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COPDの新たな診断スキーマが有用/JAMA

 呼吸器症状、呼吸器QOL、スパイロメトリーおよびCT画像所見を統合した新たなCOPD診断スキーマによりCOPDと診断された患者は、COPDでないと診断された患者と比較して全死因死亡および呼吸器関連死亡、増悪、急速な肺機能低下のリスクが高いことが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のSurya P. Bhatt氏らCOPDGene 2025 Diagnosis Working Group and CanCOLD Investigatorsの研究で明らかとなった。著者は、「この新たなCOPD診断スキーマは、多次元的な評価を統合することで、これまで見逃されてきた呼吸器疾患患者を特定し、呼吸器症状や構造的肺疾患所見のない気流閉塞のみを有する患者を除外できる」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月18日号掲載の報告。主要基準として気流閉塞、副基準に症状および画像所見5項目を設定 研究グループは、COPDの新たな多次元的診断スキーマを開発し、2つの大規模な前向きコホート、Genetic Epidemiology of COPD(COPDGene)およびCanadian Cohort Obstructive Lung Disease(CanCOLD)を用いてその有用性を検証した。 COPDGeneコホートは、2007年11月9日~2011年4月15日に米国の21施設において、現在または過去に喫煙歴のある45~80歳の1万305例を登録したもので、2022年8月31日まで追跡が行われた。 CanCOLDコホートは、2009年11月26日~2015年7月15日にカナダの9施設において、40歳以上(喫煙歴は問わない)の1,561例を登録したもので、2023年12月31日まで追跡が行われた。 新しいスキーマでは、気流閉塞(FEV1/FVCが<0.70または<正常下限値)を「主要基準」、CT画像での軽度以上の肺気腫、気道壁肥厚の2つを「副基準:CT画像所見」、呼吸困難(mMRCスコア≧2)、呼吸器QOL低下(SGRQ≧25またはCAT≧10)、慢性気管支炎の3つを「副基準:呼吸器症状」として、(1)主要基準を満たし、5つの副基準のうち1つ以上を認める、または(2)副基準のうち3つ以上を認める(他の疾患が呼吸器症状の原因と考えられる場合はCT画像所見2つが必要)場合にCOPDと診断した。 主要アウトカムは、新スキーマを用いて診断した場合の全死因死亡、呼吸器疾患特異的死亡、COPD増悪、FEV1の年間変化であった。気流閉塞を認めないCOPDで予後不良 COPDGeneコホート(解析対象9,416例、登録時平均[±SD]年齢59.6±9.0歳、男性53.5%、黒人32.6%、白人67.4%、現喫煙者52.5%)では、気流閉塞を認めない5,250例中811例(15.4%)が副基準により新たにCOPDと診断され、気流閉塞を認めた4,166例中282例(6.8%)は非COPDとされた。新たにCOPDと診断された群は、非COPD群と比較して、全死因死亡(補正後ハザード比[HR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.67~2.35、p<0.001)、呼吸器特異的死亡(補正後HR:3.58、95%CI:1.56~8.20、p=0.003)、増悪(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.79~2.44、p<0.001)がいずれも有意に多く、FEV1の低下(-7.7mL/年、95%CI:-13.2~-2.3、p=0.006)が有意に大きかった。 スパイロメトリーで気流閉塞が認められたが新スキーマで非COPDとされた群は、気流閉塞がない集団と同様のアウトカムであった。 CanCOLDコホート(解析対象1,341例)においても同様に、新たにCOPDと診断された群は増悪頻度が高かった(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.25~3.51、p<0.001)。

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脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase+血栓除去術vs.血栓除去術単独/NEJM

 発症後4.5時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者において、血管内血栓除去術単独と比較し、tenecteplase静注後血管内血栓除去術は90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・Second Affiliated Hospital of Army Medical University(Xinqiao Hospital)のZhongming Qiu氏らが、同国の39施設で実施した医師主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「BRIDGE-TNK試験」の結果を報告した。大血管閉塞による脳梗塞急性期における血管内血栓除去術施行前のtenecteplase静注療法の安全性と有効性のエビデンスは限られていた。NEJM誌オンライン版2025年5月21日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0~2の割合を比較 研究グループは、18歳以上、最終健常確認後4.5時間以内の内頸動脈、中大脳動脈M1/M2部または椎骨脳底動脈閉塞による脳梗塞患者で、中国の脳卒中ガイドラインに基づき静脈内血栓溶解療法の適応となる患者を、tenecteplase静注後血管内血栓除去術施行群(tenecteplase+血栓除去術群)、血管内血栓除去術単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点の機能的自立(修正Rankinスケール[mRS]スコア0~2[範囲:0~6]、高スコアほど障害が重度)、副次アウトカムは血栓除去術前後の再灌流成功率などであった。 安全性は、無作為化後48時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の死亡などについて評価した。機能的自立は53%vs.44%でtenecteplase+血栓除去術が良好 2022年5月9日~2024年9月8日に554例が無作為化され、同意撤回の4例を除く550例がITT集団に組み入れられた(tenecteplase+血栓除去術群278例、血栓除去術単独群272例)。 90日時点の機能的自立は、tenecteplase+血栓除去術群で52.9%(147/278例)、血栓除去術単独群で44.1%(120/272例)に観察された(調整前リスク比:1.20、95%信頼区間:1.01~1.43、p=0.04)。 tenecteplase+血栓除去術群では6.1%(17/278例)、血栓除去術単独群では1.1%(3/271例)が血栓除去術前に再灌流に成功していた。また、血栓除去術後の再灌流成功率はそれぞれ91.4%(254/278例)、94.1%(255/271例)であった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血は、tenecteplase+血栓除去術群で8.5%(23/271例)、血栓除去術単独群で6.7%(18/269例)に認められ、90日死亡率はそれぞれ22.3%(62/278例)、19.9%(54/272例)であった。

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高リスク前立腺がんにおいてテストステロン濃度回復は全生存率と関連

 放射線治療と長期アンドロゲン除去療法(ADT)を受けている高リスク前立腺がん患者において、血清テストステロン(T)濃度が正常レベルまで回復することは、全生存率の有意な改善と関連するという研究結果が、米国臨床腫瘍学会年次泌尿生殖器がんシンポジウム(ASCO GU25、2月13〜15日、米サンフランシスコ/オンライン開催)で報告された。 シェルブルック大学病院センター(カナダ)のAbdenour Nabid氏らは、高リスク前立腺がん患者630人を、骨盤放射線治療に加えて36カ月間のADTを行う群と18カ月間のADTを行う群にランダムに割り付けた(それぞれ310人、320人)。血清T濃度は、ベースライン時とその後も定期的に測定された。T濃度の回復は、各試験実施医療機関で正常範囲とされる範囲内に対象者のT濃度が戻ることと定義した。解析対象として、22年間(追跡期間中央値17.4年間)に測定された、515人の患者の6,587のT濃度データが利用可能であった。 解析の結果、患者の52.4%でT濃度が正常レベルまで回復した。18カ月間のADTコホートでは57.0%、36カ月間のADTコホートでは44.3%であった。T濃度が正常レベルまで回復しなかった患者は、年齢が高く、ステージが進行しており、糖尿病を有していた。T濃度が正常レベルまで戻った患者において、T濃度回復までの時間の中央値は、3.6年であった。10年および15年の全生存率は、T濃度が回復した患者でそれぞれ76%、44%、回復しなかった患者で55%、30%であった。全体的なハザード比を考慮すると、T濃度が回復した患者では死亡リスクが有意に低下した(ハザード比0.54)。 著者らは、「T濃度が回復しない患者での死亡率上昇は、前立腺がんとは無関係な原因によるものである可能性が高い」と述べている。 なお複数人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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COVID-19パンデミック中と、その前後でのICU入室患者の治療と予後(解説:名郷直樹氏)

 アメリカの入院医療の26%をカバーする電子データを解析した後ろ向きコホート研究である。ICU入室の成人患者を対象とし、COVID-19パンデミック前、流行期、その後における院内死亡、ICU入室期間、人工呼吸器や昇圧薬など生命維持治療をアウトカムとして検討している。 曝露を研究開始時に測定し、同時期にアウトカムを追跡する通常のコホート研究ではなく、観察期間中のCOVID-19の流行の前後でアウトカムを比較した曝露前後コホート研究である。 結果は、流行前の院内死亡10%に対する、入院年・月、年齢、性別、カールソンの併存疾患インデックススコア、COVID-19感染状況、疾患重症度で調整後のオッズ比(95%信頼区間[CI])は、パンデミック中のCOVID陰性患者で1.3(1.2~1.3)、陽性患者で4.3(3.8~4.8)、2022年半ばには10%に戻っている。またICU入室期間の中央値は2.1日で、パンデミック期間中で2.2日、その差(95%CI)は0.1日(0.1~0.2)、COVID陰性患者で2.1日、陽性患者で4.1日、その差(95%CI)は2.2日(1.1~4.3)、パンデミック後2.2日、その差(95%CI)は0.1日(0.1~0.1)と報告されている。またICU入室中の昇圧薬治療が14.4%に、侵襲的人工呼吸器が23.7%に行われ、その変化は、昇圧薬使用に関し2014年の7.2%から2023年の21.6%と増加、人工呼吸器について、パンデミック前で23.2%、パンデミック中で25.8%、パンデミック後で22%と大きな変化がないことが報告されている。 曝露前後研究で厳密な因果を問うことは困難だが、何が起こったかは明確である。COVID-19のパンデミック後は、ICUでのCOVID-19感染者による死亡率のみならず、それ以外の死亡率も増加したが、その後死亡率は元のレベルに戻っている。治療内容としては昇圧薬の使用が3倍と大幅に増えたが、人工呼吸器について大きな変化はなかったということである。 この研究から言えることはそこまでである。この研究から「ワクチン接種が最も多く行われた時期にCOVID-19以外の死亡も増えている。これはワクチンによる過剰死亡だ」と言い出すような人がいるかもしれないが、それは単に仮説に過ぎず、重要なことは、こうした曝露前後の変化を検討した生態学研究から因果を取り出してはいけないということのほうである。

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 1

今回のキーワード西洋化病理化人権意識性別二元制テストステロン逆ドーピング前回(その2)、同性愛が遺伝しないはずなのに遺伝している謎を、進化心理学の視点から検討しました。現在、世の中では性の多様性を自然に受け入れる流れが加速しているわけですが、一方で、女性スポーツの世界では、そうではないようです。たとえば、オリンピックの女性の種目に出場する選手が、元男性のトランスジェンダー女性の場合です。また、遺伝的には男性でありながら性分化疾患による性器の見た目から女性とされてきた人の場合です。なぜなのでしょうか?今回(その3)も、5月17日の「多様な性にYESの日」に合わせて、「記念日セラピー」と称して、多様な性がNOであった歴史を踏まえて、この理由を掘り下げます。そこから、男性と女性のカテゴリーに代わる、新しいスポーツ競技の枠組みをご提案します。なんで多様な性はNOだったの?まず、性の多様性が人々にどう受け止められてきたかの歴史を、3つの時期に分けて、振り返ってみましょう。(1)原始の時代-社会に溶け込むもともとアフリカや太平洋の島々では、同性愛行動が、男性の通過儀礼の1つになっていました。アフリカの一夫多妻制の社会では、同じ夫を持つ妻たちの同性愛行動がごく日常的に行われていました1)。また、日本を含むアジア太平洋地域では、トランスジェンダーは人々に神の祝福を授けるシャーマンとして畏敬されていました2)。日本では、平安時代から、天皇、将軍、貴族、僧侶における、それぞれの同性愛関係についての記録が残っています。記録には残っていませんが、武士においても、主君と若い家来の間での同性愛はあったと考えられています。そして、江戸時代には、庶民の間での同性愛が浮世絵で描かれています。このように、原始の時代からごく最近まで同性愛は社会に溶け込んで受け入れられていました。(2)西洋化-異常扱い、病気扱いところが、紀元前1世紀以降、文明化が進んだ欧州や中東においては、当時に誕生したユダヤ教と、その後に派生したキリスト教やイスラム教によって、同性愛は「異常」として厳しく取り締まられるようになりました。その理由は、宗教はその教えによって人々の価値観を1つ(一様性)にして、社会秩序を維持する役割があったわけですが、同性愛という多様性はその価値観にそぐわなかったからです。そして、同性愛は、「異端」「魔女」などと呼ばれ、人々の結束力(同調性)を高めるための共通の敵(スケープゴート)として利用されるようになり、同性愛を死刑にする法律までもつくられました。19世紀後半になると、同性愛は、精神障害として治療・保護の対象とされ、精神科病院に強制入院させられるようになりました。その理由は、当時の産業革命によって合理的な価値観が広がり、「普通」(マジョリティ)ではない状態には原因があり、「病」としてその治療をするべきであると考えられるようになったからです(病理化)。日本でも明治になって、このような西洋的な価値観が入り込んでいきました。こうして、西洋化によって、同性愛は異常扱い、病気扱いされ、差別と偏見が文化的に刷り込まれるようになったのでした。(3)現代-人権意識の高まり20世紀後半から、米国を中心に、女性やアフリカ系米国人などへのさまざまな人権意識が高まったことで、同性愛の人たちの人権運動も活発になりました。その社会的なムーブメントから、その1の冒頭でも触れたように、1990年に同性愛、両性愛という名称がWHO(世界保健機関)の国際疾病分類(ICD-10)から除外されたのでした。その後、2018年の国際疾病分類(ICD-11)への改訂に伴い、トランスジェンダーは、「性同一性障害」から「性別不合」へと名称が変更され、さらに「精神および行動の障害」から「性の健康に関連する状態」(健康の章)へと分類が変更され、障害とはみなされなくなったのでした。なお、トランスジェンダーがこの「健康の章」に新しい名称で残された理由は、妊娠出産と同じように、ホルモン治療や性別適合手術などを引き続き保険適応にするためです。また、その1でも紹介した異性の服を着るクロスドレッシングは、DSM(米国の診断基準)ではDSM-5で異性装障害として残っていますが、ICD(WHOの診断基準)ではICD-11への改訂に伴い削除されました。これは、クロスドレッシングを受け入れるようになった現代社会では、本人たちが苦痛を感じる状況がもはや想定できなくなったからです。この点で、次のDSMの改訂で「異性装障害」という名称も削除されることが予測されます。こうして、現代では、人権意識の高まりによって再び性の多様性が受け入れられるようになってきたのです。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 2

じゃあなんで現代でも女性スポーツでは受け入れられないの?性の多様性が現代社会の学問、政治、ビジネスにおいて広く受け入れられるようになってきた一方で、スポーツの世界ではあまり受け入れられていません。たとえば、2021年の東京オリンピックの女性重量挙げに出場した、元男性のトランスジェンダー女性が、IOCが定めた男性ホルモンの基準値を満たしていたにもかかわらず、非難を浴びました。また、2024年のパリオリンピックの女性ボクシングで金メダルを取った2人の選手は、生まれた時から性別は女性とされパスポートも性別は女性と明記されていましたが、性分化疾患(5α還元酵素欠損症)であることが判明して、遺伝的には男性であったことから議論を呼びました。なぜなのでしょうか? 大きく2つの理由を挙げてみましょう。(1)競技の公平性たとえば、性分化疾患の女性(遺伝的には男性)は、男性ホルモンが高ければ圧倒的に有利になってしまいます。また、トランスジェンダー女性(元男性)は、性別適合手術のあとで男性ホルモンがつくられなくなっても、以前の男性ホルモンの影響が骨格の大きさには残っていて有利になってしまう可能性があります。1つ目の理由は、男性と女性ではそれぞれの男性ホルモンの働きの違いから明らかな身体能力の差があり、身体的(遺伝的)に男性であるのに、女性競技に参加するのは不公平だと思われているから、つまり競技の公平性です。(2)性別二元制の価値観その1でも説明したように、体(身体的性)においても心(性自認)においても、人は、性スペクトラムとして連続しています。すると、どうしても男女の区別をオーバーラップする、つまり乗り越える人が現れます。しかし、現代まで続く近代オリンピックは、人間は男性と女性しかいないという19世紀当時の価値観を受け継ぎ、男女別々に行うという方式を踏襲してきました。そして、これを維持するために、かつてはトランスジェンダーや性分化疾患の選手を失格にして排除してきました。2つ目の理由は、トランスジェンダーや性分化疾患の選手たちの存在は、人間は男性と女性しかいないという固定観念を揺さぶり都合が悪いから、つまり、性別二元制の価値観です。じゃあどうすればいいの?トランスジェンダーや性分化疾患が女性スポーツで受け入れられない理由は、競技の公平性と性別二元制の価値観であることがわかりました。そして、そのような選手が非難にさらされるジレンマがあることもわかりました。それでは、どうすればいいでしょうか?その答えは、競技をもはや男女で分けるのではなく、男女の身体能力の違いを決定づける男性ホルモン(テストステロン)の数値で分けるのです。テストステロンの数値で分けると、クリアカットで曖昧な余地はありません。これは、競技によって体重で分けるのと同じです。「アンダー○○」や「マスターズ」など、年齢で分けるのとも同じです。そして、パラリンピックで障害の重症度で分けるのとも同じです。また、テストステロンの検査方法は、唾液検査と毛髪検査で代用できて、ドーピングの尿検査と同じくらい簡単に行えます。そして、唾液や毛髪の検査でテストステロンが基準値を超えていると疑われる場合はさらに血液検査を行います。このようにすると、もはや女性であるかどうかを確かめるための性器の目視検査(性分化疾患が疑われる場合はその計測や形状の評価)や性染色体検査は不要になります。そもそも、選手の性器がどうか、染色体がどうかという評価はとてもプライベートなことであり、このような検査を強制すること自体が時代遅れであり、とんでもない人権侵害です。どの数値で分けるの?テストステロンの血中の値は、男性10~30nmol/L(中央値15nmol/L)、女性0.4~2.0nmol/L(中央値0.7nmol/L)で、男性は女性の約10倍以上あり、その間に開きがあります3,4)。このグラフから、テストステロンの数値で分けるその線引き(カットオフ値)は、男性の下限、女性の上限、男女の中央値の差分から、7nmol/Lあたりが公正で妥当なのではないでしょうか?たとえばこの数値を以下のように新しいカテゴリーとして、そのまま表示するのです。男性の種目→テストステロン制限なしの種目女性の種目→テストステロン制限あり(7nmol/L以下)の種目ちなみに、現在、トランスジェンダー女性や性分化疾患の選手が女性の種目に参加するためのテストステロンの基準値は、オリンピック(IOCの規定)で10nmol/L以下、陸上競技(世界陸連の規定)と水泳競技(世界水泳連盟の規定)で2.5nmol/Lです。男女で分けるのではなく、テストステロンの数値だけで分けるとすると、IOCの基準(10nmol/L)では、その数値以下に入り込める男性が出てしまい、その選手は「制限あり」のカテゴリーでも出場できることになり、不公平です。一方で、世界陸連や世界水泳連盟の基準(2.5nmol/L)では、その数値に引っかかる女性が出てしまい、その選手は「制限なし」のカテゴリーでしか出場できなくなり、同じく不公平です。もちろん、今回ご提案する「7nmol/L」という数値の妥当性は、今後に議論されるでしょう。ただ少なくとも、3nmol/Lから9nmol/Lの間に収まるでしょう。また、テストステロンのみを指標とする妥当性についても、議論の余地があるでしょう。ただ現時点で、男女で分けるよりは公平であるということだけは言えます。今後に、テストステロンよりもさらに公平な指標のエビデンスが出てくるのなら、その時に具体的に提案されて比較検討されるべきでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 3

新しいカテゴリー分けにすると出てくる新たな問題とは? その解決策は?ただし、実際に「テストステロン制限なし」と「テストステロン制限あり」というカテゴリー分けにすることで、新たな問題が出てくることが想定されます。2つ挙げて、その解決策を検討しましょう。(1)「逆ドーピング」への取り締まり1つ目は、「制限あり」のカテゴリーで出場するために、テストステロンを下げる薬を使う男性が出てくることです。テストステロンなどを上げる薬(ドーピング)の逆、つまり「逆ドーピング」です。この解決策としては、ドーピングだけでなく、この「逆ドーピング」も取り締まりの対象にする必要があります。この点で、トランスジェンダー女性が「制限あり」のカテゴリーで出場する場合、見た目の女性らしくするホルモン療法は、テストステロンを下げる「逆ドーピング」になるため不可になります。一方で、トランスジェンダー男性が「制限なし」のカテゴリーで出場する場合でも、見た目を男性らしくするホルモン療法は、テストステロンを上げるドーピングになるため、当然不可になります。つまり、テストステロンに関係する薬は厳正に取り締まる必要があるわけです。あくまで、その選手本人の持つテストステロンのレベルを重要視するという公正さと一貫性が必要になります。よくよく考えると、もはや男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなります。すると、もはや男性らしいか女性らしいかという見た目がどうかよりも、個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。(2)精巣と身体能力の関係への理解2つ目は、性別適合手術(テストステロンをつくる精巣の除去)をしたトランスジェンダー女性だけでなく、病気(両側の精巣がんなど)や交通事故によって精巣を失った男性も、「制限あり」のカテゴリーで堂々と出場することができるわけですが、それに最初は理解が追い付かない人が出てくることです。この解決策としては、精巣と身体能力の関係への理解を広げる取り組みをする必要があります。確かに、手術をしても、骨格自体は以前のテストステロンの影響が残ります。しかし、精巣をなくして一定期間を経れば、筋力をはじめとする身体能力はやはり精巣がなくなった(テストステロン濃度が下がった)影響を強く受けます。また、彼らは、競技に有利になるために、精巣をなくしたわけではありません。この点で、彼らが元男性または男性だからというだけで、「制限なし」のカテゴリーにとどめるのは、「男性差別」に当たります。そして、これは、依然として性別二元制にとらわれていることになります。先ほどと同じように、もはや競技種目を男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなるため、男性かどうか、元男性かどうかという属性よりも、やはり個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。スポーツ競技にも「多様な性にYESの日」が来た時これまで、男女別にしてきかたらこそ、男女の違いに目が行ってしまっていました。これからは、男女の違いではなく、トランスジェンダーや性分化疾患かどうかでもなく、性別適合手術をしたかどうかでもなく、シンプルに血中テストステロン濃度が基準値以下か以上かだけでカテゴリー分けをして、選手個人個人の身体能力の違いとしてスポーツ競技を楽しむという新しい時代の転換期に来ているのではないでしょうか? そんなスポーツにおいても「多様な性にYESの日」が来た時こそ、再びかつてのように性の多様性をありのままに受け入れ、特別視しない世の中になっているのではないでしょうか?1)「同性愛の謎」pp.84-88:竹内久美子、文春新書、20122)「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」p.982:精神科治療学、星和書店、2016年8月3)「パリ・オリンピック女子ボクシング問題から考える誤解だらけの「性分化疾患」」:谷口恭、医療プレミア、20244)「血液検査用テストステロンキット ケミルミ テストステロンII」(添付文書)p.3:シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社、2024<< 前のページへ■関連記事記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 1記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

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第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?

まさか本当に“令和の米騒動”が起こるとはこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。一昨年夏、本連載で中日ドラゴンズの立浪 和義前監督の采配に関連して起きた“令和の米騒動”(第177回 「令和の米騒動」と神戸・甲南医療センター専攻医自殺・労災認定で感じた共通する“病根”)について書きましたが、まさか本当に“令和の米騒動”が起こるとは思ってもみませんでした。「米は買ったことがない」発言で江藤 拓農林水産大臣があっという間に“更迭”され、小泉 進次郎農水相が誕生しました。就任直後からテレビ番組にも積極的に出演、「備蓄米は随意契約で売り渡す」「米は5キロ2,000円にする」など、大胆発言を続けています。元々、発言の内容はともかく、パフォーマンスが上手な政治家だけに、野党やマスコミも少なからぬ興味と期待を持って米政策の行方を注視しているようです。その成否はさておいて、大臣が最前線に出てリーダーシップを発揮しながら政策を進めることはいいことですね。失敗した時の責任の所在も明確になりますし。重要法案である医療法改正案の今国会での成立が困難な状況にさて、大臣のリーダーシップでは、福岡 資麿厚生労働大臣は大丈夫なのでしょうか。今国会が始まってすぐに高額療養費制度の見直しのドタバタがありました(「第254回 またまた厚労省の見通しの甘さ露呈?高額療養費制度、8月予定の患者負担上限額の引き上げも見送り、政省令改正で済むため患者団体の声も聞かず拙速に進めてジ・エンド」参照)。基金設立を巡っていろいろ問題があった(「第251回 “タカる”厚生労働省(前編) 「課税のような形で製薬企業に拠出義務」の創薬支援基金(仮称)構想、最終的に財源は国費と『任意』の寄付で決着」参照)薬機法等改正法案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)はなんとか成立にこぎ着けたものの、年金制度改正法案(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案)は、政府・与党が法案提出時に削除した厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする仕組みを、立憲民主党の修正案を受け入れる形で復活させることになりました。少数与党ゆえの政権運営の難しさは理解できますが、厚労政策の一連の動きの中で、福岡厚労相が前面に出て何か大きなアクションを起こしたという報道は目にしません。さらに、厚労省としては重要法案である医療法改正案(医療法等の一部を改正する法律案)の今国会での成立が困難な状況になっています。地域医療構想の見直しや医師偏在是正に向けた総合対策、医療DXの推進など、一刻も早く進めなければならない政策を盛り込んだ法案だけに、「米は買ったことがない」発言並に大臣の力量、リーダーシップが問われる事態だと言えるでしょう。立憲民主が医療法改正案と野党提出の議員立法の同時審議を求め、自民党がこれに難色5月17日付のMEDIFAX Webは、「与野党の駆け引き激化で『棚ざらし』 医療法改正案」と題するニュースを配信、医療法改正案が「議員立法との同時審議を求める野党と、難色を示す与党との間で折り合いが付かず、衆院厚生労働委員会での実質的な審議にさえ入れていない」と書いています。厚労省は今国会に6本の法案を提出、特別弔慰金支給法改正案を最初に審議し、続いて薬機法、医療法、国民年金法の各改正案、2本の労働関連法案(労働施策総合推進法改正案、労働安全衛生法改正案)という順番で、衆院で審議する予定だったそうです。それが、同記事によれば、「薬機法までは予定通りの順番で審議が進んでいた。しかし立憲民主党が、次に審議する予定だった医療法改正案と野党提出の議員立法の同時審議を求め、自民党がこれに難色を示したため、衆院厚労委は開催のめどが立たない状況となった」とのことです。立憲民主が同時審議を求めた議員立法とは、「介護・障害福祉従事者の賃金の処遇改善法案」(立憲民主、日本維新の会、国民民主党が提出)と「訪問介護事業者を支援する法案」(立憲民主と国民民主が提出)で、厚労省提出法案と議員立法を同等の取り扱いで審議すべきと主張していました。自民党は、医療法改正案と内容に関連がないことなどを理由に、同時審議を認めませんでした。医療法改正案から1ヵ月半遅れで提出の年金法改正案を優先審議同時審議を認めない自民党に対し、立憲民主が抗議の姿勢を示した結果、自民党は審議の順番を調整、医療法改正案と年金法改正案に先行して、労働関連法案を審議することとなりました。このあたりの事情についてMEDIFAXは、立憲民主は「安衛法改正案を先に審議することを認めることで後の日程に余裕をつくり、提出が遅れていた年金制度改正法案の審議の時間切れを阻止する狙いもあった」と書いています。ということで衆院厚生労働委員会は労働関連法案を先行して審議し可決、現在は年金制度改正法案の審議に入っています。医療法改正案の衆院へ付託が4月3日、年金制度改正法案の衆院への付託はそれより1ヵ月半も遅い5月20日ですから、医療法改正案はまさに「棚ざらし」だったと言えるでしょう。今国会の会期末は6月22日で、もう1ヵ月を切っています。年金制度改正法案の審議ではこれから修正を行うことになり、もうひと悶着くらいありそうなことを考えると、医療法改正案の衆院での審議や参院への送付は極めて難しい状況になったと言えるでしょう。ちなみに、「医療法改正案を今国会で成立させるのは難しい」という情報は、私自身、5月半ばころ厚労省のある審議官を取材した知人の記者からも聞いていました。夏の参院選への影響を懸念するあまり、自民党内で年金制度改正法案の了承を得るのに時間がかかり、法案提出が予定より2ヵ月ほど遅れたことも致命的だったようです。医療提供体制整備や医師確保が喫緊の課題となっている地方には大ダメージ医療法改正案よりも年金法改正案がより重要であることは理解できます。野党にとっても「年金法改正案を修正させた」という事実は夏の参院選にプラスに働くため、そこに注力したい気持ちもわかります。ただ、医療法改正案の成立が今国会以降に先送りされる影響は極めて大きいでしょう。今回の医療法改正案には、前述のように、新たな地域医療構想の制度化に加え、昨年盛んに議論された医師偏在是正のための総合的な対策や、社会保険診療報酬支払基金を医療DX運営母体に改組するなど重要な政策が盛り込まれています。これらの重要政策のスタート時期も大幅に遅れる可能性が出てきたわけで、医療提供体制の整備や医師確保が喫緊の課題である地方にとって、そのダメージは決して小さくありません。とは言え、こうした負の影響は、「米は買ったことがない」といったわかりやすい失言ほどには、一般の人はもちろん、医療関係者にも理解しにくいものです。自民党厚労部会長や参院厚労委理事などを歴任し、「医療や介護に強い」という評判とともに昨年11月に就任した福岡厚労相ですが、厚労官僚の言い分を右から左へ流す(高額療養費制度の見直しはまさにそうでした)だけではなく、もう少し大臣らしい動き、リーダーシップを見せて欲しいと思うのは私だけでしょうか。

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4時間ごとの口腔ケア・口腔咽頭吸引でVAE発生率が減少【論文から学ぶ看護の新常識】第16回

4時間ごとの口腔ケア・口腔咽頭吸引でVAE発生率が減少4時間ごとの口腔ケアと口腔咽頭吸引が、人工呼吸器関連イベント(VAE)を有意に減少させることが、Khanjana Borah氏らの研究により示された。Acute and Critical Care誌2023年11月号に掲載された。南インドの三次医療センター集中治療室で人工呼吸器管理を必要とする患者に対する、4時間ごとの口腔咽頭吸引が人工呼吸器関連イベントに及ぼす影響:ランダム化比較試験研究チームは、機械的人工呼吸管理(MV)を受けている患者における人工呼吸器関連イベント(VAE)に対して、4時間ごとの口腔ケアおよび口腔咽頭吸引を組み合わせた介入が、標準的な口腔ケアプロトコルと比較してどのような効果をもたらすかを検証するため、ランダム化比較試験を実施した。対象は、新たに気管挿管され、72時間以上の人工呼吸器管理が予測される患者120例であり、対照群または介入群に無作為に割り付けられた。介入群には、4時間ごとにクロルヘキシジン溶液を用いた口腔ケアと口腔咽頭吸引が実施された。対照群には、標準的な口腔ケア(クロルヘキシジン溶液を用い1日3回)と必要時の口腔咽頭吸引がおこなわれた。介入後3日目および7日目には、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の評価のため気管内吸引物の検査がおこなわれた。主な結果は以下の通り。両群のベースラインにおける臨床的特徴は均質であった。VAEの発生率は、介入群(56.7%)が、対照群(78.3%)と比較して、統計的に有意に低かった(p論文はこちらBorah K, et al. Acute Crit Care. 2023;38(4):460-468.

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飲酒は膵がんに関連するのか~WHOの大規模プール解析

 アルコール摂取と膵がんリスクとの関連を示すエビデンスは国際的専門家パネルによって限定的、あるいは決定的ではないと考えられている。今回、世界保健機関(WHO)のInternational Agency for Research on Cancer(IARC)のSabine Naudin氏らは、30コホートの前向き研究の大規模コンソーシアムにおいて、アルコール摂取と膵がんリスクとの関連を検討した。その結果、性別および喫煙状況にかかわらず、アルコール摂取と膵がんリスクにわずかな正の関連が認められた。PLOS Medicine誌2025年5月20日号に掲載。 本研究における集団ベースの個人レベルのデータは、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米の4大陸にわたる30のコホートからプールした。1980~2013年に、がんを発症していない249万4,432人(女性62%、ヨーロッパ系84%、飲酒者70%、喫煙歴なし47%)を登録(年齢中央値57歳)、1万67例が膵がんを発症した。喫煙歴、糖尿病の有無、BMI、身長、教育、人種・民族、身体活動で調整した年齢・性別による層別Cox比例ハザードモデルにおいて、アルコール摂取量のカテゴリーと10g/日増加による膵がんのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・アルコール摂取量は膵がんリスクと正の相関を示し、1日0.1~5g未満と比べた1日30g以上60g未満および1日60g以上でのHR(95%CI)はそれぞれ1.12(1.03~1.21)および1.32(1.18~1.47)であった。・男女別では、女性で1日15g以上、男性で1日30g以上の場合に関連が明らかになった。・アルコール摂取量が10g/日増加すると、膵がんリスクは全体で3%増加し(HR:1.03、95%CI:1.02~1.04、p<0.001)、喫煙経験者では3%増加した(HR:1.03、95%CI:1.01~1.06、p=0.006)が、性別(異質性:0.274)または喫煙状況(異質性:0.624)による異質性は示されなかった。・地域別では、ヨーロッパ/オーストラリア(10g/日増加によるHR:1.03、95%CI:1.00~1.05、p=0.042)および北米(HR:1.03、95%CI:1.02~1.05、p<0.001)では関連が認められたが、アジア(HR:1.00、95%CI:0.96~1.03、p=0.800、異質性:0.003)では関連は認められなかった。・アルコールの種類別では、ビール(10g/日増加によるHR:1.02、95%CI:1.00~1.04、p=0.015)とスピリッツ/リキュール(95%CI:1.03~1.06、p<0.001)は膵がんリスクとの正の関連が認められたが、ワイン(HR:1.00、95%CI:0.98~1.03、p=0.827)については認められなかった。 著者らは、「地域やアルコールの種類による関連性の違いは、飲酒習慣の違いを反映している可能性があり、さらなる調査が必要」と考察している。

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高齢者の不眠を伴ううつ病に対する薬理学的介入効果の比較〜ネットワークメタ解析

 高齢者における睡眠障害を伴ううつ病に対するさまざまな薬物治療の有効性と安全性を比較するため、中国・北京大学のJun Wang氏らは、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychogeriatrics誌2025年5月号の報告。 主要な国際データベース(Medline、Cochrane Library、Scopus、Embase、WHO国際臨床試験登録プラットフォーム、ClinicalTrialsなど)より、事前に設定したワードを用いて、検索した。薬物治療またはプラセボ群と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象に含めた。ネットワークメタ解析におけるエフェクトサイズの推定には、標準平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)を用いた。データ解析には、頻度主義アプローチを用いた。安全性評価には、治療中に発現した有害事象および重篤な有害事象を含めた。 主な内容は以下のとおり。・検索された文献8,673件のうち、12件のRCTが基準を満たした(3,070例)。・すべての薬物治療介入は、不眠症重症度指数(ISI)およびうつ病スコアの低下に有効的であった。・セルトラリンは、高齢のうつ病および不眠症患者におけるISIおよびハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の改善において、最も効果的な介入である可能性が高かった。【ISI】SMD:−2.17、95%CI:−2.60~−1.75【HAM-D】SMD:−3.10、95%CI:−3.60~−2.61・安全性評価では、エスシタロプラム、zuranoloneで報告された患者数において、ゾルピデム、seltorexant、エスゾピクロンは、プラセボまたは他の治療薬と比較し、重篤な有害事象リスクが高かった。 著者らは「セルトラリンは、高齢者の睡眠障害を伴ううつ病において最適な治療選択肢である可能性が最も高かった。エスシタロプラム、zuranolone、seltorexantでは、ISI改善において、有意な効果が認められなかった。これらの結果はエビデンスに基づいた臨床実践に役立つはずである」と結論付けている。

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高額療養費制度見直しががん医療現場に与える影響/日本がんサポーティブケア学会

 2025年5月に開催された第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会において、高額療養費制度の見直しに関するセッションが行われた。同セッションでは、医療者と患者双方のパネリストが登壇し議論が行われている。がん医療における高額療養費制度見直しに対する課題の多さが感じとられた。「誰一人取り残さない」というがん対策基本法の目標は守られているのか 帝京大学の渡邊 清高氏は高額療養費制度見直しの背景と、同学会が2月26日に発表した声明について説明した。制度見直しの目的は社会保障制度の持続可能性の確保であるが、提案された見直し案には高額療養費の上限額引き上げが含まれており、患者ケアに影響を与える可能性が懸念されている。実施は見送られたものの、同学会は見直し案について、さらなる議論が必要であると共に患者と学会の声を聞くことの必要性を指摘した。 支持療法の進歩によりがん患者は治療を受けながらより長く生きられるようになった。それは一方で、長期間にわたって支持療法を含むがん治療を受けざるを得ない現状を意味する。費用を理由に患者が治療を断念することは、「誰一人取り残さない」というがん対策基本法の目標に反すると指摘し、経済的安定が不可欠であると渡邊氏は訴える。患者団体と学会から発信された現場の声が国会を動かした NPO法人希望の会の轟 浩美氏からは、高額療養費上限額引き上げに関する提言活動について説明があった。轟氏は全国がん患者団体連合会(全がん連)が患者の声をまとめ、国会議員や学会との関係構築を行っていたこと、さらに緊急アンケートを通じて実際の患者の声を集めたことが提言活動の成功に繋がったと言う。 政府が上限額引き上げを発表した前日の2024年12月24日、全がん連は厚生労働省に要請を提出し、患者の月間上限額の大幅な引き上げや「多数回該当」の上限について説明した。また、国会で現行制度下でも患者が経済的に苦しんでいる現状、費用を理由とした「受診控え」や効果が不明な安価な代替療法に頼る人もいることを強調した。 国会での理解の深化と議員からの質問が増えたことでメディア報道が広がり、そこに医学系学会からの声明が加わったことでさらに大きな影響を与えたという。とはいえ、再提案の可能性について継続的な不安があることを指摘した。政策決定における「現場視点の欠如」は深刻な課題 全がん連の天野 慎介氏は、今回の上限額引き上げにおける重要な要因は、政策決定における「現場の視点の欠如」であり、高額療養費制度を実際に利用している患者や医療専門家からの十分なヒアリングがなかったことを指摘した。がん治療が短期間であると誤解している政策立案者も少なくなく、長期的な維持療法のことを理解していないと述べる。学会はがん治療の劇的な進化とその価値を今以上に伝えて費用について理解を促進させる必要があると訴えた。 同学術集会の大会長であり、日本肺学会理事長でもある山本 信之氏は、肺がんを例に具体例を紹介した。その1つとして、EGFR遺伝子変異陽性肺がんを挙げた。EGFR変異陽性肺がんの治療は、古く安価な薬剤から、有効性が高い新しい薬剤にスタンダードが移行している。多くの肺がん患者は75歳以上で所得が低い。高額療養費の上限が引き上げられ、患者負担が上がることで、患者は安価な選択肢を選ばざるを得なくなる可能性があると述べた。 今回のセッションでは、高額療養費制度の見直しについて、医療者と患者それぞれの立場からの意見が述べられ、今後のより良い制度設計に向けて、継続的な議論と連携が必要であることが確認された。

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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブが新たな1次治療の選択肢に/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、2025年3月27日にアミバンタマブ(商品名:ライブリバント)とラゼルチニブ(同:ラズクルーズ)の併用療法について、「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」の適応で、厚生労働省より承認を取得し、2025年5月21日にラゼルチニブを販売開始した。ラゼルチニブの販売開始により、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療で、アミバンタマブ+ラゼルチニブが使用可能となった。そこで、2025年5月22日にメディアセミナーが開催され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが1次治療で使用可能となったことの意義や、使用上の注意点などを林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)が解説した。EGFRとMETを標的とし、EGFR-TKIのアンメットニーズを満たす可能性 『肺診療ガイドライン2024』では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの1次治療として第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のオシメルチニブ単剤を強く推奨している(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A)1)。 しかし、第3世代EGFR-TKIによる治療でも耐性が生じてしまうことも報告されている。耐性機序としては、TP53遺伝子変異、EGFR遺伝子変異(C797S変異)、MET遺伝子増幅などがある。MET経路はEGFR経路とクロストークすることが知られており、EGFR-TKIによってEGFR経路を阻害してもMET経路が活性化してしまうことで、がん細胞は増殖・生存すると考えられている。 そこで開発されたのが、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブである。アミバンタマブは、EGFRおよびMETに結合することで、それらへのリガンド結合を阻害し、MET経路の活性化を抑制することが期待される。また、免疫細胞上に存在するFcγ受容体を介して抗体依存性細胞傷害活性を惹起することによっても、抗腫瘍活性を示すことが考えられている。オシメルチニブ単剤と比較してPFSとOSを改善 未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者を対象として、アミバンタマブ+ラゼルチニブ、ラゼルチニブ単剤とオシメルチニブ単剤を比較した国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」2)において、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群は、オシメルチニブ単剤群と比較して無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に改善したことが報告されている。本試験の結果を基に、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLCの1次治療として、アミバンタマブ+ラゼルチニブの製造販売が承認された。PFSおよびOSの結果は以下のとおり(アミバンタマブ+ラゼルチニブ群vs.オシメルチニブ単剤群)。<PFS(主要評価項目)>・PFS中央値23.72ヵ月vs.16.59ヵ月(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.58~0.85、p=0.0002)・2年PFS率48%vs.34%<OS(重要な副次評価項目)>・OS中央値未到達vs.36.73ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0048)・死亡が認められた割合40.3%vs.50.6%注意すべき副作用とその対処法 アミバンタマブ+ラゼルチニブの使用において注意すべき副作用として、皮膚障害、静脈血栓塞栓症、インフュージョンリアクションなどがある。これらについて、林氏は「発現頻度が高く、注意が必要となるが、十分にマネジメント可能である」と述べる。そこで、林氏はこれらの対処法を紹介した。 皮膚障害については、非常に発現が多いこともあり、医師による患者教育が重要となると林氏は指摘する。実際には、皮膚の保湿をしっかりと行い、皮疹が発現したときにはすぐに外用薬を使用するように指導するほか、低刺激の洗浄剤を用いて体をきれいに保つことを指導するという。洗浄剤について、林氏は「子供用のシャンプーの使用をおすすめすることもある」と述べ、低刺激のものを選ぶことの重要性を強調した。 静脈血栓塞栓症は、MARIPOSA試験のアミバンタマブ+ラゼルチニブ群の37%に発現したことが報告されており、留意が必要な有害事象である。これについては、予防的抗凝固薬の投与により発現が抑えられることがわかってきており、今回の承認にあたって添付文書に「治療開始4ヵ月間は、アピキサバン1回2.5mgを1日2回経口投与すること」と記載されている。 インフュージョンリアクションは初回投与時(1サイクル目の1日目)に発現することが多く、対策としては、とくに最初の2回目の投与まではデキサメタゾンを用いると林氏は述べた。EGFR-TKI耐性後のアミバンタマブ+化学療法も使用可能に オシメルチニブ単剤療法で病勢進行が認められたEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA-2試験」3)の結果から、EGFR-TKIによる治療後に病勢進行が認められたNSCLC患者に対し、カルボプラチンおよびペメトレキセドとの併用においてアミバンタマブが使用可能となったことも2025年5月19日に発表されている。MARIPOSA-2試験において、アミバンタマブ+化学療法群は化学療法群と比較して、主要評価項目のPFSが有意に延長し(HR:0.48、95%CI:0.36~0.64、p<0.001)、PFS中央値はアミバンタマブ+化学療法群6.28ヵ月、化学療法群4.17ヵ月であった。 以上から、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の1次治療および2次治療でアミバンタマブが使用可能となった。これを受け、林氏は「EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の生存期間の改善のために、アミバンタマブが今後幅広く使用されることが期待される」と締めくくった。

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1型ナルコレプシー、oveporexton睡眠潜時を改善/NEJM

 1型ナルコレプシーの治療において、プラセボと比較して血液脳関門を通過する経口オレキシン2型受容体選択的作動薬oveporexton(TAK-861)は、覚醒、眠気、情動脱力発作の指標に関して、用量依存性に8週間にわたり臨床的に意義のある改善をもたらし、不眠や尿意切迫の頻度が高いものの肝毒性は認めないことが、フランス・Gui de Chauliac HospitalのYves Dauvilliers氏らが実施した「TAK-861-2001試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年5月15日号で報告された。4つの用量を検討する第II相無作為化プラセボ対照比較試験 TAK-861-2001試験は、1型ナルコレプシーにおけるoveporextonの有効性と安全性の評価を目的とする第II相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2023年2~10月に米国、欧州、日本、オーストラリアで参加者の無作為化を行った(Takeda Development Center Americasの助成を受けた)。 年齢18~70歳で1型ナルコレプシーと診断された患者112例(平均年齢34歳、女性52%)を登録した。これらの患者を、oveporexton 0.5mg(1日2回)を投与する群(23例)、同2mg(1日2回)群(21例)、同2mg投与後に5mg投与(1日1回)群(23例)、同7mg投与後にプラセボ投与(1日1回)群(23例)、プラセボ(1日2回)群(22例)に無作為に割り付けた。  主要エンドポイントは、覚醒維持検査(MWT)で評価した平均睡眠潜時(入眠までに要した時間:範囲は0~40分、20分以上で正常)のベースラインから8週までの平均変化量であった。副次エンドポイントは、Epworth眠気尺度(ESS)の総スコア(範囲:0~24点、10点以下で正常)のベースラインから8週までの変化量、8週の時点における1週間の情動脱力発作の発生率、有害事象の発現などであった。睡眠潜時とESS総スコアはすべての用量で有意差 MWTによる平均睡眠潜時のベースラインから8週までの平均変化量は、oveporexton 0.5mg×2回群が12.5分、同2mg×2回群が23.5分、同2mg+5mg群が25.4分、同7mg群が15.0分、プラセボ群は-1.2分であり、プラセボ群に比べoveporextonの4つの用量群はいずれも有意に良好であった(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.001)。 8週の時点におけるESS総スコアの平均変化量は、それぞれ-8.9点、-13.8点、-12.8点、-11.3点、-2.5点と、プラセボ群に比べ4つの用量群はいずれも有意に優れた(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.004)。 また、8週の時点での1週間の情動脱力発作の発生率は、それぞれ4.24件、3.14件、2.48件、5.89件、8.76件であり、2mg×2回群と2mg+5mg群で有意差を認めた(プラセボと比較した補正後p値は、2mg×2回群と2mg+5mg群で<0.05)。不眠のほとんどは1週間以内に消失 oveporexton群では、70例(78%)に有害事象が発現した。oveporexton関連の有害事象のうち最も頻度が高かったのは、不眠(48%に発現、ほとんどが1週間以内に消失)、尿意切迫(33%)、頻尿(32%)であった。重度有害事象は7例に認めた。 重篤な有害事象として足関節果部骨折が1例(2mg+5mg群)で発現したが、試験薬との関連はなかった。有害事象による試験中止の報告はなく、自殺行動/自殺念慮、血圧や心拍数の顕著な変動も認めなかった。また、肝毒性は発現しなかった。 著者は、「この試験は他のナルコレプシー治療薬と有効性を比較するものではないが、oveporextonはMWTによる平均睡眠潜時を用量依存性に14~27分近く改善し、現在使用可能なナルコレプシー治療薬で観察されている2~12分の改善に比べ大幅に優れていた」としている。

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希少がん患者、新たな放射線治療で副作用なくがんを克服

 米ミシガン州レッドフォード在住のTiffiney Beardさん(46歳)は、2024年4月に唾液腺の希少がんと診断されて以来、困難な道のりが待ち受けていることを覚悟していた。Beardさんが罹患した腺様嚢胞がんは神経に浸潤する傾向があるため、治療の副作用として、倦怠感、顎の痛み、食事や嚥下の困難、味覚の喪失、頭痛、記憶障害などを伴うのが常だからだ。Beardさんの場合、がんが脳につながる神経にまで浸潤していたことが事態をさらに悪化させていた。 Beardさんの担当医は、頭頸部がんに使用するのは米国で初めてとなる高度な放射線治療(陽子線治療)を行った。その結果、治療中にBeardさんに副作用が出ることはなかったという。Beardさんは、「ガムボールほどの大きさの腫瘍の摘出後、合計33回の陽子線治療を受けたが、副作用は全くなく、仕事を休むこともなかった」とニュースリリースで述べている。米コアウェル・ヘルス・ウィリアム・ボーモント大学病院のRohan Deraniyagala氏らが報告したこの治療成功症例の詳細は、「International Journal of Particle Therapy」6月号に掲載された。 従来の放射線治療では、高エネルギーX線などの光子線を用いてがん細胞を死滅させるのに対し、陽子線治療では、正に帯電した水素原子の原子核(陽子)を加速器で加速させて作ったビーム(陽子線)を、がん細胞周囲の健康な組織や臓器へのダメージを極力抑えながらより正確に照射して、がん細胞を死滅させることができる。 近年、最新の放射線治療として、照射装置を回転させながら(アーク照射法)細い陽子線を腫瘍に動的に照射する「動的スポットスキャニング法による陽子アーク治療(Dynamic spot-scanning proton arc therapy)」が注目を集めているが、病院への導入は進んでいない。一方、Beardさんに実施された陽子線治療は、照射装置の回転を一定の角度で停止させて陽子線を照射する、step and shoot方式のスポットスキャニング法による陽子アーク治療である(step-and-shoot spot-scanning proton arc therapy、以下、step and shootスポットスキャンアーク治療)。 Beardさんの治療は2024年6月に開始され、3カ月間、週5日、1日30分行われた。治療は2024年8月初旬に完了した。それ以来、Beardさんはがんを克服した状態を維持している。また、研究グループによると、脳を含む体の他の部位における放射線毒性も確認されていないという。 Deraniyagala氏は、「この治療により顔の左側の皮膚が少し変色したが、喜ばしいことに、それ以外の副作用が出ることはなかった」と語る。 Deraniyagala氏はまた、他の患者もこの治療によりBeardさんと同じ結果を得ることに期待を示している。同氏は、「陽子線治療は急速に進化し続けている。Beardさんの症例では、step and shootスポットスキャンアーク治療が非常に効果的であることが示されたが、これはさらに優れた治療法の開発に向けた最新のステップに過ぎない。Beardさんがほとんど副作用を経験しなかったという事実は、この種の治療法にとって素晴らしい成果であり、今後さらに良いことが起こるという良い兆候だ」と述べている。

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原発性アルドステロン症診断のための座位生理食塩水負荷試験は有効か?

 高血圧患者の最大30%が罹患しているとされる原発性アルドステロン症の有無を確認するために広く実施されている特定の検査はしばしば不正確であることが、新たな研究で示された。カルガリー大学(カナダ)医学部准教授のAlexander Leung氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に5月6日掲載された。Leung氏は、「この不正確な検査をなくすことで診断精度が向上し、治療開始までの時間が短縮される可能性がある。これは高血圧治療の領域における大きなパラダイムシフトとなる」と述べている。 米クリーブランド・クリニックの情報によると、原発性アルドステロン症とは、血中のナトリウムとカリウムの濃度を調節するホルモンであるアルドステロンが過剰に分泌される病態を指す。原発性アルドステロン症の人では塩分が体内に蓄積されやすくなり、高血圧が生じる。 原発性アルドステロン症には有効な治療法が存在するものの、診断に至るまでのプロセスが複雑なため、原発性アルドステロン症患者のうち、実際に診断され治療を受けている患者は全体の1%に満たないとされている。研究グループによると、血液検査でアルドステロンとレニンの濃度比が基準値を超え、原発性アルドステロン症が疑われた場合には、診断を確認するために、生理食塩水負荷試験などの試験が実施される。生理食塩水負荷試験では、患者に生理食塩水を点滴で投与し、医師が血液サンプルのアルドステロン濃度を測定する。 今回の研究では座位で行う生理食塩水負荷試験(seated saline suppression test;SSST)に着目し、156人を対象にSSSTが本当に原発性アルドステロン症の診断に役立つのかを検討した。対象者は、全例が原発性アルドステロン症のスクリーニング検査で陽性となり、その結果を確認するための二次検査としてSSSTを受けた。また全ての患者が、アルドステロンを過剰に産生している副腎の外科的摘出か、アルドステロンの働きを阻害する薬剤の投与のいずれかを受けた。この治療に対する患者の反応を、患者が実際に原発性アルドステロン症であるかどうか、つまりSSSTの正確性を評価する基準とした。 その結果、SSST後のアルドステロン濃度の中央値は、治療に反応した群で329pmol/L(四分位範囲227〜525)、反応しなかった群で255pmol/L(同162〜346)と重複しており、両群を区別することはできていなかった(ROC曲線下面積62.1%)。実際には、治療に反応した患者の多くが、SSSTでは誤って「正常」に分類されていたという。 研究グループは、「SSSTによる確認検査は、スクリーニング検査で陽性を示した患者の診断にはほとんど寄与しない。むしろ、SSSTを頼りにすると、誤った情報に基づきその後の治療が決定されてしまう可能性があり、治療に反応し得る患者であっても介入の機会を逸することになるかもしれない」と指摘している。 その上で研究グループは、「原発性アルドステロン症の診断手順からルーチンの確認検査を削除することは、診断精度の向上や、ほとんどの患者の診断や治療開始までに要する時間の短縮につながる可能性のあることが、われわれの研究で示された」と結論付けている。

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自閉スペクトラム症の光過敏に新知見

 自閉スペクトラム症(ASD)は、聴覚過敏や視覚過敏などの感覚異常を伴うことが知られているが、今回、ASDでは瞳孔反応を制御する交感神経系に問題があることが新たに示唆された。研究は帝京大学文学部心理学科の早川友恵氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月1日掲載された。 ASDは、様々な状況における社会的コミュニケーションの障害、ならびに行動や興味に偏りが認められる複雑な神経発達症の一つだ。発達初期に現れるこれらの症状に加え、聴覚・嗅覚・触覚などの問題に併せ、光に対する過敏性(羞明)に悩まされることが多い。 羞明はASDの視知覚における特徴的な症状であり、適切な光量を調節する瞳孔反応の問題に起因している可能性がある。瞳孔反応は瞳孔の散大(散瞳)と収縮(縮瞳)からなり、それぞれ交感神経と副交感神経により適切に制御されている。これまでの研究の多くは、対光反射の観察から「ASDでは光刺激に対して縮瞳が弱い」という結果を導いてきたが、もう一つの可能性である「暗刺激に対して過剰な散瞳が起こっている」という点については十分な研究が行われてこなかった。このような背景を踏まえ、著者らはASDにおける瞳孔反応の神経学的機序を解明するため、明条件と共に暗条件下で瞳孔反応がどのように変化するかを調査した。 本研究は、自閉症者コミュニティより募集したASD17名(ASD群)と参加者募集会社により集められた定型発達23名(TD群)で実施した。両群の感覚特性は日本版青年・成人感覚プロファイル(AASP-J)によって評価された。刺激呈示には24インチのLCDモニターを使用し、瞳孔反応のデータ取得にはサンプリングレート60Hzのアイトラッキングシステムを使用した。実験1では、薄暗い画面(2.75cd/m2)を10秒間提示した後、5秒間隔で明条件(89.03cd/m2)と暗条件(0.07cd/m2)が交互に合計24セット繰り返された。続いて行われる実験2では、薄暗い画面を10秒間提示した後、30秒間隔で明/暗条件が交互に合計10セット繰り返された。 参加者の平均年齢(±標準誤差)は、ASD群とTD群でそれぞれ38.7(±2.3)歳と37.9(±2.0)歳であり、両群間に差はなかった。また、男女比、日本版ウェクスラー成人知能検査による知能検査にも両群間で有意な差は認められなかった。AASP-Jテストでは、ASD群で「感覚過敏」および「感覚回避」スコアが高く、TD群との間に有意差が認められた(t検定、各p<0.01)。 ASD群の瞳孔反応は、特に明暗が急速に切り替わる実験1で瞬きによるデータの欠損が有意に多く(p<0.01)、その結果、評価対象例数が減少した。実験1の薄暗い状態での瞳孔径は、ASD群とTD群で有意差は認められなかった(5.7±0.5mm vs 5.8±0.3mm、p=0.8)ものの、続いて行われた実験2の薄暗い状態での瞳孔径は、ASD群が大きいままなのに対し、TD群で有意に小さくなっていた(5.9±0.3mm vs 4.9±0.3mm、p=0.01)。 明暗刺激時における、ベースラインから瞳孔径の最大変化量(最大振幅)とそれに至るまでの時間(潜時)は両群間で有意な差は認められなかった。しかし、暗条件下の散瞳開始初期の速度は、ASD群で有意に速かった。実験1では、最大振幅の37%に到達するまでの潜時はASD群で有意に速く(p=0.01)、実験2の最大振幅の37%と63%に到達するまでの潜時もASD群で有意に速かった(各p=0.03)。 本研究について著者らは「羞明を伴うことの多いASDでは、薄暗い状態で瞳孔径が大きく、暗条件では散瞳の速度が速い傾向にあることが示された。これらの結果から、ASDでは瞳孔を制御する交感神経の過剰な興奮で散瞳状態にあり、その背景として散瞳と縮瞳をバランスする青斑核の働きに問題があると考えられる。ASDの羞明は、周囲の光に合わせて瞳孔径を適切に調整できないことに起因するのかもしれない」と述べている。

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帯状疱疹ワクチンが認知症を予防する:観察研究が質の低いランダム化比較試験を凌駕するかもしれない(解説:名郷直樹氏)

 水痘ウイルスが長く神経系に留まり、認知機能などに影響を及ぼす可能性が疑われているが、ウェールズでの帯状疱疹生ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン:シングリックスではない)と認知症予防の研究1)とほぼ同時に発表された、オーストラリアの6つの州にまたがる65の一般医(general practitioner)の電子レコードを利用した観察研究である2)。 2016年の帯状疱疹生ワクチンの無料接種が開始された時期に、ワクチン接種対象者と非接種対象者を比較し、認知症の発症との関連を見た、ビッグデータを利用したコホート研究である。 研究デザインが準実験的研究と書かれているように、観察研究でありながらさまざまな工夫がなされた研究である。まず曝露群と比較対照群の設定であるが、実際の接種者ではなく、無料の接種が始まる前に80歳の誕生日を迎えた非接種対象者と、開始後に誕生日を迎えた接種対象者を比較し、ランダム化比較試験のITT(intention to treat)を模倣した解析を行っている。 また、ランダム化されていない観察研究の最大の問題点は交絡因子の調整であるが、この研究では接種開始時期周辺2~3週間に誕生日を迎える対象者に限る解析を行うことで、交絡の危険に対処している。実際にベースラインの両群の背景はよくそろっている。さらに、データ内のワクチン接種対象外のより高齢者のうち接種対象群に最も年齢が近いグループ(1918年5月13日~1927年8月1日に出生)を対照群として追加し、この2つの解析の対象者の背景の違いを検討することでも交絡の可能性を見ている。 結果であるが、7.4年の追跡期間における新規の認知症の診断は、接種対象群で3.7%、非接種対象群で5.5%、リスク差と95%信頼区間は-1.8(-3.3~-0.4)と接種対象群で1.8%少ないというものである。この接種対象群の認知症リスクの低下は、使用する統計モデル、解析対象者の組み入れ幅、追跡期間の違いに対しても一貫して示されている。 また観察研究におけるもう1つのバイアスは、曝露時期と追跡開始時期のギャップによって曝露群にイベントが起きない時期が解析に組み入れられることで起こるimmortal time biasであるが、これも追跡開始の猶予期間を考慮した解析で同様の結果が示され、大きな問題はないと考えられる。 曝露開始前後に対象者を限ることで交絡を避け、猶予期間の考慮でimmortal time biasを避け、RCTに準じたITTに近い解析で行われたこの研究結果は、未知の交絡因子の可能性を除外できるわけではないが、質の低いRCTよりも妥当な結果かもしれない。ビッグデータの利用によって、target trial emulationと共に、今後の観察研究のひな型の1つになる研究である。

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