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週末にまとめて行う運動でも糖尿病患者の死亡リスク低下

 平日は多忙などの理由で運動できず、週末にまとめて運動を行う、いわゆる“週末戦士”と呼ばれる身体活動パターンであっても、糖尿病患者の死亡リスク抑制につながることを示すデータが報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のZhiyuan Wu氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 糖尿病でない一般集団においては、週末戦士のような身体活動パターンも死亡リスクの低下と関連していることが既に示されている。しかし糖尿病患者でも同様の関連があるのかは、これまで不明だった。そこでWu氏らは、前向きコホート研究により、週末戦士に該当するパターンを含む成人糖尿病患者のさまざまな身体活動パターンと、死亡リスクとの関連を検討した。 研究には、1997~2018年の米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを利用。成人糖尿病患者5万1,650人を身体活動の頻度と量に基づき、中~高強度運動(MVPA)を行っていない「非運動群」、MVPAが週150分未満の「運動不足群」、MVPAの頻度が週1~2回で150分以上の「週末戦士群」、MVPAの頻度が週3回以上で150分以上の「習慣的運動群」の4群に分類して、中央値9.5年間追跡した。 追跡期間中に1万6,345人の死亡(心血管死5,620人、がん死2,883人を含む)が記録されていた。非運動群を基準として比較すると、週末戦士群も含めて他の3群はいずれも全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低かった(多変量調整後のハザード比〔HR〕と95%信頼区間が、運動不足群0.90〔0.85~0.95〕、週末戦士群0.79〔0.69~0.91〕、習慣的運動群0.83〔0.78~0.87〕)。心血管死のリスクについては、運動不足群を除く2群で有意なリスク低下が認められた(運動不足群0.98〔0.89~1.07〕、週末戦士群0.67〔0.52~0.86〕、習慣的運動群0.81〔0.74~0.88〕)。 つまり、週末戦士は全死亡リスクが21%、心血管死リスクが33%低いことが示された。なお、がん死に関しては、習慣的運動群でリスク低下が認められた(運動不足群0.88〔0.78~1.00〕、週末戦士群0.99〔0.76~1.30〕、習慣的運動群0.85〔0.75~0.96〕)。 この結果についてWu氏らは、「示されたデータは、毎日ではなく柔軟にアレンジしたパターンで行う運動であっても、糖尿病患者に好ましい影響を及ぼすことを示している。運動を習慣として日々実践するのが困難な人にとって、この知見は重要である」と述べている。 著者らは研究背景の中で、「運動ガイドラインでは健康維持のために、毎週少なくとも150分の中強度運動を行うことを推奨している。中強度運動には、早歩き、ゆっくりした速度でのサイクリング、アクティブなヨガ、社交ダンス、庭仕事などが含まれる。しかし、これらの運動を実施する時間を確保することは、必ずしも容易ではない」とし、週末戦士の意義を指摘。また、「今後の研究では、仕事中や通勤での移動による運動なども含め、人々の日常の身体活動をより包括的に評価する必要がある」と付け加えている。

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運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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高齢者がん診療で悩ましいこと【高齢者がん治療 虎の巻】第1回

(1)「何歳まで治療すべきか」に明確な答えはあるのか?<今回のPoint>「何歳まで治療すべきか」に明確な答えはない高齢者は臨床試験で過小評価されており、エビデンスの外にいることが多い構造化された意思決定プロセスはSDMの質を高める<症例>88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望している。既往に高血圧症、糖尿病と軽度の認知機能低下があり、パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。cancer silver tsunamiが到達する前に解決すべき課題標準的な薬物療法を勧めるべきか、毒性の少ない治療にとどめるべきか。あるいは支持療法を中心とした方針とするか――。どの選択肢にも正解・不正解があるわけではなく、医師としての判断が問われる場面です。しかも、こうしたケースは珍しくありません。むしろ、今、多くの医師が、日々の診療の中で「何歳まで治療をすべきか?」という問いと向き合っているのではないでしょうか。日本は世界有数の長寿国であり、すでに65歳以上の人口割合(高齢化率)は世界最高水準に達しています。2023年時点でその割合は29.1%、2050年には37.1%に上ると推計されており1)、今後も高齢化のさらなる進行が見込まれます。がんは高齢化とともに増加する代表的な疾患であり、都市部を除く多くの地域で「高齢のがん患者が当たり前」という時代がすでに到来しています。現場の臨床医は、いわば“cancer silver tsunami”への対応を迫られているのが現状です。各種がんの診療ガイドラインでは、「暦年齢のみを理由に治療を控えるべきではない」と明記されており、患者の身体的・認知的背景や併存疾患、フレイルの有無などを総合的に判断することが求められています2,3)。たとえば大腸がんの診療ガイドラインでは、年齢にかかわらず適応となる(fit)/問題がある(vulnerable)/適応とならない(frail)の層別化を行うための評価フローも提示されています(図1)4)。(図1)一次治療の方針を決定する際のプロセス画像を拡大するとはいえ、実際の臨床では「何歳まで手術や薬物療法を提案すべきか」「治療リスクはどう見積もるのか」といった問いに、明確に答えてくれるガイドラインはほとんどありません。さらに、薬物療法を選択するとしても、レジメンの選定・投与量・期間の調整など、悩ましい判断は尽きません。臨床試験データは“選ばれし高齢者”のものこの難しさの背景には、高齢者が臨床試験で過小評価されている現実があります。多くのpivotal studyでは年齢制限は設けられていないものの、実際に登録される高齢者は非常に少数に留まっています。米国では65歳以上のがん罹患率は全体の約42%を占めますが、FDA登録試験で高齢者の登録割合は24%、NCI主導試験では10%未満に過ぎないと報告されています5)。たとえ高齢者に限定した第III相試験が行われたとしても、登録されるのは臓器機能が良好でPSも問題ない“選ばれた高齢者”です。つまり、目の前の患者が試験対象者と同じかどうか判断するための“物差し”が、われわれの手元にも臨床試験報告の中にも存在しない、という現実があるのです。米国・National Comprehensive Cancer Network(NCCN)の高齢者がん診療ガイドラインでは、治療を始めるにあたっての意思決定プロセスがフローチャートで示されており、その中でShared Decision-Making(SDM)の重要性が段階的に整理されています(図2)。(図2)意思決定プロセスのフローチャート画像を拡大する多くの臨床医は、日々の診療の中で個々の患者に応じた判断を経験的に行っていると思われますが、このような構造化されたプロセスを意識的に辿ることで、GA(Geriatric Assessment)の実施や、その結果の解釈にも自然とつながっていきます。そしてそれは、最終的にSDMの質を高めることにも寄与するはずです。とくに、治療開始前(あるいは診断時点)から「治療の目標」と「患者の価値観」をすり合わせておくことは、がん診療における極めて重要なステップです。私自身の経験からも、たとえ緩和的治療であっても、患者が「治る」と期待していたことで、医師との間で治療のゴールに齟齬が生じるケースを数多く見てきました。本連載では、高齢者がん診療における実際の“悩みどころ”を共有しながら、そのヒントや手がかりをお届けしていきます。次回は「高齢者がん診療のキホン」として、治療開始前の評価、とくにGAの実践方法について取り上げる予定です。高齢者機能評価(GA)とは高齢がん患者においては、暦年齢やPerformance Status(PS)だけでは捉えきれない身体的・精神的・社会的な多様性が、治療の選択や予後に大きく影響する。高齢者機能評価(GA:Geriatric Assessment)は、身体機能、認知機能、併存疾患、栄養状態、社会的支援などを多面的に把握するツールであり、がん治療に伴うリスクの評価や治療方針の決定に活用される。老年医学の領域で用いられるCGA(Comprehensive Geriatric Assessment)は、医師・看護師・リハビリスタッフなど多職種による包括的介入を前提とし、継続的な評価を通じてケアプランを策定することを目的とする。一方、がん領域におけるGAは、薬物療法開始前に脆弱性をスクリーニングし、治療強度の調整や必要な介入を検討する「意思決定支援のツール」として位置付けられる。近年では、GAの実施とそれに基づく介入が患者に利益をもたらすことを示す無作為化比較試験(RCT)の結果が多数報告され、国内外のガイドラインにおいても、高齢者のがん薬物療法前にGAを実施することが強く推奨されている。さらに、短時間で実施可能な簡易GAツールの普及や、iPadなどを活用した電子化も進み、臨床現場での実践が広がりつつある。1)内閣府:令和6年版高齢社会白書(全体版)2)日本肺癌学会編. 肺癌診療ガイドライン2024年版 ver.1.1. 2024.3)日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版. 2022.4)大腸癌研究会編. 大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版. 金原出版. 2024.5)Sedrak MS et al, CA Cancer J Clin. 2021;71:78-92.6)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines): Older Adult Oncology Version 2.2025 — May 13, 2025

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新たなエビデンス踏まえ薬物療法・ゲノム検査など改訂「膵癌診療ガイドライン」/日本膵臓学会

 2025年7月、「膵癌診療ガイドライン」が改訂された。2022年から3年ぶりの改訂で、第7版となる。Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づいて作成され、Background Question、Clinical Question(CQ)のほか、エビデンスが足りないなどでシステマティック・レビューができない項目はFuture Research Question(FRQ)として新設された。 7月25~26日に行われた第56回日本膵臓学会大会では、「膵癌診療ガイドライン 2025―改訂のポイント」と題したセッションが開催され、外科的治療、薬物療法、放射線治療、支持・緩和療法など、9つの専門グループから改訂点が発表された。同学会の教育セミナー「がん薬物療法・ゲノム医療」において森實 千種氏(国立がん研究センター中央病院)が紹介した内容と合わせ、薬物療法を中心に、本ガイドラインの主な改訂点を紹介する(文中下線は編集部)。【診断】 全体の治療アルゴリズムに大きな変更点はない。ほかのがん種と比較すると、StageIIIの中に「切除可能境界(BR)」カテゴリがあり、化学療法・化学放射線療法を行ってから再評価し、次の治療法を選択するというのが膵がんアルゴリズムの特徴だ。重複箇所を整理して総論でCQ5、各論でCQ16、FRQ4、コラム2つが新設または内容が変更されている。前版のコラムにあった病診連携、バイオマーカー、CTによるスクリーニングについては、今後期待される課題としてFRQに移した。CQ D4 膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察は推奨されるか?A.膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] サーベイランスを行った群のほうが5年生存率、生存期間共に有意な延長を認めたというエビデンスの蓄積を受けて本CQを新たに追加した。【補助療法】CQ RA1 切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?A.切除可能膵癌に対する術前補助療法としてゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:D(非常に弱い)] 日本で行われたPrep 02/JSAP05試験の結果から、術前補助療法の有用性が2019年に示され、本ガイドラインでも2019年版で初めて切除可能膵がんに対する術前治療を提案することが明記された。前版でもこの記載は変わらなかったが、今版の作成時点ではPrep-02/JSAP05試験が論文化されていなかったことを踏まえ、エビデンスの確実性(強さ)をC(弱)からD(非常に弱い)に一段階下げた。今版作成後に論文化されたため、次版ではこれを精読した上で改めて推奨度・エビデンスレベルを決定することになるだろう。【薬物療法】CQ LC1 局所進行切除不能膵癌に対して一次化学療法は何が推奨されるか?A.局所進行切除不能膵癌に対する一次化学療法として、1)FOLFIRINOX療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]2)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]上記が行えない場合、3)ゲムシタビン塩酸塩単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]4)S-1単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] 今版で大きく内容が変わったCQとなる。FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GnP療法)は、Prodige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したが、どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験だった。国内で行われたJCOG1407試験は、局所進行膵がん患者を対象としてmFOLFIRINOX療法とGnP療法の有効性と安全性を検討した試験であり、いずれもゲムシタビン単剤と比べて優越性を示した。この結果を踏まえ、FOLFIRINOXとGnP療法を標準治療とし、忍容性などの問題でこれらが使えなかった場合にゲムシタビン単剤またはS-1単剤を提案するとした。CQ MC1 転移性膵癌の一次化学療法として、何が推奨されるか?A. 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法として、1)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]2)FOLFIRINOX療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]3)NALIRIFOX療法(日本では適応外)を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):B(中)]ただし、全身状態や年齢などから上記治療が適さない患者に対しては、4)ゲムシタビン塩酸塩単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]5)S-1単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)] 転移のある膵がんに対して複数の治療選択肢が存在し、患者の年齢や体調などの諸条件により、標準治療の推奨度は変化する。未治療の転移を有する膵がんを対象に行われたJCOG1611試験では、GnP療法をmFOLFIRINOX、S-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)と比較した結果、GnP療法が3剤併用の他レジメンより有用との結果だった。この結果から、今版ではGnP、FOLFIRINOXの順に推奨とした。 さらに近年には、新たなレジメンであるNALIRIFOX(ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)がGnPを上回ったというNAPOLI-3試験の結果が報告されている。この結果を受け、遠隔転移例ではGnP療法とFOLFIRINOXに加え、NALIRIFOX療法も提案に入れている。NAPOLI-3試験は日本が参加しておらず、NALIRIFOX療法は現時点では未承認だが、本レジメンの国内承認を目指すブリッジングスタディが行われ、今学会で有効性と安全性が報告されており、承認が待たれる状況だ。【プレシジョン・メディシン】CQ D1(P) 切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査は推奨されるか?A.切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] BRCA変異例はプラチナレジメンの治療効果が高く、かつPARP阻害薬オラパリブによる維持療法が有用との報告があり、このコンパニオン診断になるという点を踏まえ「提案する」とした。膵がんとしてはこれが初の承認されたゲノム診療となる。FRQ DI(P) 切除不能膵癌患者に対して、がん遺伝子パネル検査は推奨されるか?A.1)がん遺伝子パネル検査は治療選択肢を増やす可能性があるが、現時点でエビデンスは不十分である。2)検査を企図した時点で腫瘍組織を利用できない場合、腫瘍組織を新たに採取すべきか、血液検体を用いたがん遺伝パネル検査を実施すべきかについては今後明らかにされるべき課題である。3)標準治療終了を待たずに早めのタイミングで遺伝子パネル検査を実施することは治療アクセスの観点から妥当で、膵癌を含む臓器横断的研究で臨床的有用性が示されているが、膵癌においてのデータの蓄積が今後の課題である。 前版ではがん遺伝子パネル検査を「やるか・やらないか」というシンプルなクエスチョンだったものを、今版では膵がん固有の臨床課題に落とし込んで作成した。前版ではCQだったものを今回はFRQに押し戻すかたちとなったが、エビデンスの蓄積が足りず、検査の種類などについても、まだ明確な推奨を出すには至らないと判断した。 エビデンスを重視しながらも利益や不利益、医療費など実地診療にも配慮して作成したガイドラインだ。ぜひ一読いただき、膵がんの早期発見・治療の向上に活かしていただきたい。

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終末期介護施設入居者の救急搬送や入院、多くは回避可能

 入院や救急外来(ED)受診は、介護施設入居者、特に重度の障害を抱えているか終末期にある人にとっては大きな負担となり費用もかさむ。しかし、介護施設入居者が病院へ搬送されることは少なくない。このほど新たな研究で、このような脆弱な状態にある介護施設入居者によるED受診の70〜80%、また入院の約3分の1は回避可能であった可能性のあることが示された。米フロリダ・アトランティック大学シュミット医科大学老年医学教授のJoseph Ouslander氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Directors Association(JAMDA)」7月7日号に掲載された。 Ouslander氏らは、終末期の介護施設入居者が入院に至った原因として多かったのは、肺炎、尿路感染症、敗血症であったが、介護施設での医療と管理の質がもっと良ければ、それらの入院は必要なかったはずだと主張している。同氏は、「これらの健康問題は、施設でのケアを改善するために実行可能な手段があることを明示している。既存のガイドライン、ケアパス、予防戦略を用いれば、これらの問題は適切に管理できる。適切なツールと人員を整えることでED受診や入院の多くは回避可能であり、入居者の苦痛と不必要な医療費の両方を減らすことができる」と述べている。 今回の研究は、264カ所の介護施設において12カ月間の質改善プログラムを実施することで潜在的に回避可能な入院(possibly avoidable hospitalization;PAH)やED受診を減らせるかを検討した研究データを二次解析したもの。対象は、重度の障害を持つ6,011人(重度障害群)と終末期状態にある5,810人(終末期群)の介護施設入居者であった。 解析の結果、重度障害群の34%はあらゆる原因による入院を1回以上経験しており、その3分の1はPAHの基準を満たすことが明らかになった。また、18%はEDを1回以上受診しており、そのうちの70%は潜在的に回避可能性だったと判断された。一方、終末期群の14%があらゆる原因による入院を1回以上経験しており、そのうちの31%はPAHの基準を満たしていた。また、8%はEDを1回以上受診しており、そのうちの80%は潜在的に回避可能だったと判断された。 PAHと関連した診断として多かったのは、肺炎やその他の感染症、息切れや呼吸不全、精神状態の変化であった。一方、潜在的に回避可能なED受診で多かった診断は、重度障害群では経管栄養チューブに関する問題、終末期群では転倒による外傷であった。 Ouslander氏らは、より明確な治療プロトコルとタイムリーな症状管理によって、こうした入院の多くは防ぐことができる可能性があると述べている。同氏らはまた、家族や入居者と医療に関する希望を伝えることも大きな違いを生む可能性があり、ケアに関する希望を文書化しておくことで危機的な状況下での意思決定を回避し、不必要な搬送を減らすのに役立つとしている。 Ouslander氏は、「PAHやED受診を減らすためには、介護施設スタッフの能力を強化し、熟練した医療責任者や臨床医の積極的な関与を確保しなければならない。これは、個人の努力だけで解決できるものではなく、介護施設、介護や医療の提供団体、そして政策立案者からの支援が欠かせない。実際的な国家レベルの人員配置基準、複雑なケアに対応できるより充実した施設のリソース、さらに最も脆弱な入居者に対する質の高い、患者中心のケアを支えるための報酬制度の構築など、大胆な改革が必要だ」と述べている。

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第256回 新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研ほか 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国で再び拡大している。厚生労働省によると、8月4日~10日の1週間に全国約3,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は2万3,126人で、1医療機関当たりの平均患者数は6.13人となり、8週連続の増加となった。前週比は1.11倍で、40都道府県で増加。宮崎県(14.71人)、鹿児島県(13.46人)、佐賀県(11.83人)と、九州地方を中心に患者数が多く、関東では埼玉、千葉、茨城などで上昇が顕著だった。増加の背景には、猛暑による換気不足、夏季の人流拡大に加え、オミクロン株派生の変異株「ニンバス」の流行がある。国内の感染者の約4割がこの株とされ、症状として「喉にカミソリを飲み込んだような強い痛みを訴える」のが特徴。発熱や咳といった従来の症状もみられるが、強烈な喉の痛みで受診するケースが多い。医療機関では、エアコン使用で喉の乾燥と勘違いし、感染に気付かず行動する患者もみられる。川崎市の新百合ヶ丘総合病院では、8月14日までに陽性者70人を確認し、7月の100人を上回るペース。高齢者の入院も増加しており、熱中症と区別が付きにくいケースもある。都内の感染者数も8週連続で増加し、1医療機関当たり4.7人。東京都は、換気の徹底や場面に応じたマスク着用などの感染対策を呼びかけている。厚労省は「例年、夏と冬に感染者が増える傾向がある」として、基本的な感染対策の継続を求めている。とくに高齢者や持病のある人は重症化リスクが高いため、早期の受診や感染予防の徹底が重要とされる。 参考 1) 2025年8月15日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) 新型コロナ 東京は8週連続で患者増加 医師「お盆に帰省した人が発熱し感染広がるおそれも」(NHK) 4) 新型コロナウイルス 1医療機関当たり平均患者数 8週連続で増加(同) 5) 新型コロナ「ニンバス」流行 カミソリを飲んだような強烈な喉の痛み(日経新聞) 6) 新型コロナ変異株「ニンバス」が流行の主流、喉の強い痛みが特徴…感染者8週連続増(読売新聞) 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省マダニ媒介感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の国内感染者数は、2025年8月3日時点で速報値で124人に達し、すでに昨年の年間120人を超え、過去最多の2023年(134人)を上回るペースで増加している。感染報告は28府県に及び、高知県14人、長崎県9人など西日本が中心だが、北海道、茨城、栃木、神奈川、岐阜など従来未確認だった地域でも初感染が報告された。SFTSはマダニのほか、発症したイヌやネコや患者の血液・唾液からも感染する。潜伏期間は6~14日で、発熱、嘔吐、下痢を経て重症化すると血小板減少や意識障害を起こし、致死率は10~30%。2024年には抗ウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)が承認されたが、治療は主に対症療法である。高齢者の重症例が多く、茨城県では70代男性が重体となった事例もあった。感染拡大の背景には、里山の消失による野生動物の市街地進出でマダニが人の生活圏に侵入していること、ペットから人への感染リスク増大がある。とくにネコ科は致死率が約60%とされる。富山県では長袖・長ズボン着用でも服の隙間から侵入した事例が報告された。専門家や自治体は、草むらや畑作業・登山時の肌の露出防止、虫よけ剤の使用、ペットの散歩後のブラッシングやシャンプー、マダニ発見時の医療機関受診を呼びかけている。SFTSは全国的な脅威となりつつあり、従来非流行地域でも警戒が必要。 参考 1) マダニ対策、今できること(国立健康危機管理研究機構) 2) マダニ媒介の感染症 SFTS 全国の患者数 去年1年間の累計上回る(NHK) 3) 感染症SFTS 専門医“マダニはわずかな隙間も入ってくる”(同) 4) 致死率最大3割--“マダニ感染症”全国で拡大 「ダニ学者」に聞く2つの原因 ペットから人間に感染する危険も…対策は?(日本テレビ) 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研などポーランドなどの国際チームは、大腸内視鏡検査でAI支援システムを常用する医師が、AI非使用時に前がん病変(腺腫)の発見率を平均約20%低下させることを明らかにした。8~39年の経験を持つ医師19人を対象に、計約2,200件の検査結果の調査によって、AI導入前の腺腫発見率は28.4%だったが、導入後にAI非使用で検査した群では22.4%に低下し、15人中11人で発見率が下がったことが明らかになった。AI支援システムへの依存による注意力・責任感低下など「デスキリング」現象が短期間で起きたとされ、とくにベテラン医師でも回避ができなかった。研究者はAIと医師の協働モデル構築、AIなしでの定期的診断訓練、技能評価の重要性を強調している。一方、国立がん研究センターは、新たな画像強調技術「TXI観察法」がポリープや平坦型病変、SSL(右側結腸に好発する鋸歯状病変)の発見率を向上させると発表した。全国8施設・956例の比較試験では、主解析項目の腫瘍性病変発見数で有意差はなかったが、副次解析で発見率向上が確認された。TXIは明るさ補正・テクスチャー強調・色調強調により微細な変化を視認しやすくする技術で、見逃しがんリスク低減と死亡率減少が期待される。ただし、恩恵を受けるには検診受診が前提で、同センターは便潜血検査と精密内視鏡検査の受診率向上を強く訴えている。両研究は、大腸内視鏡の質向上におけるAI・新技術の有用性とリスクを示すものであり、機器性能の進化と医師技能の維持を両立させる体制構築が今後の課題となる。 参考 1) AI利用、 医師の技量低下 大腸内視鏡の質検証(共同通信) 2) AI医療診断の落とし穴:医師のがん発見能力が数ヶ月で低下(Bignite) 3) Study suggests routine AI use in colonoscopies could erode clinicians’ skills, warns/The Lancet Gastroenterology & Hepatology(Bioengineer) 4) 大腸内視鏡検査における「TXI観察法」で、ポリープや「見逃しがん」リスクとなる平坦型病変の発見率が向上、死亡率減少に期待-国がん(Gem Med) 5) 大腸内視鏡検査の新規観察法の有効性を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率改善に期待(国立がん研) 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省厚生労働省は8月7日付で、2024年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」について、2025年10月と2026年3月の2段階でマイナ保険証利用率の実績要件を引き上げる通知を発出した。小児患者が多い医療機関向けの特例や、電子カルテ情報共有サービス参加要件に関する経過措置も2026年5月末まで延長する。改正後の施設基準では、マイナ保険証利用率の基準値は上位区分で現行45%から10月に60%、来年3月に70%へ、中位区分で30%から40%・50%へ、低位区分で15%から25%・30%へ段階的に引き上げる。小児科特例は一般基準より3ポイント低く設定され、10月以降22%・27%となる。いずれも算定月の3ヵ月前の利用率を用いるが、前月または前々月の値でも可とする。加算はマイナ保険証利用率と電子処方箋導入の有無で6区分に分かれ、電子処方箋導入施設には発行体制や調剤結果の電子登録体制の整備を新たに求める。未導入施設は電子処方箋要件を課さないが、加算区分によっては算定不可となる場合がある。電子カルテ情報共有サービスは本格稼働前のため、「活用できる体制」や「参加掲示」を有しているとみなす経過措置を来年5月末まで延長。在宅医療DX情報活用加算についても同様の延長措置が適用される。通知では、これらの要件は地方厚生局長への届出不要で、基準を満たせば算定可能と明記。厚労省は、マイナ保険証利用率向上に向けた患者への積極的な呼びかけや掲示の強化を医療機関・薬局に促している。 参考 1) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」及び「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の一部改正について(医療 DX 推進体制整備加算等の取扱い関係)(厚労省) 2) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を「2025年10月」「2026年3月」の2段階でさらに引き上げ-厚労省(Gem Med) 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省厚生労働省は8月6日、医道審議会医道分科会の答申を受け、医師12人、歯科医師8人の計20人に行政処分を決定した。発効は8月20日。別途、医師8人には行政指導(厳重注意)が行われた。処分理由は刑事事件での有罪確定や重大な法令違反が中心で、医療倫理や信頼を揺るがす事案が目立った。免許取り消しは三重県松阪市の58歳医師。2015年、診察室で製薬会社MRの女性に対し胸を触る、額にキスをする、顔に股間を押し付けようとするなどの強制わいせつ行為を行い、逃れようとした被害者が転落して視神経損傷の重傷を負った。2020年に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が確定していた。医師の業務停止は最長2年(麻薬取締法違反)から2ヵ月(医師法違反)まで幅広く、過失運転致傷・救護義務違反、児童買春、盗撮、迷惑行為防止条例違反、不正処方などが含まれた。戒告は4人に対して行われた。歯科医師では、最長1年10ヵ月(大麻取締法・麻薬取締法・道交法違反)から2ヵ月(詐欺幇助)までの業務停止が科され、診療報酬不正請求や傷害、廃棄物処理法違反も含まれた。戒告は2人だった。厚労省は、これら不正行為は国民の医療への信頼を損なうとし、再発防止と医療倫理向上を求めている。 参考 1) 2025年8月6日医道審議会医道分科会議事要旨(厚労省) 2) 医師と歯科医20人処分 免許取り消し、業務停止など-厚労省(時事通信) 3) 医師、歯科医師20人処分 厚労省、免許取り消しは1人(MEDIFAX) 4) 医師12名に行政処分、MRに対する強制わいせつ致傷で有罪の医師は免許取消(日本医事新報) 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省厚生労働省は8月8日、第2回「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開催し、2026年度からの新たな地域医療構想の柱として「医療機関機能報告」制度の導入を提案した。各医療機関は、自院が地域で担うべき4つの機能(急性期拠点、高齢者救急・地域急性期、在宅医療連携、専門など)について、救急受入件数や手術件数、病床稼働率、医師・看護師数、施設の築年数といった指標をもとに、役割の適合性を都道府県へ報告する。中でも議論を呼んだのが、救急・手術を担う「急性期拠点機能」の整備基準である。厚労省は人口規模に応じた整備方針を示し、人口100万人超の「大都市型」では複数の医療機関の確保、50万人規模の「地方都市型」では1~複数、30万人以下の「小規模地域」では原則1ヵ所への集約化を目指すとした。しかし、専門病院や大学病院がすでに存在する中核都市などでは、1拠点に絞るのは非現実的との声も上がっている。また、医療機関の築年数も協議指標として活用する案に対しては、公的病院と民間病院の間で資金力に格差がある中、基準化すれば民間病院の淘汰を招く恐れがあるとして、慎重な検討を求める意見も出た。実際、病院建築費は1平米当たり2011年の21.5万円から2024年には46.5万円と倍増し、全国には築40年以上の病棟が約1,600棟(16万床分)存在する。このほか、在宅医療連携機能には訪問診療・看護の実績や高齢者施設との協力体制、高齢者救急機能には診療所不足地域での外来1次救急や施設搬送の体制が求められる。人材面では、医師の地域偏在や診療科偏在だけでなく、今後10年で最大4割減少も予測される看護師不足が最大の制約要因として指摘された。 参考 1) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(厚労省) 2) 急性期拠点機能の指標に「築年数」厚労省案 救急・手術件数や医療従事者数も(CB news) 3) 人口規模に応じた医療機関機能の整備を提示(日経ヘルスケア)

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アルツハイマー病予防に必要な最低限の運動量が判明

 これまでの研究では、身体活動とアルツハイマー病リスクとの逆相関関係が示唆されている。多くの研究において身体活動の健康効果が報告されているが、高齢期における身体活動の具体的な効果は依然として不明であり、高齢者では激しい身体活動が困難な場合も少なくない。さらに、身体活動の評価方法には、実施時期やその種類など、ばらつきも大きい。米国・Touro UniversityのAmy Sakazaki氏らは、高齢期における身体活動の効果および高齢者にとっての最低限の身体活動レベルを明らかにするため、既存の文献を評価するシステマティックレビューを実施した。Journal of Osteopathic Medicine誌オンライン版2025年7月16日号の報告。 PRISMAプロトコールに従ってMEDLINE、CINAHLデータベースを用いてシステマティックレビューを実施した。最終評価は2023年7月。対象研究は、英語のプロスペクティブコホート研究または介入研究で、ベースライン時に認知症、アルツハイマー病または認知機能低下を呈していないコホートを対象に身体活動を測定した研究とした。レトロスペクティブコホート研究、横断研究、ケースレポートおよび包括基準を満たさない研究は除外した。バイアスリスクは、ROBINS-Eツールを用いて、7つのバイアス領域で評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした2,322件の研究のうち17件が包括基準を満たした。これには、前回のシステマティックレビューに含まれていなかった6件の研究が新たに含まれた。・北米(米国、カナダ)、欧州(デンマーク、フィンランド、イタリア、スウェーデン、英国)より20万6,463人の参加者が対象となった。・本研究では、スクリーニング中の重複研究を効果的に削減することができ、前回レビューでは3,580件だったのに対し、92件の重複であった。・エビデンスの質についてのバイアスリスク評価は、低リスクが13件、やや懸念ありが4件であった。・中年期の身体活動を評価した研究は4件(平均年齢:49歳、平均フォローアップ期間:29.2年)、高齢期の身体活動を評価した研究は11件(平均年齢:75.9歳、平均フォローアップ期間:5.9年)、成人期の身体活動を詳細に規定せず評価した研究は2件。・統計学的に有意な結果が得られた研究の件数は、中年期の研究で4件中2件(50%)、高齢期の研究で11件中8件(75%)、時期を特定していない研究で2件中2件(100%)であった(各々、p<0.05)。・高齢期におけるアルツハイマー病の予防には、最低でも週3回以上、1回15分以上の身体活動が必要であることが示唆された。・潜在的な生物学的メカニズムについても議論された。 著者らは「本結果は、身体活動がアルツハイマー病発症リスクを有意に予防することを示す既存のエビデンスを裏付けるものであり、高齢期における身体活動の必要量は、現行ガイドラインの推奨よりも少ない可能性が示唆された。家庭内活動を含め、検証されたあらゆる身体活動がアルツハイマー病の発症予防につながる可能性があり、より多様な身体活動が高齢期に適している可能性がある。とくに職業、家庭/交通、年齢層別の身体活動のメリットおよび最適な身体活動の閾値を明らかにするために、より標準化された詳細な研究が求められる」としている。

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ペスト治療、経口治療は注射+経口治療に非劣性/NEJM

 ペストの症例数は過去100年にわたり着実に減少し、2018年にWHOに報告された症例数は248件である(うち98%はマダガスカルとコンゴ)。しかし、ペストは広範囲に分布するげっ歯類を媒介としてエピデミックとなる可能性やバイオテロに利用される可能性があり、頻度は低いが重大な被害を引き起こす感染症である。マダガスカル・パスツール研究所のRindra Vatosoa Randremanana氏らIMASOY Study Groupは、現行の治療ガイドラインでは複数の治療レジメンが推奨されているが、裏付けとなるエビデンスは弱く、成功裏に完了した重要な(pivotal)無作為化対照試験はないことから、2つの治療選択肢を比較する無作為化対照試験を実施した。NEJM誌2025年8月7日号掲載の報告。シプロフロキサシン単独vs.アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン マダガスカルにおける2018年の腺ペスト成人治療ガイドラインでは、アミノグリコシド系注射薬(第1選択薬ストレプトマイシン、第2選択薬ゲンタマイシン)の3日間投与に次いで経口シプロフロキサシンの7日間投与が推奨され、第3選択薬として経口シプロフロキサシンの10日間投与が推奨されている。これら治療レジメンを支持する質の高いエビデンスの不足と、アミノグリコシド系薬の短所(注射投与であること、許容できない副作用、細胞膜透過性不良など)から、研究グループはこれらを比較する無作為化対照試験を行った。 2020年2月~2024年3月にマダガスカルで腺ペストと臨床的に疑われた人(妊婦は除外)を登録した。非盲検非劣性デザインを用いて、経口シプロフロキサシンの10日間投与(シプロフロキサシン単独)とアミノグリコシド系注射薬3日間投与+経口シプロフロキサシン7日間投与(アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン)の2つのガイドライン推奨治療を比較した。 主要エンドポイントは11日時点の治療失敗とし、死亡、発熱、2次性肺ペストまたはペスト治療の変更または長期化の複合エンドポイントとして定義した。 感染を検査で確認またはほぼ確実とされた患者におけるシプロフロキサシン単独治療の非劣性マージンは、リスク群間差の95%信頼区間(CI)の上限が15%ポイント未満とした。ITT感染集団における治療失敗、シプロフロキサシン単独群の非劣性を確認 933例がスクリーニングを受け、腺ペストが疑われた450例が登録・無作為化された。220例(各群110例)で感染が確認され、2例(各群1例)で感染がほぼ確実とされた。これら222例のITT感染者集団において、男性は53.2%、年齢中央値は14歳(範囲:2~72)であった。 ITT感染集団における治療失敗は、シプロフロキサシン単独群9.0%(10/111例)、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群8.1%(9/111例)であり、シプロフロキサシン単独群のアミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群に対する非劣性が示された(群間差:0.9%ポイント、95%CI:-6.0~7.8)。 非劣性は、その他の事前規定の解析集団(per-protocol感染集団[ITT感染集団のうち重要なプロトコール逸脱基準に該当したシプロフロキサシン単独群1例を除く]、ITT集団[ペスト感染状態を問わない全被験者]、per-protocol集団[ペスト感染状態を問わず、重要なプロトコール逸脱基準を満たした患者を除く全被験者]など)でも一致していた。 死亡は、シプロフロキサシン単独群5例、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群4例で報告され、2次性肺ペストは両群とも3例で発症が報告された。 ITT感染集団における有害事象の発現頻度は両群で同程度であり、全有害事象の発現率はシプロフロキサシン単独群18.0%、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群18.9%であり、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ7.2%と5.4%であった。

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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鼻水が止まりません…【漢方カンファレンス2】第3回

鼻水が止まりません…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】20代後半女性主訴水様性鼻汁既往気管支喘息(小児期)、アレルギー性鼻炎病歴3日前、帰宅途中に雨に濡れた。翌朝、寒気がして咽頭痛と水様性鼻汁が出現。市販の感冒薬を飲んで様子をみたが、37.5℃の発熱、さらに翌日には咳嗽も出現したため受診した。水様性鼻汁が止まらずに困っている。現症身長169cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧108/70mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%、咽頭発赤なし、扁桃肥大なし、白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。経過受診時「???」エキス2包を外来で内服。15分後水様性鼻汁が軽減「???」エキス3包 分3で処方。(解答は本ページ下部をチェック!)(帰宅して安静にし、2〜3時間おきに内服するように指導)翌日帰宅後、2回目を内服して布団に入った。悪寒がなくなり体が温かくなり解熱した。2日後咽頭痛と咳嗽が改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 悪寒がありますか? 体熱感がありますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 普段は寒がりです。 少し寒気があって上着を1枚羽織っています。 体熱感はありません。 横になりたいほどの倦怠感はありません。 のどは渇きますか? いま、飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを飲みたいですか? のどは渇きません。 温かい飲み物が飲みたいです。 <鼻汁の性状> 鼻水はどのような性状ですか? 色はついていますか? 無色で水のようにタラッと垂れてきます。 <ほかの随伴症状> のどの痛みは強いですか? 体の節々が痛みますか? 汗をかいていますか? 口の苦味や食欲低下はありませんか? 咳はひどいですか? 痰は絡みますか? のどは少し痛いくらいです。 体の痛みはありません。 汗は少しかいています。 口の苦味はなく、食欲もあります。 咳はそこまでひどくありません。 痰は絡みません。 普段から冷え症でむくみやすいですか? 冷え症で夕方に足がむくみます。 【診察】顔色はやや蒼白。脈診は、やや浮で、反発力は中程度、幅の細い脈であった。舌は淡紅色で腫大と歯痕があり、湿潤した白苔が少量、腹診では腹力は中等度より軟弱で、心窩部に振水音あり。胸脇苦満(きょうきょうくまん)は認めなかった。触診では、皮膚はわずかに湿潤傾向、四肢の冷感はなし。カンファレンス 今回は風邪の症例ですね。風邪の治療は漢方治療の基本ですからしっかり押さえておきましょう。 感冒(風邪)では、咳、鼻、のどの症状が同程度に現れるのが典型です。本症例でも咳嗽と咽頭痛もありますが、水様性鼻汁が目立つことから、鼻型の風邪(急性鼻炎)といえそうです。 風邪の漢方治療では、発症直後で悪寒のある太陽病(たいようびょう)、その後、生体内に病邪が侵入した少陽病(しょうようびょう)として治療するのでした。 よく覚えていますね。一般的には太陽病は発症2~3日で、それ以降は少陽病に移行することが多いです。 本症例は発症3日目ですからどちらか判断は難しいですね。 そうだね。脈が浮で自覚症状として寒気があるから太陽病でいいだろう。診断では、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントだ(太陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 本症例は、脈はやや浮、上着を羽織りたくなるような寒気があるということで太陽病と診断できそうです。 そうですね。さらに問診で少陽病の特徴である口の苦味や食欲低下がないこと、そして診察で舌の厚い舌苔や腹部の胸脇苦満がないことを確認して、少陽病を除外していますね。少陽病の特徴も覚えておきましょう。 太陽病ということは漢方診療のポイント(1)の「陰陽(いんよう)」は陽証ということになりますか? 今回は、寒がり、温かい飲み物を好む、顔面蒼白とあまり熱が主体の陽証とは考えにくいですね。太陽病の葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)では、悪寒と同時かその後に、熱を示唆する所見、顔面紅潮や強い咽頭痛など熱があるのでしたよね? いいところに気付いたね。今回は太陽病だけど、陽証らしくないというのがポイントだよ。では質問だけど、陰証の風邪によく用いる漢方薬を覚えているかい? えっと… 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。麻黄附子細辛湯は全身に冷えと強い倦怠感がある陰証、少陰病(しょういんびょう)に用います。麻黄附子細辛湯の風邪は、水様性鼻汁、チクチクとした咽頭痛、倦怠感といった症状が特徴で、脈が沈でした。さらに風邪のひき始めが少陰病から始まる場合を「直中少陰(じきちゅうのしょういん)」(直(ただ)ちに少陰に中(あ)たる)とよびます。漢方カンファレンス第5回「風邪で冷えてきつい…」で学びました。 しっかり復習しておきます。本症例では「横になりたいほどの倦怠感がありますか?」と問診し、さらに四肢の冷えを触診で確認しています。本症例ではどちらも該当せず少陰病ではないようです。やはり陽証・太陽病らしいですね。 脈がやや浮ということから太陽病と診断できるけれど、脈診は初学者には難しいこと、麻黄附子細辛湯でも例外的に脈が浮いている場合があるからね1)。必ず全身倦怠感の程度と触診などで冷えの有無を確認して、少陰病の麻黄附子細辛湯の風邪でないか、常に考える必要があるね。 漢方診療のポイント(2)である「虚実」はどうでしょう? 脈は強弱中間、触診で汗をかいているようなので、虚証でしょうか? そうですね。ただし、脈の力は強弱中間と弱ではなく、発汗の程度も軽度なので虚実間としましょう。太陽病・虚証では発汗が自他覚的にも明らかなことが多いです。陰陽・六病位・虚実の判定まできました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常に移りましょう。 水様性鼻汁は水毒ですね。 下肢が浮腫みやすいことや腹診の振水音も水毒です。本症例は、太陽病だけど熱はあまり目立たず、水毒があるといえますね。まとめてみましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒がある。横になりたいほどの倦怠感はない、脈がやや浮温かい飲み物を好む、顔面蒼白(陽証:太陽病、熱よりも冷えが目立つ)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、軽度の発汗傾向→虚実中間(3)気血水の異常を考える水様性鼻汁、下肢浮腫、振水音→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む水様性鼻汁、振水音解答・解説【解答】本症例は太陽病・虚実間証で、水毒がある場合に用いる小青竜湯(しょうせいりゅうとう)で治療しました。【解説】小青竜湯は太陽病・虚実間に分類されますが、特殊な位置付けです。太陽病で陽証といいながらも、体内に冷え(寒)がある病態に用いられます。ちょっと冷えがあって水っぽいイメージです。そのため小青竜湯は、太陽病でありながらその病態の一部は太陰病にまたがっているとも解説されています。構成生薬は、葛根湯や麻黄湯などと同様に発汗作用のある麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)が含まれることは共通ですが、熱薬である乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)に加え、利水作用や鎮咳作用のある半夏(はんげ)・五味子(ごみし)を含みます。そのためあまり熱感が目立たない水様性鼻汁を伴う風邪やアレルギー性鼻炎によい適応です。日頃からむくみやすい、振水音があるなどの水毒の傾向をもつ人が風邪をひいたり、寒さにあたって鼻汁が出たりする場合に、小青竜湯の適応となることが多いようです。なお、小青竜湯は、通年性アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の効果を示した二重盲検RCT2)が存在し、『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』にも掲載されている漢方薬です。ほかの太陽病の漢方薬と趣が異なるため悪寒のある急性期に限定せず、より幅広い時期に用いることができます。今回のポイント「太陽病」の解説風邪のひき始めのように、悪寒に加え、脈が浮である時期を太陽病(陽の始まりという意味)といいます。太陽病の病位は表(ひょう:体表)で闘病反応が起こっている時期で、葛根湯や麻黄湯などの発汗作用のある漢方薬で治療します。太陽病は図(太陽病のチェックリスト)の順に診断、虚実の判定、漢方薬の選択を行います。診断には、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントです。橈骨動脈を橈骨茎状突起の高さに第2~4指をそろえて触知します。軽く置いたときに表在性に触れることができれば浮(ふ:浮いている)と表現します。指を沈めていって初めてはっきり触れてくれば沈(ちん:沈んでいる)になります。発症からの時期(多くは2~3日以内)も参考にして診断します。次に虚実の判定を行います。脈を押しこんで全体から受ける反発力をみて脈の「強弱」の判定をします。少しの力でペシャンとつぶれて触れなくなるような脈は「弱」、反発力が充実していれば「強」と診断します。さらに太陽病の虚実の判定には、汗の有無を参考にします。悪寒があるにもかかわらず皮膚のしまりがなくて、発汗している状態は闘病反応が弱い(虚)、汗がなく皮膚がサラッと乾いている場合は闘病反応が強い(実)と判定します。また虚実の判定には咽頭痛などの上気道炎症状の強さも参考になります。最後に、漢方薬ごとの特異的徴候として、項(うなじ)のこわばり(葛根湯)、多関節痛(麻黄湯)、水様性鼻汁(アレルギー性鼻炎)などを確認して処方を決定します(図)。太陽病は漢方薬をクリアカットに選択できるため、しっかりマスターしてください。今回の鑑別処方水様性鼻汁は冷えと水毒と考えますが、膿性鼻汁では炎症(熱)が強い病態と考えて治療します。葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は太陽病の葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)が加わった処方で、頭痛や項のこわばりに加えて、鼻閉・前頭部の圧迫感が目立つ場合に適応になります。太陽病ですから副鼻腔炎の急性期がよい適応です。越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は、アレルギーによる粘膜の炎症や浮腫(漢方医学的には熱と水毒)を改善させる効果があり、鼻閉が強い場合や目や鼻のかゆみを訴える場合にも有効です。葛根湯加川芎辛夷、越婢加朮湯とも麻黄が含まれるため、内服期間が長くなる場合は胃もたれ、不眠、動悸などの副作用の出現に注意する必要があります。辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)は石膏(せっこう)・黄芩(おうごん)・知母(ちも)といった清熱作用のある生薬が含まれ、炎症(熱)の強い急性期の副鼻腔炎で、副鼻腔に熱感を感じる場合によい適応です。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は中耳炎・副鼻腔炎・ニキビなど頭頸部に炎症を繰り返しやすい体質で、慢性化した副鼻腔炎に用います。皮膚が浅黒く乾燥傾向のある場合がよい適応になります。参考文献1)藤平健, 中村謙介 編著. 傷寒論演習 緑書房. 1997;577-584.2)馬場駿吉 ほか. 耳鼻臨床. 1995;88:389-405.

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なぜ今、「AI×医療英語」なのか?【タイパ時代のAI英語革命】第1回

医療英語の必要性が高まる理由近年、医療現場で英語力の必要性がますます高まっています。なぜ、急速に医療英語が医療従事者にとって、より不可欠になっているのでしょうか。1)多様化する患者への対応が必須に日本では在留外国人が370万人、訪日外国人が3,700万人を超え、医療機関が外国人患者に対応する機会が急増しています。とくに救急外来では限られた時間内に英語での的確な対応が求められ、医療スタッフ全員が基本的な医療英会話を身に付けておくことが重要です。2)国内勤務でも、医師のキャリア構築に必須海外での研修や国際学会への参加が増えるなかで、より医療英語が求められるようになっています。学会のオンライン化や英語での発表の機会も増え、英語力がアカデミックキャリアに直結する時代となりました。また、論文の影響力を示すIF(Impact Factor)という数字を比較しても、日本国内のトップジャーナルが10程度であるのに対し、権威ある英語の医学誌、たとえばThe Lancetでは現在98となっており、10倍以上の差があり、国際的な発信力を持つためにも英語力が不可欠です。留学や海外病院勤務といったキャリアを考えていなくとも、医師としてのキャリアを築くに当たって、英語力が必須の時代なのです。3)新しい医療情報のキャッチアップ現代医学の知見の多くは、英語で書かれた論文やガイドラインを通じて提供されています。たとえば、新しい治療法や薬剤の情報は、まず英語圏の医学誌やメディアに掲載され、そこから日本の学会やメディアで日本語化され、ゆくゆくは臨床適応へと広がっていくのですが、どうしてもタイムラグが生まれます。世界の医療の最新の情報をいち早く把握するには、翻訳機能が発展している今でも英語で直接受信する力が必要です。4)医療安全、公衆衛生の確保に必須医療英語は医療安全と公衆衛生とも深く関わります。わかりやすいものだと、英語で記された薬剤情報を医療スタッフの誰かが誤って解釈すれば、投薬ミスや医療事故につながります。公衆衛生の面で考えれば、世界の行き来が簡単になったことが災いとなり、COVID-19が発生した時は瞬く間に世界に広がりました。症状、感染者数、治療法、ワクチンに関する情報はすべて英語発信が最初で、正しいものから誤ったものまで、大量の英語による情報が世界中に拡散されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。その際に英語による情報を早く的確に吟味したうえで対応する力が国や医療者全体に求められます。こうした点からも、医療を行ううえで英語との関わりはますます強まっています。AIが切り開く、新しい学習環境医療において英語が大切であることをお伝えしましたが、医療英語は専門用語が多く、一般の英語とは異なる語彙力が求められます。これまでは、参考書を読み込む、英会話スクールに通う、海外の論文を地道に読む、という方法が主流でした。しかし、これらの方法には大きな課題が存在します。それは時間的制約です。多忙な医療現場で働きながらまとまった学習時間を確保するのは難しい、という声を多く耳にします。加えて、学習内容が自分の必要な専門領域に直結していないような場合には、モチベーションの維持も困難です。また、独学ではフィードバックが得られにくく、自分の理解や発音が正しいかどうかを確認する手段も限られていました。そこでAIの登場です。AIは、医療英語と英語学習をつないでくれる最大・最強のツールです。生成AIといわれているものの中でもChatGPTのような大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、人間のように自然な文章や会話を生成する能力を持っています。これにより、従来では不可能だった学習支援やコミュニケーション支援が現実のものとなりました。生成AIの最大の強みは、学習者一人ひとりのニーズに合わせて柔軟に対応し、かつ迅速にフィードバックができる点です。また、今後の回で詳しく述べていきますが、生成AIは単なる語学習得の域を超え、医療英語をマスターせずとも、実践的かつ効率的に英語を使いこなす手段としても非常に有効です。生成AIは医療英語の強力な研鑽ツールとなるとともに、たとえ英語が不得手であっても、その力を借りながら積極的に世界とつながるツールともなります。生成AIを使いこなすことで、今後の医師生活において大きな強みとなるでしょう。生成AIを単なる道具としてではなく、共に歩むパートナーとして活用する具体的な方法を、今後の連載で皆さんに紹介したいと思います。生成AIの注意点1 AI Hallucination今後生成AIのさまざまなツールや使い方を述べるに当たって、注意しなければならないことがあります。1つ目はAI Hallucination(ハルシネーション)と呼ばれるものです。いわゆるAIによる“幻覚”ですね。生成AIは今までのデータからパターンを推測することで回答を導き出すので、すべてが事実に基づいているとは限りません。医療の観点で一番起こりやすいものとしては、「論文引用」が挙げられます。たとえば論文を書いていて、引用文献を見つけたいときに生成AIに該当する論文名とリンクを貼ってもらいます。しかし、回答にある論文のタイトルを調べても出てこなかった、リンクに飛んでも論文自体が存在しなかった、なんてことはよく聞く話です。AIとパートナーになりながら最大限に効率を上げることは大事ですが、あくまでもリーダーは「あなた」です。とくに世間に発表したり論文化したりする際に、生成AIが出した答えを丸のみにするのは非常に危険ですので、必ず事実に基づいたものなのか、別のリソースも使いながら、自分の目で最終確認をしてください。生成AIの注意点2 Stochastic Generation2つ目の注意点とはStochastic Generation(ストキャスティックジェネレーション)と呼ばれるものです。まだ日本語で訳されることがあまりないので、いったん「確率的生成」とでもしておきましょう。これは生成AIの強みでもあるのですが、弱点にもなりえます。確率的生成は、AIが文章を生成する際に、次に出現する単語や語句を確率分布に基づいてランダムに選択する手法です。この仕組みは、AIに自然で人間らしい言語生成を可能にする一方で、毎回異なる出力がなされるという不確実性をもたらします。具体的なリスクは、「ニュアンスが変わってしまう」ということです。患者説明用の文書を生成する際を想定すると、「副作用がまれに起こります」と書かれることもあれば、「副作用はほとんどありません」と書かれることもある、というイメージです。ほかの例としては、患者への説明時に「異常な組織の増殖が確認され、さらなる検査が必要です」というのと「あなたには腫瘍があり、がんの可能性があります」というのでは、どちらも一見同じようなことを伝えてはいますが、相手への伝わり方は大きく異なります。このような認識の齟齬が起こりえると知ったうえで、最終的にはAIの使用者が確認し、責任を持つ必要があります。AIを使用する際にはぜひこれらの注意点を十分に理解し、リスク回避策を取ってください。次回は、早速生成AIに関して深く触れていきます!

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オランザピンの制吐薬としての普及率は?ガイドライン発刊後の状況を聞く

 『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂第3版』が発刊され、約2年が経過しようとしている。改訂による大きな変更点の一つは、“高度催吐性リスク抗がん薬に対するオランザピン5mgの使用を強く推奨する“ことであったが、今現在での医師や医療者への改訂点の普及率はどの程度だろうか。前回の取材に応じた青儀 健二郎氏(四国がんセンター乳腺外科 臨床研究推進部長)が、日本癌治療学会のWebアンケート調査「初回調査結果報告書」とケアネットがCareNet.com医師会員を対象に行ったアンケート「ガイドライン発刊から6ヵ月が経過した現在の制吐薬の使用状況について」を踏まえ、実臨床での実態や適正使用の普及に対する課題を語った。 なお、日本癌治療学会は『制吐薬適正使用ガイドライン』普及率に関するWebアンケート調査(第2回)』を現在実施しており、医師・看護師・薬剤師の方々からのアンケート回答を募集している(回答期間は2025年8月22日まで)。発刊6ヵ月後にはオランザピン処方の意義浸透か ガイドライン発刊直前に行われた日本癌治療学会による初回調査は、制吐療法の情報均てん化などの検討を考慮するため、論文等で公表されているエビデンスと実診療の乖離(Evidence-Practice Gap:EPG)の程度、職種、診療科、所属施設ごとの結果を解析した。その調査とケアネットが独自で行った調査を比較し、青儀氏は「乳がん治療での制吐薬処方に関し、われわれの初回調査ではFECでの4剤の処方率は16.8%だった。ガイドライン発刊から半年後の(CareNet.com)調査では、90%以上(該当レジメンを使用する全員に処方している:44%、患者背景を考慮して処方している:50%)であることが明らかとなり、オランザピンを推奨する意義が結果となってみられた印象」と話した。全体的にオランザピン処方の際に患者背景を考慮して処方していると回答した割合が多かった理由について、同氏は「糖尿病や耐糖能異常に加え、ふらつきのリスクを有する、睡眠薬を服用中の患者に処方しづいからではないか」とコメントした。患者の吐き気への不安と医師の処方不安、優先順位を間違えてはいけない オランザピンが向精神薬の位置付けで使用される薬剤であることが処方を慎重にさせる要因と考えられるが、実際に処方医が感じる不安は「糖尿病に禁忌」「耐糖能異常」に対してであることが今回の調査から明らかになった。これについて同氏は、「すでに制吐薬としてステロイドを処方している患者はステロイドによる耐糖能異常リスクを有している。また、オランザピンが推奨される以前より化学療法中の耐糖能異常に対するフォロー不足は問題視されていたので、このフォロー体制をしっかり構築したうえで、オランザピン投与を行ってほしい」とコメント。「オランザピンの制吐薬としての有用性の理解が進めばこの問題はクリアできるのではないか」と有害事象の発生を観察、コントロールしながら使用する価値について説明した。ただし、禁忌とされる糖尿病患者への対応については、従来の3剤併用療法を行うことがガイドラインに示されている(CQ1「高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として、3剤併用療法[5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン]へのオランザピンの追加・併用は推奨されるか?」参照)。 また、実臨床で多く経験する傾眠への具体的な対応策として、「推奨は5mgではあるが、今後、各施設での使用経験や研究などを基に日本人に適切な投与量を決定していきたい。たとえば、当院ではオランザピン5mgを処方する際、調節できるように2.5mg×2錠で処方している。薬剤師と相談し、副作用を回避しつつ制吐に対する効果が得られるのであれば、2.5mgで処方している」と述べた。適切な制吐薬治療の普及に必要なツール 学会側の調査項目の1つである患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)の利用状況や頻度については、「PROについてはまだまだ開発途上。臨床研究などでPROを活用して有害事象を拾い上げることについては広がりつつある。さまざまなPROが出てきていることからも、今後の臨床研究に欠かせないツールになっていくことは間違いないだろう。患者の情報が一つひとつアップデートされて入ってくることが重要なポイント」と述べた。その一方で、PROには紙媒体のものとネット環境が必要なものがあるが、後者はセキュリティー問題やコスト面の影響がある。「紙媒体での評価にも十分な有用性が示されている。当院ではICI投与患者の免疫関連副作用(immune-related Adverse Events:irAE)に関する評価ツールを導入しているが、ネット導入のハードルが高いことから紙媒体で実施している」と述べ、「現状、PROが限られた施設や学会でしか利用されていないため、抗がん剤全般での利用を広めていくことが次の課題」と説明し、まずは紙媒体で評価を進めていくことを推奨した。 最後に同氏は「制吐療法については、単に処方薬を増やすことが良いとは考えていない。次回の改訂までに綿密な使い分けができるようなエビデンスが出てくるのではないか」と締めくくった。<日本癌治療学会アンケート概要>調査内容:発刊直前と発刊1年後に同じ項目のアンケートを実施することで、ガイドラインによる診療動向の変化を調査実施期間:2023年10月2~18日調査方法:インターネット対象:日本癌治療学会ほか、各学会(日本臨床腫瘍学会、日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会、日本放射線腫瘍学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会)所属の1,276人《CareNet.comアンケート概要》調査内容:ガイドライン発刊から6ヵ月経過時点の制吐薬の使用状況について実施期間:2024年5月23~29日調査方法:インターネット対象:20床以上の施設に所属するケアネット会員医師206人(乳腺外科:50人、血液内科:50人、呼吸器科:52人、消化器科:36人、外科:18人)

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膵癌診療ガイドライン 2025年版 第7版

新たな要素が加わり、ブラッシュアップされた改訂版、出来!本版では「患者会や膵がん教室への参加」「老年医学的評価」に関する2つのCQが、医療者と患者市民団体で構成されるグループで検討された臨床疑問として、初めて掲載された。また「Future Research Question」を新設し、バイオマーカーやがん遺伝子パネルを用いた診断、メタリックステント留置後の偶発症への対応など、膵癌診療における最新の動向についても解説した。診断から治療まで最新のエビデンスを網羅し、患者・市民の視点も取り入れた、膵癌診療に携わるすべての医療者にとって必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する膵癌診療ガイドライン 2025年版 第7版定価4,180円(税込)判型B5判頁数352頁発行2025年7月編集日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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成人期の継続的な身体活動は死亡リスクを低下させる

 成人期を通じて継続的に身体活動を行っている人は、成人期を通じて非活動的だった人に比べて、あらゆる原因による死亡(全死因死亡)リスクが29〜39%低いことが、新たな研究で明らかになった。このようなリスク低下は、成人期の途中で身体活動習慣を身に付けた人でも認められたという。クイーンズランド大学(オーストラリア)のGregore I Mielke氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月10日掲載された。研究グループは、「成人期に身体活動を始めることは、開始時期がいつであれ、健康にベネフィットをもたらす可能性がある」と述べている。 この研究でMielke氏らは、臨床的疾患を持たない一般成人を対象に、身体活動について少なくとも2時点で評価し、全死因死亡・心血管疾患による死亡・がんによる死亡との関連を検討した、2024年4月9日までに英語で発表された前向きコホート研究を85件選出し、メタアナリシスを実施した。対象者の規模は研究ごとに異なり、最小357人から最大657万人であった。全死因死亡を評価していた研究は77件、心血管疾患による死亡を評価していた研究は34件、がんによる死亡を評価していた研究は15件であった。 解析の結果、全体的には身体活動量が多いほど全死因死亡、心血管疾患による死亡、およびがんによる死亡のいずれのリスクも低い傾向が認められた。特に、一貫して非活動的な群と比較して、身体活動が一貫して多い群では全死因死亡リスクが29〜39%、途中から増加した群では22〜26%低く、心血管疾患による死亡リスクは30~40%低かった。一方で、身体活動の減少と死亡リスクの関連は明確ではなかった。また、がんによる死亡と身体活動との関連は弱く、結果の頑健性も低かった。 さらに、身体活動に関するガイドラインの推奨を満たすことで全死因死亡リスクと心血管疾患による死亡リスクが低下するものの、推奨量を満たしていなくても継続的に身体活動を行っている場合や身体活動量が増加している場合でも、健康へのベネフィットは認められた。このことから研究グループは、「これは、ガイドラインの推奨よりも少ない身体活動量でも、健康には大きな利点をもたらす可能性があることを示すエビデンスや、身体活動を全くしないよりは多少でもする方が良いとする主張と一致する結果だ」と述べている。さらに、「推奨される1週間当たりの運動量を超えて運動しても、追加のリスク低下はわずかだった」と付け加えている。 米疾病対策センター(CDC)は、毎週150分以上の中強度の身体活動、または75分以上の高強度の身体活動を推奨している。CDCによれば、中強度の運動の例は、早歩き、低速度の自転車こぎ、ダブルスのテニス、アクティブヨガ、社交ダンスやラインダンス、一般的な庭仕事、水中エアロビクスなど、高強度の運動の例は、ジョギング、水泳、シングルスのテニス、エアロビクスダンス、高速での自転車こぎ、縄跳び、シャベルで土を掘るなどの作業を伴う庭仕事などであるという。

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慢性蕁麻疹に最も効果的な治療薬は何?

 皮膚に強いかゆみを伴う隆起した膨疹(みみず腫れ)が生じる蕁麻疹のうち、発症後6週間以上が経過したものを慢性蕁麻疹という。このほど新たな研究で、慢性蕁麻疹のかゆみや腫れの軽減に最も効果的な治療法は、注射用抗体薬のオマリズマブと未承認の錠剤remibrutinib(レミブルチニブ)であることが示された。マクマスター大学(カナダ)医学部のDerek Chu氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology(JACI)」に7月15日掲載された。 蕁麻疹は、アレルギー反応の一環として皮膚の肥満(マスト)細胞がヒスタミンを放出することで生じる。ヒスタミンは血管の透過性を高め、毛細血管から血漿成分が皮膚に漏れ出すことで膨疹が現れる。 Chu氏らは今回、論文データベースから抽出した慢性蕁麻疹に対する全身性免疫調整薬による治療に関する93件の研究(対象者の総計1万1,398人、ランダム化比較試験83件、非ランダム化比較試験10件)を対象に、その安全性と有効性を比較検討した。これらの研究に含まれていた慢性蕁麻疹の治療法は42種類に及んだ。評価項目は、蕁麻疹活動スコア(かゆみおよび膨疹)、血管性浮腫の活動性、健康関連の生活の質(QOL)、および有害事象であった。 その結果、評価項目に対する有効性が最も高いとされた治療薬はオマリズマブ(4週おきに標準用量300mg)とremibrutinibであった。ただし、remibrutinibの安全性に関するエビデンスの確実性は低かった。また、注射薬のデュピルマブは、蕁麻疹活動性の抑制効果は認められたがQOLの改善効果は不明であり、血管性浮腫に対する効果は検討されていなかった。シクロスポリンは、蕁麻疹活動性の抑制に有効な可能性がある一方で、腎臓障害や高血圧などの有害事象の発生頻度が最も高まる可能性が示唆された。そのほか、アザチオプリン、ダプソン、ヒドロキシクロロキン、ミコフェノール酸、スルファサラジン、ビタミンDもアウトカム改善に有効な可能性が示唆された。一方、ベンラリズマブ、キリズマブ、テゼペルマブについては、有効性が確認されなかった。 Chu氏は、「慢性蕁麻疹に対する全ての先進的な治療選択肢を対象とした今回の初めての包括的な分析により、患者と臨床医が選択できる、明確でエビデンスに基づいた『治療選択肢のメニュー』を提示することが可能になった」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は蕁麻疹の治療に関する新たな国際臨床ガイドラインの作成に役立つだろう」と述べている。

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副作用編:発熱(抗がん剤治療中の発熱対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第3回

今回は化学療法中の「発熱」についてです。抗がん剤治療において発熱は切っても切り離せない合併症の1つです。原因や重症度の判断が難しいため、抗がん剤治療中の患者さんが高熱を主訴に紹介元であるかかりつけ医に来院した場合は、多くが治療施設への相談になると思います。今回は、かかりつけ医を受診した際に有用な発熱の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】72歳、女性主訴発熱病歴局所進行大腸がん(StageIII)に対する術後補助化学療法を実施中。昨日から38.5度の発熱があったため、手持ちの抗菌薬(LVFX)の内服を開始した。解熱傾向であるが、念のためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、呼吸器症状、腹部症状なし。食事摂取割合は8割程度。内服抗がん剤カペシタビン 3,000mg/日(Day11)【症例2】56歳、男性主訴発熱、空咳病歴進行胃がんに対して緩和的化学療法を実施中。3日前から38.2度の発熱と空咳が発現。手持ちの抗菌薬(LVFX)内服を開始したが、改善しないためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見体温38.0度、SpO2:93%、乾性咳嗽あり、労作時呼吸苦軽度あり。腹部圧痛なし。食事摂取は問題なし。抗がん剤10日前に免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の発熱の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、まず頭に浮かぶのは「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)かも?」だと思いますが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)発熱の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(主に感染:インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、尿路感染症など)との鑑別。発熱以外の症状やバイタルの変動を確認。画像を拡大するFNは、末梢血の好中球数が500/µL未満、もしくは48時間以内に500/µL未満になると予想される状態で、腋窩温37.5度(口腔内温38度)の発熱を生じた場合と定義されています。FNは基本的には入院での対応が必要ですが、外来治療を考慮する場合には、下記のようなリスク評価が重要です。1)MASCC( Multinational Association for Supportive Care in Cancer)スコアMASCCスコアは、FN患者の重症化リスクを予測するための国際的に認知されたスコアリングシステムであり、低リスク群(21点以上)は外来加療が可能と判断されることがあります。画像を拡大する※該当する項目でスコアを加算し、スコアが高いほど低リスク。21点以上で低リスクとなる。2)CISNE(Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia)スコア臨床的に安定している固形腫瘍患者では、CISNEスコアによる評価も推奨されています。画像を拡大する※低リスク群(0点)、中間リスク群(1~2点)、高リスク群(3点以上)。高リスクでは入院治療を考慮する。低リスク群:合併症1.1%、死亡率0%、中間リスク群:合併症6.2%、死亡率0%、高リスク群:合併症36%、死亡率3.1%。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、すでに抗菌薬を内服開始しており、解熱傾向でした。Vitalも安定しており、胸部X線写真でも異常陰影を認めませんでした。念のためインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査を実施しましたが陰性でした。このケースでは抗菌薬の内服継続と解熱薬(アセトアミノフェン)処方、および抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤の再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていて、SpO2:93%と低下しています。インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査は陰性。胸部X線検査を実施したところ、両肺野に間質影を認めました。ただちに治療機関への連絡を行い、irAE肺炎の診断で即日入院加療となりました。画像を拡大する抗がん剤治療中の発熱対応フロー抗がん剤治療中の発熱は原因が多岐にわたるため、抗がん剤治療中に発熱で受診した場合は治療機関への受診を促してください。上記のケースはいずれも「低リスク」へ分類されますが、即入院が必要なケースが混在しています。詳細な検査や診察を行った上でのリスク評価が重要です。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「発熱しても抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「38度以上の発熱が発現した場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。<irAEと感染>免疫チェックポイント阻害薬の普及した現代では、irAEはもはや日常的な有害事象となってしまいました。重篤なirAEに対して高用量のステロイド治療を導入することは年間で複数回経験します。その中で、最も注意が必要なのは、ステロイド治療中の感染症は発熱が「マスク」されるということです。採血検査ではCRPもあまり上昇しません。日々の身体診察がいかに重要であるかを痛感します。先日もirAE腎炎を発症した胆道がんの患者さんに対して、入院で高用量のステロイドを導入しました。順調に腎機能も改善し、ステロイド漸減に伴い外来へ切り替えてフォローしていましたが、ある日軽い腹痛で来院されました。発熱もなく、採血検査では炎症反応もさほど上昇していません。しかし、「何かおかしいな…」と思い、しつこく身体診察をすると右季肋部痛をわずかに認めました。胆管ステントを留置していたこともあり、念のためCT検査を実施してみると、以前存在した胆管内ガス(pneumobilia)の消失を認め、胆管ステント閉塞が疑われました。黄疸は来していないものの、ステント交換を依頼してドレナージをしてもらうと胆汁とともに膿汁が排液されました。初歩的なことですが、ステロイドカバー中は発熱もマスクされ、採血検査もアテにならないことが多いです。やっぱり基本は身体診察ですね。1)日本臨床腫瘍学会編. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版). 南江堂;2024.2)Klastersky J, et al. J Clin Oncol. 2000;18:3038-3051. 3)Carmona-Bayonas A, et al. J Clin Oncol. 2015;33:465-471.

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末梢血幹細胞移植後のGVHD予防、移植後シクロホスファミド+シクロスポリンが有効/NEJM

 骨髄破壊的または強度減弱前処置後にHLA一致血縁ドナーからの末梢血幹細胞移植(SCT)を受けた血液がん患者において、移植片対宿主病(GVHD)のない無再発生存期間は、標準的なGVHD予防法と比較し移植後シクロホスファミド+カルシニューリン阻害薬併用療法により有意に延長したことが示された。オーストラリア・Alfred HealthのDavid J. Curtis氏らAustralasian Leukaemia and Lymphoma Groupがオーストラリアの8施設およびニュージーランドの2施設で実施した第III相無作為化非盲検比較試験「ALLG BM12 CAST試験」の結果を報告した。高リスク血液がん患者に対する根治的治療としては、HLA一致血縁ドナーからの骨髄破壊的前処置後同種末梢血SCTが推奨され、GVHD予防はカルシニューリン阻害薬と代謝拮抗薬の併用が標準治療となっている。移植後シクロホスファミドを代謝拮抗薬に追加または置き換えることで、HLA一致血縁ドナーからのSCT後GVHDリスクを低減できることが示唆されているが、移植後シクロホスファミドの有効性、とくに骨髄破壊的前処置下での有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。シクロスポリン+メトトレキサートと比較、GRFSを評価 研究グループは、急性白血病の第1または第2寛解期、ならびに骨髄中芽球<20%の骨髄異形成症候群(MDS)で、骨髄破壊的前処置または強度減弱前処置後にHLA一致血縁ドナーからのSCTを受ける18~70歳の患者を、移植後シクロホスファミド+シクロスポリン(試験予防群)またはシクロスポリン+メトトレキサート(標準予防群)に、年齢(50歳未満、50歳以上)および前処置の強度(骨髄破壊的、強度減弱)で層別化し1対1の割合で無作為に割り付けた。 試験予防群では、シクロホスファミド50mg/kgを移植後3日目および4日目に投与した後、シクロスポリン(各施設のガイドラインに従った用量)を移植後5日目から開始し、90日目以降に漸減した。 標準予防群ではメトトレキサートを移植後1日目に15mg/m2、3日目、6日目および11日目に10mg/m2、シクロスポリン(同上)を移植前1~3日から開始し、90日目以降に漸減した。 主要評価項目は、無GVHD・無再発生存期間(GRFS)で、ITT集団を対象としてtime-to-event解析を行った。移植後シクロホスファミド+シクロスポリンでGRFSが有意に延長 2019年4月4日~2024年1月30日に、134例が登録および無作為化された(試験予防群66例、標準予防群68例)。 GRFSの中央値は、試験予防群26.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.1~未到達)、標準予防群6.4ヵ月(5.6~8.3)であり、試験予防群で有意に延長した(log-rank検定のp<0.001)。3年時点でのGRFS率は、試験予防群で49%(95%CI:36~61)、標準予防群で14%(6~25)であった(GVHD・再発・死亡のハザード比[HR]:0.42、95%CI:0.27~0.66)。 Grade III~IVの急性GVHDの3ヵ月累積発生率は、試験予防群で3%(95%CI:1~10)、標準予防群で10%(4~19)であり、2年全生存率はそれぞれ83%および71%(死亡のHR:0.59、95%CI:0.29~1.19)であった。 SCT後100日間における重篤な有害事象の発生率は、両群で同程度であった。

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見落とされがちな高血圧の原因とは?

 ホルモン異常が原因で高血圧が生じる一般的な疾患について、多くの患者が医師に見逃されている可能性があるとして、専門家らが警鐘を鳴らしている。米国内分泌学会(ENDO)の専門家のグループがこのほど発表した臨床ガイドラインによると、循環器専門医の診察を受ける高血圧患者の最大30%、プライマリケア医の診察を受ける高血圧患者の最大14%が、「原発性アルドステロン症」と呼ばれる疾患を抱えている可能性があるにもかかわらず、その多くがこの疾患を見つけるための血液検査を受ける機会を一度も提供されていないという。このガイドラインは、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(JCEM)」に7月14日掲載された。 原発性アルドステロン症は、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される疾患だ。アルドステロンは、血中のナトリウムとカリウムのバランスを調整する働きを担っている。アルドステロンの値が高過ぎると体内のカリウムが失われてナトリウムが保持されやすくなり、それによって血圧が上昇する。 ガイドラインによると、原発性アルドステロン症の検査の機会が全く提供されない高血圧患者が多くを占める一方、高血圧の診断から何年も経ってから初めて検査を受けたときには、すでにこの疾患による重い合併症を発症している患者もいるという。 本ガイドラインの筆頭著者で、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院の内分泌科医であるGail Adler氏は、「原発性アルドステロン症患者は、本態性高血圧の患者と比べて心血管疾患のリスクが高くなる。低価格の血液検査を用いれば、より多くの原発性アルドステロン症の患者を見つけ出し、適切な治療につなげることができる」とニュースリリースの中で述べている。 ガイドラインの情報によると、過去の研究では、原発性アルドステロン症患者は脳卒中を発症するリスクが約2.6倍(オッズ比2.58)、心不全に至るリスクが約2倍(同2.05)、不整脈を発症するリスクが約3.5倍(同3.52)、冠動脈疾患を発症するリスクが約1.8倍(同1.77)上昇することが示されている。 今回新たに発表されたガイドラインでは、高血圧と診断された全ての患者がアルドステロン値をチェックするための検査を受けること、また、原発性アルドステロン症と診断された場合には、この疾患に特化した治療を受けることが推奨されている。 米ジョンズ・ホプキンス・メディスンによると、原発性アルドステロン症の治療にはスピロノラクトンやエプレレノンなどの処方薬が使用できる。これらの薬はいずれも血圧を下げ、カリウムの値を上げる効果がある。また、ガイドラインの著者らによると、アルドステロンを過剰に産生している副腎が片側のみの場合、その副腎を摘出する手術を医師が勧めることもある。このほか、ジョンズ・ホプキンス・メディスンによれば、患者には、バランスの取れた減塩食を心がけ、減量に努めるよう指導も行われるという。

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重度irAE後のICI再治療、名大実臨床データが安全性と有効性を示唆

 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)はがん治療に革命をもたらしたが、重度の免疫関連有害事象(irAE)を引き起こす可能性がある。今回、irAE発現後にICIによる再治療を行った患者でも、良好な安全性プロファイルと有効性が示されたとする研究結果が報告された。研究は、名古屋大学医学部附属病院化学療法部の水野和幸氏、同大学医学部附属病院消化器内科の伊藤隆徳氏らによるもので、詳細は「The Oncologist」に6月14日掲載された。 抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を含むこれらのICIは、単剤または併用療法として患者の予後を大きく改善してきた。ICIは抑制性シグナル伝達経路を阻害することで抗腫瘍免疫応答を高める一方、重度のirAEを引き起こす可能性がある。irAEは一般的に内分泌腺、肝臓、消化管、皮膚などに発生する。グレード3以上の重度の非内分泌irAEに対しては、現行のガイドラインに基づき、ICIの一時的または恒久的な中止が推奨される。このため、重度のirAE発症後のICI再治療は、効果と再発リスクのバランスが課題となる。過去の報告ではirAE再発率は約30%とされているが、患者背景や重症度の詳細が不十分だった。既存のメタ解析も、研究間の異質性やイベント報告の不備が課題とされている。こうした背景から、著者らは重度のirAE後のICI再治療の安全性と有効性を明らかにすることを目的に、ICI再治療後のirAE発生と患者の転帰に焦点を当てた後ろ向き解析を実施した。 解析対象には、2014年9月~2023年6月までに名古屋大学病院で悪性腫瘍に対してICIによる治療を受けた患者1,271名が含まれた。PD-1/PD-L1阻害剤および/またはCTLA-4阻害剤を、単独療法または他の薬剤との併用療法として少なくとも1サイクル投与された患者を適格とした。CTCAE(Ver 5.0)に従い、グレード3以上のirAEを「重度」と定義した。連続変数はt検定またはMann-WhitneyのU検定、カテゴリ変数はカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を用いて、それぞれ群間比較を行った。 解析対象1,271人のうち、重度のirAEは222人(17.5%)に発現した。これらのirAEには内分泌障害、肝毒性、皮膚炎などが含まれた。そこから単独の内分泌障害を有する患者60人が除外され、162人のうち46人(28.4%)がICIによる再治療を受けた。再治療後、14例(30.4%)でirAEの再発または新たなグレード2以上のirAEが発現した。初回ICI治療時に肝毒性(グレード3)を発現した1人でグレード4の再発が認められた。 抗腫瘍効果については、ICI再治療を受けた46人の客観的奏効率は28.3%(13人)であり、完全奏効が10.9%(5人)、部分奏効が17.4%(8人)だった。病勢安定は30.4%(14人)、病勢進行は34.8%(16人)に認められた。再治療後のICI投与期間の中央値は218日(95%信頼区間〔CI〕84~399)であり、全生存期間および無増悪生存期間の中央値はそれぞれ665日(95%CI 443~929)、178日(95%CI 70~301)だった。 競合リスクモデルによる再治療1年後の治療中止理由の内訳は、irAEが15.4%(95%CI 6.8〜27.4)、病勢進行が44.4%(95%CI 29.7〜58.1)、投与スケジュール完了が6.6%(95%CI 1.7〜16.3)だった。また、33.4%(95%CI 20.3~47.2)の患者でICI治療が継続された。 本研究について著者らは、「本研究は、名古屋大学病院内の診療科の垣根を越えて実施され、重度のirAE後のICI再治療に関する重要な指針を示した。再治療は、グレード2以上のirAEの再発・新規発現リスクが30.4%ある一方で、客観的奏効率は28.3%と一定の有効性も確認された。本研究の知見は、臨床医がICI再治療の可否をより十分な情報に基づいて判断する一助となり、重度のirAEを経験したがん患者に対する治療機会の拡大につながる可能性がある」と述べている。

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