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1.

危険なOTCが国内流通か、海外での規制や死亡例は

 現在、政府が『骨太の方針2025』で言及した「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方」についての議論が活発化している。この議論は今に始まったことではなく、OTC医薬品の自己判断による服用が医療アクセス機会の喪失を招き、受診抑制による重症化・救急搬送の増加といった長期的な医療問題に発展する可能性をはらんでいるため、30年以上前からくすぶり続けている問題である。 さらに、日本社会薬学会第43年会で報告された国内の疫学研究「頭痛専門外来患者における市販薬の鎮痛薬服用状況:問診票を用いた記述疫学研究」からは、OTC類似薬の利用率増加が依存性成分の摂取促進に繋がりかねないことを明らかにした(参照:解熱鎮痛薬による頭痛誘発、その原因成分とは)。つまり、OTC医薬品の使用促進が依存性成分摂取者の増加を招く恐れもあることから、今回、上述の研究の共同研究者で市販薬の情報基盤を構築する平 憲二氏(プラメドプラス/京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野)にOTC医薬品を取り巻く現状や世界的情勢などについて話を聞いた。OTC医薬品が拠り所、頭痛患者の実情 日本神経学会が問題視するOTC医薬品の不適正使用による「薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)」増加の背景を踏まえて行われた上述の研究から、重症頭痛患者にとってOTC医薬品が心身の拠り所となっている実態が明らかにされた。同時に、解熱鎮痛薬に含まれる依存性成分とされる以下3成分のいずれかを対象患者の約9割が摂取していたことも示された。<3つの依存性成分>・アリルイソプロピルアセチル尿素(ア尿素、鎮静催眠成分)・ブロモバレリル尿素(ブ尿素、鎮静催眠成分)・カフェイン 平氏は「とくにア尿素は教科書に載っていない危険な成分で、一部の国では違法薬物とみなされる。2023年5月にオーストラリア薬品・医薬品行政局(TGA)がア尿素を全面規制1)し、日本からのイブの輸入規制をかけている。また、2025年4月には韓国でもア尿素が麻薬類成分リストに記載された。なお、米国では血小板減少性紫斑病の発症を契機に1939年にすでに規制がなされている状況2)」と説明した。それに対し日本の場合、「濫用等のおそれのある医薬品の取扱い」に対する規制を課しているものの、本リストに記載されているのは、依存性成分のうち「ブ尿素のみ」であるため、医療者にもア尿素のリスクが認知されていない点を同氏は指摘した3)。ア尿素配合製剤による国内死亡例 なお、日本では規制が弱く認知度の低いア尿素であるが、その配合製剤による中毒死例が2014年に報告されている4)。<剖検例>――――――――――――――年齢・性別:20代・女性自宅アパートのトイレで、死亡しているところを発見された。死者は、老人施設で介護ヘルパーとして働いていたが、約2ヵ月前に辞職し、単身で犬・猫とともに生活していた。また、片頭痛を有しており、市販の解熱鎮痛薬を常用していた。部屋から市販の解熱鎮痛薬(イブプロフェン+ア尿素+無水カフェインの合剤)約450錠分の空き箱・空きシートが発見された。いずれの成分も検出された。※長期にわたってア尿素配合製剤の服用を継続し、最終的にカフェイン中毒で亡くなった。――――――――――――――――――― 同氏は「ア尿素やブ尿素はモノウレイド系催眠鎮静薬に区分されるが、いずれも抗不安作用があるため、頭痛頻度の多い使用者においては連用しないよう慎重な対応が必要となる。飲んですぐに眠くなるわけではない*ため、“眠くなるのが薬のせいかわからない”と話す患者もいる」とコメントした。それならば、製品パッケージをチェックしてア尿素などの依存性成分の摂取回避に努めたい。しかし、同氏はイブA錠を例示しながら、「販売製品のパッケージ(裏)に小さい文字で“イブプロフェンの鎮痛作用を高める鎮静成分”として記載されているものの、添付文書にはア尿素が催眠鎮静薬である旨の明確な記載はなされておらず、“隠し成分“のような状況」であることを示し、「パッケージ(表)や添付文書での明記」や「臨床医や薬剤師によるア尿素・ブ尿素の認知と催眠鎮静成分であることの周知」により、MOHなどの薬剤性疾患の予防につなげる必要があることを強調した。*<参考:各成分の半減期>ア尿素14.28±5.81時間(参考値)、ブ尿素2.5時間(ただし臭素の半減期は12日)市販薬の最新情報をパッケージ写真付きでチェック このように、ア尿素やブ尿素、そしてカフェイン含有製剤が海外では時代遅れな製品として「不適切製品」として扱われる一方で、日本は「不適正使用」としての注意喚起にとどまる。そこで同氏はクスリ早見帖プロジェクトを始動し、現場で実用性を高められるよう市販薬情報を詰め込んだ『クスリ早見帖ブック 市販薬1000』などを制作している。これについて、「製品画像で確認してもらい、すぐに成分のわかる本がほしかった。診断精度の向上とカルテへの正しい記載を目指して制作している」と解説した。 本プロジェクトでは、OTC医薬品の製薬企業の協力のもと、年4回発行されるクスリ早見帖季刊誌やクスリ早見帖WEBの制作も行っており、将来的には医療用医薬品のデータを含めた医薬品に関する「痒い所に手が届く」医療現場向けの情報源を作ることを目指している。市販薬の名称や画像の一覧を「早見」することで、目的の市販薬を素早く見つけることが可能であるため、患者とのコミュニケーションを円滑にするために有用なツールである。 医療者が患者の服用する真のOTC医薬品を把握できるようこのツールを現場へ普及させたい同氏は、今後の研究課題として「ア尿素配合製剤由来の薬剤の使用過多による頭痛の推計患者数や薬剤疫学研究(リスクと予後)を推進していきたい。また、薬効薬理/薬物動態などのデータがないため追加研究が必要」と語った。 

2.

スタチン使用は本当にうつ病リスクを低下させるのか?

 これまで、スタチンのうつ病に対する潜在的な影響については調査が行われているものの、そのエビデンスは依然として一貫していない。台北医学大学のPei-Yun Tsai氏らは、スタチン使用とうつ病の関連性を明らかにするため、最新のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。General Hospital Psychiatry誌2025年11〜12月号の報告。 2025年9月11日までに公表された研究をPubMed、the Cochrane Library、EMBASEより、言語制限なしでシステマティックに検索した。また、対象論文のリファレンスリストの検討を行った。プールされたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした15研究(10ヵ国、540万3,692例)をメタ解析に含めた。・スタチン使用は、スタチン非使用と比較し、うつ病リスクが有意に低かった(統合OR:0.84、95%CI:0.74〜0.96、p=0.009)。しかし、研究間の異質性が大きかった(I2=85%)。・感度分析では、結果のロバスト性が確認された。・サブグループ解析では、コホート研究(OR:0.86、95%CI:0.76〜0.98、p=0.02)、検証済みの質問票/尺度を用いた研究(OR:0.71、95%CI:0.54〜0.94、p=0.02)、併存疾患を有する患者(OR:0.74、95%CI:0.55〜0.98、p=0.04)、抗炎症薬または抗うつ薬を併用している患者(OR:0.82、95%CI:0.71〜0.95、p=0.009)において有意な関連が認められた。・北米集団(OR:0.63、95%CI:0.51〜0.78、p<0.001)および西洋型の食生活(OR:0.61、95%CI:0.45〜0.81、p<0.001)、アジア型の食生活(OR:0.75、95%CI:0.64〜0.89、p=0.001)を順守する人において、スタチンのうつ病予防効果が認められた。 著者らは「とくに特定の集団および特定の臨床的または生活習慣条件において、スタチン使用はうつ病リスクの低下と関連していると考えられる。この因果関係を明らかにし、影響を及ぼす関連因子を特定するには、さらなる研究が求められる」とまとめている。

3.

肺がん治療における経済的視点/治療医に求められる役割

 がん治療の経済的毒性が注目される中、日本肺学会が開催する肺がん医療向上委員会において、近畿大学の高濱 隆幸氏が講演した。高濱氏は肺がん診療の現場において、治療医が患者とのShared Decision Making(SDM)に、経済的視点を組み込む重要性を訴えた。治療の進歩と経済的負担の長期化 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新薬の登場により、肺がん患者の生存期間中央値は2年を超え、予後は著しく改善している。これらの新薬は高額であり、生存期間の長期化の見返りとして治療費や通院費などの副次的費用が増加する。また、離職による収入減で経済的負担を長期にわたって強いられる患者もいる。日本肺がん患者連絡会の調査では、肺がん患者の88%が高額療養費制度を利用しているにもかかわらず、63%が何らかの経済的負担を感じているという。診察室での経済的負担への対応 現状、診察室で医療費に関する議論を行うことは時間的制約などから難しく、患者も医師も金銭的な話題を避けがちである。この結果、患者は治療選択に必要な重要な経済情報を得る機会を逸している可能性が高い。 治療医は、治療の説明を行うだけでなく、患者にとって「最初の窓口」としての役割を再認識し、金銭的な問題を持つ患者を院内の適切な専門職へ迅速につなぐことが求められる。医師がすべての経済的負担を抱え込むのではなく、専門家との連携を強化することが、患者にとって最善のサポートを提供するカギとなる、と高濱氏は述べる。SDMにおける経済的背景の考慮 SDMにおいては、エビデンスに加え、患者の価値観、ライフスタイル、さらに経済的背景を把握する姿勢が不可欠である。肺診療ガイドライン2025年版に、初めて薬剤費の目安が記載されたことは、その必要性の高まりを示すものである。処方医は、自身が選択するレジメンのコストを最低限の基礎知識として身に付けておくべき時代、ともいえる。 国際的には、ASCOのValue FrameworkやESMOのMagnitude of Clinical Benefit Scaleなど、コスト効率を評価するツールが存在する。今後は、日本国内でも実用的なツール開発が今後検討されるべきであろう。 治療医は、最善の治療を届けたいという気持ちを忘れずに、どのようにしたら日本の医療制度が残せるのかを考えていくべきであり、学会は客観的なデータに基づいた議論を主導していくことが、最善の治療を患者に届けるための基盤となる、と高濱氏は結んだ。

4.

ER+低リスクDCIS、手術せず内分泌療法単独での有用性を検証(LORETTA)/SABCS2025

 エストロゲン受容体陽性(ER+)の低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対して、手術せず内分泌療法のみ実施する治療が選択肢となる可能性がLORETTA試験(JCOG1505)で示唆された。本試験の主要評価項目である5年累積同側乳房内浸潤がん(IPIC)発生割合は事前に設定した閾値を達成しなかったものの、9.8%と低く、また乳がんによる死亡はなかったことを、名古屋市立大学の岩田 広治氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で発表した。 LORETTA試験(JCOG1505)は、JCOG乳がんグループによるER+の低リスクDCISに対して、手術と放射線照射なしで内分泌療法のみを実施する低侵襲治療の有効性と安全性の検証を目的とした単群検証的試験である。・対象:40歳以上のER+/HER2-の低リスクDCIS(Comedo壊死がなく、核グレード1または2)で、画像検査(マンモグラフィ、超音波、MRI)で浸潤がんの所見がみられず、最大腫瘍径が2.5cm以下の女性・方法:外科的切除なしで、タモキシフェン20mg/日を5年間連日投与・評価項目:[主要評価項目]5年累積IPIC発生割合[副次評価項目]同側乳房内浸潤がん無発生生存期間、対側乳房無病生存期間、全生存期間(OS)、手術割合、無手術生存期間、安全性など・統計解析:5年累積IPIC発生割合の閾値を7%、期待値を2.5%と仮定し、片側α=2.5%、検出力95%とした。5年時点でIPIC発生が14例以下であれば帰無仮説は棄却される。 主な結果は以下のとおり。・2017年7月~2024年1月に344例が登録され、341例が解析対象となった。5年時点で18例にIPICが発生したため、2025年6月に効果・安全性評価委員会より早期中止が勧告された。データカットオフは2024年12月で、追跡期間中央値は36ヵ月(範囲:0~80.4ヵ月)であった。年齢中央値は53歳(範囲:40~85歳)、68%が核グレード1、プロゲステロン受容体(PgR)はほぼ陽性、腫瘍径はマンモグラフィと超音波検査では2cm以上が約7%だったが、MRIでは22%であった。・主要評価項目の5年累積IPIC発生割合は9.8%(95%信頼区間[CI]:5.2~16.1)で、事前設定の閾値を達成しなかった。サブグループ解析では、マンモグラフィ(p=0.0278)、超音波(p=0.0433)、MRI(p=0.0530)における腫瘍径(2cm以上)が浸潤がん発生と関連していたが、核グレード、HER2、PgR、マンモグラフィ上の石灰化との有意な関連は認められなかった。・5年OS率は98.8%(死亡2例、どちらも乳がんとの関連なし)、5年対側乳房無病生存率は97.5%(イベントは4例のみ、浸潤性2例・非浸潤性2例)、5年同側乳房内浸潤がん無発生生存率は89.7%、5年無手術生存率は82.0%であった。・有害事象は、タモキシフェンの既知の有害事象のみ認められ、新たな安全性シグナルはなかった。AST/ALT上昇が全Gradeでは約20%に発生し、Grade3以上は約2%であった。 岩田氏は、「5年累積IPIC発生割合を主要評価項目とした本試験の結果はネガティブだったが、小さな非浸潤がんなどの患者を慎重に選択すれば、手術をしないタモキシフェン単独療法はER+/HER2-の低リスクDCISにおける実行可能な選択肢となるかもしれない」と可能性を指摘した。ディスカッサントのEric P. Winer氏は、「本試験は、DCISに対する非外科的アプローチにおける浸潤性乳がんリスクの新たな推定値を提供する。『watchful waiting』が生存率に影響があるかは明らかではないが、もし影響があるとしても非常に小さなものだろう。最終的には患者の希望が意思決定の中心となるべきである」とまとめている。

5.

『肝細胞診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

6.

「TAVI弁展開後における弁尖可動不良事象に関するステートメント」公表/THT協議会

 経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)による弁展開直後や追加手技後に弁尖の一部または複数が可動不良となり、重度の急性大動脈弁閉鎖不全を呈する事象(frozen leaflet/stuck leaflet)が複数報告されていることから、経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会(THT)は12月11日付で医療安全情報ステートメントを公表した。 Frozen leaflet発生時には、重度の急性大動脈閉鎖不全が生じ、急速な血行動態悪化を認めることがあるが、まれな事象であることから診断に至りにくく死亡例も報告されているという。ほかにもECMOの使用を要する例も報告されており、3例中2例が死亡に至っている。また、追加治療として施行されたTAV-in-TAVにより冠動脈閉塞を来し死亡した例や自己拡張型においても報告があり、いずれの製品においても注意が必要であることから、本ステートメントではハートチームに向けて以下のような留意点が示された。―――1.発生要因:未解明ですが、サピエン弁(エドワーズ製)においては84%がpost balloon後に発生しており、関連が示唆されています。2.診断の難しさ:TAVI弁留置後の血行動態不安定化や重度逆流を認めた際には、frozen leafletを鑑別に含める必要があります。3.治療選択肢:TAV-in-TAVが第1選択となりますが、冠動脈閉塞リスクを伴うため、冠動脈プロテクションの併用を検討してください。4.緊急手術:速やかな開胸移行は重要な救命手段の一つであり、外科チームによる緊急手術体制の整備を行ってください。――― なお、本ステートメントではサピエン弁における現時点での集計概要も公表されている。・対象機種:SAPIEN 3 Ultra RESILIA・集計期間:2023年3月〜2025年2月・症例数:25例・発生頻度:約0.1%<患者背景>・平均年齢:83.0歳(71〜92)・性別:男性4例(16.0%)、女性21例(84.0%)<デバイスサイズ>・20mm:6例(24.0%)・23mm:15例(60.0%)・26mm:3例(12.0%)・29mm:1例(4.0%)<発症タイミング>・留置直後:4例(16.0%)・Post balloon後:21例(84.0%)<その後の対応>・TAV-in-TAV:25例(100%)└左冠動脈プロテクション併用:2例・開胸手術移行:2例(8.0%)└いずれもCABGを施行・ECMO使用:3例(12.0%)・死亡例:3例(12.0%)

7.

血友病Bに対する遺伝子治療、第III相試験の最終解析/NEJM

 高活性の第IX因子Padua変異体を導入したアデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)ベクターを用いた遺伝子治療薬etranacogene dezaparvovecは、血友病B成人患者において、5年間にわたり持続的な第IX因子の発現と年間出血率の低下をもたらすことが確認された。米国・ミシガン大学のSteven W. Pipe氏らHOPE-B Study Group Investigatorsが、第III相の非盲検試験「HOPE-B試験」の最終解析結果を報告した。血友病Bの治療では、出血予防のため生涯にわたる定期的な第IX因子の補充が必要となる。遺伝子治療は、単回投与で持続的な第IX因子の発現と疾患コントロールが得られる可能性があり開発が期待されている。NEJM誌オンライン版2025年12月7日号掲載の報告。etranacogene dezaparvovecの単回投与後、5年間追跡 研究グループは、血友病B(第IX因子活性≦正常値2%)の男性患者54例に、第IX因子定期補充療法の導入期間(≧6ヵ月)後に、第IX因子Padua変異を発現するAAV5ベクターであるetranacogene dezaparvovec(2×1013ゲノムコピー/kg体重)を、AAV5中和抗体の有無にかかわらず単回投与した。 事前に規定された5年解析では、補正後年間出血率(etranacogene dezaparvovec投与後7~60ヵ月の出血率と導入期間の出血率の差)、第IX因子発現、および安全性について評価した。 本試験は2018年6月27日に開始され、最終解析のデータベースロックは2025年4月30日であった。54例中、53例がetranacogene dezaparvovecの全用量を投与され、1例は輸注関連過敏反応のため約10%用量の投与となった。50例(93%)が5年間の追跡調査を完了した。年間出血率は、投与後7~60ヵ月で導入期間(第IX因子定期補充療法)の63%減少 最大の解析対象集団54例において、全出血イベントの補正後年間出血率は、導入期間中の4.16に対し、遺伝子治療後7~60ヵ月は1.52で、63%(95%信頼区間:24~82)減少した。 5年間の追跡期間を通して第IX因子の発現は安定しており、5年時の第IX因子活性の平均(±標準偏差)は36.1±15.7 IU/dLであった。また、定期的予防投与および出血イベントの治療のための第IX因子濃縮製剤の平均使用量は、導入期間中の年間25万7,339 IUから遺伝子治療後7~60ヵ月では年間1万924 IUへと96%減少した。 有効性は、ベースラインでAAV5中和抗体を有する患者と有さない患者の間で大きな差は認められなかった。 治療との関連の可能性がある有害事象は、6ヵ月後以降はまれであった。 なお、etranacogene dezaparvovecの長期的な有効性および安全性、ならびに不確実な遺伝毒性リスクに関するさらなるデータを得るため、HOPE-B試験に参加し同意した患者は遺伝子治療後15年間、IX-TEND 3003試験において追跡調査される予定である。

8.

妊娠前/妊娠初期のGLP-1作動薬中止、妊娠転帰と体重変化は?/JAMA

 主に肥満の女性で構成されたコホートにおいて、GLP-1受容体作動薬の妊娠前または妊娠初期の使用とその後の中止は、妊娠中の体重増加の増大、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群のリスク上昇と関連していた。米国・マサチューセッツ総合病院のJacqueline Maya氏らが、後ろ向きコホート研究の結果を報告した。GLP-1受容体作動薬は、妊娠中に禁忌であり、妊娠初期に投与を中止すると妊娠中の体重増加や妊娠転帰に影響を及ぼす可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2025年11月24日号掲載の報告。妊娠前3年間・妊娠後90日間、GLP-1受容体作動薬の処方妊婦vs.非処方妊婦を比較 研究グループは2016年6月1日~2025年3月31日に、マサチューセッツ州ボストン地域をカバーする15施設からなる学術医療研究機関Mass General Brighamにおいて、分娩に至った単胎妊娠14万9,790例を対象に後ろ向きコホート研究を行った。 妊娠前3年間および妊娠後90日間に、電子健康記録で少なくとも1回GLP-1受容体作動薬の処方が確認された妊婦を曝露群、確認されなかった妊婦を非曝露群として、曝露群1例につき非曝露群3例を傾向スコアでマッチングした。 主要アウトカムは妊娠中の体重増加。副次評価項目は、妊娠中の過剰体重増加、在胎期間に対する出生体重の過大・過小、妊娠週数と性別に基づく出生体重のパーセンタイル、出生身長、早産、帝王切開、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群であった。 解析では、妊娠中の体重増加が観察された正期産の妊娠体重増加コホート、出生体重および新生児の性別が記録されている正期産の出生体重コホート、在胎28週以上で分娩様式が記録されている産科コホートの3つのコホートを定義した。曝露群で、妊娠中の体重増加、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群のリスクが上昇 14万9,790例のうち、655例が妊娠前3年間および妊娠後90日間にGLP-1受容体作動薬に曝露していた。除外基準に該当した症例を除外し傾向スコアマッチング後に、妊娠体重増加コホートは曝露群448例、非曝露群1,344例、出生体重コホートはそれぞれ442例、1,326例、産科コホートはそれぞれ566例、1,698例となった。 妊娠体重増加コホートにおいて、曝露群は母体平均年齢が34.0歳(SD 4.7)、妊娠前BMI平均値が36.1(SD 6.5)、肥満が84%、糖尿病既往が23%で、いずれも非曝露群より高かった。また、曝露群は非曝露群と比べヒスパニック系(それぞれ30%、15%)、非ヒスパニック系黒人(11%、7%)の割合が高く、公的保険加入者の割合(10%、11%)は低かった。 妊娠体重増加コホートにおいて、妊娠期間中の体重増加量(平均値±SD)は、曝露群で13.7±9.2kgであり、非曝露群の10.5±8.0kgより有意に大きかった(群間差:3.3kg、95%信頼区間[CI]:2.3~4.2、p<0.001)。曝露群では、妊娠中の過剰体重増加のリスクも高かった(65%vs.49%、リスク比[RR]:1.32、95%CI:1.19~1.47)。 出生体重コホートでは、巨大児および低出生体重児のリスクは曝露群と非曝露群で同程度であったが、平均出生体重パーセンタイルは曝露群で高かった(58.4%vs.54.8%、差3.6%、95%CI:0.2~6.9)。 産科コホートでは、曝露群で早産(17%vs.13%、RR:1.34、95%CI:1.06~1.69)、妊娠糖尿病(20%vs.15%、RR:1.30、95%CI:1.01~1.68)、妊娠高血圧症候群(46%vs.36%、RR:1.29、95%CI:1.12~1.49)のリスクが高かった。出生身長、在胎期間に対する出生体重の過大・過小のリスク、帝王切開のリスクに差はなかった。

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パラチフスAに対するワクチンの安全性、有効性と免疫原性(解説:寺田教彦氏)

 パラチフスA菌は、世界で年間200万例以上の症例が推定され、腸チフス(Salmonella Typhi)と共に、衛生水準の整っていない地域で依然として重要な公衆衛生上の課題となっている(John J, et al. N Engl J Med. 2023;388:1491-1500.)。日本における腸チフスおよびパラチフスの報告数は年間20~30例と少なく、7~9割が輸入症例だが、渡航医療の観点では一定の診療機会が存在する。 日本の渡航前外来では、腸チフスワクチンとしてVi多糖体ワクチン(商品名:タイフィム ブイアイ)が承認されて以降、南・東南アジアを中心とする流行地域への渡航者を対象に接種が行われている。しかし、この腸チフスワクチンは腸チフスの予防には有効である一方、パラチフスはVi抗原を有さないため、パラチフスAの予防には不向きである。現在、世界的にパラチフスAに対する承認済みワクチンは存在せず(MacLennan CA, et al. Open Forum Infect Dis. 2023;10:S58-S66.)、本研究対象のCVD 1902も開発中の候補ワクチンの1つである。 本論文は、経口弱毒生パラチフスA菌ワクチンCVD 1902を用いた、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、さらにControlled Human Infection Model(CHIM)を用いて、有効性・免疫原性・安全性を包括的に評価した点に特徴がある。 CHIM試験とは、厳密に管理された倫理的・臨床的条件下で、健康ボランティアに病原体(または弱毒株)を意図的に曝露し、感染成立、病態、免疫応答およびワクチンなどの予防介入の防御効果を評価する臨床研究モデルである。 本研究では、健康成人72例が英国6施設から登録され、CVD 1902群とプラセボ群に1:1で割り付けられた。ワクチンまたはプラセボを14日間隔で2回経口投与し、2回目投与から28日後にS. Paratyphi A野生株(NVGH308)を経口投与して感染チャレンジを行った。主要評価項目は、チャレンジ後14日以内の感染成立(72時間以降の血液培養陽性、または12時間以上持続する38℃以上の発熱)である。 主要評価項目の結果、感染成立率はCVD 1902群21%(7/34例)、プラセボ群75%(27/36例)と大きく異なり、ワクチン有効性は73%(95%CI:46~86)だった。この防御効果は腸チフスワクチン(Ty21a、Viワクチン)を用いた既存のCHIM試験を上回るもので、有効性の高さが示された。 免疫原性では、ワクチン群においてS. Paratyphi AのO抗原に対する血清IgGおよびIgA抗体価はDay14で明確に上昇し、IgGはDay42(2回目投与28日後)でも同レベルが維持されていた。一方、FliC抗原に対する抗体応答は認められなかった。さらに、血清抗体価と防御効果との直接の相関は明確ではなく、著者らは粘膜免疫、とくにsecretory IgAの関与を示唆しており、今後の解析が期待される。 安全性については、悪心・嘔吐、全身倦怠感などの軽度から中等度の副反応がワクチン群でやや多い傾向にあったが、ワクチン関連の重篤な有害事象は認められなかった。プラセボ群と比較しても、全体として良好な忍容性が示されたと評価できる。 また、ワクチンのさらなる意義として、便中排泄率の低下が挙げられる。チャレンジ72時間以降の便培養陽性率は、CVD 1902群24%(8/34例)、プラセボ群50%(18/36例)で、ワクチン接種により排泄率が減少した。これは、流行地域のリアルワールドにおいても二次感染リスクの低減に寄与しうる可能性がある。ただし、本試験はCHIMモデルであり、実際の流行地での効果を直接証明するものではない点には留意が必要である。 腸チフス・パラチフスの流行地域では、薬剤耐性化も問題で、パラチフスAでもキノロン耐性やアジスロマイシン低感受性化が進行している。治療薬選択が制限されつつある現状において、ワクチンによる発症予防と感染伝播抑制は治療負担および耐性菌のさらなる拡大を抑えるうえで重要である。 将来的には、腸チフスとパラチフスAの双方を標的とした二価ワクチン(Typhi+Paratyphi A)の開発も期待される。本報告は、パラチフスAワクチン実用化に向けた重要な報告で、今後の臨床応用につながる基礎的データであった。

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外来患者の名言集【Dr. 中島の 新・徒然草】(611)

六百十一の段 外来患者の名言集すっかり寒くなりましたね。朝は車のフロントガラスが凍っているので、出勤前にお湯で溶かさなくてはなりません。外に出てみると、年末年始は普段より空気が透き通っている気がします。さて、私の外来はいつも混沌の極み。患者さんがそれぞれに好き勝手に喋っています。そのうちの1人は80代の高齢女性。頭痛持ちの彼女はいつも「頭に直接注射してくれ」とリクエストしてきます。私は彼女の指さすままに、髪の毛をかきわけながら注射!徐々に彼女の顔がホクホクしてきて、最後は上機嫌で帰っていきます。「こんなのでいいのかなあ」と思わないでもありません。でも「患者さん自身が満足しているのなら、それでもいいか」と思い、月1回の注射を続けています。さて先日のこと。頭に注射をしているときに、ふと彼女がこう言ったのです。 患者 「孫がね、私に『お祖母ちゃん、髪の毛が多いねえ』と言うのよ」 中島 「確かに年齢のわりには多いですねえ」 患者 「『ママは髪の毛が少ないのに。うしろから見たら肌が透けてる』って」 この時点では、人間関係がよくわかりません。そもそも、そのお孫さんというのが男の子なのか女の子なのか、小学生なのか大人なのか。なので、突っ込んで聞きました。 中島 「お孫さんってのは男の子ですか、それとも女の子ですか?」 患者 「女の子や。24歳の」 中島 「なるほど。それでママというのは実の娘さんですか、それともお嫁さんですか?」 もしママというのが実の娘なら、お祖母ちゃんの髪の毛の多さが遺伝しているはずですが。 患者 「実の娘や。私は息子と娘がおってな、息子のほうは男の子が2人や。そっちは髪の毛のことなんか何も言いよらへん。娘のほうの孫や、髪の毛の話をするのは」 ようやく人間関係がわかってきました。 中島 「なるほど、そういうことですね」 患者 「孫娘にそんなことを言われてな、急に思い出してん」 中島 「いったい何をまた」 患者 「ウチの母親が死ぬときにな。ちょうど今の私くらいの年やったけどな……」 話の先が見えません。 患者 「私の顔をまじまじと見て『あんた、髪の毛が多いなあ!』って。そう言いながら死んでいったんや」 中島 「それがお母さんの最期の言葉だったのですか」 いわゆる「今際の際(いまわのきわ)の言葉」ってヤツですね。ここは何か名言とか、お別れの一言で締めくくるのが普通だと思うのですけど。よりにもよって髪の毛の話が出てくるとは……「人のまさに死せんとするや、その言やよし」ともあるわけですよ。多くの歴史上の人物が名言を残して死んでいきました。「死ぬのは、ただ眠るだけのことだ」と言ったのはトーマス・エジソン。「俺は忙しい、忙しかったんだ」と言ったのは、小説版『白い巨塔』での財前 五郎の最期の言葉。医療裁判での敗訴が、最後まで心に引っ掛かっていたのでしょうね。調べてみると、いろいろな有名人の最期の言葉が出てきます。でも、「あんた、髪の毛が多いなあ!」ほどインパクトのある言葉はありません。古今東西の名言が全部吹き飛ばされてしまいました。こういった普通の人の何気ない一言こそ笑えますね。まさに外来患者の名言集といえそうです。ということで、最後に1句 年末に 母の名言 思い出す

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透析患者の緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第114回

透析患者の緩和ケア非がん疾患の緩和ケア、さまざまな疾患領域で語られるようになってきていますが、今後さらに重要になりそうな分野の1つが透析患者の緩和ケアです。私も十分な経験があるわけではなく、これから勉強していく分野ですが、読者の皆さんと一緒に考えたいと思います。今回の質問当院は透析施設があるのですが、通院する患者さんが高齢化しています。また、悪性疾患が併存している人もいて、将来のお看取りを支援することも求められそうです。透析患者にも緩和ケアが必要だと思うのですが、どのような注意点がありますか?透析導入からの生存期間が延び、末期腎不全と透析管理だけでなく、幅広い疾患への対応を求められるようになっています。併存症を抱え、人生の最終段階に差し掛かる透析患者においては、「いつまで透析をするか問題」に頭を悩ませます。今日は「いつまで透析を継続するか」という議論を中心に考えてみましょう。ご存知の方も多いと思いますが、さまざまな基礎疾患を背景に腎機能が低下し、末期腎不全に至ると透析を導入するかの議論がなされます。透析導入後は週に3回程度の通院が必要になり、腎臓が果たしている機能を透析で提供することになります。透析を継続できているあいだは良いのですが、お看取りの時期が近くなってくると血圧を維持できず、安全に透析を実施することが難しくなるケースがあります。一方、透析を中止すると尿毒症が悪化し、多くは1〜2週間で亡くなるため、透析を含む腎代替療法を中止する行為は倫理的な検討も含め、慎重に判断する必要があります。私自身の実感としては、近年では本人の意思として透析を導入しないことや、透析中止の希望を表明する患者さんを見ることが増えましたが、皆さんの経験ではいかがでしょうか?ここで、透析患者の緩和ケアが重要になってきます。妥当なプロセスを経て透析を導入しない、もしくは中止するという意思決定をした場合、適切な身体症状の緩和や心理サポートが重要になります。よくある身体症状としては、尿毒症の症状であるかゆみに対して、抗ヒスタミン薬や外用薬、ナルフラフィン(商品名:レミッチ)といった薬物療法を検討します。また、溢水症状による呼吸困難は非常に苦しい症状になるので、必要に応じて鎮静を検討する場合もあります。このように身体症状に対する介入は大切ですが、もう1つ、心理的サポートも忘れないでほしいポイントです。「サイコネフロロジー」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは腎不全に関連した心理的諸問題について扱う専門分野です。このように透析患者には多面的な支援が必要であり、透析患者の緩和ケアという分野の重要性が高まっています。今回のTips今回のTips透析患者の抱えるつらさを和らげるために、透析患者の緩和ケアにも注目してみましょう。

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第41回 「採血だけでがんが見つかる」は本当か? 「リキッドバイオプシー」の現在地

痛い検査なしで、採血一本でがんを早期発見したい。 これは多くの人にとっての願いであり、医療界が追い続けてきた夢でもあります。近年、日本でも自由診療のクリニックなどで「血液でわかるがん検査」を目にする機会が増えました。しかし、最新の科学はどこまでその「夢」に近づいているのでしょうか。医学雑誌Nature Medicine誌に掲載された最新の論文1)を基に、この技術の「期待」と「現実」を解説していきます。そもそも「リキッドバイオプシー」とは何か?まずは言葉の意味を確認しておきましょう。私たちが健康診断で行う血液検査とは異なり、がん細胞から血液中に漏れ出した微量なDNAなどを検出する技術を「リキッドバイオプシー」と呼びます。がん細胞は通常の細胞と同じように死滅し、その際に自分自身のDNAの断片を血液中に放出します。この「がんの破片」を高度な遺伝子解析技術で見つけ出し、がんの有無や性質、薬が効くかどうかを調べようというのが、このリキッドバイオプシーです。従来のがんの診断法である組織生検(体に針を刺したり手術で組織を切り取ったりする検査でこれが従来からバイオプシーと呼ばれるもの)に比べて、体への負担が圧倒的に少ないのが最大の特徴です。「がん検診」としての実力は?現在、最も関心が高いのは「健康な人が採血だけでがんを見つけられるか(スクリーニング)」という点でしょう。しかし、結論から言えば、「技術は進歩しているが、早期発見ツールとしてはまだ課題が多い」というのが現状です。実際、論文の中でも、一度に50種類以上のがんを検出できるとされる「Galleri」という検査の臨床試験データが紹介されています。この検査は、StageIV(進行がん)であれば93%という高い感度でがんを見つけることができました。しかし、私たちが検診に求めるStage I(早期がん)の検出率は、わずか18%にとどまりました。つまり、症状が出る前の「治りやすい段階」のがんを見つけることは、現在の技術でもまだ難しい場合があるのです。さらに問題となるのが「偽陽性(本当はがんではないのに陽性と出る)」です。ある追跡調査では、検査で「陽性」と出た人のうち、本当にがんだったのは半数以下(陽性の61%が偽陽性)でした。健康な人がこの検査を受け、「陽性」と言われれば、大きな不安を抱えながらCTやMRIなどの精密検査を受けることになります。結果的に何もなかったとしても、CTやMRIも早期のがんを見つけるのに優れたものとはいえず、その精神的負担やさらなる追加検査のリスクは無視できません。すでに「当たり前」になりつつある分野も一方で、リキッドバイオプシーがすでに医療現場で不可欠なツールとなっている領域もあります。それは、「すでにがんと診断された患者さんの治療方針決定」です。とくに進行がんの患者さんにおいて、どの抗がん剤や分子標的薬を使うべきかを決めるための遺伝子検査として、米国食品医薬品局(FDA)も複数の検査を承認しています。たとえば肺がんにおいて、組織を採取するのが難しい場合でも、血液検査で特定の遺伝子変異(EGFR変異など)が見つかれば、それに合った薬をすぐに使い始めることができます。これにより、治療開始までの時間を短縮できるというメリットも確認されています。また、手術後の「再発リスク」の予測にも大きな期待が寄せられています。手術でがんを取り切ったように見えても、目に見えない微細ながん(MRD:微小残存病変)が残っていることがあります。手術後の血液検査でこの痕跡が見つかった場合、再発のリスクが高いと判断でき、抗がん剤治療を追加するかどうかの重要な判断材料になりつつあります。自由診療での検査を受ける前に知っておくべきこと冒頭で述べたように、日本国内でも、がんの早期発見をうたった高額な血液検査が自由診療として提供されていることがあります。しかし、今回の論文が指摘するように、多くの検査法(マルチキャンサー検査など)は、まだ「検査を受けることで生存率を改善する(命を救う)」という明確な証拠が確立されているわけではありません。論文では、現在の技術的な限界として、血液中のがんDNAがあまりに微量であることや、加齢に伴って正常な血液細胞に生じる遺伝子変異をがんと見間違えてしまうリスクなどが挙げられています。もし、あなたが「安心」のためにこうした検査を検討しているのであれば、以下の点を理解しておく必要があります。 「陰性」でも安心はできない 早期がんの多くを見逃す可能性があります(Stage Iの検出率はまだ低い)。 「陽性」が本当とは限らない がんではないのに陽性と出る可能性があり、その後の精密検査の負担が生じます。 従来の検診の代わりにはならない 現時点では、確立されたがん検診(便潜血検査やマンモグラフィなど)を置き換えるものではありません。 未来への展望:AIと新技術の融合とはいえ、未来は決して暗くもないと思います。現在進行形で、DNAの断片化パターンや、DNAへの目印など、複数の情報をAIで統合的に解析する新しい手法を開発しています。これにより、早期がんの検出率を上げ、偽陽性を減らし、さらには「どこの臓器にがんがあるか」まで正確に予測できるようになると期待されているからです。リキッドバイオプシーは、間違いなく医療の未来を変えうる技術です。しかし、それが「魔法の杖」として誰もが手軽に使えるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうです。今は過度な期待を持たず、しかしその進歩に注目し続ける、そんな冷静な視点が必要とされていると思います。 参考文献・参考サイト 1) Landon BV, et al. Liquid biopsies across the cancer care continuum. Nat Med. 2025 Dec 10. [Epub ahead of print]

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百日咳より軽症とは限らない?パラ百日咳の臨床転帰

 パラ百日咳菌(B. parapertussis)感染症の患者特性と臨床転帰を、百日咳菌(B. pertussis)感染症と比較した後ろ向き観察研究の結果、パラ百日咳菌感染後に入院を含む重篤な転帰を呈することは稀ではなかった。また、乳幼児では百日咳菌がより重篤な疾患を引き起こした一方、年長児ではパラ百日咳菌感染者で重篤な転帰が発生する可能性が有意に高かった。奈良県総合医療センターの北野 泰斗氏らによるClinical Microbiology and Infection誌オンライン版2025年11月26日号に掲載の報告。 本研究では、多施設電子カルテデータベースを用いて、パラ百日咳菌感染患者と百日咳菌感染患者を、入院および集中治療室への入院を含む臨床転帰について、傾向スコアマッチングにより比較した。各転帰に対するオッズ比(OR)を95%信頼区間(CI)とともに推定した。 主な結果は以下のとおり。・パラ百日咳菌感染患者2,554例および百日咳菌感染患者8,058例が微生物学的に確認された。・マッチング後の全参加者において、百日咳菌群と比較したパラ百日咳菌群における入院および集中治療室入室のORは、それぞれ1.75(95%CI:1.46~2.10、p<0.001)および1.94(95%CI:1.28~2.93、p=0.001)であった。・年齢によるサブグループ解析では、百日咳菌群と比較したパラ百日咳菌群の入院のORは以下のとおり-1歳未満:0.69(95%CI:0.49~0.96、p=0.028)-1~4歳:3.34(95%CI:2.27~4.91、p<0.001)-5~17歳:4.22(95%CI:2.62~6.79、p<0.001)-18歳以上:1.76(95%CI:1.06~2.94、p=0.029)

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週1回のチーズ摂取で日本人高齢者の認知症リスクが低下

 認知症は、急速に高齢化が進む日本において、公衆衛生上の懸念事項として深刻化している。乳製品を含む食生活要因は、認知機能の健康に影響を及ぼす因子であり、修正可能な因子であるとされているが、これまでの研究結果は一貫していなかった。新見公立大学の鄭 丞媛氏らは、習慣的なチーズ摂取と認知症発症との関連性を検証し、ベースラインの乳製品摂取量が少ない人におけるチーズの潜在的な予防効果に関する疫学的エビデンスを明らかにするため、大規模な地域住民ベースの日本人高齢者コホートを用いて評価した。Nutrients誌2025年10月25日号の報告。 日本老年学的評価研究機構(JAGES)プロジェクト2019-22コホートのデータを分析し、調査結果と介護保険の記録を関連付けた。65歳以上で、過去に介護保険認定を受けていない参加者を対象とした。チーズの摂取量は、ベースライン時に評価し、週1回以上摂取する人と摂取しない人に分類した。社会人口統計学的および健康関連の共変量には、傾向スコアマッチングを適用した。3年間の認知症発症のハザード比(HR)の推定には、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、7,914例(チーズ摂取者:3,957例、非摂取者:3,957例)が解析対象として抽出された。・ベースラインの共変量は、両群間で同様であった。・3年間で認知症を発症した参加者は、チーズ摂取者で134例(3.4%)、非摂取者で176例(4.5%)であり、絶対リスク差は1.06パーセントポイントであった。・チーズ摂取は、認知症のHR低下との関連が認められた(HR:0.76、95%信頼区間:0.60〜0.95、p=0.015)。 著者らは「週1回以上の習慣的なチーズの摂取は、高齢者における3年間の認知症発症リスクの低下と中程度の関連性が認められた。絶対リスクの低下は小さかったが、本知見は、乳製品摂取と認知機能との関連性を示すこれまでの観察研究の結果と一致していた。用量反応関係やチーズの種類、そしてこの基礎的メカニズムを解明するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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慢性鼻副鼻腔炎の手術後の再発を防ぐ留置ステントへの期待/メドトロニック

 日本メドトロニックは、慢性副鼻腔炎手術後に使用するわが国初のステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステント「PROPEL」の発売によせ、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、慢性副鼻腔炎の疾患概要と診療の現状と課題などが講演された。副鼻腔炎手術後の再発予防への期待 「慢性副鼻腔炎の病態と最新治療-手術療法を中心に-」をテーマに、鴻 信義氏(東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 教授)が講演を行った。 はじめに鼻腔内の解剖を説明するとともに、副鼻腔炎について、誰もがなりうる疾患であり、急性副鼻腔炎で3ヵ月以上鼻閉、粘性・膿性鼻漏、頭重感、嗅覚障害、後鼻漏などの症状が持続した場合、慢性副鼻腔炎と診断される。患者はわが国には、100万~200万人と推定され、その中でも好酸球性副鼻腔炎患者は20万人と推定されている。慢性化すると鼻茸(ポリープ)がしばしば発生し、病態は悪化するが生命予後に大きく関係することもないので、病状に慣れてしまい、放置や受診控えなどの患者も多いという。その一方で、重症例での内視鏡下副鼻腔手術は年間6万例行われている。 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者の疾患負荷として鼻閉、鼻漏、嗅覚障害などに関連し、食品などの危険察知の低下や仕事のパフォーマンスの低下、睡眠障害などが指摘され、QOLに大きな影響を及ぼす。 慢性副鼻腔炎には、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌を原因とする非好酸球性副鼻腔炎と喘息患者に多く鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎があり、後者は指定難病に指定され、寛解が難しいケースは眉間などに膿が貯まる病態とされている。 慢性副鼻腔炎の保存療法としては、・鼻処置・副鼻腔自然口開大処置・ネブライザー・上顎洞洗浄、鼻洗浄・薬物療法(抗菌薬、消炎酵素薬、気道粘液調整・溶解薬、抗アレルギー薬、ステロイド、漢方薬など)の4つの療法が行われ、効果がみられない場合に手術適応となる。 現在行われている内視鏡下副鼻腔手術(ESS)では、術後の患者の自覚症状やQOLは大きく改善されている一方で、術後1年にわたる加療継続、半数が数年で再発するなどの課題も指摘されている。そして、再発例では、再手術、ステロイド投与、分子標的薬投与などが行われる。とくにステロイド投与については、症状の改善に効果はあるものの投与薬剤や方法が統一化されていないことや骨粗鬆症や肝障害のリスクなどの課題も治療現場では危惧されている。また、現在使用されているスプレー式では、患部に確実に届かなかったり、長時間の作用がなかったりという課題も明らかになっている。 そこで、こうした課題の解決のために登場したステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステントであれば、30日間鼻腔内にステロイド成分を放出することで再発防止となり、良好な術後ケアができることが期待されている。すでに米国では10年以上使用されており、効果や安全性も確認されている。 最後に鴻氏は、「ステントの留置で術後の再燃リスクを大幅に低減する可能性があり、わが国の慢性副鼻腔炎の術後管理の在り方を変えることに期待している」と結び、講演を終えた。

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片頭痛の急性期治療・発症抑制に適応の経口薬「ナルティークOD錠 75mg」発売/ファイザー

 ファイザーは2025年12月16日、経口CGRP受容体拮抗薬リメゲパント硫酸塩水和物(商品名:ナルティークOD錠 75mg)を発売したと発表した。本剤は、片頭痛の急性期治療および発症抑制の両方を適応とする、本邦初の経口薬となる。 本剤は、片頭痛発作中に関与するとされるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体を可逆的に阻害する低分子のCGRP受容体拮抗薬(ゲパント)である。CGRPの作用を抑制することで、片頭痛の諸症状を軽減させると考えられている。 海外においては、米国食品医薬品局(FDA)が2020年2月に急性期治療、2021年5月に発症抑制の承認を行い、欧州医薬品庁(EMA)でも2022年4月に同様の承認を取得している。日本国内においては、2024年11月に承認申請が行われ、2025年9月19日に承認を取得した。2025年11月12日に薬価基準に収載され、このたびの発売に至った。 国内の片頭痛有病率は成人人口の約8.4%と推計され、女性の有病率は男性の約3倍の12.9%と報告されており、とくに20~40代の女性に多くみられる。日常生活に大きな支障を来す疾患である一方、医療機関への受診率が低いことも課題とされている。【製品概要】販売名:ナルティークOD錠 75mg一般名:リメゲパント硫酸塩水和物効能又は効果:片頭痛発作の急性期治療及び発症抑制用法及び用量:<片頭痛発作の急性期治療>通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与する。<片頭痛発作の発症抑制>通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与する。製造販売承認取得日:2025年9月19日薬価:2,923.20円発売年月日:2025年12月16日製造販売元:ファイザー株式会社

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経口orforglipron、2型糖尿病の肥満にも有効/Lancet

 2型糖尿病の過体重/肥満成人において、生活習慣改善の補助的介入としての経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronの1日1回投与は、プラセボと比較して体重減少効果は統計学的に優れ、安全性プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と同等であったことが示された。米国・University of Texas McGovern Medical SchoolのDeborah B. Horn氏らATTAIN-2 Trial Investigatorsが、第III相の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「ATTAIN-2試験」の結果を報告した。肥満は2型糖尿病およびその合併症と深く関わる。非糖尿病の肥満成人を対象としたATTAIN-1試験では、orforglipron 36mgの1日1回投与による治療で72週後の体重が最大12.4%減少し、心代謝リスク因子が改善したことが示されていた。Lancet誌オンライン版2025年11月20日号掲載の報告。BMI値27以上、HbA1c値7~10%を対象にorforglipronの3用量vs.プラセボ ATTAIN-2試験は、10ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、チェコ、ドイツ、ギリシャ、インド、韓国、米国)136施設で行われ、3週間のスクリーニング期間と、72週間の治療期間(うち用量漸増期間最長20週間)および2週間の治療後安全性追跡期間で構成された。 BMI値27以上、HbA1c値7~10%(53~86mmol/mol)の患者を対象とし、orforglipronを1日1回6mg、12mg、36mgまたはプラセボを投与する群に1対1対1対2の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週までの体重の平均変化率であった。主要推定値は、治療レジメン推定値(中間事象にかかわらず無作為化された全被験者のデータを使用)とし、補助解析として有効性推定値も算出した。 安全性は、試験薬を少なくとも1回投与を受けたすべての患者を対象に評価が行われた。体重およびHbA1c値など心代謝指標、orforglipron群で統計学的有意に改善 2023年6月5日~2024年2月15日に、2,859例がスクリーニングを受け、1,613例が生活習慣改善指導(健康食と運動)とともにorforglipronを1日1回6mg(329例)、12mg(332例)、36mg(322例)投与またはプラセボ(630例)投与を受けるよう無作為化された。 試験を完遂したのは1,444例(89.5%)であった。治療中止の理由として最も多くみられたのは、個人的事情(試験とは関係ない理由、スケジュールが合わない、転居のため)および有害事象であった。 無作為化された1,613例のベースラインの特性は、orforglipron群とプラセボ群で類似しており、平均年齢56.8歳(SD 10.7)、女性757例(46.9%)、体重101.4kg(SD 22.5)、BMI値35.6(SD 6.6)、HbA1c値8.05%(SD 0.75、64.4mmol/mol[SD 8.2])であった。 治療レジメン推定値でみたベースラインから72週までの体重の平均変化量は、プラセボ群-2.5%(95%信頼区間[CI]:-3.0~-1.9)であったのに対して、orforglipron 6mg群は-5.1%(95%CI:-6.0~-4.2、対プラセボ推定治療差[ETD]:-2.7[95%CI:-3.7~-1.6]、p<0.0001)、12mg群は-7.0%(-7.8~-6.2、ETD:-4.5[-5.5~-3.6]、p<0.0001)、36mg群は-9.6%(-10.5~-8.7、ETD:-7.1[-8.2~-6.1]、p<0.0001)であった。 事前に規定した体重およびHbA1c値など心代謝指標は、orforglipron群で統計学的に有意に改善した。有害事象(軽症~中等症の消化器イベント)、主に用量漸増期間中に発現 有害事象を理由とした治療中止の割合はorforglipron群がプラセボ群よりも高かった(orforglipron 6mg群6.1%、12mg群9.6%、36mg群9.9%、プラセボ群4.1%)。orforglipron群で最も多くみられた有害事象は軽症~中等症の消化器関連イベント(下痢、悪心、嘔吐、または便秘)で、主に用量漸増期間中に発現した。 死亡は試験期間中に10例(orforglipron群6例[12mg群4例、36mg群2例]、プラセボ群4例)が報告された。試験治療担当医師により、プラセボ群の1例とorforglipron 12mg群の1例以外の死亡は、試験治療との関連性はないと判断された。orforglipron群の症例では関連性を示す報告はされておらず、死亡前の1年間に試験薬による治療を受けていなかった。

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術前療法後に残存病変を有するHER2+早期乳がん、T-DXd vs.T-DM1(DESTINY-Breast05)/NEJM

 再発リスクの高い、術前化学療法後に浸潤性残存病変を有するHER2陽性(+)の早期乳がん患者において、術後療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)と比較して、無浸潤疾患生存期間(iDFS)を統計学的に有意に改善し、毒性作用は主に消化器系および血液系であったことが、ドイツ・Goethe University FrankfurtのSibylle Loibl氏らDESTINY-Breast05 Trial Investigatorsが行った第III相の国際共同非盲検無作為化試験「DESTINY-Breast05試験」の結果で示された。NEJM誌オンライン版2025年12月10日号掲載の報告。主要評価項目はiDFS、重要な副次評価項目はDFS 研究グループは、術前化学療法後(タキサン系化学療法と抗HER2療法を含む)に乳房または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する、あるいは初診時に手術不能病変を有する、再発リスクの高いHER2+乳がん患者を対象に、術後療法としてT-DXd 5.4mg/kgと現行の標準治療であるT-DM1 3.6mg/kgを比較した。再発高リスクの定義は、術前療法前にT4 N0~3 M0またはcT1~3 N2~3 M0で手術不能と判断、または術前療法前に手術可能と判断されたが(cT1~3 N0~1 M0)術前療法後に腋窩リンパ節転移が陽性(ypN1~3)であったこととされた。 主要評価項目はiDFS。重要な副次評価項目は無病生存期間(DFS、非浸潤性乳がんおよび二次原発性非乳がんのDFSを含む)であった。その他の副次評価項目は、全生存期間、無遠隔転移生存期間および安全性などであった。iDFSおよびDFSイベントの発生とも、T-DXd群で統計学的に有意に改善 2020年12月4日~2024年1月23日に1,635例が1対1の割合で無作為化され、T-DXd(818例)またはT-DM1(817例)の投与を受けた。データカットオフ(2025年7月2日)時点で、追跡期間中央値は両群ともおよそ30ヵ月(T-DXd群29.9ヵ月[範囲:0.3~53.4]、T-DM1群29.7ヵ月[0.1~54.4])であった。ベースライン特性は両群で類似しており、大半が65歳未満(T-DXd群89.9%vs.T-DM1群90.1%)、ホルモン受容体陽性(71.0%vs.71.4%)、術前療法後に腋窩リンパ節転移陽性(80.7%vs.80.5%)、術前療法として2剤併用抗HER2療法(78.5%vs.79.1%)、アントラサイクリンまたはプラチナ製剤ベースの化学療法(アントラサイクリン:51.7%vs.48.8%、プラチナ製剤:47.2%vs.48.0%)、および放射線療法(93.4%vs.92.9%)を受けていた。また、被験者のほぼ半数がアジア人(48.8%vs.47.2%)であった。 iDFSイベントの発生は、T-DXd群51例(6.2%)、T-DM1群102例(12.5%)であった(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.34~0.66、p<0.001)。3年iDFS率はそれぞれ92.4%と83.7%であった。 DFSイベントの発生は、T-DXd群52例(6.4%)、T-DM1群103例(12.6%)であった(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.001)。3年DFS率はそれぞれ92.3%と83.5%であった。間質性肺疾患リスクに対する適切なモニタリングと管理が必要 最も多くみられた有害事象は、T-DXd群では悪心(発現率71.3%)、便秘(32.0%)、好中球減少(31.6%)、嘔吐(31.0%)であり、T-DM1群では肝機能評価値の上昇(AST上昇50.2%、ALT上昇45.3%)および血小板数の低下(49.8%)であった。 治療薬に関連した間質性肺疾患の発現頻度は、T-DXd群(9.6%)がT-DM1群(1.6%)と比べて高かった。T-DXd群では、間質性肺疾患を呈した2例が死亡した。 著者は、「T-DXdの特定された重要なリスクは間質性肺疾患であり、適切なモニタリングと管理が必要である」と述べている。

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歯の根管治療は心臓の健康にも有益

 歯の根管治療を受けたい人はいないだろうが、もし受けなければならない場合は、心臓には良い影響があるかもしれない。英国の研究で、根管治療の成功は心臓病に関連する炎症を軽減し、さらにコレステロール値や血糖値を改善する可能性のあることが明らかにされた。英キングス・カレッジ・ロンドン歯内治療学分野のSadia Niazi氏らによるこの研究結果は、「Journal of Translational Medicine」に11月18日掲載された。 Niazi氏は、「歯の根管治療は口腔の健康を改善するだけでなく、糖尿病や心臓病などの深刻な疾患リスクの軽減にも役立つ可能性がある。このことは、口腔の健康が全身の健康に深く関わっていることを強く思い出させる」と話している。 根管治療は虫歯が歯の神経にまで達した場合に行われる神経の治療で、感染または損傷した歯髄(歯の内部にある神経と血管を含む軟組織)を除去し、歯の内部を清掃・洗浄した後に詰め物をして密封する。近年、多くの研究で、口腔の健康が心血管の健康に密接に関連していることが示されている。Niazi氏らも背景説明の中で、口腔内の感染症は、全身、特に心臓に炎症を引き起こす可能性があると指摘している。 今回の研究では、根管治療を受けた根尖性歯周炎患者65人を対象に2年間追跡して、根管治療の成功が血清の代謝プロファイルにどのような影響を与えるかを調べた。その上で、それらの変化とメタボリックシンドローム(MetS)の指標、炎症バイオマーカー、血液・根管内の微生物叢との関連を評価した。対象者から、治療前(ベースライン)、治療後3カ月、6カ月、1年、2年の5時点で血清サンプルを採取し、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて解析した。 その結果、根管治療後には、24種類(54.5%)の代謝物に有意な変化が認められた。具体的には、3カ月後に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が有意に減少し、2年後にはグルコースとピルビン酸(解糖系で生成される代謝物)が有意に減少した。また、コレステロール、コリン、脂肪酸が短期間で減少し、トリプトファンは徐々に増加した。これらの結果は、糖代謝・脂質代謝の改善と炎症負荷の軽減を示唆しており、心臓の健康にとって好ましい兆候といえる。さらに、代謝プロファイルの変化は、MetSの臨床指標、炎症マーカー、治療前の血液・根管内の微生物叢と強く関連することも示された。 Niazi氏は、「根管の感染症が長期間続くと、細菌が血流に入り込んで炎症を引き起こし、血糖値や脂質値を上昇させる可能性がある。その結果、心臓病や糖尿病などのリスクが高まる。歯科医は、このような根管感染症の広範な影響を認識し、早期診断と治療を推進することが不可欠だ」とニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、口腔の健康と全身の健康の間には密接な関係があることから、歯科医と他領域の医療専門家が連携して治療する必要があるとの考えも示している。

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血液凝固因子第XI因子を阻害すればよいというものではない?(解説:後藤信哉氏)

 バイオベンチャーの技術の進歩はすさまじい。ヒトを構成する各種分子の構造と機能は詳細に解明され、分子の構造と機能に基づいた阻害薬も多数開発された。血液凝固第X因子阻害薬はビジネス的に大成功した。しかし、止血に必須の機能を担う第X因子の阻害では、重篤な出血イベントリスクの増加が不可避であった。第XI因子の止血における役割は補助的である。第XI因子の阻害により出血しない抗凝固薬ができる可能性を目指して開発が進んでいる。第XI因子の酵素活性の阻害抗体と、第XI因子の活性化を阻害する抗体の効果が臨床的に試された。 本研究は薬剤開発の第II相研究として施行された。静脈血栓の形成における第XI因子の酵素活性の阻害抗体と、第XI因子の活性化を阻害する抗体の効果を、標準治療であるエノキサパリンと比較した。2つの第II相試験の結果は、第XI因子の酵素活性の阻害抗体、第XI因子の活性化を阻害する抗体ともに抗凝固効果を発現することを示した。 本研究は、生体機能において機能発現の明確になっているタンパク質の機能を阻害するメカニズムの異なる抗体を複数作製して、臨床的に薬効を検証することにより生体分子の発現メカニズムの妥当性を検証する研究として価値がある。臨床試験により分子メカニズムの解明も可能となることを示唆した研究として価値が大きい。

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