PIK3CA exon 9または20のホットスポット変異を有する根治的切除後の大腸がん患者において、低用量アスピリンはプラセボと比較し大腸がん再発率を有意に低下させることが認められ、PI3K経路の遺伝子に他の体細胞変異を有する患者においても、同様の有用性が示された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnna Martling氏らが、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドの33施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Adjuvant Low-Dose Aspirin in Colorectal Cancer trial(ALASCCA試験)」の結果を報告した。アスピリンは、遺伝性大腸がんの高リスク患者において、大腸腺腫および大腸がんの発生率を低下させることが知られている。観察研究では、とくにPIK3CA体細胞変異を有する患者において、アスピリンが診断後の無病生存期間(DFS)を改善する可能性が示唆されていたが、無作為化試験のデータはなかった。NEJM誌2025年9月18日号掲載の報告。
PIK3CA exon 9または20の変異を有する患者集団でアスピリンの有効性を検証
ALASCCA試験の対象は、18~80歳で、原発腫瘍の根治的切除を受けたPI3K経路の遺伝子に体細胞変異を有するpTNM分類で、Stage I~IIIの直腸がんまたはStage II~IIIの結腸がん患者であった。
体細胞変異は、
PIK3CA exon 9または20のホットスポット変異(グループA)、または
PIK3CA(exon 9および20以外)、
PIK3R1、
PTENにおける中等度または高度の機能的影響のある体細胞変異(グループB)の、いずれかまたは両方がある場合に組み入れ可とした(両方ある場合はグループAに組み入れ)。
研究グループは、適格患者を腫瘍部位(結腸、直腸)、pTNM病期(I、II、III)、体細胞変異(グループA、グループB)で層別し、アスピリン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回160mgを3年間投与した。
主要評価項目は、グループAにおける大腸がん初回再発(局所再発、遠隔転移または大腸がんによる死亡)までの期間(time-to-event解析で評価)、副次評価項目は、グループBにおける大腸がん再発、DFSおよび安全性とした。
3年累積再発率はアスピリン群7.7%、プラセボ群14.1%
2016年4月6日~2021年7月19日に、6,397例が適格性の評価を受けた。このうち3,783例が適格かつ同意が得られた。分子スクリーニングを実施し、完全なゲノムデータが得られたのは2,980例であった。
PI3K経路の遺伝子に体細胞変異を有していたのは1,103例(37.0%、グループAが515例、グループBが588例)で、このうちグループAの314例、グループBの312例が無作為化された。
グループAにおける推定3年累積再発率は、アスピリン群7.7%、プラセボ群14.1%(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.24~0.98、p=0.04)であった。グループBでは、それぞれ7.7%、16.8%(0.42、0.21~0.83)であった。
推定3年DFS率は、グループAではアスピリン群88.5%、プラセボ群81.4%(HR:0.61、95%CI:0.34~1.08)、グループBではそれぞれ89.1%、78.7%(0.51、0.29~0.88)であった。
重度有害事象は、アスピリン群で52例(16.8%)、プラセボ群で36例(11.6%)に発現した。
(医学ライター 吉尾 幸恵)