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パートナーとの親密な関係性は心疾患患者の回復を促す

 心臓は、特にバレンタインデーの時期になると「愛」と結び付けて語られることが多いが、実際、両者の関連は思っている以上に深いかもしれない。新たな研究で、愛するパートナーの支えは、心筋梗塞や心不全などの心疾患による緊急事態を経験した人の回復を大きく改善する可能性のあることが示された。オタワ心臓研究所(カナダ)のHeather Tulloch氏らによるこの研究結果は、「Canadian Journal of Cardiology」に12月15日掲載された。 この結果を踏まえ、研究グループは、心臓リハビリテーションプログラムには、患者の心臓の健康を支える役割を果たしてくれる親密なパートナーを含めるべきだと提言している。Tulloch氏は、「患者の健康行動やメンタルヘルス、さらに心血管アウトカムの改善を促すには、心臓の治療に加え、関係性を育むことが重要だ。それにより、回復中の患者の情緒的・社会的適応が強化され、最終的にはより良い健康行動につながる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 本研究では、心疾患患者1,444人(男性77%)とそのパートナーを対象とした過去の16件のランダム化比較試験を対象に、患者とパートナーの双方が関与するカップルベースの介入が修正可能な心血管リスク因子、心血管疾患アウトカム、メンタルヘルス、および関係性の質に及ぼす影響を評価した。介入では、心臓の健康に良い食事を用意したり、定期的な運動を促したり、処方薬を確実に服用するようにするなど、心疾患患者を支える上でパートナーが果たす重要な役割に焦点が当てられていた。 解析の結果、レビュー対象となった研究の77%において、パートナーが介入に参加し支援することで、患者の健康行動が改善していた。一方、心血管アウトカムについては、血中脂質濃度や医療の利用など一部の指標に改善が認められたものの、結果は一貫していなかった。また、メンタルヘルスに対する効果も結果は一貫していなかった。さらに、関係性の質について評価していた研究は3件のみで、有意な改善は確認されなかった。 Tulloch氏は、「心疾患がきっかけで絆が深まるカップルもいるが、多くの場合、それは2人の関係性にとっても、当事者それぞれにとっても大きな試練になる。われわれは長年、心疾患は患者にだけ起こる問題ではなく、カップルに生じる問題であることを学んできた」と話している。 研究グループは、カップル参加型の心臓リハビリテーションプログラムについて、さらなる研究が必要だと結論付けている。Tulloch氏は、「カップルが心疾患により良く対処し、心身と関係性の双方の健康を高めるために、パートナーを能動的な参加者として含め、患者とそのパートナーの関係性の中で生じている問題に実質的に対処する介入を開発・検証する必要がある」と述べている。

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多くの患者はPHQの質問内容を正しく解釈できていない

 診察前に渡される質問票に記入しているとき、意味がよく分からず目がうつろになった経験はないだろうか。それは、あなただけではないようだ。症状に関する質問票に患者が混乱することは珍しくなく、それが身体的疾患や精神疾患の診断や治療の妨げになっている可能性のあることが、新たな研究で示された。米アリゾナ大学ツーソン校心理学分野のZachary Cohen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Psychiatry」に12月17日掲載された。 この研究は、うつ病の重症度評価ツールとして広く用いられているPatient Health Questionnaire(PHQ)に焦点を当てたもの。PHQには、PHQ-2、PHQ-8、PHQ-9など質問項目の数に応じて複数のバージョンがある。しかし、最もよく用いられているPHQ-9でも、質問内容が患者にとって分かりにくい場合があると研究グループは指摘している。この研究では、PHQの質問が症状にどの程度、悩まされたかを尋ねる一方で、回答選択肢は症状の発生頻度に焦点を当てている点に着目し、参加者がこれらの質問と選択肢をどのように理解して反応したかが検討された。 Cohen氏らは、Amazon Mechanical Turk(MTurk)で募集した一般集団503人(平均年齢40.63歳)およびOPTIMA研究の参加者である中等度から重度の抑うつを有する349人(平均年齢33.44歳)を対象に、PHQ-8に回答してもらった。その後、PHQ-8の指示内容をどのように解釈したかを、以下の3つの質問で評価した。まず、「ほぼ毎日眠り過ぎているが、そのことに悩まされていない」という睡眠に関する仮想シナリオを参加者に考えてもらい、その上でPHQ-8の「眠り過ぎ」の質問に回答してもらった。この質問では、「0(全くない)」の回答が「眠り過ぎていることに悩まされていない」を意味する。次に、先の回答は、症状に悩まされた程度に基づいたのか、症状の発生頻度に基づいたのか、それともその両方かを尋ねた。最後に、再びPHQに答える際には2つ目の質問で挙げた3つのうちどれを基準に回答するかと尋ねた。 その結果、仮想シナリオに関してPHQ-8の質問の意図を正しく理解できていた、つまり、症状にどの程度悩まされたかを回答していた人の割合は、MTurk群で54.7%、OPTIMA群では15.5%にとどまっていた。この質問についてCohen氏は、「PHQ-8の指示文を文字通り読めば、この場合は『全くない』と答えるはずだ」と指摘している。また、2つ目の質問について、「症状にどの程度悩まされたか」に基づいて回答したと答えた人の割合は、MTurk群で21.3%、OPTIMA群で11.7%にとどまり、さらに、次回以降も同じ解釈をすると答えた人の割合はそれぞれ22.3%と9.9%であった。 Cohen氏は、「これらの結果は、PHQによる評価は患者が実際に経験していることを正確に反映していないことを示唆している。われわれは多くの場合、患者の抑うつ症状について把握するためにPHQを使う。そうした意味で、『どの程度悩まされていたか』という点は非常に重要だ」と話す。同氏は、「例えば、GLP-1受容体作動薬による減量治療が急増しているが、オゼンピック使用者の食欲低下はうつ症状として数えるべきではない。それが薬を使っている主な理由なのだから」と述べ、「PHQが普及している状況に鑑みると、こうした誤解や理解のずれは、非常に広範な問題につながりかねない」と懸念を示している。 Cohen氏はさらに、「同じ経験をしているのに、人によって正反対の回答をするという状況が望ましいとは考えにくい。それが良い結果をもたらすはずがない。この論文は、実際にそれが起きていること、そしてそれが問題になり得ることを示した」と述べている。その上で同氏は、「今後の研究では、患者にとってより分かりやすくなるよう、質問文の言い回しを変更することに焦点を当てるべきだ」との考えを示している。

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抗コリン薬負荷と認知症リスクの評価に有用な予測ツールを検証

 抗コリン薬の使用は、認知機能低下などの副作用と関連している。英国・リバプール大学のInnocent Gerald Asiimwe氏らは、ベースライン時の抗コリン薬の投与量と認知症リスクとの関連性を調査し、抗コリン薬投与指数(ACMI)の外部検証を行った。Age and Ageing誌2025年10月30日号の報告。 2つの大規模前向きコホートであるUKバイオバンク(UKB、研究期間:2000〜15年、参加者:12万5,260例)および米国All of Us(AoU、研究期間:2000〜22年、参加者:9万2,047例)のデータを分析した。臨床的および遺伝的共変量を調整し、死亡を競合リスクとしてCox比例ハザードモデルを用いて、ACMIで算出されたベースライン時の年間抗コリン薬投与量と認知症リスクとの関連性を評価した。探索的遺伝子解析では、UKBにおけるアセチルコリンシグナル伝達経路遺伝子の候補遺伝子解析とAoUにおける多遺伝子ハザードスコアの開発を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおけるACMIリストに掲載されている88種類の薬剤のいずれかの使用は、認知症リスク上昇(UKBハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.09〜1.21、AoU:1.06、1.04〜1.09)および死亡率上昇(UKB:1.23、1.19〜1.27、AoU:1.16、1.13〜1.19)との関連が認められた。・APOEが認知症リスクに及ぼす遺伝的影響が示唆された(UKB[APOEε4 vs.ε3キャリア]HR:2.05、95%CI:1.86〜2.26、AoU:1.61、1.44〜1.80)。・有意な遺伝子と薬剤間の相互作用は認められなかった。 著者らは「2つの大規模コホートにおいて、ベースライン時のACMIスコアの高さが認知症および死亡リスクの上昇と関連していることから、ACMIの外部検証が成功したといえる。因果関係の推論はできないが、これらの知見は、リスク層別化のための予後予測ツールとして、またより安全な抗コリン薬使用に関する将来の研究に役立つ情報として、ACMIが潜在的に有用であることを裏付けている」としている。

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インターネットは高齢介護者の孤独感の緩和に役立つ

 高齢者における孤独感の問題は、世界的な課題として浮上しつつある。特に、家族などの介護をしている人は、介護という責任重大な仕事の性質上、孤独感がいっそう強まりやすい傾向がある。こうした人の孤独感は、インターネットの使用により緩和され得ることが、新たな研究から明らかになった。インターネットを通じて他者や社会とのつながりを保つことは、高齢介護者の孤独感やそれが健康に及ぼす悪影響の軽減に役立つ可能性が示されたという。米ニューヨーク大学(NYU)ローリー・マイヤーズ看護学部のXiang Qi氏らによるこの研究結果は、「JMIR Aging」に11月27日掲載された。 本研究の背景情報によると、高齢介護者の約15%が孤独を感じており、認知症患者の介護者は、他の介護者に比べて孤独感を経験する可能性が1.62倍高いという。Qi氏は、「介護は、介護対象者を持ち上げたり手伝ったりすることに起因する慢性的なストレスや不安、痛みなどが心身に大きな負担をかける。実際、多くの介護者は、他人のニーズに気を取られ過ぎて、自分の健康をおろそかにしている」と指摘している。 今回の研究では、2019年から2020年にかけて、カリフォルニア州健康面接調査で収集された65歳以上のインフォーマルな介護者3,957人(平均年齢72.46歳、女性58.6%)のデータを用いて、介護の健康への影響やインターネットの使用頻度と孤独感との関連などが検討された。対象者の孤独感は、UCLA孤独感尺度3項目版により評価された。また、介護が介護者の健康に及ぼす影響については、「介護に伴う責任が原因で身体的または精神的な健康問題を抱えていますか?」という質問により評価した。さらに、インターネットの使用頻度は4段階(1日数回未満の使用、1日数回使用、1日何回も使用、ほぼ常に使用)で評価された。 その結果、475人の対象者(12.0%)が、介護により身体的または精神的な健康問題を抱えていることを報告した。解析の結果、介護関連の健康問題を経験した介護者は、経験しなかった介護者と比較して孤独感のレベルが有意に高かった。一方、インターネットの使用頻度が高いほど、孤独感のレベルは低かった。さらに、インターネットの使用は、介護関連の健康への影響と孤独感との関連を有意に緩和することも示された。 研究グループは、「これらの結果は、テクノロジーが若者の間に孤立を生み出しているという広く共有されている認識に反するものだ」と指摘している。Qi氏は、「インターネットを使って友人や家族、他の介護者とつながることは、実際に介護の精神的負担を軽くしてくれる。家から出られないときでも、人々や情報とつながることができる橋のようなものだと考えてほしい」とNYUのニュースリリースの中で述べている。 ただし、この研究では、介護者がオンラインで何をしていたかまでは把握されていなかった。Qi氏は、今後の研究でこの点を調査する予定だと話している。同氏は、「インターネットでの活動内容が重要な可能性がある。例えば、オンラインゲームは介護者がリラックスして過ごすのに役立つかもしれないが、バーチャルサポートグループへの参加や友人とのビデオチャットなど、他者と交流する活動の方が孤独感を軽減する効果が大きいだろう。私の直感では、社会的な交流やサポートを受ける活動は受動的な活動よりも孤独感を軽減する効果が高い。それを裏付ける研究が必要だ」と述べている。 今回の結果を踏まえて研究グループは、高齢の介護者に対し、他の人と連絡を取り合ったり、サポートを見つけたり、新しいスキルを学んだり、健康問題に関する信頼できる情報にアクセスしたりするために役立つツールとしてインターネットを活用することを奨励している。

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日本人末期がん患者のせん妄、その発生率と薬理学的介入の現状

 末期がん患者では、疼痛やせん妄の発生が少なくない。しかし、疼痛管理のために投与されるオピオイドは、患者のせん妄を悪化させる可能性がある。名古屋市立大学病院の長谷川 貴昭氏らは、がん性疼痛とせん妄を有する末期がん患者において、実際の症状経過とオピオイドおよび抗精神病薬を含む薬理学的介入との関連を調査するため、多施設共同プロスペクティブ観察研究の2次解析を実施した。Palliative Medicine Reports誌2025年10月24日号の報告。 対象は、日本のホスピスまたは緩和ケア病棟に入院している成人患者のうち、Palliative Performance Scale(PPS)が20点以下に低下した時点(1日目、死亡直前)で、がん性疼痛(Integrated Palliative care Outcome Scale[IPOS]の疼痛スコア2以上)およびせん妄を有していた患者。薬理学的治療戦略、疼痛レベル(IPOSに基づく)、せん妄症状(Memorial Delirium Assessment Scale[MDAS]の9項目に基づく)を測定した。 主な結果は以下のとおり。・1,896例のうち、PPSが20点以下に低下した1日目に適格性の評価を受けた患者は1,396例で、そのうちの137例が解析対象の包含基準を満たした。・興奮性せん妄(多動性または混合性)が認められた患者は86例(63%)で、生存期間中央値は3日であった。・薬理学的治療戦略については、オピオイドの開始/用量漸増が32例(23%)に、抗精神病薬の定期投与が94例(69%)に行われていた。・オピオイドの開始/用量漸増と抗精神病薬投与の両方が行われていた患者は25例(18%)であった。・患者全体の約55%は、2日目に持続性がん性疼痛(IPOSの疼痛スコア2以上)が認められた。・興奮性せん妄が認められた患者のうち、2日目にも興奮症状が継続した患者の割合は79%であった。 著者らは「専門的な緩和ケアにもかかわらず、人生最後の数日間に生じるがん性疼痛とせん妄の複合的な苦痛は、依然として複雑かつ難治性であることが明らかとなった」とまとめている。

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退職後でも認知機能が維持される人の特徴は?

 多くの先進国において、公的年金の受給年齢の引き上げが行われている。これは、退職を遅らせることで認知機能の老化に影響を与える可能性がある。しかし、退職が認知機能に及ぼす影響は個人や状況によって異なる可能性が高いと考えられる。慶應義塾大学の佐藤 豪竜氏らは、退職と認知機能の異質性について、その関連性を調査した。International Journal of Epidemiology誌2025年10月14日号の報告。 米国、英国、欧州で行われた3つの縦断研究(Health and Retirement Study、English Longitudinal Study on Ageing、Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe)より得られたデータを統合し、分析した。本データセットは、2014〜19年に19ヵ国で実施された3つのwave調査を網羅している。本研究では、wave1では、就労していた1万2,811人を対象とし、各調査で共変量情報を収集した。wave2では、50〜80歳の参加者の退職状況を評価した。wave3では、単語想起テストを用いて認知機能を測定した。本分析では、退職の判断基準として公的年金受給年齢を用いた操作変数因果フォレスト推定法を採用した。 主な結果は以下のとおり。・退職傾向スコアが0.1〜0.9であった7,432人のうち、2,165人(29.1%)がwave2で退職していた。・分析の結果、退職者は労働者よりも平均1.348語多く記憶していたことが明らかになった。・退職と認知機能の関連は異質性を示した。・より大きな認知的利益が観察された人の特徴は、女性、社会経済的地位の高い人、退職前の健康状態が良好な人、退職前に身体活動を行っていた人であった。 著者らは「観察された異質性の関連は、政策立案者が年金制度に早期退職の選択肢を組み込み、個人がそれぞれの状況に基づいて退職を決定できるようにすることを検討すべきであることを示唆している」とまとめている。

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日本における統合失調症患者の退院後の治療失敗と関連する因子は?

 統合失調症スペクトラム症は、社会機能障害を引き起こす最も重篤な精神疾患の1つである。統合失調症スペクトラム症患者は再発しやすく、入院を必要とする患者では、より再発リスクが高いため、退院後の治療失敗を予防することが不可欠である。北里大学の斉藤 善貴氏らは、精神科入院による治療を行った統合失調症スペクトラム症患者における退院後の治療失敗に関連する因子を明らかにするため、レトロスペクティブ研究を実施した。PCN Reports誌2025年10月7日号の報告。 対象は、2014年1月〜2021年12月に北里大学病院および北里大学東病院の精神科に入院した統合失調症スペクトラム症およびその他の精神病性障害と診断された859例。治療失敗の定義は、退院後1年以内の外来治療中止、精神科入院、死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・治療失敗患者は、859例中201例(23.4%)であった。・抗精神病薬多剤併用療法患者の治療失敗率は29.0%であり、多剤併用療法を行っていなかった患者と比較し、有意に高かった。・さらに、入院中に自宅での外泊を試行した患者における治療失敗率は20.8%であり、試行しなかった患者と比較し、有意に低かった。 著者らは「統合失調症スペクトラム症患者において、退院時の抗精神病薬多剤併用は治療失敗と関連していた。さらに、入院中に自宅での試験的な外泊を行うことは、治療失敗の予防に寄与する可能性が示唆された」とし「統合失調症スペクトラム症患者の治療失敗を予防するには、退院後に焦点を当て、薬物療法の最適化と社会的・環境的調整の実施が必要である」と結論付けている。

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ヘルペス陽性早期アルツハイマー病、バラシクロビルは有効か?/JAMA

 神経科学的、疫学的、および電子的健康記録を用いた研究において、単純ヘルペスウイルス(HSV)がアルツハイマー病(AD)の病態形成に関与する可能性が示唆されている。米国・New York State Psychiatric InstituteのD. P. Devanand氏らは、早期AD症状を有するHSV(HSV-1またはHSV-2)陽性の患者を対象に、HSVに有効な抗ウイルス薬であるバラシクロビルの臨床的ベネフィットを検討するプラセボ対照無作為化試験「VALAD試験」を実施。主要アウトカムの認知機能の悪化に関して、バラシクロビルの有効性は示されなかったことを報告した。著者は、「早期AD症状を有するHSV陽性患者に対する治療に、バラシクロビルは推奨されないことが示唆された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年12月17日号掲載の報告。対プラセボで78週の認知機能の変化を評価 VALAD試験は、臨床的にADが疑われると診断またはADバイオマーカーが陽性で軽度認知障害(MCI)と診断され、HSV-1またはHSV-2の血清抗体検査(IgGまたはIgM)が陽性、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが18~28の成人を対象とした。 試験は、米国の記憶障害に関する外来専門クリニック3施設で実施された。被験者募集は2018年1月~2022年5月に行われ、適格被験者はバラシクロビル4g/日投与群または適合プラセボ群に無作為に割り付けられ追跡評価を受けた。最終フォローアップは2024年9月であった。 主要アウトカムは、11項目のAlzheimer's Disease Assessment Scale Cognitive(ADAS-Cognitive)サブスケールスコア(範囲:0~70、高スコアほど障害が重いことを示す)について、78週時点における最小二乗平均(LSM)変化量であった。 副次アウトカムは、(1)Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living(ADCS-ADL)スケールスコアのLSM変化量、(2)6つの脳領域(内側眼窩前頭皮質、前帯状皮質、頭頂葉、後帯状皮質、側頭葉、楔前部)に関する、18F-florbetapirを用いたアミロイドPETの標準化集積比(SUVR、高スコアほどアミロイドが高レベルであることを示す)のLSM変化量、(3)4つの脳領域(扁桃体、海馬、嗅内野、海馬傍回)に関する、18F-MK-6240を用いたタウPETの側頭葉内側部SUVR(高スコアほどタウが高レベルであることを示す)のLSM変化量であった。 有害事象の発現頻度を安全性アウトカムとした。バラシクロビル群のほうが認知機能の悪化が大きい 120例が無作為化され(バラシクロビル群60例、プラセボ群60例)、うち93例(77.5%、バラシクロビル群45例、プラセボ群48例)が試験を完遂した。被験者120例は、平均年齢71.4歳(SD 8.6)、女性が55%、ADと診断された者が75%、MCIと診断された者が25%であった。人種別では白人が両群とも76.7%を占めている。 78週時点で、11項目のADAS-CognitiveサブスケールスコアのLSM変化量(主要アウトカム)は、バラシクロビル群10.86(95%信頼区間[CI]:8.80~12.91)vs.プラセボ群6.92(4.88~8.97)であり、バラシクロビル群がプラセボ群よりも認知機能の悪化が大きいことが示唆された(群間差:3.93、95%CI:1.03~6.83、p=0.01)。 副次アウトカムは、いずれも78週時点で、(1)ADCS-ADLスケールスコアのLSM変化量はバラシクロビル群-13.78(95%CI:-17.00~-10.56)vs.プラセボ群-10.16(-13.37~-6.96)であり(群間差:-3.62、95%CI:-8.16~0.93)、(2)18F-florbetapirアミロイドPET SUVRのLSM変化量は0.03(-0.04~0.10)vs.0.01(-0.06~0.08)であり(群間差:0.02、-0.08~0.12)、(3)18F-MK-6240タウPET側頭葉内側部SUVRのLSM変化量は0.07(-0.06~0.19)vs.-0.04(-0.15~0.07)であった(群間差:0.11、-0.06~0.28)。 最もよくみられた有害事象は、クレアチニン値上昇(バラシクロビル群5例[8.3%]vs.プラセボ群2例[3.3%])、COVID-19感染(3例[5.0%]vs.2例[3.3%])であった。

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アルツハイマー病/MCI患者の認知機能保護にω3脂肪酸は有効か?〜メタ解析

 アルツハイマー病や軽度認知障害(MCI)患者において、ω3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)が脳活動に有益な効果をもたらすことが報告されている。しかし、認知機能改善に対するn-3 PUFAによる食事介入の有効性については、一貫した知見が得られていない。中国・鄭州大学のPipasha Khatun氏らは、n-3 PUFAによる食事介入がアルツハイマー病またはMCIと診断された患者の認知機能に及ぼす影響を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Nutrition Reviews誌オンライン版2025年10月1日号の報告。 n-3 PUFA摂取量と認知機能関連アウトカムとの関連性を検証したランダム化比較試験をPubMed、PubMed Central Library、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索した。9研究の包括的評価を行い、そのうち7研究をメタ解析に含めた。著者、出版年、研究分野、研究種類、病態(アルツハイマー病またはMCI)などの重要な詳細情報をデータ抽出手順に組み込んだ。対象研究の評価には、コクランのバイアスリスク評価尺度、ランダム効果モデル、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・n-3 PUFA摂取は、全検査IQ(FSIQ)(SMD:-0.82、95%CI:-1.57〜-0.08、p=0.000)、情報処理(SMD:-2.90、95%CI:-5.25〜-0.56、p=0.000)、認知機能における数字記憶/ワーキングメモリ/注意力(SMD:-1.89、95%CI:-3.27〜-0.51、p=0.000)の改善に有効であることが示唆された。・一方、n-3 PUFA摂取は、画像補完(SMD:-0.07、95%CI:-0.50〜0.35、p=0.000)、図の配置(SMD:-0.08、95%CI:-0.32〜0.16、p=0.075)、ブロックデザイン(SMD:-0.15、95%CI:-0.37〜0.03、p=0.123)、算数的側面(SMD:-0.33、95%CI:-0.61〜0.04、p=0.007)に対する有効性は認められなかった。 著者らは「n-3 PUFAは、MCI患者のFSIQ、情報処理、数字記憶/ワーキングメモリ/注意力などの認知機能改善に有意な影響を及ぼすことが示唆されたが、絵の完成や配置など一部の認知機能領域に対する有効性は認められなかった」とまとめている。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その4】そもそもなんで多重人格は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離性同一症の起源

今回のキーワード記憶喪失知らないふり乳幼児の生存戦略慕うふり産業革命病理化適応度可塑性[目次]1.なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる2.「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」3.参考記事前回(その3)、多重人格になるメカニズムを、脳科学の視点から仮説を使って解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか?この謎の答えに迫るために、今回も引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、進化精神医学の視点から、多重人格の起源に迫ります。なお、多重人格の現在の名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる片岡さんは、安先生に「こんな病気(多重人格)になったんは、私が弱いからですよね」とたずねます。すると、安先生は「違うよ。とても耐えられんような苦しさと悲しさの中で、それでも生き延びる方法を見つけようとしたんや。生きる力が強いんや」と力強く答えます。確かに片岡さんが言うように、多重人格になるのはその脆弱性があるからとその3で説明しました。しかし、進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、「生き延びる方法」として「生きる力が強い」と言えます。どういうことでしょうか? そもそもなぜ多重人格は「ある」のでしょうか?まず多重人格の起源は、記憶喪失の起源を土台にして考えることができます。そこで、記憶喪失の進化の起源を理解する必要があります。この詳細については、関連記事1をご覧ください。記憶喪失の起源とは、約300万年前に人類が助け合いの集団をつくるようになってから、トラウマ体験を「知らないふり」(記憶喪失)で生き延びるという、新しい環境に適応するための生存戦略であると説明しました。ここで、多重人格は大人ではなく子供、とくに乳幼児期のトラウマ体験によって発症することを踏まえると、原始の時代、人類の乳幼児がどんな環境に身を置いていたかに着目する必要があります。その環境とは、現代社会のような人権という概念すらなく、子供、とくに乳幼児の命はとても軽かったでしょう。病気ですぐに死んでしまうので、たくさん子供がつくられました。よくよく考えると、つい近世まで、飢餓の時は、捨て子さえも珍しくありませんでした。児童労働もごく当たり前でした。つまり、現代で禁止されている虐待は、原始の時代ではごくありふれた現象であったことが想定されます。そんななか、親から虐待された子供は、そのトラウマ体験によって記憶喪失になるだけだと、その親の顔を思い出せないのでその親に後追いや抱き着きなどの愛着行動を示すことができません。すると、親はたくさんいる他の兄弟に目をかけるようになり、その子供は構ってもらえなくなります。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は死(淘汰)を意味します。一方で、人格部分として再び現れてでも、その親の顔を認識して愛着行動を示すことができれば、虐待されるにしても、食料は分け与えられるなどの一定の保護が得られます。たとえば、幼児の人格部分が出ていた片岡さんのように、「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と泣くことです。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は生き残るでしょう。そして、主人格は、当初親の顔については記憶喪失になっているわけですが、人格部分が代わりに親との愛着関係をつなぎ留めていてくれたおかげで、やがて成長するにつれていつも一緒にいる大人がおそらく親であると再認識するようになるでしょう。これは、乳幼児の生存戦略です。つまり、大人と違って子供は、「知らないふり」(記憶喪失)だけでは不十分で、「知ってるふり」「慕うふり」(人格部分による愛着行動)もして、何とか親(愛着対象)に食らいついて生き延びるよう進化したでしょう。これが、多重人格の起源と考えられます。大人と違って子供の場合、虐待する親であっても一定の養育行動を引き出さなければ生き延びられないので、親の顔の記憶を喪失して愛着行動を示さない主人格の代わりに、愛着行動を示す人格部分が積極的に出てくる必要があったというわけです。なお、大人になった片岡さんは、気味が悪いと避難所から追い出されるなどのトラブルを起こしていました。しかし、原始の時代は、多重人格として大人になってもそれほど困らなかったと考えられます。なぜなら、原始の社会では、言葉さえなく、その日暮らしでその瞬間を生きているだけであり、人格は1つであるという概念すらなかったからです。ちなみに、言葉を話すようになったのは約20万年前、人格などの概念を用いるようになったのは約10万年前以降、そして人格は1つであり変わらないという合理主義や個人主義の価値観が広がったのは約200年前の産業革命以降です。そしてまさに産業革命以降に、多重人格が病気として認識(病理化)され、報告されるようになったのでした1)。以下のグラフは、「24」、「エクソシスト」、そして今回に論じてきた解離症のすべての起源をまとめたものです。「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、多重人格が「ある」のは、「弱いから」ではなく、子供が「生き延びる方法」(生存戦略)として「生きる力が強い」と言えます。これは、発達心理学の視点では可塑性、進化精神医学の視点では適応度と言い換えられます。つまり、安先生の言葉は、小さい子供の時の片岡さん自身だけでなく、私たちの祖先の人類にも当てはまることだったのです。この点で、このドラマのタイトルである「心の傷を癒すということ」とは、私たち人類が「生き延びるということ」でもあると言えるのではないでしょうか?なお、多重人格の治療については、関連記事2をご覧ください。参考記事ちなみに、虐待を含む不適切な養育(マルトリートメント)における子供の愛着の反応パターンとしては、今回の「知ってるふり」(多重人格)だけでなく、「馴れ馴れしいふり」(脱抑制型対人交流症)や「よそよそしいふり」(反応性アタッチメント症)も挙げられます。これらも、乳幼児の生存戦略であると言えます。多重人格は、脱抑制型対人交流症や反応性アタッチメント症と比べて、幼少期は目立たず潜在しており、その後に顕在化する特徴があります。そして、これらは、その3でも触れたストレンジ・シチュエーション法2)における、以下のタイプと関連しています。 1) 稀で特異な精神症候群ないし状態像、p80:中安信夫、星和書店、2004 2) 乳幼児のこころpp103-104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事米国ドラマ「24」【その2】なんで腰抜けや記憶喪失は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離症の起源スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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抗CGRP抗体は中止したほうが良いのか? 中止後、片頭痛症状はどう変化する?

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体による治療は、片頭痛の予防に有意な効果をもたらしたが、抗CGRP抗体治療中止による長期的な影響は依然としてよくわかっていない。ブラジル・Clinical Hospital of the Federal University of ParanaのLuana Miyahira Makita氏らは、抗CGRP抗体治療中止後の臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年9月30日号の報告。 2024年9月までに報告された研究をPubMed、Embase、Cochraneデータベースより検索した。対象研究は、抗CGRPモノクローナル抗体またはゲバントによる予防的治療を受けた反復性または慢性片頭痛患者における治療中止後の影響を報告したランダム化研究または観察研究とした。主要アウトカムは、ベースラインから中止後までの1ヵ月当たりの片頭痛日数の平均変化とした。副次的アウトカムは、急性頭痛薬の使用、積極的治療から治療中止までの片頭痛頻度の平均変化、50%以上の治療反応率とした。異質性は、二値アウトカムについては予測区間(PI)、連続データについてはI2を用いて評価した。ランダム効果モデルを用いて平均差(MD)とリスク比(RR)をプールし、フォローアップ期間、研究デザイン、慢性片頭痛患者に基づくサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・8研究(1,012例)をメタ解析に含めた。・ゲバントの治療中止後の影響を評価した研究は、見当たらなかった。・1ヵ月当たりの片頭痛日数は、投与中止後、ベースラインと比較して有意に減少した(MD:-3.78、95%信頼区間[CI]:-4.89〜-2.67、I2=57%、p<0.05)。・減少日数は、1ヵ月時点で5.70日、3ヵ月時点で3.62日であった。・慢性片頭痛患者では、投与中止後と投与前期間において、1ヵ月当たりの片頭痛日数が持続的に減少した(MD:-6.54、95%CI:-8.64〜-4.43、I2=68%、p<0.05)。・1ヵ月当たりの急性頭痛薬服用日数は、ベースラインと比較して減少した(MD:-1.74、95%CI:-2.84〜-0.64、I2=0%、p<0.05)。・治療中止3ヵ月後の1ヵ月当たりの片頭痛日数は、中止直前と比較して増加した(MD:4.43、95%CI:2.61〜6.25、I2=86%、p<0.05)。また、1ヵ月当たりの急性頭痛薬の使用日数は3.22日増加した。・50%以上の治療反応率は低下した(RR:0.42、95%CI:0.33〜0.53、PI:0.17〜1.03、p<0.05)。 著者らは「抗CGRP抗体の治療中止後、片頭痛の負担は悪化したが、治療前のレベルよりは低いままであった。抗CGRP抗体の疾患修飾作用と最適な治療中止戦略を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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『がん患者におけるせん妄ガイドライン』改訂、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬など現場で多い処方を新規CQに 

 2025年9月、『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)が刊行された。2019年の初版から改訂を重ね、今回で第3版となる。日本サイコオンコロジー学会 ガイドライン策定委員会 せん妄小委員会委員長を務めた松田 能宣氏(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科/支持・緩和療法チーム)に改訂のポイントを聞いた。――「がん患者におけるせん妄」には、その他の臨床状況におけるせん妄とは異なる特徴がある。がん治療にはオピオイド、ステロイドなどの薬剤が多用されるが、それらが直接因子となったせん妄が多くみられる。さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬に代表されるがん免疫療法の普及に伴い、この副作用としてせん妄を発症する患者も増えている。また高カルシウム血症や脳転移など、がんに伴う身体的問題を背景としてせん妄を発症することもある。進行がん患者におけるせん妄は、その原因が複合的であることが多い。さらに、終末期におけるせん妄では身体的要因の改善が困難であり、治療目標をせん妄の回復からせん妄による苦痛の緩和に変更し、それに合わせてケアを組み立てていく必要もある。総論に7つの個別テーマを新設 2025年版は前版と比較して約40ページ増となった。総論では、「関連する病態についてより詳しく説明できるとよいのでは」という委員会の議論を経て、7つのテーマを追加した。 総論に追加したテーマは以下のようになっている。1.アルコール離脱せん妄(評価のためのスコア、薬物治療)2.術後せん妄(周術期神経認知障害、超高齢・がん外科治療の文脈も含む)3.低活動型せん妄(頻度・症状・鑑別・マネジメント)4.身体拘束に関する考え方(実態・葛藤・多職種アプローチ・法的倫理的視点)5.認知症に重畳するせん妄(頻度・リスク因子・評価・対応)6.せん妄とがん疼痛の合併(終末期、可逆的などで分岐する対応アルゴリズムなど)7.在宅におけるせん妄診療(介護者負担、投与経路制限、在宅継続の可否、在宅アルゴリズムなど) 「アルコール離脱せん妄」はがん患者に限ったものではないが、アルコールが関連するがん、たとえば頭頸部がんとの関連が深いため、別個に取り上げた。通常、せん妄治療にベンゾジアゼピン系薬を単剤で使うことはほぼないが、アルコール離脱せん妄の場合は適応となるなど、治療の独自性も高い。「術後せん妄」は、通常のがん患者におけるせん妄とはまた状況が異なり、頻度も高いため、改めて扱うこととした。 せん妄は「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「活動水準混合型」の3つに分類される。中でも低活動型せん妄は見逃しやすく、がん患者での頻度が高いために取り上げた。「身体拘束」は、これまで過活動型の患者に対し、安全性確保のために拘束するケースがあった。しかし、近年はその有害性が報告されるようになっており、拘束を最小限にするための多職種によるアプローチをまとめた。 高齢化社会の進行の中で「認知症」とせん妄を併発する患者が増えている。なかなか鑑別が難しいが、評価や対応についてまとめた。また、「せん妄とがん疼痛の合併」も非常に多いパターンで、中等度以上の痛みを伴うがん患者の3分の1以上がせん妄を合併している、との報告もある。ここには厚労省科研費里見班による報告があったので、そちらの治療アルゴリズムを掲載している。前版までは病院におけるせん妄治療が中心だったが、在宅医療におけるせん妄も増加していることを受け、介護者の存在や薬剤の制限など、在宅医療独自の状況を踏まえて項目を作成した。CQでは予防と併用療法の項目を追加 CQは4つ新設し、前版の12から15となった。増えたCQは以下のとおりとなっている。CQ3:ラメルテオン単独投与による予防は推奨されるか?CQ4:オレキシン受容体拮抗薬単独投与による予防は推奨されるか?いずれも「単独で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) 予防目的の薬物治療として、新規睡眠薬(ラメルテオン/オレキシン拮抗薬)を明示的に扱うようになったのが大きな変更点となる。いずれも現時点では予防に有効とのエビデンスは確立しておらず、「単独で投与しないことを提案する」との記載となった。予防には非薬物的介入が第1選択という点は前版から変わらないが、実臨床においてはせん妄予防よりも睡眠リズムをつくることを目的に新規睡眠薬を投与する医師が一定数いると予想され、こうした処方までを一概に否定するものではない。高リスク群など一部の集団においては「個々の患者の状況やリスクを適切に評価し、予防的投与の妥当性を判断することが必要」との点も明記した。CQ11:症状軽減を目的に、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与することを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:C) このCQに関する文献は1件のみで、エビデンスとして質の高い研究ではあったものの、試験対象が「すでにハロペリドールを定時投与されている終末期の重症せん妄患者」に限定されていたことには注意が必要だ。よって、どんな症例でも併用投与を推奨するわけでなく、症例ごとの見極めが重要になる。また、試験の治療薬はロラゼパム注とハロペリドール注であったが、日本ではロラゼパム注が使われることは少なく、今後は日本で汎用されているベンゾジアゼピン系薬での検討や、重症例以外の検討が求められる。CQ12:症状軽減を目的に、抗精神病薬+抗ヒスタミン薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) せん妄に認められる不穏の症状に対して、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬を用いることがあるが、抗ヒスタミン薬はせん妄の原因ともなり得るなど安全性の懸念も残る。検討対象となった観察研究では、併用投与によるアウトカム改善は認められなかったため、「併用で投与しないことを提案する」との記載になった。 がん患者のせん妄は、臨床試験が組みにくく、エビデンスが蓄積されにくい分野だ。理由としては、患者ごとにせん妄の原因が異なっているため試験の組み入れ条件をそろえることが難しい、終末期患者が多く同意取得が困難、といった背景がある。一方、患者数は多く、医療者・患者/家族ともケアに悩むことが多い分野でもある。今後も限られたエビデンスを集め、ガイドラインのアップデートや外部評価に努めたい。患者自身や家族がケアに関わることも多いので、同じ学会で作成する『がん患者における 気持ちのつらさガイドライン』『がん医療における 患者・医療者間のコミュニケーションガイドライン』と一緒に、患者向けガイドの作成も進めている。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その3】なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」

今回のキーワード解離性同一症人格部分乳幼児期のトラウマ体験解離性フラッシュバックローカルスリープストレス脆弱性理論トラウマ・スペクトラム愛着タイプD[目次]1.多重人格の特徴とは?2.なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」3.なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル4.脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ心のなかに何人かの別の自分がいる…いわゆる多重人格は何とも不思議で魅惑的です。急に豹変するその様子には、人と接するのに馴れているはずのメンタルヘルスの関係者でも度肝を抜かれることがあります。そして、実は演技じゃないかと疑ってしまうこともあります。はたして、どうなんでしょうか? なぜ多重人格になるのでしょうか? どのようにしてなるのでしょうか?この謎を解き明かすために、今回、再びNHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、多重人格の特徴を説明します。そして脳科学の視点から、乳幼児の脳の特徴を踏まえて、ある仮説を提唱して、多重人格のメカニズムを解き明かします。なお、多重人格の現在の正式名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。また、このドラマについての以前の記事は、関連記事1をご覧ください。多重人格の特徴とは?時は、阪神淡路大震災の直後。精神科医の安(あん)先生は、避難所になっている小学校で診療を続けます。そんななか、安先生はある若い女性を診察するよう頼まれます。彼女の名前は片岡さん。片岡さんの言動から、多重人格の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)心の中に何人かの別の自分がいる―人格部分片岡さんは「これ(予診票の作成)で頭痛薬、いただけるんですか?」と弱々しく話します。しかし、その直後に気を失い倒れてしまい、安先生にベッドで寝かされます。そして、しばらく経って起き上がったら、今度は「にいちゃん、ここ酒あんのか?」「酒もないところで休めるかいな」と荒々しく言い放ちます。あまりの豹変ぶりに、安先生は唖然とします。さらに数日後の診察のあと、安先生は、彼女が小学校の玄関先でうずくまっているのを発見します。安先生が声をかけると、彼女は「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と幼児言葉で泣くのでした。しゃべり方から何から全然違い、まるで別人です。1つ目の特徴は、心の中に何人かの別の自分がいることです。精神医学的には、人格部分と呼ばれます。これは、覚えていること(記憶)をはじめ、気の持ち方(感情)、考え方(思考)、振る舞い方(意欲)、場合によっては感じ方(知覚)などの精神機能が特徴づける自分らしさ(人格)です。それが意図せずに切り替わってしまうのです。なお、意図して何人かの別の「自分」(役)を使い分けている場合は、もちろん演技と呼ばれます。(2)記憶の空白がある-健忘翌日に安先生が、小学校の玄関での出来事を片岡さんに伝えると、彼女は「覚えてません」とまた弱々しく言うだけなのでした。2つ目の特徴は、記憶の空白があることです。精神医学的には、健忘と呼ばれます。これは、それぞれの人格部分との記憶がつながっていないからです。なお、健忘がなく、心のなかに別の自分がいると認識している場合は、二重自我と呼ばれます。また、その別の自分から声が聞こえてくると訴える場合は、幻聴と呼ばれます。これらは、統合失調症の診断が当てはまります。(3)小さい時に虐待されている―乳幼児期のトラウマ体験片岡さんは、安先生に「 父はアパートの管理人をしてて、母は早くに死にました。あたしが小学校に上がる前。父はお酒を飲むと、なんか食えるもんないんかと怒鳴るんです」「いつも取りに(万引きしに)行っていましたと語ります。その後に幼児の人格部分が出てきた時は「ああ、痛い痛い痛い。もうしません、ごめんなさい。許して、パパ」と泣きじゃくります。3つ目は、小さい時に虐待されていることです。精神医学的には、乳幼児期のトラウマ体験と呼ばれます。実際に、多重人格の患者の約90%に、乳幼児期からの繰り返す虐待が報告されています1)。なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」安先生は、片岡さんに「こんなふうに記憶がなくなって、よう困っとるんとちゃう?」「あなたの中にはいくつかの部分があるんやと思う。多重人格。たとえば、あまりにもつらい目に遭うた時、子供はこれは自分の身に起きたことやないと感じる。今苦しんでるのは別の子やと。その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれるんやね。そうやって苦痛をやり過ごした子は、そのあとも複数の人格を生み出しながら、生きていくことになってしまうんや」と説明します。多重人格の原因は、明らかに乳幼児期のトラウマ体験なのですが、それでは実際にはどのようにして人格部分は「生まれる」のでしょうか?脳科学の視点から、多重人格のメカニズムは、同じく解離症に分類される憑依(憑依トランス症)のメカニズムを発展させて解き明かすことができます。そこで、まず憑依のメカニズムを理解する必要があります。この詳細については、関連記事2をご覧ください。憑依のメカニズムは、「ニューラルネットワーク分離作動説」という仮説を提唱して、解き明かしました。ただし、この仮説は、意識から精神機能や身体機能が分離して独自に作動してしまう病態のメカニズムを説明することができますが、作動するだけでなくさらに成長発達までもするメカニズムを説明することはできません。それではさらに、このメカニズムをどう説明すればいいでしょうか?ここで、多重人格の原因となるトラウマ体験の時期は成人期ではなく乳幼児期であることから、子供の脳の特徴に着目します。そして、3つの段階に分けて、多重人格が生まれるメカニズムを解き明かしてみましょう。(1)そもそも小さい子供の記憶はばらばらである幼児は1歳以降でどんどん言葉を覚えていきますが、言葉をつなぎ合わせて出来事(エピソード)を話すようになるのは4歳以降です。また、同じ本の読み聞かせを何度もねだり、同じごっこ遊び(エピソードの演技)を繰り返すのですが、これが少なくとも就学前の6歳まで続きます。つまり、幼児は、エピソード記憶をはじめ脳の機能が未発達であることで、これまでの出来事にしても本の内容にしてもごっこ遊びにしても、大人のようにつながりのある全体的なエピソードとして結び付けたり関連付けることはできず、ばらばらな断片のシーンとしてしか覚えられないのです。だから、読み聞かせもごっこ遊びも何度やっても飽きないのです。1つ目は、そもそも小さい子供の記憶はばらばらである、つまり大人と比べて乳幼児の精神機能はまだ完成(統合)していないことです。ちょうど、前回(2025年11月号)でご紹介した分離脳で脳梁でのネットワークがつながっていないのと同じように、幼児の脳は、エピソード記憶とこれに派生する感情、思考、意欲、場合によっては知覚のニューラルネットワークの複合体の一つひとつがまだ十分につながっておらず、その瞬間を反射的に生きており、意識はその瞬間でころころ変わっていると言えます。また、記憶だけでなく、感情、思考、自己意識などの精神機能もまだ統合されておらず、恐怖を恐怖として感じることができなかったり、体験を過去のこととして俯瞰して自己認識することができないのです。(2)小さい子供はフラッシュバックを現実として認識するその1で地震の揺れ(身体感覚のフラッシュバック)を感じ続ける男の子について説明しましたが、彼は小学生ながらこのフラッシュバックの世界をあたかも現実として認識してしまいそうな危うさがありました。裏を返せば、だからこそ、彼は地震ごっこ(再演遊び)をついやってしまっていたのでした。もしも彼がもっと小さい幼児だったら、そのフラッシュバックを完全に現実として認識していたでしょう。2つ目は、小さい子供はフラッシュバックを現実として認識してしまう、つまり精神機能が未発達であることから自己認識ができず、そのトラウマ体験の記憶(フラッシュバック)の世界が前面に出てしまうことです。これは、解離性フラッシュバックと呼ばれます。大人でも見られることはありますが、圧倒的に子供に多いことが考えられます。このような解離性フラッシュバックは、乳幼児がトラウマ体験を受けた時にPTSDの症状として出てくる場合以外に、もう1つ考えられます。それは、解離性健忘になる場合です。この場合、その体験を含んだエピソード記憶のニューラルネットワークがしばらくローカルスリープになります。この点は、大人と同じです。しかし、その後にそのローカルスリープが再活性化したら、大人のようにその記憶を思い出して心理的なショックを受けたり、ただフラッシュバックが出てくるわけではなく、この解離性フラッシュバックが出てくることが考えられます。そして、多重人格の多くは、主パーソナリティが子供の頃の記憶をあまり思い出せないことから、解離性同一症では、まず解離性健忘になってそのあとに解離性フラッシュバックが出ている後者のパターンであることが考えられます。(3)小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界を生きる解離性フラッシュバックは意識の前面に出て占有していることから、この解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、憑依を引き起こすニューラルネットワークと同じように分離していると考えることができます。この2つの違いは、憑依は宗教儀式(暗示)などによって一時的にしか出現しないのに対して、解離性フラッシュバックは持続して出現することができる点です。よって、解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、その解離性フラッシュバックが出ている(ローカルスリープになっていない)時の新たな日常生活の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながっていき、逆にその解離性フラッシュバックが出ていない(ローカルスリープになっている)時の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながらずに、人格部分として独立して成長していくと仮定することができます。3つ目は、小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界をそのまま生きてしまう、つまり解離性フラッシュバックの記憶のニューラルネットワークが人格部分の土台となり、統合されずに独立してしまい、勝手に成長発達してしまうことです。この記事では、これを「ニューラルネットワーク分離発達説」と名付けます。そして、それぞれの解離性フラッシュバックの出現の時間や頻度によって新たな体験の記憶に差が出てきます。それを考慮すると、かなり成長すれば酒飲みの片岡さんのように成人した人格部分になり、ほとんど成長しなければ幼児言葉を話していた片岡さんのように幼児のままの人格部分になるわけです。よくよく考えると、片岡さんの幼児の人格部分は、成長していないので、当時のトラウマ体験そのままの解離性フラッシュバックであるとも言い換えられます。一方で、成人期に受けたトラウマ体験のフラッシュバックは、大人の脳がすでに完成されていることから、解離性フラッシュバックになったとしてもそもそも短時間(数秒~数分)であり、さらに恐怖で圧倒されて動けないことがほとんどであるため、その時の新たな体験をする間もなく、人格部分として独立して成長していくことはないわけです。だからこそ、成人期に受けたトラウマ体験によってPTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないのです。実際の画像研究では、大人の多重人格において、トラウマ体験の記憶のない主人格とトラウマ体験の記憶のある人格部分のそれぞれの出現時に、中立的な脚本とトラウマ的な脚本をそれぞれ聞かせたところ、主人格の出現時には脚本の違いによって脳の血流パターンに違いは認められませんでした。また、中立的な脚本を聞かせた人格部分との違いも認められませんでした。ところが、トラウマ的な脚本を聞かせた人格部分の脳の血流パターンに限り、違いが認められました2)。このことからも、もちろん多重人格は本人が意図した演技なのではなく、主人格と人格部分のそれぞれ違う脳のニューラルネットワークが交代でローカルスリープになっており、ローカルスリープになっていない(起きている)方が反応していることがわかります。また、ローカルスリープの極端な例として、イルカや渡り鳥は、大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとること(半球睡眠)ができます3)。これは、まさに分離脳と同じように、右脳と左脳のそれぞれの「人格部分」(ニューラルネットワーク)として分離しており、それらが交代制で独立して意思決定をして行動をしていることになります。つまり、イルカや渡り鳥は、多重人格の動物モデルと言えます。人間は、イルカや渡り鳥ほどローカルスリープを進化させてはいませんが、幼児期の重度ストレスは人間のローカルスリープを過剰発達させることができてしまうと言えます。なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル先ほど、虐待されると多重人格になるメカニズムを解き明かしました。一方で、虐待されても多重人格にならない人もいます。その違いは何でしょうか?これは、ストレス脆弱性モデルを使って説明することができます。この理論を簡単に言うと、ストレスが大きければ大きいほど、そしてそのストレスに脳が弱ければ弱いほど発症するということです。実際に、このモデルは多くの精神障害に当てはまります。(1)ストレスが大きければ大きいとまず、ストレスの大きさとしては、明らかに虐待なのですが、さらにそれが繰り返されることも挙げられます。すると、先ほど説明した解離性フラッシュバックがいくつも生まれてしまうわけですが、同時にその回数分だけ脳にダメージを与えるため、それらの解離性フラッシュバックが成長発達とともに統合されにくくなり、結果的に人格部分として残ってしまうと説明することができます。逆に言えば、虐待が繰り返されていない場合はダメージが減るので、解離性フラッシュバックは成長発達とともにやがて統合されて人格部分が残らないことも想定できます。たとえば、虐待が1回だけの場合、解離性フラッシュバックが1回だけ出てきて、人格部分が1つだけ独自に成長して「二重人格」になることはあまりないということです。これは、人格部分が少ない比較的に軽症の症例のほうが統計学的に考えれば多いはずなのに、実際には人格部分の平均人数は8、9人と多く、2、3人の少数の症例はあまり見かけない現象を説明することができます。(2)脳が弱ければ弱いと次に、脳の脆弱性としては、明らかに乳幼児の脳なのですが、とくに脆弱な乳児が挙げられます。実際に、乳児(1歳から1歳半)の愛着タイプを評価するストレンジ・シチュエーション法において、虐待歴のある乳児は、親がいない状況でしばらくして親が戻ってきたら、顔を背けながら近づこうとする特徴(愛着タイプD)が観察されています4)。これは、虐待する親への接近行動と回避行動が同時に現れる奇妙な病態です。このメカニズムは、親に接近しようとするニューラルネットワークと親を回避しようとするニューラルネットワークがまだ交代できず、同時に働いていることが考えられます。ちょうど、「エクソシスト」で紹介した分離脳によるエイリアンハンド症候群に重なります。ただし、このような現象は、年齢が上がると目立たなくなる点で、やはりとくに未発達な脳を持つ乳児特有の一時的な現象と考えられます。そして、この現象からも、幼児よりも乳児の脳はさらに統合されていないことを説明することができます。なお、交代するメカニズムも、それぞれのニューラルネットワーク同士のせめぎ合いの発達から説明することができます。同じように交代する例としては、目の前に伸ばした人差し指2本をつなげると、ソーセージのように見えるのですが、この時にどちらかの指に交互にくっ付くようにも見える視覚現象(両眼視野闘争)が有名です。ちなみに、ストレンジ・シチュエーション法の残りの愛着タイプA、B、Cの3つの詳細については、関連記事3をご覧ください。逆に、成長発達した大人の脳は、乳幼児と比べて脆弱ではないことから、先ほどにも触れたように、成人期に受けたトラウマ体験では、PTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないことを説明することができます。また、前回までに紹介した憑依と同じように、脆弱性(ニューラルネットワークの分離のしやすさ)には個人差があることが考えられます。多くは、人格部分ができたとしても大人になって治っていき(統合されていき)、明らかな人格部分は出てこなくなることが考えられます。ただ、その代わりに、フラッシュバックが残って感情のコントロールが難しくなる病態(複雑性PTSD)や、些細なことで人が変わったように急に怒ったり泣いたりする病態(ボーダーラインパーソナリティ症)になることがあります。これらは、まるで「人が変わった」(人格部分が出てきている)ように見える点では、やはり多重人格との連続性があると言えます。単に、本人が「人が変わった」程度をどれくらい自覚できるかどうかの違いです。なお、多重人格、記憶喪失、憑依現象だけでなく、PTSD(単純性PTSD)、複雑性PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症の診断基準にも解離症状が含まれており、これらはトラウマ体験(重度ストレス)を原因としている点では連続した病態(トラウマ・スペクトラム)であると言えそうです。脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ安先生が言ったように、従来の精神医学では、「その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれる」という多重人格のメカニズムの解釈がありました。これは、私たちの心に訴える文学的なセンスはあったのですが、残念ながら科学的な根拠はありませんでした。脳科学の視点から多重人格のメカニズムに迫ると、人格部分とは、もともと1つだった人格が部分に分かれたのではなく、もともとエピソード記憶のニューラルネットワークの1つ1つの部分が最終的に1つの大きなエピソード記憶のニューラルネットワーク(人格)につながらなかった(統合されなかった)、つまりこの記事で提唱する「ニューラルネットワーク分離発達説」として理解することができます。つまり、人格部分とは、急にぽんと生まれたのではなく、最終的に1つにならなかっただけだったのでした。そう考えると、多重人格はそれほど不思議な現象でもないように思えてきます。今回、多重人格はどうやってなるかを解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか? 1) DSM-5-TR、p323、日本精神神経学会、医学書院、2023 2) 心の解離構造、p196:エリザベス・F・ハウエル、金剛出版、2020 3) <眠り>をめぐるミステリー、p188:櫻井武、NHK出版新書、2012 4) 乳幼児のこころp104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー映画「エクソシスト」【その1】どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」あなたには帰る家がある(後編)【なんで倦怠期は「ある」の?どうすればいいの?】スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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認知機能低下のサインは運転行動に現れる?

 運転行動の変化は認知機能低下の早期サインになる可能性があるようだ。車両に設置したGPS付きデータロガーで収集した、走行頻度、走行時間、急ブレーキなどの運転データは、早期認知機能低下のデジタルバイオマーカーになり得ることが、新たな研究で示された。米ワシントン大学医学部のGanesh Babulal氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に11月26日掲載された。Babulal氏は、「われわれは、GPSデータ追跡デバイスを使うことで、年齢や認知テストの結果、アルツハイマー病に関連する遺伝的リスクの有無といった要因だけを見るよりも、認知機能に問題が生じた人をより正確に特定することができた」と話している。 Babulal氏は、「交通事故のリスクが高い高齢ドライバーを早期に特定することは、公衆衛生上の重要課題だが、リスクのあるドライバーを見極めることは、既存の方法では時間がかかり困難だ」と指摘する。研究グループによると、軽度認知障害(MCI)の高齢者では、運転行動に微妙な変化が生じることが知られているが、その経時的な変化を実測して評価した研究は多くないという。 今回、研究グループは、実際の縦断的な運転データによりMCIの高齢者と認知機能が正常(normal cognition;NC)な高齢者を識別できるかを検討し、さらにその識別精度を、年齢や性別、APOE ε4遺伝子保有などの従来のリスク因子による予測精度と比較した。対象は298人(平均年齢75.1歳、女性45.6%)の高齢者で、このうち56人はMCI、242人はNCだった。試験参加者には毎年、臨床認知症評価尺度による認知機能の評価と神経心理検査が実施され、また、APOE ε4遺伝子の保有状況についても調査された。運転データは、参加者の車両に設置されたGPS付きデータロガーにより、最長40カ月間にわたって取得された。具体的な測定内容は、運転の頻度、時間、距離、時間帯、スピード、急ブレーキ、空間移動性(エントロピー〔訪れる場所の予測の難しさ〕、最大移動距離、行動範囲)などであった。 研究開始時点では、MCI群とNC群の運転行動にほとんど差は見られなかった。しかし、時間が経つにつれ違いが現れ、MCI群では、月間運転回数と夜間運転の頻度が減少し、また訪れる場所の多様性が低下する傾向が認められた。また、このような運転行動データのみを使った場合、MCI群とNC群を82%の精度で識別できることが示された。運転データに人口統計学的特徴やAPOE ε4遺伝子情報、認知機能評価の結果を加えると、精度は87%に向上した。一方、運転行動データを使用せず、従来のリスク因子のみを使用した場合の精度は76%だった。 Babulal氏は、「日常的な運転行動を観察することは、認知機能や日常生活能力を評価する上で、負担が少なく、邪魔にもならない方法だ。これにより、事故やヒヤリハットが起きる前の段階でリスクのあるドライバーを早期に発見し、介入につなげられる可能性がある。もちろん、個人の自律性やプライバシー、インフォームド・コンセントを尊重し、倫理基準を満たすことも不可欠だ」と述べている。

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ミトコンドリア活性化技術で希少疾患に挑む、その機序や効果とは

 “細胞のエネルギー生産工場”とも呼ばれ、ほぼすべての細胞に存在する細胞小器官ミトコンドリア。これを用いた希少疾患の根本治療や加齢対策が、今、現実味を帯びている。先日開催された第7回ヘルスケアベンチャー大賞では、マイトジェニックの「ミトコンドリア活性化による抗加齢ソリューション『マイトルビン』事業」が将来性や抗加齢への観点を評価され、大賞を受賞した。同社が期待を集める創薬技術や将来ビジョンとは―。なぜ今、ミトコンドリア活性化が注目される? 同社は“ミトコンドリア研究の成果を世の中に還元する”を理念に掲げる学習院大学発のベンチャー企業である。同社が開発・特許出願を行った植物由来の低分子化合物「マイトルビン(Mitorubin)」を用いた“ミトコンドリア活性化”という新たな健康軸から、老化予防や加齢性疾患治療薬の創出を目標に掲げて活動を行っている。 ミトコンドリアは身体のエネルギー源をATPとして供給し、その副産物として活性酸素を発生させるが、ミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギー産生の過程で電子の渋滞が起こり、過剰な活性酸素が発生して細胞やDNAを傷付けてしまう。その結果、パーキンソン病などの神経変性疾患、心疾患、フレイル、シミ・シワといった皮膚の外見変化などに影響を及ぼすため、いかにして「ミトコンドリアを活性化させるか」が焦点となっている。これまでにコエンザイムQ10(CoQ10)やニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、5-アミノレブリン酸(5-ALA)などの成分によるミトコンドリアの活性化・増殖促進が産学で試みられているが、同社の開発するマイトルビンはそれらとは一線を画す。マイトルビンによるミトコンドリア活性化の機序 その理由は、ミトコンドリアを活性化させる作用機序が一つひとつ丁寧に解明されつつあるからである。遡ること2006年、ミトコンドリア機能を制御するミトコンドリア酵素Mitochondrial Ubiquitin Ligase(MITOL、マイトル)を柳 茂氏(学習院大学理学部生命科学科分子生化学 教授)らの研究グループが発見したことに端を発する1)。MITOLはミトコンドリアの分裂を進めるタンパク質「Drp1」を分解してその分裂を抑えるほか、小胞体との融合を助けるタンパク質「Mfn2」を活性化させる役割を担う1,2)。近年では、ミトコンドリアと小胞体が接触するミトコンドリア関連小胞体膜(Mitochondria-associated ER membrane、MAM)における酸化ストレスや細胞運命の制御機構にも注目が集まっており3,4)、その機能低下がアルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の病態、さらには心臓の老化に関与することなどから、ミトコンドリアにおける老化制御因子として多彩な研究が進められている5-7)。そして、マイトルビンは前述の柳氏らにより生薬成分ベルベリンから合成された一連の誘導体群の総称で、これがMITOLをはじめとしたミトコンドリアタンパク質を増強しつつ、ミトコンドリアの量そのものを増加させる。それにより、ミトコンドリアでのエネルギー産生が有意に高まることが培養細胞およびマウスモデルで確認された8)。 今回の受賞において、登壇した谷若氏はマイトルビンの有効性について、「筋肉由来の培養細胞に添加することで、エネルギー産生に適した細く長い高品質のミトコンドリアが増加し、ミトコンドリアの呼吸活性が上昇した。これらの実験を踏まえて高齢マウスに飲水投与を行ったところ、心筋ミトコンドリアの呼吸活性が強化され、心エコーなどで心機能の回復が認められた」とコメント。また、安全性については、「同条件下での長期投与による死亡リスクはなく、さらに高脂肪食負荷マウスにおいて、23%の寿命延長効果を確認した」と老齢マウスにおけるアンチエイジング効果が実証されたことを説明した8)。ミトコンドリア病や加齢性疾患の創薬実現に向けて これらの研究結果から、同社は指定難病であるミトコンドリア病患者のアンメットメディカルニーズに応えるべく治療薬開発でも前進している。「某大学医学部と共同研究を行い、MELASと呼ばれるミトコンドリア病の患者由来細胞にマイトルビンを添加した結果、ミトコンドリア機能の改善を認めた」とし、論文化についても言及した。さらに同社は、一般消費者向けにマイトルビン含有植物由来原料を使用したサプリメント「MitoRubin(R)」や入浴剤を販売するなどし、認知度の拡大や収益モデルを構築しながら、ミトコンドリア病治療薬の前臨床試験実施に向けた取り組みを行っている。 最後に同氏は「われわれの目標は希少疾患への創薬提供であり、それに続いて加齢性疾患への適応拡大を目指す。さまざまな領域の研究者・臨床医との連携を強化しつつ、マイトルビンを通じて、すべての世代にミトコンドリアの活性化と健康を届けたい」と締めくくった。ヘルスケアベンチャー大賞とは ヘルスケアベンチャー大賞とは、アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を開き、社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げ、今年で7回目の開催を迎えた。■参考第7回ヘルスケアベンチャー大賞株式会社マイトジェニック1)Yonashiro R, et al. EMBO J. 2006;25:3618-3626.2)Sugiura A, et al. Mol Cell. 2013;51:20-34.3)Nakashima A, et al. Life Sci Alliance. 2019;2:e201800045-e201800045.4)Takeda K, et al. EMBO J. 2019;38:e100999.5)Shiiba I, et al. EMBO Rep, 2021;22:e49097.6)Takeda K, et al. Commun Biol. 2021;4:192.7)Tokuyama T, et al. iScience. 2022;25:104582.8)Sato M, et al. bioRxiv 2025. May 3. [Epub ahead of print]

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1週間のSNSデトックスで若者のメンタルヘルスが改善

 多くの若者にとって、SNSは、友情、ニュース、ストレスなど生活の全てが集まる場所だ。18~24歳の若者を対象にした新たな研究で、たった1週間でもSNSから離れることで、不安や抑うつ、睡眠問題が緩和される可能性のあることが示された。米ハーバード大学医学大学院精神医学准教授のJohn Torous氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に11月24日掲載された。 この研究は、18~24歳の若者を対象に、客観的に測定されたSNSの使用時間と問題のある使い方が若者のメンタルヘルスに与える影響を調べたもの。試験に登録された417人は、2週間の観察的ベースライン期間を経て、任意で1週間のSNSデトックス介入に参加した。 登録者のうち373人(平均年齢21.0歳)がベースラインの評価を受け、295人(79.1%)がデトックス介入に参加することに同意した。デトックスによる変化として評価したのは、抑うつ(Patient Health Questionnaire-9;PHQ-9で評価)、不安(Generalized Anxiety Disorder-7;GAD-7で評価)、不眠(Insomnia Severity Index;ISIで評価)、孤独感(UCLA Loneliness Scaleで評価)であった。 1日当たりのSNSの平均使用時間は、ベースラインで1.9時間であったのが、介入期間中には0.5時間にまで減少した。介入を受けた参加者では、平均して、不安症状が16.1%、抑うつ症状が24.8%、不眠症状が14.5%、それぞれ有意に軽減したことが示された。孤独感については、介入の前後で有意な差は認められなかった。 Torous氏は、「SNSの使用を控えることを、第一選択の治療法や唯一の治療法にすべきではない。ただ、すでにメンタルヘルス問題を抱えていて、それに対する治療を受けているのなら、SNSの使用を減らすことで気分が改善するか試してみる価値はあるだろう」とニューヨーク・タイムズ紙に対して述べている。同氏によると、SNSの使用を減らすことで改善を強く感じた人もいれば、ほとんど変化を感じなかった人もいるなど、効果には個人差があったという。 そのような結果になった一因として、専門家の1人で本研究には関与していない米ステットソン大学心理学教授のChristopher Ferguson氏は、本研究がランダム化比較試験ではなかった点を指摘し、「参加者は期待される行動を知っていたため、それに沿って回答を変えた可能性もある」との見方を示している。 一方で、この結果がSNSとメンタルヘルスの関係についての議論に有益な情報を提供したと評価する専門家もいる。米国心理学会(APA)のチーフサイエンスオフィサーを務めるMitch Prinstein氏は、SNSの一時的な使用休止を、「お金をかけずに試せ、短期間で改善が期待できる簡単な方法」と評価している。同氏は、「これは、親や若者自身が取り組める方法だ。SNSの使用時間を大幅に減らせば、若者の気分がかなり改善する可能性がある」とニューヨーク・タイムズ紙の報道で述べている。 ただし、過去の研究では結果が一貫していない点も指摘されている。一部の研究では、「デジタルデトックス」の効果は小さいかほとんどなかったとされており、効果が長続きするかどうかは、現時点では不明である。

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不眠症は認知機能低下および認知障害リスクと関連

 不眠症は、認知機能の低下および認知障害(cognitive impairment;CI)のリスクと関連があるとする研究結果が、「Neurology」10月7日号に掲載された。 米メイヨー・クリニックのDiego Z. Carvalho氏らは、高齢者における慢性不眠症と、縦断的な認知機能アウトカムおよび脳の健康指標との関連を評価した。対象は、認知機能に障害のない高齢者で、年1回の神経心理学的評価と、連続的な画像評価としてアミロイドPETによるアミロイド負荷量(センチロイド単位)およびMRIで測定した白質高信号(WMH、頭蓋内容積に対する割合)のデータが取得された。全般的認知機能モデルには2,750人、Cox回帰ハザードモデルには2,814人が組み入れられ、追跡期間の中央値は5.6年であった。また、WMHモデルには1,027人、アミロイドPETモデルには561人が組み入れられた。 解析の結果、不眠症は、全般的認知機能スコアの年当たりの低下を0.011ポイント加速させ、認知障害のリスクを有意に高めていた(ハザード比1.4)。また、睡眠時間の減少を伴う不眠症は、ベースライン時の認知機能(β=-0.211)、WMH負荷(β=0.147)、アミロイドPET負荷量(β=10.5)と関連していた。一方、睡眠時間が比較的長かった不眠症患者では、ベースライン時のWMH負荷が低かった(β=−0.142)。不眠症は、WMHやアミロイド蓄積の経時的な変化とは関連していなかった。 Carvalho氏は、「不眠症は翌日の気分に影響を与えるだけでなく、経時的に脳の健康にも影響を及ぼす可能性がある。思考能力の低下の加速や脳の変化が観察されたことから、慢性不眠症は将来的な認知機能障害の早期警告サイン、あるいは寄与因子である可能性が示唆された」と述べている。 なお複数の著者が、バイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」改訂のポイント

 2025年6月、日本認知症学会、日本老年精神医学会、日本神経学会、日本精神神経学会、日本老年医学会、日本神経治療学会の監修により、「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」が公表された1)。2016年の第2版公表から9年ぶりとなる今回の改訂では、最新のエビデンスと新規薬剤の登場を踏まえた、より実践的な治療アルゴリズムが示されている。 本稿では、本ガイドラインのワーキンググループの主任研究者を務めた筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 教授の新井 哲明氏による解説を基に、改訂のポイントと臨床における留意点をまとめる。地域医療におけるBPSD対応の切実なニーズ 認知症患者数は2025年に約471万例、2060年には約645万例に達すると推計されている2)。認知症患者の60〜90%が最低1つは経験するとされるBPSD(行動・心理症状)は、患者本人のQOL低下や早期の施設入所リスクを高めるだけでなく、とくにBPSDにおける過活動・攻撃的行動は、介護者への負担増大により不適切なケアを誘発する「悪循環」を招く最大の要因となっている。 認知症におけるBPSD(行動・心理症状)は、心理症状として、抑うつ、不安、焦燥、無気力・無関心、妄想などがあり、行動症状として、興奮、大声を出す、叩くなどの攻撃的な行動、同じ行動を繰り返す常同行動、徘徊などがある。 この悪循環を防ぐためには、BPSDへの早期かつ適切な介入が不可欠である。地域での支援体制が不可欠であり、とくにかかりつけ医の役割が大きく、早期発見や家族支援、地域包括支援センターや専門医との連携を通じて、認知症の人と家族を支える役割が求められている。 新井氏が紹介した、かかりつけ医200人(内科、精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科)を対象としたアンケート調査では、以下の実態が明らかになった。・処方実態:非専門医であっても約8割がBPSDに対して抗精神病薬を処方している。・処方理由:「危険度が高い時」「介護負担が高い時」が主な理由となっている。・66%の医師が従来のガイドライン(第2版)を活用(参照・利用)している。 この結果は、地域医療の現場においてBPSDへの薬物療法がすでに広く行われていることを示唆しており、より安全で適正な使用指針の普及が急務であった。ガイドライン第3版:BPSDへの対応の原則 今回のガイドライン改訂(第3版)は、新規薬剤の登場やエビデンスの蓄積を反映し、より実践的なアルゴリズムへと刷新された。BPSDへの対応においては、まず以下の原則を順守することが重要となる。 原則として、「緊急性が高く速やかな薬物治療の開始を要するような精神症状が認められた場合には、認知症疾患医療センターを含めた認知症専門医がいる医療機関に紹介する」とされている。たとえば、重度のうつ状態、他者に危害を加える可能性が非常に高い妄想、自分自身や他者を危険にさらす原因となる攻撃性などがそれに相当する。 かかりつけ医・認知症サポート医で対応する場合は以下を考慮する。・せん妄の除外・BPSD様症状を引き起こし得る病態の鑑別:感染症、脱水、便秘、疼痛など・BPSD様症状を引き起こし得る薬剤の除外・レビー小体型認知症の可能性:幻視や妄想、抗精神病薬への過敏性に注意が必要 上記のとおり病態を把握した後、環境調整、ケアの変更、リハビリテーションの利用など、非薬物的介入を優先する。症状が改善しない場合にのみ薬物療法を検討する。薬物治療を開始する際は、低用量で開始する。 向精神薬を使用する場合には、本人・家族との共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)のプロセスを経ることが明記された。本人の意思が確認できる場合は、アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)などによる話し合いを尊重し、本人の理解が不十分な場合や意思が確認できない場合は、家族などと繰り返し話し合い、本人の推定意思と最善利益を踏まえて方針を決定する。向精神薬の使用中は常に減量・中止を念頭に置き、長期使用は避ける、などが明記されている。5つのカテゴリー分類とアルゴリズムの明確化 第2版からの大きな変更点として、BPSDの症状分類が整理された。「過食・異食・徘徊・介護の抵抗」といった薬剤効果が乏しい症状は独立カテゴリーから外れた(非薬物的対応を推奨)。症状は以下の5つに分類され、それぞれの対応方針がアルゴリズムで示されている。・幻覚・妄想:まずメマンチンや抑肝散の投与を検討する。これらにより標的症状が改善せず緊急性が高い場合、抗精神病薬の投与を検討する。レビー小体型認知症にみられる幻視には、まずコリンエステラーゼ阻害薬を投与することが望ましい。・易刺激性・焦燥性興奮(アジテーション):アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動または攻撃的言動に対しては、ブレクスピプラゾールが保険適用を有する。・不安・抑うつ:抗うつ薬やタンドスピロン、抑肝散、クエチアピンの使用を検討する。・アパシー:非薬物的介入が基本だが、コリンエステラーゼ阻害薬が有効なことがある。・睡眠障害:睡眠衛生指導や睡眠覚醒リズムの確立のための環境調整を行った上で、病態に応じてオレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗うつ薬(トラゾドン)の使用を検討する。 BPSDに対する薬剤開始後は、副作用のモニタリングを行った後、患者本人の苦痛や介護者/家族の負担が軽減したかどうかを評価する。NPI-Q(Neuropsychiatric Inventory - Questionnaire)を用いて効果の定量的な評価を行うことが望ましい。抗精神病薬の適正使用と各薬剤の臨床的位置づけ とくに介護負担の大きい易刺激性・焦燥性興奮(アジテーション)について、アルツハイマー型と診断された患者には、非薬物的介入が無効な場合、ブレクスピプラゾールのみ保険適用となっている。 クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関しては、原則として、器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認めるとの通達がある(2011年9月28日、厚生労働省保険局医療課長、保医発0928第1号、社会保険診療報酬支払基金、第9次審査情報提供)。このうち、ハロペリドールは錐体外路系副作用が強いことから、パーキンソン病、レビー小体型認知症には使用禁忌である。 チアプリドは、脳梗塞後遺症に伴う精神興奮・徘徊・せん妄に保険適用があるため、血管性認知症患者における易刺激性・焦燥性興奮に対して使用を考慮してもよい。 睡眠障害に対しては、睡眠薬の項の記載に従った薬剤選択を行い、それでも改善のない場合は、クエチアピンの使用を考慮してもよい。レビー小体型認知症の幻覚・妄想、易刺激性・焦燥性興奮、不安・抑うつ、睡眠障害に対しても、クエチアピンの使用を考慮してもよいと記載されている。 本ガイドラインでは、抗精神病薬の副作用についても詳細に記載されている。留意点として以下のような項目が記載されている。・抗精神病薬の併用(2剤以上)は避ける。・2週間くらいの時間をかけて薬効を評価する。・常に減量・中止が可能かを検討し、長期使用は避ける。抗精神病薬でBPSDが軽快した場合には、投与開始4ヵ月以内に減量・中止を試みる。ブレクスピプラゾールへの期待 2024年9月、ブレクスピプラゾールは「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する過活動又は攻撃的言動」に対し、国内で初めて効能・効果を取得した。・対象:易刺激性・焦燥性興奮といった内的な不穏を背景とする攻撃的言動に適応となる。単なる徘徊や、これらを伴わない幻覚・妄想は適応外である。・有効性:国内第II/III相試験(BRIDGE試験)において、CMAIスコア(アジテーション指標)を有意に改善させた。・安全性:錐体外路症状などの副作用リスクは比較的低いとされるが、他の抗精神病薬と同様に、傾眠、運動緩慢、流涎過多などへの注意は必要である。 本ガイドライン改訂を受けて、大塚製薬主催で6月23日に開催されたプレスセミナーにて、新井氏は自ら経験した症例として「夫婦間で、妻の妄想から暴言・暴力に発展したケース」を紹介した。ブレクスピプラゾールの投与によって症状が落ち着き、夫婦関係も良好になったことを挙げ、本剤が患者の在宅生活の継続に寄与する可能性を示唆した。 新井氏は、「ガイドラインが改訂され、治療アルゴリズムや薬剤の位置づけが明確化された。これらの情報が広くかかりつけ医・認知症サポート医に普及することで、より適切なBPSD診療が実現し、本人のQOL向上や介護負担の軽減といった社会的課題の解決につながることが期待される」と結んだ。

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