めていることが示唆された。HISCLプラットフォームベースの血漿Aβ42/40は、アミロイドPET画像診断よりも、より早期にAβ沈着を検出可能であり、早期診断マーカーとして有用であると考えられる」と結論付けている。

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『認知症になる人・ならない人』著者が語る「最も驚かれた予防策」とは?

 CareNet.comの人気連載「NYから木曜日」「使い分け★英単語」をはじめ、多くのメディアで活躍する米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏。山田氏が6月に出版した書籍『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)は、エビデンスが確立されている認知症予防法や避けるべき生活習慣を、一般向けにわかりやすく紹介した1冊だ。エビデンスで示す“認知症の本当のリスク因子” 本書は、1. 認知症になる人の生活習慣2. 実は認知症予防に効果がないこと3. 認知症にならない人の暮らし方4. 認知症になったときの対応という章立てになっている。 1章の「認知症になる人の生活習慣」としては、・1日中座りっぱなし・タバコを吸う・塩分を摂り過ぎる・目や耳の老化による不調を放置するといった項目が並ぶ。 著者の山田氏は「本書で紹介した内容は、Lancet誌の認知症委員会が4年ごとにアップデートしている、認知症予防に関する情報を基にしています。長期にわたるエビデンスが確立している内容が中心なので、医療者の方にとって目新しいものは少ないかもしれません」と語る。 一方で、「部屋の換気をしない(と認知症リスクが上がる)」という項目は、読者からの反響が最も大きく、新鮮に受け止められたようです」と語る。ガスコンロを使ったときに発生するPM2.5や二酸化窒素などの微粒子、消臭スプレーや漂白剤などの使用によって屋内の空気に不純物が増える。多くの人は1日の4分の3程度を屋内で過ごすと言われており、通気性の悪い室内環境が脳血管疾患や生活習慣病を介して認知症と関係する可能性が示唆されている。そのため、こまめに換気をして屋内の空気を新鮮に保つことが重要になるという。 また、「1日に缶ビールを2本以上飲む」という項目も反響があったという。「お酒を飲み過ぎると、健康状態や認知症リスクに影響しそうだ、という意識はあっても、具体的な数値に落とし込んだことでインパクトがあったようです」(山田氏)。過去の研究によると、週に168g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人に比べて認知症のリスクが約18%高くなるという。このアルコール量を換算すると、1日当たり350mLの缶ビール2本以上となる。「意識していなければすぐ超えてしまう量なので、お酒好きの方には知っておいてほしい。患者さんへの節酒のアドバイスの際にも取り入れてみては」(山田氏)。 ほかにも、「超加工食品」を食べ過ぎないことも、簡便かつ効果的な予防策として紹介されている。米国在住の山田氏は「米国では超加工食品が社会のすみずみまで浸透しており、すべてを避けるのは難しい。私自身もまずは目に付くソーセージやハム、ベーコンをなるべく避けるようにしている」と語る。「認知症予防にエビデンスがないこと」も紹介 本書では、認知症リスクを高める習慣と同時に、認知症予防にとって意味のないことも紹介している。ここでは、「プロバイオティクス」「オメガ3脂肪酸」「イチョウの葉エキス」などの具体例を挙げつつ、現時点では有意差を示す報告がないことを紹介している。また、健康食品などの宣伝文句に「エビデンスをすり替えた」ものがある点についても解説する。ほかにも「脳トレ」や「高価な自由診療の認知症検査」などについて、現時点での研究報告に沿ってエビデンスが低いことを紹介している。 「結局、認知症予防のために特定のサプリを大量に摂ったり、◯◯食だけを守ったりするよりは、野菜や果物、魚、全粒穀物などをバランス良く取り入れ、超加工食品や過剰な糖分・脂肪分を控える習慣をできる範囲で継続していくことの大切さが、エビデンスベースでも裏付けられているのです」(山田氏)。 本書の終盤では、「認知症になったあとの対応」にも触れている。家族のために認知症の段階を把握する指標、本当に入院が必要になるケース、介護のために必要となる費用の目安などが紹介される。ここでは、米国の「Hospital at Home」(HAH)の取り組みにも触れている。これは入院診療チームを自宅に派遣し、患者を自宅で“入院相当”の管理下で診るという仕組みだという。「日本ではまだ医療保険や介護保険制度上の制約が多く、実現は難しい点も多いものの、せん妄や生活機能低下を避けるためには自宅が望ましいケースも多い。今後の在宅医療を設計する上で参考になる点があると思う」(山田氏)。一般向けの内容だが、医療者にとっても自身のため、親のため、患者説明用の資料としてなど、さまざまな面で参考となる1冊となりそうだ。書籍紹介『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』

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難聴への早期介入には難聴者への啓発が重要/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、本年11月15~26日にわが国で初めてデフ(きこえない・きこえにくい)アスリートのための国際スポーツ大会「東京2025デフリンピック」が開催されることを記念し、都内でスポーツから難聴を考えるメディアセミナーを開催した。セミナーでは、難聴のアスリートである医師の軌跡、高齢者と聴力と健康、難聴への早期介入の重要性などが講演された。 東京2025デフリンピックは、上記12日間の日程で都内を中心に、約80ヵ国のアスリート3,000人を迎え、21競技で開催される。医師として働き、はじめてわかった難聴の課題 「難聴者・アスリートそして医師としての道のり」をテーマに、難聴を有するバレーボールのアスリートである狩野 拓也氏(十全総合病院耳鼻咽喉科)が、デフリンピックの概要の説明と障害を持つ医師としての苦労などを語った。 デフリンピックは、1924年から開催され、パラリンピックよりも歴史は古い。出場条件としては、「裸耳で良聴耳が55dB以上であること」、「先後天性など難聴の種類は問わない」、「競技中に補聴器を使用しない」が必要とされる。競技ルールは健聴者競技とほぼ同じであり、競技開始はランプの点灯などで行われる。狩野氏は、過去2回バレーボール選手として、デフリンピックに参加している。 狩野氏は、先天性両側重度感音難聴を患い、生後半年から補聴器とともに過ごしてきた。そして、医師として働く中でマスク着用により相手の読唇ができないこと、電話対応、雑音環境での聴力の低下などに悩まされたという。そこで、2020年に左耳に人工内耳埋め込み手術を受けた。その結果、静寂下での話音明瞭度は術前31.7%だったものが術後88.3%へ、雑音下では術前13.3%だったものが術後48.3%へ向上したという。 狩野氏は終わりに「難聴には先天性のほか、遺伝性、薬剤性などさまざまな原因があり、その対策として薬物療法、外科手術、補聴器などがあるので、耳鼻咽喉科で適切な診断と対策を行ってほしい」と述べた。「聴こえない」は運動能力に悪影響をもたらす 「高齢者における聞こえと健康長寿」をテーマに桜井 良太氏(東京都健康長寿医療センター研究所)が、難聴が運動機能に影響を与え、健康のリスクとなることを説明した。 カナダからの報告では、加齢性難聴者が抱える問題では、「俊敏性」と「移動能力」が多く、5人に3人が足腰の機能に不安を感じているという。また、加齢性難聴の進行に伴い、歩行機能が低下するという自験例を報告した1)。 足音も重要な感覚情報であり、聞こえ方で歩き方が変わる、足音が失われると普段の歩き方ではなくなるという報告もある。そのほか加齢性難聴と転倒の関連について、13の研究(2万5,961例)のメタ解析では、転倒リスクは2.39倍増加するという報告もある2)。 その機序は、聴覚情報遮断により回避行動にばらつきが増大することで、転倒リスクが増加すると推定されるという。桜井氏は、これらの研究報告などから「早期に補聴器などの装用による運動面の改善をすることは、転倒への不安を和らげる可能性があり、安全で質の高い生活を実現するために重要」と示唆し、講演を終えた。わが国の難聴者の医師への相談率や補聴器の普及率は低い 「難聴医療におけるPathwayの課題と難聴への早期介入の重要性」をテーマに和佐野 浩一郎氏(東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 主任教授)が、高齢者が抱える難聴の課題と聴こえに対する治療について説明した。 一般に加齢とともに難聴は進行し、70代では1/4が、80代では1/2が中等度以上の難聴となるという自験例を報告した3)。 加齢性難聴になると社会的孤立やうつなどの疾患や転倒のリスク、フレイルへの進展などが懸念される。また、難聴の放置は「認知症」の最大のリスクであり、難聴への早期介入により発症を予防するまたは発症を遅らせることができるとされている4)。 加齢性難聴対策は、社会的疾病負荷の軽減や患者の身体的影響など考慮すると積極的に取り組むべき課題であるが、わが国の難聴自覚者からの医師への相談率は先進国の中でも40%止まりとかなり低い。 実際に難聴を有する人はどのように考えているのかについて、コクレア社が2024年にわが国を含む4ヵ国の25歳以上の成人4,000人(うち日本人1,200人)にアンケート調査を行った。日本人では「難聴を感じたとき」に「医師の予約をとる」が40%で1番多かったが、「何もしない」(高齢だから当然と診療をしない)が16%もいた。 補聴器や人口内耳については、「治療費が高い」が30%、「相談先がわからない」が23%、「加齢で仕方がない」が21%の順で多かった。重症度別の割合では、実際の難聴割合と自覚率の間に大きな差があることが判明し、難聴の自覚がない難聴者ほど心身の機能が低い傾向あることがわかった5)。 課題として高齢者の健康診断では聴覚検査が含まれておらず、問診すらされていないケースもあると和佐野氏は指摘し、「耳鼻科における早期からの適切な診断を一般化していきたい」と抱負を述べた。 また、わが国の補聴器の普及率は10%に満たず、先進国の中でもとても低く、欧米とのその差は現在も拡大している。 こうした現状から同学会では、「難聴を感じても耳鼻科を受診しない市民」、「難聴患者に補聴器を提案しない医師」、「必要な助成が整備されていない社会環境」、「質の高い調整を提供できていない補聴器販売店」の4つの「ない」の改善に取り組むとしている。そのために、2024年には『聞き取りづらさを感じて受診した患者さんに対する診療マニュアル』を作成し、補聴器での聞き取りに問題があれば人工内耳の手術の検討を勧めているほか、現在『軽中等度難聴に対する診療ガイドライン』を作成しているという。 この人工内耳手術については、アメリカでは100万例に対し544件が施行されているが、わが国は100万例に対し122件とその施行数も少ない上に、そもそも人工内耳を知らない人も多いという。人工内耳装用で高齢者は、聴力の変化により社会参加が増加し、フレイルの予防対策が進めやすくなるほか、良好な医療経済効果も期待できるという。 和佐野氏は、進行する加齢性難聴の放置はさまざまな問題につながる可能性があること、「年齢のせい」と考えずにまずは耳鼻科医に相談してほしいということ、医師からのアドバイスに応じて補聴器や人工内耳を装用することで、健康寿命を延ばすことができる可能性があることを挙げ、適切な診断に基づいた適切な介入が重要であることを強調して講演を終えた。■参考文献東京2025デフリンピック1)Sakurai R, et al. Gait Posture. 2021;87:54-58.2)Tin-Lok Jiam N, et al. Laryngoscope. 2016;126:2587-2596.3)Wasano K, et al. Biomedicines. 2022;10:1431.4)Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.5)Sakurai R, et al. Arch Gerontol Geriatr. 2023;104:104821.

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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月1回投与の肥満治療薬maridebart cafraglutide、体重を大幅減/NEJM

 月1回投与のmaridebart cafraglutide(MariTideとして知られる)は、2型糖尿病の有無にかかわらず肥満者の体重を大幅に減少させたことが、米国・イェール大学のAnia M. Jastreboff氏らMariTide Phase 2 Obesity Trial Investigatorsによる第II相試験で示された。maridebart cafraglutideは、GLP-1受容体アゴニスト作用とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体アンタゴニスト作用を組み合わせた長時間作用型ペプチド抗体複合体で、肥満症の治療を目的として開発が進められている。第II相試験では、2型糖尿病の有無を問わない肥満成人を対象に、maridebart cafraglutideのさまざまな用量、用量漸増の有無における有効性、副作用プロファイルおよび安全性が評価された。NEJM誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。2型糖尿病の有無別に肥満者を11群に無作為化、52週の体重変化率を評価 研究グループは、11グループを含む2コホートを対象に、第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照用量範囲試験を実施した。 18歳以上の肥満者(BMI値30以上または27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有しHbA1c値6.5%未満、肥満コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群、420mg(8週ごと漸増なし投与)群、420mg(4週ごと投与で4週ごとに用量漸増)群、420mg(4週ごと投与で12週ごとに用量漸増)群またはプラセボ群に3対3対3対2対2対2対3の割合で無作為に割り付けた。 また、2型糖尿病を有する肥満者(肥満・糖尿病コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから52週までの体重変化率とした。体重変化、2型糖尿病なしは-12.3~-16.2%、2型糖尿病ありも-8.4~-12.3% 2023年1月~2024年9月に592例が登録された(肥満コホート465例、肥満・糖尿病コホート127例)。両コホートの各投与群間のベースライン特性は類似していた。 肥満コホート(女性63%、平均年齢47.9歳、平均BMI値37.9)において、treatment policy estimand(ITTアプローチ法)に基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-12.3%(95%信頼区間[CI]:-15.0~-9.7)~-16.2%(-18.9~-13.5)の範囲にわたり、プラセボ群は-2.5%(-4.2~-0.7)であった。 肥満・糖尿病コホート(女性42%、平均年齢55.1歳、BMI値36.5)において、treatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-8.4%(95%CI:-11.0~-5.7)~-12.3%(-15.3~-9.2)の範囲にわたり、プラセボ群は-1.7%(-2.9~-0.6)であった。また、本コホートにおけるtreatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからのHbA1c値の平均変化(%ポイント)は、maridebart cafraglutide投与群が-1.2~-1.6%ポイントの範囲にわたり、プラセボ群は0.1%ポイントであった。 消化器系の有害事象がmaridebart cafraglutide群で多くみられたが、用量漸増および開始用量の低減により発現頻度は低下した。 安全性に関する新たな懸念はみられなかった。

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たこつぼ型心筋症の患者では再入院リスクが高い

 たこつぼ型心筋症は、精神的・肉体的なストレスに起因する新しい概念の心筋症である。今回、たこつぼ型心筋症の患者は一般集団と比較して再入院のリスクが高いとする研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に3月25日掲載された。 たこつぼ型心筋症は、精神的・肉体的なストレスに起因する一過性の左室機能不全が特徴で、発作時の左室造影所見が「たこつぼ」に見えることから、1990年に日本で提唱された疾患概念である。この疾患では急性期を過ぎると、左室の駆出率は完全に回復するものの、発症後の長期生存率が低下することが報告されている。スコットランドのたこつぼレジストリ研究から、この長期生存率の低下は心血管疾患による死因に起因するという報告がなされた。しかし、たこつぼ型心筋症の回復後に生じる詳しい疾患とその重症度に関しては十分な調査が行われていない。このような背景から、英アバディーン大学およびNHSグランピアンのAmelia E. Rudd氏らは、コホート研究により、たこつぼ型心筋症患者の再入院率とその原因について調査を行った。 たこつぼ型心筋症の620人は、スコットランドのたこつぼレジストリより、2010年以降に診断された患者を無作為に抽出した。対照群は、最近傍マッチング法に基づき年齢・性別・地理的条件が一致するスコットランドの一般集団2,480人と、2013~2017年に実施されたHigh-STEACS Studyに含まれる急性心筋梗塞患者620人で構成された。再入院のハザード比(HR)と95%信頼区間(95%CI)はCoxの比例ハザードモデルより推定された。 入院総数1万2,873件のうち、再入院の発生率は、たこつぼ型心筋症患者で1,000人年あたり743件、スコットランドの一般集団で365件、心筋梗塞患者で750件だった。 次に、各群における再入院の原因を比較した。その結果、たこつぼ型心筋症の患者は一般集団と比較して、全原因による再入院リスクが約2倍高かった(HR 1.96〔95%CI 1.78~2.17〕、P<0.001)。特に、心筋梗塞(HR 3.11〔95%CI 2.11~4.57〕、P<0.001)、心不全(HR 4.92〔95%CI 3.06~7.93〕、P<0.001)、不整脈(HR 3.56〔95%CI 2.55~4.98〕、P<0.001)といった心血管疾患での再入院リスクが有意に高くなっていた。また、精神疾患、脳卒中、肺疾患、神経疾患、感染症、胃腸疾患、末梢血管疾患による再入院リスクも高かった。 一方で、たこつぼ型心筋症の患者を心筋梗塞の患者と比較すると、心筋梗塞(HR 0.27〔95%CI 0.19~0.38〕、P<0.001)、心不全(HR 0.55〔95%CI 0.37~0.83〕、P=0.004)、不整脈(HR 0.65〔95%CI 0.47~0.91〕、P=0.011)の再入院リスクは低くなっていたものの、脳卒中や心血管系以外の原因(精神疾患、肺疾患、がんなど)で再入院するリスクは同程度だった。 著者らは、「今回の結果により、たこつぼ型心筋症の患者では脆弱性が高まっていることから、退院時の適切なアドバイス、退院後の経過観察、そしてこの疾患特有の治療戦略を組み立てることの必要性が浮き彫りにされた。たこつぼ型心筋症とその他の心血管系疾患との共通点や違いを理解するには、さらなる研究が必要だ」と述べた。

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