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尿素サイクル異常症〔UCD : urea cycle disorders〕

1 疾患概要■ 概念・定義尿素サイクル異常症(urea cycle disorders:UCD)とは、尿素サイクル(尿素合成経路)を構成する代謝酵素に先天的な異常があり高アンモニア血症を来す疾患を指す。N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、カルバミルリン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、シトルリン血症I型、アルギニノコハク酸尿症、高アルギニン血症(アルギナーゼ欠損症)、高アンモニア高オルニチン高ホモシトルリン尿(HHH)症候群、リジン尿性蛋白不耐症、シトリン異常症、オルニチンアミノ基転移酵素欠損症(脳回転状脈絡膜網膜萎縮症)が含まれる。■ 疫学UCDは、希少難病である先天代謝異常症のなかで最も頻度が高い疾患のひとつであり、尿素サイクル異常症に属する各疾患合わせて、約8,000人に1人の発生頻度と推定されている。家族解析やスクリーニング検査などで発見された「発症前型」、新生児早期に激しい高アンモニア血症を呈する「新生児期発症型」、乳児期以降に神経症状が現れ、徐々に、もしくは感染や飢餓などを契機に、高アンモニア血症と症状の悪化がみられる「遅発型」に分類される。■ 病因尿素サイクルは、5つの触媒酵素(CPSI、OTC、ASS、ASL、ARG)、補酵素(NAGS)、そして少なくとも2つの輸送タンパクから構成される(図1)。UCDはこの尿素サイクルを構成する各酵素の欠損もしくは活性低下により引き起こされる。CPSI:カルバミルリン酸合成酵素IOTC:オルニチントランスカルバミラーゼASS:アルギニノコハク酸合成酵素ASL:アルギニノコハク酸分解酵素ARG:アルギナーゼ補助因子NAGS:N-アセチルグルタミン酸合成酵素ORNT1:オルニチンアミノ基転移酵素CPSI欠損症・ASS欠損症・ASL欠損症・NAGS欠損症・ARG欠損症は、常染色体劣性遺伝の形式をとる。OTC欠損症はX連鎖遺伝の形式をとる。画像を拡大する■ 症状疾患の重症度は、サイクル内における欠損した酵素の種類、および残存酵素活性の程度に依存する。一般的には、酵素活性がゼロに近づくほど、かつ尿素サイクルの上流に位置する酵素ほど症状が強く、早期に発症すると考えられている。新生児期発症型では、出生直後は明らかな症状を示さず、典型的には異化が進む新生児早期に授乳量が増えて、タンパク負荷がかかることで高アンモニア血症が助長されることで発症する。典型的な症状は、活力低下、傾眠傾向、嘔気、嘔吐、体温低下を示し、適切に治療が開始されない場合は、痙攣、意識障害、昏睡を来す。神経症状は、高アンモニア血症による神経障害および脳浮腫の結果として発症し、神経学的後遺症をいかに予防するかが重要な課題となっている。遅発型は、酵素活性がある程度残存している症例である。生涯において、感染症や激しい運動などの異化ストレスによって高アンモニア血症を繰り返す。高アンモニア血症の程度が軽い場合は、繰り返す嘔吐や異常行動などを契機に発見されることもある。睡眠障害や妄想、幻覚症状や精神障害も起こりうる。障害性脳波(徐波)パターンも、高アンモニア血症においてみられることがあり、MRIによりこの疾患に共通の脳萎縮が確認されることもある。■ 予後新生児透析技術の進歩および小児肝臓移植技術の進歩により、UCDの救命率・生存率共に改善している(図2)。それに伴い長期的な合併症(神経学的合併症)の予防および改善が重要な課題となっている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)UCDの診断は、臨床的、生化学的、分子遺伝学的検査に基づいて行われる(図3)。血中アンモニア濃度が新生児は120μmol/L(200μg/dL)、乳児期以降は60μmol/L(100 μg/dL)を超え、アニオンギャップおよび血清グルコース濃度が正常値である場合、UCDの存在を強く疑う。血漿アミノ酸定量分析が尿素サイクル異常の鑑別診断に用いられる。血漿アルギニン濃度はアルギナーゼ欠損症を除くすべてのUCDで減少し、一方、アルギナーゼ欠損症においては5~7倍の上昇を示す。血漿シトルリン濃度は、シトルリンが尿素サイクル上流部の酵素(OTC・CPSI)反応による生成物であり、また下流部の酵素(ASS・ASL・ARG)反応に対する基質であることから、上流の尿素サイクル異常と下流の尿素サイクル異常との鑑別に用いられる。尿中オロト酸測定は、CPSI欠損症・NAGS欠損症とOTC欠損症との判別に用いられる。肝生検が行われる場合もある。日本国内の尿素サイクル関連酵素の遺伝子解析は、研究レベルで実施可能である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確定診断後の治療は、それぞれのUCDの治療指針に従い治療を行う。各専門書もしくはガイドライン(EUおよび米国におけるガイドライン)が、インターネットで利用できる。日本国内では、先天代謝異常学会を中心として尿素サイクル異常症の診療ガイドラインが作られて閲覧可能である。専門医との連携は不可欠であるが、急性発作時には搬送困難な場合も多く、状態が安定しないうちには患児を移動せずに、専門医と連絡を取り合って、安定するまで拠点となる病院で治療に当たることが望ましい場合もある。■急性期の治療は、以下のものが主柱となる。1)血漿アンモニア濃度の迅速な降下を目的にした透析療法血漿アンモニア濃度を早急に下降させる最善策は透析であり、血流量を速くするほどクリアランスはより早くに改善される。透析方法は罹患者の病状と利用可能な機材による。具体的には、血液濾過(動脈‐静脈、静脈‐静脈のどちらも)、血液透析、腹膜透析、連続ドレナージ腹膜透析が挙げられる。新生児に対しては、持続的血液濾過透析(CHDF)が用いられることが多い。2)余剰窒素を迂回代謝経路により排出させる薬物治療法アンモニア生成の阻害は、L-アルギニン塩酸塩と窒素除去剤(フェニル酪酸ナトリウムと安息香酸ナトリウム)の静脈内投与により行われる。負荷投与後に維持投与を行い、初期は静脈内投与により行い、病状の安定に伴い経口投与へ移行する(投与量は各専門書を参照のこと)。フェニル酪酸ナトリウム(商品名:ブフェニール)は、2013年1月に処方可能となった。投与量は添付文書よりも少ない量から開始することが多い(上記、国内ガイドライン参照)。3)食物中に含まれる余剰窒素の除去特殊ミルクが、恩賜財団母子愛育会の特殊ミルク事務局から無償提供されている。申請が必要である。4)急性期の患者に対してカロリーは炭水化物と脂質を用いる。10%以上のグルコースと脂肪乳剤の静脈内投与、もしくはタンパク質を含まないタンパク質除去ミルク(S-23ミルク:特殊ミルク事務局より提供)の経鼻経管投与を行う。5)罹患者において、非経口投与から経腸的投与への移行はできるだけ早期に行うほうがよいと考えられている。6)24~48時間を超える完全タンパク質除去管理は、必須アミノ酸の不足により異化を誘導するため推奨されていない。7)神経学的障害のリスクの軽減循環血漿量の維持、血圧の維持は必須である。ただし、水分の過剰投与は脳浮腫を助長するため昇圧薬を適切に併用する。心昇圧薬は、投与期間と神経学的症状の軽減度には相関が認められている。※その他マンニトールは、尿素サイクル異常症に伴う高アンモニア血症に関連した脳浮腫の治療には効果がないと考えられている。■慢性期の管理1)初期症状の防止異化作用を防ぐことは、高アンモニア血症の再発を防ぐ重要な管理ポイントとなる。タンパク質を制限した特殊ミルク治療が行われる。必要ならば胃瘻造設術を行い経鼻胃チューブにより食物を与える。2)二次感染の防止家庭では呼吸器感染症と消化器感染症のリスクをできるだけ下げる努力を行う。よって通常の年齢でのワクチン接種は必須である。マルチビタミンとフッ化物の補給解熱薬の適正使用(アセトアミノフェンに比べ、イブプロフェンが望ましいとの報告もある)大きな骨折後や外傷による体内での過度の出血、出産、ステロイド投与を契機に高アンモニア血症が誘発された報告があり、注意が必要である。3)定期診察UCDの治療経験がある代謝専門医によるフォローが必須である。血液透析ならびに肝臓移植のバックアップが可能な施設での管理が望ましい。罹患者年齢と症状の程度によって、来院回数と調査の頻度を決定する。4)回避すべき物質と環境バルプロ酸(同:デパケンほか)長期にわたる空腹や飢餓ステロイドの静注タンパク質やアミノ酸の大量摂取5)研究中の治療法肝臓細胞移植治療が米国とヨーロッパで現在臨床試験中である。:国内では成育医療センターが、わが国第1例目の肝臓細胞移植を実施した。肝幹細胞移植治療がベルギーおよび米国で臨床試験中である。:国内導入が検討されている。6)肝臓移植肝臓移植の適応疾患が含まれており、生命予後を改善している(図4)。画像を拡大する4 今後の展望UCDに関しては、長い間アルギニン(商品名:アルギUほか)以外の治療薬は保険適用外であり自費購入により治療が行われてきた。2013年に入り、新たにフェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)が使用可能となり、治療の幅が広がった。また、海外では適用があり、国内での適用が得られていないそのほかの薬剤についても、日本先天代謝異常学会が中心となり、早期保険適用のための働きかけを行っている。このような薬物治療により、アンモニアの是正および高アンモニア血症の治療成績はある程度改善するものと考えられる。さらに、小児への肝臓移植技術は世界的にも高いレベルに達しており、長期合併症を軽減した手技・免疫抑制薬の開発、管理方法の改善が行われている。また、肝臓移植と内科治療の中間の治療として、細胞移植治療が海外で臨床試験中である。細胞移植治療を内科治療に併用することで、コントロールの改善が報告されている。5 主たる診療科小児科(代謝科)各地域に専門家がいる病院がある。日本先天代謝異常学会ホームページよりお問い合わせいただきたい。学会事務局のメールアドレスは、JSIMD@kumamoto-u.ac.jpとなる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(医療従事者向けのまとまった情報)尿素サイクル異常症の診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国尿素サイクル異常症患者と家族の会日本先天代謝異常学会 先天代謝異常症患者登録制度『JaSMIn & MC-Bank』公開履歴初回2013年12月05日更新2016年03月15日

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第27回

第27回:食事における栄養の「神話」は本当?監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 日々の食事は健康の維持やあらゆる疾患管理に重要な役割を持っています。そして、健康的な食事は罹患率や早期死亡の減少に関係しています。 今回は、微量栄養素(ビタミンやミネラル)、主要栄養素(炭水化物、タンパク質、および脂肪)、非栄養素、食物エネルギーに関しての「神話」とエビデンスの比較をみてみましょう。日常診療における食事指導の参考になれば幸いです。 タイトル:臨床における栄養療法の神話と食事指導についてNutrition Myths and Healthy Dietary Advice in Clinical Practice以下、American family physician 2015年5月1日号1) より◆「骨の健康のために集中的なカルシウム摂取が必要」骨折予防に対するカルシウムサプリメントの効果は限定的で、NNT=1,000(住民女性)、NNT=111(施設入所者)である(推奨レベルA)。また、腎結石のリスクを高め、心血管イベントや大腿骨頸部骨折を高めるかもしれない(推奨レベルB)。乳製品など自然食品は、骨の健康に関する利点は明らかでないものの、サプリメントと同様のリスクはもたらさないと思われる。◆「脂質は肥満につながり、心血管系に有害」高脂質食の摂取は、低脂質食やカロリー制限食の摂取と比較して、同等かそれ以上の体重減少を示す(推奨レベル A)。ultra-processed食品(過剰加工食品:甘味料や乳化剤などをわざわざ添加しすぐに食べられるようにした食品、保存肉など)は飽和脂肪酸が多く含まれており、心血管イベントや全死亡率の増加と関連している。一方、飽和脂肪酸を含む自然食品(乳製品など)は不慮の心血管疾患、2型糖尿病、肥満の減少と関連している(推奨レベルB)。◆「あらゆる食物繊維は有益である」自然の食物繊維を豊富に摂取すると、心血管イベントや糖尿病、便秘、消化器がん、乳がんの発症を抑制しうる。しかし人工的な食物繊維の有用性は示されていない(推奨レベルB)。◆「3,500カロリーは体重1ポンド(0.45kg)に相当する」1週間で3,500カロリー制限しても体重0.45kg減量するわけではない(推奨レベルC)。しかし1日100カロリー制限すれば、ほかに何をしなくても1年後には50%の人が、3年後には95%の人が体重4.5kg減少する(推奨レベルC)。ここに示した「神話」は微量栄養素、主要栄養素、非栄養素、エネルギーとして多くの栄養学、食品成分の評価に基づいているが、患者は食品成分ではなく食品として食べているということに注意が重要である。また、ultra-processed食品の消費量を制限し、できるだけ自然に近い形の加工食品の摂取が勧告されている。家庭医は、患者のために上記の神話を払拭し、実際の食品や広い食事パターンに着目してアドバイスを与えることが望ましい。※推奨レベルはSORT evidence rating systemに基づくA:一貫した、質の高いエビデンスB:不整合、または限定したエビデンスC:直接的なエビデンスを欠く※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Lesser LI, et al. Am Fam Physician. 2015;91:634-638.

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うつ病患者の予後に影響する生活習慣病

 肥満、メタボリックシンドローム(Mets)、地中海式ダイエットの低い順守率は、うつ病患者で頻繁にみられ、それぞれが予後と関連している。うつ病のアウトカムに対する、これらの要因の6、12ヵ月の予測力を分析するため、スペイン・バレアレス大学のRachel H B Mitchell氏らは、検討を行った。Journal of child and adolescent psychopharmacology誌オンライン版2016年1月19日号の報告。 273例のうつ病患者から、うつ症状評価のためにベックうつ病評価尺度と14項目の地中海式ダイエット順守スコアを収集した。Metsは、国際糖尿病連合(IDF)の基準に従って診断した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の地中海式ダイエット順守は、抑うつ症状と逆相関していた(p=0.007)。・うつ病への反応は、正常体重の患者(p=0.006)、非Mets患者(p=0.013)で高かったが、地中海式ダイエットの順守率との関連は認められなかった(p=0.625)。・Metsである肥満患者は、Metsでない肥満患者よりもうつ症状の改善傾向が低かった。・肥満やMets(ベースライン時における地中海式ダイエットの低い順守率を除く)は、12ヵ月時点でのうつ病の不良転帰を予測した。 結果を踏まえ、著者らは「肥満や食事よりむしろMetsが、うつ病の予後に対し負の影響を与える重要な要因であることが、本研究で示唆された。このことから、臨床医は、肥満うつ病患者(とくに治療成果が十分でない場合)におけるMets診断と治療について認識しておく必要がある」とまとめている。関連医療ニュース 女はビタミンB6、男はビタミンB12でうつリスク低下か MetSリスクの高い抗うつ薬は うつ病から双極性障害へ転換するリスク因子は

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「抗凝固薬の不使用」もTAVR後の弁圧較差増加の予測因子

 大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の使用は、急速に拡大しているが、TAVR後の大動脈弁圧較差の悪化についてのデータは限られている。TAVR後の1,521例のデータを解析した後ろ向き多施設共同研究が、Journal of The American College of Cardiology誌2016年2月号に報告された。 2007年5月から2014年10月までの間に、カナダやスペインなどの10施設で2,418例の患者がTAVRを受けた。術後に少なくとも2回(退院時と6~12ヵ月後)の経胸壁心エコーを受けた1,521例が対象。TAVR後の人工弁のピークフローは連続波ドップラーを用いて計測され、平均圧較差は修正ベルヌーイの式を使用した。絶対的な平均圧較差の変化は、最終フォローアップ時と退院時の差で計算し、年間の変化(mmHg/year)は絶対的な変化を時間で割って計算。弁血行動態の悪化は、フォローアップ期間中の10mmHg以上の平均圧較差の増加と定義された。TAVR患者の平均年齢は81±7歳、術前の平均圧較差は45.9±16.1mmHg、77.9%は径が23mmより大きい人工弁を使用 TAVR患者の平均年齢は81±7歳、術前の平均圧較差は45.9±16.1mmHg、左室駆出率(LVEF)の平均は55.6±14.4%であった。TAVRは、多くの患者において経大腿動脈アプローチで行われ、自己拡張型とバルーン拡張型の使用頻度はほぼ同様であった。77.9%の患者で、径が23mmより大きな人工弁が使用された。退院時に、半数以上の患者で抗血小板薬2剤併用療法が行われており、28%の患者でビタミンK阻害薬が投与されていた。すべての患者(1,521例)において6~12ヵ月の間に心エコーが行われ、625、258、129例の患者がそれぞれ、2、3、4年後の段階で心エコーを受けた。最後に行われた心エコーまでの期間は20±13ヵ月、平均のフォローアップ期間は28±16ヵ月。圧較差悪化(10mmHg以上)の予測因子は、抗凝固薬の不使用、valve-in-valve(外科的人工弁後のTAVR)、23mm以下の経カテーテル大動脈弁の使用、BMI高値 平均の経大動脈圧較差は、術前の45.9±16.1mmHgから9.96±5.37mmHg(退院時)に改善した。退院時からフォローアップ期間中の圧較差変化の絶対値は0.59±5.50mmHg(p<0.001)。年平均での変化は0.30±4.99mmHg/年(中央値:0.00 [IQR:-1.38~2.00])。多変量解析によると、弁圧較差の増加に有意に寄与する要因は、抗凝固薬の不使用、valve-in-valve(外科的人工弁後のTAVR)、23mm以下の経カテーテル大動脈弁の使用であった。VHD(退院時と比べて10mmHg以上の圧較差の増加)の頻度は、4.5%であり、1年後に起きた早期のVHDは2.8%であった。VHDが起きた患者に限定すると、平均圧較差は退院時の9.5±5.0mmHgから26.1±11.0mmHg に増加していた(p<0.0001)。VHDが認められた患者において、圧較差が20、30、40mmHg以上の患者はそれぞれ47例、15例、8例であった。これらの患者の傾向として、若年(p=0.022)、BMI高値(p<0.001)、径の小さい弁(p=0.038)、valve-in-valve(p=0.008)があり、また、人工弁患者不適合はより高率に認められ、抗凝固薬がTAVR後に使用されていない傾向にあった。 著者らはDiscussionで、圧較差の変化はすべての患者で一様に起きるわけではなく、VHDが認められない患者では有意な圧較差の変化は認められなかったとし、TAVR後のVHDは特定のグループの患者に起きるのではないか、と述べている。ただ、平均のフォローアップ期間も20ヵ月(最小は6ヵ月)であり、VHDの発生が過小評価されている可能性がある。TAVR後の特別な抗血栓療法でVHDの発生が減少するかどうかを確かめるには、大規模な前向き研究が必要であるとしている。

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妊娠後期のビタミンD補給で子供の喘鳴を予防できるか/JAMA

 母親が妊娠後半(妊娠7ヵ月以降)にビタミンD3を補給しても、生まれた子の持続性喘鳴のリスクは低下しないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学のBo L. Chawes氏らが行った単一施設での二重盲検無作為化比較試験で明らかとなった。この試験は、コペンハーゲン小児喘息前向きコホート研究2010(Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010 :COPSAC2010)の一環として行われたもの。これまで、観察研究において妊娠中のビタミンD摂取量増加により子の喘鳴を予防できる可能性が示唆されていたが、妊婦へのビタミンD投与による予防効果について検証はされていなかった。JAMA誌オンライン版2016年1月26日号掲載の報告。妊娠24週以降のビタミンD3補給、2,800IU/日と400IU/日を比較 研究グループは2009年3月4日~10年11月17日の間に、妊娠24週の妊婦623例を、ビタミンD3投与群(以下、ビタミンD群)(315例)と対照群(308例)に無作為に割り付けた。妊娠24週から出産後1週まで、全員にデンマークの保健機関が推奨している通常の妊婦管理としてビタミンD3 400IU/日を投与するとともに、ビタミンD群にはさらに2,400IU/日を投与、一方対照群にはプラセボを投与した(すなわち、本研究はビタミンD3の2,800IU/日投与と400IU/日投与を比較している)。 その後、出生児581例(ビタミンD群295例、対照群286例)を、少なくとも3歳まで追跡し、持続性喘鳴や呼吸器症状などについて調査した。持続性喘鳴は、既存の次のアルゴリズムに従って診断した。(1)生後6ヵ月以内に発作性の呼吸器症状(咳嗽、喘鳴、呼吸困難)が5回/日以上3日以上継続、(2)喘息特有の症状、(3)気管支拡張薬の間欠的使用、(4)ステロイド吸入の3ヵ月間の試験的導入による奏効と吸入中断による再発。持続性喘鳴の発症リスクに両用量で差はなし 3歳までに持続性喘鳴と診断されたのは、ビタミンD群47例(16%)、対照群57例(20%)の計104例(18%)であった。 ビタミンD3投与は持続性喘鳴の発症リスクと関連していなかったが(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.52~1.12、p=0.16)、繰り返す発作性の呼吸器症状の発現リスクについては有意な低下が認められた(平均発現件数ビタミンD群5.9 vs.対照群7.2、発現リスク比[IRR]:0.83、95%CI:0.71~0.97、p=0.02)。3歳時の喘息者数、上気道感染症または下気道感染症の発症などにビタミンD3投与の影響はみられなかった。 また、子宮内胎児死亡はビタミンD群1例(<1%) vs.対照群3例(1%)、先天性奇形はそれぞれ17例(5%) vs.23例(8%)であった。 なお、本研究は主要評価項目に関する統計的検出力が低く、著者は「ビタミンD3補給の有用性を立証するには、さらに大規模な、高用量および早期介入による臨床試験が必要」とまとめている。

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悪性胸膜中皮腫へのシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法(解説:小林 英夫 氏)-478

 悪性胸膜中皮腫は早期発見が困難で、診断時点では進行期である症例が大多数を占める。2003年のVogelzang 氏らの報告に基づいて、ペメトレキセドが世界初の悪性胸膜中皮腫治療薬として米国で承認され、わが国でも2007年に薬価収載された。現在、悪性胸膜中皮腫標準化学療法はペメトレキセド+シスプラチン併用と認識されている。しかし、その治療成績は必ずしも満足できるレベルには到達しておらず、胸膜肺全摘除術や片側全胸郭照射などを組み合わせたマルチモダリティー療法などが検討されている。 こうした中、中皮腫において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆され、2010年以降いくつかの試験が実施された。そこで、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬ベバシズマブの上乗せ効果について、Zalcman氏らによる本検討(第III相試験)が実施された。その結果、彼らは「循環器系の有害事象が増えるものの予想範囲内のものであり、ベバシズマブ上乗せは全生存期間(OS)を有意に改善する」とまとめている。Appendixを閲覧すると循環器系有害事象のほとんどは高血圧であった。 本研究デザインは、フランスの73病院において、18~75歳の切除不能悪性胸膜中皮腫、化学療法未治療、Eastern Cooperative Oncology Group PSスコア0~2、重大な心血管疾患の併存なし、CTで評価可能病変が少なくとも1つあり、余命12週超の症例が対象である。除外基準は、脳転移、抗血小板薬使用中、ビタミンK拮抗薬・ヘパリン・非ステロイド性抗炎症薬の投与中などであった。被験者は、ペメトレキセド+シスプラチン+ベバシズマブ投与のPCB群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与するPC群に無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで投与した。主要アウトカムはOSである。 計448例が無作為化され、PCB群223例、PC群225例、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型中皮腫81%であった。6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムであるOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。なお、PFS(無増悪生存)もPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象は、PCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%]vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。 これまで進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン療法効果は、OS中央値は約12ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値は約6ヵ月、とされていた。抗血管新生治療の上乗せ効果は期待できそうだが、それでも5年生存率は20%弱であり、さらなる検討が望まれる。また、血清VEGF値により治療効果に差が生じる可能性も示唆されており、今後、中皮腫のバイオマーカーとして活用していくことも考慮される。 悪性胸膜中皮腫の臨床試験は、現在本邦で4試験が実施されている。免疫チェックポイント阻害薬トレメリムマブ、がん抑制遺伝子アデノウイルスベクター、シスプラチン+ペメトレキセド+Napabucasin、アネツマブ・ラブタンシン、の第I、II相試験であり、どのような結果が得られるのか注視していきたい。なお、胸膜腫瘍WHO分類は2015年に改訂され、Journal of thoracic oncology誌2016年2月号(オンライン版2015年12月22日号)1)で発表されている。

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統合失調症発症にビタミンDがどう関与しているのか

 統合失調症とビタミンDとの関連について、米国・マサチューセッツ医科大学のMathew Chiang氏らが臨床レビューを行った。Evidence-based mental health誌2016年2月号の報告。・ビタミンDがカルシウムのホメオスタシスおよび骨の健康において、重要な役割を担っていることは知られている。・ビタミンDは、日光によるUVB照射により皮膚から内因的に生成される。そして、ビタミンDは現在、脳の発達や正常な脳機能に重要な役割を有する強力な神経ステロイドホルモンであると考えられており、その抗炎症特性は、ヒトの健康のさまざまな側面に影響を与えることが知られている。・ビタミンDリガンド受容体(ビタミンDの生理学的作用の多くを仲介する受容体)は、中枢神経系を含む身体全体で見つかっている。・ビタミンD欠乏は、統合失調症など重篤な精神疾患を有する患者で一般的に認められる。・統合失調症のいくつかの環境リスク因子(誕生した季節、緯度、移住)は、ビタミンD欠乏症と関連付けられる。そして、最近の研究では、統合失調症の発症におけるビタミンDの潜在的な役割が示唆されている。たとえば、新生児のビタミンDの状態と、その後の肥満やインスリン抵抗性、糖尿病、脂質異常症および心血管疾患の発症リスクとの関連が、統合失調症患者でよく認められている。ビタミンD欠乏が、これら代謝の問題に関連していることは明らかになっている。・生物学的メカニズムは、炎症の調節や免疫プロセスにおけるビタミンD作用と関連しており、その結果、臨床症状の発現や統合失調症の治療反応に影響する。・ビタミンD補充の潜在的なベネフィットとして、統合失調症症状の改善および統合失調症患者の身体的健康についても、今後の研究で検討されるべきである。関連医療ニュース 統合失調症、ビタミンD補充で寛解は期待できるか 女はビタミンB6、男はビタミンB12でうつリスク低下か EPA、DHA、ビタミンDは脳にどのような影響を及ぼすか

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妊娠中のビタミンD補充は子供の喘息予防に有効か/JAMA

 出生後の子供の喘息リスクが高い妊婦では、ビタミンDの補充により妊娠後期のビタミンD値が有意に上昇したが、子供が3歳までに喘息または再発喘鳴を来すリスクは低下傾向を認めたものの有意ではなかったとの研究成果を、米国ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のAugusto A Litonjua氏らが、JAMA誌2016年1月26日号で報告した。喘鳴は出生から数週で始まり、その発生に関与する出生前の決定因子の存在が示唆されている。ビタミンDは、胎児期~出生後早期の肺および免疫系の発育に影響を及ぼし、妊娠期のビタミンDの欠乏は早期の喘息や喘鳴の発症に重要な役割を果たしている可能性があるという。妊婦へのビタミンD投与による子供の喘息予防効果を評価 研究グループは、妊娠中のビタミンD3(コレカルシフェロール)の栄養補助薬の使用による、幼児の喘息関連疾患の予防効果を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化試験(VDAART試験)を実施した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 対象は、年齢18~39歳の非喫煙者で、妊娠期間10~18週と推定される女性で、自身または子供の生物学的父親が喘息や湿疹、アレルギー性鼻炎の既往歴を有するものとした。 被験者は、ビタミンD 4,000IU+ビタミンDを400IU含む妊婦用マルチビタミン薬(4,400IU群)、またはプラセボ+ビタミンDを400IU含む妊婦用マルチビタミン薬(400IU群)を、それぞれ毎日投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、3歳までの医師の診断による喘息または再発喘鳴(質問票で3ヵ月ごとに親に確認)と、妊娠後期の母親の25-ヒドロキシビタミンD≧30ng/mLの達成の複合アウトカムとした。 2009年10月~11年7月に、米国の3施設(ボストン医療センター、ワシントン大学セントルイス校、カイザーパーマネンテ南カリフォルニア)に876人の妊婦が登録され、ビタミンD 4,400IU群に440人、400IU群には436人が割り付けられた。最後の子供のフォローアップは2015年1月に終了した。喘息/再発喘鳴リスクが6.1%低下、検出力不足の可能性も ベースラインの平均年齢は、4,400IU群が27.5歳、400IU群は27.3歳で、妊娠期間はそれぞれ14.1週、14.2週であり、25-ヒドロキシビタミンD値は23.3ng/mL、22.5ng/mLであった。 810人の子供が誕生し、3歳までのアウトカムの評価は806人(4,400IU群:405人[男児:200人]、400IU群:401人[220人])で行われた。 218人の子供が喘息または再発喘鳴を発症した。このうち4,400IU群の発症率は24.3%(98人)であり、400IU群の30.4%(120人)に比べ低い傾向が認められた(ハザード比[HR]:0.8、95%信頼区間[CI]:0.6~1.0、p=0.051)。 妊娠後期の平均25-ヒドロキシビタミンD値は、4,400IU群が39.2ng/mLであり、400IU群の26.8ng/mLよりも有意に高値であった(平均差:12.4ng/mL、95%CI:10.5~14.3、p<0.001)。≧30ng/mLの達成率は、それぞれ74.9%(289人)、34.0%(133人)であり、4,400IU群で有意に優れた(差:40.9%、95%CI:34.2~47.5、p<0.001)。 3歳までに発症した皮疹を伴う湿疹(4,400IU群:21% vs. 400IU群:23%、p=0.56)と下部気道感染症(31.9 vs. 34.2%、p=0.07)、3歳時の総IgE値(幾何平均:29.3 vs. 37.3、p=0.08)に有意な差はなかったが、特異的IgE抗体検査の陽性率(10.7 vs.12.4%、p=0.02)は4,400IU群で有意に低かった。 両群間の重篤な有害事象の発現頻度に差はなく、ビタミンDに起因する有害事象は認めなかった。母親に、ビタミンD治療による高カルシウム血症はみられなかった。 著者は、「本試験は検出力が十分でない可能性が示唆された。得られた知見の臨床的な意義を解明するために、長期のフォローアップを継続中である」としている。

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アピキサバンのVTE再発予防 効果と安全性に加え利便性に期待

 ブリストル・マイヤーズ株式会社とファイザー株式会社は2016年1月27日、プレスセミナー「静脈血栓塞栓症(VTE)治療の変遷と最新動向」を開催した。その中で、中村真潮氏(三重大学 客員教授、村瀬病院 副院長/肺塞栓・静脈血栓センター長)は下記のように述べた。 本邦における静脈血栓塞栓症(以下、VTE)は増加しており、今後もさらに増加すると予測される。しかしながら、VTEの認知度は欧米に比較して低い。さらに診断の難易度が高いこともあり、診断率も低い。 VTE治療の基本は薬物療法である。従来の標準療法は、迅速に効果を発揮する未分画へパリンを発症後から投与し、5日目からワルファリンを追加、その後ワルファリンの単独治療に移行する。しかし、薬物療法を行っても、VTEの再発は経時的に一定に起こる、とくに急性期の発現は顕著であり、それには急性期に投与する未分画ヘパリンのコントロールの難しさが一因となっている可能性もある。一方、ワルファリンの抗血栓効果は高く、投与を中止するとVTEの発症率は上昇する。長期間継続したいが、その場合、出血合併症が問題となっている。とくにアジア人の脳出血の発生率は高い。そのため、投与期間は個々の患者状態で判断しているのが現状である。このように課題が残る中、導入がシンプルで、出血が少なく長期間使える薬剤の登場が望まれてきた。 近年、NOAC(非ビタミンK阻害経口抗凝固薬)によるVTE2次予防のエビデンスが集積され、保険適応も追加されてきた。FXa阻害薬であるアピキサバン(商品名:エリキュース)も2015年12月、「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症)の治療および再発抑制」の適応が追加承認された。 アピキサバンのVTEに対する効果と安全性は、海外第III相試験「AMPLIFY」で確認されている。AMPLIFYは急性症候性VTE患者を対象に、アピキサバン単独投与群と低分子ヘパリン/ワルファリン投与群を比較した試験である。主要有効性評価項目である、症候性VTE再発またはVTE関連死については、低分子ヘパリン/ワルファリン投与群に対して非劣性を示し(2.3%対2.7%、HR:0.84、95%CI:0.60~1.18)、主要安全性評価項目である大出血発現率については、優越性を示している(0.6%対1.8%、HR:0.31、95%CI:0.17~0.55)。また、本邦で行われたAMPLIFY-J試験においても、例数は少ないながらも、主要評価項目である大出血または臨床的に重篤な非大出血発現率は、未分画ヘパリン/ワルファリン投与群と比較して少ないという結果が出ている。 中村氏はまとめとして、アピキサバンはVTE治療において、標準療法と同等の効果を示し、出血に関する安全性を向上させた。また、内服のみで治療できることから、外来症例や軽症例についても介入しやすくなるであろう、と述べた。

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うつ病既往で感染症リスク増加

 予備的研究では、うつ病とその後の感染症リスク増加との関連が示唆されている。デンマーク・オーフス大学のNiklas W Andersson氏らは、うつ病とさまざまな感染症リスクとの関連を、時間的関係や用量反応関係も含み調査した。International journal of epidemiology誌オンライン版2015年12月26日号の報告。 97万6,398人のプロスペクティブな住民ベースの研究より、1995~2012年にうつ病を経験した14万2,169例を、デンマークレジストリと関連付けて調査した。性別や年齢を調整し、非うつ病者と比較した、うつ病患者における感染症の相対リスクを推定するために生存分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・うつ病は、広範囲の感染症リスク増加と関連していた(罹患率比 [IRR]:1.61、95%CI:1.49~1.74、p=0.000、任意の感染症において)。・特定の時間的影響のエビデンスはなかったが、うつ病発症後の感染症の全般的なリスク増加は、発症後の最初の1年間(IRR:1.67、95%CI:1.25~2.22、p=0.000)からその後11年以上(IRR:1.61、95%CI:1.39~1.85、p=0.000)、上昇したままであった。・用量反応分析は、単一うつ病エピソードで感染症リスクが59%増加し(IRR:1.59、95%CI:1.45~1.75、p=0.000)、4つ以上のうつ病エピソードではさらに増加した(IRR:1.97、95%CI:0.92~4.22、p=0.082)。・しかし、結果は完全な線形的な相関を示すものではなかった。 結果を踏まえ、著者らは「本調査結果より、うつ病の存在が感染症リスクの増加と関連しており、このことはうつ病発症後の特定の期間に限定されるわけではないことが示唆された。用量反応関係も存在すると考えられるが、うつ病と感染症リスクとの関連を確認するためのさらなる検討が必要である」とまとめている。関連医療ニュース うつ病のプラセボ効果、そのメカニズムとは ビタミンDによるうつ症状軽減の可能性は 女はビタミンB6、男はビタミンB12でうつリスク低下か

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女はビタミンB6、男はビタミンB12でうつリスク低下か

 カナダの聖フランシスコ・ザビエル大学のL Gougeon氏らは、地域在住の健康な高齢男女について、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の摂取量と3年間のうつ病発症率との関連を調べた。その結果、食物からのビタミンB6摂取量が多い女性とビタミンB12摂取量が多い男性は、うつ病の発症リスクが低いことを報告した。European Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2015年12月9日号の掲載報告。 本検討は、Quebec Longitudinal Study on Nutrition and Aging(NuAge)に参加し、ベースラインでうつ病を認めなかった住民(30項目の高齢者用うつ尺度[GDS]のスコアが11未満)を対象とし、年1回、うつ病の発症(GDSスコア11以上)、または抗うつ薬治療の状況を調べた。ベースラインで実施した3回の「24時間思い出し法」による非連続的調査の平均値から摂取量(食物のみ・食物+サプリメント)の三分位値を求めた。性別で層別化した多変量ロジスティック回帰モデルは、年齢、身体活動度、身体機能、ストレスのかかる出来事、総エネルギー摂取量で調整を行い、うつ病との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・被験者は1,368人、74±4歳、女性50.5%であった。・3年間に170人がうつ病と診断された。・食物からのビタミンB6摂取量が最高三分位値の女性は、人口動態学的および健康要因を調整後、うつ病を発症する確率が43%低かった(多変量オッズ比[OR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.39~0.96)。ただし、エネルギー摂取量で調整後、影響は減弱した。・食物からのビタミンB12摂取量が最高三分位値の男性では、うつ病リスクが低かった(エネルギー量調整後の多変量OR:0.42、95%CI:0.20~0.90)。・このほかに、関連性を示すデータは得られなかった。・検討により、食物からのビタミンB6摂取量が多い女性においてうつ病リスクの低下を示すエビデンスが示されたが、総エネルギー摂取量に依存するものであった。・一方、食物からのビタミンB12摂取量が多い男性では、エネルギー摂取量にかかわらずうつ病リスクの低下がみられた。(鷹野 敦夫)精神科関連Newsはこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/archive/news 

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サン・アントニオ2015 レポート-1

レポーター紹介はじめに2015年SABCSは12月4日から8日までの会期で開催された。外は比較的暖かく、過ごしやすい気候であった。基礎的な内容も口演で多く取り上げられ、難しい内容のものも多くあったが、私たちの臨床を変える、あるいは臨床的に意義のある発表も多く、個人的には久しぶりに充実感があった。最初の話題は何と言っても、京都大学の戸井 雅和先生が口演で発表された、日本と韓国共同で行われた第III相試験CREATE-X(JBCRG-04)の結果であろう。HER2陰性乳がんに対して術前化学療法(アントラサイクリン、タキサン、あるいはその組み合わせ)後に手術を行ってnon-pCRであった場合に、術後標準治療を行う群とカペシタビン8サイクル(2,500mg/m2/day、day1~14、repeat every 3 weeks)を上乗せする群に割り付けて、予後をみたものである。適格基準はStageI~IIIBと広く、年齢も20~74歳と幅がある。計910例を各群455例ずつに割り振り5年間経過観察した。ホルモン受容体陽性が約60%で、リンパ節転移が残存していたのは約60%であった。術前化学療法としてはA-Tを逐次投与したものが約80%を占め、5-FUは約60%の症例で使われていた。カペシタビンを8サイクル規定投与量で継続できたのは37.9%、減量し継続できたのは37.1%、中止は25%であった。カペシタビン群の有害事象として、下痢は3.0%と低く、手足症候群は全グレードで72.3%、Grade3は10.9%に認められた。5年無再発生存率はカペシタビン群74.1%、コントロール群67.7%(p=0.00524)、5年全生存率も89.2%対83.9%(p<0.01)と有意にカペシタビン群で良好であった。サブグループ解析では、どのグループでもカペシタビン群で良好な傾向であった。ホルモン受容体の有無によらなかったが、陰性でより効果が高い傾向にはあった。正式に論文化されるのを待ちたいが、術前化学療法後に腫瘍が残存しステージが高く、予後不良な乳がんに対して有効な治療であることは間違いなさそうであり、どのように実臨床に取り込んでいくか議論が必要だろう。また、毒性の程度が日本人と異なる欧米で、どの程度受け入れられるかも注目されるところである。ルミナルA乳がんは一般に予後良好で、早期であれば全身治療は内分泌療法単独で良いと一般的に考えられている。DBCG77B無作為化比較試験から、ハイリスクのルミナルA乳がんを選択し予後を比較した結果が報告された。DBCG77B試験は腫瘍径5cm以上またはリンパ節転移陽性の閉経前乳がんに対し、classic CMF(C:130mg/m2)、oral cyclophosphamide(130mg/m2、2週投与2週休薬、12サイクル)、levamisole、化学療法なしの4群に分けて予後をみたものであるが、前2群はlevamisole群や化学療法なし群と比較して25年全生存率を改善している (Ejlertsen B, et al. Cancer;116:2081-2089.)。classic CMFに関しては、2014年SABCSレポート(NSABP B-36:リンパ節転移陰性乳がんにおいて6サイクルのFECと4サイクルのACを比較する無作為化第III相試験)を参照してほしい。ルミナルAの定義は免疫染色でER陽性、PR 20%以上、Ki67 13%以上、CK5/6陰性、EGFR陰性とした。 今回の研究では、1,146例のうち633例で免疫染色結果が利用でき、165例がルミナルAに分類された。633例の特徴は1,146例全体と比べN+例の比率がやや高く、化学療法施行例がわずかに多かった。浸潤がんの10年無再発生存率は、非ルミナルAでは化学療法の効果が明らかであったのに対し、ルミナルA群ではまったく差がなかった(化学療法あり134例、なし31例)。25年全生存率も同様であった。非ルミナルAのうちHER2タイプでは浸潤がんの10年無再発生存率に全く差がなく、HER2陽性乳がんにおけるCMFの効果の弱さを裏付けるものであった。DBCG77Bはかなり古い試験であり、内分泌療法が行われていないなどいくつかの問題点はある。しかし、ルミナルAはリンパ節転移陽性であっても、化学療法のベネフィットがないということはリーズナブルな結果と考えられる。現在NCCNガイドラインによれば、オンコタイプDxもリンパ節転移陽性(1~3個)に対して適応しうることが記載されており、低リスクに対しては化学療法のベネフィットが得られないだろうと考えられるようになっている。また、乳がんサブタイプとオンコタイプDxの再発リスクの間には強い相関もあり、私自身はこの結果にとくに驚くものではない(Fan C, et al. N Engl J Med. 2006;355:560-569.)。むしろDBCG77B試験をあらためて読み、classic CMFとoral cyclophosphamideの間に差がないことのほうが驚きであった。本邦では、再発乳がんにおいてoral cyclophosphamideと5-FU系薬剤との併用の有効性が検討され、5-FU系薬剤の効果がむしろ強調されてきたが、実はoral cyclophosphamideのほうがより重要なのかもしれない。デジタルマンモグラフィが2Dであるのに対して、トモシンセシスは3Dマンモグラフィである。2D に3Dを加えることにより、2D単独と比較して浸潤がんの発見が40%増加し、疑陽性率が15%低下することが報告されており(Skaane P, et al. Radiology. 2013;267:47-56.)、他の研究も同様の結果となっている(Ciatto S, et al: Lancet Oncol. 2013;14:583-589、Friedewald SM, et al. JAMA.2014;311:2499-2507)。しかし、3Dを加えることで、被曝量の増加(約2倍)、圧迫時間の延長(ただし圧迫圧は減少)、装置のコスト、装置の耐久性、トレーニング、読影時間の延長が問題となる。そこで3Dから擬似的に合成した2D画像(合成2D)により(3Dは選択して読影)、読影時間の問題を解決するか試みた研究が英国から報告された。2,589乳房のうち280乳房のみが3D読影を必要とした。3D読影を行わないことにより、10乳房のM3と1乳房のM4を見逃したのみであり、そのうち乳がんであったのは2乳房のみであった。研究の限界としては、経験豊富な放射線科医1名の読影であり、スクリーニングの場面ではないことがある。しかし、見落としを最小限にしながら読影時間を短縮するのに、合成2Dは有用な方法と考えられる。臨床の現場では、通常のマンモグラフィ検診で要精査とされた中に疑陽性(とくにFAD)が多いことに驚く。患者はそのことにより、夜も眠れず不安を抱えて病院を受診する。超音波検診も含めて、疑陽性を極力減らすための努力が必要である。ビスホスホネート製剤は閉経後乳がんに対する遠隔再発、骨転移を減らし、乳がんによる死亡率を低下させることが、Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)のメタ分析から示されている(参照)。今回は、デノスマブの生存率向上効果がABCSG-18試験(オーストリアとスウェーデン)によって示された。ホルモン受容体陽性閉経後乳がんにおいて術後補助療法として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬と共に6ヵ月ごとにデノスマブを60mg投与する群とプラセボ群に分け、3,425例が無作為に割り付けられた。デノスマブの投与期間は規定されていない。おそらく5年程度は使用されているのだろう。結果として、無再発生存期間はデノスマブ群でわずかに高かった(p=0.0510)。サブグループ解析では、腫瘍径2cm以上ではより明らかであった(p=0.0419)。これは、より再発率の高いグループで効果が明瞭になるということだろう。顎骨壊死は1例もなかったが、これは特筆すべきである。本試験のプロトコルには、治療開始前や治療中の予防的な口腔ケアについては何ら記載されていない。顎骨壊死がなかった理由として、投与量が少ないためか、6ヵ月ごとの投与ではほとんど問題にならないのか、あるいはオーストリアやスウェーデンでは口腔ケアが当たり前になっているのか不明である。また、治療期間中カルシウムとビタミンDの服用を強く推奨するという記載にとどまっていて規定にはなっていないようだが、重篤な低カルシウム血症も起きていないようである。ただし、このあたりも、臨床で使用する際には一応注意はしておいたほうが良いだろう。閉経後乳がんにおいては、進行度の高いほど骨標的療法の生存率への効果が高いと考えられ、実臨床でも考慮すべき時期になったといえる。

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中皮腫の初回治療、ベバシズマブ上乗せでOS延長/Lancet

 悪性胸膜中皮腫の初回治療について、標準療法であるシスプラチン+ペメトレキセドの併用療法へのベバシズマブの上乗せは、全生存期間(OS)を有意に改善することが、フランス・カーン大学のGerard Zalcman氏らによる第III相の非盲検無作為化試験の結果、示された。毒性効果として循環器系の有害事象が増えるものの、著者は、「予想の範囲内のものであり、ベバシズマブの上乗せは適切な治療と見なすべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年12月21日号掲載の報告。標準初回治療への上乗せ効果を無作為化試験で検討 悪性胸膜中皮腫は進行が早く予後は不良で、職業性のアスベスト曝露との関連が知られている。初回治療は、シスプラチン+ペメトレキセドの併用療法とされているが、その適用はシスプラチン単独との比較でOS中央値12.1(ビタミンB12、B9服用群では13.3) vs.9.3ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値5.7 vs.3.9ヵ月のデータに基づく。また、進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン併用療法の第II相の試験で示された結果は、OS中央値12.7ヵ月、PFS中央値6.5ヵ月であった。 こうした中、先行研究で、中皮腫細胞の病態生理において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆されたことから、研究グループは、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬が効果を示すのではないかと本検討を行った。 試験は、フランスの73病院から被験者を集めて行われた。18~75歳、切除不能の悪性胸膜中皮腫で化学療法未治療、全身状態はEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)スコアで0~2、重大な心血管疾患の併存はなく、CTで評価が可能な病変(胸水)または測定可能な病変(胸膜肥厚)が少なくともいずれか1つあり、余命は12週超の患者を対象とした。除外基準は、中枢神経系への転移あり、抗血小板薬(アスピリン325mg/日以上、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)を使用、ビタミンK拮抗薬を有効量使用、低分子量ヘパリンを有効量使用、非ステロイド性抗炎症薬の投与を受けている、であった。 被験者を、ペメトレキセド(500mg/m2)+シスプラチン(75mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)の静注投与(PCB)群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与する(PC)群に1対1の割合で無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで行った。なお、無作為化には最小化法を用い、患者を組織学的(上皮型 vs.肉腫型、または混在型)、全身状態(ECOGスコア0~1 vs.2)、試験病院、喫煙状態(非喫煙 vs.喫煙)で層別化した。 主要アウトカムはOS。intention-to-treat解析にて評価した。OSが有意に延長、18.8ヵ月 vs.16.1ヵ月 2008年2月13日~14年1月5日に、計448例の患者を無作為化した(PCB群223例[50%]、PC群225例[50%])。被験者は、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型81%、ECOGスコア0~1が97%、喫煙者57%などであった。 6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムのOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べてPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。 なお、PFSもPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象の報告は、全体ではPCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%] vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。

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ビタミンDによるうつ症状軽減の可能性は

 大うつ病性障害(MDD)患者に対する8週間のビタミンD投与は、プラセボと比較してうつ症状を改善し、インスリン抵抗性や酸化ストレスに対しても好影響を及ぼすことが、イラン・カシュハン医科大学のZahra Sepehrmanesh氏らによる無作為化二重盲検試験の結果、報告された。ビタミンDについては、神経伝達物質、代謝プロファイル、炎症性バイオマーカーおよび酸化ストレスに有益な影響を及ぼし、うつ症状を軽減させる可能性が示唆されていた。The Journal of nutrition誌オンライン版2015年11月25日号掲載の報告。 研究グループは、MDD患者へのビタミンD投与が、うつ症状、代謝プロファイル、血清中高感度C反応性蛋白(hs-CRP)、酸化ストレスのバイオマーカーを減少させうるか否かを評価する、無作為化プラセボ対照二重盲検試験を実施した。被験者は、DSM診断基準でMDDと診断された18~65歳の患者40例。ビタミンD 1カプセル(50kIU)/週群(20例)またはプラセボ群(20例)に無作為に割り付け、8週間投与した。 ベースラインと介入後に、空腹時血液サンプルを採取し、関連項目を測定した。主要アウトカムは、ベックうつ病評価尺度(BDI)で評価したうつ症状とした。副次的アウトカムは、グルコースホメオスタシス変数、脂質プロファイル、hs-CRP、酸化ストレスのバイオマーカーなどであった。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおいて、2群間の平均血清25-ヒドロキシビタミンD濃度は、有意な差が認められた(それぞれ9.2±6.0、13.6±7.9μg/L、p=0.02)。・介入8週後における血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の変化は、ビタミンD群(+20.4μg/L)のほうが、プラセボ群(-0.9μg/L)と比べて有意に大きかった(p<0.001)。・ビタミンD群はプラセボ群に比べ、BDIのより大幅な減少傾向が認められた(それぞれ-8.0、-3.3、p=0.06)。・ビタミンD群とプラセボ群の間で、血清インスリン変化(-3.6 vs.+2.9μIU/mL、p=0.02)、ホメオスタシスモデルで推定したインスリン抵抗性(-1.0 vs.+0.6、p=0.01)、同推定のβ細胞機能(-13.9 vs.+10.3、p=0.03)、血漿中総抗酸化能(+63.1 vs.-23.4mmol/L、p=0.04)、グルタチオン(+170 vs.-213μmol/L、p=0.04)について有意差が認められた。(鷹野 敦夫)精神科関連Newsはこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/archive/news

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第26回

第26回:胃食道逆流症~診断に内視鏡検査は必要?~監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 日常よく遭遇する胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;以下GERD)ですが、とくに、少し前から始まったCMの影響もあり、相談に来られる方がいらっしゃいます。今まで私は漫然とプロトンポンプ阻害薬 (Proton Pump Inhibitor;以下PPI)を処方することが多かったのですが、この論文を読んで手術の適応はどうか、バレット食道はどうマネジメントするかなど、深い知識を得ることができました。 以下、American Family Phisician 2015年5月15日号1) より(要約)どのPPIも有効である。びらん性GERDに関しては、esomeprazoleがやや差がある。症状がない場合、内視鏡による診断は必要ないが、50歳以上で5年以上GERDの症状がある患者に対しては、バレット食道のスクリーニングをするために内視鏡を施行すべきである。どのPPIも有効であるが、1つのメタアナリシスによると、esomeprazole(商品名:ネキシウム)が他のPPIに比べびらん性(erosive)GERDに対して有効であった(NNT25)。PPIに反応しない場合は、1日1回を2回にしたり、別のPPIに変更することもある。内服のタイミングは食事の30~60分前に行うことを勧める。GERD自体に内視鏡的な診断は必ずしも必要ない。アラームサイン(体重減少、貧血、出血、閉塞、嚥下障害、内服にもかかわらず症状の持続)がある場合や50歳以上は、内視鏡的な診断を考慮すべきである。アラームサインがなければ、胸やけ、逆流症状のみで診断して良い(もし問診に妥当性を持たせたければGastroesophageal Reflux Disease Questionnaire、Danish prediction scoreがある)。その後、4~8週間のPPIをトライして改善を認めなければ内視鏡を考慮してもよい。慢性の逆流性食道炎を持つ方の10%にバレット食道が存在すると言われている。ただし、それらが食道がんに発展する割合は低い(年率0.12~0.33%)。ある観察研究によると、バレット食道のスクリーニングは生存率の向上に寄与しなかったとされる。バレット食道のリスクファクターとしては、タバコ(オッズ比[OR] 51.4)、肥満(BMI ≧30、OR 34.4)、家族歴、severeな食道炎の既往が挙げられる。PPIが使用できない方、最大量のPPIでも改善しない方に関しては手術が考慮される。3年以上胸やけが続く患者においては、手術のほうが費用対効果が高く、高いQOLが得られる。手術がバレット食道を改善するかはわかっていない。GERDの患者にルーチンにピロリの検査を勧めるのは、十分なエビデンスがない。あるメタアナリシスにおいても、GERD症状の改善はピロリ除菌後も認めなかった。逆に、別のメタアナリシスでは、胃潰瘍の除菌後にびらん性GERDが有意に増加したという報告もある(OR 2.04、CI:1.08~3.85)。PPIの長期連用は、低マグネシウム血症(OR 3.79)、大腿骨頸部骨折、クロストリジウム・ディフィシル感染症、ビタミンB12欠乏症、市中肺炎のリスクになりうる。最近は薬剤起因性腸炎のリスクになりうるとして話題になっている。PPIは適切な診断の下、最小限の期間、最小限の用量で治療を行うべきである。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) William D, et al. Am Fam Physician. 2015;91:692-697

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ADHD発症にトリプトファンが関連か

 ノルウェー・ベルゲン大学のTore Ivar Malmei Aarsland氏らは、成人の注意欠如・多動症(ADHD)とトリプトファンおよびその代謝物の血清中濃度との関連を検討した。その結果、トリプトファン、キヌレン酸、キサンツレン酸、3-ヒドロキシアントラニル酸などの血清中濃度低値、およびコチニンの血清中濃度高値がADHDと有意に関連していたことを報告した。必須アミノ酸のトリプトファンは、主にキヌレニン経路によって異化される。一方で、慢性炎症状態およびうつ病や統合失調症などいくつかの神経精神障害において、循環血中キヌレニン濃度に変化が認められるとの報告があり、また候補遺伝子研究により、キヌレニン異化に関連する遺伝子とADHDとの関連が示唆されていた。さらに、ADHD患者はうつ病や不安をしばしば併存していることが報告されており、研究グループは、ノルウェーの成人ADHD患者および成人対照における血清キヌレニン濃度を検討した。Behavioral and Brain Functions誌2015年11月号の掲載報告。 成人ADHD患者133例と成人対照131例(18~40歳)において、トリプトファンおよび7種類のトリプトファン代謝物であるキヌレニン、キヌレン酸、アントラニル酸、3-ヒドロキシキヌレニン、キサンツレン酸、3-ヒドロキシアントラニル酸、キノリン酸の血清中濃度を比較した。リボフラビン(ビタミンB2)、総ビタミンB6およびニコチン代謝物コチニンについても測定した。質量分析法により血清サンプルを分析。患者および対照は、併存疾患と過去(幼少期)および現在のADHD症状について、Wender Utah Rating Scale(WURS)およびAdult ADHD Self-report Scale(ASRS)を用いて報告した。各代謝物の血清濃度別に、ADHD診断に対するオッズ比をロジスティック回帰により算出。さらに、スピアマン相関分析を用いて、トリプトファンおよびキヌレニンの血清中濃度とADHD症状スコアとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・トリプトファン(オッズ比:0.61、95%信頼区間:0.45~0.83)、キヌレン酸(0.73、0.53~0.99)、キサンツレン酸(0.65、0.48~0.89)、3-ヒドロキシアントラニル酸(0.63、0.46~0.85)の血清中低濃度、およびコチニン(7.17、4.37~12.58)の血清中高濃度は、いずれもADHDと有意に関連していた。・トリプトファン濃度で補正後、3-ヒドロキシアントラニル酸とコチニンのみ有意な関連がみられた。・喫煙と年齢で補正すると、トリプトファンおよびキヌレニンの低濃度は、総ASRSスコア高値および総WURSスコア高値と関連していた。・以上より、成人ADHD患者と成人対照とでは、トリプトファンおよびキヌレニンの血清中濃度に違いがある可能性が示唆された。・本知見においてADHDにおける慢性免疫活性は示されていないが、ADHDの発症機序および血清中濃度の相違による臨床的意義について、さらに探索を進めるべきと思われた。関連医療ニュース 9割の成人ADHD、小児期の病歴とは無関係 成人ADHDをどう見極める 2つのADHD治療薬、安全性の違いは

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嚢胞性線維症〔CF : cystic fibrosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義嚢胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は、欧米白人の出生2,000~3,000人に1人と、比較的高い頻度で認められる常染色体劣性遺伝性疾患であるが、日本人にはきわめてまれとされている。1938年にAndersonにより、膵外分泌腺機能異常を伴う疾患として初めて報告されて以来、現在では全身の外分泌腺上皮のCl-移送機能障害による多臓器疾患として理解されている。近年のCFに関する遺伝子研究の進歩により、第7染色体長腕にあるDNAフラグメントの異常(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR遺伝子変異)がCFの病因であることがわかってきた。このCFTR遺伝子変異は、世界中で400種類以上報告されており、△F508変異(エクソン10上の3塩基欠失によるCFTR第508番アミノ酸であるフェニルアラニンの欠失)が、欧米白人におけるCF症例の約70%に認められている。■ 疫学かつては東洋人と黒人にはCFはみられないと考えられていたが、現在では約10万人に1人と推測されている。わが国では厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班によってCFの実態調査が行われ、1952年にわが国での第1例の報告以来、1980年の集計で46例が報告された。その後、当教室における1993年までの集計によって、104例(男57例、女47例)のCF患者の報告を認めている。単純に計算すると、わが国におけるCF患者の頻度は出生68万人に1人の割合となるが、CFに対する関心が高まったことなどから、1980年以降の頻度は出生35万人に1人の割合となり、確定診断に至らなかった例や未報告例などを考慮すると、真の頻度はさらに高いものと思われる。また、2009年の全国調査では、過去10年間の患者数は44例程度と報告されている。日本人CF症例の遺伝子解析の検討は少なく、王らは3例のCF患児に、花城らはCF患児1例にそれぞれ△F508変異の有無を検索したが、この変異は認められなかった。また、古味らは、△F508変異に加えてCFTR遺伝子のエクソン11に存在するG542X、G551D、およびR553X変異の有無も検索したが、いずれの変異も認められなかった。筆者らは、NIH(米国国立衛生研究所)のgenctic research groupとの共同研究により5例のCF患者およびその家族の遺伝子解析を行い、興味ある知見を得ている。すなわち全例において、△F508変異をはじめとする16種類の既知のCFTR遺伝子変異は認められなかったが、single stand conformational polymorphism analysisにより4例においてDNAシークエンスの変異を認めた(表1)。この変異が未知のCFTR遺伝子変異であるのか、あるいはCFTR遺伝子とは関係しないpolymorphismであるのかの検討が必要である。画像を拡大する■ 病因1985年にWainwrightらによって、第7染色体上に存在することが確認されたCF遺伝子が、1989年にMichigan-Toronto groupの共同研究により初めて単離され、CFTRと命名された。RiordanらによりクローニングされたCFTR遺伝子は、長さ250kbの巨大な遺伝子で、1,480個のアミノ酸からなる膜貫通蛋白をコードしている(図1)。翻訳されたCFTR蛋白の構造は、2つの膜貫通部(membrane spanning domain)、2つのATP結合構造(nucleotide binding fold:NBF 1、NBF 2)、および調節ドメイン(regulatory domain)の5つの機能ドメインからなっている。1991年にはRichらの研究により、CFTR蛋白自身がCl-チャンネルであることが証明され、最近では、NBF1とNBF2がCl-チャンネルの活性化制御に異なる機能を持つことが報告されている。このCFTR遺伝子の変異がイオンチャンネルの機能異常を生じ、細胞における水・電解質輸送異常という基本病態を形成していると考えられている。CFTR遺伝子のmRNA転写は、肝臓、汗腺、肺、消化器などの分泌および非分泌上皮から検出されている。CFTR遺伝子変異のなかで過半数を占める主要な変異が、CF患者汗腺のCFTR遺伝子のクローニングにより同定された△F508変異である。この△F508変異は欧米白人におけるCF症例の約80%に認められているが、そのほかにも、400種類以上の変異が報告されており、これらの変異の発生頻度および分布は人種や地域によって異なっている(表2)。△F508変異の頻度は、北欧米諸国では70~80%と高く、南欧諸国では30~50%と低いが、東洋人ではまだ報告されていない。画像を拡大する画像を拡大する■ 症状最も早期に認められ、かつ非常に重要な症状として、胎便性イレウスによる腸閉塞症状が挙げられる。粘稠度の高い胎便が小腸を閉塞してイレウスを惹起する。生後48時間以内に腹部膨満、胆汁性嘔吐を呈し、下腹部に胎便による腫瘤を触れることがある。腸管の狭窄や閉塞がみられることもある。わが国におけるCF症例の集計では、27.9%が胎便性イレウスで発症している(表3)。膵外分泌不全症状は約80%の症例で認められ、年齢とともに症状の変化をみることもある。食欲は旺盛であるが、膵リパーゼの分泌不全による脂肪吸収不全のため多量の腐敗臭を有する脂肪便を排泄し、栄養不良による発育障害を来してくる。低蛋白血症による浮腫、ビタミンK欠乏による出血傾向、低カルシウム血症によるテタニーなどの合併症を認める場合もある。粘稠な分泌物の気管および気管支内貯留と、それに伴うブドウ球菌や緑膿菌などの感染により、多くは乳児期から気管支炎、肺炎症状を反復して認めるようになる。咳嗽、喘鳴、発熱、呼吸困難などの症状が進行性にみられ、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの閉塞機転に伴う病変が進展し慢性呼吸不全に陥り、これが主な死亡原因となる。胸郭の変形、バチ状指、チアノーゼなども認められる。CF患者では汗の電解質、とくにCl濃度が異常に高く、多量の発汗によって電解質の喪失を来し、発熱や虚脱などの“heat prostration”と呼ばれる症状を呈することが知られている。その他の症状として、閉塞性黄疸、胆汁性肝硬変、耐糖能異常、副鼻腔炎症状などをはじめとする種々の合併症状が報告されている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ CFの一般的な診断法表4にわが国のCF患者104例における確定診断時の年齢分布を示した。全症例の半数以上である64例(61.5%)が1歳までにCFと診断されており、新生児期にCFと診断された30例(28.8%)のうち29例が胎便性イレウスにて発症した症例であった。したがって、胎便性イレウス症候群では、常にCFの存在を念頭におき、メコニウム病(meconium ileus without CF)との鑑別を行っていく必要がある。CFの診断には、汗の電解質濃度の測定が必須であり、Cl濃度が60mEq/L以上であればCFが疑われる。Pilocarpine iontophoresis刺激による汗の採取法が推奨されているが、測定誤差が生じやすく、複数回測定する必要がある。当教室では米国Wescor社製の発汗刺激装置および汗採取コイルを使用し、ほとんど誤差なく簡便に汗の電解質濃度を測定している。CFを診断するうえで、膵外分泌機能不全の存在も重要であり、その診断は、脂肪便の有無、便中キモトリプシン活性の測定、PFD試験やセクレチン試験などによって行っていく。X線検査により、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの肺病変の診断を行う。画像を拡大する■ CFのマス・スクリーニング欧米において、1973年ごろよりCFの新生児マス・スクリーニングが試みられるようになり、1981年にCrossleyらが乾燥濾紙血のトリプシン濃度をradioimmunoassayにて測定して以来、CFの新生児マス・スクリーニング法として、乾燥濾紙血のトリプシン濃度を測定する方法が広く用いられるようになった。さらに1987年にはBowlingらが、より簡便で安価なトリプシノーゲン濃度を測定し、感度および特異性の点からもCFの新生児マス・スクリーニング法として非常に有用であると報告している。筆者らも、わが国におけるCFの発生率を調査する目的で東京都予防医学協会の協力を得て、CFの新生児マス・スクリーニングを行った。方法は、先天性代謝異常症の新生児マス・スクリーニング用の血液乾燥濾紙を使用し、Trypsinogen Neoscreen Enzyme Immunoassay Kitにて血中トリプシノーゲン値を測定した。結果は、3万2,000例のトリプシノーゲン値は、31.8±8.9ng/mLであり、Bowlingらが示した本測定法におけるカットオフポイントである140ng/mLを超えた症例はなかった(図2)。画像を拡大する■ CFの遺伝子診断CFの原因遺伝子が特定されたことにより、遺伝子診断への期待が高まったが、CF遺伝子の変異は人種や地域によってまちまちであり、本症の遺伝子診断は足踏み状態であると言わざるを得ない。欧米白人では、△F508変異をはじめとするいくつかの頻度の高い変異が知られており、これらの検索はCFの診断に大いに役立っている。しかしながら、わが国のCF症例における共通のCF遺伝子の変異は、まだ特定されておらず、PCR-SSCP解析と直接塩基配列解析を用いて遺伝子変異を明らかにすることが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法新生児期にみられる胎便性イレウスに対しては、ガストログラフィンによる浣腸療法などが試みられるが、多くは外科手術が必要となる。膵外分泌不全による消化吸収障害に対しては、膵酵素剤の大量投与を行う。しかし近年、膵酵素剤の大量投与による結腸の炎症性狭窄の報告も散見され、注意が必要である。胃酸により失活しない腸溶剤がより効果的である。栄養障害に対しては高蛋白、高カロリー食を与え、症例の脂肪に対する耐性に応じた脂肪摂取量を決めていく。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、膵酵素を必要とせずに吸収されるため、カロリー補給には有用である。必須脂肪酸欠乏症に対しては、定期的な脂肪乳剤の経静脈投与が必要である。脂溶性ビタミン類の吸収障害もみられるため、十分量のビタミンを投与する。呼吸器感染に対しては、気道内分泌物の排除を目的としてpostural drainageと理学訓練(physiotherapy)を行い、吸入療法および粘液溶解薬や気管支拡張薬などの投与も併せて行っていく。感染の原因菌としてはブドウ球菌と緑膿菌が一般的であるが、検出菌の感受性テストの結果に基づいて投与する抗菌薬の種類を決定していく。1~2ヵ月ごとに定期的に入院させ、2~3剤の抗菌薬の積極的な予防投与も行われている。抗菌作用、抗炎症作用、線毛運動改善作用などを期待してマクロライド系抗菌薬の長期投与も行われている。肺機能を改善する組み換えヒトDNaseの吸入療法や気道上皮細胞のNa+の再吸収を抑制するためのアミロイド、さらに気道上皮細胞からのCl-分泌促進のためのヌクレオチド吸入療法などが、近年試みられている。4 今後の展望まずは早期に診断して、適切な治療や管理を行うことが大切であり、その意味から早期診断のための汗のCl-濃度を測定する方法の普及が望まれる。さらに遺伝子検索を行うにあたっての労力と費用の負担が軽減されることが必要と思われる。適切な治療を行うためには、今後も肺や膵臓および肝臓の機能を改善させたり、呼吸器感染症を予防する新薬の開発が望まれる。さらに遺伝子治療や肺・肝臓移植が可能となり、生存年数が欧米並みに30歳を超えるようになることを期待したい。5 主たる診療科小児科、小児外科、呼吸器内科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査 一次調査の集計(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業)難病情報センター:膵嚢胞線維症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病患者支援の会(内閣府認定NPO法人、腎移植や肝移植などの情報提供)Japan Cystic Fibrosis Network:JCFN(嚢胞性線維症患者と家族の会)1)成瀬達ほか.第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性膵疾患に関する調査研究」平成21年度 総括・分担研究報告書. 2010; 297-304.2)Flume PA, et al. Am J Respir Care Med. 2007; 176: 957-969.3)清水俊明ほか.小児科診療.1997; 60: 1176-1182.4)清水俊明ほか.小児科. 1987; 28: 1625-1626.5)Wainwright BJ, et al. Nature. 1985; 318: 384-385.公開履歴初回2013年08月15日更新2015年12月15日

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マスコミでも話題のスーパーフルーツ「キウイ」 ~その魅力とチカラ~

11月7日、8日と東京と大阪で開かれた「糖質管理セミナー」の様子をお届けします。マスコミでもスーパーフルーツとしてたびたび取り上げられる「キウイ」。ニュージーランドへ現地視察までしてきた管理栄養士がその本質と魅力を解説します。1:日本人の果物摂取量と課題日本人の果物摂取量は、世界174カ国中129位!世界平均よりも、アジア平均よりもさらに低い状況です。家計調査によると、デザートの中でも果物は特に低い支出になっています。これは食の多様化や個食化の影響が、強く表れていそうです。スライド1を拡大するしかし、果物の摂取が健康維持増進に対してさまざまな良い影響を与えているというのも事実。だからこそ、国では健康日本21、食生活指針、食事バランスガイドを通じて、果物を積極的に食べることを推奨しています。ところが「野菜は350gそのうち緑黄色野菜は120g」と野菜の摂取は具体的に提示しているのに対し、果物は「1日200g」だけ。果物の質は問われていません。超高齢社会の我が国では、「新型栄養失調」と呼ばれる低栄養の問題があります。食事量が減る高齢者の場合は「何を食べるか」という、食事の質が問われている時代。果物の摂取にも、質が重要です。2:スーパーフルーツとしてマスコミでも取り上げられるキウイ下の図は果物の栄養素の凝縮具合を示したものです。スライド2を拡大する栄養素充足率スコアとは、果物の重量100g(可食部)に含まれる17種類の栄養素※1の、「日本人の食事摂取基準 2015年度版」における1日当たりの摂取基準(30~49歳女性での推奨量、目標量、目安量)に対する割合を算出し、その平均値をとったものです。※1 17種類の栄養素:たんぱく質、食物繊維、カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウム、亜鉛、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンA、ビタミンEこれによると、日本人がよく食べているバナナやミカンよりもキウイの充足率が優れていることがわかります。これが、キウイが「高栄養密度フルーツ」「スーパーフルーツ」と言われてマスコミなどでも多く取り上げられる理由です。緑色の果肉のキウイフルーツ(緑肉種)には日本人に不足しがちな食物繊維が豊富に(可食部100gあたり3g ゼスプリインターナショナル調べ)含まれています。野菜からだけではなく、果物や穀類からも食物繊維を摂取することで、目標摂取量に近づけることができます。またゴールドキウイ(黄肉種)1個にはレモン(果汁換算)8個分のビタミンCが含まれており、果物の中ではトップクラスです。さらにビタミンEも同時に摂取できるなど、キウイはバランスよくさまざまな栄養素を含んでいます。食が細くなり、効率よく栄養素を摂取する必要がある高齢者にも適した果物と言えそうです。スライド3を拡大する◆キウイは、低GI食品キウイのGI値は、グリーンキウイ(緑肉種)が39、ゴールドキウイ(黄肉種)が38※2と一般的に低GIといわれる分類に属しています。※2 Rush & Drummond, 2009 and Chen, Wu, Weng and Liu, 2011 より約15の臨床研究データの平均より算出。ウェイトコントロールが必要な糖尿病患者さんの場合は、カロリーだけを制限すると、食事量の不足から空腹感が強くなりストレスの原因になってしまいます。また、世間で流行している極度の糖質制限では、穀類を減らすことで、ただでさえ不足気味の食物繊維がさらに不足する傾向もあります。そのような時は穀類の適量摂取とあわせてGI値の低い果物がオススメ。果物は水分や食物繊維が多く、お腹の中で満足感を得られる上に、天然の甘味が楽しめます。栄養バランスのとれた果物を食事指導の現場でも活用していきましょう。注記:キウイにはアクチニジンというたんぱく質分解酵素が含まれています。アクチニジンはお肉などのたんぱく質の消化を助ける働きがある一方で食物アレルギーのアレルゲンでもあります。アレルギーが心配な人は、医療機関へご相談ください。◆注目!!日本食品成分表 七訂(2015年版)に「キウイ(黄肉種)」が追加!2015年版に改定される日本標準食品成分表に、「キウイ(黄肉種)」が掲載されることになりました。キウイは、1年を通じて流通している数少ない果物の1つです。緑肉種・黄肉種、それぞれの栄養の特徴をいかして、食事指導や給食の現場でご活用ください。提供:かわるProセミナー事務局関連リンク食品交換表改定ポイントにおける糖質管理と果物の位置づけ

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うつ病にEPAやDHAは有用なのか

 大うつ病性障害(MDD)に対するn-3系多価不飽和脂肪酸(n-3PUFAs;オメガ3脂肪酸としても知られる)の有効性のエビデンスは、現時点では不明であるとする報告が、英国・ボーンマス大学のAppleton KM氏らにより発表された。プラセボを対照とした24件の試験および抗うつ薬治療を対照とした1件の試験、計25件の試験をレビューした結果、プラセボと比べうつ症状に対して低度~中等度のベネフィットがあること、抗うつ薬と同様の効果が得られることを示したが、いずれもエビデンスの質は非常に低いものであった。著者は、「今後さらなる検討が必要である」と指摘している。Cochrane Database Systematic Reviewオンライン版2015年11月5日号の掲載報告。 MDDへのn-3PUFAsの役割を示唆するエビデンスは、さまざまに報告されているが確定的なものはない。その中で、より重症のうつ症状を呈する患者を対象とした試験ではベネフィットが得られる可能性が示されていた。そこで研究グループは、成人MDDに対するn-3PUFAsと対照(プラセボ、抗うつ薬治療、標準治療、無治療、治療待機対照)の有効性を比較検討した。2015年5月時点で、Cochrane Depression, Anxiety and Neurosis Review Group's Specialised Registers(CCDANCTR)、国際臨床試験登録(International Trial Registries)を検索。また、2013年9月までの、データベースCINAHLの記録を検索した。主要アウトカムは、うつ症状(有効な評定尺度を使用して連続データを収集)および有害事象。副次アウトカムはうつ症状(寛解および反応に関する二分データ)、QOL、試験の非完遂とした。 主な結果は以下のとおり。・検索により26件を特定した。25件(1,438例)はn-3PUFA補給 vs.プラセボ、1件(40例)はn-3PUFA補給 vs.抗うつ薬治療の検討であった。・n-3PUFA補給はプラセボに比べ、うつ症状に対して低~中等度のベネフィットを示した(標準化平均差[SMD]:-0.32、95%信頼区間[CI]:-0.12~-0.52、25試験・1,373例、エビデンスの質は非常に低い)。ただし、この効果は臨床的意義につながる可能性は低かった。SMDの0.32はHDRS(17項目)のスコアにしておよそ2.2ポイント(95%CI:0.8~3.6)の差を示した。・信頼区間には、臨床的に重要な効果を示すものとわずかな効果の可能性のみに留まるものの両方が認められ、試験間に重大な不均質性も認められた。・介入群とプラセボ群で有害事象を経験した被験者数は同程度であった(オッズ比[OR]:1.24、95%CI:0.95~1.62、19試験・1,207例、非常に低い)。信頼区間は、n-3PUFAsに関して有害事象の有意な増加を示し、減少の可能性はほとんど認められなかった。・寛解率、反応率、QOL、非完遂率はいずれも群間で同程度であったが、信頼区間に関してはやはりばらつきが大きかった。・これらの結果を基盤とするエビデンスは、非常に限定的である。・解析に使用した試験は、すべて今回の研究課題に直接関連するものであったが、すべてのアウトカムのエビデンスに関し、質は低から非常に低いと評価した。・解析に使用した試験の数および被験者数が少なく、大半が小規模の試験であったため、複数の評価項目で高いバイアスリスクが認められた。・今回の解析は、3つの大規模試験の影響を大きく受けた可能性が高かった。これら試験についてバイアスリスクは低いと判断しているものの、それらはデータの26.9~82%を網羅していた。・今回算出したエフェクトサイズの推定値も正確といえないものであった。ファンネルプロットの非対称性および感度解析(固定効果モデルを使用、選択バイアス、パフォーマンス・バイアス、アトリションバイアスのリスクが低い試験のみを使用)では、n-3PUFAs に対するポジティブな所見のバイアス傾向が示された。・主要アウトカムであるうつ症状の解析においても重大な不均質性が存在した。この不均質性は併存疾患の有無、あるいは補助療法の有無により説明されなかった。・抗うつ薬との比較試験では、うつ症状(平均差[MD]:-0.70、95%CI:-5.88~4.48)、治療反応率、試験の非完遂における差異は認められなかった。また、有害事象については解析に適した形での報告はなされておらず、うつ寛解率およびQOLに関する報告はなかった。・以上より、現時点ではMDDの治療法としてn-3PUFAsの効果を判断する質の高いエビデンスが十分にない状況といえた。・今回の初回解析は、プラセボと比較してn-3PUFAsのうつ症状に対する低度~中等度の非臨床的なベネフィットを示している。しかし、この結果の基となっているエビデンスの質は低いあるいは非常に低いと判定されており、この予測は正確なものとはいえなかった。・感度解析、ファンネルプロット解析、そして適切に実施された大規模試験の結果と今回得た結果との比較により、今回の効果予測がn-3PUFAsに対するポジティブな所見のバイアス傾向が示され、実際の効果はさらに小さいものであることが示唆された。・今回のデータでは、n-3PUFA群とプラセボ群において同様の有害事象発現率、試験非完遂例数も示されているが、これも決して正確なものとはいえない。レビューの中でn-3PUFAsと抗うつ薬を直接比較した唯一の試験では、両群に同等のベネフィットが認められた。n-3PUFAsのMDDに対するポジティブおよびネガティブな影響に関する、より多くのエビデンス、そしてより完全なエビデンスが必要である。関連医療ニュース EPA、DHA、ビタミンDは脳にどのような影響を及ぼすか 双極性障害エピソードと脂肪酸の関連を検証 統合失調症の再発予防、ω-3脂肪酸+α-LAは有用か  担当者へのご意見箱はこちら

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