「抗凝固薬の不使用」もTAVR後の弁圧較差増加の予測因子

提供元:ケアネット

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公開日:2016/02/22

 

 大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の使用は、急速に拡大しているが、TAVR後の大動脈弁圧較差の悪化についてのデータは限られている。TAVR後の1,521例のデータを解析した後ろ向き多施設共同研究が、Journal of The American College of Cardiology誌2016年2月号に報告された。
 2007年5月から2014年10月までの間に、カナダやスペインなどの10施設で2,418例の患者がTAVRを受けた。術後に少なくとも2回(退院時と6~12ヵ月後)の経胸壁心エコーを受けた1,521例が対象。TAVR後の人工弁のピークフローは連続波ドップラーを用いて計測され、平均圧較差は修正ベルヌーイの式を使用した。絶対的な平均圧較差の変化は、最終フォローアップ時と退院時の差で計算し、年間の変化(mmHg/year)は絶対的な変化を時間で割って計算。弁血行動態の悪化は、フォローアップ期間中の10mmHg以上の平均圧較差の増加と定義された。

TAVR患者の平均年齢は81±7歳、術前の平均圧較差は45.9±16.1mmHg、77.9%は径が23mmより大きい人工弁を使用
 TAVR患者の平均年齢は81±7歳、術前の平均圧較差は45.9±16.1mmHg、左室駆出率(LVEF)の平均は55.6±14.4%であった。TAVRは、多くの患者において経大腿動脈アプローチで行われ、自己拡張型とバルーン拡張型の使用頻度はほぼ同様であった。77.9%の患者で、径が23mmより大きな人工弁が使用された。退院時に、半数以上の患者で抗血小板薬2剤併用療法が行われており、28%の患者でビタミンK阻害薬が投与されていた。すべての患者(1,521例)において6~12ヵ月の間に心エコーが行われ、625、258、129例の患者がそれぞれ、2、3、4年後の段階で心エコーを受けた。最後に行われた心エコーまでの期間は20±13ヵ月、平均のフォローアップ期間は28±16ヵ月。

圧較差悪化(10mmHg以上)の予測因子は、抗凝固薬の不使用、valve-in-valve(外科的人工弁後のTAVR)、23mm以下の経カテーテル大動脈弁の使用、BMI高値
 平均の経大動脈圧較差は、術前の45.9±16.1mmHgから9.96±5.37mmHg(退院時)に改善した。退院時からフォローアップ期間中の圧較差変化の絶対値は0.59±5.50mmHg(p<0.001)。年平均での変化は0.30±4.99mmHg/年(中央値:0.00 [IQR:-1.38~2.00])。多変量解析によると、弁圧較差の増加に有意に寄与する要因は、抗凝固薬の不使用、valve-in-valve(外科的人工弁後のTAVR)、23mm以下の経カテーテル大動脈弁の使用であった。VHD(退院時と比べて10mmHg以上の圧較差の増加)の頻度は、4.5%であり、1年後に起きた早期のVHDは2.8%であった。VHDが起きた患者に限定すると、平均圧較差は退院時の9.5±5.0mmHgから26.1±11.0mmHg に増加していた(p<0.0001)。VHDが認められた患者において、圧較差が20、30、40mmHg以上の患者はそれぞれ47例、15例、8例であった。これらの患者の傾向として、若年(p=0.022)、BMI高値(p<0.001)、径の小さい弁(p=0.038)、valve-in-valve(p=0.008)があり、また、人工弁患者不適合はより高率に認められ、抗凝固薬がTAVR後に使用されていない傾向にあった。
 著者らはDiscussionで、圧較差の変化はすべての患者で一様に起きるわけではなく、VHDが認められない患者では有意な圧較差の変化は認められなかったとし、TAVR後のVHDは特定のグループの患者に起きるのではないか、と述べている。ただ、平均のフォローアップ期間も20ヵ月(最小は6ヵ月)であり、VHDの発生が過小評価されている可能性がある。TAVR後の特別な抗血栓療法でVHDの発生が減少するかどうかを確かめるには、大規模な前向き研究が必要であるとしている。

(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)