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第267回 NHKが医療問題を徹底特集、日本医師会色を廃した番組編成から見えてきたものは?(前編)  元厚労官僚・中村秀一氏の「入院医療と外来医療の配分を考えてもらう必要がある」発言の衝撃

NHKが「どう守る 医療の未来」をテーマに様々な番組で医療問題を特集こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。相変わらずお米の話題が喧しいですね。小泉 進次郎農林水産大臣が随意契約による政府備蓄米の流通・販売で、全国組織のJA全中を差し置いてコンビニなどの大手小売り事業者に全面的に協力を要請し、瞬時に店頭に並ぶ様をマスコミに大々的に報道させた一件は、一般の人にもある種のカタルシスをもたらしたようです。小泉農水相は10年前、自民党農林部会長時代にJAグループ(とくにJA全中、JA全農)の改革を強く主張、農産物の販売手数料や流通構造の見直しを求めました。改革は志半ばに終わってしまいましたが、農水相就任を機に、改めてJAグループの権限縮小を進めようとしています。一方で、地域の個々の農協には一定の配慮を示す発言をしているあたり、なかなかの策士とも言えます。業界の全国組織の旧態依然とした体制やその弊害はどの分野でも聞かれることです。日本の医療界にも「JA全中のような組織」があります。しかし、いかんせん、こちらも選挙の票と直結しているためか、小泉農水相のような「全国組織の権限縮小」を目指す大臣はなかなか現れないようです。さて、今回は先月末から6月頭にかけてNHKが「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げたので、いくつかの番組を見た感想を書いてみたいと思います。診療所ではなく病院の経営の現状に焦点が当てられたこと、そのためか日本医師会という全国組織の存在感がなかったことなど、それなりの”こだわり”と”冒険”を感じた一連の番組編成でした。議論を病院経営に集中するために敢えて日医を外した?まず、6月1日の朝にNHK総合で放送された『日曜討論』です。「どうする?医療のこれから」のテーマで、慶應義塾大学教授の伊藤 由希子氏、日本医療法人協会副会長で社会医療法人名古屋記念財団理事長の太田 圭洋氏、秋田県横手市立大森病院長で日本地域医療学会理事長の小野 剛氏、国際医療福祉大学大学院教授で元厚生労働省審議官の中村 秀一氏、ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口 育子氏の5人が討論を行いました。現場の医療経営者は太田氏と小野氏の2人。日本医師会からの出席者がいないことに、最初は「おや?」と感じました。とくに苦境に陥っているのは病院経営であり、議論をそこに集中させるため敢えて日医を外したのか、あるいは日医側が出席を拒んだのかはわかりませんが、「病院経営」の今を雑音なく論ずるためには、適切な人選だったように思います。ただ、病院の代表者を日本病院会や全日本病院協会の幹部ではなく、日本医療法人協会副会長の太田氏と、地域の病院の代表として小野氏としたあたりは、人選の苦労も感じられました。ちなみに太田氏は、昨年から中央社会保険医療協議会の委員も務める、目下”売り出し中”の若手病院経営者です。病院経営はコロナ前にすでにカツカツ、コロナ補助金で経営改善などの問題解決が先送りに前半は「医師偏在」、後半は「病院経営」、最後に「地域医療構想」をテーマに討論が行われました。中でも注目は後半の「病院経営」に関する部分でした。太田氏が「元々病院経営がかなり厳しかったところに、ここ最近の物価高、賃金上昇が起こっているが、診療報酬が追いついていない。地域の中核病院ですら赤字に転落している。20年以上病院経営に携わっているが、ここまで厳しい状況は初めて」と訴えました。これに対し伊藤氏は、「病院の経営危機はもっと早く来てもおかしくなかった。しかし、コロナになって病床確保の補助金がかなり医療機関に配られ、一時的に黒字となったため長期的な病院の経営改善といった問題の解決が先送りされ、今になって出てきた」と指摘しました。中村氏も「病院経営はコロナ前にカツカツの状況だった。コロナで(補助金により)経営的に改善したが、毎年続く賃上げ、ウクライナ戦争以後の物価上昇に耐えられなくなってきている。賃上げの原資は診療報酬なので、今のところ診療報酬で対応するしかない」と付け加えました。「先進国の中でこれだけ入院医療の比率が低く抑えられているのは珍しい。入院医療と外来医療の配分も考えてもらう必要がある」ただ、その診療報酬について伊藤氏は「広く薄くではなく、必要な医療に傾斜配分をするメリハリのある予算付けが必要。効率化しているところとしていないところの区別も重要。今のままの医療に今のままの単価を乗せるというやりかたでは限界が来る」と指摘、中村氏も「これは医療界の方には嫌われる意見かもしれない」と前置きした上で、「入院医療に対するお金の配分は相対的に外来医療に対する分より小さい。先進国の中でこれだけ入院医療の比率が低く抑えられているのはちょっと珍しい。その意味で、医療界全体として自分たちも協力する部分は協力するということで、入院医療と外来医療の配分も考えてもらう必要がある」と付け加えました。おそらくこの日の「日曜討論」の核心部分はこの中村氏の発言で、一部の医療関係者には衝撃的だったのではないでしょうか。この発言を”翻訳”すれば、「外来、すなわち診療所の診療報酬を抑え、病院の入院医療に回すことも検討するべきだ」という意味であり、その矛先は日本医師会に向けられていたからです。「診療所は儲かり過ぎている」という財務省の主張ほど過激ではありませんが、元厚労省幹部の発言なのでそれなりの重みがあります。この場に日医の幹部がいたなら激怒していたかもしれません。あるいは、中村氏にこれを言わせるために、NHKは討論に日医を呼ばなかったとも考えられます。中村氏はまた、前半の「医師偏在」の討論の中でも、外科や産婦人科を志望する医師が激減し、一方で研修修了後すぐに美容外科を目指す「直美」問題について、現在の抑制的で各診療科に平等な診療報酬も原因の一つだとして、「リスクが高くて労働時間も長い、たとえば外科や産科の報酬を手厚くするなどの対策をまずやるべき」とも語っていました。なお、こうした診療報酬の配分に関する発言に対し、病院経営者の2人からとくにコメントはありませんでした。太田氏は中医協の委員であるにもかかわらず、です。「診療報酬の配分」については、当事者ではない”学者から発言”に留めておこうと事前打ち合わせで決まっていたのかもしれませんね。『NHKスペシャル』に対し、日本医師会が医療の正しい情報を報道するよう求める要請文書さて、もう1本の番組は同じく6月1日にNHK総合で夜放送された『NHKスペシャル ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で』です。島根県の済生会江津総合病院を舞台に、「ミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるを得ないほど現場は追い詰められている」実態をカメラで赤裸々に追ったドキュメンタリーですが、なんと日本医師会はこの番組に対し「不適切と思われる部分があった」として、医療の正しい情報を報道するよう求める要請文書を送付したそうです。『日曜討論』に日医の役員が出ていなかったのも気になりますが、番組内容に対し「正しい情報を報道するよう求める」というのも穏やかではありません。一体何が日医を怒らせたのでしょうか?(この項続く)

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思春期うつ病に最も効果的な抗うつ薬は?

 中国・Capital Medical UniversityのTianwei Wu氏らは、10代の若者におけるうつ病治療に対する各種抗うつ薬の有効性を評価し、思春期うつ病に対する治療の有効性および忍容性を評価するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。BMC Psychiatry誌2025年5月10日号の報告。 対象は、各種診断基準(DSM-5、CCMD-3、DSM-4、ICD10/11)でうつ病と診断された6〜18歳の青年。2024年10月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)を主要データベース(PubMed、Cochrane Library、Web of Science)よりシステマティックに検索した。検索に使用したキーワードは、うつ病、うつ病性障害、感情障害、青年期、若年成人、未成年者、fluoxetine、セルトラリン、パロキセチン、agomelatine、vilazodone、エスシタロプラム、ベンラファキシンとした。バイアスリスクは、Cochraneバイアスリスクツールを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・15件のRCT(1万2,258例)をネットワークメタ解析に含めた。・ほとんどの研究では、ランダム化および割り付けの盲検化に関してバイアスリスクが低かったが、盲検化やアウトカム評価の実施が不明瞭な研究もみられた。・ネットワークメタ解析では、Children's Depression Rating Scale-Revised(CDRS-R)、臨床全般印象度(CGI-S)、Child Global Assessment Scale(CGAS)などいくつかの主要指標では、agomelatine(平均差[MD]:−0.34、95%信頼区間[CI]:−0.59〜−0.09)、fluoxetine(MD:−0.31、95%CI:−0.42〜−0.21)、セルトラリン(MD:−0.27、95%CI:−0.47〜−0.06)は、プラセボと比較して、CDRS-Rスコアの有意な改善が認められた。・CGI-Sについては、セルトラリンがより有効であった(MD:−4.39、95%CI:−4.77〜−4.01)。・CGASについては、エスシタロプラムがより有効であった(MD:2.08、95%CI:1.33〜2.84)。・累積順位曲線下面積(SUCRA)値では、エスシタロプラムは、CGASおよび臨床全般印象度の改善度(CGI-I)において他の薬剤よりも優れた効果を示し(各々:96.1%、86.4%)、agomelatineは、CDRS-Rスコアの改善において他の薬剤よりも優れていた(86.4%)。・セルトラリン使用は、CGI-Iスコアの上昇抑制に対して最も可能性の高い戦略であることが示唆された(100%)。・Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)スコアについては、パロキセチンは、他の薬剤よりも有意に優れていた(99.9%)。 著者らは「症状重症度尺度では、agomelatineとパロキセチン、機能改善尺度ではエスシタロプラムが最も高い評価を示した。セルトラリンは、CGI-SおよびCGI-Iにおいて優位性を示した」ことから「思春期うつ病の機能回復にはエスシタロプラム、迅速な症状改善が必要な重症患者にはセルトラリンを優先すべきである」と結論付けている。

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日本人ASD、ADHDの自殺予防のために必要な幼少期の体験

 弘前大学の足立 匡基氏らは、自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如多動症(ADHD)の特性と幼少期のポジティブな経験が自殺関連行動に及ぼす複合的な影響を調査するため、日本人の青年および若年成人の大規模かつ代表的なサンプルを用いて、調査を行った。さらに、幼少期のポジティブな経験が神経多様性特性に関連するリスク軽減に役立つかについても、検討を行った。Frontiers in Psychiatry誌2025年4月30日号の報告。 対象は、16〜25歳の日本人5,000人。検証済みの尺度を用いて、ASD およびADHD特性、幼少期のポジティブな経験、自殺念慮および自殺企図を含む自殺関連行動を測定し、データを収集した。これらの変数の影響を評価するため、階層的回帰分析を複数回実施した。幼少期のポジティブな経験と神経多様性特性との間の相互作用効果を検討し、潜在的な緩和効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・ASD特性およびADHD特性は、自殺念慮と正の相関が認められ、両特性のレベルが高いほど、自殺リスクが最も高かった。・幼少期のポジティブな経験を組み込むことで、自殺念慮との有意な負の相関が示され、幼少期のポジティブな経験が多いほど、自殺念慮のレベルは低かった。・幼少期のポジティブな経験は、ASD特性(β:0.180→0.092)およびADHD特性(β:0.216→0.185)と自殺念慮との関連性を低下させた。・交互作用分析では、幼少期のポジティブな経験の自殺念慮に対する保護効果は、ADHD特性が高い人において、とくに顕著であった。・単純傾斜分析では、ADHD特性が低い人(β:−0.339、z=−18.61、p<0.001)、高い人(β:−0.475、z=−21.84、p<0.001)のいずれにおいても、幼少期のポジティブな経験が多いほど、自殺念慮の減少と有意な関連が認められ、ADHD特性が高い人ほどより強力な影響が示された。 著者らは「ASDおよびADHD特性は、自殺リスクに累積的かつ潜在的に複合的な影響を及ぼすことを改めて明らかにすると同時に、幼少期のポジティブな経験が重要な保護的役割を果たすことが示唆された。幼少期のポジティブな経験は、とくにADHD特性の高い人において、感情調整不全や衝動性を軽減し、自殺関連行動の減少につながる。本研究は、脆弱な集団におけるレジリエンスやメンタルヘルスを促進するための標的介入の一環として、幼少期のポジティブな経験を促進することの重要性を示唆している」と結論付けている。

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今夏は高齢者、子供だけでなく職場の熱中症対策も重要に/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、5月28日に定例の記者会見を開催した。会見では、先の「3党合意による『11万床削減』の報道について松本氏がコメントし、「病床の削減は、方法論を間違えると、地域住民、患者やその家族、そして、医療現場で懸命に命や健康を守っている医療従事者、さらには医療に関わる業種の皆さんに、大変な不安や混乱を与えかねない」と強調し、「今後、関係者の理解と納得が得られる政策となることに期待を寄せる」と語った。 また、常任理事の城守 国斗氏(医療法人三幸会 理事長)が、6月4日に開催される「第19回 国民医療推進協議会総会」の概要を説明した。本協議会は平成16年10月、「国民の健康の増進と福祉の向上を図るため、医療・介護・保健および福祉行政の拡充強化を目指し、積極的に諸活動を推進すること」を目的に、日本医師会が各医療関係団体などに呼びかけ、発足。これまでの活動としては、国民皆保険制度を守るための活動や禁煙推進運動などを行っている。現在42の団体で構成されている。職場の熱中症対策では事業者に予防義務も明記 「今年の夏の熱中症対策について」をテーマに常任理事の松岡 かおり氏(池田病院 理事長・院長)が、6月から改正労働安全衛生規則の施行により職場における熱中症対策が義務化されることを含めて、熱中症対策について解説した。 熱中症による救急搬送件数は、2024年(9万7,578件)は10年前の2014年(4万48件)の2倍以上となっており、うち7歳未満の子供は約1.7倍、65歳以上の高齢者は約3倍に増加している。さらに、高齢者の熱中症の発生場所は、住宅など居住場所が全体の約半数を占めていると説明した。 熱中症対策では、とくに高齢者は喉の渇きを感じにくく、体内の水分が不足しがちであり、暑さに対する体の調節機能も低下していることから、注意が必要であり、「エアコンなどを上手に使用し、こまめな水分補給などを心がけるように」と語った。 一方、子供は体に蓄えておける水分量が少なく、容易に水分不足に陥りやすいうえ、自分から危険を感知・回避する能力が乏しいことから、大人が注意して観察し、定期的な休息やこまめな水分補給を促すことが重要だと指摘するとともに、夏の不規則な生活や睡眠不足は高温環境下での熱中症を加速させるとして、規則正しい生活と十分な睡眠を取るようにと述べた。 また、近年、職場における熱中症の死傷者数が増加傾向にあることを踏まえ、労働安全衛生規則の一部改正により、本年6月1日より職場における熱中症対策が義務化されたことに触れ、説明した。 事業者は「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際、(1)早期に発見するための体制整備(2)熱中症の重篤化を防止するための措置の実施手順の作成(3)これらの体制や実施手順について関係作業者への周知が義務付けられるとした。 さらに日本医師会では、こうした状況を踏まえ、職場における熱中症対策に焦点を当て、日本医師会公式チャンネルで詳しい解説を副会長の釜萢 敏氏が行っているので、参考にしてもらい、ぜひ活用してほしいと紹介し、会見を終えた。

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食生活の質は初潮を迎える年齢に影響する

 何を食べるかが、女児の初潮を迎える年齢に影響を与えるようだ。新たな研究で、食生活の炎症レベルが最も高かった女児では最も低かった女児に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が約15%高いことが示された。この結果は、身長やBMIで調整後も変わらなかったという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターのHolly Harris氏らによるこの研究の詳細は、「Human Reproduction」に5月6日掲載された。 この研究は、9〜14歳の米国の小児を対象にした追跡調査研究であるGrowing Up Today Study(GUTS)に1996年と2004年に参加した女児のうち、ベースライン時に初潮を迎えておらず、食生活の評価など必要なデータの完備した7,530人を対象にしたもの。参加者は初潮を迎える前に、9〜18歳の若者向けの食品摂取頻度調査(youth/adolescent food frequency questionnaire;YAQ)に回答しており、追跡期間中(2001〜2008年)に初潮を迎えた場合には、その年齢を報告していた。 研究グループは、YAQのデータを用いて代替健康食指数(Alternate Healthy Eating Index 2010;AHEI-2010)と経験的炎症性食事パターン(Empirical Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)のスコアを算出し、食生活の質を評価した。AHEI-2010は、野菜、豆類、全粒穀物などの健康的な食品に高い点数を、赤肉や加工肉などの食品やトランス脂肪酸、塩分などを含む食品といった不健康な食品には低い点数を付与する。一方EDIPは、食生活が体内で炎症を引き起こす可能性を総合的に評価する。参加者を、スコアごとに最も高い群から最も低い群の5群に分類した上で、AHEI-2010スコアおよびEDIPスコアと初潮を迎える年齢との関連を検討した。 参加者の93%が追跡期間中に初潮を迎えていた。BMIや身長を考慮して解析した結果、AHEI-2010スコアが最も高い群、つまり、食生活が最も健康的な群は最も低い群に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が8%低いことが示された(ハザード比0.92、95%信頼区間0.85〜0.99、P=0.03)。また、EDIPが最も高い群、つまり、食事の炎症性レベルが最も高い群では最も低い群に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が15%高いことも示された(同1.15、1.06〜1.25、P=0.0004)。 Harris氏は、「AHEI-2010とEDIPの2つの食生活パターンは初潮年齢と関連しており、食生活がより健康的な女児では初潮年齢の高いことが示唆された。重要なのは、これらの結果がBMIや身長とは無関係である点だ。これは、体格に関わりなく健康的な食生活が重要であることを示している。初潮年齢の早期化は、糖尿病、肥満、心血管疾患、乳がんのリスク上昇など、その後の人生におけるさまざまな転帰と関連していることを考えると、これらの慢性疾患のリスク低減に取り組む上で、初潮を迎える前の時期は重要な可能性がある」と述べている。 Harris氏はまた、「われわれの調査結果は、全ての小児期および思春期の子どもが健康的な食事へのアクセスと選択肢を持つべきこと、また、学校で提供される朝食や昼食は、エビデンスに基づくガイドラインに準拠したものであるべきことを浮き彫りにしている」と話している。

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中耳炎の治療、将来は抗菌ゲルの単回投与で済むかも?

 中耳炎に罹患した幼児の面倒を見た経験のある親なら、症状の治りにくさや再発のしやすさを知っているだろう。小児の中耳炎では、通常は数日間に及ぶ経口抗菌薬を用いた治療が行われるが、耐性菌が発生しやすく、再発リスクも高い。こうした中、ゲル状の外用抗菌薬の単回投与により中耳炎を効果的に治療できる可能性のあることが動物実験で明らかになった。米コーネル大学R.F.スミス化学・生体分子工学科のRong Yang氏らによるこの研究結果は、「ACS Nano」4月8日号に掲載された。 耳に抗菌薬を直接塗布すると、経口抗菌薬の服用により生じ得る胃の不調やカンジダ症感染などの副作用を軽減できる可能性がある。しかし、中耳炎は通常、鼓膜の奥で発生し、鼓膜自体が浸透性の構造ではないため薬が届きにくく、ほとんど効果が得られないという。 そこでYang氏らは、抗菌薬のシプロフロキサシンをリポソームに封入して薬を患部にまで到達させる方法を考え出した。脂質二重膜でできたカプセル状構造物のリポソームは、皮膚や鼓膜のような膜組織の細胞構造と相互作用して薬の浸透性を高めることが知られている。一般には正に帯電したリポソームは、皮膚組織などに薬をよく届けるとされている。しかしYang氏らは今回、正に帯電したリポソームだけでなく、負に帯電したリポソームにもシプロフロキサシンを封入し、温度に応じてその性質を変化させる温度感受性ハイドロゲルに添加して抗菌薬ゲルを作った。その上で、これら2種類のゲルと、ハイドロゲルとシプロフロキサシンを合わせただけのゲルの3種類の効果を、チンチラを用いて検証した。チンチラは中耳炎の研究において、人間の耳とよく似た反応を示す動物モデルとして広く使用されている。 その結果、中耳炎に罹患したチンチラのうち、負に帯電したリポソームに封入されたシプロフロキサシン含有ゲルを鼓膜に塗布されたチンチラでは、24時間以内に治癒が確認された。また、治癒後7日間の間に鼓膜の炎症や中耳炎の再発は見られなかった。これに対し、ハイドロゲルとシプロフロキサシンを合わせたゲル、または正に帯電したリポソームに封入されたシプロフロキサシン含有ゲルで治療されたチンチラのうち、治療から7日後に治癒が確認された個体の割合はそれぞれ25%と50%にとどまり、鼓膜の炎症の程度も未治療の場合と同程度であった。 ただし、動物実験の結果は人間では異なる場合が多いと研究グループは指摘する。それでもYang氏らは、中耳炎に対する治療が抗菌薬の単回投与で済むのなら、患者の治療遵守が高まり、小児における抗菌薬の使用が減り、その結果、患者ケアが改善される可能性があると述べている。 Yang氏は、「私は、この技術を研究室での実験から臨床現場へ応用する次の段階に大きな期待を抱いている。この技術は患者の治療遵守を高め、耐性菌の減少に寄与し、最終的には小児に対する抗菌薬の投与法を変える可能性があるからだ」と話している。

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コントロール不良の軽症喘息、albuterol/ブデソニド配合薬の頓用が有効/NEJM

 軽症喘息に対する治療を受けているが、喘息がコントロールされていない患者において、albuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる)単独の頓用と比較してalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用は、重度の喘息増悪のリスクが低く、経口ステロイド薬(OCS)の年間総投与量も少なく、有害事象の発現は同程度であることが、米国・North Carolina Clinical ResearchのCraig LaForce氏らBATURA Investigatorsが実施した「BATURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月19日号に掲載された。遠隔受診の分散型無作為化第IIIb相試験 BATURA試験は、軽症喘息に推奨される薬剤による治療を受けているが喘息のコントロールが不良な患者における固定用量のalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化イベント主導型・分散型第IIIb相比較試験であり、2022年9月~2024年8月に米国の54施設で参加者を登録した(Bond Avillion 2 DevelopmentとAstraZenecaの助成を受けた)。本試験は、Science 37の遠隔診療プラットフォームを用い、すべての受診を遠隔で行った。 年齢12歳以上で、短時間作用型β2刺激薬(SABA)単独またはSABA+低用量吸入ステロイド薬あるいはロイコトリエン受容体拮抗薬の併用療法による軽症喘息の治療を受けているが、喘息のコントロールが不良な患者を対象とした。 これらの参加者を、albuterol(180μg)/ブデソニド(160μg)配合薬(それぞれ1吸入当たり90μg+80μgを2吸入)またはalbuterol単独(180μg、1吸入当たり90μgを2吸入)の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で52週間投与した。 主要エンドポイントは、on-treatment efficacy集団(無作為化された治療の中止前、維持療法の強化前に収集した治療期間中のデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、time-to-event解析を行った。重度の喘息増悪は、症状の悪化によるOCSの3日間以上の使用、OCSを要する喘息による救急診療部または緊急治療のための受診、喘息による入院、死亡とし、治験責任医師によって確認された記録がある場合と定義した。 主な副次エンドポイントはITT集団(on-treatment efficacy集団のようなイベント[治療の中止や強化]を問わず、すべてのデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、副次エンドポイントは重度の喘息増悪の年間発生率と、OCSへの曝露とした。年齢18歳以上でも、2集団でリスクが低下 解析対象は2,421例(平均[±SD]年齢42.7±14.5歳、女性68.3%)で、albuterol/ブデソニド群1,209例、albuterol単独群1,212例であった。全体の97.2%が18歳以上で、ベースラインで74.4%がSABA単独を使用していた。事前に規定された中間解析で、本試験は有効中止となった。 重度の喘息増悪は、on-treatment efficacy集団ではalbuterol/ブデソニド群の5.1%、albuterol単独群の9.1%(ハザード比[HR]:0.53[95%信頼区間[CI]:0.39~0.73]、p<0.001)に、ITT集団ではそれぞれ5.3%および9.4%(0.54[0.40~0.73]、p<0.001)に発生し、いずれにおいても配合薬群で有意に優れた。 また、年齢18歳以上に限定しても、2つの集団の双方で重度の喘息増悪のリスクがalbuterol/ブデソニド群で有意に低かった(on-treatment efficacy集団:6.0%vs.10.7%[HR:0.54、95%CI:0.40~0.72、p<0.001]、ITT集団:6.2%vs.11.2%[0.54、0.41~0.72、p<0.001])。 さらに、年齢12歳以上のon-treatment efficacy集団における重度の喘息増悪の年間発生率(0.15vs.0.32、率比:0.47[95%CI:0.34~0.64]、p<0.001)およびOCSの年間総投与量の平均値(23.2vs.61.9mg/年、相対的群間差:-62.5%、p<0.001)は、いずれもalbuterol/ブデソニド群で低い値を示した。約60%がソーシャルメディア広告で試験に参加 頻度の高い有害事象として、上気道感染症(albuterol/ブデソニド群5.4%、albuterol単独群6.0%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(5.2%、5.5%)、上咽頭炎(3.7%、2.6%)を認めた。 重篤な有害事象は、albuterol/ブデソニド群で3.1%、albuterol単独群で3.1%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ1.2%、2.7%、治療関連有害事象は4.1%、4.0%にみられた。治療期間中に2つの群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験薬および喘息との関連はないと判定された。 著者は、「分散型試験デザインは患者と研究者の双方にとってさまざまな利点があるが、患者が費用負担を避けることによる試験中止のリスクがあり、本試験では参加者の約19%が追跡不能となった」「特筆すべきは、参加者の約60%がソーシャルメディアの広告を通じて募集に応じており、近隣の診療所や地元で募集した参加者のほうが試験参加を維持しやすい可能性があるため、これも試験中止率の上昇につながった可能性がある」「青少年の参加が少なく、今回の知見のこの年齢層への一般化可能性には限界がある」としている。

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第264回 あの3医学誌を“腐敗”呼ばわり、トランプ氏より危険な人物

トランプ大統領の影で大暴れする人物各種報道で話題になっているように、米・ハーバード大学とトランプ政権の攻防はエスカレートする一方だ。きっかけはトランプ政権が同大学の「“反ユダヤ主義的な差別”への取り組みが不十分」だと非難し、「応じなければ助成金や政府との契約を見直す」と発表。この要求を同大学が拒否したため、政権側は約23億ドル分(4月15日時点)の助成金と契約を凍結すると明言した。これに対し、同大学は凍結取り消しを求めて4月21日にマサチューセッツ州連邦地裁へ提訴。しかし、政権側は同大学に対し5月2日に免税措置を取り消し、22日に留学生受け入れ資格の停止、27日には推定1億ドル(日本円で約144億円)とも言われる政府との全契約打ち切り公言など、相次ぐ報復に踏み切った。ちなみに留学生受け入れ資格の停止についても同大学は即座に提訴し、マサチューセッツ州連邦地裁は翌23日に政府による措置の一時差し止め決定を下した。人によって評価は分かれるかもしれないが、私個人のトランプ大統領のこの間の言動に対する評価は「常軌を逸している」の一言に尽きる。まるで漫画「ドラえもん」に登場するガキ大将・剛田 武、通称ジャイアン並みの傍若無人ぶりである。そして世界中がトランプ大統領の言動に視線が集まる中、もう1人の主役が“大暴れ中”である。トランプ政権の保健福祉省長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)である。米国の3医学誌を腐敗呼ばわりケネディ氏は以前から極端なワクチン懐疑主義を唱え、コロナ禍中はその治療薬として一部で妄信的とも言える“期待”が語られた抗寄生虫薬のイベルメクチン支持者だったことでも知られる。このためケネディ氏の保健福祉省長官への就任には根強い反対論があり、上院での採決では身内の共和党も造反し、賛成51票・反対48票でかろうじて長官人事が承認された経緯がある。さてそのケネディ氏は5月27日、ポットキャストでLancet、New England Journal of Medicine、JAMAの3誌を「製薬企業が資金提供した研究ばかりが掲載され、腐敗している」と批判。「国立衛生研究所(NIH)の研究者にこれらの雑誌で論文を発表するのを止めさせる」とまで語った。もっともご存じの人も多いと思うが、ケネディ氏の主張は100%間違っているわけではない。これら医学誌に製薬企業の資金提供による論文が数多く掲載されていることは事実であり、またコロナ禍中には査読の甘さゆえに信頼性の低いデータに基づく論文が撤回されたこともある。とはいえ、世界各国の研究者がこの3誌に論文投稿する価値は十分あり、同時に各国の多くの研究者たちが愛読している雑誌である。少なくともNIH関係者が投稿を止めねばならないほど腐敗があると認める人は、この世界では極めて少数派だろう。それをケネディ氏の一存で止めさせようというのだから、相当なトンデモである。しかも、ケネディ氏はこれに代わる新たな医学誌の創刊をぶち上げたらしいが、医学誌1つの創刊と発行継続に、どれだけの資金と人員が必要かについては無頓着のようである。トランプ政権が各種予算を驚くような勢いで削減している中で、そのような費用の支出を政権として承認するかどうかは甚だ疑問である。ここぞとばかりに、ワクチンスケジュール削除また、同日には健常な子どもと妊婦に対する新型コロナワクチン接種を米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨するワクチン接種スケジュールから削除したと自身のSNSを通じて発表している。CDCの推奨ワクチンについては、外部専門家で構成されるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)が年数回開催する公開会議で、データに基づき厳格な審議と投票が行われる。その結果にパブリックコメントも踏まえた勧告案をCDCに提出し、CDC所長による承認を経て正式決定と公表がなされる。今回こうしたプロセスは一切経ていない。もはやここまでいくと「リーダーシップ」のふりをした「ディクテイターシップ(独裁制)」である。米国小児科学会(AAP)はさっそく声明を発表。ケネディ氏の“決定”は「独立した医療専門家を無視し、子どもたちを危険にさらすもの」「保険福祉省が収集したデータをAAPが分析した結果、2024~25年の呼吸器ウイルス流行期に1万1,199人の子どもが新型コロナで入院し、うち7,746人が5歳未満だったことが判明した」「健康な妊婦を除外するという決定は、65~74歳の高齢者と妊婦が新型コロナによる入院率が同程度にもかかわらず、もはや生後6ヵ月未満の乳児が保護を受けられなくなることを意味する」などと述べ、反発を強めている。また、米国産婦人科学会(ACOG)も「妊娠中の新型コロナ感染は悲惨であるとともに、重大な障害につながる可能性があり、家族にとって壊滅的な結果をもたらす可能性があることは明らか。新型コロナワクチンは妊娠中に安全であり、ワクチン接種は患者と出生後の乳児を守ることができる」との声明を発表した。さらに保健福祉省は28日、バイデン政権期に決定していたモデルナ社による高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のmRNAワクチン開発への助成を打ち切ると発表。同省は打ち切りについて、「連邦政府の投資継続に必要な科学的基準や安全性の期待を満たしていない」との見解を示したと報じられている。あくまで省として決定と伝わっているが、長官であるケネディ氏が「新型コロナのmRNAワクチンにはマイクロチップが含まれている」という陰謀説の出元と言われるだけに、同氏の関与をどうしても疑ってしまう。やりたい放題、いつまで続く?極めつきは5月22日に発表された「MAHA(Make America Healthy Again=米国を再び健康にする)委員会」の報告書だ。これは2月13日付でMAHA委員会を設置し、同委員会にアメリカ国民を不健康にしている原因究明とその解消策提言をするよう求めた大統領令に基づくもの。委員長はケネディ氏である。その内容を細かく取り上げるときりがないが、大雑把に要約すると「アメリカの子どもの慢性疾患は深刻で、その原因は加工食品や化学物質、薬の過剰投与、ワクチンの過剰接種が原因の可能性がある」というもの。トランプ政権入りする以前からのケネディ氏の主張そのままである。冒頭で触れたハーバード大学の留学生追放やすでに報じられている科学関連予算の大幅削減にこうしたケネディ色がトッピングされたら、4年後のアメリカはどうなってしまうのだろうか? 正直、嫌な予感しかないのだが…。

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 2

じゃあなんで現代でも女性スポーツでは受け入れられないの?性の多様性が現代社会の学問、政治、ビジネスにおいて広く受け入れられるようになってきた一方で、スポーツの世界ではあまり受け入れられていません。たとえば、2021年の東京オリンピックの女性重量挙げに出場した、元男性のトランスジェンダー女性が、IOCが定めた男性ホルモンの基準値を満たしていたにもかかわらず、非難を浴びました。また、2024年のパリオリンピックの女性ボクシングで金メダルを取った2人の選手は、生まれた時から性別は女性とされパスポートも性別は女性と明記されていましたが、性分化疾患(5α還元酵素欠損症)であることが判明して、遺伝的には男性であったことから議論を呼びました。なぜなのでしょうか? 大きく2つの理由を挙げてみましょう。(1)競技の公平性たとえば、性分化疾患の女性(遺伝的には男性)は、男性ホルモンが高ければ圧倒的に有利になってしまいます。また、トランスジェンダー女性(元男性)は、性別適合手術のあとで男性ホルモンがつくられなくなっても、以前の男性ホルモンの影響が骨格の大きさには残っていて有利になってしまう可能性があります。1つ目の理由は、男性と女性ではそれぞれの男性ホルモンの働きの違いから明らかな身体能力の差があり、身体的(遺伝的)に男性であるのに、女性競技に参加するのは不公平だと思われているから、つまり競技の公平性です。(2)性別二元制の価値観その1でも説明したように、体(身体的性)においても心(性自認)においても、人は、性スペクトラムとして連続しています。すると、どうしても男女の区別をオーバーラップする、つまり乗り越える人が現れます。しかし、現代まで続く近代オリンピックは、人間は男性と女性しかいないという19世紀当時の価値観を受け継ぎ、男女別々に行うという方式を踏襲してきました。そして、これを維持するために、かつてはトランスジェンダーや性分化疾患の選手を失格にして排除してきました。2つ目の理由は、トランスジェンダーや性分化疾患の選手たちの存在は、人間は男性と女性しかいないという固定観念を揺さぶり都合が悪いから、つまり、性別二元制の価値観です。じゃあどうすればいいの?トランスジェンダーや性分化疾患が女性スポーツで受け入れられない理由は、競技の公平性と性別二元制の価値観であることがわかりました。そして、そのような選手が非難にさらされるジレンマがあることもわかりました。それでは、どうすればいいでしょうか?その答えは、競技をもはや男女で分けるのではなく、男女の身体能力の違いを決定づける男性ホルモン(テストステロン)の数値で分けるのです。テストステロンの数値で分けると、クリアカットで曖昧な余地はありません。これは、競技によって体重で分けるのと同じです。「アンダー○○」や「マスターズ」など、年齢で分けるのとも同じです。そして、パラリンピックで障害の重症度で分けるのとも同じです。また、テストステロンの検査方法は、唾液検査と毛髪検査で代用できて、ドーピングの尿検査と同じくらい簡単に行えます。そして、唾液や毛髪の検査でテストステロンが基準値を超えていると疑われる場合はさらに血液検査を行います。このようにすると、もはや女性であるかどうかを確かめるための性器の目視検査(性分化疾患が疑われる場合はその計測や形状の評価)や性染色体検査は不要になります。そもそも、選手の性器がどうか、染色体がどうかという評価はとてもプライベートなことであり、このような検査を強制すること自体が時代遅れであり、とんでもない人権侵害です。どの数値で分けるの?テストステロンの血中の値は、男性10~30nmol/L(中央値15nmol/L)、女性0.4~2.0nmol/L(中央値0.7nmol/L)で、男性は女性の約10倍以上あり、その間に開きがあります3,4)。このグラフから、テストステロンの数値で分けるその線引き(カットオフ値)は、男性の下限、女性の上限、男女の中央値の差分から、7nmol/Lあたりが公正で妥当なのではないでしょうか?たとえばこの数値を以下のように新しいカテゴリーとして、そのまま表示するのです。男性の種目→テストステロン制限なしの種目女性の種目→テストステロン制限あり(7nmol/L以下)の種目ちなみに、現在、トランスジェンダー女性や性分化疾患の選手が女性の種目に参加するためのテストステロンの基準値は、オリンピック(IOCの規定)で10nmol/L以下、陸上競技(世界陸連の規定)と水泳競技(世界水泳連盟の規定)で2.5nmol/Lです。男女で分けるのではなく、テストステロンの数値だけで分けるとすると、IOCの基準(10nmol/L)では、その数値以下に入り込める男性が出てしまい、その選手は「制限あり」のカテゴリーでも出場できることになり、不公平です。一方で、世界陸連や世界水泳連盟の基準(2.5nmol/L)では、その数値に引っかかる女性が出てしまい、その選手は「制限なし」のカテゴリーでしか出場できなくなり、同じく不公平です。もちろん、今回ご提案する「7nmol/L」という数値の妥当性は、今後に議論されるでしょう。ただ少なくとも、3nmol/Lから9nmol/Lの間に収まるでしょう。また、テストステロンのみを指標とする妥当性についても、議論の余地があるでしょう。ただ現時点で、男女で分けるよりは公平であるということだけは言えます。今後に、テストステロンよりもさらに公平な指標のエビデンスが出てくるのなら、その時に具体的に提案されて比較検討されるべきでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その3)【逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?(競技の公平性)】Part 3

新しいカテゴリー分けにすると出てくる新たな問題とは? その解決策は?ただし、実際に「テストステロン制限なし」と「テストステロン制限あり」というカテゴリー分けにすることで、新たな問題が出てくることが想定されます。2つ挙げて、その解決策を検討しましょう。(1)「逆ドーピング」への取り締まり1つ目は、「制限あり」のカテゴリーで出場するために、テストステロンを下げる薬を使う男性が出てくることです。テストステロンなどを上げる薬(ドーピング)の逆、つまり「逆ドーピング」です。この解決策としては、ドーピングだけでなく、この「逆ドーピング」も取り締まりの対象にする必要があります。この点で、トランスジェンダー女性が「制限あり」のカテゴリーで出場する場合、見た目の女性らしくするホルモン療法は、テストステロンを下げる「逆ドーピング」になるため不可になります。一方で、トランスジェンダー男性が「制限なし」のカテゴリーで出場する場合でも、見た目を男性らしくするホルモン療法は、テストステロンを上げるドーピングになるため、当然不可になります。つまり、テストステロンに関係する薬は厳正に取り締まる必要があるわけです。あくまで、その選手本人の持つテストステロンのレベルを重要視するという公正さと一貫性が必要になります。よくよく考えると、もはや男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなります。すると、もはや男性らしいか女性らしいかという見た目がどうかよりも、個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。(2)精巣と身体能力の関係への理解2つ目は、性別適合手術(テストステロンをつくる精巣の除去)をしたトランスジェンダー女性だけでなく、病気(両側の精巣がんなど)や交通事故によって精巣を失った男性も、「制限あり」のカテゴリーで堂々と出場することができるわけですが、それに最初は理解が追い付かない人が出てくることです。この解決策としては、精巣と身体能力の関係への理解を広げる取り組みをする必要があります。確かに、手術をしても、骨格自体は以前のテストステロンの影響が残ります。しかし、精巣をなくして一定期間を経れば、筋力をはじめとする身体能力はやはり精巣がなくなった(テストステロン濃度が下がった)影響を強く受けます。また、彼らは、競技に有利になるために、精巣をなくしたわけではありません。この点で、彼らが元男性または男性だからというだけで、「制限なし」のカテゴリーにとどめるのは、「男性差別」に当たります。そして、これは、依然として性別二元制にとらわれていることになります。先ほどと同じように、もはや競技種目を男女で分けないので、「女性として出場する」「男性として出場する」という概念がなくなるため、男性かどうか、元男性かどうかという属性よりも、やはり個人個人の身体能力がどうかということに重きが置かれる必要がありますし、そうなっていくでしょう。スポーツ競技にも「多様な性にYESの日」が来た時これまで、男女別にしてきかたらこそ、男女の違いに目が行ってしまっていました。これからは、男女の違いではなく、トランスジェンダーや性分化疾患かどうかでもなく、性別適合手術をしたかどうかでもなく、シンプルに血中テストステロン濃度が基準値以下か以上かだけでカテゴリー分けをして、選手個人個人の身体能力の違いとしてスポーツ競技を楽しむという新しい時代の転換期に来ているのではないでしょうか? そんなスポーツにおいても「多様な性にYESの日」が来た時こそ、再びかつてのように性の多様性をありのままに受け入れ、特別視しない世の中になっているのではないでしょうか?1)「同性愛の謎」pp.84-88:竹内久美子、文春新書、20122)「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」p.982:精神科治療学、星和書店、2016年8月3)「パリ・オリンピック女子ボクシング問題から考える誤解だらけの「性分化疾患」」:谷口恭、医療プレミア、20244)「血液検査用テストステロンキット ケミルミ テストステロンII」(添付文書)p.3:シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社、2024<< 前のページへ■関連記事記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 1記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

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クラゲ刺傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第24回

今回はクラゲ刺傷に関してお話しします。私は幼少期、海で泳いでいるときにクラゲに刺されたことが何回かあります。大事はなく、受診はしませんでしたが、もし皆さんの外来にクラゲに刺された患者が来た場合はどうすればよいでしょうか?<症例>28歳、男性主訴たぶんクラゲに刺された。受診日に海で泳いでいたところ、足に痛みを感じて受診した。たぶんクラゲに刺されたのだろうとのこと。バイタルBP 128/42、P 82、SPO2 99%、BT 36.2℃上記のような患者が来院した場合どうしましょうか? 答えは、基本的には触手の除去と対症療法です。「えっ?」となるかもしれませんが、残念ながらそれ以上できることはありません。クラゲは全世界に1万種類いるとされ、そのうち100種類が毒を持っています1)。触手に刺胞というものが存在し、人間の皮膚などに接触すると浸透圧で破れて毒素が外に出ます。この毒素を移行させる速度は生物の中で最も早いとのことです2)。受診前の対応として、受傷時に酢で洗う、50℃くらいのお湯で洗うなどの方法があります。いずれも毒であるタンパクを分解することを目的にしています。しかし、酢は効果があるクラゲと効果がないクラゲがいて、刺胞が残っている場合は浸透圧の関係でさらに破れて毒が回る可能性があるためお勧めできません。お湯も同様です。よほどクラゲに詳しくない限り、現場ではクラゲの触手が残っているときは海水で洗い流すのが無難です(水道水だと刺胞が破れることがあります)。では受診してからはどうしましょうか? これは救急のABC(気道、呼吸、循環)のチェックと同じです。というのも、クラゲの毒の作用機序はほぼ同じですが、毒の強さが異なります。わが国で毒素の強いクラゲはカツオノエボシ(図1)とハブクラゲ(図2)が挙げられます。カツオノエボシは思わず触ってしまいそうですね。図1 カツオノエボシ図2 ハブクラゲカツオノエボシは本州の太平洋沿岸にカツオが到来する時期に海流に乗って来て、浮き袋の見た目が烏帽子に似ていることから三浦半島や伊豆半島でカツオノエボシと呼ばれるようになりました。主に本州以南の太平洋沿岸で春から秋にかけて発見され、被害は7月と8月に多いです3)。ハブクラゲは傘高20cmに達する大型のクラゲで、国内では琉球列島にのみ生息しています。傘の四隅に触手を7~9本備えていて、ハブに例えられる強烈な刺胞毒を持ち、刺されると電気が走ったような痛みとともにミミズ腫れになることもあります4)。双方とも重症化した場合、全身症状としては、局所症状の後、30~120分以内の背部痛や筋肉痛、痙攣、頭痛、嘔吐、高血圧、急性心不全、急性肺水腫、脳浮腫などを認め、死亡することもあります。全身症状は内因性カテコールアミンの上昇が関与していると考えられていて、イルカンジというクラゲによって生じるという報告があり、イルカンジ症候群と呼ばれています。受傷したとしても必ず重症化するわけではなく、カツオノエボシの重症度は軽症が66.9%、中等症が10.4%、重症が0.7%、死亡が0.05%、不明が22.0%です。いずれにせよABCに異常がある場合は、すぐに高次医療機関への転院が必要です。長くなりましたが症例に戻ります。順を追って対応しましょう。(1)ABCのチェック通常、独歩で受診する人はABCが崩れていることはないですが、万が一に備えて確認しましょう。(2)傷口の観察まず確認するのはクラゲの触手が残っていないかどうかです。残っていた場合、素手では取らず、手袋をして、さらに可能であれば鑷子で取り除きましょう。クラゲの傷であれば触手に沿った水ぶくれをみとめます。(3)治療治療は基本的には対症療法です。痛みに対しては、痛み止めの内服薬を処方します。以上が、クラゲ刺傷の処置になります。まれに重症化するクラゲに刺されることがありますが、それ以外は基本的に怖い病態ではありません。図3のように海岸に打ち上げられていることもあるので、むやみにクラゲを触るのはやめましょう。図3 打ち上げられたクラゲ1)Cegolon L, et al. Mar Drugs. 2013;11:523-550.2)Tardent P. BioEssays. 1995;17:351-362.3)稲葉大地 ほか. 医学のあゆみ. 2022;281:291-295.4)黒潮生物研究所公:ハブクラゲ

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第268回 生まれつき重病の乳児への世界初の体内塩基編集治療がひとまず成功

生まれつき重病の乳児への世界初の体内塩基編集治療がひとまず成功生まれつきの重病の乳児に、その子専用にあつらえた体内遺伝子編集治療が世界で初めて投与されました1,2)。幸いなことに手に負えない有害事象は生じておらず、経過はひとまず順調なようです。KJと呼ばれるその男児の病気はカルバモイルリン酸合成酵素1(CPS1)欠損症と言い、病名が示すとおりCPS1欠乏を引き起こす遺伝子の異常で生じます。CPS1はミトコンドリアにある酵素で、もっぱら肝細胞で取り行われる解毒反応で必須の工程を担います。CPS1は神経毒のアンモニアと炭酸水素を組み合わせて尿素回路の基質となるカルバモイルリン酸を作ります。カルバモイルリン酸を取り込んだ尿素回路から尿素が作られて尿中へと排出されます。遺伝子の異常でCPS1が不足して用を成さなくなると、血中のアンモニアが増え、脳を害する高アンモニア血症に陥ります。治療しないままの高アンモニア血症は昏睡を引き起こして死に至る恐れがあります。KJは生後2日と経たず発症し、血中のアンモニア濃度は基準範囲9~33μmol/Lを遥かに上回る1,703μmol/Lを示していました。KJのゲノム配列を解析したところCPS1の生成を途中で終わらせてしまう変異Q335Xが見つかりました。Q335Xは塩基のグアニンをアデニンに置き換えるナンセンス変異で、本来アミノ酸を指定するコドンを停止コドンにします。そのせいでCPS1は寸足らずの短いものとなってしまいます。KJにはその変異を正す塩基編集治療が施されました。米国のフィラデルフィア小児病院の医師Kiran Musunuru氏らがペンシルバニア大学の研究者と協力して開発されたその治療はkayjayguran abengcemeran(k-abe)と呼ばれ、Cas9ニッカーゼ(Cas9n)とアデノシンデアミナーゼの複合体であるアデニン塩基編集タンパク質(ABE)を作るmRNA(abengcemeran)、ガイドRNA(gRNA)、それらを肝細胞に運ぶ脂質ナノ粒子で構成されています。k-abeのgRNAがCPS1変異領域へABEを導き、ABEのCas9n領域がまず目指す配列に結合します。続いてアデノシンデアミナーゼ領域がアデニンを脱アミノ化します。そうしてアデニン-チミン塩基対がグアニン-チミン塩基対へと変換され、寸足らずではない完全長のCPS1が作られるようになります。k-abeはマウスで遺伝子編集の効率を調べ、サルで安全性を確認した後にKJに静注されました。本年2025年の4月までにk-abeは合計3回投与され2)、安全性にこれといった難はなく、深刻な有害事象は認められていません。効果のほども見て取れ、生後7ヵ月ごろ(生後208日目)の最初のk-abe投与から7週間にKJは食事でのタンパク質摂取を増やすことができ、窒素除去薬の用量を半分に減らせました。また、CPS1の働きが回復していることを示す所見と一致する血中アンモニア濃度低下も認められています。CPS1遺伝子配列が正しく編集されているかどうかを検討するための肝臓の生検には報告の時点で至っていません。幼いKJに肝生検は危険すぎたからです。効果の持続のほど、目当ての配列以外の余計な編集やk-abeへの免疫反応の害もわかっておらず、より長期の経過観察でk-abeのさらなる安全性や有効性、それに神経の調子を検討する必要があります1,3)。 参考 1) Musunuru K, et al. N Engl J Med. 2025 May 15. [Epub ahead of print] 2) World's First Patient Treated with Personalized CRISPR Gene Editing Therapy at Children's Hospital of Philadelphia / PRNewswire 3) Gropman AL, et al. N Engl J Med. 2025 May 15. [Epub ahead of print]

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マイコプラズマ肺炎、大阪府のマクロライド耐性率は約6割

 大阪府の医療施設を対象とした調査において、2024年のMycoplasma pneumoniaeのマクロライド耐性変異率は60.2%に達していたことが報告された。マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎は2000年代から増加し、2012年前後にはM. pneumoniaeのマクロライド耐性変異率が80~90%に達した。その後、マクロライド耐性変異率は低下し、2019年前後には20~30%となった。それ以降は、COVID-19パンデミックに伴ってマイコプラズマ肺炎の報告が激減したが、2024年には再流行がみられた。そこで、宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)らの研究チームは、大阪府の医療施設を対象として、2018~24年のマイコプラズマ肺炎の報告件数とM. pneumoniaeのマクロライド耐性変異率を調査した。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年4月22日号に掲載された。 本研究は2018~24年に大阪府の36施設を受診した小児2,715例のうち、M. pneumoniaeが陽性となった367例を対象とした。鼻咽頭拭い液検体を用いてM. pneumoniaeを培養し、ダイレクトシークエンス法により23S rRNAドメインVの変異を調べた。 主な結果は以下のとおり。・2024年のM. pneumoniaeのマクロライド耐性変異率は60.2%(127/211例)であり、2018~20年と比べて有意に高かった(p<0.001)。各年の耐性変異率は以下のとおり(2021~23年は報告数が少ないため参考値)。 -2018年:17.6%(9/51例) -2019年:20.6%(13/63例) -2020年:26.7%(8/30例) -2021年:33.3%(1/3例) -2022年:33.3%(1/3例) -2023年:50.0%(3/6例) -2024年:60.2%(127/211例)・耐性変異が認められた162例中160例がA2063G変異であった。 著者らは、本研究結果について「M. pneumoniae感染症に対する抗菌薬の選択には注意が必要である」と述べている。

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HIV小児の2次治療、至適なARTレジメンは?/NEJM

 1次治療に失敗したヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性の小児の2次治療において、バックボーン療法としてのテノホビル アラフェナミドフマル酸塩(TAF)+エムトリシタビン(FTC)に、アンカー薬としてドルテグラビル(DTG)を併用する抗レトロウイルス療法(ART)は、他のレジメンと比較して有効性が高く、安全性の懸念を示す所見はみられないことが、ウガンダ・Makerere UniversityのVictor Musiime氏らが実施した「CHAPAS-4試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年5月15・22日合併号に掲載された。アフリカ3ヵ国の2×4要因デザインの無作為化試験 CHAPAS-4試験は、アフリカのHIV陽性の小児の2次治療におけるさまざまなARTレジメンの有効性と安全性の比較を目的とする2×4要因デザインを用いた非盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月にアフリカの3ヵ国(ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ)6施設で参加者の無作為化を行った(欧州・開発途上国臨床試験パートナーシップ[EDCTP]などの助成を受けた)。 年齢3~15歳、体重14kg以上で、1次治療において非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)をベースとするARTレジメンによる治療に失敗し、スクリーニング時にウイルス量が400コピー/mL超のHIV陽性の小児を対象とした。 これらの参加者を、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)による2つの併用バックボーン療法(TAF+FTC、標準治療[アバカビル[ABC]+ラミブジン[3TC]またはジドブジン[ZDV]+3TC])のいずれかに無作為に割り付け、同時に4つのアンカー薬(DTG、リトナビル[RTV]でブーストしたダルナビル[DRV/r]、RTVでブーストしたアタザナビル[ATV/r]、RTVでブーストしたロピナビル[LPV/r])の1つに無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、96週の時点におけるウイルス量が400コピー/mL未満であることとした。 次の仮説を設定し検証した。「TAF+FTCは標準治療に対して非劣性、LPV/rとATV/rを統合した解析でDTGおよびDRV/rは優越性を示す、ATV/rはLPV/rに対して非劣性」。DRV/rも有効な可能性 919例(年齢中央値10歳[四分位範囲:8~13]、男性497例[54.1%])を登録した。バックボーン療法はTAF+FTCに458例、標準治療に461例(ABC+3TC群217例[47.1%]、ZDV+3TC群244例[52.9%])を割り付けた。アンカー薬は、DTGが229例、DRV/rが232例、ATV/rが231例、LPV/rが227例であった。全体のベースラインのウイルス量中央値は1万7,573コピー/mL、CD4細胞数中央値は669個/mm3、CD4細胞割合中央値は28.0%だった。 バックボーンにおける96週の時点でウイルス量400コピー/mL未満を達成した患者の割合は、標準治療が83.3%(378/454例)であったのに対し、TAF+FTCは89.4%(406/454例)であった(補正後群間差:6.3%ポイント[95%信頼区間[CI]:2.0~10.6]、p=0.004)。事前に規定された非劣性マージン(10%ポイント)を満たしたため、TAF+FTCの標準治療に対する非劣性(かつ優越性)が示された。 アンカー薬別の96週時にウイルス量400コピー/mL未満を満たした患者の割合は、DTGが92.0%、DRV/rが88.3%、ATV/rが84.3%、LPV/rが80.7%であった。LPV/rとATV/rを統合した解析では、主要アウトカムに関してDTGの優越性が示された(補正後群間差9.7%ポイント[95%CI:4.8~14.5]、p<0.001)が、DRV/rには有意な差を認めなかった(5.6%ポイント[0.3~11.0]、p=0.04[事前にp=0.03を有意差ありの閾値に設定])。 また、ATV/rはLPV/rに対し非劣性であった(補正後群間差:3.4%ポイント、95%CI:-3.4~10.2、p=0.33)。グレード3または4の有害事象は13.8% 96週の時点で、全体の13.8%(127/919例)にグレード3または4の有害事象が発現し、最も頻度が高かったのは高ビリルビン血症(6.4%)で、予想どおりその多くがATV/r(24.7%)に関連したものであった。また、グレード3または4の有害事象は、LPV/r(11.5%)に比べDTG(5.2%)で少なく(p=0.02)、DRV/r(8.6%)とLPV/r(11.5%)には有意差を認めなかった(p=0.31)。 重篤な有害事象は29例(3.2%)に発現した(バックボーン:TAF+FTC群15例、標準治療群14例、アンカー薬:DTG群6例、DRV/r群8例、ATV/r群5例、LPV/r群10例)。ARTの変更に至った有害事象(グレードを問わず)は24例(同:7例、5例、5例、7例)に発現した。1例(TAF+FTC、DTG)が病勢の進行により死亡した。 著者は、「本試験の良好な臨床アウトカムはベースラインのCD細胞数の値が比較的高かったことが一因であり、臨床的に重大な免疫機能の低下を認める前に2次治療に切り換えるという原則を支持する結果といえる」「全体として、今回の結果は、小児の2次治療におけるTAF+FTCとDTGの有効性と安全性に関するデータを提供するものである」「TAF+FTCの使用が拡大すると医療費の削減にもつながる可能性がある」「これらの知見は、アンカー薬の有無にかかわらず、小児にやさしいTAF+FTCの固定用量の合剤のさらなる開発を支持する」としている。

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第244回 外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連

<先週の動き> 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連 2.リンゴ病が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連外科医療の持続可能性が危機に瀕する中、日本消化器外科学会と日本心臓血管外科学会は、高難度症例の「地域拠点への集約化」と「経済的インセンティブの付与」をセットで推進する必要性を訴えた。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が5月19日に開催した記者懇談会で明らかにされた。消化器外科学会の試算によれば、同会員(65歳以下)は2023年の約1万6,000人から2043年には約8,000人にと半減すると予測される。背景には、キャリア形成の難しさ(専門医取得まで17~20年)や、救急・移植など多岐にわたる業務負担の重さ、そしてその努力に見合わない評価の低さがある。同学会の調査では、現役外科医の4割が「子に外科を勧めない」と回答しており、外科離れの深刻さがうかがえる。これに対し学会は、症例を拠点病院に集約することにより短期間で多くの経験が得られ、キャリア形成が加速する環境を整備すべきと提言。集約先病院には報酬上の評価を充実させ、医師のモチベーション維持と人材確保を図るべきとする。同様に、心臓血管外科学会も「症例数と成績の正の相関」に基づき、高難度手術の集約化を推進。「搬送時間が予後に影響を及ぼさない」というデータも示し、集約化による利点が搬送距離の不利を上回るとした。加えて、ICU体制強化やタスクシフト推進、報酬面での手厚い支援の必要性も訴えた。一方、救急・産科領域では「集約化一辺倒」の議論に警鐘が鳴らされた。医療アクセスの確保が不可欠であり、働き方改革と診療報酬の乖離が、地域医療の崩壊を招く危険があると警告。産科では正常分娩の保険適用による報酬低下が、医療提供体制に大きな打撃を与える懸念が指摘された。こうした各学会の提言の根拠となるのが、NCD(National Clinical Database)である。年間150万例以上の手術データを蓄積するこの巨大データベースは、症例の集約が望ましい術式や、施設ごとに必要な外科医数の可視化を可能にし、今後の医療提供体制の設計に極めて重要な役割を果たす。2026年度の診療報酬改定に向け、外保連はNCDに基づく科学的データを活用し、地域医療構想との整合を図った制度設計を強く求めている。 参考 1) 消化器外科医が20年間で半減、学会試算 キャリア形成見えにくく 「手術の集約を」(CB news) 2) NCDを活用することで、地域ごとに「どの外科領域のどの術式について、どの程度の集約化が必要か」などを明確化できる-外保連(Gem med) 2.伝染性紅斑(リンゴ病)が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS子供に多くみられるウイルス感染症の「伝染性紅斑(リンゴ病)」の感染が拡大しており、妊婦に対する注意喚起が強まっている。国立健康危機管理研究機構(JHIS)の発表によれば、2025年5月5~11日の1週間に全国約2,000の小児科定点医療機関から報告された患者数は、1施設当たり1.14人。これはこの時期としては過去10年で最多の水準であり、4月以降、1.0人超の高水準が継続している。都道府県別では、栃木県(4.19人)、宮城県・山形県(各3.23人)、北海道(2.87人)など、東北・北日本を中心に高い報告数が続く。専門家は、昨年秋の関東での流行から、地域と時期をずらしながら今年秋頃までの流行継続を予測している。伝染性紅斑は、パルボウイルスB19が原因で、飛沫感染や接触感染により伝播する。感染初期は風邪様症状を呈し、その後、頬部の紅斑が出現するのが特徴。小児や一般成人では自然軽快することが多いが、過去に感染歴のない妊婦が感染した場合、胎児水腫や流産・死産のリスクがあることが知られている。日本産婦人科感染症学会の山田 秀人氏は、「流行年には全国で100人以上の流産・死産が発生していると推定される」と警鐘を鳴らす。感染経路の特徴として、発疹出現の約1週間前が最も感染性が高く、無症候期に家庭内で感染が広がる点も問題視されている。治療法やワクチンは存在せず、予防策としては手洗い・マスクの着用、人混みの回避が推奨される。とくに妊婦や、妊婦と接する職業に従事する医療関係者、保育・教育従事者への注意喚起が重要である。厚生労働省も、家庭内感染防止の観点から、同居家族にも感染対策の徹底を求めている。 参考 1) リンゴ病の患者数 この時期としては過去10年で最多 感染対策を(NHK) 2) 「リンゴ病」感染拡大、流産の原因になることもあり注意呼びかけ(読売新聞) 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省文部科学省は5月21日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の人材確保と魅力向上を目的とした中間骨子案を提示した。医学生の63.1%が大学病院以外への就職を希望し、その主因は給与や労働環境の良さであった。勤務希望理由として「地域医療への貢献」が最多(73.0%)だった一方で、「研究力向上」は34.4%に留まった。勤務医の離職傾向も顕著で、助教・医員の54.1%が大学病院以外での勤務を志望している。博士課程進学希望者は44.0%で、進学時期は専門研修後が主流となっている。これにより大学院進学率や学位取得率の低下が顕在化し、臨床と研究の両立困難さが浮き彫りとなっている。助教の64.9%は研究時間が週5時間以下とされ、研究力の国際的低下も深刻化している。対策として、専門研修と博士課程を両立可能な「臨床研究医コース」の推進、研究時間確保のためのバイアウト制度活用、研究費・環境整備の支援強化などが骨子案に盛り込まれた。また、特定機能病院の見直しにおいて、大学病院が地域医療構想に整合した「地域貢献機能」を担うことも明記された。今後の重点課題は、医師にとって大学病院勤務が魅力ある選択肢となるよう、制度・評価・財政面での総合的な支援体制の構築が喫緊の課題となる。 参考 1) 第14回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省) 2) 大学病院の人材確保で「臨床研究医の育成推進」 文科省検討会(MEDIFAX) 3) 医学部5・6年生の63%が大学病院での勤務希望せず 在職者も過半数で 文科省検討会(CB news) 4) 大学病院で働く医師の研究・教育時間が減少傾向、世界での研究力低下が課題に(日経メディカル) 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ5月23日、自民党・公明党と日本維新の会は、国会内で開かれた社会保障改革に関する実務者協議で、全国の医療機関に存在する余剰病床をおよそ11万床削減する方針で大筋合意した。維新の主張を自公が一定程度受け入れる形で、政府が6月に取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への明記を目指す。維新は、医療費の年間総額を最低4兆円削減し、現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げることを主張。11万床の病床削減によって、1兆円の医療費削減が可能との試算を示していた。今回の協議では、自公側もこの見解を共有したとされ、病床削減に向けた合意形成が進展した形。しかし、維新が併せて提案している、OTC(一般用医薬品)と同等の効能を持つ医薬品の保険給付除外については、自公との間で意見の隔たりが大きく、今国会での結論は困難との見通しが示された。今後も継続して協議が行われる予定。背景には、21日の党首討論で維新の前原 誠司共同代表が改革への進展が見られないことに対し「守らなければ内閣不信任に値する」と強く牽制したことがある。これを受け、石破 茂首相は翌日、自民党幹部に誠意ある対応を指示したとされ、今回の合意形成に一定の政治的圧力が影響したとの見方も出ている。自民党の田村 憲久元厚生労働相は「内容的にはほぼ同じ考えを共有できた」と発言。維新の岩谷 良平幹事長も「11万床の削減については相互理解に達した」と述べた。3党は今後、協議内容を文書化し、制度改革の具体的方針を固めていく。医療現場においては、病床削減が地域医療に及ぼす影響の精査と、代替的な医療提供体制の整備が急務となる。現場の声やデータを踏まえた、慎重な制度設計が求められる段階に入ったといえる。 参考 1) 自公維、余剰病床削減で大筋合意 「骨太方針」に明記の方向で調整(東京新聞) 2) 保険料負担軽減へ“11万床減で医療費1兆円削減”自公維が共有(NHK) 3) 余剰病床の削減で大筋合意、自公維の社会保障協議 骨太方針に明記へ(日経新聞) 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道北海道室蘭市の市立室蘭総合病院は、2025年度に約19.8億円の赤字、累積資金不足が37億円超に達する見込みであることを受け、正職員の基本給を9%削減することで労働組合と合意した。削減は2026年3月末までの限定措置で、医師と市からの人事交流職員を除外。会計年度任用職員は4%の削減とし、総額約5.85億円の人件費削減を見込む。当初、病院側は正職員11%、会計年度任用職員5%の削減を提案していたが、組合は「赤字は国の政策による構造的問題であり、職員に責任はない」と反発。一方で、公立病院として地域医療を守る責任や、市の財政健全化への影響を考慮し、約3ヵ月にわたる交渉の末に妥結した。市立病院は現在、経営が厳しい民間の「日鋼記念病院」との統合を目指しており、病院再編に向けた協議が進行中だが、統合後の病院機能や人員配置の見通しは不透明なままである。組合は「病院の将来像が見えないことが交渉長期化の要因」とし、地域医療の継続に対する懸念を表明している。室蘭市の病院事業会計は、一般会計から毎年約16億円の繰り入れを受けているが、補助金など外部財源への依存は困難な状況で、持続可能な病院運営が喫緊の課題となっている。地域の医療圏を支える中核病院として、感染症対応や災害時の医療提供といった機能維持が求められる中、今回の給与削減は苦渋の決断といえる。今後、医療提供体制の再構築と財政的持続可能性を両立させるには、国・自治体・医療機関の三者による支援体制の再検討と、地域医療ビジョンの明確化が急務とされている。 参考 1) 市立室蘭病院 正職員の基本給9%削減で労使合意 医療機能維持「苦渋の決断」 病院統合へ課題は山積(北海道新聞) 2) 厳しい経営続く市立室蘭総合病院 再来年まで職員給与9%削減(NHK) 3) 「地域医療守る」組合決断 市立室蘭、給与削減合意(室蘭民報) 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県岐阜市の岐阜赤十字病院は、職員16人が長年にわたり敷地内で喫煙していた事実が発覚したことを受け、禁煙外来の診療報酬約450万円を患者や健康保険組合に返還する方針を明らかにした。同病院は2005年から敷地内を全面禁煙とし、2006年からは「敷地内禁煙」が禁煙外来における診療報酬の請求要件となっていた。病院によると、喫煙行為は少なくとも2006年6月~2023年12月まで継続的に行われていたとされ、看護師や元管理職を含む16人が病棟の陰などで喫煙していた。昨年12月、日赤岐阜県支部に寄せられた匿名の情報提供をきっかけに、今年1月から全職員約550人への聞き取り調査を実施し、事実が判明した。この問題により、「ニコチン依存症管理料」などの診療報酬請求の正当性が失われたと判断し、病院は2006年6月~2023年までの禁煙外来の受診者約750人と健康保険組合などに対し、報酬を返還する。返還対象者には5月下旬以降、順次連絡が行われる予定。同病院には、以前から投書箱などを通じ、職員の喫煙を指摘する声が寄せられていた。病院は厚生労働省東海北陸厚生局に報告し、5月23日にはホームページ上で事案を公表した。 担当者は「認識が甘く、申し訳ない」と謝罪し、今後は職員への禁煙教育の徹底や公益通報窓口の設置を含む再発防止策を講じるとしている。 参考 1) 禁煙外来あるのに…岐阜赤十字病院の職員16人、長年にわたり敷地内で喫煙 診療報酬返還へ(中日新聞) 2) 岐阜赤十字病院の職員が敷地内で喫煙 診療報酬を返還へ(NHK)

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HAEの気道発作の救命は時間との勝負/CSLベーリング

 CSLベーリングは、5月16日の「HAE DAY(遺伝性血管性浮腫の日)」を記念し、「HAE DAYメディアセミナー 遺伝性血管性浮腫(HAE)~救急現場と患者さんの声から考える診断と治療の課題~」を開催した。遺伝性血管性浮腫(HAE)は、国の指定難病の1つで、皮膚や腹部などに突然むくみ(浮腫)が生じる疾患で、咽頭に発作が起きた場合、気道が閉塞し呼吸困難に陥り、患者の生命に関わる危険性もある。わが国には、未診断の患者も含め約2,500人の患者が推定されている。 セミナーでは、救急医療の観点からHAEと疑い診断をつけるポイントや患者会の活動と患者・患者家族の声などが語られた。なお、同社はHAEの治療薬としてヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体製剤ガラダシマブ(商品名:アナエブリ)を4月18日に発売している。HAEの気道発作では発症から20分で生命が危険に 「HAE診断率向上は救命への道標」をテーマに自身も救急現場でHAE患者に遭遇し、診療経験もある薬師寺 泰匡氏(薬師寺慈恵病院 院長)が、HAEの救急現場での診療の流れやノウハウ、今後の展望などを説明した。 HAEは、薬剤や自己免疫などを原因とする血管浮腫と異なり、多くは血管中のC1蛋白分解酵素阻害因子(C1-INH)が低下し、ブラジキニンが上昇することで生じる限局性の浮腫。患者は1~5万人に1人(推定患者数は約2,500人)とまれな疾患であり、主に10代で発症する。 浮腫の症状としては「皮下」「消化管」「咽頭周囲」が多く、その特徴を個別に示した。 「皮下」では、四肢、顔面、生殖器の皮膚が膨張し、痒みはないが、腫脹による痛みがあるケースもある。 「消化管」では、本症の70~80%が腹部症状であり、悪心、嘔吐、疼痛などを引き起こす。過去には、症状が急性腹症に類似していることから不必要な手術などが行われたこともあったという。現在では、エコー検査、内視鏡検査で器質的な所見を見つけることもできるようになった。 「咽頭周囲」は、本症で最も致死的な症状であり、患者の2人に1人は咽頭発作を起こし、11~45歳の患者で最も頻度が高い。咽頭浮腫では、初期症状として嚥下困難、声のトーンの変化(嗄声など)から始まり、発症から約20分程度で気道が閉塞し、窒息に至る。過去、30%の患者が窒息で死亡しており、咽頭浮腫の発生は平均26歳頃に始まるという報告がある1)。また、窒息で亡くなった患者70例の平均年齢は40.6±14.3歳という報告もある2)。そして、救急科に不幸にも気道閉塞で搬送された場合、気道確保が行われるが、口からの確保ができない場合、鼻から器官チューブを入れて気道を確保する処置が行われている。 2000年以降、HAEでは発作予防としてC1-INH濃縮製剤や急性期のイカチバントなど治療薬が発売されたことで、救急現場では対症療法から「気道確保、呼吸管理、循環管理」と「アナフィラキシーか血管性浮腫などの鑑別診断」の後に、「診断」とオンデマンド治療への流れができるようになった。さらに長期予防投与のベロトラルスタットやラナデルマブの登場によりHAEと確定診断のついた患者では、救急搬送がなくなる可能性も出てきた。 ただ、救急対応後の課題として、「フォローアップ外来が見つけにくいこと」があるほか、「医療者の疾患への認知度不足により、診断や治療につながらない」、「未診断の患者のリスクが高いこと」などが残る。 そこで、薬師寺氏は「診療のstrategy」として4つのステップを提案する。1)HAEを疑う(皮膚・粘膜の浮腫に気が付く) 皮膚科、消化器科、耳鼻科、泌尿器科、循環器科、救急科などに啓発がさらに必要2)HAEを診断する(C1-INHを測定する) 早期発見のためにも血液検査を実施する3)HAEをフォローする 長期発作抑制の種々の薬剤を選ぶ、オンデマンド治療、かかりつけ医に相談できる環境4)HAE safety netを張る 気道閉塞などの緊急時の対応、腹痛などでの入院先 おわりに薬師寺氏は、HAEの診療について、(1)繰り返す腫れ、腹痛はまず医師に相談(2)血液検査はどの医療機関でも実施可能(3)発作時の治療では長期発作抑制薬もある(4)救急搬送先の確保が必要とまとめ、「今後、患者が過ごしやすい社会の構築作りが課題」と指摘し、レクチャーを終えた。病気が個性と言える日が来ることを願う 「患者家族が抱える診断・治療・生活の課題~患者家族、患者会代表の視点から~」をテーマに患者会HAEJ 代表理事の松山 真樹子氏が、患者家族の経験談や患者会の活動内容、現在の課題などを語った。 HAEJは、2014年に設立され、松山氏は2023年より理事長を務めている。松山氏は、夫をHAEの発作で亡くされ、自身の子供も遺伝子検査でHAEと診断されている。 HAEJの活動としては、疾患の認知拡大や診断率の向上などのため、海外の患者会と連携してさまざまな活動を実施している。具体的には、ウェブサイトによる情報配信、医学会への参加、メディアへの露出などを行い、医師・医療従事者へ本症の啓発を行っている。 患者・家族の日常生活について、予防治療もでき生活が安全になったものの、患者は発作再燃があるのを忘れてしまうこともあり、「発作時の対応が今も大変だ」と語る。また、医師とのコミュニケーションでは、「医師に説明してもわかってもらえない」「医師との病状対話が緊張してできないなど」の課題があるが、最近では診療時にアプリの記録やスコアチェックシートを介して説明することで解決されつつある。診療でのハードルは、「遺伝病のイメージが独り歩きしている」ために「患者は知られないように不安を感じるなどの悩みがある」という。そのほかにも、疾患の知識と理解のアップデートが医師も患者も追い付いていないという課題もあるという。 まとめとして松山氏は、「患者の希望は、普通の生活ではなく、望む生活を送ることができることであり、積極的に発作の予防・対応に治療薬を使用し、QOLを上げてほしい」と患者家族からみた思いを語り、「病気は個性といえる日が来るように願う」と患者である子供の言葉を述べ、説明を終えた。

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妊娠初期の貧血は子の先天性心疾患リスクを高める

 妊娠100日目までの妊娠初期に母親が貧血状態にあると、生まれてくる子どもが先天性心疾患を持つリスクが大幅に高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学分野のDuncan Sparrow氏らによるこの研究結果は、「BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynaecology」に4月23日掲載された。Sparrow氏は、「妊娠初期の貧血がこれほど有害であることを示した本研究結果は、世界中で医療のあり方を一変させる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 Sparrow氏らは今回、英国で出生後5年以内に先天性心疾患の診断を受けた児を出産した女性2,776人(症例群)と健常児を出産した女性1万3,880人(対照群)の医療記録を比較した。母親の貧血の有無は、妊娠100日目までに測定されたヘモグロビン濃度を確認し、110g/L未満を貧血と見なした。 その結果、妊娠100日目までに貧血状態にあった母親の割合は、症例群で123人(4.4%)、対照群で390人(2.8%)であることが明らかになった。影響を与える可能性のある因子を調整して解析した結果、貧血状態にあった母親が先天性心疾患と診断される児を出産するオッズは、貧血のなかった母親に比べて47%有意に高いことが示された(オッズ比1.47、95%信頼区間1.18〜1.83、P=0.0006)。 研究グループによると、これらの結果は、過去にイスラエル、カナダ、台湾で実施された3件の研究結果と一致しているという。これらの研究では、母親の妊娠中の貧血が児の先天性心疾患リスクのそれぞれ24%、26%、31%の上昇と関連することが示されているという。 Sparrow氏は、「先天性心疾患のリスクがさまざまな要因により高まることはすでに知られているが、今回の研究により貧血に関する理解が深まった。この知見は今後、実験室での研究から臨床現場で活用されるようになるだろう」と述べている。 研究グループは、妊娠中の貧血症例の約3分の2は鉄の欠乏が原因だと指摘する。Sparrow氏は、「鉄欠乏症は多くの貧血の根本原因である。そのため、妊娠を計画している女性や妊娠中の女性に対して鉄分補給を行えば、多くの新生児の先天性心疾患を予防できる可能性がある」と述べている。 Sparrow氏らはマウスを用いた過去の研究で、鉄欠乏症を原因とする妊娠中の貧血と先天性心疾患との関連を確認している。そのため同氏らは、ヒトを対象にした研究でも同じ関連が認められるかを確認したいと考えているという。もしこの関連が確認されれば、将来的には、鉄サプリメントが先天性心疾患の発症リスクを下げる手段として有効か否かの臨床試験の実施が期待される。

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

今回のキーワード包括適応度血縁選択新生児同種免疫性血小板減少症同種免疫反応性的拮抗性的二型前回(その1)、性の多様性とはどのようなものか、そして、その性が多様であるのはなぜかを進化心理学的に掘り下げました。ここで、進化論の視点から、大きな疑問が湧いてきます。同性愛では自分の子供をつくれない(遺伝しない)わけですが、人口の約3%、たとえば学校で30人ちょっとのクラスに1人はいる計算になります。この頻度の高さから、遺伝子の突然変異では説明できません。ちなみに、その1でも登場した、遺伝子の異常であるアンドロゲン不応症や先天性副腎過形成症は、ともに人口の約0.005%(10万人に5人)です。それでは、なぜ同性愛はこれほどにも「ある」(遺伝している)のでしょうか?今回(その2)も、5月17日の「多様な性にYESの日」に合わせて、「記念日セラピー」と称して、この謎に迫ります。なんで同性愛は「ある」の?実は、動物の同性愛(同性間の性行動)は、珍しくありません。たとえば、人間に最も近い種であるボノボ(チンパンジー)は、とくにメス同士が向き合って性器をこすり合わせる「ホカホカ」(G-G rubbing)と呼ばれる行動を頻繁に行います。また、イルカ、ゾウ、コウモリ、テンジクネズミなどでも、それぞれのやり方での同性間の性行動が確認されいます1)。ただし、これらの目的は、あくまで群れの中での同性同士の協力関係や上下関係を確かめ合うためであったり、異性との性行動に向けて練習するためであったり、異性がいない状況での代替行動であったりなどです。人間のように、同性愛のみに限って逆に異性愛を避けているわけではありません。つまり、動物の同性愛は、厳密には両性愛です。そして、あくまで異性愛を主目的とした副次的なものであり、生存と生殖に適応的であることがわかります。それでは、人間の同性愛はなぜ「ある」のでしょうか? 代表的な3つの説を、進化心理学の視点から一緒に検討してみましょう。(1)親族の子供を助けるため?-血縁選択たとえば、働きバチや働きアリは、自ら生殖能力を失い、女王バチや女王アリが自分の妹(※母系家族のためオスが生まれるのはもともとごくわずか)をよりたくさん産めるように働き続けます。同じように、人間は、自分が同性愛であることで子供がつくれない代わりに、親族の子供のサポート役(血縁のヘルパー)になることで、間接的に自分の遺伝子を残している(包括適応度を上げる)と仮定することができます。1つ目は、同性愛になって親族の子供を助けるため、つまり血縁選択です。しかし、実際の調査では、同性愛男性よりも異性愛男性の方が、むしろ兄弟との交流があり、兄弟に対して経済的援助をする傾向があることがわかっています2)。よくよく考えると、この説を主張するなら、血縁のヘルパーになるためにわざわざ同性愛になる必要はなく、働きバチや働きアリのように無性愛(性的指向なし)の独身になって親族を助けた方がより間接的に自分の遺伝子を残せます。この状況は、現代ではなく、原始の社会であっても同じです。つまり、同性愛の原因は、血縁選択で説明するには無理があります。なお、摂食障害については、この血縁選択(包括適応度)が成り立つ可能性が考えられます。この詳細については、関連記事1のページの最後をご覧ください。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 2

r(2)兄が多いため?―同種免疫反応たとえば、母親と胎児の血液型が違う場合、母親の免疫系で胎児の血小板への抗体がつくられることがあります。それが胎盤を通して胎児の血小板を攻撃して血小板が減っていく病態(新生児同種免疫性血小板減少症)があります。同じように、母親と胎児の性別が違う、つまり胎児が男性の場合、母親の免疫系で男性特有の物質(H-Y抗原)への抗体がつくられると仮定します2)。すると、それがその後に胎盤を通して次の男性胎児(弟)のその抗原を攻撃することが考えられます。そして、その抗原がとくに多く分布するのは、男性化するはずの脳であると考えられます。また、この抗体は、母親が男児の妊娠出産を繰り返すたびに増えていくと考えられます。2つ目は、胎児期の兄への母親の免疫反応が、その後に胎児期の弟に及んで、脳が男性化しにくくなる(同性愛になる)、つまり、同種免疫反応です。実際の調査2)では、兄が多くなればなるほど、確かに同性愛男性の割合が上がっています。なお、姉が多くなるにつれて同性愛女性の割合が上がるわけではない原因については、母親にとって、姉も妹(本人)も同じ女性であり、同種免疫反応が起こりにくいからです。しかし、これだけでは、女性の同性愛が「ある」原因を説明できません。また、つくられた抗体が攻撃するはずの、男性特有の抗原があるとしたら、それは男性の脳だけでなく男性の性器にもあるはずです。しかし、同性愛男性が不妊になることはありません3)。さらに、同種免疫反応が実際にあるとしたら、兄が同性愛なら弟たち全員が同性愛になるはずです。しかし、実際にそうなっているとの調査結果はありません。そもそも、先ほどの新生児同種免疫性血小板減少症は人口の約0.03%(10万人に30人)程度であり、同種免疫反応は頻度がとても低い病態です。つまり、同性愛の原因は、同種免疫反応で説明するには無理があります。なお、兄が多くなると同性愛の割合が高くなる、この「兄効果」の原因については、兄が多ければ多いほど、一緒にいる刺激が性的指向に影響を与えていると指摘する学者はいます3)。確かに、その1でも説明しましたが、性的指向は胎児期に固定化されるとはいえ、性的指向はスペクトラムであることから、完全な異性愛または完全な同性愛ではなく、両性愛を含む中間層は、環境の刺激によって異性愛になるのと同じように、同性愛にもなる可能性は十分に考えられます。実際に、双子研究(行動遺伝学)において、男性の同性愛への影響度は遺伝22%、家庭環境14%、家庭外環境64%、女性の同性愛への影響度は遺伝37%、家庭環境1%、家庭外環境62%と算出されています3)。男性において、家庭環境の違いによる影響度が出ているのは、やはり兄と一緒にいる刺激によるものである可能性が示唆されます。また、家庭外環境の影響が男女ともに60%以上あることから、とくに性的欲求が高まる思春期での男子校や女子校、男女別の部活動など同性集団の凝集性が高い環境では同性愛になりやすくなる可能性が示唆されます。しかし、これに関連した調査を行った研究は現時点で見当たりません。参考までに、一時的ながら刑務所で同性愛になる現象(刑務所効果、機会的同性愛)は少なからずみられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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