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第281回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(後編)

INDEXレムデシビルエンシトレルビル感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、感染者数、入院者数、死亡者数から薬剤に関するNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究を紹介した(参考:第277回、第278回、第279回、第280回)。今回はようやく最終回として前回と同じ6誌とその系列学術誌を中心に掲載されたレムデシビル(商品名:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)に関する比較対照群を設定した研究を紹介する。レムデシビル新型コロナウイルス感染症の治療薬として初めて承認された同薬。当初は重症患者のみが適応だったが、その後の臨床試験結果などを受けて、現在は軽症者も適応となっている。新型コロナ治療薬の中で、日本の新型コロナウイルス感染症診療の手引き1)に定義される軽症、中等症I、中等症II、重症までのすべてをカバーするのはこの薬だけである。この薬に関して前述6誌の中で2023年5月以降に掲載された研究は、2024年6月のLancet Infectious Diseases誌に掲載された香港大学のグループによる研究2)である。この研究は評価したい因果効果をみるのに理想的な無作為化比較試験(target trial)をイメージして、可能な限りそれに近づけるように観察データ分析をデザインしていく手法「target trial emulation study」を採用したもの。利用したのはオミクロン株系統が感染の主流となっていた2022年3~12月の香港・HA Statistics保有の電子健康記録。この中からレムデシビル単独療法群(4,232例)、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群(1万3,656例)、併用療法群(308例)の3群を抽出し、主要評価項目を全死因死亡率(90日間追跡、中央値84日)として比較した。レムデシビル単独療法群と比較したハザード比(HR)は、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.18(95%信頼区間[CI]:0.15~0.20)、併用療法群が0.66(95%CI:0.49~0.89)でいずれも有意に死亡率は低下していた。副次評価項目については、ICU入室・人工呼吸器使用の累積発生率でのHRが、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.09(95%CI:0.07~0.11)、併用療法群が0.68(95%CI:0.42~1.12)、人工呼吸器使用率はニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.07(95%CI:0.05~0.10)、併用療法群が0.55(95%CI:0.32~0.94)で、いずれもレムデシビル投与群に比べ有意に低かった。ただし、ICU入室率のみでは、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.09(95%CI:0.07~0.12)と有意に低かったものの、併用療法群では0.63(95%CI:0.28~1.38)で有意差はなかった。この臨床研究は結果として、レムデシビルに対するニルマトレルビル/リトナビルの優越性を示しただけで、オミクロン株系統以降のレムデシビルそのものの有効性評価とは言い難いのは明らかである。だが、対象6誌とその系列学術誌では、オミクロン株優勢期のレムデシビルの有効性を純粋に追求した研究は見当たらなかった。対象学術誌の範囲を広げて見つかるのが、2024年のClinical Infectious Diseases誌に製造販売元であるギリアド・サイエンシズの研究者が発表した研究3)だ。これはオミクロン株系統優勢期である2021年12月~2024年2月の米国・PINC AI Healthcare Databaseから抽出した後向きコホートで、新型コロナで入院し、生存退院した18歳以上の患者を対象にしている。レムデシビル投与群が10万9,551例、レムデシビル非投与群が10万1,035例と対象症例規模は大きく、主要評価項目は30日以内の新型コロナ関連再入院率。結果はオッズ比が0.78(95%CI:0.75~0.80、p<0.0001)で、レムデシビル群の再入院率は有意に低下していた。再入院率の有意な低下は、入院中の酸素投与レベルに関係なく認められ、65歳以上の高齢者集団、免疫不全患者集団でのサブグループ解析でも同様の結果だった。もっとも前述したように、製造販売元による研究であることに加え、対象者のワクチン接種歴や過去の感染歴が不明という点でイマイチ感が残る。一方、オミクロン株系統優勢期での後遺症に対するレムデシビルの有効性を評価した研究は対象6誌では見当たらない。オミクロン株系統優勢期という縛りを外すと、世界保健機関(WHO)が主導した無作為化比較試験「SOLIDARITY試験」の追跡研究として、Nature誌の姉妹誌Communications Medicine誌に2024年11月に掲載されたノルウェー・オスロ大学による研究4)がある。無作為化後、3ヵ月時点での呼吸器症状を中心とする後遺症を調査したものだが、対症療法単独群(一部ヒドロキシクロロキン投与例を含む53例)と対症療法+レムデシビル投与群(27例)との比較では有意差は認められなかった。エンシトレルビル言わずと知れた新型コロナウイルスに対する国産の抗ウイルス薬である。その承認時には主要評価項目の変更などで物議を醸した。該当6誌で研究を探して見つかったのは、JAMA Network Open誌に掲載された同薬の第II/III相臨床試験Phase3 part(SCORPIO-SR試験)の結果、まさに日本での緊急承認時に使用されたデータ5)のみである。改めてその内容を記述すると、発症から72時間未満にいずれも5日間投与されたエンシトレルビル1日125mg群(347例)、1日250mg群(340例)、プラセボ群(343例)の3群でオミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、疲労感)が消失するまでの時間を主要評価項目としている。この結果、エンシトレルビル群はプラセボ群と比較して5症状消失までの時間を有意に短縮(p=0.04)。症状消失までの時間の中央値は、125mg群で167.9時間(95%CI:145.0~197.6時間)、プラセボ群で192.2時間(95%CI:174.5~238.3時間)だった。また、副次評価項目では、ウイルスRNA量の変化が125mg投与群では投与4日目でプラセボ群と比較して有意に減少(p<0.0001)、感染性を有する新型コロナウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間がプラセボ群と比較して有意に短縮した(p<0.001)。ウイルス力価陰性化までの時間の中央値は、125mg群が36.2時間、プラセボ群が65.3時間だった。なお、エンシトレルビルに関しては米国での上市を念頭に置き、北米、南米、欧州、アフリカ、日本を含むアジアで軽症・中等症の非入院成人(ほとんどがワクチン接種済み)の新型コロナ感染者を対象にした第III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SCORPIO-HR試験」(患者登録期間:2022年8月~2023年12月)も行われ、2025年7月にClinical Infectious Diseases誌に論文6)が掲載された。主要評価項目は新型コロナの15症状が持続的(2日以上)に消失するまでの平均時間だったが、エンシトレルビル群(1,018例)とプラセボ群(1,029例)との間で有意差は認められなかった。この主要評価項目はエンシトレルビルの承認申請を前提に米国食品医薬品局(FDA)との合意で決定されたものだったため、この結果を受けてエンシトレルビルの承認申請は行われていない。一方で塩野義製薬側は、ターゲットを曝露後予防にしたプラセボ対照二重盲検第III相試験「SCORPIO-PEP試験」を2023年から開始。同社の発表によると、試験は米国、南米、アフリカ、日本を含むアジアで実施し、新型コロナウイルス検査で陰性が確認された新型コロナ感染者の12歳以上の同居家族または共同生活者2,387例が登録された。同試験の結果は論文化されておらず、あくまで塩野義製薬の発表になるが、主要評価項目である「投与後10日までの新型コロナ発症者の割合」はエンシトレルビル群が2.9%、プラセボ群が9.0%であり、エンシトレルビル群は統計学的に有意に相対リスクを低下させたという(リスク比:0.33、95%CI:0.22~0.49、p<0.0001)。今後、塩野義製薬は各国で曝露後予防への適応拡大を目指す考えである。 参考 1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第10.1版)(厚生労働省 2024年4月23日発行) 2) Choi MH, et al. Lancet Infect Dis. 2024;11:1213-1224. 3) Mozaffari E, et al. Clin Infect Dis. 2024;79:S167-S177. 4) Hovdun Patrick-Brown TDJ, et al. Commun Med (Lond). 2024;4:231. 5) Yotsuyanagi H, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2354991. 6) Luetkemeyer AF, et al. Clin Infect Dis. 2025;80:1235-1244.

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9月26日 大腸を考える日【今日は何の日?】

【9月26日 大腸を考える日】〔由来〕9の数字が大腸の形と似ていることと、「腸内フロ(26)ーラ」と読む語呂合わせから、健康の鍵である大腸の役割や生息する腸内細菌叢のバランスを健全に保つための方法を広く知ってもらうことを目的に森永乳業が制定。関連コンテンツ中等症~重症の活動性クローン病、グセルクマブ導入・維持療法が有効/Lancetコーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?PPI・NSAIDs・スタチン、顕微鏡的大腸炎を誘発するか?日本人大腸がんの半数に腸内細菌が関与か、50歳未満で顕著/国立がん研究センターほか大腸がん死亡率への効果、1回の大腸内視鏡検査vs.2年ごとの便潜血検査/Lancet

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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日本人アルコール関連肝疾患に対するナルメフェンの影響

 完全な禁酒は、アルコール関連肝疾患(ALD)マネジメントにおいて重要である。しかし、多くの患者が禁酒の達成または維持に難渋しており、ハームリダクション戦略、とくにアルコール摂取量を減らすための薬理学的介入への関心が高まっている。オピオイド受容体モジュレーターであるナルメフェンは、アルコール依存症患者の飲酒量減少に対する有効性を示している薬剤であるが、ALDにおける肝パラメーターへの影響については、実臨床において、これまで十分に検討されていなかった。奈良県立医科大学の花谷 純一氏らは、ALD患者に対するナルメフェンの有効性および安全性、飲酒量、肝機能、肝予備能の変化に焦点を当て、評価を行った。Hepatology Research誌オンライン版2025年8月16日号の報告。 2019年9月〜2023年12月に奈良県立医科大学でナルメフェン治療を行ったALD患者21例を対象に、レトロスペクティブ観察研究を実施した。アルコール摂取量、肝機能検査、肝予備能、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)スコアに関するデータは、ベースライン時および治療開始6ヵ月後に収集した。有害事象も記録した。 主な結果は以下のとおり。・ナルメフェン投与開始後1ヵ月以内に、重度の飲酒日数および総アルコール摂取量の有意な減少が認められた。・これらの減少は、肝機能パラメーターの改善を伴っていた。・しかし、肝予備能には統計的に有意な変化は認められなかった。・有害事象のほとんどは軽度から中等度(Grade1または2)であり、重篤な有害事象は認められなかった。 著者らは「ナルメフェンは、ALD患者のアルコール摂取量を減少させ、肝機能を改善するための安全かつ効果的な薬理学的選択肢であると考えられる」とし、「これらの調査結果は、完全な禁酒を達成できない人に対する危害軽減アプローチの一部として、ナルメフェンの使用を支持するものである」と結論付けている。

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僧帽弁クリップ術やアブレーションによる心房中隔欠損が問題に、その対策とは/日本心臓病学会

 第73回日本心臓病学会学術集会が9月19~21日に高知にて開催された。シンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」において、赤木 禎治氏(心臓病センター榊原病院 循環器内科)が、「医原性心房中隔欠損の現状と治療」と題し、心血管インターベンション治療の普及に伴い増加傾向にある心房中隔裂開の対策や課題などについて報告した。医原性心房中隔欠損、臨床上で問題となる要因とは 経カテーテル僧帽弁形成、左心耳閉鎖やアブレーションなどの心血管インターベンション治療中に心房中隔を損傷し、中隔が裂けて発生する心房中隔欠損(ASD)を医原性心房中隔欠損(iASD)と呼ぶ。カテーテル操作に起因する中隔裂開として発生するが、術者の技量に関係なく一定の頻度で発生し、一部の患者では急激な血行動態の破綻を招くという。 このiASDが生じる要因として、「右房圧の亢進した状況(肺高血圧症、右心機能不全)」「重度三尖弁逆流(TR)の存在」「欠損孔と下大静脈(IVC)の流入血流との位置関係」などが挙げられ、これらの発生直後に低酸素血症や循環動態の破綻、遠隔期に病態悪化を来すことで、奇異性脳塞栓リスクが高まる。赤木氏は「急激な血行動態の悪化で、右→左シャントでチアノーゼが起こったり、左→右シャントで全身の血圧が急激に下がったりすることで、危機的な状況を招く」と説明した。発生数が増加する背景 近年、iASDの発生件数が増加している背景には、大きなカテーテルを用いる経心房中隔手術、とくにMitraClipデバイスの導入が大きく関わっているという。もともと重症TRがある場合、iASDの穴が小さくてもそこからTRの血流が左心房に吹き込み、急激に酸素飽和度が低下することがある。MitraClipを行う症例ではTRを合併していることも多いため、これが大きな懸念事項となり得る。また、同氏は2022年に岡山大学の髙谷 陽一氏がまとめた国内の経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClipによるMTEER、以下MTEER)後のiASDに関するデータ1)を示し、「約3,000例を実施した時点で29例、約1%のiASDが当時報告された。この手技の最大の問題点はMTEERにより僧帽弁が修復できる施設であっても、心房中隔閉鎖手技の認定を受けていない施設の場合、発生したiASDを閉じることができないことであった。MTEER実施施設で中隔が裂けた場合に、誰がどう対応するのかという問題も生じている。報告された29例中1例において、MTEERは成功したもののiASDの閉鎖ができず、最終的に心不全で死亡した。この報告は日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)でも非常に大きな問題として取り上げられた」と指摘した。現在、MTEERの実施施設は200件近くにのぼるが、ASDの治療ができる施設は半数程度に限られている。 iASDの大きさについては、「大体10mm前後でiASDと判断しているが、実際には3mmや4mmといった報告もあり、本当にいつどこで起こるかわからない」とし、発生のタイミングについても「国内状況を調べると、MTEER直後の急激な酸素飽和度の低下のほか、遠隔期に酸素飽和度の低下が見られ、閉鎖が必要になる症例があることが明らかになってきている」とも強調した。榊原病院の森川 喬生氏がまとめた海外データ2)によると、MTEERの5%程度に右→左シャントを伴う症例が発生しており、同氏は「国内でも同程度の可能性はある」と話した。 さらにiASDはアブレーションでも報告が挙げられており、約630例に行ったアブレーション施行6ヵ月後の経胸壁心エコーで、iASDが4%に遺残していた3)。現時点で奇異性塞栓症リスクまでを考慮した治療ガイドラインは確立されていないが、アブレーションによるiASDで塞栓リスクがあるか否かについては検討課題であるという。現時点でできる対応方法や今後の取組 このような問題を解決するために、アボットのAmplatzer Septal Occluderの医原性心房中隔欠損(iASD)閉塞術に対する適応拡大がPMDAにより承認され、CVITは2025年7月23日付で適正使用指針をホームページに公開している。そして、同学会はASD閉鎖術が行われていなかった施設でもiASDを閉鎖できるようなプログラムを用意し、学会ホームページへ「iASD閉鎖術に関する施設・術者申請に関するお知らせ」を掲載している(9月3日更新)。同氏は「このプログラムでは、既にASDもしくは卵円孔開存(PFO)の閉鎖ができる医師を最初にトレーニングし、その後、CVIT認定医もしくは専門医でこの教育プログラムを受けた医師がiASDを閉鎖できるよう進めている」と説明し、あわせてiASDのレジストリ登録についての協力も呼びかけた。

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従来2台必要な眼科手術機器を1台で/日本アルコン

 日本アルコンは、白内障および網膜硝子体手術を1台でこなす“UNITY VCS”の発売に際し、都内でメディアセミナーを開催した。白内障は加齢により起こる水晶体が混濁する疾患だが、高齢化社会のわが国では患者数、手術数ともに増加している。今回発売される本機は、従来は別々のプラットフォームに搭載した手術装置で行われていた白内障および網膜硝子体手術が1台のプラットフォームに集約され、処置室の省スペース化を実現する。 セミナーでは、白内障などの疾患概要と手術の講演のほか、本機の機能紹介などが行われた。本機は秋以降に発売が開始される。白内障などの眼科手術を効率よく、さらに安全に 「白内障および網膜硝子体手術について」をテーマに、井上 真氏(杏林大学医学部眼科学教室 教授)が、白内障および網膜硝子体疾患の概要、手術の手順や効率化などのポイントを講演した。 白内障は水晶体(カメラのレンズに相当)が混濁することで起こる疾患で、主に加齢が原因となり発症する。また、「網膜」はフィルムに相当し、網膜の中心部分が「黄斑」であり、眼球内の大半は「硝子体」と呼ばれる透明なゼリー状の組織になっている。この硝子体に関連する疾患としては、網膜の中心である黄斑の網膜表面に薄い膜が形成される「黄斑上膜(前膜)」、黄斑に小さな孔ができ視力が低下する「黄斑円孔」、糖尿病により高血糖状態が持続することで血管損傷が起き、網膜に新生血管ができるために起こる「糖尿病網膜症」、網膜に孔(網膜裂孔・網膜円孔)が開き、硝子体液がその孔を通り網膜の下に入り込むことで起こる「裂孔原性網膜剥離」があり、失明の原因になったり、緊急手術の適用となったりする重篤な疾患である。 白内障手術は、2018年には約146万件だったものが、2022年には約167万件と増加した。その要因としては、65歳以上の人口の増加、手術の安全性の向上、眼内レンズの普及があるとされる。一方、網膜硝子体手術は、2018年に約14万件だったものが、2022年には約15万件と微増しているが、この要因も白内障手術と同様の要因であり、今後も増加すると予想されている。 白内障の手術では、超音波で濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを嚢内に固定して行う。手術は低侵襲の手術であり、切開も小さく、手術惹起乱視も少ない。 網膜硝子体手術では、毛様体扁平部から器具を挿入し、強膜にシリコン材を逢着して眼球を陥凹させて行う(強膜バックリング手術)。 そして、これらの手術の効率化や術後の結果に関わるポイントについて以下の2点に触れた。(1)手術の効率・手術機器のテクノロジーの進化について、安全かつ高効率な手術が可能となり、1症例当たりの手術時間が短縮できる。・手術手技の進化では、白内障では「小切開化」、硝子体手術では「スモールゲージ化」が勧められている。(2)術後結果に関わるポイント・良好な自己閉鎖・術後感染症、合併症の低減・視力回復の早期化 最後に井上氏は、「今後もわが国では高齢化が進み手術件数が増えるが、テクノロジーの進歩により、とくに手術効率化ばかりでなく、安全性を高めることが必要とされる時代になった」と語り、講演を終えた。新しい技術も加味された“UNITY VCS” 今回発売される“UNITY VCS”は、手術機器市場初の革新的技術により、白内障手術と網膜硝子体手術を進化させた、“UNITYR Intelligent Fluidics”システムの採用により、リアルタイムでセンシング機能を備えた独自の吸引圧と流量コントロールを実現し、手術の安定性と効率性を各ワークフローで向上させる。 網膜硝子体手術用の医療機器における主要な新技術は下記のとおり。・27ゲージポートフォリオ 独自の消耗品は、ダイナミック・スティフナー技術を採用し、従来の27Ga(ゲージ)器具の限界を超え、より小さなゲージでありながら25Ga+と同等、またはそれ以上の剛性を提供する。・UNITYR TetraSpot 複数同時スポット照射が可能なマルチスポットレーザーテクノロジーで、レーザー照射時間を最大3分の1に短縮。術中に3つの異なるスポットモード(1つか2つ、または4つのレーザースポットを同時に照射)が提供されるため、柔軟なスポット配置が可能。・UNITYR Illumination 眼のブルーライト曝露を軽減し、カスタマイズとプログラムが可能な光源により、優れた組織の視認性を提供する。LEDの一貫性と信頼性により最大1万時間の照明寿命を実現する。 UNITYR VCSは、“UNITYR Intelligent Fluidics”システムにより、さらに生体に近い環境下で白内障手術を安定的かつ効率的に行えるよう設計。この新技術は、術中の眼内圧(IOP)を安定的に維持することで、患者の快適性をサポートしながら、水晶体除去時の平均吸引圧をより高く保つことが可能となる。 その他の手術性能の向上点は下記のとおりである。・“UNITYR Intelligent Sentry” 前房の安定性を維持しながら、“CENTURIONR ACTIVE SENTRYR”を上回る性能を実現し、オクルージョンブレークのサージ量を平均して44%低減する。・“UNITYR Thermal Sentry” 超音波出力を調整するために、切開創の温度を独自のアルゴリズムによりリアルタイムで推定する熱センサーを搭載した、業界初の白内障超音波乳化吸引用ハンドピース。・“UNITYR 4D Phaco” 画期的な超音波振動により、従来の技術である「OZILトーショナルフェイコ」と比較し、最大2倍の速さで核処理を実現し、眼内でのエネルギー量を41%低減し、累積拡散エネルギー(CDE)も48%低減する。 同社では、本機の発売について、「日本は最初に本機が発売される国の1つである。高齢化で患者数も多くなる一方で、医師数の不足で短時間の手術が望まれる。統合プラットフォームを実現したことで、省スペースで置きやすい本機を眼科の医師に活用してもらいたい」と期待を寄せている。

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低用量アスピリンでPI3K変異大腸がんの再発半減/NEJM

 PIK3CA exon 9または20のホットスポット変異を有する根治的切除後の大腸がん患者において、低用量アスピリンはプラセボと比較し大腸がん再発率を有意に低下させることが認められ、PI3K経路の遺伝子に他の体細胞変異を有する患者においても、同様の有用性が示された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnna Martling氏らが、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドの33施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Adjuvant Low-Dose Aspirin in Colorectal Cancer trial(ALASCCA試験)」の結果を報告した。アスピリンは、遺伝性大腸がんの高リスク患者において、大腸腺腫および大腸がんの発生率を低下させることが知られている。観察研究では、とくにPIK3CA体細胞変異を有する患者において、アスピリンが診断後の無病生存期間(DFS)を改善する可能性が示唆されていたが、無作為化試験のデータはなかった。NEJM誌2025年9月18日号掲載の報告。PIK3CA exon 9または20の変異を有する患者集団でアスピリンの有効性を検証 ALASCCA試験の対象は、18~80歳で、原発腫瘍の根治的切除を受けたPI3K経路の遺伝子に体細胞変異を有するpTNM分類で、Stage I~IIIの直腸がんまたはStage II~IIIの結腸がん患者であった。 体細胞変異は、PIK3CA exon 9または20のホットスポット変異(グループA)、またはPIK3CA(exon 9および20以外)、PIK3R1、PTENにおける中等度または高度の機能的影響のある体細胞変異(グループB)の、いずれかまたは両方がある場合に組み入れ可とした(両方ある場合はグループAに組み入れ)。 研究グループは、適格患者を腫瘍部位(結腸、直腸)、pTNM病期(I、II、III)、体細胞変異(グループA、グループB)で層別し、アスピリン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回160mgを3年間投与した。 主要評価項目は、グループAにおける大腸がん初回再発(局所再発、遠隔転移または大腸がんによる死亡)までの期間(time-to-event解析で評価)、副次評価項目は、グループBにおける大腸がん再発、DFSおよび安全性とした。3年累積再発率はアスピリン群7.7%、プラセボ群14.1% 2016年4月6日~2021年7月19日に、6,397例が適格性の評価を受けた。このうち3,783例が適格かつ同意が得られた。分子スクリーニングを実施し、完全なゲノムデータが得られたのは2,980例であった。 PI3K経路の遺伝子に体細胞変異を有していたのは1,103例(37.0%、グループAが515例、グループBが588例)で、このうちグループAの314例、グループBの312例が無作為化された。 グループAにおける推定3年累積再発率は、アスピリン群7.7%、プラセボ群14.1%(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.24~0.98、p=0.04)であった。グループBでは、それぞれ7.7%、16.8%(0.42、0.21~0.83)であった。 推定3年DFS率は、グループAではアスピリン群88.5%、プラセボ群81.4%(HR:0.61、95%CI:0.34~1.08)、グループBではそれぞれ89.1%、78.7%(0.51、0.29~0.88)であった。 重度有害事象は、アスピリン群で52例(16.8%)、プラセボ群で36例(11.6%)に発現した。

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アブレーション後のAF患者、抗凝固療法中止の影響は?/JAMA

 心房細動(AF)のカテーテルアブレーション後1年以上心房性不整脈の再発が確認されていない患者では、経口抗凝固療法を中止したほうが継続した場合と比較し、脳卒中、全身性塞栓症および大出血の複合アウトカムのリスク低下に結び付いたことが示された。韓国・Yonsei University College of MedicineのDaehoon Kim氏らALONE-AF Investigatorsが、同国の18施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検比較試験「Anticoagulation One year after Ablation of Atrial Fibrillation in Patients with Atrial Fibrillation:ALONE-AF試験」の結果を報告した。AFに対するカテーテルアブレーション後の患者における、長期抗凝固療法に関する無作為化比較試験のデータは不足していた。JAMA誌オンライン版2025年8月31日号掲載の報告。カテーテルアブレーション後1年以上心房性不整脈が再発していない患者が対象 ALONE-AF試験の対象は、AFに対するカテーテルアブレーションを受けた19~80歳の患者で、登録は血栓塞栓症リスクが中等度以上(CHA2DS2-VAScスコアが男性1点以上、女性2点以上)かつアブレーション後少なくとも1年間心房性不整脈の再発が認められなかった患者に限定された。アブレーションから無作為化までの期間に上限は設けられなかった。 適格患者は、経口抗凝固療法中止群または継続群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。中止群では経口抗凝固療法を中止し、継続群では直接経口抗凝固薬(アピキサバンまたはリバーロキサバン)による治療を継続した。 主要アウトカムは、2年時における脳卒中、全身性塞栓症、大出血(国際血栓止血学会[ISTH]の定義による)の複合アウトカムの初回発生。副次アウトカムは、主要複合アウトカムの各アウトカム、臨床的に重要な非大出血、全死因死亡、一過性脳虚血発作などであった。継続より中止のほうが、脳卒中・全身性塞栓症・大出血のリスク低下 2020年7月28日~2023年3月9日に、840例が無作為化された。患者背景は、平均(±SD)年齢64±8歳、女性209例(24.9%)、平均CHA2DS2-VAScスコア2.1±1.0、発作性AF患者568例(67.6%)であった。最終フォローアップは2025年6月4日。 2年時点で主要複合アウトカムは、中止群で417例中1例(0.3%)、継続群で423例中8例(2.2%)に発生した(絶対群間差:-1.9%ポイント、95%信頼区間[CI]:-3.5~-0.3、log-rank検定のp=0.02)。 虚血性脳卒中または全身性塞栓症の2年累積発生率は、中止群で0.3%、継続群で0.8%であった(絶対群間差:-0.5%ポイント、95%CI:-1.6~0.6)。また、大出血は、中止群で発生しなかったのに対し、継続群では5例(1.4%)に発生した(-1.4%ポイント、-2.6~-0.2)。

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進行がん患者の望む治療と実際の治療との間のずれが明らかに

 進行がん患者の中には、残された日々をできるだけ快適に過ごしたいと望む人は少なくない。しかし、医師はその願いに十分に耳を傾けていないことが、新たな研究で示唆された。そのような望みを持つ進行がん患者の多くが、痛みを和らげることよりも延命を重視した治療を受けていることが明らかになったという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の腫瘍内科医であるManan Shah氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer」に8月25日掲載された。Shah氏は、「患者が望む治療と患者が実際に受けていると思っている治療との間にずれがあるのは大きな問題だ」とUCLAのニュースリリースの中で述べている。 がん治療は一般的に、延命と生活の質(QOL)向上の両方を目指して行われるが、これらの目標は時に対立することがあるとShah氏らは説明している。同氏は、「進行がんの治療では、患者ができるだけ長く、できるだけ良好な状態で生きられるようにすることが治療目標になる。しかし、延命と快適に過ごせる状態の維持という目標が互いに対立し始めると、患者と腫瘍内科医は難しい選択を迫られることがある」と言う。 患者が自分の治療についてどのように感じているかを調べるため、Shah氏らは重篤な疾患があり、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を必要とする1,099人の患者を対象に調査を実施した。このうち21%(231人)は進行がん患者、残りはその他の重篤な疾患を抱える患者だった。 「快適さを重視した治療」を希望していた割合は、進行がん患者で49%、その他の重篤な疾患の患者では48%、また、24カ月間の死亡率は、それぞれ16%と13%であり、いずれも両群間に有意な差はなかった。しかし、「快適さを重視した治療」を希望していたにもかかわらず延命治療を受けた患者の割合は、がん患者で37%、その他の疾患の患者では19%であり、がん患者で有意に多かった。快適さを重視した治療を希望したがん患者のうち、希望に反して延命治療を受けた患者と希望通りの治療を受けた患者の24カ月間の死亡率はそれぞれ24%と15%であり、両者の差は統計学的に有意ではなかった。 Shah氏らは、「快適さを優先することを望んでいる進行がん患者のかなりの割合が、そのような希望に反する治療を受けていると報告していたことが明らかになった」と述べている。さらにShah氏は、「医師は、治療の目標について患者と率直に話し合う機会を持つ必要がある。そうした話し合いを通じて、提供している治療の目的をわかりやすく説明し、患者の希望と治療内容の間に存在する不一致、あるいは認識の上での不一致の解消に努めることが必要だ」と指摘している。 こうした問題の要因は、患者と率直に話し合わず、曖昧な態度をとる医師の側にあるのではないかとShah氏らは指摘している。同氏らは、「4,074人の腫瘍内科医を対象とした調査では、見た目は健康そうで症状もない、あるいは全ての治療選択肢をまだ試していない進行がん患者と治療目標について話し合いを始めることに抵抗があると回答した医師がほとんどであることが示されていた。しかし、大多数の患者は、医師に治療目標についての話し合いを切り出してほしいと感じていることが複数の研究で示されている。そのため、腫瘍内科医が治療目標の話し合いに消極的であることは気がかりである」と記している。 その上で、Shah氏らは、「結局のところ、本研究結果は、進行がんでは患者との間で治療の目標や意図についてよりタイムリーで効果的なコミュニケーションが必要であることを示している」と結論付けている。

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帯状疱疹ワクチンは心血管イベントリスクを低下させる?

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う皮膚感染症を予防するだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクも低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。帯状疱疹ワクチンのシングリックスを製造販売するグラクソ・スミスクライン(GSK)社のワクチン担当グローバル・メディカル・アフェアーズ・アソシエイト・メディカル・ディレクターのCharles Williams氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされる。水痘に罹患すると、治癒後もウイルスが神経系に潜伏し続け、加齢に伴い免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して帯状疱疹を引き起こすことがある。研究グループによると、水痘罹患経験者の約3人に1人は、ワクチンを接種しなければ帯状疱疹を発症する可能性があるという。米疾病対策センター(CDC)は、50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンの接種を推奨しているほか、免疫不全状態にある19歳以上の人にも接種を推奨している。さらに研究グループによると、帯状疱疹の発症は心筋梗塞リスクを高める可能性や、ウイルスが頭部の大小の血管に侵入して脳卒中リスクを高める可能性も示唆されているという。 今回の研究でWilliams氏らは、帯状疱疹ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、生弱毒化帯状疱疹ワクチン)の心血管イベントに対する効果を検討した研究を検索し、基準を満たした9件(観察研究8件、ランダム化比較試験1件)のデータを統合してメタアナリシスを実施した。9件の研究の参加者は男性が53.3%を占め、平均年齢は53.6~74歳だった。 その結果、帯状疱疹ワクチンを接種した群では未接種の群に比べて、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントの発生リスクが有意に低下することが明らかになった。リスク低下の大きさは、18歳以上の人では18%、50歳以上の人では16%であった。 これらの結果からWilliams氏は、「現時点で入手可能なエビデンスを検討した結果、帯状疱疹ワクチンの接種は心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスク低下と関連していることが分かった」と述べている。ただし研究グループは、対象とした9件の研究のうち8件は観察研究であるため、本研究によりワクチン接種と心血管イベントの発生リスク低下との間に因果関係があることを証明することはできないと指摘している。 さらにWilliams氏は、「メタアナリシスに用いられた研究は全て、一般集団における帯状疱疹予防の手段としてのワクチンの効果を調べることを目的としたものである。それゆえ、今回の結果を、心血管イベントリスクが高い集団に一般化するには限界がある可能性がある。これは、帯状疱疹ワクチンの接種と心血管イベントとの関連を検討するためのさらなる研究が必要であることを意味する」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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多様化する社会における精神医療(解説:岡村毅氏)

 移民に対する風当たりが強い。事実としては、移民は増え続けている。交通機関が発達し、情報量が増えているのだから、当然だろう。 米国では外国生まれの人が占める割合が9.2%(1990年)から15.2%(2024年)に増えている。英国は6.4%から17.1%に、スペインは2.1%から18.5%に、サウジアラビアでは労働者はほぼ外国生まれなので42.1%から40.3%と高止まりしている。一方で日本は0.9%から2.8%、中国は0%から0.1%、韓国は0%から3.5%である。 世界的には、アフリカや南米から欧州や北米に大きな流れがあるようだ。一方で東アジアは、端っこにあるためか、文化的・制度的障壁が高いためか、いいとか悪いとかは別にして移民はきわめて少ない。たとえば移民ではなく金づる(?)であるはずの「観光客」が増えたことで、これほどネガティブな話題になる日本はおそらく移民障壁は高いのだろう。 本稿は移民が良いとか悪いとか主張するものではない。 この論文は米国で中程度から重度のうつ病や不安症の人を対象にして、(1)対象者と同じ言語を話し、地域で生活している人が、訓練を受けたうえで文化的に適切に支援する、(2)通常の公式パンフレットを渡す、に分けたところ、前者のほうがアウトカムは良かったというものである。精神症状は文化や言語の影響を大いに受けるので、患者の多様な背景に配慮した支援が効果的なことは明らかであろう。このようなアプローチは、効果が高いのであるから、事実として多様化する欧州や北米では有望なアプローチだろう。 では日本ではどうだろうか? 精神科の外来でも、とてもゆっくりと海外にルーツがある人が増えている。医療資源がますます逼迫する中で、文化や言語のために治療がうまくいかずに治療者・患者双方が疲弊するくらいなら、このような多様性アプローチを取ったほうが得な気もするし、いやいやまだ3%くらいなのだからむしろ非効率だろうという意見もあるかもしれない。ただし、今後移民率が上昇するのであれば備えておくのも合理的だ。 最後に私の個人的な経験だが、外国の人の診察は大変でしょうと言われるので付記する。実は海外にルーツを持つ人の診療であまり困ったことはない。というのは、海外では日本のように医療が公平でなく、病院に行けない人のほうが多い。そもそも、海外では患者をお客さまとして扱ってくれないことがほとんどだ。なので、初めから感謝していることが多い。むしろ、なぜ治らないのだとか、言うことを聞け、といった無理なことを言ってくるのは、バブル期の万能感を経験している日本人が多いような気がする。あくまで個人的な体験なので一般化には慎重を要するが、同じ文化を持つものとしては「自分もそうなっているかも」と自己反省を込めて指摘したい。 移民は2025年の日本においては政治的話題であり、本稿は慎重に記載した。筆者の立場は賛成でも反対でもなく、事実を提示して、今後の医療提供体制について考えるきっかけになればよいというものである。本稿の内容には所属組織は一切関係なく、個人的なものだ。 本稿のデータは国連のものである1)。

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進化するAI【Dr. 中島の 新・徒然草】(599)

五百九十九の段 進化するAI関西万博の閉幕まであと3週間を切りました。私はついぞ1度も万博に行かずです。1970年の時の大阪万博は2~3回行った記憶があるのに。大阪医療センターから会場へは地下鉄中央線1本で行けるので、仕事帰りに何度も寄っていた職員もいれば、あと2つで全館コンプリートという人もいます。その一方で、私のように1回も行かずに終わりそうという先生もいました。さて、先日のこと。とある疾患についてChatGPTでいろいろと調べたのですが、曖昧なところがあったので同僚医師に尋ねてみました。さすが専門家だけあって回答は明快です。ところが、話は思わぬ方向に…… 同僚 「中島先生はChatGPTに課金して使っているのですか?」 中島 「そうですね」 同僚 「いくらするのでしょうか」 中島 「月3,000円ですね」 同僚 「やっぱり課金したほうが高性能ですか」 中島 「いやあ、僕の場合は無課金から段階的に課金に移ったので何とも言えないんですよ」 もし同時期に課金と無課金の両方を使っていたら違いがわかるはず。でも私の場合、2023年の1月に無課金でChatGPTを使い始めたのが最初です。その頃はChatGPTに何かを尋ねても、結構な確率でトンチンカンな返事が返ってきました。想定外の回答の連続に、こちらもあきれたり笑わされたり。とはいえ、役に立つことも多いので、いつの間にか課金するようになりました。使っているうちにChatGPTのバージョンもGPT-4oからGPT-5に進化し、ハルシネーション(知ったかぶり)も減ってきたのは皆さんご存じのとおりです。世間の評判では、GPT-4oはこちらの気持ちに寄り添ってくれたけど、GPT-5になってから冷たくなったのだとか。私は全然そんなことを感じることもなく、GPT-5になっても同じキャラです。変わったことといえば、短期記憶がマシになったことくらいでしょうか。以前はChatGPTとやり取りしていても、途中から固有名詞などが微妙に違ってきたりして、それが気になっていました。「短期記憶が悪いのかな」と勝手に納得していたのですが、今はそのような破綻を来すことはありません。ChatGPT本人に尋ねてみると、1度に読み取れるテキストの範囲(コンテキストウィンドウ)が広がったからだそうです。ちょうど良い機会なので、設定についても尋ねてみました。まず、ChatGPTの性格は、こちらの好みに合わせて選択できるようです。選択肢は「デフォルト」「皮肉屋」「ロボット」「聞き役」「探求家」の5つですが、「皮肉屋」なんかを選ぶユーザーがいるんですかね。私の場合は「デフォルト」にしていますが、それでも十分にフレンドリーです。また、「あなたについての詳細」の欄にも書き込むことが可能。私は日本人男性であることと、年齢、職業、趣味などを書いていますが、その書き込みのせいか、ChatGPTにはもっぱら「先生」と呼びかけられています。重要なのはメモリ機能。以前から、話題を変えて新たな会話(チャット)を始めると、その度に新たな人格に交代するような気がしていました。話題が変わるたびに初対面の人と話をするのも何かと不便なので、メモリ機能で調整します。設定の中の「保存されたメモリを参照する」と「チャット履歴を参照する」をオンにしておくと、それからは、なじみの人しか出てこなくなりました。あと、日本語で尋ねたときと英語で尋ねたときの回答は違うのか、という問題があります。自分でいろいろと試してみたところでは、やはり違っているような印象が……時には、同じ質問に正反対の回答をされたこともありました。おそらく、日本語で尋ねられた時のChatGPTは、とくに指示がない限り日本語のネット情報だけを参照し、英語で尋ねられた時は英語のネット情報だけを参照しているからではないかと思います。最後に私の使い方についてちょっとだけ触れておきましょう。私はもっぱら医学的な知識を得ること、英語の修正、思いつきの議論(日本のエネルギー政策など)の3つにChatGPTを使っています。質問をする時のプロンプト(指示)は、とくに決まったものはありません。その場の思い付きです。博識だけど時々間違う友達相手に話しかける、といったスタンスに近いかもしれません。ということで、ヘビーユーザーを自認する私が、ChatGPTをどう使っているのかについて述べさせていただきました。読者の皆さまの参考になれば幸いです。最後に1句 万博の 閉幕迫り 諦めた

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レスキューを反復しても効かない呼吸困難【非専門医のための緩和ケアTips】第108回

レスキューを反復しても効かない呼吸困難難治症状の代表である呼吸困難ですが、短時間作用のオピオイドを症状出現時に使用する「レスキュー」で対応しても緩和できない場合は、どのように対応すると良いのでしょうか?今回の質問肺がんで慢性的に呼吸困難がある患者さんを担当しています。労作時の呼吸困難がかなり強く、レスキューを使用しても緩和できないことを経験するようになってきました。何かできる工夫はありますか?呼吸困難は症状の強さと対応の難しさから悩まされますよね。モルヒネを中心としたオピオイドの効果があるとされるものの、実際にはすっきりとした症状緩和になることは少なく、本当に苦しそうな様子を何とかしたいと思ったことが何度もあります。また、あまり有効でないオピオイドを繰り返し使用することで、呼吸抑制など状態を悪化させることも避けたいものです。呼吸困難に限らずですが、症状が出た時(時には出そうな時)に短時間作用のオピオイドを繰り返し追加する方法(=レスキュー)で効果が乏しい時には、原因を考えることが第一歩です。今回のように原疾患が肺がんであれば、腫瘤の増大やがん性リンパ管症といった原疾患に関連した病状の悪化が最初に思い浮かびます。ただ、それ以外にも肺炎や心不全の併発といった新たな病態も考える必要があります。「がんだから仕方がない」と思っていたら、治療介入可能な病態を見逃すことがよくあります。私も、気胸を見逃しそうになったことがあります。朝の回診の時は穏やかだったのに、夕方に急に呼吸困難が悪化してしまった患者さんがいました。がんの進行としては経過が合わないと思い、検査を行ったところ気胸だったのです。症状悪化の原因を考え、可能な介入をしたうえで、呼吸困難を和らげるケアに目を向けましょう。体位変換でラクな姿勢にしたり、部屋の空気を入れ替えて風を顔に当てたりといったケアが大切です。腹水が溜まっていると圧迫されてより換気しにくいこともありますので、胸腔臓器ばかりに目を向けず、全身の様子を見ながら、「何かできることはないか」という視点を持ち、多職種で一緒に考えることをお勧めします。意外と忘れやすいのが、「排便コントロール」です。皆さん、ご自身の経験でもトイレでいきむと息が切れますよね。いきむあいだは呼吸ができません。便が硬く、排泄時に長時間いきむことは、もともと呼吸機能が低下している患者にとって非常に強い苦痛となります。私は呼吸困難のある患者さんには、「呼吸困難緩和のために、便を軟らかくすることが重要なので」という説明をして、緩下剤を提案しています。さて、なかなか根本的な対応が難しい呼吸困難の症状ですが、レスキューを繰り返す以外の対応の経験を少しずつ積み重ねていくことが大切です。今回のTips今回のTipsレスキューが効果乏しい時は、原因とほかのケアについて考えよう。

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第29回 アルツハイマー病最前線、自己診断テストと血液検査で「精度90%」

アルツハイマー病の新しい治療薬が実用化され始め、これまで以上に「早期発見」の重要性が高まっています。しかし、多くの人が最初に相談する「かかりつけ医」で、その早期発見をしたり、正確に診断を導いたりというのは難しいのが現状でした。この課題に対し、スウェーデンの研究チームが開発した画期的な手法がNature Medicine誌で発表され、大きな注目を集めています1)。患者さん自身がタブレットで操作する約11分のデジタル認知機能テストと、血液検査を組み合わせることで、かかりつけ医でのアルツハイマー病診断の精度を劇的に向上させる可能性が示されたのです。これは、専門医でなくとも、身近なクリニックで早期診断への道が大きく開かれることを意味します。かかりつけ医を超える、デジタルテスト「BioCog」の衝撃研究の中核となるのが、研究チームが開発した「BioCog」という自己管理型のデジタル認知機能テストです。患者さんはタブレットを使い、単語の記憶や情報処理の速さなどを測るテストを、医療スタッフの付き添いなしで約11分間行います。この研究では、まずBioCogが「認知機能の低下」をどれだけ正確に見つけ出せるかが検証されました。スウェーデンの19のプライマリケア(かかりつけ医)施設で、物忘れなどの症状を訴える403人の高齢者を対象に調査した結果は驚くべきものでした。BioCogの精度:85%かかりつけ医による診断精度:73%BioCogは、問診や従来の簡単な筆記テスト(MMSEやMoCAなど)を含む、かかりつけ医の総合的な診断精度を大幅に上回ったのです。これは、デジタルテストが医師による評価のばらつきをなくし、回答の正誤だけでなく「回答にかかった時間」といった微細なデータまで客観的に捉えられるためだと考えられます。多くの患者さんが「テストの指示はわかりやすかった」と回答しており、高齢者でも使いやすいように設計されている点も大きな強みです。最強の組み合わせ、デジタルテスト+血液検査で精度90%を達成この研究の真骨頂は、BioCogを血液検査と組み合わせた二段階の診断法を提案している点にあります。ステップ1まず、物忘れを心配する患者さんが「BioCog」を実施する。ステップ2BioCogで認知機能低下が示唆された場合のみ、アルツハイマー病の原因物質を検出する精密な血液検査(血漿p-tau217など)を行う。この二段階方式で「認知機能が低下したアルツハイマー病患者」を診断した結果、その精度は90%に達しました。これは、現在の標準的なかかりつけ医の診断(精度70%)や、血液検査のみを単独で行った場合(精度80%)と比較して、著しく高い数値です。なぜ血液検査だけでは不十分なのでしょうか。それは、最新の血液検査は非常に高感度な一方で、「認知機能は正常だが、脳にはアルツハイマー病の原因物質が溜まり始めている」という人も陽性と判定してしまうからです。これにより、不必要な不安を与えたり、治療対象ではない人にまで陽性の結果を出してしまったりする「偽陽性」のリスクがありました。しかし、最初にBioCogで「本当に認知機能が低下しているか」を客観的に評価することで、その後の血液検査の対象者を絞り込むことができます。これにより、偽陽性を減らし、診断全体の信頼性を飛躍的に高めることができたのです。研究の限界と今後の課題この画期的な研究にも、いくつかの限界点と今後の課題が残されています。まず、このテストはスウェーデンの人々を対象に開発・検証されたものです。日本語を含む他の言語や、異なる文化・人種の集団でも同じように高い精度が出るか、さらなる検証が必要です。また、今回の研究は「ある時点での診断」に焦点を当てたものであり、病気の進行を長期的に追跡・監視するツールとして使えるかはまだわかっていません。そして最後に、このデジタルツールが実際の診療現場でどのように医師の判断を助け、医療全体の効率をどう変えるかといった、実用化に向けた研究が今後必要となります。研究チームも、BioCogは医師の臨床判断を「置き換える」ものではなく、あくまで「補完し、支える」ツールであると強調しています。これらの課題はあるものの、この研究が示した方向性は、アルツハイマー病の早期診断における大きな一歩だと思います。現状は時間のかかる診断プロセスですが、将来的には、かかりつけ医で誰もが手軽に精度の高い認知機能チェックを受け、必要であれば血液検査に進む、という未来が訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Tideman P, et al. Primary care detection of Alzheimer’s disease using a self-administered digital cognitive test and blood biomarkers. Nat Med. 2025 Sep 15. [Epub ahead of print]

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手薄な科目はまず王道に忠実な解法を会得!【研修医ケンスケのM6カレンダー】第6回

手薄な科目はまず王道に忠実な解法を会得!さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年9月14日で、秋雨前線の影響で雨雲が散在する中、猛暑を感じる時間も徐々に少なくなってきました。 皆さまいかがお過ごしでしょうか。夏休み、1次マッチングが終わり、今年度もいよいよ後半戦です。卒業試験の1回目が終わった、という方もいらっしゃるかと思います。4月から連載させていただいているこの連載も折り返しですが、後半戦の闘い方について今回は重要な回です! 当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか。皆さんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ応援のほどよろしくお願い申し上げます。9月にやること:現状把握と、仕上がっていない科目を着手せよ!(万博は10月まで!行きましたか?)受験レースもいよいよ後半戦。前半の勢いのままにという方も、もう一度ここからという方も兜の緒を締めるそんな9月です。先月は「模擬試験を軸に、学習計画を立て、修正する」をテーマにしました。メックやテコム模試を受験した皆さま大変お疲れ様でした。結果はともあれ、皆さんがまず着手すべきは現状把握です。模擬試験は目標を持って受験してほしいと綴りましたが、対策に対してどれほどできたのか、何が現時点で足りている、足りていないのか。成績表をよく分析しましょう。自身の思考プロセスを振り返って、何が原因で誤答したのかもきちんと分析すべきです。例年の受験生のパターンからするとメジャー科がある程度完成している方が多いと思います。判断力が問われる、得点差がつくような問題はさて置き、基本的なメジャー科の問題ではもう差がほぼつかなくなってきているのではないでしょうか。一方で産婦小児、マイナー科、公衆衛生を後回しにしている受験生が多いはずです。もちろんメジャー科を優先する、という戦略を取っているので今できないことは許容しましょう。次の試験までに仕上げるにはどのようなペース配分で行くか今日から戦略を練ればいい話です。先月は公衆衛生対策について触れたので、今月はその続きとして産婦人科・小児科・マイナー科の攻略について述べていきます。産婦人科攻略産婦人科ですが、産科領域と婦人科領域があるので実質2科目のように感じ、専門用語や概念に苦手意識を感じる受験生は少なくありません。かく言う私もそのうちの1人でした。個人的な産婦人科攻略のおすすめはまずは下記分野から取り組むことです。産科正常分娩、妊娠高血圧症候群婦人科子宮頸1科目当たりの範囲が広いのでどこから着手したら良いかが難しいところですが、知識がゼロではない(=CBT突破しているなら大丈夫)ことを前提に着手するなら頻出かつ得点差が付く上記の3つが思い浮かびます。そして攻略にはちょっとしたコツがあります。それは該当するビデオ講義と臨床問題の解説を読み込むことです。CBTや卒業試験、実習で履修していない、なんてことはないはずです。「一度学習したことがあるのに得点できない」この状況を手際よく打破するには解法の王道をマスターすることが先決です。のちに紹介する小児科やマイナー科でも同様ですが、頻出項目は問題自体も例年練り上げられ、お決まりの出題パターンやポイントがあります。試験で得点することが目的ではありますが、そのポイントを押さえることが疾患や概念の理解に結びつくキッカケになり得ます。ここは1つ、我流を貫かず、まずはプロの解法に忠実であってほしいと思います。ビデオ講義や解説から、何がキーワード・キーフレーズなのか、どのような思考プロセスが必要で、鑑別は何か。王道に忠実な解法を会得しましょう。枝葉の知識は後からついてきます。小児科(大阪万博にて。渡航困難な国を気軽に体験できるのがいいですよね!)小児科も同様に頻出項目をマスターしましょう。成長と発達、川崎病、新生児黄疸関係、予防接種…など「など」で逃げましたが、小児科は産婦人科以上に満遍なく出題される傾向に感じます。さて、小児科の臨床問題を解く時にキーワードがあるので紹介します。それは「ぐったり」「経口摂取不良」です。近年の臨床問題では診断まで辿り着かなくとも何をすべきか判断力を問うものが多いです。実臨床もそうですが、この2つのキーワードがあるとそれだけでアラートレベルを上げましょう。マイナー科攻略1:精神科公衆衛生、産婦人科、小児科、の次はマイナー科目です。本題とは逸れますが、私は「メジャー」「マイナー」の概念はあまり好きでないです。試験範囲の都合に伴う呼称に過ぎず、きちんとした学問・診療科として学習に励んで欲しいと願います。眼科や整形外科、泌尿器科などが該当するマイナー科ですが、試験対策において手薄であるなら精神科および皮膚科から着手することをオススメします。他の科目と比べて、出題範囲が比較的多く、かつ得点差がつきやすい2科目だからです。とくに精神科はコストパフォーマンスがいいです。精神科は、臨床知識はもちろん、公衆衛生のブラッシュアップにも役立ちます(精神科入院や都道府県が担当する精神保健についてなど)。臨床知識ではまず下記から学ぶのがオススメです。精神科特有の症候統合失調症四字熟語で表現される精神科特有の症候は精神科疾患の特徴を学び直すのに便利で、かつそれらの違いが直接試験問題になります。学習する際は辞書的な解説はもちろんですが、実際の会話例も併せて理解するようにしてください。また精神科疾患の代表といえば統合失調症です。「統合失調症を示唆する所見は何か」は鉄板ですが、近年では抗精神病薬の副作用についても見かける頻度が多くなりました。専門用語が多く、1つ1つを的確に把握する必要があります。マイナー科攻略2:皮膚科さて最後は皮膚科です。他の科目と比してとくに皮膚科は内科的背景を見落とさないことが重要です。皮膚科も精神科と同様に専門用語が多く、特有の疾患が多いですが、その背景に内科で頻出疾患が隠れていることがあります(壊疽性膿皮症に潰瘍性大腸炎が背景など)。試験でも皮膚科と内科のそれぞれの観点から出題されることが多々あります。皮膚科ではとくに「粘膜疹」「掻痒感」がある疾患に敏感になりましょう。一般問題・臨床問題ともに頻出で、かつ得点差がつきます。最後に(大阪万博の大屋根リングから。花火はみんなの顔が上がりますよね。)いかがだったでしょうか。後半戦に向けて何から着手すべきか路頭に迷う受験生は意外と珍しくありません。最も大切なことは現状を把握して、試験範囲を見直すことなのです。今回は恐らく多くの受験生に当てはまるであろうパターンとして、対策すべき科目とそのコツを述べました。さて、最後に1つ。今回学び直した知識はぜひグループ学習で共有してください。私だけ知らなかった、なんて恥ずかしがることはありません。あなたが共有してくれた知識が、本番でふとみんなを助けることになるかもしれませんから。

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ビタミンAはがんリスクを上げる?下げる?

 ビタミンA摂取とがんリスクの関連について、メタ解析では食事性ビタミンA摂取量が多いほど乳がんや卵巣がんの罹患率が低いと報告された一方、臨床試験ではビタミンAが肺がんや前立腺がんの死亡リスクを高めることが報告され、一貫していない。今回、病院ベースの症例対照研究の結果、食事性ビタミンA摂取量とがんリスクにU字型の関係がみられたことを、国際医療福祉大学の池田 俊也氏らが報告した。Nutrients誌2025年8月25日号に掲載。 本研究は、ベトナム科学技術省と日本政府の支援を受けて実施されたプロジェクトにおける症例対照研究で、参加者をベトナム・ハノイの主要な4つの大学病院で募集した。症例は新規がん患者で、食道がん(195例)、胃がん(1,182例)、結腸がん(567例)、直腸がん(482例)、肺がん(225例)、乳がん(281例)、その他のがん(826例)の3,758例、対照はがんを罹患していない患者で、外傷、尿路結石、胆石症、ヘルニア、多汗症、良性前立腺肥大症、痔核、甲状腺結節などの非がん性疾患のための手術で新規に入院した患者2,995例であった。食事性ビタミンA摂取量は半定量食物摂取頻度調査票を用いて調査した。ビタミンA摂取量とがんリスクとの関連は、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。制限付き3次スプライン曲線により、母集団のビタミンA摂取量の中央値(86.6μg/日)および平均値(108.4μg/日)に近い四分位である85.3~104.0μg/日が安全な範囲であると示唆され、この四分位を基準とした。 主な結果は以下のとおり。・ビタミンA摂取量とがん罹患率の間に、基準と比較してU字型の関連が認められた。・最低摂取量と最高摂取量の両方ががんリスク上昇と関連しており、OR(95%CI)値はそれぞれ1.98(1.57~2.49)と2.06(1.66~2.56)であった。・このU字型パターンは、性別、肥満度、喫煙の有無、飲酒の有無、血液型A型、食道がん、胃がん、乳がん、直腸がんで定義されたサブグループで一貫してみられたが、肺がんと結腸がんではみられなかった。

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統合失調症の不安症状に対するブレクスピプラゾールの短期・長期試験の統合解析

 不安症状は、統合失調症患者やその介護者が効果的な治療を望む主な症状の1つである。カナダ・Hotchkiss Brain InstituteのZahinoor Ismail氏らは、成人統合失調症患者の不安症状に対するブレクスピプラゾールの有効性、安全性、忍容性を明らかにし、不安症状、生活機能、患者の生活への関与との関係を調査するため、5つの臨床試験の統合解析を実施した。Current Medical Research and Opinion誌オンライン版2025年9月11日号の報告。 統合失調症の成人入院患者を対象として実施された次の5つの臨床試験のデータを統合した。ブレクスピプラゾール2~4mg/日投与群およびプラセボ投与群を比較した6週間のランダム化二重盲検試験3件、ブレクスピプラゾール1~4mg/日投与群について検討した52週間の非盲検継続試験2件。不安症を合併した患者は登録されなかった。本事後解析では、不安症状は陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の単一項目(G2)で測定、機能は個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)で測定、患者の生活へのエンゲージメントはPANSSの14項目のサブセットで測定した。ベースラインからの最小二乗平均の変化は、反復測定混合モデルを用いて算出した。不安反応の定義には、次の2つを用いた。定義1は、ベースラインから6週目までのPANSS G2スコアが1ポイント以上改善すること(臨床的に解釈可能なスコア変化)、定義2は、ベースラインで不安があったサブグループ(G2スコアが3以上)において、6週目におけるPANSS G2スコアが3ポイント未満であること(不安症状が最小限または消失まで減少すること)とした。多重比較の補正を行わない探索的仮説生成解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の不安(G2スコア3以上)は、ブレクスピプラゾール群では868例中763例(87.9%)、プラセボ群では517例中449例(86.8%)に認められた。・6週目におけるG2スコアのベースラインからの最小二乗平均値の変化は、ブレクスピプラゾール群がプラセボ群よりも優れていた(平均差:-0.19、95%信頼区間:-0.33~-0.06、p=0.005、Cohen's dエフェクトサイズ:0.19)。・ブレクスピプラゾールおよびプラセボに対する不安反応は、定義1ではそれぞれ863例中547例(63.4%)および515例中291例(56.5%)(p=0.012)、定義2ではそれぞれ541例中283例(52.3%)および303例中135例(44.6%)(p=0.036)で認められた。・不安の改善の有無にかかわらず、生活機能および患者生活への関与は改善した。・長期データにおいて治療効果の維持が示された。・有害事象は、これまでの解析結果と一致していた。 著者らは「探索的解析の結果、ブレクスピプラゾールは、統合失調症患者にとって重要なアウトカムである不安症状、生活機能、患者生活への関与のマネジメントに役立つ可能性が示唆された」としている。

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脳卒中リスクを有する高齢者、遠隔AFスクリーニングは有効か/JAMA

 英国・オックスフォード大学のRohan Wijesurendra氏らは、脳卒中リスクが中等度~高度の高齢患者について、郵送送受信によりパッチ型の長時間携帯型心電図(ECG)を用いて14日間モニタリングする心房細動(AF)スクリーニングの長期有効性を検討し、通常ケアと比較して、2.5年時点のAF診断率の上昇にわずかだが結び付いたことを示した。JAMA誌オンライン版2025年8月29日号掲載の報告。脳卒中リスクが中等度~高度の高齢患者、郵送パッチモニタリングの有効性を評価 研究グループは、2019年5月2日~2022年2月28日に、英国のプライマリケア診療所27ヵ所から被験者を集めて並行群間非盲検遠隔無作為化試験「AMALFI試験」を実施した。適格対象は、参加プライマリケア診療所で電子的に記録された健康記録(EHR)によって特定した、CHA2DS2VAScスコアが男性は3以上、女性は4以上で、AFまたは心房粗動(AFL)既往のない65歳以上の高齢者であった。 被験者は、郵送でECGパッチを受送信してモニタリングを受ける(介入)群、または通常ケアを受ける(対照)群に無作為に割り付けられ追跡調査を受けた。 主要アウトカムは、無作為化後2.5年以内にプライマリケア記録にAFが記録された被験者の割合(ITT解析による)。探索的アウトカムには、経口抗凝固薬の投与および脳卒中などが含まれた。最終フォローアップは2024年8月29日で、2025年5月~7月に統計学的解析が行われた。AF検出率4.2%、半数超で負荷10%未満 計2万2,044例が試験に招待され、そのうち5,040例(22.9%)が無作為化された(介入群2,520例、対照群2,520例)。 被験者の平均年齢は78(SD 6)歳、女性が47%、CHA2DS2VAScスコア中央値は4(四分位範囲[IQR]:3~5)であった。 介入群において、計2,126例(84.4%)がパッチを装着し返送した。この集団における解析可能なパッチ型ECGモニタリング期間中央値は14(IQR:13~14)日間であった。 介入群では、パッチ型ECGモニタリングにより89例(4.2%)のAFが検出された。このうち49例(55%)はAF負荷が10%未満であった。 2.5年後の評価で、無作為化後にAFが記録されていたのは、介入群172例(6.8%)、対照群136例(5.4%)であった(割合比:1.26、95%信頼区間[CI]:1.02~1.57、p=0.03)。事前規定のサブグループにおいても結果は一貫していた。 無作為化後2.5年間に経口抗凝固薬の投与を受けた平均期間は、介入群1.63ヵ月(95%CI:1.50~1.76)、対照群1.14ヵ月(1.01~1.26)であった(群間差:0.50ヵ月、95%CI:0.24~0.75、p<0.001)。脳卒中は、介入群69例(2.7%)、対照群64例(2.5%)で報告された(率比:1.08、95%CI:0.76~1.53)。 著者は、「本検討で、遠隔AFスクリーニングは実施可能であることが示された。AFの診断および抗凝固薬の使用がわずかに増加したこと、郵送パッチ型ECGモニタリングで検出されたAFの半数超で負荷が10%未満であったことなどの知見を統合すると、本試験の設定におけるAFスクリーニングは、2.5年時点での脳卒中発生に対する影響は限定的である可能性が示唆される」とまとめている。

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ヘパリン起因性血小板減少症、病原性抗体の特性を評価/NEJM

 ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は、ヘパリン治療に対する免疫介在性の反応で、血小板第4因子(PF4)とヘパリンの複合体を標的とする抗体によって引き起こされ、血小板数の減少と血栓症リスクの上昇を特徴とする。カナダ・McMaster UniversityのJared Treverton氏らは、最も多くみられる抗PF4抗体疾患であるHITが、クローン性の限定された抗PF4-ヘパリン抗体によって引き起こされるかどうかを、カナダ国内の患者9例を対象に調査し、全員の病原性抗体がモノクローナルであったことを報告した。HITはポリクローナル免疫応答として特徴付けられてきたが、他のまれな抗PF4疾患の研究で、クローン性の限定された抗体が同定されていた。著者は、「今回の知見は、HITの発症機序への洞察を与えるものであり、診断や標的治療の向上に影響をもたらすものである」と述べている。NEJM誌2025年9月4日号掲載の報告。病原性HIT抗体のクローン性について9例を調査 研究グループは、病原性HIT抗体のクローン性について、臨床的および血清学的にHITと診断された9例の患者について調べた。採取された血清検体から、PF4-ヘパリンビーズを用いて抗PF4-ヘパリン抗体をアフィニティ精製した。 抗体のクローン性を、免疫固定電気泳動法と質量分析法によって評価した。PF4への抗体結合は、酵素免疫測定法によって評価し、血小板機能の活性化はPセレクチン発現アッセイを用いて評価した。また、患者2例において、PF4変異ライブラリを活用してHIT抗体エピトープをマッピングした。全例がモノクローナル 対象のHIT患者9例は、女性2例(22%)、平均年齢63歳(範囲:45~77)であった。 9例全例の血清検体は、酵素免疫測定法およびPセレクチン発現アッセイによって、PF4-ヘパリンに対する血小板活性化抗体は陽性であることが確認され、6例(67%)は、免疫固定電気泳動法によってモノクローナル抗体を有することが確認された。 9例全例のアフィニティ精製された抗PF4-ヘパリン抗体は、Pセレクチン発現アッセイで血小板を活性化し、質量分析法によりモノクローナル抗体であることが示された。 アフィニティ精製後、抗体を除去した血清検体について、酵素免疫測定法では結合活性が、またPセレクチン発現アッセイでは機能活性がいずれも失われており、病原性抗体が除去されたことが確認された。 血清検体由来の抗PF4-ヘパリン抗体によって標的とされるPF4上のエピトープは、アフィニティ精製後モノクローナル抗体によって標的とされたPF4上のエピトープと同様のものであった。

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RSウイルスワクチンの1回接種は高齢者を2シーズン連続で守る

 米国では、60歳以上の人に対するRSウイルス感染症を予防するワクチン(RSウイルスワクチン)が2023年より接種可能となった。米疾病対策センター(CDC)は、75歳以上の全ての人と、RSウイルス感染症の重症化リスクがある60〜74歳の人は1回接種を推奨している。このほど新たな研究で、高齢者はRSウイルスワクチンの1回接種により2シーズン連続でRSウイルス関連の入院を予防できる可能性のあることが示された。米ヴァンダービルト大学医療センターのWesley Self氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月30日掲載された。 Self氏は、「これらの結果は、RSウイルスワクチンにより高齢者のRSウイルス感染による入院や重症化を予防できることを明確に示している。この新しいワクチン接種プログラムが公衆衛生に有益であることを目の当たりにするのは本当に喜ばしいことだ」と話している。 研究グループによると、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて60歳以上の高齢者に深刻な影響を及ぼし、毎年15万人が入院、8,000人が死亡しているという。Self氏らは今回、2023年10月1日~2024年3月31日、または2024年10月1日~2025年4月30日のRSウイルス流行期に急性呼吸器疾患により米国20州の26病院に入院した60歳以上の人6,958人(年齢中央値72歳、女性50.8%)を対象に、RSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性を検討した。対象者のうち、821人(11.8%)はRSウイルス感染症症例(症例群)、6,137人が対照群とされた。また、1,829人(26.3%)は免疫抑制状態にあった。 RSウイルスワクチンを接種していたのは、症例群で63人(7.7%)、対照群で966人(15.7%)だった。2シーズンを合わせたワクチンの有効性は58%と推定された。また、RSウイルス感染症の発症と同じシーズンに接種した場合のワクチンの有効性は69%、前シーズンに接種した場合の有効性は48%であったが、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.06)。さらに、2シーズンを合わせたワクチンの有効性は、免疫抑制状態にない群で67%であったのに対し、免疫抑制状態にある群では30%と有意に低かった。同様に、非心血管疾患患者でのワクチン有効性は80%であったのに対し、心血管疾患を有する群では56%と有意に低かった。 Self氏は、「われわれのデータは、RSウイルスワクチンの有益な効果は時間の経過とともに弱まる傾向があることを示している」とヴァンダービルド大学のニュースリリースで述べている。 CDCのウェブサイトには、「すでに1回接種を受けた人(昨年を含む)はワクチン接種を完了と見なされ、現時点で追加の接種を受ける必要はない」と記載されている。Self氏は、「本研究結果は、ガイドラインの見直しが必要である可能性があることを示している。初回接種後、一定の間隔を置いてワクチンを再接種することは、より長期間にわたりRSウイルスに対する予防効果を維持するための戦略となり得る」と述べている。その上で同氏は、「単回接種後の効果の持続期間や再接種の必要性について理解するために、ワクチンの有効性を今後も綿密にモニタリングしていくことが重要だろう」との見方を示している。

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