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日本人の遅発性ジスキネジアに対するバルベナジンの有効性と安全性

 アジア人精神疾患患者における遅発性ジスキネジア(TD)治療に対するバルベナジンの有効性および安全性が、患者の基礎精神疾患により異なるかを調査するため、田辺三菱製薬のMieko Nagano氏らは、多施設共同第II/III相ランダム化二重盲検試験の事後分析を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2024年3・4月号の報告。 多施設共同第II/III相ランダム化二重盲検試験であるJ-KINECT試験のデータを分析した。J-KINECT試験は、6週間のプラセボ対照期間とその後の42週間の延長試験で構成されており、日本人TD患者に対しバルベナジン40mgまたは80mgを1日1回投与した。統合失調症/統合失調感情障害患者(SCHZ群)と双極性障害/うつ病患者(MOOD群)において、異常不随意運動評価尺度(AIMS)合計スコアとTDの臨床全般改善度(CGI-TD)スコアのベースラインからの変化、および治療中に発生した有害事象の発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・プラセボ対照期間の参加患者256例中211例が長期延長試験を継続した。・6週間のAIMS合計スコアのベースラインからの平均変化は、基礎精神疾患とは関係なく、いずれの用量においてもプラセボと比較し有効であった。【SCHZ群】40mg:-1.8(95%信頼区間[CI]:-3.2~-0.5)、80mg:-3.3(95%CI:-4.7~-1.9)【MOOD群】40mg:-2.4(95%CI:-3.9~-0.9)、80mg:-3.5(95%CI:-5.1~-1.9)・これらの結果は48週まで維持されており、CGI-TDスコアの改善においても同様であった。・治療中に発生した重篤または致死的な有害事象の発生率は、基礎精神疾患による顕著な差が認められなかった。統合失調症やうつ病が悪化する割合は、基礎精神疾患の進行に起因すると考えられる。 著者らは「TDに対する長期バルベナジン治療の有効性および安全性は、基礎精神疾患によって違いが認められなかった」と報告した。

3.

切除不能StageIIIのNSCLCにおけるCRTとデュルバルマブの同時併用の成績(PACIFIC-2)/ELCC2024

 切除不能StageIIIの非小細胞肺がん(NSCLC)におけるデュルバルマブと化学放射線療法(CRT)の併用は主要評価項目を達成できなかった。 切除不能StageIIIのNSCLCに対するCRT+デュルバルマブ地固め療法は、第III相PACIFIC試験において、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)の持続的な改善をもたらした。現在、PACIFICレジメンは切除不能なStageIIIのNSCLCにおける標準治療となっている。PACIFIC-2は同対象に対して、PACIFICレジメンの初回治療をデュルバルマブ+CRTとした治療シークエンスを評価する第III相試験である。欧州肺がん学会(ELCC2024)で最終結果が発表された。・対象:切除不能な局所進行StageIIIのNSCLC・試験群:デュルバルマブ 4週ごと+CRT→デュルバブマブ(Dur+CRT群)・対照群:プラセボ 4週ごと+CRT→プラセボ(CRT群)・評価項目[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)評価によるPFS[副次評価項目]OS、奏効率(ORR)、PFS2、奏効期間、病勢コントロール率、健康関連QOLなど 主な結果は以下のとおり。・BICR評価のPFS中央値はDur+CRT群13.8ヵ月、CRT群9.4ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.65〜1.12、p=0.247)。・OS中央値はDur+CRT群36.4ヵ月、CRT群29.5ヵ月であった(HR:1.03 、95%CI:0.78〜1.39、p=0.823)。・ORRはDur+CRT群60.7%、CRT群60.6%であった(p=0.976)。・Grade3/4の有害事象(AE)はDur+CRT群の53.4%、CT群の59.3%に発現した。・死亡に至るAEはそれぞれ13.7%と10.2%、治療中止に至るAEはそれぞれ25.6%と12.0%に発現した。・放射線性も含めた肺臓炎の頻度はDur+CRT群28.8%、CRT群28.7%と同等であった。 CRT+デュルバルマブ→デュルバルマブ地固め療法は切除不能StageIIIのNSCLCの生存改善を示さなかった。これらの結果を受け、発表者は、切除不能なStageIIIのNSCLC患者に対する標準治療は依然としてPACIFICレジメンであると結んだ。

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雑音対策で補聴器の調節、設定をより正確に/デマント・ジャパン

 加齢に伴う難聴は認知症の原因になるという研究レポートの発表以来1,2)、難聴対策にスポットが当たっている。デマント・ジャパンは、同社が研究開発した雑音下での音声聴取用処方の新スタンダード「ACT(Audible Contrast Threshold:可聴コントラスト閾値)」の発売に合わせメディアセミナーを開催した。 「ACT」は、補聴器の適切な調整および補聴器装用者の補聴器への満足度向上が期待される新しい聴力測定法であり、セミナーでは、わが国の難聴の現状と課題、ACT共同研究の内容などが講演された。 なお、ACTは同社の聴覚診断機器販売会社であるダイアテックジャパンより販売されている。わが国は補聴器の普及も、補聴器の使い方にも課題あり はじめに同社代表取締役社長の齋藤 徹氏が、会社の概要とわが国の難聴対策の課題を説明した。 デマント社は、設立120年を迎える聴覚ヘルスケア企業グループであり、わが国では「オーティコン補聴器」で知られている。同社はデンマークに補聴器、聞き取りテクノロジー、AIなどの聴覚に特化した基礎研究所を持ち、聴覚ヘルスケアの発展に向け研究を行っている。また、わが国では1973年より活動を展開し、補聴器装用率15%を超えることを目指している。 世界で高齢化が進む中で、難聴者も増加している。難聴の放置は認知症発症のリスクとなり、家族などへの負担、医療費の増大など社会的な課題となる。難聴の対策には補聴器の装用などが必要となるが、社会的にその重要性は浸透していない。欧米の補聴器装用率が、難聴者の50%を超えているのに対しわが国では「普及率・満足度・両耳率」のすべてが欧米の数字を下回っている。その原因としては、社会の認識不足、聴覚ケア専門家・医療者の不足、専門家のカウンセリング、フィッティングケアの不足などが指摘されている。とくに難聴者の最大の悩みは、雑音下での聞こえの悪さであり、この雑音下での聞き取り力をいかに向上させるかが、満足度を上げる鍵となる。 終りに齋藤氏は「これからもグループ全体を挙げて、聴覚デバイスなどの開発、提供を行う」と今後の展望を述べた。ACTを聴覚ケアのスタンダードに ACT検査とその事例について同社マーケティング部の田中 智英巳氏が説明した。 通常、聴力検査値は同じでも雑音下では、聞こえる能力が異なる場合があり、補聴器の装用では、何度も調節を行い、その人に合った個別設定が行われるのが理想的である。とくに雑音下聴取能の評価に基づいて行われるのが良いとされる一方で、現状、多くの人がデフォルトの設定などで使用し、満足度の低い使われ方のままであるという。 こうした補聴器装用者のアンメットニーズを埋めるために開発されたのがACTである。これからは、聞こえの質をACTで評価することで、個別設定でより質の高い調節ができるようになる。 田中氏は、「今後、ACTを含め補聴器の処方が自動的になり、聴覚ケアのスタンダードになるようにしていきたい」と目標を語った。ACTの使用は補聴器設定の指標にできる 「雑音下語音聴取検査の現状と課題~ACT共同研究・国際共同臨床試験について」をテーマに新田 清一氏(済生会宇都宮病院 耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長)が、ACTの臨床試験の概要を説明した。 さまざまな聞こえの検査は、聴覚障害の診断と補聴器のフィッテングを目的に、純音聴力検査と語音聴力検査が行われている。そして、難聴者の86%が「雑音下での聞き取りが困難」と回答し、重要な課題となっている。 現在、わが国で行われている雑音下語音聴取検査(測定)は、雑音下で50音などを聞き取り正答率を測定する「57-S」や「CI-2004」などと雑音下で文章の聞き取りを測定し、正答率50%の雑音の大きさの比を測定する「HINT(Hearing in Noise Test)」などがある。 しかし、これらの検査は、約5~17分の時間を要するだけでなく、言語依存的で検査用に広いスペースが必要となる。また、検査設定が実生活の聴音環境と異なり、補聴器機能の設定指標としては不十分など多くの課題のある検査である。 こうした課題の解決に登場したACTでは、短時間(平均2分)、言語非依存で省スペース、実生活の聴音環境に合わせた検査ができると期待される。 ACTでは、両耳に装着したヘッドフォンにピンクノイズを呈示。ノイズの中にサイレン音が聞こえたら応答ボタンを押す操作で、検査では変調度を変えながら、検知できる変調度(閾値)を測定する。測定結果は-4~14の段階で評価する。 ACTに適用性があるのかを確認したわが国とドイツの共同臨床試験では、「ACT値の雑音下語音聴取能の推定」「異言語・補聴器調整方法でのACTの活用」「ACTが補聴器機能の設定指標となるか」の3つの課題について検討が行われた。 被検者は100例(日本19例、ドイツ81例)、純音平均聴力閾値は29~79dB HL(平均52dB HL)、被検者の年齢は32~79歳(平均66歳)、オーティコンMore1ミニRITEを両耳フィッテングで実施した。試験方法は、純音聴力検査、ACTテスト、HINTを測定し、ACT値と補聴器装用下HINTの結果との相関、ACTと年齢などを重回帰分析した。 その結果、ACTテストの再検査信頼性は、同じ訪問内で0.96dB、平均試験時間は100秒だった。また、ACT、純音平均聴力(PTA)、年齢から予測した雑音下の語音聴取閾値(SRT)は、PTA単独よりもACTとPTAの組み合わせのほうが正確に被検者の雑音下聴取能を予測することができた。 雑音下における実測SRTと推定SRTでは、ACT推定値と実測値の相関は極めて高いことから、ACTの結果が悪いと、雑音下語音聴取も悪いことがうかがえた。 新田氏はまとめとして「ACTの使用で補聴器装用下の雑音下聴取能を予測でき、補聴器機能設定の指標となる」と結び、講演を終えた。

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セマグルチド、肥満関連の心不全・2型糖尿病に有効/NEJM

 肥満に関連した左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)と2型糖尿病を有する患者に対し、セマグルチドの週1回投与はプラセボ投与と比較し、1年時点で心不全関連の症状と身体的制限の軽減、および体重減少が大きかった。米国・Saint Luke's Mid America Heart InstituteのMikhail N. Kosiborod氏らSTEP-HFpEF DM Trial Committees and Investigatorsが、616例を対象とした無作為化試験の結果を報告した。肥満症と2型糖尿病は、HFpEF患者では一般的にみられ、症状の負荷が大きいことが特徴であるが、2型糖尿病を有する肥満に関連したHFpEFを標的とする治療法は、これまで承認されていない。NEJM誌2024年4月18日号掲載の報告。KCCQ-CSSと体重の変化を比較 研究グループは、BMI値が30以上で2型糖尿病を有するHFpEF患者を無作為に1対1の割合で2群に分け、セマグルチド(2.4mg)を週1回、またはプラセボをそれぞれ52週間投与した。 主要エンドポイントは、カンザスシティ心筋症質問票の臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:0~100で数値が高いほど症状と身体的制限が少ない)のベースラインからの変化量、体重のベースラインからの変化率だった。 検証的副次エンドポイントは、6分間歩行距離の変化量と、階層的複合エンドポイント(死亡、心不全イベント、KCCQ-CSSの変化量の差、6分間歩行距離の変化量の差など)、およびC反応性蛋白(CRP)値の変化だった。KCCQ-CSS変化量平均値、セマグルチド群は13.7点、プラセボ群6.4点 2021年6月15日~2022年8月19日に計616例が無作為化された(セマグルチド群310例、プラセボ群306例)。52週時点で投与を受けていた(各群260例)被験者において、セマグルチドの計画用量2.4mgで投与を受けていた被験者は209例(80.4%)、プラセボの同用量投与被験者は248例(95.4%)であった。被験者の年齢中央値は69歳、女性が44.3%、BMI中央値は36.9、KCCQ-CSS中央値は59.4点、6分間歩行距離中央値は280mだった。 KCCQ-CSS変化量の平均値は、セマグルチド群13.7点、プラセボ群が6.4点だった(推定群間差:7.3点、95%信頼区間[CI]:4.1~10.4、p<0.001)。体重の変化率の平均値は、それぞれ-9.8%、-3.4%だった(推定群間差:-6.4%ポイント、95%CI:-7.6~-5.2、p<0.001)。 検証的副次エンドポイントの結果も、セマグルチド群がプラセボ群より良好だった。6分間歩行距離の変化量は、群間差の推定値14.3m(95%CI:3.7~24.9、p=0.008)、階層的複合エンドポイントのwin ratioは1.58(95%CI:1.29~1.94、p<0.001)、CRP値の変化に対する治療間比の推定値は0.67(95%CI:0.55~0.80、p<0.001)だった。 重篤な有害事象はセマグルチド群55例(17.7%)、プラセボ群88例(28.8%)で報告された。

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ACSへのPCI後1~12ヵ月でのチカグレロル単独vs.アスピリン併用/Lancet

 最新の薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)で1ヵ月間イベントフリーを維持した急性冠症候群(ACS)患者において、PCI後1~12ヵ月のチカグレロル単独投与は、チカグレロル+アスピリン投与に比べ、臨床的に重要な出血リスクを減少し、主要有害心脳血管イベント(MACCE)リスクが同等であることが示された。中国・南京医科大学のZhen Ge氏らが、3,400例を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果を報告した。著者は、「先行研究の結果と照らし合わせ、この集団のほとんどの患者は1ヵ月間のDAPT後に、アスピリンの中止およびチカグレロル単独の維持療法による優れた臨床アウトカムを得られることが示された」とまとめている。Lancet誌2024年4月7日号掲載の報告。BARCタイプ2、3、5とMACCEのリスクを比較 本試験は、中国、イタリア、パキスタン、英国の医療センター58施設で行われた。血管内超音波ガイド下PCIに関するIVUS-ACS試験を完了し、DAPTによる1ヵ月の治療期間に重大な虚血性または出血性イベントがなかった18歳以上のACS患者を、経口チカグレロル(90mg、1日2回)+経口アスピリン(100mg、1日1回)を投与する群、または経口チカグレロル(90mg、1日2回)+適合プラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。PCI後1ヵ月時点から投与を開始し12ヵ月時点で終了した(計11ヵ月間投与)。無作為化はWebベースシステムを用いて行い、ACSタイプ、糖尿病の有無、IVUS-ACS試験での無作為化、試験地域で層別化した。 優越性の主要エンドポイントは、臨床的に重要な出血(BARC出血基準タイプ2、3、5)だった。非劣性の主要エンドポイントは、MACCE(心臓死、心筋梗塞、虚血性脳卒中、ステント血栓症[definite]、臨床的要因による標的血管の再血行再建術の複合)だった。PCI後1~12ヵ月のチカグレロル+アスピリン群のイベント発生率の予測値は6.2%で、非劣性マージン絶対値は2.5ポイントとした。 2つのエンドポイントは連続的に検証した。すなわち、優越性の主要エンドポイントの達成が示されてから、MACCEアウトカムの仮説検証を行うこととした。すべての主要な解析はITT集団で評価した。臨床的に重要な出血イベントリスク、チカグレロル単独群で0.45倍に 2019年9月21日~2022年10月27日に、IVUS-ACS試験の被験者3,505例のうち、3,400例(97.0%)が無作為化され(アスピリン併用群1,700例、チカグレロル単独群1,700例)、3,399例(>99.9%)が12ヵ月の追跡期間を完了した。 PCI後1~12ヵ月で臨床的に重要な出血イベントが発生した患者は、チカグレロル単独群35例(2.1%)、アスピリン併用群78例(4.6%)だった(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.30~0.66、p<0.0001)。 MACCEは、チカグレロル単独群61例(3.6%)、アスピリン併用群63例(3.7%)で発生した(絶対群間差:-0.1%[95CI:-1.4~1.2]、HR:0.98[95%CI:0.69~1.39]、非劣性のp<0.0001、優越性のp=0.89)。

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コロナよりもインフルエンザの方が脳への影響が大きい

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)よりもインフルエンザの方が、神経疾患により病院で治療を受ける可能性の高いことが、COVID-19またはインフルエンザにより入院した患者を追跡した新たな研究で明らかになった。米ミシガン大学アナーバー校のBrian Callaghan氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に3月20日掲載された。Callaghan氏は、「われわれが予測していた通りの結果ではなかったが、COVID-19で入院しても、インフルエンザで入院した場合と比べて、一般的な神経疾患に対する治療が増えるわけではないことが分かった点では心強い結果だった」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、世界的な健康に関する研究ネットワーク(TriNetX)のデータを用いて、COVID-19による入院患者とインフルエンザによる入院患者のその後1年間での神経学的診断に関わる受診について比較した。対象は、2020年4月1日から11月15日の間にCOVID-19により入院した18歳以上の患者と、2016年から2019年の間にインフルエンザにより入院した18歳以上の患者がそれぞれ7万7,272人ずつで、転帰の対象とした神経疾患は、片頭痛、てんかん、脳卒中、ニューロパチー(末梢神経障害)、運動障害、認知症の6種類だった。 その結果、上記6種類の疾患に対する治療を受けたCOVID-19患者とインフルエンザ患者の割合は、片頭痛で2.0%と3.2%、てんかんで1.6%と2.1%、脳卒中で2.0%と2.4%、ニューロパチーで1.9%と3.6%、運動障害で1.5%と2.5%、認知症で2.0%と2.3%であり、治療が必要になった患者は、前者の方が後者よりも少ないことが明らかになった。年齢や性別など影響を与える因子で調整して解析した結果、COVID-19患者で入院後に神経疾患により治療が必要になるリスクは、インフルエンザ患者よりも、片頭痛で35%、てんかんで22%、脳卒中で10%、ニューロパチーで44%、運動障害で36%、認知症で7%低いことが示された。罹患後1年間で6種類の神経疾患のいずれかの新規診断を受けたのは、COVID-19患者で2.8%であったのに対し、インフルエンザ患者では4.9%に上った。 論文の筆頭著者である米イェール大学神経学分野のAdam de Havenon氏は、「今や大半の米国成人がCOVID-19への罹患を経験済みであることを考えると、新型コロナウイルスが神経系に与える影響は、他の呼吸器系ウイルスと同様だと分かったことは朗報だ」と話し、「神経学的治療へのアクセスはすでに限定的であるが、COVID-19罹患後に神経学的治療が劇的に増加するのなら、そのアクセスはさらに縮小される可能性が懸念されていたからだ」と理由を説明している。 一方でCallaghan氏は、「この研究ではCOVID-19の罹患後症状(long COVID)に関連した転帰については検討していないこと、また、われわれの結果がlong COVID患者では神経学的症状を抱える人が多いことを示した先行研究の結果に必ずしも対立するものではないことに留意することは重要だ」と述べて慎重な解釈を求めている。 また、Callaghan氏とde Havenon氏の両氏は、この研究で使用されたデータは、米国を代表するサンプルではないため、得られた知見が米国の全てのCOVID-19罹患経験者に当てはまるとは限らないことを、米国神経学会(AAN)のニュースリリースの中で強調している。なお本研究は、AANから資金援助を受けて実施された。

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怒りの感情をぶちまけても効果なし

 他人に不平や不満をぶつけるのは怒りを抑える効果的な方法ではないようだ。米バージニア・コモンウェルス大学のSophie Kjaervik氏とBrad Bushman氏による研究で、怒りの要因を吐き出すことで、そのときは気持ちが晴れるかもしれないが、それによって怒りの感情が弱まるわけではなく、それよりも深呼吸やマインドフルネス、瞑想、ヨガなどのストレス低減法の方がはるかに効果的であることが示唆された。この研究の詳細は、「Clinical Psychology Review」4月号に掲載された。 Bushman氏は、「怒りの感情は発散させるべきという定説を打ち壊すことが極めて重要だと思う。怒りの発散は良いアイデアのように思うかもしれないが、カタルシス理論を支持する科学的根拠は一つもない」と話している。カタルシス理論とは、ネガティブな感情やストレスの発散が心理的な安定やストレスの軽減につながるという考え方だ。 Kjaervik氏らは今回、総計1万189人の参加者を含む154件の研究を対象にメタ解析を実施し、サンドバッグを殴る・蹴ること、ジョギング、サイクリング、水泳を行うといった覚醒度を高める活動と、深呼吸や瞑想などの覚醒度を低下させる活動を比較した。その結果、実験室でも実社会でも、さまざまな集団において、覚醒度を低下させる活動が怒りのコントロールに有効であることが示された。また、それとは対照的に、覚醒度を高める活動は、全般的に怒りのコントロールには全く効果がないことが明らかになった。ジョギングなどの運動も同様に興奮を高めることが示された。 ただし、どの運動が興奮を高めるかは必ずしも明確ではなかったとKjaervik氏らは説明している。ジョギングは怒りを増強させる可能性が最も高いことが示されたが、球技や体育の授業への参加は覚醒度を低下させる傾向が認められた。Kjaervik氏らは、「これらの結果は、運動に遊びの要素を取り入れることで、ポジティブな感情を高めたり、ネガティブな感情を打ち消したりすることができる可能性のあることを示唆している」と考察している。 Kjaervik氏は、今回の研究実施の背景には、最近の「レイジルーム(怒りの部屋)」の人気の高まりがあったと明かしている。レイジルームとは、怒りの感情に対処するためにコップや皿、電化製品などを破壊することができる施設だ。Kjaervik氏は、「怒りを表出することを対処法とする理論そのものを否定したかった」と話し、「われわれは、興奮を抑えること、実際にはその生理学的な側面が極めて重要であることを示したかった」と説明している。 Bushman氏はさらに、「覚醒度を高めるような運動は心臓には良いかもしれないが、怒りを抑える最も良い方法でないことは確かだ」と指摘し、「怒っている人はその感情を発散したいと思うだろうが、発散することで得られる良い気分が、実際には攻撃性を強めてしまうことがわれわれの研究で示されている。つまり、怒りを適切に対処するのは非常に難しいということだ」と述べている。

9.

新型インフルエンザ、新型コロナ両パンデミックは世界人口動態にいかなる影響を及ぼしたか?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 米国・保健指標評価研究所(IHME)のSchumacher氏を中心とするGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study (GBD) 2021(GBD-21と略記)の研究グループは、1950年から2021年までの72年間に及ぶ世界各国/地域における年齢/性差を考慮した人口動態指標に関する膨大な解析結果を発表した。GBD-21では、72年間における移住、HIV流行、紛争、飢餓、自然災害、感染症などの人口動態に対する影響を解析している。世界の総人口は1950年に25億であったものが2000年には61億、2021年には79億と著明に増加していた。世界の人口増加は2008年から2009年に最大に達し、それ以降はプラトー、2017年以降は減少傾向に転じている。本論評では、GBD-21に示された解析結果を基に、人類の人口動態に多大な影響を及ぼしたと予想される2009~10年の新型インフルエンザ(2009-H1N1)と2019年末から始まった新型コロナ(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2:SARS-CoV-2)両パンデミックの影響に焦点を絞り考察する。新型インフルエンザ・パンデミックの世界人口動態に及ぼした影響 20世紀から21世紀にかけて発生したA型インフルエンザ・パンデミックには、1918年のスペイン風邪(H1N1、致死率:2%以上)、1957年のアジア風邪(H2N2、致死率:0.8%)、1968年の香港風邪(H3N2、致死率:0.5%)、2009年の新型インフルエンザ(2009-H1N1、致死率:1.4%)が存在する。2009-H1N1は、2009年4月にメキシコと米国の国境地帯で発生したが1年半後の2010年8月には終焉した。2009-H1N1は、北米鳥H1、北米豚H1N1、ユーラシア豚H1N1、ヒトH3N2由来のRNA分節が遺伝子交雑(再融合)を起こした特異的な4種混合ウイルスである。2009-H1N1は8個のRNA分節を有するが、そのうち5個は豚由来、2個は鳥由来、1個がヒト由来であった。 GBD-21で提示された世界の人口動態データは1950年以降のものであるので、スペイン風邪を除いたアジア風邪、香港風邪、2009-H1N1によるパンデミックの世界人口動態に対する影響を解析することができる。GBD-21の解析結果を見る限り、世界の総人口、平均寿命、小児死亡率、成人死亡率などにおいて各インフルエンザ・パンデミックに一致した特異的変動を認めなかった。 2009-H1N1によるパンデミック時のPCRを中心とする検査確定致死率は1.4%であり、1950年以降に発生したインフルエンザ・パンデミックの中では最も高い。にもかかわらず、2009-H1N1が世界の人口動態に有意な影響を及ぼさなかったのは、それまでの季節性インフルエンザに対して開発された抗ウイルス薬オセルタミビル(商品名:タミフル、内服)とザナミビル(同:リレンザ、吸入)が2009-H1N1に対しても有効であったことが1つの要因と考えられる。宿主細胞内で増殖したインフルエンザが生体全体に播種するためにはウイルス表面に発現するNeuraminidase(NA)が必要であり、抗ウイルス薬はNAの作用を阻害しウイルス播種を阻止するものであった。2009-H1N1のNAはユーラシア豚由来であったが、ヒト型季節性インフルエンザに対して開発された抗ウイルス薬は2009-H1N1の播種を抑制するものであった。有効な抗ウイルス薬が存在したことが2009-H1N1の爆発的播種を阻止し、パンデミックの持続を1年半という短期間に限定できたことが2009-H1N1によるパンデミックによって世界の人口動態が著明な影響を受けなかった要因の1つであろう。本邦では2009-H1N1パンデミック時に抗ウイルス薬が臨床現場で積極的に使用され、その結果として、本邦の2009-H1N1関連致死率が先進国の中で最低に維持されたことは特記すべき事実である。 2009-H1N1パンデミックは1年半という短い期間で終焉したので、パンデミック期間中に予防ワクチンの問題が積極的に議論されることはなかった。しかしながら、2010年以降、2009-H1N1は従来のA型季節性インフルエンザであったソ連株H1N1を凌駕し季節性A型インフルエンザの主要株となった。それに伴い、2015年以降、A型の2009-H1N1株とH3N2株、B型の山形系統株とビクトリア系統株を標的とした4価ワクチンが予防ワクチンとして導入された。 上記以外に20世紀後半から21世紀にかけて高病原性鳥インフルエンザH5N1(1997年発生、致死率:60%)、高病原性鳥インフルエンザH7N9(2013年発生、致死率:30%)などが注目された時期もあったが、これらのウイルスのヒトへの感染性は低く人間界でパンデミックを惹起するものではなかった。新型コロナ・パンデミックの世界人口動態に及ぼした影響 SARS-CoV-2は、2019年末に中国・武漢から発生した野生コウモリを自然宿主とする新たなコロナウイルスである。WHOは2020年1月に世界レベルで懸念される公衆衛生上の“緊急事態宣言”を新型コロナに対して発出した。WHOの緊急事態宣言は2023年5月に解除された。すなわち、新型コロナの緊急事態宣言は新型インフルエンザのパンデミックに比べて長く、3年半持続したことになる。WHOは新型コロナ感染症に対して“パンデミック”という表現を正式には用いていないが、本論評では新型インフルエンザとの比較のため“緊急事態宣言”を“パンデミック”と置き換えて記載する。 ヒトに感染し局所的に健康被害をもたらしたコロナウイルスには、SARS-CoV-2以外に2002年のキクガシラコウモリを自然宿主とするSARS-CoV(致死率:9.6%)と2012年発生のヒトコブラクダを自然宿主とするMERS-CoV(Middle East respiratory syndrome coronavirus、致死率:34%)が存在する。しかしながら、これらのコロナウイルスのヒトへの感染性は低く、人間界でパンデミックを起こすものではなかった。 GBD-21の解析データによると、2020年と2021年の2年間における世界の推定総死亡者数は1億3,100万人、うち新型コロナに起因するものが1,590万人であった。WHOから報告されたPCRを中心とした検査確定新型コロナによる世界総死亡者数は、2024年3月の段階で704万人であり、2021年末ではこの値より有意に少ない死亡者数と考えられ、GBD-21で提出された推定値と大きく乖離していることに注意する必要がある。GBD-21の死亡者数データにはウイルス感染の確定診断がなされていない症例が含まれ、死亡者数の過大評価、逆にWHOの報告は厳密であるが故に死亡者数が過小評価されている可能性がある。両者の中間値が新型コロナによる死亡者数の真値に近いのかもしれない。 以上のようにGBD-21の報告には問題点が存在するが、本報告が提出した最も重要な知見は、2020年から2021年の2年間における5歳から25歳未満の群(小児、青少年、若年成人)の死亡率が他年度の値と同等であったのに対し、25歳以上の成人死亡率が明確に増加していたことを示した点である。以上の解析結果は、新型インフルエンザ・パンデミックとは異なり、新型コロナ・パンデミックは世界の人口動態、とくに、成人の人口動態に重要なインパクトを与えたことを意味する。 新型コロナの遺伝子変異は活発で、2020年度内は武漢原株と武漢原株のS蛋白614位のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に変異したD614G株が中心であった。2021年にはアルファ株(英国株)、ベータ株(南アフリカ株)、ガンマ株(ブラジル株)、デルタ株(インド株)と変異/進化を繰り返し、2022年以降はオミクロン株が中心ウイルスとなった。以上の変異株はウイルスが生体細胞に侵入する際に重要なウイルスS蛋白の量的/質的に異なる遺伝子変異によって特徴付けられる。2024年現在、オミクロン株から多数の派生株が発生している(BA.1、BA.2、BA.4/5、BQ.1、BA.275、XBB.1.5など)。すなわち、GBD-21に示されたデータは武漢原株からデルタ株までの影響を示すものであり2022年以降のオミクロン株による影響は含まれていない。先進国の疫学データは、デルタ株最盛期まではウイルスの変異が進むほど新型コロナの病原性が上昇していたことを示唆している。すなわち、GBD-21に示された2020年を含む2年間における世界全体での成人死亡率の有意な上昇は、武漢原株からデルタ株に至るウイルスによってもたらされた結果である。 本邦独自のデータを基に考察すると(厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、2022年3月2日)、デルタ株時代の致死率が4.25%であったの対し、オミクロン株初期の致死率は0.13%と有意に低値であった。しかしながら、オミクロン株初期における年齢別死亡率は、30歳未満の群で低いのに対し30歳以上の群では有意に高く、GBD-21で示されたデルタ株最盛期までの傾向と一致した。オミクロン株最盛期における世界の年齢別死亡率がどのような動態を呈するかは興味深いものであり、2022年以降の世界人口動態に関する解析が待たれる。 新型コロナの変異に伴う感染性と病原性の増強は、ウイルス自体の性状変化に起因するものであることは間違いない。しかしながら、それらを修飾した因子として、抗ウイルス薬、予防ワクチンの開発遅延の問題を考慮する必要がある。人類の歴史にあって、コロナが世界的規模の健康被害をもたらしたのは2019年以降のパンデミックが初めてであった。そのため、パンデミック発症時点では新型コロナに特化した抗ウイルス薬、予防ワクチンの開発はほぼ“ゼロ”の状態であった。しかしながら、その後、多数の抗ウイルス薬、予防ワクチンが非常に短期間の間に開発が進められた。抗ウイルス薬の1剤目として、2020年5月、米国FDAはエボラ出血熱に対して開発されたRNA polymerase阻害薬レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注)の新型コロナに対する緊急使用を承認した。2剤目として、2021年11月、英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はRNA依存RNA polymerase阻害薬モルヌピラビル(同:ラゲブリオカプセル、内服)を承認した。3剤目として、2021年12月、米国FDAは3CL protease(Main protease)阻害薬であるニルマトレルビル・リトナビル(同:パキロビッドパック、内服)の緊急使用を承認した。上記3剤は、少なくとも初期のオミクロン株(BA.1、BA.2)に対しても有効であった。上記3剤に加え、本邦ではニルマトレルビル・リトナビルと同様に3CL protease阻害薬であるエンシトレルビル(同:ゾコーバ、内服)が、2022年11月、緊急使用が承認された。いずれにしろ、GBD-21のデータ集積時に使用できた主たる抗ウイルス薬はレムデシビルのみであった。 新型コロナに対する予防ワクチンも2020年初頭から大車輪で開発が進められ、遺伝子ワクチン、蛋白ワクチン、不活化ワクチンなど170種類以上のワクチンがふるいに掛けられた。それらの中で現在のオミクロン株時代にも生き残ったワクチンは2種類のmRNAワクチンであった(ファイザー社のBNT162b2系統[商品名:コミナティ系統]とモデルナ社のmRNA-1273系統[同:スパイクバックス系統])。話を簡単にするため本邦における成人に対するmRNAワクチンについてのみ考えていくと、武漢原株対応1価ワクチンに対する厚労省の認可は2021年春、オミクロン株BA.4/5対応2価ワクチン(武漢原株+BA.4/5)に対する認可は2022年秋、オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの認可は2023年夏であった。GBD-21に示されたデータは武漢原株対応1価ワクチンが使用された時期のものであり、デルタ株に対する予防効果は十分なものではなかった。すなわち、GBD-21のデータ集積がなされた2021年まででは、その時期の優勢株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)の強い病原性に加え、抗ウイルス薬、予防ワクチンが共に不十分であったこともデータの修飾因子として作用していた可能性を否定できない。

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薬剤コーティングバルーンでステントは不要となるか、不射之射の境地【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第71回

PCI発展の過程急性心筋梗塞や狭心症に代表される冠動脈疾患の治療では、冠動脈の流れを回復させるために冠血行再建が決定的に重要です。その方法として冠動脈バイパス手術(CABG)と、カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)があります。PCIの発展の過程は再狭窄をいかに克服するかが課題でした。再狭窄とはPCIで治療した冠動脈が再び狭くなることです。バルーンのみで病変を拡張していた時代は、再狭窄率が約50%でした。金属製ステント(BMS)が登場してからは約30%まで減少しましたが、それでも高い再狭窄率でした。再狭窄の要因は、ステント留置後に血管内の細胞が増殖しステントを覆ってしまい内腔が狭小化することです。この新生内膜の増殖抑制を治療ターゲットとして薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。当初はステント血栓症などの問題もありましたが、DESの改良が進み再狭窄は劇的に改善されました。現在は、本邦だけでなく世界中でDESを用いたPCIが広く普及しています。「不射之射」皆さんは、「不射之射(ふしゃのしゃ)」という言葉をご存じでしょうか。小生の最も敬愛する作家である中島 敦の作品の『名人伝』に詳しく書かれています。中島 敦(1909~42年)は喘息により33歳という若さで没しています。『山月記』や『李陵』などが代表作ですが、その格調高い芸術性と引き締まった文章が魅力です。「名人伝」のあらすじを紹介します。紀元前3世紀に、中国の都で、天下第一の弓の名人を目指した紀昌(きしょう)という男がいました。伝説の弓の名人である甘蠅老師(かんようろうし)に勝負を挑みに出かけます。そこで、名人に想像を超えた境地を教えられます。弓の名人は、「弓」という道具を使わずに、「無形の弓」によって飛ぶ鳥を射落とすのです。「射之射」とは、弓で矢を射て鳥を撃ち落とすこと、 不射之射とは、矢を射ることなく射るのと同様の結果が得られることです。紀昌は、不射之射を9年かけて会得し都へ帰還します。「弓をとらない弓の名人」となった紀昌は、晩年には「弓」という道具の使い方も、名前すらも忘れてしまうという境地に到達したといいます。野球の川上 哲治氏は「打撃の神様」と言われた強打者で、日本プロ野球史上初の2,000安打を達成しました。全盛期には、ピッチャーの投げたボールが「止まって見えた」と言っていたそうです。このような境地に到達した者を名人と称賛し憧れるのが日本人です。ステントに代わる、薬剤コーティングバルーン(DCB)の登場日本におけるPCIで、注目されているコンセプトがステントレス PCIです。薬剤溶出ステント (DES) を留置するPCIは、冠動脈疾患の治療に革命をもたらし、最も行われている治療法の1つとなっています。しかし、DESは金属性のデバイスであり、その使用により冠動脈内に異物が永続的に留まるという制限があります。これを克服するために登場したのが、薬剤コーティングバルーン(DCB)です。このDCBによる治療は、金属製ステントを使用せず、バルーンに塗布されたパクリタキセルなどの薬剤を血管の壁に到達させて再狭窄を予防するものです。DCBによる、ステントレス PCI のメリットを考えてみましょう。DESを留置した後にはステント血栓症を防ぐため抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が必要ですが、抗血小板薬1剤に比べて出血が増加します。高齢の患者では出血性の合併症が問題となります。DCBで治療すれば、抗血小板薬を減弱化することが可能となります。冠動脈CTによる評価法が普及していますが、金属製ステントがあるとノイズとなり冠動脈ステントの内部がよく見えません。PCI術後に何年か経ってから病変が進行し、CABGや2回目のPCIが必要になった場合には、既存の冠動脈ステントが治療の邪魔になる可能性があります。このような利点もありDCBの使用は増加しています。一方で、金属製ステントの効能の1つである、急性冠閉塞の予防効果がDCBでは期待できないことからリスク増加も懸念されます。DCBは、冠動脈内に異物を残さない治療を実現するもので、このコンセプトを、「leave nothing behind」と呼んでいます。欧米や諸外国においてもDCBを用いたステントレス PCIが話題として取り上げられることはありますが、日本ほど注目されている訳ではありません。日本でステントレス PCIへの議論が高まってきているのは、その背景に「不射之射」を尊ぶ東洋的思想があるように思います。ステントを用いずにPCIを完遂することが、あたかも弓矢を用いずに飛ぶ鳥を射落とすが如く捉えられているのです。冠動脈疾患の予防治療が将来さらに進化して、冠血行再建を必要とする患者がゼロとなり、CABGやPCIという道具や手技の名前を忘れてしまうという、「紀昌」の境地までに到達する日を夢みております。

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最新ガイドライン準拠 小児科診断・治療指針 改訂第3版

専門領域を踏破する小児科診療のスタンダードを強力アップデート専門分野エキスパート370名の編集・執筆による小児科主要領域350テーマから成る全訂版。他科に比べエビデンスが不足している場面に遭遇することが多い小児科診療で、ガイドラインによる科学的根拠と専門医の経験を融合させた実践的な診断・治療指針。医学・医療の進歩とともに細分化・複雑化する小児科専門30領域を正確かつ簡潔にまとめ、処方例・実践例を挙げて紹介。自施設で対応できることを見極め、他施設・他科と協働するための新しい知識とスキルを提供。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する最新ガイドライン準拠 小児科診断・治療指針 改訂第3版定価30,250円(税込)判型B5判(並製)頁数1,216頁(写真・図・表:1,200点)発行2024年4月総編集加藤 元博(東京大学 教授)ご購入はこちらご購入はこちら

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第209回 これぞ財務省の執念? 財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も

武見厚労相に続き、財務省が医師偏在対策提案こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2020年シーズンからMLBや傘下の3Aなどで奮闘していた筒香 嘉智選手が横浜DeNAベイスターズに帰ってきました。コロナ禍の真っ只中、秋山 翔吾選手と同時期に米国に渡った筒香選手ですが、複数のチームを渡り歩いた後、MLBから陥落、その後なかなか芽が出ませんでした。約2年で見切りを付けて帰国した秋山選手と対照的に米国に留まり続けましたが、今年の春もどこからも声が掛からず、帰国を決断したとのことです。日本で“一流”と言われても、MLBで野手(打撃)として通用することがいかに難しいかを改めて教えてくれました。一方、同じベイスターズから今年シカゴ・カブスに入団した今永 昇太投手は今のところ絶好調です。4月22日現在、3勝でナショナルリーグでは防御率0.84とトップ、勝率も1位です。鳴り物入りでオリックス・バファローズからロサンゼルス・ドジャースに入団した山本 由伸投手が5度の登板を終えてわずか1勝防御率4.50と苦戦中なのとは対照的です。このまま行けば、ある意味ダークホースだった今永投手のオールスター出場もありそうです。また、東北楽天ゴールデンイーグルスからサンディエゴ・パドレスに移籍した松井 裕樹投手も中継ぎながら既に2勝しています。こうした日本人選手の活躍の濃淡は適応力の違いなのでしょうか。とても興味深いです。さて、今回は4月16日に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会で財務省が示した、医師の地域偏在解消の方策案について書いてみたいと思います。先週の本連載では、武見 敬三厚生労働大臣が、医師偏在解消に向けて厚労省内に検討チームの設置を指示したと書いたばかりです。今度は財務省からの医師の偏在対策の提案です。まるで各省が示し合わせているようで少々気味が悪いです。診療科別、地域別の定員が設けられているドイツ、フランスを参考に新規開業に規制を設けよ4月16日に開かれた財政制度等審議会の財政制度分科会は、春恒例の国の財政運営に関する提言(いわゆる「春の建議」)の取りまとめに向けて議論を行うものです。この日のテーマは「こども・高齢化」でした。その中で財務省は医師数の適正化と偏在対策に言及し、「2030年頃には医師の供給過剰になると見込まれており、全体の人口減少に対応した医学部定員の適正化が必要」とするとともに、「あわせて、『改革工程』(2023年12月22日に閣議決定された「全世代社会保障構築を目指す改革の道筋」)に基づき、医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在是正に向けた強力な対策を講じる必要」があるとしました。とくに偏在対策については、「人口10万人当たりの無床診療所の数は特別区(東京23区)が112.5で、全国平均は78.2にとどまり、1.4倍の開きがある」などと、医師・診療所の地域的な偏在を数値で紹介、日本と同様に公的医療保険制度をとるドイツやフランスでは診療科別、地域別の定員が設けられているとして、こうした仕組みを参考に、新規開業に規制を設けることを提案しました。さらに、全国一律に1点10円となっている診療報酬に地域別の単価を設定し、医師が過剰な都市部で引き下げ、医師が足りない地域にはより手厚くするといった経済的インセンティブ措置の実施も提案しました。財務省が診療報酬の地域別単価導入を最初に提案したのは6年前、2018年4月財務省が、医師過剰地域における開業規制の提案をするのは今回の分科会が初めてのことですが、診療報酬への地域別の単価導入については2023年11月1日に開かれた財政制度等審議会の財政制度分科会でも提案しています。地域別の単価導入については、本連載の「第188回 診療報酬改定シリーズ本格化(後編)」で詳しく書きましたが、もはや財務省の“執念”と言ってもよさそうです。財務省が最初に地域別の診療報酬を公の場で提言したのは今から6年前、2018年4月の財政制度等審議会・財政制度分科会でした。この時財務省は医療政策における都道府県の権限が強化されつつある流れを受け、「地域別診療報酬を柔軟に活用するための枠組みを国として整備すべきだ。活用を検討する都道府県も現れている」としました。この時「活用を検討している」とされたのは奈良県で、そのスキームを考えたのが当時、財務省から出向し奈良県副知事を務めていた一松 旬氏、現在の首相秘書官です(「第179回 驚きの新閣僚人事、武見厚労相は日医には大きな誤算?“ケンカ太郎”の息子が日医とケンカをする日」参照)。地域別の診療報酬は、法律的には今でも実現可能です。「高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)」の14条に規定があり、厚生労働大臣が都道府県知事と協議した上で都道府県別の診療報酬の単価を設定することができる、となっているからです。しかし、これまでのところ活用した都道府県はありません。昨秋に続き、今回の財政制度等審議会の財政制度分科会でも地域別の診療報酬を提案したということは、財務省はそろそろどこかの県で実現させたいと考えているのでしょう。個人的には、地方の診療報酬単価を1円や2円上げたところで人口減、患者減が急速に進んでいる状況では「ここで開業しよう」という流れにはならないと思うのですが、皆さんいかがでしょう。日医・松本会長は「診療所の過不足の状況に応じて診療報酬を調整する仕組みは極めて筋の悪い提案」と批判財務省の地域別の診療報酬の提案に対し、日本医師会はすぐさま反対の姿勢を見せました。松本 吉郎会長は4月17日の記者会見で、「わが国では、国民皆保険である公的医療保険制度の下、誰もが、どこでも、一定の自己負担で適切な診療を受けられることを基本的な理念とし、診療報酬について、被保険者間の公平を期す観点から、全国一律の点数が公定価格として設定されている」と話し、この制度を今後も維持していく姿勢を示しました。そして、「診療所の過不足の状況に応じて診療報酬を調整する仕組みは、わが国の人口分布の偏りに起因するものを、あたかも医療で調整させるような極めて筋の悪い提案だ」と語りました。なお、この日の記者会見で松本会長は、武見厚労相が地域ごとに医師の数を割り当てることなど、“規制”を含め前例にとらわれない対策を検討する考えを示したことについて、「課題としては非常に重く受け止めている。ただし、人口減少とか偏在の問題を、医療の枠の中だけで解決するのはなかなか難しい」と述べたとのことです。武見厚労相の“規制”導入発言は、偏在対策の議論において厚労省が財務省や文科省よりも優位に立ちたいという意思表示か?ところで、文部科学省も4月18日に開催された「今後の医学教育の在り方に関する検討会」(座長:永井 良三・自治医科大学学長)で、特定地域への医師の偏在解消を図るために、医学部卒業後に大学が設置するプログラムを履修させる「大学特別枠(入学者選抜枠)」を新たに設ける試案を出しています。武見厚労相は、政府が毎年6月にとりまとめる「骨太の方針」に大きな方向性を盛り込み、年末までに具体的な方向性を提示する考えを示しています。財政審や文科省に先手を打つ形で医師偏在解消に前向きな姿勢を見せることで、偏在対策の議論において、厚労省が財務省や文科省よりも優位に立ちたいという意思表示だったのかもしれません。それは、うがった見方をすれば、財務省が提案するドラスティックな改革案には与しない、ということかもしれません。なお、武見厚労相は財務省の地域別診療報酬の提案について、4月19日の閣議後の会見で「診療所不足地域の患者の自己負担が過剰地域より高くなるような対応は、 患者の理解を得られるのかという課題がある」と慎重な姿勢を示したとのことです。いずれにせよ、医師の地域偏在、診療科偏在対策は、これからの医療制度改革に大きな目玉になるでしょう。議論の行方に注目です。

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精神疾患患者の不眠症と外来継続率との関連

 睡眠は、身体的および精神的な健康を維持するうえで重要な役割を果たしている。精神科を受診する外来患者は、不眠症を呈していることが多いが、各精神疾患における不眠症と抑うつ症状との関連は、依然として不明なままであった。また、不眠症と外来治療継続との関係についての研究も十分とはいえない。昭和大学の鎌田 行識氏らは、さまざまな精神疾患患者における抑うつ症状と不眠症には強い相関があると仮説を立て、不眠症が外来受診の継続率に及ぼす影響を評価した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2024年3月27日号の報告。 対象は、2021年6月~2023年3月に昭和大学病院附属東病院の精神神経科外来を初めて受診し、1年間継続して外来受診した患者。臨床的特徴の評価には、うつ病自己評価尺度(SDS)およびアテネ不眠症尺度(AIS)を用いた。精神神経科受診外来患者の不眠症状と抑うつ症状を初診時および1年後に評価した。また、不眠症と関連する因子および外来治療継続率に関連する因子についても検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1,106例のうち、70%以上が初診時に不眠症を呈していることが明らかとなった。・1年間外来治療が継続した患者は137例であり、AISスコアが9ポイントから5ポイントに改善がみられた。・多変量解析では、抑うつ症状と不眠症のSDS項目がAIS改善に影響を及ぼす交絡因子であることが示唆された。 著者らは、「精神科を初めて受診した患者の70%は不眠症を呈していた。また、1年間外来治療を継続した患者は12.4%にとどまることが明らかとなった。外来治療を継続していた患者の多くは睡眠状態が改善したことを考慮すると、外来受診の継続は睡眠状態改善の重要な決定因子であることが示唆される」としている。

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急性冠症候群へのPCI、血管内超音波ガイド下vs.血管造影ガイド下/Lancet

 急性冠症候群患者に対する最新の薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)において、血管造影ガイド下と比較して血管内超音波ガイド下では、心臓死、標的血管心筋梗塞、臨床所見に基づく標的血管血行再建術の複合アウトカムの1年発生率が有意に良好であることが、中国・南京医科大学のXiaobo Li氏らが実施した「IVUS-ACS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年4月8日号に掲載された。4ヵ国58施設の無作為化臨床試験 IVUS-ACS試験は、4ヵ国(中国、イタリア、パキスタン、英国)の58施設で実施した無作為化臨床試験であり、2019年8月~2022年10月に患者の登録を行った(Chinese Society of Cardiologyなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上の急性冠症候群患者3,505例(年齢中央値62歳、男性73.7%、2型糖尿病31.5%)を登録し、血管内超音波ガイド下PCIを受ける群(1,753例)、血管造影ガイド下PCIを受ける群(1,752例)に無作為に割り付けた。1年間の追跡を完了したのは3,504例(>99.9%)であった。 主要エンドポイントは標的血管不全とし、無作為化から1年時点における心臓死、標的血管心筋梗塞、臨床所見に基づく標的血管血行再建術の複合の発生と定義した。心臓死には差がない、安全性のエンドポイントは同程度 主要エンドポイントの発生は、血管造影ガイド群が128例(7.3%)であったのに対し、血管内超音波ガイド群では70例(4.0%)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.41~0.74、p=0.0001)。 心臓死(血管内超音波ガイド群0.5% vs.血管造影ガイド群1.1%、HR:0.56[95%CI:0.24~1.29]、p=0.17)には有意差を認めなかったが、標的血管心筋梗塞(2.5% vs.3.8%、0.63[0.43~0.92]、p=0.018)と標的血管血行再建術(1.4% vs.3.2%、0.44[0.27~0.72]、p=0.0010)は血管内超音波ガイド群で有意に優れた。 1年の追跡期間中、安全性のエンドポイントの発生率は両群で同程度であった。ステント血栓症(definite、probable)(血管内超音波ガイド群0.6% vs.血管造影ガイド群0.9%、HR:0.82[95%CI:0.35~1.90]、p=0.64)、全死因死亡(0.8% vs.1.5%、0.64[0.32~1.27]、p=0.20)、大出血(0.9% vs.1.5%、0.57[0.30~1.08]、p=0.09)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。 著者は、「血管内超音波ガイドは安全であったが、手技の所要時間が長くなり、必要な造影剤がわずかに多かった。これは、早期および晩期における心臓の重大な有害事象のリスクが低いこととのトレードオフとしては許容範囲内であった」としている。

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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ホモ接合体家族性高コレステロール血症治療薬、エヴキーザ発売/ウルトラジェニクス

 Ultragenyx Japan(ウルトラジェニクスジャパン)は2024年4月17日付のプレスリリースで、ホモ接合体家族性高コレステロール血症(HoFH)に対する治療薬「エヴキーザ点滴静注液345mg(一般名:エビナクマブ[遺伝子組換え]、以下エヴキーザ)」の販売を同日より開始したことを発表した。 HoFHは、きわめてまれな遺伝性疾患であり、重度の高コレステロール血症(血清総コレステロール値450mg/dL超)により、早発性の心血管系疾患や未治療の患者における若年死亡を引き起こすことがある。わが国では、HoFHは指定難病の1つとされ、2022年度の特定医療費(指定難病)受給者証保持者数は全国で398例と報告されている1)。 HoFHに対しては食事療法、LDLアフェレーシスや脂質低下薬による治療が行われるが、現在の治療法では効果が不十分な場合も多く、新たな治療選択肢が求められていた。 このたび、新たなHoFH治療薬として登場したエヴキーザは、脂質代謝において重要な役割を果たすタンパク質であるアンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)※に結合し、その機能を阻害する初めての遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体である。本剤はLDL受容体の有無と関係なくLDL-C値を低下させる。 本剤の発売について、大阪医科薬科大学 循環器センター特務教授の斯波 真理子氏は、「この難治性疾患を持つ私の患者で他の患者や家族の声を代弁する立場の方は、“HoFH患者の中には、日々の治療の負担に苦しみ、また治療の効果が十分に現れていない方も少なくない。より良い治療に向けて選択肢が増えることは、患者にとって大きな希望になる”と期待を寄せている」と述べた。※ANGPTL3は肝臓で合成される血中タンパク質で、リポタンパクリパーゼ(LPL)および血管内皮リパーゼ(EL)を阻害することにより脂質代謝の調節に重要な役割を果たす。

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短時間睡眠は糖尿病ハイリスク

 睡眠時間が6時間未満の人は、たとえ健康的な食習慣であったとしても、2型糖尿病の発症リスクが高いことを示すデータが報告された。ウプサラ大学(スウェーデン)のChristian Benedict氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に3月5日掲載された。論文の上席著者である同氏は、「われわれの研究は、睡眠不足による2型糖尿病発症リスクの増大を健康的な食習慣によって抑制可能かという視点で行った、初めての研究だ」としている。 この研究には、英国の一般住民対象の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータが用いられた。24万7,867人(平均年齢55.9±8.1歳、女性52.3%、BMI26.6±3.7、HbA1c5.4±2.5%)の睡眠時間および食習慣と2型糖尿病発症リスクとの関連を検討した。睡眠時間については7~8時間の群(全体の75.5%)、6時間の群(19.8%)、5時間の群(3.9%)、3~4時間の群(0.8%)という4群に分類。食習慣については、赤肉、加工肉、果物、野菜、魚の摂取量に基づき、0点(最も非健康的)から5点(最も健康的)の範囲にスコア化した。 中央値12.5年(四分位範囲11.8~13.2)の追跡期間中に、3.2%が2型糖尿病と診断されていた。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、血圧、教育歴、社会経済的状況など)を調整後、睡眠時間が7~8時間の群に比べて、5時間〔ハザード比(HR)1.16(95%信頼区間1.05~1.28)〕や3~4時間〔HR1.41(同1.19~1.68)〕の群では2型糖尿病発症リスクが有意に高いことが確認された(6時間の群は非有意)。また、食事スコアが高い群は2型糖尿病発症リスクが低かった〔0点と比較し4点はHR0.82、5点はHR0.75(1~3点は非有意)〕。 次に、食習慣の影響を検討するために、食事スコアが0~3点の群(54.0%)と4~5点の群(46.0%)に二分した上で解析。すると、食事スコアの高低にかかわらず、短時間睡眠の人は2型糖尿病発症リスクが有意に高いことが明らかになった。具体的には、睡眠時間が5時間の場合、食事スコアが低く非健康的な食習慣の群ではHR1.16(1.02~1.31)、スコアが高く健康的な食習慣の群ではHR1.17(1.00~1.37)であり、睡眠時間が3~4時間の場合は同順にHR1.39(1.11~1.73)、HR1.46(1.10~1.93)だった。 この結果についてBenedict氏は、「本研究は因果関係を証明可能なデザインで行われておらず、睡眠時間が少ないことが糖尿病発症リスクを高めると断定することはできない。睡眠時間が短い人が糖尿病のことを心配してパニックになる必要はない」と述べている。同氏によると、最適な睡眠時間は人によって大きく異なり、かつ2型糖尿病発症リスクは遺伝的な背景の影響が少なくないとのことだ。その上で、「われわれの研究結果は、睡眠が健康に対して重要な役割を果たしている事実を、改めて示したものと理解すべきだ」と付け加えている。

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認知症患者と介護者にとって重要なのは社会的なつながり

 認知症患者とその介護者が健康を保つためには活発な社会生活が必要であるが、認知症患者もその介護者も、患者の認知症が進行するにつれて社会的なつながりが失われていくことが、新たな研究で明らかにされた。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部のAshwin Kotwal氏らによるこの研究の詳細は、「The Gerontologist」4月号に掲載された。 Kotwal氏は、「社会的なアンメットニーズは生活の質(QOL)に悪影響を及ぼし、うつ病や心血管疾患などの健康問題を引き起こし、医療費の増加や早期死亡につながる可能性がある」と述べる。そして、「先行研究では、社会的孤立度が高い高齢者は、介護施設に入所するオッズが2倍以上になることが示されている」と説明している。 この研究では、認知症患者26人、現介護者33人、および介護相手を亡くした元介護者15人に対する半構造化面接のデータの二次解析が行われた。認知症患者の平均年齢は80歳(範囲67〜94歳)、介護者の平均年齢は67歳(範囲40〜87歳)だった。 データの解析により、三つの主要なテーマが特定された。一つ目は、認知症患者もその介護者も、患者の病気が進行して全体的なウェルビーイングと支持的な資源(何らかの目標や活動を支援するための資源や手段)の活用能力に影響が及ぶにつれ、社会的なつながりを失っていくことである。例えば、患者の記憶力が衰え会話が困難になるにつれ、患者の家族や友人は、患者の存在に不快感や戸惑いを感じることが増え、その結果、社会的なつながりは弱体化していった。また、患者の配偶者や成人の子どもなどの介護者は、患者に対する責任の増大に伴い孤立度を高めていた。二つ目は、認知症患者の認知機能と身体機能の悪化に伴い患者と介護者の関係性が崩壊し、それが介護者に孤独感と喪失感をもたらしていること。三つ目は、介護者が患者と共有できる社会的な活動を積極的に行ったり、介護者の負担に対処するプログラムに参加するなどの適応戦略を活用していることである。 研究グループは、「これらの結果から示唆されるのは、患者と介護者の双方に孤独と孤立についてのスクリーニングを定期的に行い、医師が、患者と介護者が社会的なつながりを維持する方法を見つけられるようにするべきだということだ」と述べている。 論文の上席著者である、UCSFグローバル・ブレイン・ヘルス・イニシアチブのKrista Harrison氏は、「患者とその介護者がそれぞれ別個に参加する支援グループは、ストレスを減らして楽しめる社交の場となり、また、助言を得る場となる可能性がある」と話す。 またHarrison氏は、「臨床医は、認知症患者とその介護者のために作られた地域合唱団のような選択肢について話し合うべきだ」と主張し、「先行研究では、認知症が進行しても有意義な活動を楽しむことができることが示されている。例えば、教会での礼拝への参加を、自宅でのZoom(ズーム)を通じた小規模な集まりへの参加に変更するような、簡単な適応方法が考えられる可能性がある」と話している。 なお、本研究結果は、UCSFの研究者らが実施した、片方の配偶者が認知症である夫婦を対象にした最近の研究結果と一致するという。その研究では、認知症のパートナーと親密な関係性を築いていた人は、配偶者の認知症発症により、発症前より孤独感が高まったが、結婚生活がうまくいっていない人では、うつ病や孤独感を抱えている人の割合は全体的に高かったものの、配偶者の認知症の発症はそれに影響を与えていないことが示されていた。 Kotwal氏は、「良い夫婦関係やパートナーシップを築き、それを維持するために力を注いでいる人は、パートナーの一方が認知症になったときに失うものが大きい。これに対し、夫婦の質が低い人は、孤独やうつ病から守ってくれる結婚生活からの感情的な支えをすでに失っているのだ」と話している。

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