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デュルバルマブ、高リスク筋層非浸潤性膀胱がんの適応追加/AZ

アストラゼネカは2026年8月24日、デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)について、カルメット・ゲラン菌(BCG)との併用で「高リスク筋層非浸潤性膀胱がん」の適応に関する製造販売承認事項一部変更の承認を取得したと発表した。高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対する免疫療法併用レジメンの承認は、国内初となる。本承認は、3年以内にBCG膀胱内注入療法を受けていない高リスク筋層非浸潤性膀胱がん患者を対象とした国際共同第III相試験「POTOMAC試験」の結果に基づくもの。本試験では、対象患者をBCG導入・維持療法+デュルバルマブ群、BCG導入療法+デュルバルマブ群、BCG導入・維持療法群の3群に1:1:1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は試験担当医師評価による無病生存期間(DFS)とし、BCG導入・維持療法+デュルバルマブ群とBCG導入・維持療法群を比較した。追跡期間中央値60.7ヵ月時点において、DFS中央値はBCG導入・維持療法群とBCG導入・維持療法+デュルバルマブ群のいずれも未到達であったが、BCG導入・維持療法+デュルバルマブ群で有意な改善がみられた(ハザード比:0.68、95%信頼区間:0.50~0.93、p=0.0154)。デュルバルマブ+BCG導入・維持療法の安全性・忍容性は、各薬剤の既知の安全性プロファイルと一貫しており、5年を超える追跡期間において新たな安全性シグナルは認められなかった。また、デュルバルマブの追加によってBCG導入・維持療法の完了が妨げられることはなく、患者報告アウトカムに基づくQOLへの臨床的に意味のある影響も認められなかった。電子化された添付文書の本承認に関連する「効能又は効果」「効能又は効果に関連する注意」「用法及び用量」「用法及び用量に関連する注意」の改訂箇所の記載は、以下のとおり(下線部が追記または変更箇所)。4.効能又は効果○切除不能な局所進行の非小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後の維持療法○切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌○非小細胞肺癌における術前・術後補助療法○進展型小細胞肺癌○限局型小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後の維持療法○切除不能な肝細胞癌○治癒切除不能な胆道癌○進行・再発の子宮体癌○膀胱癌における術前・術後補助療法○高リスク筋層非浸潤性膀胱癌○胃癌における術前・術後補助療法5.効能又は効果に関連する注意(一部抜粋)〈高リスク筋層非浸潤性膀胱癌〉5.14 臨床試験に組み入れられた患者の高リスクの定義等について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。5.15 国内外の最新の診療ガイドライン等を参考に、膀胱全摘除術が可能な場合には、本剤を含む併用療法の必要性について慎重に判断すること。6.用法及び用量(一部抜粋)〈高リスク筋層非浸潤性膀胱癌〉カルメット・ゲラン菌(BCG)との併用において、通常、成人にはデュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを4週間間隔で13回まで、60分間以上かけて点滴静注する。ただし、体重30kg以下の場合の1回投与量は20mg/kg(体重)とする。7.用法及び用量に関連する注意(一部抜粋)〈高リスク筋層非浸潤性膀胱癌〉7.9 BCGとの併用に際しては、乾燥BCG膀胱内用(日本株)80mgを導入療法として週1回、6週間膀胱内注入した後、維持療法として、導入療法の初回投与後3、6、12、18、及び24ヵ月時点で週1回、3週間膀胱内注入すること。BCGの薬剤の調製及び投与方法についてはBCGの添付文書を参照すること。なお、BCGの用量及び回数は患者の状態により適宜減量し、また、投与間隔も必要に応じ延長できることとする。

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経口グレリン受容体作動薬AC01のHFrEFに対する安全性と忍容性が示された(解説:原田和昌氏)

 グレリンは1999年寒川らによって発見された胃から産生されるペプチドホルモンで、下垂体に働いて成長ホルモン分泌を促進し、視床下部に働いて食欲を増進させる。HFrEF患者に静脈内投与するとLVEFと最高酸素摂取量が増加し、心不全症状が改善し、除脂肪体重が増加する。AC01(AnaCardio社)は新規の経口カルシウム感受性増強薬でグレリン受容体作動薬でもある。スウェーデン・カロリンスカ大学病院のLund氏らはGOAL-HF1試験で、HFrEF患者へのAC01の28日間の投与は安全で良好な忍容性を示し、重篤な有害事象や明らかな心電図異常は認められなかったと報告した。 GOAL-HF1試験は欧州4ヵ国の14施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第Ib/IIa相試験である。6ヵ月以上持続するHFrEF(NYHA分類IIまたはIII度)、LVEF≦40%、安静時平均心拍数55~90拍/分で、ガイドラインに基づく最大耐用量の薬物療法を受け、経静脈植込み型除細動器を装着している患者を登録した。58例(中央値66.0歳、女性5例)を第Ib相試験(32例)と第IIa相試験(26例)に無作為に割り付けた。第Ib相試験では、AC01の4つの用量コホート(0.1、0.3、1.0、3.0mg)に6例ずつ、プラセボ群に2例ずつを無作為に割り付け、AC01を1日2回、7日間経口投与した。第IIa相試験では、AC01の1.0mg群に9例、3.0mg群に8例、プラセボ群に9例を無作為に割り付け、1日2回、28日間経口投与した。主要アウトカムは安全性および忍容性とした。ベースラインのLVEFは平均31.4%、NT-proBNPの中央値は557pg/mLであった。 AC01関連の重篤な有害事象はみられなかった。AC01関連有害事象は第Ib相試験で12件、第IIa相試験で18件認められた。第Ib相試験において、プラセボ群の1例に治療関連の重篤な有害事象が1件(高感度心筋トロポニンIの上昇)発生した。AC01を投与された41例のうち33例(80%)、プラセボを投与された17例のうち12例(71%)で、軽度または中等度の試験薬投与中に発現した有害事象が報告された。早期の脱落や死亡に至った有害事象はなかった。最も頻度の高い有害事象は、低血圧、非持続性心室性頻拍、呼吸困難、高血糖、めまい、頭痛であった。心電図では明らかな異常は認められず、症候性低血圧の報告はなく、高感度心筋トロポニンIやNT-proBNPに対するAC01の明らかな影響もみられなかった。試験期間中の死亡例はなかった。著者らはHFrEF患者におけるファンタスティック4に続く治療薬の候補として、より大規模で十分な検出力を持つ試験に進む基礎となる結果であると結論付けた。 HFrEFはファンタスティック4などの効果的な治療にもかかわらず、ついには進行した心不全へと移行し、ガイドラインに基づく治療への反応や耐性が低下する。心機能と生活の質が悪化し、心不全入院、死亡リスクが増加する。したがって、進行したHFrEFや心筋梗塞、心臓手術後の心原性ショック患者などには収縮力や心拍出量を高める薬剤が必要となる場合がある。これらは一般的に細胞質のCa2+濃度を増加させて収縮力や心拍出量を高めるものが多いが、頻脈、不整脈、虚血などの副作用と関連し、低血圧、死亡率を増加させる可能性がある。ミオシン活性化薬は収縮期駆出時間を増加させるが、心筋虚血を誘発し心筋トロポニンIの増加を引き起こす可能性がある。カルシウム感受性増強薬には、ピモベンダン、levosimendan、omecamtiv mecarbilがあるが、ピモベンダンもlevosimendanも純粋なカルシウム感受性増強薬とは言えず、ピモベンダンはPDE阻害活性を示し、levosimendanは2つの追加の分子標的を持つ。omecamtiv mecarbilだけが純粋な強心作用を持つと考えられている。他方、グレリンに関する3つの研究は、HFrEF患者において頻脈、不整脈、虚血、低血圧に伴うことなく、心拍出量、駆出率、1回拍出量、運動能力、筋肉萎縮を改善する可能性を示唆した。これらの1つでは、心筋トロポニンIのリン酸化が低下し、カルシウム感受性と負荷に依存しない心筋細胞の収縮力を高める新しいメカニズムを示した。AC01は心筋トロポニンIのリン酸化を減少させ、カルシウム感受性と収縮力を高める経口グレリン受容体作動薬であり、HFrEFの新しい治療薬の有力な候補の1つと言えよう。

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英論文を作成する【タイパ時代のAI英語革命】第19回

論文作成とAIの可能性英語で医学論文を執筆することは、長年、日本人医療従事者にとっての大きな壁でした。上司に何度もチェックを依頼したり、英語の校正サービスを利用したりと、多くの時間や費用をかけてきた方も少なくないでしょう。しかし、近年の生成AIの進化により、英語力に自信がなくても英語論文を執筆できる時代が到来しました。このセクションでは、AIを活用して英語論文を作成するための基本から応用までを、具体的に解説します。書くことにおけるAI活用範囲AIは、文章作成支援において最もその力を発揮します。AIは「書く」作業において、ほかの言語スキル(読む・聞く・話す)以上に人間の負担を代替してくれる超強力なツールです。私自身も、日常業務におけるメールや連絡文のほとんどをAIに支援してもらっています。当面の間、私たちの生活からAIがなくなることは考えにくく、それに伴って医療英語の学習の優先順位は以下のように変化していると考えられます。話す・聞く>>>>読む>>>>書く極論ですが、ただでさえ忙しい医療者としては、「書く」ことはすべてAIに任せて、「話す」「聞く」に自分のスキルアップのリソースを集中するほうが効率的でしょう。論文執筆において、AIは以下のことを可能にします。研究アイデアの言語化支援現在の臨床経験や知識から、研究テーマや仮説を英語で具体的に表現する手助け。文献検索の補助(第7回「ChatGPTでPubMedの英語論文検索!」を参照)リサーチの方向性を整理したり、キーワードを構造化したりすることで、効率的な文献収集を支援。研究設計の支援(本章では割愛)Methods、対象集団、統計解析の計画などの言語化。英語の文章作成支援日本語で作成した草稿を英語に翻訳し、英語文の語調や文法を整える。引用スタイル各ジャーナルが指定する形式(APA、AMA、Vancouverスタイルなど)の自動変換を行う。以上のように、研究のアイデア生成から論文を完成させるまでの、あらゆる場面でAIは力になってくれます。ただし、以下の点には留意が必要です。AI使用に関する倫理的配慮と開示義務AIを論文作成に使用する際には、倫理的な観点から注意が必要です。2023年以降、AIの使用についてガイドラインを設けるジャーナルが急増しました。ジャーナルによってはAIの使用自体を禁止しているところもありますが、多くのジャーナルでは使用を認めつつ、「どのような場面で使用したか」を明記することが求めています。論文投稿前には、必ず各ジャーナルの投稿規定を確認しましょう。では、なぜAI使用の明記が求められるようになったのでしょうか。その背景には以下のような理由があります。・不正防止AIは過去の大量の情報に基づいて文章を生成します。そのため、生成された内容をそのまま用いると、意図せず他者の論文内容と似てしまう、または引用元を誤認するなどのリスクがあります。・責任の所在過去にはChatGPTを共著者として記載した論文が、大きな議論を呼んだこともあります。医学研究では、患者データや治療に関する情報が正確であることが絶対条件です。AIには倫理的責任を持つことができないため、最終的な内容については、人間の著者が責任を負う必要があります。・AIハルシネーション本コラムの第1の回でも詳しく取り上げましたが、AIには常にハルシネーションの問題が付きまといます。ありもしないことを事実のように述べたり、存在しない文献を引用したりといったことが今でも起こっています。以上の理由からAIの使用についてガイドラインが設けられるようになったわけですが、AIの力を借りて論文を執筆する場合は、通常、Manuscriptの最後のセクション(AcknowledgementsやDisclosureなど)に使用内容を明記するのが一般的です。以下は、私が実際の論文で使用した文例です。Generative AI was used solely to assist with grammar correction in the manuscript. No content generation or technical analysis was performed using AI.(生成AIは、本原稿の文法修正支援のみに使用しております。内容の生成や技術的な分析にはAIを使用しておりません)AIを用いて生成した論文内容を人間の修正なく使用することを禁止するジャーナルが多いため、AIのサポートを得つつも、あくまでも全体の構成や内容に関しては人間が作成していることを示す必要があります。このように、AIを適切に活用しつつも倫理性と透明性を確保することが、今後の論文作成においてきわめて重要です。アイデアの言語化に「RTFフレームワーク」を使うこのコラムは「医療英語」がメインテーマではあるのですが、研究論文の執筆において最も困難な工程の1つが「最初の一歩」(研究のテーマ決め)ですので、日本語・英語どちらで執筆するかにかかわらず、一旦こちらにも触れたいと思います。医療現場で多忙な日々を送る医療従事者にとって、頭の中にある漠然としたクリニカル・クエスチョンや仮説を言語化する作業は簡単ではありません。仮説や研究の方向性は頭の中にあっても、それをいきなり論文形式にすることに難しさを感じる方も少なくないでしょう。このようなとき、ChatGPTは研究者の頭の中にある漠然としたアイデアを、論理的かつ構造的に整理してくれます。とくに優れているのは、相手の意図を読み取り、自然な表現に置き換える力です。たとえば、以下のようなプロンプトをChatGPTに入力することで、具体的な研究課題を構成する手助けになります。研究テーマは一例ですので、自分のテーマに応じて適宜変更してください。プロンプト例あなたは医療従事者で、研究テーマを検討しています。「診療の中で、糖尿病患者のHbA1cが有酸素運動によって改善するケースをよく見ています」これを研究したいと考えています。この背景を基に、以下を挙げてください:-学術的に意義がありそうな研究課題(問い)-それを実際に検証できる研究テーマ(観察研究・介入研究など複数のアプローチ)-学術論文に使えそうな英語での研究タイトル案出力は整理されたリスト形式でお願いします。プロンプトを作る際には、ユーザーが誰で(医療従事者)、何を求めていて(研究テーマの整理)、どのように出力してほしいか(リスト形式で)を明確に伝えることで、より精度の高いアウトプットが得られます。このプロンプト手法は英語圏でよく利用されていて「RTFフレームワーク」と呼ばれています。R:Role(役割、あなたは誰か)例1あなたは英語論文を専門とする編集者です。例2あなたは米国で働く内科医です。T:Task(仕事、どんなことをお願いするのか)例1以下の日本語の文章を英語論文のAbstract風に翻訳してください。例2以下の研究テーマの方法を考えてください。F:Format(出力形式、どのように出力してほしいか)例1箇条書きで提示してください。例2300語以内で書いてください。この3つをプロンプト内に含めるだけでアウトプットの精度がぐっと高まるので、論文アイデア生成にかかわらず、AIに依頼するときは常に意識しましょう。次回は、実際にAIを使って文章をどのように英語にし、文章構成と推敲させるのかを詳しく解説します。

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日本の心不全診療、2013年から転帰の改善状況は?(JROADHF)/Eur Heart J

心不全(HF)診療では薬物療法や介入、退院後管理が進歩している一方、実臨床での診療内容の変化と患者転帰への影響は十分に明らかになっていない。米国・マサチューセッツ工科大学の遠山 岳詩氏らは、日本の2つの大規模HFレジストリを比較し、HF診療と転帰の変化を検討した。その結果、ガイドライン推奨治療や患者教育の実施率が増加し、1年死亡およびHF再入院はいずれも低下していた。本結果は、European Heart Journal誌オンライン版2026年8月8日号に掲載された。本研究は、2013年のJROADHF(1万3,238例)と2019~21年のJROADHF-NEXT(4,016例)を対象に、1:1の傾向スコアマッチングを行い、各コホートの患者転帰を比較した。比較対象は2013年コホートと2019~21年コホートで、診療内容としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、心臓リハビリテーション、栄養指導などの実施状況を評価した。主な評価項目は1年死亡およびHF再入院で、転帰改善に関連する因子も解析された。主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後の解析対象は、2013年コホート2,972例、2019~21年コホート2,972例であった。・マッチング後、RAS阻害薬の使用割合は2013年コホート70.9%、2019~21年コホート73.1%、β遮断薬はそれぞれ74.9%、80.8%であり、いずれも2019~21年コホートで高かった。・MRAの使用割合は、2013年コホート54.2%、2019~21年コホート61.1%であった。・非薬物療法・患者教育では、心臓リハビリテーションの実施割合が43.5%から88.8%へ、栄養指導が2.9%から56.1%へ増加していた。・2019~21年コホートでは2013年コホートと比較して、1年死亡率が13.5%から9.9%へ低下し、相対的に26.7%低下した。1年HF再入院率は28.0%から13.4%へ低下し、相対的に52.1%低下した(いずれもp<0.001)。・死亡リスクの低下は、RAS阻害薬(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.64~0.80、p<0.001)およびβ遮断薬(HR:0.85、95%CI:0.75~0.96、p=0.012)による薬物療法と関連していた。・患者教育では、栄養指導が死亡リスク低下と関連していた(HR:0.76、95%CI:0.64~0.89、p=0.001)。・HF再入院は、コホート効果が最も強い予測因子であり、2019~21年コホートでリスクが低かった(subdistribution HR:0.49、95%CI:0.43~0.57、p<0.001)。著者らは、「2013年から2019~21年にかけて、日本のHF患者の長期転帰は改善し、ガイドライン推奨治療は生存ベネフィットと関連していた」とする一方、「HF再入院の大幅な低下は、薬物療法のみならず退院後ケアや医療提供体制の変化を反映した可能性がある。本研究はレジストリに基づく観察研究であり、残余交絡や時代背景の影響を除外できず、因果関係の解釈には注意が必要」とまとめている。

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外の海へ漕ぎ出せ!~血栓と出血の狭間で揺れる循環器内科医に届いた「1ヵ月」の福音~【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第99回

はじめに:血栓と出血、あちらを立てればこちらが立たず循環器内科の外来診察室では、日々このような静かな葛藤が繰り広げられています。患者「先生、歯茎から血が出るし、腕に大きな青あざができるんですけど……」医師「そうですよね……でも、お薬をやめると血管が詰まってしまう危険もあるんです。脳梗塞の心配もありますからね……」心房細動(AF)を合併し、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)によってステントを留置した患者の治療は、まさに綱渡りです。心房細動による脳梗塞を防ぐには抗凝固薬(DOAC)が必要です。一方で、留置したステントの血栓性閉塞を防ぐためには抗血小板薬(P2Y12阻害薬)が必要になります。その結果、「DOAC+抗血小板薬」という強力な2剤併用抗血栓療法を続けざるを得ません。ところが、血栓予防を強化すればするほど、必然的に出血リスクは高まります。血栓を防いで命を救っているのか。あるいは出血という新たな危険を招いているのか。医師の心は常にその狭間で揺れ続けます。「この2剤併用療法を、いったいいつまで続ければよいのか?」長年にわたり、「十分な期間しっかり続けるべきだ」という考え方と、「できるだけ早く減らして出血を防ぐべきだ」という考え方がせめぎ合ってきました。世界中の循環器医が明確な答えを求め続けてきたこの命題に、日本から極めて重要なエビデンスが投じられたのです。金字塔:『Lancet』誌への掲載という快挙2026年7月15日、医学界の最高峰の一つである国際総合医学雑誌『Lancet』に、日本発の臨床研究が掲載されました1)。「OPTIMA-AF試験」です。『Lancet』は『New England Journal of Medicine』『JAMA』『BMJ』と並び、世界中の臨床医と研究者が注目する総合医学雑誌です。そこに日本主導の無作為化比較試験が掲載されることは、日本の循環器領域にとって歴史的快挙と言ってよいでしょう。この研究は、大阪大学の外海 洋平(そとみ・ようへい)氏らを中心とする「OPTIMA-AF Investigators」によって施行されました。本試験は、非弁膜症性心房細動を合併した冠動脈疾患患者を対象に、PCI後のDOACとP2Y12阻害薬の併用期間を1ヵ月に短縮し、その後DOAC単剤へ移行する戦略の有効性と安全性を検証した多施設共同無作為化比較試験です。全国75施設から1,079例が解析対象として登録されました。オールジャパンの結集と「外の海」への船出臨床研究に携わった経験がある者なら、この数字の重みがわかるはずです。全国75施設にわたり1,000例を超える患者を登録し、長期間にわたって追跡を完遂することは容易ではありません。日常診療に追われながら厳格なプロトコールを守り、質の高いデータを収集し続けるためには、研究事務局だけでなく各施設の医師、CRC、看護師、薬剤師など、多くの人々の献身が必要です。特筆すべきは、本研究が従来の大学医局や系列病院の枠を超えた、まさに「オールジャパン」の体制によって成し遂げられたことでしょう。日本の医療界には、ともすれば組織の垣根や地域の壁が存在します。しかし「OPTIMA-AF」は、それらを超えて国内の力を結集し、世界へ向けて発信された成果でした。そして実務的に研究を牽引した外海 洋平氏の名前を見るたび、私はある光景を思い浮かべます。日本の臨床研究という「内海」から船出し、世界標準という「外の海」へと漕ぎ出していく研究者たちの姿です。その航海は決して平穏ではありません。資金、人材、英語、査読、国際競争。その幾重もの荒波を乗り越えた末に、ついに世界最高峰の舞台へ到達したのです。OPTIMA-AF試験の概要と解釈非弁膜症性心房細動CHADS2スコア1点以上PCI施行患者解析対象1,079例無作為に以下の2群へ割り付けられました。1ヵ月併用群(542例)DOAC+P2Y12阻害薬を1ヵ月投与その後DOAC単剤へ移行12ヵ月併用群(537例)同治療を12ヵ月継続その後DOAC単剤へ移行有効性(全死亡または血栓塞栓イベント)1ヵ月群:5.4%、12ヵ月群:4.3%、HR:1.25(95%信頼区間[CI]:0.73~2.17)事前に設定された基準を満たし、1ヵ月群の非劣性が示されました。安全性(ISTH大出血または臨床的に重要な非大出血)1ヵ月群:4.5%、12ヵ月群:8.8%、HR:0.50(95%CI:0.30~0.81)1ヵ月群では出血イベントが有意に減少し、出血リスクはほぼ半減しました。これらの結果は、「1ヵ月で抗血小板薬を中止しDOAC単剤へ移行する戦略は、主要有効性評価項目について12ヵ月併用療法に対する非劣性を示し、さらに出血を大幅に減らした」ことを意味します。もちろん、著者ら自身も慎重な解釈を促しています。実際の血栓イベント発生率は想定より低く、主要有効性評価項目については十分な注意をもって評価すべきであることが論文のDiscussion中で繰り返し述べられています。それでもなお、少なくとも本試験の条件下においては、抗血小板薬の早期中止によって出血を減らしながら、有効性を維持し得る可能性が示された意義は極めて大きいと言えるでしょう。おわりに:世界へ投じられた大きな一石OPTIMA-AF試験が示したのは、単に「薬を1剤減らせる」という話ではありません。血栓症を防ぐために出血リスクを受け入れるのか。出血を避けるために血栓リスクを甘受するのか。その長年のジレンマに対して、「よりよい均衡点が存在するかもしれない」という希望を、無作為化比較試験という最も信頼性の高い方法論によって示したのです。もちろん、この1本の研究だけですべての議論が終わるわけではありません。対象患者の大部分は慢性冠症候群であり、急性冠症候群や欧米集団への一般化には慎重さが求められます。また著者らも、主要有効性評価項目については今後さらなる検証が必要であると述べています。しかし、それでもなお、この成果は今後の国内外の診療ガイドラインや臨床実践に大きな影響を与える可能性を秘めています。明日からの循環器外来で、「ステントを入れて1ヵ月たちましたね。そろそろ薬を減らせるかもしれません」と語ることができる患者さんが増えるかもしれないのです。それは出血合併症を減らし、患者の負担を軽くし、より合理的な抗血栓療法への道を開くことにつながります。緻密な研究デザインのもと、全国の施設を束ね、多くの困難を乗り越え、世界最高峰の舞台へ到達したOPTIMA-AF研究グループに、心からの敬意と祝意を表したいと思います。Congratulations!血栓と出血の狭間で悩み続けてきた循環器医たちにとって、この研究は確かに一筋の光として届いたはずです。そして、外海 洋平氏らが切り開いた「外の海」への航路は、これから先も日本発の臨床研究を乗せた多くの船を世界へ導いていくに違いありません。 1) Sotomi Y, et al. Lancet. 2026 Jul 15. [Epub ahead of print]

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COPD増悪予防、アジスロマイシンvs.roflumilast:標的試験エミュレーション/BMJ

 増悪を経験した慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の維持療法として、アジスロマイシンはroflumilastと比較し、中等度~重度COPD増悪の発生リスク低下と関連していることを、米国・ハーバード大学医学大学院のGerard T. Portela氏らが、同国の大規模な健康保険データベースを用いて実施した標的試験エミュレーション(target trial emulation)研究の結果で明らかにした。アジスロマイシンとroflumilastは、COPDの長期管理における増悪リスクの低減に有用であり、国際ガイドラインである「GOLD」において増悪を経験した患者への使用が推奨されているが、これまで臨床医がいずれを選択すべきかを判断するデータはほとんど存在していない。著者は、「本研究では安全性の比較評価は行われなかったものの、示された治療アウトカムに関するエビデンスは、今後発表されることになるであろう大規模無作為化比較試験のデータを補完しうるものとなるだろう」とまとめている。BMJ誌2026年8月5日号掲載の報告。初回中等度~重度COPD増悪までの期間を標的試験エミュレーションで評価 研究グループは、Optum Clinformatics Data Martデータベースを用い、2011年3月1日~2024年8月31日に維持療法としてアジスロマイシンまたはroflumilast経口薬の新規処方を受けた患者を対象とする標的試験エミュレーションを行った。 解析対象は、COPDを有し、保険加入継続期間が183日以上で、維持療法としてアジスロマイシンまたはroflumilastの経口投与を新たに開始した40歳以上の患者で、他の肺疾患(例:気管支拡張症、嚢胞性線維症、間質性肺疾患など)の所見を有する患者、またはアジスロマイシンの別の適応(例:HIV感染症または非結核性抗酸菌症の診断)を有する患者は除外した。 傾向スコア1対1マッチング法を用いて、アジスロマイシン群とroflumilast群を比較した。 主要評価項目は、中等度~重度COPD増悪の初回発生までの期間で、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。中等度~重度COPD増悪のリスクがアジスロマイシン群で17%低下 主要解析には、傾向スコアマッチングに基づく7,550組が含まれた。患者の平均年齢は70歳で、56%が女性であった。 アジスロマイシン群では2,753人年の追跡期間中に3,054例が中等度~重度COPD増悪を経験し(補正前発生率:1人年当たり1.1件)、roflumilast群では2,620人年の追跡期間中に3,503例が同増悪を経験した(補正前発生率:1人年当たり1.3件)。 アジスロマイシン群はroflumilast群と比較し、初回の中等度~重度COPD増悪が17%減少し(HR:0.83、95%CI:0.79~0.87)、1年時点の中等度~重度COPD増悪の絶対リスクはアジスロマイシン群0.60(95%CI:0.58~0.61)、roflumilast群0.67(95%CI:0.65~0.68)であった(群間差:-0.07[95%CI:-0.09~-0.05]、治療必要数:15[95%CI:12~21])。 これらの結果は、事前に規定した感度解析およびサブグループ解析においても一貫していた。

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胃がんに初の周術期治療、D-FLOTレジメン承認/AZ

 2026年6月、抗PD-L1抗体デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)が「胃癌における術前・術後補助療法」の適応追加で国内承認された。これまで手術と術後補助化学療法を中心としてきた日本の胃がん治療に、デュルバルマブとFLOT療法を組み合わせた周術期治療の選択肢が加わることとなる。8月4日に開催されたアストラゼネカのメディアセミナーでは、山梨大学医学部外科学講座第1教室教授の市川 大輔氏が「胃がん治療のアンメットメディカルニーズとMATTERHORN試験がもたらすPractice Change」と題して講演を行った。 日本では胃がんに対する外科治療が高度に標準化され、原発巣切除+所属リンパ節郭清を基本として良好な治療成績を積み上げてきた。一方、定型手術の範囲を超えてリンパ節や隣接臓器を同時切除する拡大手術については、単純に切除範囲を広げるだけでは予後改善につながらないことが明らかになってきた。その結果、治療成績向上の焦点は、外科治療から薬物療法を組み合わせた集学的治療へと移ってきた。 ただし、その発展の仕方は日本と欧米で異なる。市川氏は、早期発見例が多く、D2リンパ節郭清など手術の質が標準化されてきた日本では「まず確実に切除する」戦略が発展したのに対し、高度進行例が多く手術の質にも施設間格差がある欧米では「まず薬物療法を確実に行う」という考え方から術前化学療法が普及したと、説明した。 日本の従来戦略にも課題は残る。胃切除後には胃容量の減少に伴う食事摂取量低下などさまざまな栄養障害が生じ、術後補助化学療法を十分に導入・継続できない場合がある。全国胃がん登録を用いた解析では、StageII/IIIの胃がん患者1万5,848例のうち、術後補助化学療法が実施されなかった割合は46.5%で、とくに75歳以上では71.5%に達した。 そこで注目されてきたのが術前化学療法戦略だ。術前治療には、薬物療法を確実に導入できることに加え、微小転移への早期介入、腫瘍縮小による治癒切除率の向上などが期待できる。さらに、腫瘍が存在する術前から免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を投与することで、豊富ながん抗原を背景にT細胞を活性化し、微小転移を抑制できる可能性がある。一方、治療中の病勢進行や有害事象による手術延期、術前病期診断の誤差に伴う過剰治療などのデメリットもある。 こうした背景の下で行われたのが、国際共同第III相MATTERHORN試験である。切除可能なStageII~IVAの胃または食道胃接合部腺がん患者948例を、デュルバルマブ+FLOT(D-FLOT)群474例とプラセボ+FLOT群474例に無作為化。術前・術後にFLOTをそれぞれ4回投与するとともにデュルバルマブまたはプラセボを併用し、その後デュルバルマブまたはプラセボを最大10回単独投与した。主要評価項目は無イベント生存期間(EFS)、重要な副次評価項目には病理学的完全奏効(pCR)率などが設定された。 結果、D-FLOT群はプラセボ+FLOT群に対してEFSを有意に延長した。EFSのハザード比(HR)は0.71(95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)で、イベント発生リスクを29%低減した。EFS中央値はD-FLOT群で未到達、プラセボ+FLOT群では32.82ヵ月だった。pCR率はそれぞれ19.2%、7.2%で、D-FLOT群が有意に高かった。安全性では、Grade3/4の有害事象発現率はD-FLOT群71.6%、プラセボ+FLOT群71.2%で、大きな差は認められなかった。 日本人サブセットはD-FLOT群40例、プラセボ+FLOT群46例と限られるものの、全体集団を上回るEFS改善傾向が示された(HR:0.32、95%CI:0.13~0.72)。一方、Grade3/4の好中球数減少が両群とも約67%に認められたほか、発熱性好中球減少症もD-FLOT群12.5%、プラセボ+FLOT群4.3%に認められ、いずれも全体集団より高値だった。市川氏は、良好な成績は日本の術技や術後管理のレベルの高さに起因する可能性があるとする一方で、欧米で確立されたFLOTレジメンそのものへの忍容性も含め、適切な支持療法が必要になると指摘した。 こうしたエビデンスを受け、日本胃癌学会は2026年6月19日付の「胃癌治療ガイドライン速報」において、「根治切除可能な臨床病期II~IVAの胃癌・胃食道接合部腺癌に対する周術期D-FLOT療法およびその後のデュルバルマブ単剤療法を推奨する」とした。 市川氏は、今後は外科医だけでなく腫瘍内科医を含めた多職種で治療戦略を検討し、患者背景、臨床病期、腫瘍特性、薬物療法への忍容性などを踏まえて、周術期治療に適切な症例を選択することが重要になるとの考えを示した。D-FLOTレジメン承認を契機に、日本の切除可能進行胃がんにおいても、「まず手術」という従来の治療体系から周術期全体を見据えて治療を最適化する時代へと移行することになりそうだ。

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がんの既往歴/家族歴のある女性、原発性肺がんリスク高い

 喫煙歴にかかわらず、がんの既往歴や家族歴を有する成人女性では、新規に原発性肺がんを発症するリスクが有意に高まることが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)East BayのCarissa A. Villanueva氏らによる大規模後ろ向き研究で明らかになった。JTCVS Open誌2026年8月号に掲載。 本研究は、Kaiser Permanente Northern Californiaの2010年1月1日〜2022年12月31日の電子健康記録データを用いた。研究開始時点で肺がんの既往がない18歳以上の成人女性で、期間中に1年以上の加入歴を有する約280万例を抽出。喫煙状況、人種/民族、年齢、Charlson併存疾患指数、近隣困窮指数で調整したターゲット最大尤度推定法を用い、がん既往歴または家族歴を有する患者における新規原発性肺がんの有病率比(PR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした成人女性280万例が解析に組み入れられた。・何らかのがん既往歴がある女性では、原発性肺がんの有病率が88%増加した(PR:1.88、95%信頼区間[CI]:1.84〜1.92)。・がんの家族歴がある女性においても、原発性肺がんの有病率増加が認められた(PR:1.23、95%CI:1.20〜1.26)。・とくに、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの既往歴がある女性において、その後の原発性肺がん有病率増加と有意な関連が示された。 著者らは、「がんの既往歴および家族歴は、将来の原発性肺がん発症リスク上昇と強い関連を示したことから、今回の対象集団においては、喫煙歴だけでは新規原発性肺がんの臨床的疑いを判断するには不十分であることが示唆される。肺がんスクリーニングツールの適用に関するガイドラインの再評価および拡充が賢明だろう」と提言している。

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OSASの根本的要因の「肥満」への治療に期待/リリー・田辺ファーマ

 日本イーライリリーと田辺ファーマは、2026年5月に持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下"OSAS")」における効能・効果追加の承認を取得したことに寄せて、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の実態と新たな治療選択肢」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、OSASの病態やリスク、チルゼパチドの概要、診療でのアンメットニーズなどが説明された。 両社では今回の追加承認により、OSASの根本的な要因である肥満へアプローチできる治療として期待を寄せるとともに、適正使用の推進に取り組むとしている。わが国のOSAS患者数は約943万人 「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の実態と課題 新たな治療選択肢の登場」をテーマに葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学 先任准教授)が、OSASの診療、チルゼパチドの臨床試験結果などを説明した。 OSASは、睡眠中に気道が閉塞することにより、無呼吸や低呼吸が発生する疾患であり、主な症状として「いびき」「無呼吸」「日中の眠気」「起床時の頭痛」などがある。わが国のOSAS患者数は約943万人と推定され、東アジア人では顔面形態の影響からOSASになりやすいといわれている。 発症の機序としては、上気道周囲の軟部組織の脂肪沈着などを介し、舌容積増大に伴う上気道の虚脱と上気道の閉塞が起こるとされる。そして、OSAS患者の80%以上は高度または中等度の上気道虚脱を有しており、そのほとんどは肥満と関連している。 OSASの定義としては、睡眠1時間当たり5回以上の無呼吸または低呼吸イベント(AHI≧5回/時間)がみられる疾患であり、OSASの重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)を用いて、軽症(5≦AHI<15回/時間)、中等症(15≦AHI<30回/時間)、重症(AHI≧30回/時間)で判定される。 OSASでは、高血圧、2型糖尿病、心房細動、心不全、冠動脈疾患、脳卒中、死亡などの心血管系および代謝系の併存疾患のリスク増加にも関与しており、とくに心・脳の血管疾患1)や高血圧と深く関与すると指摘されている。 また、重症OSAS患者では、致死的・非致死的CVDリスクが高くなることが報告されている2)。OSASの最大の危険因子は「肥満」である。肥満が気道閉塞や肺容積減少によりOSASを引き起こす一方で、OSASが睡眠の断片化やホルモン分泌を乱すことで肥満を引き起こすという悪循環が見られる。そのため体重が10%増加すると、中等症以上のOSASを発症するリスクが6倍に増大するとされる一方で、10%の減量によりAHIが26%改善したという報告もある3)。肥満治療がOSASの治療の鍵となるが、生活習慣への介入だけでは、体重減少と維持が不十分な場合があり、他の治療法を検討する必要もある4,5)。チルゼパチドの使用は最適使用推進ガイドラインに沿って 睡眠時無呼吸症候群の診療アルゴリズムによれば、現在中等症以上のOSASの標準治療は持続陽圧呼吸療法(CPAP)となる。また、肥満を併発しているOSASでは、CPAP療法以外の治療法もあわせて検討される。 OSASの治療法には、「OA(マウスピース)療法」「CPAP療法」「手術」「減量」があるが、各々の治療法で利点と課題がある。たとえばCPAP療法では、上気道の開存性の維持やAHIの低下(OSAS症状の改善)という利点がある一方で、アドヒアランス不良などの影響でOSASに対する治療効果が維持できない、CPAP療法に対する忍容性が悪い患者の存在などの課題もある。その他、CPAP療法での治療患者は年々増加している(2022年時点で73万人)、その一方で、未診断・未治療の患者も多数存在する(約943万人)と葛西氏は指摘する。 こうした診療環境の中でGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドがOSAS治療にも適応となった。チルゼパチドは、中枢神経系における食欲調節と脂肪細胞における脂質などの代謝亢進を通じて体重減少に寄与する。この体重減少作用が、「OSASの病態の根本原因の1つにアプローチする治療となる可能性がある」と葛西氏は期待を寄せる。 チルゼパチドによる治療対象は、中等症以上のOSASでBMIが27以上の患者であり、その使用では「最適使用推進ガイドライン」に沿ってさまざまな要件が必要とされる。処方に際しては2つの要件があり、施設要件として循環器内科、呼吸器内科などの標榜診療科、学会認定教育研修施設、専門医の常勤などがある。また、医師要件としては、OSASの診療に5年以上の臨床経験を有していることや日本循環器学会や日本呼吸器学会などの学会の専門医であることが要件とされている。とくに前者の要件のハードルが高く、教育研修施設など大きな医療機関での使用に限定されている。チルゼパチドは無呼吸低呼吸指数の改善と変化率、体重などを有意に低下 次に中等症から重症のOSASを有する日本人を含む国際共同第III相臨床試験(SURMOUNT-OSA試験)について説明した。この試験は、AHIが15以上のOSASを有するBMI30以上(わが国の実施医療機関ではBMI27以上)の患者を対象とし、多施設共同、無作為化、並行群間、プラセボ対照、二重盲検比較試験で行われた。 それぞれ最大耐用量(MTD)のチルゼパチド(10または15mg)を週1回投与したときのプラセボ投与に対する優越性を検討し、投与52週時点のベースラインからのAHIの低下を指標とすることを目的に、次の2つの試験を実施した。 ・GPI1試験は、気道陽圧(positive airway pressure:PAP)療法を使用できないまたは望まない患者234例(うち日本人7例)。 ・GPI2試験は、スクリーニング前に少なくとも3ヵ月連続してPAP療法を実施中であり、試験期間中にPAP療法を継続する予定の患者235例(うち日本人13例)。 方法として二重盲検下でGPI1およびGPI2試験それぞれについて1:1でチルゼパチド(10または15mg)、プラセボ群に対象を無作為に割り付けた。また、チルゼパチドの開始用量を2.5mgとして週1回4週間投与後、MTD(10または15mg)に到達するまで4週間隔で2.5mgずつ増量し52週間投与した。 主要評価項目は、AHIのベースラインから投与52週時点の変化量(件/時)を評価した。その結果、投与52週時点のAHIのベースラインからの変化量について、GPI1試験ではチルゼパチド群(114例)で-25.3、プラセボ群(120例)で-5.3、GPI2試験ではチルゼパチド群(119例)で-29.3、プラセボ群(114例)で-5.5であり、プラセボ群に対し有意に減少した。また、主な副次評価項目である投与52週時点のAHIのベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-50.7、プラセボ群で-3.0であり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-58.7、プラセボ群で-2.5と、プラセボ群に対し有意に低下した。同じく投与52週時点の体重のベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-17.7、プラセボ群で-1.6となり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-19.6、プラセボ群で-2.3と、プラセボ群に対し有意に低下した。 安全性については、他のSURMOUNT試験と同等の安全性が示唆され、死亡などの重篤な有害事象はなかった。主な有害事象は下痢、悪心、嘔吐の順で多く、消化器症状が多く報告されていた。 最後に葛西氏は「OSASは、心不全や脳卒中などの重篤な合併症リスクが高く、生命にかかわる治療すべき疾患であり、肥満がOSASの最大の危険因子となる。肥満を合併したOSASでは減量が重要な治療法の1つであり、チルゼパチドは、OSAS治療で重要な治療選択肢として期待できる」と展望を述べ、講演を終えた。

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抗アミロイドβ抗体薬、投与前のAPOE遺伝子検査考慮を追記/厚労省

 2026年8月17日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗アミロイドβ抗体薬であるドナネマブおよびレカネマブの「警告」および「重要な基本的注意」の項に、アミロイド関連画像異常(ARIA)のリスク管理などを目的とした「投与開始前のAPOE遺伝子検査の実施考慮」などが追加された。 アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症患者を対象とした臨床試験や国内外の症例データにおいて、「アポリポ蛋白E対立遺伝子4(APOEε4)ホモ接合型キャリアの患者でARIA(ARIA-浮腫/滲出液貯留[ARIA-E]およびARIA-脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症・脳出血[ARIA-H])の発現割合、画像上の重症度、症候性ARIAの発現割合がより高い傾向」にあることが認められている。 そのため、製造販売後調査、国内副作用報告、承認時の臨床試験、海外添付文書、ガイドラインなどを調査し、専門委員の意見も聴取した結果、ApoEε4ホモ接合型キャリアで ARIA の発現割合が高い傾向が認められたこと、また、2026年7月にAPOE遺伝子検査が保険収載されたことから、本剤の投与開始前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮し、リスクの高いホモ接合型キャリア等を把握した上で患者および家族・介護者に十分な情報提供と説明を行うとともに、適切なリスク管理体制を築くことが適切と判断された。 対象医薬品および改訂内容は以下のとおり。◯ドナネマブ(遺伝子組換え、商品名:ケサンラ)◯レカネマブ(遺伝子組換え、同:レケンビ)警告 「ApoE ε4ホモ接合型キャリアの患者でARIAの発現割合が高かったことから、本剤の投与開始前に、APOE遺伝子検査の実施を考慮すること」を追記。重要な基本的注意 「ARIAのリスク管理のために、原則として本剤の投与開始前に、APOE遺伝子検査の実施を考慮すること。考慮した結果、投与開始前に検査を実施しなかった場合においても、本剤投与中に必要と考える場合には検査の実施を検討すること。遺伝子検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品を用い、最新のガイドライン等を参考にAPOE遺伝子検査の意義について患者及び家族・介護者に十分に説明し、同意を得ること」を追記。

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高血圧管理・治療ガイドライン2025(12):薬物療法(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q173

高血圧管理・治療ガイドライン2025:薬物療法(2)Q173『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)のほかに新規で推奨された高血圧症の内服薬はないが、従来の内服薬を含め、内服薬がG1(グループ1)からG3までグルーピングされた。G2降圧薬は何か?

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5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために~Lp(a)の今をインタビュー(前編)

『2022 EAS Lp(a) Consensus Statement』を皮切りに、2025年3月にはLp(a) Global Summitにて『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』が採択された。さらに同年8月の『2025 ESC/EAS Focused Update』、翌2026年3月の『ACC/AHA脂質異常症ガイドライン』改訂へと続き、国際的にLp(a)測定の推奨強化へ向けた大きな潮流が生まれている。では、日本における現在のLp(a)測定のあり方は、諸外国と比較してどのような状況にあるのだろうか。日本版コンセンサスステートメントの発出を目前に控え、国内でLp(a)測定を普及・啓発していくうえで留意すべきポイントとは――。今回、Lp(a)研究の第一人者であるFlorian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学 遺伝疫学研究所 教授/所長)が来日。ケアネットの単独インタビューに応じ、Lp(a)測定の臨床的意義や最新の知見について語った。※本編は2回にわたってお届けします。後編「Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス」は8月27日公開予定です。INDEXLp(a)がこれほどまで注目される理由Lp(a)が心血管リスクを高めるメカニズムLp(a)高値の驚くべき頻度、Lp(a)の特性と啓発すべき対象者とはCVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み―Lp(a)がこれほどまで注目される理由欧州全体において、心血管疾患(CVD)が死因第1位であるという深刻な問題は広く認識されています。同時に、これらの死亡の多くは予防可能であることが分かっています。ところがCVD有病率の3分の1はコレステロールが原因である一方で、Lp(a)測定の理解、家族性高コレステロール血症(FH)への治療介入不足が原因で十分にコントロールできていないこと、一般市民における認知不足などが課題となっています。われわれは2025年3月24~25日にベルギー・ブリュッセルで開催された「Lp(a) Global Summit」において『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』を行いました1)。その宣言および複数のガイドライン推奨も踏まえて、欧州委員会(EU)は「EU Safe Hearts Plan(欧州心血管疾患対策計画)」において、加盟国に対してスクリーニング項目に何を含めるべきかなど、非常に明確な指針を打ち出し、そこにはLp(a)高値やFHのスクリーニングが盛り込まれました。それと同時に、上述の課題解決のためにもEUは国民自身が「リスクを知る」ことを非常に重要視しています。リスクを認識すれば、健康へのモチベーションやヘルスリテラシーが向上し、最終的には治療アドヒアランスの向上につながると捉えています。上記計画の中では何度もLp(a)やFHについて言及されており、加盟国がプログラムを実装できるよう委員会がサポートしています。具体的な認知向上への取り組みについては後述します(CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み)。―Lp(a)が危険な理由、そのメカニズムと心血管リスクの過小評価Lp(a)濃度と心血管リスクには明確な相関関係があることが知られており、Lp(a)濃度が高くなればなるほど、心筋梗塞や脳卒中リスクが比例して高くなります。とくに125nmol/L(50mg/dL)を超えると、リスクが格段に跳ね上がります。その理由は、Lp(a)粒子1個あたりの動脈硬化惹起性が、通常のLDL粒子と比較して格段に高いためです。構造を見るとLDL粒子に似ていますが、Lp(a)には「アポリポ蛋白(a)」という特別なタンパク質が結びついており、さらに、多くの「酸化リン脂質(OxPL)」を搬送しているため、非常に動脈硬化を起こしやすい性質を持っているのです2,3)。(図1)注意すべきLDL様粒子の構造4)画像を拡大するただし、これまでの研究結果5)から、Lp(a)が高値であっても従来の一般的なリスク因子(高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)に早期介入することで、CVDの絶対的生涯リスクが大きく低減することが示されています。たとえば、従来のリスク因子を多く持っている人でも、Lp(a)が低ければ、生涯の心血管イベントの絶対リスクは25%程度に留まります。一方で、同じように従来の一般的なリスク因子を多く持ち、Lp(a)が150mg/dLの高値である場合、生涯の絶対リスクは68%にまで跳ね上がってしまいます。もし、医師がその患者のLp(a)の数値を知らなければ、心血管リスクを劇的に「過小評価」してしまうことになります。しかし、従来の危険因子を持たずLp(a)濃度のみが高い人の場合、心血管イベントの生涯リスクは、欧州一般人口における心血管疾患死亡の平均リスクよりも低いんです。人々が過度に不安になるのを避けるためにも、また健康的なライフスタイルを継続し、可能な限り危険因子を増やさないよう心掛けてもらうためにも、この点は伝えるべきです。これに対し、従来の危険因子を有し、かつLp(a)が高い人に対しては、危険因子プロファイルの改善に徹底的に取り組むよう助言すべきです。(図2)Lp(a)濃度が高くても、心血管疾患リスク増加と必ずしも関連しない画像を拡大する(表1)UK Biobankデータ[図2参照]に基づく、Lp(a)と従来リスク因子の有無による介入方法画像を拡大する―Lp(a)高値の驚くべき頻度、特性や啓発すべき対象者とはLp(a)を啓発するにあたり、医療者(医師)側にも認識不足というギャップがあるため、医師と一般公衆の双方への啓発が必要です。現在、Lp(a)はさまざまなコンセンサスステートメントやガイドラインに織り込まれるようになり、「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべきだ」という方針が示されています。というのは、Lp(a)高値の頻度は“5人に1人”と言われており、決して“珍しい状態”ではないからです。たとえば、FHの発症頻度は地域によって異なりますが250~350人に1人と言われています。それに比べ、Lp(a)高値の人は周りを見渡せば必ず身近に該当者がいるレベルです。つまり、患者自身がLp(a)高値だと知ることは、適切な対処ができるという意味で「特権」とも言えるのです。次に、『生涯に1度の測定』が推奨される理由は、遺伝的にほぼ90%決定付けられ、生活習慣(食事や運動)によって数値を下げることはできないからであり、一般的には、信頼性が高く十分に標準化された測定法が用いられていることを前提とすれば、多くの場合、生涯に一度の測定で十分です。Lp(a)値には±20%程度の変動がみられますが、これは測定技術上の変動、検体採取方法(前分析条件)、および一部の生理学的変化に関連するものであるため、この変動を過大評価すべきではありません。ただし、以下の患者では、Lp(a)の再測定が推奨されます。◯腎機能障害の患者Lp(a)値が上昇。とくにネフローゼ症候群では、Lp(a)値が3~4倍に上昇することがある◯肝機能障害のある患者Lp(a)は肝臓で産生されるため、肝機能障害の場合にはLp(a)値が低下するこのほかにも、再測定の意義が問われることが多い対象者について、私見を交えながらお伝えしますと、以下のようになります。(表2)現時点での患者背景ごとの再測定の是非画像を拡大する―CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組みこれまでに説明してきたとおり、CVDとの戦いにおいて最も重要な柱となるのは、Lp(a)などのリスク因子のスクリーニングです。Lp(a)やコレステロール、血圧などの値は、心筋梗塞や脳卒中を発症するよりもかなり前の段階から、高値を示しているため、これらのリスク因子を早期に検出し、対処することがきわめて重要なのです。そのLp(a)測定に関する認知向上には多くの方法があります。Lp(a)に関する国内のコンセンサスステートメントを作成すること(日本でも数週間以内に利用可能になる予定)Lp(a)を、より幅広い医師を対象とした脂質異常症あるいは心血管疾患診療に関するガイドラインに組み込むこと(これは、脂質代謝および脂質管理・治療というより広い文脈の中にLp(a)を位置付けることを含む)さまざまな診療科・専門領域の学会・学術集会でLp(a)に関する講演の実施、また、Lp(a)測定を提供することLp(a)を説明するための、医師向けおよび患者向けの優れた情報資材を作成することLp(a)およびASCVDリスクに関する典型的な症例[Lp(a)の重要性を強く印象付けるもの]を紹介しながら、メディアでの注目を集めること患者団体と連携し、Lp(a)の重要性が伝わるような症例を紹介・発信することLp(a)アンバサダーグループを構築すること繰り返し、繰り返し、繰り返し…あらゆる機会を捉えて発信し続けることアンバサダーグループは、Lp(a)とともに生きる経験を持ち、Lp(a)について十分な教育を受けた人々です。私たちはFH EuropeおよびLp(a) International Task Forceにおいて、この取り組みを行っています。そして、世界中の人々に啓発を促すため、私自身は年間70回ほど、Lp(a)について講演を行っています。後編に続く―――。 参考 Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. Kronenberg F,et al. Atherosclerosis. 2023;374:107-120. 1) FH Europe Foundation:Say YES to better cardiovascular health across the world 2) Kronenberg F, et al. J Int Med. 2013;273:6-30. 3) Koschinsky ML, et al. Atherosclerosis. 2022;349:92-100. 4) Koschinsky ML, et al. Pharmacol Res. 2023;194:106843. 5) Kronenberg F, et al. Curr Atheroscler Rep. 2024;26:75-82.

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AIは産業医の仕事をどこまで代替するのか?(後編)【実践!産業医のしごと】

「フローの外側」にある仕事が残る前回、AIは産業医の仕事のうち、記録、文書作成、情報整理、標準的な運用をかなり代替していくのではないか、と書きました。面談記録や受診勧奨文、紹介状を作る。健診結果、ストレスチェック、休職歴などを横断して整理する。面談対象者を抽出し、日程を調整し、フォロー予定を入れる⋯⋯。こうした仕事は、今後かなりの部分がAIに移っていくでしょう。では、産業医には何が残るのでしょうか。私は、フローの外側にある仕事こそが残るのだと考えています。復職支援を例にとると、診断書や生活記録を整理し、本人面談や職場確認を進めるところまでは、AIがかなり支援できるでしょう。しかし最後に、「この人を今、復職させてよいのか」という問いが残ります。本人は復職を望み、主治医は復職可能としている。一方で、会社は再発を懸念し、生活リズムや上司との関係にも不安が残っている。ここで必要なのは、情報を揃えることではありません。異なる事情や見方の間で現実的な着地点を探り、その結論を説明し、判断を引き受けることです。AIには見えない職場があるAI時代には、働く人が産業医よりも先にAIへ相談する場面も増えていくでしょう。「上司と合わない」「休職した方がいいのか」「これはハラスメントなのか」……。こうした問いにも、AIは相談相手として応じてくれます。本人の気持ちを整理し、言葉にし、受診や相談を後押しする。誰にも言えずに一人で抱え込むより、AIとの対話を通じて悩みを整理できることもあるでしょう。その入り口としての役割は、決して小さくはありません。ただし、AIがわかるのは、入力された情報の範囲にとどまります。健診結果、休職歴、面談記録、就業規則を参照することはできても、その職場で実際に何が起きているかまではわかりません。職場には、本人が言葉にできない思いやためらい、周囲からの孤立、数字やデータには表れない空気があります。同じ「休みたい」という言葉でも、その背景にある事情は一人ひとり違います。AIは選択肢を示すことはできます。しかし、その選択肢を職場の文脈に照らし、目の前の本人にとって現実的な一手に落とし込むには、やはり人の関与が欠かせません。最後に残るものAIに代替される産業医の仕事は多いでしょう。医学知識の検索、法改正の要約、ガイドラインの整理、意見書の作成など、こうした作業は、すでにAIが得意とする領域であり、今後さらに精度が高まるでしょう。それでも人に残るのは、信頼、解釈、調整、判断と責任、そしてAIをどう使うかという倫理です。画像を拡大するこうした仕事は、正しい答えを出せばよいというものではありません。AIの予測を、そのまま労働者の不利益に結びつけないことも重要です。誰に、何を、どのように伝えるのか。本人が受け止められる形で説明できるか。必要であれば会社に対して「この働かせ方は危ない」「この復職はまだ早い」と言えるか。関係者の間で、判断を現実に機能させていく仕事です。AI時代に問われるのは、AIが示した情報や選択肢を、誰が職場の現実に引きつけて解釈し、関係者に伝え、その結果を引き受けるのかです。その役割を担うのは、本人と会社の間に立ち、医学と労務の間に立ち、AIの出力と、職場で生きる人間の現実との間に立つ産業医です。フローは回っても、判断と責任は残る。AIが進化するほど、産業医にしか担えない仕事は、むしろ明確になるのではないでしょうか。AIは産業医の仕事を奪うだけではなく、産業医という仕事の本質を、これまで以上に鮮明に浮かび上がらせる存在なのだと思います。

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婦人科腫瘍の循環器合併症~血栓症と高血圧~/日本婦人科腫瘍学会

 婦人科がんと循環器疾患の関連は深い。第68回日本婦人科腫瘍学会学術集会にて、大阪がん循環器病予防センターの向井 幹夫氏は「婦人科腫瘍学と腫瘍循環器学の連携」と題し、両者の密接な関係について紹介した。婦人科腫瘍とがん関連血栓症(CAT) 婦人科腫瘍患者は、閉経後の動脈硬化リスク上昇に加え、卵巣摘出後の外科的閉経や薬物治療により心血管イベントリスクが増大する。中でも、CATへの対応は婦人科腫瘍の診療においてきわめて重要である。 がんはTissue Factor(TF)やサイトカイン、さらにマイクロパーティクルを分泌して凝固系を活性化し血栓を形成する。がんはこの血栓を利用して転移するのである。がん自体による血栓形成以外に、薬剤による血栓形成も問題となる。婦人科がんで汎用される内分泌薬やパクリタキセル、タキサンなどの化学療法薬は血栓症合併リスクが高い。 日本の固形がん1万例における静脈血栓塞栓症(VTE)の発症を前向きに調べたCancer VTE Registryによれば、全体集団では5.9%、婦人科腫瘍では5.5%にVTEが認められた。また、婦人科腫瘍800例超におけるVTEの発症と危険因子を調べたGOTIC-VTE試験では、全体のVTE発症は5.8%、卵巣・卵管・腹膜がんでは13.7%に上る。その多くは無症候性であり、近位部よりも遠位部が多かった。婦人科腫瘍における脚の腫れは治療によるリンパ浮腫とみなされがちだが、末梢の血栓が隠れているケースは多いと、向井氏は注意を促す。 『肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』2025年改訂版では、がん関連VTEに関する記載が追加された。そこでは、活動性がん患者の肺血栓塞栓症/中枢型深部静脈血栓症(DVT)の治療は、がんが治癒しない/活動性がなくならない限り継続を考慮すること、中枢型DVTの延長治療には低用量DOACを考慮することなどが記載されている。婦人科腫瘍とがん関連高血圧(Onco-Hypertension) がん治療関連高血圧では、がん由来のサイトカインや化学療法の血管内皮障害により、通常の高血圧より急速に病態が重篤化する。通常5年かかるプラーク形成が、これらの薬剤では1年程度で起こる可能性があるという。 血管新生阻害薬は投与直後から血圧を上昇させ、長期使用で血管内皮の障害を引き起こす。そのほかプラチナ系薬、アルキル化薬、PARP阻害薬、アロマターゼ阻害薬など婦人科腫瘍の治療で汎用される抗がん剤には血圧を上昇させるものが多い。 『高血圧管理・治療ガイドライン』2025年改訂版では、担がん患者の項が追加され、がんと高血圧の双方向性や治療ステップが示されている。そこでは、がん治療患者の降圧治療開始時期と降圧目標、降圧薬の第1選択、治療抵抗性への対応などが取り上げられている。 婦人科腫瘍における循環器合併症の管理には、ライフステージ、性ホルモン、血栓・出血リスクといった婦人科特有の課題がある。より良い循環器疾患の合併症管理には、婦人科腫瘍医と循環器医の情報共有と連携が大きな鍵を握ることは間違いない。

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肝臓病には必ず肝不全用輸液製剤?【ケースで学ぶ輸液オーダー】第6回

肝臓病には必ず肝不全用輸液製剤?「アミノレバン」には経口薬のアミノレバンENと輸液製剤のアミノレバンがあり、ややこしいですね。研修医時代は経口薬をそっくり置き換えたのが輸液製剤だと思っていましたが、それは間違いです。今回は肝疾患の患者さんにおける栄養療法を再確認しましょう。栄養療法の原則は経口・経腸栄養ですが、静脈栄養が必要となることもあります。アミノ酸投与に関して、次の肝疾患の患者さんには、(1)〜(3)のどれが適切な選択でしょうか?(1)アミノレバンを使用する(2)標準的な組成のアミノ酸を含む一般用静脈栄養製剤を使用する(3)アミノ酸は投与しない症例症例1 代償性肝硬変68歳男性、C型肝炎後肝硬変(Child-Pugh A)。癒着性腸閉塞の手術予定で絶食中。AST42U/L、ALT 38U/L、T-Bil 1.0mg/dL、Alb 3.7g/dL、NH3 38μg/dL。意識清明。症例2 非代償性肝硬変72歳男性、アルコール性肝硬変(Child-Pugh C)。食道静脈瘤治療歴、腹水あり。誤嚥性肺炎で入院。数日間絶食予定。T-Bil 4.0mg/dL、Alb 2.3g/dL、PT 45%、NH3 55μg/dL。意識清明、羽ばたき振戦なし。症例2の続き入院3日目、便秘と感染を契機に傾眠傾向となり、NH3 165μg/dL。羽ばたき振戦あり。症例3 劇症肝炎(急性肝不全)35歳女性。3日前から発熱、全身倦怠感、黄疸が出現し、会話のつじつまが合わないことに家族が気付き救急搬送された。来院時は傾眠傾向、羽ばたき振戦を認める。AST 5,240U/L、ALT 4,980U/L、T-Bil 11.8mg/dL、PT 23%、NH3 172μg/dL、血糖 52mg/dL。集中治療室へ入室した。経口用と輸液用のアミノレバンの違い輸液製剤のアミノレバンは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含む経口剤とは異なり、栄養補充を目的としたものではありません。肝性脳症を改善させるためのアミノ酸インバランスの是正が主な役目です1,2)。経口剤のように栄養療法として継続使用する想定ではなく、あくまでも肝性脳症に対する治療薬という位置づけです。ちなみに肝不全用アミノ酸輸液製剤は一般用静脈栄養製剤と同様、2020年より「透析又は血液ろ過を受けている患者」が禁忌対象から除外されました。現在は肝性脳症を来した透析患者さんにもアミノレバンは投与可能です3)。肝疾患における栄養療法の考えかた~タンパクの取り扱い通常、肝硬変患者では安静時エネルギー消費量が増加しており、エネルギー摂取量の目標は耐糖能異常がない場合は25~35kcal/kg(標準体重)/日とされ、飢餓状態を短くするために1日3〜5回の分割食と就寝前軽食が推奨されています。タンパク摂取量の目標は、タンパク不耐症がない肝硬変患者の場合は1.0~1.5g/kg/日(BCAA製剤を含む)、タンパク不耐症がある肝硬変患者の場合は0.5〜0.7g/kg/日+BCAA高含有肝不全用経腸栄養剤とされます。肝性脳症時であっても、タンパク制限は窒素平衡を負に傾け、体タンパクの分解を促進するため推奨されません1,2)。一方、劇症肝炎では、血漿中の全てのアミノ酸濃度が高くなっており、BCAAを含めてアミノ酸投与は回避しなくてはなりません2)。表1 肝疾患とタンパク必要量画像を拡大する各症例の考え方タンパク不耐性、すなわち肝性脳症がなければ通常の栄養管理を行うことが原則であり、アミノレバンは肝硬変の栄養輸液ではなく「肝性脳症の治療薬」であることを念頭に考えましょう。症例1、症例2はいずれも肝性脳症を伴わない肝硬変患者であり、静脈栄養に際しては(2)の一般用静脈栄養製剤を使用します。しかし症例2の続きでは肝性脳症を併発しており、このときに初めて(1)のアミノレバンを選択して治療します。症例3は劇症肝炎による急性肝不全であり、アミノ酸投与は禁忌のため(3)となります。この場合、輸液は糖電解質輸液を基本とし、血漿交換が行われることでしょう。アミノレバンは栄養輸液ではなく肝不全治療薬です。栄養療法におけるアミノ酸輸液とは切り離して考えましょう。肝不全用アミノ酸製剤を深堀りする肝硬変では、肝機能の低下や筋肉量の減少に伴って代謝に異常が生じます。とくに筋肉でのアンモニア処理にBCAAが消費されてBCAAが低下し、逆に芳香族アミノ酸(AAA)が増加することで、アミノ酸インバランス(フィッシャー比の低下)を引き起こします。Fischerらはこのフィッシャー比の低下に着目し、BCAA含有量を増加させ、含硫アミノ酸やAAAを減少させたFischer処方を考案しました。この特殊組成アミノ酸輸液(Fischer液)により血漿アミノ酸インバランスを是正し、肝性脳症における意識障害の改善に成功しました。このFischer液をそのまま製剤化したものがアミノレバンです4)。アミノレバンは、肝不全時のアルカローシスを増強しないようCl-を多く含んでおり、Na+との間に乖離(Na+:14mEq/L、Cl-:94mEq/L含有)があるため、高クロール性代謝性アシドーシスに注意が必要です。腎機能障害のない患者でもアシドーシスを引き起こす可能性があり、軽度~中等度の慢性腎臓病患者(eGFR:30~60mL/分/1.73m2)では発生率が有意に高いことが報告されています5)。投与開始直後からリスク上昇がみられるため、意識障害の改善が得られた時点で速やかに経口によるBCAA補充への変更を検討する必要があります。表2 アミノレバンと一般アミノ酸製剤(アミパレン)の比較画像を拡大する1)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. 肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南江堂;2020.2)日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)編.JSPENコンセンサスブック2 肺疾患/肝疾患/腎疾患. 医学書院;2023.3)今回の「使用上の注意」改訂の経緯と課題について / 日本栄養治療学会4)高橋 善彌太ほか. 臨床医薬. 1982;31:175-185.5)Kaji K, et al. Biol Pharm Bull. 2025;48:46-50.

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第328回 「骨太の方針2026」の注目ポイント(後編) 地域医療構想ガイドライン公表を受け医療提供体制への言及多数、「攻めの予防医療」は総花的で斬新さなし

「注釈」で「有床診療所も含めて医療機関の役割分担の明確化を図ることを含む」と有床診の役割見直しを示唆こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、5月に内側側副靱帯損傷で傷めた左ひざの最終リハビリ目的で、山梨県の茅ヶ岳(「日本百名山」の著者・深田 久弥が登山中に急逝した山)に登ってきました。3ヵ月ぶりの登山でしたが、左足はほぼ完調で、急な上り下りが特徴の山でしたが、ストックを使うこともなく無事山行を終えました。が、下山してみると今度は右足の裏、土踏まずのあたりに痛みが発生し、次第に強くなりました。足底腱膜炎の症状です。登山中、知らず知らずのうちに左足をかばっていたツケと思われます。左足を受傷して3ヵ月、歩行のシンメトリー(対称性)の重要性に改めて気づかされた登山でした。ちなみに、茅ヶ岳の麓にある深田記念公園には、深田直筆の「百の頂に百の喜びあり」の言葉が刻まれた記念碑があります。実に深い言葉です。しかし、今の私には「百の頂に百の苦しみあり」と読めました。さて、今回も前回に引き続き、7月21日にようやく閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026 『責任ある積極財政』元年 ~日本の挑戦を起動する!」(骨太の方針2026)の注目ポイントについて書いてみたいと思います。「骨太の方針2026」では前回書いた社会保障改革関連の記述以外では、新たな地域医療構想のガイドラインが公表されたことを受け、次のように医療提供体制への言及が多くありました。「2040年に向けて、病床数の適正化を着実に実施した上で、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとともに、地域包括ケアシステムの深化を図り、地域の実情に応じた質の高い効率的な医療・介護サービス提供体制を構築する」。なお、本文中の「医療機関の連携・再編・集約化」の文言には、「有床診療所も含めて医療機関の役割分担の明確化を図ることを含む」とする「注釈」が付きました。有床診療所の施設数・病床数は減少傾向にあり、人材不足、経営悪化、後継者不足などによりその存続が危ぶまれています。一方で、2040年に向けて、高齢者救急、在宅医療、看取り、介護施設との連携の需要は高まると考えられ、既存の有床診療所をそうした機能を提供するインフラとしてどう活用していくかが大きな課題となっています。この「注釈」から、有床診療所の役割の明確化と再評価が行われるだろうということが予想できます。救急医療体制の確保、人生の最終段階における医療・ケア、医師偏在対策、医学部定員削減も盛り込むその他の医療提供体制関連では、「妊娠・出産の経済的負担軽減と安心・安全な小児・周産期医療提供体制の両立、救急医療体制の確保、ドクターヘリの安全で持続可能な運航の確保、看取りなど人生の最終段階における患者中心の適切な医療・ケア、精神医療に関する地域医療構想を踏まえた取組、訪問看護の適切な実施、中山間・人口減少地域での柔軟な介護・障害福祉サービスの提供」などが挙げられていました。加えて、「かかりつけ医機能の発揮や医師の地域・診療科偏在の更なる是正策、大学病院等からの医師派遣の推進を含めた総合的な医師偏在対策、地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員の削減に取り組む」と、医師偏在対策、医学部定員削減も盛り込まれました。また、「医療分野においては、新たな地域医療構想の下、将来需要を踏まえ、老朽化・災害対策を含む地域に不可欠な施設・設備の計画的な整備への必要な支援の在り方を検討する。介護・福祉分野においても、老朽化・災害対策を含む施設・設備の計画的な整備を支援する」と、地域医療構想を前提としながらも、施設・設備の整備についても記述されました。建設費や設備費の高騰で病院の建て替えや新設が滞っている地域は少なくありませんが、補助金等による国による何らかの対応が行われそうです。薬剤処方の適正化、効率化に関する検討項目が多数列挙医療保険制度関連では、前回詳しく書いた70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合に関する記述のほかは、「長期処方やリフィル処方箋の活用、地域フォーミュラリの全国展開、休薬・減薬などの効果的・効率的な治療の促進等により、給付の効率化や適正化を図りつつ、質の高いサービスを提供する。セルフメディケーション推進の観点からの更なる医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けた実効的な方策を検討し、必要な措置を行う」など、薬剤処方の適正化、効率化に関する検討項目が多数列挙されました。一見目新しい「攻めの予防医療と疾病対策」今回の「骨太の方針2026」で一見目新しいのは、高市 早苗首相が過去の記者会見でも強調していた「攻めの予防医療と疾病対策」の項目です。「国民のWell-beingの向上と健康寿命の延伸を図り、誰もが社会の担い手として活躍できる日本を実現する」として、「攻めの予防医療」を推進するとしています。具体的には、「健康増進、肥満症を含む疾病予防、早期発見、早期介入及び行動変容に関係機関が連携して取り組む。栄養・食生活を含む健康リテラシーの向上、地域住民の健康増進に資する薬局機能及び薬剤師の果たす役割の強化、学齢期の健康診断の在り方の見直し、予防接種、HIVや性感染症の予防、下水サーベイランス等の感染症対策、がん検診や精密検査の受診率向上、循環器病・糖尿病を含む生活習慣病等の予防、いわゆる国民皆歯科健診の具体化、口腔と全身の健康の関係に基づく歯科疾患対策・口腔健康管理、認知症の早期診断・早期対応、予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション、PHRの利活用と情報連携を推進する」としています。さらに、「更年期世代の女性への医療の推進や女性の健康総合センターの機能強化、『プレコンセプションケア推進5か年計画』の工程表の策定と実行、企業と保険者のコラボヘルス、睡眠対策を含む健康経営の推進等、予防・健康づくりを支えるヘルスケア産業の育成等を図る。 がん、脳卒中・心臓病その他の循環器病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、慢性疼痛、難病、アレルギー、依存症、難聴、睡眠障害等の疾病対策や移植医療対策を推進する」ともしています。新しさに欠ける「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療 厚生労働省関係施策~」よく読んでみると、予防医療と疾病対策の項目が総花的に羅列してあるだけで、どこが「攻め」なのかよくわかりません。「責任ある積極財政」と同じように、実態は二の次に、見た目(読んだ感じ)が一見カッコいいキャッチコピーにしたのでしょう。7月27日付のミクスオンライン等の報道によれば、上野 賢一郎厚生労働大臣は7月24日の閣議後会見で、「骨太方針2026」に盛り込んだ「攻めの予防医療」について、「健康寿命の更なる延伸や社会保障を支える基盤の維持・強化に向けて、取り組みを速やかに実施していく」と述べたとのことです。なお、具体化に向けて厚労省は「骨太の方針2026」が閣議決定された2日後の7月23日、「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表しています。「U.E.N.O.」は厚労大臣の名前から取ったキャッチコピーで、「Understand, Exercise, Nourish and Optimize for Better Health」の略だそうです。ちょっと強引なコピーですね。同プランは「栄養・食生活」「がん・循環器病等」「歯科保健」「認知症」「リハビリテーション」「性差に由来するヘルスケア」の6領域を「直ちに取り組むべき第一弾の重点領域」として位置づけ、「攻め」の取り組みを具体化するため施策を盛り込んだものとのことです。ただ、その内容を見てみると、「栄養・食生活」は「食事ガイドを作成する」、「がん・循環器病等」は「がん検診の受診率60%、精密検査受診率90%の達成」、「認知症」は「新たな検査技術を活用し、早期診断・早期対応等を推進」というように、「攻め」という割には、従来施策の踏襲で、それほど斬新な取り組みが並んでいるわけではありません。というわけで、高市政権のさまざまな政策においても指摘されている、「華々しくぶち上げていること」と「実際にやっていること」の乖離を感じた今年の「骨太の方針」でした。

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脂質異常症治療の30年を振り返って【温故知新30年】

講師紹介1. 30年前の脂質異常症治療1976年頃、スタチンを開発した遠藤章氏が、HMG-CoA阻害効果を持つ結晶粉末(後のコンパクチン)を内藤氏のところに持参し、私たちが扱っていたラットの肝細胞で効果を検討してくれという依頼があった。しかし、コンパクチンはラットの肝細胞では全く効果がないことが判明した。その後、機会を得て、1980年に米国・シカゴ大学への留学が決まった。米国では、動脈硬化研究は極めてホットな研究分野(欧米での死亡率のトップは虚血性心疾患であった)であり、しのぎを削っての競争世界であった。一方、1976年にBrown & GoldsteinのLDL-受容体(LDL-R)発見の論文が掲載された。また、同じ年に遠藤氏のコンパクチンが発表されていた。シカゴ大学の研究室ではLDL-Rの話題は極めて活発化しており、1981年の研究室内のプログレス・ミーティングで日本でのコンパクチンが話題になり、それを手に入れることはできないかとボスから尋ねられた。しかし、筆者には手に入れることはかなわず、筆者も指示されたサルでの実験はできなかった。筆者は1982年に帰国し、大学で脂質異常症の治療を始めた。その当時はもっぱらフィブラート系薬剤とニコチン酸系薬剤がわずかながら効果があるということで、食事療法や運動療法とともに、これらの薬剤を用いた治療を行っていた。また、1985年にプロブコールが発売され、そのコレステロール低下効果は驚くべきものがあったが、これらが本来の目的である動脈硬化予防に効果があるのかは疑問符がついたままであった。約40年以上前のことである。2. この30年でどのように診療が進歩したのか(30年前~10年前)30年前、すなわち1996年頃は1994年に4Sという二次予防試験、1995年にはWOSCOPSという一次予防試験が発表され、もっぱらスタチンの動脈硬化性疾患の予防効果検証の時代であった。我が国では、米国に遅れて1989年にプラバスタチンが発売されたが、発売に至るには険しい道のりがあった。プラバスタチンの効果検証の第II相試験(ダブルブラインド)において立て続けに試験対象者に脳出血の報告があったのである。やむなくこの2例に限ってオープンするという苦渋の決断になり、オープンしたところその2例とも対照薬であることが判明し、試験は継続・完了し、プラバスタチンの有効性並びに安全性も証明され、発売に至ったのである。その当時、わが国でもWOSCOPSと同様のプラバスタチンの試験を行いたいと検討をしていたが、法律家の委員の先生から我が国では慎重にすべきという助言をいただき臨床試験はできなかった。このスタチンを用いた4SやWOSCOPSが発表されると、その後続々とさまざまな対象者に対する大規模臨床試験が発表され、特に”Lower the Better”というような試験が発表されると、二次予防を熱心にしている循環器専門医が中心となって、スタチンを使用するようになった。しかし、スタチンだけではLDL-Cの低下効果は十分ではないことが指摘されていた。その後、コレステロール吸収を抑制するエゼチミブが2007年に発売され、スタチンとエゼチミブを併用することにより、より低下効果が高まり、これも大規模臨床試験で有効性が明らかになった。最近ではその配合剤も発売されこれらの薬剤が汎用されるようになった。3. この30年でどのように診療が進歩したのか(10年前~現在)2016年に、PCSK9モノクローナル抗体という新たな発想による治療薬が発売されるに及んで、最近ではLDL-Cは際限なく(つまり血中では0mg/dL近くまで)下げられること、並びにそれで安全であることも示され、新たな世界に入った感がある。この注射薬は2週間に1回の注射で十分であることが示され、患者の自己注射も可能となった。さらに、インクリシランというPCSK9の合成を抑制するsiRNAも2023年に薬剤として発売され、6ヵ月に1回の注射で十分な効果を発揮することが示され、まさに画期的であった。このほかにも、これまで2週間に1回程度のLDL-アフェレーシスしか選択肢のなかったホモ型家族性高コレステロール血症(Ho-FH)に対する治療薬としてMTP阻害薬であるロミタピドが2016年に発売されたが、Ho-FHの症例数が少ないのと(約30万人に1人の発症率といわれ、発見率も低い)、下痢などの副作用があり、脂肪食の摂取制限などの課題もあり、十分な使用実績がない。しかし、LDL-Cの低下効果は十分認められ、症例の発掘と副作用の軽減化が課題となっている。4. 私にとってのパラダイムシフトこのような治療薬のエビデンスの集積があり、日本動脈硬化学会でも脂質異常症治療のガイドライン(GL)作りが開始され、私は1997年に初めて動脈硬化性疾患診療GLに携わることとなった。そして2002年にはGL作成委員長を拝命し、以後2012年の改定まで3回の改訂作業に携わった。これまで触れてきたように、その間に多くの薬剤開発がなされ、その都度治療エビデンスも蓄積しており、それに対応すべく改定作業が行われてきた。その過程で、GLには薬剤が関与している関係から私のCOIの問題を感ずるようになった。その頃、日本医学会や日本医療機能評価機構におけるMindsというGLの指針が出てきたことにより、私の立場(その当時多くの製薬会社の協賛で寄付講座を持っていた)から、第一線を退くこととした。また、その当時は日本医学会の副会長に任命されており、さらには日本専門医機構の理事長を拝命することにより、いずれの学会の立場から離れるべきという立場となった。とはいえ、自身のクリニックでは高コレステロール血症の治療を行う立場でもあり、批判的に薬剤を使用する立場となった。そのことにより、実臨床で疑問に思うことも多々あり、GLの在り方、専門医の在り方なども深く考えるようになった。そのなかで、脂質異常症の治療薬はほぼ完成したという考えに至ったところに、新たな発想の薬剤が開発され、まだまだ今後の発展がありうると実感している。5. 次の5年で脂質異常症診療はこう変わる今後の5年では、現在の脂質異常症治療薬の使い方の徹底がなされるべきであるとともに、アンメットニーズを抉り出し、それに応じた診療を開発すべきであり、できると思う。1つは高コレステロール血症患者で治療すべき患者の選択であり、選択した患者のうちどの薬剤で、どの程度治療すべきなのか、つまりプレシジョンメディスンを実臨床で行えるようになると思う。そして、今後、さらに長期的にLDL-Cを低下させる治療法が開発され、遺伝子情報から比較的早くから一生のうち1ないし2回くらい治療すれば済むというワクチン的なLDL-C低下療法が筆者の夢である。さらには、食事の吸収に関する遺伝子が発見され、それに関連した治療薬が開発されることにより、肥満も含めて、食事療法が必要なくなる(?)という将来を筆者は夢見ている。

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肺動脈性肺高血圧症、ralinepagが臨床的悪化リスクを半減/Lancet

 現在の標準治療を受けている肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者において、ralinepagはプラセボと比較し、臨床的悪化の初回イベントリスクを有意に低下させたが、有害事象による治療中止の発現割合は高かった。米国・ミシガン大学のVallerie V. McLaughlin氏らADVANCE OUTCOMES Investigatorsが、30ヵ国の169施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「ADVANCE OUTCOMES」の結果を報告した。PAHは肺血管抵抗の上昇を特徴とする希少かつ進行性の疾患であり、右心不全や早期死亡に至る可能性がある。ralinepagは選択的プロスタサイクリン(IP)受容体作動薬で、1日1回経口投与のPAH治療薬として開発された。Lancet誌オンライン版2026年7月28日号掲載の報告。主要評価項目は臨床的悪化 研究グループは、2022欧州心臓病学会(ESC)/欧州呼吸器学会(ERS)ガイドラインに基づきPAHと診断され、平均肺動脈圧>20mmHg、肺動脈楔入圧≦15mmHg、肺血管抵抗>2Wood単位、WHO機能分類クラスII~IVの18歳以上の患者を、ralinepag群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 無作為化の層別因子は、ベースラインにおける6分間歩行距離(6MWD)、PAHの病因、およびPAHに対する経口併用療法であった。治験の依頼者、患者、および治験の実施に直接関与するすべての担当者は、試験薬およびすべての割り付けについて盲検化された。 投与は1日1回50μgから開始し、治験責任医師の判断により最大耐量に達するまで毎週50μg単位で増量調整した。 主要評価項目は、臨床的悪化の初回イベント発生であった。臨床的悪化は全死因死亡、PAHの悪化・右心不全・またはその両方による入院、非経口または吸入プロスタサイクリン製剤の投与開始、疾患進行または長期的な臨床反応不十分の複合と定義した。 有効性解析対象集団は、無作為化されたすべての患者(FAS)、安全性解析対象集団はFASのうち試験薬を少なくとも1回投与された患者とした。ralinepagはプラセボと比較して臨床的悪化のリスクを55%有意に低下 2019年1月24日~2025年6月20日に、スクリーニングを受けた1,037例中728例が登録され無作為化された。全例が試験薬の投与を1回以上受けたが、規制上の課題およびデータの完全性に関する懸念から中国の施設で無作為化され治療を受けた41例を除外し、687例が有効性および安全性の解析対象集団に包含された(ralinepag群350例、プラセボ群337例)。患者背景は、ベースラインの6MWD平均値は438.9m(SD 104.8)で、548例(80%)がPAHに対する2剤併用療法を受けていた。 追跡期間中央値は、ralinepag群85.0週(四分位範囲[IQR]:27.6~160.9)、プラセボ群78.4週(IQR:34.6~137.0)であった。 臨床的悪化の初回イベントは、ralinepag群で350例中64例(18%)、プラセボ群で337例中121例(36%)に認められ、ハザード比は0.45(95%信頼区間:0.33~0.62、p<0.0001)であった。 臨床的悪化の構成要素で群間差が数値的に最も大きかったのは、疾患進行、非経口または吸入プロスタサイクリン製剤の投与開始、長期的な臨床反応不十分であった。 治療中止の主な理由は有害事象で、有害事象による治療中止はralinepag群で65例(19%)、プラセボ群で10例(3%)に発現した。重篤な有害事象の発現は、ralinepag群で98例(28%)、プラセボ群で104例(31%)、死亡に至った有害事象はそれぞれ15例(4%)および14例(4%)に認められた。

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HIV-1感染者への週1回配合剤、1日1回薬に非劣性/NEJM

 ウイルス学的抑制を維持しているHIV-1感染者において、週1回投与の配合錠イスラトラビル/レナカパビル(ISL/LEN)は1日1回投与の配合錠ビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビル アラフェナミド(B/F/TAF)に対して、HIVウイルス量の抑制維持に関して非劣性であることが示された。ドイツ・ボン大学病院のJurgen K. Rockstroh氏らISLEND-1 Study Teamが日本を含む12ヵ国106施設で実施した第III相の二重盲検無作為化実薬対照非劣性試験「ISLEND-1試験」の結果を報告した。1日1回投与の配合錠はHIV-1感染者の治療を一変させたが、服薬アドヒアランスに関する課題が効果を限定的なものとしていることから、研究グループは長期作用型経口薬との組み合わせが投与頻度を抑えた新たな治療選択肢となりうるかを検証した。NEJM誌オンライン版2026年7月29日号掲載の報告。B/F/TAFからISL/LENへの切り替えの有効性および安全性を評価 ISLEND-1試験は、B/F/TAFの投与により少なくとも6ヵ月間ウイルス学的抑制(血漿HIV-1 RNA量50コピー/mL未満)を維持している18歳以上の成人HIV-1感染者を対象とし、1日1回投与のB/F/TAFから週1回投与のISL/LENへの切り替えの有効性および安全性を評価した。 被験者は、週1回投与のISL/LEN(2mg/300mg)群または1日1回のB/F/TAFを継続投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、96週間投与を受ける計画とされた。全被験者が適合プラセボの投与を受け、盲検化が維持された。 主要評価項目は、48週時点のHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者割合で、判定には米国食品医薬品局(FDA)が定義するスナップショットアルゴリズムが用いられ、非劣性マージンはFDAガイドラインに基づき4%ポイントと設定された。48週時点でHIV-1 RNA量50コピー/mL以上、切り替え群は0例 総計607例が無作為化され、主要解析に含まれた(304例がISL/LEN群、303例がB/F/TAF群)。被験者のうち21%が女性で、人種構成は31%が黒人、26%がヒスパニック/ラテン系であり、65歳以上の高齢者が15%であった。 48週時点でHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者は、ISL/LEN群では報告例がなく、B/F/TAF群では1例(0.3%)であった(群間差:-0.3%ポイント、95.002%信頼区間[CI]:-1.4~0.8)。また、HIV-1 RNA量50コピー/mL未満であった被験者は、それぞれ284例(93.4%)と280例(92.4%)であった(群間差:1.0%ポイント、95%CI:-3.2~5.2)。 48週時点におけるCD4+T細胞数のベースラインからの平均変化量は、ISL/LEN群-10個/μL、B/F/TAF群-18個/μLであった(最小二乗平均群間差:12個/μL、95%CI:-16~39)。 試験治療の中止に至った有害事象は、ISL/LEN群6例(2.0%)、B/F/TAF群5例(1.7%)で発現した。Grade3以上の重篤な有害事象の発現はそれぞれ16例(5.3%)および14例(4.6%)で報告された。

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アトピー性皮膚炎への抗ヒスタミン薬、ルーチン使用を支持せず/BMJ

 アトピー性皮膚炎患者において、ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)の追加投与は、重症度およびかゆみについて臨床的に意義のある改善には至らない可能性があり、睡眠障害やアトピー性皮膚炎の増悪も軽減しないことが示唆された。また、第1世代の同薬剤は認知機能障害の増加および有害事象による治療中断を増加させる可能性があり、第2世代の同薬剤では認知機能障害リスクに差異があることも示された。カナダ・マクマスター大学のAlexandro W.L. Chu氏らが無作為化試験のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析の結果を報告した。著者は、「これらの知見は、アトピー性皮膚炎の治療における抗ヒスタミン薬のルーチンな使用を支持しないことの根拠となり、臨床ガイドラインの改訂に資するものである」と述べている。BMJ誌2026年7月29日号掲載の報告。システマティックレビューおよびネットワークメタ解析で評価 アトピー性皮膚炎(湿疹)患者の治療における経口抗ヒスタミン薬の使用は、近年の英国では5人に1人、米国では約半数に上ると推定されている。研究グループは、これらのOTC薬の有益性と有害性を調べ、アトピー性皮膚炎の患者にとって重要なアウトカムに対処するために包括的な解析が必要であり、最適な治療には経口抗ヒスタミン薬の科学的根拠に基づく評価が必要として本検討を行った。 開設から2025年5月5日までのMedline、Embase、CENTRALおよび米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)のデータベースを検索し、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を行った。 適格試験は、抗ヒスタミン薬、H2受容体拮抗薬、肥満細胞膜安定化薬(nedocromil sodium、クロモグリク酸ナトリウム)あるいはそれらの併用の追加投与を評価した無作為化試験とした。2人のレビュアーがそれぞれ、記録のスクリーニング、データの抽出および改訂Cochrane Risk of Bias 2ツールを用いたバイアスリスクの評価を行った。 ベイズ流ランダム効果ネットワークメタ解析により、アトピー性皮膚炎の重症度(oSCORAD、客観的スコア:0~83点、臨床的に意義のある最小差は8.2点、低スコアほど良好)、かゆみの重症度(数値評価スケール:0~10、臨床的に意義のある最小差は3、低値ほど良好)、睡眠障害、アトピー性皮膚炎に関連した生活の質(QOL)、および有害事象の統合解析を行った。エビデンスの確実性(質)の評価には、ネットワークメタ解析のためのGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)およびCore GRADEアプローチが用いられた。第1世代抗ヒスタミン薬は認知機能障害を増加 解析には、主に中等症~重症の小児および成人6,230例(報告された平均年齢の中央値20歳[平均値の範囲:1~43])が登録された47試験が組み入れられた。27試験(57%)が小児を対象に含んでおり、31試験(66%)はプラセボ対照試験で、37試験(79%)は並行群間比較試験であった。また、36試験(77%)が全被験者に基礎的な併用治療(保湿剤または外用コルチコステロイド)が行われていた。 中程度のエビデンスの確実性があるものとして、プラセボと比較し、第1世代または第2世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、アトピー性皮膚炎の重症度(平均群間差:-1.87、95%信用区間[CrI]:-3.47~-0.27)およびかゆみの重症度(平均群間差:-0.89、95%CrI:-1.41~-0.37)を、わずかに軽減したに過ぎない可能性が示唆された。統計的検出は可能であったが、これらの効果は、確立された意義のある最小差(患者が重要だとするアウトカムの最小変化量)を大きく下回るものであった。 エビデンスの確実性は低かったが、すべての試験で検討された介入は、睡眠障害の改善やアトピー性皮膚炎増悪の軽減にはつながらない可能性が示唆された。 第1世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、認知機能障害を増加させ(リスク差は被験者1,000人当たり66人増、95%CrI:0~231、エビデンスの確実性は中程度)、有害事象による治療中断も増加(リスク差は被験者1,000人当たり29人増、95%CrI:1~131、エビデンスの確実性は低い)させる可能性が示唆された。 第2世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、認知機能障害のリスクについて差が認められた。平均的な影響の範囲は、ロラタジンが1,000人当たり0人増、レボセチリジンが1,000人当たり16人増、セチリジンが1,000人当たり17人増であった。

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