サイト内検索|page:24

検索結果 合計:35608件 表示位置:461 - 480

461.

薬剤師連携で精神疾患患者の薬理学的介入を最適化できるか

 臨床薬剤師との連携による服薬レビュープロセスは、精神疾患および身体的合併症を有する高齢患者に対する薬物療法の最適化につながる可能性がある。スロベニア・マリボル大学のMatej Stuhec氏らは、服薬レビューにおける臨床薬剤師の推奨が、薬剤数の変化、潜在的に不適切な薬剤(PIM)の使用、潜在的な薬物間相互作用(DDI)、治療ガイドラインの順守などにどのような影響を及ぼすかを評価した。Frontiers in Pharmacology誌2025年9月1日号の報告。 本研究は、スロベニアの精神科病院において、レトロスペクティブ非介入研究として実施された。対象は、2013〜18年に服薬レビューのために紹介され、身体的合併症(心不全、動脈性高血圧、糖尿病)に関連する治療変更を少なくとも1回受けた65歳以上の精神疾患入院患者100例。臨床薬剤師は、Pharmaceutical Care Network Europeの定義によるタイプ3の服薬レビュー(高度な服薬レビュー)を実施した。服薬レビュー完了後すぐに、病院の電子システムに推奨事項を記録した。服薬レビュー前と退院時における電子システムから抽出されたアウトカムのデータをシステマティックにレビューした。主要アウトカムは、介入前後の薬剤数、PIMの使用、DDIの変化とした。DDIは、Lexicomp Onlineデータベースを用いて特定し、Xタイプ(禁忌)およびDタイプ(重篤)に分類した。副次的アウトカムは、心不全、動脈性高血圧、糖尿病の治療ガイドラインの順守とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は78.1±6.78歳であった。・総薬剤数は6.6%減少した(1,144→1,068、p<0.001)。また、承認率は59.2%であった。・レビュー後、XタイプDDIは75.8%減少し(33→8、p<0.001)、DタイプDDIは56.9%減少した(188→81、p<0.001)。・PIM数も有意に減少し(p<0.001)、Priscus Listに基づくと29.5%減少し(308→217)、Beers Criteriaに基づくと17.5%減少した(343→283)。・身体的合併症の治療ガイドラインの順守率は有意に改善した(3.3〜13.2%→50.0〜72.6%、p<0.001)。 著者らは「臨床薬剤師との連携による服薬レビュープロセスは、薬剤数、PIM、DDIを効果的に減少し、治療ガイドラインの順守率も有意に向上させることが示された」としている。

462.

加工食品、がん罹患リスクと関連する保存料は?/BMJ

 フランス・ソルボンヌ・パリ・ノール大学のAnais Hasenbohler氏らは大規模前向きコホート研究において、加工食品で広く使用されている保存料の摂取と、がん(全体、乳がん、前立腺がん)罹患率上昇に、複数の正の関連が観察されたことを報告した。保存料は、微生物や酸化による劣化を防ぐことで保存可能期間を延長する、包装食品に添加される物質。それら保存料については、in vivoおよびin vitroの実験的研究において、終末糖化産物(AGE)ならびに変異原性および潜在的発がん活性に関与する負の影響が示唆されていた。BMJ誌2026年1月7日号掲載の報告。大規模前向きコホートで、保存料の摂取量とがん罹患の関連を評価 保存料が添加された食品とがん罹患率の関連を大規模前向きコホートで調べる検討は、French NutriNet-Sante cohort(2009~23年)のデータを用いて行われた。 対象は、ベースラインで少なくとも2回の24時間食事記録を完了し、がんに罹患していない15歳以上10万5,260例であった。 研究グループは、ブランド加工食品に含まれている保存料の累積時間依存摂取量を、24時間食事記録を用いて評価し、3つの食品成分データベースとNutriNet-Santeデータベースを統合して加工食品に含まれる特定の食品添加物を調べ、事後的ラボ解析で最も頻繁に摂取された添加物と食品の組み合わせについて評価した。 参加者を、保存料(単一、グループ)別の摂取量で三分位に分類(第1三分位~第3三分位)し(参加者の3分の1以上が摂取していた保存料では参加者を性別に低・中・高摂取者の三分位に分類。それ以外は性別に中央値により非摂取者および低/高摂取者に分類)、摂取量とがん罹患率の関連を、潜在的交絡因子を補正した多変量比例ハザードCoxモデルを用いて解析した。数種の保存料で、摂取量が多いとがん罹患率が上昇 参加者の平均年齢は42.0歳(SD 14.5)、女性が78.7%であった。平均追跡期間7.57年(SD 4.56)において、4,226例ががん罹患の診断を受けていた(乳がん1,208例、前立腺がん508例、大腸がん352例、その他2,158例)。 数種の保存料について、摂取量が多いこととがん罹患率が高いことの関連が次のように認められた。・非抗酸化物質の総摂取量と(1)全がん(高摂取者vs.非摂取/低摂取者のハザード比[HR]:1.16[95%信頼区間[CI]:1.07~1.26、尤度比検定のp<0.001]、60歳時点の絶対がんリスクはそれぞれ13.3%vs.12.1%)および(2)乳がん(1.22[1.05~1.41、尤度比検定のp=0.02]、5.7%vs.4.8%)。・ソルビン酸の総摂取量(とくにソルビン酸カリウム)と、(1)全がん(1.14[1.04~1.24、尤度比検定のp=0.01]、13.4%vs.11.8%)および(2)乳がん(1.26[1.07~1.49、尤度比検定のp=0.02]、5.7%vs.4.6%)。・亜硫酸塩の総摂取量と、全がん(1.12[1.02~1.24、尤度比検定のp=0.03]、13.4%vs.11.9%)。・ピロ亜硫酸カリウムと、(1)全がん(1.11[1.03~1.20、尤度比検定のp=0.01]、13.5%vs.12.0%)および(2)乳がん(1.20[1.04~1.38、尤度比検定のp=0.01]、5.7%vs.4.9%)。・亜硝酸ナトリウムと、前立腺がん(1.32[1.02~1.70、傾向のp=0.03]、4.2%vs.3.4%)。・硝酸カリウムと(1)全がん(1.13[1.05~1.23、尤度比検定のp=0.001]、14.0%vs.12.0%)および(2)乳がん(1.22[1.05~1.41、尤度比検定のp=0.003]、5.9%vs.4.8%)。・酢酸塩の総摂取量と(1)全がん(1.15[1.06~1.25、尤度比検定のp=0.003]、14.3%vs.12.2%)および(2)乳がん(1.25[1.07~1.45、尤度比検定のp=0.02]、6.1%vs.4.9%)。・酢酸と全がん(1.12[1.01~1.25、尤度比検定のp=0.01]、14.4%vs.12.4%)。・エリソルビン酸ナトリウムと、(1)全がん(1.12[1.04~1.22、尤度比検定のp<0.001]、13.5%vs.11.9%)および(2)乳がん(1.21[1.04~1.41、尤度比検定のp=0.01]、5.7%vs.4.8%)。がんと関連しない保存料は17種のうち11種 個別に検証した保存料17種のうち11種は、がん罹患との関連が示されなかった。 著者は、「がん発症との関連をより深く理解するためには、健康関連バイオマーカーをベースとした疫学調査および実験的研究を行う必要があるが、もし今回の新たなデータが確認されれば、消費者保護強化の観点から、食品業界に対して添加物の使用規定の見直しを求めることになる。少なくとも今回得られた知見は、消費者に、加工食品は最小限にとどめ新鮮な食品を好んで食するよう推奨する根拠となるものである」とまとめている。

463.

妊娠糖尿病予防、とくに有効な介入手段は?/BMJ

 英国・リバプール大学のJohn Allotey氏らi-WIP Collaborative Groupは、被験者個人データ(IPD)に基づくメタ解析を行い、妊娠中のライフスタイル介入は、診断基準によるばらつきはあったが妊娠糖尿病を予防しうることを示した。妊娠中の身体活動と食事に基づく介入は、妊娠中の体重増加の抑制に効果的であることは示されているが、妊娠糖尿病への影響や、どのような介入が最も効果的かについてはエビデンスにばらつきがあった。BMJ誌2026年1月7日号掲載の報告。ライフスタイル介入の妊娠糖尿病への影響を2段階IPDメタ解析で検証 研究グループは、ライフスタイル介入の妊娠糖尿病への影響を評価するため、母体のBMI、年齢、出産回数、民族性、教育レベル、介入によって異なるかどうかを検討し、有効性に基づき介入を順位付けした。 主要な電子データベース(1990年1月~2025年4月)を利用し、妊娠中のライフスタイル介入(身体活動ベース、食事ベース、あるいは両者による)の妊娠糖尿病への影響に関する無作為化試験を対象にメタ解析を行った。 主要アウトカムは、あらゆる基準および英国国立医療技術評価機構(NICE)の基準で定義した妊娠糖尿病。その他のアウトカムは、国際糖尿病・妊娠学会(IADPSG)および修正IADPSG基準で定義した妊娠糖尿病などとした。 2段階IPDメタ解析で、要約オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)、相互作用(サブグループの影響)を、絶対リスク減少値と共に推算した。非IPD試験からの集計データは、可能な限りにおいてメタ解析に加えた。介入効果は、ネットワークメタ解析法を用いて順位付けした。あらゆる診断基準で定義した妊娠糖尿病が減少 無作為化試験104報(女性被験者3万5,993例)が解析対象に含まれた。IPDは68%の被験者(2万4,391例、54試験)について得られた。 ライフスタイル介入により、あらゆる診断基準で定義した妊娠糖尿病が減少した。IPD試験を含んだ解析では10%(OR:0.90[95%CI:0.80~1.02]、絶対リスク減少値:1.3%[95%CI:-0.3~2.6])、IPDおよび非IPD試験の統合解析では20%(OR:0.80[95%CI:0.73~0.88]、絶対リスク減少値:2.6%[95%CI:1.6~3.6])の減少が示された。一方、NICE基準を用いた場合は、減少がみられなかった(OR:0.98[95%CI:0.84~1.13])。 ライフスタイル介入により、IADPSG基準で定義した妊娠糖尿病についても減少が認められた。IPD試験を含んだ解析では14%(OR:0.86[95%CI:0.75~0.97]、絶対リスク減少値:2.7%[95%CI:0.6~5.0])、IPDおよび非IPD試験の統合解析では18%(OR:0.82[95%CI:0.72~0.93]、絶対リスク減少値:3.5%[95%CI:1.3~5.7])の減少が示された。母親の教育レベルを鑑み、集団形式で訓練された担当者による身体活動ベースの介入を 効果は、教育レベルを除き、母体特性によるばらつきはなかった。 すべての教育レベルの女性が介入によりベネフィットを得ていたが、その有益性は低教育レベルの女性では低かった(低vs.中の相互作用のOR:0.68[95%CI:0.51~0.90]、低vs.高の相互作用のOR:0.71[95%CI:0.54~0.93])。 有益性は、介入特性でばらつきはみられなかったが、集団形式(OR:0.81[95%CI:0.68~0.97]、絶対リスク減少値:2.5%[95%CI:0.4~4.3])、新たに訓練を受けたファシリテーター(OR:0.82[95%CI:0.69~0.96]、絶対リスク減少値:2.4%[95%CI:0.5~4.2])による場合の効果が大きかった。 妊娠糖尿病の予防に関する介入を順位付けした結果、身体活動ベースの介入が最も上位であった(平均ランク:1.1、95%CI:1~2)。 これらの結果を踏まえて著者は、「実施戦略では、母親の教育レベルによる不均衡に対処する必要があり、妊娠糖尿病予防の介入は集団形式とし、介入担当者のトレーニングを行うこと、介入は身体活動ベースを検討することが必要である」とまとめている。

464.

旅行者下痢症、抗菌薬が効きにくい菌が増加

 新年の抱負の一つとして海外旅行を計画している人は、注意が必要だ。旅行者下痢症の治療に一般的に使われてきた抗菌薬が以前ほど効かなくなっていることが、新たな研究で示された。ただし、薬剤耐性の状況は地域によって異なり、原因菌の種類にも左右されるという。CIWEC Hospital and Travel Medicine Center(ネパール)の感染症専門医であるBhawana Amatya氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月22日掲載された。 この研究では、旅行者下痢症の主な原因となる4種類の細菌(カンピロバクター、非チフス性サルモネラ、赤痢菌、下痢原性大腸菌)に対する抗菌薬の有効性が検討された。2015年4月14日から2022年12月19日までの間に、世界58カ所の熱帯医療センターで治療された859人の旅行者下痢症患者(年齢中央値30歳、男性51%)が解析対象とされた。有効性は抗菌薬に対する感受性を指標とし、中等度感受性と耐性の両方をまとめて「非感受性」と定義した。 その結果、カンピロバクターでは、フルオロキノロン系抗菌薬に対して75%、マクロライド系抗菌薬に対して12%が非感受性を示した。同様に、非チフス性サルモネラではそれぞれ32%および16%、赤痢菌では22%および35%が非感受性を示した。下痢原性大腸菌では、フルオロキノロン系抗菌薬に対して18%が非感受性を示した。フルオロキノロン系抗菌薬の例は、シプロフロキサシン、デラフロキサシン、レボフロキサシンなど、マクロライド系抗菌薬の例は、アジスロマイシンやエリスロマイシンなどである。 また、感染した地域により抗菌薬感受性パターンが異なることも明らかになった。例えば、南・中央アジアで感染した患者から分離された赤痢菌の79%はフルオロキノロン系抗菌薬に非感受性を示したのに対し、南米で感染した患者から分離された赤痢菌の78%はマクロライド系抗菌薬に非感受性を示した。 この研究をレビューした米ノースウェル・ヘルスのDavid Purow氏は、薬剤耐性増加の主な原因は抗菌薬の過剰使用である可能性が高いとの考えを示す。同氏は、「例えば、人が同じものに繰り返しさらされると次第に反応しなくなるのと同じように、細菌も同じ抗菌薬に繰り返し曝露されることで、時間とともに耐性を獲得する」と述べている。 現在、多くの旅行者が抗菌薬を携帯し、下痢の兆候が出るとすぐにこれを服用するが、研究グループとPurow氏はともに、「下痢症状が出た場合には、医師の診察を受けるべきだ」と話す。Purow氏は、「実際には、自分が感染した細菌が所持している抗菌薬に感受性を持つかどうかは分からない」と指摘している。また、市販の下痢止め薬を使うことで、抗菌薬を使わずに済む場合もあるという。 Purow氏は、「抗菌薬の使用を控えることは、薬剤耐性のさらなる拡大を防ぐことにもつながる。何を治療しているのか分からないまま抗菌薬を使用することが、世界全体に影響を及ぼす可能性があることを理解することが重要だ。また、症状がより重く、深刻になるまで抗菌薬の使用を待つという選択も有効かもしれない」と話している。

465.

うつ病や不安症はストレスを通じて心臓病のリスクを高める

 うつ病や不安症の患者は心臓発作や脳卒中などのリスクが高く、そのメカニズムとしてストレス反応や炎症が関与しているとする研究結果が報告された。米マサチューセッツ総合病院のShady Abohashem氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Imaging」に12月17日掲載された。 この研究では、マサチューセッツ総合病院ブリガム・バイオバンクの2010~2020年のデータが用いられた。解析対象者数は8万5,551人で、中央値3.4年(四分位範囲1.9~4.8)の追跡期間中に3,078人(3.6%)が主要心血管イベント(MACE〔心筋梗塞、心不全、脳卒中など〕)を発症していた。 解析の結果、うつ病と診断されている人ではそうでない人よりも、MACEリスクが24%高いことが明らかになった(ハザード比〔HR〕1.24〔95%信頼区間1.14~1.34〕、P<0.001)。また、不安とうつ病が併存している場合には35%のリスク上昇という、より強い関連が認められた(HR1.35〔同1.23~1.49〕、P<0.001)。この関連は、人口統計学的因子、社会経済的因子、生活習慣、心血管疾患の既往を調整した後も有意だった。 解析対象者のうち、ストレスによる神経活動への影響を評価可能な画像検査を1,123人が受け、心電図検査を7,862人が受けていて、1万2,906人は炎症反応のバイオマーカーであるC反応性蛋白(CRP)が測定されていた。それらのデータを解析すると、うつ病と診断されている人はストレスに関連のある脳領域である扁桃体の活動が亢進していて(β=0.16、P=0.006)、神経系が過剰に働いていることを示唆する心拍変動の低下も見られ(β=-0.20、P<0.001)、炎症反応の亢進を意味するCRPの上昇(β=0.14、P<0.001)も認められた。不安症と診断されている人にも同様の傾向が見られた。 Abohashem氏は、「これらの結果は臨床医が心血管疾患のリスクを評価する際に、メンタルヘルスを不可欠な要素として捉える必要があることを、改めて認識させるものだ。一方、患者にとっては、慢性的なストレスや不安、あるいはうつ病に対処することが、単にメンタルヘルス上の優先事項であるというだけでなく、心臓の健康を守るためにも優先すべきだと認識することは、治療の励みになるのではないか」と述べている。 また、論文の上席著者である同院のAhmed Tawakol氏は、「うつ病と不安症はいずれも心臓病や脳卒中のリスク上昇と関連している。そして、より重要なことは、喫煙などの生活習慣や社会経済的要因、および糖尿病や高血圧といった古くから知られているリスク因子を考慮しても、その関連性が依然として強固であった点だ」と、本研究結果の意義を強調している。ただし本研究は観察データに基づく解析であるため、うつ病や不安症と心血管イベントとの因果関係を証明するものではないことが、留意点として挙げられる。

466.

第296回 超絶危険な国へ参入か!?非上場化する久光製薬が目指す市場開拓とは

INDEX創業180年の企業が上場廃止市場拡大の狙い目は?非上場化、長期戦への覚悟の表れか創業180年の企業が上場廃止世の中は国内外ともきな臭くなっているが、その中で新春早々、医療業界を賑わした話題がある。経皮吸収型消炎鎮痛薬の「サロンパス(一般用医薬品)」や「モーラス(医療用医薬品)」で有名な久光製薬が、経営陣による買収(マネジメント・バイアウト[MBO])により上場廃止することを1月6日に発表した件だ。同社は江戸時代の1847年に創業した前身の小松屋から数えると、約180年の歴史を有する。看板商品のサロンパスですら1934年発売であるから、こちらも90年以上の驚異的なロングセラー商品である。社名は小松屋の創業者・久光 仁平氏に由来し、仁平氏の孫である中冨 三郎氏の代に久光兄弟合名会社として会社組織化して以降、中冨一族が同族経営を続けている。今回のMBOは、久光製薬代表取締役社長である中冨 一榮氏が同じく代表取締役を務める資産管理会社・タイヨー興産が普通株式1株当たり6,082円で公開買付け(TOB)を行う形で、その総額は約4,000億円と試算されている。今回のMBOについて同社が発表した94ページにもおよぶ資料には、かなりのページを割いて医療用医薬品、OTC医薬品の市場環境と同社が置かれた位置付けや展望について記述されている。しかし、中でもMBOの理由を最も端的に説明しているのが、以下の部分だ。「株式上場を継続する限りは株主を意識した経営が求められ、短期的な利益確保・分配への配慮が必要になることから、当社株式の上場が、短期的な利益水準の低下やキャッシュ・フローの悪化等を招くおそれがある一時的な費用支出や先行投資、抜本的な構造改革等の中長期的な施策実行の足枷となる可能性が高い」これは同社だけでなく、製薬を名乗る企業にとってはほぼ共通した認識だろう。ご存じのように、とくに医療用医薬品では、1つの新薬の上市までに20年・200億円の時間と費用がかかるといわれている。製薬企業の研究所に勤務する研究者は、新卒入社のまま定年退職まで勤め上げても、自分が見つけ出した化合物を1つも世に送り出すことなく退職を迎える人がほとんどである。OTC医薬品の場合は、このハードルは低くなるが、それでも新製品の着想から上市までは5~10年かかることが一般的。つまるところ、もともと製薬ビジネスは、短期的利益を求めて投資家がうごめく株式市場とは、かなり相性が悪い業種である。もっとも医療用医薬品を中心とする大手製薬企業の場合、そうした相性の悪さはあっても、逆にリスクの高い研究開発に必要な多額の資金調達を迫られる以上、上場のメリットはまだあるといえる。一方、久光製薬のようなOTC医薬品を中心とする企業となると、かなり事情は変わってくる。過去10年間の国内OTC医薬品の市場規模はおおむね8,000億円前後を推移し、緩やかな伸長もない。しかも、国内市場は少子高齢化の影響で、今後、購買力のある人口が確実に減少するため、製品ラインナップの拡充などを行ったとしても国内市場の成長の余地は大きくない。市場拡大の狙い目は?このためOTC医薬品企業が目指すところは、大きく分けると国内市場で何とか均衡を保つか、海外市場に打って出る2択となる。しかし、後者は数多くのOTC医薬品を有するメガファーマのジョンソン&ジョンソン、グラクソスミスクライン、バイエル、サノフィなどや専業のプロクター&ギャンブル(P&G)などがひしめく。各社とも当然ながら人口規模の大きい海外市場を目指すため、中国やインドなどはすでに現地企業を交えた過当競争となっている。そうなると、これらに対抗できる規模・製品群を持たないOTC企業が目指す市場は、市場そのものが未整備で付け入る余地があり、かつ人口規模が多い地域となる。具体的にどういう国になるかだが、国連の世界人口推計2024年を見ると、表のようになる1)。画像を拡大するこれを見ると、現在世界で人口トップのインドは2100年までその地位を保ち続けるが、中国は現在の人口が2100年には半減以下、そして南アジアやアフリカ各国が台頭してくる。言ってしまえば、そうした今後の人口ボーナスが期待できる国が狙い目なのだが、国際情勢も取材する私からすれば、思わず苦笑いしてしまう国ばかりである。2100年に推計人口規模で世界第3位になるパキスタンはこの中でも比較的情勢が安定しているほうだが、隣国アフガニスタンとの関係が微妙で、イスラム過激派の活動が活発な地域である。第4位のナイジェリアは、産油国かつサブサハラアフリカの大国だが、はっきり言って政治は安定性を欠き、国内の治安は日本と比較にならないほど悪い。第5位のコンゴ民主共和国もレアメタルなどの鉱物資源は豊富だが、旧ベルギー領コンゴから独立した1960年以降、クーデターや国家元首の暗殺などが相次ぎ、同国東部はほぼ常に内戦状態にある。こうした中でも昨今とくに注目を浴びているのがナイジェリアで、日本の国際協力機構(JICA)が現地スタートアップを支援する「ナイジェリアNINJAファンド」まで実施している。とはいえ、前述のように治安は良くない。若かりし頃にバックパッカーをやっていた私は、ナイジェリアに行ったことがあるバックパッカー仲間からそのすごさを何度も聞かされていた。空港に着くと、「係官に賄賂を支払わないでください」と大きく掲示されたすぐそばで露骨に賄賂を要求される、空港から市内までの約20kmは大渋滞で2時間もかかる、渋滞で停車している車の窓をガンガンと叩きながらわめく人がいるなどなど…。ちなみに仲間の1人はこんなことを私に話してくれた。「村上さん、俺は人生で初めて大通りの歩道で堂々と○○○する成人女性を見ました」(○○○は皆さんのご想像にお任せします)そんなこんなで、私自身はもし今「ナイジェリアかウクライナのどちらかに行ってください」と頼まれたら、迷わずウクライナを選ぶ。非上場化、長期戦への覚悟の表れかさて、ここまでナイジェリアをディスってしまい恐縮だが、そのナイジェリアに現地スタートアップとの協業で2024年に進出したのが、今回、非上場化を目指す久光製薬で、もちろん看板商品はサロンパスである。現地では「サロンパスマン」なるキャラクターを演じる人物を採用したCMを大々的に打ち、公共バスなどにもサロンパスマンの広告がデカデカと掲示されているという。日本企業としてはかなり攻めていると言っていいだろう。もっともその前途は容易なものではないことは明らかだ。ナイジェリアの小売市場は伝統的な小規模事業者が95%以上を占め、いわゆるスーパーマーケット化は進んでいない。しかも広い国土内は東西南北で部族が異なり、それぞれの地域で慣習なども違う。製品によっては、南部では受け入れられながら、北部では空振りということも日常茶飯事である。実は今回の久光製薬のMBO理由を説明した文書の中には、こうした新興市場を意識した内容がある。以下にその要約を示す。「貼付剤が普及していないグローバルサウス諸国に代表される新たな開拓地域においては、薬事申請の経験とノウハウを活用して、競合他社に先駆けて進出し、新市場を開拓することで、マーケットシェアを獲得し、売上拡大を図ることができると考えている。そのためには、研究開発、薬事、生産、営業といったバリューチェーン全体にわたる体制整備と人材育成を含む組織・マネジメントシステムのグローバル化をよりいっそう加速させていく必要があり、相応の経営資源の投入が必要になると考えている」つまるところ、ナイジェリアのような国では、表面的な人口ボーナスではわからない、前述のような困難な市場環境があり、そのためにはかなり長期の先行投資が必要になる。この点をやや乱暴に表現するなら、「困難な環境で戦わねばならないのに目先の利益を追求する株主にあれこれ言われたくない」ということになるだろう。もっとも同社の場合は同族経営でもあるため、余計に周囲から口うるさく言われたくないという風潮はより強いだろうと想像でき、なおかつ直近決算では利益剰余金が2,500億円に対し、長短借入金合計が30億円弱であるため、そもそも上場で資金調達が必要ない会社とも言える。昨今は久光製薬に限らず、OTC領域では養命酒や大正製薬のMBOなどが相次いでいるが、このように考えると、もともと資金調達に難がなく、とくに一般消費者を軸に果敢な市場挑戦を行おうというヘルスケア企業にとっては、上場維持はもはや有名税の支払い程度の意味しか持たないのかもしれない。参考(1)国際連合:2024年の世界人口見通し

467.

産業保健は本当に機能しているのか―自分が見て見ぬふりをしてきたこと【実践!産業医のしごと】

皆さま、あけましておめでとうございます。年末に昨年の手帳を見返していました。面談を何件担当し、衛生委員会に何回出席し、職場巡視を何回行ったのか……。手帳を見ると、確かに数字は積み上がっています。それでも、ふと思ったんです。これで本当に、誰かの健康を守れたんだろうか、と。反省点1:実施率で「やったふり」をしていた「ストレスチェック実施率100%、健康診断受診率98%、衛生委員会出席率100%……」。報告書の数字は目標を十二分に達成しており、経営層も安心してくれます。でも、この数字はあくまで「プロセス」であって、「社員の健康を守り、組織を変える」という、目指す「結果」そのものではありません。そこに私は目をつぶっていました。面接指導の後、あの従業員の労働時間は本当に減ったんだろうか。上長は業務配分を変えたんだろうか。私はそれを確認できていません。残っているのは「面接を実施した」という記録だけです。反省点2:データで「やった気」になっていた「高ストレス者の割合が○%です」「プレゼンティーイズム(健康問題が理由で従業員の生産性が低下している状態)による損失は、年間数千万円と推計されます」。役員会で報告すれば、うなずいてもらえます。質問もとくに出ません。それで終わりになって、「次に何をするか」までを詰めきれていませんでした。データを見せることで、何かをやった気になっていた。でも、「誰が・何を・いつまでにやるのか」が決まらなければ、現場は動きません。当たり前のことなのに、私はそこまで詰めきれていませんでした。「課題は共有できました」と自分に言い訳していたのです。反省点3:「お墨付き」が仕事になっていた「復職可否の判断」「就業制限の意見書」……。人事からそうした書類の記入依頼が来て、記入して、返送する…。この流れ作業に慣れてしまっていました。本当は、本人の回復と職場の受け入れ態勢の両方を見て、バランスを取るのが産業医の役割のはずです。でも気付けば、会社が「適切に対応した」ことを示すための書類作成に、ただ協力しているだけになっていました。今年変えたい! 3つのことそんな昨年の振り返りを通して、今年の目標を立てました。1. 「できない理由」で思考停止しない「経営陣の理解がない」「人事が動かない」「予算がない」……。口にした瞬間、できない理由ができてラクになります。でも、「伝え方を変える」「データをそろえる」「小さく試す」……。何かやれることはあるはずです。2. 成果につながりにくい活動を減らす目的が曖昧な会議、意思決定につながりにくい報告書、テーマのない巡視。こうした時間は優先順位をつくって削れるものは削り、空いた時間を従業員への支援と職場の具体的な調整に回します。3. 全部自分でやろうとしない保健師、人事、管理職……。それぞれに役割があります。自分は産業医の立場で判断の軸を示す。細かいフォローは保健師に、業務調整は人事や上長に。そうやってチームで回すほうが結果的に多くの人を守ることができると、ようやく気付きました。そして、「今年やること」今年は、「言いっぱなし」「書きっぱなし」で終わらせず、「変化が起きたか」までを確かめます。具体的には、面談後1ヵ月で残業や勤務に変化が出ているか確認する、復職後3ヵ月/6ヵ月時点で定着できているかを確認する、職場への助言はその1ヵ月後を目安に実施して状況を確認する、これらのことを心掛けます。毎月1回、保健師・人事と振り返りを行い、止まっている案件を見える化して、次の手を決める。確認はチェックのためではなく、職場を動かすための合図にします。産業医は、会社の「保険」ではありません。働く人の健康を守る専門職です。今年は、昨年の自分よりも、一歩成長した産業医になりたいと思います。本年もよろしくお願いいたします。

468.

医師はパーキンソン病リスクが高い!?~日本の多施設研究

 職種とパーキンソン病リスクとの関連と発症後の職種の変更に関して、東海大学の中澤 祥子氏らが全国多施設におけるケースコントロール研究で調べたところ、サービス産業とホワイトカラー産業の専門職、とくに医師などの医療専門職においてパーキンソン病リスクが高いことが示唆された。BMJ Open誌2025年12月23日号に掲載。 本研究は、わが国の労働者健康安全機構労災病院が構築している入院患者病職歴データベース(Inpatient Clinico-Occupational Database of Rosai Hospital Group:ICOD-R)を使用したマッチドケースコントロール研究。2005~21年の入院患者データから、パーキンソン病と診断された2,205例をケース群、年齢・性別・入院年・病院が一致するパーキンソン病以外の1万436例をコントロール群とした。主要評価項目は、産業(ブルーカラー、サービス、ホワイトカラー)および職業階級(ブルーカラー労働者、サービス労働者、専門職、管理職)で分類した職種(最も長く従事した職種)とパーキンソン病リスクとの関連とした。副次評価項目は、パーキンソン病リスクが高い職種および産業、60歳未満における診断前後の職種の変化、化学物質曝露・喫煙状況・性別とパーキンソン病リスクとの関連とした。 主な結果は以下のとおり。・喫煙と飲酒による調整後、サービス産業(オッズ比[OR]:2.01、95%信頼区間[CI]:1.24~3.25)およびホワイトカラー産業(OR:1.33、95%CI:1.10~1.61)の専門職は、サービス労働者よりパーキンソン病リスクが高かった。医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は、パーキンソン病リスクが高かった。・パーキンソン病患者160例のうち、47%が無職、20%が自主退職、30%が仕事を継続していた。・多重比較による調整後、化学物質曝露はパーキンソン病リスクとの関連は認められなかった。一因として曝露を受けた被験者数が少なかった可能性がある。・ブルーカラー産業のブルーカラー労働者およびサービス労働者では、過去または現在喫煙者はパーキンソン病リスクが低かった。

469.

抗うつ薬の選択で死亡リスクに違いはあるか?

 うつ病は死亡リスクを著しく上昇させることが知られているが、抗うつ薬の使用が長期生存へ及ぼす影響は依然として不明である。中国・Shantou University Medical CollegeのXiaoyin Zhuang氏らは2005~18年の抗うつ薬の使用傾向を調査し、米国の全国代表コホートにおける、うつ病関連死亡率に及ぼす抗うつ薬の影響を定量化するため本研究を実施した。General Hospital Psychiatry誌2026年1・2月号の報告。 米国国民健康栄養調査(NHANES)の7サイクル分(2005~18年)のデータを解析した(成人:1万1,569人)。うつ病の定義は、こころとからだの質問票(PHQ-9)スコア10以上とした。抗うつ薬の使用状況は薬局の認証で確認し、SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬(TCA)、その他に分類した。死亡率との関連性は2019年まで延長し評価した。加重ロジスティック回帰分析を用いて、社会人口統計学的特性、心血管代謝関連疾患、ライフスタイルで順次調整したうえで、うつ病と死亡率との関連性を評価した。媒介解析では、抗うつ薬のパスウェイ効果を定量化し、層別モデルではクラス固有のハザード比(HR)を検証した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病は単独で、全死亡リスクを61%増加させた(完全調整オッズ比:1.61、95%信頼区間:1.24〜2.08)。・抗うつ薬の使用は、うつ病による総死亡率の27.3%に影響を及ぼしていた(p<0.001)。・処方の傾向では、SSRIが主流であり(12.7%→20.1%)、SNRIが急速に増加(3.4%→6.1%)、TCAが減少(2.5%→1.8%)していることが示された。・重要点として、抗うつ薬クラスによって死亡率への影響が異なっていた。すなわち、SNRIは、死亡リスクの低下(HR:0.72)と関連し、SSRIは中立的であった(HR:0.93)。一方、TCAではリスク増加が認められた(HR:1.19)。 著者らは「うつ病は、併存疾患とは無関係に死亡率を大きく上昇させるが、抗うつ薬の選択はこのリスクを緩和することが示唆された。抗うつ薬の選択バイアスの影響が残存する可能性はあるものの、SNRIは生存率向上に有効であり、高リスク集団においてTCAよりもSNRIが優先的に使用されることを裏付けている。本結果は、抗うつ薬クラスがうつ病管理における重要な効果修飾因子であることを示しており、薬物疫学的エビデンスを実臨床に統合する必要性を示唆している」とまとめている。

470.

HR+/HER2-転移乳がんへのパルボシクリブ+内分泌療法、日本の実臨床での高齢/PS不良患者における有用性

 HR+/HER2-進行乳がんの1次治療としてCDK4/6阻害薬が確立され、欧米諸国では実臨床で高齢患者における有効性や安全性が確認されている。しかし、体格の小さいアジア人における高齢者やPS不良の患者でのエビデンスは限られている。今回、日本医科大学多摩永山病院の柳原 恵子氏らがアジア人患者における実臨床でのパルボシクリブ+内分泌療法(ET)の有効性と安全性を評価し、年齢およびPSによるサブグループ解析を実施した。その結果、高齢患者(70歳以上)において無増悪生存期間(PFS)は若年患者と有意な差がみられず、忍容性も良好であった。また、PS 2~3の全患者で病勢コントロールが達成されたという。Oncology Research誌2025年12月30日号に掲載。 本研究は単施設後ろ向き研究で、2021年4月~2025年3月にHR+/HER2-の再発もしくは転移を有する乳がんに対する1次治療としてパルボシクリブ+ETを投与されたアジア人患者46例を評価した。主要評価項目はPFS、副次評価項目は奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性などであった。年齢(70歳未満vs.70歳以上)およびPS(0~1 vs.2~3)によるサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・PFS中央値は26.6ヵ月(範囲:1.4~69.5)で、年齢層別では70歳未満群で26.9ヵ月、70歳以上群で26.2ヵ月(p=0.760)、PS別では0~1群で26.9ヵ月、2~3群で17.8ヵ月であった(p=0.099)。・ORRは60.9%、DCRは93.5%で、PS 2~3群では全患者で病勢コントロールが達成された。・最も頻度の高い血液毒性は好中球減少症(80.4%)と白血球減少症(86.7%)で、Grade3以上の貧血はまれ(2.2%)であった。高齢患者では貧血の発現頻度が高かったが、全体的な有害事象は管理可能な範囲であった。・47.8%が減量されたが、有効性の低下は認められなかった。 著者らは、「これらの結果は、パルボシクリブ+ETが高齢患者と一部のPS 2~3の患者で有意なベネフィットを示し、年齢もPSも除外基準とすべきではないことを裏付けている」とし、さらに「適切なモニタリングと用量調節により、パルボシクリブは脆弱な集団にも安全に投与でき、効果的な治療へのアクセスが確保できる」としている。

471.

間質性肺炎合併NSCLC、遺伝子検査の実施状況と治療成績は?

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)では、治療標的となるドライバー遺伝子異常の有無を遺伝子検査で確認することが一般的である。しかし、間質性肺炎(IP)を合併するNSCLC患者は、薬剤性肺障害のリスクが懸念され、一般的なドライバー変異(EGFR、ALKなど)の頻度が低いことが報告されていることから、遺伝子検査が控えられる場合がある。そこで、池田 慧氏(関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座)らは、びまん性肺疾患に関する調査研究班の分担・協力施設による多施設共同後ろ向き研究を実施し、IP合併NSCLC患者における遺伝子検査の実態、ドライバー遺伝子異常の頻度、分子標的治療の安全性・有効性を調査した。その結果、マルチ遺伝子検査の実施率は依然として低い一方で、特定の遺伝子変異(KRAS、BRAF、METなど)は一定頻度で検出された。また、ドライバー遺伝子異常を同定して適切に治療を行うことで、生存期間の改善につながる可能性も示唆された。本研究結果は、European Journal of Cancer誌で2026年1月12日にオンライン先行公開された。 研究グループは、本邦の37施設において2019年6月~2024年6月に診断した進行・再発の慢性線維化性IP合併NSCLC患者1,256例を対象として、後ろ向きに解析を行った。遺伝子検査の実施状況、ドライバー遺伝子異常の検出頻度、分子標的治療の安全性・有効性、全生存期間(OS)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者の年齢中央値は74.0歳、喫煙歴ありが95.5%であった。IPの臨床診断は、特発性間質性肺炎(IIPs)が88.1%(1,106/1,256例)を占め、特発性肺線維症が48.7%(612/1,256例)となり、IIPsのなかで最多であった。・遺伝子検査の実施割合は59.2%(95%信頼区間[CI]:56.5~62.0)、治療開始前のマルチ遺伝子検査は41.0%(95%CI:38.3~43.8)にとどまった。・治療開始前にマルチ遺伝子検査を実施した患者(515例)において、13.2%にドライバー遺伝子異常が検出された。最も頻度が高かったのはKRAS遺伝子変異(4.7%、G12C変異が1.9%)であった。EGFR遺伝子変異(2.9%)、BRAF V600E遺伝子変異(1.6%)、MET遺伝子exon14スキッピング変異(1.6%)が続いた。・非扁平上皮NSCLC(320例)に限ると、KRAS遺伝子変異が6.9%(G12Cは3.1%)、EGFR遺伝子変異は3.8%であった。・ドライバー遺伝子異常が検出された患者(84例)のうち、33.3%が分子標的治療を受けた。分子標的治療を受けた患者(28例)における薬剤性肺臓炎の発現割合は、全体で25.0%であり、オシメルチニブ以外の薬剤性肺臓炎はGrade1であった。薬剤別の発現割合は以下のとおり。 ソトラシブ0%(0/6例) オシメルチニブ50.0%(4/8例:Grade2が3例、Grade5が1例) アレクチニブ33.3%(1/3例) ダブラフェニブ+トラメチニブ25.0%(1/4例) テポチニブ25.0%(1/4例)・ドライバー遺伝子異常の状況別にみたOS中央値は、陽性の集団が22.1ヵ月、陰性/不明の患者が13.8ヵ月であり、陽性の集団が良好であった(ハザード比[HR]:0.46、95%CI:0.33~0.64)。・ドライバー遺伝子異常陽性患者のうち、分子標的治療の有無別にみたOS中央値は、分子標的治療ありの集団が39.2ヵ月、なしの集団が24.0ヵ月であった(HR:0.67、95%CI:0.33~1.36)。・多変量解析において、ドライバー遺伝子異常陽性はOS改善と有意な関連がみられた(全体集団のHR:0.57、95%CI:0.38~0.86、p=0.007、何らかの遺伝子検査実施集団のHR:0.42、95%CI:0.23~0.77、p=0.005)。 本研究結果について、本論文の筆頭著者の池田氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【池田氏のコメント】 これまで実臨床の現場では、「IP合併例ではEGFR変異などの頻度が低い」「分子標的薬は薬剤性肺障害のリスクが高い」という懸念から、遺伝子検査、とくにマルチ遺伝子検査の実施自体が手控えられてきた側面が少なからずあったと思います。しかし本研究により、マルチ遺伝子検査を行うことで、KRAS G12C、BRAF V600E、MET exon14スキッピング変異といった、近年治療薬が登場した希少フラクションが一定の割合で確実に存在することが明らかになりました。また、リスク管理を行いつつ適切な分子標的治療へつなげることで、生存期間の延長が得られる可能性も示されました。治療の選択肢が少ないこの患者層において、治療標的を見いだすことは、患者さんにとって大きな希望となります。本研究結果が、IP合併例に対しても「まずはマルチ遺伝子検査を行う」という診療行動への動機付けとなり、1人でも多くの患者さんの治療機会の拡大と予後改善につながることを強く期待しています。

472.

高齢がん患者、補助的医療従事者の介入で急性期医療利用が減少/JAMA

 レイヘルスワーカー(補助的医療従事者)主導による症状評価の介入は、急性期医療の利用を減少させるために広く実現可能なアプローチとなりうることが、米国・スタンフォード大学のManali I. Patel氏らがカリフォルニア州とアリゾナ州の地域がん外来クリニック43施設で実施した無作為化臨床試験の結果で示された。高齢者において、がん症状に対する治療は十分にされていないことが多い。一方で、効果的な早期発見および介入も限定的なままであった。JAMA誌オンライン版2025年12月30日号掲載の報告。75歳以上のがん患者、レイヘルスワーカー介入vs.通常ケアで急性期医療の利用を比較 本検討は、固形がんまたは血液がんの新規診断または画像検査や生検により確認された新規再発・進行がんを有する75歳以上のメディケアアドバンテージ受給者を対象に行われた。 保険請求データを用い、参加施設において2週間以内にがん治療を受ける予定の患者を特定して、電子カルテで適格性をスクリーニングし電話で同意を得た後、症状評価+通常ケア群(症状評価群)と通常ケア群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付け、12ヵ月間追跡調査を行った。研究者、臨床医、統計解析担当者は割り付けに関して盲検化された。 症状評価群では、通常ケアに加えて、レイヘルスワーカーがエドモントン症状評価システムを用いて電話による症状評価を、転移のあるがん・化学療法中・症状スコアが4以上の患者については週1回、それ以外は月1回行い、症状評価で症状スコアが4以上または2点以上悪化した場合は、同日中にadvanced practice practitioner(APP、registered nurse practitioner[登録ナースプラクティショナー:NP]またはフィジシャンアシスタント:PAのいずれか)に照会し、必要な介入が行われた。 主要アウトカムは、試験登録後12ヵ月以内の救急外来受診および入院とした。副次アウトカムは、総医療費、ホスピスの利用、12ヵ月以内に死亡した患者における死亡前30日間の救急外来受診および入院、ホスピスの利用、急性期病院での死亡とした。介入により、救急外来受診、入院、総医療費が減少 2020年11月~2023年10月に416例が登録された(データ解析は2024年12月12日~2025年2月15日)。年齢中央値は82歳(範囲:75~99)、男性219例(52.6%)、Stage4が171例(41.1%)、再発が27例(6.4%)であった。リスク調整因子の平均スコアは2.70(SD 1.77)であった。 症状評価群は対照群と比較し、救急外来受診のオッズが53%低く(救急外来受診回数1回以上:61例[30.5%]vs.103例[47.7%]、補正後オッズ比[OR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.32~0.71)、入院のオッズは68%低く(入院回数1回以上:37例[18.5%]vs.86例[39.8%]、OR:0.32、95%CI:0.20~0.51)、患者1人当たりの平均総医療費が1万2,000ドル低かった(p=0.01)。 12ヵ月の追跡期間中に142例(各群71例)が死亡した。症状評価群では、死亡前30日以内の救急外来受診のオッズが68%低く(OR:0.32、95%CI:0.12~0.88)、急性期病院での死亡オッズは75%低下した(OR:0.25、95%CI:0.08~0.77)。

473.

edaravone dexborneol、急性期脳梗塞患者の機能アウトカムを改善か/JAMA

 発症後24時間以内に血管内血栓除去術(EVT)を受ける急性虚血性脳卒中患者において、edaravone dexborneolの投与はプラセボと比較し、重篤な有害事象を増加させることなく90日時点の機能的自立を改善する傾向が認められた。中国・首都医科大学のChunjuan Wang氏らTASTE-2 investigatorsが、同国106施設において実施した研究者主導の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TASTE-2試験」の結果を報告した。edaravone dexborneolは、エダラボンとdexborneolを4対1の比率で配合した薬剤で、相乗的な抗酸化作用と抗炎症作用により脳細胞保護効果を発揮することが再灌流動物モデルで示されていた。これまでに再灌流療法を受けていない急性虚血性脳卒中患者の機能転帰を改善することが示されていたが、再灌流療法を受ける患者における有効性は不明であった。なお、今回の結果について著者は、「主に入院時にミスマッチが認められた患者集団によって得られたものと考えられる。今後、この集団を対象とした試験が必要である」とまとめている。BMJ誌2026年1月7日号掲載の報告。血管内治療前に初回投与し10~14日継続、対プラセボの有効性・安全性を評価 研究グループは、18~80歳で、急性虚血性脳卒中と診断され、NIHSSスコア(範囲:0~42、高スコアほど神経学的機能障害が重度)が6~25、ASPECTS(範囲:0~10、低スコアほど梗塞範囲が大きい)が6~10で、前方循環の主幹動脈閉塞(内頸動脈、T字分岐または中大脳動脈のM1)を有し、発症後24時間以内にEVTが予定されている患者を、edaravone dexborneol群(1回37.5mg:エダラボン30mg+dexborneol 7.5mg)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ1日2回、10~14日間、各回30分かけて静脈内投与した。いずれも、EVT実施前(大腿動脈穿刺まで)に初回投与を行った。 有効性の主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])が0~2の機能的自立を達成した患者の割合。安全性の主要アウトカムは、重篤な有害事象であった。 2022年3月18日~2023年2月17日に1万4,233例がスクリーニングされ、1,362例が無作為化された(edaravone dexborneol群690例、プラセボ群672例)。このうち各群1例が、90日時点で追跡不能により有効性の解析から除外され、修正ITT集団1,360例を対象に解析が行われた。90日時点のmRSスコア0~2達成患者割合は、55.0%vs.49.6% 修正ITT集団において、edaravone dexborneol群では689例中379例(55.0%)、プラセボ群では671例中333例(49.6%)が90日時点で機能的自立を達成した(リスク比:1.11[95%信頼区間[CI]:1.00~1.23]、リスク群間差:5.4%[95%CI:0.1~10.7]、p=0.05)。 事前に規定されたサブグループ解析の結果、入院時にミスマッチ(NIHSSスコア10以上かつASPECTS 9以上、またはNIHSSスコア20以上かつASPECTS 7以上と定義)を有する患者において、edaravone dexborneol群とプラセボ群との違いが大きいことが示された(55.5%[178/321例]vs.42.9%[134/312例]、リスク比:1.29[95%CI:1.10~1.52]、リスク群間差:13.0%[95%CI:5.6~20.3]、交互作用のp=0.003)。 重篤な有害事象の発現割合は、edaravone dexborneol群27.2%(188/690例)、プラセボ群25.7%(173/672例)であり、両群で同程度であった(リスク比:1.06[95%CI:0.89~1.26]、リスク群間差:1.5%[95%CI:-3.2~6.2]、p=0.53)。

474.

大細胞型B細胞リンパ腫へのCAR-T細胞療法、投与時刻が効果に影響か/Blood

 概日リズムは免疫活性化とエフェクター機能を調節するが、日内リズムがキメラ抗原受容体(CAR)細胞療法のアウトカムに影響するかはわかっていない。今回、米国・Weill Cornell Medical CollegeのDanny Luan氏らによる再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)患者における国際多施設共同後ろ向き研究で、CAR-T細胞投与のタイミングが治療効果に影響しうることが初めて示唆された。Blood誌オンライン版2025年12月23日号に掲載。 本研究は、2017~25年に7施設でCD19標的CAR-T細胞療法を受けた再発・難治性LBCLの成人患者1,052例を対象に実施した。 主な結果は以下のとおり。・投与時刻の中央値は11:48am(四分位範囲:11:06am~12:45pm)であった。・投与時刻が1時間遅いと、施設・製剤・主な臨床変数を調整後も進行・再発・死亡リスクが増加した(ハザード比:1.11、95%信頼区間:1.03~1.20、p=0.004)。・1年無増悪生存(PFS)率は、12:00pmより前の早期投与群で51.4%、12:00pm以降投与群で35.2%であったが、全生存率は両群で同等であった。・PFSのベネフィットは、早期投与群における低い再発率と高い完全奏効率に起因していた。・免疫関連有害事象に差は認められなかったが、12:00pm以降投与群は炎症マーカーの高いピーク値と7日目の低いCAR-T細胞増殖と相関した。 著者らは「このデータはCAR-T細胞投与のタイミングが治療効果に影響する可能性を示す初の臨床的エビデンスであり、概日リズムを考慮した投与戦略の前向き評価を支持する」としている。

475.

ミンスゲームやってます【Dr. 中島の 新・徒然草】(614)

六百十四の段 ミンスゲームやってます寒いですね。朝、湯をかけて車のフロントガラスの氷を溶かしても、走り出したらたちまち凍ってしまいます。もう寒すぎて散歩なんかも行く気がしません。なので、家か病院にこもっています。さて、今回は「ミンスゲーム」の話をしましょう。ミンスゲームというのはミニマリズムゲームの略です。そもそもミニマリストというのは「必要最低限のモノだけで暮らす人」のこと。そのため、不要なモノをどんどん捨てるというのを身上にしています。とはいえ、自分の所有物を捨てるということは、結構なストレスには違いありません。その一方で、不要なモノを持ち続けるというのも無駄なこと。なので、うまく折り合いをつけるのがミンスゲーム。やり方は簡単。ゲームの初日には、ガラクタと化したものを1つだけ捨てます。誰でも1つくらいなら捨てるものはあるはず。2日目。今度は2つ捨てるわけです。初日に比べれば若干ハードルが上がるものの、2つくらいなら簡単。読まなくなった本とか、いつか着ようと思っていた服とか。当然ながら3日目には3つ、4日目には4つ捨てることになります。本や服のような大物でなくても、文房具なんかでもいいですね。9日目や10日目となると、だんだんハードルが上がっていくので、徐々に苦しくなってきます。が、捨てるほうにも勢いがついてくるので、何とかペースを落とさずについていきたいところ。そして1ヵ月。30日分なら465個、31日分なら合計で496個の不要物が捨てられます。さすがに400個以上の不要物がなくなると部屋がスッキリするはず。このゲームはいつからでも開始可能ですが、できれば月初にスタートしましょう。というのも、日付の数と、捨てる個数が一致するからです。たとえば、1月16日だと16個捨てればいいと簡単にわかります。これが月の途中から始めると、毎回いくつ捨てるべきかを考えなくてはなりません。実は私、2026年1月1日から密かにミンスゲームを始めました。何といっても多いのが本、それも医学書です。中には買ったままで、ほとんど読んでいないものもあります。でも医学の世界は「三年一昔(さんねんひとむかし)」といわれるくらい日進月歩。10年ほど前の教科書だと、かなり内容が古くなってしまっています。それに、これまで読んでいなかったということは、これからも読まない可能性が大。こういうものは思い切って捨てることにしました。で、今は月半ば。やってみて思ったことがいくつかあります。1つ目、勢いがつき過ぎることがある。「今日は9個捨てるぜ」と思っても、捨てているうちに気付いたら10数個も捨てていることが……。こうなったら翌日の分も捨てておこう、と思ったりします。2つ目、捨てられない日がある。モノに執着して捨てられないというよりも、単純に時間がなくて手を付けることができなかった、というのがその理由。仕方ないので、こんな日は捨てることを諦めて、次の日から頑張ることにしています。YouTubeやネットを見ると、ミンスゲームの経験を語っているものがたくさんありました。「捨てるモノがないので、パソコンのファイルやスマホのアプリを捨てた」とか。別に空間的な場所をとるモノでなくても、捨てることによって心理的にスッキリするのかもしれません。「4ヵ月間のミンスゲームで2,000個捨てた」とか。この人の場合は、月が変わるごとにリセットして、1から捨て始めたのでしょうね。「1回目で捨てられなかったモノが、数日後には簡単に捨てられた」とか。徐々に目利きになってくるのかもしれません。というわけで、私自身もミンスゲームに挑戦中。それにしても、1から始めて少しずつ増やしていくという方法は、他にも応用できそうですね。英単語を記憶するとか、かな?もし1ヵ月で400個以上も覚えることができれば本当にすごいと思います。よかったら皆さんも、それぞれのミンスゲームを試してみてください。最後に1句 寒くても モノを捨てるぞ 少しずつ

476.

一貫の幸福、循環器内科医が綴る「鮨」と「脂」の甘美な誘惑【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第92回

第一章:静寂のカウンターで出会う一貫の小宇宙「うん、旨い」と思わず心の中で声が弾みます。鮨屋の静かな空気の中で、最初の一貫を口に運ぶその一瞬は、何度繰り返しても特別な儀式です。舌に触れた瞬間にシャリがふわりとほどけ、酢の香りが鼻を抜け、ネタの旨みが怒涛のように押し寄せます。計算し尽くされた温度や切りつけ、そして職人が生み出すほんのわずかな間の妙が、こちらの乱れた感情まで整えてくれます。仕事の雑音は消え去り、世界はカウンターと目の前の一貫だけの純粋な空間に変わります。二貫目、三貫目と進むほど、最初の「旨い」が心地よく反響し、大将の鮮やかな所作や包丁がまな板を叩く音、差し出された熱いアガリの湯気までもが味の一部となって、私の記憶に静かに染み込んでいきます。私は、理屈抜きに鮨が好きなのです。第二章:漢字が語る「魚」と「旨」の熟成ロマンスところで、「鮨」という漢字の成り立ちは実に見事だと思いませんか。魚偏の右隣に「旨い」を添えて「鮨」と書くのは、まさに言い得て妙というほかありません。「旨」という字の源を辿ると、スプーンのような匙の中に甘いものが入っている様子を表しており、凝縮された美味しいものを意味しています。大昔の鮨は、今のような握り鮨の形ではなく、魚と米を塩で漬け込み、時間をかけて自然発酵させる「なれずし」であったそうです。つまり「鮨」とは、魚が熟成して旨くなった状態に重点を置いた文字なのです。他にも魚偏に「作る」と書く「鮓」という字がありますが、これは「酸っぱい」という意味を持っており、発酵による酸味や保存性を強調しています。現代で一般的な「寿司」という表記は、江戸時代に作られた縁起の良い当て字ですので、職人のこだわりや、ムラサキをひと塗りした魚そのものの味を強調したい私としては、あえて「鮨」という字を使いたいと考えます。第三章:脳をハックする「脂」という名の快楽物質さて、職業柄どうしても気付いてしまうのですが、「鮨」という字は「脂」という字にどこか似ています。循環器内科医である私が、日々の診療で嫌というほど目にする脂質異常症の要となる文字です。「脂」の偏である「月」は、夜空に輝く天体ではなく「肉」という字が簡略化された「にくづき」と呼ばれるものです。腹、腕、臓といった体の一部を表す漢字に使われる通り、「脂」とは体の中でも特にエネルギーが凝縮された美味しい部分を指しています。味覚において脂質がおいしさの鍵となることには、実は明確な科学的理由があります。脂質は風味のキャリアとして、旨味や香り成分を溶かし込む性質を持っています。水である唾液はすぐに飲み込まれて流れてしまいますが、適度な粘り気がある脂は舌の表面に薄い膜を作るため、味の成分が味蕾にとどまる時間が長くなり、私たちはそれを「コクがある」とか「余韻が長い」と感知するのです。さらに脂は口の中で体温によって溶け出し、そのとろける食感が脳に強力な快感を与えます。鼻を抜けるナミダの刺激さえも、脂の甘みを引き立てるアクセントに変わる。人間は長い飢餓の歴史を経てきたため、少量で高いエネルギーを得られる脂質を美味しいと感じるように、脳がしっかりとプログラミングされているのです。第四章:ステーキとハンバーグに隠された「脂」の増幅理論この脂質の誘惑は鮨だけではなく、サーロインステーキなどの肉料理でも同様です。牛肉において脂は、肉の繊維の中にある旨味を液体化させて舌のセンサーに届けるための、いわば天然の増幅器のような役割を果たしています。和牛が美味しい最大の理由は、単に脂の量が多いからではなく、脂の質そのものに秘密があります。和牛の脂には、オリーブオイルの主成分でもあるオレイン酸が含まれているのです。この性質を利用して、パサつきやすい赤身の塊肉に無数の針で和牛の脂を注入し、無理やりジューシーに仕上げる「牛脂注入肉」という技術も存在します。日本の法律では、これらを流通時に明記する義務がありますが、この「脂で旨味を補強する」という発想をより家庭的かつ合法的に活用した調理法が、みんなが大好きなハンバーグです。第五章:アミノ酸が爆発する「熟成」という名の魔法再び私がこよなく愛する鮨の話に戻りますが、鮨屋で「シマアジを3日寝かせた」「マグロを1週間置いた」と言うのは聞いたことがあると思います。単に柔らかくするためではありません。肉も魚も、死後しばらく経つと死後硬直によって一度は身が硬くなります。しかし、そこから適切な温度でじっくりと寝かせることで、細胞内の酵素が働き始めてタンパク質が分解され、グルタミン酸などのアミノ酸へと変わります。これこそが「旨味」の正体であり、素材のポテンシャルを最大限に引き出すために時間を調理道具として使う、人類の知恵が詰まった高度な技術です。「鮨」という漢字を選んだ先人たちは、魚が腐敗へと向かう一歩手前で旨味が爆発する瞬間を、見事に捉えていたと言えるでしょう。第六章:黄金の三角形が生み出す「もう一貫」の無限ループ世界中の都市で「Sushi」の看板を見かけるようになったのは、酢飯に含まれる「酢」が人間の味覚システムを完璧にハックしているからだと考えています。酸には脂のしつこさを切り、旨味を際立たせる効果があります。脂は旨味の運び役として優秀ですが、多すぎると口の中が脂の膜で覆われて味覚が鈍くなってしまいます。ここで酢の効いたシャリが登場し、脂の重たさを中和して口の中をさっぱりと洗い流してくれるのです。この「リセット」という役割において、忘れてはならないのがガリです。次のネタに移る前に舌を清める、味の句読点です。板場でお客の食べるペースを計り、食欲を適度に刺激するための調整役としての意味も込められています。鮨には「旨味・脂・酸」という黄金の三角形が揃っており、この完璧なサイクルがあるからこそ、私たちは「もう一貫」と飽きることなく食べ続けられるのです。鮨はまさに、一切れの魚を一つの完成された宇宙へと昇華させる究極のエンターテインメントと言えるでしょう。第七章:ドーパミンとLDL、幸福と代償のせめぎ合い脂の乗ったトロを口に含んだ瞬間、脳内ではドーパミンが放たれ、幸福感が一気に立ち上がります。これは人類が飢餓と共に生きてきた歴史の名残であり、「高エネルギーなものを見逃すな」という原始的な生存戦略のスイッチが入る瞬間でもあります。しかし循環器内科医としての私の視点は、どうしてもその先を見てしまいます。脂質の過剰摂取は、血中LDLコレステロールを増やします。本来は細胞に必要な物資を届ける運び屋ですが、余れば血管壁に居座り、静かに動脈硬化を進めていく厄介な同居人となります。心筋梗塞や脳梗塞は、ある日突然起こる出来事ではなく、日々の「美味しい」の積み重ねの延長線上にあります。では、鮨は不健康な誘惑なのでしょうか。私は、そうは思いません。なぜなら鮨という料理は、脂を無制限に肯定する構造にはなっていないからです。一貫は小さい。脂のピークは酢飯の酸で必ず切られる。ガリが入り、アガリで間が置かれる。これは快楽を暴走させないための、驚くほど理性的な設計です。ドーパミンを出しすぎず、LDLコレステロールを積み上げすぎないための、日本料理が長い時間をかけて編み出した安全装置と言ってもいい。最後に熱いアガリを啜り、ふっと我に返る。満腹ではなく、満ち足りて席を立つ、この感覚こそが鮨の真骨頂です。循環器内科医として断言します。本当に怖いのは脂そのものではありません。止まらない脂、考えずに摂る脂です。一貫ずつ供され、考えながら味わい、自然と箸が止まる。鮨とは、幸福と健康の折り合いを最初から織り込んで完成された料理なのです。だから私は今日も、安心してこう呟きます。「……もう一貫、お願いします」※登場した鮨屋の符牒……シャリ:米、アガリ:茶、ムラサキ:醤油、ナミダ:わさび、ガリ:生姜

477.

抗菌薬による末梢神経障害【1分間で学べる感染症】第37回

画像を拡大するTake home message一部の抗菌薬・抗真菌薬は末梢神経障害を引き起こす可能性があり、とくに慢性使用時や高用量使用時には、そのリスクを念頭に置いた処方・モニタリングが重要であることを理解しよう。抗菌薬の使用中に、患者から「手足がしびれる」「足裏の感覚が鈍い」といった訴えがあった場合、まず考慮すべきは「薬剤性末梢神経障害(drug-induced peripheral neuropathy)」です。とくに抗菌薬を長期投与する機会の多い免疫不全、結核、真菌感染症の患者では、強く意識しておくことが重要です。今回は、抗菌薬による末梢神経障害の頻度や経過に着目して、代表的な薬剤を整理していきましょう。抗菌薬ごとの特徴と注意点メトロニダゾール抗嫌気性菌治療で広く使われる薬剤であり、高用量での長期使用(4週間で42g以上)では末梢神経障害が比較的高頻度で報告されています。症状は亜急性で、用量調整と早期中止により改善するといわれますが、一部の患者では長期間持続することがあります。イソニアジド結核治療の第1選択薬ですが、ビタミンB6(ピリドキシン)欠乏により末梢神経障害を起こすことがあります。ビタミンB6を併用することで発症頻度は大きく低下しますが、常に可能性を念頭に置いておくことが重要です。リネゾリドグラム陽性球菌に対する治療薬として使用されますが、2週間以上の使用で30%前後の頻度で神経障害が生じると報告されており、比較的頻度が高い抗菌薬として押さえておく必要があります。エタンブトール視神経障害のイメージが強い薬剤ですが、まれに末梢神経障害も報告されており、とくに高齢者や腎機能低下例では注意が必要です。フルオロキノロン系非常にまれながら感覚障害、異常感覚といった末梢神経障害が発現することが知られています。腱障害(腱炎や腱断裂、アキレス腱が多い)と併せて理解しましょう。ジアフェニルスルホン(ダプソン)ハンセン病やニューモシスチス肺炎の予防に使われる薬剤で、亜急性から慢性の経過をとる神経障害が報告されています。トリアゾール系抗真菌薬ボリコナゾールを中心に、慢性使用で神経毒性のリスクが上昇することが示唆されています。ボリコナゾールでは幻覚、高濃度で中枢神経障害も併せて覚えるようにしましょう。クロラムフェニコール現在では使用頻度が低い薬剤ですが、慢性的な神経毒性の報告があるため、投与機会がある場合には注意が必要です。末梢神経障害は、患者のQOLを大きく損なう副作用にもかかわらず、原因が特定されにくく、かつ進行性である可能性がある点で非常に重要です。上記の抗菌薬を継続している患者では、常に末梢神経障害のリスクを念頭に置き、出現した際には中止あるいは変更を検討します。1)Mauermann ML, et al. JAMA. 2025 Nov 17. [Epub ahead of print]

478.

第44回 進行したアルツハイマー病が「元に戻る」? 驚きの最新研究で見えた治療の新たな光

「進行したアルツハイマー病は『不可逆』である」。 長年、一度失われた認知機能は元には戻らないというのが定説でした。しかし、2025年12月にCell Reports Medicine誌に発表された研究は、その常識を覆す可能性を秘めています1)。 今回は、進行したアルツハイマー病の状態から認知機能を「回復」させたという最新の研究成果と、その鍵を握る「NAD+」という物質について解説していきます。「手遅れ」の状態から記憶力が復活? アルツハイマー病の治療薬といえば、最近話題のレカネマブやドナネマブのように、脳に溜まった「アミロイドβ」というゴミを取り除くことで、病気の進行を「遅らせる」ものが主流です。しかし、今回の研究チームが報告したのは、進行を遅らせるだけでなく、進行した症状を「逆転」させたという衝撃的なデータでした。 研究チームが使用したのは、遺伝子操作によって重度のアルツハイマー病を発症するようにしたマウスです。このマウスに対し、人間で言えばすでに認知症がかなり進行し、脳内の炎症や神経細胞の損傷が進んでいる「進行期」にあたる段階から、「P7C3-A20」という化合物を投与し始めました。 通常であれば、この段階のマウスは記憶力や学習能力が著しく低下しています。しかし、この化合物を投与されたマウスたちは、驚くべき回復を見せました。 たとえば、新しい物体を見分けるテストや、プールの中で逃げ場所を探すテストにおいて、健康なマウスと変わらないレベルまで成績が回復したのです。 さらに、脳の内部を詳しく調べると、以下のような変化が起きていました。 血液脳関門の修復: 脳を有害物質から守るバリア機能(血液脳関門)が壊れていたのが、修復されていました。 炎症と酸化ストレスの減少: 脳内の慢性的な炎症や、細胞を錆びつかせる酸化ストレスが劇的に抑えられていました。 神経細胞の保護: 新しい神経細胞が生まれる機能が回復し、既存の神経細胞の死滅も防がれていました。 これは、単に「進行が止まった」だけでは説明がつかない、脳機能の「再生」に近い現象が起きたことを示唆しています。鍵を握る「NAD+」:脳のエネルギー通貨 では、この「P7C3-A20」という化合物は、一体何をしたのでしょうか? その答えは、「NAD+」という物質の調整にあります。 NAD+は、私たちのすべての細胞の中に存在し、エネルギーを生み出したり、傷ついたDNAを修復したりするために不可欠な「燃料」のようなものです。研究チームは、アルツハイマー病のマウスや、実際の人間の患者さんの脳内でも、このNAD+のバランス(恒常性)が崩れ、枯渇していることを突き止めました。 つまり、脳がダメージを受けたとき、それを修復するための「エネルギー(NAD+)」が足りず、防御システムが崩壊しているのがアルツハイマー病の進行に深く関わっているようなのです。 今回使用された「P7C3-A20」は、このNAD+を作る酵素を活性化させることで、脳内のNAD+レベルを正常に戻す働きをしました。重要なのは、NAD+を過剰に増やすのではなく、「正常なレベルに戻した」という点です。「アミロイドβがあっても発症しない人」の謎 さらにこの研究が興味深いのは、マウスだけでなく、人間のデータともリンクしている点です。 実は、亡くなった高齢者の脳の解剖を行うと、脳内ではアミロイドβの蓄積など、アルツハイマー病の特徴がはっきりと見られるにもかかわらず、生前は認知症を発症していなかった人が一定数存在します。 「なぜ彼らは、脳にゴミが溜まっていても認知症にならなかったのか?」 この長年の謎に対し、今回の研究は一つの答えを提案しています。研究チームが認知症にならなかった人の脳を調べたところ、彼らの脳内ではNAD+を作り出すシステムが正常に保たれていたのです。 つまり、アミロイドβなどのゴミがあっても、NAD+という「燃料」が十分にあり、脳の修復システム(レジリエンス=回復力)が正常に働いていれば、認知症の発症を防げる可能性があるというわけです。ただし、ぬか喜びは禁物 ここまで読むと、「NAD+のサプリを飲めばいいのでは?」「もうアルツハイマー病は治る病気になったのか?」と期待してしまうかもしれません。しかし、冷静になるべきいくつかの重要な「壁」があります。 まず、今回使われたのは、遺伝子操作によって強制的にアルツハイマー病を発症させたマウスです。人間のアルツハイマー病は、遺伝要因だけでなく、生活習慣や加齢など複雑な要因が絡み合って発症するため、マウスで効いた薬が人間でも同じように効くとは限りません。 また、「NAD+を増やせばいい」と単純に考えるのは危険です。過去の研究では、NAD+の前駆体(材料となる物質)を過剰に摂取すると、NAD+レベルが異常に高くなりすぎてしまい、たとえばがん細胞の増殖を助けてしまうリスクなどが指摘されています。今回のP7C3-A20という薬剤は、NAD+を「正常範囲」に留める特性があったため成功しましたが、市販のサプリメントで同様の安全で精密なコントロールができるかは不明です。 さらに、このP7C3-A20という化合物も、まだ人間での臨床試験の結果が出ているわけではありません。人間でも効果が見られるか、安全に使えるかを確認するには、それ相応のプロセスが必要です。私たちが知っておくべきこと それでも、この研究が示した「希望」は色褪せないでしょう。これまでアルツハイマー病の治療は「原因と思わしき物質(アミロイドβなど)を取り除く」ことに主眼が置かれてきました。しかし今回の研究は、「脳の回復力(レジリエンス)を高める」という新しいアプローチが、すでに進行してしまった病気に対しても有効である可能性を示しました。 「死んでしまった神経細胞は元には戻らない」というこれまでの常識に対し、実は細胞が死滅するずっと手前の段階で、エネルギー不足によって機能不全に陥っているだけの細胞が多くあり、それらは救済可能かもしれないのです。 ただし、今の私たちができることは、怪しいサプリメントに飛びつくことではなく、この「脳の回復力」に着目した新しい治療開発の行方に注目し続けることでしょう。そして、規則正しい生活や運動が、このNAD+レベルを含む脳の代謝システムを維持するのに良い影響を与える可能性についても、改めて検討されるべきかもしれません。 1) Chaubey K, et al. Pharmacologic reversal of advanced Alzheimer's disease in mice and identification of potential therapeutic nodes in human brain. Cell Rep Med. 2025 Dec 22. [Epub ahead of print]

479.

重度の精神疾患患者、コーヒー1日4杯で生物学的年齢が5歳若返る?

 テロメア長は細胞老化の指標であり、重度の精神疾患患者は一般集団よりもテロメア長が短い傾向にある。コーヒーの摂取は、酸化ストレスを軽減し、テロメア長の短縮などの生物学的老化プロセスの予防に役立つ可能性があるといわれている。英国国民保健サービスは、1日のカフェイン摂取量を400mg(コーヒー4杯分)に制限することを推奨している。しかし、精神疾患患者におけるコーヒー摂取とテロメア長の役割は、依然として明らかではなかった。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのVid Mlakar氏らは、重度の精神疾患におけるコーヒー摂取とテロメア長との関連を評価するため、横断的研究を実施した。BMJ Mental Health誌2025年11月25日号の報告。 対象は、ノルウェーTOP研究に参加した精神疾患患者436例(統合失調スペクトラム症:259例、感情障害:177例)。白血球テロメア長は、血液からリアルタイムPCR(qPCR)を用いて測定した。コーヒー摂取量は、患者の自己申告により評価し、1日当たりのカップ数(0杯、1~2杯、3~4杯、5杯以上)で定量化した。 主な結果は以下のとおり。・テロメア長とコーヒー摂取量の間に逆J字型が認められた。1日3~4杯でピークに達し、4杯を超えると減少した(F=3.29、p=0.02)。・テロメア長の差が最も長かったのは、推奨最高用量を摂取した患者と非摂取者の間であった(F=6.13、p=0.01)。・推奨用量内でコーヒーを摂取した患者は、交絡因子調整後、テロメア長が長かった。これは、生物学的年齢の5歳若い状態に相当する値であった。 著者らは「推奨用量内でのコーヒー摂取は、重度の精神疾患におけるテロメア長と関連しており、生物学的年齢の5歳若返りに匹敵する値が示された」と結論付けている。

480.

心血管イベント高リスク患者、術後制限輸血戦略は安全か/JAMA

 心血管イベントリスクの高い患者において、主要血管手術後または一般外科手術後の非制限輸血戦略は制限輸血戦略と比較して、90日死亡あるいは主要虚血性イベントの発生を減少させなかった。米国・State University of New York(SUNY)Downstate Health Sciences UniversityのPanos Kougias氏らTOP Trial Investigatorsが行った無作為化試験「Transfusion Trigger after Operations in High Cardiac Risk Patients:TOP試験」の結果で示された。術後赤血球輸血ガイドラインでは、ヘモグロビン値が7g/dL未満について輸血を行うこと(制限輸血戦略)が推奨されているが、大手術を受ける心血管イベントリスクの高い患者において、この輸血戦略の安全性は明らかになっていなかった。JAMA誌2025年12月23・30日号掲載の報告。90日以内の死亡または主要虚血性イベントのリスクを評価 TOP試験は、主要血管手術または一般外科手術を受け、術後に貧血を呈した心血管イベントリスクの高い患者における、非制限輸血戦略vs.制限輸血戦略の90日以内の死亡または主要虚血性イベントのリスクを評価した、並行群間比較単盲検無作為化優越性試験。 2018年2月~2023年3月に、米国の16の退役軍人省医療センターで、主要血管手術または一般外科手術を受けた心血管イベントリスクの高い18歳以上の退役軍人が登録された。登録者は、術後15日間に入院中のヘモグロビン値が10g/dL未満となった場合に、非制限輸血戦略群(ヘモグロビン値が10g/dL未満で輸血開始)または制限輸血戦略群(ヘモグロビン値が7g/dL未満で輸血開始)に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、無作為化後90日以内に発生した全死因死亡、心筋梗塞、冠動脈血行再建術、急性腎不全、または虚血性脳卒中の複合。副次エンドポイントは、90日以内の心筋梗塞以外の心合併症の複合(不整脈、心不全、非致死的心停止)など5項目について評価した。主要エンドポイント発生率、非制限輸血戦略群9.1%vs.制限輸血戦略群10.1% 1,428例が無作為化され、1,424例(各群712例)が解析コホートに含まれた。1,424例は平均年齢69.9(SD 7.9)歳、男性1,393例(97.8%)で、黒人268例(18.8%)、ヒスパニック58例(4.1%)、白人1,071例(75.2%)などで構成されていた。 1,297例(91.1%)が血管外科手術を受け、無作為化後5日目のヘモグロビン値の平均群間差は2.0g/dLであった。 主要エンドポイントの発生率は、非制限輸血戦略群9.1%(61/670例)、制限輸血戦略群10.1%(71/700例)であった(相対リスク:0.90、95%信頼区間[CI]:0.65~1.24)。90日時点の死亡は、両群で同等であった(非制限輸血戦略群4.6%[31/670例]vs.制限輸血戦略群4.7%[33/700例])。冠動脈血行再建術の発生率は、それぞれ1.2%(8/643例)と1.9%(13/688例)であった。急性腎不全の発生率は、非制限輸血戦略群より制限輸血戦略群のほうが高率だったが(1.7%[11/644例]vs.2.1%[14/671例])、統計学的有意差はなかった。 副次エンドポイント5項目のうちの1つである90日以内の心筋梗塞以外の心合併症の複合の発生率は、非制限輸血戦略群5.9%(38/647例)、制限輸血戦略群9.9%(67/678例)であった(相対リスク:0.59、99%CI:0.36~0.98)。

検索結果 合計:35608件 表示位置:461 - 480