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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 3

新しいカテゴリー分けにすると出てくる新たな問題とは? その解決策は?ただし、実際に「テストステロン制限なし」と「テストステロン制限あり」というカテゴリー分けにすることで、新たな問題が出てくることが想定されます。2つ挙げて、その解決策を検討しましょう。(1)「逆ドーピング」への取り締まり1つ目は、「制限あり」のカテゴリーで出場するために、テストステロンを下げる薬を使う男性が出てくることです。テストステロンなどを上げる薬(ドーピング)の逆、つまり「逆ドーピング」です。この解決策としては、ドーピングだけでなく、この「逆ドーピング」も取り締まりの対象にする必要があります。この点で、トランスジェンダー女性が「制限あり」のカテゴリーで出場する場合、見た目の女性らしくするホルモン療法は、テストステロンを下げる「逆ドーピング」になるため不可になります。一方で、トランスジェンダー男性が「制限なし」のカテゴリーで出場する場合でも、見た目を男性らしくするホルモン療法は、テストステロンを上げるドーピングになるため、当然不可になります。つまり、テストステロンに関係する薬は厳正に取り締まる必要があるわけです。あくまで、その選手本人の持つテストステロンのレベルを重要視するという公正さと一貫性が必要になります。よくよく考えると、もはや男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなります。すると、もはや男性らしいか女性らしいかという見た目がどうかよりも、個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。(2)精巣と身体能力の関係への理解2つ目は、性別適合手術(テストステロンをつくる精巣の除去)をしたトランスジェンダー女性だけでなく、病気(両側の精巣がんなど)や交通事故によって精巣を失った男性も、「制限あり」のカテゴリーで堂々と出場することができるわけですが、それに最初は理解が追い付かない人が出てくることです。この解決策としては、精巣と身体能力の関係への理解を広げる取り組みをする必要があります。確かに、手術をしても、骨格自体は以前のテストステロンの影響が残ります。しかし、精巣をなくして一定期間を経れば、筋力をはじめとする身体能力はやはり精巣がなくなった(テストステロン濃度が下がった)影響を強く受けます。また、彼らは、競技に有利になるために、精巣をなくしたわけではありません。この点で、彼らが元男性または男性だからというだけで、「制限なし」のカテゴリーにとどめるのは、「男性差別」に当たります。そして、これは、依然として性別二元制にとらわれていることになります。先ほどと同じように、もはや競技種目を男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなるため、男性かどうか、元男性かどうかという属性よりも、やはり個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。スポーツ競技にも「多様な性にYESの日」が来た時これまで、男女別にしてきかたらこそ、男女の違いに目が行ってしまっていました。これからは、男女の違いではなく、トランスジェンダーや性分化疾患かどうかでもなく、性別適合手術をしたかどうかでもなく、シンプルに血中テストステロン濃度が基準値以下か以上かだけでカテゴリー分けをして、選手個人個人の身体能力の違いとしてスポーツ競技を楽しむという新しい時代の転換期に来ているのではないでしょうか? そんなスポーツにおいても「多様な性にYESの日」が来た時こそ、再びかつてのように性の多様性をありのままに受け入れ、特別視しない世の中になっているのではないでしょうか?1)「同性愛の謎」pp.84-88:竹内久美子、文春新書、20122)「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」p.982:精神科治療学、星和書店、2016年8月3)「パリ・オリンピック女子ボクシング問題から考える誤解だらけの「性分化疾患」」:谷口恭、医療プレミア、20244)「血液検査用テストステロンキット ケミルミ テストステロンII」(添付文書)p.3:シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社、2024<< 前のページへ■関連記事記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 1記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

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高齢者の不眠を伴ううつ病に対する薬理学的介入効果の比較〜ネットワークメタ解析

 高齢者における睡眠障害を伴ううつ病に対するさまざまな薬物治療の有効性と安全性を比較するため、中国・北京大学のJun Wang氏らは、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychogeriatrics誌2025年5月号の報告。 主要な国際データベース(Medline、Cochrane Library、Scopus、Embase、WHO国際臨床試験登録プラットフォーム、ClinicalTrialsなど)より、事前に設定したワードを用いて、検索した。薬物治療またはプラセボ群と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象に含めた。ネットワークメタ解析におけるエフェクトサイズの推定には、標準平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)を用いた。データ解析には、頻度主義アプローチを用いた。安全性評価には、治療中に発現した有害事象および重篤な有害事象を含めた。 主な内容は以下のとおり。・検索された文献8,673件のうち、12件のRCTが基準を満たした(3,070例)。・すべての薬物治療介入は、不眠症重症度指数(ISI)およびうつ病スコアの低下に有効的であった。・セルトラリンは、高齢のうつ病および不眠症患者におけるISIおよびハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の改善において、最も効果的な介入である可能性が高かった。【ISI】SMD:−2.17、95%CI:−2.60~−1.75【HAM-D】SMD:−3.10、95%CI:−3.60~−2.61・安全性評価では、エスシタロプラム、zuranoloneで報告された患者数において、ゾルピデム、seltorexant、エスゾピクロンは、プラセボまたは他の治療薬と比較し、重篤な有害事象リスクが高かった。 著者らは「セルトラリンは、高齢者の睡眠障害を伴ううつ病において最適な治療選択肢である可能性が最も高かった。エスシタロプラム、zuranolone、seltorexantでは、ISI改善において、有意な効果が認められなかった。これらの結果はエビデンスに基づいた臨床実践に役立つはずである」と結論付けている。

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1型ナルコレプシー、oveporexton睡眠潜時を改善/NEJM

 1型ナルコレプシーの治療において、プラセボと比較して血液脳関門を通過する経口オレキシン2型受容体選択的作動薬oveporexton(TAK-861)は、覚醒、眠気、情動脱力発作の指標に関して、用量依存性に8週間にわたり臨床的に意義のある改善をもたらし、不眠や尿意切迫の頻度が高いものの肝毒性は認めないことが、フランス・Gui de Chauliac HospitalのYves Dauvilliers氏らが実施した「TAK-861-2001試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年5月15日号で報告された。4つの用量を検討する第II相無作為化プラセボ対照比較試験 TAK-861-2001試験は、1型ナルコレプシーにおけるoveporextonの有効性と安全性の評価を目的とする第II相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2023年2~10月に米国、欧州、日本、オーストラリアで参加者の無作為化を行った(Takeda Development Center Americasの助成を受けた)。 年齢18~70歳で1型ナルコレプシーと診断された患者112例(平均年齢34歳、女性52%)を登録した。これらの患者を、oveporexton 0.5mg(1日2回)を投与する群(23例)、同2mg(1日2回)群(21例)、同2mg投与後に5mg投与(1日1回)群(23例)、同7mg投与後にプラセボ投与(1日1回)群(23例)、プラセボ(1日2回)群(22例)に無作為に割り付けた。  主要エンドポイントは、覚醒維持検査(MWT)で評価した平均睡眠潜時(入眠までに要した時間:範囲は0~40分、20分以上で正常)のベースラインから8週までの平均変化量であった。副次エンドポイントは、Epworth眠気尺度(ESS)の総スコア(範囲:0~24点、10点以下で正常)のベースラインから8週までの変化量、8週の時点における1週間の情動脱力発作の発生率、有害事象の発現などであった。睡眠潜時とESS総スコアはすべての用量で有意差 MWTによる平均睡眠潜時のベースラインから8週までの平均変化量は、oveporexton 0.5mg×2回群が12.5分、同2mg×2回群が23.5分、同2mg+5mg群が25.4分、同7mg群が15.0分、プラセボ群は-1.2分であり、プラセボ群に比べoveporextonの4つの用量群はいずれも有意に良好であった(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.001)。 8週の時点におけるESS総スコアの平均変化量は、それぞれ-8.9点、-13.8点、-12.8点、-11.3点、-2.5点と、プラセボ群に比べ4つの用量群はいずれも有意に優れた(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.004)。 また、8週の時点での1週間の情動脱力発作の発生率は、それぞれ4.24件、3.14件、2.48件、5.89件、8.76件であり、2mg×2回群と2mg+5mg群で有意差を認めた(プラセボと比較した補正後p値は、2mg×2回群と2mg+5mg群で<0.05)。不眠のほとんどは1週間以内に消失 oveporexton群では、70例(78%)に有害事象が発現した。oveporexton関連の有害事象のうち最も頻度が高かったのは、不眠(48%に発現、ほとんどが1週間以内に消失)、尿意切迫(33%)、頻尿(32%)であった。重度有害事象は7例に認めた。 重篤な有害事象として足関節果部骨折が1例(2mg+5mg群)で発現したが、試験薬との関連はなかった。有害事象による試験中止の報告はなく、自殺行動/自殺念慮、血圧や心拍数の顕著な変動も認めなかった。また、肝毒性は発現しなかった。 著者は、「この試験は他のナルコレプシー治療薬と有効性を比較するものではないが、oveporextonはMWTによる平均睡眠潜時を用量依存性に14~27分近く改善し、現在使用可能なナルコレプシー治療薬で観察されている2~12分の改善に比べ大幅に優れていた」としている。

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自閉スペクトラム症の光過敏に新知見

 自閉スペクトラム症(ASD)は、聴覚過敏や視覚過敏などの感覚異常を伴うことが知られているが、今回、ASDでは瞳孔反応を制御する交感神経系に問題があることが新たに示唆された。研究は帝京大学文学部心理学科の早川友恵氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月1日掲載された。 ASDは、様々な状況における社会的コミュニケーションの障害、ならびに行動や興味に偏りが認められる複雑な神経発達症の一つだ。発達初期に現れるこれらの症状に加え、聴覚・嗅覚・触覚などの問題に併せ、光に対する過敏性(羞明)に悩まされることが多い。 羞明はASDの視知覚における特徴的な症状であり、適切な光量を調節する瞳孔反応の問題に起因している可能性がある。瞳孔反応は瞳孔の散大(散瞳)と収縮(縮瞳)からなり、それぞれ交感神経と副交感神経により適切に制御されている。これまでの研究の多くは、対光反射の観察から「ASDでは光刺激に対して縮瞳が弱い」という結果を導いてきたが、もう一つの可能性である「暗刺激に対して過剰な散瞳が起こっている」という点については十分な研究が行われてこなかった。このような背景を踏まえ、著者らはASDにおける瞳孔反応の神経学的機序を解明するため、明条件と共に暗条件下で瞳孔反応がどのように変化するかを調査した。 本研究は、自閉症者コミュニティより募集したASD17名(ASD群)と参加者募集会社により集められた定型発達23名(TD群)で実施した。両群の感覚特性は日本版青年・成人感覚プロファイル(AASP-J)によって評価された。刺激呈示には24インチのLCDモニターを使用し、瞳孔反応のデータ取得にはサンプリングレート60Hzのアイトラッキングシステムを使用した。実験1では、薄暗い画面(2.75cd/m2)を10秒間提示した後、5秒間隔で明条件(89.03cd/m2)と暗条件(0.07cd/m2)が交互に合計24セット繰り返された。続いて行われる実験2では、薄暗い画面を10秒間提示した後、30秒間隔で明/暗条件が交互に合計10セット繰り返された。 参加者の平均年齢(±標準誤差)は、ASD群とTD群でそれぞれ38.7(±2.3)歳と37.9(±2.0)歳であり、両群間に差はなかった。また、男女比、日本版ウェクスラー成人知能検査による知能検査にも両群間で有意な差は認められなかった。AASP-Jテストでは、ASD群で「感覚過敏」および「感覚回避」スコアが高く、TD群との間に有意差が認められた(t検定、各p<0.01)。 ASD群の瞳孔反応は、特に明暗が急速に切り替わる実験1で瞬きによるデータの欠損が有意に多く(p<0.01)、その結果、評価対象例数が減少した。実験1の薄暗い状態での瞳孔径は、ASD群とTD群で有意差は認められなかった(5.7±0.5mm vs 5.8±0.3mm、p=0.8)ものの、続いて行われた実験2の薄暗い状態での瞳孔径は、ASD群が大きいままなのに対し、TD群で有意に小さくなっていた(5.9±0.3mm vs 4.9±0.3mm、p=0.01)。 明暗刺激時における、ベースラインから瞳孔径の最大変化量(最大振幅)とそれに至るまでの時間(潜時)は両群間で有意な差は認められなかった。しかし、暗条件下の散瞳開始初期の速度は、ASD群で有意に速かった。実験1では、最大振幅の37%に到達するまでの潜時はASD群で有意に速く(p=0.01)、実験2の最大振幅の37%と63%に到達するまでの潜時もASD群で有意に速かった(各p=0.03)。 本研究について著者らは「羞明を伴うことの多いASDでは、薄暗い状態で瞳孔径が大きく、暗条件では散瞳の速度が速い傾向にあることが示された。これらの結果から、ASDでは瞳孔を制御する交感神経の過剰な興奮で散瞳状態にあり、その背景として散瞳と縮瞳をバランスする青斑核の働きに問題があると考えられる。ASDの羞明は、周囲の光に合わせて瞳孔径を適切に調整できないことに起因するのかもしれない」と述べている。

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帯状疱疹ワクチンが認知症を予防する:観察研究が質の低いランダム化比較試験を凌駕するかもしれない(解説:名郷直樹氏)

 水痘ウイルスが長く神経系に留まり、認知機能などに影響を及ぼす可能性が疑われているが、ウェールズでの帯状疱疹生ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン:シングリックスではない)と認知症予防の研究1)とほぼ同時に発表された、オーストラリアの6つの州にまたがる65の一般医(general practitioner)の電子レコードを利用した観察研究である2)。 2016年の帯状疱疹生ワクチンの無料接種が開始された時期に、ワクチン接種対象者と非接種対象者を比較し、認知症の発症との関連を見た、ビッグデータを利用したコホート研究である。 研究デザインが準実験的研究と書かれているように、観察研究でありながらさまざまな工夫がなされた研究である。まず曝露群と比較対照群の設定であるが、実際の接種者ではなく、無料の接種が始まる前に80歳の誕生日を迎えた非接種対象者と、開始後に誕生日を迎えた接種対象者を比較し、ランダム化比較試験のITT(intention to treat)を模倣した解析を行っている。 また、ランダム化されていない観察研究の最大の問題点は交絡因子の調整であるが、この研究では接種開始時期周辺2~3週間に誕生日を迎える対象者に限る解析を行うことで、交絡の危険に対処している。実際にベースラインの両群の背景はよくそろっている。さらに、データ内のワクチン接種対象外のより高齢者のうち接種対象群に最も年齢が近いグループ(1918年5月13日~1927年8月1日に出生)を対照群として追加し、この2つの解析の対象者の背景の違いを検討することでも交絡の可能性を見ている。 結果であるが、7.4年の追跡期間における新規の認知症の診断は、接種対象群で3.7%、非接種対象群で5.5%、リスク差と95%信頼区間は-1.8(-3.3~-0.4)と接種対象群で1.8%少ないというものである。この接種対象群の認知症リスクの低下は、使用する統計モデル、解析対象者の組み入れ幅、追跡期間の違いに対しても一貫して示されている。 また観察研究におけるもう1つのバイアスは、曝露時期と追跡開始時期のギャップによって曝露群にイベントが起きない時期が解析に組み入れられることで起こるimmortal time biasであるが、これも追跡開始の猶予期間を考慮した解析で同様の結果が示され、大きな問題はないと考えられる。 曝露開始前後に対象者を限ることで交絡を避け、猶予期間の考慮でimmortal time biasを避け、RCTに準じたITTに近い解析で行われたこの研究結果は、未知の交絡因子の可能性を除外できるわけではないが、質の低いRCTよりも妥当な結果かもしれない。ビッグデータの利用によって、target trial emulationと共に、今後の観察研究のひな型の1つになる研究である。

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研修医の自殺、研修開始後3ヵ月が最多

 米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)が行った以前の調査によると、2000~14年の米国における研修医・フェローの主な死亡原因は自殺とがんであった1)。後続研究としてACGMEは2015~21年のデータを分析し、以前の結果と比較した。Nicholas A. Yaghmour氏らによる本研究の結果は、JAMA Network Open誌2025年5月14日号に掲載された。 主要アウトカムは前回(2000~14年)と今回(2015~21年)の2つの期間における研修医・フェローの死亡率の差であった。副次的アウトカムは一般の同年代との死亡率の比較、専門分野別の死亡原因の差異だった。 主な結果は以下のとおり。・2015~21年に370万778人の研修医・フェローが96万1,755人年分の研修に参加した。この期間に161人(女性50人[31.1%]、年齢中央値31[SD 29~35]歳)が研修中に死亡した。・47人(29.2%)が自殺、28人(17.4%)ががん、22人(13.7%)がその他の疾患、22人(13.7%)が事故、21人(13.0%)が事故による中毒で死亡した。・がんによる死亡率は、前回から今回にかけて減少した。一方、自殺を含むその他の全原因による死亡率には変化がなかった。・両期間とも、自殺による死亡は研修1年目の最初の3ヵ月間に最も多く発生し(今回:9/47人)、研修の最初の1年間での発生が3割(同:14/47人)を占めた。・今回の研修医・フェローの全原因による死亡率(自殺含む)は、同年代の比較対象群と比べて低かった。・専門分野別では、自殺の死亡率が最も高かったのは病理診断科(10万人年当たり19.76人)、がんの死亡率が高かったのは精神科(10万人年当たり9.67人)、中毒の死亡率が高かったのは麻酔科(10万人年当たり15.46人)だった。 研究者らは「両期間を比較すると、がんによる死亡率が減少した一方、全原因による死亡率は変化しなかった。両期間中に観察された、研修直後の3ヵ月における自殺数は依然として懸念される。研修医支援に向けた今後の取り組みは、とくに初期のストレスの要因と軽減に焦点を当てる必要がある」としている。

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抗精神病薬投与が脳構造変化に及ぼす影響

 精神疾患の自然経過に関連する潜在的な交絡因子を考慮せずに、抗精神病薬がMRI脳構造指標に及ぼす影響を明らかにすることは困難である。しかしながら、薬物治療中の患者を対象とした横断研究および縦断研究の結果を解明し、最終的な抗精神病薬の治療効果に及ぼす生物学的メカニズムの理解を深めるためには、これらの影響をより深く理解する必要がある。英国・King's College LondonのPierluigi Selvaggi氏らは、疾患の影響がない場合に、抗精神病薬投与がMRI脳構造指標の変化と関連しているかを明らかにするため、本検討を行った。Neuropsychopharmacology誌オンライン版2025年5月7日号の報告。 健康ボランティアを対象としたランダム化二重盲検カウンターバランス順序クロスオーバープラセボ対照試験を実施した。抗精神病薬を1週間投与後にプラセボを投与する群またはその逆の投与を行う群にランダムに割り付けた(24例)。抗精神病薬には、Arm1ではamisulpride(400mg/日)、Arm2ではアリピプラゾール(10mg/日)を用いた。 主な内容は以下のとおり。・amisulpride群は、プラセボ群と比較し、左被殻および右尾状核のMRI容積推定値が増加した。・アリピプラゾール群は、プラセボ群と比較し、右被殻のMRI容積推定値が増加した。・皮質容積推定値、皮質厚、皮質表面積、T1緩和時間では、影響は認められなかった。・線条体の変化は、投薬中止後数週間以内で回復した。 著者らは「2種類の異なる抗精神病薬のいずれかを短期間投与すると、T1強調MRIで測定された線条体容積が一時的に増加するが、投与中止後、皮質の変化を伴わずに急速に正常化することが明らかとなった。線条体のMRI容積の違いは、少なくとも部分的に薬理学的作用に影響を及ぼす可能性を示唆している」としている。

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うつ病に対するブレクスピプラゾール増強療法とミトコンドリア遺伝子発現変化

 うつ病患者の20%は治療抵抗性を示し、いくつかの抗うつ薬単剤療法では治療反応が得られない。このような治療抵抗性うつ病患者には、抗精神病薬による増強療法が治療選択肢の1つとなりうる。しかし、抗精神病薬増強療法のメカニズムは、依然として解明されていない。愛媛大学の近藤 恒平氏らは、遺伝子発現レベルにおけるブレクスピプラゾール増強療法の作用メカニズムを解明するため、本研究を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年5月6日号の報告。 マウス神経紋由来の細胞株Neuro2a細胞に媒体、エスシタロプラム、ブレクスピプラゾール、ブレクスピプラゾール+エスシタロプラムを投与し、RNAシークエンシングを行った。20日間投与後のマウスの前頭前皮質、海馬およびうつ病患者の全血における遺伝子発現を測定した。 主な結果は以下のとおり。・定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、RNAシークエンシングおよび遺伝子オントロジー解析において、ミトコンドリア(MT)関連遺伝子の発現上昇が確認された。・これらの発現上昇遺伝子は、Neuro2a細胞およびCaco2細胞の両方で検証された。・うつ病患者の全血において、MT-ATP8の発現低下が認められた。・増強療法を行ったマウスでは、前頭前皮質および海馬において、MT-mRNAの発現変化が確認された。 著者らは「in vitroおよびin vivoの両実験において、ブレクスピプラゾール増強療法によるMT-mRNAの発現変化が確認された。これは、うつ病の病態解明および臨床実践を理解するうえで重要な知見となりうる」と結論付けている。

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バーチャル合唱プログラムで孤立した高齢者の気分やウェルビーイングが向上

 歌を歌うことが魂にとって救いとなることがあるが、バーチャルな集団の中で歌うことにも同様の効果はあるのだろうか? その答えは「イエス」であることが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のロックダウン中にバーチャル合唱団へ参加したことが高齢者の感情面あるいは精神面に良い影響をもたらしたのかどうかを検証した研究で示された。研究によると、孤立した高齢者からは、ZoomやFacebook Liveを介して合唱の練習に参加したことで不安が軽減され、社会とのつながりが深まり、感情的および知的な刺激を受けることができたとの評価が得られたという。米ノースウェスタン大学音楽療法プログラムのBorna Bonakdarpour氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に4月22日掲載された。 Bonakdarpour氏は、「この研究は、バーチャル合唱団への参加が、農村部に住んでいる人や移動に制限のある人、社会的不安を感じている人に、パンデミックに関わりなく恩恵をもたらす可能性のあることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。 この研究は米イリノイ州を拠点とする合唱プログラムの「サウンズ・グッド・クワイア(Sounds Good Choir)」との協働で実施された。パンデミックによるロックダウンが続く2021年、同プログラムでは55歳超の参加者が、バーチャルで以下のいずれかの活動に参加した。1)なじみのある歌を用いた、週に1回、計52回の歌唱セッションを受けるシングアロングセッション、2)組織化された合唱団で週1回の練習を重ね、最後にバーチャルコンサートを行う合唱プログラム。参加者には、認知機能が正常な人と神経認知障害を持つ人の両方が含まれていた。なお、Bonakdarpour氏らによると、先行研究では歌うことは肺活量や姿勢、全体的な身体の健康を向上させるだけでなく、呼吸のコントロールや感情の調整、運動機能に関わる脳の働きも活性化させ、脳と身体に良い影響をもたらすことが示されているという。 プログラムの終了後、Bonakdarpour氏らは176人の参加者を対象に調査を行い、バーチャル合唱体験が与えた影響について調べた。その結果、参加者の86.9%がプログラムへの参加がウェルビーイングに良い影響をもたらしたことを報告していた。プログラム別に見ると、シングアロングセッションへの参加はポジティブな記憶を呼び起こし、感情的な共鳴を促す一方で、合唱プログラムへの参加は、知的な刺激や関与をもたらすことが示唆された。さらに自由記述回答では、全体の5%以上の回答で、以下の面にポジティブな影響がもたらされたことが報告されていた。感情的ウェルビーイング(36%)、社会的ウェルビーイング(31%)、知的ウェルビーイング(18%)、パンデミックによる混乱の中での正常性の感覚や秩序の感覚(12%)、精神的ウェルビーイング(11%)、身体的ウェルビーイング(7%)、過去とのつながり(5%)。 Bonakdarpour氏は、「認知症とともに生きる人では、周囲の環境がどのようなものであろうと正常性の感覚の喪失が自己認識に強く影響し、不安の原因となる。このことは、こうした介入が正常な感覚を取り戻す助けとなり、心理的ウェルビーイングをサポートし、安定した自己認識に再びつなげる方法となる可能性があることを示唆している」と述べている。 さらにBonakdarpour氏は、「パンデミック時のグループ合唱への参加者は、混乱が広がる中、この活動が正常性の感覚をもたらしてくれたと一貫して話していた。これは顕著なテーマとして浮かび上がった点であり、今後さらなる研究で検討する必要がある」と言う。研究グループは今後、米国立衛生研究所(NIH)の音楽認知症研究ネットワークが助成する全国規模の臨床試験で、このバーチャル合唱体験をさらに詳しく検証する予定だとしている。

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第263回 10代の濫用薬物の傾向は?改正薬機法が何を変えるの?

改正薬機法が5月14日の参院本会議で可決成立した。今回の改正ポイントは複数あるが、一般向けの報道の多くは、薬剤師や登録販売者が常駐していないコンビニエンスストアでもこれら有資格者からオンラインで情報提供を受けることを条件に、消費者がいつでも一般用医薬品(OTC)を購入できる点を紹介している。実際、このことで私は突如、関西のとある民放から電話取材を受け、写真付きのフリップコメントで番組に出演することになった。若者の薬物依存、この10数年の動向今回の改正項目には、一般消費者にも身近で、かつ医療者も看過できない問題に関するものも含まれている。OTC濫用防止対策である。ご存じのように昨今、OTCの感冒薬・鎮咳薬に含まれるエフェドリンやコデインの過剰摂取(オーバードーズ)など、OTCによる薬物依存に陥る者が増加している。隔年で行われている「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」1)によると、薬物関連精神障害患者のうち調査時点から1年以内に使用が認められた主たる薬物の中に占めるOTCの割合は、2012年は2.7%に過ぎなかったが、これが2024年には25.6%と約9.5倍にまで膨れ上がっている。入手の手軽さなどから、ほかの違法薬物などと比べて急増しているのが実態だ。しかも、OTC濫用は若年層が顕著だ。実態調査の経年変化を見ると、10代の主たる依存薬物に占めるOTCの割合は、2014年実態調査では0.0%(おそらく完全にゼロではない)。しかし、2024年実態調査では71.5%まで拡大している。ちなみに2014年時点で10代の主たる依存薬物の“王座”に君臨していたのは「危険ドラッグ」の48.0%だった。また、成人一般で主たる依存薬物として最も多い覚せい剤は、10代の場合、2014年実態調査で占めた割合は12.0%だったが、2024年実態調査では3.8%にまで減っている。改正薬機法、もう1つのポイント今回の改正薬機法では、こうした濫用の恐れのあるOTCを「指定濫用防止医薬品」という新設する区分に組み入れ、20歳未満への大容量製品や複数個の販売を禁止。また、薬剤師・登録販売者が購入希望者に対し、購入理由や他薬局での購入状況などを確認することを義務付けた。具体的な規制の詳細は省令で定められる予定だ。ちなみに、この指定濫用防止医薬品などに関する改正薬機法での取り扱い議論の出発点となったのは、2024年1月に公表された「医薬品の販売制度に関する検討会」2)のとりまとめだが、そこでは濫用が懸念されるOTCについて「身分証などによる氏名などの確認と記録を行い、購入履歴を参照して頻回購入でないかを確認した上で販売の可否を判断」「直接購入者の手の届く場所に陳列しない(いわば空箱陳列など)」などの方針が示されていた。しかし、現状で身分証確認と購入履歴の記録・保管では完全な買い周りを防げないこと、空箱陳列は適正使用者のアクセスを過度に阻害するうえに店頭管理の厳格化によるコスト増を招くとして日本チェーンドラッグストア協会が強く反発。最終的には記録はなしになり、空箱陳列とともに代替選択肢として、情報提供コーナーに有資格者が常駐し購入希望者への直接対応にあたることも可能にした。若者のOTC濫用、その背景が重要この改正薬機法の取り扱いについての賛否はまちまちだと思われる。「実効性に乏しい」という主張は、ある意味正しいかもしれない。しかし、そもそも正しく使えば消費者の利益になるはずのOTCである以上、完全な規制は難しい。水をためるバケツに開いた穴で例えるならば、穴を小さくできても完全に穴を塞ぐことは土台無理な話である。このケースで「完全に穴を塞ぐ」とは濫用の恐れのある成分を含むOTCそのものを流通させないことと同義と言って差し支えないからだ。もちろん今後、さらなる薬機法改正により新たな規制手段が生まれてくる可能性は高い。たとえば、今回見送られた「消費者の手に届かない位置への陳列の義務化」や「ICT(情報通信技術)を利用した購入履歴の記録」「購入履歴管理の簡素化」である。これらの手法はすでに導入している国もある。日本ではまだマイナカードの普及が始まったばかりと言える段階であり、同カードの浸透とともに購入履歴の記録・管理の簡素化は現実のモノとなるだろう。しかし、これらの対策でも大きく欠けている視点・対策はある。そもそも前述のようになぜ若年層でOTC濫用事例が増加しているのか? 「安価で入手しやすいから」「インターネット・スマートフォンの普及により、情報も裏販売ルートなどからも入手しやすくなったから」などの指摘はあるだろう。もちろんこれらの指摘は一定程度当たっていると思われるが、本当の意味での「なぜ?」には答えていない。ここで「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」(有効回答者4万4,613人)1)を参照したい。同調査によると、過去1年間にいずれかのOTCの濫用経験率は1.6%。濫用経験者と非経験者で生活属性を比較すると、「学校生活が楽しくない」「親しく遊べる友人がいない」「相談事のできる友人がいない」などの回答率がいずれも濫用経験者群で有意に高い結果となっている。実は同様の調査は中学生を対象にしたものが隔年で行われているが、こちらでもこの点はほぼ同様の結果である。今風の言葉でありきたりな表現をすれば、「『生きづらさ』が市販薬依存の一因になっている」ということになるだろうか?もちろん国が無策だとは言えない。厚生労働省は関連するさまざまなツールや資材、窓口などを紹介はしている。ただ、こうした地味な活動はそれを広げようとする思いを持つ人の熱量が高くとも即効性には乏しい。そして現在は今回の改正薬機法のように“規制強化”という車輪だけが回転数を上げている状態である。次なるフェーズとしては、この「生きづらさ」の受け皿をどのように強化していくかにならねばなるまい。それなしに規制の強化だけが進めば、「薬物依存対策」という名の車両はバランスを崩し、横転することになるだろう。参考 1) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所:薬物依存研究部 2) 厚生労働省:医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ概要資料

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高齢者の転倒対策、現場は何をすべきか?【外来で役立つ!認知症Topics】第29回

「縛るな!」――身体拘束ゼロへの取り組み病院・施設の高齢者における訴訟は増加しているが、訴訟の2大原因は、転倒と誤嚥だそうだ。いずれであれ、その判決内容、賠償金額によっては病院・施設の死活問題になりかねない。そこで誰もが転倒の予防対策として考えるのは身体抑制だろうが、これは人の尊厳を損なう最たるものである。さて「身体拘束ゼロ」、わが国のいわゆる老人病院で始まった高齢者医療・ケアの改革運動である。2001年には厚生労働省が『身体拘束ゼロへの手引き』を作成し、また、2024年には診療報酬改定で身体拘束最小化の基準が設けられた。とくに慢性期病院や介護施設は、身体拘束の最小化に向けて懸命に取り組んできた歴史がある。この流れの源流は、今年4月に亡くなられた吉岡 充医師にある。彼は、東大病院と都立松沢病院の勤務を経て、ご尊父が営む八王子の精神科病院に移られた。そこには数十年の入院生活で高齢化した統合失調症の患者さんたちがいた。これが彼の高齢者医療への取り組みの始まりだったと思う。1980年代に、この病院でアルバイトをさせてもらっていた私はこの当時、彼と初めて会った。「患者さんを縛っちゃいけないよ!」「どうして病院ではすぐに患者を縛るんだ? 朝田、おかしいと思わないか」という会話をした。正直、「理想はそう、病院では安静を守れない患者も、すぐに転んで骨折する患者もいます、必要悪ですよ」が私の本音だった。しかしその後、吉岡医師は類まれな意志力・行動力で「抑制廃止」(彼はいつも「縛るな!」と言っていた)を全国展開していった。転倒による死亡は交通事故の3倍こうした抑制廃止の裏面が、転倒である。今日、高齢者の転倒・転落は、広く高齢者医療の大きな課題として一般の人にもよく知られている。転倒による大腿骨骨頭骨折などの骨折はもとより、死亡例も驚くほど多い。2023年の資料では、こうした事故による死亡者数は全国で1万2,000例弱にも上り、交通事故死の3倍以上だというから恐ろしい1)。ところで老年医学は、1950年代からイギリス、北欧で芽生え成長してきた。この分野では、イギリスのバーナード・アイザックス(Bernard Isaacs)が1965年に提唱した「老年医学の4巨人」、すなわち転倒、寝たきり、失禁、認知症が今日に至るまで主要テーマである。筆者は1980年代にイギリスの大学老年科に留学して、老年医学の病棟のみならず患家にも立った。その影響で、帰国後は精神科領域における転倒を臨床研究のテーマにし、この領域の進歩に努めて触れてきた。そのポイントをまとめると、まずは転倒の危険因子、転倒予防、予後、そして手術と手術適応である。個人の転倒危険因子では、より高齢であること、転倒既往、認知症、パーキンソン病などの神経疾患、身体機能・ADLの低下、向精神薬など薬剤、飲酒などがある。また施設の住宅設備面から段差の解消、手すりや常夜灯の設置がある。一方で床にこぼれた水分や尿などを可及的速やかに拭き取ったり、落ちた紙などの障害物を除いたりすることも極めて重要である。というのは転倒の直接原因では、滑る・躓くが最多とされるからである。次に予後では、認知症者では、身体機能はもちろん、生命予後もよくない。アメリカのナーシングホームのデータ2)では、大腿骨頸部骨折の手術がなされた者では、6ヵ月以内に35~55%が、2年以内に64%が亡くなったとされる。また手術をしてもこうした患者の機能レベルは容易に転倒前まで戻らないこともわかっている。それだけに手術適応の決定も簡単ではない。これまで転倒予防として繰り返し強調されたのは、脚力を中心とした体力増強の運動である。もっともこの運動や薬剤の調整で発生リスクを2割ほど低減したとの数少ない論文はあるが、リスク低減のエビデンスは乏しい。今のところ、予防の決め手はないというのが現実だ。病院・施設はどのような対策をすべきか?さて訴訟に関し、転倒を含めた事故で病院・施設に過失があるとされるのは、「結果予見義務」と「結果回避義務」が尽くされなかった場合である。転倒・転落が起こるかもしれないという「結果予見義務」だが、裁判の論点にならなくなってきている。なぜなら今日では、認知症の有無、転倒歴、睡眠薬の使用などの転倒・転落リスクは、ほぼしっかり確認されているからである。そこで論点になるのが転倒・転落を防ぐための備え・工夫をしたかという「結果回避義務」になる。もっとも既述のように、転倒・転落は完全には防ぎ難いことはわかっている。それだけに事情通の弁護士によれば、転倒は予見の可能性が難しいだけに、判決として「病院・施設に責任ありとするが、賠償額を低く抑えることでバランスをとる」のが主流ではないかとの由。以上をまとめると、病院・施設側として転倒リスクの評価はまず入院時に不可欠である。そして計画した予防策は明文化し、たとえば定時の見守り・チェックなどは必ず記入する。また濡れた床拭き、靴の履き方直しなど臨機応変に対応したことの記録を残し、結果回避義務を強く意識した努力を記録として蓄積すべきだろう。参考1)厚生労働省「不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」(e-Stat). 2)Berry SD, et al. Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med. 2018;178:774-780.

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若年性認知症リスクとMetSとの関連

 若年性認知症は、社会および医療において大きな負担となっている。メタボリックシンドローム(MetS)は、晩年の認知症の一因であると考えられているが、若年性認知症への影響はよくわかっていない。韓国・Soonchunhyang University Seoul HospitalのJeong-Yoon Lee氏らは、MetSおよびその構成要素が、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症を含む若年性認知症リスクを上昇させるかを明らかにするため、本研究を実施した。Neurology誌2025年5月27日号の報告。 The Korean National Insurance Serviceのデータを用いて、全国規模の人口ベースコホート研究を実施した。2009年に国民健康診断を受けた40〜60歳を対象に、2020年12月31日または65歳までのいずれか早いほうまでフォローアップ調査を行った。MetSは、ウエスト周囲径、血圧、空腹時血糖値、トリグリセライド値、HDLコレステロールの測定値を含む、確立されたガイドラインに従って定義した。共変量には、年齢、性別、所得水準、喫煙状況、飲酒量および高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病などの併存疾患を含めた。主要アウトカムは、65歳未満での認知症診断で定義したすべての原因による若年性認知症の発症率とし、副次的アウトカムに若年性アルツハイマー病、若年性脳血管性認知症を含めた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者数は197万9,509人(平均年齢:49.0歳、男性の割合:51.3%、MetS罹患率:50.7%)。・平均フォローアップ期間7.75年の間に、若年性認知症を発症したのは8.921例(0.45%)であった。・MetSは、すべての原因による若年性認知症リスク24%上昇(調整HR:1.24、95%CI:1.19〜1.30)、若年性アルツハイマー病リスク12.4%上昇(HR:1.12、95%CI:1.03〜1.22)、若年性脳血管性認知症リスク20.9%上昇(HR:1.21、95%CI:1.08〜1.35)との関連が認められた。・有意な交互作用が認められた因子は、より若年(40〜49歳vs.50〜59歳)、女性、飲酒状況、肥満、うつ病であった。 著者らは「MetSおよびその構成要素は、若年性認知症リスク上昇と有意な関連を示した。これらの知見は、MetSに対する介入が、若年性認知症リスクの軽減につながることを示唆している。しかし、本研究は観察研究のため、明確な因果関係の推定は困難であり、請求データへの依存は、誤分類バイアスに影響する可能性がある。今後の縦断的研究や包括的なデータ収集により、これらの関連性を検証し、さらに発展させることが望まれる」と結論付けている。

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

今回のキーワード包括適応度血縁選択新生児同種免疫性血小板減少症同種免疫反応性的拮抗性的二型前回(その1)、性の多様性とはどのようなものか、そして、その性が多様であるのはなぜかを進化心理学的に掘り下げました。ここで、進化論の視点から、大きな疑問が湧いてきます。同性愛では自分の子供をつくれない(遺伝しない)わけですが、人口の約3%、たとえば学校で30人ちょっとのクラスに1人はいる計算になります。この頻度の高さから、遺伝子の突然変異では説明できません。ちなみに、その1でも登場した、遺伝子の異常であるアンドロゲン不応症や先天性副腎過形成症は、ともに人口の約0.005%(10万人に5人)です。それでは、なぜ同性愛はこれほどにも「ある」(遺伝している)のでしょうか?今回(その2)も、5月17日の「多様な性にYESの日」に合わせて、「記念日セラピー」と称して、この謎に迫ります。なんで同性愛は「ある」の?実は、動物の同性愛(同性間の性行動)は、珍しくありません。たとえば、人間に最も近い種であるボノボ(チンパンジー)は、とくにメス同士が向き合って性器をこすり合わせる「ホカホカ」(G-G rubbing)と呼ばれる行動を頻繁に行います。また、イルカ、ゾウ、コウモリ、テンジクネズミなどでも、それぞれのやり方での同性間の性行動が確認されいます1)。ただし、これらの目的は、あくまで群れの中での同性同士の協力関係や上下関係を確かめ合うためであったり、異性との性行動に向けて練習するためであったり、異性がいない状況での代替行動であったりなどです。人間のように、同性愛のみに限って逆に異性愛を避けているわけではありません。つまり、動物の同性愛は、厳密には両性愛です。そして、あくまで異性愛を主目的とした副次的なものであり、生存と生殖に適応的であることがわかります。それでは、人間の同性愛はなぜ「ある」のでしょうか? 代表的な3つの説を、進化心理学の視点から一緒に検討してみましょう。(1)親族の子供を助けるため?-血縁選択たとえば、働きバチや働きアリは、自ら生殖能力を失い、女王バチや女王アリが自分の妹(※母系家族のためオスが生まれるのはもともとごくわずか)をよりたくさん産めるように働き続けます。同じように、人間は、自分が同性愛であることで子供がつくれない代わりに、親族の子供のサポート役(血縁のヘルパー)になることで、間接的に自分の遺伝子を残している(包括適応度を上げる)と仮定することができます。1つ目は、同性愛になって親族の子供を助けるため、つまり血縁選択です。しかし、実際の調査では、同性愛男性よりも異性愛男性の方が、むしろ兄弟との交流があり、兄弟に対して経済的援助をする傾向があることがわかっています2)。よくよく考えると、この説を主張するなら、血縁のヘルパーになるためにわざわざ同性愛になる必要はなく、働きバチや働きアリのように無性愛(性的指向なし)の独身になって親族を助けた方がより間接的に自分の遺伝子を残せます。この状況は、現代ではなく、原始の社会であっても同じです。つまり、同性愛の原因は、血縁選択で説明するには無理があります。なお、摂食障害については、この血縁選択(包括適応度)が成り立つ可能性が考えられます。この詳細については、関連記事1のページの最後をご覧ください。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 2

r(2)兄が多いため?―同種免疫反応たとえば、母親と胎児の血液型が違う場合、母親の免疫系で胎児の血小板への抗体がつくられることがあります。それが胎盤を通して胎児の血小板を攻撃して血小板が減っていく病態(新生児同種免疫性血小板減少症)があります。同じように、母親と胎児の性別が違う、つまり胎児が男性の場合、母親の免疫系で男性特有の物質(H-Y抗原)への抗体がつくられると仮定します2)。すると、それがその後に胎盤を通して次の男性胎児(弟)のその抗原を攻撃することが考えられます。そして、その抗原がとくに多く分布するのは、男性化するはずの脳であると考えられます。また、この抗体は、母親が男児の妊娠出産を繰り返すたびに増えていくと考えられます。2つ目は、胎児期の兄への母親の免疫反応が、その後に胎児期の弟に及んで、脳が男性化しにくくなる(同性愛になる)、つまり、同種免疫反応です。実際の調査2)では、兄が多くなればなるほど、確かに同性愛男性の割合が上がっています。なお、姉が多くなるにつれて同性愛女性の割合が上がるわけではない原因については、母親にとって、姉も妹(本人)も同じ女性であり、同種免疫反応が起こりにくいからです。しかし、これだけでは、女性の同性愛が「ある」原因を説明できません。また、つくられた抗体が攻撃するはずの、男性特有の抗原があるとしたら、それは男性の脳だけでなく男性の性器にもあるはずです。しかし、同性愛男性が不妊になることはありません3)。さらに、同種免疫反応が実際にあるとしたら、兄が同性愛なら弟たち全員が同性愛になるはずです。しかし、実際にそうなっているとの調査結果はありません。そもそも、先ほどの新生児同種免疫性血小板減少症は人口の約0.03%(10万人に30人)程度であり、同種免疫反応は頻度がとても低い病態です。つまり、同性愛の原因は、同種免疫反応で説明するには無理があります。なお、兄が多くなると同性愛の割合が高くなる、この「兄効果」の原因については、兄が多ければ多いほど、一緒にいる刺激が性的指向に影響を与えていると指摘する学者はいます3)。確かに、その1でも説明しましたが、性的指向は胎児期に固定化されるとはいえ、性的指向はスペクトラムであることから、完全な異性愛または完全な同性愛ではなく、両性愛を含む中間層は、環境の刺激によって異性愛になるのと同じように、同性愛にもなる可能性は十分に考えられます。実際に、双子研究(行動遺伝学)において、男性の同性愛への影響度は遺伝22%、家庭環境14%、家庭外環境64%、女性の同性愛への影響度は遺伝37%、家庭環境1%、家庭外環境62%と算出されています3)。男性において、家庭環境の違いによる影響度が出ているのは、やはり兄と一緒にいる刺激によるものである可能性が示唆されます。また、家庭外環境の影響が男女ともに60%以上あることから、とくに性的欲求が高まる思春期での男子校や女子校、男女別の部活動など同性集団の凝集性が高い環境では同性愛になりやすくなる可能性が示唆されます。しかし、これに関連した調査を行った研究は現時点で見当たりません。参考までに、一時的ながら刑務所で同性愛になる現象(刑務所効果、機会的同性愛)は少なからずみられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 3

(3)親族の子供が増えるため?-性的拮抗たとえば、男性と女性では腰の大きさは明らかに違います。なぜなら、性別役割分業をしていた原始の時代を想定すると、男性は狩りをするためになるべく身軽でスリムな腰になるように進化した一方、女性は安全に出産をするためになるべく大きな腰になるように進化したからです。このように、男女で最適条件が対立することがあり、父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子の綱引き(拮抗)によって、生まれてくる子供の腰の大きさが決まります。ここで極端に考えて、とても大きな腰になる遺伝子を持つ母方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた女性は、もちろん大きな腰を持つために安全に出産するでしょう。そんな女性はモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた男性も、大きめの腰を持つわけですが、鈍くなりうまく狩りができません。そんな男性は女性からモテないでしょう。逆に、とてもスリムな腰になる遺伝子を持つ父方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた男性は、もちろんスリムな腰を持つため、しっかり狩りができるでしょう。そんな男性は女性からモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた女性は、スリムな腰を持つため、難産になるでしょう。そんな女性は、現代とは違い原始の時代ではモテないでしょう。このように、同じ遺伝子でありながら、生存と生殖の適応度において男女で真逆になってしまうことがわかります。同じように、もともと男性ホルモンが少なくなる(相対的に女性ホルモンが多くなる)遺伝子を持つ母方の家系があるとします。その家系で生まれた女性は、もちろん女性ホルモンが多いので、ふくよかな体型で妊娠出産をしやすいでしょう。そして、とても共感的なので男性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる男性は、胎児期に男性ホルモンが少ないので、同性愛になると考えることができます。逆に、もともと男性ホルモンが多くなる(相対的に女性ホルモンが少なくなる)遺伝子を持つ父方の家系があるとします。その家系で生まれた男性は、もちろん男性ホルモンが多いので、筋肉質な体型でしっかり狩りができるでしょう。そして、狩りの能力の高さをほのめかすこだわりの仕草から女性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる女性は、胎児期に男性ホルモンが多いので、同性愛になると考えることができます。3つ目は、自分が同性愛であるのと引き換えに、自分とは異性の親の家系(親族)で子供がより多く生まれている、つまり性的拮抗(性的対立)です。同性愛の遺伝子は、それ自体では適応度を下げていますが、それをチャラにしてお釣りが出るくらいに、その血縁の異性の適応度を上げているというわけです。実際の調査では、異性愛男性よりも同性愛男性の母と母方オバの子供の数がともに多くなっています3)。つまり、同性愛の原因は、性的拮抗で説明できそうです。ただし、現在のところ、同性愛女性の父と父方のオジの子供の数については明らかになっていません。また、同性愛の遺伝子は現在でも特定されていません。とても頻度が高いのに特定できないということは、先ほどの腰の大きさと同じように、そもそも多因子で散らばりすぎており、遺伝的にありふれていると考えることもできるでしょう。つまり、同性愛は、性(異性愛)の進化の歴史のなかで、そして性別役割分業に徹した人類の歴史のなかで、男女差(性的二型)の進化の副産物であったと捉え直すことができるでしょう。1)「進化が同性愛を用意した」pp.17-31:坂口菊恵、創元社、20232)「同性愛の謎」p.81、pp.176-179、pp.204-206:竹内久美子、文春新書、20123)「同性愛は生まれつきか?」pp.52-53、pp.89-92:吉源平、株式会社22世紀アート、2020<< 前のページへ■関連記事映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるってわからないの?(エピジェネティックス)】Part 2

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第12回 アルツハイマー病の診療が変わるーFDAが血液検査を承認

米国食品医薬品局(FDA)が、アルツハイマー病の診断を補助する初の血液検査「Lumipulse G pTau217/β-Amyloid1-42 Plasma Ratio」を承認しました1)。この承認は、アルツハイマー病の診療に大きな変革をもたらし、認知症診療の新たな時代を開くと期待されます。検査名が長過ぎてあまりピンとこないかもしれませんが、とにかくすごい検査なのです。血液検査による早期発見の可能性これまでアルツハイマー病の診断には、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)検査といった高価で侵襲的な方法が用いられてきました。 アミロイドPETは、脳内のアミロイド斑を可視化できますが、コストが高く、患者さんへの放射線被ばくも伴います。 また、アミロイドがどこにあるかを知ったところで、それが患者さんの症状に反映されないといった限界もありました。脳脊髄液検査も、腰椎穿刺という侵襲的な方法で検体を採取する必要がありました。今回承認された新しい血液検査は、血液(血漿)中のpTau217とβアミロイド1-42という2つの数値を測定し、その比率を算出します1)。pTau217はアルツハイマー病患者の血液中で増加傾向を示し、認知機能障害の悪化に比例して増加するという特徴も報告されています。一方で、βアミロイド1-42はアミロイド斑に沈着するため、血液中からは減少します。それぞれ単独では診断精度に限界がありましたが、この比率を用いることで、検査精度が向上し、的確な診断をもたらすことができるようになりました。これにより、PETの必要性を減らし、脳脊髄液検査の置き換えになることが期待されています。 簡単な採血のみで行えるため、患者さんにとって負担が少なく、検査を受けやすくなります。200ドル程度と、費用負担も小さくなります。 FDA長官は、「2050年までにアルツハイマー病患者の数が倍増すると予測される中、このような新しい検査が患者の助けとなることを期待している」と述べています。診断プロセスの変化と期待される効果近い将来、アルツハイマー病の血液検査は、血圧やコレステロールのチェックのように、とてもありふれた日常的なものになる可能性が高いと思います。認知機能検査で異常が見られた場合、次のステップとして血液検査が行われるという流れはごく一般的なものになるでしょう。この検査の普及により、以下のような変化が予想されます。誤診の減少LATE(辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症)のように、アルツハイマー病と症状が似ていても原因が異なる疾患(LATEの場合はTDP-43が関与)との鑑別がつきやすくなります。これまで診断方法が限られていたため、誤った情報共有が行われるケースがありましたが、より正確な診断が可能になることで、患者は適切なケアを受けられるようになります。適切な予防策と予後予測早期かつ正確な診断は、適切な予防策の実施や、より正確な予後の情報提供につながります。治療薬開発の加速より簡便で正確な診断方法が確立することで、治療薬の開発も促進されると期待できます。「認知症」診断前の「アルツハイマー病」診断診断ツールの普及により、症状に基づく診断である「認知症」よりも前に、脳内の変化に基づく診断である「アルツハイマー病」という診断が先につくケースが増えるでしょう。「あなたは『アルツハイマー病』ですが、『認知症』ではありません」という説明が一般的になるかもしれません。注意点と今後の課題一方で、この血液検査は無症状の人に行うスクリーニングや単独の検査として開発されたものではなく、他の評価や検査と合わせて診断を行う必要があります。この点はFDAも強調しています。 臨床試験では、この検査で陽性だった人の91.7%がPETまたは脳脊髄液検査でもアミロイドの存在が確認され、陰性だった人の97.3%がそれらの検査でも陰性でした1)。 しかし、偽陽性や偽陰性の可能性も指摘されており、偽陽性の場合は不必要な治療や精神的な苦痛を、偽陰性の場合は適切な診断の遅れを招く可能性があります。 当面は、不必要な人にまで過剰に検査を行い、不適切な投薬が増えるといったマイナス面が生じてしまうことへの懸念もあります。いずれにせよ、FDAによるアルツハイマー病の血液検査の承認は、診断のあり方を根本から変える可能性を秘めています。より負担が少なく、アクセスしやすい検査方法の登場は、早期発見・早期介入を促進し、誤診を減らし、最終的には患者さんとその家族の生活の質向上に貢献することが期待されています。多くの医師が、この新しい知識を習得し、患者側も理解を深めることで、認知症診療は新たな時代を迎えることになるでしょう。 1) FDA Clears First Blood Test Used in Diagnosing Alzheimer’s Disease. FDA. 2025 May 16.

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女性のオーガズム持続性とADHD症状との関係

 注意欠如多動症(ADHD)症状の有無による女性のオーガズムの持続性の違いを評価するため、カナダ・Kwantlen Polytechnic UniversityのTina Jensen-Fogt氏らは、十分な検出力を有する事前登録制オンライン調査より、性的自己主張および性的態度といったこれまで検討されていない構成要素を対照に調査を行った。Journal of Sex Research誌オンライン版2025年4月21日号の報告。 対象は、Qualtricsという調査プラットフォームを通じてオンライン調査に回答した18歳以上、過去6ヵ月間で1人以上のパートナーと性交を有する女性(シスジェンダー)815人(平均年齢:28.93±9.23歳)。既存のADHD診断は不要とした。 主な内容は以下のとおり。・研究仮説を検証したところ、ADHD症状はオーガズムの持続性を予測し、とくに不注意症状が強いほど、オーガズムの持続性が低いことが明らかとなった。・ADHD症状マネジメントのための薬物療法に関する調査では、現在ADHD症状の基準を満たしていない女性においてのみ、薬物療法がオーガズムの安定性に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・性的マイノリティ女性と性的マジョリティ女性を比較したところ、ADHD症状の基準を満たしていない女性においてのみ、オーガズムの安定性に有意な差が認められた。 著者らは「オーガズムを安定して得ることが難しい女性は、人間関係の満足度、自尊心、性的満足度の低下、精神的苦痛の増加を経験する可能性が高いと考えると、本研究結果は、ADHD症状を有する女性の性的健康や幸福において重要な意味を持つと考えられる。これらの結果は、とくに不注意型のADHD症状を有する女性に当てはまるであろう」としている。

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第264回 日本の診療報酬改定の財源確保はますます困難に?米国のトランプ大統領の医薬品価格引き下げ政策の影響を考える

消費税が社会保障の重要財源になっていることを軽視・無視する政治家たちこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の参院選をにらみ、消費税の扱いについて各党幹部からの発言が相次いでいます。とくに野党からの消費税減税・撤廃の声は強く、立憲民主党は来年4月から原則1年間、食料品の消費税をゼロにするよう求め、日本維新の会は食品にかかる消費税を再来年4月まで時限的に撤廃するよう求めています。この他、国民民主党は時限的に一律5%下げることを提案、共産党も将来的な廃止を目指して緊急で一律5%に引き下げるよう求めています。れいわ新選組は従来からの主張通り、消費税そのものを廃止するよう求めています。これに対し、自民党は社会保障などの財源になっていることを理由に、税率引き下げに依然否定的な考えを示しています。ただ、これも党執行部の意見であり、一部からは税率引き下げの声も出ているようです。不思議なのは、どの政党も消費税が社会保障の重要な財源になっていることを軽視(あるいは無視)しており、代替財源について大した案を示していないことです。私の自宅のポストに入っていた共産党のチラシなどは、「いますぐ消費税減税を」と書く一方、「国費投入で医療・介護の危機打開」とも書かれており、もはやわけがわかりません。「消費税率を下げる=社会保障財源を減らす」なのですから。さて、「わけがわからない」と言えば、米国のトランプ大統領が、米国内の医療用医薬品価格を引き下げる指示をする大統領令に署名したというニュースもある意味「わけがわからない」です。同様の政策をトランプ大統領は第1次政権の時にも敢行しようとしましたが、製薬会社の抵抗や連邦裁判所の大統領令一時差し止めにより頓挫しています。改めて打ち出された米国の医薬品価格引き下げ政策は、日本の医療にどんな影響を与えるのでしょうか。「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きた」トランプ大統領は5月11日(現地時間)、自身のSNSに医療用医薬品の価格について、「最恵国待遇(most favored nation:MFN)」政策を導入する大統領令に署名すると表明、翌12日に署名しました。このニュースを報じた5月12日付の日経バイオテクは、「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きたといっても過言ではない」と書いています。最恵国待遇とは、世界貿易機関(WTO)協定の基本原則の1つで、ある国に与えた貿易上の優遇措置をその他の加盟国にも同様に適用し、平等に扱うというルールです。トランプ大統領はこのルールを米国の医薬品価格に適用、米連邦政府が支払っている特定の医薬品の価格を、ほかの先進国が支払っている最も低い医薬品価格に連動させるとしています。各紙報道によれば、トランプ大統領は最恵国待遇政策の導入によって「医薬品価格を59%引き下げる」と主張したとのことです。「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきた」とトランプ大統領大統領令に署名する前に開いた記者会見の席上、トランプ大統領は、「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきたが、実際には他国が低い価格を設定しており、米国が不当に高い価格を支払ってきた」と主張、「この政策により、他国が医薬品の研究開発費を公正に負担するよう促され、米国と他国の薬価が同等になる。製薬企業が他国での不公平な価格交渉からも保護される仕組みだ」と語ったとのことです。今回の大統領令の対象となるのは、連邦政府が提供する公的医療保険制度のうち、65歳以上の高齢者や障がい者などを対象としたメディケア(Medicare)と、低所得者向けのメディケイド(Medicaid)で使用される医薬品とみられていますが、一部の医薬品に留まるのか、より広範な医薬品が対象になるのかは未定です。なお、製薬企業に対しては、大統領令の日から30日以内に、米保健福祉省長官が米メディケア・メディケイドサービスセンター管理者や関連する行政機関などの職員と連携し、製薬企業に最恵国待遇価格の目標値を伝達するとしています。「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」とPhRMAこうした動きに対し、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は同日、声明を発表しています。日経バイオテクなどの報道によれば、PhRMAは米国で医薬品の価格が高い「本当の理由」として、「他国が正当な負担を負っていない」「中間業者が米国の医薬品価格を押し上げている」と指摘。米国で医薬品にかかる費用の50%は薬剤給付管理業者、保険会社、病院が受け取っているとして、「これらのお金を患者に直接渡すことで、患者負担が軽減し、欧州との価格差が大幅に縮まる」と主張したとのことです。またPhRMAは、政府が貿易交渉によって「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」と支持した一方で、医薬品価格の引き下げは「米国の患者や労働者の治療機会や治療の選択肢を減らすことになる」と反論もしています。トランプ大統領の考えを全面否定はせず、「他国が正当な負担を負っていない」、「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」などと、どちらかと言えばすり寄ったコメントをしている点はなかなか興味深いです。この段階でトランプ大統領を怒らせて、“業界いじめ”がさらに加速することを嫌ったためと考えられます。他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」就任以来、さまざまな政策を打ち出すものの、なかなか米国民のプラスが見えてこない状況で、「医薬品の価格を大幅に下げる」という政策は、確かに国民の共感を呼びそうです。米国は世界最大の創薬大国と言われていますが、創薬のための巨額の研究開発費が医薬品の価格に上乗せされていることで成立しているとの見方があります。ちなみに日本と異なり、米国では原則、製薬会社が独自に医薬品の価格を決めています。というわけで、他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」というのがトランプ大統領の考え方なのです。今後の具体的な政策としては、前述したようにメディケア、メディケイドで使用される医薬品の価格を下げることや、PhRMAも賛同している薬剤給付管理業者、保険会社、病院など中間業者の“取り分”を減らす施策を講じること、そして国外で製造された薬剤を米国で販売するメーカーには、薬価引き下げを要求するという流れになります。薬価引き下げに応じない国には追加関税を課す考えもトランプ大統領は示しています。そうした意味では、グローバルに展開する日本の製薬メーカーにとっては、米国の医薬品価格下げは大きなダメージとなるでしょう。日本の薬価はこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まるこの政策、第1次トランプ政権のときは頓挫しており、今回も実現するかどうかはまだわかりませんが、仮に実現した場合、日本の医療現場にはどんな影響が出るのでしょうか。約1ヵ月前、本連載「第259回 トランプ関税で2026年度診療報酬改定の財源確保に暗雲?国内では消費税率の減税論もくすぶり、医療費削減圧力はさらに増大の予感」では、トランプ大統領が4月2日に発表した全世界を対象とした相互関税について取り上げました。この時は、「仮に薬価改定による診療報酬財源の捻出法も税率低減のためのカードに使われることになれば、来年以降の診療報酬改定の財源確保に大きな影響が出ることになります」と書きました。日本の薬価についてはこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まりそうです。なぜならば、米国内での医薬品価格を下げれば米国の製薬企業の収益を圧迫するので、製薬企業には海外市場でその分稼いでもらわなければならないからです。トランプ政権が米国の医薬品開発に「ただ乗り」を許さない姿勢を強めてくれば、石破政権後の方針転換によって、2025年度中間年改定で革新的医薬品の薬価引き下げのルールを拡大するなどしてきた日本の薬価制度について大幅な見直しを迫ってくる可能性もあります。PhRMAは昨年末に欧州製薬団体連合会(EFPIA)と出した共同声明で、「予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性がある」と中間年改定の政策を強く批判していました。ポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民というわけで、2026年度診療報酬改定の財源確保はますます厳しいものとなりそうです。そして国内では、相変わらずの「消費税減税・撤廃」の議論。目先のことしか考えない国内外の政治家たちによるポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民(とくに現役世代や子供たち)です。日本でも与野党含めた政治家たちがトランプ政権のやり方を批判していますが、少なくとも「消費税減税・撤廃」を叫ぶ政治家にその資格はまったくないのではないか、と考える今日この頃です。

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アルツハイマー病のアジテーション、日本におけるブレクスピプラゾールの長期安全性

 アジア人アルツハイマー病患者におけるアジテーション(攻撃的行動および発言、非攻撃的行動の亢進、焦燥を伴う言動等)の治療に対するブレクスピプラゾールの長期安全性および有効性は、明らかとなっていない。香川大学の中村 祐氏らは、第II/III相試験において10週間の二重盲検投与期間を完了した日本人患者におけるブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日を14週間投与した場合の安全性および有効性を評価した。Journal of Alzheimer's Disease Reports誌2025年4月16日号の報告。 本試験は、多施設共同第III相オープンラベル試験である。元試験において、プラセボまたはブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日の10週間投与を完了した患者を、本延長試験に組み入れた。主要エンドポイントは、有害事象の発現頻度とした。 主な結果は以下のとおり。・インフォームドコンセントが得られた183例のうち、ブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日を14週間投与した患者は164例(元試験ブレクスピプラゾール投与群:102例、元試験プラセボ投与群:62例)、試験全体の完了率は71.3%。・治療中に発現した有害事象は、全体で90.2%(元試験ブレクスピプラゾール投与群:90.2%、元試験プラセボ投与群:90.3%)。・有害事象のほとんどは、軽度または中等度であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。・14週目(最終観察持ち越し)のCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)合計スコアのベースラインからの平均変化量は、−4.0±9.8であった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する日本人患者において、ブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日による合計24週間までの投与は、忍容性はおおむね良好であり、有効性の維持も確認された」と結論付けている。

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帯状疱疹ワクチンで認知症の発症リスクを低減できる可能性(解説:小金丸博氏)

 「帯状疱疹ワクチンの接種が、認知症の発症リスクを低減する可能性がある」。この仮説は近年の観察研究で示唆されてきたが、2025年になってそれを強く支持する2つの高品質な準実験的研究がNature誌およびJAMA誌に相次いで報告され、大きな注目を集めている。 まず、先行研究としてウェールズでの研究結果が2025年4月2日号のNature誌に報告された。2013年にウェールズで導入された帯状疱疹ワクチン接種プログラムでは、1933年9月2日以降に生まれた人が接種対象となり、それ以前に生まれた人は対象外とされた。この明確な誕生日による区分を利用し、年齢のみがわずかに違うと推定される2つの集団を比較することで、交絡因子の影響を最小限に抑えた。その結果、ワクチン接種者では、7年間の追跡期間中に認知症と診断されるリスクが20%低下(3.5%ポイントの絶対リスク減少)し、この効果はとくに女性で顕著であった。 続いて今回、オーストラリアでの研究結果がJAMA誌オンライン版2025年4月23日号に報告された。2016年にオーストラリアで導入された帯状疱疹ワクチン(商品名:Zostavax)の無料接種プログラムに基づき、誕生日による接種適格性を利用して接種群と非接種群を比較した。その結果、ワクチン接種適格者では、7.4年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される確率が1.8%ポイント低下した。ワクチン接種者と非接種者の間で、教育歴、既往歴、他の予防医療サービスの利用状況に大きな差がなかったことから、健康意識の違いによるバイアスの影響は最小限と考えられた。また、この研究では、性別による効果の差異は明確に示されなかった。先行研究では女性でより強い予防効果が観察されていることから、今後の研究での検討が期待される。 これら2つの研究の特徴は、どちらも回帰不連続デザイン(regression discontinuity design)を用いている点にある。これは、自然ルールではない人為的なルールによって生まれる境界線を利用した統計的因果推論の手法の1つである。両研究共に、ワクチン接種の適格性を外的要因に基づいて決定することで交絡因子の影響を最小限に抑えており、従来の観察研究よりも因果関係の推定に信頼性が高いと評価されている。 今回の研究の対象となったのは主に生ワクチン(Zostavax)であり、不活化ワクチン(商品名:Shingrix)ではなかった。現在、日本を含む多くの国ではShingrixが主流となっている。Shingrixは免疫応答がより強力であるとされる一方で、Zostavaxと同様の神経保護効果が得られるかは不明である。今後、Shingrixを用いた研究や他国での再現性の確認が進むことで、より確固たるエビデンスが構築されることが期待される。 帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを低減させるメカニズムとして、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化抑制や、ワクチンによる免疫系の調節効果などが考えられている。VZVの再活性化が神経炎症や神経変性を惹起する可能性があり、慢性的な神経炎症が認知機能の低下に関与しているという仮説が考えられている。また、ワクチン接種が免疫老化の進行を遅らせることも、間接的な効果として議論されている。 日本においては、50歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンが適用となっており、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の予防目的での接種が徐々に広がりつつある。認知症予防効果が確立されれば、高齢者医療におけるさらなる付加価値として期待される。ただし、現時点では認知症予防を明確な適応とは規定しておらず、あくまで副次的な効果として受け止めるべきである。 高齢化社会の進展と認知症の増加が避けられない中、帯状疱疹ワクチンが神経変性疾患のリスクにも影響を及ぼす可能性を持つことは、予防医療の新たな可能性を提示している。今後のさらなるエビデンスの蓄積が期待される。

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