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全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会

 日本高血圧学会は『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、JSH2025)を8月29日に発刊した。6年ぶりとなる今回の改訂にあたり、大屋 祐輔氏(琉球大学名誉教授/高血圧管理・治療ガイドライン2025作成委員長)と苅尾 七臣氏(自治医科大学循環器内科学部門 教授/日本高血圧学会 理事長)が降圧目標や治療薬の位置付けと選択方法などについて、7月25日に開催されたプレスセミナーで解説した。 本書は高血圧患者(140/90mmHg以上)のほか、高値血圧(130~139/80~90mmHg)、血圧上昇に伴い脳心血管リスクが高まる正常高値血圧以上(120/80mmHg以上)のすべての人を対象に作成され、Clinical Question(CQ)全19項目が設けられた。主な改訂点は(1)降圧目標を合併症などを考慮し全年齢「130/80mmHg」*へ、(2)降圧薬選択におけるβ遮断薬の復活、(3)治療の早期介入と治療ステップ、(4)治療アプリの活用など。各パラグラフで詳細に触れていく。*診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満個別性に配慮し、全年齢で130/80mmHg未満を目指す 日本高血圧学会は2000年から四半世紀にわたってガイドラインを作成し、高血圧の是正問題に力を入れてきた。しかし、高所得国における日本人の高血圧有病率は最も不良であり、昨今の罹患率は2017年の推計値とほぼ同等の4,300万例に上る1)。そこで、今回の改訂では、国民の血圧を下げるために、“理論でなく行動のためのもの、シンプルでわかりやすい、エビデンスに基づくもの”という理念を基に、正常血圧の基準(120/80mmHg未満)や、高血圧の基準(140/90mmHg以上)などの数値は欧米のガイドラインを踏まえて据え置くも、JSH2025作成のために実施されたシステマティック・レビューならびにメタ解析の結果から脳心血管病発症リスクを考慮し、「原則的に収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする」とした(第2部 5.降圧目標[p.67~69]、CQ4、8、9、12、14参照)。 これについて大屋氏は「降圧目標130/80mmHg。これが本改訂で押さえておくべき値である。前版の『高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)』では75歳以上の高齢者、脳血管障害や慢性腎臓病(蛋白尿陰性)を有する患者などは有害事象の発現を考慮して140/90未満と区別していた。しかし、これまでの国内外の研究からも高値血圧(130~139/80~89mmHg)でも心血管疾患の発症や死亡リスクが高いことから、高血圧患者であれば、120/80mmHg以上の血圧を呈するすべての者を血圧管理の対象とする。また、降圧目標も75歳以上の高齢者も含めて、診察室血圧130/80mmHg未満に定めることとした。ただし、大屋氏は「一律に下げるのではなく、副作用や有害事象に注意しながら個別性を考慮しつつ下げる」と注意点も強調している。 JSH2019発刊後も高血圧の定義が140/90mmHg以上であるためか、降圧目標をこの値に設定して治療にあたっている医師が少なくない。「130/80mmHg未満を目標に、血圧レベルや脳心血管病発症の危険因子などのリスクを総合的に評価し、個々に応じた治療計画を設定することが重要」と同氏は繰り返し強調した。苅尾氏も「とくに朝の血圧上昇がさまざまなリスク上昇に影響を及ぼしているにもかかわらず、一番コントロールがついていない。ガイドライン改訂と血圧朝活キャンペーンを掛け合わせ、朝の血圧130未満の達成につなげていく」と言及した。β遮断薬の処方減に危機感 高血圧に対する治療介入は患者を診断した時点が鍵となる。まず治療を行うにあたり、脳心血管病に対する予後規定因子(p.65、表6-1)を基に血圧分類とリスク層別化(同、表6-2)を行い、そのリスク判定を踏まえて、初診時血圧レベル別の高血圧管理計画(p.67、図6-1)から患者個々の血圧コントロールを進めていく。実際の処方薬を決定付けるには、主要降圧薬の積極的適応と禁忌・重要な注意を要する病態(p.95、表8-1)、降圧薬の併用STEPにおけるグループ分類(p.95、表8-2)を参考とする。今回の改訂では積極的適応がより具体的になり、脳血管障害はもちろん、体液貯留や大動脈乖離、胸部大動脈瘤の既往にも注意を払いたい。 そしてもう1つの変更点は、降圧薬のグループ分類が新設されたことである。「治療薬の選択については、β遮断薬を除外した前回の反省点を踏まえ、単剤でも脳心血管病抑制効果が示されている5種類(長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬)を主要降圧薬(グループ1、以下G1降圧薬)に位置付けた(表8-2)」と大屋氏は説明。とくにβ遮断薬の考え方について、「JSH2019では糖尿病惹起作用や高齢者への適応に関してネガティブであったが、それらの懸念は一部の薬剤に限るものであり、有用性と安全性が確立しているビソプロロールとカルベジロールの使用は推奨される。また、耐糖能異常を来す患者への投与について、前版では慎重投与となっていたが重要な注意の下で使用可能な病態とした」とし、「各薬剤の積極的適応、禁忌や注意すべき病態を考慮するために表8-1を参照して処方してほしい。もし積極的適応が表8-1にない場合には、コラム8-1(p.96)のアドバイスを参考にG1降圧薬を選択してもらいたい」ともコメントした。 また、治療を進めていく上では図8-1の降圧薬治療STEPの利用も重要となる。G1降圧薬の単剤投与でも効果不十分であれば2剤併用やG2降圧薬(ARNI、MR拮抗薬)の処方を検討する。さらに降圧目標を達成できない場合にはG1・G2降圧薬から3剤併用を行う必要がある。ただし、それでも効果がみられない場合には、専門医への紹介が考慮される。 なおMR拮抗薬は、治療抵抗性高血圧での追加薬として有用であることから、実地医家の臨床上の疑問に応える形でクエスチョンとしても記されている(p.181、Q10)。薬物療法は診断から1ヵ月以内に 続いて、大屋氏は治療介入のスピードも重要だとし、「今改訂では目標血圧への到達スピード(薬物投与の時期)も押さえてほしい」と話す。たとえば、低・中等リスクなら生活習慣の改善を実施して1ヵ月以内に再評価を行い、改善がなければ改善の強化とともに薬物治療を開始する。一方、高リスクであれば生活習慣の改善とともにただちに薬物療法を開始するなど、降圧のスピードも考慮しながらの管理が必要だという。 ただし、急性腎障害や症候性低血圧、過降圧によるふらつき、高カリウム血症などの電解質異常といった有害事象の出現に注意が必要であること、高齢者のなかでもフレイルや要介護などに該当する患者の対応については、特殊事例として表10-4に降圧指針(p.151)が示されていることには留意したい。利用者や対象者を明確に、血圧管理にアプリの活用も 本書の利用対象者は多岐にわたるため、各利用対象を考慮して3部構成になっている。第1部(国民の血圧管理)は自治体や企業団体や一般市民など、第2部(高血圧患者の管理・治療)は実地医家向け、第3部(特殊な病態および二次性高血圧の管理・治療)は高血圧、循環器、腎臓、内分泌、老年の専門医療に従事する者やその患者・家族など。 新たな追加項目として、第7章 生活習慣の改善に「デジタル技術の活用」が盛り込まれた点も大きい。高血圧治療補助アプリは成人の本態性高血圧症の治療補助として2022年9月1日に保険適用されている。苅尾氏が降圧目標達成に向けた血圧管理アプリの利用について、「デジタル技術を活用した血圧管理に関する指針が発刊されているが、その内容が本ガイドラインに組み込まれた(CQ7)。その影響は大きい」ともコメントしている。現在、日本高血圧学会において、製品概要や使用上の注意点を明記した『高血圧治療補助アプリ適正使用指針(第1版)』を公開している。 同学会は一般市民への普及にも努めており、7月25日からはYouTubeなどを利用した動画配信を行い、血圧目標値130/80mmHgの1本化についての啓発を進めている。あわせてフェイク情報の拡散問題の解決にも乗り出しており、大屋氏は「フェイク情報を放置せず、正確な情報提供が必要だ。本学会からの提言として、『高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~』を学会ホームページならびに本書の付録(p.302)として盛り込んでいるので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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HR+/HER2+転移乳がんへのパルボシクリブ+トラスツズマブのOS(PATRICIA)/ESMO Open

 HR+/HER2+転移乳がんに内分泌療法を併用または非併用でパルボシクリブ+トラスツズマブの有効性を検討した第II相PATRICIA試験の結果、最終的な全生存期間(OS)中央値は29.8ヵ月であったことを、スペイン・SOLTI Cancer Research GroupのTomas Pascual氏らが報告した。また、バイオマーカー分析の結果についても報告した。ESMO Open誌2025年9月1日号に掲載。 本試験は、2015年7月~2018年11月に患者を登録し、スペインの17施設で実施された研究者主導の多施設共同非盲検第II相試験である。対象は、トラスツズマブ治療歴があり、2~4レジメンの治療後に病勢進行が認められた閉経後HER2+転移乳がん患者で、ER-症例はコホートA(パルボシクリブ+トラスツズマブ)、ER+症例はコホートB1(追加治療なし)またはコホートB2(レトロゾール)に1:1に無作為に割り付けた。主要評価項目は治験責任医師による6ヵ月時点の無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目はOSと長期PFSであった。 主な結果は以下のとおり。・本試験には71例が登録され、コホートAに15例、B1に28例、B2に28例が登録された。・OS中央値は29.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:20.9~38.0)、4年OS率はコホートAが13.3%、B1が35.7%、B2が32.3%であった。・OSは、PAM50のLuminalタイプが38.0ヵ月で、非Luminalタイプ(26.6ヵ月)より良好であった。・探索的バイオマーカー分析では、Luminal関連遺伝子が長期の生存と関連した一方、Basal -likeおよび増殖関連遺伝子は耐性と関連していた。・Luminal A、Luminal B、化学内分泌(CES)スコア高値では予後は良好であった。 著者らは、「本結果は、HER2+乳がんにおける遺伝子発現プロファイリングの関連を強調し、バイオマーカー主導の患者選択を支持している。また、本試験の長期成績は、HR+/HER2+転移乳がんにおける化学療法以外の可能性を実証するものだ」と結論している。

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男女間におけるレビー小体とアルツハイマーにおける認知機能低下の違い

 カナダ・Sunnybrook Research InstituteのMadeline Wood Alexander氏らは、アルツハイマー型認知症(AD)とレビー小体型認知症(LBD)の神経病理および認知機能低下に対する性別や閉経年齢の影響を調査した。Annals of Neurology誌オンライン版2025年7月11日号の報告。  Rush Alzheimer's Disease Centerの3つのコホート(Religious Orders研究、Rush Memory and Aging Project、Minority Aging Research研究)およびNational Alzheimer's Coordinating Centerの神経病理データセットを用いて、分析を行った。LBD(大脳新皮質/辺縁系型vs.非大脳新皮質型)とADの神経病理学的評価には、神経斑(ジストロフィー性神経突起により囲まれているβアミロイド斑)と神経原線維変化を含めた。各データセットにおいて、LBDと性別が神経斑、神経原線維変化、認知機能低下に及ぼす相互の影響を検証した。さらに、Rushデータセットを用いて、女性の自然閉経年齢がLBDと神経斑、神経原線維変化、認知機能低下との関連を変化させるかを検証した。 主な結果は以下のとおり。・Rushデータセットより女性1,277人、男性579人、National Alzheimer's Coordinating Centerデータセットより女性が3,283人、男性3,563人を対象とした。・両データセットにおいて、男性はLBDの可能性が高く、女性は神経斑と神経原線維変化の負荷がより大きかったことが示唆された。・性別は、LBDと神経原線維変化との関連性を変化させたが、神経斑との関連は認められなかった。女性では、男性よりも、LBDと神経原線維変化負荷の増加とのより強い関連が認められた。・併存する病態(神経斑、神経原線維変化、LBDのいずれかが該当する場合)で調整後、男性ではLBD関連の認知機能低下が速く、女性では神経原線維変化関連の低下がより速かったことが示唆された。・女性では、閉経年齢の早さがLBDと神経原線維変化負荷およびエピソード記憶の低下との関連性を悪化させることが示された。 著者らは「性別は、ADおよびLBDの神経病態に影響を及ぼす可能性があり、認知症の予防や介入に対するより精密なアプローチの必要性が示唆された」と結論付けている。

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システム統合型の転倒予防プログラムは高齢者に有効か/JAMA

 世界的に高齢化が急速に進む中、医療資源に乏しい地域に居住する高齢者における効果的な転倒予防戦略のエビデンスは十分ではないとされる。中国・Harbin Medical UniversityのJunyi Peng氏らは、同国農村部の転倒リスクがある高齢者において、プライマリヘルスケアのシステムに組み込まれた転倒予防プログラムの有効性を評価する、12ヵ月間の実践的な非盲検クラスター無作為化並行群間比較試験「FAMILY試験」を実施し、転倒のリスクが有意に低減したことを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月25日号で報告された。128の農村で、バランス・機能訓練の転倒予防効果を評価 本研究は、2023年9月19日~11月15日に中国の4省128農村で被験者を登録して行われた(Harbin Medical Universityなどの助成を受けた)。これらの農村を、プライマリヘルスケアのシステムに統合された転倒予防介入として、参加者にバランス・機能訓練と地域参加型の健康教育を行う群(介入群)、または地域の積極的な関与がない通常ケアとして健康教育のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 解析には、年齢60歳以上で、過去12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を経験、または転倒の懸念があると自己報告した2,610例(介入群[64農村]1,311例、対照群[64農村]1,299例)が含まれた。平均追跡期間は、介入群358.4(SD 31.5)日、対照群357.7(31.1)日であった。ベースラインの参加者全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:66.4~74.2)で、1,553例(59.5%)が女性だった。1年1回以上の転倒報告が有意に少ない 主要アウトカムである、介入後12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を報告した参加者の割合は、対照群が38.3%(497/1,298例)であったのに対し、介入群は29.7%(388/1,308例)と有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.67[95%信頼区間[CI]:0.48~0.91、p=0.01)。 6つの副次アウトカムのうち、次の5つは対照群に比べ介入群で有意に良好であった。(1)1人年当たりの平均転倒件数:介入群0.8(SD 2.4)件vs.対照群1.4(3.5)件、率比(RR):0.66(95%CI:0.46~0.94)、p=0.02 (2)転倒による身体の損傷:15.2%vs.21.6%、OR:0.65(95%CI:0.48~0.88)、p=0.005 (3)30秒椅子立ち上がりテスト(CST:≦12回で転倒リスク上昇):10.4(SD 3.8)回vs.9.9(4.0)回、RR:1.06(1.02~1.09)、p=0.003 (4)4段階バランステスト(FSBT:徐々に難しくなる4つの姿勢をそれぞれ10秒ずつ保持。臨床的に意義のある最小差[MCID]の設定はない)のすべてを完遂した参加者の割合:33.7%vs.26.5%、OR:1.49(95%CI:1.20~1.84)、p<0.001 (5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア):0.89(SD 0.19)点vs.0.85(0.22)点、β:0.03(95%CI:0.02~0.05)、p<0.001 ただし、(3)30秒CSTは、MCID(2回)を満たさなかった。(5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア)は、高齢者の転倒予防のMCID(0.03点)を満たした。TUGテストには差がない もう1つの副次アウトカムであるTimed Up and Go(TUG)テスト(椅子から立ち上がって10フィート[3メートル]歩き、向き直って椅子に戻り座る一連の動作。所要時間≧13.5秒で転倒リスク上昇)では、機能的移動能力を評価した。平均所要時間は、介入群13.3(SD 4.6)秒、対照群13.2(5.6)秒(β:0.18[95%CI:-0.26~0.62]、p=0.42)であり、両群間に差を認めなかった(MCIDは2秒の短縮)。 著者は、「プライマリヘルスケアシステムへの転倒予防プログラムの統合が、中国農村部の高齢者の自己報告による転倒のリスクを有意に低減することが明らかとなった」「このバランス訓練と機能訓練、さらに地域参加型の健康教育から成る介入は、人口の高齢化と医療資源の制約の両方に直面する低・中所得国で拡大する可能性がある」としている。

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慢性咳嗽のカギ「咳過敏症」、改訂ガイドラインで注目/杏林

 8週間以上咳嗽が持続する慢性咳嗽は、推定患者数が250〜300万例とされる。慢性咳嗽は生活へ悪影響を及ぼし、患者のQOLを低下させるが、医師への相談割合は44%にとどまっているという報告もある。そこで、杏林製薬は慢性咳嗽の啓発を目的に、2025年8月29日にプレスセミナーを開催した。松本 久子氏(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 主任教授)と丸毛 聡氏(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 呼吸器内科 主任部長)が登壇し、慢性咳嗽における「咳過敏症」の重要性や2025年4月に改訂された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』に基づく治療方針などを解説した。慢性咳嗽により労働生産性が約3割低下 松本氏は「知ってますか? 『長引く咳』と『咳過敏症』」と題し、慢性咳嗽のQOLへの影響や病態、咳過敏症の臨床像やメカニズムなどについて解説した。 慢性咳嗽はQOLを大きく低下させる。心理的側面では「咳をすると周囲の目線が気になる」「咳をすることが恥ずかしい」「会話や電話ができない」などの悪影響が生じる。また、食事への影響が生じたり、とくに女性では尿失禁が起こったりする場合もある。症状が強い場合には、咳失神や肋骨骨折にもつながる。このように、慢性咳嗽患者は日常生活においてさまざまな困りごとを抱えており、労働生産性の損失率は約30%にのぼるという報告がなされている。 慢性咳嗽の原因はさまざまであり、主な疾患として、喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、副鼻腔気管支症候群などが挙げられる。そこで問題となるのが、これらの疾患は画像検査や呼吸機能検査、血液検査で特異的な所見がみられないことが多いという点である。そのため、慢性咳嗽の診断・治療では、咳の出やすいタイミングや随伴する症状などを問診で明らかにし、原因疾患に対する治療を行いながら経過を観察していくこととなる。しかし、これらの疾患に対する治療を行っても、約2割が難治性慢性咳嗽となっているのが現状である。難治性慢性咳嗽の背景にある咳過敏症 松本氏は、「難治性慢性咳嗽の背景にあるのが咳過敏症症候群である」と指摘する。咳過敏症症候群は「低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床症候群」と定義され1)、煙や香水などの香り、会話や笑うことなどのわずかな刺激により咳が出て止まらなくなる状態である。 2023年に公開された英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)では、慢性咳嗽の「treatable traits(治療可能な特性)」として12項目が示され、このなかの1つに「咳過敏症」が示されている。これについて、松本氏は「慢性咳嗽という大きな括りのなかには、さまざまな原因疾患があり、加えて咳過敏症もあるという考えである。難治化した慢性咳嗽患者は咳過敏症を有していると考えることもできる」と述べ、咳過敏症に対する対応の重要性を強調した。改訂ガイドラインでtreatable traitsを明記 続いて、丸毛氏が「長引く咳に関する診療の進め方-最新の診療ガイドラインをふまえて-」と題して講演した。そのなかで、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』の咳嗽パートの改訂のポイントから、「慢性咳嗽のtreatable traits」「咳過敏症の重要性」「難治性慢性咳嗽についての詳説」の3項目を取り上げ、解説した。 容易に原因の特定ができない狭義の成人遷延性・慢性咳嗽の対応として、本ガイドラインでは、喀痰がある場合は「副鼻腔気管支症候群」への治療的診断を行い、喀痰がない、あるいは少量の場合は「咳喘息」「アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)」「GERD」「感染後咳嗽」に対する診断的治療を行って、咳嗽の改善を評価することが示されている。ここまでは前版と同様であるが、前版では原因疾患への対応で改善がみられない場合の治療法は示されていなかった。しかし、改訂ガイドラインでは、その先の対応として「treatable traitsの検索」「P2X3受容体拮抗薬の使用の検討」が示された。 treatable traitsの概念は、患者の病態のなかで、「明確に評価・測定できる」「臨床的に意義があり、予後や生活に影響する」「有効な介入手段が存在する」という条件を満たすものである。treatable traitsは患者によって単一の場合もあれば、複数の場合もある。また、複数の場合は個々のtraitsが占める割合も患者によって異なる。 従来の診療は、喘息であれば吸入ステロイド薬、COPDであれば気管支拡張薬など、診断名に応じて標準治療を一括適用するという考えであった。しかし、treatable traitsを考慮した治療では、同じ診断名でも個々の病態の構成要素は異なるため、それらをしっかりと見極めて治療を行う。これは「プレシジョン・メディシンに近い考え方である」と丸毛氏は述べる。 改訂ガイドラインでは、英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)で示されたtreatable traitsが採用されており、「GERD」「喘息などの呼吸器系基礎疾患」「睡眠時無呼吸症候群」「肥満」「ACE阻害薬の服用」など、12項目が示されている。そのなかの1つに「咳過敏症」がある。これについて、丸毛氏は「慢性咳嗽の難治化の要因となる咳過敏症がtreatable traitsとして示されたのは非常に重要なことである。改訂ガイドラインは、非専門医の先生方にも個別化医療を実践しやすく作成されているため、ぜひ活用いただきたい」と述べ、ガイドラインの普及による咳嗽診療レベルの向上への期待を語った。選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサント」の登場 咳過敏症に対する初の分子標的薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント(商品名:リフヌア)である。咳のメカニズムの1つとして、P2X3受容体の関与がある。炎症や刺激により気道上皮細胞などから放出されたATPが、感覚神経に存在するP2X3受容体を刺激することで咳過敏性が亢進する。ゲーファピキサントはこれを抑制することで、咳嗽を改善させる。ゲーファピキサントは難治性の慢性咳嗽を改善するほか、日常生活や睡眠の質の改善も報告されている。 ゲーファピキサントは発売から3年以上が経過し、使用経験も積み重ねられている。改訂ガイドラインでも、フローチャートに難治性咳嗽の選択肢として掲載された。これについて、丸毛氏は「咳嗽は非専門医の先生方が多く診られているため、咳嗽の診療に慣れた先生であれば、非専門医であっても選択肢として提示可能であると判断され、ガイドラインにも記載されている」と説明した。 ゲーファピキサントには代表的な有害事象として、味覚に関連する有害事象があり、マネジメントが重要となる。そこで、味覚に関連する有害事象への対応について松本氏に聞いたところ「亜鉛が欠乏すると味覚障害が強くなりやすいため、亜鉛欠乏に注意することが必要である。また、後ろ向き研究ではあるが、麦門冬湯を併用していると味覚障害が軽かったというデータもあるため、麦門冬湯の併用も選択肢の1つになるのではないか」との回答が得られた。

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心理教育的介入で、地域社会の精神保健ケア構築は可能か/Lancet

 医療提供者の不足と文化的に適合したケアの欠如が、世界中で多文化集団への精神保健サービスの提供の妨げになっているとされる。米国・マサチューセッツ総合病院のMargarita Alegria氏らは、人種/民族的、言語的に少数派の集団における抑うつや不安への地域社会の対処能力の構築を目指す心理教育的介入(Strong Minds-Strong Communities[SM-SC]と呼ばれる)の有効性を評価するために、6ヵ月間の研究者主導型多施設共同無作為化臨床試験「SM-SC試験」を実施。SM-SCによる文化的に適合した介入が黒人、ラテン系、アジア系の住民に抑うつ、不安症状の改善をもたらすことが示唆され、これによって地域社会の対処能力を構築することで、精神保健ケアの不足を補う選択肢の提供が可能であることが示されたという。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号に掲載された。2州の37ヵ所で参加者を募集 本研究では、2019年9月~2023年3月に米国の2州(マサチューセッツ州とノースカロライナ州)の20の地域共同体を基盤とする組織と17の診療施設で参加者を募集した(米国国立精神衛生研究所[NIMH]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の英語、スペイン語、標準中国語、広東語の話者で、「精神保健分野のコンピューター適応型テスト(CAT-MH)」を用いた評価で中等度から重度の抑うつまたは不安の症状を呈する患者を対象とした。被験者を、文化的背景を踏まえ、適切な言語の使用が可能で臨床的な指導を受けた地域保健師によるSM-SCを受ける群、または通常ケア(対照)を受ける群に無作為に割り付けた。 SM-SCは、エビデンスに基づく文化的な個別化介入で、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス訓練、健康的な習慣に関する心理教育、動機付けのための面接、心地良いい活動(pleasant activity)や支持的関係(supportive relationship)を通じた行動の活性化などのアプローチで構成される。通常ケアでは、参加者に米国国立衛生研究所(NIH)が作成した不安と抑うつに関する小冊子が配布された。 有効性の主要アウトカムは、ITT集団における次の3項目のベースラインから6ヵ月後(介入終了時)および12ヵ月後までの変化量とした。(1)自己報告による抑うつ・不安症状(Hopkins Symptom Checklist-25[HSCL-25]のスコア[1~4点、高点数ほど抑うつ・不安症状が悪化]で評価)。(2)機能水準(WHO障害評価スケジュール2.0[WHODAS 2.0]のスコア[12~60点、高点数ほど機能が低下]で評価)。(3)ケアの質に関する認識(Perceptions of Care Outpatient Survey[PoC-OP]のGlobal Evaluation of Careドメインのスコア[0~100点、高点数ほどケアの質が高いと認識]で評価)。6ヵ月時に3項目とも改善 1,044例を登録し、524例をSM-SC群、520例を通常ケア群に割り付けた。全体の平均年齢は42.6(SD 13.3)歳で、女性875例(83.8%)、男性165例(15.8%)、その他4例(0.4%)であった。人種別では、ラテン系654例(62.6%)、非ラテン系黒人149例(14.3%)、非ラテン系アジア人137例(13.1%)、非ラテン系白人92例(8.8%)であり、704例(67.4%)が外国生まれだった。 ベースラインから6ヵ月後までに、HSCL-25スコアは通常ケア群で0.24低下したのに対し、SM-SC群では0.44の低下と抑うつ・不安症状が有意に改善した(群間差:0.20[95%信頼区間[CI]:0.14~0.26]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.39[95%CI:0.27~0.52])。 また、機能水準(WHODAS 2.0スコア低下の群間差:2.39[95%CI:1.38~3.40]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.28[95%CI:0.16~0.39])およびケアの質の認識(PoC-OPスコア上昇の群間差:8.75[5.87~11.63]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.47[0.31~0.62])についてもSM-SC群で有意な改善を示し、とくに後者における効果が顕著に高かった。12ヵ月後も有意差を保持 介入終了後、介入の効果は減衰した(標準化効果量が約30%低下)が、ベースラインから12ヵ月(介入終了後6ヵ月)の時点で3項目とも通常ケア群との比較で有意差を保持しており(標準化効果量[Cohen’s d]:抑うつ・不安症状0.28[95%CI:0.16~0.40]、機能水準0.21[0.08~0.33]、ケアの質の認識0.33[0.16~0.50])、SM-SCの有効性が示された。 著者は、「今後の研究では、このモデルへの投資が、実臨床や保健システム上のさまざまな課題にどのように対処できるかを検討する必要がある」としている。

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中年期の高コルチゾール値は閉経後のアルツハイマー病発症リスクと関連

 中年期にコルチゾール値が高い閉経後の女性では、アルツハイマー病(AD)のリスクが高まるという研究結果が、「Alzheimer’s & Dementia」に4月24日掲載された。 米テキサス大学サンアントニオ校グレン・ビッグス・アルツハイマー病・神経変性疾患研究所のArash Salardini氏らは、中年期のコルチゾール値が15年後のADバイオマーカー検査の結果を予測できるかを検討するために、縦断的データを用いた後ろ向き研究を実施した。解析対象となったのは、フラミンガム心臓研究に参加した認知機能障害のない成人305人のデータであった。 解析の結果、中年期のコルチゾール値の上昇は、閉経後の女性におけるアミロイド沈着の増加と相関していることが明らかになった。アミロイド沈着は主に後帯状皮質、楔前部、前頭外側部に集中していた。コルチゾール値の上昇は、タウの蓄積量との間に有意な関連は認められなかった。また男性においても有意な関連は認められなかった。 著者らは、「本研究の結果から、コルチゾールの調節異常と早期アミロイド沈着を結びつける性特異的なメカニズムの存在が示唆された。また、その傾向は、特に閉経後の女性で顕著であった。このことは、ADの発症機序を理解する上で、性別とホルモンの状態を考慮することの重要性を改めて示している。また、ストレスの軽減とホルモン介入は、特にリスクの高い女性におけるAD予防に有望であることを示唆している。今回のようなコホートを対象とした長期追跡調査は、これらの早期アミロイド変化が臨床症状に結びつくかどうか、さらにAD発症におけるコルチゾールの因果的役割を明らかにするために極めて重要である」と述べている。 なお複数の著者が製薬企業との利益相反(COI)を明らかにしており、1名の著者が研究に関連する特許を出願している。

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鼻をほじる人、何%?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第289回

鼻をほじる人、何%?鼻をほじったことがない人は、存在しないと思います。ティッシュで包んで捨てて、手を洗うのが正しい対応ですが、そもそも「ほじるな」というのは難しいのは、誰しも認識しているはず。コロナ禍では、こういった行動が感染を広げる一因になっているのでは、と議論されたことがありました。しかしながら、一般集団における鼻ほじり行動に関する文献は世界的にほとんどありません。Andrade C, et al. A preliminary survey of rhinotillexomania in an adolescent sample. J Clin Psychiatry. 2001 Jun;62(6):426-31.本論文は、インド・バンガロール市の4校に通う200人の高校生を対象に、鼻ほじり行動の頻度、背景、合併する習慣的行動や精神医学的関連について調査した研究です。調査に参加した200人のうち、ほぼ全員が鼻ほじりアリと判断されました。平均回数は1日8.4回で、中央値は4回、最頻値は2回でした。31.8%が1日5回以上、15.3%が10回以上、7.6%が20回以上と報告しており、一部ではきわめて頻繁に行われていることがわかりました。また36%は公共の場でも鼻ほじりをすると答えました。鼻ほじりをまったくしないと答えたのはわずか7人でした。鼻ほじりの理由としては「清潔を保つため」(34%)、「不快感やかゆみを和らげるため」(31.2%)、「鼻道を通すため」(28.6%)が多く挙げられました。方法としては80.5%が指を使っていました。ダイレクトフィンガーはむしろ不潔なので、ティッシュを使う人などもいそうですね。ウィスコンシン州の住民1,000人に郵送調査を行ったもので、高い鼻ほじり率が確認されており、91%が現在も鼻ほじりをしていると答えています1)。1.2%は1時間に1回以上の頻度だったそうです。鼻ほじりは多くの場合「よくある癖」として軽視されますが、時に強迫性障害の一部として位置付けられるべき行動である可能性があり、精神医学的にも耳鼻咽喉科学的にも、さらなる研究が必要かもしれません。 1) Jefferson JW, Thompson TD. Rhinotillexomania: psychiatric disorder or habit? J Clin Psychiatry. 1995;56(2):56–59.

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第278回 コロナ流行株の実効再生産数をおさらい、今冬へ備える

INDEX流行株の変遷ワクチン(規格など)の変遷前回、感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめてみた。今回は流行ウイルス株の変遷、これに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)について紹介する。なお、当初はワクチンや治療薬の有効性に関する変化を今回紹介しようと考えたが、文字数の都合上、それは次回に譲る。流行株の変遷5類移行後の新型コロナウイルスの流行ウイルス株は基本的にオミクロン株系統内で変遷している。5類移行直後の2023年5月頃の流行株はXBB系統のXBB.1.5株とXBB.1.9.1株だったが、7月頃からXBB.1.16株による感染者が急増した。東京大学医科学研究所のグループの検討によると、XBB.1.16株の実効再生産数は、XBB.1.5株に比べて1.13倍高いことがわかっている1)。この後はしばらくXBB系統内で主流株の入れ替わりが起こるが、2023年12月ごろからはXBB系統とは大きく異なるBA.2.86株の感染が目立つようになった。BA.2.86株は2022年に流行したBA.2株の子孫株だが、オミクロンBA.2株と比較してスパイクタンパク質に30ヵ所以上もの変異が認められる。その後、オミクロンBA.2.86株は世界各地で緩やかに流行を拡大させ、実行再生産数はXBB.1.5株を基準にすると1.3倍高く、XBB.1.16株よりも感染力が強いことが明らかになった2)。もっとも流行主流株としてのBA.2.86株の存在は約3週間程度で、その後は同株の子孫株であるJN.1株が日本をはじめ、世界で大流行した。JN.1株の実効再生産数は、XBB系統のEG.5.1株の1.3~1.4倍である3)。XBB系統のXBB.1.5株の実効再生産数がE.G.5.1の約0.9倍なので、XBB.1.5株を基準とすると、JN.1株の実効再生産数はその1.4~1.5倍と算出される。2024年春ごろからはJN.1株に代わってその子孫株であるKP.2株、同年夏からはKP.3.1.1株が流行株となり、JN.1株を基準にしたそれぞれの実効再生産数は1.2~1.3倍、1.4~1.6倍4)。XBB.1.5株の実効再生産数から見れば、KP.2株が1.7~2.0倍、KP.3.1.1株が2.0~2.4倍となる。そして2025年初から流行し始めたのが、やはりJN.1株の子孫株LP.8.1株。こちらの実効再生産数はBA.2.86株の子孫株XEC株基準で約1.1倍、同じ基準でJN.1株が0.7倍である。こちらもXBB.1.5株基準では実効再生産数は2.2~2.4倍となる5)。現在は今春に香港やシンガポールで流行し始め、国内での検出例も増えてきたNB.1.8.1株、通称ニンバスである。同株はオミクロンXDE株とオミクロンJN.1株の組換え体であるオミクロンXDV株から派生した変異株である。その実効再生産数はLP.8.1株比で約1.2~1.3倍、XBB.1.5株比で2.6~3.1倍である6)。このようにしてみると、実効再生産レベルで見れば、5類移行直後からウイルスの感染力は3倍前後になっている現実がある。ワクチン(規格など)の変遷日本国内での新型コロナワクチンについては、5類移行時点で2021年2月に特例承認されたファイザー製のコミナティ、2021年5月に特例承認されたモデルナ製のスパイクバックスの合計2種類のmRNAワクチンと2022年4月に特例承認された米・ノババックス製(国内での製造販売は武田薬品)の組換えタンパクワクチンであるヌバキソビッドの3種類が現実的に使える選択肢だった。すでにこの時点でmRNAワクチンでは、ワクチン全体をプラットフォームと捉え、流行株に合わせて、挿入するmRNAを変更する一部変更申請(一変)が一般的になっていた。5類移行後では、23年9月にファイザー製、モデルナ製のXBB.1.5系統対応のワクチンの一変が承認された。また、同時期の23年8月には、初の国産ワクチンである第一三共製のダイチロナが承認され、同年11月にはダイチロナもXBB.1.5系統対応のワクチンの一変申請が承認された。また、このダイチロナの一変申請承認と同時にMeiji Seikaファルマ製の自己増幅型m-RNAワクチンのコスタイベが承認されたものの、供給開始は2024年秋へとずれ込んでいる。なお、原則としてほぼ全国民が対象となった国による特例臨時接種は2024年3月末で終了となり、以後は60~64歳までの基礎疾患保有者と65歳以上の高齢者を対象とした秋シーズンの定期接種となったため、各社とも夏時点の流行株を軸に一変申請を行い、それに伴って承認されたワクチンが定期接種などで使用されている。2024年では8月にファイザーとモデルナ、9月に第一三共とMeiji Seika ファルマのJN.1 系統対応1価ワクチンの一変申請が承認された。現在、今年の秋の定期接種に向けては、8月にファイザーとモデルナ、武田薬品がJN.1株の子孫株LP.8.1株対応のワクチンの一変申請の承認を受けたばかりだ。なお、実はここまでの段階で意外と世間から忘れられているワクチンがある。塩野義製薬が開発した組換えタンパクワクチンのコブゴーズである。同ワクチンは2024年5月に承認された。ワクチンの申請自体は2023年に行われていたが、最初の23年7月の審議では、臨床試験で対照薬となったアストラゼネカのウイルスベクターワクチン・バキスゼブリアの中和抗体価が「通常想定される値よりも相当程度低い」との指摘があり、この時点では有効性評価が困難として継続審議となった。結果的には追加資料の提出などにより、初回免疫としての有効性は認められるとして、この局面に限定した承認となっている。一方、各ワクチンとも承認直後は1バイアル当たりの接種回数が、コミナティが5~6回、スパイクバックス、バキスゼブリアが10回分(スパイクバックスは追加接種の場合は15回分)であり、それゆえに一度に大量の接種予定者を集めなければならない、あるいは接種予定者の急なキャンセルなどにより、廃棄などの問題が少なからず起きたのは多くの医療者が記憶に新しいと思う。この点については現在、コミナティが現在ではともに希釈不要の12歳以上用のプレフィルドシリンジ製剤と5~11歳用の1人用のバイアル製剤、6ヵ月~4歳用の3人用のバイアル製剤(要希釈)、モデルナは12歳以上では1回分、生後6ヵ月以上12歳未満では2回分となる0.5mLバイアル製剤、ヌバキソビッドは6歳以上で2回接種分となる1mLバイアル製剤となっている。ダイチロナに関しては、もともと12歳以上で2回分、5歳以上11歳以下で4回分となる1.5mLバイアル製剤。また、コスタイベは発売当初は16人分1バイアル製剤だったが、2025年8月に2人分バイアル製剤の一変申請の承認を受けた。さて、次回はワクチンや治療薬の有効性について可能な範囲で現時点までの変遷を紹介するつもりである。 1) Yamasoba D, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:655-656. 2) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:e460-e461. 3) Kaku Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024;24:e82. 4) Kaku Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024;24:e736. 5) Chen L, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e193. 6) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e443.

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逆ハローサイン(Reversed halo sign)【1分間で学べる感染症】第33回

画像を拡大するTake home message免疫不全患者に逆ハローサインが見られた場合は、ムーコル症(Mucormycosis)の頻度が高い一方で、感染性・非感染性ともに多岐にわたる鑑別疾患が存在する。はじめに逆ハローサイン(Reversed halo sign)とは、限局性のすりガラス陰影(GGO:ground-glass opacity)の円形領域が、三日月状または完全な輪状の浸潤影に囲まれている画像所見を指します。画像を拡大するCTで認められるこの特徴的な陰影は、特定の病原体による肺感染症や、さまざまな非感染性疾患の一徴候として現れることがあり、画像を基に適切な鑑別と初期対応ができるかが診療の成否を左右します。感染性疾患逆ハローサインを示す感染症の中で最も重要なのは、ムーコル症(Mucormycosis)です。とくに血液悪性腫瘍や造血幹細胞移植後などの免疫不全状態にある患者では典型的な所見の1つとされ、迅速な抗真菌治療および外科的デブリードマンが必要となる場合があります。そのほかの感染症としては、侵襲性アスペルギルス症、肺炎球菌性肺炎(改善期に一過性に出現することがある)、オウム病(Chlamydia psittaciを病原体とする)、レジオネラ肺炎、結核、ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jiroveciiを病原体とする)、およびヒストプラズマ症などの二相性感染症が含まれます。これらの病原体は、患者の基礎疾患や曝露歴、免疫状態によって鑑別順位が変動するため、全身状態やリスク評価に基づいたアプローチが必要です。非感染性疾患逆ハローサインを示す非感染性の疾患としては、多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などの壊死性血管炎が重要です。これらは肺病変をきっかけに診断に至ることも多く、逆ハローサインが初発の手掛かりとなることがあります。そのほかにもサルコイドーシス、皮膚筋炎に伴う肺病変、肺線維症や肺腺がん、リンパ腫様肉芽腫症、特発性器質化肺炎(COP)、肺塞栓症など、炎症性や腫瘍性、血行障害に基づく病変も含まれます。これらは感染症とは異なる治療戦略が必要となるため、鑑別の誤りが予後に直結する可能性もあります。逆ハローサインを見た際には、「感染性か非感染性か」「免疫状態はどうか」「急性か慢性か」「全身に病変があるか」といった観点から診断アプローチを組み立てることが重要です。このように、逆ハローサインは、幅広い鑑別疾患が原因となって生じる重要なサインです。免疫不全者ではムーコル症を念頭に置きつつ、ほかの感染症や血管炎性疾患も見逃さぬよう、全体像を評価しながら診断を進めることが求められます。1)Georgiadou SP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:1144-1155.2)Godoy MC, et al. Br J Radiol. 2012;85:1226-1235.3)Maturu VN, et al. Respir Care. 2014;59:1440-1449.

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65歳以上の高齢者、NSAIDsの腎機能への影響は?

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、疼痛管理に広く使用されているが、とくに高齢者において腎毒性のリスクが懸念される。NSAIDsと急性腎障害の関連が知られているが、長期使用が腎機能に与える影響については、これまで一貫した見解が得られていない。そこで、韓国・Samsung Medical CenterのJung-Sun Lim氏らの研究グループは、韓国の高齢者コホートを10年間追跡した大規模な研究により、NSAIDsの長期使用が腎機能に与える影響を検討した。その結果、NSAIDsの定期的な使用が高齢者の慢性腎臓病(CKD)発症リスクを高め、腎機能の低下を加速させたことが示された。本研究結果は、Drugs & Aging誌オンライン版2025年8月6日号に掲載された。 本研究は、韓国の高齢者コホート(National Health Insurance Service-Senior Cohort:NHIS-SC)の2009~19年のデータを用いた後ろ向きコホート研究である。対象は、ベースライン時に腎機能が正常(推算糸球体濾過量[eGFR]60mL/min/1.73m2以上、血清クレアチニン0.4~1.5mg/dL)であった65歳以上の成人4万1,237例とした。年齢、性別、併存疾患などの背景因子を調整するため、傾向スコアマッチングを行い、NSAIDsの処方日数が1ヵ月以上またはMPR(medication possession ratio)80%以上の604例(NSAIDs使用群)と、NSAIDsの使用歴がない1,208例(対照群)が抽出された。主要評価項目は、追跡期間中のCKD発症(eGFR 60mL/min/1.73m2未満かつベースラインから10%以上低下)とした。Cox比例ハザードモデルを用いて、NSAIDs使用とCKD発症リスクの関連を評価した。  主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後のCKD発症率(/1,000人年)はNSAIDs使用群20.18、対照群16.25であった。多変量解析において、NSAIDs使用群は対照群と比較してCKD発症リスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.11~1.93)。・NSAIDsの種類別にみたサブグループ解析において、COX-1阻害薬(HR:1.53、95%CI:1.16~2.01)、COX-2阻害薬(HR:1.61、95%CI:1.16~2.23)のいずれも、CKD発症リスク上昇と関連していた。・eGFRの経時的変化を追跡した結果、NSAIDs使用群は追跡2年目以降の腎機能低下が速い傾向にあった。・末期腎不全(ESRD)の発症は、NSAIDs使用群4例、対照群1例にみられたが、両群間に有意差は認められなかった。 本研究結果について、著者らは「本研究において、高齢者のNSAIDsの定期的な使用は、CKD発症リスクを上昇させ、腎機能の低下を加速させた。高齢者へのNSAIDsの投与は慎重に行い、投与する場合は腎機能を定期的にモニタリングすることが推奨される」と結論付けた。

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日本人双極症患者の労働生産性に対する抑うつ症状、認知機能低下の影響

 琉球大学の高江洲 義和氏らは、日本人双極症患者における労働生産性低下と抑うつ症状および認知機能低下との関連性、また双極症の症状と労働生産性低下との関連性を評価するため、48週間の縦断的研究を実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年9月号の報告。 就労中または病気療養中の日本人双極症成人患者を対象に、48週間のプロスペクティブ縦断的ウェブベースコホート研究を実施した。認知機能低下、労働生産性低下、生活の質(QOL)、抑うつ症状の重症度、睡眠障害を評価する検証済みの自記式評価尺度を含む質問票調査を用いて、ベースラインから48週目まで12週ごとに調査した。主要エンドポイントは、48週時点の認知機能のベースラインからの変化と労働生産性低下との相関とした。副次的エンドポイントは、各症状スコアのベースラインからの変化、認知機能低下、労働生産性低下、抑うつ症状、QOL、睡眠障害とした。 主な結果は以下のとおり。・試験参加者211例中179例がすべての質問票に回答し、これらを48週間の解析に含めた。・ベースラインから48週目までの認知機能低下の変化と労働生産性低下(プレゼンティーズム:心身の不調で仕事におけるパフォーマンスが上がらない状態)の変化との間に弱い相関が認められたが(ピアソン相関係数:0.304、p=0.001)、重回帰分析では関連性が消失した。・労働生産性低下の変化は、抑うつ症状の変化と有意な関連が認められた(回帰係数:2.43、p<0.001)。・重回帰分析では、QOLの変化は、不眠症の変化と有意な関連が認められた(回帰係数:−0.01、p<0.05)。 著者らは「日本人双極症患者の抑うつ症状と認知機能を改善する治療は、労働生産性の向上に寄与する可能性が示唆された」と結論付けている。

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早期浸潤性乳がん、2次がんのリスクは?/BMJ

 英国・オックスフォード大学のPaul McGale氏らは、National Cancer Registration and Analysis Service(NCRAS)のデータを用いた観察コホート研究の結果、早期浸潤性乳がん治療を受けた女性の2次原発がんリスクは一般集団の女性よりわずかに高いものの、リスク増加全体の約6割は対側乳がんであり、術後補助療法に伴うリスクは低いことを報告した。乳がんサバイバーは2次原発がんを発症するリスクが高いが、そのリスクの推定方法は一貫しておらず、2次原発がんのリスクと患者・腫瘍特性、および治療との関係は明確にはなっていない。BMJ誌2025年8月27日号掲載の報告。早期浸潤性乳がん女性約47万6,000例について解析 研究グループは、英国・NCRASのデータを用い1993年1月~2016年12月に登録された、最初の浸潤がんとして早期乳がん(乳房のみ、または腋窩リンパ節陽性であるが遠隔転移なし)の診断を受け乳房温存術または乳房切除術を受けた女性を特定し、2021年10月まで追跡調査を行った。 診断時年齢が20歳未満または75歳超、追跡期間3ヵ月未満、初回乳がん診断後3ヵ月以内に他の種類の浸潤がん発症、術前補助療法を受けた患者等は除外し、47万6,373例を評価対象とした。 主要評価項目は、2次原発がんの発生率および累積リスクで、一般集団と比較するとともに、患者特性、初発腫瘍の特徴、術後補助療法との関連性を評価した。2次がんリスクは20年で一般集団よりわずかに増加 評価対象47万6,373例のうち、22%が1993~99年に、21%が2000~04年に、24%が2005~09年に、33%が2010~16年に診断を受けた。初回乳がん診断時の年齢は、20~39歳が7%、40~49歳が20%、50~59歳が31%、60~69歳が30%、70~75歳が12%であった。 2次浸潤性原発がんは6万7,064例に確認され、このうち同側新規乳がんは新規原発がんか初回がんの再発かを区別することが困難であるため解析から除外し、6万4,747例を解析対象集団とした。 これら2次原発がんを発症した計6万4,747例の女性は、一般集団と比較した過剰絶対リスクは小さかった。 初回乳がん診断後20年間で、乳がん以外のがんを発症した女性は13.6%(95%信頼区間[CI]:13.5~13.7)で、英国一般集団の予測値より2.1%(95%CI:2.0~2.3)高かった。 対側乳がんの発症率は5.6%(95%CI:5.5~5.6)で、予測値より3.1%(95%CI:3.0~3.2)高く、過剰絶対リスクは若年女性のほうが高齢女性より高かった。 乳がん以外のがんで20年間の過剰絶対リスクが最も高かったのは、子宮体がんと肺がんであった。子宮体がん、軟部組織がん、骨・関節がん、唾液腺がん、および急性白血病については、標準化罹患比が一般集団の1.5倍以上であったものの、20年間の過剰絶対リスクはいずれも1%未満であった。 術後補助療法別の解析では、放射線療法は対側乳がんおよび肺がんの増加、内分泌療法は子宮体がんの増加(ただし対側乳がんは減少)、化学療法は急性白血病の増加と関連していた。これらは無作為化試験の報告と一致していたが、今回の検討で新たに軟部組織、頭頸部、卵巣および胃がんとの正の関連性が認められた。 これらの結果から、2次がんコホート6万4,747例のうち約2%が、また過剰2次がんコホート1万5,813例のうち7%が、術後補助療法に起因する可能性があることが示唆された。

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DGAT-2阻害薬ION224、MASHを改善/Lancet

 ジアシルグリセロール O-アシルトランスフェラーゼ2(DGAT2)を標的とした肝指向性アンチセンスオリゴヌクレオチドのION224は、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に対する安全かつ有効な治療薬となりうることを、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRohit Loomba氏らION224-CS2 Investigatorsが、米国およびプエルトリコの43の臨床施設で実施した「ION224-CS2試験」において初めて明らかにした。ION224は、MASHの病態に重要な、脂肪毒性ならびに炎症、肝細胞障害および肝線維化に関連する代謝経路であるde novo脂肪合成を抑制する。著者は、「本試験で観察された組織学的改善は体重の変化とは無関係であり、GLP-1をベースとした治療など他の治療との併用が期待される」とまとめている。Lancet誌2025年8月23日号掲載の報告。肝線維化を伴うMASHに対するION224の安全性と有効性をプラセボと比較 ION224-CS2試験は、51週間のアダプティブ2パート無作為化二重盲検プラセボ対照第II相試験。対象は、肝生検にてMASHおよび肝線維化(ステージF1、F2、F3)が確認された18~75歳の成人で、BMI値25以上、MRIプロトン密度脂肪分画測定法(MRI-PDFF)による評価で肝脂肪化率≧10%、HbA1cは<9.5%、ならびにALTおよびASTが≦200U/Lを満たす患者であった。 パート1(用量設定パート)では、適格患者を3つの用量コホート(コホートA:ION224 60mgまたはプラセボ、コホートB:ION224 90mgまたはプラセボ、コホートC:ION224 120mgまたはプラセボ)に1対1対1の割合で無作為に割り付け、さらに各用量コホート内でION224群またはプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り付けた。 パート2(登録拡大パート)では、事前に規定された安全性および有効性に関する中間解析に基づき、コホートBまたはコホートCに1対1の割合で無作為に割り付け、さらに各用量コホート内でION224群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 研究グループは、すべての患者に12ヵ月間にわたりION224またはプラセボを4週ごとに1回、計13回皮下投与した。 主要エンドポイントは、51週時における肝線維化の悪化を伴わないMASH改善(非アルコール性脂肪性肝疾患活動性スコア[NAS]が2以上改善、かつ風船様変性または小葉炎症のスコアが1以上改善)とした。 主要解析は、事前に規定されたper-protocol集団(試験薬を13回中連続3回以上欠かすことなく、少なくとも10回投与され、治療終了時に肝生検を完了)を対象とした。51週時のMASH改善率、90mg群46%、120mg群59%、プラセボ群19% 2021年6月8日~2022年12月27日に、計160例がION224 60mg群(23例)、90mg群(45例)、120mg群(46例)、プラセボ群(46例)に無作為化され、うち123例がper-protocol集団に組み込まれた。 主要エンドポイントを達成した患者の割合は、プラセボ群19%(6/32例)(予測リスク:18.7%[95%信頼区間[CI]:5.2~32.3])であったのに対し、ION224 90mg群が46%(18/39例)(予測リスク:46.2%[95%CI:30.5~61.8]、対プラセボリスク群間差:27.4%[95%CI:6.7~48.1]、p=0.0094)、120mg群が59%(20/34例)(58.8%[42.3~75.4]、40.1%[18.7~61.4]、p=0.0002)であった。 安全性については、ION224の忍容性は良好であり、有害事象はION224群全体で107/114例(94%)、プラセボ群で41/46例(89%)報告された。死亡および治療に関連する重篤な有害事象は報告されなかった。

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心不全入院へのダパグリフロジンの効果~DAPA ACT HF-TIMI 68試験/ESC2025

 SGLT2阻害薬は、外来での心不全治療において心血管死または心不全増悪のリスク低減に寄与するが、心不全による入院での投与開始データは限定的である。今回、ダパグリフロジンによるさまざまな臨床研究を行っているTIMI Study GroupがDAPA ACT HF-TIMI 68試験を実施。その結果、ダパグリフロジンを入院中に開始してもプラセボと比較して2ヵ月にわたる心血管死または心不全悪化リスクを有意に低下させなかった。ただし、3試験のメタ解析からSGLT2阻害薬が心血管死または心不全悪化の早期リスクと全死亡リスクを有意に低下させることが明らかになった。本研究結果は米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDavid D. Berg氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)のホットラインで発表し、Circulation誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 DAPA ACT HF-TIMI 68試験は、米国、カナダ、ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国の210施設で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化試験。今回、心不全入院患者におけるダパグリフロジンの院内投与開始の有効性と安全性を評価する目的で実施された。対象患者は心不全を主訴として入院した18歳以上で、体液貯留の徴候や症状が認められた。試験への組み入れ条件は、初回入院時点でのBNP上昇であった。対象者はダパグリフロジン10mgを1日1回投与する群とプラセボ群に1対1で無作為に割り付けられた。主要有効性アウトカムは2ヵ月間における心血管死または心不全悪化の複合で、安全性アウトカムは症候性低血圧および腎機能低下であった。 なお、入院中の心不全患者に対するSGLT2阻害薬開始の評価において、本試験に加えエンパグリフロジンのEMPULSE試験、sotagliflozin(国内未承認)のSOLOIST-WHF試験を組み入れ、事前に規定されたメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・対象者2,401例の内訳は、年齢中央値69歳(Q1~Q3の範囲:58~77歳)、女性815例(33.9%)、黒人448例(18.7%)、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)1,717例(71.5%)であった。・入院から無作為化までの期間中央値は3.6日であった。・主要有効性アウトカムはダパグリフロジン群で133例(10.9%)、プラセボ群で150例(12.7%)に発生した(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.68~1.08、p=0.20)。・心血管死は、ダパグリフロジン群30例(2.5%)、プラセボ群37例(3.1%)に認められ(HR:0.78、95%CI:0.48~1.27)、心不全の悪化は、ダパグリフロジン群115例(9.4%)、プラセボ群122例(10.3%)に認められた(HR:0.91、95%CI:0.71~1.18)。・全死因死亡は、ダパグリフロジン群36例(3.0%)、プラセボ群53例(4.5%)に認められた(HR:0.66、95%CI:0.43~1.00)。・症候性低血圧はダパグリフロジン群で3.6%、プラセボ群で2.2%、腎機能低下はそれぞれ5.9%、4.7%であった。・事前に規定されたメタ解析の結果、SGLT2阻害薬は心血管死または心不全悪化の早期リスク(HR:0.71、95%CI:0.54~0.93、p=0.012)および全死因死亡(HR:0.57、95%CI:0.41~0.80、p=0.001)を低下させた。

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ウォーキングはペースを速めるほど効果が大きい

 健康増進のために推奨されることの多いウォーキングだが、その効果を期待するなら、速度を重視した方が良いかもしれない。より速く歩くことで、より大きな健康効果を得られる可能性を示唆するデータが報告された。米ヴァンダービルト大学のLili Liu氏らの研究の結果であり、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に7月29日掲載された。 ウォーキングと健康アウトカムとの関係を調べたこれまでの研究は、主に白人や中~高所得者を対象に行われてきたが、本研究では主に低所得者や黒人に焦点が当てられた。データ解析の結果、1日15分の早歩きで死亡リスクが約20%低下することが示された。この結果を基にLiu氏は、「早歩きを含む、より高強度の有酸素運動を日常生活に取り入れた方が良い」と勧めている。 この研究では、2002~2009年に米国南東部12州で募集された、低所得者や黒人を中心とする約8万5,000人のデータが解析された。ベースラインでは、ゆっくりした歩行(犬の散歩、職場内での歩行、軽い身体活動など)の時間、および、速い歩行(早歩き、階段を上る、運動など)の1日当たりの平均時間が調査されていた。死亡に関する情報は2022年末まで収集され、中央値16.7年(範囲2.0~20.8)の追跡期間中に、2万6,862人の死亡が記録されていた。 年齢、性別、人種、教育歴、婚姻状況、雇用状況、世帯収入、保険加入状況などを調整後、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクは1日15分の早歩きにより19%低下し(ハザード比〔HR〕0.81〔95%信頼区間0.75~0.87〕)、1日30分の早歩きでは23%低下していた(HR0.77〔同0.73~0.80〕)。それに対してゆっくりした歩行は、1日3時間未満では全死亡リスクが有意に低下せず、3時間以上の場合にわずか4%のリスク低下が認められた(HR0.96〔0.91~1.00〕)。このような関連は、調整因子としてBMI、喫煙・飲酒習慣、余暇時間の身体活動量、座位行動時間、食事の質などを追加してもほぼ同様であった。 今回の研究結果は、主に中~高所得の白人を対象に行われた先行研究の結果と一致している。Liu氏はジャーナルのプレスリリースの中で、「人々の居住地の近隣に、早歩きができるような環境を整備するための計画立案と投資が必要ではないか」と述べている。 ところで、早歩きはどのようなメカニズムで健康を増進するのだろうか? 研究者らは、早歩きのような有酸素運動は、心臓のポンプ作用、酸素供給力などを高めるように働くと解説している。また、そればかりでなく、早歩きを習慣として続けることは、肥満や脂質異常症、高血圧の予防にもつながるという。 著者らは、「われわれの研究結果は、健康状態を改善するための実行可能性が高く、かつ効果的な戦略として、早歩きを推奨することの重要性を強調するものだ」と結論付けている。

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テストで良い点を取りたいならジャンピングジャックをすると良い?

 高強度の運動をして脳の活性化を促すことで、子どもの学力テストの点数が上がる可能性のあることが、新たに報告された予備的な研究で示唆された。テストの前にハイニーウォークやジャンピングジャック、ランジ、スクワットといった運動を9分間行った子どもでは、テストの点数が有意に高かったことが示されたという。米ノースカロライナ大学グリーンズボロ校運動学分野のEric Drollette氏らによるこの研究の詳細は、「Psychology of Sport & Exercise」7月号に掲載された。 Drollette氏は、「体育や身体活動は次世代の子どもにとって有益である。メンタルヘルスにも脳の健康にも良く、さらに学力にも良い影響を与える」と言う。同氏は、「学校の教室で、『集中力を取り戻すために休憩を取って体を動かそう』と呼び掛ける教師がいる。それが有効なことは経験的に分かっていたが、科学的に検証されたことはなかった」と述べている。 この研究では、9〜12歳の子ども25人に、高強度の運動を行った後または椅子に座って休憩した後に学力テストを受けてもらった。子どもが行った高強度の運動は学校教室向けに考案されたもので、各種の運動を30秒間行い、その後30秒間休憩する「高強度インターバル運動」として実施された。Drollette氏は、「先行研究ではトレッドミルを使って20分間の運動を行っていたが、通常、トレッドミルは教室にはない。それにもかかわらず、多くの研究はそのやり方を踏襲していた。今回の研究では、実際に教室で実施できる方法を再現したかった」と話している。 その結果、休憩した後よりも高強度インターバル運動を行った後の方が、子どもの言語理解力を測定する標準化テストの得点が有意に高いことが示された。また、脳波の測定から、高強度インターバル運動を行った子どもでは、人が失敗したときに生じる脳活動の一種である「エラー関連陰性電位(ERN)」のレベルが低下していることも明らかになった。Drollette氏らによると、ERNのレベルが高いことは注意散漫に関連している。ERNのレベルが高いのはミスに固執していることのあらわれであり、そのせいで集中力やパフォーマンスは低下した状態になるという。 Drollette氏は、「高強度インターバル運動によって、実際にこのエラー関連反応が低下することが確認できた。これは有益と考えられる。なぜなら、たとえミスを犯しても、そのミス自体の重要性が低くなり、結果として、それに対して効果的かつ健全な精神状態で対応できるからだ」と述べている。 Drollette氏らは、今回の研究の結果を足がかりに、今後はこのエラー関連反応が子どもの全般的なメンタルヘルスにどのように関連しているのかを調べる予定である。論文の上席著者であるノースカロライナ大学グリーンズボロ校運動学教授のJennifer Etnier氏は、「今回の研究から、短時間の運動が子どもの認知機能に有益な影響をもたらす可能性について、貴重な知見が得られた。この結果は、授業に身体を動かす休憩時間を取り入れている教師にとって重要な意味を持つ可能性がある。こうした教師は、身体活動が生徒の学業成績の向上に有益であることを実感することになるかもしれない」と話している。

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肺炎リスクから考える、ICU患者の「口腔ケア」

 気管挿管後に発症する人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、集中治療室(ICU)に入院する患者における主な感染性合併症であり、その発生率は8~28%に上る。今回、ICU患者において口腔ケアを実施することで、口腔内の細菌数が有意に減少することが確認された。また、人工呼吸器の挿管によって、口腔内の細菌叢(マイクロバイオーム)の多様性が低下することも明らかになった。研究は、藤田医科大学医学部七栗歯科の金森大輔氏らによるもので、詳細は「Critical Care」に7月23日掲載された。 米国の研究ではVAPによって、ICU入院患者の死亡率(24~50%)、ICU滞在期間(約6日間延長)、医療費(1件当たり約4万ドル)が増加することが報告されている。したがって、VAPに対しては予防・早期診断・適切な治療が極めて重要とされる。ただし、ICU患者の口腔ケアは、気管チューブの存在や開口制限により困難を伴い、十分に実施されないことも多い。また、従来の研究では「口腔ケアが肺炎リスクを下げる可能性がある」ことは示唆されていたものの、実際にどの程度口腔内の細菌数や微生物の構成が変化するのか、その実態は十分に明らかにされていなかった。そこで本研究では、ICUに入室した気管挿管中の患者を対象に、口腔ケアが口腔内細菌数および細菌叢の多様性に与える影響を検討した。特に、抜管前後での比較や、16S rRNA遺伝子解析による微生物構成の変化に着目することで、VAP予防における口腔ケアの科学的根拠を補強することを目的とした。 この単群縦断的介入試験には、2023年2月から5月にかけて、藤田医科大学病院のICUに入院し、48時間以上人工呼吸器を装着したうえで、期間中に抜管された15名の患者が含まれた。口腔内細菌叢のサンプルは、舌表面をスワブで擦過することで採取した。口腔内細菌数の計測は、挿管中の口腔ケアの前後および抜管後の口腔ケアの前後の、計4回にわたって実施された。細菌叢の解析は、挿管中の口腔ケア前および抜管後の口腔ケア前の2時点で行われ、16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンスを用いて実施された。 口腔ケア前の細菌数は、挿管中の方が抜管後よりも有意に多かった(P=0.009)。口腔ケアの介入により、挿管中(P<0.001)および抜管後(P=0.011)のいずれにおいても、口腔内の細菌数は有意に減少した。 次に抜管前後の口腔内細菌叢の多様性を比較した。α多様性(1サンプル内の菌種の豊かさ)の指標である、Shannon指数およびChao1は、挿管中の方が抜管後よりも有意に高かった(それぞれP=0.0479およびP=0.0054)。一方でβ多様性(サンプル間の菌種の豊かさ)については、両時点間で有意な差は認められなかった(P=0.68)。 また、抜管前後における細菌群の変化を明らかにするため、群間比較解析(LEfSe)を実施した。その結果、抜管後には以下の7種の細菌群(Streptococcus sinensis、Prevotella pallens、Saccharimonas sp.〔CP007496_s〕、Campylobacter concisus、Eubacterium brachy、Eubacterium infirmum、Selenomonas sputigena)で有意な減少が認められた。これにより、気管挿管中は口腔内細菌叢のバランスが乱れ、抜管後に回復している可能性が示唆された。 本研究について著者らは、「本研究は、ICU患者において、抜管前後の両期間で口腔ケアが口腔内細菌数を効果的に減少させることを示した。定量的な減少に加えて、マイクロバイオーム解析により、抜管に伴う口腔内細菌叢の組成変化も明らかになり、気管挿管が細菌数だけでなく微生物コミュニティの構造にも影響を与えることが示唆された。これらの結果は、口腔ケアが細菌叢のバランス維持やディスバイオーシス(微生物の乱れ)の予防に重要であり、VAPなどの合併症の予防にも寄与する可能性があることを示しているが、この可能性を確定するにはさらなる研究が必要である」と述べている。

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継続のコツ ~筋トレ編~【Dr. 中島の 新・徒然草】(596)

五百九十六の段 継続のコツ ~筋トレ編~朝夕が多少は過ごしやすくなりました。せっかくなので、日が落ちてから外を歩いています。当然ながら汗だくになりますが、それがまた気持ちいい。家に帰ったら服を洗濯機に放り込んでシャワーを浴びるのが快感です。その後は冷房の利いた部屋で、麦茶を飲みながら一休み!さて、私自身は健康のために歩くだけでなく筋トレもやっています。といってもいわゆる自重筋トレを家でやるという簡単なもの。やっているのはスクワット、かかと上げ、腕立て伏せ、腿上げの4種類。最近になって「何をやるか」よりも「どうやって続けるか」が大切ではないかと思うようになりました。これは筋トレのみならず、英会話とか、医学の勉強とか、何でも同じことですね。じゃあ、どうすれば毎日続けることができるのか。あるいは、どうしたら毎日できるようになったのか。私自身のいくつかの工夫をお話ししたいと思います。●小分けにするスクワットでも腿上げでも、まとめてやるよりも1日分を2回とか3回に小分けする。そうすると、4種類やっても1回が5分程度なので簡単。始めるときの心理的障壁も低くて済みます。●腿上げからやる4種類の筋トレのうち、1番手軽なのは腿上げなので、これから始めています。その次に腕立て伏せ、かかと上げ、スクワットの順番が良さそう。腿上げとスクワットは使う筋肉が似ているので、連続してやるのはいささか厳しい。やはり最初と最後にもっていくほうが楽です。●朝にやる誰でも朝起きた時はエネルギーが余っています。だから歯を磨く時に、ついでにやっています。●2回目も朝にやる1回目を起床直後にやっても、まだエネルギーが余っています。だから2回目は30分~1時間後くらいにやるといいですね。一応、2回やったら1日のノルマ終了です。●3回目は昼か夜にやるすでに1日のノルマを終了しているので、3回目はやらなくてもOK。でも、もしやるとしたら昼か夜です。紆余曲折はありましたが、そんな風に筋トレをやってきて何ヵ月か経ちました。年のせいか、筋肉モリモリになるということはありません。が、多少は体重が減りました。あとは、長年悩まされてきた腰痛が改善しました。それに、歩く時のバランスが多少はマシになったかな。気分も明るく、前向きになった気がします。何事も根性で乗り切ろうとするのは無茶というもの。淡々と継続できる方法を見つけるべきかと思います。もっと若い時に気付いておけよ!そんなツッコミを自分に入れつつ、これからも筋トレに励みたいと思います。最後に1句 スクワット 小分けで続ける 秋の空次回は「継続のコツ ~英会話編~」を語りましょう。

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