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HIV小児の2次治療、至適なARTレジメンは?/NEJM

 1次治療に失敗したヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性の小児の2次治療において、バックボーン療法としてのテノホビル アラフェナミドフマル酸塩(TAF)+エムトリシタビン(FTC)に、アンカー薬としてドルテグラビル(DTG)を併用する抗レトロウイルス療法(ART)は、他のレジメンと比較して有効性が高く、安全性の懸念を示す所見はみられないことが、ウガンダ・Makerere UniversityのVictor Musiime氏らが実施した「CHAPAS-4試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年5月15・22日合併号に掲載された。アフリカ3ヵ国の2×4要因デザインの無作為化試験 CHAPAS-4試験は、アフリカのHIV陽性の小児の2次治療におけるさまざまなARTレジメンの有効性と安全性の比較を目的とする2×4要因デザインを用いた非盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月にアフリカの3ヵ国(ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ)6施設で参加者の無作為化を行った(欧州・開発途上国臨床試験パートナーシップ[EDCTP]などの助成を受けた)。 年齢3~15歳、体重14kg以上で、1次治療において非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)をベースとするARTレジメンによる治療に失敗し、スクリーニング時にウイルス量が400コピー/mL超のHIV陽性の小児を対象とした。 これらの参加者を、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)による2つの併用バックボーン療法(TAF+FTC、標準治療[アバカビル[ABC]+ラミブジン[3TC]またはジドブジン[ZDV]+3TC])のいずれかに無作為に割り付け、同時に4つのアンカー薬(DTG、リトナビル[RTV]でブーストしたダルナビル[DRV/r]、RTVでブーストしたアタザナビル[ATV/r]、RTVでブーストしたロピナビル[LPV/r])の1つに無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、96週の時点におけるウイルス量が400コピー/mL未満であることとした。 次の仮説を設定し検証した。「TAF+FTCは標準治療に対して非劣性、LPV/rとATV/rを統合した解析でDTGおよびDRV/rは優越性を示す、ATV/rはLPV/rに対して非劣性」。DRV/rも有効な可能性 919例(年齢中央値10歳[四分位範囲:8~13]、男性497例[54.1%])を登録した。バックボーン療法はTAF+FTCに458例、標準治療に461例(ABC+3TC群217例[47.1%]、ZDV+3TC群244例[52.9%])を割り付けた。アンカー薬は、DTGが229例、DRV/rが232例、ATV/rが231例、LPV/rが227例であった。全体のベースラインのウイルス量中央値は1万7,573コピー/mL、CD4細胞数中央値は669個/mm3、CD4細胞割合中央値は28.0%だった。 バックボーンにおける96週の時点でウイルス量400コピー/mL未満を達成した患者の割合は、標準治療が83.3%(378/454例)であったのに対し、TAF+FTCは89.4%(406/454例)であった(補正後群間差:6.3%ポイント[95%信頼区間[CI]:2.0~10.6]、p=0.004)。事前に規定された非劣性マージン(10%ポイント)を満たしたため、TAF+FTCの標準治療に対する非劣性(かつ優越性)が示された。 アンカー薬別の96週時にウイルス量400コピー/mL未満を満たした患者の割合は、DTGが92.0%、DRV/rが88.3%、ATV/rが84.3%、LPV/rが80.7%であった。LPV/rとATV/rを統合した解析では、主要アウトカムに関してDTGの優越性が示された(補正後群間差9.7%ポイント[95%CI:4.8~14.5]、p<0.001)が、DRV/rには有意な差を認めなかった(5.6%ポイント[0.3~11.0]、p=0.04[事前にp=0.03を有意差ありの閾値に設定])。 また、ATV/rはLPV/rに対し非劣性であった(補正後群間差:3.4%ポイント、95%CI:-3.4~10.2、p=0.33)。グレード3または4の有害事象は13.8% 96週の時点で、全体の13.8%(127/919例)にグレード3または4の有害事象が発現し、最も頻度が高かったのは高ビリルビン血症(6.4%)で、予想どおりその多くがATV/r(24.7%)に関連したものであった。また、グレード3または4の有害事象は、LPV/r(11.5%)に比べDTG(5.2%)で少なく(p=0.02)、DRV/r(8.6%)とLPV/r(11.5%)には有意差を認めなかった(p=0.31)。 重篤な有害事象は29例(3.2%)に発現した(バックボーン:TAF+FTC群15例、標準治療群14例、アンカー薬:DTG群6例、DRV/r群8例、ATV/r群5例、LPV/r群10例)。ARTの変更に至った有害事象(グレードを問わず)は24例(同:7例、5例、5例、7例)に発現した。1例(TAF+FTC、DTG)が病勢の進行により死亡した。 著者は、「本試験の良好な臨床アウトカムはベースラインのCD細胞数の値が比較的高かったことが一因であり、臨床的に重大な免疫機能の低下を認める前に2次治療に切り換えるという原則を支持する結果といえる」「全体として、今回の結果は、小児の2次治療におけるTAF+FTCとDTGの有効性と安全性に関するデータを提供するものである」「TAF+FTCの使用が拡大すると医療費の削減にもつながる可能性がある」「これらの知見は、アンカー薬の有無にかかわらず、小児にやさしいTAF+FTCの固定用量の合剤のさらなる開発を支持する」としている。

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モデルナ、プレフィルドシリンジ型コロナワクチンを新発売

 モデルナ・ジャパンは5月26日付のリリースにて、新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス(R)筋注シリンジ」を新たに発売したことを発表した。本ワクチンは、12歳以上を対象とした1回接種用0.5mLを充填したプレフィルドシリンジ製剤で、医療現場での調製時間を短縮し、投与準備を簡便化する。これにより、医療従事者の負担軽減と接種の効率化が期待される。本製剤は、オミクロン株JN.1系統に対応している。 なお、2025年春夏シーズンの任意接種においては、従来からのオミクロン株JN.1系統対応バイアル製剤「スパイクバックス(R)筋注」も引き続き使用可能となっている。

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新たなリスクスコアにより頸動脈狭窄に対する不要な手術を回避

 頸動脈リスク(carotid artery risk;CAR)スコアと呼ばれる新たなスコアリングシステムにより、頸動脈狭窄が確認された患者に対する頸動脈血行再建術の必要性を判断できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やアムステルダム大学医療センター(オランダ)などの研究者らが開発したCARスコアリングシステムは、頸動脈狭窄の程度(狭窄率)や医療歴などを考慮して5年間の脳卒中リスクを予測する。UCLクイーン・スクエア神経学研究所の名誉教授であるMartin Brown氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」5月号に掲載された。 頸動脈狭窄患者に対しては、通常、脳卒中リスクを軽減するために頸動脈血行再建術が行われる。しかし研究グループによると、この治療法は、30年以上前に実施されたランダム化比較試験の結果に基づいているという。 論文の責任著者であるBrown氏らは今回、症候性または無症候性の頸動脈狭窄患者を対象に、至適内科治療(optimised medical therapy;OMT)による管理の有効性と安全性を、OMTに加え血行再建術も受けた患者との間で比較した。OMTは、低コレステロール食、脂質低下薬、降圧薬、血液凝固阻止薬などで構成されていた。 対象者は、CARスコアに基づき脳卒中リスクが低~中等度(20%未満)と判定され、頸動脈に50%以上の狭窄が確認された18歳以上の者とし、OMTのみを受ける群(OMT群、215人)とOMTに加えて頸動脈血行再建術も受ける群(OMT+血行再建術群、214人)に1対1の割合でランダムに割り付けられた。主要評価項目は、1)手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生、2)非致死的な脳卒中の発生、3)非致死的な心筋梗塞の発生、4)画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞とし、2年後に評価された。OMT群のうち1人は研究への参加同意後に離脱したため、428人(平均年齢72歳、男性69%)を対象に解析が行われた。 その結果、主要評価項目のいずれについてもOMT群とOMT+血行再建術群の間で有意な差は認められず、血行再建術はリスクを考慮すると特段の利点を示さなかった。主要評価項目の発生件数は、OMT群、OMT+血行再建術群の順に、手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生で4件と3件、非致死的な脳卒中の発生で11件と16件、非致死的な心筋梗塞の発生で7件と5件、画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞で12件と7件であった。 Brown氏は、「これらの知見を確認するにはさらなる追跡調査と追加試験が必要だが、われわれは、CARスコアを用いて、OMTのみで管理可能な頸動脈狭窄患者を特定することを推奨したい」と述べている。同氏はさらに、「このアプローチは、血管リスク因子の個別評価と集中治療を重視しているため、多くの患者が頸動脈血行再建術やステント留置に伴う不快感やリスクを回避できる可能性がある。さらに、この方法は医療サービスの大幅なコスト削減にもつながり得る」と付言している。 この研究をレビューした米脳卒中協会のLouise Flanagan氏は、「CARスコアを用いることで、薬物療法だけで治療を行えるか、薬物療法と手術を組み合わせるべきかを判断できるため、手術やステント留置に伴うリスクや不利益を減らせる可能性がある」と話している。なお、この臨床試験は現在も進行中である。

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臨床試験における患者・市民参画(解説:景山茂氏)

 臨床試験における患者・市民参画(patient and public involvement)は、臨床試験に患者あるいは一般市民が被験者として参加するだけでなく、試験の計画段階から参加することにより、試験計画書をより現場のニーズに合ったものとして、エンドポイントの設定についても患者の視点を踏まえたものとし、得られるエビデンスがより有用なものになるようにしようとする考え方である。 臨床試験における患者・市民参画は比較的最近の動きであって、CIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences、国際医学団体協議会)の報告書でも2014年の「医薬品リスク最小化のための実践的アプローチ」では、ごく簡単に触れられただけであったが、2022年の「医薬品の開発、規制、安全な使用への患者参画」において、ようやく詳しく取り上げられた。 本論文では、BMJ誌の他にN Engl J Med、JAMA、Lancetの4誌を対象に調査しているが、投稿規定で患者・市民参画を記載しているのはBMJ誌のみである。結果として、調査対象とした360論文のうち、患者・市民参画が報告されていたのは論文では64件(18%)、プロトコルでは56件(19%)のみであった。また、患者・市民参画の主な活動は各種の試験委員会への参画であった(64件の論文中44件、56件のプロトコル中39件)。 ランダム化比較試験を報告する為のチェックリストとフローチャートからなるCONSORT声明は従来、患者・市民参画に言及していなかったが、2025年版で初めてこれに言及している。一方、ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors、医学雑誌編集者国際委員会)は臨床研究の計画、実施、報告等の各段階での在り方について声明を発出し、とくに臨床試験の登録やdata sharingという先進的な考え方を提唱してきた。また、医学雑誌への投稿規定についてはICMJEの声明が国際的な標準となっている。しかし、ICMJEは現在のところ患者・市民参画については言及していない。 さて、患者や一般市民が臨床試験に参画するためには、臨床試験に関連した事柄をある程度以上理解しなければならない。上記のCIOMS報告書では患者および参画を希望する者は以下の研修が必要と述べている。(1)医薬品関連の科学、(2)健康関連の研究における倫理、(3)臨床試験の方法論や解釈、医薬品に関わる法律や規制。 患者・市民参画を実践することには課題も多いが、臨床試験計画書の改善や被験者のリクルートの視点のみでなく、人間を対象とする臨床試験をよりオープンな透明性の高い形で実践していくには、今後大いに検討すべき課題であるといえる。EBMにおいても、EBMはexternal evidenceのみに基づくのではなく、患者のpreference、および主治医の意見を統合して最善の医療を判断するとされている。患者のpreferenceを取り入れるために臨床試験への患者・市民参画は有用と考えられる。 AMED(日本医療研究開発機構)は昨年度より研究申請書に患者・市民参画に関する記載を求めている。また、PMDA(医薬品医療機器総合機構)も患者参画ガイダンスを2021年に発出しており、わが国においても患者・市民参画という考え方は徐々にではあるが確実に広がってきている。

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第244回 外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連

<先週の動き> 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連 2.リンゴ病が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連外科医療の持続可能性が危機に瀕する中、日本消化器外科学会と日本心臓血管外科学会は、高難度症例の「地域拠点への集約化」と「経済的インセンティブの付与」をセットで推進する必要性を訴えた。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が5月19日に開催した記者懇談会で明らかにされた。消化器外科学会の試算によれば、同会員(65歳以下)は2023年の約1万6,000人から2043年には約8,000人にと半減すると予測される。背景には、キャリア形成の難しさ(専門医取得まで17~20年)や、救急・移植など多岐にわたる業務負担の重さ、そしてその努力に見合わない評価の低さがある。同学会の調査では、現役外科医の4割が「子に外科を勧めない」と回答しており、外科離れの深刻さがうかがえる。これに対し学会は、症例を拠点病院に集約することにより短期間で多くの経験が得られ、キャリア形成が加速する環境を整備すべきと提言。集約先病院には報酬上の評価を充実させ、医師のモチベーション維持と人材確保を図るべきとする。同様に、心臓血管外科学会も「症例数と成績の正の相関」に基づき、高難度手術の集約化を推進。「搬送時間が予後に影響を及ぼさない」というデータも示し、集約化による利点が搬送距離の不利を上回るとした。加えて、ICU体制強化やタスクシフト推進、報酬面での手厚い支援の必要性も訴えた。一方、救急・産科領域では「集約化一辺倒」の議論に警鐘が鳴らされた。医療アクセスの確保が不可欠であり、働き方改革と診療報酬の乖離が、地域医療の崩壊を招く危険があると警告。産科では正常分娩の保険適用による報酬低下が、医療提供体制に大きな打撃を与える懸念が指摘された。こうした各学会の提言の根拠となるのが、NCD(National Clinical Database)である。年間150万例以上の手術データを蓄積するこの巨大データベースは、症例の集約が望ましい術式や、施設ごとに必要な外科医数の可視化を可能にし、今後の医療提供体制の設計に極めて重要な役割を果たす。2026年度の診療報酬改定に向け、外保連はNCDに基づく科学的データを活用し、地域医療構想との整合を図った制度設計を強く求めている。 参考 1) 消化器外科医が20年間で半減、学会試算 キャリア形成見えにくく 「手術の集約を」(CB news) 2) NCDを活用することで、地域ごとに「どの外科領域のどの術式について、どの程度の集約化が必要か」などを明確化できる-外保連(Gem med) 2.伝染性紅斑(リンゴ病)が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS子供に多くみられるウイルス感染症の「伝染性紅斑(リンゴ病)」の感染が拡大しており、妊婦に対する注意喚起が強まっている。国立健康危機管理研究機構(JHIS)の発表によれば、2025年5月5~11日の1週間に全国約2,000の小児科定点医療機関から報告された患者数は、1施設当たり1.14人。これはこの時期としては過去10年で最多の水準であり、4月以降、1.0人超の高水準が継続している。都道府県別では、栃木県(4.19人)、宮城県・山形県(各3.23人)、北海道(2.87人)など、東北・北日本を中心に高い報告数が続く。専門家は、昨年秋の関東での流行から、地域と時期をずらしながら今年秋頃までの流行継続を予測している。伝染性紅斑は、パルボウイルスB19が原因で、飛沫感染や接触感染により伝播する。感染初期は風邪様症状を呈し、その後、頬部の紅斑が出現するのが特徴。小児や一般成人では自然軽快することが多いが、過去に感染歴のない妊婦が感染した場合、胎児水腫や流産・死産のリスクがあることが知られている。日本産婦人科感染症学会の山田 秀人氏は、「流行年には全国で100人以上の流産・死産が発生していると推定される」と警鐘を鳴らす。感染経路の特徴として、発疹出現の約1週間前が最も感染性が高く、無症候期に家庭内で感染が広がる点も問題視されている。治療法やワクチンは存在せず、予防策としては手洗い・マスクの着用、人混みの回避が推奨される。とくに妊婦や、妊婦と接する職業に従事する医療関係者、保育・教育従事者への注意喚起が重要である。厚生労働省も、家庭内感染防止の観点から、同居家族にも感染対策の徹底を求めている。 参考 1) リンゴ病の患者数 この時期としては過去10年で最多 感染対策を(NHK) 2) 「リンゴ病」感染拡大、流産の原因になることもあり注意呼びかけ(読売新聞) 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省文部科学省は5月21日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の人材確保と魅力向上を目的とした中間骨子案を提示した。医学生の63.1%が大学病院以外への就職を希望し、その主因は給与や労働環境の良さであった。勤務希望理由として「地域医療への貢献」が最多(73.0%)だった一方で、「研究力向上」は34.4%に留まった。勤務医の離職傾向も顕著で、助教・医員の54.1%が大学病院以外での勤務を志望している。博士課程進学希望者は44.0%で、進学時期は専門研修後が主流となっている。これにより大学院進学率や学位取得率の低下が顕在化し、臨床と研究の両立困難さが浮き彫りとなっている。助教の64.9%は研究時間が週5時間以下とされ、研究力の国際的低下も深刻化している。対策として、専門研修と博士課程を両立可能な「臨床研究医コース」の推進、研究時間確保のためのバイアウト制度活用、研究費・環境整備の支援強化などが骨子案に盛り込まれた。また、特定機能病院の見直しにおいて、大学病院が地域医療構想に整合した「地域貢献機能」を担うことも明記された。今後の重点課題は、医師にとって大学病院勤務が魅力ある選択肢となるよう、制度・評価・財政面での総合的な支援体制の構築が喫緊の課題となる。 参考 1) 第14回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省) 2) 大学病院の人材確保で「臨床研究医の育成推進」 文科省検討会(MEDIFAX) 3) 医学部5・6年生の63%が大学病院での勤務希望せず 在職者も過半数で 文科省検討会(CB news) 4) 大学病院で働く医師の研究・教育時間が減少傾向、世界での研究力低下が課題に(日経メディカル) 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ5月23日、自民党・公明党と日本維新の会は、国会内で開かれた社会保障改革に関する実務者協議で、全国の医療機関に存在する余剰病床をおよそ11万床削減する方針で大筋合意した。維新の主張を自公が一定程度受け入れる形で、政府が6月に取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への明記を目指す。維新は、医療費の年間総額を最低4兆円削減し、現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げることを主張。11万床の病床削減によって、1兆円の医療費削減が可能との試算を示していた。今回の協議では、自公側もこの見解を共有したとされ、病床削減に向けた合意形成が進展した形。しかし、維新が併せて提案している、OTC(一般用医薬品)と同等の効能を持つ医薬品の保険給付除外については、自公との間で意見の隔たりが大きく、今国会での結論は困難との見通しが示された。今後も継続して協議が行われる予定。背景には、21日の党首討論で維新の前原 誠司共同代表が改革への進展が見られないことに対し「守らなければ内閣不信任に値する」と強く牽制したことがある。これを受け、石破 茂首相は翌日、自民党幹部に誠意ある対応を指示したとされ、今回の合意形成に一定の政治的圧力が影響したとの見方も出ている。自民党の田村 憲久元厚生労働相は「内容的にはほぼ同じ考えを共有できた」と発言。維新の岩谷 良平幹事長も「11万床の削減については相互理解に達した」と述べた。3党は今後、協議内容を文書化し、制度改革の具体的方針を固めていく。医療現場においては、病床削減が地域医療に及ぼす影響の精査と、代替的な医療提供体制の整備が急務となる。現場の声やデータを踏まえた、慎重な制度設計が求められる段階に入ったといえる。 参考 1) 自公維、余剰病床削減で大筋合意 「骨太方針」に明記の方向で調整(東京新聞) 2) 保険料負担軽減へ“11万床減で医療費1兆円削減”自公維が共有(NHK) 3) 余剰病床の削減で大筋合意、自公維の社会保障協議 骨太方針に明記へ(日経新聞) 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道北海道室蘭市の市立室蘭総合病院は、2025年度に約19.8億円の赤字、累積資金不足が37億円超に達する見込みであることを受け、正職員の基本給を9%削減することで労働組合と合意した。削減は2026年3月末までの限定措置で、医師と市からの人事交流職員を除外。会計年度任用職員は4%の削減とし、総額約5.85億円の人件費削減を見込む。当初、病院側は正職員11%、会計年度任用職員5%の削減を提案していたが、組合は「赤字は国の政策による構造的問題であり、職員に責任はない」と反発。一方で、公立病院として地域医療を守る責任や、市の財政健全化への影響を考慮し、約3ヵ月にわたる交渉の末に妥結した。市立病院は現在、経営が厳しい民間の「日鋼記念病院」との統合を目指しており、病院再編に向けた協議が進行中だが、統合後の病院機能や人員配置の見通しは不透明なままである。組合は「病院の将来像が見えないことが交渉長期化の要因」とし、地域医療の継続に対する懸念を表明している。室蘭市の病院事業会計は、一般会計から毎年約16億円の繰り入れを受けているが、補助金など外部財源への依存は困難な状況で、持続可能な病院運営が喫緊の課題となっている。地域の医療圏を支える中核病院として、感染症対応や災害時の医療提供といった機能維持が求められる中、今回の給与削減は苦渋の決断といえる。今後、医療提供体制の再構築と財政的持続可能性を両立させるには、国・自治体・医療機関の三者による支援体制の再検討と、地域医療ビジョンの明確化が急務とされている。 参考 1) 市立室蘭病院 正職員の基本給9%削減で労使合意 医療機能維持「苦渋の決断」 病院統合へ課題は山積(北海道新聞) 2) 厳しい経営続く市立室蘭総合病院 再来年まで職員給与9%削減(NHK) 3) 「地域医療守る」組合決断 市立室蘭、給与削減合意(室蘭民報) 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県岐阜市の岐阜赤十字病院は、職員16人が長年にわたり敷地内で喫煙していた事実が発覚したことを受け、禁煙外来の診療報酬約450万円を患者や健康保険組合に返還する方針を明らかにした。同病院は2005年から敷地内を全面禁煙とし、2006年からは「敷地内禁煙」が禁煙外来における診療報酬の請求要件となっていた。病院によると、喫煙行為は少なくとも2006年6月~2023年12月まで継続的に行われていたとされ、看護師や元管理職を含む16人が病棟の陰などで喫煙していた。昨年12月、日赤岐阜県支部に寄せられた匿名の情報提供をきっかけに、今年1月から全職員約550人への聞き取り調査を実施し、事実が判明した。この問題により、「ニコチン依存症管理料」などの診療報酬請求の正当性が失われたと判断し、病院は2006年6月~2023年までの禁煙外来の受診者約750人と健康保険組合などに対し、報酬を返還する。返還対象者には5月下旬以降、順次連絡が行われる予定。同病院には、以前から投書箱などを通じ、職員の喫煙を指摘する声が寄せられていた。病院は厚生労働省東海北陸厚生局に報告し、5月23日にはホームページ上で事案を公表した。 担当者は「認識が甘く、申し訳ない」と謝罪し、今後は職員への禁煙教育の徹底や公益通報窓口の設置を含む再発防止策を講じるとしている。 参考 1) 禁煙外来あるのに…岐阜赤十字病院の職員16人、長年にわたり敷地内で喫煙 診療報酬返還へ(中日新聞) 2) 岐阜赤十字病院の職員が敷地内で喫煙 診療報酬を返還へ(NHK)

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事例024 偽痛風治療の関節穿刺が算定漏れ【斬らレセプト シーズン4】

解説偽痛風について医師と雑談をしていました。医師の前で提出前の同傷病名のレセプトを画面に表示させていたところ、「『J116 関節穿刺』が算定されていないのではないか」と指摘を受けました。オーダー画面を確認しましたが関節穿刺の入力がありません。レセプトチェックシステムでもエラーが表示されていません。さらに同日のカルテプログレスを参照したところ「左膝から緑黄色混濁液吸引」の記述がありました。当該医師に確認したところ、「鑑別穿刺なので診察料に含まれるのでは」と返答がありました。関節穿刺は、関節内の検体採取料を行った場合には「D405 関節穿刺」、整形外科的処置を行った場合には「J116 関節穿刺」、穿刺薬液注入を行った場合には「G010 関節腔内注射」として所定点数の設定がありますので、行った目的や処置で区分して算定します。また、外来診察料にかかる包括範囲には含まれていません。同側同一関節に同時にこれらを行った場合には、いずれかの所定点数のみと使用したすべての薬剤が算定できます。今回は腫脹軽減と診断目的の穿刺排液であり、薬剤は使用していませんでしたから処置料のみが算定できます。当該医師にはこのことを説明し、患者に対して行われた行為は、必ずオーダー登録をされるようにお願いしました。算定担当者には、初診の偽痛風患者の多くでは関節穿刺が行われることを説明しました。レセプトチェックシステムには、初診と偽痛風をキーとして、いずれかの関節穿刺の有無を確認するようにコメントを表示させて算定漏れ対策としました。

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英語で「胆石症」、応用できる便利な表現を覚えよう【患者と医療者で!使い分け★英単語】第19回

医学用語紹介:胆石症 cholelithiasis患者さんに「胆石症」について説明する際に、専門用語であるcholelithiasisではまず通じないでしょう。胆石症と伝えたいときに、どのような一般用語で言い換えればよいでしょうか?講師紹介

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咳嗽・喀痰の診療GL改訂、新規治療薬の位置付けは?/日本呼吸器学会

 咳嗽・喀痰の診療ガイドラインが2019年版以来、約6年ぶりに全面改訂された。2025年4月に発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』1)では、9つのクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、初めてMindsに準拠したシステマティックレビューが実施された。今回設定されたCQには、難治性慢性咳嗽に対する新規治療薬ゲーファピキサントを含むP2X3受容体拮抗薬に関するCQも含まれている。また、本ガイドラインは、治療可能な特性を個々の患者ごとに見出して治療介入するという考え方である「treatable traits」がふんだんに盛り込まれていることも特徴である。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドラインに関するセッションが開催され、咳嗽セクションのポイントについては新実 彰男氏(大阪府済生会茨木病院/名古屋市立大学)が、喀痰セクションのポイントについては金子 猛氏(横浜市立大学大学院)が解説した。喘息の3病型を「喘息性咳嗽」に統一、GERDの治療にP-CABとアルギン酸追加 咳嗽の治療薬について、「咳嗽治療薬の分類」の表(p.38、表2)が追加され、末梢性鎮咳薬としてP2X3受容体拮抗薬が一番上に記載された。また、中枢性と末梢性をまたぐ形で、ニューロモデュレーター(オピオイド、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンが含まれるが、保険適用はモルヒネのみ)が記載された。さらに、今回からは疾患特異的治療薬に関する表も追加された(p.38、表3)。咳喘息について、前版では気管支拡張薬を用いることが記載されていたが、改訂版の疾患特異的治療薬に関する表では、β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が記載された。なお、抗コリン薬が含まれていない理由について、新実氏は「抗コリン薬は急性ウイルス感染や感染後の咳症状などに効果があるというエビデンスもあり、咳喘息に特異的ではないためここには記載していない」と述べた。 咳症状の観点による喘息の3病型として、典型的喘息、咳優位型喘息、咳喘息という分類がなされてきた。しかし、この3病型には共通点や連続性が存在し、基本的な治療方針も変わらないことから、1つにまとめ「喘息性咳嗽」という名称を用いることとなった。ただし、狭義の慢性咳嗽には典型的喘息、咳優位型喘息を含まないという歴史的背景があり、咳だけを呈する喘息患者の存在が非専門医に認識されるためには「咳喘息」という名称が有用であるため、フローチャートでの記載や診断基準は残している。 咳喘息の診断基準について、今回の改訂では3週間未満の急性咳嗽では安易な診断により過剰治療にならないように注意することや、β2刺激薬は咳喘息でも無効の場合があるため留意すべきことが記されている。後者について新実氏は「β2刺激薬に効果がみられない場合は咳喘息を否定するという考えが見受けられるため、注意喚起として記載している」と指摘した。 喘息性咳嗽について、前版では軽症例には中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤で治療することが記載されていたが、喘息治療においてはICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)が基本となるため、本ガイドラインでも中用量ICS/LABAを基本とすることが記載された。ただし、ICS+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やICS+LTRA、中用量ICS単剤も選択可能であることが記載された。また、本ガイドラインの特徴であるtreatable traitsを考慮しながら治療を行うことも明記されている。 胃食道逆流症(GERD)については、GERDを疑うポイントとしてFSSG(Fスケール)スコア7点以上、HARQ(ハル気道逆流質問票)スコア13点以上が追加された。また、治療についてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とアルギン酸が追加されたほか、treatable traitsへの対応を十分に行わないと改善しにくいことも記載されている。難治性慢性咳嗽に対する唯一の治療薬ゲーファピキサント 難治性慢性咳嗽は、治療抵抗性慢性咳嗽(Refractory Chronic Cough:RCC)、原因不明慢性咳嗽(Unexplained Chronic Cough:UCC)からなることが記されている。本邦では、RCC/UCCに適応のある唯一の治療薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬のゲーファピキサントである。本ガイドラインでは、RCC/UCCに対するP2X3受容体拮抗薬に関するCQが設定され、システマティックレビューの結果、ゲーファピキサントはLCQ(レスター咳質問票)合計スコア、咳VASスコア、24時間咳嗽頻度を低下させることが示された。ガイドライン作成委員の投票の結果、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])こととなった。 慢性咳嗽のtreatable traitsとして、気道疾患、GERD、慢性鼻副鼻腔炎などの12項目が挙げられている。このなかの1つとして、咳過敏症も記載されている。慢性咳嗽患者の多くはtreatable traitsとしての咳過敏症も有しており、このことを見過ごして行われる原因疾患のみの治療は、しばしば不成功に終わることが強調されている。新実氏は「原因疾患に対する治療をしたうえで、P2X3受容体拮抗薬により咳過敏症を抑えることで咳嗽をコントロールできる患者も実際にいるため、理にかなっているのではないかと考えている」と述べた。国内の専門施設では血痰・喀血の原因は年齢によって大きく異なる 前版のガイドラインは、世界初の喀痰診療に関するガイドラインとして作成されたが、6年ぶりの改訂となる本ガイドラインも世界唯一のガイドラインであると金子氏は述べる。 喀痰に関するエビデンスは少なく、前版の作成時には、とくに国内のデータが不足していた。そこで、本ガイドラインの改訂に向けてエビデンス創出のために多施設共同研究を3研究実施し(1:血痰と喀血の原因疾患、2:膿性痰の色調と臨床背景、3:急性気管支炎に対する抗菌薬使用実態)、血痰と喀血の原因疾患に関する研究の成果が英語論文として2件報告されたことから、それらのデータが追加された。 血痰と喀血の原因疾患として、前版では英国のプライマリケアのデータが引用されていた。このデータは海外データかつプライマリケアのデータということで、本邦の呼吸器専門施設で遭遇する疾患とは異なる可能性が考えられていた。そこで、国内において呼吸器専門施設での原因を検討するとともに、プライマリケアでの原因も調査した。 本邦での調査の結果、プライマリケアでの血痰と喀血の原因疾患の上位4疾患は急性気管支炎(39%)、急性上気道感染(15%)、気管支拡張症(13%)、COPD(7.8%)であり2)、英国のプライマリケアのデータ(1位:急性上気道感染[35%]、2位:急性下気道感染[29%]、3位:気管支喘息[10%]、4位:COPD[8%])と上位2疾患は急性気道感染という点、4位がCOPDという点で類似していた。 一方、本邦の呼吸器専門施設での血痰と喀血の原因疾患の上位3疾患は、気管支拡張症(18%)、原発性肺がん(17%)、非結核性抗酸菌(NTM)症(16%)であり、プライマリケアでの原因疾患とは異なっていた。また「呼吸器専門施設では年齢によって、原因疾患が大きく異なることも重要である」と金子氏は指摘する。たとえば、20代では細菌性肺炎が多く、30代では上・下気道感染、気管支拡張症が約半数を占め、40~60代では肺がんが多くなっていた。70代以降では肺がんは1位にはならず、70代はNTM症、80代では気管支拡張症、90代では細菌性肺炎が最も多かった3)。また、80代以降では結核が上位にあがって来ることも注意が必要であると金子氏は指摘した。近年注目される中枢気道の粘液栓 最近のトピックとして、閉塞性肺疾患における気道粘液栓が取り上げられている。米国の重症喘息を対象としたコホート研究「Severe Asthma Research program」において、中枢気道の粘液栓が多発していることが2018年に報告され、その後COPDでも同様な病態があることも示されたことから注目を集めている。粘液栓形成の程度は粘液栓スコアとして評価され、著明な気流閉塞、増悪頻度の増加、重症化や予後不良などと関連していることも報告されており、バイオマーカーとして期待されている。ただし、課題も存在すると金子氏は指摘する。「評価にはMDCT(multidetector row CT)を用いて、一つひとつの気管支をみていく必要があり、現場に普及させるのは困難である。そのため、現在はAIを用いて粘液スコアを評価するなど、さまざまな試みがなされている」と、課題や今後の期待を述べた。CQのまとめ 本ガイドラインにおけるCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。【CQ一覧】<咳嗽>CQ1:ICSを慢性咳嗽患者に使用すべきか慢性咳嗽患者に対してICSを使用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ2:プロトンポンプ阻害薬(PPI)をGERDによる咳嗽患者に推奨するかGERDによる咳嗽患者にPPIを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ3-1:抗コリン薬は感染後咳嗽に有効か感染後咳嗽に吸入抗コリン薬を勧めるだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ3-2:抗コリン薬は喘息による咳嗽に有効か喘息による咳嗽に吸入抗コリン薬を弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ4:P2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効かP2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効であり、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])<喀痰>CQ5:COPDの安定期治療において喀痰調整薬は推奨されるかCOPDの安定期治療において喀痰調整薬の投与を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ6:COPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与は有効かCOPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与することを弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])CQ7:喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法は推奨されるか喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法の推奨度決定不能である(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ8:気管支拡張症(BE)に対してマクロライド少量長期療法は推奨されるかBEに対してマクロライド少量長期療法を強く推奨する(エビデンスの確実性:A[強い])

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フィブラート系薬でCKDリスクは増加、死亡リスクは低下

 フィブラート系薬の服用が腎機能や死亡に及ぼす影響を検討した結果、フィブラート系薬は慢性腎臓病(CKD)発症リスクの増加と関連する一方で、末期腎不全(ESKD)発症および死亡リスクの低下と関連していたことを、米国・Harbor-UCLA Medical Centerの高橋 利奈氏らが明らかにした。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年4月7日号掲載の報告。 フィブラート系薬は血清クレアチニンの急激な上昇を引き起こす可能性があるが、腎アウトカムの評価は追跡期間の短い研究では困難である。さらに、特定の腎アウトカムに関する研究は限られており、それらの結果も一貫していない。 そこで研究グループは、フィブラート系薬の新規処方とCKDやESKDの発症、死亡との関連を調べるため、米国退役軍人省の研究データベース(68万8,382例)を用いた後ろ向きコホート研究で、最大14年間にわたり追跡・分析を行った。人口統計学的因子、主な併存疾患、eGFRを含む臨床検査値、アルブミン尿、服用薬で調整し、Cox比例ハザードモデルおよびFine-Grayモデルを用いて関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・5万8,773例がフィブラート系薬を新規で服用開始した。全体の平均年齢は59(SD 13)歳で、フィブラート系薬服用患者は男性や喫煙者が多く、併存疾患を有する頻度も高かった。・完全調整モデルでは、フィブラート系薬の服用は、非服用と比較してCKDリスクの上昇と関連していた(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.19~1.24)。・フィブラート系薬の服用は、死亡リスク(HR:0.91、95%CI:0.89~0.93)およびESKDリスク(0.80、0.71~0.92)の低下と関連していた。 これらの結果より、研究グループは「フィブラート系薬が腎アウトカムと生存に及ぼす潜在的な利点を裏付けるにはさらなる研究が必要である」とまとめた。

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患者数は多いが社会的認知度の低い肥大型心筋症/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブ(以下、BMS)は、閉塞性肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)治療薬の選択的心筋ミオシン阻害薬マバカムテン(商品名:カムザイオス)を5月21日に発売した。本剤が国内初承認されたことで、臨床現場でもHCMの見方が変わってくるだろう。5月15日にはBMS主催のメディアセミナーが開催され、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が「肥大型心筋症とはどの様な疾患か? なぜ新しい治療が必要か?〜肥大型心筋症で苦しむ患者さんのために〜」と題し、HCMの過小評価の実態などについて解説。さらに、患者代表として林 千晶氏が登壇し、自身の経験から医師に知ってもらいたいこと、患者として注意すべきことについて語った。“500人に1人”は肥大型心筋症 HCMは原因不明※の心筋疾患のなかで左室壁の肥厚を伴うもので、左心室流出路の狭窄による圧較差が息切れや動悸、めまいなどの症状をもたらすが、良好な転帰を迎える人は多い。一方で、心不全、左室収縮能低下、心房細動から脳梗塞を発症することがあり、とくに若年者、小児における突然死リスクの1つとも言われている。北岡氏は「HCMの発症年齢は10代後半が多く、入学時の学校健診などの心電図検査で異常を来して受診してきた時がHCMを発見するチャンス。ところが、初診時に心室壁が厚くなく、診断が難しいケースもある」とし、「成人後でもHCMの発見契機は健診による心電図異常が半数を占め、発見された時にはNYHA心機能分類II~III度に至っているケースは珍しくない」とも説明した。※現在は原因が解明されている疾患もあり これまでのHCM治療と言えば、β遮断薬やNaチャネル遮断薬による対症療法、あるいは中隔縮小術(septal reduction therapy:SRT)で、内科的に病気の本質を治療することができなかった。また、病歴が長いため患者が訴える自覚症状が病状に比して比較的軽く、潜在患者数に比して難病指定されている患者数が圧倒的に少ないことも問題になっている疾患である。これについて同氏は「難病指定を受けている患者の内、圧較差があるのは600人程度と推定されるが、HCMの推定患者は20万人に上ると言われている。もちろん、すべての患者が指定難病に相当するわけではないが、この乖離理由は、HCMの正確な病状の把握と負荷心エコーの施行など病状に対する正確な評価が十分でないことが原因と考えられる」と実情について指摘した。さらに「HCMは、外来で1回だけ診察してわかる病気ではなく、患者と長く付き合うことで明らかになる疾患。そのため、都心部よりも地方のように、一人の患者と長く付き合うことが多い医師のほうが、病気の全体像を理解しているかもしれない」と地域格差についても言及した。マバカムテンの治療効果と適切な処方とは HCMは心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白の遺伝子変異が原因とされ、ミオシンとアクチンによるクロスブリッジの過剰な形成が心肥大につながっている1)。マバカムテンはその過剰形成を抑制することで、運動負荷後のLVOT最大圧較差の減少に効果が期待される薬剤である。国内第III相のHORIZON-HCM試験2)においても、主要評価項目である投与30週までの運動負荷後のLVOT最大圧較差のベースラインからの変化量(平均値±SD)は、-60.6963±31.55674mmHg(95%信頼区間:-71.5364~-49.8562)と、マバカムテンによる有効性が示されている。また、安全性については、投与54週時点で有害事象は28例、重篤な有害事象は6例に認められたが、投与中止に至った有害事象や死亡は認められなかった。 なお、3月に発刊された『心不全診療ガイドライン 2025年改訂版』の「第9章 特別な病態・疾患」(p.127~131)において、マバカムテンの使用は推奨クラスI、エビデンスレベルB-Rとされたが、2025年4月24日に日本循環器学会より「マバカムテン適正使用に関するステートメントについて」が公表されているため、本ステートメントに準じた医療機関においてのみ処方が可能となっている。 最後に「中高生で心電図に異常があった場合、その時点の精密検査に異常がなくても将来的にHCMを発症する可能性が否定できない。その際に学校医や診察した医師らから定期的な通院を患者へ提案してほしい」。また、マバカムテンの効果について、「現状は症状改善に有効と考えられるが、服用により壁肥厚の改善など疾患そのものに良い影響を与える可能性がある。生命予後の改善効果は今後の課題」と締めくくった。患者視点から伝えたい医学の現状 病気と向き合いながら、結婚・出産・子育てを経験している林氏は、自身の診断までの経緯、家事・育児、そして仕事の両立や人間関係について説明。「父の主治医から遺伝子要因があるため検査を提案され、26歳でHCMと診断された。もともとは自覚症状もなく海外旅行や友人との会食などアクティブに活動していたが、出産後に入浴後や階段の昇降で息切れ、全疾走後のような症状や不整脈を自覚するようになった」と、これまでを振り返り、「普段から不整脈があるが、とくに生理時期には不整脈が酷くなってしまい、QOLも低下する。見た目では健康な方と変わらないため、周囲から理解されにくい点に苦慮している」とコメントした。新たな治療薬としてマバカムテンが発売される見込み(取材時点)については、「対処療法が中心の疾患だったが、新薬により希望が持てる」と述べ、「患者側も心臓の小さなサインを見逃さずに、主治医に相談するよう努める必要がある」と一人ひとりの体調管理の重要性についても話した。最後に同氏は「HCMをweb検索した際、検索上位はネコのものが多く、人間の情報が乏しく情報収集にとても苦労した。web上でも正確な病気の情報を伝えてほしい」と情報のあり方についても言及した。 BMSはこのような患者の声から「肥大型心筋症テラス」という患者・家族のための情報提供サイトをオープンし、病態、治療や遺伝子検査、医療費助成などに関する情報や患者インタビューを公開している。ーーーーーーー<製品概要>製品名:カムザイオスカプセル1mg、同2.5mg、同5mg一般名:マバカムテン効能又は効果: 閉塞性肥大型心筋症用法及び用量:通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減する。ただし、最大投与量は1回15mgとする。薬価:1mg1カプセル 7,204.00円、2.5mg1カプセル 7,264.80円、5mg1カプセル 7,410.50円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:ブリストル マイヤーズ スクイブ株式会社

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うつ病に対するブレクスピプラゾール増強療法とミトコンドリア遺伝子発現変化

 うつ病患者の20%は治療抵抗性を示し、いくつかの抗うつ薬単剤療法では治療反応が得られない。このような治療抵抗性うつ病患者には、抗精神病薬による増強療法が治療選択肢の1つとなりうる。しかし、抗精神病薬増強療法のメカニズムは、依然として解明されていない。愛媛大学の近藤 恒平氏らは、遺伝子発現レベルにおけるブレクスピプラゾール増強療法の作用メカニズムを解明するため、本研究を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年5月6日号の報告。 マウス神経紋由来の細胞株Neuro2a細胞に媒体、エスシタロプラム、ブレクスピプラゾール、ブレクスピプラゾール+エスシタロプラムを投与し、RNAシークエンシングを行った。20日間投与後のマウスの前頭前皮質、海馬およびうつ病患者の全血における遺伝子発現を測定した。 主な結果は以下のとおり。・定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、RNAシークエンシングおよび遺伝子オントロジー解析において、ミトコンドリア(MT)関連遺伝子の発現上昇が確認された。・これらの発現上昇遺伝子は、Neuro2a細胞およびCaco2細胞の両方で検証された。・うつ病患者の全血において、MT-ATP8の発現低下が認められた。・増強療法を行ったマウスでは、前頭前皮質および海馬において、MT-mRNAの発現変化が確認された。 著者らは「in vitroおよびin vivoの両実験において、ブレクスピプラゾール増強療法によるMT-mRNAの発現変化が確認された。これは、うつ病の病態解明および臨床実践を理解するうえで重要な知見となりうる」と結論付けている。

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HAEの気道発作の救命は時間との勝負/CSLベーリング

 CSLベーリングは、5月16日の「HAE DAY(遺伝性血管性浮腫の日)」を記念し、「HAE DAYメディアセミナー 遺伝性血管性浮腫(HAE)~救急現場と患者さんの声から考える診断と治療の課題~」を開催した。遺伝性血管性浮腫(HAE)は、国の指定難病の1つで、皮膚や腹部などに突然むくみ(浮腫)が生じる疾患で、咽頭に発作が起きた場合、気道が閉塞し呼吸困難に陥り、患者の生命に関わる危険性もある。わが国には、未診断の患者も含め約2,500人の患者が推定されている。 セミナーでは、救急医療の観点からHAEと疑い診断をつけるポイントや患者会の活動と患者・患者家族の声などが語られた。なお、同社はHAEの治療薬としてヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体製剤ガラダシマブ(商品名:アナエブリ)を4月18日に発売している。HAEの気道発作では発症から20分で生命が危険に 「HAE診断率向上は救命への道標」をテーマに自身も救急現場でHAE患者に遭遇し、診療経験もある薬師寺 泰匡氏(薬師寺慈恵病院 院長)が、HAEの救急現場での診療の流れやノウハウ、今後の展望などを説明した。 HAEは、薬剤や自己免疫などを原因とする血管浮腫と異なり、多くは血管中のC1蛋白分解酵素阻害因子(C1-INH)が低下し、ブラジキニンが上昇することで生じる限局性の浮腫。患者は1~5万人に1人(推定患者数は約2,500人)とまれな疾患であり、主に10代で発症する。 浮腫の症状としては「皮下」「消化管」「咽頭周囲」が多く、その特徴を個別に示した。 「皮下」では、四肢、顔面、生殖器の皮膚が膨張し、痒みはないが、腫脹による痛みがあるケースもある。 「消化管」では、本症の70~80%が腹部症状であり、悪心、嘔吐、疼痛などを引き起こす。過去には、症状が急性腹症に類似していることから不必要な手術などが行われたこともあったという。現在では、エコー検査、内視鏡検査で器質的な所見を見つけることもできるようになった。 「咽頭周囲」は、本症で最も致死的な症状であり、患者の2人に1人は咽頭発作を起こし、11~45歳の患者で最も頻度が高い。咽頭浮腫では、初期症状として嚥下困難、声のトーンの変化(嗄声など)から始まり、発症から約20分程度で気道が閉塞し、窒息に至る。過去、30%の患者が窒息で死亡しており、咽頭浮腫の発生は平均26歳頃に始まるという報告がある1)。また、窒息で亡くなった患者70例の平均年齢は40.6±14.3歳という報告もある2)。そして、救急科に不幸にも気道閉塞で搬送された場合、気道確保が行われるが、口からの確保ができない場合、鼻から器官チューブを入れて気道を確保する処置が行われている。 2000年以降、HAEでは発作予防としてC1-INH濃縮製剤や急性期のイカチバントなど治療薬が発売されたことで、救急現場では対症療法から「気道確保、呼吸管理、循環管理」と「アナフィラキシーか血管性浮腫などの鑑別診断」の後に、「診断」とオンデマンド治療への流れができるようになった。さらに長期予防投与のベロトラルスタットやラナデルマブの登場によりHAEと確定診断のついた患者では、救急搬送がなくなる可能性も出てきた。 ただ、救急対応後の課題として、「フォローアップ外来が見つけにくいこと」があるほか、「医療者の疾患への認知度不足により、診断や治療につながらない」、「未診断の患者のリスクが高いこと」などが残る。 そこで、薬師寺氏は「診療のstrategy」として4つのステップを提案する。1)HAEを疑う(皮膚・粘膜の浮腫に気が付く) 皮膚科、消化器科、耳鼻科、泌尿器科、循環器科、救急科などに啓発がさらに必要2)HAEを診断する(C1-INHを測定する) 早期発見のためにも血液検査を実施する3)HAEをフォローする 長期発作抑制の種々の薬剤を選ぶ、オンデマンド治療、かかりつけ医に相談できる環境4)HAE safety netを張る 気道閉塞などの緊急時の対応、腹痛などでの入院先 おわりに薬師寺氏は、HAEの診療について、(1)繰り返す腫れ、腹痛はまず医師に相談(2)血液検査はどの医療機関でも実施可能(3)発作時の治療では長期発作抑制薬もある(4)救急搬送先の確保が必要とまとめ、「今後、患者が過ごしやすい社会の構築作りが課題」と指摘し、レクチャーを終えた。病気が個性と言える日が来ることを願う 「患者家族が抱える診断・治療・生活の課題~患者家族、患者会代表の視点から~」をテーマに患者会HAEJ 代表理事の松山 真樹子氏が、患者家族の経験談や患者会の活動内容、現在の課題などを語った。 HAEJは、2014年に設立され、松山氏は2023年より理事長を務めている。松山氏は、夫をHAEの発作で亡くされ、自身の子供も遺伝子検査でHAEと診断されている。 HAEJの活動としては、疾患の認知拡大や診断率の向上などのため、海外の患者会と連携してさまざまな活動を実施している。具体的には、ウェブサイトによる情報配信、医学会への参加、メディアへの露出などを行い、医師・医療従事者へ本症の啓発を行っている。 患者・家族の日常生活について、予防治療もでき生活が安全になったものの、患者は発作再燃があるのを忘れてしまうこともあり、「発作時の対応が今も大変だ」と語る。また、医師とのコミュニケーションでは、「医師に説明してもわかってもらえない」「医師との病状対話が緊張してできないなど」の課題があるが、最近では診療時にアプリの記録やスコアチェックシートを介して説明することで解決されつつある。診療でのハードルは、「遺伝病のイメージが独り歩きしている」ために「患者は知られないように不安を感じるなどの悩みがある」という。そのほかにも、疾患の知識と理解のアップデートが医師も患者も追い付いていないという課題もあるという。 まとめとして松山氏は、「患者の希望は、普通の生活ではなく、望む生活を送ることができることであり、積極的に発作の予防・対応に治療薬を使用し、QOLを上げてほしい」と患者家族からみた思いを語り、「病気は個性といえる日が来るように願う」と患者である子供の言葉を述べ、説明を終えた。

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肥満者の体重減少、チルゼパチドvs.セマグルチド/NEJM

 非糖尿病の肥満成人において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時の体重および胴囲の減少に関して優れていることが、米国・Weill Cornell MedicineのLouis J. Aronne氏らSURMOUNT-5 Trial Investigatorsによる第IIIb相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURMOUNT-5試験」の結果で示された。チルゼパチドおよびセマグルチドは、肥満の管理に非常に有効な薬剤である。肥満であるが2型糖尿病は有していない成人において、チルゼパチドとセマグルチドの有効性および安全性を直接比較した臨床試験はこれまでなかった。NEJM誌オンライン版2025年5月11日号掲載の報告。ベースラインから72週時までの体重の変化率を比較 SURMOUNT-5試験は、米国およびプエルトリコの32施設で実施された。対象は、BMI値30以上、またはBMI値27以上かつ肥満関連合併症(高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を1つ以上有する18歳以上の成人で、糖尿病と診断されている患者、肥満に対する外科手術の既往または予定のある患者などは除外した。 適格患者をチルゼパチド(10mgまたは15mg)群またはセマグルチド(1.7mgまたは2.4mg)群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回72週間皮下投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重の変化率とした。重要な副次エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重減少が少なくとも10%、15%、20%および25%以上の患者の割合、および胴囲の変化量などとした。体重減少率20.2%vs.13.7%、体重減少25%以上の患者割合31.6%vs.16.1% 2023年4月21日~2024年11月13日に、適格性を評価した948例のうち751例が無作為化され、そのうち750例が少なくとも1回の治験薬投与を受けた。 72週時の体重変化率の最小二乗平均値は、チルゼパチド群-20.2%(95%信頼区間[CI]:-21.4~-19.1)、セマグルチド群-13.7%(-14.9~-12.6)であり、体重に関してチルゼパチドのセマグルチドに対する優越性が示された(推定治療差:-6.5%ポイント、95%CI:-8.1~-4.9、p<0.001)。 72週時の体重がベースラインから少なくとも10%、15%、20%および25%以上減少した患者の割合は、チルゼパチド群がそれぞれ81.6%、64.6%、48.4%、31.6%、セマグルチド群が60.5%、40.1%、27.3%、16.1%であった。 72週時の胴囲の変化量の最小二乗平均値は、チルゼパチド群で-18.4cm(95%CI:-19.6~-17.2)、セマグルチド群で-13.0cm(-14.3~-11.7)であった(p<0.001)。 有害事象は、チルゼパチド群で76.7%、セマグルチド群で79.0%の患者で報告され、両群における主な有害事象は胃腸障害(悪心、便秘、下痢など)であった。重篤な有害事象はそれぞれ4.8%、3.5%に認められた。

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バーチャル合唱プログラムで孤立した高齢者の気分やウェルビーイングが向上

 歌を歌うことが魂にとって救いとなることがあるが、バーチャルな集団の中で歌うことにも同様の効果はあるのだろうか? その答えは「イエス」であることが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のロックダウン中にバーチャル合唱団へ参加したことが高齢者の感情面あるいは精神面に良い影響をもたらしたのかどうかを検証した研究で示された。研究によると、孤立した高齢者からは、ZoomやFacebook Liveを介して合唱の練習に参加したことで不安が軽減され、社会とのつながりが深まり、感情的および知的な刺激を受けることができたとの評価が得られたという。米ノースウェスタン大学音楽療法プログラムのBorna Bonakdarpour氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に4月22日掲載された。 Bonakdarpour氏は、「この研究は、バーチャル合唱団への参加が、農村部に住んでいる人や移動に制限のある人、社会的不安を感じている人に、パンデミックに関わりなく恩恵をもたらす可能性のあることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。 この研究は米イリノイ州を拠点とする合唱プログラムの「サウンズ・グッド・クワイア(Sounds Good Choir)」との協働で実施された。パンデミックによるロックダウンが続く2021年、同プログラムでは55歳超の参加者が、バーチャルで以下のいずれかの活動に参加した。1)なじみのある歌を用いた、週に1回、計52回の歌唱セッションを受けるシングアロングセッション、2)組織化された合唱団で週1回の練習を重ね、最後にバーチャルコンサートを行う合唱プログラム。参加者には、認知機能が正常な人と神経認知障害を持つ人の両方が含まれていた。なお、Bonakdarpour氏らによると、先行研究では歌うことは肺活量や姿勢、全体的な身体の健康を向上させるだけでなく、呼吸のコントロールや感情の調整、運動機能に関わる脳の働きも活性化させ、脳と身体に良い影響をもたらすことが示されているという。 プログラムの終了後、Bonakdarpour氏らは176人の参加者を対象に調査を行い、バーチャル合唱体験が与えた影響について調べた。その結果、参加者の86.9%がプログラムへの参加がウェルビーイングに良い影響をもたらしたことを報告していた。プログラム別に見ると、シングアロングセッションへの参加はポジティブな記憶を呼び起こし、感情的な共鳴を促す一方で、合唱プログラムへの参加は、知的な刺激や関与をもたらすことが示唆された。さらに自由記述回答では、全体の5%以上の回答で、以下の面にポジティブな影響がもたらされたことが報告されていた。感情的ウェルビーイング(36%)、社会的ウェルビーイング(31%)、知的ウェルビーイング(18%)、パンデミックによる混乱の中での正常性の感覚や秩序の感覚(12%)、精神的ウェルビーイング(11%)、身体的ウェルビーイング(7%)、過去とのつながり(5%)。 Bonakdarpour氏は、「認知症とともに生きる人では、周囲の環境がどのようなものであろうと正常性の感覚の喪失が自己認識に強く影響し、不安の原因となる。このことは、こうした介入が正常な感覚を取り戻す助けとなり、心理的ウェルビーイングをサポートし、安定した自己認識に再びつなげる方法となる可能性があることを示唆している」と述べている。 さらにBonakdarpour氏は、「パンデミック時のグループ合唱への参加者は、混乱が広がる中、この活動が正常性の感覚をもたらしてくれたと一貫して話していた。これは顕著なテーマとして浮かび上がった点であり、今後さらなる研究で検討する必要がある」と言う。研究グループは今後、米国立衛生研究所(NIH)の音楽認知症研究ネットワークが助成する全国規模の臨床試験で、このバーチャル合唱体験をさらに詳しく検証する予定だとしている。

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超加工食品の摂取は早期死亡リスクを高める

 超加工食品の摂取量が多いほど早期死亡リスクも高まるようだ。新たな研究で、超加工食品の摂取に起因する早期死亡は、総エネルギー摂取量に占める超加工食品の割合が高いほど増加することが明らかになった。オスワルド・クルス財団(ブラジル)のEduardo Nilson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Preventive Medicine」に4月28日掲載された。 超加工食品は、飽和脂肪酸、でんぷん、添加糖など、主に自然食品から抽出された物質で作られており、風味や見た目を良くし、保存性を高めるために、着色料、乳化剤、香料、安定剤などさまざまな添加物が加えられている。具体例は、パッケージ済みの焼き菓子、砂糖が添加されたシリアル、すぐに食べられる、または温めるだけで食べられる製品などが挙げられる。研究の背景情報によると、超加工食品の摂取は心臓病、肥満、糖尿病、一部のがん、うつ病など32種類の健康問題と関連付けられているという。 今回の研究では、まず、過去の研究で用いた超加工食品の摂取とあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連に関する10件の研究のうち、基準を満たした7件を選出し、量反応関係メタアナリシスを実施した。対象国は、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、英国、米国の8カ国で、対象者の総計は23万9,982人であった。国ごとの超加工食品の摂取量は、コロンビア(15.0%)とブラジル(17.4%)では少なめ、チリ(22.8%)とメキシコ(24.9%)では中程度であり、オーストラリア(37.5%)、カナダ(43.7%)、英国(53.4%)、米国(54.5%)では多かった。 解析の結果、総エネルギー摂取量に占める超加工食品の摂取量が10%増加するごとに全死亡リスクが2.7%上昇することが明らかになった(相対リスク1.027、95%信頼区間1.017〜1.037、P<0.0001)。次に、この相対リスクを用いて、早期死亡のうちどの程度が超加工食品の摂取に起因すると推定されるかを評価するために人口寄与割合(PAF)を計算した。その結果、超加工食品が原因と推定される早期死亡の割合は約4%から約14%に及ぶことが明らかになった。具体的には、最も低かったのがコロンビアの3.9%(7万2,940件)、最も高かったのは英国の13.8%(12万8,743件)、米国の13.7%(90万6,795件)であった。 Nilson氏は、「高所得国では超加工食品の摂取量はすでに高レベルだが、10年以上にわたって高止まりしたままだ。一方、低・中所得国では摂取量が増加し続けていることは懸念される。これは、現時点では高所得国での超加工食品摂取がもたらす健康への負担は他の国より高い一方で、その負担が他の国々でも増加しつつあるということだ」と述べている。 Nilson氏はさらに、「これは、世界的に超加工食品の摂取量を抑制し、地元の新鮮で最小限の加工食品に基づいた伝統的な食生活を促進する政策が喫緊で必要なことを示している」と「American Journal of Preventive Medicine」の発行元であるElsevier社のニュースリリースで強調している。

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