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第70回 Pfizerワクチン2回目接種後に自然免疫が大幅増強

インドで見つかって世界で広まるデルタ変異株にもPfizer/BioNTechの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンBNT162b2が有効なことが先週21日にNEJM誌に掲載された英国Public Health Englandの試験で示されました1)。その効果を得るには決まりの2回接種が必要であり、デルタ変異株感染の発症の予防効果はBNT162b2接種1回では僅か36%ほどでした。2回接種の予防効果は大幅に上昇して88%となりました。一方、イスラエル保健省の先週木曜日の発表によると、デルタ変異株が広まる同国でのBNT162b2のここ最近1ヵ月程のCOVID-19発症予防効果は心配なことに約41%(40.5%)に低下しています2)。ただし、被験者数が少なくて対象期間も短いためかなり不確実な推定であり、今後更なる慎重な解析が必要です3)。仮に感染予防効果が落ちているとしても重症化は防げており、COVID-19入院の88%と重度COVID-19の91%を予防しました。BNT162b2はデルタ変異株感染による重症化を予防する効果も恐らく高く、先月発表された英国Public Health Englandの報告によるとデルタ変異株COVID-19入院の96%を防いでいます4)。BNT162b2は中国の武漢市で見つかったSARS-CoV-2元祖株を起源とするにも関わらず少なくとも変異株感染重症化を確かに防ぎ、2回接種すると効果が跳ね上がるのはなぜなのか? 抗体やT細胞などの標的特異的な免疫反応のみならず感染源に素早く手当たり次第より広く攻撃を仕掛ける自然免疫を引き出す力がその鍵を握るのかもしれません。SARS-CoV-2への免疫の研究やニュースといえば主に抗体で、T細胞がたまに扱われるぐらいです。スタンフォード大学の免疫学者Bali Pulendran氏のチームはそういう免疫のパーツではなくそれらを含む免疫系全体に目を向け、BNT162b2が接種された56人の血液検体を調べてみました。その結果、抗体やT細胞の反応が他の研究と同様に認められたことに加え、強力な抗ウイルス防御を担うにもかかわらずワクチン開発で見過ごされがちな効果・自然免疫の増強が判明しました5)。自然免疫の大幅な増強は2回目の接種後のことであり、インターフェロン応答遺伝子(ISG)を発現する単球様の骨髄細胞の一群・C8細胞が1回目接種1日後には血液細胞の僅か0.01%ほどだったのが2回目接種1日後には100倍多い1%ほどに増えていました。2回目接種1日後の血中インターフェロンγ(IFN-γ)濃度は高く、C8細胞の出現と関連しており、C8細胞の誘導にはIFN-γが主たる役割を担っているようです。SARS-CoV-2のみならず他のウイルスの防御にも働きうるC8細胞は新型コロナウイルス感染自体ではどうやら生じないようです5,6)。C8細胞を引き出すためにも1回のBNT162b2接種で十分とは思わず、他の多くの試験でも支持されている通り2回目も接種すべきでしょう7)。ModernaのワクチンもBNT162b2と同様にmRNAを中身とします。Modernaのワクチンも恐らくはBNT162b2と同様の反応を引き出すと想定されますが定かではありません。実際のところどうかを調べるべくPulendran氏はそれらワクチン2つの比較研究を始めています7)。参考1)Lopez Bernal J,et al.N Engl J Med. 2021 Jul 21. [Epub ahead of print] 2)Concentrated data on individuals who have been vaccinated with two vaccine (HE) doses before 31.1.2021 and follow up until 10.7.2021 / gov.il 3)Israeli Data Suggests Possible Waning in Effectiveness of Pfizer Vaccine / New York Times4)Effectiveness of COVID-19 vaccines against hospital admission with the Delta (B.1.617.2) variant / PHE5)Arunachalam PS, et al.. Nature . 2021 Jul 12. [Epub ahead of print]6)Study shows why second dose of COVID-19 vaccine shouldn't be skipped / Eurekalert.7)How the Second mRNA Vaccine Bolsters Immunity / TheScientist

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第64回 米国の平均寿命1.5年短縮、第二次世界大戦以来/CDC

<先週の動き>1.米国の平均寿命1.5年短縮、第二次世界大戦以来/CDC2.診療所へのワクチン接種加算、8月以降も継続3.総接種回数7,000万回突破、高齢者の8割超が1回目接種済み4.モデルナと来年の追加供給を契約、ワクチン不足への対応急ぐ5.海外渡航に必要なワクチンパスポート受付、26日から開始6.5年以内に供給不足の後発品企業、新規薬価収載見送りへ/厚労省1.米国の平均寿命1.5年短縮、第二次世界大戦以来/CDC米国疾病予防管理センター(CDC)は、2020年のアメリカ人の平均寿命が77.3歳と、2019年から2020年にかけて1.5歳短くなったことを公表した。最大の要因は、新型コロナウイルスによる死者数の増加である。平均寿命が短縮したのは、第二次世界大戦中の1943年(2.9歳短縮)以来のこと。これまで延長していた平均寿命は、20年近くも後退した。また、今回の平均寿命短縮を人種別で見ると、ヒスパニック系は81.8歳から78.8歳と-3.0歳、黒人は74.7歳から71.8歳と-2.9歳でそれぞれ短くなった一方、白人は78.8歳から77.6歳と1.2歳の短縮に留まり、人種差が再び広がる傾向が見られた。(参考)新型コロナの影響で米国の平均寿命が1.5歳短く 第2次大戦以来の落ち込み(東京新聞)米CDC “平均寿命1歳半短く 新型コロナによる死者増が主要因”(NHK)Provisional Life Expectancy Estimates for 2020(CDC)2.診療所へのワクチン接種加算、8月以降も継続政府は、7月末までに新型コロナウイルスのワクチン接種を加速させるため、これまで診療所に支援してきた特例加算を継続することとした。8月以降も、週100回以上の接種を4週間以上行う診療所には1回につき2,000円、週150回以上の場合は3,000円を上乗せして補助する。11月までに、希望者全員にワクチン接種の完了を目指す。(参考)ワクチン接種 診療所への費用上乗せ支援策 来月以降も継続へ(NHK)3.総接種回数7,000万回突破、高齢者の8割超が1回目接種済み政府は、7月19日時点で、国内の新型コロナウイルスワクチンの総接種回数が7,000万回を超えたと公表した。1回の接種を受けた人の割合は総人口の33.5%となり、65歳以上の高齢者では81.7%、2回目まで完了した高齢者は57.9%となった。なお、7月23日時点で、2回目の接種率は総人口の19.6%であり、欧米と比べた遅れがまだ挽回できていない。また、都道府県別の接種率を見ると、上位は25%を超える中、下位には千葉県17.4%、埼玉県16.7%、東京都16.6%、栃木県16.4%、沖縄県14.5%など、感染拡大が続いている大都市圏が並び、さらなる接種の推進が求められる。(参考)新型コロナワクチンについて(内閣府)ワクチン接種1回目終了 高齢者全体の8割超(NHK)国内ワクチン接種、7000万回超す 7月19日公表分までで(日経新聞)4.モデルナと来年の追加供給を契約、ワクチン不足への対応急ぐ厚労省は20日、新型コロナウイルスワクチンについて、2022年の初頭から5,000万回分の追加供給を受けることをモデルナと正式契約したことを明らかにした。また、菅 義偉首相は23日に、来日しているファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)と会談し、10月以降に予定していたワクチン供給の前倒しを要請した。さらに、米・ノババックスとも、来年前半から1億5,000万回分のワクチン供給について協議を進めている。政府は、ワクチン供給不足による接種計画の遅れに対する国民の声に対して、早期のワクチン接種完了を急ぐ。(参考)米モデルナとワクチンの追加契約 22年以降の5000万回分(毎日新聞)ワクチン供給、前倒し要請 首相、ファイザーCEOと会談(日経新聞)5.海外渡航に必要なワクチンパスポート受付、26日から開始政府は、海外へ渡航する人が新型コロナウイルスワクチンの接種済みを証明する「ワクチンパスポート(予防接種証明書)」の申請受け付けを、26日から各市町村で開始することを明らかにした。イタリア、オーストリア、トルコ、ブルガリア、ポーランドの5ヵ国に入国する際に利用可能となる。なお、発行に当たっては、海外渡航にワクチンパスポートが必要な場合に限って申請が認められ、国内での使用は想定していない。(参考)ワクチン接種証明書 発行手続 第1回自治体向け説明会(内閣官房副長官補室)同 第2回自治体向け説明会(同)「ワクチンパスポート」26日から受け付け開始 「経済活動再開の第一歩」「差別につながる」と賛否渦巻く(J-CAST)「ワクチンパスポート」発行テスト 26日から申請受け付け(NHK)6.5年以内に供給不足の後発品企業、新規薬価収載見送りへ/厚労省厚労省は、後発医薬品の出荷調整や回収による欠品発生を防止する目的で、薬価収載日から5年経過していない後発品で供給不足を起こした企業が新たな薬価基準収載希望書を提出する際には、「安定供給義務が守れない品目があった場合には以後2回分の収載を見送る」との念書を提出するよう求めた。今回の通知は8月16日までに製造販売承認を受け、20日までに薬価収載希望書の受け付けが済んだ医薬品が対象となる。今年12月収載予定からの運用となる見込み。これにより、医療機関や調剤薬局が直面している欠品による調達困難の改善や後発品への不安を取り除くのが狙い。(参考)欠品で1年間の収載見送り~後発品に対する規制強化【厚生労働省】(薬読)

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第26回 アナフィラキシー? 迅速に判断、アドレナリンの適切な投与を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)アナフィラキシーか否かを迅速に判断!2)アドレナリンの投与は適切に!アナフィラキシーに関しては以前(第15回 薬剤投与後の意識消失、原因は?)も取り上げましたが、大切なことですので、今一度整理しておきましょう。今回の症例は、新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーとして報告された事例*からです。この経過をみて突っ込みどころ、ありますよね?!*第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会令和2年度第13回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会【症例】30歳女性。ワクチン接種後待機中、呼吸困難を自覚。咳嗽が徐々に増悪し、体中の掻痒感を自覚した。接種5分後、SpO2が85~88%まで低下。酸素負荷、その後ネオフィリン注125mg、リンデロン注2mg点滴を開始。接種後20分緊急入院。眼瞼浮腫、喘鳴、SpO2100%(酸素4L)、血圧収縮期150mmHg程度、脈拍70~80/分、体幹に丘疹。接種55分後、アドレナリン0.3mL皮下注。その後、喘鳴は徐々に改善。接種4時間後酸素負荷終了。翌日午前中に一般病棟に転出。午後になり呼吸困難を自覚、サルブタモール吸入も効果なし。喘鳴は徐々に増強。その後も、リンデロン1.0mg投与効果なし、SpO2は98~100%、心拍70~80/分であった。オキシマスク2L投与併用。意識障害はなかったが、発語は困難であった。数時間後にリンデロン3mgを投与したところ、徐々に呼吸状態は改善。その後会話が可能な程度にまで回復した。翌朝、意識清明、会話可能、喘鳴なし、SpO2低下なし、リンデロン投与を継続し、経過観察したところ再燃なし、数日後自宅退院とした。はじめにアナフィラキシーは、どんな薬剤でも起こりえるものであり、初期対応が不適切であると致死的となるため、早期に認識し、適切な介入を行うことが極めて大切です。救急外来で診療をしているとしばしば出会います。また、院内でも抗菌薬や造影剤投与後にアナフィラキシーは一定数発生するため、研修医含め誰もが初期対応を理解しておく必要があります。新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種も全国で進んでおり、勤務先の病院やクリニック、大規模接種センターなどでアナフィラキシーに対して不安がある医療者の方も多いと思います。今回はアナフィラキシーの初期対応をシンプルにまとめましたので整理してみてください。アナフィラキシーを疑うサインとはアナフィラキシーか否かを判断できるでしょうか。そんなの簡単だろうと思われるかもしれませんが、意外と迷うことがあるのではないでしょうか。薬剤投与後に皮疹と喘鳴、血圧低下を認めれば誰もが気付くかもしれませんが、皮疹を認め喉の違和感や嘔気を認めるもののバイタルサインは安定している、皮疹は認めないが投与後に明らかにバイタルサインが変化しているなど、実際の現場では悩むのが現状であると思います。アナフィラキシーの診断基準は表の通りですが、抗菌薬や造影剤、さらにワクチン接種後の場合には、「アレルゲンと思われる物質に曝露後」に該当するため、皮膚や呼吸、循環、消化器症状のうち2つを認める場合にはアナフィラキシーとして動き出す必要があります。「血圧が保たれているからアドレナリンまでは…」「SpO2が保たれているからアドレナリンはやりすぎ…」ではないのです。皮膚症状もきちんと体幹部や四肢を直視しなければ見落とすこともあるため、薬剤使用後に呼吸・循環・消化器症状を認める場合、さらには頭痛や胸痛、痙攣などを認めた場合には必ず確認しましょう。表 アナフィラキシーの診断基準画像を拡大する(Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.より引用)ワクチン接種後のアナフィラキシーは、普段通りの全身症状で打つことに問題がない方が打っているわけですから、より判断がしやすいはずです。抗菌薬や造影剤の場合には、細菌感染や急性腹症など、全身状態が良好とはいえない状況で使用しますが、ワクチンは違いますよね。筋注後に何らかの症状を認めた場合にはアナフィラキシーを念頭にチェックすればいいわけですから、それほど判断は難しくありません。痛みや不安に伴う反射性失神によるもろもろの症状のこともありますが、皮疹や喘鳴は通常認めませんし、安静臥位の状態で様子をみれば時間経過とともによくなる点から大抵は判断が可能です。ここで重要な点は、「迷ったらアナフィラキシーとして対応する」ということです。アナフィラキシーは1分1秒を争い、対応の遅れが病状の悪化に直結します。アナフィラキシー? と思ったらアナフィラキシーと判断したらやるべきことはシンプルです。患者を臥位にしてバイタルサインの確認、そしてアドレナリンの投与です。アナフィラキシーと判断したらアドレナリンは必須なわけですが、投与量や投与方法を間違えてしまっては十分な効果が得られません。正確に覚えているでしょうか?アドレナリンは[1]大腿外側に、[2]0.3~0.5mg、[3]筋注です。肩ではありません、1mgではありません、そして皮下注ではありません。OKですね? アドレナリンの投与量に関しては、成人では0.5mgを推奨しているものもありますが、エピペンは0.3mgですから、その場にエピペンしかなければ0.3mgでOKです。何が言いたいか、「とにかく早期にアナフィラキシーを認識し、早期にアドレナリンを適切に投与する」、これが大事なのです。救急医学会が公開した、アナフィラキシー対応・簡易チャート(図)を見ながらアプローチをきっちり頭に入れておいて下さい。アナフィラキシー対応・簡易チャート画像を拡大する間違い探しさぁそれでは今回の症例をもう1度みてみましょう。この患者は基礎疾患に喘息などがあり、現場での対応が難しかったことが予想されますが、ちょっと突っ込みどころがあります。まず、ワクチン接種後、掻痒感に加え呼吸困難、SpO2も低下しています。この時点でアナフィラキシー症状の所見ですから、なる早でアドレナリンを投与する準備を進めなければなりません。よくアナフィラキシーに対して抗ヒスタミン薬やステロイドを投与しているのをみかけますが、これらの薬剤は使用を急ぐ必要は一切ありません。そして、アドレナリンは皮下注ではありません、筋注です! 重症喘息の際のアドレナリン投与は、なぜか皮下注も選択肢となっていますが筋注でよいでしょう。本症例では特にアナフィラキシーが考えられるため0.3~0.5mg筋注です。位置は大腿外側ですよ!さいごにアナフィラキシーはどこでも起こりえます。アナフィラキシーショックや死亡症例の多くは、アドレナリンの投与の遅れが大きく影響しています。迅速に判断し、適切なマネジメントができるように、今一度整理しておきましょう。1)Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.2)救急医学会. ワクチン接種会場におけるアナフィラキシー対応簡易チャート

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新型コロナ外来患者へのbamlanivimab+etesevimab、第III相試験結果/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高い外来患者において、bamlanivimab+etesevimab併用療法はプラセボと比較して、COVID-19関連入院および全死因死亡の発生率を低下し、SARS-CoV-2ウイルス量の減少を促進することが示された。米国・ハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院のMichael Dougan氏らが、同併用療法の第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「BLAZE-1試験」の結果を報告した。基礎疾患を有するCOVID-19患者は重症化リスクが高い。ワクチン由来では時間をかけて免疫がつくのに対し、中和モノクローナル抗体は即時に受動免疫をもたらし、疾患の進行や合併症を抑制できる可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2021年7月14日号掲載の報告。軽症~中等症外来患者、bamlanivimab 2,800mg+etesevimab 2,800mgをプラセボと比較 研究グループは、12歳以上で重症化リスクが高い軽症~中等症のCOVID-19外来患者を、SARS-CoV-2陽性判明後3日以内に中和モノクローナル抗体bamlanivimab(2,800mg)とetesevimab(2,800mg)の併用療法群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、単回静脈内投与した。 主要評価項目は、29日目までのCOVID-19に関連した入院または全死因死亡であった。29日目までのCOVID-19関連入院および全死亡は併用療法群で有意に減少 計1,035例が無作為化を受けた(併用療法群518例、プラセボ群517例)。患者の平均(±SD)年齢は53.8±16.8歳で、52.0%が女性であった。 29日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡は、併用療法群で11例(2.1%)、プラセボ群で36例(7.0%)に認められ、絶対リスク差は-4.8%(95%信頼区間[CI]:-7.4~-2.3、相対リスク差:70%、p<0.001)であった。 併用療法群では死亡例の報告がなく、プラセボ群のみ10例が報告され、そのうち9例は治験責任医師によりCOVID-19関連死と判定された。 7日目におけるSARS-CoV-2ウイルス量(log)のベースラインからの減少は、併用療法群がプラセボ群より大きかった(ベースラインからの変化量のプラセボ群との差:-1.20、95%CI:-1.46~-0.94、p<0.001)。

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第67回 例外だらけのコロナ治療、薬剤費高騰と用法煩雑さの解消はいずこへ?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するワクチン接種の進行状況が注目を浴びている陰で、治療薬開発もゆっくりではあるが進展しつつある。中外製薬が新型コロナの治療薬として6月29日に厚生労働省に製造販売承認申請を行ったカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)が7月19日に特例承認された。この抗体は米国のリジェネロン・ファーマシューティカルズ社が創製したものを提携でスイス・ロシュ社が獲得、ロシュ社のグループ会社である中外製薬が日本国内での開発ライセンスを取得していた。両抗体は競合することなくウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に結合することで、新型コロナウイルスに対する中和活性を発揮する薬剤。日本での申請時には、昨年11月に米国食品医薬品局(FDA)で入院を要しない軽度から中等度の一部のハイリスク新型コロナ患者に対する緊急使用許可の取得時にも根拠になった、海外第III相試験『REGN-COV 2067』と国内第I相試験の結果が提出されている。「REGN-COV 2067」は入院には至っていないものの、肥満や50歳以上および高血圧を含む心血管疾患を有するなど、少なくとも1つの重症リスク因子を有している新型コロナ患者4,567例を対象に行われた。これまで明らかになっている結果によると、主要評価項目である「入院または死亡のリスク」は、プラセボ群と比較して1,200mg静脈内投与群で70%(p=0.0024)、2,400mg静脈内投与群で71%(p=0.0001)、有意に低下させた。また、症状持続期間の中央値は両静脈内投与群とも10日で、プラセボ群の14日から有意な短縮を認めた。安全性について、重篤な有害事象発現率は1,200mg静脈内投与群で1.1%、2,400mg静脈内投与群で1.3%、プラセボ群で4.0%。投与日から169日目までに入手可能な全患者データを用いた安全性評価の結果では、新たな安全性の懸念は示されなかったと発表されている。今回の承認により日本国内で新型コロナを適応とする治療薬は、抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイド薬のデキサメタゾン、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブに次ぐ4種類目となった。従来の3種類はすべて既存薬の適応拡大という苦肉のドラッグ・リポジショニングの結果として生み出されたものであったため、今回の薬剤は「正真正銘の新型コロナ治療薬」とも言える。「統計学的に有意に死亡リスクを低下させる」とのエビデンスが示されたのはデキサメタゾンについで2種類目であり、これまでに行われた臨床試験の結果からは、なんと家族内感染での発症予防効果も認められている。発症予防効果は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で実施した第III相試験『REGN-COV 2069』で明らかにされた。本試験は4日以内に新型コロナ陽性と判定された人と同居し、新型コロナウイルスに対する抗体が体内に存在しない、あるいは新型コロナの症状がない1,505例が対象。プラセボと1,200mg単回皮下注射で有効性を比較したところ、主要評価項目である「29日目までに症候性感染が生じた人の割合」は、プラセボ群に比べ、皮下注射群で81%減少したことが分かった。また、皮下注射群で発症した人の症状消失期間は平均1週間以内だったのに対し、プラセボ群の3週間と大幅な期間短縮が認められている。死亡率低下効果に予防効果もあり、なおかつ限定的とはいえ軽度や中等度の患者にも使用できるというのは、やや手垢のついた言い方だが「鬼に金棒」だ。もっとも冷静に考えると、そう単純に喜んでばかりもいられない気がしている。まず、そもそも今回の抗体カクテル療法も含め、新型コロナを適応として承認された治療薬は、いずれも従来の感染症関連治療薬とは毛並みが異なり、現実の運用では非専門医が気軽に処方できるようなものではない。今後承認が期待される薬剤も含めてざっと眺めると、もはや従来の感染症の薬物治療からかけ離れたものになりつつある。もちろん現行では非専門医がこうした薬剤を新型コロナ患者に処方する機会はほとんどないが、専門医でも慣れない薬剤であるため、それ相応に臨床現場で苦労をすることが予想される。その意味では治療選択肢の増加にもかかわらず、新型コロナの治療自体は言い方が雑かもしれないが、徐々にややこしいものになりつつある。一方、隠れた問題は治療費の高騰である。現在、新型コロナは指定感染症であるため、医療費はすべて公費負担である。そうした中でデキサメタゾンを除けば、薬剤費は極めて高額だ。レムデシビルは患者1人当たり約25万円、バリシチニブも用法・用量に従って現行の薬価から計算すると最大薬剤費は患者1人当たり約7万3,900円。今回の抗体カクテル療法は薬価未収載で契約に基づき国が全量を買い取り、その金額は現時点で非開示だが、抗体医薬品である以上、安く済むわけはない。しかも、これ以前の3種類がいずれも中等度以上であることと比べれば、対象患者は大幅に増加する。本来、疾患の治療は難治例の場合を除き、疾患の解明が進むほど、選択肢が増えて簡便さが増し、時間経過に伴う技術革新などで薬剤費や治療関連費は低下することが多い。ところが新型コロナでは世界的パンデミックの収束が優先されているため、今のところ治療が複雑化し、価格も高騰するというまったく逆を進んでいる。そうした現状を踏まえると、やはりワクチン接種のほうがコストパフォーマンスに優れているということになる。こうした時計の針がどこで逆に向くようになるのか? 個人的にはその点を注目している。

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ワクチンで不妊、流産」に科学的根拠なし、婦人科系3学会が一般向けQ&A

 7月19日、婦人科系三学会(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会)は合同で「女性のみなさまへ 新型コロナウイルスワクチン(mRNA ワクチン)Q & A」と題した資料を公開した。 3学会はこれまでも妊産婦や妊娠を希望する女性に対して、新型コロナワクチン接種にあたっての不安を解消するための声明を発表してきた1)2)。しかし、SNS上では「ワクチンを打つと不妊になる」「ワクチンによって月経不順になる」といったエビデンスを欠いた情報が現在も多く流布されており、そうした情報に触れることで不安を持ち、ワクチン接種を見合わせる女性が存在する。ワクチン忌避者の割合は若年女性が年配の男性の3倍程度多い、という調査結果も出ており3)、若年者、とくに女性を対象とした正しいワクチン接種の情報提供が急務となっている。 今回の資料はこれまでの学会声明等を基に、多くの女性が持つ不安や疑問に答えるQ&A形式を採用、一般向けにわかりやすい用語を使い、医療者が印刷してそのまま患者に渡せる資料形式でつくられた。 計15問のQAの一部は以下のとおり。Q1)ワクチンで不妊になることはありますか?これから妊娠を考えているのですが、mRNA ワクチンを接種しても大丈夫でしょうか?A1)新型コロナウイルスワクチン(mRNA ワクチン)で不妊になるという科学的な根拠は全くありません。Q2)妊娠中の女性は mRNA ワクチンを接種しても大丈夫でしょうか?流産することはありますか?A2)妊娠中の女性でも mRNA ワクチンを接種して大丈夫です。すでに多くの接種経験のある海外の妊婦に対するワクチン接種に関する情報では、妊娠初期を含め妊婦さんとおなかの赤ちゃん双方を守るとされています。また、お母さんや赤ちゃんに流産などの何らかの重篤な合併症が発生したとする報告もありません。女性のみなさまへ 新型コロナウイルスワクチン(mRNA ワクチン)Q & A/日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会

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世界の小児期ワクチン接種率、直近10年は頭打ち/Lancet

 1980~2019年の世界の小児期ワクチン接種率の動向を分析した結果、2010年以降は頭打ち、もしくは後退の情勢が明らかになったという。米国・ワシントン大学のStephen S. Lim氏ら、世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study[GBD])2020共同研究グループが、世界や地域、各国における小児期予防接種実施率についてシステマティックに分析し報告した。Lancet誌オンライン版2021年7月15日号掲載の報告。204の国と地域の11ルーチン小児期予防接種実施率を推定 研究グループは、1980~2019年の国、コホート、実施年、ワクチンの種類、ワクチン投与量の別に、5万5,326のルーチン小児期予防接種の実施データを集めて解析した。時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、同期間の204の国と地域における、実施場所・年別の11ルーチン小児期予防接種の実施率を推算した。国が報告したデータは、在庫切れや供給停止の報告に基づき補正を行った。 世界・地域別のワクチン接種率や、DTP三種混合ワクチン未接種の“ゼロ接種児”の数の傾向、世界ワクチン接種行動計画(GVAP)の目標値への進捗、ワクチン接種率と社会人口学的発展との関連性について、それぞれ分析を行った。GVAP目標値達成は11ヵ国にとどまる 2019年までに、世界のDTPワクチンの3回目接種率は81.6%(95%不確実性区間[UI]:80.4~82.7)と、1980年の推定接種率39.9%(37.5~42.1)に比べ約2倍に増加した。同様に、麻疹ワクチン含有ワクチンの初回接種率も、1980年の38.5%(35.4~41.3)から2019年の83.6%(82.3~84.8)へと倍増した。 ポリオワクチン3回目接種率も、1980年の42.6%(95%UI:41.4~44.1)から2019年の79.8%(78.4~81.1)へと増加した。さらに、より新しい種類のワクチン接種率も、2000年から2019年にかけて急増が認められた。 “ゼロ接種児”の数は、1980年の5,680万児(95%UI:5,260万~6,090万)から2019年の1,450万児(1,340万~1,590万)へと、75%近く減少した。 一方で、直近10年の世界のワクチン接種率は頭打ちとなっており、94の国と地域ではDTPワクチン3回目接種率が2010年以降減少した。 GVAPの目標値である全評価済みワクチン接種率90%以上を達成していたのは、2019年時点で11の国と地域のみだった。 著者は、「今回の調査結果は、ルーチンの予防接種戦略とプログラムによるアプローチを再検討し、公平で十分なサービスを受けられていない人々にサービスを提供することの重要性を明らかにするものである」と分析し、GVAPと予防接種アジェンダ2030(Immunization Agenda 2030)が進行中であることを踏まえて「今後2030年に向けて、すべての子供がワクチンの恩恵を受けられるよう、ワクチンデータとモニタリングシステムを強化することが極めて重要だ」と述べている。

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第67回 コロナパンデミックの懸念はらむ東京五輪、尾身会長の懸念

東京オリンピック・パラリンピックの開幕を前に、来日した選手や大会関係者の間で新型コロナウイルス陽性者や濃厚接触者が出ていることが連日ニュースとなっている。選手らが外部との接触を断つ「バブル方式」の破綻や、大会の感染対策をまとめた「プレーブック(規則集)」の形骸化を指摘する声が上がっている。国内の感染者数は右肩上がりに増え、東京都のモニタリング会議では、1週間平均の新規感染者数は五輪閉幕(8月8日)後の8月11日には、約2,400人に達すると試算。また、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身 茂会長は「今の状況でやるのは、普通はない」と発言する事態に。コロナ第5波の到来だけでなく、「トーキョー・パンデミック」の懸念もはらみながら、五輪は明日7月23日に開幕する。重症者が増加すればたちまち医療崩壊も現実となりかねず、もはや「安心安全の五輪」とは言い難いが、今からでもできることは少しでも実行したいものだ。国内においては、自粛疲れと緊急事態宣言慣れによる緩みが感染を拡大。五輪に関しては「バブルの穴」が指摘される。具体的には、▽空港における五輪関係者と一般客の導線の乱れなど水際対策の破綻 ▽選手村(東京・晴海)の滞在者(選手・スタッフ)に新型コロナ陽性者が判明 ▽行動制限が守られていない―などだ。プレーブックの徹底はもちろん必要だ。今回は選手が感染した国が発表したが、疑心暗鬼を招かないようにどの国で何人の感染が発生したのかなど、選手村の正確な状況を日々公表することも必要だろう。日医と都医師会が共同で要望書を提出日本の医療界は五輪に向けてどのような対応をしているのか。日本医師会(日医)は7月12日、五輪会場のある北海道、宮城県、福島県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県の9都道県医師会を中心に「東京オリンピック・パラリンピックに関する都道府県医師会連絡協議会」をオンラインで開催。この中で、バブル方式がうまく機能するのかといった懸念や、全国のホストタウンにおいて新型コロナ感染症の拡大を心配する声が挙がった。こうした声を受け、日医と東京都医師会は7月19日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の橋本 聖子会長に、以下の内容を記した要望を提出した。要望は、▽午後9時以降の競技開催に伴い夜間の人流が増加しないよう、国民に外出自粛の徹底を求めていく ▽選手団などの入国に際して水際対策の万全を期すよう、課題点の改善とルールの再徹底に取り組む ▽大会関係者、マスコミ等の競技会場への来場をできるだけ減員する ▽各国が任命するCLO(コロナ対策責任者)に関する情報を取りまとめ、ホストタウンや競技開催地域の関係各所に事前に共有する―といった内容だ。また日医は、大規模クラスターやテロ、自然災害が発生した場合に備え、9都道県や周辺地域の医師会と情報共有するため、SNSを活用したシステムを休日・夜間問わず運用するという。尾身分科会長は「最大の医療逼迫招く可能性」を指摘4連休、夏休み、五輪、お盆が重なる中、新型コロナの新規感染者数が現状のペースで増え続けるとどうなるのか。分科会の尾身会長は7月20日、民放のニュース番組で「今までの中で最も厳しい時期。医療の逼迫がまた起きてくる可能性が極めて高い」と指摘。ワクチン接種率の高い欧米でも感染者が増えている状況を踏まえ、「したたかなウイルスなので、ワクチン接種率が6〜7割でも完全に防げるわけではない」と述べる一方、緊急事態宣言が解除される8月22日前後に、人々の行動緩和の目安を示したいとした。このような日本の状況を海外メディアはどう見ているのか。日本が緊急事態宣言下にあること、ワクチン接種率が先進国の中でも低いことを“2つの困難”と捉えているようで、米ワシントン・ポストは「世界の人々の興味は、もはや競技ではなく、コロナの感染状況を確認することが焦点になるだろう」とシニカルに報じ、「今回の東京大会の本当のスターはコロナウイルスになるかもしれない」と結んでいる。海外から皮肉や冗談交じりに“対岸の火事”を眺めるのは勝手だが、自国で起こっているわれわれはそうはいかない。コロナウイルスをスターにするわけにはいかないのだ。

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モデルナ製ワクチン後の急性期副反応に備えた、予診票の確認ポイント/自衛隊中央病院

 自衛隊東京大規模接種センターにおける「COVID-19 ワクチンモデルナ筋注」接種者約20万人のデータについて、急性期副反応の詳細を速報としてまとめたデータを自衛隊中央病院がホームページ上で公開した。本解析では急性期副反応を「同センター内で接種後経過観察中(最大30分間)に、何らかの身体的異常を自覚し、同センター内救護所を受診したもの」と定義し、得られた経験・知見を可能な限り医療従事者と共有することで、今後のCOVID-19ワクチン接種の対応向上に資することが目的としている。<解析の対象と方法>・2021年5月24日~6月15日に行われたワクチン接種者20万8,154人を対象(すべて1回目接種)。・ワクチン接種者の基礎的臨床情報は、厚生労働省より配布される「新型コロナワクチン予診票」を用いて収集・解析。・急性期副反応発症者については全件調査を行い、非発症者についてはランダムサンプリングによる調査を行った。非発症者の母集団平均値の95%信頼区間の許容誤差が2%以下になるよう、サンプルサイズを設定した(n=3,000)。・急性期副反応に関する詳細は、同センター救護所で使用した医療記録を用いて収集・解析を行った。アナフィラキシーの診断は、ブライトン分類に基づき2名の医師(内科医および救急医)により判定した。 主な結果は以下のとおり。・急性期副反応は、合計395件(0.19%)確認された。センター内における急性期副反応発生者のうち、合計20件(0.01%)が他医療機関へ救急搬送された。ブライトン分類を用いてアナフィラキシーと診断されたのは0件であった。・急性期副反応発症者の平均年齢は70才、非発症者数の平均年齢は69才で、両群において年齢分布に統計学的有意差は認めなかった(p=0.867)。・発症者の72.9%が女性であり、非発症者(44.6%)と比較し有意に高値であった(オッズ比[OR]:3.3、95%信頼区間[CI]:2.7~4.2、p<0.001)。・甲状腺疾患(OR:2.8、95%CI:1.6~5.0、p<0.001)、喘息(OR:3.6、95%CI:2.2~5.7、p<0.001)、悪性腫瘍(OR:1.9、95%CI:1.1~3.3、p=0.02)、食物または薬剤に対するアレルギーの既往(OR:7.9、95%CI:6.1~10.2、p<0.001)、過去ワクチン接種時の副反応の既往(OR:2.0、95%CI:1.4~2.9、p=0.001)がある接種者については、急性期副反応の発症リスクが高い傾向にあった。一方、抗凝固薬/抗血小板薬の使用中の接種者は、発症リスクが低い傾向にあった(OR: 0.4、95%CI:0.3~0.8、p=0.003)。・急性期副反応として観察された最も多い症状は、めまい・ふらつき(98 件、24.8%)であり、続いて動悸(71 件、18.0%)であった。発赤・紅斑・蕁麻疹等などの皮膚症状は 58 件(14.7%)に認めた。呼吸困難感を訴えたものは 17 件(4.3%)であった。ブライトン分類を用いてアナフィラキシーと診断されたのは、0 件であった。・発症者395件中、バイタルサインが観察された発症者は203件。バイタルサイン異常として最も高率に観察されたのは、接種後の高血圧で、収縮期血圧180mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上を伴う高血圧は、34件(16.7%)に認めた。低血圧は4件(2.0%)に認め、いずれもアナフィラキシーの基準は満たさず、発症エピソードや徐脈の合併から迷走神経反射と診断された。・救急搬送が実施された20件の急性期副反応の症状としては、6件(30.0%)に頻呼吸を認め、5件に持続する高血圧(収縮期血圧>180mmHgまたは拡張期血圧>110mmHg)を認めた。いずれもアナフィラキシーの基準は満たさなかった。 本解析の結果から、急性期副反応を予測するための予診票確認時におけるポイントは、性別(女性)、基礎疾患の有無(甲状腺疾患、喘息、悪性腫瘍)、食物または薬剤に対するアレルギーの既往、過去ワクチン接種時に体調不良を起こした既往と考えられる。また、急性期副反応発生者の16.7%に高血圧を認めた点について、迷走神経反射による低血圧よりも高率に認められていると指摘。mRNAワクチン接種後経過観察中に二次性高血圧が発生するとの報告1)があることに触れ、とくに高齢者では心血管病の既往がある場合も少なくないため、ワクチン接種に伴うアナフィラキシーや迷走神経反射における低血圧のみならず、接種後高血圧に関しても、十分な注意と対策が必要としている。 本報告における全接種者の平均年齢が69歳と比較的高齢であることに留意を求め、今後若年者についても解析を続けていく予定とされている。また同報告では、遅発性皮膚副反応についても、自験例について提示している。

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コロナウイルスのデマを斬る!マスク怖い、サングラス怖い、シッポ大好き!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第38回

第38回 コロナウイルスのデマを斬る!マスク怖い、サングラス怖い、シッポ大好き!新型コロナウイルス感染症をめぐる混乱は続いています。ワクチン接種はスピード感をもって進捗していますが、さまざまなデマが流布しているようです。具体的なものを挙げてみます。「ワクチン接種された実験用のネズミが2年ですべて死んだ」そもそもネズミの寿命が2年程度です。デマというよりも当然の真実で、不安をあおるためだけの流言です。災害や疫病の発生時にはデマや流言が流布しやすいといわれています。その背景が、不安です。人は情報不足あるいは情報が不確かな状況で不安を感じるのです。欧米人と日本人では不安を感じるメカニズムも異なるようです。日本人は目を隠している人に不安を感じ、欧米人は口元を隠している人に不安を感じます。つまり、日本人は「サングラスしてる人怖い」となり、欧米人は「マスクしてる人怖い」となります。欧米の映画やアニメのヒーローは、目元を隠して口元は隠さないのが普通です。バットマン&ロビンが代表です。ヒーローは口元を隠さない、口元を隠すのはだいたい悪いやつ、だからマスクをしたくない。これが、新型コロナウイルス感染症が流行してもマスクをしたくない欧米人の深層心理なのでしょう。一方で、日本では忍者装束のように鼻と口を隠して目は剥き出しが多いようです。コロナの流行がなくともマスクをしている人を街でよく見かけたのが日本です。日本の少女漫画のキャラクターは目が極端に大きいです。アメリカのアニメキャラは口が大きいです。相手の感情を目で読み取る日本人と、口元で読み取る欧米人といえます。メールなどに用いる絵文字にも、その違いは表れています。日本の顔文字の代表は、(^_^) です。目で笑っています。欧米の顔文字の代表のスマイリーフェースは、:-)です。これは英語の書籍の背文字のように横向きに表記されていますが、口で笑っています。そもそもマスクという言葉を考えてみれば、「mask」には「仮面」「覆面」のほかに「ごまかし」「見せかけ」「隠す」などの意味があります。飛沫感染を防ぐための衛生管理の道具がマスクではなく、「正体を隠す」という意味がマスクなのです。ここに欧米人のマスクへの不安感の本質があるのではないでしょうか。目で感情を表す日本人、口で感情を表す欧米人、これを超える素晴らしい感情表現法をもつのが猫です。猫はシッポで感情を表現します。猫がシッポをピンと立てるのは、嬉しい時や甘えたい時です。基本的に機嫌がいい時で、ウキウキしている証拠です。シッポがピンと立っている状況は、子猫時代に母猫にお尻をキレイになめてもらっていた名残です。母猫や心を許した人だけへの表現です。思い切り可愛がりましょう。シッポの毛を逆立てて膨らませているのは、相手を威嚇している時です。自宅に知らない人が突然現れた時や、不意打ちで怖い思いをした時には、うずくまってシッポを足の間にしまって体を小さくします。攻撃しないでと訴えているのです。シッポをパタパタと左右に大きく振っている時は、ご機嫌が斜めの時です。放置しておきましょう。猫を呼んだ時に、シッポの先だけ、ちょこっと振られることがあります。これは、猫が「めんどくさい」と感じている時です。飼い主の声は聞こえているけど、面倒な気持ちの時に行うしぐさです。自分は猫と会話できることを自認しています。鳴き声に加えて、このようなシッポの動きから猫の感情を読み取ります。私ほどの上級者になれば、シッポだけでなく、猫の耳の傾き具合や、ひげ袋の膨らみ具合、目の見開き方、ヒゲの向きなどの情報を網羅的に収集し解析します。エッヘン!コロナウイルスへのデマを排除し不安を払拭しようという文章が、猫自慢になってしまいました。それにしても自分にシッポがないのが残念です。シッポくれ!

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第67回 針刺し事故頻発中!コロナワクチン接種進む中、肝炎、HIVの感染リスクにも重々注意を

一度使った注射器を別の人に再度使用こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。東京都の新型コロナ感染者の増加が止まらない中、とうとう今週末、オリンピックが開催されます。そこで先週の日曜(7月18日)は選手村がどんな状況か視察するため、ではなく豊洲にあるライブ会場で開かれた、福岡市博多区出身のバンド、NUMBER GIRLのライブを観るために、東京・湾岸エリアの選手村近くまで出かけました(そもそも選手村は交通規制で近づけませんでした)。NUMBER GIRLは、8月に茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園で開催予定だった「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021」にも出演予定でした。しかし、茨城県医師会の要請で同イベントは中止が決定、NUMBER GIRLのファンのみならず多くの夏フェスファンを失望させました。この夏、NUMBER GIRLをライブで聴くことができるのは、今回の豊洲PITの単独と、「FUJI ROCK FESTIVAL’21」、山中湖のフェスだけという状況です。猛暑の中、選手村と海を挟んではす向いにある豊洲PITで1年半ぶりに観客を入れて敢行されたNUMBER GIRLのライブ。椅子に座って静かに“鑑賞”という、およそロックのライブとは思えないものでしたが、久しぶりの爆音が身体に沁み渡り満足の1日でした。終演後、勝鬨橋を歩いて渡り地下鉄の駅まで歩いたのですが、営業中の居酒屋の中にオリンピック関係者と思しき外国人2人(大胆にも同じユニフォームを着てました)が日本人に混じって飲んでいるのが見えました。“バブル方式”と言ってはいますが、彼らがもし選手だとしたら、選手村のバブルは針で穴を開けたかのように、既に弾けてしまっているのかもしれません。さて、今週はコロナワクチンの接種が各地で進む中、頻発している「針刺し事故」について書いてみたいと思います。7月13日のNHKニュースによれば、群馬県沼田市は、12日の新型コロナウイルスワクチン接種において、一度使った注射器(注射針とシリンジ)を別の人に再度使用した可能性があることを明らかにした、とのことです。ディスポなのに“2度刺し”の余地はどこに?最初、このニュースを聞いて疑問に思いました。私自身も先日1回目の接種を終えたのですが、注射針・シリンジはディスポーザブルなので接種後すぐに廃棄されていました。沼田市の事故において、“2度刺し”の余地がどこにあったのか、わからなかったのです。同ニュースによれば、一度使った注射器を別の人に使用したのは12日午後6時から市の保健福祉センターで行ったワクチンの集団接種においてのこと。ここでは108人が2度目の接種を受けましたが、終了後に注射器が1人分余り、使用済みで廃棄した注射器を確認したところ107本しかなかったということです。市によれば、この日は歯科医師が接種を担当しており、一度打った注射器を廃棄せず空の状態で再度使ってしまった可能性が高いということでした。同ニュースでは、「接種を受けた人に確認を進めていて現時点で、健康面の被害は報告されていない」「誤って使用済みの空の注射器を打たれた人は抗体ができていないことが想定されるため、1週間後をめどに全員に抗体検査を行って特定したいとしている」と報道していますが、そんなことより、2度刺しが起きた原因や、針刺し事故では肝炎やHIVに感染するリスクがあることも、きちんと伝えるべきではないかと感じました。使用注射器と未使用注射器を同じ机の同じ形状のトレーにいったいどういう経緯でこんな“古典的”な医療事故が起こったのでしょうか?ひょっとしたら他でも起きているのではないかと考え、ネットで検索してみると、あるわあるわ…。ワクチン接種に絡む事故が頻発していました。6月11日には、宮崎市で市内の高齢者施設において医療機関が実施した新型コロナワクチン接種において、医師が誤って使用済み注射器の針を施設従事者の60代女性に刺す事故が起こっています。この事故については、宮崎市のホームページに事故の概要が報告されています。それによれば、事故発生の原因は、「医師が受傷者の直前に使用した注射器と未使用の注射器を、同じ机の同じ形状のトレーに置いたため、誤って使用済みの注射器を使用して受傷者に刺した」とのことです。この他、同様の事故は、岡山県浅口市、滋賀県湖南市、奈良県五條市、埼玉県上里町などでも発生しています。いずれも現段階で受傷者に健康被害は起きていないようです。医療廃棄物での事故も多発中接種後、医療廃棄物になってからの事故も頻発しています。6月1日、北九州市は新型コロナウイルスワクチンの集団接種会場で、誤った方法で廃棄された注射針がゴミ回収業者の女性の足に刺さる事故があった、と発表しました。注射針は使用済みとみられ、女性は血液検査を受け、血液感染する可能性がある感染症のワクチン(おそらくB型肝炎ワクチン)を接種したそうです。西日本新聞の報道によれば、本来は専用ボックスに捨てなければならない注射針をガウンなどの医療用廃棄物の袋に捨てた上、それを一般廃棄物用の場所に誤って置いていたとのことです。また、6月7日、石川県小松市の新型コロナワクチンの集団接種会場では使用済みの注射針が会場の準備などを行うスタッフに刺さる事故が発生しています。石川テレビの報道によると、集団接種終了後、スタッフが接種の片づけを行っていたところ、ゴミ袋に入っていた注射針が相次いで2人に刺さった、とのことです。接種ブースには使用済みの注射針を捨てる医療廃棄物用のゴミ箱とガーゼの包装紙など一般ゴミを捨てるゴミ袋が置かれていましたが、今回の事故は誤って通常のゴミを集める袋に注射針が捨てられたことが原因とみられています。予防接種のフローに慣れていなかったことも一因か2度刺し事故や、廃棄物になってからの事故は、医療現場から遠ざかっていた医療スタッフや、注射針による医療事故の怖さを知らない事務方スタッフのケアレスミスで起こっているようです。中でも医療廃棄物の処理の杜撰さは、ワクチン接種を専門業者に丸投げ(その業者もまた関連業者に再丸投げのケースも)したことで、事故防止策が疎かになっていることも一因と言えるでしょう。2度差し事故については、いくつかの報道を見ると、宮崎市のケースのように、一度刺した注射針とシリンジを、未使用の注射が置いてあるトレーに戻したり、同じ形のトレーに置いたりしたため、未使用か使用済みかわからなくなってしまうことで起こっています。岡山県浅口市の個別接種で起きた事故でも、通常はトレーに注射器を1本ずつ置いて管理するところを、なぜか2本(未使用と使用済み)置いてあり、直前の接種で使った注射器を使用してしまったようです。集団予防接種に慣れている医療スタッフではまず考えられないミスだと言えるでしょう。沼田市のケースでは打ち手が歯科医だったようですが、2度刺しは予防接種のフローやリスク管理に慣れていないスタッフで起こりやすいのかもしれません。打ち手が自分に刺してしまう事故の可能性もここまで見てきたのは、新聞やテレビで報道された事故ばかりですが、おそらくこれらは氷山の一角で、針刺し事故はもっと頻繁に起こっているのではないでしょうか。なにせ、1日150万回近くの接種が行われているのですから。今のところ、致命的な劇症肝炎が発生していないだけでも幸いと言えます。ところで、こうした事故の中で、うやむやにされがちなのは、医療スタッフ自身がワクチン接種後の注射針を、自分の腕や腿などに誤って刺してしまう事故です。ミスしたことがバレるとカッコ悪いので、その事実を黙っている人も、ひょっとしたらいるかもしれません。医療者であればご存知でしょうが、針刺し事故後はすぐに打った相手の感染症情報(HBs抗原、HBs抗体、HCV 抗体、HIV 抗体)を調べることと、自分自身の血液検査が必要です。場合によっては、乾燥抗HBsヒト免疫グロブリン投与(HBIG)とB型肝炎ワクチンの接種や、抗HIV薬服用も考えなければなりません。針刺し事故の思い出…「SASU-ME」にも気を付けて実は私自身も針刺し事故に遭遇したことがあります。今から15年ほど前、ある病気で診療所を受診し血液検査を受けることになりました。院長が採血をしたのですが、採血後の注射を持った右手がぶれて、あろうことか院長自身の左手を刺してしまったのです。院長は一瞬焦った表情をしたものの、「大丈夫、大丈夫。萬田さん、肝炎のキャリアじゃないですよね?」と言って、その時の診療は終わりました。私自身は「大丈夫って。まあ私は大丈夫だけど」と思い帰宅したのですが、すぐに診療所から電話がかかってきて、その日のうちに再度受診することになりました。診療所では肝炎やHIVの検査の同意を取られ、再び採血、検査される羽目となりました。その後、院長には何の健康被害も起きませんでしたが、日常診療の中でのちょっとした気の緩みやミスで針刺し事故は起こるんだ、と実感したことを覚えています。これまでの報告1)からHIV汚染血液による針刺し事故の感染率は0.3%、粘膜の曝露による感染率は0.09%とのことです。また、C型肝炎ウイルスは約2%、HBe抗体陽性ウイルスは約10%、HBe抗原陽性ウイルスは約40%とされています。HBe抗原陽性ウイルスの場合の感染率の高さが際立っており、劇症肝炎を発症する危険性もあります。そう言えば、NUMBER GIRLには「SASU-YOU」という名曲があります。医療スタッフの多くはB型肝炎ワクチンを接種済だとは思いますが、ワクチン接種に関わる方は、肝炎、HIVの感染リスクも念頭に、「SASU-“YOU”」に加え、「SASU-“ME”」にも気を付けていただきたいと思います。参考1)針刺し事故後の対応について/国立病院機構 名古屋医療センター

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第69回 COVID-19ワクチンの確かな情報源は医療従事者/神経精神症状を呈するCOVID-19入院小児

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを接種するかどうかを決めるのに最も頼れる情報源は医療従事者であることが世界12ヵ国の4万人超の試験で示されました。また、英国からの報告によると神経精神症状を呈するCOVID-19入院小児の割合は大人に比べて高いようです。COVID-19ワクチン接種の意思決定の柱は医療従事者アジア、アフリカ、南アメリカの低~中所得10ヵ国(LMIC)、中所得国の中で上位のロシア、高所得国の米国の4万人超を調べたところ、LMICの人の8割(80.3%)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを希望しており、ロシアや米国をだいぶ上回りました1-3)。ロシアでのCOVID-19ワクチン接種希望者はとくに低く僅か約30%、米国は約65%でした。自分の身を守ることがCOVID-19ワクチン接種を望む第一の理由となっており、接種を求めるLMICの人の91%の接種志望動機となっていました。一方、副作用の心配がCOVID-19ワクチンを望まない主な理由であり、接種を希望しないLMICの人の41%の非希望理由となっていました。COVID-19ワクチンを接種するかどうかの判断で最も頼りにされていたのは医療従事者からの情報であり、ワクチン忌避が解消するように社会や行動を変える取り組みに各地の医療従事者が携わることはとくに有効なようです。医療従事者に寄せられる信頼はCOVID-19やCOVID-19ワクチンに関する誤情報の排除にも役立つに違いありません。米国はCOVID-19に関する誤情報の増加を警戒しており、フェイスブック(Facebook)のようなソーシャルメディアがCOVID-19ワクチンの誤った情報の掲載を許していることは米国のバイデン大統領に言わせれば殺戮行為です。ワクチンの間違った情報とFacebookなどのソーシャルメディアに対する見解を記者が先週金曜日に官邸(ホワイトハウス)で尋ねたところ「いまや感染流行はワクチン非接種の人に限られ、ソーシャルメディアは人殺し(killing people)をしている」と大統領は答えました4)。ワクチン接種判断で最も信頼されている医師からの説明はワクチンの誤情報を誤情報と知ってもらうことにも大いに貢献するでしょう。神経精神症状を呈するCOVID-19入院小児の割合は成人に比べて高いらしい神経や精神の症状を呈するCOVID-19入院小児の割合は成人に比べてどうやら高いようです。COVID-19で入院した英国イングランドの小児1,334人の3.8%(51人)が神経や精神の症状を呈して入院しており、成人のCOVID-19入院患者のその割合0.9%を4倍ほど上回りました5)。神経精神症状を呈して入院した英国のCOVID-19小児のうち入院時に呼吸器症状を呈していたのは52人中僅か12人(23%)のみであり、初期症状は多くの場合解消していました。52人のうち8人(15%)はそもそもCOVID-19感染症状がなく、PCR検査して初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が発覚しました。この結果によると急な神経性症状を呈した小児はみなSARS-CoV-2検査をする必要があるようです。神経精神症状を呈して入院したCOVID-19小児のおよそ3人に2人(65%)は無事回復しましたが、3人に1人(33%)は退院時に体の不自由さを呈していました。死亡したのは1人(2%)のみでした。多くは込み入った治療を受けており、しばしば免疫系の制御を目当てとしたそれらの治療の長期経過への影響を今後の試験で調べる必要があります6)。神経症状はCOVID-19入院後の合併症として生じることも知られており、19歳以上のCOVID-19入院成人7万人超を調べた試験ではおよそ20人に1人(4.3%)が神経合併症(髄膜炎、脳炎、てんかん、脳卒中)を入院中に発現しています7)。参考1)Study finds vaccine hesitancy lower in poorer countries / Eurekalert2)Understanding COVID-19 vaccine hesitancy / Nature Medicine3)Solis Arce JS,et al.. Nat Med. 2021 Jul 16. [Epub ahead of print] 4)Biden says Facebook, others 'killing people' by carrying COVID misinformation / Reuters5)Ray STJ, et al. Lancet Child Adolesc Health. 2021 Jul 14:S2352-4642,00193-0.6)New UK study reveals extent of brain complications in children hospitalized with COVID-19 / Eurekalert7)Drake TM, et al.Lancet. 2021 Jul 17. [Epub ahead of print]

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第63回 コロナ感染拡大、補助金で公立病院は黒字化

<先週の動き>1.コロナ感染拡大、補助金で公立病院は黒字化2.75歳以上の医療費増大、後期高齢者の健康保険財政が悪化へ3.再診なしでも使える繰り返し処方箋も検討課題に4.過労死認定、「過労死ライン」を超えずとも認定可能に5.医療法改正で、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技師の業務拡大へ6.トランプ元大統領も受けた抗体カクテル療法、日本でも承認へ1.コロナ感染拡大、補助金で公立病院は黒字化7月15日に全国自治体病院協議会が開催した定例記者会見で、2020年度の自治体病院の決算において6割の病院が黒字となったことが明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大により外来患者の延べ数は9.2%減、入院患者は同9.6%減、平均病床利用率は6.9%減(いずれも前年比)であったが、政府からの新型コロナ関連の補助金、計約3,027億円によって経営状態が大幅に改善した。(参考)自治体病院6割黒字の見込み コロナ対応の政府補助金で(朝日新聞)コロナ感染症の重点医療機関、支援金加味した2020年度の経常収支は104.5%の黒字に―全自病・小熊会長(Gem Med)2.75歳以上の医療費増大、後期高齢者の健康保険財政が悪化へ厚生労働省は7月16日に、令和元年度の後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況を発表した。これによれば、支出が16兆1,969億円と前年度比3.8%(5,954億円)増加となり、会社員らの現役世代からの支援金6兆5,220億円により黒字となっているが、75歳以上の人口の増加に伴って支援金の増加も加速しており、2023年度より75歳以上人口が増えるため、現役世代の負担感はさらに強くなると考えられる。政府は一定の所得がある後期高齢者については22年度後半から医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げるように法改正を行なったが、今後もさらに検討が必要とみられる。(参考)令和元年度後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況について後期高齢者医療への支援金が最大 現役の拠出、19年度2300億円増 75歳以上増加で負担重く(日本経済新聞)3.再診なしでも使える繰り返し処方箋も検討課題に厚生労働省は、7月14日に開催された中医協の総会において、再診なしで繰り返し使える処方箋(リフィル処方箋)について、議論に着手することを明らかにした。リフィル処方箋は、今年の6月18日に内閣府で閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針2021)において、「症状が安定している患者について、医師及び薬剤師の適切な連携により、医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し、患者の通院負担を軽減する」との目的で、導入が検討されていた。調剤薬局には、ポリファーマシー対策や重複投薬の防止とともに患者情報の交換を通して医療機関との連携強化が期待されているが、診療側は慎重姿勢であり、今後の議論に注目が集まる。(参考)中央社会保険医療協議会 総会 調剤(その1)再診なく繰り返し使える処方箋 厚労省が検討開始(日本経済新聞)中医協総会 2022年度調剤報酬改定へキックオフ 支払側・幸野委員「薬局機能に応じた報酬体系に」(ミクスOnline)4.過労死認定、「過労死ライン」を超えずとも認定可能に7月16日、厚生労働省は「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」において、昨年からで検討を重ねてきた「業務による過重負荷を原因とする脳血管疾患及び虚血性心疾患」について、2001 年に定められた認定基準の改定を公表した。この20年間に働き方の多様化や職場環境の変化が生じており、残業時間が「過労死ライン」とされる月80時間に達していなくても、これに近い時間外労働が認められ、加えて労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できると明示することとし、労災として認定することになった。この報告書を基に今年8月末から新たな基準の運用が始まる見通しだ。(参考)「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書労災認定柔軟に 脳・心臓疾患 厚労省(時事通信)「過労死ライン」こだわらず 厚労省、労災認定を柔軟に(日本経済新聞)5.医療法改正で、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技師の業務拡大へ今年5月28日に公布された「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(改正医療法)により、診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法が改正された。今年の10月1日から、医師の働き方改革を進めるため、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士へのタスクシフト/シェアを推進する。医師の負担を軽減しつつ、医療関係職種がより専門性を活かせるよう、各職種の業務範囲の拡大等を行うことが目的だ。具体的には、診療放射線技師では、RI検査のために静脈路を確保し、RI検査医薬品を投与する行為、さらに投与終了後に抜針及び止血する行為、臨床検査技師では医師又は歯科医師の指示を受け、病院又は診療所以外の場所に出張して行う超音波検査を行う行為、臨床工学技士には手術室等で生命維持管理装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続するために静脈路を確保し、それらに接続する行為や投与終了後に抜針などの業務が該当し、現場で行う前に、各団体により研修が実施される。(参考)良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(第78回社会保障審議会医療部会)臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について(PDF)臨床工学技士の業務範囲追加に伴う厚生労働大臣指定による研修2021年医療法等改正のチェックポイント-医師の働き方、タスクシフト/シェアの推進、外来医療の機能の明確化・連携など-(医療総研)6.トランプ元大統領も受けた抗体カクテル療法、日本でも承認へ日本国内で、新型コロナワクチンに新しい治療法が承認されそうだ。米国リジェネロン社とスイス・ロシュ社が共同開発した2種類の医薬品を組み合わせた「抗体カクテル療法」は去年、当時の大統領のドナルド・トランプ氏が受けたことで話題となり、厚生労働省は、7月19日に薬食審医薬品第二部会を開催し、特別承認について審議する。この抗体カクテル療法は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の2種類のウイルス中和抗体の「カシリビマブ」と「イムデビマブ」を含む「ロナプリーブ点滴静注」であり、国内では中外製薬が独占契約に基づいて国内第I相の治験を実施した。米国国内においては緊急使用許可が出て臨床使用されている。これまで国内の新型コロナ治療薬としては「レムデシビル」「デキサメタゾン」「バリシチニブ」の3製品が承認されているが、いずれも中等症・重症の患者を対象としており、軽症・中等症向けの治療薬としては初となる見込み。(参考)「抗体カクテル療法」19日に承認可否を審議 厚労省(産経新聞)軽・中等症では初の新型コロナ治療薬 来週にも特例承認へ(毎日新聞)薬食審 中外製薬の新型コロナへの抗体カクテル療法「ロナプリーブ点滴静注セット」7月19日に審議(ミクスOnline)

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脳静脈洞血栓症患者の血小板減少症、COVID-19流行前はまれ/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の以前には、脳静脈洞血栓症(CVST)患者におけるベースラインの血小板減少症の頻度は低く、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)や血小板第4因子(PF4)/ヘパリン抗体の発生もきわめてまれであったことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのMayte Sanchez van Kammen氏らの調査で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2021年7月2日号で報告された。COVID-19ワクチンであるChAdOx1 nCov-19(AstraZeneca/Oxford)およびAd.26.COV2.S(Janssen/Johnson & Johnson)の接種後4~28日以内に、血小板減少症を併発するCVSTを発症した症例が報告されており、その根本的な病理学的機序として、PF4/ヘパリン抗体に関連する免疫介在性反応が提唱されている。7ヵ国7病院の検体の後ろ向き記述的解析 研究グループは、COVID-19の世界的流行以前にCVSTと診断された患者において、入院時の血小板減少症、HIT、PF4/ヘパリン抗体の発現の頻度を明らかにする目的で、レトロスペクティブな記述的解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 解析には、フィンランド、オランダ、スイス、スウェーデン、メキシコ、イラン、コスタリカの国際脳静脈洞血栓症コンソーシアムに参加している7つの病院から得られた、1987年1月~2018年3月の期間にCVSTと診断された患者の検体が用いられた。 865例で、ベースラインの血小板数のデータが得られた。このうち93例のサブセットで、以前の試験(2009年9月~2016年2月)で採取された凍結血漿検体を用いてPF4/ヘパリン抗体の解析が行われた。 主要アウトカムは、入院時の血小板減少症(血小板数<150×103/μL)、HIT(担当医の診断による)、PF4/ヘパリンIgG抗体(光学濃度[吸光度]>0.4、過去に血漿検体を採取した患者のサブセット)の頻度とされた。血小板減少症8.4%、HIT 0.1%、PF4/ヘパリン抗体0% 865例(年齢中央値40歳[IQR:29~53]、女性70%)のうち、73例(8.4%、95%信頼区間[CI]:6.8~10.5)が血小板減少症であり、751例(86.8%)が正常血小板数(150~450×103/μL)、41例(4.7%)は血小板増加症(>450×103/μL)であった。 血小板減少症73例の重症度の内訳は、軽症(血小板数100~149×103/μL)が52例(6.0%)、中等症(50~99×103/μL)が17例(2.0%)、重症(<50×103/μL)は4例(0.5%)だった。 PF4/ヘパリン抗体を伴うHITは、1例(0.1%、95%CI:<0.1~0.7)にみられた。また、血漿検査が行われた93例の便宜的な検体のサブセットでは、8例(9%)に血小板減少症(軽症6例、中等症2例)が認められ、PF4/ヘパリン抗体がみられた患者はいなかった(0%、95%CI:0~4)。抗PF4 IgGの光学濃度中央値は0.106(IQR:0.088~0.142、範囲:0.064~0.357)だった。 著者は、「これらの知見は、ChAdOx1 nCoV-19およびAd26.COV2.S COVID-19ワクチンと、血小板減少症を伴う脳静脈洞血栓症との関連性を調査する際に、有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

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第66回 一般市民がやる気になる緊急事態宣言の解除基準とは

今週から東京都では4回目となる新型インフルエンザ等特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が発出された。あまりこういう書き方はしたくないのだが、本連載の第63回のような内容を書いた私としては、今回ばかりはどんなに抑え込もうとしても「そら見たことか」と言いたくなる。政府や自治体からすれば、「何もしなかったわけではなく、緊急事態宣言からまん延等防止等重点措置(まん防)に移行していたのだから」と言いたいのかもしれないが、それが意味をなさないのは、すでに過去の結果を見れば明らかである。ただ、一部に「まん防なんぞ、そもそも効果がない」という人がいるが、それは乱暴な物言いだとも思う。たとえば、宮城県や愛媛県のようにまん防に移行しても緩やかに感染者が減少している自治体はある。ワクチン接種の進行度合いも影響しているのではないかという見方も成り立つかもしれないが、東京都と宮城県、愛媛県で接種率に極端な違いはない。要は人口密度が高く、かつ高齢化率が低い、そこに人流が多いというファクターが加わると、強い措置でなければ効果が望めないということだろう。もっとも緊急事態宣言は感染者減少に対する一定の効果はあるものの限界はある。とりわけ緊急事態宣言に基づく対策の軸となる自治体から飲食店への営業自粛や営業時間短縮の命令に違反しても行政罰に留まるだけであるため、実際には違反店が散見される状態になっている。この点は大きな抜け穴である。今回政府が違反店の出現を防ぐ目的で、飲食店への休業支援金の先渡し方針を明らかにしたまでは良かったのだが、これに加え「違反店情報を金融機関へ提供する」とか「酒類卸売販売業者に違反店への販売を行わないよう要請する」通知を発出。これが世論の猛反発を浴び、通知は撤回に追い込まれた。そもそもこの要請のナンセンスな点は、商売をやっている人に取引先を事実上取り締まれと言っていることだ。金融機関にしろ酒類卸売業者にしろ、取引先の飲食店がつぶれてしまっては元も子もない。つぶれて融資や売掛金が回収できなくなるくらいならば、違反営業することを黙認するだろう。また、違反するならば「融資しません」「販売しません」と言えば、その飲食店は他の取引先に流れるだけで根本的な解決にはならない。しかも金融機関や卸売業者は自分の売上を落とすだけになる。ついでに言うと、この仕組みでは「違反店の情報を国や自治体が金融機関に提供する」としているが、そうした情報は国や自治体よりも金融機関のほうが持っているはずで、仕組みとしてもあまり有効ではない。そもそも今回の一連の混乱の原因は、過去にも指摘したが違反への対処が行政罰で、しかもそれが徹底されていないからだ。現に緊急事態宣言下などでの違反営業に対する行政罰に関する報道を見ると、最近になってようやく東京都で4店が過料を科され、これが全国初のケースのようである。しかし、東京都での違反店数がたった4店でないことは明らかである。要は目立つところ、訴えやすいところが標的にされただけと言っても良い。その意味では改正特措法施行後3回の緊急事態宣言を経験している中で、そろそろ緊急事態宣言やまん防の効果などを詳細に検討したうえで、将来的には特措法での行政罰の刑事罰化も選択肢の一つとして考える必要があるのではないかと個人的には考えている。そもそも私個人は国などによる私権制限などを伴う規制はどんないかなる場合であっても最小限に留めるべきと従来から考えている。しかし、対抗手段のない新興感染症のパンデミック収束のためには、どうしても強制力が伴う対策が必要になる点は否めないとも痛感している。また、今回の特措法のように行政罰となると、違反店への対応は自治体が主体となるため、市街地が広大にもかかわらず、自治体のマンパワーが限られた東京都のような地域では、どうしても目立った店舗のみが行政罰を科せられ、違反店と遵守店の間だけでなく、違反店同士でも不公平感が生まれる罰則適用になってしまう。その点、刑事罰の場合は、各地域に配置された警察署、派出所が対応でき、行政罰の時と比べ、マンパワー不足は解決される。また、「警察」が乗り出すことに対する民間での心理的負荷は大きいため、行政罰と比べれば違反や再発への抑止効果もあると考えられる。一方で、こうした法律とは別に個人的には従来から必要だと思っていることがある。それは出口指標の明確化だ。今でも政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が示した感染状況を示す4つのステージで、ステージ4相当が緊急事態宣言発出で、解除については「ステージ3相当から安定的にステージ2に向けて指標が低下しつつある」としてはいる。しかし、この解除基準は明らかに経済横にらみでさじ加減を調整することを念頭に置いているため曖昧さが多く、感染ステージ評価が複数の指標で成り立っていることから一般市民に分かりにくいものになっている。その意味ではこのステージ分類は維持しつつも、ステージ分類で使用している指標の中の1~2つを利用して、一般市民向けに緊急事態宣言解除の具体的目安を示すべきではないかと考えている。たとえば一部の専門家がメディア向けに東京都での解除基準を問われた時によく出てくる「1日の感染者報告が100人以内」といった類のものだ。そうすれば一般市民も出口に向けて今どのような状況にあるかがわかり、自身の感染対策の振り返りや見直しにもつながりやすいのではないだろうか?もしかしたらこうしたやり方をすれば、行政罰のまま現在の緊急事態宣言やまん防を運用できるかもしれないとさえ思うことがある。いずれにせよ、従来のような緊急事態宣言の運用は、少なくとも首都圏では限界にあることは改めて認識する必要があるだろう。

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コロナワクチンのアナフィラキシー、患者さんに予防策を聞かれたら?

 7月に入り、新型コロナワクチン接種が65歳未満でも本格化している。厚生労働省の副反応報告1)によると、現時点では「ワクチンの接種体制に直ちに影響を与える程度の重大な懸念は認められない」との見解が示されており、アナフィラキシーやその他副反応のリスクよりも新型コロナの重症化予防/無症状感染対策というベネフィットが上回るため、12歳以上へのワクチン接種は推奨される。 しかし、接種対象者の年齢範囲が広がることで問題となるのが、SNS上での根拠のないワクチン批判である。その要因の1つが「アナフィラキシー」だが、患者自身で出来る予防策はあるのだろうかー。今回、日本アレルギー学会のCOVID-19ワクチンに関するアナウンスメントワーキンググループのひとりである中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)に話を聞いた。ワクチンだけを恐れる矛盾を指摘 まず、中村氏はワクチン不安に陥る前に、あらかじめ知っておくべきこととして2点を提示した。一つは「腕の痛みなどの注射部位反応や筋肉痛、頭痛、寒気、倦怠感、発熱などの反応は、ワクチンに対する身体の正常な免疫反応を反映している」ということで、それらは数日以内に消失する。もう一つは「わが国における新型コロナワクチン接種後に起こったアナフィラキシーの報告で信頼に足るものは100万回あたり7件と報告されており、医療機関で使用される造影剤(100万回あたり約400件)や肺炎などの感染症で使用される抗生物質(100万回あたり100~500件)に比べると極めて少ない」という事実である。今回の新型コロナワクチンに限らず一般にワクチンはほかの医薬品に比べてアナフィラキシーが少ないと言われているにもかかわらず、接種を怖がる人が多いのは、「一部マスコミの注意喚起が強調され過ぎたのかもしれない。ただし、ごく稀とはいえ誰にでも新型コロナワクチンによるアナフィラキシーがあり得るのは事実であり、個人的にできる予防策があればそれに越したことはない」とも話した。 アナフィラキシーを増強させる促進要因(飲酒、運動、月経前状態など)2)はいくつか明らかになっているものの、実際にアナフィラキシーが発症する際にはさまざまな要因が絡み合うため、「これという確かな予防策は存在しない」と同氏はコメント。しかし、予防策が断定できなくとも患者が心得ておくべきは、「ワクチン接種日の数日前から体調を整えておくこと」であり、医療者の役割は「自分の患者からワクチン接種の可否について相談された場合にリスク因子の有無を正確に見極めること」と話した。その際に参考になるのは、アナフィラキシーの主な原因が新型コロナワクチンの主成分ではなく添加物(ポリエチレングリコール[PEG]やポリソルベートなど)との報告である。実際にファイザー製やモデルナ製にはPEGが、アストラゼネカ製にはPEGに交差反応性のあるポリソルベート80が添加されている。 一方、これらの賦形剤は多くの医薬品(注射薬、錠剤、外用薬、など)や化粧品に(PEGはマクロゴールの名称で)広く含有されており、同氏は「私の所属する医療機関で扱っている医薬品4,000種類以上に含まれている。そして、多くの患者は普段から定期的にこれらを体内に取り込んでいることになる。もちろん、その接種経路により症状誘発の程度が異なることはあり得るが、自分が担当する患者さんにワクチン接種の可否を訊ねられた際には、定期処方薬にそれらが含有されていることを確認した上で、『あなたは一般に新型コロナワクチンの原因と言われている成分を毎日服用しているのに普段何ともないのですから、そんなに心配することはないですよ』とアドバイスをして安心していただくようにしている」と、添加物の実状と患者の不安を払拭させるような声掛け方法を例示した。 現在、PEGは日本薬局方には医薬品添加物として、分子量200、300、400、600、1000、1500、1540、4000、6000、20000が登録されており、添付文書ではマクロゴール◯◯や下記のようにPEG◯◯などと記載されていることが多い(◯◯は分子量)。<各ワクチンに含有される主な添加物>・コミナティ筋注(ファイザー):2-[(ポリエチレングリコール)-2000]- N,N-ジテトラデシルアセトアミド・COVID-19ワクチンモデルナ筋注(モデルナ):λ1, 2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メチルポ リオキシエチレン(PEG2000-DMG)、トロメタモール(アナフィラキシー報告あり)・バキスゼブリア筋注(アストラゼネカ):ポリソルベート80アナフィラキシーの“既往なし”でも注意したい患者 加えて、PEGやポリソルベートに対するアレルギーが考えにくい場合でも、ワクチン前に受診を薦めたい患者として「喘息患者のなかでもコントロール不良な人、そして、“かくれ喘息”の人」を挙げた。喘息はアナフィラキシーの重症化リスクの1つであるため、「喘息治療をしていないが、ゼーゼー、ヒューヒューと喘息様の症状を有する人、治療を続けていても発作が多かったりコントロールが不良だったりする人は、ワクチン前にしっかり診断と治療を受け、コントロールしておくことも重要」とし、接種後には「通常の2倍の時間、30分間は経過観察が必要」とも話した。 これらを踏まえ、アナフィラキシー発症リスクの高い例と注意すべき患者像を以下のように示す。<アナフィラキシーに注意すべき患者像>( )内は主な可能性・高齢者(薬剤に過敏歴がある場合、化粧品使用とその経験が長い)・女性(化粧品の使用率が高く、PEGへの経皮感作の可能性がある)・喘息の既往(コントロール不良、発作が多い)、かくれ喘息<アナフィラキシーの発生リスクを探る>(優先順)1)アナフィラキシーに最もリスクがある患者は“PEGやポリソルベートによるアナフィラキシー歴あるいは1回目のワクチン接種でアナフィラキシーがあった”人。その場合には接種を見送る/2回目接種を見送る必要がある。2)次に注意すべきは、“原因不明あるいは不特定多数の医薬品などによるアナフィラキシー歴(PEGやポリソルベートに対するアレルギーの可能性を有する)”がある人。この人は可能な限り主治医に事前相談し、集団接種会場ではなく医療機関での個別接種が望ましい。3)“アナフィラキシー歴はあるが、PEG・ポリソルベートなどの賦形剤以外の物質(食物、金属など)が原因として確定している”人は通常通りワクチン接種を行っても差し支えないと言える。 アレルギー反応にはアナフィラキシーや花粉症、食物アレルギーなどを引き起こすI型、II型(血小板減少症など)、III型(SLEや関節リウマチなど)、IV型(接触皮膚炎など)が存在するが、食物アレルギーはアナフィラキシーと同型に分類されるため、食物アレルギーを抱える患者は接種に不安を抱え、ためらうこともあるかもしれない。これについては、日本アレルギー学会が今年3月に公開したアナウンスメント3)にも「少なくとも現時点では花粉、食物などの特定の抗原に対する I 型アレルギーや、アナフィラキシー症状を伴わない喘息、アトピー性皮膚炎などのアトピー疾患であることが、新型コロナウイルスワクチンに対する過敏性を予測するものではないことを意味する」と示されている、と強調した。医療者としての声掛けー新型コロナワクチンに不安な被接種者へ 新型コロナに罹患した際の症状は死に至る場合もある。感染から回復しても長引く後遺症(疲労感・倦怠感や息切れ…)に悩まされることになり、それらの症状からいつ完全回復を遂げられるかはまだ明らかにされていない。ワクチン接種時の一時的な副反応症状(発熱、倦怠感など)と発症率が低く適切な治療により致命的になることがほとんどないアナフィラキシー、どちらのリスクが自分にとって危険であるのかを天秤にかけた場合、「ワクチンを接種せずに新型コロナに罹患することだけは避けるべきであるのは自明」と同氏は繰り返した。 最後に、ワクチン接種に関し医療者が患者にできることとして、「今後の変異株の拡大などにより若い人でも重症化することが懸念されている現状では、患者にワクチンを諦めさせるのではなく、推奨することが大切なのではないか」とワクチン接種が患者の命を救う最善の手立ての1つであることを強く訴えた。中村 陽一(なかむら よういち)氏横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長1955年香川県生まれ。81年徳島大卒。91年医学博士取得および米国ネブラスカ大学留学。2000年国立病院機構高知病院臨床研究部長を経て05年より現職および昭和大学医学部客員教授。日本アレルギー学会功労会員。同学会アナフィラキシー対策委員会委員長。

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日本での既感染者は現在何%?コロナの“今”11知識/厚労省

 9日、厚労省は「新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識(2021年7月版)」を公表した。これは、COVID-19に関する現在の状況とこれまでに得られた科学的知見について、新たに11の知識としてQ&A形式でとりまとめたもの。主に、感染者数・病原性、感染性、検査・治療、変異株について示されている。以下に一部を抜粋して紹介する。Q1. わが国では、どれくらいの人が新型コロナウイルス感染症と診断されていますか。A. これまでに79万6,835人が新型コロナウイルス感染症と診断されており、これは全人口の約0.6%に相当します。※感染していても症状が現れず医療機関を受診しない人などがいるため、必ずしも感染した人すべてを表す人数ではありません。Q2. 新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化する人や死亡する人はどれくらいですか。A. 重症化する割合や死亡する割合は以前と比べて低下しており、2020年6月以降に診断された人の中では、重症化する人の割合は約1.6%(50代以下で0.3%、60代以上で8.5%)、死亡する人の割合は約1.0%(50代以下で0.06%、60代以上で5.7%)となっています。 また、「Q3. 重症化しやすいのはどんな人ですか」では、30代と比較した各年代の重症化率が示され、40代は4倍、50代は10倍、60代は25倍、70代は47倍、80代以上は70倍以上と、高齢になると重症化リスクが急激に高くなることが表にわかりやすくまとまっている。新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識(Q一覧)【新型コロナウイルス感染症の患者数・病原性】Q1. 日本では、どれくらいの人が新型コロナウイルス感染症と診断されていますか。Q2. 新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化する人や死亡する人はどれくらいですか。Q3. 新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化しやすいのはどんな人ですか。Q4. 海外と比べて、日本で新型コロナウイルス感染症と診断された人の数は多いのですか。【新型コロナウイルス感染症の感染性】Q5. 新型コロナウイルスに感染した人が、他の人に感染させる可能性がある期間はいつまでですか。Q6. 新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、どれくらいの人が他の人に感染させていますか。Q7. 新型コロナウイルス感染症を拡げないためには、どのような場面に注意する必要がありますか。【新型コロナウイルス感染症に対する検査・治療】Q8. 新型コロナウイルス感染症を診断するための検査にはどのようなものがありますか。Q9. 新型コロナウイルス感染症はどのようにして治療するのですか。Q10. 接種の始まった新型コロナワクチンはどのようなワクチンですか。今後どのように接種が進みますか。【新型コロナウイルスの変異株】Q11. 新型コロナウイルスの変異について教えてください。

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中国製コロナワクチン、入院を87.5%抑制/NEJM

 チリの公的国民医療保険加入者を対象に行ったコホート試験で、不活性化コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「CoronaVac」について、COVID-19への予防効果(重症化および死亡)が明らかにされた。チリ・保健省のAlejandro Jara氏らが、2021年2月から実施している同ワクチンの全国接種キャンペーンの効果について、コホート試験を行ったもので、「結果はワクチン第II相試験の結果と一致するものであった」と述べている。NEJM誌オンライン版2021年7月7日号掲載の報告。公的国民医療保険加入の16歳以上について追跡 研究グループは、公的国民医療保険に加入する16歳以上を対象に前向きコホート試験を行い、COVID-19感染と関連する入院、ICU入室、死亡を調べ、不活性化SARS-CoV-2ワクチンの予防効果を検証した。 時間とともに変化するワクチン接種状況を考慮に入れ、拡張Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比を算出。部分免疫(1回目接種後の14日以降で2回目接種前)、完全免疫(2回目接種後14日以降)のハザード比の変化を推算した。 ワクチンの有効性は、被験者個々の人口統計学的特徴や臨床的特徴で補正し算出したワクチン有効性、対入院は87.5%、対ICU入室は90.3% 試験期間は2021年2月2日~5月1日で、約1,020万人がコホートに包含された。 完全免疫を獲得した人におけるCOVID-19予防に関する補正後ワクチン有効性は、65.9%(95%信頼区間[CI]:65.2~66.6)であった。 入院に関する有効性は87.5%(86.7~88.2)、ICU入室に対しては90.3%(89.1~91.4)で、COVID-19関連死の予防に対する有効性は86.3%(84.5~87.9)だった。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 感染症

第1回 コロナウイルス第2回 新型コロナワクチン第3回 マダニ媒介感染症第4回 血液培養第5回 発熱と発疹を伴う感染症第6回 性感染症 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。感染症については、国立国際医療研究センター国際感染症センター(※収録当時)の忽那賢志先生がレクチャー。猛威を振るう新型コロナウイルスの最新情報から、試験で問われやすいマイナーな感染症まで、狙いを定めて解説します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 コロナウイルス猛威を振るう新型コロナウイルスについて、最新の知見をまとめます。新型コロナと、SARSコロナウイルスやMARSコロナウイルスとの特徴を比較。新型コロナの発生起源、動物を介した感染経路など、これまでに判明している事実を整理し、コロナウイルスについての理解を深めます。世界各地で拡大し国内でも増加傾向にある変異株まで、気になる最近の動向も解説。※このレクチャーは、2021年3月21日時点の情報に基づいています。第2回 新型コロナワクチン国内で2021年2月下旬より医療者への先行接種が開始されたワクチン。新型コロナワクチンに採用された新しいプラットフォームであるmRNA2ワクチンについて、その原理を解説。非常に高い確率の発症予防効果ならびに重症化予防効果が証明されています。報告されている副反応や、アレルギーのある人に接種した場合のアナフィラキシーの頻度について、データを確認します。※このレクチャーは、2021年3月21日時点の情報に基づいています。第3回 マダニ媒介感染症マダニ媒介感染症は、まず媒介者となるダニの生息分布域を確認。ライム病、ツツガムシ病、日本紅斑熱、SFTSなどの各種マダニ媒介感染症は、国内の流行地域が異なり、同じ県内でも微妙な地域差があります。輸入感染症の側面もあり、海外渡航歴も診断の手がかりに。症状には共通する特徴が多く見られますが、流行時期、潜伏期や刺し口の違いなどに注目して鑑別します。マニアックな感染症は、知っていると試験で差がつくポイントです。第4回 血液培養菌血症を疑ったときに行う血液培養。ガタガタと震える悪寒戦慄があると菌血症を疑うポイント。細菌性髄膜炎、腎盂腎炎、感染性心内膜炎といった、菌血症の頻度が高い感染症を知っておきましょう。血培は基本的に2セット採取します。コンタミネーションしやすい菌なのか、しにくい菌なのか、検出された菌の種類も判断の指標となります。血培で検出された真の起炎菌に対して、投与する抗菌薬の種類も忘れずに。第5回 発熱と発疹を伴う感染症麻疹と風疹はどう鑑別するのか、症例から診断のポイントを解説。発疹の性状だけで鑑別するのは非常に難しく、ワクチン接種歴、罹患歴が極めて重要。髄膜炎菌感染症、リケッチア症、毒素性ショック症候群、アナフィラキシー、感染性心内膜炎といったショックを伴う皮疹では、診断の決め手となるキーワードを確認します。発熱・皮疹は輸入感染症の可能性もあります。輸入感染症診療の3つのポイントは、渡航地、潜伏期、曝露歴。第6回 性感染症性感染症を疑った場合、性交渉歴を聞く上で大事な“5P”を確認。感染リスクの高い行為を聞き逃さないようにします。近年増加傾向にある梅毒は、発疹の性状がさまざまで、神経梅毒による認知症など多彩な症状が特徴。病期によって治療内容が異なります。性感染症を診断した場合、他の性感染症の合併リスクも高く、スクリーニング検査やパートナーの診断治療も必要です。無症状が多いHIV、梅毒、淋菌感染症、クラミジアなどに要注意。

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第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か

今年の医療法等改正をおさらいこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。予想通り、7月12日から東京都は4回目の緊急事態宣言に突入しました。沖縄県に出されていた同宣言も延長となりました。オリンピック開催を至上命令として、マッチポンプのようにコロコロと変わる政府の施策に、国民の多くはさすがに辟易としてきているようです。7月13日に読売新聞社が公表した同社世論調査によれば、菅内閣の支持率は37%、昨年9月の内閣発足以降最低だった前回(6月4~6日調査)から横ばいです。一方、不支持率は53%(前回50%)に上がり、内閣発足後で最高となったそうです。中でも東京の菅内閣の支持率は28%で、全国平均の37%と比べて9ポイント低かったそうです。進まないワクチン接種や、酒提供に関して金融機関からの働き掛け方針の撤回など、政府の右往左往ぶりは既に末期症状かもしれません。さて、こんな時は野球観戦です。昨日(7月13日)は、MLBオールスターゲームのホームランダービーを朝から観戦していました。初出場のロサンゼルス・エンゼルスの大谷 翔平選手は、残念ながら1回戦でワシントン・ナショナルズのフアン・ソト選手に敗れてしまいました。それにしても、対戦後、ハアハア息をする大谷選手を見て、ホームランダービーの過酷さがわかりました。他の出場選手よりも息が荒かったのは、デンバーの球場が標高1,600mと高地にあり高度順応ができなかったからか、他の選手の心肺機能の方が高かったからかわかりませんが、あの対戦を2回連続(2019年と今年)制したニューヨーク・メッツのピート・アロンソ選手は本当にすごいです。さて、新型コロナ感染症による緊急事態宣言とオリンピック開催を巡る騒動の陰で、これからの医療現場に大きな影響を及ぼす法律改正が行われていました。今回は”事件”から少々離れて、それについて簡単におさらいしておきたいと思います。医療現場に大きな影響を及ぼす法律改正とは、ずばり医療法等の改正です。法律案の名称は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」。医師の労働時間の短縮や新興感染症の感染拡大時における医療提供体制の確保など、医療現場が直面するさまざまな課題を解決するためにつくられた法律案です。関連する法律も医療法をはじめ、医師法や歯科医師法、診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法と幅広く、それぞれの法律の改正を一括するかたちで、「……医療法等の一部を改正する法律案」として審議されてきました。2024年度からの時間外労働規制に向けた「医師の働き方改革」この医療法等改正法は5月21日の参議院本会議で可決・成立しました。柱は大きくは3つです。1)医師の働き方改革勤務医の時間外労働規制が2024年度から適用されることを受け、「長時間労働の医師の労働時間短縮および健康確保のための措置の整備」が講じられます。具体的には、勤務医が長時間労働となる医療機関での「医師労働時間短縮計画」の作成が義務付けられます。また、地域医療の確保や研修を集中的に実施する観点からやむを得ず、規定よりも多い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度がつくられます。指定された医療機関では連続勤務時間の制限といった健康確保措置が求められます。2)各医療関係職種の専門性の活用次に「各医療関係職種の専門性の活用」です。 これも「医師の働き方改革」に関連したもので、医師の負担軽減を目的に、4つの医療関係職種の業務範囲を拡大し、タスクシフト・シェアを推進することになりました。診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種の資格法が改正されています。いずれも施行は今年10月1日からで、医師が働く現場にすぐに影響が出るのは、このタスクシフト・シェアでしょう。これについては、あとからもう少し詳しく解説します。なお、「専門性の活用」については医師の養成課程の見直しも行われています。2025年4月から共用試験合格が医師国家試験の受験資格要件となります。また、同試験に合格した医学生は医師法第17条(医師でなければ、医業をなしてはならない)の規定にかかわらず、大学が行う臨床実習において、医師の指導監督のもとで医業(つまり診療)を行えるようになります。この措置は2023年4月からの施行です。医療計画に新興・再興感染症医療提供体制に関する事項追加そして法改正のもう一つの柱が、3)地域の実情に応じた医療提供体制の確保です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大で露呈した医療提供体制のさまざまな課題に対応するため、2024年度からの第8次医療計画に「新興感染症等の感染拡大時における医療」の確保に関する事項が追加されます。具体的には、現行は「5疾病・5事業および在宅医療」の医療計画の記載事項が、「5疾病・6事業および在宅医療」に改められます。これまで、医療計画の中に、新興・再興感染症の感染拡大への対応が記載されていなかったのは国・厚生労働省の怠慢としか言いようがありませんが、とにかくそれに関する事項が追加されたことは評価したいと思います。また、2022年度からは、高度な医療機器など医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める「外来機能報告制度」が創設されます。これまで入院医療については「病床機能報告制度」があったのですが、それが外来にも拡大されるわけです。入院医療に加え外来医療も医療機能の分化と連携を進めるのが狙いとされています。外来機能報告制度の施行は2022年4月で、報告を基に、地域医療構想と同様不足する外来医療機能の確保といった問題を「地域の協議の場」などで話し合い、調整することになります。放射線技師、検査技師、臨床工学技士、救急救命士の業務拡大の中身さて、前述のように、こうしたさまざまな改革の中で、すぐに現場に影響を及ぼしそうなのが、医療関係職種の業務範囲拡大によるタスクシフト・シェアでしょう。何せこれまで医師にしかできなかった業務を他職種に任せることができるのですから。診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法の改正により、各職種に新たに認められる業務は以下です(政省令改正で済むものを除く)。診療放射線技師造影剤を使用した検査・RI検査(放射性医薬品を用いる検査)のための静脈路確保RI検査医薬品を注入するための装置接続と操作RI検査医薬品投与終了後の抜針・止血医師・歯科医師が診察した患者に対する、その医師等の指示に基づく、医療機関以外の場所に出張して行う超音波検査臨床検査技師採血に伴う静脈路確保と、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む)への接続静脈路を確保し、成分採血のための装置接続と操作、終了後の抜針・止血超音波検査に関連する行為としての静脈路確保、造影剤接続・注入、造影剤投与終了後の抜針・止血臨床工学技士手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作救急救命士現行法における「医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置」について、救急外来(救急診療を要する傷病者が来院してから入院に移行するまで〈入院しない場合は帰宅するまで〉に必要な診察・検査・処置等を提供される場)においても実施可能に救急救命士の業務範囲拡大は医療関係団体からの強い要望で実現最後の救急救命士の業務範囲拡大は、日本医師会、日本救急医学会、四病院団体協議会から要望が出され、厚労省の「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」で議論がされてきました。一部には救急救命士が一定の医行為を実施することに強く反対する意見もあったそうですが、最終的には医師の負担軽減に必要、として了承されました。法改正が施行される今年10月1日からは、重度傷病者が搬送先医療機関に入院するまでの間、または入院を要さない場合はその医療機関に滞在している間、医療機関に勤務する救急救命士は特定行為を含む救急救命処置ができることになります。実際の運用面の議論も開始救急救命士法の改正を受け、厚労省は6月4日「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」を開催し、救急救命士が救急外来において処置を実施する際の運用面の議論が行われています。この中では、救急救命士の質を担保するために医療機関に設置する委員会の詳細や、 救急救命士への院内研修項目なども提案されました。つまり、病院が救急救命士を救命救急業務に就かせるには相応の組織を設けたうえで、研修等の実施が必須になるようです。運用スタートまで3ヵ月を切っており、秋口までには詳細が決まると思いますが、他の職種のタスクシフト・シェアと比べても患者の生死に直結する業務だけに、拙速な議論だけは避けてもらいたいものです。救急救命士の効果的な活用は、急性期病院の命運を握る救急救命士が救急外来で働くことは、医師の仕事量の軽減だけでなく、病院経営にとっても大きなプラスになると考えられます。人件費の高い医師でなく、救急救命士を多数雇うことで、コストを抑えつつ救急外来を回すことができるからです。しかも、救急部門の充実は、病院が急性期病院として生き残るための経営の要でもあります。救急救命士の効果的な活用は、今後の急性期病院の命運を握ると言えるでしょう。実際、今回の法改正が行われる前から、救急救命士を雇用する病院は増加傾向のようで、病院勤務を志望する救急救命士も増えていると聞きます。来年にかけ、救急救命士の争奪戦が本格化しそうな気配です。

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