サイト内検索|page:10

検索結果 合計:348件 表示位置:181 - 200

181.

がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。心疾患に影響するがん治療を理解する この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。■参考1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

182.

第20回 薬剤承認は金次第!?薬事審議会委員への「製薬マネー」詳細明らかに

「製薬マネー」について研究している医師たちのチームがこのほど、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の委員に対する製薬企業からの支払いを調べた研究論文を発表した1)。医薬品承認の議決権に制限が生じる「1企業から50万円以上の受け取り」が過小に申告されているケースもあり、同委員が定められたルールに反しながらも医薬品承認の議決権を得ていた可能性があることが明らかになった。本研究を進めているのは、公益財団法人仙台市医療センター仙台オープン病院の澤野 豊明医師らのチームである。澤野医師らは各製薬企業が公表するデータに基づき、薬事・食品衛生審議会のうち、医薬品の承認に関わる医薬品第一部会、医薬品第二部会、再生医療等製品・生物由来技術部会、薬事分科会、薬事・食品衛生審議会総会の2017・18年度の委員に対し、製薬企業各社から16年度に提供された謝礼等の金額(C項目支払い)について、個人単位で解析した。主な研究結果は以下の通り。薬事・食品衛生審議会委員108人のうち、51人(47%)が謝金などを受け取り、総額は1億1,576万円だった。1委員あたりの受取金額の平均値は107万円だったが、32人(30%)が合計50万円以上を受け取っていた。500万円以上受け取っていた委員は8人(7%)で、いずれも大学教授だった。8,530件におよぶ寄附金・契約金などの自己申告を解析したところ、少なくとも409件(4.8%)が過小に申告されていたことがわかった。そのうち112件(27.4%)では、医薬品承認の議決権に制限が生じる「1企業から50万円以上の受け取り」を過小に申告しており、定められたルールに反して委員が医薬品承認の議決権を得ていた可能性がある。1人の委員に対する支払額が最も高かったのは1,086万3,404円だった。また、全委員への支払い総額の67.3%(7,794万3,585円)が講演料だった。また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、製薬企業に莫大な利益をもたらす医薬品の命運を握る医薬品第二部会の委員への支払いが全体の57%を占めていた。澤野医師は「利益相反についてのガバナンスが厳格に監視・運用されていない場合、現状のルールでは不十分。医薬品の承認メカニズムと関係者の現状を徹底的に調査し、プロセス全体の包括的な見直しが急務だ。増え続ける医療費も減らせるかもしれない」と述べる。2016年度のデータを基にした調査だが、現在も同様の状況だろう。コロナ禍のあおりを受けてボーナス無支給や給与カットの憂き目に遭う医療者が少なからずいるこのご時世、一部とはいえオイシイ思いをしている医師や製薬企業がいるようでは、医療全体に対する国民の不信を招きかねない。参考1)Toyoaki T, et al. Clinical pharmacology and therapeutics. 2020 May 18

183.

肺がん1次治療における抗PD-1抗体sintilimab+化学療法の成績(ORIENT-11)/WCLC2020

 新たな抗PD-1抗体sintilimabの非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)における有効性は、第Ib相試験で示された。この結果を基に、無作為化二重盲検第III相ORIENT-11試験が行われ、その初回解析の結果を中国・Sun Yat-Sen University Cancer Centreの Zhang Li氏が、世界肺癌学会WCLC2020Virtual Presidential Symposiumで発表した。sintilimabがPFSを有意に延長・対象:未治療の局所進行または転移のあるNSCLC患者・試験群:sintilimab(200mg)+ペメトレキセド(500mg/m2)+シスプラチン(75mg/m2)またはカルボプラチン(AUC5) 3週ごと4サイクル投与→sintilimab+ペメトレキセド維持療法(sintilimab群)・対照群:プラセボ+ペメトレキセド+プラチナ 3週ごと4サイクル投与→ペメトレキセド維持療法(化学療法群) 化学療法群のsintilimab群へのクロスオーバーは許容された。・評価項目: [主要評価項目]独立放射線審査委員会評価の無増悪生存期間(PFS) [副次評価項目]全生存期間(OS)、客観的奏効期間(ORR)、効果発現までの時間、安全性 sintilimabのNSCLCにおける有効性を評価した主な結果は以下のとおり。・対照患者397例はsintilimab群266例、プラセボ群131例に2対1で無作為に割り付けられた。プラセボ群のsintilimabへのクロスオーバーは35例(31.3%)であった。・追跡期間中央値8.9ヵ月でのPFS中央値は、sintilimab群8.9ヵ月、化学療法群5.0ヵ月と、sintilimab群で有意に長かった(HR:0.482、95%CI:0.362〜0.643、p<0.00001)。・OS中央値は、両群とも未達であった(HR:0.609、95CI:0.400〜0.926、p=0.01921)。・ORRは、sintilimab群51.9%、化学療法群で29.8%であった。・Grade3以上の有害事象発現率は、sintilimab併用群61.7%、プラセボ併用群58.8%であった。 Discussantである米国・Karmanos Cancer Canterの長阪 美沙子氏は、当試験が東アジアのデータであることを重要であるとした。また、PFS、OSは他の免疫チェックポイント阻害薬のNSCLC1次治療のデータと匹敵するものだとしながら、PFSの改善がOSの改善に結びつかないこともあることから、長期のフォローアップの必要性を強調した。 この試験の結果は、Journal of Thoracic Oncology誌2020年8月8日オンライン版にも同時掲載された。

184.

IO+Chemoへのベバシズマブ add onは有用か:APPLE Study【肺がんインタビュー】 第48回

第48回 IO+Chemoへのベバシズマブ add onは有用か:APPLE Study出演:九州大学病院 呼吸器科 白石 祥理氏非小細胞肺がん1次治療において免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用にベバシズマブを上乗せすることの有効性と安全性を検討するWJOG11218L試験(APPLE Study)が進行中である。この試験の研究事務局の九州大学病院 呼吸器科 白石 祥理氏に試験実施の背景と臨床的意義について聞いた。

185.

免疫チェックポイント阻害薬の未来―がん免疫療法の耐性とその克服【そこからですか!?のがん免疫講座】最終回

はじめに「がん免疫の基礎を…」ということで始まったこのシリーズは、当初5回くらいで終わる予定でしたが、いろいろ盛り込んで増えてしまい、計7回になりました。まだまだトピックスはありますが、込み入った話はあまりせず、がん免疫療法の将来像を「個人的」な想像(妄想?)も交えてお話しすることで、終わりにしたいと思います(あくまで「個人的」な見解であり、承認されていない薬剤や使用方法についても記載がありますが、ご容赦ください)。ICIはどんどん早い段階で使われるように現在、臨床応用されている免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、抗PD-1/PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体です。ご存じのように、これらは当初の適応がん種であった悪性黒色腫や肺がんだけでなく、さまざまながんで効果が証明され、使用が広がっています。免疫応答ががん細胞に対してしっかり起きていれば(とくにT細胞がしっかり攻撃できれば)、がん種に関係なく効く、というわけなのです。「ネオ抗原を反映する体細胞変異数が重要」という話をバイオマーカーの話題の回で紹介しましたが、体細胞変異数が多いMSI highというくくりや、最近では体細胞変異数が多いがんというくくりにおいても、ICIの効果が証明されつつあります。今まで臓器別で承認されてきた抗がん剤ですが、ここに来てがん種横断的な承認・使用ができるようになってきています。似たようなことはゲノム医療が進む分子標的薬の世界でも広がっていますね。そして、遅いラインでの使用よりもファーストラインでの使用、さらには早期がんでの周術期、というように、ICIはどんどん早い段階で使用する方向に向かっています。患者さんの検体を解析していて感じますが、やはり早期の小さいがんほど「(俗っぽい表現ですが)免疫状態がよく」、がん免疫療法もそういった小さな、早期のものほど効く可能性が高いと感じます。マウスの実験でも、小さい腫瘍のほうが明らかによく効きます(図1)1)。とくに最近の術前補助化学療法としてICIを使う効果は特筆すべきものがあり2)、今後「術前ICI」という治療が、いろいろながん種で臨床に入ってくるかもしれません。画像を拡大する今後を占うのは、ICIの「3つの耐性機序」今までの分子標的薬治療の開発史においても、耐性機序を解明することによって次の治療が登場してきました。たとえば、第1世代EGFR-TKIに耐性を示すEGFR T790M変異が見つかったことで第3世代EGFR-TKIが開発されたわけです。ICIについても今後の治療開発には耐性機序が非常に重要ですので、ここでも少し触れたいと思います。今までのデータを見ると、ICIの耐性機序はEGFRのT790M変異のような特定の機序というよりは、さまざまな耐性機序が複雑に絡み合っていると考えられます。このシリーズでは耳にタコができるくらい繰り返しご紹介してきましたが、ICIはT細胞を活性化させる治療ですので、代表的な耐性機序をT細胞活性化の7つのステップに準じてA~Cの3つにまとめました(図2)3)。画像を拡大する A がん抗原の認識に関わる耐性:T細胞活性化は抗原の認識から始まります。たとえば、ネオ抗原がない(≒体細胞変異が少ない)とT細胞も強く活性化できず、ICIは耐性となります。ほかにも、がん抗原を乗せるお皿であるMHCに異常があって抗原を提示することができない場合は、T細胞ががん細胞を認識しようがありませんので、耐性化してしまいます4)。 B T細胞の遊走・浸潤に関わる耐性:活性化したT細胞ががん細胞を攻撃するためには、がん細胞のいる攻撃の場へ遊走・浸潤していく必要があります。しかし、遊走・浸潤に関わるケモカインという物質などが妨害されてしまうと耐性化する、とされます。これはさまざまな機序で起きているとされており、たとえば、がん化に寄与する重要ながん側の因子がケモカイン産生を低下させていることが報告されています5)。 C 細胞傷害に関わる耐性:活性化したT細胞ががん細胞を攻撃する最終段階において、がん細胞を傷害できずに耐性化してしまうこともあります。たとえば、PD-1やCTLA-4以外の免疫チェックポイント分子がT細胞を強く抑制している場合や、免疫を抑制してしまう細胞が関与することなどが報告されています6)。耐性克服のカギはPrecision Medicineこれらの耐性を克服するために抗がん剤や放射線治療との併用や、ほかの免疫チェックポイントに作用する薬剤との併用などが試みられています。とくに、抗がん剤併用は肺がんでは効果が証明され、すでに臨床応用されています7)。また、承認済みのPD-1/PD-L1やCTLA-4を組み合わせるだけでなく、ほかの免疫チェックポイント分子を標的にした抗LAG-3抗体や抗TIGIT抗体などとの併用療法が現在開発されており、その結果が待たれます。しかしながら、開発中のものにはあまり生物学的な根拠がないものもあります。個人的には、もう少し耐性機序を考慮したうえで個々の組み合わせを考えることが必要だと考えています。がん免疫療法もゲノム医療のようにPrecision Medicineに進むべきです。がん細胞に対してT細胞がまったく攻撃している気配がない患者さん(「砂漠」と表現されます)には、どんなに併用をしようともICIの効果は出ないのではないか?ともいわれています。たとえば、MHCの異常で抗原が提示できない場合には、病理学的にもT細胞がまったく見られず(まさに「砂漠」)4)、どんなにT細胞を活性化させようとも、攻撃するT細胞がそこに存在せず、かつ、がん細胞を認識すらできませんので治療効果は期待できません。「砂漠」にも可能性を感じる細胞療法前回は、CAR-T細胞療法の話題を取り上げました8)。まだ血液腫瘍だけではありますが、このような治療が有効というのは非常に興味深く、示唆に富んだ結果だと思っています。「砂漠」に近い患者さんに対しても、外から攻撃するT細胞を入れることで効果が期待できるかもしれません。実際に、前回紹介したTIL療法はICIが効かないような例でも効果が報告されています9)。似たような発想で、がん細胞の表面に出ている分子を認識する抗体と、T細胞を活性化させる刺激抗体をくっつけたBispecific抗体というものがあります。抗体の片方はがん細胞にくっついて、もう片方がT細胞を活性化させます。つまり表現が少し悪いかもしれませんが、「無理やりにでもT細胞をがん細胞に対して攻撃するように仕向ける」ことができるわけです。おわりに2012年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でのICIの報告から8年が経ち、がん免疫療法はここまで臨床に広がりました。ICI登場まで、(私も含めて)がん免疫を「うさんくさい」と思っていた方が多いかもしれません。ご存じのようにPD-1は日本で見つかり研究が進んだもので10)、こういった基礎研究の成果がここまで臨床応用されていることに非常に感銘を受け、「うさんくさい」と思っていた自分を恥じました。しかしながら、その有効性は不十分で、まだまだ不明な点が多いのも事実です。マウスで進んできた研究ですが、ヒトでの証明が不十分なものも多いのです。今後の新しい治療開発のためにも、実際の患者さんの検体での解析がますます重要になってくるでしょう。こうした成果を積み重ねれば、将来的には進行がんでも「完治」に近い状態を実現できるのではないかと思います。ややこしい内容も多い中、最終回までお付き合いいただき、ありがとうございました。ケアネット編集部の方には理解しにくい部分をいろいろご指摘いただいて、何とか読める内容になったと思います。そして、私にがん免疫の「いろは」をご教授くださった国立がん研究センター/名古屋大学の西川先生にも、併せて深謝申し上げて本シリーズを終わりにしたいと思います。1)Umemoto K,et al.Int Immunol.2020;32:273-281.2)Forde PM, et al. N Engl J Med. 2018;378:1976-1986.3)冨樫庸介.実験医学増刊.2020;38.4)Inozume T, et al. J Invest Dermatol. 2019;139:1490-1496.5)Sugiyama E, et al. Sci Immunol. 2020;5:eaav3937.6)Togashi Y, et al. Nat Rev Clin Oncol. 2019;16:356-371.7)Gandhi L, et al. N Engl J Med. 2018;378:2078-2092.8)Singh AK, et al. Lancet Oncol. 2020;21:e168-e178.9)Zacharakis N, et al. Nat Med. 2018;24:724-730.10)Ishida Y, et al. EMBO J. 1992;11:3887-3895.

186.

進行胃がんに対する薬物療法が大きく変わる―免疫チェックポイント阻害薬と抗体薬物複合体(解説:上村直実氏)-1260

 本論文では既治療に対して抵抗性のHER2陽性進行胃がんを対象として、抗HER2抗体であるトラスツズマブに新規トポイソメラーゼI阻害薬のデルクステカンを結合させた抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンの有効性が示されている。すなわち、抗体薬物複合体により薬物の抗腫瘍効果を大きく引き上げることが証明された研究成果は特筆される。 最近、わが国における手術不能の進行胃がんに対する薬物療法が大きく変化している。TS-1を用いる1次治療の効果が少ない患者に対して行う、第2次・第3次治療におけるニボルマブ(商品名:オプジーボ)などの免疫チェックポイント阻害薬と抗体薬物複合体の登場により、従来と大きく異なる成果すなわち生存率の延長や完全寛解を示す患者を認めるようになっている。 HER2陽性胃がんは約20%を占めるが、日本で開発されたトラスツズマブ デルクステカンが米国と日本において薬事承認されたことは、根治不能とされてきた進行胃がん患者に朗報である。ただし、効果のある薬剤には重篤な副作用があることも忘れてはいけないことで、本薬剤にも骨髄抑制および間質性肺疾患の副作用が顕著にみられたことから、医療現場では注意深い投与が必須である。 このように、がんに対する有効な薬剤が盛んに開発されているが、新規薬物が非常に高価であり、日本の医療費を圧迫しつつあり、今後、国民皆保険制度の維持に大きな影を落としつつあることも事実である。さらに、がんに対する薬物の臨床試験での被検者は、薬理試験の性格上、仕方ないものと思われるが、performance status(PS)0ないしは1という日常生活にほぼ支障を認めない元気な症例でかつ75歳未満かつ肝機能や腎機能に異常を認めないというエントリー基準が多いが、薬事承認後、臨床現場で遭遇する胃がん患者は75歳以上ないしはPSが2以上であったり、腎機能の低下を認めるケースが多い。すなわち、これらの薬剤を高齢者のがん患者に対して使用する行為は科学的な根拠に基づく医療ではないことにも十分に注意しておく必要があろう。さらに言うならば、今後、臨床試験の対象者を臨床現場を考慮した基準に改めるべきと思われる。

187.

ASCO2020レポート 乳がん

レポーター紹介2020年5月29日から6月2日まで5日間にわたり、ASCO2020が例年どおりシカゴマコーミックプレイスで開催される予定であった。しかしながら、COVID-19の流行により、今年は初のVirtual Annual Meetingが行われた。5月29日より一般演題やポスターはオンデマンドで視聴できるようになり、ハイライトセッションおよびプレナリーセッションは、ライブ配信+オンデマンドで視聴できた。2020年のテーマは“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”であった。プレナリーセッションを中心に、標準治療が変わる演題が多数報告された。乳がんにおいてもプレナリーセッション1題、口演17演題が発表され、標準治療を変えるもの、標準治療を変えないものの長年の臨床的疑問に一定の答えを出すものが発表された。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Local/Adjuvant口演から1演題、Metastaticから2演題を紹介する。初発IV期乳がんに対する原発巣切除の全生存期間に対する影響(E2108試験)日常臨床においては初発IV期乳がんに対して原発巣切除が行われている場合もある。後ろ向き研究では切除した場合に全生存期間が良好な傾向が示されているが、バイアスを含んでおり前向き試験が複数計画された。インドで行われた試験では、全身治療を行った後に手術群と非手術群にランダム化された。この試験では全生存期間(overall survival:OS)の差は認められなかった。さらに、トルコで行われた試験では全身治療前にランダム化され手術群で5年生存割合が良好な傾向を認めた。このように相反する結果であり、原発巣切除の意義については結論が出ていない状況であった。E2108試験は1次登録をした後に4〜8ヵ月の全身治療を行い、病勢進行が認められなかった症例を手術群と全身治療継続群に1対1にランダム化された。368例が登録され、258例がランダム化され、125例が手術群に、131例が全身治療継続群に割り付けられた。主要評価項目はOSで、53ヵ月の観察期間中央値で、生存期間中央値が54ヵ月、ハザード比1.09(90%CI:0.80~1.49、p=0.63)で両群間に有意差は認められなかった。副次評価項目の無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)でも両群間の差は認められず、生存曲線もほぼ重なっている状態であった。サブタイプ別のサブグループ解析ではホルモン受容体陽性HER2陰性、HER2陽性では差を認めなかったが、トリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)ではハザード比3.50(95%CI:1.16~10.57)で、手術群で有意に悪かった。これはおそらく進行の速いTNBCにおいては全身治療の継続が重要であるということを示唆しているのであろう。局所の病変進行については手術群で良好な傾向であった。QOLは両群で変化がなかった。今回の試験はネガティブであったが、この結果をもって初発IV期乳がんに対する原発巣切除に意義がないと判断することはできない。E2108は開始後に進捗が悪く、プロトコール改訂が行われサンプルサイズが減らされた。JCOG1017(研究事務局:岡山大学 枝園 忠彦氏)は同様の試験であるが、570例が1次登録され、全身治療で進行しなかった407例がランダム化されている。また、ランダム化までの期間が日常臨床で効果判定を行うことの多い3ヵ月に設定されている。JCOG1017の試験結果が得られた後に、あらためてこれまでの試験を総括し、原発巣切除の意義について議論する必要があるだろう。HER2陽性乳がんの術後化学療法におけるT-DM1+ペルツズマブとトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンの比較第III相試験(KAITLIN試験)HER2陽性乳がんにおけるペルツズマブの術後化学療法における上乗せ効果はAPHINITY試験で示されており、リンパ節転移陽性であればペルツズマブを上乗せすることが現在の標準治療となっている。本試験は、トラスツズマブに微小管阻害薬であるエムタンシンを結合した抗体医薬複合体であるT-DM1の術後化学療法における有用性(トラスツズマブ+タキサンと置き換えることが可能であるか)を検証した第III相試験である。本試験ではHER2陽性でリンパ節転移陽性(N+)もしくはリンパ節転移陰性でホルモン受容体陰性かつT2以上の症例を対象として、1,846例が3~4サイクルのAC療法とトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(THP群)またはT-DM1+ペルツズマブ群(KP群)にランダム化された。主要評価項目はリンパ節転移陽性例およびITT集団における無浸潤疾患生存(invasive disease-free survival:IDFS)の2つとされた。918例がTHP群、928例がKP群に割り付けられた。約90%がN+であった。腫瘍経はT1が約30%、T2が約60%であった。ホルモン受容体は56%程度で陽性であった。1つ目の主要評価項目であるN+における3年IDFSはTHP群で94.1%、KP群で92.8%(HR:0.97、95%CI:0.71~1.32、p=0.8270)でありKP群の優越性は示せなかった。ITT集団でも同様の結果であった。PROではKP群で良好な傾向を認めたが、有害事象中止、グレード3/4の肝障害、神経障害はKP群で多かった。心毒性はTHP群で多かった。本試験は2014年の1月から2015年の6月まで登録されている。T-DM1とタキサン+トラスツズマブをHER2陽性転移乳がんの初回治療で検討したMARIANNE試験は2015年に最初の解析結果が発表されており、T-DM1のタキサン+トラスツズマブに対する優越性は示せていなかった。イベントの多く発生する転移乳がんにおいてネガティブであったことを考えると、よりハイリスクのN+が多く含まれるとはいえ、術後のセッティングで優越性を示すことは困難であったと予想される。また、APHINITY試験のときにも感じたことであるが、HER2陽性早期乳がんの予後はかなり良くなっているため、このセッティングにおける術後治療のエスカレーションは限界が来ていると考えても良いかも知れない。今後はKATHERINE試験やTNBCにおけるCREATE-X試験などのように、術前治療で治療感受性を判断し、治療効果が不十分な対象に対して別の治療アプローチを行うことがエスカレーションにおいては重要であろう。TNBC1次治療における化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ(KEYNOTE-355試験)2018年の欧州臨床腫瘍学会でTNBC1次治療におけるアルブミン結合パクリタキセル(nab-PTX)に対する抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブの上乗せを検討したIMpassion130試験の結果が発表され、ITT集団とPD-L1陽性群においてPFSの延長を示し、PD-L1陽性群におけるOS延長の期待が示された。これを受けて、わが国においてもPD-L1陽性TNBCに対しアテゾリズマブが承認された。他がん種ではすでに広く使われるようになっていた免疫チェックポイント阻害薬が、乳がんの日常臨床に登場した。ペムブロリズマブは抗PD-1抗体であり、TNBC初回化学療法へのペムブロリズマブの有効性を検証した試験がKEYNOTE-355試験である。847例がランダム化され、566例がペムブロリズマブ群に、281例がプラセボ群に2対1に割り付けられた。化学療法として、タキサン(nab-PTXまたはパクリタキセル)およびゲムシタビン+カルボプラチンが許容され、それぞれ約45%と55%であった。割り付け調整因子にPD-L1陽性細胞割合(CPS)1%以上または未満が含まれた。主要評価項目はPD-L1陽性集団(CPS≧1%および10%)とITT集団におけるPFS、ならびに同OSとされた。両群において、CPS≧1%は約75%、CPS≧10%は40%弱であった。CPS≧10%集団において、PFSは9.7ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.49~0.86、p=0.0012)と統計学的有意差をもってペムブロリズマブ群で良好であった。CPS≧1%集団においては7.6ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.61~0.90、p=0.0014※)と統計学的有意差は示せなかった。ITT集団においてもペムブロリズマブの上乗せを示すことはできなかった。有害事象のプロファイルは両群間で大きな差は認めなかったが、甲状腺機能障害や肺臓炎など、免疫関連有害事象と考えられるものについてはペムブロリズマブ群で多い傾向にあった。これは、これまでに他がん種でみられた、もしくはTNBCにおけるアテゾリズマブでみられたものと同様の傾向であった。本試験の結果を受けて、TNBC初回治療の際にはアテゾリズマブまたはペムブロリズマブを化学療法と併用することが選択肢として加わった。これら2剤はPD-L1の評価方法が異なっていることに注意が必要である。また、アテゾリズマブ、ペムブロリズマブいずれもTNBCに対する術前化学療法に併用することで病理学的完全奏効率を改善することが示されており、将来術前(および術後)に免疫チェックポイント阻害薬を使用した後に再発した場合、どのような治療戦略を取っていくかが今後の課題の一つとなる。※p<0.00111で有意ホルモン受容体陽性HER2陰性進行・再発乳がん1次治療におけるフルベストラント+パルボシクリブとレトロゾール+パルボシクリブを比較するランダム化第II相試験(PARSIFAL試験)ホルモン受容体陽性HER2陰性進行・再発乳がんの1次治療においては、アロマターゼ阻害薬(AI)とCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ[Palbo]、アベマシクリブ、ribociclib)の併用がPFSを延長することが示されており、現在の標準治療となっている。また、内分泌療法で進行した場合、2次治療でフルベストラント(Ful)とCDK4/6阻害薬の併用が標準治療である。内分泌療法単剤では初発IV期乳がんを対象とした第III相試験であるFALCON試験においてFulとAI(アナストロゾール)が比較され、ITT集団でFulがAIと比較してPFSにおいて優っていることが示された。これらの試験結果から、1次治療においてCDK4/6阻害薬と併用すべきはAIか、それともFulであるか、という臨床疑問が生まれた。PARSIFAL試験はこの仮説の可能性を探ることを目的として計画されたランダム化第II相試験である。転移・再発乳がんに対する治療歴のない症例が対象となり、486例がFul+Palbo群243例とレトロゾール(LET)+Palbo群243例に1対1に割り付けられた。閉経前も登録可能で、卵巣機能抑制の併用が求められたが、割合としては7〜8%しか含まれなかった。PFSにおいてFul+Palbo群で9.3ヵ月の上乗せを仮定し、優越性を検証するデザインとされたが、優越性が検証できなかった場合には非劣性(非劣性マージン1.21)を検証するとされた。主要評価項目である研究者評価PFSにおいて、LET+Palbo群で32.8ヵ月、Ful+Palbo群で27.9ヵ月(HR:1.13、95%CI:0.89~1.45、p=0.321)であり、優越性はおろか、非劣性を示すこともできなかった(95%CIの上限が非劣性マージンである1.21を上回っている)。FALCON試験においてはサブグループ解析において臓器転移がある場合は有意差がなく、臓器転移がない場合に有意であったことから同様の解析が行われたが、いずれも差は認めず、臓器転移がある場合にはLET+Palboで良い傾向を認めた。再発と初発IV期のサブグループ解析でも両群間の差は認めなかった。副次評価項目である3年OSにおいて、LET+Palbo群で77.1%、Ful+Palbo群で79.4%(HR:1、95%CI:0.68~1.48、p=0.986)であり、こちらも両群間の差は認めなかった。有害事象も大きな差はみられなかった。Ful+CDK4/6阻害薬は初回治療として最強なのではないか、と期待して行われた第II相試験であるが、残念ながらその傾向を感じることすらできなかった。サブグループ解析では前治療(すなわち術後治療)としてAIが行われていた場合にFul+Palboが良い傾向を示したが(有意差なし)、これはAIに長期に曝露されることで約30%程度でESR1の変異を獲得するからと考えられる。AIによる治療歴がないとESR1の変異は数%でしか検出されない。エストロゲン受容体そのものの発現量を減らすというFulの作用機序は、ホルモン感受性が低下してから本領を発揮するのかもしれない。

188.

肝細胞がんに対するレンバチニブ・ペムブロリズマブ併用療法/ASCO2020

 米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのAndrew X. Zhu氏は、切除不能に対する肝細胞がんに対するマルチキナーゼ阻害薬レンバチニブと免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)ペムブロリズマブの併用療法の第Ib相試験の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表。この併用療法が良好な抗腫瘍効果と安全性を示したと報告した。・対象:Barcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)ステージングシステムでStage B/C、Child-Pugh Aの切除不能肝細胞がん・介入:レンバチニブ8mg/日または12mg/日(連日)+ペムブロリズマブ200mg(day1)3週ごと・評価項目:[主要評価項目] Part 1(用量制限毒性コホート) 安全性・忍容性、Part 2(拡大コホート) 独立画像審査(IIR)評価によるmRECISTおよびRECIST v1.1による奏効率(ORR)、奏効期間(DoR) [副次評価項目・探索的評価項目]無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、無増悪期間(TTP)、薬物動態、抗ペムブロリズマブ抗体の発現状況 主な結果は以下のとおり。・評価はPart 1 6例、Part 2 98例で行った。・Grade3以上の治療関連有害事象(AE)発現率は67%、Grade3以上の主な副作用は高血圧の17%であった。・AEによる投与中止はレンバチニブ14%、ペムブロリズマブ10%、両剤とも中止は6%であった。・mRECISTでのORR は46%、DoR中央値は8.6ヵ月、奏効までの期間(TTR)中央値は1.9ヵ月、病勢制御率は88%であった。・RECIST v1.1でのORR は36%、DoR中央値は12.6ヵ月、TTR中央値は2.8ヵ月、病勢制御率は88%であった。・mRECISTでのPFS中央値は9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~9.7)、RECIST v1.1では8.6ヵ月(95%CI:7.1~9.7)であった。・OS中央値は22.0ヵ月(95%CI:20.4~評価不能)であった。 Zhu氏は、「レンバチニブとペムブロリズマブの併用は高い奏効率と病勢制御率を示し、新たな毒性や予期せぬ毒性も認められなかった」と結論付けた。

189.

ASCO2020レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2020 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で初のバーチャル開催となったASCO2020。オープニングセッションでは2019~20年のプレジデントであるDr. Howard A. “Skip” Burris IIIは冒頭のあいさつで、本会の約1年前に“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”というテーマを掲げた際には現在の世の中の在り方を想像だにしていなかったが、われわれの働き方、社交の仕方にとどまらず、ものの見方まで変えてしまったパンデミック状況下で、このテーマが新たな意味を持つことになったと述べています。確かに地域・人種・民族・性別・職種の多様性を超えて団結し進歩を加速することの必要性は、COVID-19という喫緊の課題を前により明確になりました。「われわれは今年の年次総会では同じ部屋にいませんが、これまで以上に団結しています」という言葉が印象的でした。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では新規ホルモン治療薬の臨床試験結果とPSMA-PET関連の報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでは免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。経口LHRHアンタゴニストは進行前立腺がんに対する抗アンドロゲン療法を変えるか経口LHRHアンタゴニストの安全性・有効性を検証したHERO試験(NCT03085095)の結果が口演発表で報告されました(Abstract#5602)。従来の進行性前立腺がんにおけるアンドロゲン除去療法(ADT)では、LHRHアゴニストあるいはアンタゴニストの注射が中心でしたが、1ヵ月から6ヵ月ごとの注射が必要になる点や、アゴニスト製剤の場合にはLHサージが起こる点などの問題点がありました。国際第III相HERO試験では初の経口GnRH受容体アンタゴニスト製剤であるレルゴリクスの安全性・有効性を、従来臨床で用いられている酢酸リュープロライド注射製剤と比較しました。本試験では去勢感受性進行性前立腺がん患者934例を2:1の比率で経口レルゴリクス(120mg/日)あるいは酢酸リュープロライド皮下注射(3ヵ月ごとに11.25あるいは22.5mg)に無作為割付を行いました。主要評価項目である血清テストステロン(T)値の去勢レベル(<50ng/dL)への抑制(29日目時点)とその維持(48週間)は、レルゴリクス群では96.7%(95%CI:94.9~97.9%)で、酢酸リュープロライド群の88.8%(84.6~91.8%)と比較して、非劣性・優位性ともに統計学的に証明されました。副次的評価項目として、4日目の去勢達成率も56対0%でレルゴリクス群が優れており、治療中断後のT回復を検討した184例の検討では、治療中止90日後のTレベルの中央値は、270.76対12.26ng/dLとレルゴリクス群が有意に優れていました。さらに、心血管イベントの発生率もレルゴリクス群において低いという結果が示されました(2.9対6.2%)。そのほかの点では、安全性と忍容性のプロファイルはほぼ同等でした。著者らは、酢酸リュープロライド皮下注射と比較してレルゴリクスは、素早く(4日目までに去勢達成率)より確実に(48週間にわたる去勢域維持)血清Tを抑制し、中止後はより早期にT回復をもたらし、心血管イベントを50%減少するなどの優位性を示し、今後進行性前立腺がん患者に対するADTにおいて新しい標準治療になる可能性があると結論付けています。なおレルゴリクスは本邦でも「子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善」を適応としてすでに承認を受けています(用量は40mg/日)。本試験の結果はASCO2020における発表に合わせてNEJM誌(Shore ND, et al. N Engl J Med. 2020;382:2187-2196.)に発表されました。PSMA関連診断/治療モダリティは前立腺がんマネージメントのGame Changerとして期待PSMA関連では、3演題が口演発表に採択され、その注目度の高さがあらためて浮き彫りになったかたちです。診断関連では、根治治療後の生化学的再発(BCR)を来した前立腺がん患者の病巣部位確定における18F-DCFPyL(PyL)を用いたPSMA-PET/CT検査の有用性を検証した前向き第III相CONDOR試験(NCT03739684)の結果が紹介されました(Abstract#5501)。根治的治療後にPSAが上昇(PSA中央値0.8ng/mL[範囲:0.2~98.4])し、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの標準的な画像検査では病巣がはっきりしなかった208例の前立腺がん患者がエントリーされ、PyL-PET/CTの所見を3人の評価者によって検討した結果、病巣が認められた患者の割合は69.3%(142/208例)でした。主要評価項目である病巣部位特定率は84.8%~87.0%で、63.9%の患者でPyL-PET/CTの所見を基に治療方針が変更されました。重篤な有害事象が認められたのは1例(過敏症)のみで、最も頻度が高かった有害事象は頭痛(4例)でした。PyL-PET/CTは、BCR患者において従来の画像検査では描出できない病巣の特定と、それに基づく治療方針決定に有用であると結論付けられています。また、診断関連ではもう1演題、前立腺全摘除術+骨盤内リンパ節郭清を受ける中〜高リスクの限局性前立腺がんの患者を前向きにエントリーし、術前の68Ga-PSMA-11 PETのリンパ節転移の診断精度を郭清リンパ節の病理所見(pN診断)を参照標準として評価した研究の結果が公表されました(Abstract#5502)。その結果、68Ga-PSMA-11 PETの感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率(95%CI)はそれぞれ、0.40(0.34~0.46)、0.95(0.92~0.97)、0.75(0.70~0.80)、0.81(0.76~0.85)だったとのことです。治療関連では、PSMAを発現する腫瘍に治療用β線を照射する放射性標識された小分子LuPSMAの安全性と治療効果を検証したランダム化第II相TheraP試験(NCT03392428)の結果も報告されました(Abstract#5500)。本試験ではドセタキセル不応性転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を対象とし、まず68Ga-PSMA-11および18F-FDG PET/CTを施行しました。両検査の結果、(1)PSMA強陽性の病変があること、(2)FDG陽性かつPSMA陰性の病変がないこと、という2つの条件を満たした患者をLuPSMA(6週ごと×最大6サイクル)あるいはカバジタキセル(20mg/m2/3週×10サイクル)による治療に無作為に割り付けました。主要評価項目は、PSAの50%以上の低下(PSA50-RR)で、副次的有効性エンドポイントには、PSA無増悪生存期間(PSA-PFS)および全生存期間(OS)が含まれていました。1次スクリーニングを受けた291例のうち200例がエントリー基準を満たし、LuPSMA群(n=99)あるいはカバジタキセル群(n=101)に割り付けられました。追跡期間の中央値は11.3ヵ月でした。PSA50-RRは、LuPSMA群のほうがカバジタキセル群よりも良好でした(65/99[66%、95%CI:56~75]vs.37/101[37%、95%CI:27~46]、p<0.001)。PSA-PFSにおいてもLuPSMAは有意に良好な結果を示しました(HR:0.63、95%CI:0.45~0.88、p=0.007)。OSデータは規定のイベント数に達していないため今回は示されていません。安全性に関して、Grade3〜4の有害事象(AE)発生率は、LuPSMA群で32%(31/98)に対し、カバジタキセル群では49%(42/85)でした。毒性による治療中止は、LuPSMA群で1%(1/98)、カバジタキセル群で4%(3/85)に認められました。治療に関連した死亡はありませんでした。著者らは上記要件を満たすmCRPC患者において、LuPSMAはカバジタキセルに比べてより治療活性が高く、AEが少ない治療法であると結論付けています。nmCRPC 3試験はだんご3兄弟かそれとも…前立腺がん領域ではこれ以外に、非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)を対象とした新規アンドロゲン受容体(AR)シグナル阻害薬治療のOSアウトカムに関する報告がありました。ARAMIS試験(NCT02200614, Abstract#5514)、PROSPER試験(NCT02003924, Abstract#5515)、SPARTAN試験(NCT01946204, Abstract#5516)はそれぞれPSA倍化時間(PSA-DT)<10ヵ月のnmCRPC患者を対象に、それぞれダロルタミド、エンザルタミド、アパルタミドを投与する実薬群とプラセボ(PBO)群に2:1の比で割り付け、無転移生存(MFS)を主要評価項目としてその効果を検証するデザインで、すでにいずれの試験もMFSの延長を報告しています(ARAMIS試験 HR:0.41、95%CI:0.34~0.50、p<0.001 Fizazi K, et al. N Engl J Med. 2019;380:1235-1246.)(PROSPER試験 HR:0.29、95%CI:0.24~0.35、p<0.001 Hussain M, et al. N Engl J Med. 2018;378:2465-2674.)(SPARTAN試験 HR:0.28、95%CI:0.23~0.35、p<0.001 Smith MR, et al. N Engl J Med. 2018;378:1408-1418.)。今回発表されたOSに関する成績もMFSと同様、3試験ともほぼ同等と言ってよい結果でした(ARAMIS試験 未到達 対 未到達、HR:0.69、p=0.003)(PROSPER試験 67.0対56.3ヵ月、HR:0.73、p=0.0011)(SPARTAN試験 73.9対59.9ヵ月、HR:0.784、p=0.0161)。SPARTAN試験は2次治療後のデータ(2nd PFS)を報告しているという点で後続治療も考慮した、実臨床における治療選択に有用な情報を提供しているといえますが、ARAMIS試験はダロルタミドの有害事象(AE)プロファイルとしてPBO群とまったく遜色ない成績を報告しており、腫瘍学的転帰に関する成績がほぼ同等な3薬剤の選択に当たってはダロルタミドに有利なデータであると考えられます。切除不能/転移性尿路上皮がん:免疫チェックポイント阻害薬はこう使え!?尿路上皮がん(UC)では免疫チェックポイント阻害薬を従来の全身治療のさまざまなセッティングで用いる試みが報告され、今後の標準治療を考えるうえで大きな影響を与える可能性を感じさせる内容でした。なかでもLate-breaking abstractとしてプレナリーでJAVELIN Bladder 100試験(NCT02603432)の中間解析結果が報告され、大きな注目を集めました(Abstract#LBA1)。この無作為化第III相試験ではプラチナベースの1次化学療法(4~6コースのG-CDDPあるいはG-CBDCA)によって奏効(CR/PR)または安定(SD)を示した進行UC患者を、抗PD-L1抗体製剤であるアベルマブによる維持療法(10mg/kg IV 2週間ごと)+支持療法(BSC)とBSCのみのいずれかに割り付けました(n=350 vs.350)。その結果、主要評価項目であるOSはアベルマブ+BSC群で有意に良好でした(21.4 対 14.3ヵ月、HR:0.69、95%CI:0.56~0.86、片側p=0.0005)。サブグループ解析ではアベルマブ+BSC群の優位性に関して一様な傾向が示されました。副次的評価項目であるPFSも有意に良好でした(HR:0.62、95%CI:0.52~0.75、p<0.001)。Grade3以上のAEはアベルマブ+BSC群の47.4%、BSC群の25.2%で認められたと報告されています。現在のプラチナ適格・進行UCに対する標準治療は、1次治療がプラチナベースの化学療法、2次治療でペムブロリズマブという流れですが、本治験の結果に伴ってアベルマブが承認されると、1次治療がCR/PR/SDだった場合に維持療法としてアベルマブを投与するのか、いったんoff-treatmentとして再燃時にペムブロリズマブを投与する方針とするのか、選択を迫られることになります。今回公表されたデータによれば、JAVELIN Bladder 100試験のBSC群では進行時に2次治療を受けた患者は75.3%(PD-L1/PD-1阻害薬治療は52.9%)だったとのことです。一部患者において進行時に状態の悪化によって2次治療が受けられなかった結果なのか、あるいは本来実施可能であった適切な2次治療が施されなかった結果なのかによって、大きく解釈が変わる可能性があります。いずれにしても、ほかの切除不能/転移性尿路上皮がんに対する1次治療に関する治験で、免疫チェックポイント阻害薬単独あるいは免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の併用レジメンが軒並み苦戦している現状で、本試験の結果は大きなインパクトがあり、1次治療からの治療シークエンスが大きく影響を受けることは間違いないと考えられます。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬と効果予測バイオマーカーUCに関する口演発表では膀胱全摘除術後の術後補助療法としてのアテゾリズマブの効果を検証したIMvigor010試験(NCT02450331)の結果が公表されました(Abstract#5000)。本試験では膀胱全摘標本を用いた病理学的病期が、(1)ypT2-4aまたはypN+(ネオアジュバント化学療法を受けた患者の場合)もしくは(2)pT3-4aまたはpN+(ネオアジュバント化学療法を受けなかった患者の場合)と診断された患者を対象に、アテゾリズマブ(1,200mg IV 3週間ごと)あるいは経過観察の2群に1:1の無作為割付を行い、無再発生存(DFS)を主要評価項目としました。今回はDFSの最終解析とOSの中間解析の結果が示されましたが、いずれもアテゾリズマブ群の優位性を示すことができませんでした(DFS 19.4対16.6ヵ月、95%CI:15.9~24.8対11.2~24.8ヵ月、HR:0.89、95%CI:0.74~1.08、p=0.2466、OS 未到達 対 未到達、HR:0.85、95%CI:0.66~1.09、p=0.1951)。転移性UCを対象としたIMvigor130試験(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)と比較して、AEによる治療中断率が高かったことが原因として示唆されています。今後このセッティングでの免疫チェックポイント阻害薬の位置付けがどうなるかについては不透明なままとなっています。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬の話題としては、無作為第II相DUTRENEO試験(NCT03472274)の結果がClinical Science Symposiumで報告されています(Abstract#5012)。本試験では、シスプラチン適格の筋層浸潤性膀胱がん(MIBC,、cT2-T4a、N≦1、M0)と診断された患者を、まず腫瘍の炎症誘発性IFN-γシグネチャー(腫瘍免疫スコア、TIS)を基準に「ホット」あるいは「コールド」に分類しました。このTISは以前にPD-1経路阻害薬の効果を予測すると報告されています(Ayers M, et al. J Clin Invest. 2017;127:2930-2940.)。「ホット」と診断された患者は術前補助療法としてPD-L1阻害薬デュルバルマブ1,500mg+CTLA-4阻害薬tremelimumab 75mg×3サイクル(DU+TRE群)あるいはシスプラチンベースの化学療法(G-CDDPまたはdd-MVAC、標準CT群)に無作為割り付けされ、「コールド」と診断された患者は全例が化学療法に割り付けられました。合計61例がエントリーされ、「ホット」と診断された患者のうち22例が標準CTを、23例がDU+TREを受け、それぞれ36.4%(n=8)、34.8%(n=8)が主要評価項目であるpCRを達成しました(オッズ比:0.923、95%CI:0.26~3.24)。一方「コールド」と診断され標準CTを受けた16例の患者のうち68.8%(n=11)がpCRを達成しました。DU+TREの組み合わせは、MIBCに対する術前補助療法における効果的および安全なオプションであることが示されましたが、炎症誘発性IFN-γシグネチャーによる層別化では免疫チェックポイント阻害薬治療と標準化学療法のどちらから利益を得る可能性が高いかを予測することはできませんでした。免疫チェックポイント阻害薬治療の効果予測バイオマーカー研究としては、無作為第III相IMvigor130試験(NCT02807636)の患者における腫瘍の変異頻度(TMB)、PD-L1発現、Tエフェクター遺伝子発現(GE)および線維芽細胞TGF-β応答シグネチャー(F-TBRS)のバイオマーカーとしての有用性が報告されています(Abstract#5011)。これらのバイオマーカーは既報(Mariathasan S, et al. Nature. 2018;554:544-548.)によりアテゾリズマブ単独治療の効果予測因子として見いだされたものです。IMvigor130試験では転移性UC患者の1次治療としてアテゾリズマブ+プラチナベースの化学療法(PBC)、アテゾリズマブ単独、またはPBC単独に1:1:1で無作為割り付けされ、主要評価項目としてPFSとOSを検証しました(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)。上記項目は本試験における探索的バイオマーカー分析の対象とされていました。全1,200例の組み入れ患者のうち851例でバイオマーカー解析が可能でした。PD-L1高発現(IC2/3)はアテゾリズマブ単独 対 PBCにおけるアテゾリズマブ群の良好なOSを予測し、さらにPD-L1高発現(IC2/3)と高TMB(>10変異/Mb)を組み合わせることによって、予測能が上昇しました。APOBEC関連変異は、アテゾリズマブ含有レジメンによるOSの改善と関連していました。このように、免疫チェックポイント阻害薬が進行性UCに対する1次治療あるいはMIBCに対する術前補助療法における治療オプションに入ってくるにつれて、治療効果予測に有用なバイオマーカーの重要性も高まってくることが予想されます。検体採取から検査を経て治療開始に至るまでの時間をいかに短縮できるかという点も、今後重要な課題となってくると思われます。腎細胞がん:免疫チェックポイント阻害薬+TKIの中長期予後腎細胞がん(RCC)領域は前立腺がん・尿路上皮がんに比べると今年はややおとなしい印象でしたが、その中で、KEYNOTE-426試験(NCT02853331)の追加フォローアップのデータが口演セッションで発表されたので取り上げたいと思います(Abstract#5001)。この試験では861例の進行性淡明細胞型RCC(cc-RCC)に対する1次治療としてのペムブロリズマブ+アキシチニブとスニチニブを、OSとPFSを主要評価項目として比較しました。今回、中央値27.0ヵ月(範囲:0.1~38.4ヵ月)のフォローアップで、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群のOS(HR:0.68、95%CI:0.55~0.85、p<0.001、24ヵ月OS 74% vs.66%)およびPFS(HR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.001、24ヵ月PFS 38% vs.27%)の延長効果が示されました。これらのベネフィットはIMDCリスク分類やPD-L1発現にかかわらず認められたということです。追加解析の結果、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群においては腫瘍縮小率がOSと相関していたことも示されました。また、RCC領域でも免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子に関する探索的研究の結果が散見されました(Abstracts#5009, 5010)。おわりに総じて、前立腺がんでは新規ARシグナル阻害薬のより早期ステップでの使用とPSMA関連核医学検査/治療(いわゆるTheranostics)の話題が、UCとRCCでは免疫チェックポイント阻害薬のさまざまなセッティングにおける有効性・安全性と治療効果予測のためのバイオマーカー探索が中心となった年であったと考えられます。来年になるとAntibody-conjugated drug(ACD)も登場し、各腫瘍いよいよ「役者」が出そろってくることになり、治療効果予測のバイオマーカー探索、さらにはバイオマーカーベースの治療方針を決める前向き試験等が登場することを期待しています。

190.

全身療法が計画されている高齢者での高齢者機能評価の有用性(INTEGERATE試験)/ASCO2020

 オーストラリア・モナシュ大学Eastern Health Clinical SchoolのWee-Kheng Soo氏は、全身療法が計画されている高齢者での包括的な高齢者機能評価や老年医学専門家の介入の有無を比較する無作為化非盲検試験・INTEGERATE試験の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表。老年医学的介入群ではQOLが有意に改善し、予期せぬ入院や有害事象による早期治療中止が減少すると報告した。・対象:固形がんあるいはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)で、3ヵ月以内に化学療法、分子標的薬治療、免疫チェックポイント阻害薬療法が予定されている70歳以上の高齢者154例・試験群:本人申告による質問票での回答と高齢者機能評価(CGA)を実施。栄養、身体機能などの改善に向けた標準的介入に加え、併存疾患のケアなど、アセスメントに基づく個別介入を実施(76例)・対照群:通常ケア(78例)・評価項目:[主要評価項目] ELFI(Elderly Functional Index)スコアによるQOL評価[副次評価項目]ヘルスケアサービスの利用状況、治療提供状況、機能、施設入所状況、気分、栄養状態、健康上の効用、生存状況 主な結果は以下のとおり。・追跡12週目でのELFIスコアは老年医学的介入群では71.4、通常ケア群で60.3(p=0.004)、追跡18週目でのELFIスコアはそれぞれ72.0と58.7(p=0.001)、追跡24週目ではそれぞれ73.1と64.6であった(p=0.037)。・QOL評価での社会的機能、疾患による苦しみ、将来への不安の項目は追跡24週間中、一貫して老年医学的介入群は通常ケア群を上回っていた。・老年医学的介入群では通常ケア群と比較して救急対応が39%減少、予期せぬ入院が41%減少、予期せぬ入院時の終日横臥状態が21%減少した。・有害事象による早期治療中止率は老年医学的介入群が32.9%、通常ケア群が53.2%であった(p=0.01)。  これらの結果から、Soo氏は「抗がん療法が予定されている70歳以上の高齢者では包括的な老年医学的アセスメントを受けるべきである」と述べた。

191.

細胞療法の成功例、CAR-T細胞療法の仕組みに迫る!【そこからですか!?のがん免疫講座】第6回

はじめに前回までは、がん免疫療法における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の話が多かったのですが、最近登場してきた細胞療法のことにも触れておきたいと思い、全5回の連載予定をオーバーしていますが、もう少しお付き合いください。ICIは間接攻撃、細胞療法は直接攻撃ICIは、元々われわれの身体にある免疫細胞(とくにT細胞)を活性化させる治療であり、抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体がその代表です。つまり、ICIは「元々備わっている免疫を介して間接的にがんを攻撃している治療」だといえます。一方で、細胞療法は、「外からがん細胞を攻撃する細胞を入れる治療」です。利用している細胞が免疫細胞なので、「免疫療法」のくくりに入れる場合が多いです。細胞療法は、間接的なICIに比べて直接的な治療であり、その攻撃の仕方にはいろいろな免疫の要素が含まれます。「外から細胞を入れるなんて」と抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、実はこの方法、かなり昔から取り組まれていたんです1)。抗体でT細胞を活性化させる「CAR-T細胞」細胞療法の中で、代表的な成功例がCAR-T細胞療法です2)。CARとは「キメラ抗原受容体:Chimeric Antigen Receptor」の略です。「キメラ」なので何かを「融合」させているのですが、「何を」「何のために」わざわざ融合させているのか、少し詳しく述べてみたいと思います。これまで、「T細胞ががん免疫の主役である!!」と繰り返し、しつこいくらいに述べてきました。少し思い出してほしいのですが、T細胞はその受容体であるTCRを介して、MHCというお皿の上に乗った抗原を認識して活性化し、がん細胞を攻撃していました(図1)。このTCRの替わりに「抗体」を使おう、というのがCARの発想です。画像を拡大する抗体とは、B細胞というリンパ球が産生し血中などに放出しているものです(正確には形質細胞ですが、これは元をたどるとB細胞なので、ややこしいのでここではB細胞とします)。繰り返しになりますが、がん細胞を含む異常細胞を攻撃・排除するための免疫を「細胞性免疫」と呼んでおり、T細胞が主役でした。一方、B細胞から産生され血中などに放出された抗体は、細胞の外にある異物を抗原として認識・結合して免疫反応を起こし、防御機構が働きます。血液で起きるということで、抗体が主につかさどる免疫を「液性免疫」と呼んでいます。抗体の由来はB細胞抗原受容体(BCR)です。BCRはTCRと同じように非常に多くのレパートリーを持つことで、さまざまな抗原を認識できます。治療にも用いられる抗EGFR抗体はEGFRを認識する抗体ですし、これまでにも散々登場した抗PD-1抗体はPD-1を認識する抗体です。抗体がTCRと大きく違うのは「MHCのお皿が必要ない」という点です。MHCは実はかなりの個人差があって、そのタイプに合わないとTCRが認識できないのですが、抗体はMHCとは無関係に抗原を認識することができます。T細胞ががん細胞を攻撃するためには、がん細胞を認識することが重要です。この認識の過程にTCRではなく抗体を使ってあげよう、というのがCARの発想です。人工的に合成した「抗体の抗原を認識する部分」をT細胞に導入することで、がん細胞の表面に出ている抗原であれば、MHCとは関係なくT細胞が認識できるようになります。しかし、単に認識するだけでは、がん細胞を攻撃できません。認識してさらにT細胞を活性化する必要があります。そこでT細胞に活性化シグナルを伝えるためのCD3という分子の一部分を抗体の抗原認識部分とキメラ化し、導入したものがCAR-T細胞です(図2)。画像を拡大するCD3はT細胞マーカーでもあり、同じ部分はT細胞の活性化にも重要です(図1)。単純な表現にすると「TCRの替わりに抗体を使ってT細胞を活性化させているものがCAR-T細胞」なのです。最近では、さらに活性化シグナルが入るように活性化共刺激分子であるCD28や4-1BBもキメラ化して導入したものが、すでに臨床で使われています(図2)。CAR-T細胞療法における成功例は、CD19という分子に対するものです。ある種の血液腫瘍にはCD19が非常に特異的に細胞表面に発現しており、これに対するCAR-T細胞療法は劇的な効果が報告され、臨床にも応用されています3)。ほかにも骨髄腫などで有望なものが報告されています。CAR-T細胞療法、ほかのがんへの応用は?ここまでの話で、「じゃあ、がん細胞表面の抗原とそれに対する抗体さえあれば、どんながんにも応用できるのでは?」と思われた方もおられるかもしれません。その発想は間違っていないのですが、いくつか問題点があります。一番の問題は、その細胞傷害効果が強力過ぎる、という点です。正常細胞にも発現している抗原を認識して傷害すると、大変な副作用が出る可能性が指摘されています。免疫を活性化させる物質であるサイトカインが体中で大量に放出され、ショック状態になってしまう「サイトカイン放出症候群」(これは正しく対処すればそこまで問題はないようです)や、中枢神経系に障害を起こす有害事象も報告されています。したがって、CD19のようにがん細胞表面に非常に特異的でないと開発が難しく、血液腫瘍以外への開発はなかなか進んでいません。そのほかの細胞療法CAR-T細胞療法の成功例を紹介しましたが、「わざわざ面倒なキメラなんて作らなくてもいいのでは?」と思った方もいるかと思います。そうですね、「TCRを直接使ってあげればいいんじゃない?」というのはより単純な発想で、実はこちらも以前から取り組まれており、TCR-T細胞療法と呼ばれています。紆余曲折はあるのですが、特定のがん抗原に対して有望なものも報告され、本邦でも開発が進んでいます。ただし、CARと異なり、TCRはMHCのタイプによっては認識できないため、特定のMHCを持つ患者さんにしか使用できない、という別の問題点もあります。患者さん由来の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を体外で培養・増殖させて、がんを攻撃するT細胞を増やし、体内に戻すTIL療法も効果が報告されています1,4)。本邦ではなかなか手間の問題でできていませんが、海外ではベンチャーもできており、大々的に治験が行われています。TIL療法は悪性黒色腫に対して古くから効果が報告されていましたが、最近ではそれ以外の腫瘍でも効果が報告され、注目を集めています。人工的に細胞を作ることに関して、「えっ」と思う方もおられるかもしれませんが、実は以前から実験室レベルで細胞の遺伝子操作をすることは、比較的簡単にできるようになっています。私も大学院時代の初期に教えてもらいました。CAR-T細胞療法は本邦ではこれから広がる治療ですが、そういった技術面の進歩もあり、今後もこれまでなかったような治療が次々に登場してくるかもしれません。次回はそんな将来像に少し触れ、締めにしたいと思います。1)Rosenberg SA, et al. Science. 2015;348:62-68.2)Singh AK, et al. Lancet Oncol. 2020;21:e168-e178.3)June CH, et al. N Engl J Med. 2018;379:64-73.4)Zacharakis N,et al. Nat Med. 2018;24:724-730.

192.

進行悪性黒色腫の1次治療、アテゾリズマブ追加でPFS延長/Lancet

 未治療のBRAFV600変異陽性進行悪性黒色腫患者の治療において、BRAF阻害薬ベムラフェニブ+MEK阻害薬cobimetinibによる標的治療に、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)阻害薬アテゾリズマブを追加すると、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、安全性と忍容性も許容範囲であることが、ドイツ・ハノーバー医科大学のRalf Gutzmer氏らが行った「IMspire150試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年6月13日号に掲載された。免疫チェックポイント阻害薬、およびBRAF阻害薬+MEK阻害薬併用はいずれも、BRAFV600変異陽性転移悪性黒色腫のアウトカムを改善すると報告されている。BRAF阻害薬+MEK阻害薬併用は高い奏効率を有するが奏効期間は短く、免疫チェックポイント阻害薬は持続的な奏効をもたらすものの奏効率は相対的に低い。このような相補的な臨床的特徴から、これらの併用療法に注目が集まっているという。PFS期間を評価するプラセボ対照無作為化試験 本研究は、20ヵ国112施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2017年1月~2018年4月の期間に患者登録が行われた(F Hoffmann-La RocheとGenentechの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、StageIVまたは切除不能なStageIIIcのBRAFV600変異陽性悪性黒色腫で、全身状態(ECOG PS)が0/1の患者であった。前治療を受けた患者は除外した。 被験者は、アテゾリズマブ+ベムラフェニブ+cobimetinibまたはプラセボ+ベムラフェニブ+cobimetinibを投与する群に無作為に割り付けられた。28日を1サイクルとし、1サイクル目にはベムラフェニブ+cobimetinibのみが投与され、2サイクル目以降にアテゾリズマブまたはプラセボが追加された。 主要アウトカムは、担当医判定によるPFSであった。奏効率は同等、奏効期間は延長 514例が登録され、アテゾリズマブ群に256例(年齢中央値54.0歳[範囲:44.8~64.0]、女性41%)、プラセボ群には258例(53.5歳[43.0~63.8]、42%)が割り付けられた。 追跡期間中央値18.9ヵ月の時点におけるPFS中央値は、アテゾリズマブ群がプラセボ群に比べ有意に延長した(15.1ヵ月vs.10.6ヵ月、ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.63~0.97、p=0.025)。事前に規定されたサブグループのほとんどで、PFS中央値がアテゾリズマブ群で良好な傾向が認められた。 アテゾリズマブ群は93例(36%)、プラセボ群は112例(43%)が死亡し、全生存期間(OS)に差はなかった(HR:0.85、95%CI:0.64~1.11、p=0.23)。2年時の無イベント生存率はそれぞれ60%および53%だった。 担当医判定による客観的奏効率は、両群でほぼ同等であった(アテゾリズマブ群66.3% vs.プラセボ群65.0%)。一方、奏効期間中央値は、アテゾリズマブ群のほうが長かった(21.0ヵ月vs.12.6ヵ月)。 両群で最も頻度の高い有害事象は、クレアチニン・ホスホキナーゼ上昇(51.3% vs.44.8%)、下痢(42.2% vs.46.6%)、皮疹(両群とも40.9%)、関節痛(39.1% vs.28.1%)、発熱(38.7% vs.26.0%)、アラニン・アミノトランスフェラーゼ上昇(33.9% vs.22.8%)、リパーゼ上昇(32.2% vs.27.4%)であった。有害事象による治療中止は、アテゾリズマブ群が13%、プラセボ群は16%で発生した。 著者は、「OSのデータはimmatureであったが、15ヵ月時の生存曲線はアテゾリズマブ群で良好な傾向がみられた。本研究の生存データは、この患者集団における至適な治療パラダイムに、有益な情報をもたらすであろう」としている。

193.

ASCO2020レポート 消化器がん(上部消化管)

レポーター紹介今年のASCOは史上初めてオンラインのみでの開催となった。もちろん大規模な移動や集会は、新型コロナウイルスの感染伝播のリスクとなるためであるが、この傾向は今後も続くと思われる。すでに9月にマドリードで開催予定であったESMO2020も、virtualで行われることが決定している。移動時間や、時差を気にせず自室のPCでプレゼンテーションを見ることができる一方、ポスター会場での海外の研究者との直接のやりとりや、世界中のオンコロジストが集まる、あの会場の雰囲気を味わえなくなるのは寂しいものである。さて、上部消化管がん領域から、5演題ほど紹介したいと思う。HER2陽性胃がんに対するDESTINY-Gastric01試験は、HER2陽性胃がんに新たな標準治療を提供し、ほぼ同日に臨床系で最も権威があるといわれているNew England Journal of Medicineに掲載される1)など、最も注目すべき発表となった。Trastuzumab deruxtecan (T-DXd; DS-8201) in patients with HER2-positive advanced gastric or gastroesophageal junction (GEJ) adenocarcinoma: A randomized, phase II, multicenter, open-label study (DESTINY-Gastric01).HER2陽性胃がん、接合部腺がんに対するT-DXdのランダム化第II相試験Shitara K et al.T-DXdは、トポイソメラーゼI阻害薬(deruxtecan)を抗HER2抗体に結合(conjugate)させたADC(antibody-drug conjugate)製剤であり、HER2を発現した細胞に結合し、内部に取り込まれたderuxtecanが細胞障害を来し、効果を発揮する。Phase I試験では、トラスツズマブに不応となった患者に対して、43.2%の奏効割合を示し、有効性が期待されていた薬剤である。日本の第一三共株式会社が開発した薬剤という意味でも注目される。DESTINY-Gastric01試験では、フッ化ピリミジンと、プラチナ製剤と、トラスツズマブを含む2レジメン以上の治療歴のあるHER2陽性(IHC3+、IHC2+/ISH+)胃がんを対象に、187名が日本と韓国より登録された。125名がT-DXd群、62名が医師選択治療群(PC群)に割り付けられた。全例トラスツズマブの投与歴があり、タキサン系薬剤の投与歴は、T-DXd群とPC群で、84%と89%、ラムシルマブ投与歴は75%と66%、免疫チェックポイント阻害薬の投与歴は、それぞれ35%と27%であった。主要評価項目は奏効割合で、T-DXd群で42.9%、PC群で12.5%と有意にT-DXd群で良好であった。無増悪生存期間中央値も、5.6ヵ月と3.5ヵ月(HR=0.47)、生存期間中央値も12.5ヵ月と8.4ヵ月(HR=0.59、p=0.0097)と有意にT-DXd群が良好であった。一方T-DXd群では、主に血液毒性が多く認められ、Grade3以上の好中球減少を51%認めたが、発熱性好中球減少は6名(4.8%)であり、治療関連死は両群に1名ずつ認められ、肺炎であった。注目すべき有害事象として、肺臓炎をT-DXd群にて9.6%に認めたが、多くはGrade2以下であった。T-DXdはすでに2020年4月に乳がんに対して適応承認を取得しているが、治療歴のあるHER2陽性胃がん患者に対しても、適応承認申請中であり、近いうちに実臨床にて使用可能になると思われる。HER2陽性の肺がんや、大腸がんに対しても有効性が示されており、アストラゼネカと第一三共が提携を結び、日本以外の地域においても、他がんや、HER2陽性胃がんへの1次治療への開発などが期待されている。FOLFIRI plus ramucirumab versus paclitaxel plus ramucirumab as second-line therapy for patients with advanced or metastatic gastroesophageal adenocarcinoma with or without prior docetaxel: Results from the phase II RAMIRIS Study of the AIO.胃がん2次治療における、FOLFIRI+ラムシルマブと、パクリタキセル+ラムシルマブのランダム化比較第II相試験Lorenzen S et al.RAINBOW試験の結果、胃がんの2次治療は、パクリタキセルとラムシルマブの併用療法が標準治療である。1次治療不応後だけでなく、術後補助化学療法中や終了後6ヵ月以内の再発の場合もフッ化ピリミジン不応と考えて、2次治療であるパクリタキセルとラムシルマブが投与される。しかし近年、術後のドセタキセル+S-1療法や、欧米では、術前後のFLOT療法など、周術期の化学療法でタキサン系薬剤が用いられる傾向にあり、術後早期再発にてタキサン系薬剤以外の薬剤とラムシルマブの併用療法の評価を行う必要が生じてきた。もともと欧州で胃がんの2次治療のひとつであるFOLFIRIにラムシルマブを併用した治療と、標準治療であるパクリタキセル+ラムシルマブを比較するRAMIRIS試験が計画された。フッ化ピリミジンとプラチナを含む化学療法から6ヵ月以内に進行が認められた胃がん患者を対象とし、ドセタキセルの使用については許容され、調整因子とされた。PTX+RAM群に38名、FOLFIRI+RAM群に72名が割り付けられ、約65%の患者がタキサン使用歴ありだった。奏効割合は、FOLFIRI+RAM群は22%、PTX+RAM群は11%、タキサン使用歴あり患者に絞ると、25%と8%と、FOLFIRI+RAM群で良好な傾向であった。生存期間中央値は、それぞれの群で、6.8ヵ月と7.6ヵ月、無増悪生存期間中央値は3.9ヵ月と3.6ヵ月、タキサン使用歴ありだと、7.5ヵ月と6.6ヵ月、4.6ヵ月と2.1ヵ月であった。現在第III相試験が進行中であり、とくにタキサン使用歴のある患者についてはFOLFIRI+RAMが標準治療になる可能性がある。日本ではCPT-11+RAMの結果も報告されており、FOLFIRIである必要があるのかなどいくつかの疑問もあり、今後の結果が注目される。Perioperative trastuzumab and pertuzumab in combination with FLOT versus FLOT alone for HER2-positive resectable esophagogastric adenocarcinoma: Final results of the PETRARCA multicenter randomized phase II trial of the AIO.切除可能HER2陽性胃がんに対して、周術期FLOT単独とFLOTとトラスツズマブとペルツズマブの併用療法を比較するランダム化第II相比較試験~PETRARCA試験最終解析Hofheinz RD et al.欧米では、切除可能胃がんの標準治療は術前術後のFLOT療法であるが、HER2陽性胃がんに対する周術期の分子標的治療薬の上乗せ効果については明らかではない。また、トラスツズマブとペルツズマブの併用については、乳がんでは上乗せ効果が示され、標準治療となっているが、胃がんの初回治療での化学療法とトラスツズマブに、ペルツズマブの上乗せ効果をみたJACOB試験では、ペルツズマブの上乗せは良好な傾向を示したものの、有意差を示さず、ネガティブな結果であった。PETRARCA試験ではFLOT単独群とFLOT+トラスツズマブ+ペルツズマブ(FLOT+TP)群にランダムに割り付けられ、主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)割合とされた。FLOT群に41名、FLOT+TP群に40名が割り付けられ、pCR割合は12%、35%とFLOT+TP群で有意に良好であった(p=0.02)。無病生存期間中央値はFLOT群で26ヵ月、FLOT+TP群で未達であった(HR=0.576、p=0.14)。生存期間中央値は両群で未達、HRは0.558、p=0.24と、観察期間は不十分ながら、FLOT+TP群で良好な傾向であった。術前術後化学療法での有害事象はFLOT+TP群でGrade3以上の下痢(5% vs.41%)、疲労(15% vs.23%)が多かったが、術後合併症は両群で差はなく、R0切除割合はFLOT群で90%、FLOT+TP群で93%、術後60日以内死亡も両群で1名ずつであった。本試験は、少ない症例数ながら、周術期でのHER2陽性胃がんに対する分子標的治療薬が有用な可能性を示した。ペルツズマブを併用することで、トラスツズマブの耐性機序のひとつであるHER3からのシグナルを抑え、短期的な有効性が上昇することを示した。JACOB試験で有意な差が出なかったのは、後治療などで効果が薄まったためと考えられるが、短期的な腫瘍縮小効果が差を生み出せる周術期でどうなのか、今後の検討が期待されるSintilimab in patients with advanced esophageal squamous cell carcinoma refractory to previous chemotherapy: A randomized, open-label phase II trial (ORIENT-2).治療歴のある食道扁平上皮がんに対するsintilimabのランダム化第II相試験ORIENT-2試験Xu J et al.近年食道扁平上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されており、ATTRACTION-3試験では、2次治療において、バイオマーカーにかかわらずタキサン系薬剤と比較してニボルマブが有意に生存期間を延長し、日本・韓国・台湾において、ニボルマブが食道扁平上皮がん既治療例に対して適応承認を得ている。KEYNOTE-181試験では、ペムブロリズマブが、CPS(combined positive score)10以上の食道がんにおいて、化学療法群と比較して生存期間延長を示し、米国では、CPS10以上の食道扁平上皮がんに対して適応承認が得られている。また、中国で行われた第III相試験であるESCORT試験では、抗PD-1抗体であるcamrelizumabが既治療例の食道扁平上皮がんに対して、化学療法群と比較して生存期間の延長を示している。ORIENT-2試験は、既治療例食道扁平上皮がんに対する、抗PD-1抗体であるsintilimab群と、医師選択化学療法群を比較した、ランダム化第II相試験であり、180名が登録され、それぞれの群に95名割り付けられた。医師選択化学療法では72名がイリノテカンで、15名がパクリタキセルを投与された。中国では、初回化学療法において、タキサン系とプラチナ系薬剤が併用されることが多く、そのため2次治療としてイリノテカンが用いられることが多い。主要評価項目である生存期間は、中央値がsintilimab群で7.2ヵ月、化学療法群で6.2ヵ月(HR=0.70、p=0.03)と有意にsintilimab群にて延長を認めた。奏効割合も12.6%と6.3%と、sintilimab群で良好な結果であったが、無増悪生存期間中央値では、sintilimab群で1.6ヵ月、化学療法群で2.9ヵ月という結果であった。曲線はクロスしており、後半でsintilimab群が持ち直し、HRでは1.0と両群で差を認めなかった。PD-L1の発現や、そのほかのサブグループの有効性の発表はなかったが、NLR(neutrophil-to-lymphocyte ratio)3未満の集団は、3以上の集団に比べて、sintilimabの有効性が上昇することが示された。安全性に新たな知見はなかった。sintilimabも過去の報告と同様の効果を食道扁平上皮がんに対して示したが、このラインではすでに複数のチェックポイント阻害薬が承認されており、差別化をどのように行うかが今後の課題と思われる。すでに初回化学療法での併用効果や、化学放射線療法との併用、周術期での効果など、食道扁平上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬は、新たな局面を迎えている。Final analysis of single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy including salvage treatment in patients with clinical stage II/III esophageal carcinoma: JCOG0909.病期II/III食道がんに対する、根治的化学放射線療法と救済治療を含む単アームの検証的試験~JCOG0909最終解析Ito Y et al.切除可能食道がんに対する治療は、術前治療に引き続く食道切除術であり、日本では術前化学療法、欧米では術前化学放射線療法が主に行われている。食道扁平上皮がんは放射線感受性が高く、化学放射線療法のみでがんが消失、完全反応(CR)となるケースも少なくない。CRとなる患者は、比較的大きな侵襲となる食道切除術を行わずに根治が得られる可能性を考え、欧米でも、化学放射線療法を行い、CRが得られた患者に対して、切除を行う群と、慎重観察を行い、がんの再発が認められたら切除に行く群のランダム化比較試験が行われたりしている。ただ、化学放射線療法後にどのような基準で手術に行くのか、タイミングはいつがよいのか、その時のリスクがどの程度なのか、まだよくわかっていない。JCOG0909は、まず放射線線量50.4Gyにて、根治的化学放射線療法を行い、CRあるいは、腫瘍の縮小が良好な場合は治療継続と経過観察、明らかな遺残あるいは再発を来した場合は救済手術あるいは救済内視鏡を行うことをプロトコール治療に組み込んだ単アームの試験である。線量を60Gyとしていた時代に行われたJCOG9906では、救済手術での治療関連死が10%以上認められ、放射線後に行う救済手術のむつかしさが浮き彫りになった。JCOG0909ではその経験を踏まえ、線量を抑える代わりに、5-FUの投与量を増やし、また頻回に評価することで、腫瘍が増大する前に救済手術を試みるような設定がなされた。94名の食道扁平上皮がん患者が登録され、病期IIA/IIB/IIIの内訳は、22/38/34と比較的II期が多かった。完全奏効割合は58.5%と既報と比較して同等かやや低い傾向であったが、これは早めに救済手術に持ち込む戦略であることや、5-FUの増量により食道炎が増加し、CRの判定が遅れたことなどが影響していると思われる。5年の経過フォロー後の結果として、5年生存割合は64.5%、5年無増悪生存割合は48.3%と、既報の化学放射線療法のJCOG9906試験の36.8%と25.6%と比して大幅に改善された。術前化学療法と手術療法の組み合わせと比較しても、JCOG9907試験のB群の55%、44%と、引けを取らない結果であった。27名の患者で救済手術が行われ、R0切除となった21名では、3年生存48.3%と長期生存が得られている。食道気管肺の瘻孔形成による周術期死亡が認められたが、救済手術はおおむね安全に実施されていた。5年食道温存生存割合は54.9%と高い値を示し、根治的化学放射線療法により、食道温存をしたまま長期生存が期待できることを示した。また、仮に遺残や再発した場合でも切除可能な段階であれば、救済手術を行うことで、約半数の患者が長期生存を達成できることが示された。現在免疫チェックポイント阻害薬と根治的化学放射線療法の併用療法の検討が開始されており、より高いCR割合が得られるようになれば、まず化学放射線療法を行い、CRになれば、食道温存したまま経過観察、遺残すれば、救済手術を行う、という治療戦略が一般的になる可能性も秘めている。前向き試験の中で、救済手術の安全性と有効性をしっかりと示した例は世界的にもなく、食道がんの臨床に影響を与える結果と思われた。一方で、比較対象となる術前治療と手術のエビデンスであるJCOG9907などと比較して、II期が占める割合が多いため、治療成績については考慮する必要がある、食道がんの専門病院で、経験のある腫瘍内科医と、外科医が治療した結果のため、どこまで一般化できるのか、などの指摘もあるが、今後につながる内容であった。文献1.Shitara K, et al. N Engl J Med. 2020 May 29. [Epub ahead of print]

194.

ASCO2020レポート 消化器がん(下部消化管)

レポーター紹介2020 ASCO Annual Meetingは、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年5月29日から短縮された日程でWeb開催により実施された。実地臨床が大きく変わる瞬間を現地で経験できないのは少し残念であったが、本年も重要な研究結果が多く報告された。本稿では、その中から大腸がん関連の演題をいくつか紹介したい。進行再発大腸がん患者全体に対する画期的な新薬はここ数年登場していないものの、バイオマーカーに基づくprecision medicineの実現は確実に進歩してきている。今年のASCOでも、BRAF、HER2、MSIに関する発表に加えて新たにKRAS異常に対する新薬のpreliminaryな結果発表があった。一方で、周術期化学療法は、本邦からのJCOG0603を含め注目演題が複数発表された。#4005: JCOG0603A randomized phase II/III trial comparing hepatectomy followed by mFOLFOX6 with hepatectomy alone for liver metastasis from colorectal cancer: JCOG0603 study.肝転移切除例に対する周術期化学療法切除可能大腸がん肝転移例に対する治療は、根治的外科切除である。欧米では、EORTC40983試験などの結果から、周術期にオキサリプラチン併用療法を6ヵ月間実施することが標準治療と認識されている。ただ、EORTC40983試験は主解析では無再発生存期間(DFS)の有意な延長を認めなかったこと、全生存期間(OS)延長は認めなかったことなどから、賛否が分かれる試験であった。今回、本邦から大腸がん肝転移切除例に対し経過観察と術後FOLFOX療法6ヵ月間とを比較する第II/III相試験(JCOG0603)の結果が発表された。2007年3月から2019年1月までに300例の患者が登録された。同時性肝転移56%、肝転移個数1~3個約90%、最大径5cm未満約86%で両群に差はなかった。2019年12月に実施された3回目の中間解析において、効果安全性評価委員会から早期中止が勧告され、今回公表された。主要評価項目のDFS中央値は経過観察群1.5年、FOLFOX群5.1年で有意にFOLFOX群が良好であった(HR:0.63、96.7%CI:0.45~0.89、p=0.002)。一方、3年全生存割合は91.8% vs.87.2%と有意差を認めないものの、FOLFOX群で生存曲線が下回る傾向であった(HR:1.25、95%CI:0.78~2.00)。FOLFOX群では、Grade3以上の感覚性末梢神経障害を14%、好中球減少を50%に認めた。DFSとOSが乖離した要因として発表者らは、(1)化学療法による肝障害により再発の見落とし、(2)試験初期(1st phase II)での化学療法のコンプライアンス不良、(3)再発後の治療のインバランス、(4)化学療法群における再発後のOSが不良、が考えられると考察した。大腸がん肝転移例ではDFSとOSと相関せず、FOLFOXによる術後補助化学療法は再発後のOSを短くする可能性があることから、FOLFOX療法に利益はない(not beneficial)と結論付けた。ディスカッサントのコロラド大学Dr. Lieuは、本試験について主要評価項目のDFSはpositiveであるから、現在の標準治療である周術期オキサリプラチン併用療法6ヵ月間は変える必要はないと結論付けていた。EORTC40983試験を含めて考えても、術後補助化学療法の実施によるDFS延長効果は揺るぎないものであるが、OS延長効果には結び付いていない。おそらく2nd operationによりcureできているのだと考えられる。DFS延長(=2回目の手術をしなくてもよい)と化学療法によるQOL低下などのデメリットを考慮したshared decision makingにより実地臨床では治療選択されるだろう。一方で、補助療法によりメリットを得られる集団の同定や、non-resectable recurrenceを減らすためのさらなる強化レジメンの開発も必要だろう。#4006: RAPIDOShort-course radiotherapy followed by chemotherapy before TME in locally advanced rectal cancer: The randomized RAPIDO trial.局所進行直腸がんに対するTNT(Total neoadjuvant therapy)局所進行直腸がんに対する標準治療は、欧米では術前化学放射線療法(NeoCRT)+根治的外科切除(+術後補助化学療法)である。本邦では、根治的外科切除+側方郭清+術後補助化学療法を標準としている施設が多いものの、近年、欧米に準じてNeoCRTを実施する施設も増えてきた。NeoCRTを実施した場合の術後補助療法のコンプライアンスが不良であることから、術前化学療法も併せて実施するTotal neoadjuvant therapy(TNT)が期待されているが、従来の標準治療との比較試験での長期成績は明らかではなかった。今回、TNTの有用性を検証する第III相試験の1つであるRAPIDO試験の結果が、欧州から報告された。RAPIDO試験はT4 or N2などの高リスク局所進行直腸がん患者に対して、標準CRT群(カペシタビン併用 RT 50~50.4Gy/25~28回+手術+術後CAPOX 8サイクルもしくはFOLFOX 12サイクル)と、TNT群(short course RT 25Gy/5回+CAPOX 6サイクルもしくはFOLFOX 9サイクル+手術)とが比較された。920例が登録され、年齢中央値62歳、T4約30%、N2約65%で両群に差はなかった。pCR率はCRT群14.3%、TNT群28.4%で、有意にTNT群で良好であった。主要評価項目のDisease-related Treatment Failureは3年時点でCRT群30.4%、TNT群23.7%で、TNT群で良好であった(HR:0.75、95%CI:0.60~0.96、p=0.019)。3年時点での遠隔転移再発率は26.8% vs.20.0%(HR:0.69、p=0.005)、局所再発率 は6.0% vs.8.7%(HR:1.45、p=0.09)であった。長期生存の結果は不明であるものの、主要評価項目を達成し、TNTは新たな標準治療といえるだろう。遠隔転移再発の抑制には周術期の化学療法の重要性は容易に想像できるが、とくにTNTとして術前に実施することで術後の実施よりも有効性が高いことは大変興味深い。今回ASCOではPRODIGE 23試験の結果も発表され、こちらもTNTの有用性を示唆する結果であった。同様の試験が欧米で複数実施中であり、これらの試験の結果も楽しみであるが、どんどんTNTが主流になっていく印象を受けた。また、short course RTについては、本試験ではやや局所制御率に差が求められ、その局所制御には不安が残るが、Polish試験では従来のCRTと同程度の局所制御割合が報告されている。COVID-19感染拡大の影響もあり、long courseのRTよりshort courseが急速に広がっていく可能性もある。#LBA4: KEYNOTE-177Pembrolizumab versus chemotherapy for microsatellite instability-high/mismatch repair deficient metastatic colorectal cancer: The phase 3 KEYNOTE-177 study.切除不能のMSI-H大腸がんに対する初回治療としてのペムブロリズマブ療法マイクロサテライト不安定性陽性(MSI-H)などのミスマッチ修復機能欠損のある切除不能大腸がん(dMMR/広義のMSI-H)は本邦では約3%に認められ、KEYNOTE-164試験やCheckmate-158試験の結果から、ペムブロリズマブおよびニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の有効性が確立されている。いずれも第II相試験だけの結果で薬事承認・保険償還されていることから、標準治療との有効性の比較データはなかった。今回、切除不能MSI-H大腸がんに対する初回治療として従来の化学療法(FOLFOX/FOLFIRI+分子標的治療薬)とペムブロリズマブ療法とを比較する第III相試験(KEYNOTE-177試験)の結果がプレナリーセッションで発表された。MSI-H大腸がん307例が登録され、右側結腸約70%、BRAF V600E変異型約25%、RAS変異型約25%(未評価約30%)であった。本邦からを含めアジア人も約15%登録されている。主要評価項目の無増悪生存期間中央値は化学療法群8.2ヵ月、ペムブロリズマブ群16.5ヵ月であった(HR:0.60、95%CI:0.45~0.80、p=0.0002)。客観的奏効割合は、化学療法群33.1%、ペムブロリズマブ群43.8%(p=0.0275)であったが、最良効果がPDである割合は化学療法群12.3%、ペムブロリズマブ群29.4%とむしろペムブロリズマブ群で高い傾向であった。Grade3以上の有害事象発生割合は化学療法66%、ペムブロリズマブ22%(免疫関連9%を含める)であった。化学療法群における免疫チェックポイント阻害薬へのクロスオーバー率は59%であり、その有効性は報告されなかった。以上、ペムブロリズマブの初回治療としての有効性が証明されたことから、初回治療にも適応拡大が行われるだろう。現在、ニボルマブ+イピリムマブ療法の第III相試験も登録中であり、MSI-H大腸がんは免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療にシフトしていくだろう。BRAF V600E変異型かつMSI-Hの場合にどちらの治療薬を最初に使うのがよいのか、免疫チェックポイント阻害薬の至適投与期間やリチャレンジなど新しい疑問が出てきている。最後に今年のASCO大腸がん領域の演題からいくつかを紹介したが、上記演題のほかにも切除不能大腸がんに対するHER2阻害薬DS-8201aの有効性やBRAF阻害薬のBEACON試験の続報など、さまざまな興味深い演題の発表があった。ASCO2020のテーマは“Unite and Conquer: Accelerating Progress Together”、力を合わせてがんを克服する、というものであったが、Virtual meetingでも世界中から最新のエビデンスが発信され、意見交換ができた。新型コロナウイルス感染の中でも、がんの克服に向けて絶え間なく努力を続けていく必要がある。

195.

小細胞肺がんに対するデュルバルマブ+tremelimumab+化学療法の成績(CASPIAN)/ASCO2020

 スペイン・Hospital Universitario 12 de OctubreのLuis G. Paz-Ares氏は、進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)の1次治療で免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体デュルバルマブ、抗CTLA-4抗体tremelimumabと化学療法の併用と、デュルバルマブ+化学療法、化学療法の3群を比較した第III相試験「CASPIAN」の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で報告した。同学会では、2つ目の実験群であるデュルバルマブ+tremelimumab+化学療法群の初回解析では全生存期間(OS)の有意な改善は認められなかったが、デュルバルマブ+化学療法では、11ヵ月追加した中央値25.1ヵ月の追跡結果においても、有意なOSの延長を示した。・対象:未治療のES-SCLC患者(WHO PS 0/1)、無症候性あるいは治療済みで安定している脳転移症例は許容・試験群: デュルバルマブ+エトポシド+シスプラチン/カルボプラチン(D+EP群) デュルバルマブ+tremelimumab+エトポシド+シスプラチン/カルボプラチン(D+T+EP群)・対照群:エトポシド+シスプラチン/カルボプラチン(EP群)・評価項目:[主要評価項目]OS[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、患者報告アウトカム(PRO)、安全性、忍容性 PFSの検定は、上記2つの試験群のOSの有意差が確認された場合に解析される。 主な結果は以下のとおり。D+T+EP vs.EP・OS中央値はD+T+EP群10.4ヵ月、EP群10.5ヵ月、2年OS率はEP群14.4%、D+T+EP群23.4%であったが、事前のp値設定≦0.0418を達成せず、統計学的有意差は認められなかった。・PFS中央値はD+T+EP群4.9ヵ月、EP群が5.4ヵ月であった。・奏効期間(DoR)はD+T+EP群5.2ヵ月、EP群が5.1ヵ月であった。・ORRはD+T+EP群が58.4%、EP群が58.0%であった。D+EP vs.EP・OS中央値はD+EP群が12.9ヵ月(95%CI:11.3~14.7)、EP群が10.5ヵ月(95%CI:9.3~11.2)でD+EP群で有意な延長が認められた(HR:0.75、95%CI:0.62~0.91、p=0.0032)。2年後OS率は、EP群14.4%に対してD+EP群22.2%であった。・PFS中央値はD+EP群が5.1ヵ月(95%CI:4.7~6.2)、EP群が5.4ヵ月(95%CI:4.8~6.2)であった(HR:0.80、95%CI:0.66~0.96)。・DoRはD+EP群共に5.1ヵ月であった。・ORRはD+EP群が67.9%、EP群が58.0%であった。・有害事象(AE)発現率はD+T+EP群が99.2%、D+EP群が98.1%、EP群が97%で、Grade3~4のAE発現率はD+T+EP群が70.3%、D+EP群が62.3%、EP群が62.8%であった。・免疫関連AEは、D+T+EP群が36.1%、D+EP群が20.0%、EP群が2.6%であった。 今回の結果についてPaz-Ares氏は「D+EP群が進展型小細胞肺がんの1次治療で新たな標準治療となることをよ支持している」との見解を示した。

196.

NSCLC1次治療、ニボルマブ・イピリムマブ併用の3年観察結果(Checkmate-227)/ASCO2020

 米国・エモリー大学のSuresh S. Ramalingam氏はNSCLCに対する1次治療としての抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用療法と化学療法(プラチナダブレット)との比較第III相試験・Checkmate-227 Part1の3年観察結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表。ニボルマブ・イピリムマブ併用療法は化学療法と比較してPD-L1発現の有無にかかわらず長期の効果を示したと報告した。・対象:未治療のPD-L1発現1%以上(Part1a)および1%未満(Part1b)のStageIVまたは再発NSCLCの初回治療患者(PS 0~1、組織型問わず)・試験群:ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群)     ニボルマブ単剤群(TPS1%以上)(NIVO群)     ニボルマブ+化学療法群(TPS1%未満)(NIVO+Chemo群)・対照群:化学療法(組織型により選択)単独(Chemo群)・評価項目:[複合主要評価項目]高TMB(≧10/メガベース)患者におけるNIVO+IPI群対Chemo群の無増悪生存期間(PFS)、PD-L1発現(≧1%)患者におけるNIVO+IPI群対Chemo群の全生存期間(OS)[副次評価項目]高TMB(≧13/メガベース)かつPD-L1発現(TPS1%以上)患者におけるNIVO群対Chemo群のPFS、高TMB(≧10/メガベース)患者におけるNIVO+Chemo群対Chemo群のOS、PD-L1なしまたは低発現(TPS1%未満)患者におけるNIVO+Chemo群対Chemo群のPFS、そのほか奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・PD-L1発現1%以上の患者での3年OS率は、NIVO+IPI群が33%、NIVO群が29%、Chemo群が22%であった(NIVO+IPI群のChemo群に対するハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.67~0.93、NIVO群のChemo群に対するHR:0.90、95%CI:0.77~1.06)。・PD-L1発現1%未満の患者での3年OS率は、NIVO+IPI群が34%、NIVO+Chemo群が20%、Chemo群が15%であった(NIVO+IPI群のChemo群に対するHR:0.64、95%CI:0.51~0.81、NIVO+Chemo群のChemo群に対するHR:0.82、95%CI:0.66~1.03)。・PD-L1発現1%以上の患者での3年PFS率は、NIVO+IPI群が18%、NIVO群が12%、Chemo群が4%であった(NIVO+IPI群のChemo群に対するHR:0.81、95%CI:0.69~0.96、NIVO群のChemo群に対するHR:0.97、95%CI:0.83~1.15)。・PD-L1発現1%未満の患者での3年PFS率は、NIVO+IPI群が13%、NIVO+Chemo群が8%、Chemo群が2%であった(NIVO+IPI群のChemo群に対するHR:0.75、95%CI:0.59~0.95、NIVO+Chemo群のChemo群に対するHR:0.73、95%CI:0.58~0.92)。・PD-L1発現1%以上の患者での3年奏効率(ORR)は、NIVO+IPI群が38%、NIVO群が32%、Chemo群が4%であった。・PD-L1発現が1%未満の患者での3年ORR率は、NIVO+IPI群が34%、NIVO+Chemo群が15%、Chemo群が0%であった。・PD-L1発現1%以上の患者でのDoR中央値は、NIVO+IPI群が23.2ヵ月(95%CI:15.2~32.2)、NIVO群が15.5ヵ月(95%CI:12.7~23.5)、Chemo群が6.7ヵ月(95%CI:5.6~7.6)であった。・PD-L1発現1%未満の患者でのDoR中央値は、NIVO+IPI群が18.0ヵ月(95%CI:12.4~33.0)、NIVO+Chemo群が8.3ヵ月(95%CI:5.9~9.4)、Chemo群が4.8ヵ月(95%CI:3.7~5.8)であった。・Part 1aとPart 1bを統合した有害事象発現率はNIVO+IPI群が77%、Chemo群が82%、うちGrade3以上はそれぞれ33%、36%であった。 Ramalingam氏は、「免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は、進行性NSCLCの1次治療での化学療法の頻度を減らしうる新規のオプションになる」との見通しを示した。

197.

アテゾリズマブ、早期TN乳がんの術前化学療法で主要評価項目を達成/中外

 中外製薬株式会社(本社:東京、代表取締役会長 CEO:小坂 達朗)は6月18日、早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブに関する第III相IMpassion031試験において、主要評価項目を達成したことを発表。早期 TNBCにおけるアテゾリズマブの有用性を示したのは初となる。 IMpassion031試験は、早期TNBCの術前薬物療法において、アテゾリズマブと化学療法(パクリタキセル[アルブミン懸濁型]、ドキソルビシン、シクロホスファミド)の併用と化学療法単独とを比較する多施設共同二重盲検無作為化試験。333例が1:1の割合で無作為に各群に割り付けられ、主要評価項目は、ITT解析集団およびPD-L1の発現が認められる症例における病理学的完全奏効(pCR)である。 今回、同試験において、PD-L1の発現状況を問わない早期TNBC患者集団で、統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるpCRの改善を示し、主要評価項目を達成した。また、アテゾリズマブと化学療法の併用における安全性は、これまでにそれぞれの薬剤で認められている安全性プロファイルと同様であり、本併用療法による新たな安全性上の懸念は示されなかった。IMpassion031試験の成績の詳細は、今後の医学系学会にて発表される予定となっている。

198.

原発不明がんにおけるニボルマブの有効性(NivoCUP)/ASCO2020

 原発不明がん(CUP)の予後は不良であり、加えて、治療選択肢は限定されている。そのため、CUP患者の多くは、経験的な化学療法を受けている。近年、CUPの免疫プロファイルが免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が奏効するがん種と類似していることが示され、CUP患者に対するICI治療の可能性が期待されている。米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)では、CUPに対するニボルマブの有用性を評価する多施設共同第II相(医師主導治験)であるNivoCUP試験の結果が近畿大学医学部 腫瘍内科・岸和田市民病院 腫瘍内科の谷崎 潤子氏により報告された。・対象:既治療および未治療のCUP患者・介入:ニボルマブ 240mg/日 2週ごと 病勢進行または許容できない毒性が認められるまで投与 最大52サイクル・評価項目:[主要評価項目]既治療患者における盲検下独立中央画像判定機関(BICR)による全奏効率(ORR)[副次評価項目]治験実施医評価のORR、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性、PD-L1発現とニボルマブの有効性の関連[探索的研究]未治療患者における有効性と安全性 主な結果は以下のとおり。・合計56例のCUP患者(既治療45例、未治療11例)が登録された。・年齢の中央値は既治療患者66歳、未治療患者は64歳、既治療患者における前治療数は1が57.8%、2が20.0%、3以上が22.2%であった。・既治療患者のBICR評価のORRは22.2%であった(CR2例、PR8例、SD14例)。・追跡期間8.4ヵ月(1.1〜21.6)における、既治療患者のPFS中央値は4.0ヵ月(95%信頼区間:1.9〜5.8)、OS中央値は15.9ヵ月(95%信頼区間:8.4〜21.5)であった。・未治療患者のBICR評価のORRは18.2%、DCRは54.5%であった(CR1例、PR1例、SD4例)。・追跡期間17.2ヵ月(0.1〜21.3)における、未治療患者のPFS中央値は2.8ヵ月(95%信頼区間:1.1〜6.5)、OS中央値は未達(95%信頼区間:2.6〜未到達)であった。・全Gradeの有害事象(AE)発現は94.6%、Grade3/4のAE発現は60.7%、治療関連死はなかった。頻度が高い免疫関連AEは皮疹、甲状腺機能低下症、下痢/大腸炎などであった。 発表者は、二ボルマブは、治療選択肢が限られているCUPの新たな標準治療となる可能性があるとの見解を示した。

199.

腎細胞がんに対するペムブロリズマブとレンバチニブの併用は有望な可能性(111/KEYNOTE-146試験)/ASCO2020

 転移を有する淡明細胞型腎細胞がん(RCC)で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)やチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の前治療歴を有する症例に対し、ICIであるペムブロリズマブとTKIであるレンバチニブの併用療法が有望であることが示された。これは米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)、米国Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのChung-Han Lee氏より発表された。 本試験は多施設共同の単群オープンラベル第Ib/II相試験であり、すでに、ICI未治療のRCC症例30例での中間解析結果では、奏効率(ORR)70%、無増悪生存期間(PFS)中央値20ヵ月との報告がなされている。今回の発表は本試験の第II相試験の部分から、前治療としてのICI投与後に病勢進行がみられたRCC症例を対象としたものである。・対象:転移を有する淡明細胞型RCCで、immune-related RECIST(irRECIST)で測定可能な病変があり、ICI(抗PD-1/PD-L1抗体)による治療後に病勢進行を認めた症例・介入:レンバチニブ 20mg/日 連日、ペムブロリズマブ 200mg/日 3週間ごと・評価項目:[主要評価項目]24週時点でのirRECISTによるORR[副次評価項目」ORR、PFS、全生存期間(OS)、安全性および忍容性。 主な結果は以下のとおり。・104例が今回の第II相試験に登録された。患者の年齢中央値は60歳、75%が腎切除術を受けておりMSKCCリスク分類のIntermediate 42%、Poor 22%であった。PD-L1陽性は42%、陰性は41%だった。・症例の62%は2ライン以上の抗がん剤治療を受けていた。・前治療では全例にICIが投与されていた。ICIとVEGF阻害薬の併用もしくは逐次投与は65%、ニボルマブとイピリムマブの併用は37%の症例が受けていた。・主治医によるirRECISTを用いた判定では、24週時点でのORRは51%、全体的なORRは55%で、CR例はなかった。・奏効期間中央値は12ヵ月であった。・サブグループである、ICI/TKIの前治療あり症例68例では、ORR 59%、奏効期間中央値9ヵ月であった。ニボルマブ+イピリムマブ投与の38例では、ORR 47%、奏効期間中央値は未到達であった。・RECISTv1.1による評価でもORRは52%、奏効期間中央値は12ヵ月であり、irRECISTでの評価とほぼ一致していた。・irRECIST評価によるPFS中央値は11.7ヵ月、RECISTによる評価では11.3ヵ月であった。・OSの中央値は未到達で、12ヵ月時点でのOS率は77%であった。・治療に関連する有害事象(TRAE)による治療中止例は15%であった。減量につながった主なTRAEは、倦怠感14%、下痢10%、蛋白尿9%であった。また、TRAEによる治療中止は12%で、投与中止につながった主なTRAEsは蛋白尿2%だった。ペムブロリズマブでは、TRAEによる治療中止は12%だった。・その他のGrade 3のTRAEの主な項目は、高血圧、下痢、蛋白尿、倦怠感などであった。 Lee氏は「ICIやTKIの前治療歴を有するRCCに対するレンバチニブとペムブロリズマブの併用療法は新たな安全性の懸念はなく、有望な抗腫瘍効果を示した。1次治療としての本併用療法の第III相試験が進行中である」と結んだ。

200.

アテゾリズマブによる筋層浸潤性尿路上皮がん術後療法の結果(IMvigor010試験)/ASCO2020

 筋層浸潤性尿路上皮がんに対する術後療法としての免疫チェックポイント阻害薬(ICI)・アテゾリズマブの有用性を検討したIMvigor010試験の結果が、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2020)で米国・Robert H. Lurie Comprehensive Cancer CenterのMaha H. A. Hussain氏より発表された。本試験は、筋層浸潤性尿路上皮がん(MIUC)に対する術後療法として初めてICIの有用性を検討した、日本も参加したオープンラベルの国際第III相試験である。・対象:再発リスクの高いMIUCであり、リンパ節郭清を伴う根治的膀胱摘除術/腎尿管摘除術施行から14日以内の症例。術後の放射線療法や術後化学療法の施行例は許容せず・試験群:アテゾリズマブ 1,200mg/日を3週ごと、16サイクルまたは1年まで(ATZ群)・観察群:経過観察。アテゾリズマブのクロスオーバー投与は許容せず・評価項目:[主要評価項目]全集団(ITT)における無病生存期間(DFS)[副次評価項目]ITTにおける全生存期間(OS)・統計学的設計:階層的な解析計画であり、ITTにおけるDFSがポジティブだった場合に、ITTでのOSの検討をする。 主な結果は以下のとおり。・2015年10月~2018年6月に、ATZ群406例、観察群403例の計809例が登録された。・2019年11月のデータカットオフ時点(追跡期間中央値21.9ヵ月)での、DFS中央値はATZ群19.4ヵ月、観察群16.6ヵ月で、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.74~1.08)、p=0.2446で、統計学的な有意差は認められなかった。・事前の層別化因子として設定されていたPD-L1発現状況などを含むいずれのサブグループにおいても、両群間にDFSの有意な差は見いだされなかった。・中間解析としてのOSの検討では、両群ともに中央値に達しておらず、HRは0.85(95%CI:0.66~1.09)であった。・ATZ群では治療関連有害事象が71%に認められ、そのうちGrade 3/4が16%、治療中止が16%、1例の治療関連死があった。免疫関連有害事象は全Gradeで46%(主なものは皮疹、甲状腺機能低下、肝炎、大腸炎など)だったが、Grade 3/4は9%だった。 発表者のHussain氏は、「IMvigor010試験では、主要評価項目は達成されなかったが、OSの追跡は続いている。探索的なバイオマーカー解析やサブグループ解析により、新たな知見が示されるかもしれない。またアテゾリズマブの単剤や併用での尿路上皮がんに対する、他の臨床試験が進行中である」と述べた。

検索結果 合計:348件 表示位置:181 - 200