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冷蔵保存しやすい新たな新型コロナワクチン「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」【下平博士のDIノート】第75回

冷蔵保存しやすい新たな新型コロナワクチン今回は、新たに特例承認された新型コロナウイルスワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、わが国で2番目に承認された新型コロナウイルスワクチンであり、冷蔵状態での保存可能期間が長く、希釈の必要がないため、大規模接種会場などで活用がしやすいと考えられます。※本剤の販売名は、販売当初は「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」でしたが、2021年12月、3回目接種(追加免疫)の用法・用量追加の特例承認に伴い、「スパイクバックス筋注」と変更されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年5月21日に承認されました。なお、現時点では本剤の予防効果の持続期間は確立していません。12歳未満についての有効性、安全性は確立されていないため、本剤の接種は12歳以上が対象です。<用法・用量>《初回免疫》1回0.5mLを2回、通常4週間の間隔を置いて筋肉内に接種します。本剤は2回接種することで効果が確認されていることから、ほかのSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく、本剤を2回接種する必要があります。1回目の接種から4週を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施します。《追加免疫》前回の接種から少なくとも5ヵ月経過した後1回0.25mLを筋肉内に接種します。<安全性>海外第II/III相試験および国内第I/II相試験で報告された主な副反応は、疼痛(92.7%)、疲労(70.7%)、頭痛(66.5%)、筋肉痛(60.5%)、関節痛(44.6%)、悪寒(46.0%)、悪心・嘔吐(23.7%)、リンパ節症(21.9%)、発熱(15.5%)、腫脹・硬結(16.6%)、発赤・紅斑(12.3%)、遅発性反応(疼痛、腫脹、紅斑など)(1%以上)、そう痒感、じん麻疹、発疹および顔面腫脹(すべて1%未満)、急性末梢性顔面神経麻痺(頻度不明)でした。重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。3.医師による問診や検温、診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。1回目に副反応が現れた場合は、2回目の接種前に医師などに伝えてください。4.副反応として、注射した場所の痛み・腫れ・発赤などの局所症状、発熱、頭痛、疲労、筋肉痛などが現れることがあります。これらの症状の多くは、接種後1~2日以内に発現し、1~3日持続した後に回復します。症状が4日以上続く場合はご相談ください。5.心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で2番目に承認された新型コロナウイルスワクチンであり、有効成分はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするmRNA(CX-024414)です。米国で実施された第III相試験(COVE試験)で認められた発症予防効果は94.1%であり、すでに国内で接種が進められているファイザー製ワクチン(商品名:コミナティ筋注)の94.6%と同程度です。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、重大な副反応として懸念されているアナフィラキシーは、2021年1月時点で758万1,429回接種のうち19件(2.5件/100万回)と報告されています。本剤は、公的接種の対象として「予防接種実施規則」および「新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領」に準拠して使用することが求められており、当面は大規模接種会場を中心に接種を進める方針が厚生労働省により示されています。保管については、-20℃±5℃の冷凍状態なら半年間の保存が可能で、冷蔵温度(2~8℃)では2時間半で解凍後30日間、また室温(15~25℃)1時間での解凍後、8~25℃で12時間の保存が可能です。調製方法について、本剤は希釈の必要はありません。接種直前は室温で15分放置します。本剤の1バイアルには10回接種分の用量が充填されており、一度針を刺したバイアルは6時間以内に使い切る必要があります。本剤は、2021年12月に18歳以上における3回目接種が特例承認され、2022年4月に4回目接種が承認されました。追加免疫の投与量は1回目、2回目の半量(0.25mL)とされています。※2021年7月と12月、2022年4月、厚生労働省の情報などを基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 スパイクバックス筋注(旧販売名:COVID-19ワクチンモデルナ筋注)2)武田/モデルナ社の新型コロナワクチンについて(厚労省)

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第62回 UberがCOVID-19ワクチン接種送迎を支援

来月の独立記念日7月4日までに米国成人の70%が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種を少なくとも1回目は済ませるというバイデン大統領の目標達成に配車や食事配達で知られるUber(ウーバー)やそのライバル企業Lyftが協力しています1,2)。ワクチン接種を予約した人はワクチン接種会場への送迎の配車をUberのスマートフォンアプリを使って頼むことができ、先週の月曜日5月24日から7月4日までは片道の費用が25ドル以下であれば無料、それを超える場合は片道当たり25ドルの値引きを受けることができます。米国で利用可能な3つのCOVID-19ワクチンのうち2つは2回の接種が必要なことから、1人当たり最大100ドル(25ドル×4回)の値引きを受けることができます。ライバル会社のLyftは片道当たり15ドルの値引きを提供します。1人当たりの値引き最大額は30ドルです。乗客は無料か定価より安い値段になりますが、ドライバーはタダ働きするわけではなく満額の報酬を得ることができます。また、利用者は感謝の意を込めてドライバーに心付け(チップ)を払うことも可能とUberは言っています。米国疾病管理センター(CDC)のCOVID-19情報提供サイトによると米国成人のおよそ63%が少なくとも1回のワクチン接種を済ませています3)。日本と同様に米国でのCOVID-19ワクチン接種も無料です。Uberは薬局チェーンWalgreenと協力して配車をするドライバーのワクチンも助けています。カリフォルニア、イリノイ、バージニア、ニュージャージーなどの幾つかの州の24万人を超えるドライバーはUberから提供された整理番号を使ってWalgreenでのワクチン接種を予約できるようにしました4)。COVID-19流行の自粛を背景にしてUberの去年2020年の売り上げはその前年2019年に比べて16%低下しました5)。ドライバーや乗客の往来を回復させて売り上げを増やすことを目指すUberはワクチン接種送迎支援を好機の一つと捉えたことでしょう。参考1)Uber, Lyft launch U.S. vaccine rides program in White House partnership/Reuters 2)The Road to 70 Percent: Free Vaccination Rides Begin Today/Uber3)COVID Data Tracker/CDC 4)Uber, Lyft use rides to vaccines to get drivers, customers back on the platform/Reuters5)Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2020/Uber

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ファイザーとAZのコロナワクチン、英国約63万人の副反応データ

 英国で3月までに新型コロナワクチンを接種した62万7,383例を対象に、副反応について調査したデータが集計され、The Lancet Infectious Diseasesオンライン版4月27日号に掲載された。 この前向き観察研究では、専門アプリを使って「BNT162b2」(ファイザー・BioNTech社製、以下ファイザー製)の1回または2回接種者、「ChAdOx1 nCoV-19」(アストラゼネカ製、以下AZ製)の1回接種者を対象に、接種後8日以内に自己申告された全身および局所の副反応の確率と比率を調べた。また、PCR検査等で接種群と未接種群の感染率を比較した。全解析は年齢(55歳以下vs.55歳以上)、性別、医療従事者か否か、肥満(BMI 30未満vs.30以上)、併存疾患の有無で調整した。 主な結果は以下のとおり。・2020年12月8日~2021年3月10日に、62万7,383例が65万5,590回の接種を受けたと報告された。28万2,103例がファイザー製の1回接種、そのうち2万8,207例が2回接種を受け、34万5,280例がAZ製の1回接種を受けた。・全身性の副反応は、ファイザー製1回目接種後に13.5%(3万8,155/28万2,103)、2回目接種後に22.0%(6,216/2万8,207)、AZ製接種後に33.7%(11万6,473/34万5,280)で報告された。・局所的な副反応は、ファイザー製1回目接種後に71.9%(15万23/20万8,767)、2回目接種後に68.5%(9,025/1万3,179)、AZ製接種後に58.7%(10万4,282/17万7,655)で報告された。・全身性の副反応は、既感染者で未感染者よりも多かった(AZ製接種後1.6倍、ファイザー製1回接種後2.9倍)。・局所的な副反応も、既感染者で未感染者よりも多かった(AZ製接種後1.4倍、ファイザー製1回接種後1.2倍)。・検査を受けたワクチン接種群10万3,622例中3,106例(3%)、未接種の対照群46万4,356例中5万340例(11%)が陽性となった。・感染リスクの有意な低下は、1回目接種後12日目から見られ、21~44日目にはAZ製60%(95%CI:49~68)、ファイザー製69%(66~72)、45~59日目にはファイザー製72%(63~79)に達した。 研究者らは、2つのワクチンの接種後の副反応は第III相試験で報告されたものよりも頻度が低かったこと、またどちらも12日後に感染リスクが低下したことが確認できたとしている。

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第56回 新様式のワクチン予診票、かかりつけ医の確認項目が削除に

<先週の動き>1.新様式のワクチン予診票、かかりつけ医の確認項目が削除に2.2020年4月~1月の概算医療費4%減、200床以上の病院に大打撃3.来年度予算に医療機関財政救済基金の創設を要望/四病協4.経営条件の厳しい地域の公立病院の支援を拡充へ/総務省5.142本の論文不正で、麻酔科学講座講師が懲戒解雇/昭和大学1.新様式のワクチン予診票、かかりつけ医の確認項目が削除に菅 義偉首相は、5月28日に新型コロナウイルス感染症対策本部が開催された後の記者会見で、65歳以上の高齢者向けワクチン接種完了の目処が立った自治体から、6月中に基礎疾患を持つ人を含む一般向け接種に移行する考えを述べた。厚生労働省は同日、「新型コロナワクチン予診票の確認のポイントVer2.1」を発表。ファイザー社ワクチンに加え、武田/モデルナ社ワクチンの接種に際して、確認すべきポイントが解説されている。また、予診票の見直しにより、「その病気を診てもらっている医師に今日の予防接種を受けてよいと言われましたか」という項目が削除され、接種可否の判断に、かかりつけ医の事前確認が不要となった。これに合わせて、電話や情報通信機器を用いた予診の実施を可能とする事務連絡が発出された。(参考)ワクチン接種「6月には広く一般にも開始」 菅首相、見通し示す(毎日新聞)ワクチン予診簡素に、かかりつけ医への事前確認不要(日経新聞)2.2020年4月~1月の概算医療費4%減、200床以上の病院に大打撃厚労省は、27日に「最近の医療費の動向」1月号を公表し、2020年度(2020年4月~2021年1月)の概算医療費は34.9兆円と、対前年同期比から4.0%減少していることを明らかにした。また、1月の医療費は3.5兆円と対前年同月比-4.7%であり、コロナウイルス感染拡大の影響はその後も続いていると考えられる。病床規模別の医療費の伸び率を見ると、200床未満が-2.1%であるのに対して、200床以上が-4.5%と、大病院ほど影響が大きいことがうかがえる。(参考)概算医療費20年度4-1月、マイナス幅拡大▲4.0% 厚労省、1月が下期最大のマイナス(CBnewsマネジメント)資料 最近の医療費の動向(令和2年度1月)(厚労省)3.来年度予算に医療機関財政救済基金の創設を要望/四病協26日に日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会からなる四病院団体協議会(四病協)は、厚労省に対して2022年度の予算編成に、新型コロナウイルス感染症対策、働き方改革、地域医療介護総合確保基金、医療機関のICT化などを含む13項目の要望を出した。医療ICTをめぐっては、オンライン資格認証の補助金拡充の延長や、オンライン遠隔診療補助の新設などを求めた。また、コロナウイルス感染拡大の影響により、経営が困難となっている医療機関に対して、都道府県による財政救済基金の設立を求めている。(参考)資料 令和4年度予算概算要求に関する要望(四病協)コロナ経営破綻防止で財政補助を要望、四病協 診療報酬増額なども(CBnewsマネジメント)コロナ対策、働き方改革、標準的電子カルテ導入、オンライン資格確認等システム導入など幅広い病院経営支援を―四病協(GemMed)4.経営条件の厳しい地域の公立病院の支援を拡充へ/総務省総務省は、28日、民間病院の立地が困難な経営条件の厳しい地域に所在する公立病院(不採算地区病院)について、新型コロナウイルス感染症のまん延の中、病院機能を維持し、地域医療提供体制を確保するため、2021年度分の特別交付税措置の拡充を行うことを発表した。武田 良太総務相は、記者会見で「不採算地区の病院の機能を維持し、地域医療提供体制の確保に支障が生じないよう基準額を引き上げる」と表明。該当する病院の条件は以下のとおり。(第1種)当該病院から最寄りの病院までの移動距離が15km以上(第2種)当該病院の半径5km以内の人口が10万人未満(参考)公立病院の支援拡充 総務省、交付上限3割上げ(日経新聞)資料 不採算地区病院等に対する財政措置の拡充について(総務省)5.142本の論文不正で、麻酔科学講座講師が懲戒解雇/昭和大学昭和大学は、28日に、麻酔科学講座講師による研究活動の不正行為に関する調査結果概要を公表した。これは、日本麻酔科学会が公開した調査結果報告書に基づいたもの。大学側は、学外の専門家を交えた調査委員会を組織し、2015〜20年にかけて発表された論文のうち142本の論文に不正があったことを発表。当人の懲戒解雇と投稿論文の取り下げを勧告し、共著者であった教授の降格処分を行ったことを明らかにした。(参考)データ捏造、薬の名前偽る…不正論文142本 昭和大医学部講師を懲戒解雇(東京新聞)本学における研究活動の不正行為に関する調査結果の公表について (昭和大学)2021.05.28ニュース(日本麻酔科学会)

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妊娠中のコロナワクチン接種で乳児にも効果の可能性/JAMA

 妊娠中の女性はCOVID-19の罹患率や死亡率が高くなるが、ワクチンの臨床試験の対象から外されており、これまで妊婦に対するCOVID-19ワクチンの有効性と安全性のデータは限られていた。妊娠中・授乳中の女性103例を対象にイスラエルで実施された試験の結果がJAMA誌オンライン版2021年5月13日号に掲載された。 2020年12月~2021年3月にワクチンを接種した18歳以上の女性103例と、2020年4月~2021年3月にSARS-CoV-2感染が確認された女性28例が対象となった。ワクチン接種群103例はmRNA-1273(Moderna)またはBNT162b2(Pfizer-BioNTech)のいずれかを接種し、内訳は妊娠中30例、授乳中16例、非妊娠57例で、接種前のSARS-CoV-2感染が確認された参加者を除外した。感染群の内訳は妊娠中22例、非妊娠6例だった。 主要アウトカムはSARS-CoV-2に対する免疫応答で、検体採取は2回目接種後に非妊娠群中央値21(IQR:17~27)日 、妊娠中群21(IQR:14~36)日、授乳中群26(IQR:19~31)日後に行った。9例が期間中に出産し、乳児の臍帯血を提供した。感染群のPCR検査陽性判定から検体採取までの期間中央値は非妊娠群12(IQR:10~20)日、妊娠群41(IQR:15~140)日だった。 主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種者103例は18~45歳で、非ヒスパニック系白人が66%だった。・ワクチン2回接種後の抗体価は妊娠中、授乳中、非妊娠群いずれもベースラインより上がり、その値は感染者群よりも高かった。また、乳児の臍帯血や母乳にも抗体が認められた。・英国および南アフリカ変異株に対しては抗体価の低下が見られたものの、T細胞応答は維持された。・2回目のワクチン接種後、妊娠中4例(14%)、授乳中7例(44%)、非妊娠27例(52%)で発熱が報告されたが、重篤な有害事象や妊娠・新生児合併症は認められなかった。 研究者らは、COVID-19ワクチンは妊娠・授乳中の女性に対しても有用性が確認され、さらに抗体は乳児の臍帯血と母乳に移行し、妊娠中にワクチンを接種することで接種資格のない新生児にも同様の効果がもたらされる可能性があるとしている。

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第59回 「余剰ワクチンの取り扱い通知」は出し忘れ?それとも大臣お墨付きなら不要?

以前、本連載の第57回で触れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)の余剰ワクチン問題。ついに5月25日付で厚生労働省健康局健康課予防接種室から『新型コロナワクチンの余剰が発生した場合の取り扱いについて』と題する事務連絡通知が出された。その中身はキャンセルなどで余剰となったワクチンについては、接種券の有無にかかわらず幅広い接種対象を検討すべし、という内容である。縮めて言えば、「誰に打っても良し。ただ、接種券のない人に打った場合は個人情報を控えておきなされ」ということだ。実はこの通知が出たと聞いて私は非常に驚いた。というのも、前日の24日夜、私はオンラインで開催された記者向けワクチン勉強会でパネリストになった地方自治体担当者に「『余剰ワクチンを誰に打っても良い』と言っている河野 太郎大臣の発言を裏付ける通知は出ているのか?」と質問したのに対して、この時点では「否」という回答を得ていたからだ。通知が出た25日夜、河野大臣も通知を写メしたツイートをしている。このツイートには「さすが河野大臣は迅速だ」的な反応が多い。そうした空気を逆なでして申し訳ないが、私はこの対応がどこも「迅速」だとは思っていない。本連載では、4月13日付の会見で河野大臣が余剰ワクチンを誰に打っても良いと発言したことに触れているが、この3日後の4月16日の会見でもこの問題は質疑応答が行われていた。質問ワクチンの廃棄問題について伺います。火曜日の記者会見で、余剰分の廃棄を極力減らす観点から、現場判断で高齢者以外も含めて柔軟な接種を行うように河野大臣は促されたんですけれども、これについては厚労省が明確な見解を示さないこともあって、医療現場から運用の観点から困惑の声も上がっています。改めて、大臣としては、廃棄を減らすことを最優先に、どうしても余ってしまう、そういう場合は、若者など高齢者以外も含めた接種を行うべきという考えに変わりはないでしょうか。回答これは厚労省の出している手引きの中に既に明確に書いてありますので、厚労省を含め、政府としての判断はもう明確に示されております。さらに4月20日の会見でも関連した質疑は行われている。質問あともう一点なんですけれども。先ほど自治体のサポートに注力したいということですけれども。高齢者接種が始まってまだ1週間で量も限られていますけれども、これまで1週間で見えてきた課題というのはございますでしょうか。回答余ったワクチンは非常に貴重なワクチンですから、廃棄することなく柔軟に自治体で対応していただきたいと思っております。これは1バイアル当たり現在4回分、6回接種になれば5回分が最大量ですけれども、万が一停電が起きたり何が起きたりという、もう少し大きく対応しなきゃいけないということも起こり得るわけですから、そういう時にどうするかというところも考えながら、日々予診で今日は打たないほうがいいですという方が恐らく必ず出ると思います。ワクチンが余るというのは、これは定常的に起きることだと思いますので、無駄にすることなく自治体で柔軟にしっかり対応していただきたいと思っています。そして直近の5月21日の会見では冒頭の概説で河野大臣自らこのように話している。いくつかの自治体、保健所等で、接種券がない者には打てないという誤った指導を行っているところがございます。そうした誤った指導の結果、貴重なワクチンが廃棄されているというのは極めて許し難い状況だと思います。保健所なり自治体の関係の皆様は、認識を新たにしていただいて、16歳未満の方には打てませんけれども、接種券の有無にかかわらず、しっかりと記録だけ取っておいていただければ、後日接種記録を入れていただければよいだけの話でございますので、貴重なワクチンが廃棄されることがゆめゆめないように、しっかりと対応していただきたいと思います。河野大臣の余剰ワクチンに対する姿勢は基本的に一貫し、私もそれに賛同している。しかし、4月中旬以来、この件に関して同じことを繰り返し発言していることに私はやや疑問を持っていた。その時、ハッと思った。私は21日の会見の内容が報じられた直後、自分のTwitterで河野大臣が余剰ワクチンを優先接種対象者以外の誰でもいいから接種するようにと言っている内容を厚労省から自治体向けに文書で通知しているのだろうか?という趣旨のツイートをしている。これはお役所とやり取りをしたことがある人ならば分かると思うが、国家公務員であれ地方公務員であれ、お役人というものは「無謬性」を重視し、明確に文書等で指示があること以外は行わない。もし文書で明示のないことを行って問題が生じれば、「無謬性」は破綻するからだ。そんなことはお役所の非効率をしばしば歯に衣着せぬ物言いでバッサリ切って捨てる河野大臣も熟知していることだろう。問題はこうした状況を前提に4月13日の会見での発言当初、河野大臣が「やっぱり念のため通知を出しておくよう働きかける」と考えたか、「大臣の俺が言ってるんだから通知がなくとも良い」と考えたかという点だ。私は河野大臣が後者を選んでいたのではないかと疑っている。そのように疑ってしまうのは、過去にも書いたが、河野大臣がきわめて合理主義者で、政治家にありがちな根回し・忖度が苦手であると知られていることがベースにある。そして4月16日付の会見の質疑応答をより突っ込むと、私の中ではその疑いはより強くなる。繰り返しの引用になるが、この時に河野大臣は余剰ワクチンの扱いについて「厚労省の出している手引きの中に既に明確に書いてありますので、厚労省を含め、政府としての判断はもう明確に示されております」と答えている。そこで厚労省が出している自治体向けの「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(2.2版)」(4月15日付)の内容を以下に紹介する。同手引きの67ページには余剰ワクチンが発生した場合として以下のような記述となっている。新型コロナワクチンの接種予約がキャンセルされた等の理由で余剰となったワクチンについては、可能な限り無駄なく接種を行っていただく必要があることから、別の者に対して接種することができるような方法について、各自治体において検討を行う。たとえば、市町村のコールセンターや医療機関で予約を受ける際に、予約日以外で来訪可能な日にちをあらかじめ聴取しておき、キャンセルが出たタイミングで、電話等で来訪を呼びかけるなどの対応が考えられる。なお、キャンセルの生じた枠で接種を受けられるのは、接種券の送付を受けた対象者とする。それでもなお、ワクチンの余剰が生じる場合には、自治体において検討いただきたい。これのどこが「明確」と言えるのだろうか? 最後は「自治体において検討」と事実上の丸投げである。そもそも日本の公務員制度では長らく地方公務員は中央の言うことを忠実に実行することが是とされてきた。一部の地方公務員の怒りを招くことを承知で敢えて分かりやすさを重視した表現にすると、地方公務員の業務遂行とは「うっすら線が入っているお絵描き帳で絵を描く」がごとしである。地方分権と言われて久しいが、この名残はいまだ根強い。だから「自前で検討せよ」が実は地方自治体が最も苦手とするものなのだ。実際、2025年を目標に地方自治体が自前で構築すべしとなっている「地域包括ケア」に関しては多くの自治体が未だ右往左往している。それでも「地域包括ケア」の構築はまだ時間的な余裕がある。しかし、ワクチン接種は待ったなし。その意味ではより踏み込んだ明示が必要である。ちなみに前述の手引きの最後の一文を大臣発言に沿って突っ込んだ一例を示せば次のようになるだろう。「それでもなお、ワクチンの余剰が生じる場合には、廃棄に至らないよう接種券の有無にかかわらない接種対象者の選定を自治体において検討いただきたい」いずれにせよ4月13日の会見での発言から、それが通知という形で具現化するまで軽く1ヵ月以上を有しており、このタイムラグの原因が何であれ、とても迅速とは言い難い。もし河野大臣発言の直後に前述の事務連絡通知が出ていれば、これまでに発生したワクチンの廃棄は相当程度防げていたのではないだろうかと考えている。

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新型コロナワクチン、接種会場での各病院の工夫とは?

 メディカル・データ・ビジョン株式会社は自社の病院向け経営支援システムを導入している病院に対して、接種会場での工夫点について緊急調査を実施。その結果、病院ごとに予診票の事前記入の促し、院内導線やスペース確保などを工夫していることが明らかになった(5月20日付プレスリリース)。 同社はこの調査を5月14日~19日の期間にウェブで実施、21病院から回答を得た。ワクチン接種体制で困っている点や課題に感じた点を聞いた(複数回答可)ところ、予約管理(66.7%)が最も多く、次いで接種人材の確保・役割分担(57.1%)、院内での接種会場の確保(52.4%)、円滑に接種するための動線(47.6%)、受付・問診(42.9%)だった。 同社の調査で明らかになった取り組みの一例を以下に紹介する。会場/動線・午後休診の診療科や院外の関連施設を活用した ・接種後の待機場所にはリラックスできるビデオや音楽を流した・予約時間まで車で待機してもらい、混雑を防いだ・待機場所は、必ず医療者が近くにいる場所にした・接種の流れや接種後の注意点などがわかるように映像を作成し、院内各所のモニターに映し出し、受付待ち、問診待ち、接種待ちしている間に見てもらえるようにした・受付後は接種会場の座席に着座のまま、医師・看護師が巡回し予診~接種~待機まで行っている。接種者が移動・待機を繰り返すことをなくし、会場をコンパクトにした受付/問診・予約制のため、事前に予診票を配り書いてもらった・当日受付票を発行し、接種時間・待機時間を記入できるようにした・役割ごとに、受付を3つに分けた(1:予約確認受付…指定された日時に来院しているかの確認/必要な持ち物の確認、2:接種受付…本人確認/予診票の記載確認、3)接種後受付…接種済証の記載/発行)副反応への対応・職員向けの接種で、副反応が出る可能性を考慮し、金曜日により多くの接種枠を設けた・(ワクチン接種で通常業務が滞らないよう、)同日に同部署から何人も接種しないようにした・外来看護師は極力、金/土曜日に接種するようにし、翌日が休日となるようにした・休みがとりやすいように副反応でつらい時は、特別休暇扱いとした 病院関係者の声・接種をしていない職員(医師・看護師)が高齢者への接種を行うケースが発生している。こういったことに国・都道府県・市町村・医師会は目を向けるべきだと思う ・職員向けの接種で、2回目の接種後はなるべく2日間休めるようにしたが、あまりに副反応が出たため、看護職員が手薄になった ・キャンセル時の代替接種者は確保していたが、そもそもリソースを最小限にしているため、忘れているだけなのかキャンセルなのか、確認自体に労力を要した。・予約管理については自院で受け付けず、接種者には自治体のシステムをご利用いただいているが、予約情報が断片的(カナ氏名なし、性別なし、住所なし)で困っている。またシステムが不安定で、電話問合せが多く現場が疲弊している

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COVID-19診療の手引きの第5版を公開/厚生労働省

 5月26日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第5版」を公開した。 同手引きは診療の手引き検討委員会が中心となって作成され、第1版は2020年3月17日に、第2版は5月18日に、第3版は9月4日に、第4版は12月4日に公表され、細かい改訂など随時最新の内容に更新されている。 今回の改訂では、前版以降の知見の拡充を行い、とくに血栓対策の治療、投与すべきでない薬剤(ヒドロキシクロロキンなど)の記載、新しく追加承認されたバリシチニブの追加、ファビピラビルの観察研究結果の更新などが反映されている。今回の主な改訂点【病原体・疫学】・変異株について感染性や重篤度、ワクチンへの影響などの情報を更新【臨床像】・剖検の調査による報告を追加・重症化リスク因子に妊娠後期を追加・血栓塞栓症、小児家庭内感染、小児多系統炎症性症候群の国内データを追加【症例定義・診断・届出】・病原体診断を更新(新型コロナウイルス感染症病原体検査の指針・第3.1版に対応)・届出は原則としてHER-SYSを活用することと記載【重症度分類とマネジメント】・中等症IIにおけるネーザルハイフロー・CPAP使用回避の記述を削除・自宅療養者に対して行う治療プロトコールを追加・血栓症対策の治療内容を更新【薬物療法】・投与すべきでない薬剤(ヒドロキシクロロキン、リトナビル)について記載・国内で承認されている医薬品にバリシチニブ(2021年4月23日追加承認)を追加・ファビピラビルの国内での観察研究結果を更新【院内感染対策】・感染者の授乳について更新・ネーザルハイフロー使用時の感染対策を記載【退院基準・解除基準】・懸念される変異株(VOC)感染者も同様の退院基準であることを記載・人工呼吸器などによる治療を行った場合を追加

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新型コロナ既感染者、1年後の抗体保有状況は?/横浜市立大

 横浜市立大学の山中 竹春氏(学術院医学群 臨床統計学)率いる研究グループは、「新型コロナウイルス感染12ヵ月後における従来株および変異株に対する抗ウイルス抗体および中和抗体の保有率に関する調査」の記者会見を5月20日に開催。回復者のほとんどが6ヵ月後、12ヵ月後も従来株に対する抗ウイルス抗体および中和抗体を保有していたことを報告した。調査概要と結果 本調査は同大学が開発した「hiVNTシステム」を用いて、新型コロナウイルス感染症からの回復者(2020年2~4月に自然感染した既感染者で、研究への参加同意を取得)約250例を追跡した国内最大規模の研究である。2021年3月末までの期間に採血・データ解析を行い、感染から6ヵ月後と12ヵ月後の抗ウイルス抗体と中和抗体の保有率を確認した。従来株(D614G)ならびに変異株4種[イギリス株(B.1.1.7)、ブラジル株(P.1)、南アフリカ株(B.1.351)、インド株(B.1.617)]を調査した。中和抗体の測定はシュードウイルス法*を用いて行われた。*SARS-CoV-2スパイクを持つ偽ウイルスを用いてLuciferase活性を定量する方法で、危険性が低く、短期間で検出が可能。 主な結果は以下のとおり。・参加者250例の平均年齢は51歳(範囲:21~78歳)だった。・重症度別の内訳は、軽症・無症状は72.8%(182例)、中等症は19.6%(49例)、重症は7.6%(19例)だった。・従来株に対する6ヵ月後の中和抗体の陽性率は98%(245/250例)、12ヵ月後では97%(242/250例)だった。・自然感染から6ヵ月後と12ヵ月後の参加者の中和抗体陽性率は重症度別では、軽症・無症状(97%、96%)、中等症(100%、100%)、重症(100%、100%)で、中和抗体の量は6ヵ月から12ヵ月で大きく低下しなかった。・変異株の中和抗体の保有率はいずれの時点でも従来株に比べ低下傾向だったものの、多くの人が検出可能な量の中和抗体を有していた[イギリス株(6ヵ月:88.4%、12ヶ月:84.4%)、ブラジル株(同:85.6%、同:81.6%)、南アフリカ株(同:75.2%、同:74.8%)、インド株(同:80.4%、同:75.2%)]。 ・変異株の場合は軽症・無症状者の抗体保有率が低く、南アフリカ株やインド株の抗体保有率は70%前後だった。 また、山中氏はモデルナ製ワクチンの海外データ1)を踏まえ「ワクチン接種を行うことで自然感染と同様の中和抗体が残っている可能性が示唆されている。自然感染者よりワクチン接種者のほうが効率よく中和抗体を上げることができるので、1年後に再接種し免疫強化を図るのが良いのでは」とも見解を述べた。

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第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣(後編)

家庭医、かかりつけ医の制度化の議論活発化こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。飲み屋がやっていないので、東京の夜は寂しいものです。先日、ある居酒屋(酒類を提供していないにもかかわらず営業中)に入って、「ホッピー、“外”だけ下さい」と頼んだところ、「アルコールが入っているので出せません」と言われました。アルコール?と思い調べたら、0.8%入っているようです。0.8%でどう酔っ払えるのかはわかりませんが、飲食店において1人や少人数の場合の酒類提供の禁止というのは、感染防止の観点からはほとんど意味がないと思うのですが、どうでしょう。さて、今回は、前回の続きで、家庭医・かかりつけ医の制度化を進めようという、いくつかの動きについて書いてみたいと思います。一つは、財務省の「かかりつけ医機能」の制度化の提案です。財務省主計局は4月15日、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会(分科会長=榊原 定征・前経団連会長)において、医療や介護、年金など社会保障制度の改革についての考え方を示しました(参考:第56回 コロナで“焼け太り”病院続出? 厚労省通知、財務省資料から見えてくるもの)。この中で財務省は、診療所における「かかりつけ医機能」の制度化を提言。紹介状なしで大病院外来を受診した患者から定額負担を徴収する仕組みと共に推進し、外来医療の機能分化と連携につなげることを求めました。「『かかりつけ医』機能を法制上明確化せよ」と財務省大病院外来における受診時定額負担の義務化対象については、紹介外来を基本とする一般病床200床以上の病院に拡大する方針がすでに決まっており、2022年度診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会(中医協)での議論で、詳細が固められる予定です。財務省はこの取り組みの一層の推進を促すとともに、「複数の慢性疾患を抱える患者が増加する超高齢化社会において、患者がその状態に合った医療を受けるためにも、有事を含め国民が必要な時に必要な医療にアクセスできるようにするためにも、緩やかなゲートキーパー機能を備えた『かかりつけ医』の推進は不可欠である」と提言しました。そして、すでに日本医師会と四病院団体協議会において「かかりつけ医」の定義が明らかにされていることを踏まえ、「診療所における『かかりつけ医』機能を法制上明確化(制度化)するとともに、機能分化を進めるためのメリハリをつけた方策を推進すべきである」としています。とはいえ、日本医師会の「かかりつけ医」の定義については、以前に本連載(第29回 オンライン診療恒久化の流れに「かかりつけ医」しか打ち出せない日医の限界を参照)でも書いたように、その概念は曖昧で確固たる資格ではありません。地域で診療する医師の一つの理想像に過ぎない今の「かかりつけ医」を、このコロナ禍を機にきちんと制度化しろ、と財務省は言っているわけです。経済財政諮問会議では民間議員が制度化に言及この提言の後、4月26日に開かれた内閣府の経済財政諮問会議でも「かかりつけ医の制度化」が俎上に上がりました。民間議員が「社会保障改革~新型感染症を踏まえた当面の重点課題」と題する資料を提出、新型コロナの緊急時対応では、「民間病院を含めて緊急時に必要な医療資源を動員できる制度的仕組みの構築」を求める一方、平時の構造改革として、診療報酬のインセンティブの強化等で医療機関の機能分化や統合を推進するほか、「かかりつけ医機能を制度化」し、コロナ対応やオンライン診療などを包括的に提供できる体制の整備を求めたのです。とくにかかりつけ医については、「感染症への対応、予防・健康づくり、オンライン診療、受診行動の適正化、介護施設との連携や在宅医療など地域の医療を多面的に支える役割を果たすべき」と、その具体的な機能も明示しました。「制度化」の議論と正対しない日本医師会こうした相次ぐ動きに対し、日本医師会は4月27日に「経済財政諮問会議等の議論について」という文書で、次のような見解を公表しています。かかりつけ医機能についてかかりつけ医が行う感染症への対応、予防・健康づくり、受診行動の適正化、高齢者への医療など、地域の医療を多面的に支える役割をしっかりと評価すべきです。フリーアクセスは国民皆保険を支える大きな柱であり、コロナ禍において、経済財政諮問会議や財政審が求めているように、かかりつけ医機能を制度化すれば、フリーアクセスを阻害し、以前後期高齢者医療制度導入のときに見られたように国民の理解を得られず、大混乱を招くおそれがあります。2008年に施行された後期高齢者医療制度における後期高齢者診療料は、慢性疾患を持つ複数の病気にかかっている高齢者の主治医を限定してフリーアクセスを奪いかねず、また、医学管理等、検査、画像診断、処置を包括して医療費抑制につながりかねないことなど、患者にとって必要な医療が制限されるとして批判を浴びました。(「日医君」だよりNo.588より)財務省や経済財政諮問会議の民間議員の提言、提案にまったく正対していないこの見解には正直驚きました。「かかりつけ医」が制度化されておらず、その存在の役割が曖昧なことには触れず、すでに機能しているものとして論を展開しているのは無理があります。また、フリーアクセスの阻害が「国民の理解を得られず、大混乱を招く」と主張しているのも説得力がありません。「コロナ禍における大混乱」の一因が、「フリーアクセス」がうまく機能せず、PCR検査、コロナ疑い患者の初期診療、回復患者への対応といった、本来診療所レベルでも対応すべきことができていなかったことにある、という認識が欠けています。また、ここで後期高齢者医療制度の議論の時のドタバタを持ち出すのも、不適当と言えるでしょう。この時の混乱と、高齢者を含む国民が医療機関にかかることができず、死亡するケースが続出している現状とは、混乱の度合いが比べものになりません。現場会員の「かかりつけ」の認識は単に受診頻度5月16日のNHKニュースは「定義あいまい“かかりつけ” ワクチン接種予約で困惑」というタイトルで、こんな話も伝えています。兵庫県内で、65歳以上の高齢者の新型コロナウイルスのワクチンの接種の予約受付が「かかりつけ」の医療機関で始まったが、「かかりつけ」の定義があいまいなため、医療機関に予約を受け付けてもらえないケースが出ている、というのです。ある高齢者が予約しようとしたところ、最後の受診日から一定期間経過していることなどで医療機関側が「かかりつけ」には当たらないと判断、予約を受け付けないケースがあったというのです。日本医師会・四病院団体協議会による「かかりつけ医」の定義は、「なんでも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」ですが、現場の診療所の認識は単純に受診の頻度や回数、最後に受診してからの期間だったのです。笑っちゃいますね。コロナ禍だからこそ「かかりつけ医」を見直せと日本総研さて、そんな中、シンクタンクである日本総合研究所(日本総研)もこれからの「かかりつけ医」の役割について斬新な提言をしています。日本総研は5月11日、Webシンポジウム「ポストコロナに望まれる日本のあるべき医療の姿~長期的な展開で、今後も医療制度を維持するために~」を開催、約2年間に渡って検討を重ねてきたという「持続可能で質の高い医療提供体制構築に関する提言」を発表しました。提言は、「新型コロナウイルス感染症による公衆衛生危機によって、わが国の医療提供体制はさらに多くの課題を突き付けられることになった。医療従事者の偏在や不足をはじめ、平常時・非常時それぞれにおける病床機能の不備、在宅での患者支援体制の未整備、ワクチン接種やデジタル化の遅れなど、それらをどのように進化させていくべきか、多くの国民が課題認識をかつてないほど深めている」と問題点を指摘した上で、「現在行われている医療制度改革は、医療提供者側を中心とした議論が行われており、医療の受け手である国民にも理解しやすい形で、医療のあるべき姿が議論されその実現に向けた対策が取られているとは言い難い」として、次の3つの提言をしました。提言1:コロナ禍だからこそ見直すべき「かかりつけ医」の役割提言2:デジタル化が可能にする質の高い医療の選択を加速化提言3:国民皆保険を将来世代に引き継ぐためにコロナ禍の今こそ考えるべき医療財政多職種連携で診るプライマリ・ケアチームを提言この中の、「提言1:コロナ禍だからこそ見直すべき『かかりつけ医』の役割」では、「国民の一生涯の健康を地域多職種連携で診るプライマリ・ケアチーム体制整備」が必要として、チームで「かかりつけ」の仕組みをつくれ、と主張しています。提言では、「臓器ごとの専門医だけでなく、全人的・包括的に複数科/疾病の患者も診られ、患者の地域や家族の状況も踏まえて診察できる医師(プライマリ・ケア医)が必要」としつつも、「そのために、国民一人ひとりが、自らが選んだ一生涯のかかりつけの多職種医療従事者チームに診てもらえる『国民の一生涯を見る日本版プライマリ・ケア』の仕組みを整備すべきである」としています。かかりつけ医だけでなく、看護師や薬剤師、OT・PT、介護福祉士、ケアマネジャーなど地域の多職種医療従事者チームでプライマリ・ケアを提供する、という視点は斬新です。医師に手に負えない(あるいは医師が怠ける)部分は、医師以外にタスクシフトをし、チームで「かかりつけ」として機能していけ、というわけです。国民の目線が日本医師会に向いている今こそ議論をコロナ禍での反省に立って出てきた「かかりつけ医」に対するさまざまな提言を、家庭構想を葬ったころと同じようなロジックで無視していいわけがありません。こうした提言や議論に正対せず、ひたすら「フリーアクセス」「自由開業」「出来高払い」という金科玉条を自分たちのためだけに唱え続けるとしたら、ここはもう、日本医師会を外して、「かかりつけ医」の議論を進めていく選択肢もあるでしょう。ただ、そんな勇気は、自民党にも厚労省にもおそらくないでしょうが…。しかし、この1年余り、コロナ禍での医療提供体制のお粗末ぶりを経験してきた国民の多くは、日本医師会やそのトップである中川 俊男会長の言動に大きな不信感を抱くに至っています。家庭医、かかりつけ医の制度化の議論は、国民の目線が日本医師会に向いているコロナ禍の中の今こそ進めるべきだし、進むと思いますが、皆さんどうでしょう。

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がん患者、新型コロナワクチン接種後の抗体価が低い/Ann Oncol

 がん治療を受けている固形腫瘍患者はCOVID-19ワクチン接種後の抗体価が低く、2回以降の接種が健常者以上に重要になる、という報告が相次いでいる。 Annals Oncology誌2021年4月28号オンライン版に「LETTER TO THE EDITOR」として掲載されたフランスの研究では、固形腫瘍患者194例と 健常者の対照群31例にファイザーの新型コロナワクチン「BNT162b2」 を接種。初回接種時、2回目接種時(3~4週後)、2回目接種後3~4週目(6~8週後)に抗体値を測定し、陽性判定を行った。 主な結果は以下のとおり。・2021年1月18日~3月15日までに194例中122例(64.4%)が少なくとも2回の判定を受けた。年齢中央値は69.5歳(44~90歳)、男性64例(52.5%)、女性58例(47.5%)だった。・122例中105例(86.0%)は化学療法±分子標的薬療法を受けていた。・2回目接種時(3、4週後)は58例(47.5%、95%信頼区間:38.4~56.8)、2回目接種後3~4週目(6~8週後)は分析可能な40例(95.2%、83.8~99.4)が抗体陽性だった。・対照群は、2回目接種時(3、4週後)は13例(100.0%、75.3~100.0)、2回目接種後3~4週目(6~8週後)は24例(100.0%、85.7~99.4)が抗体陽性であり、固形腫瘍患者は健常者と比べ陽性率が有意に低かった。またいずれの時点でも抗体価中央値は固形腫瘍患者で有意に低かった。・化学療法を受けた患者は、受けていない患者や分子標的薬療法のみの患者と比べ、2回目接種時(3、4週後)に抗体陽性となった患者が少なかった(42.9%vs. 76.5%、p=0.016)。 研究者らは、がん患者は免疫不全状態であることが多く、ワクチン単回の接種では反応が弱い、または反応しない割合が高いことを考慮して、初回接種後少なくとも6~8週間は引き続き厳格な感染予防措置をとること、化学療法を受けている患者はとくに2回目接種のスケジュールを厳守すること、3回目以降の接種の有効性を検討する必要があることを示唆している。

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AZ社・モデルナ社の新型コロナワクチン、特例承認を取得

 アストラゼネカ社は5月21日、コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「バキスゼブリア筋注」の製造販売について、日本国内における特例承認を取得したと発表した。SARS-CoV-2 ウイルスによる感染症の予防を適応とし、18 歳以上を対象とする。 英国・オックスフォード大学が主導する英国・ブラジル・南アフリカにおける第III相臨床試験の有効性および安全性に関する良好なデータと、国内第I/II相臨床試験結果を基に厚生労働省が同日、承認した。 PMDAは「バキスゼブリア筋注」について、成人には0.5mLを4~12週間の間隔をおいて2回筋肉内に接種することと定められており、最大の効果を得るためには8週以上の間隔をおいて接種することが望ましいと注意喚起している。この用法・用量は、臨床試験において良好な忍容性を示し、2回目接種後15日以降の症候性COVID-19を予防。COVID-19関連した重症例及び入院例も見られなかったという。 日本における同ワクチンはすでに生産を開始しており、数週間以内に出荷を開始する予定だ。 一方、米国・モデルナ社製のコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」についても、同日に特例承認された。2021年前半より日本国内においてモデルナ筋注5,000万回接種分を供給することを目的としたモデルナ社および厚労省との契約に基づき、武田薬品工業が申請していた。 同社は、日本において「モデルナ筋注」を28日間の間隔をあけて2回接種した際の、安全性および免疫原性の評価を行うプラセボ対照臨床第I/II相試験を実施。20歳以上の日本人成人200例を被験者として登録した。本試験の結果では、28日間隔で同ワクチン0.5mLを2回接種した被験者の100%において、2回目接種から28日後に結合抗体と中和抗体の上昇が確認された。重大な安全性の懸念は報告されず、忍容性はおおむね良好で、これまでに公表されたモデルナ社の臨床第III相COVE試験の免疫反応と同様の結果だった。 武田薬品工業では、国内における供給を速やかに開始する予定。 両ワクチンの概要および添付文書は、厚生労働省のホームページに掲載されている。

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第55回 モデルナ、AZの新型コロナワクチン承認、その位置付けは?

<先週の動き>1.モデルナ、AZの新型コロナワクチン承認、その位置付けは?2.コロナ重症患者の急増で麻酔薬プロポフォールが供給不安定に3.改正医療法の成立で、救急医の「勤務間インターバル」など義務化4.骨太の方針へ声明「すべての病院に適切な支援を」/日本病院団体協議会5.地域医療構想で病院再編の支援を強化、外来機能報告制度の創設1.モデルナ、AZの新型コロナワクチン承認、その位置付けは?厚生労働省は、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会を21日に開催し、モデルナ製とアストラゼネカ製の新型コロナワクチンについて、製造販売を承認した。接種対象範囲や公的接種とするかどうかなどを検討した結果、モデルナ製ワクチンは公的接種の対象とされる一方で、AZ製ワクチンは海外で接種後にわずかながら血栓症が発症する事例が報告されていることから、現時点では公的接種の対象外となった。今回、審査を簡略化する「特例承認制度」を活用して行われたが、国内治験のため製造承認が遅れ、アメリカに比べると3ヵ月ほど発売までの時間を要した。政府は国産ワクチンの研究開発を後押しする基金を創設し、開発能力の向上を目指すことを明らかにしている。(参考)厚労省 モデルナとアストラゼネカの新型コロナワクチンを特例承認 モデルナ製のみ公的接種の対象(ミクスonline)国産ワクチン開発へ、大学や製薬会社に資金…政府が基金創設の方針(読売新聞)第21回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料(厚労省)2.コロナ重症患者の急増で麻酔薬プロポフォールが供給不安定に人工呼吸器を必要とする新型コロナ重症患者の増加に伴い、手術患者の鎮静に用いる「プロポフォール」の需要が高まったため、国内の製薬メーカーは今月から出荷調整を行なっている。これに対して厚労省は、14日に事務連絡を発出し、プロポフォール製剤およびその代替薬について、「返品が生じないよう必要量に見合う量のみの購入」「臨床上問題なければ麻酔の維持においては揮発性吸入麻酔薬の使用を考慮」など適正使用を呼び掛けている。(参考)コロナ重症治療の麻酔薬がピンチ 患者急増の影響で (朝日新聞)資料 プロポフォール製剤が安定供給されるまでの対応について(周知依頼)(厚労省)3.改正医療法の成立で、救急医の「勤務間インターバル」など義務化21日に開催された参議院本会議で、医師の働き方改革案が盛り込まれた改正医療法が可決・成立した。これにより、救急医療などを担う医師に一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」や、医師による面接指導による健康確保措置、医師労働時間短縮計画の作成が病院に義務づけられることになった。2024年4月から、医師の時間外労働の上限は原則「年960時間以内」となるが、3次救急医療機関、2次救急医療機関のうち年間救急車受入台数1,000台以上または年間の夜間・休日・時間外入院件数500件以上かつ、医療計画で5疾病5事業確保のために必要と位置付けられた医療機関や在宅医療においては、「年1,860時間」の範囲で規制される。なお、新型コロナウイルスの感染拡大で医療提供体制がひっ迫したことも踏まえて、都道府県が策定する医療計画に、新たに感染症対策を追加し、5疾病6事業として改められる見込み。(参考)勤務医らの働き方改革推進 改正医療法 参院本会議で可決・成立(NHK)改正医療法が成立、医師の健康確保を義務化 病院再編支援なども(CBnewsマネジメント)資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等改正の趣旨の一部を改正する法律案の概要(厚労省)4.骨太の方針へ声明「すべての病院に適切な支援を」/日本病院団体協議会21日、財務省の財政制度等審議会は、社会保障費の伸びを2022年度から3年間、高齢化に伴う患者の分までに抑えるよう求める意見書(建議)を取りまとめており、さらに議論を経て7月に新たな骨太の方針としてまとめられる。中には、診療所の「かかりつけ医」機能の制度化、処方箋を繰り返し利用する「リフィル制度」の導入なども盛り込まれている。これに対し、国立大学附属病院長会議、独立行政法人 国立病院機構、全国公私病院連盟、全国自治体病院協議会、全日本病院協会など15団体から構成される「日本病院団体協議会」は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、過去の実績に基づく診療報酬の補填のみでは十分ではなく、すべての病院を支援する対策を求めた。(参考)新型コロナ支援は診療報酬概算払いに、財政審 社保費の伸び引き続き「高齢化分」に(CBnewsマネジメント)民間病院にもっと支援を…コロナ患者受け入れで収入減 減収補填など使途拡大訴え(東京新聞)資料 社会保障改革~新型感染症を踏まえた当面の重点課題~(経済財政諮問会議)資料 経済財政諮問会議等の議論にかかる声明(日本病院団体協議会)5.地域医療構想で病院再編の支援を強化、外来機能報告制度の創設21日に参議院本会議で可決・成立した改正医療法では、地方で進む人口減少や高齢化に備え、必要な病床の数や機能を見直す「地域医療構想」の実現を後押しするため、医療機関の取り組み支援を地域医療介護総合確保基金に位置付けて、国が全額負担する税制優遇措置などを講じることが明らかになった。また、外来医療の機能の明確化・連携を強化するために、一般病床や療養病床を有する医療機関に対し、医療資源を重点的に活用する外来などについて報告を求める「外来機能報告制度」の創設などを行うことになっている。(参考)病院再編の支援恒久化 改正案、国会成立へ(中日新聞)外来機能報告の義務化、遅くとも22年度初めから(CBnewsマネジメント)

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ワクチン接種後の手のしびれ、痛みをどう診るか(1)

前回、ワクチン接種後に生じる可能性のある末梢神経障害や、SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration:ワクチン接種に関連する肩関節傷害)について解説しました。今回はワクチン接種後にこれらを疑う症例について、より実際に即したお話をしたいと思います。<今回のポイント>神経に穿刺した場合、“どこに注射したか”“何を注射したか”“損傷の形態”さらに“心因的な要素”などによって症状は異なる。神経を損傷したわけではなくても、注射の後に手の痺れを訴えることがある。末梢神経損傷やSIRVAについて、ワクチン接種に従事する医療者は知っておいたほうが良いのでしょうか?前回も述べたように、私たちが提案した安全なワクチンの筋注方法に従って注射する限り、末梢神経損傷やSIRVAは心配しなくても良いと考えています。とくに今回のような状況下では末梢神経損傷やSIRVAについては、せいぜい「そんな副反応もあるのだな」程度の知識で十分ではないでしょうか。それよりもワクチン接種会場では適切な問診の対応ができること、さらに厚生労働省が示すように、「アナフィラキシー」「血管迷走神経反射」といった副反応への対処のほうが大切でしょう。しかし、従来通り肩峰下三横指以内に筋肉注射する手技を選択するのであれば、少なくともSIRVAという疾患概念については知っておくべきではと思います。その部位に接種することによって障害が発生するリスクが指摘されているからです。針で神経を刺してしまうと、必ず麻痺が起こるのでしょうか?“どこに注射したか”“何を注入したか”“神経損傷の形態”さらに“心因的な要素”などによって症状は大きく異なると考えます。まず“どこに注射したか”ですが、たとえば、手関節の橈側での静脈穿刺は、橈骨神経浅枝損傷のリスクがあります1)(図1)。(図1)画像を拡大する2021年現在、判例等によると、手関節から12cm以内の前腕橈側での静脈穿刺は、橈骨神経浅枝の損傷に対して医療側の過失を問われる可能性が高い。実際にCRPS(複合性局所疼痛症候群)を発症し、病院側が敗訴した判例もあります2)。この部位での採血や静脈路確保による橈骨神経障害は、ほかの部位と比べると症状が強く発現しやすくトラブルに発展しやすいため、極力避けるべきだと個人的にも思います。ワクチン接種と関連した上腕の部位だと、腋窩神経は終末近くを分岐する運動神経で症状が出にくく、橈骨神経では手の一部を支配する感覚神経と運動神経双方の線維を含むことから症状が現れやすいと言えます。一方で、私たち整形外科医や麻酔科医は腕神経叢や坐骨神経に対して神経ブロックを行う際に末梢神経を針で刺し、局所麻酔薬を注入します。確かに神経に針を刺せば、部分的な軸索の損傷を生じる可能性があります。しかし、通常神経ブロックを行う部位への局所麻酔薬の注射では、永続的な神経障害の危険性はかなり低いと考えられています。もちろん注入する薬剤の種類や濃度によっては、注射部位によらず神経の障害を起こしうるでしょう。“何を注射したか”薬剤の種類によって神経毒性はまったく異なります。とくにワクチンは局所の炎症を引き起こすので、誤って末梢神経に注入するようなことは避けるべきでしょう(図2)。(図2)画像を拡大する末梢神経に対する局所の毒性は薬剤によって大きく異なる。「神経ブロックでよく穿刺しているから、ワクチン接種で穿刺しても大丈夫」とはならない。さらに知っておきたいのは、実際にはさまざまな“神経損傷の形態”があるということです。古典的なSeddon分類に従って考えても、一時的な圧迫による伝導障害、神経幹は断裂していないが軸索が損傷している状態、神経幹自体が断裂している状態など、神経損傷の程度や回復の見込みもさまざまです(図3)。(図3)画像を拡大するそれぞれの末梢神経は、図に示す神経線維の束である神経束がさらに束になったものである。実際には部分的な神経束の損傷など、さまざまな形態が存在する。ですから実際の患者さんが教科書に書いてあるような典型的な麻痺の症状を必ず呈するとは限りません。たとえば、単純に『肩が自動運動で挙上できるので、腋窩神経損傷は否定できます』などとは言えないわけです。末梢神経を傷つけた場合、ほとんど無症状の場合から、異常な感覚を訴える場合、あるいは筋力低下を明らかに示す場合など、さまざまな症状が生じ、整形外科医でも判断に迷うことはよくあります。注射後に手の痺れを訴える人もいるようですが、神経損傷あるいは気のせいでしょうか。神経損傷やSIRVAを生じる可能性は、全体的に見ると低いものです。SIRVAの場合、4月30日時点での厚生労働省の「医療機関からの副反応疑い報告について」3)を参照すると2件の副反応疑いとして報告(ワクチン接種関連肩損傷[ワクチン投与関連肩損傷])があります。もちろん何千万という単位で行われる集団ワクチン接種が今回日本で初めて筋肉注射という形で行われているので、確率の低い合併症であっても日本全体で見ると今後問題となるかもしれません。神経障害については、まだはっきりとした発生頻度は分かりません。上記の厚労省報告では、さまざまな症状の中で「感覚異常(感覚鈍麻)」と記載されているものは100例以上あるようです。しかし、ワクチン接種後に腕のしびれや肩の痛みなどの症状があっても、それをすぐに末梢神経損傷やSIRVAといった診断や被接種者への説明に結びつけるべきではないとも思います。 奈良県立医科大学附属病院では、これまで約4,000人の医療従事者に対して2回の新型コロナウイルスワクチン接種が研修医によって行われました。副反応のうち、肩や腕など接種部位に関連する症状について診察を必要とすると判断された被接種者については、私の外来を受診してもらっています。本病院ではわれわれが作成した筋肉注射手技マニュアルに従った接種方法を研修医に行ってもらいましたが、現在のところ末梢神経損傷やSIRVAを疑う被接種者はおりません。しかし、腕のしびれや痛みを訴えて受診された方は数名いました。実はインフルエンザワクチン接種や採血、あるいは研修医同士の採血の練習などにおいて、明らかな末梢神経の損傷を示す所見はないのに、「腕や手の痺れを訴える」というケースが毎年あり、珍しいものではありません。腕に注射をされた際、一時的に「なんとなく腕や手に軽い違和感」を自覚したものの、そのあとは「とくに何もしなくても元に戻った」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。このような一時的な痛みや痺れは、ほとんどの場合臨床上問題なく自然治癒するものなのですが、中には医療従事者の対応も含めた“心因的な要素”も重なり、CRPS(複合性局所疼痛症候群)を疑うような強い痛みに発展してしまう患者さんもいます。ただし、稀に本当の神経損傷がまぎれ込むこともあるので、慎重な診察が必要です。このあたりの問題については、次稿で解説します。1)渡邉 卓編. 日本臨床検査標準協議会. 標準採血法ガイドライン(GP4-A3). 2019.2)Medsafe.Net: No.400「点滴ルートの確保のために左腕に末梢静脈留置針の穿刺を受けた患者が複合性局所疼痛症候群(CRPS)を発症。看護師が、深く穿刺しないようにする注意義務を怠った結果、橈骨神経浅枝を損傷したと認定した高裁判決」3)厚生労働省:医療機関からの副反応疑い報告について(予防接種法に基づく医療機関からの副反応疑い報告状況について [令和3年2月17日から令和3年4月25日報告分まで])

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ファイザー新型コロナワクチン、がん患者ではとくに2回接種を/Lancet Oncol

 がん患者に対する新型コロナワクチンBNT162b2(ファイザー)の安全性と免疫原性をがん患者における評価を目的とした前向き観察研究の結果が発表された。 対象は、2020年12月8日~2021年2月18日に、ロンドンの3つの病院でBNT162b2接種を受けたがん患者と健康成人(主に医療従事者)。複合主要評価項目は、がん患者におけるBNT162b2ワクチンの初回接種後のSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質IgG陽性の割合、2回目(初回から21日後)接種後の同陽性例の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・期間中に151例のがん患者(固形がん95例、血液がん56例)と健康成人54例が対照群として登録された。・2回目の接種を受けたのは対照群16例、固形がん患者25例、血液がん6例であった。・SARS-CoV-2に曝露された17例を除外した、ワクチン初回接種21日後のSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質IgG陽性の割合は、対照群94%(34例中32例)、固形がん患者38%(56例中21例)、血液がん患者18%(44例中8例)であった。・2回目接種2週間後のSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質IgG陽性の割合は、対照群100%(12例中12例)、固形がん患者95%(19例中18例)、血液がん患者60%(5例中3例)であった。・BNT162b2ワクチンの忍容性は良好で、初回接種後毒性がなかったものはがん患者では54%、対照群では38%、2回目の接種後毒性がなかったものはがん患者では71%、対照群では31%であった。・毒性は初回接種後7日以内の注射部位の痛みがもっとも多く、がん患者では35%、対照群では48%に発現した。ワクチン関連の死亡は報告されていない。 健康成人例に比べ、がん患者では1回接種でのBNT162b2ワクチンの効果は低いことが示された。一方、固形がん患者においては、2回目ブースト接種から2週間以内に免疫原性が有意に増加した。筆者は、これらのデータは、がん患者におけるBNT162b2ワクチン2回目接種の優先を支持するものだとしている。

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TNF阻害薬治療中のIBD患者、新型コロナワクチン単回接種では抗体応答が不良

 新型コロナワクチンを巡っては、世界的に需要が高まり、限られた供給量をどう配分するかが各国における喫緊の課題になっており、単回接種の有効性についての研究も進んでいる。一方で、炎症性腸疾患(IBD)など全身免疫を抑制する治療を行っている患者では、免疫応答が十分に得られず、ワクチンの有効性が落ちるのではないかという懸念がある。英国・Royal Devon and Exeter NHS Foundation TrustのNicholas A Kennedy氏らは、インフリキシマブもしくはベドリズマブ治療中のIBD患者に対し、2種類の新型コロナワクチン(ファイザー製BNT162b2、アストラゼネカ製ChAdOx1 nCoV-19)接種後の抗体価を比較。その結果、インフリキシマブ治療患者では、ベドリズマブと比べワクチン単回接種後の抗体価が有意に低かった。ただし、SARS-CoV-2感染後のワクチン接種、もしくは規定通り2回接種後は、ほとんどの患者でセロコンバージョンが認められた。著者らは、「インフリキシマブ治療患者においては、ワクチンの単回投与に対する抗体応答が悪く、SARS-CoV-2感染のリスクが高まる可能性があり、2回目接種の遅延は避けるべき」と述べている。Gut誌オンライン版2021年4月26日号の報告。 研究グループは、2020年9月22日~12月23日の間に、英国の92医療機関に来院したIBD患者(5歳以上、インフリキシマブまたはベドリズマブ治療を6週間以上実施、過去16週間に少なくとも1回の薬物治療を受けている)7,226例を連続して登録。インフリキシマブ治療中の865例とベドリズマブ治療中の428例を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・1回目のワクチン接種後3~10週間で測定した抗SARS-CoV-2スパイクタンパク抗体濃度は、ベドリズマブ治療群と比べ、インフリキシマブ治療群でBNT162b2およびChAdOx1 nCoV-19ワクチンのいずれにおいても低かった。・ワクチンの種類に関係なく、ベドリズマブ単剤の治療患者におけるセロコンバージョン率が最も高く、インフリキシマブと免疫抑制剤を併用した患者において最も低いセロコンバージョン率が観察された。・SARS-CoV-2感染歴がある患者において、いずれかのワクチンの1回目接種前およびBNT162b2ワクチンの2回投与後でより高い抗体濃度およびセロコンバージョン率が認められた。・インフリキシマブ治療群においても、2回接種後の患者では抗体価の上昇が認められた。

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新型コロナワクチン戦略、65歳未満は1回目接種優先が有益/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、PfizerのBNT162b2およびModernaのmRNA-1273共に2回接種が標準となっているが、米国・メイヨー・クリニックのSantiago Romero-Brufau氏らは、エージェント・ベース・モデリングによるシミュレーションの結果、65歳未満の人々には1回目の接種を優先して行い2回目の接種を遅らせるワクチン接種戦略が、有益であることを明らかにした。同戦略で1日当たりのワクチン接種率が人口の0.1~0.3%で死亡率は最大20%低下し、1回接種のワクチン有効率が80%以上になる可能性があるという。BMJ誌2021年5月12日号掲載の報告。エージェント・ベース・モデリングによるシミュレーションを実施 研究グループは、米国の実際の人口統計および職業分布を代表する10万人をエージェント(模擬集団)とし、3種類の接触ネットワーク(仕事、家庭およびランダムな遭遇)を介したエージェントの相互作用による感染をモデル化した。標準的なスケジュールでワクチン接種を行った場合と、1回目の接種を優先し2回目の接種を遅らせる場合とで、1回目のワクチン接種後180日間におけるCOVID-19による累積死亡率、SARS-CoV-2累積感染率およびCOVID-19による累積入院率をシミュレーションにより比較した。 シミュレーションは10回繰り返し、平均として結果を示した。また、1回目のワクチンの有効率を接種後12日目で50%、60%、70%、80%、90%、1日当たりの接種率を人口の0.1%、0.3%、1%、ワクチンは無症候性感染ではなく症候性感染のみを予防すると仮定し、65歳以上のすべての人々がワクチン接種を終えた後に65歳未満の人には2回目の接種を遅らせるというワクチン接種戦略を採用することとして、感度分析を行った。2回目接種を遅らせ1回目接種を優先することで、全体の死亡率は最大2割低下 すべてのシミュレーションにおいて、標準接種vs.2回目遅延接種の10万人当たりの累積死亡率中央値は、1回目接種の有効性が90%の場合226 vs.179、同80%の場合233 vs.207、同70%の場合235 vs.236であった。 2回目遅延接種戦略は、ワクチンの有効率が80%以上、1日当たりのワクチン接種率が人口の0.3%以下の場合に最適となり、絶対累積死亡率が10万人当たり26~47減少することが示された。65歳未満の人々に対する2回目遅延接種戦略は、検討したすべてのワクチン接種率において一貫して良好な結果であった。

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