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中高年の前兆を伴う片頭痛、脳梗塞リスクの上昇と関連

 前兆を伴う片頭痛を有する中高年では、片頭痛のない中高年と比べて虚血性脳卒中(脳梗塞)リスクが高い可能性があるとする研究結果が報告された。前兆を伴う片頭痛を有する人では、片頭痛のない人に比べて脳梗塞リスクが73%高かった一方、前兆を伴わない片頭痛を有する人では有意なリスク上昇は認められなかったという。米バーモント大学神経学分野のAdam Sprouse-Blum氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に5月20日掲載された。 研究グループによれば、片頭痛の前兆とは、片頭痛発作に先立って現れる視覚的または感覚的な異常を指す。具体的には、光の点滅、視野欠損、ジグザグ模様、きらめく点などが現れるという。Sprouse-Blum氏は、「これまでの研究で、前兆を伴う片頭痛は、若年層における脳梗塞リスクの増加と関連することが示されていたが、45歳以上における脳梗塞リスクとの関連については十分に分かっていなかった」と説明している。 今回の研究では、米国の大規模コホート研究参加者のうち、45歳以上の1万1,381人(平均年齢72.1歳、女性55.2%)を対象に、片頭痛と脳梗塞リスクとの関連が前兆の有無によって異なるかを検討した。参加者のうち1,130人(9.9%)が片頭痛を有しており、その内訳は、前兆を伴う片頭痛491人、前兆を伴わない片頭痛639人だった。 平均6.4年間の追跡期間中に、片頭痛群では44人(3.9%;前兆を伴う片頭痛群23人、前兆を伴わない片頭痛群21人)、片頭痛のない群(1万251人)では351人(3.4%)が脳梗塞を発症した。解析の結果、片頭痛群では片頭痛のない群に比べて脳梗塞リスクが35%高かったものの、統計学的有意差は認められなかった(ハザード比1.35、95%信頼区間0.98~1.87)。さらに、片頭痛群を前兆の有無で分けて解析すると、前兆を伴う群では片頭痛のない群と比べて脳梗塞リスクが73%有意に高かった(同1.73、1.12~2.65)。一方、前兆を伴わない群では、脳梗塞リスクに有意な増加は認められなかった(同1.10、0.70~1.72)。サブグループ解析からは、72歳未満の男性では、前兆の有無を問わず片頭痛を有する人で脳梗塞リスクが最も高く、片頭痛のない人に比べて約3.7倍だったことも示された(同3.67、1.96~6.88)。 Sprouse-Blum氏は、「72歳未満の中高年男性で脳梗塞リスクが著しく高かったという結果は予想外だった。若年層を対象としたこれまでの研究では、片頭痛に関連する脳梗塞リスクは女性で高いことが示されていたからだ」と述べている。その上で同氏は、「今回の結果をより深く理解するためには、今後さらなる研究が必要である。もし結果が確認されれば、この年齢層に対して脳梗塞予防に関する重点的な指導が必要になる可能性がある」と語っている。

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脳梗塞治療と心筋梗塞治療の類似性と相違(解説:後藤信哉氏)

 今の若い世代の循環器内科医にとって、心筋梗塞に対する再灌流療法は冠動脈インターベンションであろう。1986年から循環器内科医をしている筆者は、心筋梗塞治療に血栓溶解療法が主流になりそうな時代があったことを知っている。血栓溶解療法には内因系のプラスミノーゲンをプラスミンに転換することにより、線溶効果を狙う。ヒトの身体はバランスが取れているので、線溶を亢進させれば、体内の血栓性も亢進する。血栓溶解療法には血小板、凝固系を阻害する抗血栓療法の併用が必須である。われわれは1980~90年代に多数の抗凝固薬、抗血小板薬の併用を試してきた。 脳梗塞治療では血管インターベンションが血栓溶解療法を完全に置換してはいない。本研究でも血栓溶解療法施行時の併用療法が比較された。心筋梗塞後も、当初は抗血小板併用療法が試された。本研究でもチカグレロルを早期から開始する抗血小板併用療法にて予後が改善されたと報告されている。 チカグレロルの用量として循環器と同様90mg bidが選択されている。急性冠症候群では国際共同試験では90mg bidがクロピドグレルよりも有効とされた。しかし、日本などの東アジアではglobal試験の優越性を確認できなかった(Goto S, et al. Circulation Journal. 2015;79:2452-2460.)。本試験は中国にて施行されたがglobal doseが選択されたのは興味深い。 出血合併症から考えれば線溶療法より冠動脈インターベンションが優れていることが心筋梗塞では示されている。抗血小板薬併用療法も、出血合併症リスクが循環器では強調されている。現在、脳領域は1980~90年代の循環器内科を追いかけているようだが、脳梗塞治療も心筋梗塞治療同様カテーテルインターベンションの時代になるのか? いつまでも線溶療法の時代が持続するのか? 興味深く見守りたい。

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ミンダナオ島の地震【Dr. 中島の 新・徒然草】(635)

六百三十五の段 ミンダナオ島の地震さる2026年6月8日朝のこと。フィリピンのミンダナオ島南端を震源とする大地震が起こりました。YouTubeでは現地の建物倒壊の様子が報じられています。ある小学校の校庭では、地面がまるで板ブランコ(遊動円木)みたいに左右に揺れて、子供たちが立っていられないほどでした。揺れるというのはこういうことか、というのがよくわかる動画だと思います。ちょうどオンライン英会話のレッスンの時間になったので、フィリピン人講師に尋ねてみました。「大丈夫でしたか、地震の影響はなかったですか?」と。そう尋ねると、彼女はルソン島に住んでいるのでまったく影響はなかったとのことでした。ミンダナオ島南端とルソン島にある首都マニラの間は1,000km以上あり、日本でいえば大阪と札幌くらいの距離になります。それなら大した揺れはなかったことでしょう。よく考えてみれば、いつもフィリピン人講師に英語を習っているわりには、あまりにもフィリピンのことを知らなすぎました。ルソン島って何それ? ミンダナオ島ってどこ?そんな感じです。だから、ちょっと調べてみました。フィリピン共和国は北部のルソン島、南部のミンダナオ島、そしてこれら2つの大きな島に挟まれた中小の島からなります。日本人にも有名なレイテ島とかセブ島とかも中小の島の1つ。そして、首都のマニラはルソン島の南部にあります。フィリピンの7,000以上の島の面積を全部合わせると日本の約80%!人口は約1億2,000万人で、日本に近い数です。驚くべきは平均年齢で、日本人が約50歳なのに対し、フィリピン人は約27歳。人口構成はきれいなピラミッド型をしています。そして、日本の人口が毎年数十万人ずつ減少しているのに対し、フィリピンは毎年90万人ずつ増加しているのだとか。フィリピンの人口が日本を追い抜くのも時間の問題のようです。オンライン英会話に話を戻しましょう。今回の地震のニュースでは自分の体験を思い出しました。そう、31年前の阪神淡路大震災です。当時の私はアメリカに住んでいましたが、故郷の神戸が地震に見舞われたということで慌てて一時帰国しました。被災した両親を救出すべく神戸に向かったのですが、道の上は瓦礫だらけ。電線が切れて垂れ下がっており「危ない、危ない!」と言われながら歩きました。この「電柱」や「電線」を英語で講師に説明しようとしたのですが、難しいですね。こういった電柱+電線というのは、日本を含むアジア諸国ならではの景色です。アメリカでもヨーロッパでもほとんど見た記憶がありません。調べてみると、フィリピンも電柱+電線ですが、日本と違ってカオス状態なのだとか。違法に盗電したり、勝手にネット回線を這わせたり。電力会社のほうも、どの線が生きていてどの線が使われていないのかが把握できていないので、事態は複雑になるばかり。ついに怒った当局は、スパゲティ・ワイヤー禁止条例なるものを作って、整理を始めているのだそうです。他のアジア諸国の電線事情について調べてみると……中国は「電柱のある景色は古くさくて格好悪い」という当局の判断で一気に電線を地面に埋め、この20年の間に主要都市ではほとんど電柱が見られなくなりました。台湾では、激しい台風によって毎年のように電柱が倒され電線が寸断されてしまうので、地下化を進めているところだそうです。中国や台湾に比べると、日本では電線の地下化が遅れているのは否めません。というのも、電線を地下化すると、地震被害に遭ったときに、損傷部位を特定して復旧するのに時間がかかるからだとか。その点、電柱+電線だと、仮復旧まで数日で済みます。だから今後の日本で電線を地下化するときには、地震で壊されたときの対策まで考えておかなくてはなりません。それぞれの国には、それぞれの事情があるというわけですね。こういったことをすべて英語で表現できていれば、フィリピン人講師との会話もさぞかし弾んだことでしょう。今回は「日本もフィリピンも日頃から地震や台風に備えておくことが大切だ」と締めくくって、何とかレッスンを終えることができました。つい先日も台風6号(チャンミー)が日本を通り過ぎたばかり。自然災害に対しては、少なくとも心構えだけはしておくべきかと思います。最後に1句 台風に いてこまされる 日比かな※「いてこます」は「危害を加える」という意味の関西弁です

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学会抄録のかたちにまとめる その2【「実践的」臨床研究入門】第64回

前回、これまでの連載で取り上げてきたクリニカル・クエスチョン(CQ)からリサーチ・クエスチョン(RQ)への変換とEZR(Easy R)による統計解析の総まとめとして、われわれの仮想研究を学会抄録のかたちにしました。その際にIMRAD形式と構造化抄録の違いを概説し、構造化抄録の典型的な構成要素として、Background、Objective、Design、Setting、Patients/Participants、Intervention/Exposure、Measurements、Results、Conclusionsの9つを挙げました。この9つに加えて、Limitation(研究の限界)を独立した見出しとして掲げる構造化抄録のパターンもあり、Annals of Internal Medicineをはじめとする一部のトップジャーナルが推奨する様式に採用されています。研究結果を批判的に吟味するうえでは、研究の限界を本文だけでなく、抄録の段階から明示しておくことが重要だと考えられています。では、Limitationには何を書けば良いのでしょう。「サンプル数が小さい」「単施設研究である」と一般論を並べるだけでは不十分です。読者が「研究結果をどの程度信用できるのか」「どの集団・どのセッティングに一般化できるのか」を判断する材料として、研究結果に系統的な歪み(バイアス)をもたらす要因を、その方向性や大きさの推定とともに示す必要があります。そこで、今回は「誤差」と「バイアス」の概念を整理して解説します。誤差とバイアス誤差(error)とは、観察された値と真の値(神のみぞ知る)との違いを指します。誤差は、その性質によって偶然誤差(random error)と系統誤差(systematic error、広義のバイアス)に分けられます(図1)。両者の違いは、誤差の方向性に一貫した偏りがあるかどうかにあります。偶然誤差はランダムに、つまり方向性はなく発生しますが、系統誤差は一定の方向性をもって発生します。身近な例として、聴診法による血圧測定を考えてみましょう。検者・時間・血圧計を一定にしても、被験者の血圧そのものが変動するため、測定値はばらつきます。これが偶然誤差です。一方、検者の聴力に難があったり、血圧計が故障していて常に低めに表示するのであれば、測定値は一定の方向に偏ります。これが系統誤差です。図1.誤差とバイアス画像を拡大する系統誤差と偶然誤差は、精度(信頼性)と正確度(妥当性)という概念と対応します。偶然誤差が小さい研究は精度が高く、系統誤差が小さい研究は正確度が高い、と整理できます。図2は射的の的を用いてこの関係を図示したものです。弾痕の散らばりが小さければ精度が高く、弾痕が的の中心(真の値)に近ければ正確度が高い、ということを示しています。臨床研究で目指すべき理想像は、精度も正確度もともに高い、図の右端の状態です。図2.精度(信頼性)と正確度(妥当性)の関係画像を拡大する精度は統計学的に評価できます。サンプルサイズを大きくすれば信頼区間が狭くなり、精度が向上します。一方、正確度は統計だけでは評価できません。研究デザインの段階から、対象者の選定、測定方法、測定条件を慎重に設計する必要があります。広義のバイアス(系統誤差)は、さらに「狭義のバイアス」と「交絡」とに分けて考えることができます。狭義のバイアスには、選択バイアスと情報バイアスが含まれます。両者の違いは、データ取得後の解析段階で制御できるかどうかです。交絡は、調整に必要な変数が測定されていれば多変量解析などによって解析段階でも制御可能です。しかし、狭義のバイアスは解析段階では制御不能であり、研究計画時に十分な対策を講じる必要があります。それでもなお残る限界については、論文のLimitationで誠実に開示するほかありません。なお交絡因子とその制御については、詳細は別稿に譲ります(連載第45回など参照)。

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第65回 「禁煙したら電子タバコ?」その選択が肺がんリスクを高めるかもしれない理由

「タバコをやめたいけれど、いきなりは難しい。だったら電子タバコに切り替えれば安心なのでは?」そう考える方は少なくないでしょう。電子タバコは燃焼を伴わないため、紙巻きタバコより害が少ないと宣伝され、一部の国では禁煙補助具としても用いられてきました。しかし、本当に「より安全な選択肢」と言い切れるのでしょうか。今回ご紹介する論文は、韓国の国民健康保険データを用いて約450万人の喫煙経験者を追跡し、禁煙後の電子タバコ使用と肺がんリスクとの関連を検証した、世界最大規模の研究です。450万人を追跡した大規模研究の方法研究は、2018年に韓国の国民健康診断を受け、2012〜14年の記録が残る喫煙経験のある成人約452万人を対象としました。喫煙状況は「現在喫煙者」「短期禁煙者(最近4〜6年以内に禁煙した人)」「長期禁煙者(少なくとも4〜6年以上前から禁煙していた人)」に分類され、電子タバコの「毎日使用」が禁煙後の電子タバコ使用と定義されています。追跡は2023年末まで続き、累計2,418万人・年の観察期間で3万5,887件の肺がん発症と1万2,807件の肺がん死亡が記録されました。年齢・性別・累積喫煙量(パックイヤー)・併存疾患などを調整したうえで、群間のリスクが比較されています。「禁煙したあと電子タバコ」のリスクは想像以上結果は、なかなか衝撃的なものでした。電子タバコも含めて完全に禁煙した群と比較し、禁煙後に電子タバコを使い続けた群では、肺がん発症リスクが56%増加(調整ハザード比[aHR]:1.56、95%信頼区間[CI]:1.24~1.97)、肺がん死亡リスクは2倍に高まっていました(aHR:2.00、95%CI:1.28~3.15)。短期禁煙者でも長期禁煙者でも傾向は一致しており、年齢50〜80歳・喫煙20パックイヤー以上の「肺がん検診対象のハイリスク群」では、肺がん発症が約1.9倍、肺がん死亡も約1.9倍と、より顕著でした。一方で、現在喫煙者と比較すれば、禁煙後の電子タバコ使用者でも総死亡リスクは有意に低下していました(aHR:0.77)。つまり、「紙巻きタバコをやめる」こと自体のメリットは完全には消えませんが、「電子タバコを続けてしまうと、せっかくの禁煙による肺がん予防効果がかなり目減りしてしまう」と読み解けるのです。電子タバコのエアロゾルにはホルムアルデヒドや有害金属が含まれ、動物実験ではDNAメチル化変化や肺腺がん発生も報告されており、生物学的にも筋の通った結果といえます。私たちが受け取るべきメッセージ本研究は観察研究であり、因果関係を断定するものではありません。電子タバコの種類や使用期間の詳細、加熱式タバコとの区別、追跡期間の短さなどの限界も率直に述べられています。それでも、450万人という大規模で、これだけ一貫した傾向が示された意味は重いと感じます。日本でも電子タバコや加熱式タバコの使用が広がっています。「やめる代わりに切り替える」という選択は、短期的には吸い込む有害物質の総量を減らすかもしれませんが、肺がん予防という長期的な観点では、完全な禁煙には及ばない可能性が高そうです。禁煙外来やニコチン置換療法といった、医学的に検証された禁煙手段にしっかりとアクセスさせること。そして、いったん禁煙したら電子タバコにも手を出させないこと。地味ですが、こうした選択を患者さんにしてもらう努力が、肺がんを減らす最も確からしい道だと、本論文は私たちに教えてくれています。 1) Kim YW, et al. Electronic cigarette use after smoking cessation and lung cancer risk. Nat Med. 2026 Jun 8. [Epub ahead of print]

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不眠の重症度は日本人の認知症リスクに影響するか?

 睡眠障害は、認知症発症の修正可能なリスク因子である可能性が示唆されている。しかし、不眠症と認知症との関連性は依然として明らかになっていない。神奈川県立保健福祉大学のAung Thet Oo氏らは、高齢者における不眠症の重症度が認知症発症を促進させるかどうかを検討するため、本研究を実施した。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2026年9月号の報告。 本研究は、山梨県都留市の地域住民を対象とした7年間の縦断研究として実施した。2016年1月に機能障害のない65歳以上のすべての住民を対象にベースライン調査を実施し、高齢者5,255人が回答を行った。最長7年間のフォローアップ調査データを収集し、これを分析に含めた。認知症発症は、介護保険データを用いて評価した。不眠症の重症度は、アテネ不眠尺度を用いて測定した。不眠症の重症度と認知症発症との関連性を検討するため、制限付き3次スプラインモデルと時間変動型Cox比例ハザードモデルを用いた解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に認知症を発症した参加者は、878例(16.7%)。・不眠症の重症度と認知症発症リスクとの間に線形の用量反応関係があることが、スプライン曲線より示された。・社会人口統計学的因子および健康特性を調整した後、不眠症の重症度が高いほど認知症発症率が高いことが示唆された(ハザード比:1.02、95%信頼区間:1.00〜1.04)。・性別、年齢、学歴による層別解析およびベースラインから2年以内に認知症を発症した参加者を除外した感度分析の結果は、主要解析の結果と一致していた。 著者らは「日本人高齢者において、不眠症の重症度が高いほど認知症発症リスクが高まることを示す、用量反応関係が認められた。これらの結果は、認知症予防戦略における不眠症の予防とマネジメントの重要性を裏付けている」としている。

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HSV脳炎後の自己免疫性脳炎に注意、2026年GLでフロー新設/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、「細菌性髄膜炎」を取り上げた前編に続き、後編では「単純ヘルペス脳炎」、そしてガイドライン外の重要なトピックである「水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症」について紹介する。【単純ヘルペス脳炎】初期治療の迅速性と診断のゴールドスタンダード 単純ヘルペス脳炎(HSE)も細菌性髄膜炎と同様に「Time is Brain」の疾患である。発熱・意識障害・けいれんでHSEを疑ったら検査結果を待たず、受診から6時間以内にアシクロビル(ACV)投与を開始するのが望ましい。診断のゴールドスタンダードは髄液HSV PCRであり、高感度PCR(リアルタイムPCR)とFilmArray髄膜炎・脳炎パネルは、いずれも実臨床で有用である。FilmArrayは迅速診断に有用だが、検出感度はリアルタイムPCRより劣る可能性がある。なお発症72時間以内はウイルス量が少なく、4〜24%で偽陰性となりうるため、臨床的に強く疑われる場合は治療を中断せず、3〜7日後に再検する。治療はACV 10 mg/kg/回を8時間ごとに点滴静注し、髄液中HSV-DNAが高感度PCRで2回連続して陰性化するまで継続する(免疫正常例14〜21日間、免疫不全例21日間以上が目安)。HSEと自己免疫性辺縁系脳炎の鑑別 HSEは自己免疫性辺縁系脳炎(ALE)と類似の画像を示すため、初期の鑑別が課題となる。鑑別には実臨床で即座に使えるMRIの3基準が有用で、(1)拡散強調画像(DWI)での拡散制限、(2)側頭葉外(島回・前頭葉眼窩面)への病変進展、(3)ガドリニウム造影効果、のいずれも認めない(3基準すべて陰性)場合、感度95%・特異度100%でHSEを否定し、ALEを支持できる。HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE) HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE)は、HSE発症後2週〜3ヵ月に患者の7〜27%で発症し、HSEの治療後に症状の動揺・再燃として顕在化するため注意を要する。ウイルスの再活性化ではなく、ウイルス感染を引き金とした免疫介在性の病態であり、検出される自己抗体は抗NMDA受容体抗体が64〜70%と最多で、約3割は既知抗体陰性(未知の神経表面抗体)である。ガイドラインにはAE post-HSEのフローチャートが新設された。HSE治療後に症状の動揺・新規出現・再発がみられた場合は、まず速やかにACVを再開し、髄液HSV-DNAの高感度PCRを再検する。陰性でAEが疑われれば神経表面抗体スクリーニングを実施し、初期免疫療法(ステロイドパルス[IVMP]・IVIg・血液浄化療法)へ移行する。臨床像は年齢で異なり、乳幼児(4歳以下)では舞踏アテトーゼやジスキネジア、4歳以上の小児・成人では急性発症の異常言動・精神症状・認知機能低下が前景に立つ。HSEの後遺症とサポート HSEは適切なACV治療を行っても予後は楽観できず、生存者の18〜45%に高度な後遺症が残る。その内訳は記憶障害が34〜69%と最多で、次いで人格障害・失語・てんかん・見当識障害・嗅覚障害などがみられる。これらはQOLに甚大な影響を与えるため、認知療法・行動療法・理学療法・作業療法・言語療法を含む多角的なリハビリテーションの継続が望まれる。臨床で急増する水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症(ガイドライン外) 本講演では、神経領域で重要性が増している新たなトピックとして、ガイドライン外である水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)中枢神経感染症についても中嶋氏が補足した。VZV感染は高齢化と免疫抑制薬の普及を背景に実臨床で急増しており、中嶋氏らの自施設における10年間(2013~22年)の解析では、成人の無菌性髄膜炎のうちVZVが約30%を占め、原因が判明した症例の中で最多であった。 診断上のピットフォールとして、VZV中枢神経感染症の約13%は特徴的な皮疹を伴わない(無疹性帯状疱疹、zoster sine herpete)。皮疹がなくとも、激しい頭痛・発熱や神経痛様疼痛があれば躊躇なく髄液PCR(VZV-DNA)を行う必要がある。また70歳以上ではVZV脳炎が増加する一方、50歳以上では頭痛・項部硬直が乏しく診断が遅れやすい。さらにVZVは血管壁に感染して炎症・血管リモデリングを起こすと考えられ、感染後数ヵ月は脳卒中リスクが上昇する。とくに眼部帯状疱疹ではそのリスクが高く(メタ解析でRR 1.91)、発症後6ヵ月間は脳血管イベントを監視する必要がある。すべての臨床医へ:「疑ったらまず治療」―予後を握る初期対応 細菌性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、そしてVZV中枢神経感染症は、いずれも早期診断・早期治療が転帰を決定するTime is Brainの疾患である。中嶋氏は本ガイドラインについて、「これらの疾患を専門とする医師だけでなく、プライマリケアや救急などを担当する多くの医師も鍵を握っています。『疑ったら、検査結果を待たずにまず治療を始める』―細菌性髄膜炎は1時間以内、単純ヘルペス脳炎は6時間以内、という大原則を心に留めていただければと思います。新しい診断ツールや知見を柔軟に活用しつつ、迷ったときに頼れる身近な一冊として、日常診療のそばに置いていただけたら幸いです」と展望を述べた。

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CDK4/6阻害薬治療後のER+/HER2-進行乳がん、giredestrant+エベロリムスがPFS2を改善(evERA BC)/ASCO2026

 CDK4/6阻害薬+内分泌療法後のエストロゲン受容体陽性(ER+)/HER2陰性(HER2-)進行乳がんに対して、新規経口SERDであるgiredestrant+エベロリムスを標準的内分泌療法+エベロリムスと比較した国際共同無作為化非盲検第III相evERA BC試験において、無増悪生存期間(PFS)が有意かつ臨床的に意義のある改善を示したことはすでに報告されている(ESMO2025)。今回、探索的評価項目であるPFS2および化学療法フリー生存期間を解析した結果、どちらもgiredestrant+エベロリムスで改善が示されたことを、米国・Memorial Sloan-Kettering Cancer Center and Weill Cornell Medical CollegeのKomal L. Jhaveri氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)で発表した。・対象:CDK4/6阻害薬+内分泌療法の治療中もしくは治療後に病勢進行/再発が認められたER+/HER2-進行乳がん(進行がんに対する内分泌療法は2ライン以下、化学療法なし)・試験群:giredestrant(30mg1日1回経口)+エベロリムス(10mg) 183例・対照群:医師選択の内分泌療法(エキセメスタン/フルベストラント/タモキシフェン)+エベロリムス 190例・評価項目:[主要評価項目]ESR1変異陽性患者および全体集団における治験責任医師評価によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)など[探索的評価項目]PFS2、化学療法フリー生存期間、病勢進行後治療 主な結果は以下のとおり。・PFS2は、全体集団、ESR1変異陽性集団、ESR1変異陰性集団のすべてでgiredestrant+エベロリムス群が長く、ハザード比(HR)は順に0.69(95%信頼区間[CI]:0.51~0.92)、0.61(同:0.40~0.93)、0.77(同:0.51~1.17)であった。giredestrant+エベロリムス群のPFS2中央値は、全体集団およびESR1変異陽性集団で19.02ヵ月、ESR1変異陰性集団で17.25ヵ月であった。・化学療法フリー生存期間においても、全体集団、ESR1変異陽性集団、ESR1変異陰性集団のすべてでgiredestrant+エベロリムス群が長く、HRは順に0.61(95%CI:0.47~0.78)、0.46(同:0.32~0.66)、0.80(同:0.57~1.14)であった。・OSの中間解析では、giredestrant+エベロリムス群で良好な傾向がみられ、OS中央値は全体集団、ESR1変異陽性集団、ESR1変異陰性集団とも未到達であった。・後治療は、各群でおおむねバランスが取れており、現在の標準治療を代表するものだった。

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ロルラチニブのALK陽性肺がん1次治療、7年後もPFS中央値に到達せず(CROWN)/ASCO2026

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)における1次治療で、ロルラチニブは7年後も無増悪生存期間(PFS)中央値に到達せず、7年PFS割合は50%を超えた。 進行ALK陽性NSCLCの1次治療としてロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相CROWN試験の7年フォローアップの結果をTony S. K. Mok氏(中国・香港中文大学)が米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)で発表した。本研究結果はAnnals of Oncology誌に同時掲載されている。 2024年の5年追跡ではロルラチニブ群のPFS中央値は未到達、5年PFS割合は60%であった(ハザード比[HR]:0.19、95%信頼区間[CI]:0.13~0.27)。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IVのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者(無症状の中枢神経系[CNS]転移は許容)・試験群:ロルラチニブ(100mg/日)・対照群:クリゾチニブ(250mg×2/日)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、治験担当医師評価によるPFS、奏効割合、頭蓋内奏効割合、奏効期間、頭蓋内奏効期間、頭蓋内病変進行までの期間、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ロルラチニブ群の追跡期間中央値は83.0ヵ月、クリゾチニブ群は77.2ヵ月であった。・ロルラチニブ群のPFS中央値は未到達、クリゾチニブ群は9.1ヵ月で、7年PFS割合はロルラチニブ群55%、クリゾチニブ群は3%であった(HR:0.19、95%CI:0.13~0.26)。・疾患進行の多くは最初の2年間に発生しており、ベースラインと2年PFS割合の差は30%、2年と7年PFS割合の差は15%であった(2年時70%、7年時55%)。・投与開始から2年間PFSイベントがなかった患者に絞った7年PFS割合は79%で、全体評価よりも良好であった。・CNS転移の7年PFS(IC-PFS)割合はロルラチニブ群92%、クリゾチニブ群16%であった(HR:0.06、95%CI:0.03~0.12)。・ベースラインでCNS転移がなかった患者におけるロルラチニブ群の7年IC-PFS割合は96%と全体集団よりもさらに良好であった(HR:0.04、95%CI:0.02~0.12)。・有害事象は高脂血症、浮腫、体重増加、認知機能障害など既知のもので、最も多いのは高脂血症であった。・ロルラチニブ群では34%の患者が減量を行った。減量時期の中央値は25週であった。・26週間以内に減量した群と減量しなかった群を比較してもPFS、IC-PFSとも差は認められなかった(PFS中央値、IC-PFS中央値とも両群未到達)。・早期進行患者と長期奏効患者のベースラインctDNAを比べたところ、早期進行患者では異常遺伝子が多く(10 vs.6)、腫瘍変異負荷も高かった(7.7 vs.5.1)。TP53変異は早期進行患者では50%、長期奏効患者では17%に確認された。 この発表について会場から多くの質問が寄せられている。その中から、OSが示されていないことについては、イベント数が中間解析の評価に必要な数に達していないためであるとMok氏は回答した(評価に必要なイベント数139例に対し、評価時のイベントは123例)。ctDNAによる遺伝子検査の可能性については、現状は一部の患者だが今後さらに遺伝学的情報を調べていく旨を示している。 今回の7年追跡結果から、ロルラチニブによる単剤治療は、進行ALK陽性NSCLCを慢性疾患に変化させる可能性がある、とMok氏は結んだ。

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肥満や食嗜好に関係する社会的要因は何か/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病では肥満を併存している人が多いが、肥満や食嗜好と社会的要因にはどのような関係があるのであろうか。本稿では、シンポジウム1「肥満合併糖尿病の臨床の最前線」より「肥満・食嗜好と健康の社会的決定要因との関連」をお届けする。SDOHから考える肥満症診療 肥満と関連する食嗜好や社会的要因にはどのようなものがあるだろう。このテーマについて、「肥満・食嗜好と健康の社会的決定要因との関連~日本人2万例のデータから~」をタイトルに小幡 佳也氏(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学)が日本人2万例の大規模データを解析し、肥満・食嗜好・健康の社会的決定要因(Social determinants of health:SDOH)の関連について調査を行った。 健康は生物学的要因(遺伝、性、年齢など)だけでなく社会経済的状況や教育、居住する地域の社会的・物理的環境などによっても決まる。これらを“SDOH”と言い、多くの疾患との関連が知られている。肥満も例外ではない。肥満は、健康的な食習慣に関する知識不足や努力不足といった個人の自己責任によるものではなく、さまざまな社会的要因によって影響を受けるとされている。しかし、海外からの報告が多い一方で、わが国の大規模研究は少なく、エビデンスは限られている。また、食嗜好のずれや偏りが肥満と関連することが示唆されているが、SODHと食嗜好との関連に関するエビデンスも乏しい。そこで今回、小幡氏らのグループは、日本人において、SDOH・食嗜好・肥満、これらの関係性を明らかにするために横断研究を行った。 研究グループは、20~69歳の2万人に無記名でWEBアンケート調査を実施し、その内容を検討した。食嗜好の評価には、大阪大学で新たに開発した食嗜好質問表(Japan Food Preference Questionnaire:JFPQ)1)を使用した。これまで日本人に適した食嗜好の評価ツールは限られていたが、JFPQは、日本人になじみのある25食品で構成され、これらを栄養学的根拠に基づき、甘い/甘くない糖質群、甘い/甘くない脂質群、タンパク質群、食物繊維群に分類・スコア化することで、日本人の食嗜好を包括的かつ定量的に評価することができるのが特徴である。スコアが高いほど「嗜好性が高い」と判断される。大阪大学医学部附属病院では、患者にタブレット端末を用いて回答してもらうことで、結果を瞬時にレーダーチャートで表示し、栄養指導の現場などで活用しているという。 対象者は、男性7,417例、女性5,676例で平均年齢は47.6歳。平均BMIは22で、25以上の肥満割合は全体の約20%だった。 主な結果は以下のとおり。・食嗜好と肥満の関連について、男女ともに、甘くない脂質群の嗜好性が高いほどBMIが高値だった。食品別では、男女ともに脂質群に含まれる食品に加え、甘い糖質群に含まれるソフトドリンクの嗜好性、さらに男性では甘くない糖質群に含まれるそば・うどんの嗜好性が高いほどBMIが高値だった。また、食物繊維群、とくに野菜の嗜好性は低いほどBMIが高値だった。・SDOHと肥満との関連について、男性では、労働時間が長い、1週間当たりの夜12時以降の就寝回数が多い、学歴が低いことが、それぞれ独立してBMI値25以上と有意に関連していた。また、夜12時以降の就寝回数が多いことに加え、未婚、低所得がBMI値30以上と関連していた。女性では、非就労であることがBMI値25以上と関連し、労働時間が長いことがBMI値30以上と関連していた。また、夜12時以降の就寝回数が多い、中・低所得であること、低学歴であることもそれぞれ独立して肥満と有意に関連していた。・SDOHと食嗜好との関連について、男性では、肥満と関連した長時間労働、夜12時以降の就寝回数、未婚、低所得は糖質・脂質の嗜好性の高さと有意に関連し、低学歴は食物繊維の嗜好性の低さと有意な関連がみられた。女性では、肥満と関連した長時間労働、低所得が糖質・脂質の嗜好性の高さと有意に関連し、中所得が食物繊維の嗜好性の低さと関連がみられた。 これらの結果から研究グループは、「肥満と関連するさまざまなSDOHが、肥満と関連する食嗜好のずれや偏りとも関連を認められた。このことから、食嗜好は単なる個人の好みではなく社会的要因によっても影響を受けることが示唆され、そのずれや偏りが、肥満の形成に寄与している可能性がある」と結論付けている。 近年では米国糖尿病学会(ADA)や米国心臓協会(AHA)でもSDOHが注目されている一方で、日本糖尿病学会や日本肥満学会におけるSDOHの認知度や注目度は必ずしも高くない。しかし、糖尿病や肥満こそSDOHに注目することが重要である。SDOHを理解することは、一人ひとりの社会背景に応じた診療支援につながり、患者への陰性感情やスティグマの払拭にもつながると考えられる。 おわりに小幡氏は「今回の検討により、肥満と関連する食嗜好(食べたい気持ち)すら、社会的影響を受けていることが示唆された。このような疾患のより上流にあるSDOHをそのままにし、一人ひとりの意志や努力に働きかけるアプローチだけでは限界がある。人々が健康によい行動を取りやすい、支援的な社会環境に変えていくことが必要であり、医療や福祉を超えて、社会全体で取り組む必要がある。糖尿病や肥満の専門家である医師もこの重要性を認識し、日本人におけるさらなるエビデンスの蓄積や、効果的な具体策についての研究が求められる」と語った。

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降圧薬の有害事象による中止、薬剤クラスで差/JAMA

 降圧薬に関する短期の二重盲検無作為化試験における有害事象や治療中止の発現は、薬剤クラスやレジメンによってばらつきがあり、一部の併用療法では単剤療法と比べて忍容性が優れることが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のNelson Wang氏らによるネットワークメタ解析の結果で示された。レジメンの中には、プラセボよりも有害事象による治療中止率が低く、症状の改善が示されたものもあった。得られた知見について著者は、「試験レベルに基づく結果であり、またネットワークメタ解析の前提条件に依存しているため、すべての患者に適用されるものではない」と述べている。JAMA誌オンライン版2026年5月28日号掲載の報告。4~26週のRCTデータをネットワークメタ解析で評価 研究グループは、短期臨床試験における主要5クラスの降圧薬(ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬)とそれらの併用療法について、有害事象と治療中止について評価した。 創刊日~2024年12月31日のCochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Epistemonikosを検索し、主要5クラスの降圧薬またはそれらの併用療法に関する二重盲検無作為化試験(追跡期間は4~26週)を特定した。 2人のレビュワーがそれぞれデータを抽出し、固定効果ネットワークメタ解析にて薬剤クラスごとにデータを統合し、オッズ比(OR)と95%信用区間(CrI)および累積順位曲線下面積(SUCRA)を用いて要約を行った。 最終統計学的解析は、2026年4月に実施された。主要アウトカムは、有害事象による治療中止(無作為化された治療の中止と定義)。副次アウトカムは、頭痛、めまい、浮腫、咳の発現などであった。5つの併用療法、2つの単剤療法がプラセボよりも忍容性が優れ、症状を改善 計716試験が解析対象に含まれた。平均追跡期間は8.6(SD 5)週間、被験者は計15万9,362例であり、平均年齢は54.6(SD 7)歳、女性44%、ベースラインの平均血圧値は158/100mmHgであった。12試験に日本人が含まれた。 プラセボとの比較において、有害事象による治療中止率が有意に増加したのはCa拮抗薬(OR:1.43[95%CrI:1.23~1.67]、リスク群間差[RD]:1.2%[95%CrI:0.6~2.0])、ACE阻害薬+Ca拮抗薬(OR:1.46[1.13~1.87]、RD:1.1%[0.2~2.4])、β遮断薬+サイアザイド系利尿薬(OR:1.58[1.04~2.47]、RD:1.7%[0.1~4.3])であった。 ARBを含むすべてのレジメンは、プラセボとの比較において、有害事象による治療中止例が少なかった。統計学的に有意差が認められたのは、ARB単剤(OR:0.73[95%CrI:0.61~0.86]、RD:-0.8%[95%CrI:-1.3~-0.4])、ARB+Ca拮抗薬(OR:0.61[0.47~0.79]、RD:-1.2%[-1.8~-0.6])であった。 ネットワークメタ解析により、5つの併用療法と2つの単剤療法が、有害事象による治療中止に関してプラセボよりもSUCRA値が高く(上位からARB+Ca拮抗薬、ARB+β遮断薬、ARB単剤、Ca拮抗薬+サイアザイド系利尿薬、ARB+サイアザイド系利尿薬、サイアザイド系利尿薬、ARB+Ca拮抗薬+サイアザイド系利尿薬)、プラセボと比較して全般的な症状改善が示唆された。 プラセボと比較して、すべてのレジメンでめまいが有意に増加したが、頭痛はCa拮抗薬を含む3レジメン(Ca拮抗薬、ACE阻害薬+Ca拮抗薬、β遮断薬+Ca拮抗薬)を除いて、すべてのレジメンで有意に減少した。

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PD-L1陽性胃がん、周術期serplulimab療法でEFS改善(ASTRUM-006)/Lancet

 切除可能なPD-L1陽性胃がんまたは胃食道接合部腺がんにおいて、術前S-1+オキサリプラチン(SOX)+術前・術後serplulimabは、術前・術後SOX単独と比較して無イベント生存期間(EFS)を改善し、安全性プロファイルは良好であることが示された。中国・北京大学がん病院・研究所のLin Shen氏らASTRUM-006 Study Groupが無作為化二重盲検多施設共同の第III相試験「ASTRUM-006試験」の結果を報告した。先行研究で周術期免疫化学療法は、胃がんまたは胃食道接合部腺がんにおいてさまざまなアウトカムを示している。今回の試験結果を踏まえて著者は、「術後の化学療法スペアリングに対するserplulimab+SOXによる周術期療法の優位性を確立するためには、さらなる追跡調査による全生存期間(OS)のデータが必要である」と述べている。Lancet誌オンライン版2026年6月1日号掲載の報告。術前serplulimab+SOX→術後serplulimabのEFSを評価 ASTRUM-006試験は、中国およびタイの75病院で患者をスクリーニングして行われた。18~70歳、PD-L1 CPS(Combined Positive Score)≧5の切除可能な胃がんまたは胃食道接合部腺がんの適格患者を、術前補助療法としてserplulimab(4.5mg/kgをday1に静脈内投与)+SOX(オキサリプラチン130mg/m2をday1に静脈内投与+S-1 40~60mgをday1~14に1日2回経口投与)を3サイクル(1サイクル21日)受け、術後補助療法としてserplulimab単独を最長17サイクル受ける群(serplulimab群)、または術前にSOX+プラセボを3サイクル受け、術後にSOXを5サイクル受ける群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要評価項目は、試験担当医師の評価によるEFS(無作為化から病勢進行または局所再発あるいは遠隔再発、新たな悪性腫瘍、死亡までの期間として定義)。有効性の評価は、最初にPD-L1 CPS≧10の集団で行い、次いでITT集団(CPS≧5)で行った。PD-L1 CPS≧10集団、ITT集団(CPS≧5)でEFSが有意に延長 2019年11月26日~2024年4月19日に、1,646例がスクリーニングされ、そのうち中国の57病院で588例がserplulimab群(292例)またはプラセボ群(296例)に無作為化された。588例は年齢中央値61.0歳(四分位範囲[IQR]:55~66)、女性124例(21%)、男性464例(79%)であった。 追跡期間中央値42.7ヵ月(IQR:24.3~53.6)において、PD-L1 CPS≧10集団におけるEFS中央値は、serplulimab群がプラセボ群よりも有意に延長した(未到達vs.42.0ヵ月、ハザード比[HR]:0.65[95%信頼区間[CI]:0.47~0.90]、p=0.0082)。 また、追跡期間中央値35.9ヵ月(IQR:23.5~49.4)において、ITT集団(CPS≧5)におけるEFS中央値も、serplulimab群がプラセボ群よりも有意に延長した(未到達vs.35.9ヵ月、HR:0.73[95%CI:0.56~0.94]、p=0.015)。 Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現は、serplulimab群で136例(47%)、プラセボ群で172例(59%)報告された。治療中止に至ったTRAEは、各群19例(7%)および31例(11%)に認められた。

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米国、麻疹排除国の地位を失う瀬戸際に

 米国が麻疹(はしか)排除国としての地位喪失に急速に向かっていることが、新たな研究で示された。米国は2000年に麻疹排除の達成を宣言したが、同年に米疾病対策センター(CDC)が設定した麻疹排除状態の維持の7つの指標のうち4項目を満たせていない状況にあるという。この研究は米ボストン小児病院の小児科医で博士研究員のAnne Bischops氏らのグループによるもので、詳細は、「The Lancet」に5月2日掲載された。Bischops氏は、「米国が2026年中に麻疹排除国の地位を失う可能性は極めて高いと考えられる」と結論付けている。 世界保健機関(WHO)によると、重症の麻疹感染は命に関わる肺炎や脳炎を引き起こす可能性がある。また、視力や聴力に長期的な障害が残ることもある。論文の上席著者であるボストン小児病院のMaimuna Majumder氏は、「麻疹は回復したとしても、生涯にわたる問題が残る可能性がある。特に1歳未満の乳児は重篤な合併症のリスクが極めて高い。この流行で感染した子どもが受ける真の影響は何年も経過してから初めて明るみに出るかもしれない」とニュースリリースで述べている。  本研究の背景情報によると、米国で最近相次いでいるアウトブレイクは2025年1月にテキサス州から始まり、その後45州に広がった。研究グループは今回、現在の米国の状況を、CDCの国家予防接種プログラムが定めた、麻疹排除状態が維持されているかを評価する7指標と照らし合わせた。その結果、7項目のうち4項目が既に排除維持の基準を満たしていないことが明らかになった。・麻疹罹患率が低い:患者数は人口1000万人当たり1例未満米国では2026年初頭の時点で人口1,000万人当たり93.2例が報告されている・麻疹症例の大多数を国外から持ち込まれた症例が占めている2025年初頭以降、国外由来の症例は全体の6~7%に過ぎず、大半は国内感染例であった。・アウトブレイクの発生数が少なく(中央値が年間4件以内)規模が小さい(1回のアウトブレイクの症例数が中央値6例)米国では2025年には48件のアウトブレイクが発生し、2,000例超の感染例が報告された。今年もすでに19件のアウトブレイクが発生し、1,600例超の感染例が報告されている。・伝播レベルが低い:1人の感染者が平均して1人未満に感染させる2025年初頭以降の期間の75%以上でこの基準を超えていた。 また、残る3つについても悪化傾向が認められた。・感染源不明症例が4週連続で発生していない2025年1月の最初の感染例以降、米国では4週連続で症例報告がなかった期間は一度もなく、また全体の90%が国内感染例だった。・ワクチン接種による集団免疫集団免疫の達成には95%の人々が2回の麻疹ワクチン接種を受ける必要があるが、2024~2025年度の米国の幼稚園児の平均接種率は92.5%、6~59歳における麻疹抗体保有率(2017~2020年)は95.7%だった。・国内に定着して持続的に感染を広げている麻疹ウイルス株がない大多数の症例でウイルスの遺伝子型が同一であり、多くが同一配列を有していることから、同じ系統のウイルスが国内で伝播している可能性が示唆されている。 この研究結果は、今後開催予定の汎米保健機関(PAHO)の感染症専門家委員会にも影響を及ぼす可能性がある。同委員会は11月の会議で米国の麻疹排除国としての地位の再評価を予定している。なお、研究グループによると、カナダは2025年11月に麻疹排除国の地位を失っている。 「こうした流れを食い止めるには、ワクチン接種の取り組みを強化し、接種免除率を低下させ、現在も広がりつつある地域内感染を断ち切ることが不可欠だ」と研究グループは主張している。

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肥満治療のついでにアルコール使用障害も治せる時代が来る? セマグルチド第III相試験の衝撃(解説:永井聡氏)

 肥満症や糖尿病治療の日常臨床では、アルコール使用障害(AUD)の患者にも多く遭遇する。“非”アルコール性である“代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)”では、GLP-1関連薬の効果が期待されている一方、アルコール関連肝疾患(ALD)では「お酒を控えて…」などの一言二言では、まず効果は期待できない。ALDの背景にあるAUDについて治療施設へ受診を勧めても受診が進まず、日常診療でもうまくいかないことが多い。 しかし、セマグルチド投与により「自然と飲酒量が減った」「酒への強い欲求がなくなった」といった事例が報告され、セマグルチド1.0mgのAUDに対する第II相臨床試験(48例、9週間投与)では、アルコール消費量や飲酒に対する「飲酒渇望(craving)」が減少することが報告されていた1)。 今回セマグルチド2.4mgを用いた第III相試験である26週のRCTがLancet誌に報告され、主要エンドポイントである「大量飲酒の日数」が有意に減少し、総アルコール摂取量、飲酒日当たりの飲酒量、飲酒渇望なども減少していた。  この効果は単なる「胃排泄遅延による物理的な飲酒量低下」ではなく、セマグルチドが脳内のドパミン報酬系(腹側被蓋野や側坐核など)に直接抑制的に作用し「飲んでもおいしくない」状態をつくり、アルコールへの強烈な「渇望」が抑制される中枢神経作用が関与していることが基礎研究を含め指摘されている。肥満症治療での「脂っこいものを食べたくなくなる」ことと同様の分子メカニズムと考えられている。 主要エンドポイントのNNTは4.3であり従来のAUD治療薬のNNT>7よりも高く、AUD治療に新たな選択肢として期待される。では、内科でもAUDが肥満症の“ついでに”治療できるようになるのか? というとそれは、まだ時期尚早である。本研究がAUD治療施設で標準的な認知行動療法とともにセマグルチドの投与が行われており、“単に”セマグルチドだけが投与されたわけではない。肥満症でも認知行動療法が重要であることと同様である。また、本研究は、BMI≧30が対象であり、非肥満AUD患者でも安全に同様の治療効果があるのかは明らかではない。26週の投与終了後も、大量飲酒が長期に抑制されるのかについても今後の検証が必要である。 肥満症においては薬物治療中止後の体重のリバウンドは、認知行動療法プログラム中止後よりもはるかに早いことが知られている2)。自由診療での“肥満”治療が、認知行動療法や食事・運動療法を欠いたGLP-1関連薬に“薬物依存”する“危うい現実”を踏まえれば、AUDに対する“安易な”GLP-1関連薬の展開は新たなGLP-1関連薬“依存症”を招きかねない。まさに“元の木阿弥”となってしまうであろう。 GLP-1関連薬は、AUD以外にも喫煙やその他さまざまな依存症への治療が期待されている。しかし野放図に処方されれば、新たな社会問題を来しかねない。肥満症も依存症治療も医学的社会的寛解を達成しうる妥当なパラダイムシフトを願うばかりである。

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AI診断支援とImplementation:TRICORDER試験(解説:香坂俊氏)

 前回の稿では、外傷診療におけるImplementation Science(実装科学)という考え方を取り上げた。今回は、AI診断支援技術の実装を検証したTRICORDER試験についてご依頼をいただいたので、循環器診療の現場に引き寄せながら、少し考えてみたい。 TRICORDER試験で扱われたのはAI聴診器である。心不全、心房細動、弁膜症といった循環器疾患を、日常診療の中で早く拾い上げるための支援技術として、非常に魅力的で、ある意味自然な発想である。しかし、この試験のintention-to-treat解析では、これらの疾患の新規診断は有意には増加せず、心不全診断の場も地域診療側へはシフトしなかった。 一見すると否定的な結果に見えるが、AI医療機器の実装を考えるうえでは、むしろ示唆に富む結果ではないだろうか。実際にAI聴診器が使用された患者群では、心不全、心房細動、弁膜症の診断の実数は増えていた。つまり、技術そのものが機能しなかったというより、「その技術が自然に使われる診療動線が、十分には設計されていなかった」と読むべきなのだろう。 実際、この試験ではAI聴診器の使用は任意であり、別アプリを介して使用し、電子カルテへの自動記録もなかった。12ヵ月時点で約40%の施設が使用を中止していたことも記載されている。現場の医師にとって、診察の流れをいったん止め、別の操作を行い、さらに結果を手入力しなければならない技術は、どれほど優れていても日常診療には入り込みにくい。これは「AIの性能」の問題というより、「手間」の問題であり、さらに言えば、診療者側が徐々に飽きてしまう、あるいは介入の新鮮さが失われていく問題でもある。 かつてわれわれも冠動脈インターベンション(PCI)に関して、術者の先生方へフィードバックを行う介入を検討したことがあるが、その効果は必ずしも長続きしなかった(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/pmid/38660107/)。初回は「なるほど」と受け止めていただける。しかし、2回目、3回目になると、同じ形式のフィードバックではどうしても反応が弱くなる。これはPCIに限らず、新しいデバイス、教育介入、行動変容プログラムに共通する問題なのだと思う。Implementation Scienceで本当に難しいのは、導入時の熱量ではなく、「新しさが失われた後」にどう続けてもらうかである。 前回扱った外傷診療のSerious Game研究との違いも、ここにある。外傷の研究は、医師個人の判断の癖を、反復練習とフィードバックによって少しずつ標準化する介入であった。一方、AI聴診器の導入で問われたのは、医師の認知だけではない。電子カルテ、検査動線、そして診療報酬といった、システム全体の設計である。前者が「判断の癖をどう変えるか」を問う研究だとすれば、後者は「技術が無理なく使われる環境をどう作るか」を問う研究だったといえるのではないか。

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気血水~四君子湯・四物湯・五苓散~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第8回

気血水~四君子湯・四物湯・五苓散~前回は急性熱性疾患の六病位を解説しました。太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病(けっちんびょう)ですね(図1)。図1 六病位画像を拡大する病気が進行する場合には、このようなフレームワークを使えるのですが、病気の進行があまり目立たない慢性疾患の場合に、どのように漢方薬を選んでいくかという話はまだできていません。そのため、今回は気血水を扱いたいと思います。まずは、それぞれの概念から解説していきます。気血水気(き)というのは物質的な裏付けがありません。要するにエネルギーとお考えください。最近は武術だけじゃなくて、漫画やアニメでも「気」という言葉がたくさんでてきます。あのイメージでまったく問題ありません。血(けつ)というのは赤くて循環している液体を指すため、基本的には血液と考えて構いません。実際には血液だけでなく、血液が運んでくる栄養なども血の概念に含まれているため、あまり「血=血液」と考えすぎないほうがスムーズに理解できる事柄もあります。最後の水(すい)は血液以外の体液を指します。気、血、水は互いに独立した概念とまでは言い切れません。たとえば、気は血と水がうまく循環するのに大切なものです。そのため、気血水のどこかに問題が生じると、ほかの要素にも問題が波及するということはよくあります(図2)。図2 気血水画像を拡大する少し哲学的な雰囲気の話になってしまったところもあって、わかりにくい部分もあったかもしれません。そこで、実際の症候で解説しようと思います。気逆、気鬱、気虚まず、気の問題には気逆(きぎゃく)、気鬱(きうつ)、気虚(ききょ)があります(図3)図3 気逆、気鬱、気虚画像を拡大する気逆は、エネルギーが体の下から上に突き上げる現象で、たとえば、吐き気、のぼせがこれに該当します。感冒初期に頭痛がするのも気逆の一種で、葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)に含まれる桂皮(けいひ)がこれを治してくれます。げっぷ、しゃっくりも気逆の一種ですね。気鬱は、体のどこかでエネルギーが痞(つか)えることです。たとえば、胸が痞える感じ。女性のヒステリー球などとよく言いますが、恋の病もこれに該当します。あとは、便秘も「お通じが悪い」って言いますよね。エネルギーの通りが悪いのです。こういったものが気鬱です。最後に気虚。これは簡単で、エネルギー不足のことです。もっとも、この気虚、つまりエネルギー不足はさらに大きく2つに分けることができて、先天的な気の不足と後天的な気の不足に分けられます。RPGでも格闘ゲームでもなんでもいいのですが、体力ゲージ、HPゲージをイメージしてください。最大HPに相当するのが先天的な気で、現在のHPに相当するのが後天的な気です。そうすると、「おにぎり」のような体力回復アイテムで回復できるのは、後天的な気の方になります。先天的な気は、生まれながらにして持っているエネルギーですが、これは腎に宿っていると漢方では考えていて、加齢とともに衰えていきます。この衰えをゆっくりにする漢方薬としては、腎気丸(じんきがん)こと八味地黄丸(はちみじおうがん)というものがあります。一方で、後天的な気というのは、食事と呼吸を通じて日常的に補給していくもので、お腹の調子を整えることが大事になってきます。そのため、後天的な気を補って気虚を治す漢方薬には、腸管に優しい生薬が含まれているんですね。人参(にんじん)はその代表格です(図4)。図4 気虚に対する漢方薬画像を拡大するお血、血虚次に血の異常をみていきます。血の循環が滞っている状態をお血(おけつ)といいます。たとえば、動脈硬化症、血栓症、あとは多血症がこれに該当します。皮下出血もそうです。あと、「血=血液」で捉えるとわかりにくいのですが、肉ばかり食べている方は、顔のお肌がガサガサに荒れてシミや吹き出物が出てきたり、赤ら顔になったりするのです。これもお血に含みます。血が足りていない状態を血虚(けっきょ)といいます。単純に貧血と考えていただいて大丈夫ですが、貧血になると目が霞んできたり、鉄欠乏であれば爪が割れてきたりと、いろいろな症状が出てきます(図5)。また、顔が青白い。こういった症状に対しては、造血機能を高めたり、出血していればそれを止めたりするために、漢方薬が用いられるわけです。たとえば、桂枝湯の回で触れた当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)は血虚に対して使えます。図5 お血、血虚画像を拡大する水毒次は水の異常です。簡単に思い浮かぶのは浮腫ですね。もちろん、浮腫も水毒のひとつです。あとは、雨が降ると頭痛がしたり、めまいがしたりする方がいますよね。あれも水毒です。気象関連片頭痛とか、メニエール病の内リンパ水腫をイメージするとわかりやすいかもしれません。花粉症の時に鼻水が出るのも水毒で、関節液が貯留するのも水毒です。胃に水がたまってポチャポチャするのも水毒です(図6)。要は水が絡んでいて、その水が赤くない。つまり血でないのなら、水毒と考えておおむね差し支えありません。そう考えると、結構広い概念ですね。図6 水毒画像を拡大する四君子湯、四物湯、五苓散ここまで、気血水の異常を説明してきました。漢方診察では、目の前の患者が気血水の異常をそれぞれどのくらいの割合で持っているのか、症状や身体所見から考えます。それをもとに、漢方薬を選んでいくという話になってくるわけです。ここで、気血水の異常を治す漢方薬として、絶対に知っておきたい漢方薬を3種類だけ紹介しておきたいと思います。それは四君子湯(しくんしとう)、四物湯(しもつとう)、五苓散(ごれいさん)です。私がナンバーズ3兄弟と呼んでいるものです。四君子湯は気虚、四物湯は血虚、五苓散は水毒を治す漢方薬ですが(図7)、それぞれに含まれている生薬を覚えるだけで、この先に出てくる気血水向きの漢方薬を簡単に理解できるようになります。図7 ナンバーズ3兄弟画像を拡大するまとめ今回の内容をまとめていきます。急性熱性疾患の六病位というフレームワークとは別に、今回は慢性期疾患でも使える気血水を説明しました。気血水の異常には、気逆、気鬱、気虚、お血、血虚、水毒が挙げられます。診察時には、症状や所見からこれらのどれに当てはまるのかを観察してから漢方薬を選びます。本連載はここまでとなります。ここから先は、CareNeTVの「Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬」で、ナンバーズ3兄弟の助けを借りながら、気血水の異常を各論で学んでいきます。ぜひ入会してご覧ください。

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第319回 「はや骨抜き」報道の診療所開業規制、「重点医師偏在対策支援区域」での開業支援も実効性に疑問

自治体が二の足を踏み、開業規制は今のところほとんど進まずこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今シーズン、東京ヤクルトスワローズからMLBのシカゴ・ホワイトソックスに移籍し、アメリカン・リーグの本塁打、打点の2部門でトップに立っていた村上 宗隆選手は、5月29日(現地時間)のデトロイト・タイガース戦で、2塁ゴロを打ち1塁へ走り抜けたところ、右太ももの裏側(ハムストリング)を負傷し途中交代しました。その後、故障者リスト入りしましたが、6月1日、再生医療の一種である「PRP療法」を行ったとの報道がありました。PRP(Platelet-Rich Plasma)は多血小板血漿のことです。血小板は周りの細胞に働きかけて組織の修復を促す働きを持っていることから、その作用を利用して損傷している組織の修復を促すというのがPRP療法です。患者自身から採血を行い、採取した血液から血小板を抽出・濃縮し、それを患部に注射して行います。ロサンゼルス・エンゼルス時代の大谷 翔平選手も2018年、右肘の内側側副靭帯を損傷したときにこの療法を受けています。日本でもスポーツ整形を専門とする医療機関などで、変形性膝関節症や腱・靭帯の痛みや損傷などに対して行われています。保険適用はなく、自費診療で行われていますが、その効果については、まだ定まった評価はないようです。何年か前、トレイルランニングが趣味の私の友人も膝を傷めて都内の整形外科でPRP療法を受けましたが、「何ヵ月かして痛みがなくなったが、PRPが効いたのかどうかは正直よくわからない」と話していました。私も左膝の靭帯を損傷し、保存療法の真っ最中です(受傷5週間でもまだ痛い)。村上選手の報道を聞いて一瞬受けてみようかと思いましたが、治療費が高額(施設によりますが1回5〜30万円)なこともあり断念しました。もし村上選手が驚異的な回復を見せ、7月のオールスターゲームのホームランダービーに出場するようなことになったら、再度検討してみようと思います。さて今回は、以前にも書いた外来医師過多区域での診療所の開業規制のその後について書いてみたいと思います。4月から外来診療を担う医師が多い東京都心や大阪市など、9つの二次医療圏を対象候補とする開業規制がスタートしましたが、どうやら自治体が二の足を踏み、「規制」は今のところほとんど進んでいないようです。外来医師過多区域は9つの二次医療圏が候補2026年4月1日からスタートした診療所の開業規制では、都道府県知事が「外来医師過多区域」を指定し、その区域で無床診療所を開設する者に対して事前届出(6ヵ月前までに都道府県へ)や協議・要請を行えるとしています。届出時に、地域でとくに必要とされている外来医療を提供する意向や、提供しない場合はその理由などを示さなければなりません。提供しない意向の場合、都道府県知事は協議の場への参加や説明を求めることになります。「外来医師過多区域」の基準は省令で、外来医師偏在指標が「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上、かつ可住地面積あたり診療所数が全国の上位10%以上に該当する場合とされており、厚労省からは以下の9つの二次医療圏が候補として示されています。1)東京都の区中央部(該当区市町村:千代田区、中央区、港区、文京区、台東区)2)東京都の区西部(新宿区、中野区、杉並区)3)東京都の区西南部(目黒区、世田谷区、渋谷区)4)京都府の京都・乙訓(京都市、向日市、長岡京市、大山崎町)5)大阪府の大阪市(大阪市)6)福岡県の福岡・糸島(福岡市、糸島市)7)東京都の区南部(品川区、大田区)8)東京都の区西北部(豊島区、北区、板橋区、練馬区)9)兵庫県の神戸(神戸市)「5月上旬時点で指定に動いた自治体は一つもなかった」と日経5月10日付の日本経済新聞電子版は「診療所の『開業規制』はや骨抜き? 自治体、対象区域の指定に二の足」と題する記事を掲載、規制の権限を持つ都道府県が「外来医師過多区域」の指定に二の足を踏んでいる状況を報じています。同記事によれば、「すべての都府県が今秋までに地域で不足する医療の内容などを公表し、27年度の開業までに対象区域の指定を間に合わせてほしい」と厚労省の担当者が考えているのに対し、「各地の動きは鈍い。筆者が5都府県に取材したところ、5月上旬時点で指定に動いた自治体は一つもなかった。今後の見通しについても、兵庫県が『秋までには公表したい』との認識を示すにとどまった」とのことです。指定に二の足を踏む理由について同記事は、「一つは対象区域の線引きだ。厚労省は地域医療の基本単位である『2次医療圏』ごとに候補地を選んだ。地域の医師会など利害関係者との調整に支障を来しかねない。例えば京都は京都市、向日市、長岡京市、大山崎町を含む『京都・乙訓』が候補となった。府の担当者は『京都市のほかは医師がたくさんいるわけではない。京都市内でも濃淡がある』と苦慮する。全域を指定しても一部に絞っても反発を招く恐れがある」と書いています。また、診療所の開設許可を政令指定都市や特別区が担う地域では、県は議論を主導しにくいという医療行政の実務上の問題点も同記事は指摘、「地域の綱引き次第では規制が骨抜きとなりかねない」と書いています。過疎地の診療所は「ただ同然も買い手なし」「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」には医師不足地域向けの対策も盛り込まれています。都道府県が指定する「重点医師偏在対策支援区域」で診療所を開業しようとする場合に、施設整備費、設備整備費、開業後の定着支援費などを補助する仕組みです。しかし、そもそもこれからも患者が激減していくであろう地域で、敢えて開業する医師が現れるでしょうか。5月27日付の産経新聞大阪版夕刊に「過疎地の診療所 承継支援 661件消滅 『ただ同然も買い手なし』」と題する記事が掲載されています。同記事は、「帝国データバンクによると、令和7年の全国の診療所の休廃業や解散は計661件で過去最高を更新。経営者の年齢分布では70代以上が全体の半数を超えており、高齢化と後継者不足を背景に今後も診療所の休廃業は高水準で発生し続けるとみている」と全国の傾向を報じるとともに、兵庫県三木市の私立口吉川診療所のケースを紹介、同診療所が3月の閉院以降、後継者が見つからず診療継続ができなくなっている状況をレポートしています。同記事によれば、同診療所は4年前から後継者を探してきたものの結局見つからずじまいで、「医療関係者向けの雑誌に『後継者募集』と記事を掲載したが問い合わせは数件のみ。前向きに購入を検討していた相手もいたが、糖尿病や高血圧症などに関する診療報酬の改定を受けて『採算が取れない』と断られた」と書いています。本連載の「第310回 診療所の開業規制いよいよスタート、厳密な意味での『規制』となっておらず実効性に疑問」では、「『外来医師過多区域』での規制、『重点医師偏在対策支援区域』での経済的インセンティブ、ともに設計が甘く、制度のための制度にしか見えないと感じるのは私だけでしょうか」と書きましたが、この時に危惧したとおり、国からの指示で官僚が現場も見ずに“鉛筆なめなめ”でつくった政策の限界が早くも露呈し始めたようです。

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最低賃金を引き上げると自殺リスクは低下するか?

 2014年以降、米国では薬物中毒と自殺による死亡率の上昇に伴い、平均寿命が低下した。米国・ハーバード大学のYuji Mizushima氏らは、米国における近年の大幅な最低賃金の引き上げが、これらの結果に影響を及ぼしたかどうかを評価した。American Journal of Epidemiology誌オンライン版2026年5月4日号の報告。 2010〜19年のNational Vital Statistics System(NVSS)の死亡データを用いて、25歳以上を対象に、州ごとの最低賃金引き上げの導入状況と教育水準(大学卒以上とそれ以外)による影響の違いを考慮した3重差分分析を行った。最低賃金引き上げの導入状況のばらつきと介入の異質性に対処するため、2段階補完推定法を用いた。中毒、薬物過剰摂取、オピオイド関連過剰摂取、自殺による人口当たりの死亡率を分析した。 主な内容は以下のとおり。・最低賃金引き上げを行った州は26州(ワシントンD.C.を含む)、25州は行っていなかった。・治療前のプラセボ効果推定値からは、結果を混乱させるようなシステマティックな既存傾向を示すエビデンスは、ほとんど認められなかった。・最低賃金引き上げによる治療後の平均死亡率への影響はおおむね小さかった。中毒死は-0.9%(95%信頼区間[CI]:-6.8〜5.0)、自殺は-1.0%(95%CI:-7.5〜5.5)、薬物過剰摂取は+0.5%(95%CI:-5.2〜6.2)、オピオイド関連過剰摂取は-2.8%(95%CI:-10.2〜4.6)であった。・最低賃金引き上げ率が50%以上であった州に限定した場合でも、結論は同様であった。 著者らは「2010〜19年にかけて行われた最低賃金の引き上げは、絶望死に対してわずかな影響しか与えておらず、中期的に薬物過剰摂取や自殺による死亡率を大幅に減少させる可能性は低いと考えられる」としている。

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iPS細胞由来の人工心筋移植、心不全治療に有望/NEJM

 生物学的心室補助組織(BioVAT)は、同種の人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の心筋細胞と間質細胞から成る人工心筋の移植片であり、心不全および左室駆出率(LVEF)が低下した患者における心筋再筋肉化を目的とする。ドイツ・University Medical Center GottingenのWolfram-Hubertus Zimmermann氏らBioVAT-HF Investigatorsは「BioVAT-HF研究」において、BioVAT移植は3ヵ月の時点で有意な標的壁厚の増加とLVEFの上昇をもたらし、健康状態も有意に改善したと報告した。研究の成果は、NEJM誌2026年5月28日号に掲載された。ドイツの第I/II相研究 研究グループは、心不全患者における外科的なBioVAT移植による組織工学的な心臓修復法の安全性と有効性の評価を目的に、ドイツの2施設で非盲検第I/II相研究を実施した(German Center for Cardiovascular ResearchおよびRepaironの助成を受けた)。今回は、事前に規定された3ヵ月時の中間解析の結果を公表した。 対象は、LVEF 35%以下の症候性心不全で、少なくとも1つの左室セグメントに壁運動の低下または異常を認め、ガイドラインに基づく薬物療法に抵抗性の年齢18~80歳の患者であった。 被験者は、5、10、20単位の人工心筋から成るBioVAT移植片による治療を受けた。全例に免疫抑制療法を行った。3例が死亡、移植とは関連なし 26例(平均年齢59[SD 10]歳、男性23例[88%]、平均罹患期間4.6年[範囲:0.4~16])を登録し、20例がBioVAT移植による治療を受けた。 移植を受けた全患者で有害事象が発現した。196件の有害事象のうち57件が重篤な有害事象であった。3例(5件)で心室性頻拍を認めたが、いずれもBioVAT移植とは関連がない可能性が高かった。また、心室細動が発生した患者はいなかった。 研究期間中に3例が死亡し(血管麻痺を伴う全身性炎症反応症候群[SIRS]、新型コロナウイルス感染症、大動脈解離)、いずれもBioVAT移植とは関連がないと判定された。また、1例が心臓移植を受けた。 4例で免疫抑制療法が中止された。中止理由は、植込み型左室補助人工心臓(LVAD)の装着が2例、腎不全が1例、尿路上皮がんが1例であった。3つの主要エンドポイントが改善 BioVATの安全な最大用量(人工心筋20単位)による治療を受けた16例のうち、12例が事前に規定された中間解析のための3ヵ月間の追跡調査を完了した。 3つの有効性の主要エンドポイントは、以下のとおり3ヵ月の時点でいずれも有意に改善した(事前に規定された両側有意水準p<0.10を満たした場合に有意差ありと判定)。 標的壁厚の最小二乗平均の値は4.5mm(90%信頼区間[CI]:3.7~5.4、p<0.001)増加し、LVEFは3.9%ポイント(0.9~6.8、p=0.04)上昇した。また、カンザスシティ心筋症質問票の全体の要約スコア(KCCQ-OSS:0~100点、高点数ほど健康状態が良好)は6.7点(1.0~12.5、p=0.06)上昇した。 著者は、「これらの知見を確定するには、より長期の追跡調査とさらなる臨床評価が必要である」としている。 また、「概念的には、BioVAT移植による、収縮力が低下した領域への収縮性心筋の追加は、収縮機能と拡張機能の両方をサポートする可能性があり、またラプラスの法則により標的壁厚の増加は壁応力を低下させると考えられる。これらの効果が、左室のリモデリングの逆転に寄与する可能性がある」と考察している。

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