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進行NSCLC、PS不良患者へのICI投与/Cancer

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与について、全身状態(PS)が重要な指標となるようだ。米国・マサチューセッツ総合病院のLaura A. Petrillo氏らによる検討で、PSが低下した患者は良好な患者と比べて、投与後の生存期間が有意に短いこと、終末期での投与が多いことが判明したという。また、終末期の投与は、ホスピス利用の低さおよび院内死亡リスクの増大とも関連していた。Cancer誌2020年3月15日号掲載の報告。 検討は後ろ向きの単施設試験で、2015~17年にICI治療を開始していた進行NSCLC患者237例を対象に行われた。 Cox比例法を用いて、ICI治療開始時にPS不良(≧2)の患者と、良好(0または1)の患者の全生存(OS)を比較した。また、ロジスティック回帰法を用いて、死亡前30日間のICI使用と、末期医療(エンドライフケア)の関連を分析した。 主な結果は以下のとおり。・ICI開始時の患者の平均年齢は67歳、PS≧2の患者は35.4%であった。・2次治療またはそれ以降の治療としてICIを受けた患者が最も多く、80.8%を占めた。・OS中央値は、PS≧2の患者では4.5ヵ月、PS 0/1の患者では14.3ヵ月であった(ハザード比:2.5、p<0.0001)。・死亡前30日間にICI投与を受けた患者は、 PS≧2では28.8%であったのに対して、PS 0/1では10.8%であった(p=0.002)。・死亡前30日間のICI投与は、PSにかかわらず、ホスピスへの紹介率の低さと関連しており(オッズ比:0.29、p=0.008)、また院内死亡の増大と関連していた(6.8、p=0.001)。

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第5回 新型コロナ治療薬、レムデシビルは武器か凶器か

これまで治療薬もワクチンもなかった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、ようやく新たな「武器」が登場する。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2020年5月7日、ギリアド・サイエンシズがCOVID-19の中等度~重症入院患者向けに開発中の抗ウイルス薬・レムデシビル(商品名:ベクルリー)をCOVID-19の治療薬として「特例承認」した。緊急対応を要する際に他国で販売されている薬剤など国内臨床試験を省いて承認する「特例承認制度」の適用は、2010年の新型インフルエンザワクチン以来。しかも、日本に先だって米国食品医薬品局(FDA)は緊急時の使用許可を認めたものの、これは正式承認までの暫定措置なため、レムデシビルの正式な製造販売承認は日本が世界初だ。国の焦りや危機感が垣間見える決定とも言える。しかし、この特例承認は歓迎すべき決定である反面、医療現場では新たな「火種」になるかもしれない。4月29日にアメリカ国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導した世界68施設での重症COVID-19患者に対する臨床試験の予備的解析結果が発表された。臨床試験は1,063例を登録したプラセボ対照二重盲検無作為化比較試験であり、一定の信頼度はおける試験デザインである。その結果は、主要評価項目である回復までの期間はレムデシビル群:11日、プラセボ群:15日、副次評価項目の患者死亡率はレムデシビル群:8.0%、プラセボ群:11.6%。この発表以降、報道が一気に過熱した。4月30日以降、一般紙では「肯定的な結果」「新型コロナ有望薬」などの見出しが躍った。これに加え、「特例承認」「緊急承認」などの見出しも次々に登場する。もちろん報道側にいる私もこうした報道になるのは、ある意味やむを得ないとは思う。ところが、一般読者は各紙の報道を繰り返し聞かされることで生じる「リフレイン効果」によって、脳内には「有望」「肯定」「特例」「緊急」といった断片的なキーワードが残る。結果として一般読者は「新型コロナに良く効く薬が(or だから)緊急承認される」と脳内で変換してしまう可能性がある。そして、今後は検査で陽性となった患者が重症度にかかわらず医療機関に「私にあのレムデシビルとかいう薬を投与してください」という問い合わせをする現象が起きる可能性がある。実際、免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボの原理を発見した本庶 佑氏のノーベル医学生理学賞の受賞決定時、医療機関ではオプジーボの投与を求める各種がんの患者から問い合わせが殺到しているからだ。医療機関がこうした患者の問い合わせで疲弊するという現象は想像に難くない。しかも今回の試験結果は非常に微妙な内容、突き詰めればCOVID-19による死を恐れる一般人の期待に応えきれるものでないことは医療従事者ならば先刻ご承知だろう。前述の臨床成績のうち統計学的有意差が認められたのは回復までの期間のみで、死亡率では有意差は認められていない。しかも、主要評価項目である回復までの期間ですらハードエンドポイントではなく、ソフトエンドポイントと言ってよい。加えてNIAIDの発表同日に中国の国立呼吸器疾患臨床研究センターのグループが237人の重症新型コロナ患者を対象に同じ手法でプラセボ対照比較試験の結果を「Lancet誌」に報告したが、こちらはレムデシビル群とプラセボ群で症状改善効果に有意差はないという結果になった。レムデシビルは現在も症例規模を拡大したフェーズIII試験が進行中であるため、このように書くと「やや辛口すぎる評価では?」という意見もあるだろう。だが、2群間の比較試験では症例規模を拡大すればするほど統計学的有意差が生じやすいのは周知のこと。今後、より症例規模の大きい試験で死亡率に統計学的有意差が認められたとしても、それは一般人が期待するような死亡率急低下につながるような差にはならないだろうと推定できる。現状、レムデシビルで見込める可能性のある効果とは、回復期間の短縮、すなわち患者の入院期間短縮を通じた病床不足への歯止めという点くらいである。これはその通りならば一定の意義はあるが、なかなか患者・一般生活者には伝わりにくい。レムデシビル登場が逆に現実と一般人の期待の板挟みになる医療従事者を増やすことになるかもしれない。「それは報道のせいだろう」とも言われてしまいそうだが、実は医療を担当する一般向けメディアの記者もその点は悩みなのだ。本連載の第3回でも書いたように記事内にアルファベットが出てくるだけで目を逸らすほど一般読者・視聴者は浮気な存在である。その彼らに「統計学的有意差」「ハードエンドポイント」「ソフトエンドポイント」という言葉は、かみ砕いても伝わりにくい。そんなことを伝えようとしようもなら新聞ならスポーツ面に、テレビならお笑い番組に飛ばされてしまう。しかも、紙面や放送時間には常に限りがあるので、かみ砕けばかみ砕くほどリソース不足となる。よく、一般では代表的な医療批判として「3時間待ち5分診療」が挙げられる。しかし、限られたリソースの中で患者を診察するうえではやむを得ないことは理解できる。そして実は報道する側も似たようなジレンマを常に抱えている。もっとも個人的にはその不可能をどこまで可能にするかの取り組みはやってみるつもりだが…。

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二ボルマブとイピリムマブの併用が悪性胸膜中皮腫の生存期間を延長(CheckMate-743)/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブ社は、2020年4月21日、未治療の悪性胸膜中皮腫(MPM)を対象とした第III相 CheckMate-743試験において、ニボルマブ(一般名:オプジーボ)とイピリムマブ(一般名:ヤーボイ)の併用療法が、主要評価項目である全生存期間(OS)を延長したことを発表した。 独立データモニタリング委員会であらかじめ計画されていた中間解析で、二ボルマブとイピリムマブの併用療法が、化学療法(ペメトレキセドとシスプラチンまたはカルボプラチンの併用療法)と比較して、統計学的に有意に、臨床的に意義のあるOSの改善を示した。  本試験で認められた二ボルマブとイピリムマブの併用療法の安全性プロファイルは、同併用療法でこれまでに認められているものと一貫していた。

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ペムブロリズマブ単剤は高齢患者にも有用かKEYNOTE-010、024、042統合解析【肺がんインタビュー】 第45回

第45回 ペムブロリズマブ単剤は高齢患者にも有用かKEYNOTE-010、024、042統合解析肺がん患者の多くは高齢者である。近年登場した免疫治療薬は、肺がん治療においても幅広く適用され始め、高齢肺がんにおいても、その有用性が期待される。しかし、臨床試験での高齢者のデータは少ない。そのような中、高齢者への有効性と安全性を評価した、ペムブロリズマブ単剤の大規模RCTの統合解析がLung Cancer誌で発表された。筆頭著者である野崎 要氏にこの試験から得られる新たな知見について聞いた。肺がん最大の高齢者データセット―この試験を実施した背景を教えていただけますか。ご存じのとおり、肺がん患者さんの多くは高齢者です。高齢者の定義は日本肺癌学会ガイドラインでは75歳となっています。免疫チェックポイント阻害薬が登場し、その使用機会も著しく増加していますが、免疫チェックポイント阻害薬のピボタル試験では65歳を境にした解析が多く、75歳以上のデータは数少ないのが現状です。そこで、ペムブロリズマブ単剤の3つのピボタル試験の統合解析から75歳以上の患者のデータを抽出し、75歳以上の高齢患者におけるペムブロリズマブ単剤の効果と安全性を評価しました。―3つのピボタル試験について教えていただけますか。KEYNOTE-010、024、042試験の3つです。これらはすべて企業(MSD)主導のグローバル試験です。KEYNOTE-010試験は2016年のLancet誌に結果が発表された既治療のPD-L1発現(1%以上)非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対するペムブロリズマブ単剤の試験です。KEYNOTE-024試験は、1次治療のPD-L1高発現(50%以上)NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤とプラチナ併用化学療法の比較試験で、2016年、New England Journal of Medicine誌に結果が発表されました。私は、前勤務地でこの試験に施設の試験責任医師として参加しています。KEYNOTE-042試験は、同じく1次治療ですが、PD-L1発現(1%以上)NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤とプラチナ併用化学療法の比較試験で、2019年のLancet誌に結果が発表されています。画像を拡大する―試験デザインについて教えていただけますか。今回の研究では、前出のペムブロリズマブの3つのピボタル試験で、下記の4つの統合解析を行い、1次治療であるKEYNOTE-024、KEYNOTE-042試験については、下記の2つの統合解析を行いました。画像を拡大する高齢者へのペムブロリズマブ単剤治療、有効性、安全性とも若年者と同様―この研究の主な結果を教えていただけますか。3試験全体でみた75歳以上のペムブロリズマブ単剤の全生存期間(OS)は、化学療法に比べ有意に良好でした。PD-L1≧1%でのOSは、ペムブロリズマブ単剤15.7ヵ月に対し、化学療法は11.7ヵ月(HR:0.76)、PD-L1≧50%でのOSは19.2ヵ月vs.11.9ヵ月です(HR:0.40)。また、1次治療であるKEYNOTE-024と042における75歳以上のOSは、PD-L1≧50%で23.1ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.41)と、こちらもペムブロリズマブ単剤群は化学療法に比べ良好でした。―高齢患者の有害事象の発現についてはいかがでしたか。75歳以上における治療関連有害事象(TRAE)は、化学療法に比べ、ペムブロリズマブ単剤で少なく、全Gradeで68.5% vs.94.3%、Grade3以上では24.2% vs.61.0%でした。75歳以上と75歳未満を比べても同様でした。TRAE発現は75歳以上68.5%に対し75歳未満65.2%、免疫関連有害事象(irAE)発現は24.8% vs.25.0%と同等でした。―この研究は、264例という75歳以上では最大規模の試験となりますが、この結果を高齢者肺がんの実臨床にどう応用できるとお考えですか。当研究は、事後解析ですので、いくつかの限界(limitation)があります。組織型(ペムブロリズマブに扁平上皮がんが多い)、喫煙状況(ペムブロリズマブに喫煙者が多い)といった患者背景に偏りがあります。また、1次治療として行われた2試験(KEYNOTE-024と042)に参加できたのは、プラチナ併用療法に忍容性がある方で、実地臨床における高齢患者さんとはやや異なる可能性があります。また、PD-L1 1~49%のデータは示されていません。とはいえ、前向き試験によって抽出された臨床データで、ペムブロリズマブ単剤の有効性、有害事象も高齢者とそれ以外で大きく変わらないことが示されたことは重要だと思います。とくに、PD-L1高発現に対するペムブロリズマブの治療効果(OSカーブ)は75歳以上と75歳未満で変わらないように見えます。このようなことから、少なくともPD-L1高発現の全身状態の良い高齢者には積極的にペムブロリズマブを使用することを勧めて良い、ということはいえると思います。参考原著:Nosaki K, et al. Lung Cancer.2019;135:188-195.KEYNOTE-010: Herbst RS, et al. Lancet. 2016;387:1540-1550.KEYNOTE-024: Reck M, et al. N Engl J Med. 2016 ;375:1823-1833.KEYNOTE-042: Mok TSK, et al. Lancet. 2019;393:1819-1830.

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これが免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカー(のはず)【そこからですか!?のがん免疫講座】第4回

はじめに前回は、「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)がどうやって効果を発揮しているのか」について解説しました。しかし、いろいろメディアで報道されたこともあり皆さんご存じかもしれませんが、すべての患者さんに効くわけではありません1,2)。そこで、どういった患者さんに効くのか?という疑問に対してさまざまな研究がなされてきました。今回はそれらを紹介しながら、がん免疫の本質に少し迫りたいと思います。効果予測バイオマーカーとは?「効果予測バイオマーカー」、読んで字のごとくかもしれませんが、少し言葉の説明をさせてください。「AさんはXという薬が効く。一方でBさんはYという薬が効かない」などということが、あらかじめわかっていれば余計な処方や副作用、さらには経済的な負担も避けられて非常にありがたい話ですよね? がんの領域では分子標的薬の登場により、こういった研究が盛んに行われてきました。こういった研究は非小細胞肺がんのゲフィチニブ(gefitinib)というEGFR阻害薬で非常に有名です。ゲフィチニブは発売当初、進行非小細胞肺がんであれば誰にでも使用されていましたが、だんだんと劇的に効く人とまったく効かない人がいることがわかってきました。そこで、そういった劇的に効く患者さんのがん細胞の遺伝子を検査してみると、ほとんどの患者さんでEGFR遺伝子変異が見つかりました3)。EGFR阻害薬なので「EGFRに異常があれば効く」なんてことは今から思えば当たり前のように思えるかもしれませんが、当時としてはかなり衝撃的でした(著者は医学部生で医者になる直前でした)。反証のようなデータも出ていろいろな論争もありましたが、前向き臨床試験で証明され3)、今ではこの薬剤はEGFR遺伝子変異がある患者さんでしか使用されていません。EGFR遺伝子変異があればゲフィチニブが効く、ということが予測できるので、EGFR遺伝子変異はゲフィチニブの「効果を予測できるマーカー」ということで「効果予測バイオマーカー」と呼ばれています。ほかにも効果予測バイオマーカーはいくつもありまして、中には全体の数%しかないような非常にまれな遺伝子異常もあります。こういった数%しかないものも含めて「効果予測バイオマーカー」を効率的に見つけようという取り組みが、最近の「がんゲノム医療」への流れをつくりました。これ以上は本筋からそれますので、がん免疫に話を戻します。ICIの効果予測バイオマーカーは?「全員に効くわけではない」と最初に触れましたが、ICIは単剤だと効果は50%以下です。劇的に効いて年単位で再発しない「完治」したかのような患者さんもいれば、1コースですぐ無効と判断されるような患者さん、逆に悪化してしまうような患者さんもいます4)。著者も大学院生時に2015年の論文を読んで思いましたが、まるでゲフィチニブをほうふつとさせるのです。そこで、「やはり効果予測バイオマーカーを見つけよう!」と世界中で研究が行われました。まず、いきなり残念なお知らせです。結論から申しますと、EGFR遺伝子変異ほどの完璧なバイオマーカーは、臨床応用できる範囲では今のところは存在しません。なぜそういう結論になっているのかという事情を話すと何時間でも講演できてしまうのですが、ここでは代表的なバイオマーカー3つの話にとどめ、あくまでがん免疫を理解するための話をしたいと思います。「完璧じゃねーのかよ!」と憤った方もいるかもしれませんが、この3つはがん免疫の本質を考えるうえで非常に重要ですので、ぜひお付き合いください。PD-L1の発現と腫瘍浸潤T細胞最初に紹介するのが、「PD-L1発現」と「腫瘍浸潤T細胞」の2つです。PD-L1の発現は臨床でも利用されていますので、今さら説明は不要かもしれません。「PD-1やPD-L1を阻害する薬なんだから、PD-1の結合相手の代表であるPD-L1がたくさん出ていれば効くんじゃないか?」という単純な発想で開発されたバイオマーカーです(図1)。病理学的に免疫染色で評価して「PD-L1高発現であれば効く」というのはある程度は受け入れられていると思います5)。ただし、繰り返しますが、完璧ではありません。PD-L1が高発現でも無効な方もいれば、全然出ていなくても有効な方もいます。なぜなのでしょう?原因はいろいろいわれていますが、私見も含めて考察します。1つは場所によって染色が異なる不均一性の問題といわれています。同じ患者さんの病理組織の中でも、ある部分ではPD-L1が高発現なのにある部分では低発現であったりすることが報告されています。さらにはダイナミックな変化も問題とされています。画像を拡大する前回を思い出してほしいのですが、PD-L1はがん細胞がT細胞を抑制して免疫系から逃れるために利用している分子です(図1)。ですので、免疫の攻撃、とくにT細胞の攻撃にさらされることで、自分の身を守るため・免疫系から逃れるために異常に発現が上がります。著者も実験したことがありますが、T細胞の攻撃にさらされると、元々出ているPD-L1の発現が関係なくなるレベル、50倍などにまで上がります(図2)6)。したがって常にPD-L1はダイナミックに変化しており、完璧な効果予測バイオマーカーになりにくい、ということが考えられます。画像を拡大する「PD-L1がT細胞の攻撃に伴って上がるのであれば、T細胞側を見てあげるほうがいいんじゃないの?」と思われた方もいると思います。その発想が「腫瘍浸潤T細胞」の発想です。今まで散々「ICIはT細胞を活性化してがん細胞を攻撃している」という話をしましたが、そういった事実からも「T細胞がたくさん腫瘍に浸潤しているほうがICIは効く」と考えられています。実際に腫瘍浸潤T細胞が多いほど効果は高いことが、複数のデータで証明されています7,8)。しかし、残念ながらこれも完璧ではありません。PD-L1同様の不均一性やダイナミックな変化に加えて、「必ずしも『腫瘍浸潤T細胞』=『がん細胞を攻撃しているT細胞』ではない」ことが主に問題点として指摘されています。がん細胞にしかない「体細胞変異数」「体細胞変異数」、ちょっとはやり言葉のように聞いたことがある方もいるかもしれません。すごく平たく言うと、がん自体は遺伝子に変異が入ることで起きる病気です。「その変異数が多ければ多いほどICIの効果が高い」というのが体細胞変異数をバイオマーカーとして使える背景です。なぜそんなことが起きるのでしょうか?体細胞変異数は、前回までに散々出てきた「がん抗原」に注目して開発されたバイオマーカーです。思い出していただきたいのですが、T細胞活性化は、がん細胞由来の免疫応答を起こす物質(=抗原)である「がん抗原」を認識するところから始まります。これがないと何も始まりません(図1)。この「がん抗原」に注目した最も有名な治療が、「がんワクチン」です。がんワクチンは「外からがん抗原を入れることで、がん細胞を攻撃するT細胞を活性化させよう」という治療方法です。しかし、残念ながらその期待とは裏腹に、ほとんどのがんワクチンには効果がありませんでした。その理由を考察しながら、体細胞変異数という発想に至った経緯を説明します。抗原には「強い免疫応答を起こす抗原」「弱くしか免疫応答を起こせない抗原」というように階層性がある、といわれています(図3)。たとえば、自分自身の身体にある抗原(自己抗原)は、万が一強い免疫応答を起こしてしまうと自分の身体を免疫が攻撃してしまう「自己免疫性疾患」になってしまいますので、免疫応答は起きないようになっています。画像を拡大する逆にウイルスみたいな異物である外来の抗原(外来抗原)は、非常に強い免疫応答を起こします。インフルエンザにかかると高熱が出るのは、非常に強い免疫応答を起こしている証拠です。そういった外来の自分自身にない非自己の抗原に対して、強い免疫応答が起きなければ病原体を排除できず、われわれの身体は困ってしまいます。ですので、こういった外来抗原は免疫系にとっては格好の排除の対象となり、強い免疫応答が起きるわけです。では、がん抗原に話を戻しましょう。「もともと身体にあるけれど、がん細胞が特別多く持っているがん抗原」というものがあります。「元からある共通のもの」という意味で「共通抗原」と呼びます。従来の「がんワクチン」は、基本的にはこの共通抗原を使用していました。しかし、共通抗原はもともと自分自身の身体にある抗原なので、がん細胞だけが持っているわけではありません。さらにはあくまでも自己なので、ウイルスなどの非自己である外来抗原とは違います。自己である共通抗原に対しては、免疫系は自分自身を「攻撃してはいけない」という「免疫寛容」というシステムが働いて、あまり強い免疫応答を起こすことができない、といわれています(図3)。だから従来のがんワクチンは効果が限定的だったのだろう、と考えられています。じゃあ、「理想的ながん抗原」って何でしょう? がん細胞だけが持っていて、かつ強い免疫応答が起こすことができるものですよね? そう考えたときに注目したのが、がん細胞しか持っていない「体細胞変異」なのです。体細胞変異はもともとの身体にはなく、がん細胞しか持っていません。なおかつ、変異が入っていないものは自己ですが、変異が入ることでタンパク質が変わってしまい非自己になります。ですので、運が良ければウイルスなんかと同じような強い免疫応答を起こすことができる抗原になれるわけなのです(図3)。がん細胞にしかなく、かつ強い免疫応答が起こせる抗原、まさに理想的ながん抗原ですね。これをわれわれは「ネオ抗原」と呼んでいます(図3)。とはいえ、ネオ抗原を一つひとつ同定することは、不可能ではなくともかなり大変です。そこで何かほかに見られるものはないか?となったときに、体細胞変異数の発想に至りました(図4)。つまり、体細胞変異数が多ければ多いほど、非自己として扱われ、T細胞を強く活性化させ、強い免疫応答を起こすことができるネオ抗原も多いのではないか、という予測を基に(図4)、体細胞変異を測定したところ見事に体細胞変異数が多い患者さんほど効果が高いことが証明されました9)。画像を拡大する体細胞変異数への期待と限界体細胞変異数がバイオマーカーとして機能する証拠をいくつか紹介しましょう。1つ目は大腸がんです。大腸がんはICIがほとんど効かないことがいろいろな治験でわかっているのですが、5%くらい劇的に効く集団がいました。それはMSI highという異常なまでに体細胞変異数が多い患者さんたちでした。確かにそういった患者さんの病理組織では腫瘍浸潤T細胞が多く、PD-L1が高発現していることも報告されておりまして、すでにMSI highというくくりでがんの種類に関係なくICIが承認され、日本を含め世界中で使用されています。もう1つの証拠を紹介します。いろいろながんごとに体細胞変異数をカウントして比較したデータがあります。体細胞変異数が多いがんというのは、メラノーマだとか肺がんだとか膀胱がんなんていう、いずれもICIの効果が証明されているものばかりでした。こういったデータからも体細胞変異数が重要である、ということが認識できます。まとめると、図5のようになります。バラバラに3つ並べましたが実はつながっていることがおわかりいただけますか?「体細胞変異数が多い→ネオ抗原が多い→T細胞がネオ抗原のおかげで活性化する→T細胞ががん細胞を攻撃するために浸潤してくる(腫瘍浸潤T細胞)→がん細胞が免疫系から逃れるためにPD-L1を利用する(PD-L1発現)」というストーリーできれいにまとまります(図5)。画像を拡大する体細胞変異数の測定は、現実的な値段でできる時代に来ています。ですので、「全がん患者の体細胞変異数を測定しましょう。もうそれでバイオマーカーは決まり!」と単純には思うのですが、そううまくはいきません。このバイオマーカーも、やはり完璧ではないのです。そもそも体細胞変異だけでは本当に強い免疫応答を起こせるネオ抗原になっているかがわかりません。そして、ネオ抗原だったとしてもT細胞活性化の7つのステップで紹介したように「がん抗原」以外にもたくさん重要な要素があるわけで、さすがにそれらを無視して単純に体細胞変異数だけでは限界があったのです。私見も含めて…、「何が一番大切か?」長々お話ししましたが、私はやはり一番大切なのは「T細胞」だと思っています。なぜならICIはT細胞を活性化させる薬だからです。とくに、浸潤してがん細胞を直接攻撃しているT細胞がきっちりと同定できれば、それが一番良いバイオマーカーであり、がん免疫にとって一番重要な要素だと思います。どんなに体細胞変異数が多かろうと、どんなにPD-L1発現が高かろうと、ICIはT細胞を活性化する薬ですので、そういったT細胞がなければ絶対に効きません。機序を考えれば当然のことです。完璧ではないものに散々時間をかけてしまいましたが、体細胞変異数から始まるネオ抗原・T細胞・PD-L1のストーリーは、がん免疫の本質を考えるうえできわめて重要です。まだいろいろありますが、これ以上は深入りせず、次回はICIの副作用について話をしたいと思います。1)Brahmer JR, et al. N Engl J Med. 2012;366:2455-2465.2)Topalian SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-2454.3)Mok TS, et al. N Engl J Med. 2009;361:947-957.4)Kamada T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019;116:9999-10008.5)Reck M, et al. N Engl J Med. 2016;375:1823-1833.6)Sugiyama E, et al. Sci Immunol. 2020;5:eaav3937.7)Herbst RS, et al. Nature. 2014;515:563-567.8)Tumeh PC, et al. Nature. 2014;515:568-571.9)Rizvi NA, et al. Science. 2015;348:124-128.

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ペムブロリズマブ術後療法の効果が、免疫関連有害事象の発現と関連/JAMA Oncol

 免疫チェックポイント阻害薬の術後補助療法において、免疫関連有害事象(irAE)の発現は有効性に影響を及ぼすのか。フランス・パリ・サクレー大学のAlexander M. M. Eggermont氏らが、完全切除後の高リスクStageIII悪性黒色腫患者を対象に術後補助療法としてのペムブロリズマブの有効性および安全性をプラセボと比較した、国際多施設共同二重盲検第III相試験「EORTC 1325/KEYNOTE-054試験」の2次解析で明らかにした。JAMA Oncology誌オンライン版2020年1月2日号掲載の報告。 研究グループは、2015年8月26日~2016年11月14日に、18歳以上でリンパ節に転移した悪性黒色腫が完全切除された、StageIIIA、StageIIIBおよびStageIIICの悪性黒色腫患者1,019例を、ペムブロリズマブ群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれペムブロリズマブ200mgまたはプラセボを3週間間隔で、再発、許容できない毒性の発現、重大なプロトコール違反または同意撤回まで最大18回(約1年間)投与した。 クリニカルカットオフ日は2017年10月2日、データ固定日は2017年11月28日であった。 irAEと無再発生存期間(RFS)との関連について、irAE発現を時変共変量(発現前を0、発現後を1)とし、年齢、性別およびAJCC-7病期に関して調整したCoxモデルを用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・ペムブロリズマブまたはプラセボの投与を受けたのは1,011例で、患者背景は男性622例(61.5%)、女性389例(38.5%)、年齢50~64歳が386例(38.2%)、50歳未満が377例(37.3%)、65歳以上が248例(24.5%)であった。・既報のintent-to-treat集団を対象とした主解析と同様、治療を開始した患者集団においても、RFSはプラセボ群に比べペムブロリズマブ群で延長した(ハザード比[HR]:0.56、98.4%信頼区間[CI]:0.43~0.74)。・irAEの発現率は、ペムブロリズマブ群37.4%(190/509例)、プラセボ群9.0%(45/502例)であり、両群とも男性と女性のirAE発現率は類似していた。・ペムブロリズマブ群では、男女ともにirAEの発現がRFS延長と関連していた(HR:0.61、95%CI:0.39~0.95、p=0.03)。同様の関連は、プラセボ群では認められなかった。・プラセボ群と比較しペムブロリズマブ群のirAE発症後のほうが、ペムブロリズマブ群のirAE発症なしまたは発症前よりも、再発または死亡のリスク減少が大きかった(HR:0.37[95%CI:0.24~0.57]vs.0.61[0.49~0.77]、p=0.03)。

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上部尿路がんに対する術後抗がん化学療法の有効性:POUT trial第III相試験(解説:宮嶋哲氏)-1216

 上部尿路がんは予後不良であるものの、術後補助化学療法の有効性は確認されていない。本研究では腎盂尿管がんで腎尿管全摘除術を施行された患者(261例)を対象に、経過観察群とシスプラチン主体の抗がん化学療法投与群(ゲムシタビン+シスプラチンまたはカルボプラチン)の2群にランダム化してその有効性を前向きに比較検討したものである。 2012年から2017年までに登録された261症例のうち、132例が化学療法群、129例が経過観察群に割り付けられ、観察期間中央値は30.3ヵ月であった。術後化学療法はDFS(HR:0.45、p=0.0001)ならびにMFS(HR:0.48、p=0.0007)を有意に改善した。3年無事象生存率(event-free survival)は化学療法群で71%、経過観察群で46%であった。一方、Grade3以上の有害事象は、化学療法群で44%、経過観察群で4%に認めたが、治療関連死は認めなかった。 以上から、腎盂尿管がんに対する腎尿管全摘除術施行後のシスプラチン主体補助化学療法の有効性がようやく示されたといえる。ただし、対象となったコホートにはリンパ節陽性例が20%以上含まれていたことから、リンパ節陰性例だけ抽出した症例に関する結果に疑問が残る。さらには、リンパ節郭清の意義についても検討課題である。 腎盂尿管がんの術後は単腎となり腎機能は術前に比べ半減するため、投与可能なシスプラチンの量も減少する。したがって、術前抗がん化学療法の有効性に関する検討も必要である。さらには、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、シスプラチン主体抗がん化学療法の立ち位置も今後は変化していくものと予測される。

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肺がん1次治療、二ボルマブ・イピリムマブ併用への化学療法の限定追加療法、米国および EU で申請/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2020年4月8日、米国食品医薬品局(FDA)が、ファーストライン治療薬として、化学療法のサイクルを限定して追加した二ボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法の生物学的製剤承認一部変更申請(sBLA)を受理したと発表。 また、欧州医薬品庁(EMA)は、同適応に関して、化学療法を限定して追加した二ボルマブとイピリムマブの併用療法の承認申請を受理した。本申請の受理により、提出が完了し、EMAの中央審査が開始される。これは、日本において、小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブが共同で行った、化学療法を限定して追加した二ボルマブとイピリムマブの併用療法の国内製造販売承認事項一部変更承認申請の提出に関する3月26日の発表に続くものである。 本申請は、第III相CheckMate-9LA試験の結果に基づいている。 CheckMate-9LA試験は、PD-L1発現レベルおよび腫瘍組織型にかかわらず、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者のファーストライン治療薬として、二ボルマブ360mg(3週間間隔)とイピリムマブ1mg/kg(6週間間隔)に化学療法(2サイクル)を追加した併用療法を、化学療法(最大4サイクル後に、適格であればペメトレキセドによる維持療法を任意で施行)と比較した多施設共同無作為化非盲検第III相臨床試験。2019年10月、中間解析で、主要評価項目である全生存期間(OS)を達成したことを発表していた。

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早期トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブ+術前化学療法:pCR率が13.6%増加(解説:下村昭彦氏)-1209

 本試験は、臨床病期IIからIIIの早期トリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)に対して術前化学療法にペムブロリズマブを追加する効果を病理学的完全奏効(pathological complete response:pCR)率と無イベント生存期間を用いて評価した第III相試験であり、ペムブロリズマブ群でpCR率64.3%(95%CI:59.9~69.5)、プラセボ群で51.2%(95%CI:44.1~58.4)と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった。 メラノーマで最初に有効性が示された免疫チェックポイント阻害薬も、あっという間にさまざまながん種で有効性が示され、他がん種ではすでに日常臨床で多く使われるようになった。乳がんにおいてもその有効性が期待されていたが、昨年の欧州臨床腫瘍学会で発表されたKEYNOTE-119が示すように、免疫原性が高いとされるTNBCであっても単剤での有効性は示せていない。転移TNBCにおいてはすでに抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブとアルブミン結合パクリタキセルの有効性が示され、国内でも承認されている。また、転移TNBCに対するペムブロリズマブと化学療法併用の有効性もプレスリリースされており、転移TNBCにおいては免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用は重要な選択肢の1つとなっている。 早期乳がんにおいては、TNBCを対象として複数の試験が行われた(行われている)。本試験はその1つである。TNBCにおいてはpCRが予後のサロゲートマーカーとなることが知られており、本試験においてもpCR率においてペムブロリズマブ群で良好であることが示された。EFSは中間解析であるが、ペムブロリズマブ群で良好であった。ほかに早期TNBCの術前化学療法に対するアテゾリズマブの上乗せを検証する試験も行われており、免疫チェックポイント阻害薬は今後早期TNBCの重要な治療選択になってくる。 一方で、早期がんに免疫チェックポイント阻害薬を使うことには一定の注意も必要である。本試験においてはペムブロリズマブ群で甲状腺機能低下が13.7%で認められている。免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能低下は改善しないことが多く、生涯にわたる甲状腺ホルモンが必要になるケースも少なくない。Grade3を超える副腎機能低下も1.3%に認められている。頻度は低いが、重篤でありマネジメントに注意が必要な有害事象である。論文では報告されていないが、免疫チェックポイント阻害薬では劇症型I型糖尿病など対応を誤ると生命に危険が及ぶ有害事象も発生する。術前化学療法は治癒を目指して行う治療であるからこそ、今後実臨床で行うようになった際には、適応をきちんと決め、薬物療法に習熟した医師が適切に有害事象のマネジメントを行う必要がある。 とはいえ、乳がんにおいては免疫チェックポイント阻害薬の開発はしばらくホットな話題になりそうだ。HER2陽性乳がんに対する術前化学療法との併用や、ホルモン受容体陽性乳がんに対するホルモン療法およびCDK4/7阻害薬との併用など、バイオロジーに基づいたさまざまな臨床試験が行われている。バイオロジーの理解と併せて、今後も注目していきたい。

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ニボルマブ+イピリムマブ、化学療法との併用で非小細胞肺がんに承認申請/小野・BMS

 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、2020年3月26日、抗PD-L1抗体ニボルマブ(商品名:オプジーボ)と抗CTLA-4抗体イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)について、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する、プラチナ製剤を含む 2 剤化学療法(プラチナ・ダブレット)との併用療法に係る国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行ったと発表。 今回の承認申請は、小野薬品とブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)が、PD-L1発現レベルおよび腫瘍の組織型にかかわらず、化学療法未治療の進行・再発のNSCLC患者を対象に、ニボルマブとイピリムマブの併用療法にプラチナ・ダブレット化学療法を追加した併用療法を、プラチナ・ダブレット化学療法と比較評価した多施設国際共同無作為化非盲検第III相臨床試験(CheckMate-9LA試験)の結果に基づいている。 本試験の中間解析の結果、ニボルマブとイピリムマブにプラチナ・ダブレット化学療法を追加した治療群は、プラチナ・ダブレット化学療法群と比較して、主要評価項目である全生存期間の有意な延長を達成した。本試験における併用療法群の安全性プロファイルは、化学療法未治療のNSCLC治療において免疫療法と化学療法との併用療法でこれまでに認められているものと一貫していた。

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免疫チェックポイント阻害薬はこうやって効いている【そこからですか!?のがん免疫講座】第3回

はじめに前回は、「がん免疫にはT細胞が最も重要だ」という話をしました。とくにT細胞が抗原提示細胞やがん抗原と出合って活性化し、その活性化したT細胞がまたがん細胞と出合って攻撃するという、T細胞活性化の7つのステップを説明しました。画像を拡大する今回はこの中で、「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」がどうやって効果を発揮しているのか」について解説します。T細胞が抗原と出合うときに活性化がコントロールされる前回説明した7つのステップの中に、「T細胞が抗原と出合う」ステップが2つあります。途中の抗原提示細胞と出合うステップと、最終的ながん細胞と出合うステップですね。この出合うステップにおいてT細胞は相手の細胞と接触します。この接触面は「免疫シナプス」と呼ばれており、実はここでT細胞はさまざまなコントロールを受けています。T細胞には「T細胞受容体(TCR)」というものがあり、これを用いて相手の細胞の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に乗った抗原を認識し、相手の細胞と接触して先ほど出てきた免疫シナプスを形成します。ちょっと信じ難いことに、このTCRには10の18乗通りといわれるくらいの無数のレパートリーがあり、その一つひとつを「T細胞クローン」と呼んでいます。T細胞クローンにこれだけ無数のレパートリーがある理由は、「さまざまな抗原を認識する」ためです。そうでないと、外からやってくる無数の細菌やウイルスなどの抗原に対応できません。しかし、「がん抗原を含む特定の抗原を認識できるTCRを持つT細胞クローン」というのは、無数のレパートリー中のごく一部です。決してすべてではありません(図2)。つまり、すべてのT細胞クローンががん抗原を認識してがん細胞を攻撃するわけではなく、一部のクローンのみが認識して攻撃しています。このような仕組みによって、「さまざまな抗原に対応でき」、かつ「すべてのT細胞クローンが活性化するわけではない」というコントロール機構が備わっています。画像を拡大するそして、ヒトの身体というのは本当に慎重で、免疫が暴走しないような、さらなるコントロール機構を持っています。実は、TCRで抗原を認識した際、TCRからT細胞に活性化刺激が入りますが、実はT細胞に入る刺激が1つだけの場合はT細胞が活性化できないようになっています。必ず「共刺激」が必要です。刺激が1つではだめで、もう1つ一緒に刺激するものが必要、というところから共刺激と呼んでいる、という非常にシンプルなネーミングです。この共刺激の代表例に、「CD28」という分子があります。抗原提示細胞などに出ているCD80やCD86という分子とT細胞上に出ているこのCD28が免疫シナプスの接触面で結合することでT細胞に活性化刺激が“もう1つ”入ります(図3)。つまりTCRがMHCに乗ったがん抗原を認識して入るTCRからの活性化刺激と、CD28を代表とする共刺激の2つがそろってT細胞は活性化するのです(図3)。画像を拡大するところが、このCD28はなかなか強烈な共刺激でして、過去に「CD28刺激を治療に応用できないか?」という発想で治験がなされたそうですが、使用直後から強烈な炎症が起きて治験は中止になってしまったそうです1)。免疫チェックポイント分子と抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体の作用機序CD28刺激の例からもわかるように、免疫の暴走は恐ろしいことになります。ですので、われわれの身体はさらなる「コントロール機構」を備えています。本当に慎重なのですね…。とくに、免疫シナプスでT細胞をコントロールするCD28のような分子をほかにも多く持っており、それらをまとめて「免疫チェックポイント分子」と呼んでいます(図4)2)。画像を拡大する「免疫チェックポイント分子はCTLA-4やPD-1だけだ」と思われている方がいるかもしれませんが、実は判明しているだけでたくさんあることが図4からおわかりいただけると思います。T細胞の活性化を促す自動車のアクセルのような免疫チェックポイント分子もあれば、抑制するブレーキのような免疫チェックポイント分子もあります(図4)。臨床応用されている抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体は、いずれもブレーキ役の免疫チェックポイント分子を標的にしています。つまり、CTLA-4やPD-1/PD-L1という分子は、本来われわれの身体に備わっているT細胞が暴走しないよう抑制しているブレーキであり、抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体はこのブレーキを外してT細胞を活性化し、活性化したT細胞ががん細胞を攻撃している、というわけです。ただし、これらの薬剤はちょっとずつ作用機序が異なっています。CTLA-4という分子は主にT細胞が抗原提示細胞と出合うステップで働くブレーキだといわれています。T細胞の活性化にCD28の共刺激が必要、ということを紹介しましたが、このCTLA-4という分子はCD28の結合相手であるCD80/CD86と非常に強く結合し、本来CD28が結合する分子を強奪してしまいます。結果としてCD80/CD86と結合できなくなったCD28からの共刺激が入らず、T細胞が抑制されてしまいます(図5のA)。画像を拡大する一方でPD-1はPD-L1/L2と結合することで、抗原を認識した際に入るTCRからの活性化刺激を抑えています。ただし、最近はCD28からの共刺激も抑えているという報告もあるなど、少しややこしい議論もありますが(図5のB)、主にT細胞ががん細胞と出合うステップで働いているとされています。したがって、抗CTLA-4抗体は抗原提示細胞と出合うステップでのT細胞の活性化抗PD-1/PD-L1抗体は最終的にがん細胞と出合うステップでのT細胞の活性化をそれぞれ促し、活性化したT細胞ががん細胞を攻撃して効果を発揮しています。「がん免疫編集」に話を戻して第1回にお話しした「がん免疫編集」を覚えているでしょうか?3)この「がん免疫編集」に免疫チェックポイント分子、ICIを当てはめて考えてみたいと思います。第1回では、臨床的な「がん」の状態は、がん細胞が免疫系から逃れている「逃避相」にある、と紹介しました。ぴんときた方もおられるかもしれませんが、がん細胞は逃避機構の1つとしてこのCTLA-4やPD-1/PD-L1という免疫チェックポイント分子を上手に利用して、免疫系から逃れています。そしてこれらを阻害するICIは、この逃避機構を壊して「がん免疫編集」で言うところの、がん細胞と免疫系とが平衡状態にある「平衡相」、そしてもしかしたらがん細胞が排除される「排除相」にまで逆戻しをしている、ということで話をまとめることができます。細かい話はまだいろいろありますが、これ以上は深入りせず、次回はがん免疫療法の効果予測バイオマーカーの話をしながら、がん免疫の理解を深めていきたいと思います。1)Suntharalingam G, et al. N Engl J Med. 2006;355:1018-1028.2)Pardoll DM. Nat Rev Cancer. 2012;12:252-264.3)Schreiber RD, et al. Science. 2011;331:1565-1570.

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FDA、二ボルマブ・イピリムマブ併用、肝細胞がんに迅速承認

 米国食品医薬品局(FDA)は、3月10日、ソラフェニブ既治療の肝細胞がん患者に対するニボルマブとイピリムマブの併用療法を迅速承認した。 この併用療法の有効性は、ソラフェニブ治療で進行した、または不耐性の肝細胞がん患者を対象に実施された多施設コホート非盲検試験CheckMate-040のコホート4で調査された。合計49例の患者に、イピリムマブ3mg/kgとニボルマブ1mg/kgを3週間ごと4サイクル、その後ニボルマブ240mgを2週間ごと、疾患進行または忍容できない毒性が発現するまで投与した。 主要有効性評価項目は、盲検化独立中央委員会評価の全奏効率(ORR)と奏効期間(DoR)であった。ORRは33%(n=16、CR4例、PR12例)であった。DoRは4.6〜30.5ヵ月以上で、奏効患者の31%は24ヵ月以上効果が持続した。 ニボルマブとイピリムマブの併用による一般的な副作用(20%以上)は、疲労、下痢、発疹、そう痒症、嘔吐、筋骨格痛、発熱、咳、食欲減退、嘔吐、腹痛、呼吸困難、上気道感染、関節痛、頭痛、甲状腺機能低下症、体重減少、めまいであった。

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ICIがすごく効いたら、やめてよいか?再投与は有効か?【忙しい医師のための肺がんササッと解説】第12回

第12回 ICIがすごく効いたら、やめてよいか?再投与は有効か?1)Warner AB, et al. Long-Term Outcomes and Responses to Retreatment in Patients With Melanoma Treated With PD-1 Blockade. J Clin Oncol. 2020 Feb 13. [Epub ahead of print]われわれは免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場によって、従来では考えられない長期生存を経験するようになっている。なかには腫瘍が消失するような症例もあるが、そのような場合にICIは中止可能か、についてはまだまだ情報が少ない。今回、悪性黒色腫において完全奏効(CR)例に対するICIの中止、また再発後の再投与に関して検討した論文を紹介する。試験デザインメモリアル・スローン・ケタリングにおける後方視的研究。2009~18年に抗PD-1抗体単剤を投与された1,325例のうち、途中中止された396例が対象。観察期間中央値は21.1ヵ月。患者背景使用されたのは85%がペムブロリズマブ、残りがニボルマブ。約半数はイピリムマブの治療歴あり。抗PD-1抗体単剤の投与期間中央値は4.8ヵ月・回数中央値は8回。投与中止となった最大の理由は病勢増悪(PD)で約50%。毒性による中止は22%であった。中止症例のうち、CR例の詳細途中中止された396例のうち102例(25.8%)でCRが得られた。CR例の中止理由は「CRと考えたから」が約70%、毒性が24%。途中中止されたCR例の無治療生存期間・全生存期間はいずれも中央値に達しなかった。3年時点での無治療生存割合は72%。この研究は後方視的研究であり、CRは担当医判断である。しかし、これらを(1)放射線科医によって厳密にRECIST CRとされたもの、(2)そうでないもの(RECIST CRではないが担当医判断がCR)、(3)再生検によって病理学的にCRと判断されたものに分けても、無再発期間に有意な差を認めなかった。CRと相関する臨床背景については、病期M1bや組織型、TMB high、LDH上昇が挙げられている。中止かつCR例のうち、再発した症例観察期間中に23例(23%)が再発。一方でCRを1年間維持できた症例では80%以上で2年間以上のCRが維持されていた。CRに至るまでの治療期間と再発率には相関なし。再発後のICI再投与78例が再発後にICIの再投与を受けた。この解析はICI中止までの治療効果を問わず行われている点に注意(37例は最良効果がPDにもかかわらず、再投与されている)。奏効率(ORR)は抗PD-1抗体単剤で15%(34例中5例)であった。抗PD-1抗体+イピリムマブで25%(44例中11例)であった。単剤再投与で奏効した5例のうち、3例は初回ICIの最良効果がPD、2例は毒性により初回ICIが中止されていた。初回CRとなった10例で、再投与後に奏効が得られたものはわずかに2例であった。また、初回と再投与の効果には相関がなかったとされている。再投与期間の中央値はわずかに1.6ヵ月、2年生存割合は37.6%であった。解説本研究の強み・興味深い点CR例に限定した中止後の解析という点。CRとなっても4人に1人は再発している。再投与の有効性はそれほど高くない。また、初回投与と再投与の有効性は必ずしも相関していない。だからといって、実臨床で初回ICIがPDであった場合に再投与するのは勇気がいる気がするが…。本研究の欠点単施設による後方視的研究であること。CR症例のうち、どのような症例で無再発率が高いのか、臨床背景やバイオマーカーの検討はなされていない。その他ICI治療におけるRECISTの判断基準が厳しすぎる可能性を指摘している。

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レンバチニブ+ペムブロリズマブ、進行固形がんの成績/JCO

 新しいがん治療薬として期待される免疫チェックポイント阻害薬について、その活性を増強する研究報告が示された。米国・オレゴン健康科学大学のMatthew H. Taylor氏らは、血管新生阻害による血管内皮増殖因子を介した免疫抑制の調節が、免疫チェックポイント阻害薬の活性を増強する可能性が示唆されていることから、レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法の第Ib/II相試験を実施。腎細胞がん、子宮内膜がんおよびその他の進行固形がん患者を対象とした同併用療法が、有望な抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルを示したことを報告した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年1月21日号掲載の報告。 研究グループは、第Ib相試験としてレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法の最大耐用量(MTD)を決定した後、第II相試験を実施した。試験適格対象は、転移のある腎細胞がん、子宮内膜がん、頭頸部扁平上皮がん、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、尿路上皮がん患者であった。 主要評価項目は、第II相試験における投与24週時の客観的奏効率(ORR)であった。 主な結果は以下のとおり。・全体で137例(第Ib相試験13例、第II相試験124例)の患者が登録された。・用量制限毒性(DLT)として、Grade3の関節痛およびGrade3の疲労の2つが、第Ib相試験の初回投与量で報告され、その後の用量漸増コホートではDLTは認められなかったことから、第II相試験におけるレンバチニブの推奨用量は20mg/日に決定された。・第II相試験での投与24週時のORRは、腎細胞がん63%(19/30例、95%信頼区間[CI]:43.9~80.1%)、子宮内膜がん52%(12/23例、30.6~73.2%)、悪性黒色腫48%(10/21例、25.7~70.2%)、頭頸部扁平上皮がん36%(8/22例、17.2~59.3%)、非小細胞肺がん33%(7/21例、14.6~57.0%)、尿路上皮がん25%(5/20例、8.7~49.1%)であった。・主な治療関連有害事象は、疲労(58%)、下痢(52%)、高血圧(47%)および甲状腺機能低下症(42%)であった。

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ニボルマブ、食道がんとMSI-High大腸がんに国内承認/小野・BMS

 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、2020年2月21日、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)について、「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発の食道癌」と「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」の効能又は効果の追加に係る国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得した。 食道がんに対する承認は、フッ化ピリミジン系薬剤およびプラチナ系薬剤を含む併用療法に不応または不耐の食道がん患者を対象に実施した多施設国際共同無作為化非盲検第III相臨床試験(ATTRACTION-3試験)の結果に基づいている。同試験の結果、ニボルマブ群は、化学療法群(ドセタキセルまたはパクリタキセル)と比較して、主要評価項目である全生存期間(OS)で統計学的に有意な延長を示した。ニボルマブ群の生存ベネフィットは、PD-L1発現レベルにかかわらず認められた。また、同試験におけるニボルマブの安全性プロファイルは、これまでに報告された臨床試験のものと一貫しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。 MSI-High結腸・直腸がんに対する承認は、フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法による治療中または治療後に病勢進行した、もしくは同治療法に忍容性がなかった再発または転移のあるMSI-Highまたはミスマッチ修復欠損(dMMR)を有する結腸・直腸がん患者を対象に実施した多施設国際共同非盲検第II相臨床試験(CheckMate-142試験)のニボルマブ単剤コホートによる結果に基づいている。同試験でニボルマブは、主要評価項目である治験担当医師の評価による奏効率(ORR)において有効性を示した。同試験におけるオプジーボの安全性プロファイルは、これまでに報告された臨床試験のものと一貫しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。

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ニボルマブ・化学療法併用、非小細胞肺がんに対する国内承認申請/小野・BMS

 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、2020年2月27日、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)について、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対するプラチナ製剤を含む2剤化学療法との併用療法による用法及び用量の追加に係る国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行ったと発表。 今回の承認申請は、化学療法未治療のStage4または再発の非小細胞肺がん患者を対象に実施した多施設国際共同非盲検無作為化第III相臨床試験CheckMate-227のPart1およびPart2の結果に基づいている。

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がん免疫療法の主役となる「T細胞」の秘密【そこからですか!?のがん免疫講座】第2回

はじめに前回は、「がん細胞も細菌やウイルスと同じように非自己として認識されれば、免疫にとっては排除の対象となり、それが“がん免疫”」という話をしました。そして免疫系は自然免疫と獲得免疫に分けられ、さまざまな細胞が関わっていることを紹介しました。今回はそうした中で「がん免疫にとって最も重要なもの」を解説します。主役はT細胞のうちの「CD8陽性T細胞」すでにタイトルにあるように、がん免疫の主役は「獲得免疫」、とくにT細胞といわれており、現状のがん免疫療法はT細胞を上手に利用しています。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はT細胞を活性化してがん細胞を攻撃していますし1)、血液腫瘍領域で話題のCAR-T細胞療法はがん細胞を攻撃するT細胞を人工的に作って体に戻す、という治療法です2)。前回も出てきたように、T細胞は「獲得免疫」に属しますので、がん細胞を特異的に見分けて攻撃しているわけなんですが、ここで少しややこしいのがT細胞の中にもいろいろな種類がある点です。T細胞は、表面に出ている分子によって、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞にざっくりと分けられます。ウイルスなどの病原体が感染した細胞は、異常な細胞として免疫系にとっての排除対象になります。この異常細胞を攻撃・排除するための免疫を細胞性免疫と呼んでおり、CD8陽性T細胞が主にこの役割を担っています。「細胞を攻撃・傷害するT細胞」ということで、細胞傷害性T細胞とも呼ばれています。勘の鋭い方はもうおわかりかもしれませんが、ウイルスに感染した細胞だけではなく、がん細胞も異常な細胞として認識されれば、この細胞性免疫の攻撃・排除の対象となります。したがって、がん免疫の主役となり、がん細胞を攻撃・排除する細胞はCD8陽性T細胞だと考えられています。実際に、CD8陽性T細胞を除去したマウスは、がん細胞に対する免疫が働かないため、腫瘍を埋めるとその腫瘍増殖は速くなり、ICIが効かなくなります。ここで、非常に重要なことを思い出していただきたいのですが、獲得免疫は「記憶」することで同じ病原体に出合ったときに効率的に排除できることが特徴、でした。これががん細胞に働いてくれれば長期の効果が期待できます。これが、ICIが分子標的薬や抗がん剤と決定的に異なる点であり、ICIを使った患者さんの中にまるで完治したかのように長期に再発のない方がいる理由の1つと考えられています。がん細胞を攻撃・排除するT細胞活性化の7ステップこの「CD8陽性T細胞=細胞傷害性T細胞」によるがん細胞を攻撃・排除するプロセスは、以下の7つのステップにまとめられます(図1)3)。画像を拡大する1)がん細胞から免疫応答を引き起こす物質(がん抗原)が放出される。2)抗原提示細胞が、がん抗原を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の上に提示する。3)T細胞が、MHC上のがん抗原をT細胞受容体(TCR)で認識し、認識がうまくいけば活性化する。4)活性化したT細胞が遊走する。5)遊走したT細胞ががん細胞のところへ浸潤する。6)再度、T細胞がTCRでがん細胞のMHC上に提示されたがん抗原を介してがん細胞を認識する。7)T細胞が、がん細胞をうまく認識できたら攻撃・排除する3)。一気によくわからない言葉がたくさん出てきたと思いますので、少し説明を追加しましょう。がん抗原という言葉は今後もよく出てきますので、少し難しいですがぜひ覚えておいてください。免疫応答を引き起こす物質を総称して「抗原」と呼んでいますが、がん由来の「抗原」なので単純にがん抗原と呼んでいます。一般的に言えば、「タンパク質の切れ端」みたいなものと思っていただければいいでしょう。MHCについては、もしかしたら皆さんはHLAと言ったほうが、なじみがあるかもしれません。ヒトの場合はMHCのことをHLAと呼んでいます。よく移植医療のときに「HLAが一致している」などという言葉が出てきますよね。MHCはお皿のようになっていて、細胞の外に出て抗原を乗せており(「提示」と呼んでいます)、T細胞はMHCによって外に提示された抗原をTCRという受容体で認識します(図2)。がん細胞も含む体中のあらゆる細胞はこのMHCに抗原を乗せて外に提示していますが、とくに抗原を提示することを専門とし、免疫を活性化する細胞のことを、抗原提示細胞という単純な名前で呼んでいます(図2)。抗原提示細胞は総称であり、前回登場した自然免疫に属する樹状細胞などが含まれます。画像を拡大するちょっと複雑になってきたので、ICIの作用機序などについては、次回ゆっくりお話ししましょう。1)Zou W, et al. Sci Transl Med. 2016;8:328rv4.2)June CH, et al. N Engl J Med. 2018;379:64-73.3)Chen DS, et al. Immunity. 2013;39:1-10.

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ASCO- GI 2020レポート 消化器がん

インデックスページへ戻るレポーター紹介今回、2020年1月23日~25日に米国・サンフランシスコにおいて開催されたASCO GI 2020に参加し、すでに現地速報という形で注目演題を報告させていただいているが、音声などが乱れたこともあり、補足とともにそこで取り上げることができなかった演題を報告させていただきます。DAY1 Cancers of the Esophagus and StomachOral SessionRESONANCE試験:The Randomized, Multicenter, Controlled Evaluation of S-1 and Oxaliplatin (SOX) as Neoadjuvant Chemotherapy for Chinese Advanced Gastric Cancer Patients.(abstract #280)Chen L, et al.中国から発表された局所進行胃がんに対する術前S-1/オキサリプラチン併用療法(SOX)の有効性に関する無作為化第III相試験である。本試験はStageII/IIIの切除可能胃がんおよび接合部がんを対象とし、手術+術後SOX療法(AC群:adjuvant group)に対する術前SOX療法+手術+術後補助化学療法(NC群:Neoadjuvant group)の優越性を検証した。AC群は術後補助化学療法としてSOX療法を8サイクル施行し、一方NC群は術前SOX療法を2~4サイクル施行後に手術を行い、術後SOX療法は術前投与を含め計8サイクル施行する。SOX療法は共にS-1(80~120mg/day、day1~14、3週ごと)およびオキサリプラチン(130mg/m2、day1、3週ごと)である。主要評価項目は3年間の無病生存割合(3y-DFS)であった。772例が登録され、各群に386例が割り付けられた。両群間の患者背景に偏りはなく、cT3はNC群:AC群=64%:66%、cT4はNC群:AC群=12%:13%であり、cStageIIはNC群:AC群=39%:42%、cStageIIIはNC群:AC群=61%:58%であった。NC群において術前SOX療法は91.9%において投与完遂し、術後補助化学療法を含め8サイクル投与が53.2%において完遂可能であったのに比し、AC群における8サイクル投与完遂率は47.7%であった。R0切除率はNC群においてAC群よりも有意に良好であり(94.8% vs.83.8%)、NC群では46.4%にダウンステージングを認め、術後病理学的完全奏効(pCR)を23.6%に認めた。コメント中国で実施された局所進行胃がんに対する術前SOX療法の有効性を検証した第III相試験の第1報である。主要評価項目である3y-DFSの結果はいまだ不明であるが、術前SOX療法を施行することによりR0切除率の向上とダウンステージングが示唆された。ただし、抄録とR0切除率や治療奏効割合(pRR)の結果が異なるなどいくつか気になる点があり、評価には最終的な報告を待つ必要があると考える。POSTER SessionAPOLLO-11試験:Feasibility and pathological response of TAS-118 + oxaliplatin as perioperative chemotherapy for patients with locally advanced gastric cancer(abstract #351)Takahari D, et al.進行胃がんに対するTAS-118(S-1+ロイコボリン)とオキサリプラチンの併用療法(TAS-118/L-OHP)は、2019世界消化器がん会議(WCGC)においてS-1/CDDP併用療法との比較第III相試験(SOLAR試験)として公表されているが、今回、局所進行胃がん症例に対する周術期化学療法での忍容性を検討する単群第II相試験であるAPOLLO-11試験(UMIN000024688)の第1報が報告された。本試験はリンパ節転移を伴うcT3-4局所進行胃がんを対象とし、術前治療としてTAS-118(80~120mg/日、day1~7、2週ごと)およびL-OHP(85mg/m2、day1、2週ごと)併用療法を4コース施行後、胃切除+D2郭清が実施され、術後補助化学療法としてTAS-118単剤x12コース(Step1)もしくはTAS-118/L-OHP併用療法x8コース(Step2)が行われた。主要評価項目は(1)術前TAS-118/L-OHP併用療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性と(2)術後補助化学療法の忍容性であり、今回の報告では(1)術前TAS-118/L-OHP併用療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性結果が報告された。45例が登録され、術前TAS-118/L-OHP併用療法4コースが完遂されたのが40例(89%)であり、最終的に43例(96%)において外科的切除が完遂可能であった。患者背景は年齢中央値=64歳、男性=82%、胃原発/接合部がん=89%/11%、腸型/びまん型=69%/31%、cT3/4a=29%/71%、cN1/2/3=56%/38%/7%、臨床病期IIB/IIIA/IIIB/IIIC=24%/36%/33%/7%であった。術前化学療法における各薬剤の相対薬物濃度(RDI)中央値はTAS-118=91.7%、L-OHP=100.0%であった。術前TAS-118/L-OHP併用療法におけるGrade3以上の有害事象として、下痢(17.8%)、好中球減少症(8.9%)、食欲不振(4.4%)、口腔粘膜炎(4.4%)、白血球減少症(2.2%)、悪心(2.2%)、倦怠感(2.2%)を認めた。R0切除率は95.6%(90%CI:86.7~99.2%)であった。術後標本による病理学的治療効果(Grade1b-3)を62.2%(90%CI:48.9~74.3%)に認め、うち病理学的完全奏効割合(pCR)は13.3%であり、ダウンステージが68.9%(90%CI:55.7~80.1%)の症例において得られた。コメント局所進行胃がんに対する術前TAS-118/L-OHP併用療法に関する初めての報告であり、術前化学療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性が確認された。今後、術後補助化学療法パートの忍容性結果が報告予定であり、長期予後と合わせてその結果が期待される。EPOC1706試験:An open label phase 2 study of lenvatinib plus pembrolizumab in patients with advanced gastric cancer(abstract #374)Kawazoe A, et al.KN-061試験(胃がん2次治療)やKN-062試験(胃がん1次治療)の結果よりPD-L1陽性胃がんに対するペムブロリズマブ単剤療法の奏効割合は約15%と報告されている。一方、マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブは腫瘍関連マクロファージを減少させ、CD8陽性T細胞の浸潤を増強することによる抗PD-1抗体の抗腫瘍効果増強が報告されており、進行胃がんに対するレンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法の単群第II相試験であるEPOC1706試験(NCT03609359)の結果が報告された。本試験は進行胃がんを対象とし、レンバチニブ(20mg/日内服)とペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)の併用療法を病勢進行や毒性などの理由による治療中止まで継続するスケジュールで実施された。主要評価項目は担当医判定による全奏効割合(ORR)である。29例が登録され、患者背景は年齢中央値=70歳、男性=90%、腸型/びまん型=52/48%、初回治療/2次治療=48/52%、HER2陽性=17%、dMMR/pMMR=7/93%、EBV陽性=3%、PD-L1 CPS≧1/<1=66/34%であった。腫瘍縮小効果は非常に良好であり、主要評価項目である担当医判定によるORRはCR1例を含む69%(95%CI:48~85%)、病勢制御割合(DCR)は100%(95%CI:88~100%)であった。無増悪生存期間中央値は7.1ヵ月(95%CI:4.2~10.0)、生存期間中央値には至っていなかった。レンバチニブによる有害事象としてGrade3以上の高血圧(38%)、蛋白尿(17%)を認め、ほとんどの症例においてレンバチニブの1段階以上の減量が必要であったが、減量により毒性はマネジメント可能であった。コメント進行胃がんに対する、非常に切れ味良好な腫瘍縮小効果を認める新規併用療法である一方、immatureではあるがその効果の継続が治療継続期間中央値6.9ヵ月(範囲:2.8~12.0)、PFS 7.1ヵ月と限られており、今後の追加報告が期待される。ATTRACTION-2試験 3年フォローアップ:A phase 3 Study of Nivolumab in Previously Treated Advanced Gastric or Gastric Esophageal Junction Cancer(abstract #383)Chen LT, et al.2レジメン以上の化学療法に対して不応の切除不能進行再発胃がん・接合部がんを対象にニボルマブの有効性をプラセボ比較で検証した第III相試験であるATTRACTION-2試験の3年追跡結果報告である。2017年のLancet誌報告時のニボルマブ投与群の生存期間中央値(mOS)は5.26ヵ月、1年生存割合(1y-OS)は26%であり、2018年のESMOで発表された2年追跡結果における2y-OSは10.6%、2年無増悪生存割合(2y-PFS)は3.8%であった。今回新たに1年間の追加観察期間を設けた報告において、ニボルマブ群の3y-OSは5.6%、3y-PFSは2.4%であった。ニボルマブ群の15例とプラセボ群の3例が3年以上の長期生存を認めており、プラセボ群の3例のうち2例は病勢進行後にニボルマブによる加療を受けていた。ニボルマブ群のうち、最良効果(BOR:best overall response)がCRもしくはPRであった32例(9.7%)の生存期間中央値は26.88ヵ月であり、1y-OSは87.1%、2y-OSは61.3%、3y-OSは35.5%であった。BORがSDであった76例(23%)の生存期間中央値は8.87ヵ月であり、1y-OSは36.1%、2y-OSは7.4%、3y-OSは3.0%であった。ニボルマブ群のうち55.5%の症例において免疫関連の有害事象を認め、これら免疫関連有害事象を認めた症例のmOSは7.95ヵ月であり、認めなかった症例のmOSは3.81ヵ月であった(HR=0.49)。コメント今回、3年の観察期間を設けた報告によりニボルマブ投与によって3年以上の長期生存を得られる症例が5%程度いることが示唆され、またBORがCRもしくはPRとなりえる約10%程度の症例においては、約3分の1において3年以上の生存が得られる可能性が示唆された。毒性に関して、ほとんどの場合、既報のごとくニボルマブによる治療開始後3ヵ月以内に発生していたが、なかには治療開始後2年以上の経過の後に免疫関連有害事象として肺障害や腎障害が出現したケースも認め、ニボルマブ投与に当たってはその投与終了後にも免疫関連有害事象の出現に関して引き続き注意が必要であることが示唆された。MSI status in > 18,000 Japanese pts:Nationwide large-scale investigation of microsatellite instability status in more than 18,000 patients with various advanced solid cancers.(abstract #803)Akagi K, et al.本邦におけるMSI-Hの頻度に関して、2018年12月~2019年11月の1年間にMSI検査キット(FALCO)による解析が実施された2万5,789例を対象に検討。2万5,563例(99.1%)で解析可能であり、うち959例(3.75%)がMSI-Hであった。MSI-Hは10~20代の若年者(7.43%)および80代以上の超高齢者(5.77%)において認める傾向が強く、また既報のごとく早期病期(StageI~III)に比べ進行期(StageIV)においてその頻度は少なかった(StageI~III:StageIV=6.02%:3.05%)。がん種別のMSI-Hの頻度は子宮体がん(17.00%)、小腸がん(9.23%)、胃がん(6.73%)、十二指腸がん(5.79%)、大腸がん(3.83%)、NET/NEC(3.60%)、前立腺がん(3.04%)、胆管がん(2.26%)、胆嚢がん(1.55%)、肝がん(1.15%)、食道がん(1.00%)、膵がん(0.74%)であった。コメントMSI-H腫瘍に関して、既報と照らし合わせても最も多くの対象で検討した非常に貴重な報告であり、日本人MSI-H腫瘍の状況を反映していると考える。DAY2 Cancers of the Pancreas, Small Bowel, and Hepatobiliary TractOral SessionPROs from IMbrave150試験:Patient-reported Outcomes From the Phase 3 IMbrave150 Trial of Atezolizumab + Bevacizumab Versus Sorafenib as First-line Treatment for Patients With Unresectable Hepatocellular Carcinoma.(abstract #476)Galle PR, et al.切除不能肝細胞がんの1次治療例を対象に、標準治療であるソラフェニブに対するアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)/ベバシズマブ(抗VEGF抗体)併用療法の優越性がESMO-Asia 2019において報告されており、主要評価項目である生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の両エンドポイントにおいてアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法が有意に良好であった(OS-HR:0.58、p=0.0006、PFS-HR:0.59、p<0.0001)。今回、副次評価項目である患者報告(PRO:patient-reported outcomes)によるQOL評価、身体機能評価、症状評価(疲労感、疼痛、食欲低下、下痢、黄疸)の結果が発表された。評価はEORTC QLQ-C30およびQLQ-HCC18により行われ、治療中は3週ごとに、治療中止後は3ヵ月ごとに1年間実施された。92%以上の症例においてアンケートが回収可能であり、QOL、身体機能、症状の悪化までの期間(TTD:time to deterioration)はいずれもアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法においてソラフェニブより良好であった。コメント切除不能肝細胞がんに対する1次化学療法において、新たな標準療法であるアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法のソラフェニブに対する有効性および安全性が報告された。本邦においても早期の臨床導入に期待したい。Poster SessionStudy117:A Phase 1b Study of Lenvatinib Plus Nivolumab in Patients With Unresectable Hepatocellular Carcinoma(abstract #513)Kudo M, et al.切除不能肝臓がんに対する標準治療の一つであるレンバチニブと、ソラフェニブ治療後の治療選択肢であるニボルマブの併用療法の至適投与量を検討した第Ib相試験である。本試験はBCLC(Barcelona Clinic Liver Cancer) Stage B(肝動脈化学塞栓療法が不応)またはStage C、Child-Pugh分類Aの切除不能肝臓がん症例を対象に、レンバチニブ(12mgもしくは8mg/day)+ニボルマブ(240mg、2週ごと)併用療法を投与した。本試験はPart1とPart2で構成され、Part1では用量制限毒性(DLT:dose-limiting toxicities)を評価目的に6例登録し、Part2はexpansion cohortとして全身化学療法歴のない切除不能肝臓がん患者が24例登録された。主要評価項目は忍容性および併用療法の安全性である。患者背景は年齢中央値=70歳、男性=80%、BCLC Stage B/C=57%/43%、Child-Pugh 5/6=77%/23%、B型肝炎/C型肝炎/アルコール性/不明/その他=20%/20%/30%/23%/6.7%、肝外病変あり/なし=43%/57%である。レンバチニブによる毒性中止を2例(6.7%)に認め、ニボルマブによる毒性中止を4例(13.3%)に認めた。頻度の高い有害事象として手足症候群(60%)、発声障害(53%)、食欲低下(47%)、下痢(47%)、蛋白尿(40%)を認めたが、Grade3以上の有害事象は手足症候群(3.3%)、発声障害(3.3%)、食欲低下(3.3%)、下痢(3.3%)、蛋白尿(6.7%)であった。担当医評価による腫瘍縮小割合(ORR)は76.7%であり、Part2登録例における腫瘍縮小が得られるまでの期間は1.87ヵ月であり、無増悪生存期間(PFS)中央値は7.39ヵ月であった。コメント切除不能肝臓がんの治療に関して、マルチキナーゼ阻害薬(レゴラフェニブ、レンバチニブ)と免疫check point阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の併用療法が検討されており、本学会においてもほかにレゴラフェニブ/ペムブロリズマブ併用療法に関する発表があった(#564)。その中でもレンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法に関しては、AACR2019で発表された第Ib相試験であるKEYNOTE-524/Study 116試験(#CT061/18)の中間解析結果に基づき、切除不能肝臓がんの1次治療としてFDAよりBreakthrough Therapy指定を受けており、今後の追加報告が期待される。PACS-1 study:A Multicenter Clinical Randomized Phase II Study of Investigating Duration of Adjuvant Chemotherapy with S-1 (6 versus 12 months) for Patients with Resected Pancreatic Cancer. (abstract #669)Yamashita Y, et al.本邦における膵がん術後補助化学療法としてのS-1至適投与期間を検討した無作為化第II相試験。本試験は膵がん切除後例(T1-4、N0-1、M0)を対象とし、術後補助化学療法としてS-1内服を半年間投与する群と1年間投与する群に1:1の割合で割り付けされた。主要評価項目は2年間の生存割合(2y-OS)である。両群間の患者背景に偏りはなかった。術後S-1半年投与群は64.7%において治療完遂が可能であったが、1年間投与群においては44.0%が完遂可能であった。生存期間(OS)および無病生存期間(DFS)において、統計学的有意差はないものの術後S-1投与期間は半年間群のほうが1年間群より良好な傾向であった。(2年OS:半年間群 vs.1年間=71% vs.65% [HR=1.239、 p=0.3776 ])、( 2年DFS:半年間群 vs.1年間=57% vs.51%[HR=1.182、p=0.3952]) コメント膵がん術後補助化学療法としてのS-1至適投与期間は6ヵ月と考える。DAY3 Cancers of the Colon, Rectum, and AnusOral SessionJCOG1007(iPACS):A randomized phase III trial comparing primary tumor resection plus chemotherapy with chemotherapy alone in incurable stage IV colorectal cancer:JCOG1007 study(abstract #7)Kanemitsu Y, et al.切除不能StageIV大腸がんのうち無症状症例に対して、原発切除を化学療法に先行して行うことの優越性を検証した無作為化第III相試験である。本試験は腫瘍による狭窄などの症状を有さず、待機手術としての原発切除を予定できる治癒切除不能のStageIV大腸がん初回治療例を対象とし、標準治療であるA群:オキサリプラチンベース(FOLFOX/CapeOX)+ベバシズマブ併用療法群とB群:原発切除後にオキサリプラチンベース(FOLFOX/CapeOX)+ベバシズマブ併用療法を受ける群に無作為割り付けされた。主要評価項目は全生存期間である。当初770例を目標に試験が開始されたが、症例登録が伸びなかったために統計設定が見直され280例を登録目標とされたが、160例登録時の初回中間解析の結果、試験群であるB群の生存曲線が対照群であるA群を下回っていたため途中中止となり今回結果が発表された。両群間の患者背景に偏りはなかった。主要評価項目である全生存期間においてA群:B群=26.7ヵ月:25.9ヵ月(HR=1.10、one-sided p=0.69)であり、B群の優越性は認めなかった。副次評価項目であるPFSはA群:B群=12.1ヵ月:10.4ヵ月(HR=1.08)であり、原発切除先行群(B群)において術後死亡例を3例(4%)に認めた。コメント今回の結果より、腫瘍随伴症状を有さないStageIV大腸がんに対して、一律に原発切除を化学療法に先行して行うことは推奨されず、同症例に対しては化学療法の先行を検討すべきと考える。同様の対象に対して、欧州において無作為化比較試験(SYNCHRONOUS試験-ISRCTN30964555、CAIRO4試験)が進行中であり、今後これらの報告にも注意が必要と考える。BEACON CRC QoL:Encorafenib plus cetuximab with or without binimetinib for BRAF V600E-mutant metastatic colorectal cancer:Quality-of-life results from a randomized, three-arm, phase III study versus the choice of either irinotecan or FOLFIRI plus cetuximab(abstract #8)Kopetz S, et al.治療歴を有するBRAF V600E遺伝子変異陽性進行再発大腸がん例に対する治療としてMEK阻害薬であるビニメチニブ、BRAF阻害薬であるエンコラフェニブおよび抗EGFR抗体であるセツキシマブの3剤併用療法と、エンコラフェニブとセツキシマブの2剤併用療法、セツキシマブと化学療法の併用(対照群)を比較する第III相試験であるBEACON CRC試験における患者報告によるQOL評価と最新の生存データが発表された。本試験の結果はすでに2019年9月にNEJM誌において報告されており、全生存期間の中央値は対照群で5.4ヵ月、3剤併用群で9.0ヵ月(HR=0.52、pレポーター紹介インデックスページへ戻る

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進行非小細胞肺がんへの初回治療としての免疫治療薬併用療法について(解説:小林英夫氏)-1176

 2018年のノーベル医学賞を受賞された本庶 佑博士が発信されたがん免疫療法は、実地臨床でも急速に普及している。肺がん治療の柱は、手術療法、化学療法(殺細胞性抗悪性腫瘍薬)、放射線療法、さらに1990年代以降に加わった分子標的治療薬の4者が基本である。この分子標的治療薬の中でも腫瘍細胞が宿主免疫機構から逃避する機序を阻害する、そして本来有している免疫応答機能を回復・保持する治療薬が免疫チェックポイント阻害薬がん免疫療法)である。治療の4本柱をどのように使い分けるか、またどう組み合わせれば治療効果をより高めるかについて、これまでもそして現在も精力的な検討がなされている。 本論文はがん免疫療法薬の中から、抗PD-1(programmed cell death 1、プログラム細胞死1)抗体であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)と、抗CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4、細胞傷害性Tリンパ球抗原4)抗体であるイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用効果を検討している。両者の併用は他の悪性腫瘍に有効であることがすでに報告されている。結果は、進行非小細胞肺がんの初回治療としてニボルマブ+イピリムマブ併用群は、白金製剤を主とした化学療法群よりもOS(overall survival、全生存率)が優れることが確認された。ただ、本論文は大規模研究(CheckMate-227)のpart 1報告であるため、設定した対象群や方法のすべてが結果章で記載されておらず、やや消化不良な側面もある。また本報告の要約は、「ニボルマブ+低用量イピリムマブ、NSCLCのOS有意に改善(CheckMate-227)/ESMO2019」(2019年10月22日配信)でもう少し詳しく掲載されている。 本結果の最大の注目点はPD-L1発現レベルの多寡を問わず、化学療法よりも免疫療法併用群が臨床的に意味のあるOS改善を示したことにある。すなわち、有効性を期待できる症例が大きく増加する可能性が示唆されたことが大きな成果であろう。そして、免疫療法薬同士にとどまらず、他の治療法との組み合わせも含めて肺がん治療はまだまだ発展が期待できる。 ちなみに、本研究には日本のデータも含まれているが、現時点では本邦におけるヤーボイは肺がんへの適応は未取得であり、これからの追加取得が待ち遠しい。

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自己免疫性肝炎〔AIH:Autoimmune hepatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性肝炎(AIH)は、中年以降の女性に好発し慢性、進行性に肝障害を来す疾患である。本疾患の原因は不明であるが、肝細胞障害に自己免疫機序が関与し、免疫抑制剤、とくに副腎皮質ステロイドが奏効することを特徴とする。臨床的にはトランスアミナーゼの上昇、抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、血清IgG高値を高率に伴う。■ 疫学2016年を調査年として厚労省研究班で実施された疫学調査では、推定患者数は3万330人、有病率は23.9、男女比が1:4.3と過去調査と比較して患者数と男性患者の比率が増加している1)。また、2018年のAIHの全国調査では、診断時年齢(中央値)は63歳である。■ 病因本症は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患とされる。本邦例の遺伝的要因としてHLA-DR4との相関があるが、海外で報告されているSH2B3やCARD10との関連は認められていない。免疫学的要因では、自然免疫でのToll-like receptorの機能異常、DAMPsによる樹状細胞の活性化、獲得免疫での制御性T細胞の異常、IL -17、Th17細胞の増加などが報告されている2)。 発症誘因として先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されており、ウイルス感染や薬物代謝産物による自己成分の修飾、外来蛋白と自己成分との分子相同性、ホルモン環境などが発症に関与する可能性がある。■ 症状本症に特徴的な症候はなく、発症型により無症状から食欲不振・倦怠感・黄疸といった急性肝炎様症状を呈するなどさまざまである。初診時に肝硬変へ進行した状態で肝性脳症や食道静脈瘤出血にて受診する症例も存在する。また、合併する慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの症状を呈することもある。■ 分類自己抗体の出現パターンにより1型と2型に分類される。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性で多くは中高年に発症する。2型は抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性で、主に若年に発症する。わが国では1型が多く、2型はきわめて少ない。■ 予後AIHの予後は、わが国においては10年生存率90%以上と良好であるが、急性肝不全の対応が予後の改善に重要である。また、肝硬変例はAIHの約20%を占め、その多くは初診時すでに肝硬変である。とくに経過観察中に肝硬変へ進展する例は、非肝硬変例と比較し有意に再燃率、免疫抑制剤の使用率が高く、治療抵抗性であることが報告されている。線維化進行例では肝細胞がんの合併もあることから、他の肝疾患と同様に定期的な画像検査が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)AIHの診断は、わが国の診断指針(表1)3)ならびにInternational Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)が提唱した改訂版あるいは簡易版国際診断基準が用いられている。改訂版は診断感受性に優れ自己抗体陽性、IgG高値などの所見が目立たない非定型例も拾い上げて診断することができ、簡易版は特異性に優れステロイド治療の決定に参考となる。重症度判定は表2の基準を用いて行う3)。鑑別診断では、ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。とくに薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。最近ではIgG4関連疾患や免疫チェックポイント阻害薬による肝障害との鑑別も課題となっている。表1 自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2021年)●診断1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)3.組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる4.副腎皮質ステロイドが著効する5.他の原因による肝障害が否定される典型例上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの非典型例上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの表2 自己免疫性肝炎の重症度判定画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8mg/kg/日以上を目安とする3)。早すぎる減量は再燃の原因となるため、ゆっくり漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。ウルソデオキシコール酸は、副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例やステロイドを使用しにくい例ではNUDT15遺伝子多型検査で問題が無ければアザチオプリン(1~2mg/kg/日、成人では50~100mg/日)の併用を考慮する3)。重症例では、ステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や急性肝不全例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。4 今後の展望急性肝炎様に発症する症例では、抗核抗体陽性やIgG高値といった典型像を呈さないことがあるため、疾患特異的な診断マーカーの探索が求められている。ステロイド剤やアザチオプリンで抵抗性あるいは不耐例に対する2nd line治療が課題となっており、海外で多く使用されているミコフェノール酸モフェチルのわが国における使用についても保険適用も含め検討が必要である。5 主たる診療科肝臓内科・消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 自己免疫性肝炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)1)Tanaka A, et al. Hepatol Res. 2019;49:881-889.2)Christen U, et al. Int J Mol Sci. 2016;17:2007.3)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2021年).2022.公開履歴初回2020年2月3日更新2023年7月13日

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