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HER2陽性尿路上皮がん、disitamab vedotin+toripalimabがPFS・OS改善(RC48-C016)/NEJM

 未治療のHER2陽性局所進行または転移のある尿路上皮がん患者において、HER2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)であるdisitamab vedotinと抗PD-1抗体toripalimabの併用療法は、化学療法と比較して主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に延長することが認められた。中国・Peking University Cancer Hospital and InstituteのXinan Sheng氏らRC48-C016 Trial Investigatorsが、中国の72施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「RC48-C016試験」の事前に規定されたPFS解析およびOS中間解析の結果を報告した。HER2を標的とするADCの単剤療法は、化学療法後のHER2陽性尿路上皮がんに対する有効な治療選択肢として確立されている。disitamab vedotinは、単剤療法として、またPD-1を標的とした免疫療法との併用において、有望な抗腫瘍活性と安全性が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年10月19日号掲載の報告。PFSとOSを主要評価項目として、化学療法と比較 研究グループは、病理組織学的に確認された切除不能な局所進行または転移のある尿路上皮がんを有し、術前または術後補助療法後12ヵ月以内の病勢進行または再発は認められず、かつ全身化学療法未治療で、中央検査にてHER2陽性(IHCスコア1+、2+または3+)が確認された18歳以上の患者を、disitamab vedotin+toripalimab群と化学療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 disitamab vedotin+toripalimab群では、disitamab vedotin 2.0mg/kgとtoripalimab 3 mg/kgをいずれも2週間ごとに投与し、化学療法群では3週間を1サイクルとしてゲムシタビン1,000mg/m2を1日目と8日目に、シスプラチン70mg/m2またはカルボプラチンAUC=4.5を1日目に投与し、病勢進行、許容できない毒性発現または規定サイクル完了(化学療法は6サイクル、disitamab vedotin+toripalimabは上限なし)まで継続した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFS、およびOS、副次評価項目は奏効率、病勢コントロール率、奏効期間、安全性などであった。disitamab vedotin+toripalimab群のPFSとOSが有意に延長 適格患者484例が無作為化された(disitamab vedotin+toripalimab群243例、化学療法群241例)。 追跡期間中央値18.2ヵ月において、PFS中央値はdisitamab vedotin+toripalimab群13.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.1~16.7)、化学療法群6.5ヵ月(5.7~7.4)であり、disitamab vedotin+toripalimab群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%CI:0.28~0.46、p<0.001[有意水準0.05])。OS中央値もそれぞれ31.5ヵ月(95%CI:21.7~推定不能)、16.9ヵ月(14.6~21.7)で、disitamab vedotin+toripalimab群で有意に延長した(HR:0.54、95%CI:0.41~0.73、p<0.001[有意水準0.009])。 奏効率は、disitamab vedotin+toripalimab群76.1%(95%CI:70.3~81.3)、化学療法群50.2%(43.7~56.7)であった。 安全性プロファイルはdisitamab vedotin+toripalimab群が化学療法群と比較し良好で、Grade3以上の治療関連有害事象はdisitamab vedotin+toripalimab群で55.1%、化学療法群で86.9%に認められた。 なお、著者は、中国のみで実施された臨床試験であること、両群とも完全奏効が得られた患者の割合は同時期の他の臨床試験で報告されている割合よりも低かったこと、中国ではアベルマブによる維持療法は未承認であるため利用できなかったことなどを研究の限界として挙げている。

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MSSA菌血症、セファゾリンvs.クロキサシリン/Lancet

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンと比較して有効性は非劣性で、忍容性は良好であることが示された。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のCharles Burdet氏らが、大学病院を含むフランスの21施設で実施した無作為化非盲検非劣性試験「CloCeBa試験」の結果を報告した。セファゾリンは広く使用されているものの、MSSA菌血症の治療における有効性はこれまで臨床試験で検討されたことはなかった。結果を踏まえて著者は、「MSSA菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンの代替薬となりうる」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月17日号掲載の報告。セファゾリンの有効性と安全性をクロキサシリンと比較 CloCeBa試験の対象は、標準的な微生物学的検査またはGeneXpert PCRによりMSSAが血液培養から検出された18歳以上の入院中の患者であった。スクリーニング時点でMSSAに有効な抗菌薬が72時間超投与されていた患者、血管または人工弁などの血管内インプラントを有する患者、感染が疑われる材料を体内に有する患者、脳卒中(1ヵ月以内)・脳膿瘍・髄膜炎の臨床所見を呈している患者などは除外された。 研究グループは、適格患者をコンピュータ生成のブロック法を用いて、セファゾリン群とクロキサシリン群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。血管アクセス関連菌血症の有無(末梢静脈カテーテルおよび中心静脈カテーテルを含む)および施設で層別化した。 セファゾリン群では25~50mg/kgを8時間ごとに(最大1日6g)、クロキサシリン群では25~50mg/kgを4~6時間ごとに(1日8~12g)、いずれも60分かけて静脈内投与した。総治療期間は14日以上とし、無作為化された治療を7日間投与した後は治験責任医師の選択で治療を変更することが可能とされた。 主要エンドポイントは治療成功で、90日目まで再発のない細菌学的成功、90日時点での臨床的成功、および90日時点での生存の複合とした。細菌学的成功は、3日目(感染性心内膜炎患者では5日目)の血液培養陰性、臨床的成功は感染に関連する症状および所見の消失と定義された。 ITT解析を行い、治療成功の非劣性マージンは12%とした。治療成功率はセファゾリン群75%、クロキサシリン群74%で、非劣性を確認 2018年9月5日~2023年11月16日に315例が登録され、セファゾリン群(158例)またはクロキサシリン群(157例)に無作為化された。同意撤回などによりセファゾリン群で12例、クロキサシリン群で11例が除外され、ITT解析対象集団は各群146例となった。 患者背景は、平均年齢62.7歳(SD 16.4)、男性が215例(74%)で、Pitt bacteraemia score中央値は0(四分位範囲:0~0)であった。 主要複合エンドポイントの達成は、セファゾリン群75%(109/146例)、クロキサシリン群74%(108/146例)で確認され、群間差は-1%(95%信頼区間:-11~9、p=0.012)で、セファゾリン群の非劣性が確認された。 重篤な有害事象は、試験治療終了時においてセファゾリン群で15%(22/146例)、クロキサシリン群で27%(40/146例)に認められた(p=0.010)。ただし、この差は2~7日目までの割り付けられた治療のみを受けた場合に限定して解析すると有意ではなかった。急性腎障害は、クロキサシリン群(12%、15/128例)でセファゾリン群(1%、1/134例)より発現頻度が高かった(p=0.0002)。

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75歳以上の乳がん検診は過剰診断か~日本人での検討

 乳がん検診は死亡率低下と関連する可能性があるが、高齢者においては過剰診断が懸念される。今回、石巻赤十字病院の佐藤 馨氏らが、高齢化地域における75歳以上の女性において検討した結果、検診と死亡率低下に有意な関連はみられなかったものの、検診群において乳がんによる死亡は認められなかった。Preventive Medicine Reports誌2025年10月9日号に掲載。 本研究では、石巻赤十字病院で乳がんと診断された75~98歳(中央値81歳)の女性289例(2011~20年)を後ろ向きに解析した。患者を検診群(40歳以上の全女性を対象とした2年ごとの全国規模集団ベース乳がんスクリーニングで診断)と非検診群(症状で診断もしくはCTなどの他疾患の画像検査で偶然発見)に分類した。主要評価項目は全死亡率であった。比較にはMann-Whitney のU検定、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定、生存率はKaplan-Meier法、log-rank検定、予後因子はCox比例ハザードモデルで解析した。 主な結果は以下のとおり。・289例中46例(15.9%)が検診を受け、243例(84.1%)が検診を受けていなかった。・検診群は、若年で腫瘍が小さく、リンパ節転移が少なく、手術回数が多かった。・単変量解析では検診が死亡率の低下と関連していたが、多変量解析では関連がみられなかった。・検診群では乳がんによる死亡は認められなかったが、非検診群では25例(10.3%)に認められた(p=0.02)。

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調査した市販飲料の全てにマイクロプラスチックを検出

 近年、米粒よりも小さいプラスチック片であるマイクロプラスチック(MP)の拡散が懸念されている。こうした中、ペットボトルで販売されていない飲み物も含め、ソフトドリンク、紅茶、コーヒーなど、検査された全ての温かい飲み物と冷たい飲み物にMP粒子が混入していることが、新たな研究で明らかになった。英バーミンガム大学のMuneera Al-Mansoori氏らによるこの研究結果は、「Science in the Total Environment」に9月20日掲載された。 MPとは、直径5mm以下のプラスチック片で、中にはマイクロメートル(μm)またはミクロン単位の非常に小さなサイズのものもある。MPの摂取は、生殖器系、消化器系、呼吸器系の損傷など、人体への健康被害につながる可能性が指摘されている。 今回、Al-Mansoori氏らは、イギリスで市販されている31種類の飲み物を対象に、MPの含有量を調査した。飲み物は、ソフトドリンク、エナジードリンク、フルーツジュース、アイスティー、ホットティー、ホットコーヒー、アイスコーヒーの7つのカテゴリーに分類された。提供形態は、ペットボトル、紙製の使い捨てカップ、ガラスのカップなどさまざまであった。なお、本研究では合成プラスチックポリマーを検査対象とし、自然界で生成され、時間の経過とともに分解するセルロースのMPは含めなかった。 その結果、飲み物の提供形態に関わりなく、調査した全てのサンプルからMPが検出された。平均濃度が最も高かったのはホットティーで60±21MP/Lであり、次いで、ホットコーヒーでの43±14MP/L、アイスコーヒーでの37±6MP/L、アイスティーでの31±7MP/Lであった。温かい飲み物は冷たい飲み物に比べてMP濃度が有意に高く、温度が高いと包装材からのMP溶出が促進されることが示唆された。ジュースのMP濃度は30±11MP/L、エナジードリンクは25±11MP/Lで、濃度が最も低かったのはソフトドリンクの17±4MP/Lであった。 検出されたMPのサイズは10〜157μmで、髪の毛1本が約70μmであることを考えると、ほとんど目に見えないサイズだと言える。形状は破片、ポリマーの種類はポリプロピレン(PP)が最も多かった。ただし、本研究では、10μmを超える粒子しか検出されなかったため、さらに小さなナノプラスチックが存在していた可能性があることを研究グループは指摘している。 研究グループによると、飲み物中の合成プラスチックの含有量を増加させ得る要因としては、熱、炭酸(泡が容器にかける圧力やストレスでMP量が増加する)、酸性度の高さ、包装材(ペットボトル入りの飲料は紙やアルミボトル入りの飲料よりもMP濃度が高い)の4つが考えられるという。また、飲み物がパッケージ化される場所の空気や飲み物に使用される水がMPの発生源になる可能性もあると指摘している。 世界中でプラスチックの消費と廃棄物が増加し続ける中、MPは新たな経路で環境に侵入し、最終的には食物連鎖に入り込んでいる。こうした事態を受けて米イリノイ州環境保護局は、MPへの曝露を減らすために以下の方法を提案している。それらは、1)可能な限り、プラスチックフリーの包装食品、飲料、衛生用品を選択すること、2)プラスチックの使用を減らし、微生物により分解される材質のものを選ぶこと、3)使用済みのプラスチックは、特に摩耗の兆候が見られる場合にはリサイクルに出すこと、4)買い物にはエコバッグを使用すること、5)衣類は可能な限り天然繊維(綿、ウール、シルク)を選ぶことである。

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高齢者のポリドクター研究、最適受診施設数は2〜3件か

 複数の医療機関に通う高齢者は多いが、受診する施設数が多ければ多いほど恩恵が増すのだろうか。今回、高齢者を対象とした大規模コホート研究で、複数施設受診が死亡率低下と関連する一方、医療費や入院リスクが上昇することが明らかとなった。不要な入院を予防するという観点からは最適な受診施設数は2〜3件とされ、医療の質と負担を両立させる上での示唆が得られたという。研究は慶應義塾大学医学部総合診療教育センターの安藤崇之氏らによるもので、詳細は9月1日付で「Scientific Reports」に掲載された。 高齢者では、複数の併存疾患を抱える人も少なくない。多疾患は死亡率や要介護、入院率、医療費の増加と関連しており、高齢化社会を特徴とする先進国の医療制度に大きな課題をもたらしている。特に日本では、多疾患を持つ高齢者の増加に伴い、「ポリドクター(polydoctoring、複数の医師による診療)」と呼ばれる現象が社会的な問題となっている。「ポリドクター」は、異なる医師や医療施設が患者を管理することで、ケアの分断や医療費の増加を招くリスクがある点が懸念されている。 著者らは以前、高齢者のポリドクターの背景として、眼疾患や骨粗鬆症、前立腺疾患、変形性関節症といった慢性疾患が関連することを示した。しかし、ポリドクターが患者の転帰にどのように影響するかは十分に解明されていない。そこで著者らは、日本の大規模保険請求データベースを用い、多疾患を抱える高齢者の定期通院施設数(RVF)と、死亡や入院などの転帰との関連を明らかにするため、後ろ向きコホート研究を実施した。 本研究では、DeSCヘルスケア株式会社が提供するデータベースを用い、75~89歳の複数の慢性疾患を有する患者233万8,965人を解析対象とした。追跡期間は2014年4月~2022年12月であった。主要評価項目は全死亡率とした。副次評価項目は全入院、外来ケアで予防可能な疾患(ACSC)による入院、外来医療費が含まれた。いずれの評価項目も多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。各群の比較はRVFが1施設の群を基準として行った。 解析対象の中央値年齢は78歳で、参加者の58%が女性だった。RVFの中央値は2施設、併存疾患の中央値は5つであった。外来医療費の中央値は37万1,230円だった。追跡期間中に33万8,249人(14.5%)が死亡し、122万201人(52.2%)が入院した。そのうち29万1,376人(12.5%)はACSCによる入院であった。 全死亡に対する多変量Cox比例ハザードモデルでは、RVFが0施設の群(定期受診なし)が最も死亡率が高く、RVFの施設数が増えるにつれて生存率は改善した。RVFが0施設の参加者の死亡リスクは最も高く、ハザード比(HR)は3.23(95%CI 3.14~3.33、P<0.0001)であった。一方、RVFが5施設以上の参加者では死亡リスクが最も低く、HRは0.67(95%CI 0.62~0.73、P<0.0001)であった。ACSCによる入院では、2~3施設の群で入院率が最も低く、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇するU字カーブを描いた。 外来医療費についても、RVFの施設数が増えるにつれて費用も増加する傾向が見られた。RVFが5施設以上の参加者では、RVFが1施設の参加者に比べ外来医療費が3.21倍(95%CI 3.17~3.26、P<0.0001)に増大した。 本研究について著者らは、「ポリドクターは死亡率を低下させる一方で、入院率や医療費の増加とも関連しており、ACSCによる入院を最小化する最適な受診施設数は2~3施設であることが示された。これらの結果は、高齢化社会において、ケアの連携や医療資源の管理を改善しつつ、ポリドクターのメリットとコストのバランスをとる戦略の必要性を示している」と述べている。 なお、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇する理由については、関与する医療機関が多すぎるとケアの継続性が損なわれ、全体的なメリットが減少する可能性を指摘している。

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ロスの姉に会いにいく【Dr. 中島の 新・徒然草】(604)

六百四の段 ロスの姉に会いにいくだんだん気温が下がってきましたね。こんな時、私は風呂場の窓を開けっぱなしにして熱い湯船につかります。冷たい風が顔にあたって気分は露天風呂。寒い季節ならではの楽しみです。さて、慢性疾患で私の外来に通っている80歳の女性患者さん。ご主人は86歳ですが、お二人とも元気で、どこへでも歩いて出掛けるそうです。 患者 「この前、名古屋から高校の同級生が来てくれたの」 中島 「それはすごいですね。皆さんお元気で素晴らしいです」 患者 「でも、近所のお友達がだんだん減っていってね」 中島 「そいつは『あるある』ですね」 患者 「そうなのよ。亡くなったり、足が弱って外出できなくなったりして」 一緒に来ていた娘さんが話に加わりました。 娘 「母の8歳上の姉がロサンゼルスに住んでいるんです」 中島 「皆さん本当に長寿ですね」 娘 「伯母は日本に帰るのが難しいので、母に来てほしいと言うんです。行っても大丈夫でしょうか?」 8歳上ということは88歳。その年齢で飛行機に乗って太平洋を越えるのは簡単なことではありません。が、「お互い元気なうちに一度顔を見ておこう」という気持ちはよくわかります。口には出しませんでしたが。 中島 「行ってあげたらいいんじゃないですか」 娘 「でも、もし向こうで何かあったらどうしようかと……」 中島 「そういう場合に備えて、娘さんかどなたかが付き添ってあげましょう」 娘 「これまでは一人で行っていたんですが、やはり私が付き添ったほうがいいですよね」 中島 「それと、万が一、現地で倒れたときのために保険には入っておくべきです」 アメリカで医療機関にかかると、想像以上の費用がかかります。数百万円、場合によっては数千万円になることも珍しくありません。 娘 「現地で病院を受診したら、診断書をもらわなくてはなりませんね」 中島 「そうです。後で保険金を請求する時に必要です」 娘 「やっぱり」 中島 「私たちも外国からの観光客を診療した場合は、英文の診断書を発行していますよ」 以前は英文診断書1枚書くだけでも大騒ぎになっていましたが、今はChatGPTなどのツールを活用して容易に作成できるようになりました。最近では「○○さんの英文診断書1枚お願いします」と医師事務作業補助者に気軽に依頼する医師もいるほどです。旅行先での診断書には大切な役割が2つあります。1つは保険会社への情報提供。帰国後に医療費の支払いを請求する際に「どのような診断で、どのような治療を受けたのか」を示す根拠になります。CTを撮影したのか、抗菌薬を使用したのか、あるいは外科的処置を行ったのか。なぜそのような費用が発生したのか理由を明確にすることが求められます。もう1つは患者さんの帰国先の医師への情報提供です。どのような根拠で診断がなされ、どのような治療が行われたのか。可能であれば「今後はこの薬を○日まで継続してください」といった治療方針の記載も望ましいところ。この2つの目的を1枚の診断書にまとめておくことが理想的です。というわけで、日本人が海外へ行く際にも大切な点は同じですね。出発前に保険へ加入しておくこと、そして現地の医療機関を受診した場合には診断書を必ず受け取っておくこと。この2点をお伝えしました。この患者さんが無事にロサンゼルスへ渡り、姉妹が元気に再会できることをお祈りしています。最後に1句 晩秋の ロスに向かうは 80歳

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心不全に伴う体液貯留管理(1):ポケットエコーで評価する2つの指標【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第7回

心不全に伴う体液貯留管理(1):ポケットエコーで評価する2つの指標今回から、4回にわたって心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介します。ここでは「下大静脈の径と呼吸性変動を見て右房圧を推定する」「VMTスコアを評価して左室充満圧を推定する」「利尿薬の導入・増量・減量の判断をする」という目標を設定して、解説していきます。ポケットエコーで血行動態を評価する心不全の増悪、非代償性の心不全への進行の評価には、血行動態の評価が非常に重要です。左心不全を例にとって考えると、起座呼吸、夜間発作性呼吸困難などの症状、レントゲン所見(バタフライシャドウ[肺水腫])、心エコー所見(左室充満圧:TRPG、E/A、E/e'、LAVI[左房容積係数])が参考になります。そのなかでも、血行動態の評価において心エコーが非常に大きな役割を果たします。さまざまな心エコー手法(カラードプラ、パルスドプラ、連続波ドプラ、組織ドプラ)を用いて、左室充満圧や左房圧上昇を評価することで、有用な情報が得られるのです。しかし、詳細な心エコーの実施が難しい状況もあります。そのような場合でもポケットエコー、つまりBモードだけで評価することができれば、有用な情報が得られます。ポケットエコーでは、VMTスコア(後述しますが、左心不全の要素と考えてください)、下大静脈(IVC)の2つを評価するのが基本的な戦略となります(表)。表 ポケットエコーで評価する血行動態指標画像を拡大する下大静脈の径と呼吸性変動を見て右房圧を推定する推定右房圧の一般的な分類は、3mmHg、8mmHg、15mmHgの3つに分けるのが主流です。下大静脈径は21mmがカットオフ値になりますが、長軸で評価するのが慣習だと思います。しかし、短軸の断面像でも断面の円形化が右房圧上昇を示唆するのではないかという報告があります。そのため、長軸だけでなく短軸で判断することも重要となります。肝臓を窓にして見ると、心窩部で観察しにくい人も肋間から下大静脈を観察することができます。それでは、動画を見てみましょう。下大静脈の観察短軸像でも、右房圧の判断ができることがおわかりいただけたのではないでしょうか。VMTスコアとは?ここで、聞き慣れないVMTスコアという指標を紹介します(図)。図 VMTスコア:時相解析に基づく左室充満圧指標画像を拡大するVMTは、僧帽弁と三尖弁の開放の時相差を見ていきます。生理的には、通常は三尖弁が先に開くのですが、左房圧(左室充満圧)が徐々に上がっていくにつれて、僧帽弁が先に開くようになります。これをBモードで観察していくと、左房圧と相関することが発見され、この指標が開発されました。これに加えて、先ほど解説した下大静脈径から推定する右房圧と組み合わせ、総合的に0~3点でスコア化することで、いわゆる非代償性の左心不全および両心不全の判断に有効な指標となります。それでは、VMTスコア0~3点について、詳しく見ていきましょう。点数の分類は以下のように解釈できます。0点三尖弁が先行して開き、下大静脈の拡張もない1点三尖弁と僧帽弁が同時に開くが、下大静脈の拡張はない2a点三尖弁と僧帽弁が同時に開き、下大静脈の拡張もある(右心不全の要素が強い)2b点僧帽弁が先行して開くが、下大静脈の拡張はない(左心不全の要素が強い)3点僧帽弁が先行して開き、下大静脈の拡張もある(両心不全を示唆)このなかで、VMTスコアが2a点以上の場合は、代償性の慢性心不全というよりは非代償性である可能性が高く、治療介入を検討すべき状態であることが示唆されます。 では、動画でVMTスコアの見かたを見てみましょう。細かく止めながらみるのがコツとなります。VMTスコアの見かた心不全評価の手技の到達目標心不全の評価におけるポケットエコーの手技の到達目標を以下にまとめます。【下大静脈(IVC)】さまざまなアプローチで描出できる肝静脈との合流部を意識できる右房への流入を観察できる【VMTスコア】心窩部で4腔像を描出できるシネを用いてVMTを評価できる心尖部で4腔像を描出できる次回は、この目標に基づいて手技を学んでいきましょう。

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息切れがして歩きが遅い【漢方カンファレンス2】第8回

息切れがして歩きが遅い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】80代男性主訴呼吸困難、歩きが遅くなった既往慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰椎椎間板ヘルニア生活歴50歳まで喫煙、ADLは自立。病歴50歳時にCOPDと診断。呼吸器内科で吸入薬を中心とした治療を受け、咳や痰がときおりある程度で落ち着いていた。3ヵ月前に腰痛が悪化して、腰椎圧迫骨折の診断で3週間の入院加療を行った。退院後、腰痛は軽減して日常生活は問題なくできていたが、歩行時の息切れがひどくなった。以前から妻と散歩をしていたが、妻の歩きについていけなくなった。呼吸機能検査では悪化はなく、漢方治療を希望して受診した。現症身長161cm、体重52kg。体温35.4℃、血圧115/77mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%。呼吸音は異常なし、軽度の下肢浮腫あり。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療開始。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後息切れは変わらない。夜間尿が1〜2回に減った。下肢の浮腫は減ったが冷えは変わらない。ブシ末3包 分3を追加2ヵ月後腰痛と息切れがずいぶん楽になった。散歩に行く意欲がでてきた。3ヵ月後散歩で息切れがなくなって、妻と同じ速度で散歩ができるようになったと喜んでいる。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 寒がりです。 足、とくに膝下が冷えます。 足は冷えますが、足の裏がほてることがあります。 横になりたいほどではありませんが歩くと息切れがひどくきついです。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 入浴で温まると、腰痛はどうなりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴の時間は長いです。 入浴後は腰痛が軽くなります。 冷房は好きでも嫌いでもありません。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇く方です。 温かい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃は弱くありませんか? だいたい1日1L程度です。 食欲はあります。 胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかきますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 下痢や便秘はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は1日12回くらいです。 夜は3回トイレに行くので困っています。 便は毎日出ます。下痢はありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 朝が一番きついということはありませんか? 腰痛はどうですか? よく眠れますか? 歩くときついですがじっとしていれば倦怠感はありません。 朝は調子がよいです。 腰痛は随分よくなりましたが動くとまだ痛いですね。 睡眠は問題ありません。 日中の眠気はありませんか? 目の疲れや抜け毛は多くありませんか? 足をよくつりますか? 頭痛やめまいはありませんか? 下肢はむくみませんか? 眠気はありません。 目の疲れや抜け毛はありません。 足はつりません。 頭痛やめまいはしません。 夕方になると下肢がむくみます。 風邪をひきやすいですか? 咳や痰はひどいですか? 風邪はあまりひきません。 咳はたまに出る程度です。痰も量は少ないです。 ときどき粘っこい痰が出ます。 イライラや不安はありませんか? どれくらい生活に支障が出ていますか? イライラや不安はありませんが、何をするにも億劫になりました。以前はグランドゴルフもやっていましたが、いまは散歩にいく気力もありません。 【診察】顔色は正常。脈診ではやや沈・強弱中間の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は中等度より軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋緊張あり、上腹部と比べて下腹部の腹力が低下している小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。下肢に浮腫が軽度あり、触診で冷感あり。カンファレンス 今回の症例は、呼吸困難感と歩行速度の低下を訴える高齢の男性です。 COPDはコモンな疾患で、抗コリン薬やステロイドの吸入が標準的な治療ですが、それ以外の治療は乏しいです。本症例は呼吸機能検査の悪化はなく、腰椎圧迫骨折を契機に出現した症状ということで、肺というよりは体力や筋力の低下が問題で「リハビリを頑張ってください」と言いたくなりますね。 そうですね。COPDの治療には生活の質の改善や身体活動性の維持・向上が含まれますから、リハビリの強化は必要ですね。 全身倦怠感や息切れのために積極的にリハビリが行えない、意欲が低下してなかなかリハビリが進まないケースも多いですね。 そういうケースに漢方薬を使うことでリハビリがスムーズに行えるように支えることができたらよいね。 それでは、順番にみていきましょう。 下肢、とくに膝下の冷えの訴えがあるので陰証でしょうか。そのほか寒がり、入浴の時間は長い、温かい飲み物を好む、触診で下肢に冷感があるなどが陰証を示唆する所見です。ただし、横になりたいほどの倦怠感はない、脈は強弱中間であることから、少陰病や厥陰病(けついんびょう)というわけではないようです。 そうだね。ただし腰痛が入浴で温まると改善するということは、冷えの関与が考えられるね。 入浴で温まると痛みがよくなるということで附子(ぶし)を使いたくなります。 それでは漢方診療のポイント(2)の虚実はどうだろう? 脈は強弱中間、腹力は中等度より軟弱であることからやや虚証〜虚実間です。 そうですね。では気血水の異常を考えてみましょう。 歩行できついという全身倦怠感があるので気虚でしょうか? 疲れやすさは気虚と考えることができるね。ただし本症例では気虚の倦怠感の特徴である食欲低下や昼食後の眠気は目立たないね。また、風邪をひきやすいことも気虚の特徴だけど、そちらもないよね。 気虚はありそうだけど、典型的な気虚というわけでもなさそうですね。 また、朝調子が悪いという気鬱の全身倦怠感でもないようです。 血の異常はどうだろう? 抜け毛、こむら返り、目の疲れなど血虚はありません。瘀血は舌暗赤色、舌下静脈の怒張があります。 水毒の所見としては下肢の浮腫がありますね。また夜間尿3回は夜間頻尿で水毒と考えることができますね。ここまでをまとめると、太陰病で、気虚はありそうだけど典型ではない、瘀血、水毒となりますね。 散歩に行く意欲がない、何をするのも億劫というのは気鬱でしょうか? 気鬱としてもよいかもしれないね。ただし、下肢の冷え、腰痛、夜間頻尿、歩行速度の低下などと意欲の低下を一元的に考えるとどうだろう? なるほど、心身一如の漢方治療ですね。それらを加齢に伴う症状として考えると漢方医学的には腎虚(じんきょ)と捉えることができませんか? そのとおり。腎の働きが加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚というよ。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退だね。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型だけど、手掌や足底のほてりを訴えることもあるよ。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状だね(腎虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 腎虚といえば、坐骨神経痛や夜間頻尿など、腰下肢痛や排尿異常を思い浮かべてしまいますが、さまざまな症状が含まれるのですね。 先天の気は腎に蓄えられることから、全身倦怠感や意欲の低下といった気虚と類似した症状もあらわれることがあるのも理解できるね。 現代ではフレイルやサルコペニアなどが老化の概念として活用されていますね。とくにフレイルには多面性があって、身体的フレイル、心理・精神的フレイル、社会的フレイルに分類され、心理社会的側面な意味を含むことも腎の働きと似ていますね。 あとは細かい点だけど、足の裏がほてるという症状も腎虚で出現する症状だよ。 本症例をまとめましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、下肢、とくに膝下が冷える、入浴は長い、下肢に冷感→陰証(太陰病)(2)虚実はどうか脈:やや強弱中間、腹:中等度より軟弱→やや虚証〜虚実間(3)気血水の異常を考える歩くと倦怠感→気虚?、舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血、下肢浮腫→水毒、下肢冷えと浮腫、腰痛、夜間頻尿、意欲の低下→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む加齢症状、小腹不仁解答・解説【解答】本症例は、腎虚に対して用いる八味地黄丸(はちみじおうがん)で治療をしました。【解説】腎虚に対して用いる漢方薬が八味地黄丸です。古典を参考に八味丸(はちみがん)という場合もあります。八味地黄丸は、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)が体を栄養・滋潤する作用があり、そのほか、利水作用のある茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、駆瘀血作用のある牡丹皮(ぼたんぴ)に加え、体を温める桂皮(けいひ)と附子で構成されます。八味地黄丸は太陰病の虚証に適応となる漢方薬ですが、虚証の程度は軽く、虚実間からやや実証まで幅広く適応になります。ひどく虚弱で胃が弱い人ではしばしば胃もたれすることがあるので注意が必要です。そのため食前ではなくあえて食後に内服する、あるいは減量して用いる場合もあります。この胃もたれは構成生薬の地黄が原因です。八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)を加えたものが牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)で浮腫やしびれが強い場合に用います。また、冷えが目立たない症例では桂皮と附子を除いた六味丸(ろくみがん)を用います。腎虚の治療の効果判定は、加齢に伴う症状ですから、内服によりすべての症状がすみやかに改善することは難しく、じっくりと月単位で内服してもらいます。八味地黄丸は軽度アルツハイマー認知症患者に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に併用することで、女性や65歳以上では有意に認知機能を改善させたという前向きオープンラベル多施設ランダム化比較試験があります1)。また、精神症状に関する報告として、八味地黄丸を意欲の低下を目標に15症例に投与したところ、7割以上に有効で八味地黄丸には意欲賦活作用があるとする症例報告2)やうつ病患者の倦怠感や気力の低下に八味地黄丸や六味丸が有効であったとする報告3)があります。また呼吸器症状に関しても気管支喘息に対する八味地黄丸の効果4)やストレスに起因した慢性咳嗽に八味地黄丸が有効であった症例5)が報告されています。腎虚の治療薬は、夜間頻尿や過活動膀胱などに対する泌尿器科的な症状や牛車腎気丸が末梢神経障害に用いるといったイメージが強いですが、腎虚はもっと幅広い概念であるため、精神症状や呼吸器症状に有効であるということにも注目すべきでしょう。「腎は納気(のうき)を司(つかさ)どる」といわれ、肺だけでなく腎も呼吸にも関与しているとされているのです。今回のポイント「腎虚」の解説生命活動を営む根源的エネルギーである気(き)は「先天の気」と「後天の気」に分けられます。生まれた後は呼吸や消化によって後天の気を取り入れることができます。一方、先天の気は、生まれながらの生命力というべきもので「腎」に宿ります。腎は現代医学的な腎臓とは異なる概念で、全身の生命活動を支える根本的な臓器として、水分代謝の調整のほか、成長、発育、生殖能、呼吸機能などが含まれます。腎の働きは加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚といいます。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退です。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型ですが、手掌や足底のほてりを訴えることもあります。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状です。また、腎は思考力、判断力、集中力の保持にかかわっていると考えられ、腎虚ではそれらが低下して、易疲労感や意欲の低下が出現します。腎虚を示唆する身体所見として、上腹部より下腹部の腹力が減弱した小腹不仁(図)があります。今回の鑑別処方今回は八味地黄丸や牛車腎気丸から展開する漢方治療を紹介します。八味地黄丸は腎虚に対して用いる漢方薬ですが、さらにほかの漢方医学的異常を認める場合はそれぞれの病態に応じてほかの漢方薬と併用します。八味地黄丸や牛車腎気丸には附子が含まれていますが、冷えを伴わない場合は六味丸を用います。六味丸は小児の発育障害のような病態に用いられた歴史があります。逆に冷えや痛みが強い場合には八味地黄丸や牛車腎気丸にブシ末を併用して冷えや痛みに対する治療を強化します。また腰以下の冷え、とくに腰周囲や大腿部の冷えが目立つ場合は苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)を併用します。全身倦怠感が強く気虚を合併していれば、補中益気湯を併用することもあります。補中益気湯と八味地黄丸の併用はしばしば男性不妊に対する治療で用います。八味地黄丸に含まれる地黄で胃もたれを生じるような場合は人参湯(にんじんとう)と併用することがあります。また脱水傾向があるとか、気道粘膜が乾燥傾向にあって乾性咳嗽を伴う場合には、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を併用します。麦門冬湯には滋潤(じじゅん)作用といって潤す作用があり、COPD患者で乾燥傾向があってしつこい咳嗽(喀痰はあっても少量)がある場合に適応です。今回の症例で乾性咳嗽が目立っていれば併用すればよいでしょう。この麦門冬湯と八味地黄丸の併用は煎じ薬では味麦地黄丸(みばくじおうがん)という漢方薬と類似した構成です。また、当科では「八味丸と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に持ち込めば勝ち戦」という漢方治療の口訣があります。最初は食欲低下、冷え、不眠など、それぞれの漢方治療を行うけれども、最後に八味地黄丸や桂枝茯苓丸を内服できるようになればこちらの漢方治療が上手くいったという意味です。さまざまな症状が改善して漢方医学的異常として最後に残るのは腎虚と瘀血ということで、なんとも味わい深い口訣です。漢方外来ではそれらを飲んでいて、積極的に運動をするなど、活動的な高齢者も多いです。2つの漢方薬はともに甘草を含まないことから偽アルドステロン症の恐れもなく、地黄による胃もたれや漢方薬によるアレルギーさえなければ長期内服しやすい組み合わせになります。参考文献1)Kainuma M, et al. Front Pharmacol. 2022;13:991982.2)尾﨑哲, 下村泰樹. 日東医誌. 1993;43:429-437.3)Yamada K, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2005;59:610-612.4)伊藤隆ほか. 日東医誌. 1996;47:443-449.5)木村容子ほか. 日東医誌. 2016;67:394-398.

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難治性うつ病患者、搬送後に心室頻拍に!【中毒診療の初期対応】第1回

<今回の症例>年齢・性別52歳・女性患者情報難治性うつ病の診断で某院精神科にて通院加療していた。仕事から帰宅した夫が、リビングで倒れていて呼びかけてもまったく反応がない状態であるのを発見し、救急センターに搬送された。初診時はいびき様呼吸、呼吸数22/分、SpO2 98%(フェイスマスクにて酸素3L/分)、血圧78/46mmHg、心拍数124bpm、意識レベルJCS 200、瞳孔 左右5.5mm同大、対光反射 緩慢、体温38.6℃であった。心電図モニターでは、QRS(0.18sec)およびQTc(0.50sec)の延長(図1)が認められた。身体所見では、皮膚の乾燥、腸蠕動音の減弱が認められた。気管挿管により気道を確保し、経鼻胃管を挿入したところ薬物残渣が大量に吸引された。突然、心電図モニターで心室頻拍(図2)が出現したが、脈は触知できた。上段:(図1)搬送直後の心電図下段:(図2)経鼻胃管挿入後の心電図画像を拡大する検査値・画像所見末梢血では、WBC 9.80×103/mm3、Hb 13.8g/dL、Ht 39.6%、Plt 132×103/mm3、生化学検査では、TP 6.9g/dL、AST(GOT)12IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 320IU/L、CPK 125IU/L、AMY 253IU/L、Glu 132mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.6mg/dL、Na 140mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 106mEq/L、動脈血ガス(フェイスマスクにて酸素3L/分)、pH 7.336、PaCO2 30.8Torr、PaO2 112.3Torr、HCO3- 16.7mmol/L、BE -3.6mmol/L、乳酸値 4.6mmol/Lであった。<問題1><解答はこちら>2.第1世代三環系抗うつ薬<問題2><解答はこちら>4.炭酸水素ナトリウム1)上條 吉人. 臨床中毒学第2版. 医学書院;2023.

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第34回 10代のSNS利用増、認知テストのスコア低下と関連か?米国大規模調査が示す懸念と対策の必要性

「若者のSNS利用は良いこと? 悪いこと?」この問題をめぐる議論は、世界中の教育者の間で熱を帯びていると言っていいでしょう。SNSが心に悪影響を与えるという研究があれば、「測れるほどの影響はない」という反論も出ます。そんな混沌とした状況が、子供たちや家庭を守るための明確なルール作りを遅らせてきた側面は否めません。そんな中、JAMA誌に掲載された最新の研究は、私たちに新たな視点を与えてくれます1,2)。今回の記事では、思春期初期のSNS利用時間の増加が、10代の認知能力にどのような影響を与えているのかについて明らかにしたこの研究について解説していきます。SNS利用時間の追跡、10代の利用パターン今回ご紹介する研究は、アメリカで行われている大規模な追跡調査「Adolescent Brain Cognitive Development (ABCD) Study」のデータをもとにしています。研究チームは、6,554人の子供たちを9歳から13歳まで追跡しました。そして、彼らが3年間にわたって、具体的に「ソーシャルメディア(SNS)」にどれくらいの時間を費やしているか、その利用パターンの違いを分析したのです。その結果、子供たちのSNS利用には、大きく分けて3つの異なるグループがあることがわかりました。まず、過半数の子供たち(57.6%)は、「ほとんど、あるいはまったく使わない」グループに属していました。彼らのSNS利用時間は非常に少なく、13歳時点でも1日の平均利用時間はおよそ18分にとどまりました。次に大きなグループ(36.6%)は、「低い頻度で(徐々に)増加する」パターンを示しました。9歳時点では利用時間が少なかったものの、年齢とともに増え、13歳時点では1日の平均利用時間がおよそ78分に達していました。少数派ながら見過ごせないグループ(5.8%)は、「高頻度で(急激に)増加する」経過をたどりました。彼らの利用時間も最初は少なかったのですが、その後急激に増加し、13歳時点では1日の平均利用時間が3時間以上と、他のグループに比べて突出して長くなっていました。ここで重要なのは、これらの時間はあくまで「SNS」の利用時間であり、ゲーム、動画視聴、学習目的でのコンピュータ利用など、他のスクリーンタイムは含まれていないという点です。SNS利用と脳のパフォーマンス次に研究チームは、これらの異なるSNS利用パターンが、13歳時点での認知能力とどのように関連しているかを調べました。認知能力の測定には、米国国立衛生研究所が開発した標準化されたテストが用いられました。そして、分析に当たっては、研究開始時点(9歳)での認知スコアを考慮に入れることで、もともとあった能力差が結果に影響するのを最小限に抑えました。その結果、一貫した傾向が見られました。「ほとんど、あるいはまったく使わない」グループと比較して、「低頻度で増加する」グループと「高頻度で急増する」グループの両方が、13歳時点でいくつかの重要な認知テストにおいて低いスコアを示したのです。具体的には、以下の項目で有意な差が見られました。読解認識文章を読む能力に関連絵画語彙言語知識を測る絵画シーケンス記憶出来事を覚える能力を測る総合スコア全体的な認知能力を示すさらに、これらの差には「量反応関係」のような傾向が見られました。つまり、「高頻度で急増する」グループは、「低頻度で増加する」グループよりも、基準となる「ほとんど使わない」グループとのスコア差が大きい傾向があったのです。ただし、この結果を解釈するには注意も必要です。統計的には意味のある差(偶然とは考えにくい差)でしたが、標準化されたスコアで見ると、実際の点差は比較的小さかったのです。また、3つのグループすべての平均スコアは、年齢相応の「平均的な範囲」内に収まっていました。では、この「小さな差」は重要ではないのでしょうか? 必ずしもそうとは言えません。集団レベルで見ればわずかな認知能力の平均的な違いでも、実社会では大きな影響をもたらす可能性があるからです。たとえば、平均的に課題を終えるのに時間がかかるようになったり、数学や読解のような積み重ねが必要な科目で遅れが出やすくなったり、学業への意欲そのものが低下したりするかもしれません。とくに、今回の研究で影響が見られたのが、語彙力や読解力といった、学習や経験を通じて獲得される能力(結晶性知能と呼ばれる)であったことは、この懸念を裏付けているようにみえます。なぜ関連が? 考えられる理由この研究は、SNS利用時間の増加と認知スコアの低さの間に「関連がある」ことを示しましたが、SNSが認知スコア低下の「原因である」と証明したわけではありません。しかし、研究者たちは、その関連性を説明できるいくつかの有力なメカニズムを挙げています。一つは「置き換え仮説」です。SNSの画面をスクロールしている時間は、本来であれば宿題、読書、趣味、あるいは学校での活動など、認知能力の発達にとってより有益な活動に使われたかもしれない時間です。SNSがこれらの活動時間を奪ってしまうことが、とくに言語知識系のスコア低下につながっているのではないかと考えられます。もう一つの重要な要因は「睡眠」です。思春期は脳が劇的に発達する時期であり、質の高い睡眠は学習、記憶の定着、感情のコントロールに不可欠です。しかし、SNSプラットフォームは、絶え間ない通知、アルゴリズムによって無限に続くフィード、刺激的なコンテンツなどで、若者の就寝時間を遅らせ、夜中の睡眠を妨害することが知られています。慢性的な睡眠不足が、注意力や学習能力に直接的な悪影響を与えている可能性があります。もちろん、逆の関係性も考えられます。つまり、もともと認知能力があまり高くない若者が、退屈しのぎや、アルゴリズムに惹きつけられやすいといった理由で、SNSにより多くの時間を費やすようになる可能性です。原因と結果の関係をはっきりさせるには、さらなる研究が必要でしょう。政策を動かすのに「十分な証拠」と言えるのか?このように、まだ解明されていない点や研究上の限界はあるものの、今回の研究結果は、既存の証拠と合わせて考えれば、社会的な対策の導入を正当化するのに「十分な証拠」なのかもしれません。エビデンス自体の強固さに疑問がついたとしても、政策決定は、証拠の確かさだけでなく、問題の緊急性、対策を講じること・講じないことの利益と不利益、実現可能性などを総合的に考慮して判断しなければならないからです。SNSには、社会的なつながりを育んだり、疎外された若者を支援したりといった潜在的な利点もあるでしょう。しかし、利益追求を第一とするプラットフォーム企業が、本質的に子供の利益を最優先する動機を持っているわけではないとも指摘されています。そして、今回の研究で示唆された発達上のコストを考えれば、行動を起こさないことのリスクは大きいとも論じられています。実際、かつて鉛への曝露に関する研究が、比較的小さな認知能力への影響を示唆しただけでも、大きな政策変更や公衆衛生上の対策につながった例もあります。それならば、今回観察された認知能力の差も、政策立案者が真剣に受け止めるべきなのかもしれません。年齢制限、より安全性を考慮したプラットフォーム設計基準、企業への説明責任の強化といった規制措置が、今こそ必要なのかもしれません。さらなる研究が待たれる一方、今回の研究は、思春期初期という脳の発達にとって極めて重要な時期におけるSNS利用が、無視できない認知的コストを伴う可能性を強く示唆しています。若者の健全な発達をデジタル時代にどう守っていくか。今こそアクションを検討すべき重要な問いだと言えるでしょう。 参考文献 1) Nagata JM, et al. Social Media Use Trajectories and Cognitive Performance in Adolescents. JAMA. 2025 Oct 13. [Epub ahead of print] 2) Madigan S, et al. Developmental Costs of Youth Social Media Require Policy Action. JAMA. 2025 Oct 13. [Epub ahead of print]

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帯状疱疹後神経痛、発症しやすい人の特徴

 帯状疱疹を発症すると、帯状疱疹の皮疹や水疱消失後に帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)と呼ばれる合併症を伴う場合があり、3ヵ月後で7~25%、6ヵ月後で5~13%の人が発症しているという報告もある1)。今回、中国・Henan Provincial People's HospitalのJing Wang氏らは、PHNの独立した危険因子となる患者背景を明らかにした。Frontiers in Immunology誌2025年10月1日号掲載の報告。 本研究は、PHN高リスク患者の早期発見と予防戦略の最適化支援を目的として、PHNの独立した危険因子を特定するため、PubMed、Embase、Cochrane Libraryを検索。メタ解析にて人口統計学的特徴、臨床症状、治療計画、合併症、ウイルス学的因子などの評価を包括的に分析し、結果の堅牢性を検証するための感度分析も実施した。なお、研究間の異質性はI2統計量とコクランのQ検定を用いて評価し、閾値は低異質性(I2<30%)、中等度の異質性(I2=30~60%)、高異質性(I2>60%)と定義した。 主な結果は以下のとおり。・本システマティックレビューにて36件(前向き研究15件、症例対照研究5件、後ろ向き研究13件、システマティックレビュー3件)が特定され、そのうち24件をメタ解析した。・PHNの独立した危険因子として、以下のものが主に特定された。 ●60歳以上:オッズ比(OR) 1.16(95%信頼区間[CI]:1.15~1.17、高異質性) ●喫煙やアルコール摂取などの生活歴:OR 1.13(95%CI:1.07~1.20、高異質性) ●免疫抑制薬による治療:OR 1.94(95%CI:0.16~23.44、異質性なし) ●糖尿病:OR 1.29(95%CI:1.05~1.60、高異質性) ●慢性閉塞性肺疾患:OR 1.70(95%CI:1.23~2.35、異質性あり) ●高血圧症:OR 1.82(95%CI:1.28~2.58、異質性なし) ●悪性腫瘍:OR 1.99(95%CI:1.07~3.70、異質性なし) ●慢性腎臓病:OR 1.08(95%CI:0.99~1.17、異質性なし)・このほか、重度の発疹、前駆症状としての疼痛、アルコール乱用、検出ウイルス量の高さなども危険因子の可能性を示していた。・一方、性差および社会経済的地位はPHNの発症と有意な関連を示さず、十分なエビデンスが認められなかった(I2>50%、p>0.05)。 研究者らは「帯状疱疹の重症度が急性疼痛の強さとともにPHNの重要な危険因子であり、また、上記の危険因子以外にも新型コロナウイルスが潜在的な危険因子となる可能性があるため、さらなる調査が必要である」としている。

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日本食はうつ病予防に有効なのか?

 老年期うつ病は、高齢化社会においてますます重要な公衆衛生問題となっている。日本は世界有数の平均寿命と健康寿命の長さを誇るにもかかわらず、日本食と老年期うつ病との具体的な関連性に特化したプロスペクティブコホート研究はこれまで行われていなかった。北海道大学のHo Chen氏らは、日本食と老年期うつ病との関連性を検証し、この関連性が食事の質の向上に起因する身体的健康状態の改善にとどまらないかどうかを評価するため、本研究を実施した。The Journal of Nutrition, Health & Aging誌2025年9月号の報告。 本研究では、1996〜2005年に65歳となる愛知県・日進市の住民を対象とした、年齢別プロスペクティブコホート研究である「the New Integrated Suburban Seniority Investigation(NISSIN)プロジェクト」のデータを利用した。高齢者1,620人(男性:827人、女性:793人)を対象に、70歳時点での老年期うつ病の発症状況を評価した。老年期うつ病の評価には、老年期うつ病尺度15項目質問票を用いた。日本食の順守状況は、修正版日本食インデックス(JDI)を用いて測定した。 主な結果は以下のとおり。・70歳時点で老年期うつ病を発症した高齢者は合計135例であった。・主要な交絡因子を調整した後、日本食の順守が最も高かった群では、順守が最も低かった群と比較し、老年期うつ病の発症リスクが有意に低かった(調整オッズ比[aOR]:0.525、95%信頼区間[CI]:0.286〜0.962)。・また、JDIの各ポイントも老年期うつ病リスクの低下との関連が認められた(aOR:0.900、95%CI:0.816〜0.992)。・食事項目別の解析では、魚介類(p=0.024)、緑黄色野菜(p=0.003)、大豆由来製品(p=0.001)が老年期うつ病リスクの低下と有意に関連していることが示唆された。 著者らは「日本食、とくに緑黄色野菜、大豆由来製品、魚介類を多く含む食生活を順守することは、老年期うつ病の予防につながる可能性がある」と結論付けている。

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亜鉛欠乏がCKD患者のAKIリスクを37%上昇、死亡リスクは約2倍に

 慢性腎臓病(CKD)患者における亜鉛欠乏が、急性腎障害(AKI)発症および死亡の独立したリスク因子であることが、台湾・Chi Mei Medical CenterのYi-Chen Lai氏らによる大規模リアルワールドデータ解析で明らかになった。Frontiers in Nutrition誌2025年9月25日号掲載の報告。 AKIはCKD患者にしばしば合併し、重症化すると生命予後を著しく悪化させるが、既知のリスク因子の多くは高齢や糖尿病などで修正が難しい。一方、動物実験では亜鉛補充が腎障害を抑制する可能性が示唆されているものの、ヒトを対象とした大規模研究は乏しい。そこで研究グループは、CKD患者を対象に、ベースラインの亜鉛欠乏がAKI発症や腎機能悪化リスクにどのように関連するかを検討するため、大規模後ろ向き解析を実施した。 TriNetX Analytics Network Platformを用いて、CKDの既往歴を有し、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛検査を受けた18歳以上の患者を特定した。患者を亜鉛欠乏群(70μg/dL未満)と対照群(70~120μg/dL)に分類し、傾向スコアマッチングを行った。マッチングは年齢、性別、併存疾患、臨床検査値、使用薬剤などの背景因子を調整して1:1で実施した。主要評価項目は追跡12ヵ月時の新規AKI発症とし、副次評価項目は全死因死亡、末期腎不全(ESRD)、集中治療室(ICU)入院、主要心血管イベント(MACE)の発生として、各ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・両群はそれぞれ5,619例で、平均年齢は亜鉛欠乏群64.0±15.7歳、対照群63.8±15.4歳。女性はそれぞれ56.6%および56.3%であった。・追跡12ヵ月時点で、亜鉛欠乏群では対照群と比べてAKI発症、ESRD進行、死亡などのリスクが有意に高かった。 -AKI発症 19.3%vs.14.9%、HR:1.37、95%CI:1.25~1.50、p<0.001 -ESRD進行 1.9%vs.1.4%、HR:1.40、95%CI:1.04~1.88、p=0.025 -死亡 9.0%vs.4.8%、HR:1.95、95%CI:1.68~2.26、p<0.001 -ICU入院 8.7%vs.5.8%、HR:1.56、95%CI:1.35~1.79、p<0.001 -MACE発症 25.0%vs.23.5%、HR:1.10、95%CI:1.02~1.19、p=0.012・亜鉛欠乏によるAKIおよびESRDのリスク上昇は、12ヵ月時点よりも6ヵ月時点でより顕著であり、早期から影響が及ぶ可能性が示唆された。・栄養失調の患者を除外しても、亜鉛欠乏群ではAKI、死亡、ICU入院のリスクが有意に高かった。・サブグループ解析では、年齢・性別・糖尿病・高血圧・肥満・貧血の有無にかかわらず一貫してAKIリスクが上昇した。・多変量Cox回帰分析でも、亜鉛欠乏(HR:1.44)は新規AKI発症の独立予測因子として確認された。このリスク上昇幅は、心不全(HR:1.51)や貧血(HR:1.57)などの既知の主要なAKIリスク因子に匹敵するものであり、亜鉛欠乏が修正可能なリスク因子である可能性が示唆された。

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過体重/肥満へのセマグルチド、心血管リスク低下は体重減少に依存せず/Lancet

 英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJohn Deanfield氏らは、41ヵ国804施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験「SELECT試験」の事前に規定されたサブ解析において、セマグルチドの心血管アウトカムに対する有益性はベースラインにおける肥満指標および体重減少に依存せず、ウエスト周囲長との関連もわずかであったことを明らかにした。SELECT試験では、心血管疾患既往で過体重または肥満であるが糖尿病の既往のない患者において、セマグルチドが主要有害心血管イベント(MACE)を減少させることが示されていた。著者は、「本解析の結果は、セマグルチドの肥満低減以外の何らかのメカニズムによる有益性を示唆するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月22日掲載の報告。SELECT試験の事前規定のサブ解析 SELECT試験の対象は、BMI値27以上の心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、症候性末梢動脈疾患)の既往を有する45歳以上の患者であり、スクリーニング時のHbA1c値が6.5%以上、1型または2型糖尿病の既往、末期腎不全、スクリーニング前60日以内の心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症による入院・一過性脳虚血発作の既往、またはNYHA心機能分類IVの心不全の患者は除外した。 適格患者を、セマグルチド群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与した。投与量は0.24mgの週1回投与より開始して4週ごとに漸増し、17週目より目標用量の2.4mgとした。 肥満指標として体重(無作為化時、20週時までは4週ごと、その後は治療終了まで13週間ごと)、およびウエスト周囲長(無作為化時、20週時、その後は治療終了まで年1回)を測定した。 主要エンドポイントは、初発のMACE(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)までの期間であり、本解析では、20週以降のMACE発生リスクを最初の20週間における肥満指標の変化に基づき患者間で評価するとともに、104週間の肥満指標の変化に基づく試験期間中の全MACEを患者間で評価した。体重減少量とは独立、ウエスト周囲長減少量がわずかに影響 SELECT試験に登録された計1万7,604例において、セマグルチドはプラセボと比較しMACE発生率を有意に減少させ、ベースラインの体重、ウエスト周囲長、BMI値およびウエスト周囲長身長比の各項目の全カテゴリーで一貫した有益性が認められた。 各治療群内では、ベースラインの肥満指標が低いほどMACEリスクが低かった。セマグルチド群内では、ベースライン体重が5kg低いごとにMACEリスクが4%低下(ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.94~0.99、p=0.001)、ウエスト周囲長が5cm短いごとにリスクが4%低下(0.96、0.93~0.99、p=0.004)した。一方、プラセボ群では、ベースラインのウエスト周囲長が5cm短いごとにMACEリスクが4%低下(0.96、0.94~0.99、p=0.007)したが、体重との関連はみられなかった(0.99、0.97~1.01、p=0.28)。 セマグルチド群では、20週時の体重減少量とその後のMACEリスクとの間に線形傾向は認められなかったが、20週時のウエスト周囲長減少量はその後のMACEリスクの低下と関連しており、104週時のウエスト周囲長減少量は試験期間中のMACEリスク低下と関連した。 セマグルチド群において、後期のMACEリスク低下の33%は早期のウエスト周囲長の変化を介したものであることが推定された(ウエスト周囲長を時間依存共変量とした補正後のHR:0.86、95%CI:0.77~0.97)。

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胎児~2歳の砂糖摂取制限と成人期の心血管リスクの関係/BMJ

 英国における受胎後1,000日間(胎児~2歳)にわたる砂糖配給制への曝露は、成人期の心血管リスク低下および心機能指標のわずかな改善と関連しており、胎児期~生後早期の砂糖摂取制限が心血管への長期的な有益性をもたらす可能性があることが、中国・香港科技大学のJiazhen Zheng氏らによる自然実験研究で示された。受胎後1,000日間は、栄養が生涯にわたる心代謝リスクを形成する重要な時期であるが、多くの乳幼児は母体の食事、人工乳、離乳食を通じて添加糖類を過剰に摂取している。胎児期~生後早期の砂糖摂取制限の成人期の心血管リスクに対する影響について、エビデンスは限られており間接的なものであった。BMJ誌2025年10月22日号掲載の報告。UK Biobankの約6万3,000人について、砂糖配給制への曝露の有無で解析 研究グループは、UK Biobank(2006~10年に40~70歳の一般住民を募集)の参加者のうち、1951年10月~1956年3月生まれの6万3,433人(心血管疾患・心不全・心房細動の既往、多胎妊娠、養子縁組、英国外出生者を除く)のデータを解析した。1953年の砂糖配給制終了時点における出生日に基づくと、砂糖配給制を受けた(砂糖配給)群は4万63人、受けなかった(非配給)群は2万3,370人であった。さらに砂糖配給群を砂糖配給制への曝露期間に基づいて分類し、主要解析では「子宮内のみ」と「子宮内+1~2年」に分けた。 主要アウトカムは、心血管疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中および心血管疾患死で、リンクされた各種登録、医療記録を用いて特定した。砂糖配給制と主要アウトカムとの関連について、人口統計学的・社会経済的要因、生活習慣、親の健康状態、遺伝的要因および地理的要因を調整したCox回帰モデルおよびパラメトリックハザードモデルを用いてハザード比(HR)を推定した。砂糖配給制への曝露期間が長いほど、成人期の心血管リスクが低下 砂糖配給制への曝露期間が長いほど、成人期の心血管リスクは漸減した。非配給群と比較し子宮内+1~2年曝露群ではHRが、心血管疾患は0.80(95%信頼区間[CI]:0.73~0.90)、心筋梗塞は0.75(95%CI:0.63~0.90)、心不全は0.74(0.59~0.95)、心房細動は0.76(0.66~0.92)、脳卒中は0.69(0.53~0.89)、心血管疾患死は0.73(0.54~0.98)であった。 糖尿病および高血圧の新規発症は、砂糖配給制が心血管疾患に及ぼす影響のそれぞれ23.9%と19.9%を占め、両者を合わせた場合の影響は31.1%を占めると見なされたのに対し、出生体重の影響はわずか2.2%であった。 さらに、砂糖配給制への曝露は、左室1回拍出量係数(0.73mL/m2、95%CI:0.05~1.41)および駆出率(0.84%、95%CI:0.40~1.28)の軽度上昇とも関連していた。

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世界最高齢者の長生きの秘密とは?

 マリア・ブラニャス・モレラ(Maria Branyas Morera)さんは、2024年8月19日に117歳で亡くなった当時、世界最高齢者であった。彼女は一つの情熱的な願いを抱いてこの世を去った。バルセロナ大学(スペイン)医学部遺伝学科長のManel Esteller氏は、「ブラニャスさんはわれわれに、『私を研究してください。そうすれば他の人を助けることができます』と言った。彼女のその希望は現実となった」と話す。Esteller氏らがブラニャスさんについて包括的な分析を行った結果、ブラニャスさんには、健康的なライフスタイル、微生物叢内の有益なバクテリア、長寿に関連する遺伝子など多くの利点があったことが判明した。この研究の詳細は、「Cell Reports Medicine」に9月24日掲載された。 Esteller氏は、「健康的な老化は、何か一つの大きな特徴が関与するのではなく、むしろ、多くの小さな要因が相乗的に作用する、非常に個人差のあるプロセスであることが分かった。不健康な老化ではなく、健康的な老化につながる特徴をこれほど明確に示すことができたことは、将来、老若男女を問わず全ての人にとって有益になると思われる」と述べている。 ブラニャスさんは、1907年3月4日に米サンフランシスコで生まれ、8歳のときにスペインに移住した。彼女は2つの世界大戦、スペイン内戦、そして、スペイン風邪と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2つのパンデミックを生き延びた。事実、ブラニャスさんは113歳のときにCOVID-19に罹患したが、完全回復した。 研究グループは、ブラニャスさんの健康と長寿は、彼女のライフスタイルによるところが大きいと話す。彼女は地中海式ダイエットを実践し、脂肪や加工糖を過剰に摂取しないよう気を付けていたし、タバコやアルコールも一切摂取しなかった。高齢で歩行が困難になるまでは、定期的にウォーキングも行っていた。 血液サンプルの解析からは、極端に短いテロメアや炎症傾向の強い免疫系、高齢化したBリンパ球の集団など、明確な老化の兆候が見られた。一方で、ゲノム解析の結果、ブラニャスさんには他のヨーロッパ人には見られないまれな遺伝子変異が存在することが明らかになった。これらの変異は、免疫機能、認知機能、心機能、神経保護、脂質代謝などの経路に関与しており、これがブラニャスさんの高コレステロール、心臓病、がん、認知症などのリスクを低下させた可能性がある。 また、ブラニャスさんの腸内細菌叢には、抗炎症作用を持つ有益なビフィズス菌が豊富に含まれていたことも判明した。炎症は老化を促進する要因の一つである。研究グループによると、ブラニャスさんは、食生活の一環としてヨーグルトを多く摂取していたという。さらに、エピジェネティック解析によって測定されたブラニャスさんの生物学的年齢は実年齢よりも大幅に若いことも明らかになった。 Esteller氏は、「われわれの研究結果は、多くの高齢者がより長く、より健康的な生活を送る上で有益となり得る要因を特定するのに役立つ。例えば、健康長寿に関連する特定の遺伝子が判明したことから、これらが医薬品開発の新たなターゲットとなる可能性がある」と述べている。 ただし、本研究には関与していない米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のImmaculata De Vivo氏は、「1人の人間の人生から確かな結論を導き出すのはほぼ不可能だ。大規模でよく管理された集団研究とは対照的に、個々の症例の結果を解釈する際には、常に注意することが重要だ」と述べ、慎重な解釈を求めている。同氏は、「遺伝子やライフスタイルは健康に役立つかもしれないが、病気の原因は一般的に絶対的なものではなく確率の問題だ」と指摘し、ブラニャスさんと同程度に長生きするには、ある程度の幸運も必要なことをほのめかしている。

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心室頻拍に定位放射線治療が有効か

 標的となる部分に放射線を当てて治療する定位放射線治療(以下、放射線治療)が、危険性の高い不整脈の一種である心室頻拍に対する安全性の高い治療法になり得ることが、新たな研究で示された。米セントルイス・ワシントン大学医学部放射線腫瘍科のShannon Jiang氏らによると、放射線治療の効果は、標準的な治療法だが複雑な手術であるカテーテルアブレーションと同等であったという。また、放射線治療は、カテーテルアブレーションと比べて死亡や重篤な副作用が少ないことも示された。詳細は、「International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics」に9月29日掲載されるとともに、米国放射線腫瘍学会(ASTRO 2025、9月29日~10月1日、米サンフランシスコ)でも発表された。 心室頻拍は、2つの心室から異常に速い心拍が発生する疾患だ。米国心臓協会(AHA)によると、発作時には心拍数が急上昇し、めまい、息切れ、失神、胸痛などが起こり、重症の場合には心停止を引き起こすこともある。Jiang氏らによると、進行した心室頻拍の患者は多くの場合、副作用の強い心臓の薬を大量に使用する。それでも効果が得られない場合には、足の静脈からカテーテルを心臓まで通し、異常な心拍の原因となっている心臓の組織を焼灼するカテーテルアブレーションが標準的な治療法となる。こうした中、近年、新たな治療選択肢として注目されているのが放射線治療だ。Jiang氏らによると、これは放射線を集中照射して異常なリズムを引き起こしている心臓の組織を破壊する治療法で、麻酔も不要であるという。 今回の研究では、リスクが高く、薬物治療による効果も得られない心室頻拍の患者43人の記録を分析した。カテーテルアブレーションを受けたことがない患者は4人のみだった。43人のうち、22人は放射線治療を1回だけ受け、残る21人は再度カテーテルアブレーションを受けた。その結果、どちらの治療も心臓リズムのコントロールに有効であることが示された。心室性ショックやVT(心室頻拍)ストーム(心室頻拍が短期間に繰り返し発生する状態)が起こるまでの期間中央値は、放射線治療で8.2カ月、カテーテルアブレーションで9.7カ月であり、両群間に有意な差はなかった。 しかし、治療から31日以内に死亡した5人のうち4人はカテーテルアブレーションを受けた患者で、1人はカテーテルアブレーションの施行中に死亡した。いずれの死亡も治療に関連する副作用によるものだった。一方、放射線治療を受けた患者では、3年間の追跡期間中に治療関連死の報告はなかった。また、治療後1年以内に副作用が原因で入院が必要になった患者は、カテーテルアブレーション群の38%に対して放射線治療群では9%にとどまっていた。治療後、合併症が起こるまでの期間中央値は、カテーテルアブレーション群6日間、放射線治療群10カ月で、カテーテルアブレーション群の方がより早く合併症が起きていたことも分かった。全生存期間も放射線治療群では長い傾向にあり、中央値は放射線治療群で28カ月、カテーテルアブレーション群で12カ月だった。ただし、症例数が少なかったため、この差は統計的に有意ではなかった。治療から1年後の全生存率は放射線治療群73%、カテーテルアブレーション群58%で、3年後では両群とも45%だった。 こうした結果を受けてJiang氏は、「われわれの研究は、特に治療後早期において放射線治療の方が安全性が高い可能性を示唆している。カテーテルアブレーションでは施術後早期に有害事象の発生がピークに達し、それらが死亡につながっていたが、放射線治療ではそのようなピークは認められなかった。このことが、安全性の差につながったようだ」と言う。 Jiang氏は、「この結果は有望ではあるが、心室頻拍に対する放射線治療の有効性を証明するには研究の規模が不十分である」と説明している。現在、放射線治療の有効性の確定的な証拠を得るための大規模な国際共同臨床試験への患者登録が進められているという。

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ダイエット飲料と加糖飲料はどちらもMASLDリスク

 人工甘味料を用いた低糖・無糖飲料と加糖飲料は、どちらも代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)のリスクを高めることを示唆するデータが、欧州消化器病週間(UEG Week 2025、10月4~7日、ドイツ・ベルリン)で発表された。蘇州大学附属第一医院(中国)のLihe Liu氏らの研究によるもので、人工甘味料を用いた飲料や加糖飲料を水に置き換えることでMASLDリスクが低下する可能性も報告されている。 Liu氏は、「加糖飲料は長い間、厳しい監視の目にさらされてきたが、その代替品として広まった人工甘味料を用いた飲料は、健康的な『ダイエット飲料』と見なされることが多かった。しかしわれわれの研究結果は、それらの飲料を無害であるとする一般的な認識に疑問を投げかけ、肝臓の健康への影響を再考する必要性を強調している」と述べている。 MASLDは肝臓に脂肪が蓄積することで発症し、時間の経過とともに肝障害を引き起こしてくる。研究者によるとMASLDは最も一般的な慢性肝疾患であり、世界中で30%以上の人々が罹患しているという。 Liu氏らの研究では、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクの参加者12万3,788人を解析対象とした。24時間思い出し法による食事調査が複数回行われ、各種飲料の摂取量が把握された。 中央値10.3年の追跡期間中に、1,178人がMASLDを発症し、108人が肝臓関連の疾患で死亡していた。解析の結果、人工甘味料入り飲料を毎日約250mL以上飲んでいると、MASLDのリスクが60%増加することが分かった(ハザード比〔HR〕1.599)。また加糖飲料を同量飲んでいる場合には、50%近くのリスク上昇が認められた(HR1.469)。Liu氏は、「1日1缶程度という少量の低糖または無糖の甘味飲料を摂取している場合でも、MASLDのリスクが高まることが示された」と話している。 一方、人工甘味料入り飲料の代わりに水を飲んだ場合、MASLDのリスクが15.2%低下すると推算された。同様に、加糖飲料の代わりに水を飲んだ場合は、リスクが12.8%低下すると予想された。 Liu氏によると、加糖飲料は血糖値の急上昇を引き起こし、体重を増加させ、尿酸値を上昇させる可能性があり、これらは全て肝臓への過剰な脂肪の蓄積に関連してくるという。一方の人工甘味料入り飲料は、腸内細菌叢を変化させ、甘いものへの欲求を刺激し、またインスリン分泌を刺激する可能性があり、それらを介して肝臓の健康に悪影響を及ぼし得るとのことだ。そして同氏は、「最善の方法は、加糖飲料と人工甘味料入り飲料の双方を制限して水に置き換えることだ」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ついに始まる! 50人未満の職場にストレスチェック義務化【実践!産業医のしごと】

はじめに2025年(令和7年)5月の労働安全衛生法の改正で、ついにストレスチェックの実施義務が50人未満の事業場にも広がることになりました。施行は公布後3年以内とされているため、遅くとも2028年(令和10年)までには小規模事業場でも対応が必要になる見込みです。これから産業医として、どんな準備をすればよいのでしょうか。検討会で議論されたメリットとデメリットを整理しながら、実務のポイントを見ていきましょう。制度拡大で期待できること産業医が選任されていない事業場では、原則として外部委託を推奨する方針が示されていますが、外部機関の活用が広がってきたことで、小規模事業場でもプライバシーを守りながらストレスチェックを実施できる環境が整いつつあります。検討会でも「外部機関の活用により、対応可能な環境は一定程度整備されてきている」と評価されました。さらに、厚生労働省は「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」作成のためのワーキンググループを設置し、外部委託先を選ぶ際のチェックリストや、少人数職場での匿名性確保の方法など、現場で使える具体的なノウハウの標準化を進めています。もう1つ心強いのが、地域産業保健センターや産業保健総合支援センターの支援体制が強化されることです。労働者50人未満の事業場は、高ストレス者への面接指導を地域産業保健センターで無料利用できます。施行に向けて受け皿がさらに拡充される見込みで、地域による偏在も緩和される方向です。気を付けなければならない課題一方で、小規模ならではの難しさもあります。少人数の職場では、どうしても個人が特定されやすく、検討会でも「産業医不在の事業場では外部委託が原則」とされました。委託先の選び方が適切かどうか、そして外部に任せても事業者が主体性を失わないようにすることが課題として指摘されています。また、費用の問題も現実的な課題です。外部委託の費用や面接指導の増加に伴うコスト負担について、ワーキンググループでは50人未満の事業場の状況を踏まえ、「円滑な施行に向けて国において十分な支援策を講じる必要」があるとされています。また、報告義務の軽減なども検討されています。さらに、小規模事業場では配置転換などの事後措置が難しいという特性があります。「高ストレス」と判定された労働者に対して、大企業のように部署異動や業務変更で対応することが困難なケースが多いため、事業場の実情に応じた配慮の具体例や、トラブル事例の対応方法の整理が求められています。産業医が準備すべき実務のポイント50人未満の事業場には産業医選任義務がありませんが、関連会社や分散事業所を持つ企業では、本部の産業医に支援依頼が来ることも十分に考えられます。まず基本となるのは、実施規程から結果通知、面接指導の申し出、就業上の措置まで、一連の流れをルール化しておくことです。外部委託を利用する場合は、委託先の守秘体制やアクセス管理、再委託の管理体制をしっかり確認しましょう。少人数の集団では集計を10人以上の単位で行うなど、匿名性を保つための基準設定も重要です。厚生労働省の「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」が活用できます。面接指導の受け皿づくりも早めに検討が必要です。産業医が分散事業所に対応するのか、あるいは地域産業保健センターとの連携体制を構築するのか、事前に方針を決めておきましょう。また、受検率や高ストレス率、面接実施率などの指標を共有し、職場環境改善のPDCAサイクルにつなげていくことが、一次予防としての実効性を高めるカギとなります。まとめ今回の法改正は「すべての事業場で一次予防を底上げする」ことを目指し、50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます。施行は公布後3年以内と十分な準備期間が確保されているため、焦る必要はありません。今から計画的に進めていきましょう。参考1)厚生労働省:「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」(2021年2月改訂)

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