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GLP-1RA処方が糖尿病患者の新生血管型加齢黄斑変性と関連

 糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の処方と、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の発症リスクとの関連を示すデータが報告された。交絡因子調整後にもリスクが2倍以上高いという。トロント大学のReut Shor氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に6月5日掲載された。 この研究は、カナダのオンタリオ州の公的医療制度で収集されたデータを用いた後ろ向きコホート研究として実施された。組み込み基準は、糖尿病と診断後12カ月以上の追跡が可能な66歳以上の患者であり、除外基準はデータ欠落、およびGLP-1RAが処方された患者においてその期間が6カ月に満たない患者。 これらの条件を満たす111万9,517人から、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた13万9,002人(平均年齢66.2±7.5歳、女性46.6%)を抽出し、GLP-1RA処方群4万6,334人、非処方群9万2,668人から成る、患者数1対2のデータセットが作成された。 追跡期間3年におけるnAMD発症率は、GLP-1RA非処方群が0.1%であるのに対して処方群は0.2%であった。Cox比例回帰分析では、交絡因子調整の有無にかかわらず、GLP-1RA処方群のnAMD発症リスクが2倍以上有意に高いことが示された(粗モデルではハザード比〔HR〕2.11〔95%信頼区間1.58~2.82〕、調整モデルではHR2.21〔同1.65~2.96〕)。 著者らは、「得られた結果は、nAMD、糖尿病網膜症、非動脈炎性前部虚血性視神経症の増悪に、GLP-1RAが関与する可能性のある組織低酸素状態という機序を示唆する既報文献と一致している。ただし、本研究で明らかになった関連性に真の因果関係があるのか否かを判断し、その上でGLP-1RAを用いることのメリットとリスクのトレードオフの関係を理解するため、さらなる研究が求められる」と総括している。 一方、本研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのTalia Kaden氏は、「網膜にGLP-1受容体が存在していることは既に知られている。よってGLP-1RAの網膜に対する薬理的な作用を理解しようとし、その作用がどのような結果をもたらすのかを知ろうとするのは当然である。ただし、これまでに明らかにされたGLP-1RAが持つさまざまなメリットを考慮すると、本研究に登録された特定のコホートで見られたわずかなリスクの増加は、多くの人々にとってGLP-1RAの使用を避けるという判断の根拠にならないのではないか」と述べている。 なお、1人の著者が複数の医薬品・医療機器関連企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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重度irAE後のICI再治療、名大実臨床データが安全性と有効性を示唆

 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)はがん治療に革命をもたらしたが、重度の免疫関連有害事象(irAE)を引き起こす可能性がある。今回、irAE発現後にICIによる再治療を行った患者でも、良好な安全性プロファイルと有効性が示されたとする研究結果が報告された。研究は、名古屋大学医学部附属病院化学療法部の水野和幸氏、同大学医学部附属病院消化器内科の伊藤隆徳氏らによるもので、詳細は「The Oncologist」に6月14日掲載された。 抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を含むこれらのICIは、単剤または併用療法として患者の予後を大きく改善してきた。ICIは抑制性シグナル伝達経路を阻害することで抗腫瘍免疫応答を高める一方、重度のirAEを引き起こす可能性がある。irAEは一般的に内分泌腺、肝臓、消化管、皮膚などに発生する。グレード3以上の重度の非内分泌irAEに対しては、現行のガイドラインに基づき、ICIの一時的または恒久的な中止が推奨される。このため、重度のirAE発症後のICI再治療は、効果と再発リスクのバランスが課題となる。過去の報告ではirAE再発率は約30%とされているが、患者背景や重症度の詳細が不十分だった。既存のメタ解析も、研究間の異質性やイベント報告の不備が課題とされている。こうした背景から、著者らは重度のirAE後のICI再治療の安全性と有効性を明らかにすることを目的に、ICI再治療後のirAE発生と患者の転帰に焦点を当てた後ろ向き解析を実施した。 解析対象には、2014年9月~2023年6月までに名古屋大学病院で悪性腫瘍に対してICIによる治療を受けた患者1,271名が含まれた。PD-1/PD-L1阻害剤および/またはCTLA-4阻害剤を、単独療法または他の薬剤との併用療法として少なくとも1サイクル投与された患者を適格とした。CTCAE(Ver 5.0)に従い、グレード3以上のirAEを「重度」と定義した。連続変数はt検定またはMann-WhitneyのU検定、カテゴリ変数はカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を用いて、それぞれ群間比較を行った。 解析対象1,271人のうち、重度のirAEは222人(17.5%)に発現した。これらのirAEには内分泌障害、肝毒性、皮膚炎などが含まれた。そこから単独の内分泌障害を有する患者60人が除外され、162人のうち46人(28.4%)がICIによる再治療を受けた。再治療後、14例(30.4%)でirAEの再発または新たなグレード2以上のirAEが発現した。初回ICI治療時に肝毒性(グレード3)を発現した1人でグレード4の再発が認められた。 抗腫瘍効果については、ICI再治療を受けた46人の客観的奏効率は28.3%(13人)であり、完全奏効が10.9%(5人)、部分奏効が17.4%(8人)だった。病勢安定は30.4%(14人)、病勢進行は34.8%(16人)に認められた。再治療後のICI投与期間の中央値は218日(95%信頼区間〔CI〕84~399)であり、全生存期間および無増悪生存期間の中央値はそれぞれ665日(95%CI 443~929)、178日(95%CI 70~301)だった。 競合リスクモデルによる再治療1年後の治療中止理由の内訳は、irAEが15.4%(95%CI 6.8〜27.4)、病勢進行が44.4%(95%CI 29.7〜58.1)、投与スケジュール完了が6.6%(95%CI 1.7〜16.3)だった。また、33.4%(95%CI 20.3~47.2)の患者でICI治療が継続された。 本研究について著者らは、「本研究は、名古屋大学病院内の診療科の垣根を越えて実施され、重度のirAE後のICI再治療に関する重要な指針を示した。再治療は、グレード2以上のirAEの再発・新規発現リスクが30.4%ある一方で、客観的奏効率は28.3%と一定の有効性も確認された。本研究の知見は、臨床医がICI再治療の可否をより十分な情報に基づいて判断する一助となり、重度のirAEを経験したがん患者に対する治療機会の拡大につながる可能性がある」と述べている。

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経口GLP-1受容体作動薬の進化:orforglipronがもたらす可能性と課題(解説:永井聡氏)

 GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の注射製剤として、すでに15年以上の歴史がある。減量効果だけでなく、心血管疾患や腎予後改善のエビデンスが示されるようになり、さらに経口セマグルチド(商品名:リベルサス)の登場により使用者が増加している。しかし、本剤が臨床効果を発揮するためには、空腹かつ少量の水で服用することが必須であり、服薬条件により投与が困難な場合もあった。 今回、経口薬であり非ペプチドGLP-1製剤であるorforglipronの2型糖尿病を対象とした第III相ACHIEVE-1試験が発表された。orforglipronは、もともと中外製薬が開発した中分子化合物で、GLP-1受容体に結合すると、細胞内でG蛋白依存性シグナルを特異的に活性化する“バイアスリガンド”という、新しい機序の薬剤である。経口セマグルチドのようなペプチド医薬品と異なり、胃内で分解されにくく、吸収を助ける添加剤を必要としない。そのため、空腹時の服用や飲水制限といった条件を課さず、日常生活における服薬の自由度が格段に向上することが特徴である。 試験の結果では、血糖降下作用や減量効果は、週1回セマグルチド注射製剤と同等かやや上回るほどであった。注射製剤の受け入れや空腹での服用条件により、経口セマグルチドの投与が困難だった人にも使用が可能になるという「投与条件の容易さ」は大きなインパクトである。 orforglipronが臨床現場に与える影響は少なくない。投与方法に制限がないことにより、「GLP-1受容体作動薬は特別な治療」という印象が減り、切り替えや他剤と同時服用も可能になり、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬と同様に、早期導入が一般的になる可能性がある。投与方法が容易であることは、治療自体のQOLの向上を意味し、セルフケア行動を促進しアウトカムをより一層改善する「好循環」を後押しする。現在でも、GLP-1受容体作動薬により減量が進んでから運動を始める人がいる。その人は「体が軽くなった」から運動する気持ちになったと言うが、本当は減量できた成功体験によって「気持ちが軽くなった」から運動できると思い始めたのである。 処方が増加しても、錠剤は一般的に注射剤より生産工程が容易で大量生産可能であり、輸送コストも低く、世界的な需要拡大にも対応が可能と考えられる(近年問題となった某GLP-1受容体作動薬関連の処方制限を思い出してほしい)。 懸念点はないだろうか。有害事象は、他のGLP-1受容体作動薬と同様、嘔気や下痢といった消化器症状が中心であるが、第III相ACHIEVE-1試験では4~8%の症例で投与中止に至っている。さらに、本剤は分子量が小さく、血液脳関門を通過し、中枢性の嘔気症状が増える可能性が指摘されているため、消化器症状のため内服できなかった人が服用できるようになるわけではないと思われる。また、新しい機序の薬剤は、中長期的な有害事象も既存のGLP-1受容体作動薬と同様なのか、良くも悪くも現時点では何とも言えない。さらに、「多くの患者に使える薬」になるということは、裏を返せば「不適切に使われるリスク」も増すということである。フレイルを伴う高齢者への投与や安価な薬剤で十分な患者でも漫然と投与される可能性がある。保険財政への影響も懸念がある。 これからの糖尿病治療において重要なのは、薬剤選択肢の拡大そのものではなく、それをいかに適切に、患者個々の病態や背景を踏まえて用いるかである。適切な患者選択と丁寧なモニタリングを通じて、本剤の真価を最大限に引き出し、「糖尿病のない人と変わらぬQOLの実現」を後押しできるかが医療者に期待されることである。

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銃の乱射事件とCTE【Dr. 中島の 新・徒然草】(592)

五百九十二の段 銃の乱射事件とCTE大変な暑さですね。ついに群馬県の伊勢崎市では、日本の観測史上最高温の41.8度を記録したのだとか。大阪でも、蛇口から出てくる水道水が、お湯みたいに感じることがあります。今こんな状態だったら、5年後や10年後は一体どうなってしまうのでしょうか?さて、2025年7月28日、アメリカ・ニューヨークで衝撃的な銃乱射事件が発生しました。事件現場はマンハッタンにある高層ビルで、ここにはNFL(ナショナル・フットボール・リーグ、National Football League)の本部が入居していたそうです。容疑者とされるのは、ラスベガス在住のシェーン・タムラ、27歳。タムラというのはよくある日本人の苗字なので、日系アメリカ人かもしれません。彼は軍用自動小銃を用いて警官1名を含む4名を射殺し、その後自ら命を絶ちました。遺留品からは「自分はCTE(慢性外傷性脳症、Chronic Traumatic Encephalopathy)を患っており、この責任はNFLにある」と主張する手書きのメモが含まれていたと、ニューヨーク市のアダムス市長が記者会見で明らかにしました。CTEは、近年スポーツ医学の分野で注目されている疾患です。アメリカンフットボールやボクシングなど、頭部に繰り返し衝撃を受けるコンタクトスポーツの選手にみられ、その症状は記憶障害や認知機能の低下、衝動性、うつ状態、自殺傾向など。ボクサーのいわゆる「パンチドランカー」はその最たるもので、繰り返す外傷によって脳にダメージが蓄積した結果だと考えられています。私は頭部外傷後の高次脳機能障害に数多く対応してきましたが、そのような患者さんたちも、CTEと同じように、記憶障害、注意力低下、易怒性がみられました。ただ、私が診てきたのは、交通事故など1回の強い衝撃で発症するケースです。このような症例の画像診断では、びまん性軸索損傷、脳萎縮、脳室拡大などが多く見られました。頭部外傷後に高次脳機能障害を来す患者さんも、いろいろな障害を抱えていますが、外見上は正常に見えることが多いため、周囲の理解を得にくいという問題があります。一命をとりとめた後に、無事に復職しても人間関係がうまくいかなかったり、業務遂行が難しかったりして、仕事を辞めてしまう例が少なくありません。こういった患者さんが、少しでも幸せな人生を送るためにはどうしたらいいのか、いつも私は外来で悩まされています。さて、CTEに話を戻しましょう。この疾患の存在が広く知られるようになった背景には、映画化もされた『コンカッション』という作品があります。ナイジェリア出身の病理医ベネット・オマル博士が、死亡した元NFL選手たちの脳を解剖し、CTEの病理学的所見を発表したものの、当初NFLはこの事実を否定し続けました。結果として、引退選手ら5,000人以上に集団訴訟を起こされ、NFLは多額の和解金を支払うこととなりました。本事件のタムラ容疑者が本当にCTEを患っていたかは、解剖を含む今後の調査によって明らかになるでしょう。CTEの問題に加えて、銃社会アメリカでは、比較的容易に銃器を入手できてしまうことが、今回のような大規模な事件となって現れたと考えられます。日本では銃の所持が厳しく規制されてはいますが、それでも他の手段を用いた殺傷事件や放火事件も現実に起こってきました。ニューヨークの事件は、決して他人事ではないということですね。日本で働く医療従事者として、まずはCTEや高次脳機能障害を正しく理解することが大切かと思います。同時に、このような事件に自分が巻き込まれる可能性も、想定しておくべきでしょう。そうすれば、突発的な状況に遭遇しても、少しはマシな対応ができる……かもしれません。ということで最後に1句 暑い夏 腹を立てるな ちょっと待て

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尿路感染症へのエコー(3):腎盂腎炎と水腎症【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第3回

尿路感染症へのエコー(3):腎盂腎炎と水腎症前回、ポケットエコーを用いて尿ジェットを観察し、尿路結石を指摘する方法や、カラードプラで腎盂・尿管を描出し、水腎症がわかるようになるための手技について解説しました。今回は、「腎盂腎炎を診断できる」「B modeで水腎症がわかる」という目標を設定してポケットエコーの手技を解説していきます。腎盂腎炎を指摘できる腎臓の圧痛を評価すれば腎盂腎炎の診断に役立ちます。じつは、腎臓は直接触診することができます。身体診察では腎臓の双手診という手法があります。実臨床ではあまり用いられていないかもしれませんが、エコーを併用すれば画面を見ながら安全に圧痛を確認できます。腎臓の圧痛を確認する際は、肋骨脊柱角を叩打される場合がありますが、これは腎臓の圧痛を間接的に判断しているにすぎず、特異度は高くありません。そこで、sonographic Murphy's sign(超音波プローブによる胆嚢圧迫時の疼痛)の腎臓版として、プローブで腎臓を押しながら観察していきます。それでは、実際の手技を動画で見ていきましょう。このように、腎臓をエコーガイド下で触診していくという方法があるのです。B modeで水腎症がわかるつづいて、腎臓を長軸にきれいに描出し、B modeで水腎症を確認する方法を紹介します。実際の手技を見る前に、まずは次の2点を押さえておきましょう。まず1点目は「腎臓は後腹膜に固定されている」ということです。腎臓は後腹膜に固定されていますが、海底に根を張る昆布がゆらゆら揺れるのと同様に、息を吸うとよく動きます。2点目は「腎臓は上極(頭側)から下極(足側)にかけて腹側に傾いている」ということです。このことを意識して、エコーのプローブを斜めに傾けるときれいに断面を見ることができます。それでは、以上を踏まえて動画を見ていきましょう。いかがでしょうか? 「腎臓は断片的にしか見えない」と感じられていた先生もいるのではないでしょうか。しかし、B modeで見ることで腎臓をきれいに描出することができ、大きな情報が得られるのです。それでは、次回からは「胆道系疾患の手技」について紹介していきます。

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8月7日 鼻の日【今日は何の日?】

【8月7日 鼻の日】〔由来〕「は(8)な(7)」の語呂合わせから、鼻の病気を減らすことを目的に、1961年に日本耳鼻咽喉科学会が制定。同会では、この日に全国各地で専門医の講演会や無料相談会などを行っている。関連コンテンツ長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効【バイオの火曜日】鼻血を繰り返す患児、最初にするべき検査は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会1日1杯の緑茶が花粉症を抑制か~日本人大規模コホート鼻茸を伴う難治性慢性副鼻腔炎、テゼペルマブ追加が有効/NEJM

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第22回 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣

「人生100年時代」と言われる今、多くの人が願うのは、ただ長く生きることだけではないでしょう。できる限り自分の足で歩き、頭はクリアで、心穏やかに、人生の後半を豊かに楽しみたい――。そんな「健康的な加齢(Healthy Aging)」は、多くの人が望む理想の姿かもしれません。では、その理想を実現するために、私たちに何ができるのでしょうか。運動、睡眠、社会との関わりなど、さまざまな要素が挙げられますが、Nature Medicine誌に発表された最新の研究1)が、その鍵を握る最も重要な要素の一つが「日々の食事」であることを、強力なデータとともに示しました。今回は、米国の10万人以上を30年間にわたって追跡したこの大規模研究から、未来の自分を健やかに保つための「食の投資術」を紐解いていきましょう。「健康的な加齢」とは?まず、この研究が目指した「健康的な加齢」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。研究チームはそれを明確に定義しました。それは、「70歳に到達した時点で、がんや心疾患、糖尿病といった11の主要な慢性疾患がなく、さらに認知機能、身体機能、精神的健康のいずれにも大きな衰えがない状態」です。この条件を、調査対象となった10万5,015人のうち、一体どれくらいの人が達成できたと思いますか? 答えは、わずか9.3%でした。これは、多くの人が何らかの慢性疾患を抱え、心身の機能の衰えを感じながら歳を重ねる現実を示唆しているかもしれません。しかし裏を返せば、約1割に「健康に歳を重ねた」人がいることも事実です。そして、彼らの生活習慣、とくに「食事」に、他の人との違いがあったのです。この研究では、長期間にわたる食生活と「健康的な加齢」の達成率との関連が分析されました。その結果、調査された8つの健康的な食事パターンのすべてにおいて、食事の質が高いグループほど、健康的に加齢する確率が著しく高いことが明らかになったのです。最も効果的だった食事法を示す「AHEI」とそのシンプルな中身数ある食事の指数の中で、最も「健康的な加齢」と強い関連を示したのが「AHEI(代替健康食指数)」でした。これは、もともと慢性疾患のリスクを予測するために開発された食事評価法です。その効果は大きく、AHEIのスコアが最も高い(最も健康的な食事をしていた)グループは、最も低いグループと比較して、「健康的な加齢」を達成する確率が1.86倍も高かったのです。さらに、「健康的な加齢」の基準を「75歳」まで引き上げて分析すると、その差はさらに広がり、達成確率は2.24倍にまで達しました。では、その「AHEI」が高い食事とは、一体どのような食事なのでしょうか。特別なサプリメントや高価な食材が必要なわけではありません。その中身はシンプルで、私たちが日々の生活で実践できることばかりです。積極的に摂りたい食品果物野菜全粒穀物(玄米、全粒粉パンなど)ナッツ類と豆類多価不飽和脂肪酸(魚や植物油に含まれる健康的な脂質)摂取を控えるべき食品砂糖入り飲料やフルーツジュース赤身肉や加工肉(ソーセージ、ベーコンなど)トランス脂肪酸(マーガリンやショートニングなど)ナトリウム(塩分)これらのポイントは、地中海食やDASH食といった他の健康的な食事法とも多くの共通点を持っています。つまり、健康的な加齢への道は、根拠の乏しい書籍や特定の流行りの食事法に飛びつくことではなく、「野菜や果物、全粒穀物を増やし、健康に良い油を選び、肉や加工品、砂糖、塩分を控える」という、食生活の基本に忠実であることが最も重要だということなのでしょう。今すぐできる!未来を変える食生活の3つのヒントこの研究成果を、私たちの生活にどう落とし込めばよいのでしょうか。もちろん完璧を目指す必要はありません。「生きることは食べること」というぐらい、食はその人の幸福度にも結びつくものですから、自分を縛りつける必要もないでしょう。今日からできる、具体的な3つのヒントをご紹介します。1. 「禁止」より「丁寧な整理整頓」「あれもダメ、これもダメ」と考えると、食事は窮屈なものになってしまいます。まずは「これを食べたら心から満足できるかな?」という感覚に、丁寧に耳を澄ますところから始めるとうまくいくかもしれません。そのような食べ方は「インテュイティブ・イーティング(直感的な食事法)」と呼ばれています。果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、豆類などがマッチするようなら、そういったものを少しずつ取り入れてみてはどうでしょうか。小腹が減った時のカップヌードルを、フルーツに変えてみる。ランチの白米を、たまに玄米に変えてみる。おやつのスナック菓子を、一袋のナッツに変えてみる。こういった小さな「整理」が、無理なく食生活全体をポジティブな方向に修正する第一歩になるかもしれません。2. 「超加工食品」の存在を少しだけ意識する今回の研究では、「超加工食品」のリスクについても厳しい結果が示されました。スナック菓子、カップ麺、菓子パン、甘い清涼飲料水などがこれに当たります。超加工食品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて「健康的な加齢」を達成する確率が32%も低かったのです。それが好きな人にとって、完全に断つことは難しいかもしれませんが、少し距離を置く意識を持つだけで、未来の健康は大きく変わる可能性があります。3. 「現在の食事」が未来の自分をつくるこの研究が特に重要なのは、参加者の中年期(平均年齢53歳)からの食生活を追い、その30年後の結果を見ている点です。これは、「もう歳だから手遅れ」でもなければ、「まだ若いから大丈夫」でもないことを意味します。40代、50代の食生活が、70代、80代の健康状態を大きく左右するようです。未来の自分が、旅行や趣味を楽しみ、友人や家族、孫と笑い合っている姿を想像してみてください。その姿を実現するための最も確実な投資は、高価なサプリメントや真新しく見える「健康法」などではなく、今あなたが口にする一食一食なのかもしれません。この研究は、日々の食事が未来の健康をかたち作るという、基本的かつ力強いメッセージを私たちに届けてくれています。「完璧な食事」を目指す必要などまったくありません。一食、一品から。未来の自分への投資は、今日の食卓から始められます。参考文献・参考サイト1)Tessier AJ, et al. Optimal dietary patterns for healthy aging. Nat Med. 2025;31:1644-1652.

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1日7,000歩で死亡リスクが半減!?

 ウォーキングが健康に良いことが知られているが、具体的な歩数についてはさまざまな報告があり、明確な目標値は定まっていない。そこで、オーストラリア・シドニー大学のDing Ding氏らの研究グループは、成人の1日の歩数と死亡や疾患の発症、健康アウトカムとの関連を検討することを目的として、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、1日7,000歩でも死亡リスクが低下し、心血管疾患や認知症などの疾患の発症リスクも低下することが示された。本研究結果は、Lancet Public Health誌2025年8月号で報告された。 研究グループは、PubMedおよびEBSCO CINAHLを用いて、2014年1月~2025年2月に発表された文献を検索した。そのなかで、1日の歩数と死亡、心血管疾患(発症・死亡)、がん(発症・死亡)、2型糖尿病発症、認知症発症、うつ症状、身体機能、転倒との関連を検討した前向き研究を抽出した。57研究(35コホート)が抽出され、そのうち31研究(24コホート)をメタ解析に組み入れた。1日2,000歩を対照とし、歩数増加に伴う各アウトカムのリスクの変化を評価した。 主な結果は以下のとおり。・1日2,000歩を対照とした場合、1日7,000歩の歩行により、死亡やさまざまな疾患の発症、健康アウトカムのリスクが低下した。詳細は以下のとおり(ハザード比[95%信頼区間]、エビデンスの確実性を示す)。 死亡:0.53(0.46~0.60)、中程度 心血管疾患発症:0.75(0.67~0.85)、中程度 心血管死:0.53(0.37~0.77)、低い がん発症:0.94(0.87~1.01)、低い がん死亡:0.63(0.55~0.72)、中程度 2型糖尿病発症:0.86(0.74~0.99)、中程度 認知症発症:0.62(0.53~0.73)、中程度 うつ症状:0.78(0.73~0.83)、中程度 転倒:0.72(0.65~0.81)、非常に低い・死亡、心血管疾患(発症・死亡)、がん死亡、認知症発症、転倒のリスクと歩数の関連は非線形であり、歩数増加に伴うリスク低下の効果は、1日5,000~8,000歩程度で鈍化する傾向がみられた。・がん発症、2型糖尿病発症、うつ症状のリスクと歩数の関連は線形であった。 著者らは、本研究結果について「1日7,000歩という歩数は現実的な目標であり、調査したほとんどの健康アウトカムのリスク低下と関連した」とまとめた。

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日本人統合失調症患者における自殺企図の出現時期と重症度との関連

 岩手医科大学の伊藤 ひとみ氏らは、日本人統合失調症患者における自殺念慮の出現時期、自殺企図の重症度、これらに関連する因子の調査を行った。PCN Reports誌2025年7月6日号の報告。 対象は、2003〜21年に自殺企図のため救急外来を受診した統合失調症患者273例。自殺念慮の出現時期に基づき、同日群または同日前群のいずれかに分類した。受診時に観察された患者の人口統計学的特徴および精神症状に関するデータを収集した。また、自殺の動機および自殺企図手段に関するデータを分析し、自殺念慮の出現時期、自殺企図手段の重症度、関連因子との関係を検証した。 主な結果は以下のとおり。・同日前群は、同日群と比較し、高度な自殺企図手段を選択する可能性が有意に高かった(p=0.03)。・同日群では、高度な自殺企図手段の選択と幻覚・妄想に関連する自殺動機との間に強い正の相関が認められた(オッズ比[OR]:2.01、95%信頼区間[CI]:1.01〜4.03、p=0.049)。・一方、同日前群では、過去1年間の自殺企図歴と高度な自殺企図手段の選択との間に負の関連が認められた(OR:0.32、95%CI:0.12〜0.86、p=0.023)。 著者らは「日本人統合失調症患者における自殺リスクの評価と介入戦略の強化について重要な知見が明らかとなった。自殺念慮の出現時期は、自殺企図の重症度に有意な影響を及ぼすことが示唆された」と結論付けている。

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胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児、経口補液vs.静脈内補液/NEJM

 胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児に対して、経口補液療法と静脈内補液療法の間に、96時間時点の死亡率に関して差異があるとのエビデンスは認められなかった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKathryn Maitland氏らGASTROSAM Trial Groupが非盲検優越性無作為化試験の結果を報告した。国際的な勧告では、体液過剰への懸念から重度急性栄養失調児への静脈内補液療法は推奨されていないが、その懸念を裏付けるエビデンスは不足していた。一方で、現行勧告下での高い死亡率から、静脈内補液療法戦略を選択肢の1つとすることによるアウトカム改善への可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2025年6月13日号掲載の報告。アフリカの4ヵ国6病院で生後6ヵ月~12歳児対象の無作為化試験 研究グループは、アフリカの4ヵ国6病院(ウガンダ2、ケニア2、ニジェール1、ナイジェリア1)で、静脈内補液療法(急速または緩徐)が標準的な経口補液療法と比べて死亡率低下と結び付くかを評価する、治験担当医師主導の要因デザインを用いた多施設共同非盲検無作為化優越性試験を実施した。 胃腸炎かつ脱水症状を伴う重度急性栄養失調の生後6ヵ月~12歳児を、2対1対1の割合で次の3種類の補液戦略のいずれか1つを受けるよう割り付けた。(1)経口補液+ショックに対する静脈内ボーラス投与(経口群)、(2)乳酸リンゲル液100mL/kgを3~6時間で投与+ショックに対するボーラス投与(急速静注群)、(3)乳酸リンゲル液100mL/kgを8時間で投与(緩徐静注群) 主要エンドポイントは、96時間時点の死亡率であった。96時間時点の死亡、経口群8%、静注群7% 2019年9月2日~2024年10月27日に計272例が無作為化された(経口群138例、急速静注群67例、緩徐静注群67例)。被験児の年齢中央値は生後13ヵ月であり、28日間追跡調査(最終フォローアップ)を受けた。4例(1%)が中途で脱落したが、全例をすべての解析に組み入れた。経鼻カテーテルを用いた補液が、経口群126/135例(93%)、静注群82/126例(65%)で行われた。ショックに対するボーラス投与が入院期間中に行われたのは経口群12例(9%)、急速静注群7例(10%)、緩徐静注群はなしであった。 96時間時点で死亡は、経口群11例(8%)、静注群9例(7%)(急速群5例[7%]、緩徐群4例[6%])で報告された(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.41~2.52、p=0.69)。 28日時点における死亡は、経口群17例(12%)、静注群14例(10%)(急速群8例[12%]、緩徐群6例[9%])であった(ハザード比:0.85、95%CI:0.41~1.78)。 重篤な有害事象の発現は、経口群32例(23%)、急速静注群14例(21%)、緩徐静注群10例(15%)で報告された。肺水腫、心不全、体液過剰のエビデンスは認められなかった。

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インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA

 米国では2024~25年のインフルエンザシーズン中、大規模な小児医療センターの医師たちから、インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の小児患者数が増加したと報告があった。このことから、同国・スタンフォード大学のAndrew Silverman氏らIA-ANE Working Groupは、全米を対象とした直近2シーズンの症例集積研究を実施。主として若年で直前までは健康であった小児の集団において、IA-ANEの罹患率および死亡率が高かったことを明らかにした。急性壊死性脳症(ANE)は、まれだが重篤な神経系疾患であり、疫学データおよび治療データは限られていた。JAMA誌オンライン版2025年7月30日号掲載の報告。2024~25年インフルエンザシーズンのANE小児を調査 研究グループは、IA-ANEと診断された米国の小児における臨床症状、介入およびアウトカムを明らかにするため、ANEと診断された小児を対象に多施設共同集積研究にて長期追跡調査を行った。 症例募集は、学会、公衆衛生機関を通じたほか、同国内76の大学医療センターの小児専門医に直接コンタクトを取り、2023年10月1日~2025年5月30日の症例の提供を要請して行った。 対象基準は、放射線学的な急性視床障害および臨床検査によりインフルエンザ感染が確認された21歳以下の急性脳症患者とした。 主要アウトカムは、主な症状、ワクチン接種歴、検査値および遺伝学的所見、介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア[0:症状なし、1~2:軽度障害、3~5:中等度~重度障害、6:死亡]など)、入院期間、機能的アウトカムであった。39例(95%)がインフルエンザAに感染 提供された58例のうち、23病院からの41例(女児23例、年齢中央値5歳[四分位範囲[IQR]:2~8])が対象基準を満たした。31例(76%)は重大な病歴を有していなかったが、5例(12%)は複雑な疾患を有していた。 主な臨床症状は、発熱38例(93%)、脳症41例(100%)、けいれん発作28例(68%)であった。39例(95%)がインフルエンザA(A/H1pdm/2009:14例、A/H3N2:7例、サブタイプ不明:18例)、2例がインフルエンザBに感染していた。 検査所見で異常値が認められたのは、肝酵素の上昇(78%)、血小板減少症(63%)、脳脊髄液タンパク質の上昇(63%)などであった。 遺伝子検査を受けた32例(78%)のうち、15例(47%)にANEリスクに関連する可能性がある遺伝的リスクアレルがあり、11例(34%)はRANBP2変異を有していた。季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみ ワクチン接種歴が入手できた38例のうち、年齢に応じた季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみだった。 ほとんどの患者は複数の免疫調節療法を受けていた。メチルプレドニゾロン(95%)、免疫グロブリン静注(66%)、トシリズマブ(51%)、血漿交換(32%)、anakinra(5%)、髄腔内メチルプレドニゾロン(5%)などであった。 ICU在室期間中央値は11日(IQR:4~19)、入院期間中央値は22日(7~36)。11例(27%)が症状発症から中央値3日(2~4)で死亡し、主な死因は脳ヘルニア(91%)であった。90日間の追跡調査を受けた生存児27例のうち、17例(63%)が中等度以上の障害(修正Rankinスケールスコア3以上)を有していた。

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モデルナのLP.8.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは8月5日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注シリンジ 12歳以上用」および「スパイクバックス筋注シリンジ 6ヵ月~11歳用」について、2025~26年秋冬シーズン向けのオミクロン株JN.1系統の変異株LP.8.1対応とする一部変更承認を、8月4日に厚生労働省より取得したことを発表した。6ヵ月~11歳用については、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する一部変更承認も7月29日に取得した。 これらの承認により、2025年10月から開始予定の定期接種の対象者だけでなく、生後6ヵ月以上のすべての世代で、LP.8.1対応の本ワクチンを接種することが可能となる。12歳以上用は定期接種開始前の9月中、6ヵ月~11歳用は10月に供給開始の予定。 2025~26年秋冬シーズンの定期接種の対象者は、65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人となっている。定期接種は各自治体において設定された自己負担額が発生する。 厚生労働省が8月1日付で発表した新型コロナの発生状況では、2025年第30週(7月21~27日)の定点報告数は全国平均で1医療機関当たり4.12人となり、沖縄県を除く全都道府県で増加している。

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禁煙にはニコチンガムよりニコチン入り電子タバコ

 禁煙に際して、ニコチンを含んだガムや飴を用いるよりも、ニコチンを含む電子タバコの方が、効果が優れていることを示唆する研究結果が発表された。6カ月間での禁煙成功率に、約3倍の差があったという。ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)および国立薬物・アルコール研究センターのRyan Courtney氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。なお、研究者らは、長期的な禁煙継続率への影響は未確認であることを指摘している。 この研究は、公的年金等を受給している社会的弱者に該当する成人のうち、禁煙の意思がありながら毎日喫煙している1,045人を対象として、2021年3月~2022年12月に実施された。ランダムに1対1の割合で2群に分け、1群にはニコチン入りのガムや飴、他の1群にはメンソールやフルーツ風味のフレーバー付きニコチン入り電子タバコを、それぞれ8週間分支給。また、全員に対して5週間にわたり、禁煙サポートのためのテキストメッセージの自動配信を行った。 7カ月後の追跡調査を受けたのは866人(82.9%)だった。割り付けを知らされていない研究者が盲検下で、一酸化炭素呼気試験により禁煙/非成功を判定。ニコチン入りのガムや飴を受け取っていた群では9.6%(523人中50人)が、6カ月間禁煙が継続していたと判定された。一方、電子タバコを受け取っていた群のその割合は28.4%(522人中148人)と高かった(リスク差の推定値18.7%〔95%信頼区間14.1~23.3%〕、電子タバコが優れている事後確率が99%超)。また、自己申告による有害事象の発生率は、電子タバコ群の方が有意に低かった(発生率比0.75〔同0.65~0.88〕、P<0.001)。 以上を基に著者らは、「社会的に不利な立場にある人々を対象とした今回の研究では、フレーバーを選べるニコチン入り電子タバコを、わずかなテキストメッセージによる行動支援と組み合わせて提供した場合、ニコチン代替療法としてのガムや飴と比較して、より高い効果を期待できることが示された」と結論付けている。ただし、「ニコチン入り電子タバコによる禁煙が成功した後に、その状態が長期間維持されるという確実な証拠を得るため、さらなる研究が必要だ」としている。 また、その他の留意事項として、「現時点のエビデンスは、紙巻タバコから電子タバコへと完全に切り替えた場合に、健康リスクが低下する可能性を示唆している。しかし、電子タバコの健康への長期的な影響はほとんど分かっていない。電子タバコが心臓血管系の健康に悪影響を与える可能性があることを示すデータも出てきている」と付け加えている。 なお、日本ではニコチンを含む電子タバコは承認されていない。

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ガバペンチンは認知症の発症リスクを高める?

 発作、神経痛、むずむず脚症候群の治療に使用される薬剤のガバペンチンが、認知症の発症リスク増加と関連している可能性があるとする研究結果が発表された。ガバペンチンを6回以上処方された場合、認知症リスクが29%、軽度認知障害(MCI)リスクが85%増加する可能性が示されたという。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のNafis Eghrari氏らによるこの研究の詳細は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に7月10日掲載された。 研究グループによると、ガバペンチンはオピオイドほど中毒性がないため、慢性疼痛の治療薬としての人気が上昇の一途をたどっている。しかしその一方で、ガバペンチンには神経細胞間のコミュニケーションを抑制する作用があることから、ガバペンチンの使用が認知機能の低下を招く可能性があることに対する懸念も高まりつつあるという。 今回の研究では、大規模医療データベースTriNetXの2004年から2024年までの匿名化した腰痛患者のデータを用いて、ガバペンチンの処方歴と認知症およびMCIリスクとの関連を検討した。年齢や性別などの社会人口学的属性、併存疾患、疼痛関連薬剤などで傾向スコアマッチングを行った結果、解析対象は2万6,416人となった。ガバペンチンは、6回以上の処方歴がある場合を「ガバペンチンの処方歴あり」と見なした。 解析の結果、ガバペンチン処方群では非処方群と比べて、認知症リスクが1.29倍(リスク比1.29、95%信頼区間1.18〜1.40)、MCIリスクが1.85倍(同1.85、1.63〜2.10)であることが示された。対象者を65歳以上の高齢者と18〜64歳の非高齢者に分けて解析すると、高齢者のガバペンチン処方群では非処方群と比べて、認知症リスクが1.28倍、MCIリスクが1.53倍であり、非高齢者でのリスクはそれぞれ2.10倍、2.50倍とより顕著だった。さらに、これらのリスクはガバペンチンの処方頻度の増加に伴い上昇し、処方頻度が12回以上の患者では3〜11回の患者に比べて、認知症リスクが1.4倍、MCIリスクが1.65倍であった。 ただし、本研究は観察研究であるため、ガバペンチンと脳機能低下との直接的な因果関係を証明することはできないと研究グループは指摘している。 研究グループは、「この研究結果は、ガバペンチンを処方された成人患者を綿密に監視し、認知機能低下の可能性を評価する必要があることを裏付けている」と述べている。また研究グループは、「今回の研究が、ガバペンチンと認知症発症との因果関係や、この関係の根底にあるメカニズムの解明を目指すさらなる研究につながることを期待している」と述べている。

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食事パターンは慢性便秘リスクに影響

 食生活を変えることで中高年の慢性便秘リスクを軽減できることが、新たな研究で示された。検討した5つの食事パターンの中で便秘予防効果が最も高かったのは、地中海食とプラントベース食であることが示されたという。米マサチューセッツ総合病院のKyle Staller氏らによるこの研究の詳細は、「Gastroenterology」に7月2日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘は何百万人もの人に影響を与えており、患者の生活の質(QOL)に重大な影響を与える可能性がある。この研究結果は、年齢を重ねるにつれて、特定の健康的な食事が既知の心血管系への効果だけでなく腸にも効果をもたらす可能性があることを示唆している」と話している。 この研究では、医療従事者の健康状態を追跡する3つの研究のデータを分析し、5つの食事パターンおよび食事指標と慢性便秘との関連が検討された。5つの食事パターンおよび食事指標とは、代替地中海食(aMED)、低炭水化物食(LCD)、西洋式食事、植物性食品指数(plant based dietary index;PDI)、経験的炎症性食事パターン(empirical dietary inflammatory pattern;EDIP)であった。地中海食は、野菜、果物、豆類、レンズ豆、全粒穀物、ナッツ類、種子、オリーブ油、ハーブ、スパイスを多く摂取し、乳製品、魚、鶏肉は週に数回の摂取にとどめる一方で、赤肉や加工肉の摂取は控えめにする食事法である。一方、西洋式食事では、赤肉や加工肉、精製穀物、脂肪分の多い食品、甘いお菓子が多く摂取される。 対象者は、Nurses’ Health Study(NHS)参加女性2万7,774人(平均年齢78.4歳)、NHS II参加女性5万5,906人(同60.5歳)、およびHealth Professional Follow-up Study(HPFS)参加男性1万2,237人(同78.6歳)であった。これらの参加者は、それぞれの研究の一環として定期的に食事に関する調査に回答しており、その調査結果から、5つの食事パターンおよび食事指標の長期的な遵守状況が評価された。慢性便秘は、過去1年間で12週間以上繰り返し報告された便秘症状を基に特定された。 2〜4年間の追跡期間中に7,519件の便秘が発生していた。解析の結果、aMEDの遵守度が最も高い最高五分位群では、最も低い最低五分位群と比較して慢性便秘の発症リスクが16%低いことが示された。同様にPDIでも、最高五分位群では最低五分位群に比べて同リスクが20%低かった。一方、EDIP、西洋式食事の最高五分位群では最低五分位群に比べて慢性便秘の発症リスクがそれぞれ24%、22%上昇しており、LCDでも3%の上昇傾向が認められた。 Staller氏は、「この研究結果は、野菜やナッツ類、健康的な脂肪を豊富に含む食生活が中高年の慢性便秘の予防に役立つ可能性があることを示唆している」と結論付けている。また研究グループは、「健康的な食事が便秘の緩和に役立つことは知られているが、特定の食事法が便秘自体を予防できる可能性があることを示した研究はこれが初めてだ」と述べている。 興味深いことに、この研究では、食物繊維の摂取量による影響は認められなかったという。この点についてStaller氏は、「これまで、健康的な食事のメリットは食物繊維によるものだと考えるのが常であったが、われわれの分析では、便秘に対する健康的な食事のメリットは食物繊維の摂取量とは無関係であることが示された」と驚きを表す。ただし研究グループは、「この結果を検証するには、より大規模で若く健康な集団を対象にしたさらなる研究が必要だ」と付け加えている。

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クローン病へのグセルクマブの静脈内導入療法と皮下維持療法の有効性と安全性:2つの第III相試験(GALAXI-2および3)の48週時点の結果(解説:上村 直実 氏)

 指定難病であるクローン病(CD)の患者数は日本でも次第に増加して、近々5万例に達する見込みであるが、潰瘍性大腸炎と違って軽症例は少なく中等症から重症例が多く、内科的治療により寛解不能で外科的手術が必要な患者も多いのが現状である。完全治癒が見込めないCDに対する治療の基本は、病気の活動性のコントロールにより寛解状態を維持し、さらに日常生活に影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症を予防することにあるが、最近は内視鏡的な粘膜治癒を目的とした治療方針が必須となっている。粘膜治癒を目的とした抗TNF療法が使用されるケースが増えているが、抗TNF療法の無効例や効果が減弱してくる患者、副作用により治療中断を余儀なくされる症例が少なくなく、中等症から重症例に対しては、インターロイキン(IL)阻害薬や抗インテグリン抗体薬などの生物学的製剤が使用されることが多くなっている。 今回、中等症~重症の活動期CDの寛解導入および寛解維持療法における新たなIL阻害薬であるグセルクマブ(商品名:トレムフィア[ヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体])の有用性と安全性を検証するためにプラセボおよび抗IL12/IL-23p40抗体ウステキヌマブ(同:ステラーラ)を対照とした二重盲検トリプルダミー試験が行われた結果、グセルクマブが寛解導入および維持療法においてプラセボおよびウステキヌマブと比べて有意な優越性を示したことが2025年7月のLancet誌に掲載された。 本研究の特徴は、プラセボのみでなく実薬を対照とした点と寛解導入試験開始時の割り付けのままで維持療法終了時まで一貫して評価するtreat-through designを採用している点である。すなわち、寛解導入試験の開始時に2用量のグセルクマブとプラセボおよびウステキヌマブの4群に無作為割り付けをして、治療開始12週時点での臨床的奏効率を比較した後、そのまま同じ薬剤の投与を継続して40週時点での臨床的有効率および内視鏡的奏効率を比較検討した方法である。この研究方法は、潰瘍性大腸炎に対する寛解導入および維持療法におけるエトラシモドの有用性を示した研究(CLEAR!ジャーナル四天王「潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるetrasimodの有用性」)や活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性(CLEAR!ジャーナル四天王「活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性」)などで使用された研究デザインであり、今後、標準的な試験方法となる可能性が高い。 実薬同士の比較試験については、昨年報告されたCDに対するリサンキズマブ(商品名:スキリージ)とウステキヌマブの直接比較試験(CLEAR!ジャーナル四天王「クローン病に対するリサンキズマブとウステキヌマブの直接比較」)に引き続くものであるが、グセルクマブとウステキヌマブはわが国でCDに対する保険適用を有している薬剤であり、今後、このような実薬同士の比較試験が公表されると臨床現場で使用する際に有益な情報となると思われる。

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水害の後に皮疹や眼の不快感を訴えるボランティアが続出、原因は?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第3回

水害の後に皮疹や眼の不快感を訴えるボランティアが続出、原因は?2018年7月、西日本豪雨と呼ばれる水害が中国地方を襲い、とくに被害が甚大であった岡山県倉敷市では多くの家屋が浸水し、多くの犠牲者が出ました。孤立した真備記念病院には近隣住人や患者・職員を含めた数百人が密集し、自衛隊やNGOと共に夜が明けるのを待って救助に入り、岡山大学病院にヘリで多くの患者を搬送、DMATと一緒に活動させていただきました。ボランティアに多発した眼・皮膚症状真夏で過酷な暑さの中でしたが、多くのボランティアが、泥まみれの家屋の清掃やがれき撤去、避難所管理に来てくださいました。しかし、水害の数日後から、ボランティアを中心に眼のかゆみや充血、皮膚の湿疹を訴える患者さんが急増し、仮設診療所では、普段あまり災害現場で見かけない眼科や皮膚科の先生に大活躍していただきました。その後、眼や皮膚症状が出た原因を探ったところ、倉敷市が消毒目的に散布した消石灰であることがわかったのです1)。消石灰は水酸化カルシウム[Ca(OH)2]のことで、ご存じのように水溶液は強アルカリ性を示します。水害の後に消石灰を撒く理由は、地面のpHを上げることによる抗菌作用を期待してのことであり、衛生環境の改善と感染症予防を目的としています。水害後の泥水や排水には、腸管系病原体(大腸菌、赤痢菌、ノロウイルスなど)が含まれていることがあり、国土交通省や厚生労働省のガイドラインでも、「水害後の公衆衛生管理において、必要に応じて消石灰を用いる」ことが記載されています。多くの自治体の水害衛生マニュアルにも同様の記述があり、汚泥や有機物の腐敗によるアンモニアや硫化水素などの臭気成分の発生を抑え、害虫の発生・媒介感染症の観点からも、倉敷市が広報し、市民に消石灰を配布し、庭に撒くように指示があったようです。消石灰の使用リスク消石灰は実際に土壌のサルモネラや腸球菌の増殖を抑制しますし2)、ブタの死体を消石灰と一緒に土に埋めると、腐敗を遅らせることが示されています3)。今でも土葬をする国では、防臭や衛生面から消石灰を一緒に入れて埋葬することがあるようです。しかし、消石灰は皮膚に付くと炎症を起こしますし、目に入ると角膜や結膜が損傷を受けます。自治体によって対応が異なりますが、最近は毒性を考慮して水害の後の消石灰散布は行わないことが多いようです4)。かつては、グラウンドにラインを引く時には消石灰が使われていました。しかし、多くの子供たちに今回と同様の目や皮膚の症状が見られたため、2007年から文部科学省から全国の学校に指導が入り、現在は消石灰ではなく、炭酸カルシウム(CaCO3)が主に使われています。 参考 1) Yamada T, et al. Increase in the incidence of dermatitis after flood disaster in Kurashiki area possibly due to calcium hydroxide. Acute Med Surg. 2019;6:208-209. 2) Nyberg KA, et al. Treatment with Ca(OH)2 for inactivation of Salmonella Typhimurium and Enterococcus faecalis in soil contaminated with infected horse manure. J Appl Microbiol. 2011;110:1515-1523. 3) Schotsmans EM, et al. Effects of hydrated lime and quicklime on the decay of buried human remains using pig cadavers as human body analogues. Forensic Sci Int. 2012;217:50-59. 4) 中尾篤典. こんなにも面白い医学の世界第58回「白い粉のお話」. レジデントノート. 2019年7月号掲載

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小児の熱中症【すぐに使える小児診療のヒント】第5回

小児の熱中症暑い日が続いていますね。今回は小児の熱中症についてお話します。近年、「熱中症」という言葉の認知度は大きく高まりました。学校や保育施設では暑さ対策が徹底され、保護者の多くにも「熱中症=命に関わる疾患」として理解されるようになっています。これは、予防意識の向上という点で非常に重要であり、歓迎すべき変化です。しかしその一方で、「夏の体調不良はすべて熱中症」とみなしてしまう風潮が広がっているようにも感じます。症例3歳、男児。発熱と倦怠感、頭痛があり、外来を受診。母「今日、公園で遊んだあとから、ぐったりしてきました。暑かったのでやっぱり熱中症でしょうか?」夏の外来では、このような保護者の訴えとともに小児が受診することが増えます。「熱中症」というワードが広く知られるようになって15年ほどになりますが、熱中症診療ではどのような点に注意すればよいのでしょうか。小児が熱中症にかかりやすい理由小児は、大人に比べて熱中症にかかりやすく、さらに重症化もしやすいと言われています。その背景には、いくつかの身体的・行動的な特徴があります。体温調節機能の未熟さ乳幼児は汗腺の発達が不十分であるため、体内に熱がこもりやすく、体温が急激に上昇してしまうリスクがあります。身体的な特徴体重に対して体表面積が大きいため、外気温の影響を受けやすいです。また、地面に近い位置にいるぶん、大人よりも地面からの照り返し(輻射熱)の影響を強く受けます。体調変化を伝えるのが困難喉の渇きやしんどさを訴えることができず、そのまま無理をして遊び続けてしまうこともあります。小児の熱中症では見た目の元気さに惑わされず、小児の様子をよく観察し、大人が先回りして声かけや水分補給、環境調整を行うことが重要です。熱中症の病態と診療のポイント熱中症の病態は、大きく「暑熱障害」と「脱水」に分けられます。暑熱障害は高体温の遷延により神経細胞が障害される病態です。一方、脱水では発汗や水分摂取不足により循環血液量が減少し、臓器虚血を引き起こします。細胞障害によって放出されるDAMPs(Damage-associated molecular patterns)が免疫系を刺激し、炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6など)や組織因子の産生を促進することで血管内皮障害を引き起こし、播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全へと進行することもあります。診断は「暑熱環境にいる、あるいはいた後」に出現する症状(立ちくらみ、生あくび、大量発汗、意識障害、高体温など)に基づき、感染症や中枢性高体温、甲状腺クリーゼなど他の原因疾患を除外して行います。2024年に改訂された日本救急医学会のガイドラインでは、最重症のIV度(深部体温40.0℃以上かつグラスゴー・コーマ・スケール[GCS]≦8)が新たに追加され、重症度がI〜IV度の4段階に分類されるようになりました。画像を拡大する熱中症では発汗や不感蒸泄による水・電解質の喪失が顕著なため、塩分を含む経口補水液(Oral rehydration solution:ORS)の使用が重要です。経口摂取困難時や意識障害がある場合は点滴治療が必要であり、重症例では迅速な深部体温測定と積極的な冷却(Active Cooling)が予後を左右します。初期対応の遅れが重症化を招くため、的確な病態理解と迅速な対応が求められます。「熱中症」という名前の強さとその影熱中症の認知度が高まったことは歓迎すべきことですが、すべての「夏の不調」が熱中症として扱われてしまうという懸念もあります。たとえば「暑い日に屋外で遊んでいた」「運動後にぐったりした」といった状況があると、医療者でさえ熱中症を第一に想起し、他の鑑別診断が後回しになる場面がみられます。熱中症と類似の臨床像(高体温、嘔吐、意識障害など)を示す小児疾患は少なくありません。一般的なウイルス感染症から、急性脳炎・脳症、髄膜炎、尿路感染症、胃腸炎、甲状腺疾患や頭部外傷まで、幅広い疾患が鑑別に挙がります。とくに小児では、「不機嫌」や「活気低下」など非特異的な症状が中心となるため、早々に熱中症と決めつけてしまうことは非常に危険です。診断においては、特定の病態に引き寄せられすぎず、バイタルサイン・身体所見・病歴を丁寧に積み上げていく姿勢が大切です。「本当に熱中症なのか?」「他の病態を見逃していないか?」という視点を持ち続けることが、適切な診断と介入につながると考えます。症例(続き)冒頭の症例では、状況を鑑みると熱中症も疑われましたが、咳嗽や咽頭発赤などの上気道症状を認めたため、迅速検査を行ったところインフルエンザと診断されました。小児の熱中症に向き合うには、医療者と保護者、それぞれの立場からの気づきと行動が大切です。医者は症状に先入観なく向き合い、見逃してはならない他疾患を見極める姿勢を持ち、保護者には予防の基本と受診の目安をわかりやすく伝えていくことが求められます。暑い季節だからこそ、より一層冷静な診療を心がけたいものです。次回は小児の外傷処置についてお話します。ひとことメモ:保護者に伝えたい予防と初期対応小児は、自分で暑さから逃れる行動をとることが難しく、体調の異変にも気づきにくいものです。そのため、まわりの大人の対応が大切です。診療時にはぜひ以下の点を保護者に伝えてみてください。■予防のポイント喉が渇く「前に」こまめな水分や塩分補給を涼しく通気性のよい服+帽子の着用、日陰や屋内での定期的な休憩ベビーカーを日なたに置かない■気づいてほしい変化顔が赤い/元気がない/汗が多すぎるor少ない/ぼーっとしている/生あくびなど■初期対応と受診の目安すぐに涼しい場所へ、衣類をゆるめて脇や首を冷たいタオルや氷嚢で冷却(冷えピタは意味なし!)経口補水液が飲めれば少量ずつ補給反応が鈍い、けいれん、ぐったりしている場合は迷わず救急車を参考資料 1) 日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2024 2) こども家庭庁:みんなで見守り「こどもの熱中症」を防ぎましょう! 3) Courtney W, et al. Pediatr Rev. 2019;40:97–107. 4) 日本救急医学会熱中症に関する委員会編.小児における熱中症 2018年改訂版.へるす出版;2018.

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第275回 レカネマブ15%薬価下げ報道で改めて考える、「認知症を薬で治す」は正しいの?(前編)

海外学会での発表やスピーチが苦手な人にも参考になるイチローのスピーチこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。7月27日(現地時間)、米国ニューヨーク州クーパーズタウンにある米野球殿堂の式典でイチローが行ったスピーチ、よかったですね。決して流暢とは言えない英語ながら、数々のジョークを混じえながら語られた19分のスピーチは、「これまで殿堂入りした選手のスピーチの中でも、最もすばらしいものの一つだった」と激賞する米国メディアもあるようです。個人的には、「When fans use their precious time to come watch you play, you have a responsibility to perform for them, whether we are winning by 10 or losing by 10, I felt my duty was to motivate the same from opening day through game 162. I never started packing my equipment or taping boxes until after the season’s final out. I felt it was my professional duty to give fans my complete attention each and every game.」の一節が心に響きました。一方、イチロー好きの友人は「dream(夢)」と「goal(目標)」の違いについて語ったところに感激したと話していました。ネット上には実際のスピーチの動画や、英語全文とその訳文が上がっていますので、まだ耳にしていない、目にしていない方はぜひチェックしてみてください。海外学会での発表やスピーチが苦手という人にも参考になるはずです。さて今回は、エーザイと米国バイオジェン社が共同開発したアルツハイマー病治療薬・レカネマブ(商品名:レケンビ)の薬価が「15%引き下げられる」と報道された件について書いてみたいと思います。レカネマブはアルツハイマー病の原因とされるタンパク質(アミロイドβ)を除去する効果があり、認知機能の低下を遅らせる初めての医薬品として2023年9月に日本で承認されました。薬価はなぜ引き下げられることになったのでしょうか。2019年から始まった費用対効果評価制度の対象となっていたレカネマブ7月9日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でレカネマブの費用対効果に関する評価結果が提出され、今後、中医協での更なる議論を経て15%引き下げられる見通しとなりました。日本の薬価制度には「費用対効果評価制度」というものがあります。市場規模が大きい、または著しく単価が高い医薬品・医療機器を対象に、費用対効果評価専門組織が分析し、薬価などが調整される制度で2019年に始まりました。レカネマブの薬価は200mg1瓶4万5,777円、500mg1瓶11万4,443円で、ピーク時の予想投与患者数は3.2万人で予想販売金額は986億円と高額になるため、この制度の対象となっていました。ちなみに、平均的な薬剤費は年間1人当たり約300万円とのことです。今回、レカネマブの分析を担当したのは国立保健医療科学院の保健医療経済評価研究センター(C2H:Core to Evidence-Based Health Policy)です。同センターは7月9日に、ホームページで現在の3分の1程度の薬価が妥当とする評価結果を公表しています1)。それによれば、レカネマブのICER(増分費用効果比)は1,000万円/QALY以上で費用対効果は比較対象技術と比べて「低い」との結果でした。ICERは、費用の増加分を効果の指標であるQALYの増加分で割った値で、低いほど費用対効果が良いとされます。「1,000万円/QALY以上」は「高過ぎる」と評価されたわけです。「画期的な認知症治療薬」であり、介護費用の削減効果も期待されていることから特別な対応も「費用対効果が低い」とされたものの、レカネマブは「画期的な認知症治療薬」であり、介護費用の削減効果も期待されていることから、中医協では、レカネマブの費用対効果評価について1)「価格調整範囲の特別ルール」を設ける、2)介護費縮減効果について「勘案する場合・しない場合」それぞれの分析結果を踏まえて対応を改めて中医協で検討する、という特別な対応が取られることになりました。まず価格調整範囲については、費用対効果評価の結果「ICERが500万円/QALYとなる価格」(費用対効果が優れていると判断される基準値)と「見直し前の価格」の差額を算出し、その25%を調整額(引き下げは有用性加算部分だけに留めず、薬価全体が見直し対象に)とするが、価格が引き下げとなる場合には、調整後の価格の下限は「価格全体の85%(調整額は価格全体の15%以下)」とすることになりました。介護費縮減効果については「介護費用縮減効果も勘案して費用対効果評価を行う場合」と「医療部分のみに着目して費用対効果評価を行う場合」との2つのデータを算出することになりました。もっとも、分析結果ではどちらの場合も「ICERが500万円/QALYとなる価格」は現在の薬価の約3分の1、25〜35%程度と大幅に低かったとのことです。というわけで、介護費用を含めても含めなくても薬価は下限の85%、すなわち「15%引き下げ」の見通しとなったわけです。エーザイは「厚労省の評価は薬の費用対効果を過小に評価している」と反論こうした評価に対し、エーザイは7月9日に会見を開き、企業(エーザイ)による分析と公的機関(C2H)による分析・評価手法や対象とした試験に違いがあり、「厚労省の評価は薬の費用対効果を過小に評価している」と反論したとのことです。7月23日付の日経バイオテクの「エーザイのアルツハイマー病薬『レケンビ』で明らかになった費用対効果評価制度の課題」と題された記事は、「要するにエーザイは、レケンビの18ヵ月以降の投与継続によりベネフィットが拡大したというOLE試験(非盲検でのオープンラベル継続投与試験)に基づいて分析を行ったのに対して、公的分析はあくまでも第3相臨床試験の18ヵ月のデータのみで分析したことが違いの最大の要因と言える」と書くと共に、エーザイと費用対効果評価専門組織との間で分析・評価手法に関して考え方の相違があったことについて、「こうしたやりとりから浮かび上がるのは、費用対効果評価の方法論がまだ十分に確立されておらず、モデルやデータの選び方によって大きなばらつきが生じるということだ。分析者によってこれだけ結果に違いがあるものを薬価の調整に用いて、関係者の納得が得られるかは疑問だ」と指摘しています。さらに同記事は、「今回のレケンビに関しては、将来的に重度の認知症患者を減少させるコンセプトの早期アルツハイマー病治療薬の価値を、MCIや軽度認知症患者に18ヵ月間投与した結果だけで評価していいのかには疑問を感じる。費用対効果評価を行うには、実臨床でのデータがまだ十分ではないというのが実情ないだろうか」と国の組織が主体となって行われる公的分析に疑問を投げ掛けています。いずれにせよ、レカネマブの薬価は引き下げられることになりそうです。今後の患者や医療現場への影響はどうなるのでしょうか。(この項続く)参考1)レカネマブ(レケンビ)の評価結果を公開しました/国立保健医療科学院

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