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帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第17回

ワクチンで予防できる疾患帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染後、脊髄後根神経節、脳神経節に潜伏感染しているVZVが再活性化によって、支配神経領域に疼痛を伴う水疱が集簇して出現する疾患である。合併症として発症後3ヵ月以上にわたり痛みが持続する帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)のほかに髄膜炎、脳炎、ラムゼイ・ハント症候群といった生命の危険や神経学的後遺症を来す疾患が知られている。国内で実施されている大規模疫学調査にて、1997~2020年の間で帯状疱疹は年々増加傾向を認め、罹患率は50代から上昇し、70代(2020年度10.45/千人・年)でピークを示した。別の調査では、50歳以上の帯状疱疹患者の19.7%がPHNを発症し、年齢別では80歳以上で32.9%と高齢になるほど発症しやすい傾向を認めた。ワクチンの概要帯状疱疹ワクチン接種の目的は、「帯状疱疹発症率を低減させ、重症化を予防すること」である。国内で2つのワクチンを使用することができるので表に概要を示す。表 帯状疱疹ワクチンの概要画像を拡大する2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象となった。接種の対象者は、以下に該当する方である。65歳を迎える方60~64歳で対象となる方(※1)2025~29年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となられる方※1ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方※2100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となる。帯状疱疹発症、年齢以外のリスク因子帯状疱疹は、前述した年齢のほかに罹患率を上げるリスクが知られている。HIV/AIDS(相対リスク[RR]3.22)、悪性腫瘍(RR2.17)、SLE(RR2.08)などの免疫不全疾患だけではなく、慢性疾患としての心血管疾患(RR1.41)、COPD(RR1.41)、糖尿病(RR1.24)。他にも精神的ストレス(RR1.47)、身体的外傷(RR2.01)、家族歴(RR2.48)もリスク要因としてあげられる。リスク因子のある方に帯状疱疹が発症した場合は、生命を脅かす疾患となってくるため、ワクチン接種を推奨する意義は高い。免疫不全状態では、生ワクチンは接種不適当であり、シングリックスが推奨される。今後の課題・展望2025年4月からすべての国民で65歳時以降に定期接種として帯状疱疹ワクチンを接種する機会を得ることになった。喜ばしいことではあるが、任意接種としてでも接種を勧めたい対象者が65歳まで接種を待ってしまう可能性が出てくる。前述した高リスク群の方々(とくに免疫不全疾患)には、定期接種を待つことのデメリットを伝え、適切な時期に接種を勧めることも重要である。近年、帯状疱疹と水痘の流行様式に変化がみられる。2014年に小児水痘ワクチンが定期接種となり、水痘患者数の減少と罹患年齢の上昇傾向がある。水痘は罹患年齢が上がるほど重症化する。妊婦が水痘に罹患すると流産や先天性水痘症候群になるリスクがある。接種率の低い任意接種期間でかつ低年齢期に水痘に罹患しなかった若者が、重症化リスクの高い年齢になってきている。2021年9月の国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)の報告によると入院水痘患者は成人割合が71.2%となっており、もはや水痘は麻疹風疹と同じく成人疾患として重要になりつつある。留意すべきは感染経路であり、水痘感染源として帯状疱疹の割合が増加傾向を認める。増加する帯状疱疹患者から重症水痘患者を発生させないためには、小児期に水痘に罹患せずかつ水痘ワクチン接種も受けていない若者に対する水痘ワクチンのキャッチアップ推奨と中高齢者に対しては今後も帯状疱疹ワクチンを推奨していくことが、今後しばらくの間のVZV感染症対策として必要である。参考となるサイト1)帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版2)こどもとおとなのワクチンサイト 帯状疱疹ワクチン3)乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」添付文書4)シングリックス筋注用 添付文書5)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化~感染症発生動向調査より・2021年第26週時点~講師紹介

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足の親指が腫れて痛みます【漢方カンファレンス2】第2回

足の親指が腫れて痛みます以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代男性主訴左母趾の痛み既往高血圧、高尿酸尿症、痛風発作病歴数日前から左母趾に違和感があった。1日前から腫れて痛みを伴うようになったため手持ちのNSAIDsを内服したが痛みがつらく、歩行困難が続くため発症から2日目に受診した。現症身長162cm、体重75kg。体温36.8℃、血圧140/80mmHg、脈拍70回/分 整。左母趾に熱感・腫脹あり。経過初診時ロキソプロフェン錠60mg 3錠 分3を継続し、「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2日後腫れがひいて、痛みは半分程度まで軽減した。5日後痛みはほとんどなくなって普通に歩けるようになった。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 入浴ではお湯に長く浸かりますか? 暑がりです。 冷えの自覚はありません。 長風呂ではありません。 患部に熱感を感じますか? 冷水で冷やすと痛みはどうですか? 入浴で温めるとどうですか? 左母趾を中心に体全体が熱っぽいです。 冷ますと痛みが楽です。 あまりお風呂で温めたくありません。 <飲水・食事> のどが渇きますか? 冷たい飲み物と温かい飲み物のどちらを飲みたいですか? 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃腸は弱いですか? のどが渇いて冷たい水が飲みたいです。 1日およそ1.5L程度です。 食欲はあります。 もともと胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はかいていますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 便秘や下痢はありませんか? 少し汗ばみます。 尿は1日4〜5回です。 夜間にトイレは行きません。 毎日、形のある便が出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 足がむくみませんか? 倦怠感はありませんか? 足はつりませんか? 足の痛みでよく眠れません。 左足が腫れてむくみっぽいです。 倦怠感はありません。 足はつりません。 ほかに困っている症状はありますか? 困っているのは足の痛みだけです。腫れているので靴が履けません。 【診察】顔色はやや紅潮。脈診ではやや浮・やや強の脈。また、舌は乾燥した白黄苔が中等量、舌下静脈の怒張あり、腹診では腹力は中等度より充実、腹直筋の緊張を認めた。皮膚は発汗し湿潤傾向で、患部は紅斑・腫脹・熱感があった。カンファレンス 今回の診断は既往にもある痛風発作ですね。NSAIDsを内服しているので標準的治療はすでに行っています。アレルギーや消化性潰瘍などのためNSAIDsが用いにくい場合はプレドニゾロンという選択肢もあります。 痛風発作の治療は現代医学的な治療で十分でしょう…と思いたくなりますね。とはいえここは漢方カンファレンス、痛風発作を漢方だけで治療というわけにはいきませんが、漢方薬の併用も考えていきましょう。さあ、漢方診療のポイントに沿ってみていきましょう。 漢方診療のポイント(1)の病態の陰陽は、暑がり、体熱感があり、冷水を好む、患部にも熱感があることなどから陽証です。 今回のような急性疾患では慢性疾患より陰陽の判断がわかりやすいね。一般的に病気の発症初期は、熱が主体の陽証で始まることが多いといえるよ。ただし急性の腰痛などで、温めたほうが気持ちがよいという場合は陰証の場合もあるから注意が必要だね。 漢方診療のポイント(2)の虚実は闘病反応の程度だからわかりやすいですね。今回のように患部の局所反応が盛んな症例は闘病反応が充実していると考えて、実証と考えてよいでしょう。 今回の症例は、暑がり、冷えの自覚なし、冷水を好む、患部の熱感などから陽証、さらに局所反応も熱感や腫脹がありますし、脈:やや強、腹力:充実と実証ですね。 そうですね。さらに冷水で冷ますと痛みが楽というのも前回の症例の「入浴で温めると楽になる痛み」とは逆で陽証ですね(陽証については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。現代医学的にも、足関節捻挫で、氷で冷やしたり、冷湿布を貼ったりして治療します。足関節捻挫の急性期にお風呂で温めても楽にはならないですね。 前回の帯状疱疹後神経痛と同じく足関節捻挫もよい例だね。局所の炎症反応は時間の経過とともに消退して、古傷になると熱感や腫脹はなくなるけど冷えると悪化するなどという特徴が出てくれば、陰証・虚証になっていくとイメージできるね。 漢方治療では同じ足関節捻挫でも、陰陽に応じて治療が変わるのが特徴です。冷湿布を使うか、温湿布を使うかのイメージでしょうか。 そうだね。どちらの湿布を貼りたいかという情報も陰陽の判断に使えるかもね。ただし温湿布は皮膚がかぶれてしまう人が多いから、漢方で温めた方がよいよね。 症例に戻りましょう。陽証・実証まで確認できました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうですか? 患部の腫脹や下肢の浮腫は水毒です。舌下静脈の怒張があるので瘀血です。食欲不振や倦怠感はないので気虚はないようです。 尿の回数が4〜5回/日と少なめなことは尿不利、口渇があることも水毒としてよいでしょう。 今回の症例をまとめよう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?顔面やや紅潮、暑がり、冷水を好む、患部の熱感→陽証(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:やや充実、強い局所反応→実証(3)気血水の異常を考える尿不利・口渇、患部の腫脹・下肢浮腫→水毒、舌下静脈の怒張→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む局所の熱感・腫脹解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証で熱と水毒に対応する越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)で治療しました。【解説】越婢加朮湯は、関節の紅斑・腫脹・熱感が使用目標になります。越婢加朮湯には麻黄(まおう)、石膏(せっこう)、朮(じゅつ)が含まれ、熱を冷ましながら浮腫を改善させる作用(清熱利水[せいねつりすい]作用)があります。石膏を含むため、自汗傾向・口渇などの自覚症状も使用目標です。陽証・実証の水毒に対する漢方薬で、体表面を主とする水毒、体内に熱がこもった状態と考えて六病位では太陽病〜少陽病に分類されます。本症例のような急性関節炎、蜂窩織炎、帯状疱疹などに歴史的に活用されており、膝関節炎に用いた症例1)やNSAIDsが無効、または投与困難な急性腰痛症やcrowned dens syndromeなどの整形外科の疼痛性疾患に対して越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の併用が有効であった2)とする症例報告があります。使用上の注意点として、麻黄が含まれることから胃弱、虚血性心疾患の既往、前立腺肥大など尿閉のリスクがある場合は慎重投与です。今回のポイント「陽証」の解説漢方治療では生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式について、熱性の病態を「陽証」、寒性の病態を「陰証」の2型に分類します。寒熱のほか、陽証では活動性、発揚性、陰証では非活動性、沈降性などの特徴があります。大まかに寒熱≒陰陽と考えてよいですが、一般的に寒熱は局所の病態を表し、陰陽では体全体の性質を総合的に判断します。一方、病因と生体の闘病反応の程度・病態の充実度を虚実とよびます。闘病反応が充実している場合を実証、闘病反応が乏しい病態が虚証です。主に虚実は脈や腹壁の反発力・緊張度により判定しますが、本症例のように局所反応の程度も参考になり、患部の熱感や腫脹などの局所の炎症が強い場合も実証を示唆します。陽証は、太陽病、少陽病、陽明病の3つに分類でき、病位は、太陽病が体表面の表(ひょう)、陽明病では裏(り)、少陽病はその中間の半表半裏(はんぴょうはんり)になります。一方、陰証の太陰病・少陰病・厥陰病ではすべて病位は裏になります。陽証では体力も充実していることから実証となりやすい傾向にありますが、体力が低下して闘病反応が弱い陽証・虚証の漢方薬も数多く存在します。陽明病は、熱の極期で闘病反応が充実していることから実証のみになります。今回の鑑別処方越婢加朮湯以外にも陽証の関節・皮膚疾患に用いる漢方薬を紹介します。越婢加朮湯よりもややマイルドな作用の桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)は長期投与に向きますが、エキス剤がないため桂枝湯と越婢加朮湯で代用します。黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は浮腫や腫脹(水毒)が目立たず、熱感と暗赤色の紅斑が主体の皮膚疾患に適応になります。柴苓湯(さいれいとう)は、小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を組み合わせた漢方薬で、抗炎症作用と利水作用をもちます。少陽病ですから体表面より少し病気が侵入した場合に用いるのが典型ですが、蕁麻疹やリンパ浮腫に対してしばしば使用されています。麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、石膏が含まれず、清熱作用は弱くなりますが、利水作用をもつ薏苡仁(よくいにん)が含まれ、熱感や腫脹があまり目立たない関節痛や筋肉痛に用いられます。本症例も時間が経過して局所反応が軽減したものの痛みが持続する場合は麻杏薏甘湯の適応になるでしょう。また麻杏薏甘湯は経験的に疣贅や頭のフケなどの皮膚疾患にも使用されます。薏苡仁湯(よくいにんとう)はさらに慢性化した関節痛や筋肉痛に適応となります。足底腱膜炎やアキレス腱炎など筋腱の痛みによいとされます。さらに皮下出血を認める打撲や局所の血流障害を伴う場合は瘀血と考えて治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を用いる、もしくは併用する場合もあります。 1) 星野綾美 ほか. 日東医誌. 2008;59:733-737. 2) 福嶋祐造 ほか. 日東医誌. 2019;70:35-41.

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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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第249回 医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省

<先週の動き> 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省医療事故調査制度の施行から10年を迎え、厚生労働省は6月27日、「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を設置し、初会合を開いた。制度は、患者の予期せぬ死亡事例の原因を調査・分析し、再発防止に資することを目的として2015年に開始され、これまでに3,338件の報告がなされている。会合では、横浜市立大学病院が取り組む重大事例への会議体での分析と改善策検討の事例が紹介され、座長には中央大学の山本 和彦教授が就任した。一方で、地域医療を担う診療所における医療安全体制の遅れも明らかとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会の調査では、医療安全指針の策定は53%、インシデントレポート件数は年間10件未満が約65%と、体制未整備や過少報告の実態が浮かび上がった。教育機会や外部支援体制の不足、データ活用の課題も指摘されており、安全文化の定着には支援強化が不可欠とされる。検討会では、生成AIを活用した好事例の抽出や標準モデルの提示、医学生・研修医への安全教育の強化、遺族の声の反映などが論点として挙げられた。また、医療安全対策加算や地域連携加算の届出施設数は年々増加しているが、中でも事故リスクが高い集中治療室や内視鏡手術に対しては、届出要件の厳格化も進められている。国は今秋を目途に施策の方向性を取りまとめ、医療安全体制の標準化と格差是正、とくに診療所や中小病院の支援策に向けた制度的整備を進める構えだ。 参考 1) 第1回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(厚労省) 2) 患者の予期せぬ死亡の原因探る 医療安全施策の課題解決へ 厚労省検討会が初会合(産経新聞) 3) 診療所にも義務付けられている医療安全確保のための指針、約5割が作成せず(日経メディカル) 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会百日咳の全国的な流行が深刻化している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2025年第24週の報告患者数は2,970人で、過去最多の前週に次ぐ規模。累計では前年の約8倍に達し、東京都では第25週に278人が報告され、3週連続で過去最多を更新している。とくに10~19歳の患者が多く、乳幼児にも拡大している。日本小児科学会はワクチン未接種の生後2ヵ月未満児への感染防止を呼び掛け、感染症対策の徹底とマクロライド耐性菌(MRBP)を想定した治療体制の整備を求めている。また、MRBPによる重症例や死亡例も確認されており、医療機関にはST合剤使用などを含む柔軟な対応が求められている。百日咳は飛沫・接触感染を介し、咳が数ヵ月持続することもあり、新生児や乳児では重篤化しやすい。2023年以降は世界的にも流行が拡大しており、コロナ禍による集団免疫の低下や感染対策の緩和が要因とされる。また、妊婦へのワクチン接種も感染予防の有効策として注目されている。海外では成人用百日咳ワクチンの妊娠中接種による乳児重症化予防の効果が報告されており、わが国でも小児用3種混合ワクチンの使用で抗体移行が期待できる。産婦人科専門医らは、妊娠27~36週の接種を推奨しており、家族全体での予防接種の重要性が増している。百日咳の今後の動向には警戒が必要であり、医療従事者には迅速な診断、耐性菌への備え、ワクチン啓発の三本柱による対策が求められている。 参考 1) 生後2ヵ月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について(日本小児科学会) 2) 生後2ヵ月未満の百日咳、感染対策の徹底呼び掛け 全国的な流行拡大止まらず 日本小児科学会(CB news) 3) 百日咳の報告数、微減も過去2番目の2,970人-累計は昨年の約8倍 JIHS公表(同) 4) 都内の百日咳報告数、3週連続最多の278人 前週比2割増、累計もワーストに迫る(同) 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城茨城県が2023年12月から導入した、緊急性の低い救急搬送患者から「選定療養費」を徴収する制度について、導入半年の徴収率はわずか約4%に止まった。一方、県内の「軽症など」による救急搬送は前年同期比で1割以上減少し、県は制度に一定の効果があったと評価している。主な徴収対象は腰痛や風邪症状などで、県の救急電話相談利用も増加した。救急要請に慎重になる傾向もみられ、とくに学校現場では、保護者への負担や判断責任をめぐる混乱が生じている。水戸市やつくば市では、生徒の軽症搬送で選定療養費が徴収され、教職員の間で救急要請をためらう事態も発生している。これを受け県は「緊急性が疑われる場合はためらわず救急車を」と繰り返し呼びかけている。相談で搬送助言があれば徴収は原則免除されるが、制度周知は不十分との指摘もあり、県はホームページなどを通じて説明強化に乗り出した。議会や市民団体からは、教育現場を徴収対象から除外するよう求める意見書や陳情も出されているが、県は現時点で除外の考えはないとしている。今後、熱中症搬送の増加も想定される中、制度の適正運用と現場支援の両立が問われている。 参考 1) 選定療養費 徴収率4% 茨城県内開始半年 軽症等搬送1割減(茨城新聞) 2) 選定療養費 学校、救急要請で苦慮 茨城県「緊急時 迷わずに」(同) 3) 「選定療養費」茨城県 “救急電話相談で助言あれば徴収ない”(NHK) 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省厚生労働省は6月23日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、2040年に向けたがん医療の需給推計と、均てん化・集約化の方針案を提示した。推計によれば、がん患者数は大都市部を中心に増加する一方、地方では減少が見込まれる。治療法別では、手術療法の需要は減少傾向にある一方で、放射線療法や薬物療法は全国的に増加が予測される。とくに東京・沖縄・滋賀・神奈川では放射線療法の需要が30%以上増加する見込み。同時に、外科医の数は横ばいで、消化器外科医は減少傾向にあり、放射線科医も多数の施設に分散し、治療件数が少ない施設が目立つ。このような供給面の制約を踏まえ、厚労省は、医療技術の高度化や人材確保の観点からも集約化の必要性を強調した。希少がんや高度手術、粒子線治療などは都道府県単位での集約化、標準的な治療は医療圏単位での集約化の検討を求めている。今後は、各都道府県のがん診療連携協議会において、診療実績や患者数、医療従事者の配置状況などのデータをもとに、集約化・均てん化すべき医療の切り分けを進める。地域の実情や患者の医療アクセスに配慮しつつ、質の高い持続可能ながん医療提供体制の構築が求められる。 参考 1) 第18回がん診療提供体制のあり方に関する検討会[資料](厚労省) 2) がん放射線療法の需要、4都県で3割以上増 25-40年に 厚労省推計(CB news) 3) 多くの地域でがん患者が減少する点、手術患者は減少するが放射線・薬物療法患者は増加する点踏まえて集約化検討を-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 4) 地域のがん診療実績踏まえ、患者アクセスにも配慮し、各都道府県で「がん医療の集約化」方針を協議せよ-がん診療提供体制検討会(同) 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会看護師養成の現場が、いま大きな転換点に立たされている。厚生労働省の報告によると、看護師学校養成所の卒業者数は2021年度をピークに減少に転じ、2024年度には大学卒業者も初めて減少した。看護系3年課程の定員充足率は9割を下回り、養成基盤そのものが揺らいでいる。背景には、少子化や大学進学志向の高まり、処遇改善の遅れがある。日本看護協会の調査では、看護師の平均基本給は12年間で約6,000円の増加に止まり、物価上昇に追いつかず、低賃金層では離職率が高い傾向が示された。17.5万円未満の初任給では離職率が16.9%と、27.5万円以上の倍に及ぶ。地方ではさらに深刻であり、釧路市医師会看護専門学校(北海道)や浜田准看護学校(島根県)など、入学者減少により複数の看護学校が閉校に追い込まれており、2028年度までに閉校予定の学校は全国で相次いでいる。これにより、医療過疎地域での看護職員供給に大きな穴が空く恐れがある。医師会立の看護学校でも定員割れが深刻化。群馬県では医師会立の准看護学校の6校中4校で存続が危ぶまれている。こうした中、ふるさと納税や自治体支援を活用した財源確保や、オンライン講義・地域密着型実習の導入など、各地で独自の取り組みも始まっている。また、看護学校内でのパワハラ問題も学生離れの一因とされている。教員の不適切な言動や旧来型の上下関係がハラスメントとして報じられ、若年層の看護職志望者にマイナスの影響を与えている。教育現場では、教員の意識改革と学生の主体性を育む学習スタイルへの転換が求められている。こうした危機を受け、福井県では定員充足率が90%未満の民間養成所への支援を盛り込んだ「看護師養成所学生確保重点支援事業」を新設し、運営費や広報支援を拡充するなどの対策が始まった。2025年には日本看護協会初の男性会長も就任し、「処遇改善を国に求め、地域で必要な看護師を確保したい」と意欲を示す。医療現場を支える看護職の安定確保は、医師の業務負担や診療機能の維持にも直結する喫緊の課題である。医師会や関係団体が連携し、看護教育・待遇改善への具体的支援と政策提言を強化する必要がある。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 医療提供体制等について(厚労省) 2) 看護師の新規養成数、ピークアウト 大卒が初の減少 厚労省調べ(CB news) 3) 看護師の基本給、12年でアップ約6千円のみ 低賃金だと離職率高く日看協調べ(同) 4) 看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告(医師会) 5) 2024年度 「看護職員の賃金に関する実態調査」看護師のベースアップの低さが浮き彫りに(日看協) 6) 日本看護協会 初の男性会長が就任 “男性看護師 増加を期待”(NHK) 7) 釧路市医師会看護専門学校 入学者減り2030年度末に閉校へ(同) 8) 浜田准看護学校、2026年3月末で閉校へ(中国新聞) 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ美容医療市場は拡大の一途をたどっている。東京商工リサーチによれば、全国248の美容クリニックの2024年の売上高は約3,137億円で、2022年比1.5倍に成長。SNSや自己投資志向を背景に需要が高まり、性別・年齢を問わず受診が一般化している。その一方で、利益率は2.6%と低く、倒産や休廃業が2024年には計7件と過去最多になった。単一施術型や広告依存型の経営はリスクが高く、差別化と持続的経営力が問われている。市場の急成長と裏腹に、美容医療による健康被害の報告も急増している。厚生労働省の分析では、施術件数は2019年の約123万件から2022年には約373万件に急増。2024年度には国民生活センターなどへの相談が1万700件あり、そのうち健康被害の訴えは898件に上った。施術結果への不満、合併症や後遺症も多く、顔のやけどやしびれ、感染例も報告されている。トラブルの背景には、SNS経由で施術を知った若年層がリスクを十分に理解せず施術を受ける傾向や、研修経験の乏しい「直美(ちょくび)」医師の増加もある。カウンセラー主導で契約が進み、医師の診察やリスク説明が不十分なケースも目立つ。厚労省は美容クリニック勤務医の資格や安全管理状況の年次報告を義務付ける方針。美容医療は「施術力」と「経営力」に加え、安全性・倫理性が問われる時代に入った。医師にとっては、信頼される提供体制の再構築が急務となっている。 参考 1) 「美容医療」市場は3年間で1.5倍に拡大 “経営力”と“施術力”で差別化が鮮明に(東京商工リサーチ) 2) 美容医療市場の売上高、3年で1.5倍 利益率は2.6%にとどまる 東京商工リサーチ(CB news) 3) 美容医療のトラブルが急増 結果に不満、合併症や後遺症も(中日新聞)

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だ~まにゅ Dermatology Manual

必要なとこだけ、ムダなく最短で診療へ「皮膚科の臨床」67巻6号(2025年5月臨時増刊号)“迷わず使える”皮膚科マニュアル『だ~まにゅ Dermatology Manual』登場! 新薬・治療法の最新情報をキャッチアップできる「治療薬・治療法一覧」、エキスパートによる治療の実践法がわかる「治療実践マニュアル」など、皮膚科診療に必要なエッセンスを疾患ごとにぎゅっと凝縮。治療法に迷ったときや最新情報を確認したいとき、手軽に参照できる診療の即戦力!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するだ~まにゅ Dermatology Manual定価8,800円(税込)判型B5判頁数224頁発行2025年6月編集「皮膚科の臨床」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第13回 コロナ・インフル「同時予防ワクチン」、その実力とは?

毎年、冬になると猛威を振るう季節性インフルエンザ。未だ世界中で散発的な流行を起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これら2つの感染症は、とくに50歳以上の人や基礎疾患を持つ人にとって、重症化や入院、時には死に至る危険性もはらんでいます。現在、これらの感染症を予防するためには、それぞれ別のワクチンを接種する必要があります。世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2つのワクチンの同時接種を推奨しており、これにより接種率の向上が期待されています。しかし、その推奨にもかかわらず、両方のワクチンの接種率は必ずしも高くないのが現状です。もし、1回の注射でインフルエンザと新型コロナの両方に対応できるワクチンがあれば、接種を受ける人の負担が減り、より多くの人が予防接種を受けやすくなるかもしれません。そんな期待を背負って開発が進められてきたのが、新しい混合ワクチンです。この記事では、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの両方に対応するmRNAワクチン「mRNA-1083」の安全性と免疫反応を評価した最新の研究論文1)について解説します。新しいmRNA多価ワクチン「mRNA-1083」とは?今回報告された「mRNA-1083」は、mRNAワクチンの一種です。mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質を作るための設計図(mRNA)を体内に送り込み、それをもとに体内でタンパク質の一部が作られます。すると、私たちの免疫システムがそのタンパク質を「異物」と認識し、それに対する抗体などを作り出すことで、本物のウイルスが侵入してきた際に備えることができる仕組みです。mRNA-1083には、インフルエンザウイルスの表面にあるヘマグルチニンというタンパク質と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部の設計図が含まれています。これらは、それぞれインフルエンザワクチン(mRNA-1010)と新型コロナワクチン(mRNA-1283)の成分であり、過去の研究でそれぞれ良好な安全性と免疫反応が確認されています。ワクチンの効果と安全性をどうやって調べたのか?この研究は、mRNA-1083の有効性と安全性を評価するための第III相臨床試験として、アメリカ国内146施設で実施されました。参加者は50歳以上の成人で、「65歳以上」と「50~64歳」の2つの年齢層に分けられました。これは、推奨されるインフルエンザワクチンの種類がこれらの年齢層で異なるためです。参加者は、ランダムに2つのグループに分けられました。mRNA-1083群新しい多価ワクチンmRNA-1083と、プラセボ(生理食塩水)を接種(比較群が2つのワクチン接種を受けるため、あえてプラセボを1本接種しています)比較群インフルエンザワクチンと既存の新型コロナワクチンを同時接種試験は盲検化して行われました。これにより、結果に対する先入観を排除することができます。主な目的は、接種29日後に、mRNA-1083が既存のワクチンと同等以上の免疫反応(非劣性)を示すかどうか、そして安全性を評価することでした。この研究で何がわかったのか?合計8,015人がこの試験に参加し、ワクチンを接種しました。結果として、mRNA-1083は、対象となったすべての型のインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存のワクチンと同等以上の免疫反応を示し、非劣性基準を達成しました。さらに、mRNA-1083はいくつかの点で、既存のワクチンよりも優れた免疫反応(優越性)を示しました。50歳~64歳mRNA-1083は、標準用量のインフルエンザワクチンと比較して、4種類すべてのインフルエンザウイルスに対してより高い免疫反応を示しました。また、新型コロナウイルスに対しても同様の結果でした。 65歳以上mRNA-1083は、高用量のインフルエンザワクチンと比較して、3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)に対してより高い免疫反応を示しました。ただし、B/Yamagata株に対する免疫反応は、優越性の基準には達しませんでした。新型コロナウイルスに対しても、mRNA-1083はより高い免疫反応を示しました。 なお、インフルエンザB/Yamagata株は、近年の流行がみられないため2024~25年シーズンのワクチンからは除外することがWHOから推奨されています。この点を考慮すると、mRNA-1083は重要な3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)と新型コロナウイルスの両方に対して、既存の推奨ワクチンよりも優れた免疫反応を50歳以上の成人に誘導したといえます。安全性は?ワクチンの安全性は非常に重要です。この研究では、mRNA-1083接種後の副反応も詳しく調べられました。その結果、mRNA-1083を接種した群では、既存のワクチンを接種した群と比較して、副反応を報告した人の割合や重症度がわずかに高い傾向がみられました。たとえば、65歳以上では、mRNA-1083群の83.5%に対し、比較群では78.1%が副反応を報告しました。50~64歳では、それぞれ85.2%と81.8%でした。しかし、報告された副反応のほとんどは、軽度(Grade1)または中等度(Grade2)であり、短期間で回復するものでした。最も多かった副反応は、注射部位の痛み、倦怠感、筋肉痛、頭痛でした。重篤な副反応(Grade4、すべて発熱)は非常にまれで、両年齢層のmRNA-1083群で合計4人(0.1%未満)でした。試験期間を通じて、新たな安全性の懸念は確認されませんでした。また、この研究では、ワクチン接種後の数日間の生活の質(QOL)への影響も調査されています。その結果、mRNA-1083を接種したグループでは、接種後2日目に一時的なQOLスコアの低下が見られましたが、3日目には回復しました。この低下の度合いは、既存のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンで報告されているものと同程度か、それ以下であり、臨床的に意味のある大きな変化ではありませんでした。研究の限界この研究は重要な知見をもたらしましたが、いくつかの限界も認識しておく必要があります。まず、この研究では、ワクチンが実際にインフルエンザや新型コロナの発症をどの程度防ぐかという「有効性」は直接評価されていません。ただし、評価された免疫反応の指標(抗体価)は、それぞれインフルエンザと新型コロナワクチンの有効性と関連する信頼性の高い指標とされています。また、試験参加者はアメリカ国内の住民で、人種構成はアメリカの一般人口を反映していますが、他の地域や人種グループにそのまま結果を当てはめられるかはさらなる検討が必要です。今後の展望今回の第III相臨床試験の結果は、mRNA多価ワクチン「mRNA-1083」が、50歳以上の成人において、4種類のインフルエンザ株と新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存の推奨ワクチンと同等以上の免疫反応を誘導し、安全性も許容範囲であることを示しました。とくに、臨床的に重要なインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに対しては、既存ワクチンよりも優れた免疫反応が確認された点は注目に値します。1回の接種で2つの主要な呼吸器感染症を予防できる可能性を秘めたこの新しいワクチンは、公衆衛生の観点からも大きな期待が寄せられます。今後の実用化に向けた取り組みが注目されます。参考文献・参考サイト1)Rudman Spergel AK, et al. Immunogenicity and Safety of Influenza and COVID-19 Multicomponent Vaccine in Adults ≥50 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

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HAE患者さんの発作不安を解消するガラダシマブ発売/CSLベーリング

 CSLベーリングは、遺伝性血管性浮腫(HAE)の急性発作の発症抑制にガラダシマブ(商品名:アナエブリ)が4月18日に販売されたことに合わせ、プレスセミナーを都内で開催した。プレスセミナーでは、ガラダシマブの概要やHAE治療の課題と展望などが説明された。HAE患者のニーズに応える治療薬ガラダシマブ 「HAE長期予防のための新たな選択肢『アナエブリ皮下注 200mgペン』の製品概要」をテーマにローズ・フィダ氏(研究開発本部長)が、ガラダシマブの開発の経緯や国際共同第III相試験であるVANGUARD試験の概要について説明した。 HAEは、常染色体顕性遺伝の遺伝性希少疾患であり、腹部や顔面、喉などの部位への浮腫やこれに伴う痛みなどを特徴とする。とくに喉が腫れた場合、呼吸の阻害により生命に関わることもある疾患である。  本症は、発症のタイミング、重症度、浮腫の部位の予測は困難であり、浮腫は通常12~24時間かけて悪化し、2~5日間持続する。 HAEの治療では、病期に応じてオンデマンド治療、短期発作抑制治療、長期発作抑制治療が行われている。とくに長期発作抑制治療では、患者は予測できない発作への不安と従来の治療アクセスへの負荷やコンプライアンスの難しさのため新しい治療薬の要望があり、今回研究・開発されたのがガラダシマブである。 ガラダシマブは、HAEの急性発作の発症抑制を効果効能とした月1回投与のプレフィルドペン製剤であり、通常、成人および12歳以上の小児には初回400mgを皮下投与し、以降は200mgを月1回皮下投与する。ガラダシマブは活性化されたFXIIを阻害することでカリクレイン・キニン系の開始部分を阻害し、それに続くブラジキニンの生成を抑制する。 国際共同第III相試験であるVANGUARD試験は、6ヵ月間の治療期における月間のHAE発作回数を主要評価項目に行われた。ガラダシマブ群39例、プラセボ群25例であった。 その結果、主要評価項目では、1ヵ月当たりのHAE発作回数の中央値(平均値)は、ガラダシマブで0.00回(0.27)に対し、プラセボ群では1.35回(2.01)で有意に低かった(p=0.001、両側Wilcoxon検定)。  副次評価項目である6ヵ月間の治療期のレスポンダー割合(HAE発作回数が50%以上減少した患者)はガラダシマブ群94.9%およびプラセボ群33.3%、治療中に無発作(発作減少率100%)の割合はそれぞれ61.5%および0%だった。 また、探索的項目として患者報告アウトカム質問票(AE-QoL[Angioedema Quality of Life Questionnaire]合計スコア)について、初回投与開始後からQOLの指標となったAE-QoL合計スコアの改善が認められ、その傾向は6ヵ月間持続した。 そのほか、安全性に関して重篤な有害事象、過敏症、アナフィラキシー、血栓症、出血の報告は認められず、注射部位反応はガラダシマブ群、プラセボ群ともに2例だけだった。主な有害事象は、ガラダシマブ群で上気道感染、上咽頭炎、頭痛などがみられた。HAEと確定診断されるまで平均15.6年という課題 「HAE治療における課題と期待、患者さんのQOLの向上を目指して」をテーマに秀 道広氏(広島市立広島市民病院 病院長)が、HAEの病態と診療での課題、今後の展望について説明した。 HAEは、血管中のC1蛋白分解酵素阻害因子(C1-INH)が低下し、ブラジキニンが上昇することで生じる限局性の浮腫で、一定時間(日数)後に跡形なく消失する。症状は蕁麻疹に似ているが、発症の機序は異なるため蕁麻疹の治療薬は効果がない(最近、C1-INH活性が正常なHAE3型というまれな病型も報告されている)。 HAEの診断は『遺伝性血管浮腫(HAE)診断ガイドライン 改訂 2023年版』(日本補体学会編)のアルゴリズムに基づいて行う。HAEを疑った場合、先述のC1-INH活性測定とC4測定の検査から診断を行うことができるが、「医療者などがHAEに気付くことができるか」という点が課題だという。 HAEは出現部位、浮腫の程度、頻度がさまざまであり、気付かれにくい疾患である。実際、わが国の研究で2016~17年に実施されたアンケート調査で121例のHAE患者は確定診断まで平均15.6年を要し、胃腸炎、虫垂炎、血管性浮腫などの他の疾患と診断されていた。また、HAEの症状出現から治療にかかるまでの時間は平均で87.4分という報告がある1)。 発作の出現部位では、胴体が72.4%、消化管が60.3%、四肢が31.0%の順で多く、夕方~早朝に出現が多いことが報告されている2)。 HAEの治療では年々治療薬が進化し、C1-INH点滴から始まり、急性発作時のイカチバント、長期発作抑制治療薬のベロトラルスタット、ラナデルマブとC1-INH皮下注製剤が登場している。 治療の目標は先述のガイドラインには「疾病負荷のない日常生活を可能な限り目指すことである」と記されているが、長期発作抑制治療中のHAE患者へのAE-QoLでは、発作頻度は低くても発作への恐れや恥ずかしさ、うつや不安傾向は変わっていないという報告もある3)。 以上から残された課題として、(1)いつ発作が起こるかわからない(2)発作治療は早いほうが効果的だがすぐに注射できるとは限らない(3)診断の遅れによる適正治療の遅れについて医療、製薬メーカー、患者会などが連携し、解決していく必要がある。

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インフル・コロナ混合ワクチン、50歳以上への免疫原性・安全性確認/JAMA

 インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の混合ワクチン「mRNA-1083」の免疫原性と安全性を、50歳以上の成人を対象に評価した第III相無作為化観察者盲検試験の結果が報告された。開発中のmRNA-1083は、推奨されるインフルエンザワクチン(高用量、標準用量)およびCOVID-19ワクチンと比較して非劣性基準を満たし、4種すべてのインフルエンザ株(50~64歳)、SARS-CoV-2(全年齢)に対して高い免疫応答を誘導したことが実証され、許容可能な忍容性および安全性プロファイルが示された。米国・ModernaのAmanda K. Rudman Spergel氏らが報告した。JAMA誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。4価ワクチン+COVID-19併用接種群と比較 試験は、2023年10月19日~11月21日に米国146施設で50歳以上の成人を登録して行われた。データ抽出は2024年4月9日に完了した。 被験者は年齢で2コホート(65歳以上、50~64歳)に分けられ、mRNA-1083+プラセボを接種する群、承認済みの季節性インフルエンザ4価ワクチン(65歳以上:高用量4価不活化インフルエンザワクチン[HD-IIV4]、50~64歳:標準用量IIV4[SD-IIV4])とCOVID-19ワクチン(全年齢:mRNA-1273)を併用接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 本試験の主要目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する非劣性の検証、mRNA-1083の反応原性および安全性の評価であった。副次目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する優越性の検証などであった。mRNA-1083の免疫原性の非劣性、高い免疫応答の誘導を確認 全体で8,015例がワクチンを接種された(65歳以上4,017例、50~64歳3,998例)。年齢中央値は65歳以上のコホート70歳、50~64歳のコホート58歳、女性はそれぞれ54.2%と58.8%、黒人またはアフリカ系は18.4%と26.7%、ヒスパニックまたはラテン系は13.9%と19.3%であった。 mRNA-1083の免疫原性は、すべてのワクチン適合インフルエンザ株およびSARS-CoV-2株に対して非劣性が検証された。すなわち、幾何平均抗体価比の97.5%信頼区間(CI)下限値は0.667を上回り、セロコンバージョン/血清反応率の差の97.5%CI下限値は-10%超であった。 mRNA-1083は、4種すべてのインフルエンザ株に対してSD-IIV4(50~64歳に接種)よりも高い免疫応答を誘導し、3種のインフルエンザ株(A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア)に対してHD-IIV4(65歳以上に接種)よりも高い免疫応答を誘導した。また、SARS-CoV-2(全年齢にmRNA-1273を接種)に関しても高い免疫応答を誘導した。 mRNA-1083接種後の依頼に基づく非自発的に報告された副反応は、両年齢コホートにおいて対照ワクチン群と比較し、頻度および重症度ともに数値的には高かった。頻度は、65歳以上ではmRNA-1083接種群83.5%、HD-IIV4+mRNA-1273接種群78.1%であり、50~64歳ではmRNA-1083接種群85.2%、SD-IIV4+mRNA-1273接種群81.8%であった。重症度は大半がGrade1または2であり短期間に消失した。以上から、安全性に関する懸念は認められなかった。

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小児期ワクチン接種率低下で、麻疹など再流行の可能性/JAMA

 小児期のワクチン接種率の低下は、ワクチンで予防可能な、かつて排除された感染症(eliminated infectious diseases)のアウトブレイクの頻度と規模を増加させ、最終的には再びエンデミック(endemic)レベルに戻る可能性があることが、米国・スタンフォード大学のMathew V. Kiang氏らによるシミュレーションモデルの解析の結果で明らかとなった。米国では、小児期のワクチン接種の普及により多くの感染症が排除されてきたが、近年、ワクチン接種率は低下傾向にあり、小児期のワクチン接種のスケジュールを縮小する政策議論も続いている。そのため、かつて排除された感染症の再流行が懸念されていた。著者は、「流行がエンデミックレベルに再び戻る時期と閾値は感染症によって大きく異なり、麻疹が最初にエンデミックレベルに戻る可能性が高く、現在のワクチン接種率でも対策が改善されなければその可能性がある」と指摘している。JAMA誌オンライン版2025年4月24日号掲載の報告。麻疹風疹・ポリオ・ジフテリアの予防接種率低下と感染者数、シミュレーションモデルで推定 研究グループは、ワクチンで予防可能な4つの感染症(麻疹風疹、ポリオ、ジフテリア)について、小児期のワクチン接種率が低下した場合の感染者数および感染関連合併症数を推定するシミュレーションモデルを構築し、米国50州とコロンビア特別区におけるこれら感染症の輸入(importation)と動的伝播(dynamic spread)を評価した。 このモデルは、人口動態、集団免疫状態、感染症の輸入リスクに関する地域別推定値に基づくデータを用いてパラメーター化され、25年間にわたる異なるワクチン接種率のシナリオを評価した。現在のワクチン接種率は、2004~23年のデータを用いた。 主要アウトカムは、米国の麻疹風疹、ポリオ、ジフテリアの推定感染者数、副次アウトカムは感染関連合併症(麻疹後神経学的後遺症、先天性風疹症候群、麻痺性ポリオ、入院、死亡)の推定発生率、および感染症が再びエンデミックレベルとなる可能性とその時期とした。現在の接種率でも、麻疹が再びエンデミックレベルとなる可能性 シミュレーションモデルにおいて、現在の州レベルのワクチン接種率では、麻疹が再びエンデミックレベルとなる可能性は83%、エンデミックレベルとなるまでの平均期間は20.9年、25年間で推定感染者数は85万1,300例(95%不確実性区間[UI]:38万1,300~130万)に上ることが予想された。 麻疹・流行性耳下腺炎・風疹(MMR)ワクチン接種率が10%減少した場合、麻疹の感染者数は25年間で1,110万例(95%UI:1,010万~1,210万)となり、一方、接種率が5%増加した場合は5,800例(3,100~1万9,400)にとどまると予測された。 他の感染症については、現在のワクチン接種率ではエンデミックレベルとなる可能性は低いが、小児期の定期接種が50%減少した場合、25年間で麻疹5,120万例(95%UI:4,970万~5,250万)、風疹990万例(640万~1,300万)、ポリオ430万例(4~2,150万)、ジフテリア197例(1~1,000)が発生すると予測された。 この場合、エンデミックレベルとなるまでの期間は麻疹が4.9年(95%UI:4.3~5.6)、風疹は18.1年(17.0~19.6)であり、ポリオについてはエンデミックレベルとなる可能性は56%で、エンデミックレベルとなるまでの期間は19.6年(95%UI:4.0~24.7)と予測された。 なお、米国内での影響には大きなばらつきがみられた。

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尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」【最新!DI情報】第38回

尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」今回は、尋常性ざ瘡治療薬「過酸化ベンゾイル(商品名:ベピオウォッシュゲル5%、製造販売元:マルホ)」を紹介します。本剤は、わが国初の尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬であり、外用薬の患部への接触を短時間にすることで、副作用を軽減しながら治療効果を発揮することが期待されています。<効能・効果>尋常性ざ瘡の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1回、洗顔後、患部に適量を塗布し、5~10分後に洗い流します。<安全性>副作用として、紅斑(5%以上)、皮膚剥脱(鱗屑・落屑)、刺激感、そう痒、皮膚炎、接触皮膚炎(アレルギー性接触皮膚炎を含む)、びらん、皮脂欠乏性湿疹、AST増加(いずれも5%未満)、乾燥、湿疹、蕁麻疹、間擦疹、乾皮症、脂腺機能亢進、腫脹、ピリピリ感、灼熱感、汗疹、違和感、皮脂欠乏症、ほてり、浮腫、丘疹、疼痛、水疱、口角炎、眼瞼炎、白血球数減少、白血球数増加、血小板数増加、血中ビリルビン増加、ALT増加、血中コレステロール減少、血中尿素減少、呼吸困難感(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、にきび(尋常性ざ瘡)を治療する塗り薬です。2.にきびの原因菌(アクネ菌など)が増えるのを抑え、にきびの原因となる毛穴のつまりを改善します。3.1日1回、洗顔後、患部に塗布し、5~10分後に洗い流してください。眼、口唇、その他の粘膜や傷口は避けてください。4.この薬には漂白作用があるので、髪や衣料などに付着しないように注意してください。5.この薬を使用中は、強い日光に当たるのをなるべく避けるようにしてください。6.過敏反応や強い皮膚刺激症状が現れたときは使用を中止し、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>尋常性ざ瘡は、一般的に「にきび」として知られる炎症性疾患です。好発部位は顔面や胸背部などの脂漏部位で、思春期以降に発生しやすく、病因にはホルモンバランスの乱れ、皮脂の過剰産生、角化異常、Cutibacterium acnes(C. acnes)などの細菌の増殖が複雑に関与しています。過酸化ベンゾイルは強力な酸化作用を持ち、尋常性ざ瘡の原因菌であるC. acnesなどの細菌に対する抗菌作用と、閉塞した毛漏斗部での角層剥離作用を有しています。国内では2.5%のゲルおよびローション製剤が販売されていますが、1日1回洗顔後に患部に塗布する必要があり、刺激やかぶれなどの副作用に加え、衣類に対する脱色作用に注意が必要です。本剤は、国内初の短時間接触療法(Short contact therapy)用ゲル製剤であり、既承認医薬品のゲル製剤(商品名:ベピオゲル2.5%)の新用量医薬品として開発されました。本剤は過酸化ベンゾイルを5%含有しており、外用薬の患部への接触を短時間にすることで副作用を軽減しながら治療効果を発揮します。商品名に「ウォッシュ」とあるように、1日1回、洗顔後に患部に塗布したのち、5~10分後に洗い流すという用法が特徴です。本剤は、高濃度の主薬成分を含む製剤を塗布部位から手早く除去できるように、洗浄力の高いアニオン性界面活性剤2種類を配合しています。顔面に尋常性ざ瘡を有する患者を対象とした第III相プラセボ対照試験(M605110-05試験)において、主要評価項目である治療開始12週後のベースラインからの総皮疹数の減少率(最小二乗平均値)は、本剤群55.90%(両側95%信頼区間:49.89~61.90)であり、プラセボ群の43.85%(38.06~49.64)と比較して統計学的に有意な差が認められました。この結果により、プラセボ群に対する本剤群の優越性が検証されました。

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百日咳ってどんな病気?

百日咳ってどんな病気?• 「百日咳菌」への感染によって起こり、飛沫感染や接触感染が主な感染経路です• 名前のとおり激しい咳を伴う病気で、いずれの年齢でもかかりますが、1歳以下、とくに生後6ヵ月以下の乳児では重症化や、まれに死に至ることもあり注意が必要です主な症状予防するには?経過は3期に分けられ、全体で約2~3ヵ月で回復するとされていますワクチン接種により、罹患リスクを80~85%程度減らすことができると報告されています1.カタル期(約2週間持続):通常7~10日間程度の潜伏期を経て、普通のかぜ症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も激しくなります5種混合ワクチン:0~1歳児の定期接種として導入されている5種混合ワクチンは、百日咳を含む5つの感染症を予防するワクチンですけいがい2.痙咳期(約2~3週間持続):特徴的な発作性けいれん性の咳(短い咳が連続的に起こり、息を吸う時にヒューという音が出る)になります(夜間に悪化することが多い)。乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ(顔や唇、爪の色が紫色に見えること)、けいれん、呼吸停止と進展することがあります3.回復期:激しい咳は次第に減衰します。成人では咳が長期にわたって持続する場合がありますが、やがて回復に向かいます初回接種:生後2~7ヵ月に至るまでの間を標準的な接種期間として20日以上(標準的には20~56日まで)の間隔をおいて3回接種します追加接種:初回接種終了後6ヵ月以上(標準的には6~18ヵ月まで)の間隔をおいて1回接種します※ワクチンによる予防効果は4~12年で減弱すると報告されており、接種から時間が経つことで感染することがあります。ワクチン未接種の新生児・乳児の感染源とならないよう注意が必要です出典:厚生労働省HP「百日咳」「5種混合ワクチン」JIHS感染症情報提供サイト「百日咳」Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第258回 G氏が状況操作か?上層部も鵜呑みに?~フジの中居問題

前回はフジテレビ女性社員Aさんが元SMAPの中居 正広氏から受けた性暴力に関する第三者委員会(以下、同委員会)報告書について、Aさんの入院直後までの状況と、精神的ダメージを受けた人への対応について、フジテレビ側がいかに場当たりな対応をしていたかについて触れた。今回もその続きである。前回までに登場した関係者は、中居氏、被害者のAさん、健康相談室のC医師、同相談室の心療内科医D医師、アナウンス室長E氏、アナウンス室部長で女性管理職のF氏、編成制作局長G氏、人事局長H氏である。前回取り上げたのは、性暴力を受け、健康相談室から「仕事関係者からのハラスメントによるうつ状態、食思不振」と記載された診療情報提供書により、Aさんが2023年6月10日頃、都内病院の消化器内科に精神科併診で入院。それが長期化しそうなことからF氏の提案により、E氏を通じてG氏、H氏への報告が上がったところまでのフジテレビ側の対応のまずさ、より具体的に言えばメンタルヘルスへの“無理解”である。想像を超えるAさんのつらい入院生活入院後のAさんは、フジテレビ社内の連絡窓口として一本化されていたF氏とチャットで病状確認や業務連絡を行っていたほか、消化器内科に入院中はC医師が週1回面会してその状況をF氏に報告。F氏から都度、E氏とG氏にAさんの状況がメールなどで報告された。入院後、Aさんは頻回なフラッシュバックに襲われて病状が悪化。当初の退院予定の2023年7月末直前に自傷行為におよび、退院が延期された。この時期、身体的にも発熱、痛み、蕁麻疹、光過敏などの症状が出ていたという。結果、2023年7月末頃、同病院の精神科に転科となり、主治医が交代。この主治医がAさんを「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断し、テレビ視聴をしないよう指示するとともにトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)を受けるよう勧めた。これはPTSDの主な治療法である持続エクスポージャー療法と思われる。また、精神科への転科以後、Aさんの状況把握は従来のF氏とのチャットとD医師による主治医とのコミュニケーションとなった。フジテレビの健康相談室の産業医たちのAさんへの密な対応からは、それだけ気の抜くことが許されない病状だったことがうかがわれる。7月の段階では、フジテレビ内でAさんの性暴力被害を知っていた最上層部はG氏とH氏で、前回触れたようにG氏個人の判断で取締役への報告は預かりとなっていた。ところが同委員会報告書によると、2023年8月21日、G氏は突然E氏を呼び出し、当時の編成制作局管掌で専務取締役の大多 亮氏(2024年6月より関西テレビ代表取締役社長に就任。今回の事件の責任を取り、2025年4月4日辞任)を尋ねて、Aさんの問題を報告。大多氏はその場で代表取締役社長である港 浩一氏に電話連絡し、そのまま社長室で港氏、大多氏、G氏、E氏の4人での協議が行われた。そもそも取締役への報告を自身預かりにしていたG氏が、突如、大多氏に報告することになったのは、報告書によると「本事案をひとりで抱えられなくなったため」(G氏証言)と記載されている。利己的で場当たり的なG氏前回触れたようにG氏は、E氏からAさんが性暴力を受け入院に至るまで心身の状態が悪化しているとの報告を受けながら、この件は「プライベートな男女問題」と認識している。また、事件を認識直後に役員に報告しなかったのは、Aさんの「誰にも言わないでほしい」という希望があったためと説明しているが、これについては、前回に指摘したように、G氏が都合よく解釈したようにもうかがえる。そして最後は「抱えきれなくなった」と役員に丸投げするなど、G氏は“自分の都合”のみで場当たり的に動いていたと指摘されても仕方がない。また、G氏はE氏から報告を受けた段階で産業医であるC医師、D医師、さらにはAさんと恒常的に連絡を取っているF氏とも面談して状況を聴取するのが最も望ましいはずなのに、それもしていない。報告書によると、C医師がG氏とこの件で初めて顔を合わせたのは、約1年後にAさんが退職の意志を固めた面談の時である。しかも、これに加え報告を受けた大多氏と港氏も、明らかな業務時間外に中居氏所有のマンションで起きたことを主な理由に「性暴力」ではなく「プライベートな男女の案件」と単純にこの事件を捉えている。改めて流れを振り返ると、Aさんが初期に被害報告をしたC医師、D医師、E氏、F氏は、Aさんが性暴力の被害に遭ったと認識していたにもかかわらず、G氏に報告が上がった段階で「プライベートな男女の案件」に変わってしまい、結果的に大多氏、港氏も同様の認識となっている。G氏のところで“伝言ゲーム”が大きく変わっているのだ。また、この港氏、大多氏、G氏、E氏との協議では「なぜ自宅に行ってしまったのだろうか」などの発言もあり、同委員会は報告書内で「本事案についての認識・評価、発言などから、港社長ら3名(注:E氏以外の3名)の性暴力に対する無理解と人権意識の低さが見て取れる」と断じている。この会議で港氏が打ち出した方針は以下のようなものだ。Aさんの生命の安全と(心身の)ケアを最優先にして、本人の意向を汲んで対応していくAさんが笑顔で自然な形で復帰するまでサポートするAさんが業務復帰したら、不自然にならないような形で中居氏の番組起用を終わらせていく情報漏えいしないよう、情報共有範囲は、港社長、大多氏、G氏、E氏、F氏、C医師、D医師に限定する一見すると、ごく当然の方針にも思えそうだが、同報告書では9月上旬まで港氏、大多氏と時にG氏が加わって、最大3人で対応が協議されており、そこにはAさんの意志確認はなく、Aさんの状況をもっともよく知るF氏、C医師、D医師にも相変わらず状況を聞いていない。すべてがE氏やF氏から上がるG氏への報告が元になっている。報告書でもこの点を問題視し、「港社長及び大多専務は、F氏らの得ている情報はレポートライン、すなわち、E氏からG氏を通じて報告を受けることにより、本事案についての必要な情報を得ていたとし、F氏やC医師からの直接報告や意見聴取を不要としている。しかし、それでは、伝言ゲームのように、情報を下から上に伝えているだけである。すべての情報がG氏のフィルター(認識・評価)を通した内容に変換されるため、本事案の対応を検討する上で前提とすべき事実関係、Aさんの病状・心情とこれらの変化、業務復帰に向けた考えについて正確な情報を得ることはできない」と指摘している。また、前述の港氏が決定した方針の中の「笑顔で自然な形で復帰」という言葉も、聞こえは良さそうだが、性暴力被害を受けたAさんの心情を思えば、無神経とも言える。F氏がG氏の思惑を阻止ちなみにこの協議の翌日、傷病名PTSDで2023年9月末まで休務加療が必要である旨記載された診断書が、AさんからF氏を通じてH氏に提出され、その2日後には、Aさんから「医師チームや女性支援団体と具体的な退院時期や仕事復帰時期について意見交換する」といった話がチャットで送られてきたことが、F氏からE氏とG氏に対してメールで報告された。これに対してG氏は「Aさん本人と直接面会できないか、どういった支援団体とつながっているか知りたい」とのメールをF氏に送っているが、F氏は女性支援団体について詳しく確認しようとすることで、相談制限の意図があるように受け取られる可能性があり、また制限すべきでないと考えていたため、G氏に対して医療上必要な場合のみにしか入院患者に面会できない旨を返答し、指示を事実上拒否している。F氏の対応は至極真っ当である。第三者委員会の聴取に対し、G氏はAさんの意思確認だったと回答しているが、むしろ単なる組織防衛のようにしか映らない。実際、報告書では「当該メールの内容には、G氏の本事案への認識、対応方針の内容、中居氏の番組継続の是非についての考えなど、重要事項についての説明は記載されていない。質問の意図や指示の目的も不明である。G氏は、Aさんが中居氏や会社に対して何を求めているのか聞きたかっただけであり、何か会社としての対応方針があったわけではない、何か『こうしたい』という考えがあってAさんの意向を確認しようと思ったわけではないと述べている。以上から、「Aさんの会社や中居氏に対する要望や意思を真摯に確認しようとしたものとはいえない」と、G氏をかなり批判的に断じている。いずれにせよ、港氏がAさんのケアの重要性を打ち出しながら、PTSDと診断されている自社社員に対する適切な医療ケアの視点は、重要な意思決定を行う港氏、大多氏、G氏には微塵も感じられないのである。これら3人の壮年男性の対応は、民放他社のドラマのタイトルを借りるならば「不適切にもほどがある」のだ。さてこのテーマは本稿で終えるつもりだったが、業務に関連して心身を病んだ社員への会社の対応として医療的に問題がある部分は、同報告書を読む限りまだまだある。ということで、次回ももう一度だけこの問題に触れたいと思う。

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週2回貼付のアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg」【最新!DI情報】第37回

週2回貼付のアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg」今回は、持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤「リバスチグミン(商品名:リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg、製造販売元:東和薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の持続放出性のアルツハイマー型認知症の貼付薬であり、介護者の負担軽減やアドヒアランスの改善が期待されています。<効能・効果>軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはリバスチグミンとして1回25.92mgから開始し、原則として4週後に維持量である1回51.84mgに増量します。本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付します。原則として開始時は4日間貼付し、1枚を3~4日ごとに1回(週2回)貼り替えます。なお、貼付期間は4日間を超えないようにし、週2回行う本剤の貼り替えのタイミング(曜日)は原則固定します。<安全性>重大な副作用として、QT延長(1%未満)、狭心症、心筋梗塞、徐脈、房室ブロック、洞不全症候群、脳卒中、痙攣発作、食道破裂を伴う重度の嘔吐、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃腸出血、肝炎、失神、幻覚、激越、せん妄、錯乱、脱水(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用は、接触性皮膚炎、適用部位紅斑、適用部位そう痒感(5%以上)、食欲減退、期外収縮、悪心、嘔吐、適用部位浮腫、適用部位皮膚炎、適用部位発疹、適用部位水疱、適用部位腫脹、体重減少(1~5%未満)、貧血、不眠症、幻視、易怒性、不整脈、心房粗動、高血圧、腹痛、蕁麻疹、適用部位皮膚剥脱、適用部位湿疹、適用部位蕁麻疹、しゃっくり、耳鳴(1%未満)、尿路感染、好酸球増加症、糖尿病、血尿、疲労、肝機能検査異常など(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行を遅らせる薬です。2.この薬は、皮膚から有効成分が吸収される貼り薬(パッチ剤)です。3.初めに貼り替える曜日を決めて、1週間に2回、1回1枚、同じ時間に薬を貼り替えてください。4.背中、上腕、胸のいずれかの健康な皮膚に貼ってください。5.貼る場所は毎回変え、同じ場所に貼らないでください。6.貼り忘れに気付いたときは、気付いた時点で新しい薬を貼り、次からはいつもと同じスケジュールで貼り替えてください。<ここがポイント!>アルツハイマー型認知症は、認知症の原因の約6割を占める緩徐進行性の疾患で、記憶障害や複数の認知機能障害が特徴です。この認知機能の低下は、コリン作動性神経機能の低下と関連するといわれており、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が現在の治療の中心です。日本では、これらの薬剤は内服薬と貼付薬で販売されており、通常、1日1~2回の投薬が必要です。アセチルコリンエステラーゼおよびブチリルコリンエステラーゼの阻害薬であるリバスチグミンは、2011年4月に1日1回貼付の貼付薬として承認されました。貼付薬は投薬状況が可視化されるため、内服薬に比べて介護者の負担を軽減することができます。服薬管理の負担を一層軽減するために、さらなる投薬頻度の低減が求められていました。リバルエンLAパッチは、日本初の持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤であり、週2回の貼付が特徴です。従来の毎日1回の貼付薬に比べ、アドヒアランス向上が期待されます。外国人健康成人57例を対象に、本剤の51.84mg製剤を週2回(4日間と3日間の交互)またはリバスチグミン貼付薬(1日1回貼付)の18mg製剤を1日1回、上背部に11日間反復経皮投与したとき、リバスチグミン貼付薬に対する本剤の幾何平均値の比は、Cmax96-264で1.051(90%信頼区間[CI]:0.984~1.124]、Cmin96-264で1.078(0.978~1.189]、Ctau_264で1.086(1.018~1.158)およびAUC96-264で1.136(1.073~1.203)でした。このことから、51.84mg製剤の週2回投与がリバスチグミン貼付薬の18mg製剤の1日1回投与と同程度の曝露量を示すことが確認されました。軽度および中等度アルツハイマー型認知症患者を対象とした無作為化二重盲検並行群間比較試験(国内第III相試験:NDT-2101試験)において、24週時のADAS-Jcogのベースラインからの変化量の最小二乗平均値は、本剤群で-0.54(95%CI:-1.150~0.065)、リバスチグミン貼付薬群で0.30(-0.306~0.900)で、変化量の群間差は-0.84(-1.695~0.016)でした。群間差の95%CIの上限が事前に設定した非劣性限界値1.1を下回ったことから、リバスチグミン貼付薬群に対する本剤群の非劣性が検証されました。

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第237回 百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省2025年に入り、百日咳の患者報告数が急増している。国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所などが統合)によると、3月23日までの1週間で全国から458人の患者が報告され、今年の累計は4,100人に達した。これは前年(2024年)の年間累計4,054人をすでに上回っている。都道府県別では、大阪府336人、東京都299人、新潟県258人、沖縄県252人、兵庫県233人の順で多く、都市部および一部地域での患者増加が顕著である。百日咳は主に小児の間で感染が拡大し、生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸発作、肺炎、脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性が高い。背景には、新型コロナウイルス感染症流行下での感染対策により百日咳の発生が抑えられていたことで、集団免疫が低下した可能性が指摘されている。また、患者の増加に伴い、従来のマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の報告も複数の地域で確認されており、日本小児科学会は注意喚起を行っている。耐性菌感染例では、標準的な治療にもかかわらず感染拡大リスクが残るため、治療薬の選択については感染症に詳しい小児科医との連携が推奨される。現行の定期予防接種には百日咳成分を含む四種混合ワクチン(DPT-IPV)があり、生後2ヵ月から接種ができる。厚生労働省および専門家は、生後2ヵ月を迎えた段階での速やかな接種を呼びかけており、とくに乳児家庭では感染拡大防止の観点からも接種率の向上が重要とされている。 参考 1) 「百日ぜき」急増 今年すでに4,100人、去年の患者数上回る(毎日新聞 ) 2) 百日せき ことしの累計患者数が4,100人に 去年1年間を上回る(NHK) 3) 百日せき「耐性菌」各地で報告 “速やかにワクチン接種を”(同) 4) 百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について (小児科学会) 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会日本救急医学会は、対話型AI「ChatGPT」による救急受診のアドバイスについて、「一般利用者が正確に理解できない可能性がある」とする研究結果を公表した。研究では、総務省消防庁の救急受診ガイドを基に466の症例(うち314例は緊急度が高い)をAIに判断させ、その回答を救急専門医7人と一般人157人が評価した。専門医の評価では、AIの回答は重症例で97%、軽症例で89%の精度で適切な判断をしているとされた。しかし、一般人は、同じ回答をみても重症例で「救急受診が必要」と解釈できたのは43%、軽症例で「不要」と判断できたのは32%に止まった。これはAIの助言が正確であっても、専門用語の受け取り方や伝わり方にズレが生じている可能性が指摘されている。さらに、AIの助言に「信頼して従った」とする人は全体の約半数に止まり、逆に不安が増したと答えた人も約13%存在した。研究を主導した東京慈恵医科大学の田上 隆教授は「AIの判断精度は高いが、解釈の誤りによる危険があるため、過度な依存は避けるべき」と述べている。学会は、体調に不安がある場合はAIだけに頼らず、医療者に相談し、わかりやすく説明を受けることの重要性を強調している。また、AIが正しく使われるためには、表現の工夫や専門家のサポートが不可欠であり、とくに緊急時には人との連携が不可欠だとしている。 参考 1) 救急受診すべきか「チャットGPT」助言、利用者が解釈誤る恐れ…「過度な依存避けるべき」(読売新聞) 2) 生成AIによる救急外来受診の推奨に関する妥当性研究-生成AIの回答に対する専門家と非医療従事者の解釈の差が明らかに-(日本救急医学会) 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省厚生労働省は4月3日に社会保障審議会の医療保険部会を開き、マイナ保険証のスマホ搭載のスケジュール案を示した。部会では、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できるようにして、2025年9月頃から希望する医療機関から順次導入を開始する方針を示した。まず、同年6~7月に全国10ヵ所程度の医療機関や薬局で実証事業を実施し、スマホでの操作性や資格確認のエラーなどを検証。問題がなければ、9月から環境の整った医療機関で本格運用を始める。スマホ保険証により、患者はマイナンバーカードを持参しなくても診療を受けられるようになるが、導入は医療機関ごとの任意対応であり、全施設への義務付けは行われない。そのため、スマホ対応していない医療機関も存在し、初めて受診する際にはマイナ保険証や資格確認書の持参が推奨される。マイナ保険証の全国利用率は2025年2月時点で26.6%と依然として低迷しており、政府は利用促進策の一環として、医療機関の診察券とマイナンバーカードの一体化、外付けリーダー導入への補助、顔認証付きカードリーダーの改善などを進めている。救急現場での活用を目指す「マイナ救急」や訪問看護ステーションへのオンライン資格確認導入も併せて推進している。また、後期高齢者医療制度の対象者には、スマホ対応やマイナ保険証の有無にかかわらず、2026年7月まで有効な「資格確認書」を交付し、受診機会の確保を図る。現役世代を中心にスマホ対応の需要は高く、今後の普及とシステム整備に向けた国の支援と広報強化が求められている。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」機能搭載のスマホでの受診 9月ごろから導入へ(NHK) 3) “スマホ保険証”9月ごろから順次運用開始へ マイナ保険証の利用底上げ策 厚労省(CB news) 4) マイナ保険証、利用率26%に(日経新聞) 5) スマートフォンへマイナ保険証機能を搭載、2025年夏頃から対応済医療機関で「スマホ保険証受診」可能に-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府2025年4月1日、感染症危機に備える新たな専門組織「国立健康危機管理研究機構」(JIHS:Japan Institute for Health Security)が発足した。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合により設立され、感染症をはじめとする健康危機への科学的かつ実践的な対応を一元的に担う。米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」として、初動対応の迅速化、研究と臨床の連携強化、情報発信の向上を目指す。JIHSでは、新型コロナウイルス流行時の教訓を踏まえ、感染症の調査・分析、ワクチン・治療薬の開発、診療支援体制の構築を平時から推進。有事の際には、病原体の特徴や患者情報の早期把握、リスク評価を政府に助言する。また、災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も機構内に設置され、現場対応力の強化が図られる。初代理事長にはNCGM前理事長の國土 典宏氏、副理事長には感染研前所長の脇田 隆字氏が就任。厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁と連携し、政策決定に科学的知見を提供する。福岡 資麿厚生労働大臣は「感染症危機管理体制の強化を着実に進める」と述べている。政府はJIHSに対し、6年間の中期目標として「初動対応の迅速化」「研究開発の強化」「有事の臨床機能の整備」「人材育成と国際連携」の4項目を掲げ、国民への平時からの情報発信にも取り組み、次なるパンデミックに向けた備えを社会全体で推進していく方針。4日には東京都内で設立記念式典が開催され、政府関係者や医療機関が参加。國土理事長は「科学と実践を融合し、次の健康危機にも即応できる体制を構築する」と意気込みを語っている。 参考 1) 国立健康機器管理研究機構 2) 日本版CDCが1日発足 感染研と国際医療センターを統合(時事通信) 3) 健康危機に備え新機構発足 略称は「JIHS」 有事の対応能力強化(産経新聞) 4) 健康危機に備え新機構「JIHS」発足 有事対応強化(日経新聞) 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省厚生労働省は、4月3日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、第3期全国医療費適正化計画(2018~2023年度)の実績を報告した。後発医薬品の数量シェアは全国平均81.2%と目標を達成した一方、特定健診・保健指導の実施率(58.1%・26.5%)およびメタボ該当者の削減率(16.1%)は未達となった。医療費は推計49.7兆円に対し、実績48.0兆円と1.7兆円削減されたが、新型コロナによる受診抑制の影響も含まれていた。新たに実施される第4期全国医療費適正化計画(2024~2029年度)では、医療費を全国で約4,336億円削減する方針であり、主な施策として、後発薬・バイオシミラー使用の促進(約2,186億円)、多剤・重複投薬の適正化(約976億円)、効果が乏しい医療(風邪や急性下痢への抗菌薬処方など)の見直し(約270億円)、白内障手術や化学療法の外来移行(約106億円)などが挙げられている。この他、特定健診・保健指導推進による効果は約120億円、生活習慣病重症化予防で約678億円を見込む。加えて、医薬品の使用標準化を進める「地域フォーミュラリ」の導入も検討されている。第4期ではコロナの影響が少ないため、施策の効果がより明確に評価される見込み。また、医療費上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論は2025年秋に持ち越された。医療費増加に直面する中、制度の持続可能性と公平性の両立が課題となっている。 参考 1) 第3期医療費適正化計画の実績評価及び第4期全国医療費適正化計画について(厚労省) 2) 後発薬数量シェア81.2%、3期計画 目標達成 メタボ健診は未達(CB news) 3) 2024-29年度の第4期医療費適正化計画、全国で約4,336億円の医療費適正化効果を見込んでいる-社保審・医療保険部会(Gem Med) 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省民間企業による唾液・尿などを用いた疾患リスク判定サービス(いわゆるDTC検査)の拡大を受け、厚生労働省と経済産業省は、「無資格者が個人に疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反に当たる」との見解を、3月28日付の事務連絡として都道府県に通知した。DTC(Direct to Consumer)検査は、消費者と事業者が直接検体や検査結果をやりとりする仕組みで、近年は遺伝子解析を用いたものも多く、市場拡大が進んでいる。一方で、サービスの品質や信頼性には課題があり、医療行為との境界線が不明確との指摘もあった。今回の通知では、無資格の民間事業者は医学的判断を下すことができないため、検査後のサービスは一般的な測定結果や基準値、測定項目に関する一般的情報の提供に止めるべきとされている。疾患リスクや罹患可能性に関する通知は、医師法に抵触する恐れがあり、今後の規制強化も視野に入る。通知は、医療・介護分野と関連する「健康寿命延伸産業」の事業活動指針の改定に伴い出されたもので、DTC検査を提供する事業者への影響が注目される。 参考 1) 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(厚労省・経産省) 2) 医師資格ない検査ビジネス、疾患リスク通知は「違法」 厚労省と経産省が事務連絡(産経新聞) 3) 疾患リスク通知は「違法」 検査ビジネスで事務連絡(東京新聞)

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5価髄膜炎菌ワクチン、単回接種で良好な免疫応答/Lancet

 生後9~15ヵ月の乳幼児における通常小児ワクチンに併用接種する髄膜炎菌ワクチンについて、血清型A、C、Y、W、Xを標的とする5価髄膜炎菌結合ワクチン(NmCV-5)の併用接種は、承認済みの4価髄膜炎菌結合ワクチン(MenACWY-TT)の併用接種と比較して安全性に問題はなく、非劣性の免疫応答が惹起されたことが、マリ・Centre pour le Developpement des Vaccins-MaliのFatoumata Diallo氏らNmCV-5 EPI study teamによる第III相単施設二重盲検無作為化対照非劣性試験の結果で示された。侵襲性髄膜炎菌感染症は、アフリカのセネガルからエチオピアにかけて広がるmeningitis belt(髄膜炎ベルト)と呼ばれる国々において、壊滅的な被害をもたらす公衆衛生上の問題となっている。2020年の世界保健総会(World Health Assembly)で導入・承認された「2030年までに髄膜炎を克服するための世界的なロードマップ」では、蔓延している髄膜炎菌血清群に対する予防拡大の必要性が、5つの血清型に対する手頃なワクチンを導入するための戦略目標とともに示されていた。Lancet誌2025年3月29日号掲載の報告。NmCV-5 vs. MenACWY-TTの免疫応答を比較 試験は、マリの首都で最大都市のバマコにあるワクチン開発センター(Centre pour le Developpement des Vaccins)で、現地乳児拡大予防接種プログラム(Expanded Program on Immunization:EPI)を完了した生後9~11ヵ月の乳児を募集して行われた。 参加者は9-month EPI受診時に、髄膜炎菌ワクチンを9-month EPI受診時(9ヵ月時接種群)または15-month EPI受診時(15ヵ月時接種群)に接種するよう無作為に1対1.2の割合で割り付けられ、それぞれの指定接種群でNmCV-5またはMenACWY-TTのいずれかの接種を受けるように無作為に割り付けられた。 試験ワクチンと指定されたEPIワクチンは、割り付けを盲検化されていない試験担当者によって準備・接種された。親または保護者、研究者およびその他すべての試験スタッフは、髄膜炎菌ワクチンの割り付けを盲検化された。 髄膜炎菌ワクチンは、生後9ヵ月で麻疹風疹ワクチン(1回目)および黄熱病ワクチンと同時に接種、または生後15ヵ月で麻疹風疹ワクチン(2回目)と同時に接種された。 主要エンドポイントの免疫応答(seroprotective response)はウサギ補体血清殺菌抗体価が8以上と定義し、ワクチン接種後28日目にこの反応を示した5つの髄膜炎菌血清群それぞれの参加者割合の差を推定した。評価はper-protocol集団で行った。 事前に規定した非劣性マージンは、両年齢群の5つの血清群すべてで-10%とした。血清型X群に関するNmCV-5の免疫応答の非劣性は、MenACWY-TTの最も低い血清型群(A群、C群、W群、Y群間で)の免疫応答と比較し評価した。安全性は副次エンドポイントであり、修正ITT集団(無作為化された髄膜炎菌ワクチンを接種された全参加者)で6ヵ月間にわたり評価した。NmCV-5の5つの血清型すべてでMenACWY-TTに対して非劣性 2022年3月24日~8月15日に1,325例が登録され、9ヵ月時接種群に602例が、15ヵ月時接種群に723例が無作為化された。髄膜炎菌ワクチンは、9ヵ月時接種群では602例のうち600例が同一期間に接種された。15ヵ月時接種群600例への髄膜炎菌ワクチンは、2022年9月27日~2023年2月6日に接種された。また両群で、400例がNmCV-5を、200例がMenACWY-TTの接種を受けた。 非劣性を評価したper-protocol集団には、9ヵ月時接種群564例(NmCV-5接種373例、MenACWY-TT接種191例)と15ヵ月時接種群549例(NmCV-5接種367例、MenACWY-TT接種182例)が含まれた。9ヵ月時接種群のper-protocol集団において、NmCV-5接種とMenACWY-TT接種の免疫応答率の差は、血清型A群で0.0%(95%信頼区間[CI]:-1.0~2.0)、C群で-0.5%(-2.3~1.9)、W群で-3.0%(-6.3~0.8)、Y群で-3.0%(-5.4~-0.4)であった。X群については、MenACWY-TT接種のW群との比較で非劣性が評価され、免疫応答率の差は2.3%(95%CI:0.3~4.7)であった。 15ヵ月時にNmCV-5接種を受けた参加者とMenACWY-TT接種を受けた参加者の免疫応答率の差は、血清型A群で0.8%(95%CI:-0.6~3.7)、C群で-0.8%(-3.3~2.5)、W群で0.3%(-1.8~3.5)、Y群で1.4%(-0.6~4.8)であった。X群については、MenACWY-TT接種のY群との比較で非劣性が評価され、免疫応答率の差は1.9%(95%CI:0.0~4.4)であった。 両群のNmCV-5の免疫応答率は、5つすべての血清型について、MenACWY-TTの免疫応答率に対して非劣性であった。 6件の重篤な有害事象が記録されたが、ワクチン接種に関連するものとはみなされなかった。

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第236回 はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省

<先週の動き> 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務 /国がん 3.2025年度の専攻医は過去最多の9762人、外科医が増加/専門医機構 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生 /保団連 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省日本国内で、はしか(麻しん)の患者報告が増加しており、注意が必要となっている。国立感染症研究所の調査によると、今年の患者数はすでに32人に達し、昨年の総患者数に迫る勢い。とくに、ベトナムへの渡航歴がある患者が多く報告されている。患者の年齢層は20~30代が中心で、全患者の7割近くを占めている。はしかは感染力が非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染によって人から人へと伝播する。免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症すると言われており、発熱、咳、鼻水などの風邪のような症状や、発疹が現れる。重症化すると肺炎や中耳炎を合併し、脳炎を発症する場合もある。こうした状況を受け、厚生労働省と外務省は、国民に対し注意喚起を行っている。海外渡航を予定している人は、渡航先の流行状況を確認し、予防接種歴を確認することが推奨されている。予防接種を受けていない場合は、渡航前に接種を検討することが重要である。 参考 1) 麻しんについて(厚労省) 2) 海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起(外務省) 3) 麻しん累積報告数の推移 2018年~2025年(第1~11週)(国立感染症研究所) 4) はしか患者報告相次ぐ 全国で32人 ベトナム渡航で感染か(毎日新聞) 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務/国がん国立がん研究センターは、大腸がんの死亡率低減に向け、全国統一の検診プログラム導入を提言する「大腸がんファクトシート」を公開した。ファクトシートによると、わが国における75歳以上の大腸がん年齢調整死亡率は、諸外国と比較して高い水準にある。1992年から導入された便潜血検査による対策型検診は、死亡率の減少に一定の効果をみせたものの、その減少幅は他国に比べて緩やかである。この要因として、住民検診、職域検診、人間ドックなど、多岐にわたる検診が混在し、精度管理指標の評価が困難であることが指摘されている。結果として、検診の効果が十分に発揮されていない可能性がある。提言では、検診プログラムの全国統一化、または全数把握システムの構築を求め、データの一元管理による精度管理の向上、受診率・精密検査受診率の向上が重要であると強調している。現状では、大腸がん検診の受診率は低迷しており、2023年度の住民検診受診率はわずか6.8%に止まる。また、職域検診など、法的根拠のない検診も存在し、データが十分に公表されていない点も課題となっている。ファクトシートでは、大腸がんの病態、罹患・死亡の動向、リスク要因、検診、治療、今後の対策など、多岐にわたる情報が網羅されている。とくに、日本人のリスク要因として「喫煙、飲酒、肥満、高身長」が挙げられ、食生活や運動習慣の改善が重要であることが示された。また、便潜血検査の有効性が改めて示される一方で、大腸内視鏡検査については、現在進行中の大規模試験の結果を踏まえた慎重な検討が必要とされている。国がんは、今後の対策として、日本人に適した予防法の確立、全国統一プログラムによる検診の実施、受診勧奨の強化、精度管理の徹底などを提言している。とくに、大腸内視鏡検査については、有効性の検証とともに、対象者、処理能力、精度管理、安全性、検査歴などの課題解決に向けた検討を求めている。 参考 1) 大腸がんファクトシート(国立がん研究センターがん対策研究所) 2) 大腸がん検診、全国統一のプログラム実施を 諸外国より高い死亡率 国がんがファクトシート公開(CB news) 3) 大腸がんの罹患数・死亡数低下に向け、まず住民検診、職域検診、人間ドック等に分かれている「がん検診データ」を集約し実態把握をー国がん(Gem Med) 3.2025年度の専攻医は過去最多の9,762人、外科医が増加/専門医機構日本専門医機構は、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人となる見込みであることを明らかにした。医学部定員の増加を背景に、全体として採用数は増加傾向にある。とくに、医師不足が深刻な外科では、前年度比56人増の863人と増加が顕著であった。耳鼻咽喉科も72人増と大幅な伸びを示した。一方、精神科、産婦人科、放射線科などでは減少がみられた。地域別では、東京近郊で増加傾向にあるが、医師不足が深刻な東北地方での増加は限定的。この地域偏在の解消に向け、2026年度からは新たなシーリング制度が導入され、医師不足地域との連携を促進する仕組みとなる。専門研修と並行して研究を目指す「臨床研究医コース」は、25人と増加に転じた。機構は、2026年度に研究奨励賞を創設するなど、研究医育成への支援を強化する方針を示している。また、機構では、医師の地域・診療科偏在を解消しつつ、質の高い専門医育成を目指すため、今後も制度の改善に取り組むとしている。 参考 1) 2025年度専攻医採用数一覧(日本専門医機構) 2) 来年度の専攻医数、過去最多に(Medical Tribune) 3) 新専門医目指す「専攻医」の2025年度採用は9,762名、外科専攻医が増加、東北地方での専攻医増は限定的-日本専門医機構(Gem Med) 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生/保団連マイナ保険証の利用を巡り、全国保険医団体連合会(保団連)が実施した調査で、医療機関の約9割で何らかのトラブルが発生していたことが明らかになった。トラブルの内容としては、氏名や住所の漢字が正確に表示されないケースが最も多く、次いでカードリーダーの接続不良や認証エラー、資格情報が無効となるケース、マイナ保険証の有効期限切れなどが報告されている。これらのトラブルにより、医療機関では窓口業務の負担が増加し、とくに高齢者を中心に、カードリーダーの使用が困難な患者や、使用方法を理解できない患者への対応に時間を要している。また、資格情報などの確認が取れるまで、患者に医療費を全額負担させるケースも発生している。保団連は、こうした状況を受け、トラブル時にバックアップとなる健康保険証の存続を訴えている。従来の保険証は、患者が医療機関を受診する際に資格を証明する重要な役割を果たしており、医療機関と患者の双方にとって有益であることが調査結果からも示唆されている。マイナ保険証の利用には、初診の患者の登録が簡単になる、資格情報の確認がオンラインで可能になるなどのメリットもある。しかし、トラブル発生時の対応に時間がかかることや、再診の患者が多い現状を考慮すると、マイナ保険証のメリットは限定的であるという指摘もある。さらに、マイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書の有効期限は5年であり、2020年にマイナポイント事業でカードを作成した人の更新時期が迫っている。今後、電子証明書の失効によりマイナ保険証が利用できなくなる人が増加し、医療現場でのトラブルがさらに多発することが懸念されている。 参考 1) 保険証発行停止後の医療現場のマイナ保険証トラブルは? 8,000医療機関から回答(保団連) 2) マイナ保険証エラーで「いったん全額負担」1,720件 医療機関を全国調査したら「トラブルあった」9割(東京新聞) 3) マイナ保険証移行後にトラブル 9割の医療機関で 保団連の中間集計(CB news) 4) “マイナ保険証”使えず医療費「患者が全額負担」のケースも多数…保団連が現場トラブルの実態を報告(弁護士JP) 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ自民・公明・維新の3党は3月27日に、社会保障改革に関する協議体の2回目の会合を開き、OTC類似薬(市販薬と類似の医療用医薬品)の保険適用除外について、来週開催される次回の会合で議論することを決定した。維新の会の岩谷 良平幹事長は、会合後の記者会見で、主な議題は協議テーマの選定であり、1回目の会合に続きOTC類似薬の保険給付の見直しを提案したと説明。これに対し、自民・公明両党は改革案の提出を求め、岩谷幹事長は弊害や課題を整理し、協議を進める考えを示した。また、自民・公明両党は専門家を招いての議論を提案したが、維新の会は迅速な改革を主張し対立。結果として、次回の会合に専門家を招くことは見送られた。一方、日本医師会はOTC類似薬の健康保険からの適用除外に強く反対している。保険適用除外による患者の経済的負担増加や受診控えによる健康被害、薬の適正使用が困難になることを懸念している。とくに高齢者や基礎疾患を持つ患者への影響は大きく、医療費全体の増加も指摘した。ドラッグストア協会は、医療費抑制には理解を示しつつも、患者の負担増を懸念し、財源の活用方法を含めた議論を求めている。3党は今後、週1回のペースで協議を重ね、5月中旬までに一定の方向性をまとめる予定。しかし、専門家の参加や改革案の内容を巡り、早くも意見の隔たりが表面化しており、議論の行方は不透明である。 参考 1) 社保改革で実務者が初会合 自公維3党協議(日経新聞) 2) OTC類似薬の保険適用除外、3党で来週協議へ 専門家の出席巡り激しい応酬も 社会保障改革(CB news) 3) 社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化に強い懸念を表明(日医ニュース) 4) ドラッグストア協会 OTC類似薬の保険適用除外論議にコメント(ドラビズオンライン) 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省厚生労働省は、地域医療構想の実現を加速化するため、各都道府県に「推進区域」を設定する取り組みを進めており、新たに兵庫県の「東播磨構想区域」を推進区域に追加した。これにより、全都道府県から計74ヵ所の推進区域が出そろった。高齢化の進展に伴い、2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを占める「いわゆる団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となる。これに伴い、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化することが予想される。地域医療構想は、こうした医療ニーズの増加・複雑化に対応できるような効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するために、各地域で進められている取り組みである。しかし、2025年度を目前に控えた現時点でも、地域医療構想の実現に向けた取り組みの進捗状況は地域によって大きなばらつきがある。具体的には、「病床の必要量と2025年の病床数見込みとの乖離があり、それに関する分析が進んでいない地域がある」「医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成が進んでいない地域がある」といった状況となっている。さらに、すべての構想区域で、救急医療提供体制や医師確保など、医療提供体制に何らかの問題を抱えていることが判明している。そこで厚労省は、地域医療構想実現に向けた動きを加速化するため、2024年3月に、各都道府県におおむね1~2ヵ所ずつ「推進区域」を指定し、当該区域において「推進区域対応方針」を作成し、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する方針を固めた。推進区域は、厚労省と都道府県とで調整し、データ特性だけでは説明できない病床数の差異や、再検証対象医療機関の対応状況、その他医療提供体制上の課題などを総合的に勘案して設定される。各都道府県は、2024年度中に、推進区域の地域医療構想調整会議で協議を行い、当該区域における将来のあるべき医療提供体制、医療提供体制上の課題、当該課題の解決に向けた方向性・具体的な取り組み内容を含む「区域対応方針」を策定し、それに基づく取り組みを推進することが求められる。また、推進区域のうち10~20ヵ所程度は「モデル推進区域」として指定され、厚労省による技術的・財政的支援が行われる。 参考 1) 地域医療構想における推進区域及びモデル推進区域の設定等について(厚労省) 2) 推進区域74ヵ所出そろう、兵庫の「東播磨」追加 25年の地域医療構想 モデル推進区域は16ヵ所(CB news) 3) 地域医療構想実現に向けた取り組みの加速化を目指す【推進区域】、兵庫県明石市、加古川市など含む「東播磨」区域を追加決定-厚労省(Gem Med)

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抗ヒスタミン薬投与後も症状持続の慢性特発性蕁麻疹、remibrutinibが有効/NEJM

 第2世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬を投与しても症状が持続する慢性特発性蕁麻疹患者の治療において、プラセボと比較して経口ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬remibrutinibは、12週時のかゆみと蕁麻疹の複合評価尺度が有意に改善し、重篤な有害事象の発現は同程度だが点状出血の頻度は高かったことが、ドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のMartin Metz氏らが実施した「REMIX-1試験」および「REMIX-2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年3月6日号で報告された。同一デザインの2つの第III相無作為化プラセボ対照比較試験 REMIX-1試験(日本の施設が参加)とREMIX-2試験は、慢性特発性蕁麻疹の治療におけるremibrutinibの安全性と有効性の評価を目的とする同一デザインの第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Novartis Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、スクリーニングの6ヵ月以上前に慢性特発性蕁麻疹と診断され、第2世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬の投与でも症状が持続する患者を対象とした。症状の持続は、スクリーニング前に6週間以上連続でかゆみと蕁麻疹がみられ、無作為化前の7日間に、蕁麻疹活動性スコア(UAS7、0~42点、点数が高いほど重症度が高い)が16点以上、かゆみ重症度スコア(ISS7、0~21点、点数が高いほど重症度が高い)が6点以上、蕁麻疹重症度スコア(HSS7、0~21点、点数が高いほど重症度が高い)が6点以上のすべてを満たすことと定義した。 被験者を、remibrutinib(25mg、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、UAS7のベースラインから12週目までの変化量であった。UAS7で6点以下達成、同0点も達成と2試験で有意に良好 REMIX-1試験に470例(平均[±SD]年齢45.0±14.0歳、女性68.3%)、REMIX-2試験に455例(41.7±14.5歳、65.3%)を登録した。remibrutinib群に613例(REMIX-1試験313例、REMIX-2試験300例)、プラセボ群に312例(157例、155例)を割り付けた。ベースラインで重症の慢性特発性蕁麻疹(UAS7≧28点)であったのは、REMIX-1試験が63.4%、REMIX-2試験は59.1%で、UAS7の平均値はそれぞれ30.3点および30.0点、無作為化の時点での平均罹患期間は6.7±8.6年および5.2±7.2年だった。 ベースラインから12週目までのUAS7の低下は、プラセボ群に比べremibrutinib群で有意に大きく、変化量の最小二乗平均(±SE)は、REMIX-1試験でremibrutinib群が-20.0±0.7点、プラセボ群が-13.8±1.0点(p<0.001)、REMIX-2試験ではそれぞれ-19.4±0.7点および-11.7±0.9点(p<0.001)であった。この効果は24週目まで持続した。 12週目に、UAS7が6点以下であった患者の割合は、プラセボ群よりもremibrutinib群で有意に高く、REMIX-1試験でremibrutinib群が49.8%、プラセボ群が24.8%(p<0.001)、REMIX-2試験でそれぞれ46.8%および19.6%(p<0.001)であり、UAS7において0点を達成した患者の割合も、REMIX-1試験で31.1%および10.5%(p<0.001)、REMIX-2試験で27.9%および6.5%(p<0.001)と有意に優れた。重篤な有害事象の頻度は同程度だが、点状出血が多い 2つの試験を合わせた有害事象の頻度は両群同程度で、ほとんどが軽度または中等度であった(remibrutinib群64.9%vs.プラセボ群64.7%)。重篤な有害事象(3.3%vs.2.3%)および試験薬の投与中止に至った有害事象(2.8%vs.2.9%)の割合も両群に大きな差はなかった。 最も頻度の高い有害事象は、新型コロナウイルス感染症(remibrutinib群10.7%vs.プラセボ群11.4%)、鼻咽頭炎(6.6%vs.4.6%)、頭痛(6.3%vs.6.2%)であり、点状出血(3.8%vs.0.3%)がremibrutinib群で多くみられた。 著者は、「remibrutinibの効果は早期に現れ、投与1週目には症状(かゆみと蕁麻疹)が減少した」「24週目には、remibrutinib群の半数の患者で慢性特発性蕁麻疹の良好なコントロールが得られ、3分の1の患者でかゆみと蕁麻疹が完全に消失した」としている。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 後編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第8回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。今回は、ワクチンで予防できる疾患、生ワクチンの概要の前編に引き続き、不活化ワクチンなどの概要、接種スケジュール、接種で役立つポイントなどを説明する。ワクチンの概要(効果・副反応・不活化・定期または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。そこで、以下にインフルエンザ、百日咳、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、RSウイルス(生ワクチン以外)の生ワクチン以外のワクチンの概要を述べる。これら生ワクチン以外のワクチン(不活化ワクチン、mRNAワクチンなど)は妊娠中に接種することができる。ただし、添付文書上、妊娠中の接種は有益性投与(予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められていること)と記載されているワクチンもあり注意が必要である。いずれも妊娠中に接種することで、病原体に対する中和抗体が母体の胎盤を通じて胎児へ移行し、出生児を守る効果がある。つまり、妊婦のワクチン接種が母体と出生児の双方へ有益ということになる。(1)インフルエンザ妊婦はインフルエンザの重症化リスク群である。妊婦がインフルエンザに罹患すると、非妊婦に比し入院率が高く、自然流産や早産だけでなく、低出生体重児や胎児死亡の割合が増加する。そのため、インフルエンザ流行期に妊娠中の場合は、妊娠週数に限らず不活化ワクチンによるワクチン接種を推奨する1)。また、妊婦のインフルエンザワクチン接種により、出生児のインフルエンザ罹患率を低減させる効果があることがわかっている。生後6ヵ月未満はインフルエンザワクチンの接種対象外であるが、妊婦がワクチン接種することで、胎盤経由の移行抗体による免疫効果が証明されている1,2)。接種の時期はいつでも問題ないため、インフルエンザ流行期の妊婦には妊娠週数に限らず接種を推奨する。妊娠初期はワクチン接種の有無によらず、自然流産などが起きやすい時期のため、心配な方は妊娠14週以降の接種を検討することも可能である。流行時期や妊娠週数との兼ね合いもあるため、接種時期についてはかかりつけ医と相談することを推奨する。なお、チメロサール含有ワクチンで過去には自閉症との関連性が話題となったが、問題がないことがわかっており、胎児への影響はない2)。そのほか2024年に承認された生ワクチン(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:フルミスト点鼻薬)は妊婦には接種は禁忌である3)。また、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、飛沫または接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する4)。(2)百日咳ワクチン百日咳は、成人では致死的となることはまれだが、乳児(とくに生後6ヵ月未満の早期乳児)が感染した場合、呼吸不全を来し、時に命にかかわることがある。一方、百日咳含有ワクチンは生後2ヵ月からしか接種できないため、この間の乳児の感染を予防するために、米国を代表とする諸外国では、妊娠後期の妊婦に対して百日咳含有ワクチン(海外では三種混合ワクチンのTdap[ティーダップ]が代表的)の接種を推奨している5,6)。百日咳ワクチンを接種しても、その効果は数年で低下することから、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2回目以降の妊娠でも、前回の接種時期にかかわらず妊娠する度に接種することを推奨している。百日咳は2018年から全数調査報告対象疾患となっている。百日咳感染者数は、コロナ禍前の2019年は約1万6千例ほどであったが、コロナ禍以降の2021~22年は、500~700例前後と減っていた。しかし、2023年は966例、2024年(第51週までの報告7))は3,869例と徐々に増加傾向を示している。また、感染者の約半数は、4回の百日咳含有ワクチンの接種歴があり、全感染者のうち6ヵ月~15歳未満の小児が62%を占めている8)。さらに、重症化リスクが高い6ヵ月未満の早期乳児患者(計20例)の感染源は、同胞が最も多く7例(35%)、次いで母親3例(15%)、父親2例(10%)であった9)。このように、百日咳は、小児の感染例が多く、かつ、ワクチン接種歴があっても感染する可能性があることから、感染源となりうる両親のみならず、その兄弟や同居の祖父母にも予防措置としてワクチン接種が検討される。わが国で、小児や成人に対して接種可能な百日咳含有ワクチンは、トリビック(沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン)である。本ワクチンは、添付文書上、有益性投与である(妊婦に対しては、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められている)10)が、上記の理由から、丁寧な説明と同意があれば、接種する意義はあるといえる。(3)RSウイルスワクチン2024年より使用可能となったRSウイルスワクチン(組み換えRSウイルスワクチン 商品名:アブリスボ筋注用)11)は、新生児を含む乳児におけるRSウイルス感染症予防を目的とした妊婦対象のワクチンである(同時期に承認販売開始となった高齢者対象のRSウイルスワクチン[同:アレックスビー筋注用]は、妊婦は対象外)。アブリスボを妊娠中に接種すると、母体からの移行抗体により、出生後の乳児のRSウイルスによる下気道感染を予防する。そのため接種時期は妊娠28~36週が最も効果が高いとされている12)(米国では妊娠32~36週)。また、本ワクチン接種後2週間以内に児が出生した場合は、抗体移行が不十分と考えられ、モノクローナル抗体製剤パリミズマブ(同:シナジス)とニルセビマブ(同:ベイフォータス)の接種の必要性を検討する必要があるため、妊婦へ接種した日時は母子手帳に明記することが大切である13)。乳児に対する重度RSウイルス関連下気道感染症の予防効果は、生後90日以内の乳児では81.8%、生後180日以内では69.4%の有効性が認められている14)。これまで、乳児のRSウイルス感染の予防には、重症化リスクの児が対象となるモノクローナル抗体製剤が利用されていたが、RSウイルス感染症による入院の約9割が、基礎疾患がない児という報告もあり15)、モノクローナル抗体製剤が対象外の児に対しても予防が可能となったという点において意義があるといえる。一方で、長期的な効果は不明であり、わが国で接種を受けた妊婦の安全性モニタリングが不可欠な点や、他のワクチンに比し高額であることから、十分な説明と同意の上での接種が重要である。(4)COVID-19ワクチンこれまでの国内外の多数の研究結果から、妊婦に対するCOVID-19ワクチン接種の安全性は問題ないことがわかっており16,17)、前述の3つの不活化ワクチンと同様に、妊婦に対する接種により胎盤を介した移行抗体により出生後の乳児が守られる。逆にCOVID-19に感染した乳児の多くは、ワクチン未接種の妊婦から産まれている17)。妊婦がCOVID-19に罹患した場合、先天性障害や新生児死亡のリスクが高いとする報告はないが、妊娠中後期の感染では早産リスクやNICU入室率が高い可能性が示唆されている17)。また、酸素需要を要する中等症~重症例の全例がワクチン未接種の妊婦であったというわが国の調査結果もある17)。妊婦のCOVID-19重症化に関連する因子として、妊娠後期、妊婦の年齢(35歳以上)、肥満(診断時点でのBMI30以上)、喫煙者、基礎疾患(高血圧、糖尿病、喘息など)のある者が挙げられており、これらのリスク因子を持つ場合は産科主治医との相談が望ましい。一方で、COVID-19ワクチンはパンデミックを脱したことや、インフルエンザウイルス感染症のように、定期的流行が見込まれることから、2024年度から第5類感染症に変更され、ワクチンも定期接種化された。よって、定期接種対象者である高齢者以外は、妊婦や、基礎疾患のある小児・成人に対しても1回1万5千円~2万円台の高額なワクチンとなった。接種意義に加え、妊婦の基礎疾患や背景情報などを踏まえた総合的・包括的な相談が望ましい。また、COVID-19ワクチンについては、いまだにフェイクニュースに惑わされることも多く、医療者が正確な情報源を提供することが肝要である。接種のスケジュール(小児/成人)妊婦と授乳婦に対するワクチン接種の可否について改めて復習する。ワクチン接種が禁忌となるのは、妊婦に対する生ワクチンのみ(例外あり)であり、それ以外のワクチン接種は、妊婦・授乳婦も含めて禁忌はない(表)。表 非妊婦/妊婦・授乳婦と不活化/生ワクチンの接種可否についてただし、ワクチンを含めた薬剤投与がなくても流産の自然発生率は約15%(母体の年齢上昇により発生率は増加)、先天異常は2~3%と推定されており、臨界期(主要臓器が形成される催奇形性の感受性が最も高い時期)である妊娠4~7週は催奇形性の高い時期である。たとえば、ワクチン接種が原因でなくても後から胎児や妊娠経過に問題があった場合、実際はそうでなくても、あのときのあのワクチンが原因だったかも、と疑われることがあり得る。原因かどうかの証明は非常に困難であるため、妊娠中の薬剤投与と同様に、医療従事者はそのワクチン接種の必要性や緊急性についてしっかり患者と話し、接種する時期や意義について理解してもらえるよう努力すべきである。※その他注意事項生ワクチンの接種後、1~2ヵ月の避妊を推奨する。その一方で、仮に生ワクチン接種後1~2ヵ月以内に妊娠が確認されても、胎児に健康問題が生じた事例はなく、中絶する必要はないことも併せて説明する。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠可能年齢女性とその周囲の家族について妊孕性(妊娠する可能性)が高い年代は10~20代といわれているが、妊娠可能年齢とは、月経開始から閉経までの平均10代前半~50歳前後を指す。妊娠可能年齢の幅は非常に広いことを再認識することが大切である。また、妊婦や妊娠可能年齢の女性を守るためには、その周囲にいるパートナーや同居する家族のことも考慮する必要があり、その年齢層もまちまちである(同居する祖父母や親戚、兄弟など)。患者の家族構成や背景について、かかりつけ医として把握しておくことは、ワクチンプラクティスにおいて、非常に重要であることを強調したい。2)接種を推奨するタイミング筆者は下記のタイミングでルーチンワクチン(すべての人が免疫を持っておくと良いワクチン)について確認するようにしている。(1)何かしらのワクチン接種で受診時(とくに中高生のHPVワクチン、インフルエンザワクチンなど)(2)定期通院中の患者さんのヘルスメンテナンスとして(3)患者さんのライフステージが変わるタイミング(進学・就職/転職・結婚など)今後の課題・展望妊娠可能年齢の年代は受療行動が比較的低く、基礎疾患がない限りワクチン接種を推奨する機会が限られている。また、妊娠が成立すると、基礎疾患がない限り産科医のみのフォローとなるため、妊娠中に接種が推奨されるワクチンについての情報提供は産科医が頼りとなる。産科医や関連する医療従事者への啓発、学校などでの教育内容への組み込み、成人式などの節目のときに情報提供など、医療現場以外での啓発も重要であると考える。加えて、フェイクニュースやデマ情報が拡散されやすい世の中であり、妊婦や妊娠を考えている女性にとっても重大な誤解を招くリスクとなりうる。医療者が正しい情報源と情報を伝える重要性が高いため、信頼できる情報源の提示を心掛けたい。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)妊娠可能年齢の女性と妊婦のワクチン(こどもとおとなのワクチンサイト)妊娠に向けて知っておきたいワクチンのこと(日本産婦人科感染症学会)Pregnancy and Vaccination(CDC)参考文献・参考サイト1)Influenza in Pregnancy. Vol. 143, No.2, Nov 2023. ACOG2)産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. 2023:59-62.3)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書4)経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(2024年9月2日)5)Tdap vaccine for pregnant women CDC 6)海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報(IASR Vol.40 p14-15:2019年1月号)7)感染症発生動向調査(IDWR) 感染症週報 2024年第51週(12月16日~12月22日):通巻第26巻第51号8)2023年第1週から第52週(*)までに 感染症サーベイランスシステムに報告された 百日咳患者のまとめ 国立感染症研究所 実地疫学研究センター 同感染症疫学センター 同細菌第二部 9)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)2023年疫学週第1週~52週 2025年1月9日10)トリビック添付文書11)医薬品医療機器総合機構. アブリスボ筋注用添付文書(2025年1月9日アクセス)12)Kampmann B, et al. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.13)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン Q&A(第2版)(2024年9月2日改訂)14)Kobayashi Y, et al. Pediatr Int. 2022;64:e14957.15)妊娠・授乳中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種について 国立感染症成育医療センター16)COVID-19 Vaccination for Women Who Are Pregnant or Breastfeeding(CDC)17)山口ら. 日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果(2023年1月17日付報告)講師紹介

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 前編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第7回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)妊娠可能年齢・妊婦にとってワクチン接種が重要な理由は下記3つである。(1)妊婦がVPDに感染すると、重症化しやすい感染症がある。また、胎児に感染すると胎児に健康問題が生じ、最悪の場合、流産/早産を含め、胎児の生命に関わることがある。(2)一方で、あらかじめワクチンで予防できていれば、高確率でVPDによる上記の事態を免れる。(3)しかし、妊婦は生ワクチンを接種できないため、「妊娠前」に(計画的な)接種が必要である。上記の理由以外に、妊婦が免疫をつけておくと新生児のVPD感染や、それによる重症化を予防することにもつながるVPDもある。つまり、女性1人のワクチン接種の有無が、その女性(妊婦)以外に、胎児、産後の新生児の健康問題にまで関りうるという点において、本稿の重要性は高い。妊娠前に免疫をつけておくべきVPDを表に示す。表 感染症に罹患した場合の胎児および母体への影響画像を拡大する上記以外のあらゆる感染症でも、流早産のリスクが伴うどのワクチンも世界的に安全性と有効性が確かめられているワクチンの概要(効果・副反応・生または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。一方、不活化ワクチンは妊娠中でも接種が可能である(詳細は後編で詳述する)。以下に生ワクチン(麻疹風疹、水痘、ムンプス)について説明する。1)麻疹風疹、水痘、ムンプス(生ワクチン)これら4つの生ワクチンはしばしばMMRV(Measles Mumps Rubella Varicella)と略して表現されることが多い、重要性の高いVPDである。MMRVそれぞれのワクチンについての共通点としては、1歳以上でそれぞれ計2回の接種を受けていることが必要であることが挙げられる。また、感染症としても基本再生産数(R0)*1が高く、麻疹・水痘は空気感染するなど、その感染性の高さも共通項といえる(R0:麻疹12-18、風疹6-7、水痘8-10、ムンプス4-7)。いずれも子供の感染症であるという印象を持つ医師も少なくないかもしれないが、現代においては、小児は定期接種で予防されている割合が格段に増えた。そして、幼少期に定期接種になっていなかったがために、ワクチンを接種する機会がなく、かつ、感染機会もないまま、キャッチアップの機会に恵まれなかった、「置いてけぼりの成人」が主に罹患する感染症であると心得たい。*1基本再生産数(R0:アールノート)集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が大きいほど感染力が強い。それぞれの疾患やワクチンの詳細については、本コンテンツのバックナンバーを参照していただきたい。MRワクチン(麻疹風疹)水痘、帯状疱疹ワクチン流行性耳下腺炎(ムンプス)妊婦に関連する内容を下記に述べる。(1)麻疹麻疹は先進国でも死亡率0.1%の重症感染症である。また、命をとり止めたとしても、呼吸器(肺炎、中耳炎など)や消化器(下痢、口内炎)の合併症が多い。頻度は少ないが神経系合併症は予後不良で、感染してから数週間、数年、数十年後に発症するものもある。胎児が麻疹に感染しても奇形などを来すことはないが、妊婦が感染することで、妊婦の重症化やそれに伴う流・早産のリスクが伴う。わが国での麻疹発生数は、コロナ禍はその感染対策の影響で年間10例以下であったが、いわゆる「コロナ明け」に伴いその数は徐々に増加傾向にある。世界全体では継続的に毎年12~15万人の死者が出ている。麻疹感染の発端はそのほとんどが輸入麻疹(海外から持ち込まれた麻疹のこと:日本人が渡航先で感染して帰国するパターンや、麻疹に感染した海外の人がわが国で発症するパターンなどが代表例)である。インバウンド(海外からの旅行客)が確実に回復し、増加傾向である以上、再度感染者数が増えるのは想像に難くない(図)。図 麻疹累積報告数の推移 2017~2024年(第1~47週)画像を拡大する感染症発生動向 2024年第47週(2024/11/27) 国立感染症研究所より引用麻疹の年代別感染者の割合は、例年20~30代が約半数以上を占めており、女性では妊孕性の高い年代といえる。2000(平成12)年4月2日以降に生まれた人(2024年4月1日時点で23歳以下)は、予防接種制度で2回のワクチン接種を推奨されていた年代であるが、それ以外(24歳以上)は、接種回数が不足している可能性がある*2。妊娠可能年齢の女性には、日常診療での積極的なワクチン接種歴の確認が望ましい。*2 2008(平成20)年4月1日から行われた特例措置(5年間)では、1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれの人に対して、MRワクチン2回目接種が行われた。そのため、この24~33歳(2024年4月1日時点)で特例措置を受けている人は2回接種していることになる。(2)風疹妊婦が妊娠初期に風疹に感染すると、高い確率で胎児にも感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性がある。CRSの3大症状は、難聴、心疾患、白内障だが、その他、精神や身体の発達の遅れなどもある。感染時期が、妊娠初期であればあるほど胎児に異常が認められる確率は高くなるが、妊娠20週以降では異常がないことが多いと報告されている1)。また、成人でも15%程度不顕性感染があるため、母親が無症状であってもCRSは発生し得ることにも留意したい。2012~13年の風疹大流行時には45例のCRSの赤ちゃんが生まれた。その後のフォローアップ調査でCRS児の致命率は24%、CRSを出生した母親の中で風疹含有ワクチンを2回接種した人は0人であった2)。CRSを出生した母親の多くは、単に「風疹ワクチンの必要性や重要性について知らなかった」「誰かが教えてくれていたら…」という、自身の無知に対する後悔の念を述べている3)。妊娠可能年齢の女性やそのパートナーへの事前の情報提供がいかに重要か、また、他人事ではなく、自分事として考えることの難しさについて考えさせられる体験談をぜひご一読頂きたい。なお、風疹流行時の首座は、幼少期に予防接種の機会がなかった40~50代の成人男性である。その年代に対して2019年4月から実施された風疹第5期定期接種は2024年度末まで延期されたが、2024年11月時点で抗体検査を受けた人は500万人弱(対象男性人口の32.4%)、ワクチン接種を受けた人は107万人強(対象男性人口の7.0%)*3と、目標には程遠い結果である。残りの期間(抗体検査は2月末、定期接種は3月末まで)でどこまで接種率が伸びるか、これにはわれわれ医療従事者の啓発力が試されるかもしれない。*3 風疹に関する疫学情報 2025年1月29日現在(3)水痘水痘は2014年10月に1~2歳児での2回の接種が定期接種化され、患者数は大幅に減少した。しかし、そんな中でも国立感染症研究所(感染研)のレポートでブレイクスルー水痘による集団感染事例が報告されるなど、気が抜けない感染症である。水痘は小児に比し、成人で重症化しやすく、中でも妊婦は重症化しやすいハイリスク者である。風疹は妊娠初期の感染でCRSとなるリスクが高いと述べたが、水痘は妊娠中だけでなく、周産期の母児に対しても大きな影響を及ぼす。たとえば、水痘に対する免疫がない妊婦が妊娠中に初感染すると、10~20%で水痘肺炎を発症し、時に致死的となる。その他、妊娠中期の感染で胎児が先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome:CVS)を発症するリスク(2%程度の頻度で出生)があり、周産期(分娩5日前~2日後)では重篤な新生児水痘を生じ得る。妊娠前のブライダルチェックなどで、麻疹風疹についてはよく議論に上がりやすいが、水痘はなぜか忘れられがちである。妊娠前に接種記録を確認し、1歳以降で2回の接種歴が確認できない場合は不足分の接種を推奨したい。次回、後編では、不活化ワクチンなどの概要、接種のスケジュール、接種時のポイントなどを説明する。参考文献・参考サイト1)病原微生物検出情報 (IASR) 先天性風疹症候群に関するQ&A(2013年9月)2)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告. 国立感染症研究所.3)体験談「妊娠中に風疹になって~予防の大切さを伝えたい!~」(風疹をなくそうの会 「hand in hand」)講師紹介

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